2024年10月15日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科衛生士です。
歯磨きをしたときに歯ぐきから血が出ても、
「少し強く磨いただけだろう」
「痛くないから、まだ大丈夫」
と、そのままにしていませんか。
歯周病は、強い痛みが出ないまま進行することがある病気です。
最初は歯ぐきの赤みや出血だけだったものが、進行すると歯を支えている歯根膜や歯槽骨にまで影響し、歯ぐきが下がる、歯が揺れる、噛みにくくなるといった変化につながります。
また、歯周病の治療は「歯石を一度取れば終わり」というものではありません。
毎日のセルフケアを見直し、歯ぐきの中に残っているバイオフィルムや歯石を除去し、治療後にもう一度検査を行い、改善した状態を継続して管理することが必要です。
この記事では、歯周病の原因、初期症状、進行の仕組み、歯科医院で行う検査と治療、自宅でのセルフケア、治療後のメインテナンスまで順番に解説します。

歯周病とは、歯ぐきと歯を支える組織に起こる炎症性疾患です
歯周病は、歯の表面に形成されたプラーク、いわゆる歯垢の中にいる細菌をきっかけとして、歯ぐきや歯を支える組織に炎症が起こる病気です。
食べかすとプラークは同じではありません。
プラークは、多数の細菌が集まり、自分たちを守る膜のような構造を作った「細菌性バイオフィルム」です。歯の表面へ強く付着しているため、水で口をすすぐだけでは十分に落とせません。
プラークが歯と歯ぐきの境目に残り続けると、体は細菌に反応して炎症を起こします。
初めは歯ぐきだけに赤み、腫れ、出血が現れますが、炎症が長く続いて歯周炎へ進行すると、細菌性バイオフィルムに対する体の炎症反応によって、歯根膜や歯槽骨などの支持組織が徐々に失われます。
ただし、歯周病は「特定の歯周病菌が口に入れば、全員が同じように発症する」という単純な病気ではありません。
同じ程度のプラークが付着していても、歯周病の進み方には個人差があります。
喫煙、糖尿病、口腔清掃状態、年齢、全身状態、遺伝的背景、歯並び、歯や歯根の形、被せ物の状態など、複数の条件が重なって発症や進行へ影響します。

歯周病は、成人にとって非常に身近な病気です
厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査では、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は、調査対象全体で47.9%でした。
ただし、この数字は「成人の約半数が重度歯周炎である」という意味ではありません。
4mm以上の歯周ポケットが一か所だけある人と、広い範囲に深いポケットや骨吸収が認められる人とでは、病状も治療内容も異なります。
また、何を歯周病として数えるかによって、有病率の数字は変わります。
以前から「40歳以上の8割が歯周病」といった表現が使われることがありますが、歯ぐきからの出血まで含めるのか、歯周ポケットを何mmから数えるのか、骨吸収を確認しているのかによって意味は異なります。
数字だけで不安になるのではなく、ご自身の歯周ポケット、出血、歯ぐきの位置、骨の状態、以前の検査からの変化を確認することが大切です。
歯肉炎と歯周炎は何が違うのでしょうか
プラークに関連して起こる歯周病は、炎症が主に歯ぐきにとどまる「歯肉炎」と、歯槽骨や歯根膜などの支持組織の喪失を伴う「歯周炎」に大きく分けられます。
この2つは似ているように見えますが、歯を支える組織が失われているかどうかという重要な違いがあります。
歯肉炎は、炎症が主に歯ぐきへとどまっている状態です
歯肉炎では、歯ぐきに赤み、腫れ、出血などが認められますが、歯を支える骨や付着組織の明らかな喪失は確認されません。
プラークを適切に除去し、歯と歯ぐきの境目を清潔に保てるようになると、健康に近い状態まで改善することが期待できます。
ただし、歯肉炎を長期間そのままにしていると、歯周炎へ進行する可能性があります。
すべての歯肉炎が同じ速度で歯周炎へ進むわけではありませんが、「血が出るだけだから大丈夫」と放置しないことが大切です。
歯周炎では、歯を支える組織が失われています
