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出血のない深い歯周ポケットは安定しているのか|BOP陰性の限界、5 mm・6 mm残存ポケットと長期予後

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2026年7月22日

出血のない深い歯周ポケットは安定しているのか|BOP陰性の限界、5 mm・6 mm残存ポケットと長期予後

(院長の徒然コラム)

はじめに

歯周治療後の再評価で、ある大臼歯に6 mmの歯周ポケットが残っている。しかし、プロービング時の出血はなく、排膿もなく、患者さんも痛みを訴えていない。

この部位を、どのように評価すべきでしょうか。

「血が出ないのだから炎症は治まっている」と考えてよいのでしょうか。それとも、「6 mmも残っている以上、治療は不十分」と判断すべきでしょうか。歯周外科や歯周組織再生療法へ進む必要があるのでしょうか。

この問いには、単純な二択では答えられません。

出血のない深い歯周ポケットが、歯周治療後の継続管理によって長期間静穏に維持されることはあります。一方で、治療終了時にBOP陰性であっても、ポケットが深くなるほど、追跡期間中にその歯が失われた割合が高くなった長期研究もあります。[5]

先に結論を述べます。

BOP陰性は、歯周組織の安定を支持する重要な所見です。
しかし、BOP陰性は安定そのものではなく、深いポケットが持つ構造的・生態学的リスクを消す所見でもありません。

そして、もう一つ重要な点があります。

BOPは、今回の診査で表現された炎症反応を主に読みます。
PPDは、ポケットの深さと管理困難性を読みます。
CALと骨レベルは、過去から現在までに蓄積した支持組織破壊を読みます。

これらは、どれか一つを選ぶための競合する指標ではありません。

役割の異なる情報を、部位単位、歯単位、患者単位、そして時間軸の中で統合して読む必要があります。

出血しない6 mmの歯周ポケットを「安定」と判断してよいのか

歯周治療後に深いポケットが残った症例では、まず「現在表現されている炎症」と「残存している構造」を分けて考えます。

BOP陰性であることは、少なくとも今回の診査条件では、軽いプロービング刺激によって出血する炎症反応が確認されなかったことを示します。

これは好ましい所見です。

しかし、6 mmというPPDが残っている以上、患者さん自身による清掃が難しく、歯科医療者による歯肉縁下デブライドメントも制限されやすい環境が残っています。根面溝、根分岐部、垂直性骨欠損、歯根近接、不適合修復物などが加われば、同じ6 mmでも管理難易度はさらに高くなります。

欧州歯周病連盟のS3レベル診療ガイドラインでは、治療後の再評価において、5 mm以上でBOP陽性のポケットが残っていないことと、6 mm以上のポケットが残っていないことが区別されています。[10]

したがって、孤立した5 mm・BOP陰性部位は、ほかの条件が良好であれば、歯周治療後の継続管理へ移行できることがあります。

一方、6 mm以上の部位は、BOP陰性という一点だけで治療エンドポイントを満たしたとは扱いません。

ただし、5 mmと6 mmの間に、生物学的な壁が存在するわけではありません。

5 mmと6 mmは、再インスツルメンテーション、外科的アクセス、継続管理などを選択するための臨床的な意思決定境界です。プローブの数字が5 mmから6 mmになった瞬間に、細菌叢や宿主反応が突然別の病態へ変化するわけではありません。

最初に結論――BOP陰性は安定を支持するが、安定そのものではない

同じ深さのポケットを比較すれば、一般にBOP陰性部位はBOP陽性部位より好ましい状態です。

しかし、長期予後を考える際に、

「BOP陰性だから、ポケットの深さは無視できる」

とは言えません。

歯周治療終了時の残存ポケットを平均11.3年間追跡したMatulieneらの研究では、BOP陰性であっても、PPDが深くなるほど、追跡中にその歯が失われた割合は上昇しました。[5]

さらに、BOPとPPDを同時に多変量モデルへ投入しても、PPDは独立した予後情報を持っていました。

つまり、BOPとPPDは、同じことを二重に測定しているのではありません。

BOPは主として炎症に関する情報を持ちます。

PPDは、深さそのものがもたらす清掃困難性、器具到達性、歯肉縁下バイオフィルムが再形成される環境、複雑な根面形態などの情報を持っています。

PPD・BOP・CAL・骨レベルは、それぞれ別の時間を見ている

歯周組織検査の数字を正しく読むには、それぞれの指標が何を測定しているのかを分けなければなりません。

BOPは、プローブを歯肉溝または歯周ポケットへ挿入した後に出血が生じたかを記録する、誘発性の臨床所見です。自然に出血しているかどうかを観察しているわけではありません。

PPDは、歯肉辺縁からプローブ先端が到達した位置までの距離です。歯肉退縮、歯肉腫脹、プロービング圧、挿入角度、炎症による組織抵抗性などの影響を受けます。

CALは、セメントエナメル境からプローブ到達点までの距離を基準に、臨床的な付着喪失を評価する指標です。

エックス線画像上の骨レベルは、これまでに生じた歯槽骨支持の喪失や、水平性・垂直性骨欠損、根分岐部病変などを評価するために用います。

したがって、BOP陰性であっても、前回からCALが増加している、骨レベルが低下している、根分岐部病変が進行しているのであれば、その歯周組織は安定しているとは言えません。

反対に、PPDが深く残っていても、同じ部位でBOP陰性が繰り返され、PPD、CAL、骨レベル、動揺度が変化せず、患者さんと歯科医院の双方で清掃可能な状態が維持されていれば、管理下で安定している可能性があります。

この違いは、「横断的な所見」と「縦断的な診断」の違いです。

BOP陰性は、その日の所見です。
安定は、過去から現在までの変化を確認した後に使える言葉です。

歯磨きの際に歯ぐきから血が出る意味については、以下でも詳しく解説しています。

【歯磨きで血が出るとき、磨かない方がいい?】

炎症の改善とポケット閉鎖は、同時に完了するとは限らない

非外科的歯周治療後には、BOPや平均PPDが改善しても、すべての深いポケットが閉鎖するわけではありません。ポケット閉鎖の達成率や定義には研究間のばらつきがあることも、システマティックレビューで示されています。[8]

歯周基本治療によってBOPが大きく減少しても、深いポケットがすべて消失するとは限りません。

反対に、PPDが大きく減少していても、全顎BOP率が厳格な健康基準まで下がるとは限りません。

618人を対象とした2025年の診療録研究では、歯周炎患者236人のBOP中央値は45%から14%へ低下しました。しかし、再評価時に全顎BOP率10%未満を達成した患者は31%でした。[11]

