2026年7月26日

(院長の徒然コラム)

自費用コンポジットレジン・保険CAD/CAM冠・二ケイ酸リチウム・ジルコニアを材料学と長期予後から比較する
「ハイブリッドセラミックは、セラミックですか」
患者さんからこのように尋ねられたとき、歯科医師であれば、単純に「はい」とは答えにくいはずです。
材料について知らないからではありません。むしろ、その逆です。
日本で長年「ハイブリッドセラミック」と呼ばれてきた代表的な材料が、材料学的には歯冠用硬質レジン、すなわち間接修復用コンポジットレジンであることを、歯科医師も歯科技工士も知っているからです。
コンポジットレジンは、歯科医療の現場では一般に「CR」と略されます。以下、本稿でもコンポジットレジンをCRと表記します。
もちろん、自費診療で使われてきた歯冠用硬質レジンは、虫歯を削った穴へ直接詰める一般的なCRと、製品も製作方法も全く同じではありません。
無機フィラーを高密度に配合し、口腔外で光重合や加熱重合を行い、強度、耐摩耗性、研磨性、色調表現などを高めた間接修復材料です。従来型の硬質レジンから大きく進歩しており、臨床で使用されてきた合理的な理由もあります。
しかし、高性能なCRであることと、セラミックス系材料であることは同じではありません。
にもかかわらず、歯科医院の料金表や治療説明、インターネット上の記事では、現在も「ハイブリッドセラミック」という名称が使われています。
患者さんがこの言葉を聞けば、二ケイ酸リチウム、長石系陶材、ジルコニアなどと同じ「セラミックの一種」だと受け取っても不思議ではありません。
歯科医師はCRだと知っている。
では、患者さんにも同じように伝わっているのでしょうか。
今回は、日本の歯科医療で長年使われてきた「ハイブリッドセラミック」という名称について、材料学、保険CAD/CAM冠との関係、臨床成績、長期耐久性、患者説明という複数の視点から考えてみたいと思います。

最初に、今回扱う「ハイブリッドセラミック」の範囲を限定します
「hybrid ceramic」という英語表現そのものが、海外で全く使われていないわけではありません。
たとえばVITA ENAMICに代表されるPICN、すなわちポリマー含浸セラミックネットワークは、一般的な粒子分散型CRとは異なる微細構造を持っています。
通常のCRでは、レジンマトリックスの中に無機フィラーが分散しています。これに対してPICNでは、多孔質のセラミック骨格へポリマーを含浸させ、セラミックネットワークとポリマーネットワークがともに連続する構造を作ります。
代表的なPICNでは、セラミックとレジンの重量比が約86対14、曲げ強さが概ね150~160MPa、破壊靱性が約1.24MPa√mと整理されています。これは一般的な粒子分散型CRとは別に考えるべき材料です。
一方、二ケイ酸リチウムの破壊靱性は約2.15MPa√mとされており、PICNも二ケイ酸リチウムと同じ材料ではありません。
今回問題にしたいのは、このような共連続構造材料ではありません。
本稿でいう「ハイブリッドセラミック」とは、エステニアC&Bやセラマージュなどに代表される、日本で長年、自費診療の白い詰め物や被せ物として提供されてきた歯冠用硬質レジンを指します。
また、保険CAD/CAM冠と比較する際には、主としてコンポジットレジンブロックを用いる材料群を対象とします。
日本補綴歯科学会の「保険診療におけるCAD/CAM冠の診療指針2024」では、従来のコンポジットレジンブロックを用いる材料群と、PEEKを用いる材料群が区別されています。PEEKは一般的なフィラー含有CRとは組成も微細構造も異なるため、本稿の中心的な比較からは外します。
歯科医師が材料を知らないわけではありません
ここは誤解がないよう、最初にはっきりさせておきます。
歯科医師が「ハイブリッドセラミック」を、二ケイ酸リチウムやジルコニアと同じセラミックス系材料だと思い込んでいる、という話ではありません。
通常の歯科材料学を学んだ歯科医師であれば、エステニアやセラマージュが歯冠用硬質レジンであることは理解しています。
歯科技工士も知っています。
メーカーも当然知っています。
医療機器としての一般的名称にも、レジンであることは示されています。
専門家同士では、
「歯冠用硬質レジン」
「間接法CR」
「ハイブリッドレジン」
という理解で話が通じています。
だからこそ、私はこの名称に違和感を覚えます。
専門家同士ではCRとして理解している材料を、なぜ患者さんへ伝える場面では「セラミック」と呼ぶのでしょうか。
歯科医師が知らないことが問題なのではありません。
歯科医師が知っている材料の正体を、患者さんも同じように理解できているかが問題なのです。
身も蓋もない言い方をすれば、これはCRです
先に結論を申し上げます。
日本で一般に「ハイブリッドセラミック」と呼ばれてきた代表的な材料は、材料学的にはCRです。
「ただのCR」とだけ表現すると、直接充填用CRと間接法CRの製造法や物性の違いまで消してしまうため、厳密には不十分です。
しかし、
材料分類は何ですか
と聞かれれば、答えはCRです。
コンポジットレジンとは、レジン、すなわち樹脂をマトリックスとし、その中へガラスやシリカなどの無機フィラーを分散させた複合材料です。
歯科用CRの基本的な起源は、Bowenが1962年に出願した米国特許に求められます。Bis-GMAをTEGDMAなどで希釈し、シラン処理した微粒子ガラス粉末と組み合わせるという基本構造から、重合方法、フィラーの粒径、分布、表面処理などが改良され、現在の多様なCRへ発展してきました。
口腔内で直接詰めるCRにも、歯科技工所で築盛する歯冠用硬質レジンにも、工業的に重合されたCAD/CAM用CRブロックにも、この基本構造があります。