歯周炎になると、炎症が歯ぐきだけでなく、歯根膜や歯槽骨などの支持組織に及びます。
歯と歯ぐきの間にある溝が深くなり、歯周ポケットが形成されます。深くなった歯周ポケットの中には、歯ブラシが届きにくくなり、プラークや歯石が残りやすくなります。
一度失われた歯槽骨や付着組織は、炎症が治まったからといって、自然にすべて元の状態へ戻るわけではありません。
そのため、歯肉炎の段階で改善すること、歯周炎になっている場合は進行を抑え、清掃しやすく管理できる状態へ変えることが重要です。

歯周病では、どのような症状が現れますか
歯周病は、初期には強い痛みが出ないことがあります。
症状が少ないからといって、必ずしも健康とは限りません。次のような変化がある場合は、歯ぐきの状態を確認してみましょう。
- 歯磨きをすると歯ぐきから血が出る
- 歯ぐきが赤い、丸く腫れている
- 朝起きたときに口の中がねばつく
- 口臭を指摘された、または自分で気になる
- 歯ぐきから膿が出る
- 食べ物が歯と歯の間に詰まりやすくなった
- 歯ぐきが下がり、歯が長く見える
- 歯と歯の間が広がった
- 歯並びや噛み合わせが変わってきた
- 歯が浮くような感じがする
- 歯が揺れる
- 硬いものを噛みにくくなった

歯磨きで血が出ると、「歯ブラシで傷つけた」と考え、その場所を避けてしまう方がいます。
しかし、プラークによる炎症が原因の場合、磨かずに避け続けると、さらにプラークが残って炎症が長引くことがあります。
一方で、歯ブラシを強く押し当てている、大きすぎる歯間ブラシを無理に通しているなど、清掃器具による傷から出血している場合もあります。
「血が出たから強く磨く」「血が出たから全く磨かない」と一律に決めるのではなく、出血している場所と原因を確認することが大切です。
詳しくは、歯磨きで血が出るとき、磨かない方がいい?歯科衛生士が確認する歯ぐきの炎症と磨き方で解説しています。
歯周病は、なぜ進行するのでしょうか
歯周病の始まりには、歯面に付着した細菌性バイオフィルムがあります。
歯と歯ぐきの境目にプラークが残ると、歯ぐきに炎症が起こり、赤み、腫れ、出血が現れます。
炎症が続くと、歯と歯ぐきの間の溝が深くなり、歯周ポケットが形成されます。深くなったポケットの中は歯ブラシが届きにくく、酸素が少ない環境を好む細菌が増えやすくなります。
さらに炎症が進むと、歯を支えている歯根膜や歯槽骨が失われます。
支持組織が減少すると、歯ぐきが下がって歯が長く見える、歯と歯の間が広がる、歯が移動する、歯が揺れるといった変化が現れます。
ただし、すべての歯が同じ順番、同じ速度で進行するわけではありません。
同じ口の中でも、健康に近い場所、歯肉炎の場所、深いポケットがある場所、治療後に安定している場所が混在することがあります。
そのため、歯周病は口全体の診断だけでなく、一本の歯、さらに歯の周囲の各部位を分けて評価します。

歯周病を進行させやすい要因
歯周病の中心的な原因は、歯面に形成される細菌性バイオフィルムです。
一方で、病気の進み方や治療への反応には、さまざまな要因が影響します。
喫煙
喫煙は、歯周炎の発症や進行、治療後の治癒に影響する重要なリスク因子です。
注意したいのは、喫煙者では歯ぐきに炎症があっても、出血が目立ちにくい場合があることです。
喫煙による血管や組織反応への影響によって、プロービング時の出血が少なくなることがあります。そのため、
「歯磨きで血が出ないから、歯ぐきは健康だろう」
とは限りません。
禁煙後に歯ぐきから出血するようになった場合も、禁煙によって急に歯周病が悪化したとは限りません。喫煙中に目立ちにくかった炎症反応が、禁煙後に現れるようになった可能性があります。
詳しくは、喫煙していると歯ぐきから血が出にくいのはなぜ?出血の少なさに隠れる歯周病と禁煙後の変化をご覧ください。
糖尿病
糖尿病と歯周炎は、互いに影響し合う可能性があります。
血糖管理が不安定な場合には、歯ぐきの炎症、感染、傷の治り方へ注意が必要です。一方で、歯周炎による慢性的な炎症が、血糖管理を難しくする可能性もあります。
ただし、「歯周病を治療すれば糖尿病が治る」という意味ではありません。