基準時に5 mm以上のポケットを有していた歯周炎患者のうち、再評価時に5 mm以上の残存ポケットがなくなった患者は38%でした。患者一人当たりの5 mm以上の部位数の中央値は、5部位から1.5部位へ減少しています。[11]

これは、非外科的歯周治療が不十分だったという意味ではありません。

むしろ、

  • BOPは大きく改善する
  • 深いポケット数も減少する
  • それでも、すべての患者が同時に厳格な治療到達点へ達するわけではない

という実臨床の姿を示しています。

この研究は歯学部学生による治療を含む後ろ向き研究であり、再評価時期も比較的早いため、そのまま専門医診療へ一般化はできません。

しかし、

炎症の改善量と、ポケット閉鎖の達成率は別のアウトカムである

という点は重要です。

深いポケットが7 mmから5 mmへ減少すれば、2 mmの改善が得られています。しかし、治療後に5 mmが残れば、なお残存ポケットとして評価されます。

したがって、

大きく改善したことと、最終的な治療エンドポイントを満たしたことは同義ではありません。

「BOP陰性の陰性的中率98%」は、何を意味していたのか

BOPについて語られる際、しばしば引用されるのが、

「出血しない部位は約98%安定している」

という数字です。

この数字の出典となった古典的研究では、歯周治療後の患者を繰り返し診査し、BOPがほとんど認められなかった部位では、その後の付着喪失が生じにくいことが示されました。[3]

しかし、この数字には重要な条件があります。

第一に、これは深いポケットから一度だけ出血しなかった場合の結果ではありません

第二に、浅い部位から深い部位までを含めた解析であり、5 mm、6 mm、7 mm以上で繰り返しBOP陰性だった部位だけを抽出した結果ではありません。

第三に、陰性的中率が高いことは、BOP陽性の陽性的中率も高いことを意味しません。

BOP陽性部位のすべてが進行するわけではなく、BOP陽性の将来進行に対する陽性的中率は高くありません。一方、繰り返しBOP陰性であることには、近い将来の進行を除外する方向の価値があります。

Langらの別の縦断研究では、4回の診査におけるBOP頻度が高いほど、2 mm以上のアタッチメントロスが生じた部位の割合が増加しました。

BOPが4回中0回だった部位では1.5%、1回では3%、2回では6%、3回では14%、4回すべてで出血した部位では30%に進行が認められました。[2]

Rahardjoらが高齢の非喫煙者229人、13,289部位を3年間追跡した研究でも、BOP頻度0/4の部位と比べて、4/4の部位では進行オッズが6.17倍でした。また、基準時PPDが4 mm以上であることも、独立した進行関連因子でした。[4]

これらの研究が示しているのは、

BOPは「あるか、ないか」だけでなく、同じ部位でどの程度繰り返しているかを読むべき所見である

ということです。

ただし、現在も研究上の空白があります。

5 mmまたは6 mm以上で、複数回連続してBOP陰性であった部位だけを抽出し、CAL、骨レベル、歯の喪失まで長期間追跡した研究は十分ではありません。

したがって、

「深いが何度も出血しないから98%安全である」

とは断定できません。

5 mm・6 mm・7 mm以上のBOP陰性ポケットは、長期的にどうなったのか

今回の問いに最も直接的に答える資料が、Matulieneらの長期研究です。

歯周治療を終了した172人を3〜27年間、平均11.3年間追跡し、治療終了時のPPDとBOPが、その後の歯の喪失とどのように関係したかを検討しています。[5]

ここで、部位単位の数字の読み方には注意が必要です。

部位単位の解析では、各測定部位を、その部位が属していた歯が追跡期間中に失われたかどうかで分類しています。

したがって、以下の数字は「部位そのものの喪失率」ではありません。

そのPPDとBOPを示した部位が属する歯が、追跡中に失われた割合

です。

BOP陰性部位では、その部位が属する歯が追跡中に失われた割合は、4 mmで9.3%、5 mmで12.9%、6 mmで27.8%、7 mm以上で45.5%でした。

BOP陽性部位では、4 mmで19.2%、5 mmで28.0%、6 mmで32.2%、7 mm以上で67.6%でした。

同じ深さで比較すると、多くの区分でBOP陰性の方が好ましい結果です。

しかし、BOP陰性部位だけを見ても、PPDが深くなるほど、その部位が属する歯が失われた割合は上昇しています。

歯単位の解析でも、同様の傾向が認められました。

その歯の最深PPDとBOPの組み合わせで分類すると、BOP陰性歯が追跡中に失われた割合は、最深PPD 4 mmで5.2%、5 mmで10.8%、6 mmで22.6%、7 mm以上で37.5%でした。

BOP陽性歯では、4 mmで11.3%、5 mmで21.4%、6 mmで22.1%、7 mm以上で57.7%でした。

とくに注目すべきなのは、

最深PPDが5 mmでBOP陰性だった歯の長期的な喪失割合10.8%が、最深PPD 4 mmでBOP陽性だった歯の11.3%とほぼ同じだった

という点です。

これは、BOPの有無とPPDの深さを別々に読まなければならないことを象徴する結果です。

ただし、この結果を、

「6 mm・BOP陰性の歯は22.6%の確率で失われる」

と個々の患者へそのまま当てはめることはできません。

対象は歯周治療後に長期間管理された集団であり、抜歯に至る臨床判断、補綴設計、歯内疾患、歯根破折、う蝕、患者の受診状況などの影響を受けます。

また、6 mm・BOP陰性群と7 mm以上・BOP陰性群は例数が少なく、推定値の不確実性が大きい点にも注意が必要です。

BOPを調整しても、ポケットの深さは独立した予後情報を持っていた

Matulieneらの研究では、PPDとBOPを同じ多変量モデルへ投入した解析も行われています。[5]

PPD 3 mm以下を基準にすると、BOPを同時に評価した後でも、PPD 4 mmのオッズ比は2.3、5 mmは4.8、6 mmは7.2、7 mm以上は25.6でした。

一方、PPDを調整した後でも、BOP陽性は部位単位で約2.0倍、歯単位で約1.9倍、歯の喪失と独立して関連していました。

この結果は、BOPとPPDのどちらか一方を選ぶのではなく、両方を評価する必要があることを示します。

BOP陽性は炎症に関するリスク情報を加えます。

深いPPDは、BOPとは別に、器具到達性、清掃困難性、歯肉縁下バイオフィルムが再形成される空間、複雑な歯根形態などの情報を持ちます。

BOP陰性は、深いポケットが持つリスクを弱めることはあっても、深さそのものを消すことはできません。

最深部1か所ではなく「残存ポケット負荷」を見る

全顎に1か所だけ5 mm・BOP陰性が残っている患者と、臼歯部を中心に5〜6 mmが多数残っている患者を、同じ「5 mmの残存ポケットがある患者」とまとめることはできません。