製品ごとに、レジンモノマーの種類、フィラーの材質や粒径、含有量、重合方法、重合度、弾性率、曲げ強さ、吸水量、耐摩耗性は異なります。
直接充填用CRと自費用の間接法CRを「全く同じ製品」と考えるのは誤りです。
しかし、製品性能が異なることと、材料分類がセラミックス系へ移ることは別です。
一般的なCRより高性能である。
無機フィラーを多く含む。
口腔外で十分に重合されている。
強度や耐摩耗性が向上している。
これらはすべて事実です。
それでも、レジンマトリックスを持つ粒子分散型複合材料である以上、分類はCRです。
高性能なCRが、性能向上によって自動的にセラミックスへ変わるわけではありません。
商品名、公的一般名称、材料構造は同じではありません
この問題を理解するうえで重要なのは、歯科材料には複数の「名前の層」があるということです。

商品名や販売カテゴリーが、材料学上の分類と完全に一致しないことは、工業製品では珍しくありません。
しかし医療材料の場合、その名前によって患者さんの受け止め方が変わります。
「高強度歯冠用レジン」と聞くのと、「ハイブリッドセラミック」と聞くのでは、患者さんが思い浮かべる材質も、耐久性も、価格に対する印象も異なるはずです。
エステニアC&Bは、販売上は無機フィラーを92重量%含む「ハイブリッドセラミックス」と表現される一方、公的一般名称では歯冠用硬質レジンとして整理されています。
問題は、どちらか一方の呼び方だけが絶対的に誤っているということではありません。
患者さんへ最も強く届く名称と、治療選択のために理解すべき材料分類がずれていることです。
無機フィラーを多く含めば、セラミックになるのでしょうか
CRには、シリカ、ガラス、ジルコニウムシリケートなどの無機フィラーが配合されています。
患者さんへの説明では、
「セラミックの粒子がたくさん入った材料です」
「セラミックとレジンを混ぜた材料です」
と表現されることがあります。
無機フィラーの中にガラスやシリカなどが使われている以上、全く根拠のない説明ではありません。
しかし、その説明だけでは患者さんは、
セラミックが材料の大部分を占め、少量のレジンを加えた材料
と理解するかもしれません。
材料を分類するうえで重要なのは、単に無機成分が含まれているかではありません。
どの成分が材料全体を連続してつないでいるのか。
どのような微細構造を持っているのか。
外部から力を受けたとき、どの相が変形し、どの界面へ応力が伝わるのか。
水分や温度変化によって、どの部分が劣化するのか。
そこまで見なければ、材料の性質は分かりません。
一般的なハイブリッドレジンでは、レジンマトリックスの中へ無機フィラーが分散しています。
したがって、
ガラスやシリカなどの無機フィラーを多く含むことと、修復物全体がセラミックス系材料に分類されることは同じではありません。

92重量%なら、ほとんどセラミックなのでしょうか
エステニアC&Bでは、無機フィラーを92重量%含有することが大きな特徴として示されています。
92%という数字だけを見れば、
「それなら、ほとんどセラミックなのではないか」
と感じる方もいるでしょう。
しかし、ここには二つの注意点があります。
一つ目は、重量%と体積%は同じではないことです。
無機フィラーはレジンより密度が高いため、同じ体積でも重量比は大きくなります。
したがって、92重量%という数字を、
修復物の体積の92%がセラミックで、残りの8%だけがプラスチック
と受け取ることはできません。
二つ目は、材料分類は含有重量だけで決まらないことです。
無機成分を非常に多く含んでいても、レジン相がマトリックスを形成し、その中へフィラーが分散しているのであれば、基本的な分類はCRです。
フィラーを増やすことには明確な意味があります。
強度や硬さを高め、重合収縮や熱膨張を抑え、耐摩耗性や研磨面の安定性を改善できます。
しかし、
高フィラー化によって高性能になること
と、
高フィラー化によってセラミックスへ分類が変わること
は同じではありません。

「ハイブリッド」という言葉は、何を意味していたのでしょうか
ここは慎重に分けて考える必要があります。
歯科用CRには、異なる粒径領域のフィラーを組み合わせた「ハイブリッド型コンポジットレジン」という分類があります。
保険CAD/CAM冠の材料も、レジンマトリックスの中へ異なる粒径のフィラーを高密度に配合したハイブリッド型CRとして説明されています。
しかし、その説明をそのまま、
エステニアの「ハイブリッドセラミックス」という名前も、異なる粒径のフィラーを混ぜたという意味だけで付けられた
と結論づけることはできません。
エステニア自体が複数粒径の無機フィラーを高密度に配合した材料であることは事実です。
一方、当時の開発資料では、従来の硬質レジンが持つ加工性、粘り、修理性と、ポーセレンに期待される強度、耐摩耗性、審美性の双方を目指した材料として説明されています。
「ハイブリッド」という言葉には、異なる粒径のフィラーを組み合わせた材料設計と、レジンとポーセレン双方の長所を目指す製品コンセプトという、複数の文脈が重なっていた可能性があります。
もっとも、当時この名称を選んだ意図のすべてが、明確な形で残されているわけではありません。
したがって、「ハイブリッド」の意味を一つに限定して断定することは避けるべきでしょう。
確認できるのは、従来型硬質レジンとは異なる高性能な新世代材料として、「ハイブリッドセラミックス」という表現が広まったということです。
名称が生まれた時代には、それなりの意味があったのだと思います
名称が生まれた時代背景を無視して、現在の材料だけを基準に過去を断罪するのも公平ではありません。
従来の歯冠用硬質レジンには、摩耗、艶の消失、着色、変色、破折、臼歯部での強度不足といった問題がありました。
そこへ、フィラー含有量と重合性能を大幅に高め、従来の硬質レジンより強度、耐摩耗性、研磨性、色調再現性を向上させた新世代の間接修復用CRが登場しました。