糖尿病の診断や治療は医科で行い、歯科では歯周炎や口腔乾燥など、口の中に現れている変化を管理します。
糖尿病がある方のメインテナンスについては、糖尿病がある方のメンテナンスで衛生士が見ていること――出血・乾燥・治りにくさで詳しくご案内しています。
妊娠に伴う変化
妊娠中はホルモン環境の変化によって、少量のプラークに対しても歯ぐきが炎症を起こしやすくなることがあります。
妊娠そのものだけで歯周病になるのではなく、プラークが残っている場所で歯ぐきの反応が強く出やすくなると考えると分かりやすいでしょう。
つわりで歯磨きが難しい時期の工夫は、妊娠中に歯ぐきが腫れるのはなぜ?つわり中の歯磨きと歯医者の受診目安も参考にしてください。
口腔乾燥
唾液には、口腔内を洗い流し、粘膜を保護する働きがあります。
口が乾燥すると、プラークが停滞しやすくなり、歯磨きもしにくくなることがあります。服用している薬、全身疾患、口呼吸、脱水などが関係する場合もあります。
磨きにくい歯並びや修復物
歯が重なっている場所、歯と歯の間、被せ物の境目、ブリッジの下などは、プラークが残りやすくなります。
被せ物や詰め物に段差や不適合がある場合には、清掃の妨げとなり、歯ぐきの炎症が続く原因になることがあります。
歯ぎしり・食いしばりや強い咬合力
歯ぎしりや食いしばりだけで、プラークのない健康な歯周組織に歯周炎が起こるわけではありません。
しかし、すでに歯周炎によって支持組織が減少している歯へ強い力が加わると、動揺や噛みにくさが目立ち、治療計画が複雑になることがあります。
年齢や過去の歯周病歴
年齢だけが原因で歯周病になるわけではありません。
ただし、歯周病にさらされてきた期間が長くなれば、過去の組織破壊が蓄積している可能性があります。
以前に歯周炎を治療した方は、現在出血が少なくても、再発リスクが完全になくなったわけではありません。
歯石を取れば、歯周病は治るのでしょうか
歯石除去は歯周治療の重要な一部ですが、「歯石を取ったら治療終了」というわけではありません。
歯石は、プラークが唾液などに含まれる成分によって石灰化したものです。一度硬く付着した歯石は、歯ブラシで取り除くことができません。
また、歯石の表面は凹凸があり、細菌性バイオフィルムが付着しやすい環境を作ります。そのため、歯科医院で専用の器具を用いて除去する必要があります。
ただし、歯周病の管理で中心となるのは、目に見える歯石だけを探して取ることではありません。
毎日のプラークコントロール、歯肉縁上・歯肉縁下のバイオフィルム除去、歯石などの付着物の除去、清掃しにくい部分の改善、喫煙や糖尿病などのリスク因子への対応、治療後の再評価と継続管理を組み合わせます。
歯石を一度除去しても、その後にプラークが残り続ければ、歯ぐきの炎症は再び起こります。
歯周病検査では、何を調べているのでしょうか
歯周病の検査は、歯周ポケットの深さだけを測るものではありません。
複数の所見を組み合わせて、現在の炎症、これまでに起きた組織破壊、今後のリスクを評価します。
歯周ポケットの深さ
細いプローブという器具を、歯と歯ぐきの間へ慎重に挿入して深さを測ります。
同じ歯でも、頬側、舌側、歯と歯の間では深さが異なるため、一本の歯を複数の部位に分けて測定します。
プロービング時の出血
プローブを入れた際に出血があるかを確認します。
プロービング時の出血は、現在の歯ぐきの炎症を考えるうえで重要な手掛かりです。
ただし、出血の有無だけで、病気の進行や将来の歯の状態を完全に予測することはできません。
歯ぐきの退縮とアタッチメントの喪失
歯ぐきが下がっている場合、ポケットが浅く測定されても、過去に歯を支える組織が失われていることがあります。
そのため、歯ぐきの位置とポケットの深さを合わせて評価します。
歯の動揺
歯がどの程度揺れるかを確認します。
動揺には、歯槽骨の減少だけでなく、炎症、噛み合わせ、歯根の状態などが関係します。
歯をたたく、歯ぐきを押す、歯を揺らす検査の違いは、歯医者で歯をたたく・歯ぐきを押す・歯を揺らすのはなぜ?打診・触診・動揺度検査で分かることで詳しく解説しています。
根分岐部病変