この違いを表すのが、残存ポケット負荷という考え方です。

残存ポケット負荷は、5 mm以上あるいは6 mm以上の部位が、全顎に何か所、または全測定部位の何%残っているかを患者単位で評価します。

Salehらは、歯周治療後の継続管理を受けた168人、3,869歯を中央値約25年間追跡しました。[6]

5 mm以上の残存ポケットが全測定部位の16〜30%を占める患者では、4 mm以下の部位のみであった患者と比較して、歯周炎を理由に失われた歯数のモデル上の期待値が2.69倍でした。

5 mm以上の部位が30%を超える患者では、モデル上の期待値は4.38倍でした。

これらは単純な発症リスク比やハザード比ではなく、負の二項回帰モデルから推定された、患者一人当たりの歯周炎を理由に失われた歯数の期待値の比です。

一方、5 mm以上の残存ポケットが全測定部位の15%以下であった患者では、4 mm以下のみの群との差は明確ではありませんでした。

さらにTayらの研究では、5 mm以上の残存部位が1か所増えるごとに、1年後のPPD進行オッズが1.15倍、5年間に歯周炎を理由として歯を失うオッズが1.11倍となりました。[7]

6か所という数が短期進行を識別する候補閾値として示されましたが、AUCは0.73であり、絶対的なカットオフではありません。

これらの研究には共通する限界があります。

BOP陰性の残存ポケットだけを抽出した研究ではなく、PPDとBOPの交互作用を詳細に解析していません。

したがって、

「BOP陰性でも、5 mm以上の部位が16%を超えれば必ず危険である」

とは読めません。

正確には、

BOPとは別に、残存ポケットの総量にも患者単位の長期予後情報がある

と解釈すべきです。

厳格な治療到達点を満たす患者は、実際には多くない

治療後の「安定」を厳格に定義することには価値があります。

低リスクの患者群を明確にし、臨床研究の評価基準を統一し、再発の可能性が低い状態を目標として共有できるからです。

一方で、厳格な基準を満たさなかった患者を、すべて治療失敗とみなすことはできません。

Rattuらのシステマティックレビューでは、15研究、12,884人、323,111歯が解析されました。[33]

歯周治療後の継続管理開始時に、

  • 「stable periodontitis」を満たした患者は1.35%
  • EFPの「治療エンドポイント」を満たした患者は11.00%
  • 5 mm以上の部位が4か所以内という「controlled periodontitis」を満たした患者は34.62%

でした。

つまり、厳格な「安定」の基準を満たす患者はごく少数でした。

一方、5年以上の歯周治療後の継続管理データが得られた1,190人では、29,809歯を平均約9.9年間追跡し、936歯、3.14%が全理由で抜歯されていました。[33]

厳格な基準を満たさない患者が多くても、多くの歯は維持されていました。

ただし、基準を満たさなくても同じ予後だったわけではありません。

「controlled periodontitis」を達成しなかった患者では、歯の喪失リスクが有意に高く、5 mm未満または6 mm未満という到達点を達成しなかったことも歯の喪失と関連していました。[33]

したがって、この研究から導かれるのは、

厳格な到達点を満たすことには予後上の意味がある。
しかし、到達点を満たさないことは、直ちに治療失敗や抜歯適応を意味しない。

という両方向の解釈です。

「理想的な状態」と「実際に長期間管理可能な状態」を区別しながら、理想から外れた程度と、その患者が持つ残存リスクを評価する必要があります。

国内の約17年データ――深さが残ってもBOPは低く維持され得る

海外の長期研究では、深い残存ポケットが将来リスクと関連することが示されています。

一方、国内の長期継続患者を調べた資料からは、ポケットの深さが一定程度残っていても、BOPを低い状態に維持できる患者がいることが分かります。

10年以上一度も中断せず旧SPTを受けていた54人を対象とした2026年の調査では、平均継続期間は16.8±4.4年でした。[23]

70歳未満の群では、4 mm以上のポケットを持つ歯の割合は23.8%から28.8%となり、有意な変化はありませんでした。一方、BOPを示す歯の割合は9.3%から1.0%へ有意に低下しました。

70歳以上の群でも、4 mm以上のポケットを持つ歯の割合は34.0%から36.3%で有意差がなかった一方、BOPを示す歯の割合は9.8%から3.9%へ有意に低下しました。

この研究は、今回のテーマにとって興味深い結果を示しています。

深さが残ることと、炎症が持続することは同義ではない。

という臨床像を、国内の長期継続患者で示しているからです。

ただし、対象は10年以上通院を中断しなかった選択された患者群です。

「4 mm以上」という区分には4 mmも含まれ、同じ5〜6 mm部位が約17年間連続してBOP陰性だったことを示す研究ではありません。

したがって、深いBOP陰性ポケットの安全性を直接証明するものではなく、構造的な深さと炎症反応が長期的に乖離し得ることを示す補強資料として読むべきです。

残存ポケットを抱えたまま16年間維持された国内症例

国内の16年経過症例では、初診時に4〜6 mmのPPDが全測定部位の75.9%、7 mm以上が2.7%、BOPが59.8%でした。[24]