当時の材料としては、画期的だったのでしょう。
「従来の硬質レジンとは違う」
「単なる安価なレジンではない」
という新規性を、歯科医療者や患者さんへ伝えるため、新しいカテゴリー名が求められた事情は理解できます。
したがって、私は「ハイブリッドセラミック」という名称を使い始めたメーカーや歯科医療者に、患者さんを意図的に誤認させる目的があったと断定するつもりはありません。
しかし、
名称が生まれた当時に一定の合理性があったこと
と、
材料選択肢が大きく変わった現在も、患者説明にその名称を使い続けることが妥当か
は別の問題です。
CAD/CAMは材料名ではありません
患者さんの理解を難しくしているもう一つの言葉が、CAD/CAMです。
CADはコンピューターを利用した設計、CAMはコンピューターを利用した加工・製作を意味します。
つまり、CAD/CAMは製作方法の名称であり、材料名ではありません。
CAD/CAMを使って加工できる材料には、コンポジットレジン、PICN、二ケイ酸リチウム、ジルコニア、PEEKなどがあります。
そのため、
CAD/CAMで作ったからレジンです
とも、
CAD/CAMだからセラミックではありません
とも、一律には言えません。
大切なのは、
何という材料のブロックやディスクを加工したのか
です。
CAD/CAM用材料を素材別に整理すると、コンポジットレジンは高分子材料、二ケイ酸リチウムやジルコニアはセラミックスとして、明確に別の材料群へ分類されています。
「CAD/CAMで作りました」という説明だけでは、患者さんは材料の正体を知ることができません。
自費用ハイブリッドセラミックと保険CAD/CAM冠の境界はどこにあるのでしょうか
ここが、今回のコラムで最も触れたかった問題です。
歴史的に自費診療で使われてきた、いわゆるハイブリッドセラミックは、歯科技工士がペースト状の歯冠用CRを築盛し、光や熱で重合して製作するものが中心でした。
一方、一般的な保険CAD/CAM冠は、工業的に管理された条件で成形・重合されたCRブロックを、CAD/CAM装置で削り出して製作します。
両者には違いがあります。
築盛型の間接法CRでは、複数の色調を積層し、天然歯の内部構造や透明感を表現しやすいという利点があります。細かな形態調整や追加築盛、修理もしやすい材料です。
その一方で、手作業による築盛状態、気泡、重合条件、技工操作の影響を受ける可能性があります。
CAD/CAM用CRブロックは、あらかじめ工業的な環境で十分に重合され、均質性と高い重合度を得やすい材料です。
国内の材料総説でも、CAD/CAM冠用CRは、シリカフィラーと熱硬化性ジメタクリレート樹脂から構成される粒子分散強化型複合材料であり、一般的な成形修復用CRと同じ系統の組成を持つと説明されています。工業的に成形・重合を完了させることで、重合率が高く、残留モノマーが少ないことが特徴です。
しかし、この違いは、
自費用はセラミック
保険用はレジン
という違いではありません。
大きな分類では、どちらもレジンマトリックスを持つCRです。
両者の間にあるのは、製品、フィラー組成、重合条件、築盛か切削かという製法、均質性、色調表現、適応、保険制度、価格の違いです。
自費の「ハイブリッドセラミック」と保険のCAD/CAM用CR冠を隔てているものは、セラミックかレジンかという材料学的境界ではありません。
同じレジン系複合材料という大きな枠の中に、製法や性能の異なる製品が存在しているのです。
そして、自費診療になったからといって、CRがセラミックスへ変わるわけではありません。
保険CAD/CAM冠も、単なる安価なプラスチックではありません
保険CAD/CAM冠を、「安いプラスチック冠」とだけ表現するのも正確ではありません。
2024年の診療指針および当時の保険機能区分では、コンポジットレジンブロックに、使用部位に応じた物性基準が設けられています。
小臼歯用の材料区分Ⅱでは、無機フィラー60質量%以上、37℃水中7日後の曲げ強さ160MPa以上、ビッカース硬さ55HV0.2以上、吸水量32µg/mm³以下が基準とされています。
大臼歯用の材料区分Ⅲでは、無機フィラー70質量%以上、同じく水中7日後の曲げ強さ240MPa以上、ビッカース硬さ75HV0.2以上、吸水量20µg/mm³以下です。
前歯部用の材料区分Ⅳでは、無機フィラー60質量%以上、曲げ強さ160MPa以上、ビッカース硬さ55HV0.2以上、吸水量32µg/mm³以下に加え、3層以上の色調構造や一次粒子径などの条件も求められています。
これらは臨床寿命を保証する数値ではありません。
規格に適合するための条件です。
それでも、保険CAD/CAM冠が、何の工夫もない単純な樹脂材料ではないことは分かります。
工業的に高密度重合され、部位に応じた強度、硬さ、吸水量を満たすように設計された高性能CRです。
つまり、
自費だから高性能
保険だから低性能
という単純な序列は成立しません。
材料の性能を決めるのは、保険か自費かではなく、組成、製造条件、設計、接着、適応です。

自費だから材料学的に格上とは限りません
患者さんの中には、
自費のハイブリッドセラミックは高級なセラミック系材料
保険CAD/CAM冠は安価なプラスチック
という印象を持っている方もいるかもしれません。
しかし、均質性や重合度だけに注目すれば、工業的に製造されたCAD/CAM用CRブロックの方が、手作業で築盛・重合する歯冠用硬質レジンより有利な場合があります。
一方で、築盛型の歯冠用硬質レジンには、色調の積層、微細な形態表現、追加築盛、修理の容易さという利点があります。
どちらがすべての場面で優れているという関係ではありません。
少なくとも、
自費診療だから、保険用CRブロックより材料学的に格上である