上の奥歯や下の奥歯には、歯根が複数に分かれている歯があります。
歯周炎が根の分かれ目まで進行しているか、専用の器具を用いて確認します。
根分岐部は複雑な形をしているため、歯ブラシや歯石除去器具が届きにくく、同じポケットの深さでも治療や清掃の難しさが異なります。
プラークと清掃状態
どこにプラークが残っているかを確認します。
必要に応じて染め出しを行い、患者さんと歯科衛生士が同じ場所を見ながら、磨き方や使用する道具を調整します。
レントゲン検査
レントゲンでは、歯を支えている骨の高さ、骨吸収の形、歯石、歯根の状態、他の病気の可能性などを確認します。
歯周ポケット検査が現在の歯ぐきの状態を調べるのに対し、レントゲンは、これまでにどの程度支持組織が失われたかを考える重要な資料になります。
CTは、すべての歯周病患者さんに必要な検査ではありません
CTでは、骨や歯根の状態を三次元的に確認できます。
しかし、歯周病の診断で全員にCT撮影が必要なわけではありません。
基本となるのは、口腔内の診査、歯周組織検査、通常の歯科用レントゲンです。
複雑な骨欠損、根分岐部病変、歯根破折の疑い、歯周外科や再生療法の計画など、三次元的な情報が治療方針へ影響する場合に追加を検討します。
CTは骨欠損や歯根の立体的な形を確認するうえで有用ですが、歯周炎が現在進行しているかどうかは、出血、排膿、ポケットの変化、通常のレントゲンなどと合わせて判断します。
被ばくを伴う検査であるため、「詳しく見えるから」という理由だけではなく、必要性を判断して撮影します。

歯周ポケットが深ければ、必ず重度歯周病なのでしょうか
歯周ポケットの深さは重要な情報ですが、数字だけで重症度や将来を決めることはできません。
例えば、同じ5mmの歯周ポケットでも、出血や排膿があるか、前回より深くなっているか、歯ぐきが腫れて一時的に深く測定されていないか、骨吸収がどの程度あるか、根分岐部病変や動揺があるかによって意味が異なります。
喫煙、糖尿病、セルフケアの状態、過去の進行速度なども治療計画へ影響します。
また、プロービングの数値には、器具を入れる角度、圧、炎症の程度などによる測定上の変動があります。
一度だけ1mm深く測定されたことを、すぐに進行と断定するのではなく、同じ条件で繰り返し測定し、出血やレントゲン所見と合わせて判断します。
出血がなくなれば、歯周病は完全に治ったのでしょうか
プロービング時の出血がなくなることは、炎症が落ち着いている可能性を示す良い変化です。
しかし、出血がないことと、過去に失われた骨や付着組織が元どおりになったことは同じではありません。
治療後に出血がなくても、深い歯周ポケットや骨吸収が残っている場所では、その後も注意深く管理する必要があります。
特に、深い残存ポケット、根分岐部、清掃しにくい修復物の周囲、喫煙者などでは、「血が出ないから大丈夫」と考えすぎないことが大切です。
一方で、深いポケットが残っていても、出血や排膿がなく、プラークコントロールが良好で、前回から深さが変わらず、骨吸収の進行も認められない場合は、継続管理によって長く安定させられることがあります。
つまり、「深いからすぐ抜歯」「出血がないから何もしなくてよい」のどちらでもありません。
詳しくは、出血のない深い歯周ポケットは安定しているのか――BOP陰性の限界、5mm・6mm残存ポケットと長期予後で解説しています。
現在の歯周炎は、ステージとグレードで評価します
現在の歯周炎分類では、病気の状態を「ステージ」と「グレード」という2つの方向から評価します。
患者さんが細かな診断基準を覚える必要はありませんが、歯周ポケットの数字だけで診断しているわけではないことを知っておくと、治療の説明が分かりやすくなります。
ステージは、現在の重症度と治療の複雑さを表します
ステージはⅠからⅣまであります。
評価には、アタッチメントロス、骨吸収、歯周病による歯の喪失、ポケットの深さ、垂直性骨欠損、根分岐部病変、動揺、噛む機能などが関係します。
ステージが高いほど、単にポケットが深いだけではなく、治療や長期管理が複雑になっていることを表します。
グレードは、進行しやすさやリスクを表します
グレードはAからCまであります。