歯周基本治療後の再評価では、4 mm以上の部位は9.5%、BOPは4.8%まで改善しました。

患者が全顎的な追加治療を希望しなかったため、残存ポケットを抱えたまま、当時の旧SPTへ移行しています。

16年後には4〜6 mmの部位が5.6%残っていましたが、BOPは1.2%でした。

この時点で報告されたPISA 26.5 mm²とPESA 1,619.6 mm²は、残っていた4〜6 mm部位だけの数値ではありません。

患者全体、すなわち全顎のPISAとPESAです。

この症例は、すべての残存ポケットを完全に浅くできなくても、全顎的な炎症負荷を低く維持し、長期間歯列を管理できる場合があることを示しています。

しかし、1症例の報告であり、残っていた4〜6 mmのすべての部位がBOP陰性だったとは報告されていません。

また、16年間の経過が常に一定だったわけでもありません。

歯周組織検査結果が悪化した際には、来院間隔を2週間または1か月へ短縮し、歯周組織状態と患者のセルフケアを再評価していました。

つまり、安定していたから何もしなかったのではありません。

状態に応じて管理強度を変え続けた結果として、長期的な安定が得られた症例

と読むべきです。

「健康」「安定」「寛解」「管理下」は同じ言葉ではない

歯周治療後の状態を説明するとき、「健康」「治癒」「安定」「寛解」「管理されている」という言葉が、同じ意味で使われることがあります。

しかし、これらは分けて考えた方がよい概念です。

自然な歯周組織における健康は、アタッチメントロスや骨吸収がなく、臨床的炎症もない状態です。

一方、歯周炎治療後の患者では、骨吸収やアタッチメントロスの既往は残ります。歯肉退縮があり、歯根面が露出し、歯間空隙が拡大していることもあります。

それでも、BOPが少なく、PPD、CAL、骨レベルが進行せず、患者と歯科医院の双方で管理できていれば、治療後の退縮歯周組織における臨床的健康、あるいは管理下の状態と評価できます。[12,27]

2017 World Workshopの症例定義では、治療後の安定した歯周炎患者における臨床的歯周健康は、概ね次の条件で整理されています。

全顎BOP率が10%未満であること。

PPDが4 mm以下であること。

4 mm部位にBOPを認めないことです。[27]

この厳格な定義では、5 mm・BOP陰性が1か所残っていても、「安定した歯周炎患者における臨床的歯周健康」の基準は満たしません。

一方、EFPの治療エンドポイントでは、孤立した5 mm・BOP陰性は、ほかの条件によっては歯周治療後の継続管理へ移行し得ます。[10]

この違いは矛盾ではありません。

症例定義としての臨床的健康と、治療を次の段階へ進めるためのエンドポイントが、異なる目的で設定されているからです。

国内でも2026年6月以前の旧制度では、一部に4 mm以上のポケットや根分岐部病変などが残っていても、明らかな炎症がなく病状が安定していれば、旧SPTへ移行する考え方が用いられていました。[31]

なお、2026年6月の診療報酬改定では、従来の歯周病安定期治療と歯周病重症化予防治療が整理・統合され、現行名称は歯周病継続支援治療となりました。[28]

本稿では、海外文献のsupportive periodontal careまたはsupportive periodontal therapyは「歯周治療後の継続管理」とし、過去の国内制度についてのみ「旧SPT」と表記します。

歯周治療後の管理と通常の定期検診の違いについては、以下でも詳しく解説しています。

【歯周治療後のメインテナンスと定期検診は何が違う?】

深いポケット内で、なぜ炎症が静穏化し得るのか

深い歯周ポケットが残っているのに、なぜBOPがなくなるのでしょうか。

歯周基本治療によって歯肉縁上・歯肉縁下バイオフィルムと歯石が減少すると、ポケット内の細菌量と細菌叢が変化します。

浮腫性だった歯肉は引き締まり、毛細血管の拡張や炎症性細胞浸潤が減少します。炎症によって抵抗性が低下していた組織が治癒すると、同じプロービング圧でもプローブが深く侵入しにくくなる場合があります。

治療後の歯根面には、長い付着上皮が形成されることがあります。

長い付着上皮は、かつては「結合組織性付着より劣る、不安定な治癒」とみなされる傾向がありました。

しかし、上皮は外部からの細菌侵入を防ぐ防御性組織でもあります。

病理学的資料では、長い付着上皮と歯根面の間にラミニン5やインテグリンα6β4が発現し、歯根面への接着と生物学的な密封に関与することが示されています。[25]

したがって、治療後に深さが残っていても、上皮性のシーリングと低炎症状態が成立し、臨床的に長期間静穏化する可能性があります。

ただし、この病理学的知見を、

「深いBOP陰性ポケットでは、必ず真の歯周組織再生が起きている」

と解釈してはいけません。

長い付着上皮による治癒と、セメント質、歯根膜、歯槽骨が再形成される真の歯周組織再生は同じではありません。

動物実験では上皮性付着が結合組織性付着へ置換される可能性が示されていますが、臨床のすべての部位で同じことが起こると証明されたわけではありません。[25]

今回のテーマで重要なのは、

深さが残っていることと、現在進行中の炎症、または現在表現されている炎症が存在することは同義ではない

という点です。

PISAとPESA――炎症面積とポケット上皮面積を分けて考える

PPDとBOPの違いを、面積という視点から整理する方法がPESAとPISAです。

PESAはPeriodontal Epithelial Surface Area、すなわち歯周上皮表面積です。PPDやCALなどの臨床値から、歯周ポケット上皮の総表面積を推定します。

PISAはPeriodontal Inflamed Surface Area、歯周炎症表面積です。PESAのうち、BOP陽性部位に対応する炎症表面積を推定します。[13]

部位単位でBOP陰性であれば、その部位のPISAへの寄与は0になります。

しかし、その部位に対応する深いポケット上皮の面積、すなわちPESA側の構造は残ります。

また、患者全体のPISAは、ほかにBOP陽性部位があれば0にはなりません。

したがって、

ある深い部位がBOP陰性であれば、その部位はPISAへ寄与しない。
しかし、深いポケット上皮と歯肉縁下環境が消失したわけではない。

という整理になります。

提供された研究資料では、唾液中IL-1βとBOP率、PISA、PISA/PESAとの間に弱い関連が認められています。[29]

これは、BOPやPISAが、PPDやCALとは異なる炎症側の情報を持つ可能性を補強します。

ただし、PISAとPESAは臨床値から計算される推定指標であり、ポケット壁の組織学的炎症面積を直接測定しているわけではありません。

出血しないことは、歯石やバイオフィルムがないことを意味しない

BOP陰性だからといって、歯周ポケット内から歯石やバイオフィルムが完全に消失したとは限りません。

深いポケットでは、根面を直接見ることができず、器具操作は触覚へ大きく依存します。

歯根面には凹凸や溝があり、複根歯では根分岐部やルートトランクが存在します。修復物のマージン、オーバーハング、歯根近接などが加わると、器具の到達性はさらに低下します。

古典的研究では、PPDが深くなるほど、非外科的な器具操作後に残存歯石が多くなることが示されています。また、外科的アクセスの有無や術者経験も、根面清掃の完全性に影響しました。[20,21]