とは言えません。
保険と自費は、制度と費用負担の区分です。
材料学上の格付けではありません。
自費用審美補綴材料として総合評価すれば、相対的には下位です
ここからは、少し率直に書きます。
身も蓋もない言い方をすれば、現在の二ケイ酸リチウムやジルコニアと、長期安定性を重視する自費補綴材料として比較した場合、いわゆるハイブリッドセラミックは、相対的には低級材料だと私は考えています。
ただし、「低級」という言葉を、価値がない、粗悪で危険だという意味で使っているわけではありません。
何と比較し、どの性能を評価するかを明確にする必要があります。
二ケイ酸リチウムやジルコニアと比較したとき、間接法CRは、長期的な色調安定性、艶の持続、表面性状の安定、吸水や加水分解への抵抗性、摩耗による形態維持、10年以上の臨床研究の蓄積、高額な自費材料としての長期的な予測可能性という点で、相対的に下位になります。
一方で、修理のしやすさ、調整のしやすさ、弾性、症例によっては対合歯への影響を抑えやすいこと、技工操作の自由度、費用という点では、CR側に利点があります。
すべての物性が劣るわけではありません。
しかし、自費用審美補綴材料として長期間の安定性を総合評価すれば、二ケイ酸リチウムやジルコニアより下位へ位置付けることには合理性があります。
それでもCRは、技術的に原始的な材料ではありません
CRを相対的に下位と評価することと、CRを単純で粗末な「プラスチック」と扱うことは同じではありません。
現在のCRは、非常に高度に設計された材料です。
たとえば構造色を利用するオムニクロマでは、粒径を約260nmにそろえた球状フィラーによって、色素だけに頼らず天然歯の色へ適合させる技術が用いられています。
構造色CRと従来型CRを比較した研究では、黒色板と白色板という異なる背景間での色座標変化が測定されています。
オムニクロマではΔaが0.7~1.3、Δbが7.3~9.1であったのに対し、対照材料ではΔaが2.2~4.6、Δbが6.1~22.5の範囲を示しました。
人工歯を用いた評価でも、構造色CRは窩洞深さや人工歯のシェードによる影響を受けにくく、良好な色調適合性を示しています。
CRは、単に白い樹脂を固めただけの材料ではありません。
フィラー粒径、形状、屈折率、クラスター構造、レジン組成、重合反応を精密に設計した、立派な歯科材料です。
相対的に下位であることと、技術的に単純な材料であることは同じではありません。
だからこそ、CRであることを隠す必要はありません。
高性能なCRなら、高性能なCRとして説明すればよいのです。
材料の数値を比較するときは、試験条件をそろえなければなりません
歯科材料の記事では、
この材料の曲げ強さは○○MPa
あの材料は○○MPa
という比較をよく見かけます。
しかし、同じMPaという単位でも、試験方法が違えば数値の意味は変わります。
CRを用いた試験では、曲げ強さは直接引張強さのおよそ2倍、ダイアメトラル引張強さは直接引張強さのおよそ4分の3になる関係が報告されています。
また、3点曲げか4点曲げか、二軸曲げか、試験片の寸法、乾燥状態か水中保管後か、サーマルサイクル後かによっても値は変わります。
曲げ強さが高い材料が、必ず臨床で長持ちするわけでもありません。
臨床では、接着、支台歯形成、材料厚、咬合、歯ぎしり、残存歯質、失活歯か生活歯か、清掃状態、術者操作などが結果へ影響します。

レジンマトリックスを持つ材料は、水分の影響から完全には逃れられません
CRの長期安定性を考えるうえで、水分は重要です。
口腔内は常に湿潤しています。
温かい飲み物、冷たい飲み物、咀嚼、唾液、食物、細菌、酵素など、材料へ複数の負荷が加わります。
初期のCAD/CAM用CRブロックを調べた研究では、乾燥状態、1週間の水中保管後、さらに1万回のサーマルサイクル後で曲げ強さが比較されました。
その結果、比較に用いられたセラミックブロックを除き、CRブロックでは水中保管やサーマルサイクル後に曲げ強さの有意な低下が認められました。
現在の大臼歯用CRブロックでは、1週間水中保管後でも240MPa以上の曲げ強さを持つ製品が開発されています。
これはCRの進歩を示しています。
しかし、工業的に十分重合されたCRブロックであっても、水分や温度変化による影響から完全に自由ではありません。
CRは、レジンマトリックス、無機フィラー、そして両者を結合するシランカップリング層から成ります。
水分による劣化は、レジン相だけでなく、フィラー表面やシラン結合にも起こり得ます。
高温水による加速劣化試験では、試験片を92~95℃の水中で保管したところ、多くの市販CRで24時間後に曲げ強さの低下が観察されました。
また、シランカップリング剤の量を変えた試作CRでは、至適濃度とされた0.66mass%の条件では高温水中28日後も曲げ強さがほぼ維持された一方、シラン処理を行わない材料では、初期強度が低く、保管期間が長くなるほど強度が低下しました。
つまり、CRの長期安定性は、フィラー含有量だけで決まりません。
レジン相と無機フィラーをどう結び付け、その界面をどれだけ長期間安定させられるかが重要なのです。
なお、CAD/CAM用CRブロックに関するISO 5139:2023の正式名称は、Dentistry—Polymer-based composite machinable blanksです。
国際規格の名称自体が、これらを「セラミック」ではなく「ポリマー系コンポジット」として扱っています。
耐摩耗性は、単純にセラミックが勝つとは限りません
ここまで読むと、
セラミックはすべての物性でCRより優れている
と感じるかもしれません。
しかし、歯科材料の比較はそれほど単純ではありません。
ある摩耗試験では、直径4mmのジルコニア球、荷重50N、頻度1.2Hz、5万回という条件で、CAD/CAM用CRブロック、PICN、セラミックブロックなどが比較されています。