これまでの骨吸収の進み方、年齢との関係、喫煙、糖尿病の状態などを考慮し、今後の進行リスクや治療への反応を評価します。
同じ程度の骨吸収がある方でも、長期間ほとんど変化していない方と、短期間で急速に進行している方では、治療計画や継続管理の間隔が変わります。

歯周病治療は、どのような順番で進みますか
歯周病治療は、歯石を取る処置を一度行って終わるものではありません。

1.検査と診断
最初に、歯周ポケット、出血、プラーク、歯ぐきの退縮、動揺、根分岐部、レントゲン上の骨吸収などを確認します。
あわせて、糖尿病、服用薬、喫煙、妊娠、治療歴、セルフケア、通院できる頻度なども伺います。
歯周病の治療計画は、口の中だけを見て一律に決めるものではありません。
2.セルフケアを改善する
歯周治療では、歯科医院で行う処置と同じくらい、ご自宅でのプラークコントロールが重要です。
私たち歯科衛生士は、単に「もっと磨いてください」とお伝えするのではありません。
どこにプラークが残っているか、歯ブラシの毛先がどこまで届いているか、力が強すぎないか、フロスと歯間ブラシのどちらが合っているか、生活の中で無理なく続けられるかを一緒に確認します。
普段使用している歯ブラシや歯間ブラシを持参していただくと、口の中に合っているかを具体的に確認できます。
3.歯ぐきより上のプラークと歯石を除去する
歯の見えている部分や歯ぐきの近くに付着したプラーク、歯石、着色などを除去します。
歯ぐきより上を清潔に保てるようになることは、歯ぐきの中の治療効果を高め、治療後の再発を防ぐための土台になります。
4.歯周ポケット内のバイオフィルムと歯石を除去する
歯周炎がある場合には、歯ぐきより下に付着したバイオフィルムや歯石を、専用の器具を用いて除去します。
スケーリング・ルートプレーニング、SRP、歯肉縁下インスツルメンテーションなどと呼ばれる処置です。
現在の歯周治療では、必要以上に歯根面を削り取るのではなく、歯周ポケット内の細菌性バイオフィルムと付着物を適切に除去し、治癒しやすい環境を整えることが中心です。
ポケットの深さや範囲によっては、数回に分けて治療します。
歯ぐきの中は患者さんご自身の歯ブラシだけでは十分に清掃できません。歯周ポケットの中は自分で磨ける?セルフケアで届く範囲と歯科医院で行うケアも参考にしてください。
5.治療後に再評価する
歯石除去や歯肉縁下の治療が終わった後は、一定期間を置いて、もう一度歯周病検査を行います。
再評価では、ポケットが浅くなったか、出血や排膿が減ったか、歯ぐきの腫れが引いたか、動揺が変化したか、プラークコントロールが改善したかを確認します。
歯周病は治療への反応に個人差があるため、初診時の検査だけで最終的な治療計画を決めきれないことがあります。
初診時に深いポケットがあっても、基本治療後に大きく改善する場所があります。一方で、丁寧に治療しても深いポケットや出血が残る場所もあります。
再評価は、治療が成功したかを確認するだけでなく、次に何をするべきかを決める重要な検査です。
6.必要に応じて追加治療や歯周外科を検討する
再評価で深いポケットや出血が残った場合には、再度の歯肉縁下治療、清掃方法の見直し、修復物の調整、歯周外科などを検討します。
歯周外科では、歯ぐきを開いて歯根面や骨の状態を確認し、通常の器具では届きにくい場所を清掃したり、清掃しやすい形態へ整えたりします。
ただし、深いポケットがある人全員に手術を行うわけではありません。
病変の場所、骨欠損の形、根分岐部、セルフケア、喫煙、全身状態、基本治療後の反応などを確認して判断します。
歯周外科や再生療法の受診の流れについては、歯周外科・歯周組織再生療法を相談したいとき――予約時に伝えること・持ち物・初診から手術後までの流れをご覧ください。
7.改善後は継続管理へ移行する
治療によって出血や腫れが減り、病状が安定した後も、定期的な確認が必要です。
治療後の歯周組織では、深かったポケット、歯ぐきが下がった場所、根分岐部、被せ物の周囲など、プラークが再びたまりやすい部分が残ることがあります。
治療後の継続管理と一般的な定期検診の違いは、歯周病治療後のメインテナンスは普通の定期検診と何が違う?で詳しくご案内しています。