現在は超音波スケーラーの細いチップ、拡大視野、低侵襲なペリオドンタルデブライドメントなど、古典研究当時とは異なる治療環境があります。

したがって、古い研究の具体的な除去率を、そのまま現在のすべての臨床へ当てはめることはできません。

しかし、

深さと解剖が、根面処置の難易度を上げる

という基本原則は変わりません。

ペリオドンタルデブライドメントでは、セメント質を徹底的に削り取ることが目的ではありません。

根面への医原性侵襲を抑えながら、バイオフィルムと臨床的に探知可能な沈着物を破壊・除去し、宿主が管理できる環境を作ることが重視されます。[30]

器具の選択だけでなく、根面の探知、歯種ごとの解剖、術者のスキルが結果を左右します。

また、プラークとBOPには関連があるものの、歯周炎患者では両者の相関が弱い、または一貫しない場合があります。[16]

出血しないからプラークの影響がないのではありません。

プラークがあるから、その診査時に必ず出血するわけでもありません。

5 mmと6 mmの1 mm差は、生物学的な断崖ではない

臨床では、5 mmと6 mmが重要な境界として扱われます。

しかし、プローブの目盛りが5 mmから6 mmになった瞬間に、微生物叢や宿主反応が急変するわけではありません。

非外科的歯周治療後のポケット閉鎖を調べたWernerらの大規模研究では、初診時4〜5 mmのポケット閉鎖率は62%、6 mm以上では26%でした。[9]

また、単根歯ではポケット閉鎖率60%、複根歯では37%、2〜3度の根分岐部病変では28%でした。

この結果は、1 mmの数字そのものより、深さと解剖学的複雑性が増すにつれて、治療反応と管理可能性が連続的に低下することを示しています。

一方、プロービングには測定誤差があります。

手用プローブの単回測定では、おおむね0.4〜1.0 mm程度のばらつきが生じ得ます。プロービング圧、挿入角度、術者、歯石、炎症による組織抵抗性などが影響します。[1]

したがって、前回5 mm、今回6 mmだったという一度の変化だけで、直ちに病状進行と診断することはできません。

同じ部位を、できるだけ同じ条件で再測定し、CAL、BOP、排膿、骨レベル、動揺度などと合わせて判断します。

反対に、測定誤差があることを理由に、5 mm、6 mm、7 mmと繰り返し増加する傾向を無視してもいけません。

単回の1 mm差は慎重に読み、反復する方向性は重く読む。

これが実臨床での妥当な考え方です。

部位単位・歯単位・患者単位を混ぜてはいけない

歯周病の研究と臨床では、解析単位を意識しなければなりません。

一つの測定部位がBOP陰性であることは、部位単位の情報です。

その歯に複数の深いポケットや根分岐部病変、動揺があるかどうかは、歯単位の情報です。

患者の全顎BOP率、残存ポケット数、Stage、Grade、喫煙、糖尿病、受診継続状況は、患者単位の情報です。

さらに、これらが前回から変化しているかどうかは、時間軸の情報です。

例えば、一つの5 mm・BOP陰性部位があっても、前歯の平滑面に孤立している場合と、大臼歯根分岐部にあり、その歯のほかの面にも6 mmがある場合では意味が違います。

全顎でその1か所だけの場合と、5 mm以上が全測定部位の20%を占める場合でも意味が違います。

同じ部位が5年間変化していない場合と、前回3 mm、今回5 mmへ増加した場合でも意味が違います。

根分岐部・臼歯・修復物では、同じ深さでも意味が変わる

大臼歯の根分岐部にある5 mmと、単根歯の平滑面にある5 mmを同じように扱うことはできません。

根分岐部では、垂直方向のPPDだけでなく、水平方向のアタッチメントロスがあります。

根分岐部入口の幅、ルートトランクの長さ、歯根離開度、エナメル突起、根面溝、根分岐部天蓋の形態などが、清掃性と器具到達性を左右します。

短期治療反応を調べたWernerらの研究では、2〜3度の根分岐部病変を有する歯でポケット閉鎖が得られた割合は28%であり、根分岐部病変のない歯より低い結果でした。[9]

しかし、短期的にポケット閉鎖を達成しにくいことと、直ちに歯を失うことは同義ではありません。

Class II根分岐部病変は、長期間保存できる歯も多い

2025年の後ろ向きコホート研究では、222人のClass II根分岐部病変543歯が解析され、平均約9年間の歯周治療後の継続管理中に93歯、17%が失われました。

言い換えれば、83%の歯が維持されていました。[35]

ただし、すべてのClass II根分岐部病変の予後が同じだったわけではありません。

治療後にClass II根分岐部病変が一方向だけに残った歯では、歯を失った割合は約13%でした。一方、同じ歯の複数方向にClass II根分岐部病変が残った歯では、約43%が失われました。[35]

また、初診時から最終診査までに、

  • 38%がClass Iまたは根分岐部閉鎖へ改善
  • 32%がClass IIのまま維持
  • 10%がClass IIIへ進行
  • 残りが歯の喪失

という経過を示しました。[35]

Class IIという診断名だけで予後を一括できないことが分かります。

同じClass IIであっても、

  • 一方向か複数方向か
  • 治療後のCAL
  • 歯種
  • 根管充填の有無
  • 継続管理の規則性

などによって予後が変化します。

この研究では、根管充填歯では、非根管充填歯より歯の喪失が多く認められましたが、根管治療そのものが歯を失わせたと解釈してはいけません。

根管充填歯は、過去のう蝕、歯髄疾患、残存歯質の不足、補綴負担、歯根破折リスクなどを抱えている可能性があり、より複雑な歯の代理指標となっていると考えるべきです。

Class III根分岐部病変でも、すべてが直ちに失われるわけではない

Class III根分岐部病変については、160人、265歯を中央値約9年間追跡した研究があります。[36]

98歯、37%が失われました。

逆に言えば、重度のClass III根分岐部病変を有していても、約63%の歯は観察期間中に維持されていました。

歯の喪失には、初診時のエックス線上の骨吸収量と、歯周治療終了時の平均PPDが関連していました。[36]

この結果も、

「Class IIIだから必ず抜歯」

とは言えない一方で、

「出血が少ないから問題ない」

とも言えないことを示します。

根分岐部では、BOPだけでなく、水平方向の病変、残存骨支持、治療後PPD、清掃可能性、歯内・修復状態を統合しなければなりません。

修復物がある歯では、マージンの位置と適合、エマージェンスプロファイル、コンタクト、歯間清掃器具の通過性も評価します。

動揺が残る歯でも、必ずしも現在進行中の炎症とは限りません。

支持骨が失われると歯の回転中心が根尖側へ移動し、炎症が抑えられていても動揺が残る場合があります。

24人、固定された臼歯・小臼歯58歯を10年間追跡した小規模研究では、固定歯群のPPDとCALは、対照歯群と比較して大きく悪化しませんでした。[32]