水中での2体摩耗では、CRブロックの摩耗量が小さく、PICNやセラミックブロックの方が比較的大きな摩耗を示しました。
一方、ケシの実を介在させた3体摩耗では、いずれのCAD/CAM用ブロックも、直接充填用CRより小さな摩耗を示しています。
これは、
CRの方がセラミックより長持ちする
という意味ではありません。
摩耗試験の結果は、対合子、荷重、介在物、滑走方向、試験回数などで変わります。
同じCAD/CAM用CRブロックの中でも、同一の試験系で測定された摩耗量は、小臼歯用で15.1~82.2µm、大臼歯用で16.7~23.8µm、前歯用で35.6~65.8µmと、製品によって大きく異なります。
セラミックス系材料が、すべての摩耗条件で必ず上位になるわけではありません。
それでも、長期的な色調、艶、表面性状、吸水、着色、形態維持を総合的に考えれば、レジンマトリックスを持たないセラミックス系材料に分がある、というのが私の評価です。
色が白いことと、長期間同じ色と艶を保つことは別です
患者さんが材料を選ぶとき、「白い歯」という言葉は大きな意味を持ちます。
しかし、治療直後に白く見えることと、10年後も同じ色調、艶、表面性状を保つことは別の性能です。
レジン系材料では、吸水、レジン相の経時変化、フィラー・マトリックス界面の劣化、表面粗さの増加、研磨面の変化、着色、摩耗、艶の低下が起こり得ます。
PICNでも、20万回の摩耗後に表面粗さRaが約0.4µmから約0.9µmへ増加した報告があります。
吸水や溶解は長石系セラミックスより大きく、一般的なCAD/CAM用CRより小さい中間的な挙動を示し、着色についても、CAD/CAM用CRより少ない一方、ガラスセラミックスより大きいと整理されています。
これはPICNの話ですが、レジン成分を持つ材料が、純粋なセラミックス系材料と同じ経時挙動を示さないことを理解する参考になります。
CAD/CAM用CR冠は、「割れる」より「外れる」という形で問題が現れやすい
CAD/CAM用CR冠の臨床成績を見ると、破折より脱離が多いという特徴があります。
その理由は接着操作だけではありません。
CR冠はセラミックス系材料より弾性率が低く、力を受けるとたわみやすい材料です。
高剛性のセラミック冠では応力が局所へ集中し、材料破折という形で現れることがあります。
一方、低剛性のCR冠では、応力が冠全体へ広がり、冠の変形が接着界面へ伝わることで、破折より脱離として現れる可能性があります。
つまり、
割れないから優れている
外れただけだから大きな問題ではない
と単純には評価できません。
失敗の現れ方が異なるのです。
接着強さは、材料名だけでは決まりません
CAD/CAM用CRブロックの接着は、ブロックだけではなく、支台築造材、表面処理、プライマー、レジンセメントの組み合わせで変わります。
ファイバー強化型フロアブルCRや複数の支台築造用CRと、CAD/CAM用CRブロックを接着した実験では、各群12試料を用い、せん断接着強さは27~38MPaでした。
材料の組み合わせによって有意差が認められています。
破壊様相を見ると、すべての条件で混合破壊が50%以上、界面破壊が15~47%認められ、一部の材料では約20%の凝集破壊が生じました。
単純に接着界面だけが剝がれるわけではありません。
セメント内部、築造材内部、ブロックとの界面など、どこが最も弱い部分になるかが、材料の組み合わせによって変わります。
また、CAD/CAM冠内面へ微小保持溝を付与した引抜き試験では、次のような結果が得られています。

50µmの保持溝では、未処理のおよそ9倍の引抜き抵抗が得られました。
これは臨床生存率そのものではありません。
しかし、CAD/CAM冠の脱離が「材料が悪い」という一言だけでは説明できず、内面処理と保持形態へ強く影響されることを示しています。
接着前処理に使うアルミナブラストの圧力も材料によって異なり、一般的な目安として、CAD/CAM用CRでは0.1~0.2MPa、ジルコニアでは0.2~0.3MPa、金属では0.4MPa程度が示されています。
同じ白い補綴物でも、材質が違えば前処理も変わります。
「生存している」と「一度も問題がない」は同じではありません
修復物の耐久性を考えるうえで、「生存率」と「成功率」の違いは非常に重要です。
歯冠が一度外れても、破損せず再装着でき、その後も使用できていれば、「生存」と判定される研究があります。
しかし患者さんにとって、一度も外れずに使えていることと、外れたため再装着したこと、欠けたため修理したこと、摩耗して咬み合わせを調整したことは、同じ経過ではないはずです。
小臼歯CAD/CAM用CR冠109装置の4年予後調査では、脱離をトラブルと判定した累積成功率は77.4%、再装着後も使用できている冠を含めた**累積生存率は96.4%**でした。
実際には21装置が脱離し、2装置に冠破折が認められています。
別の547装置を対象とした研究では、最大3.1年、平均1.3年の追跡で、脱離率12.8%、破折率1.6%、累積成功率71.7%、累積生存率96.4%でした。
小臼歯CAD/CAM用CR冠の複数の国内報告をまとめると、研究条件や観察期間は異なるものの、脱離は0~27%、破折は0~4.2%の範囲にあり、破折より脱離が多い傾向が示されています。

「何年持ちますか」という質問には、
何をもって「持った」と判断するのか
という問題が含まれています。
患者さんへ耐久性を説明するなら、生存率だけでなく、脱離、再装着、修理、破折、成功率まで示すべきです。
短期では差が見えなくても、長期になると差が現れることがあります
間接法CRとセラミックス系材料を比較するとき、短期研究だけを見ると差が小さいことがあります。