クリーニングやPMTCと歯周病治療は同じではありません
歯科医院で行う処置は、まとめて「クリーニング」と呼ばれることがあります。
しかし、歯の表面の着色やプラークを除去する処置と、歯周炎に対して歯周ポケット内のバイオフィルムや歯石を除去する治療は、目的が異なります。
PMTCは、専門家が機械を用いて歯面のプラークや着色などを除去する処置を指す言葉です。
歯面を清潔にし、予防やメインテナンスに役立つ処置ですが、活動性の歯周炎に対する治療全体を表す言葉ではありません。
深い歯周ポケットがある場合には、歯周病検査を行い、必要な部位へ歯肉縁下の処置を行い、その後に再評価する必要があります。
「定期的にクリーニングを受けているから、歯周病治療も終わっている」とは限りません。
歯周組織再生療法とは何ですか
歯周組織再生療法は、歯周炎によって失われた歯周組織の再生を目指す治療です。
日本では、病状や治療条件に応じて、骨移植、GTR法、エムドゲイン、リグロスなどが検討されます。
ただし、再生材料を使用すれば、どのような骨吸収でも元どおりになるわけではありません。
治療結果には、骨欠損の形や深さ、欠損を囲む骨の壁の数、根分岐部病変の程度、創部を安定させられるか、プラークコントロール、喫煙、糖尿病、歯の動揺、噛み合わせ、術後の継続管理などが関係します。
また、保険診療の対象になるか、自費診療として行うかは、使用する材料、術式、骨欠損の状態などによって異なります。
診察前に、特定の材料や保険適用を確約することはできません。
歯周組織再生療法の適応については、歯周組織再生療法の適応を考える――垂直性骨欠損・根分岐部病変・患者因子からみた「再生の場」の条件で詳しく解説しています。

重度の歯周病では、すぐに歯を抜くのでしょうか
骨吸収が大きい、ポケットが深い、歯が揺れているという理由だけで、必ずすぐに抜歯になるわけではありません。
歯を残せる可能性を考えるときには、炎症をコントロールできるか、歯根破折がないか、根管治療が必要か、歯に十分な歯質が残っているか、清掃できる形にできるか、噛む力へ耐えられるか、継続してメインテナンスできるかまで含めて判断します。
歯の予後は、初診時だけで完全に決まるものでもありません。
歯周基本治療後に出血、排膿、ポケット、動揺が改善すれば、初診時の予想より長く維持できることがあります。
一方で、感染を制御できない歯、破折している歯、清掃できない歯、周囲へ悪影響を及ぼす歯などでは、抜歯が適切な場合もあります。
「抜くか、残すか」は、ポケットの数字だけではなく、治療によってリスクを管理可能な状態へ変えられるかを考えて判断します。
詳しくは、歯周ポケットが深い歯は残すべきか?重度歯周病における保存可能性と抜歯判断をご覧ください。
一本だけ深い歯周ポケットがある場合は、別の原因も調べます
全体的には歯周病が軽いのに、一本の歯の一部分だけが極端に深い場合には、一般的な歯周炎以外の原因が隠れていることがあります。
例えば、垂直性歯根破折、セメント質剥離、歯の神経から始まった歯内・歯周病変、根管治療や修復に伴うパーフォレーション、局所的な修復物の段差などです。
歯周ポケットがあるからといって、すべて同じ歯周治療を行うわけではありません。
歯の神経の検査、レントゲン、必要に応じたCT、修復物の確認などを組み合わせて原因を調べます。
歯の神経由来の病変と歯周病が重なった状態については、歯内‐歯周病変をどう分類し、治療順序を決めるかで専門的に解説しています。
自宅では、どのようなセルフケアが必要ですか
歯周病のセルフケアは、歯ブラシで長時間磨けばよいというものではありません。
大切なのは、プラークが残りやすい場所へ、適切な道具を無理なく届けることです。
歯と歯ぐきの境目を意識する
歯ブラシの毛先を歯の表面だけでなく、歯と歯ぐきの境目へ丁寧に当てます。
強く押しつけると毛先が開き、狙った場所へ届きにくくなります。歯ぐきの退縮や知覚過敏につながることもあるため、力を入れすぎないようにしましょう。
歯と歯の間には補助清掃用具を使う
歯ブラシだけでは、歯と歯の間のプラークが残ることがあります。