ただし、これはBOP陰性の深いポケットを直接追跡した研究ではなく、すべての動揺歯へ固定を推奨する根拠でもありません。

重要なのは、動揺の「存在」だけではなく、動揺が増えているか、咬合負担が変化しているか、清掃を妨げているかを時間軸で見ることです。

喫煙者では「出血しない」を高く評価しすぎない

喫煙者では、歯周組織破壊のリスクが高い一方で、歯肉の炎症徴候が目立ちにくいことがあります。

喫煙は歯肉の微小循環、血管反応、好中球機能、線維芽細胞機能、サイトカイン応答などへ影響します。

そのため、喫煙者におけるBOP陰性は、非喫煙者と同じ重みで安心材料にできない場合があります。

短期禁煙研究では、禁煙に成功した14人で、BOP陽性者が5人から11人へ増加し、6 mmを超えるポケットを持つ人数も2人から4人へ増加しました。[15]

これは、禁煙によって歯周病が悪化したという意味ではありません。

禁煙後に血流や炎症反応の表現が変化し、それまで目立ちにくかった出血やプロービング所見が表面化した可能性があります。

対象数14人の小規模研究であり、数値を一般化することはできません。

しかし、

喫煙者では「出血しないから炎症がない」と判断しない

という臨床上の注意を補強します。

Stage・Grade・糖尿病・過去の進行速度は、その日のBOPでは消えない

歯周治療によってBOPが減少しても、その患者が過去に受けた支持組織破壊の履歴は消えません。

Stageは、歯周炎による破壊の重症度、複雑性、歯の喪失、機能障害を表します。

Gradeは、進行速度や将来リスクを評価する枠組みです。

日本人607人を対象とした研究では、歯周治療後の旧SPT期間中における歯周炎を理由とする歯の喪失の発生率比は、Stage IVで1.78、Grade Cで2.72、広汎型で1.43でした。[14]

これは部位別のBOP陰性ポケットを追跡した研究ではありません。

しかし、患者単位の過去の病型が、治療後の長期予後と関係することを示します。

同じ5 mm・BOP陰性であっても、Stage II・Grade Bで全顎に1か所だけ残る場合と、Stage IV・Grade Cで臼歯部に多数残る場合では、同じ評価にはなりません。

2024年の研究では、過去のエックス線画像による直接的な進行証拠でGradeを判定した場合、Grade間で非外科的歯周治療への反応に有意差は認められませんでした。[37]

一方、骨吸収率/年齢などの間接的証拠によってGrade Cと分類された群では、Grade B群よりPPD減少量が大きかったものの、BOP減少量とポケット閉鎖率は低い結果でした。[37]

したがって、Grade Cという名称だけで治療反応を一律に予測することはできず、Gradeの判定方法にも注意が必要です。

改善量が大きいことと、治療後に管理しやすい浅い状態へ到達したことは別です。

糖尿病についても、「糖尿病があるか、ないか」だけでは不十分です。

HbA1cを含む代謝コントロール、治療内容、合併症、創傷治癒、口腔乾燥、過去の歯周治療反応などを確認します。

歯周治療と全身状態、歯内療法、補綴、咬合を統合して評価する必要性については、以下でも解説しています。

【歯だけを診ていては治療は完結しません|かかりつけ歯科医が口腔全体を統合して診る意味】

一度出血しなかった部位と、何年も出血しない部位は違う

BOP陰性を評価するときは、必ず回数と時間軸を確認します。

一度だけのBOP陰性は、

「今回の条件では出血しなかった」

という情報です。

同じ部位が複数回連続してBOP陰性であれば、安定を支持する証拠は強くなります。

そこへ、PPDが増えていない、CALが失われていない、骨レベルが低下していない、動揺が増えていない、排膿や歯周膿瘍を認めないという情報が加わるほど、安定という判断の信頼性が上がります。

反対に、BOPが繰り返し陽性となるほど、付着喪失リスクは高くなります。[2–4]

ただし、BOP陰性が何回続けば「安全」と機械的に決められるわけではありません。

診査間隔、患者のリスク、部位の深さ、治療内容が異なるからです。

反復BOP陰性は安定を支持する。
しかし、深いポケットでは、反復BOP陰性だけで安定を証明したことにはならない。

この慎重な表現が適切です。

プロービングは完全な物差しではない

歯周プローブは、硬いポケット底を直接測定しているわけではありません。

プローブ先端は、炎症の程度、組織抵抗性、プロービング圧に応じて接合上皮内、あるいは炎症性結合組織内へ到達します。

炎症が強い部位では深く入りやすく、治療後に組織が引き締まると、付着が大きく回復していなくても浅く測定されることがあります。

プローブの先端径、挿入角度、歯軸への平行性、隣接面でのウォーキングプロービング、歯石や修復物の存在、術者の経験も結果に影響します。

そのため、経時比較では、できるだけ同じプローブ、同じ測定点、同程度の軽圧で測定する必要があります。

0.25 N程度の軽いプロービング圧が標準化の目安として示されていますが、一般診療で完全に一定化することは容易ではありません。[1]

測定誤差があるからといって、1 mmの変化を軽視してよいわけではありません。

一度の1 mm変化は慎重に解釈し、複数回にわたる変化や、CAL・骨レベルの変化と一致する場合は重く評価します。

一本の歯だけに狭く深いポケットがあるとき、歯周炎以外を疑う

全顎の多くの部位が2〜3 mmなのに、一本の歯の一面だけが8 mmや10 mmになっている場合、通常のプラーク性歯周炎だけで説明できるとは限りません。

とくに狭く深い孤立性ポケットでは、垂直性歯根破折、歯内―歯周病変、セメント質剥離、穿孔、口蓋溝・根面溝、外部吸収、修復物関連病変などを考えます。

垂直性歯根破折では、破折線に沿った狭い深部ポケット、J字状またはハロー状の透過像、反復する腫脹や瘻孔などを認めることがあります。

歯内―歯周病変では、根尖病変や側枝由来の炎症が歯肉溝へ排出され、深いポケットのように測定される場合があります。

セメント質剥離では、歯根面から剥離したセメント質片が慢性炎症を引き起こし、孤立性深部ポケット、瘻孔、排膿、限局性骨欠損を生じることがあります。

セメント質剥離の専門家コンセンサスでは、臨床診査、歯髄診断、デンタルエックス線、小範囲CBCT、外科的確認、病理検査などを組み合わせる重要性が示されています。[17]