二ケイ酸リチウムと間接法CRを比較した1~2年の研究では、両群とも失敗がほとんどなく、統合解析でもリスク差は0.00、95%信頼区間-0.04~0.04、p=1.00、I²=0%で、有意差は認められていません。
5年程度のオンレー研究でも、リューサイト強化セラミック91.7%、間接法CR90.0%というように、差が小さい報告があります。
しかし、短期で差がないことは、長期でも同等であることを証明しません。
平均7.8年追跡した臼歯部のインレー、オンレー、オーバーレイの比較研究では、
- 二ケイ酸リチウム:96.8%
- 間接レジンコンポジット:84.9%
という生存率が報告され、絶対差は11.9ポイントでした。
興味深いことに、最初の6年間は両群とも98%を超える良好な成績でしたが、その後に間接法CR群の失敗が増えています。
この研究はクラウンではなく、インレー、オンレー、オーバーレイを対象としています。
そのため、数字をそのまま全部冠へ当てはめることはできません。
それでも、
短期では差が見えにくくても、7年、8年と経過する中で材料差が現れる可能性がある
ことを示す重要なデータです。
また、部分被覆修復を対象としたシステマティックレビューでは、7,826報をスクリーニングし、12研究、946修復物が採用されました。
金合金と間接法CRを比較した5~7年の成績では、間接法CRの失敗が18ポイント多く、リスク差は-0.18、95%信頼区間-0.27~-0.09、p=0.0002、I²=0%でした。
ただし、この比較には古い世代の間接法CRも含まれています。
現在のすべての材料へ、そのまま同じ数字を当てはめることはできません。
それでも、長期予後を考える際に無視できない結果です。

セラミックス側には、10年、十数年という時間軸のデータがあります
セラミックス系材料の強みは、曲げ強さだけではありません。
長期間にわたる臨床データが蓄積していること自体が、大きな価値です。
ガラスセラミックに限定した解析では、605修復物を基にした10年推定生存率93%、95%信頼区間86~96%という結果が示されています。
また、ガラスセラミックによる部分被覆修復については、10年生存率が概ね89~91%、年間失敗率が0.9~1.1%程度と整理されています。
二ケイ酸リチウム単冠についても、10年規模の研究があります。
106冠を対象とした研究では、10年生存率86.1%、チッピングなし率83.4%と報告されています。
さらに、後方歯へ装着した二ケイ酸リチウムの全部被覆・部分被覆修復2,392装置を、最大16.9年間追跡した研究があります。
この研究には、全部被覆修復1,782装置、部分被覆修復610装置が含まれ、両者の生存に有意差は認められていません。
単一術者による研究であること、患者・歯の条件、生活歯と失活歯の内訳など、解釈上の限界はあります。
しかし、ここで重要なのは、二ケイ酸リチウムには、10年や十数年という時間軸で検討できる大量の臨床データが存在するということです。
ハイブリッドセラミックと呼ばれてきた築盛型間接法CRについては、現代製品で同じ規模、同じ期間のデータが十分に蓄積しているとは言いにくいのが現状です。
ジルコニアも一種類ではありません
「セラミック」と「レジン」の違いを説明するとき、ジルコニアを一つの材料として単純化するのも危険です。
ジルコニアには、イットリア含有量や結晶相の違いによって複数の世代があります。
従来型の3Y-TZPは、正方晶を概ね80~90重量%、立方晶を10~20重量%程度含み、高い強度と相転移強化を特徴とします。
4Y-PSZや5Y-PSZでは立方晶が増え、光透過性が向上する一方、応力誘起相転移による強化機構が減少し、強度は低下します。
ジルコニア全体の曲げ強さは、製品や試験法によって約560~1,400MPa、破壊靱性は約2.4~4.2MPa√mという幅で整理されています。
高強度3Y-TZPでは曲げ強さが1,000MPaを超える製品が多い一方、高透光性5Y系では強度が従来型の半分程度となることがあります。
また、ジルコニアは半焼結体を大きめに切削し、焼結時の約20%の収縮を見込んで最終形態を作る材料です。
二ケイ酸リチウムとは、材料構造も、接着方法も、加工法も異なります。
ジルコニアと二ケイ酸リチウムは、どちらか一方がすべての面で優れているわけではありません。
二ケイ酸リチウムはガラスマトリックスを持つため、フッ化水素酸処理とシラン処理によって接着を得やすく、高い審美性を生かせます。
一方、強度を求めるブリッジや大きな連結部では、ジルコニアが第一選択となる場合があります。
セラミック・ジルコニアの色調選択や写真撮影については、以下の記事でも解説しています。
「セラミック・ジルコニアの色合わせ|完成後に色が違うと感じないために歯科医院が確認すること」
ジルコニアでも、構造や仕上げで結果は変わります
最大7.5年の技工所調査では、ジルコニア補綴装置の破折率として、
- モノリシックジルコニア冠:0.54%
- ポーセレンレイヤリングジルコニア冠:2.83%
- モノリシックジルコニア固定性ブリッジ:1.83%
- 前装ジルコニア固定性ブリッジ:1.93%
という値が報告されています。
これは患者単位の生存率研究ではなく、技工所で把握された破折率です。
そのため、ほかの生存率と直接並べることはできません。
しかし、同じジルコニアでも、モノリシックか前装型かによって破折の起こり方が異なることは読み取れます。
また、ジルコニアの対合歯摩耗は、硬さだけで決まりません。
ジルコニアの硬さは概ね約1,200HV、エナメル質は約400HVとされますが、咬合調整後の表面粗さが大きく影響します。
研磨状態の異なるジルコニアと対合歯を摩耗させた試験では、対合歯側の表面粗さRzは、
- 鏡面研磨ジルコニア:2.27±1.4µm