隙間が狭く歯間ブラシが通らない部分にはフロス、歯ぐきが下がって隙間が広くなった部分には歯間ブラシが使いやすいことがあります。
ただし、すべての隙間へ同じサイズの歯間ブラシを使用する必要はありません。
小さすぎると毛先が歯面へ十分に触れず、大きすぎると歯ぐきを傷つけたり、無理な力が加わったりします。
サイズ選びについては、歯間ブラシのサイズが合っていないと何が起こる?小さすぎる・大きすぎるサインと適正サイズの確認をご覧ください。
ワンタフトブラシを使う
ワンタフトブラシは、小さな毛束が一つ付いたブラシです。
歯並びが重なっている場所、最後方の奥歯、被せ物の周囲、根分岐部の入口など、普通の歯ブラシでは狙いにくい場所に使います。
奥歯の根分岐部では、歯間ブラシとワンタフトブラシを場所によって使い分けます。
詳しい方法は、根分岐部病変のある奥歯はどう磨く?歯間ブラシとワンタフトブラシの使い分けと清掃方法で解説しています。
洗口液だけで済ませない
洗口液は、口腔ケアを補助する目的で使うことがあります。
しかし、歯面に付着したバイオフィルムは、洗口液ですすぐだけでは十分に除去できません。
基本となるのは、歯ブラシ、フロス、歯間ブラシなどでプラークを物理的に除去することです。

歯周外科後は、自己判断で強く磨かないでください
歯周外科や歯周組織再生療法を受けた後は、通常の歯周治療後とは清掃方法が異なる場合があります。
手術直後は、血餅や縫合部を安定させるため、手術部位へ一時的に歯ブラシを当てないよう指示されることがあります。
その後、治り方を確認しながら、超軟毛ブラシ、通常の歯ブラシ、ワンタフトブラシ、歯間ブラシを段階的に戻していきます。
抜糸が終わったからといって、すべての清掃器具を同じ日に再開できるとは限りません。
自己判断で強く磨いたり、歯間ブラシを無理に通したりしないでください。
詳しい再開の順番は、歯周外科後の歯磨きはいつから?「触らない時期」から歯ブラシ・歯間ブラシを戻す順番をご覧ください。
歯周病と全身の健康は、どのように関係しますか
歯周炎は口腔内に発症する病気ですが、その炎症や共通するリスク因子を介して、糖尿病をはじめとするさまざまな全身状態との関連が研究されています。
ここで大切なのは、「関連がある」ということと、「歯周病がその病気を直接引き起こす」と証明されたことを分けて考えることです。
糖尿病と歯周炎については、互いに影響し合う可能性を示す根拠が蓄積しています。
一方、心血管疾患、呼吸器疾患、妊娠に関係する問題などについても関連が報告されていますが、年齢、喫煙、生活習慣、社会的背景など、共通する要因の影響も考慮する必要があります。
そのため、
「歯周病を治せば心筋梗塞を防げる」
「歯周病があれば必ず妊娠経過へ影響する」
などと単純に断定することはできません。
歯周病治療の第一の目的は、歯ぐきの炎症を抑え、歯を支える組織を守り、食事や会話に必要な歯を維持することです。
そのうえで、糖尿病などの全身疾患がある方では、必要に応じて医科と歯科が情報を共有しながら管理します。
歯周病は、治る病気ですか
「治る」という言葉を、どの状態に使うかによって答えが変わります。
歯肉炎であれば、適切にプラークを除去することで、健康に近い歯ぐきへ戻ることが期待できます。
歯周炎では、炎症を抑え、出血や腫れを減らし、ポケットを改善し、進行を止めることを目指します。
ただし、すでに失われた骨や付着組織が、すべて自然に元どおりになるわけではありません。
治療によって安定した後も、歯周炎になりやすかった条件や清掃しにくい形態は残ることがあります。
そのため歯周炎では、
「治療して終わり」ではなく、「治療によって管理できる状態へ変え、その状態を維持する」
と考えると分かりやすいでしょう。
歯周病についてよくある質問
歯磨きで血が出ても、磨いてよいですか
プラークによる炎症が原因であれば、やさしく丁寧に清掃する必要があります。
ただし、強い力、大きすぎる歯間ブラシ、器具による傷が原因の場合もあります。出血が続く場合は、自己判断で強く磨かず、歯科医院で原因と磨き方を確認してください。
歯周病用の歯磨き粉だけで治せますか