CBCTは、深いポケットがあれば全例撮影する検査ではありません。

二次元画像と臨床診査だけでは原因を特定できず、三次元情報が治療方針を変える可能性がある場合に検討します。

根管治療歯では、歯周状態だけでなく、根管治療の質、穿孔、残存歯質、フェルール、修復マージン、支台歯としての負担、咬合環境などを統合して評価します。[22]

出血のない深いポケットを、そのまま管理できる条件

出血のない深いポケットを継続管理することは、「何もせず様子を見る」ことではありません。

経過観察を選択できるのは、その部位が現在静穏であることに加えて、将来の変化を検出できる管理体制がある場合です。

孤立した5 mm程度で、同じ部位が複数回BOP陰性であり、PPD、CAL、骨レベルに変化がなく、排膿や動揺増加を認めないことが基本になります。

患者のセルフケアが届き、歯科医院でのデブライドメントも可能であること、根分岐部や複雑な骨欠損がないこと、残存ポケット負荷が低いこと、喫煙や血糖コントロールなどのリスクが管理されていることも重要です。

そして、患者が継続的に受診できなければなりません。

深いポケットを管理するという判断は、次回の診査を前提とした判断です。

出血がなくても再介入を検討する条件

BOP陰性でも、6 mm以上のPPDが残る場合は、BOP以外の条件を再評価します。

前回よりPPDが増えている、CALが失われている、骨吸収が進行している、排膿や歯周膿瘍がある、動揺が増している場合は、安定とは言えません。

根分岐部病変、複雑な垂直性骨欠損、多数の残存ポケット、清掃不能な修復形態がある場合も、再介入を検討します。

一本の歯に原因不明の孤立性深部ポケットがあれば、局所的再デブライドメントを繰り返す前に、歯根破折、歯内病変、セメント質剥離などを再鑑別します。

再インスツルメンテーションで、残存ポケットはどこまで閉鎖するのか

歯周基本治療後に5〜6 mmの残存ポケットがあったからといって、直ちに全例を外科治療へ移行するわけではありません。

局所的な再インスツルメンテーションによって、さらに改善する部位があります。

2025年のフィールド研究では、一般歯科診療で非外科的歯周治療を受けた489人が対象となりました。6か月時の再評価で5 mm以上の残存ポケットを再インスツルメンテーションし、18か月時に再評価しています。[34]

5〜6 mmの残存ポケットでは、再インスツルメンテーション後に約39%で4 mm以下へのポケット閉鎖が得られました。

7 mm以上の残存ポケットでは、閉鎖が得られた割合は28%でした。[34]

この結果は、5〜6 mmの残存ポケットに対する再インスツルメンテーションには一定の効果がある一方、過半数の部位では完全な閉鎖に至らなかったことを意味します。

また、初回の非外科的治療で6か月時に閉鎖していた部位が、18か月時にも閉鎖を維持した割合は、患者全体の治癒反応によって異なりました。

6か月時に5 mm以上の残存ポケットがなかった群では80%、5〜6 mmが残った群では50%、7 mm以上が残った群では40%でした。[34]

つまり、一つの部位だけではなく、

その患者が初回治療に全体としてどの程度反応したか

も、その後の安定性に関係していました。

さらに、基準時のPPD、喫煙、年齢、歯種が結果の安定性と関連していました。

この研究は無作為化比較試験ではなく、日常診療でのフィールド研究です。したがって、再インスツルメンテーションと歯周外科を直接比較した結果ではありません。

それでも、

5〜6 mmなら再非外科処置で閉鎖する可能性が残る。
7 mm以上では成功割合が下がり、外科的アクセスを含む別の選択肢を検討する理由が強くなる。

という臨床的な連続性を示しています。[34]

再デブライドメント、歯周外科、再生療法をどう分けるか

深いポケットが残った場合の次の処置は、PPDだけで決まりません。

残存歯石やバイオフィルムが疑われ、非外科的にアクセス可能であれば、局所的な再インスツルメンテーションや再デブライドメントを検討します。

一方、深いポケットが残り、非外科的な器具到達に限界がある場合は、フラップ手術によるアクセス改善が選択肢になります。

垂直性骨欠損や2度の根分岐部病変など、欠損形態と患者因子が適切であれば、歯周組織再生療法を検討できます。

ただし、深いポケットであることだけでは、再生療法の適応にはなりません。

骨欠損壁数、欠損角度、欠損深さ、歯の動揺、根分岐部形態、プラークコントロール、喫煙、全身状態、創の安定性などを評価します。

歯周組織再生療法の適応については、以下でも詳しく解説しています。

【歯周組織再生療法はどのような歯に適応できるのか】

治療侵襲と予想される利益のバランスも重要です。

何年も変化していない孤立性5 mm・BOP陰性部位に、数字だけを理由として外科処置を追加することが、常に患者利益になるとは限りません。

反対に、7 mm・BOP陰性で骨吸収が進行している部位を、出血がないという理由だけで管理し続けることも適切ではありません。

予後不良と抜歯適応は同義ではない

深いポケットのある歯を評価するとき、「将来リスクが高い」という判断と、「今抜歯すべき」という判断を混同してはいけません。

歯周予後は、治療をしなかった場合の自然経過だけでなく、治療によってどこまで改善できるか、患者が継続管理できるかによって変化します。

KwokとCatonの予後システムでは、予後を固定されたラベルではなく、治療反応や継続管理の状況に応じて更新する動的な評価として捉えています。[18]

重度歯周炎患者の長期研究では、「questionable」と判定された歯の88.2%、「hopeless」と判定された歯の59.5%が、選択された継続管理患者で約15年間保存されていました。[19]

ただし、これはすべての重度歯周炎歯を保存すべきという意味ではありません。

保存研究に含まれる患者は、治療と継続管理を受けられた選択集団です。

歯根破折、根管治療不良、二次う蝕、残存歯質不足、補綴設計上の問題、反復する膿瘍、隣在歯や全顎治療への悪影響などがあれば、抜歯が合理的な場合もあります。

BOP陰性だから保存するのでも、深いから抜歯するのでもありません。
その歯を機能させながら、管理可能な状態へ持っていけるかを評価します。

患者さんには「血が出ないから大丈夫」とは説明しない

患者さんへは、次のように説明できます。

「今回、歯ぐきから出血していないことは良い所見です。ただし、歯周ポケットの深さは残っています。病気が完全になくなったという意味ではないため、今後も同じ場所の深さ、出血、骨の状態が変わらないか確認していきます」