- ダイヤモンド切削後:75.42±42.9µm
- 専用研磨後:約10~12µm
でした。
硬い材料だから必ず対合歯を大きく削るのではありません。
調整後に粗いまま放置することが問題なのです。
これは、材料名だけでなく、歯科医師の調整・研磨操作が予後へ大きく関係する例です。
セラミックス系材料にも弱点があります
ここまで読むと、
それなら、すべて二ケイ酸リチウムかジルコニアにすればよい
と思われるかもしれません。
しかし、歯科材料に万能なものはありません。
二ケイ酸リチウムには、ジルコニアより低い機械的強度、強い咬合力が加わる部位での破折リスク、大型ブリッジへの適応制限、変色支台歯の色を透過しやすいこと、厳密な接着操作が必要であることなどの弱点があります。
ジルコニアには、ガラスマトリックスを持たないため二ケイ酸リチウムと同じ方法では接着できないこと、適切なアルミナブラストやMDP系処理が必要なこと、高透光化に伴って強度が低下すること、前装陶材のチッピング、咬合調整後の研磨不足による対合歯摩耗、製品ごとの焼結条件や材料世代の違いなどの問題があります。
セラミックス系材料であれば、何でも同じではありません。
症例ごとの適材適所が必要です。
それでも、長期の色調、艶、表面性状、吸水抵抗性、臨床データを総合すれば、自費用の間接法CRより上位へ位置付ける合理性があります。
ハイブリッドセラミックにも長所があります
私は、いわゆるハイブリッドセラミックを使用すること自体を否定したいわけではありません。
間接法CRには、その材料だからこその長所があります。
セラミックスより弾性があり、力を受けた際に多少変形できます。
咬合調整や研磨をしやすい。
破損した場合に、口腔内でCRを追加して修理できる可能性が高い。
歯科技工士が複数の色調を積層し、天然歯らしい内部色を表現できる。
セラミックス系材料より費用を抑えられることがある。
対合歯への影響を抑えやすい条件もある。
こうした特徴を生かせる症例はあります。
また、材料自体の破折を避けるために、ある程度たわんで力を逃がすことが臨床的に有利な場合もあります。
CRだから悪い。
レジンだから価値がない。
セラミックでなければ治療として劣る。
そのような話ではありません。
ただし、
良い材料であることと、より上位の材料と同じ名前で説明してよいことは別問題です。
高性能なCRなら、高性能なCRとして説明すればよいのではないでしょうか
私が最も疑問に思うのは、ここです。
歯冠用硬質レジンが一般的な直接充填用CRより高性能であるなら、その事実をそのまま説明すればよいのです。
たとえば患者さんには、次のように説明できます。
これは一般にハイブリッドセラミックと呼ばれることがありますが、材料学的には高強度の間接法コンポジットレジンです。
一般的な詰め物用CRより無機フィラーを多く含み、口腔外で十分に重合されています。
二ケイ酸リチウムやジルコニアとは異なるレジン系材料で、長期的には摩耗、着色、艶の低下などが起こる可能性があります。
一方で、調整や修理がしやすく、費用を抑えやすいという長所があります。
これなら、患者さんは長所と限界を理解したうえで選べます。
「レジン」と正確に説明すると患者さんが選ばなくなるのであれば、それは材料の問題ではありません。
材料価値と価格、説明の問題です。
「歯冠用硬質レジン」や「間接修復用コンポジットレジン」は、患者さんには分かりにくい言葉かもしれません。
しかし、分かりやすさとは、単に短くて覚えやすいことではありません。
内容が正しく伝わることです。
高性能なCRには、高性能なCRとしての価値があります。
その価値を伝えるために、「セラミック」という言葉を借りなければならないのでしょうか。
料金表の「セラミック治療」という大分類も見直す必要があります
多くの歯科医院の料金表では、「セラミック治療」という大きな見出しの下に、
- ハイブリッドセラミック
- オールセラミック
- e.max
- ジルコニア
- メタルボンド
などが並べられています。
患者さんから見れば、すべてがセラミックの種類であり、価格によってグレードが違うように見えるかもしれません。
しかし、材料学的には異なるものが混在しています。
いわゆるハイブリッドセラミックはレジン系複合材料。
二ケイ酸リチウムはガラスセラミックス。
ジルコニアは酸化物セラミックス。
PICNはセラミックネットワークへポリマーを含浸させた材料。
メタルボンドは金属フレームへ陶材を焼き付けた補綴装置です。
「白い自費の歯」という治療上のグループとして一覧にすることはできます。
しかし、すべてがセラミックの一種であるように見せるべきではありません。
料金表を材料学的に整理するなら、次のように分ける方が正確です。
レジン系材料
- 築盛型間接法CR
- CAD/CAM用CRブロック
セラミックス系材料
- 二ケイ酸リチウム
- ジルコニア
- 長石系陶材
ポリマー含浸セラミックス
- PICN
異種材料を組み合わせた補綴装置
- メタルボンド
そのうえで、各材料の特徴、費用、保証、適応を説明する方がよいでしょう。

自費価格を設定するなら、材料差と価格の根拠を説明すべきです
自費診療の価格は、材料費だけで決まるわけではありません。
診断、支台歯形成、接着操作、歯科技工士の技術、色調設計、写真撮影、咬合調整、保証、術後管理、歯科医院の設備や診療時間にも費用がかかります。
したがって、
材料がCRだから自費料金を取ってはいけない
という話ではありません。
優れた歯科技工士が丁寧に築盛し、個別の色調を再現した間接法CRには、技術的な価値があります。
しかし、二ケイ酸リチウムやジルコニアと同じ「セラミック治療」という名称で説明し、近い料金を設定するのであれば、材料分類、レジン成分の存在、セラミックス系材料との経年変化の違い、長期データの違い、保険CAD/CAM用CR冠との共通点と相違点、修理性や費用という長所まで、十分に説明する必要があります。