歯磨き粉はセルフケアを補助するものですが、深い歯周ポケット内の歯石やバイオフィルムを除去することはできません。
歯周炎がある場合は、歯科医院での検査と専門的な治療が必要です。
口臭があれば、歯周病ですか
歯周炎は口臭の原因の一つですが、舌苔、口腔乾燥、むし歯、修復物、入れ歯、耳鼻咽喉科領域など、他の原因もあります。
口臭だけで歯周病と決めつけず、口腔内全体を確認します。
歯周病で下がった歯ぐきは元に戻りますか
炎症による腫れが治まることで、治療後に歯ぐきが下がったように見えることがあります。
失われた歯ぐきや骨が自然にすべて元へ戻るわけではありません。病状や部位によっては、歯周形成手術や再生療法を検討できる場合があります。
歯周病治療をすると、歯と歯の間が広がりますか
腫れていた歯ぐきが引き締まると、もともとの骨吸収や歯ぐきの退縮が見えるようになり、歯と歯の間が広がったように感じることがあります。
治療によって健康な歯ぐきが失われたというより、炎症による腫れが減った結果である場合があります。
痛くなくても、歯科医院へ行く必要がありますか
歯周病は、強い痛みがないまま進行することがあります。
出血、口臭、歯ぐきの腫れ、歯肉退縮、食べ物の詰まり、歯の揺れなどがある場合は、痛みがなくても検査を受けることをおすすめします。
歯周病は家族からうつりますか
歯周病に関係する細菌が、唾液を介して家族間で移動する可能性はあります。
しかし、細菌が移っただけで必ず歯周病になるわけではありません。プラークの停滞、喫煙、糖尿病、全身状態、口腔清掃習慣など、複数の条件が関係します。
食器を完全に分けることだけを重視するより、家族それぞれが適切なセルフケアと歯科受診を続けることが大切です。
歯周病は何歳から注意すればよいですか
歯肉炎は、子どもや若い年代にも起こります。
歯周炎は年齢とともに増える傾向がありますが、若い方でも進行することがあります。年齢だけで判断せず、歯ぐきからの出血や家族歴などがあれば早めに確認しましょう。
このような症状がある場合は、歯科医院へご相談ください
歯磨きでの出血が繰り返す、歯ぐきの腫れが引いたりまた腫れたりする、膿が出る、口臭や朝のねばつきが続く、歯ぐきが下がってきた、歯が揺れるなどの変化がある場合は、痛みがなくても歯周病検査を受けることをおすすめします。
糖尿病がある方、喫煙している方、以前に歯周病治療を受けたものの通院が空いている方も、現在の状態を確認しておくと安心です。
強い腫れ、急な痛み、顔まで広がる腫れ、発熱、口が開きにくい、飲み込みにくいなどの症状がある場合は、急性炎症が起きている可能性があります。
次回の定期検診まで待たず、早めに歯科医院へ連絡してください。
まとめ――歯周病は「歯石を取って終わり」の病気ではありません
歯周病は、プラーク中の細菌をきっかけとして、歯ぐきや歯を支える組織に炎症が起こる病気です。
歯肉炎の段階では、適切なセルフケアと治療によって、健康に近い状態へ改善できる可能性があります。
歯周炎へ進行している場合は、すでに失われた組織を完全に元へ戻すことよりも、炎症を抑え、進行を止め、清掃しやすく管理できる状態へ変えることが治療の中心になります。
歯周病の状態は、ポケットの深さだけでは判断できません。
出血、歯ぐきの退縮、骨吸収、動揺、根分岐部、過去からの変化、喫煙、糖尿病、セルフケアなどを合わせて評価します。
そして、治療後も再評価と継続管理が必要です。
「痛くないから大丈夫」
「血が出ないから治った」
「歯石を一度取ったから終わり」
とは考えず、ご自身の歯ぐきが現在どのような状態にあるのかを、定期的に確認していきましょう。
広島市中区立町のブランデンタルクリニックでは、歯周病検査、歯磨き方法や清掃用具の確認、歯石・歯肉縁下バイオフィルムの除去、再評価、必要に応じた歯周外科・歯周組織再生療法、治療後の継続管理まで、状態に合わせてご案内しています。
歯ぐきの出血、腫れ、口臭、歯の揺れなどが気になる方は、WEB予約、公式LINE、または電話(082-258-6411)からご相談ください。
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