6 mm以上の場合には、次のように加えます。

「出血はありませんが、深さがあるため、ご自身でも医院でも汚れを管理しにくい場所です。次回も同じ状態であれば管理を続けられる可能性がありますが、深くなる、骨が減る、膿が出るなどの変化があれば、追加治療を検討します」

この説明では、BOP陰性という良い情報を否定していません。

同時に、「血が出ないから治った」と誤解させることも避けています。

患者さんに必要なのは、過度な不安でも、根拠のない安心でもありません。

現在は静穏である可能性と、深さが残す将来リスクの両方を伝えることです。

安定とは、一度獲得すれば永久に続く資格ではない

長期間良好に維持された歯周組織でも、患者の加齢、セルフケア、全身状態、薬剤、喫煙、補綴物、咬合、生活環境の変化によって再燃することがあります。

重度歯周炎の長期症例では、再生療法後25年間良好だった部位に、26年目になって再発傾向が確認され、追加対応が行われた症例も報告されています。[26]

この症例が示すのは、歯周治療が失敗したということではありません。

25年間機能したこと自体に大きな価値があります。

一方で、過去の治療成功が、将来の無条件な安定を保証するわけではないことも示しています。

安定とは、一度認定したら終わる診断ではありません。
診査のたびに更新される評価です。

まとめ――BOP陰性は免罪符ではなく、縦断評価の出発点である

出血のない深い歯周ポケットは、管理下で安定していることがあります。

BOP陰性は、同じ深さのBOP陽性ポケットと比較すれば、一般に好ましい所見です。

しかし、長期研究では、BOP陰性であっても、PPDが5 mm、6 mm、7 mm以上と深くなるにつれて、追跡中に歯が失われた割合は上昇していました。

深いポケットが持つリスクは、炎症だけではありません。

セルフケアと専門的デブライドメントの困難性、残存バイオフィルム、歯根面の複雑性、根分岐部、骨欠損、修復物、患者単位の残存ポケット負荷などが関与します。

一方、国内の長期調査と症例報告からは、一定の深さが残っていても、BOPを低く抑え、長期間歯列を維持できる患者が存在することも分かります。

厳格な「安定」の基準を満たす患者は少数ですが、基準を満たさない患者の多くが直ちに歯を失うわけではありません。

再インスツルメンテーションによって閉鎖する残存ポケットもあれば、深さ、解剖、患者の治療反応によって外科的アクセスを検討すべき部位もあります。

したがって、今回の問いへの最終的な答えは次のようになります。

出血のない深い歯周ポケットは、安定していることがあります。

しかし、BOP陰性だけでは安定とは診断できません。

BOPは現在表現されている炎症を読み、PPDは深さと管理困難性を読み、CALと骨レベルは蓄積した破壊と進行を読みます。

さらに、残存ポケット負荷、局所解剖、Stage・Grade、喫煙、糖尿病、継続受診の可否を統合する必要があります。

安定とは、同じ部位を時間を追って観察し、PPD、CAL、骨レベル、動揺、排膿などが進行していないことを確認した後に使える言葉です。

BOP陰性は免罪符ではありません。

しかし、無意味な所見でもありません。

それは、歯周組織の安定を考えるための、重要な出発点です。

よくある質問

Q.5 mmで出血がなければ、治療は終わりですか?

孤立した5 mm・BOP陰性で、ほかの部位が浅く、CALや骨レベルに変化がなく、清掃可能であれば、歯周治療後の継続管理へ移行できることがあります。ただし、治療後の安定した歯周炎患者における厳格な臨床的歯周健康の症例定義は満たしません。

Q.6 mmでも何年も出血がなければ問題ありませんか?

何年もPPD、CAL、骨レベルが変化していなければ、実臨床上は管理下で静穏に維持されている可能性があります。ただし、6 mm以上は深さそのものが持つ管理困難性があるため、BOP陰性だけで低リスクとは判断しません。

Q.BOP陰性の陰性的中率98%なら、ほぼ安心ではありませんか?

約98%という数字は、浅い部位を含む全PPDで、繰り返しBOP陰性だった部位を評価した結果です。深いポケットから一度出血しなかった場合の安全率ではありません。

Q.BOP陽性なら歯周炎が進行していますか?

BOP陽性は炎症を示す重要な所見ですが、陽性部位のすべてが将来付着喪失を起こすわけではありません。BOPの頻度、PPD、CAL、骨レベルと組み合わせて評価します。

Q.BOP陰性でも歯石は残っていることがありますか?

あります。BOPは炎症反応の所見であり、歯石の有無を直接判定する検査ではありません。深いポケット、根分岐部、根面溝、修復物周囲では、BOP陰性でも残存歯石やバイオフィルムが存在する可能性があります。

Q.深いポケットはすべて歯周外科が必要ですか?

必要ではありません。局所的な再インスツルメンテーションで改善できる部位もあります。5〜6 mmの残存ポケットでは再インスツルメンテーション後に約39%で閉鎖が得られた研究もありますが、すべての部位が閉鎖するわけではありません。[34] 歯周外科の適応は、深さだけでなく、BOP、残存歯石、骨欠損形態、根分岐部、清掃性、患者リスク、治療希望から判断します。

Q.一本の歯だけ10 mmある場合も歯周炎ですか?

通常のプラーク性歯周炎とは限りません。垂直性歯根破折、歯内―歯周病変、セメント質剥離、穿孔、根面溝、外部吸収などを鑑別する必要があります。

Q.根分岐部病変があれば、その歯は長く残りませんか?

根分岐部病変は重要なリスク因子ですが、直ちに抜歯を意味しません。Class II根分岐部病変543歯の83%が平均約9年間維持された研究があります。[35] 一方、複数方向にClass IIが残った歯や、Class IIIへ進行した歯ではリスクが高くなります。

Q.厳格な安定基準を満たさなければ、治療は失敗ですか?

必ずしも失敗ではありません。システマティックレビューでは、厳格な「stable periodontitis」を満たした患者は1.35%でしたが、多くの患者が長期的に大部分の歯を維持していました。[33] ただし、基準を満たさない患者では歯の喪失リスクが高くなるため、残存リスクに応じた管理が必要です。

Q.深いポケットが残る歯は抜いた方が安全ですか?

深いという理由だけで抜歯するものではありません。炎症の制御、支持骨、歯内状態、歯根破折、残存歯質、補綴設計、清掃可能性、患者さんの希望を総合して判断します。

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