患者さんが、
セラミックの一種だと思って高額な費用を支払う
ことと、
高性能な間接法CRであると理解し、技工技術、色調表現、修理性、保証を含めて費用を支払う
ことは同じではありません。
患者さんは治療前に何を確認すればよいのでしょうか
白い詰め物や被せ物を提案されたときは、商品名だけでなく、一般的な材料分類を確認してみてください。

「なぜ私の歯には、この材料が適しているのですか」と尋ねることも大切です。
歯科医師が長所だけでなく弱点も説明し、その材料を選ぶ理由を答えられるのであれば、患者さんは納得して治療を選択できます。
セラミック・ジルコニア治療の相談方法については、以下の記事をご覧ください。
「セラミック・ジルコニアの相談はどの予約枠?色・費用・保証まで確認する方法」
私が問題にしたいのは、材料そのものではなく、認識のずれです
繰り返しますが、私は「ハイブリッドセラミック」と呼ばれてきた材料の使用そのものを否定したいわけではありません。
間接法CRは、多くの歯科治療に貢献してきました。
金属を使わずに歯の色を再現できる。
歯科技工士が色調を積層できる。
調整や修理をしやすい。
費用を抑えられる。
弾性を生かせる症例がある。
その材料だからこその利点があります。
適切な症例へ、適切な設計で使用し、患者さんが材料の特徴を理解したうえで選ぶのであれば、何も問題はありません。
ただし、自費用審美補綴材料として二ケイ酸リチウムやジルコニアと比較すれば、長期安定性、色調、艶、吸水、摩耗、長期臨床データという観点で、相対的に下位であるという説明も必要です。
私が問題にしたいのは、材料ではなく説明です。
専門家はCRであることを知っている。
しかし患者さんは、名称からセラミックだと思っているかもしれない。
その認識のまま高額な自費診療を選んでいるとすれば、専門家と患者さんとの間に情報の非対称性が残っています。
患者さんが歯科材料学を、歯科医師と同じ水準まで学ぶことはできません。
だからこそ、専門家側が言葉を選ぶ必要があります。
歯科医師はCRだと知っている――だからこそ、そのまま伝えるべきです
「ハイブリッドセラミック」という言葉は、長い間、日本の歯科医療で使われてきました。
その名称が生まれた時代には、従来の硬質レジンとは異なる高性能材料であることを示す役割があったのでしょう。
フィラー含有量、重合性能、強度、審美性などが向上し、治療の選択肢を広げた歴史的意義まで否定する必要はありません。
しかし、現在は状況が変わりました。
保険診療でも、工業的に重合されたCRブロックによるCAD/CAM冠が広く使われています。
自費診療では、二ケイ酸リチウム、複数世代のジルコニア、レジン系CAD/CAM材料、PICNなど、多様な材料を選べます。
材料の種類が複雑になった今こそ、昔からの曖昧な名称だけに頼らず、何でできているのかを明確に伝える必要があります。
自費のハイブリッドセラミックと、保険CAD/CAM用CR冠には違いがあります。
しかし、その境界は「セラミックか、レジンか」ではありません。
どちらも大きな分類ではレジン系複合材料です。
高性能なCRであるなら、高性能なCRとして説明すればよいのです。
レジンであることを隠す必要も、恥じる必要もありません。
その材料ならではの長所があります。
同時に、セラミックス系材料と比較したときの弱点や、長期的な違いもあります。
その両方を伝えたうえで、患者さんに選んでもらう。
それが本来のインフォームド・コンセントではないでしょうか。
まとめ――患者さんが知りたいのは、魅力的な商品名ではありません
日本で一般に「ハイブリッドセラミック」と呼ばれてきた代表的な材料は、材料学的には歯冠用硬質レジン、すなわち間接修復用CRです。
無機フィラーを高密度に含み、一般的な直接充填用CRより高い性能を持つ製品があります。
しかし、高性能なCRであることと、セラミックス系材料であることは同じではありません。
無機フィラーを多く含むことと、修復物全体がセラミックス系材料に分類されることも同じではありません。
自費用の築盛型歯冠用硬質レジンと、一般的な保険CAD/CAM用CR冠には、製造法、重合度、均質性、物性、色調表現、適応、費用などの違いがあります。
しかし、両者を隔てているのは、セラミックかレジンかという材料学上の境界ではありません。
どちらもレジン系複合材料です。
自費用審美補綴材料として二ケイ酸リチウムやジルコニアと比較すれば、長期的な色調安定性、艶、表面性状、吸水、摩耗、長期エビデンスという点で、いわゆるハイブリッドセラミックは相対的に下位の材料だと私は考えます。
しかし、修理性、調整性、弾性、費用、技工操作の自由度など、CRだからこその長所もあります。
だからこそ、「セラミック」という言葉を借りなくてもよいのではないでしょうか。
歯科医師は、その材料がCRであることを知っています。
それならば、患者さんにも同じように伝えるべきです。
私が問題にしたいのは、ハイブリッドセラミックという材料を使用することではありません。
歯科医師がCRだと知っている材料を、患者さんがセラミックだと思ったまま選ぶ可能性があることです。
患者さんが本当に知りたいのは、魅力的な商品名ではありません。
自分の歯に入るものが、実際には何でできているのか。
その材料は、ほかの選択肢と比べてどこが優れ、どこが劣るのか。
何年後に、どのような変化が起こりやすいのか。
壊れたときに修理できるのか、作り直す必要があるのか。
そして、その違いを理解したうえで、自分はどの治療を選ぶのか。
その判断に必要な、正確な情報なのだと思います。
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