2026年9月15日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
診療室で先生が歯科用CT(CBCT)の画面を開くと、モニターに白黒の画像が何枚も並びます。
「さっきも、この歯を見ていなかったかな?」
そう思って見ていると、今度は別の画面を拡大したり、十字線のようなものを少し動かしたり、画像を1枚ずつ送ったりしています。
さらに不思議なのは、1つの画面で十字線を動かすと、横に並んでいる別の画像まで一緒に変わることです。
最初は「同じ歯を何度も見直しているのかな」と思っていました。
でも、実際に行われているのは少し違います。
先生は、同じ画像を繰り返し眺めているのではありません。
1回のCT撮影で得られた立体データの中から、同じ歯・同じ場所を異なる方向の断面で確認し、必要に応じて歯の向きに合わせて断面を調整しながら、歯冠側から根尖側まで少しずつ追っているのです。
CTの画面に並ぶ3方向は、別々に撮った3枚の写真ではありません
歯科用CTの画面では、代表的に次のような断面が表示されます。
- 軸位断・水平断(axial)
- 冠状断・前額断(coronal)
- 矢状断(sagittal)
名前だけを見ると少し難しく感じますが、大切なのは用語を覚えることではありません。
イメージとしては、
- 横向きに切った断面
- 正面方向から縦に切った断面
- 横方向から縦に切った断面
のように、1つの立体を異なる方向から切って見ていると考えると分かりやすくなります。
つまり、この3方向の画像を作るために3回CT撮影をしているわけではありません。
1回の撮影で得られた立体的なデータから、コンピューター上で必要な方向の断面を作っています。

以前の治療見学ノートでは、歯科用CTと普通のレントゲンでは何が違うのかをご紹介しました。
通常のデンタルエックス線写真やパノラマ写真とCTでは、それぞれ得意な情報が異なります。
今回は「どの検査が優れているか」という話ではなく、CTを撮影したあと、先生が画面の中でどのように1本の歯を追っているのかに注目してみます。
なぜ1方向ではなく、3方向から確認するのでしょう?
歯や顎の骨は立体です。
一方、通常のエックス線写真では、立体構造を1枚の平面画像として見ます。
そのため、歯根や骨、頬側・舌側あるいは口蓋側の構造などが重なって写ることがあります。
たとえば、ある黒っぽい部分が見えていたとしても、
- 歯の頬側にあるのか
- 舌側・口蓋側にあるのか
- 根のすぐ横なのか
- 少し離れた骨の中なのか
という奥行き方向は、1方向だけでは判断しにくいことがあります。
そこでCTでは方向を変えて確認します。
正面方向では同じ位置に重なって見えていた構造が、横方向の断面では別々の場所にあることが分かることもあります。
「見えているか、見えていないか」だけではなく、「どこにあるのか」を確認するために複数方向を見る。
これが大きな理由の一つです。
CTで黒っぽく見える場所が、全部「病変」とは限りません
ここはCT画像を見るときに大切な点です。
CTでは、周囲よりX線を通しやすい部分は相対的に黒っぽく表示されます。
しかし、黒っぽく見える部分がすべて病気という意味ではありません。
正常な解剖構造にも黒く見える場所がありますし、画像の濃淡は撮影条件や周囲の構造などにも影響を受けます。
そのため先生は、
- どこにあるのか
- どんな形なのか
- どこまで続いているのか
- 歯根や根管とどう関係しているのか
- 症状や口腔内の診察所見と一致しているか
などを合わせて判断します。
CTは「黒い影を探せば診断できる」という検査ではありません。
複数の断面と診察結果を組み合わせて、位置関係や形を読み取るための検査です。
3つの画面に出ている「十字線」は何でしょう?
ここが今回、私がCTの画面を見ていて一番気になったところです。
CTを閲覧するソフト(Viewer)によって表示方法は異なりますが、複数の断面画像に十字線や交差線が表示されることがあります。
これは単なる目盛りではありません。
複数の断面で「同じ立体上の位置」を確認するための目印として使われます。
たとえば、水平断の画面である歯根の近くへ位置を移動すると、その位置に対応する冠状断や矢状断も一緒に変わります。
つまり先生は、
「この水平断で見えている部分は、縦に切った画像ではどこにあるのか」
「この根管は別方向から見ると、どの位置を通っているのか」
と、同じ場所を照らし合わせることができます。

例えるなら、透明なゼリーの中に小さな点が1つある状態を想像すると分かりやすいかもしれません。
上から見ても、前から見ても、横から見ても、その点は同じ場所にあります。
CTの3画面も、それぞれ別世界の画像ではなく、同じ立体データの中の同じ場所を別方向から見ているのです。
そのため、1つの画面で位置を動かしたときに、ほかの画面まで一緒に変わって見えることがあります。
ところが「水平・正面・横」の3方向だけでは足りないことがあります
ここでもう一つ疑問が出てきます。
最初から3方向が表示されるなら、その3方向だけ見ればよいのではないでしょうか。
実は、そうとも限りません。
理由は、歯がCTの基準面に対して必ず真っすぐ立っているわけではないからです。
前歯でも少し傾いていることがあります。
臼歯では複数の歯根がそれぞれ異なる方向へ広がっています。
さらに、歯根そのものが途中で湾曲していることもあります。
そのため、頭や顎を基準にした軸位断・冠状断・矢状断だけでは、目的の歯が斜めに切られたような断面になる場合があります。
そこで先生が、画面上で断面の向きを調整することがあります。
「頭を基準にした縦横」から「その歯を基準にした縦横」へ
CTでは、必要に応じて対象となる歯の向きに合わせて断面を調整できます。
少し専門的には、多断面再構成、MPR(multiplanar reconstruction / reformation)と呼ばれる考え方です。
重要なのは難しい名称ではなく、
「患者さんの頭に対して水平か」ではなく、「この歯に対して縦か横か」を見やすいように整える
というところです。

たとえば、キュウリを斜めに切ると断面は細長い楕円になります。
真横から輪切りにすれば、もっと円に近い形になります。
同じキュウリでも、切る角度によって断面の形は変わります。
歯根も同じです。
歯を斜めに横切っている画像だけを見て、「根が太い」「根管がこの位置にある」と判断すると、本来確認したい断面とは違っている可能性があります。
そのため、目的に応じて歯の向きを確認し、断面を整えながら観察します。
なお、歯の長軸に合わせて断面を回転させたあとは、厳密には最初に表示されていた軸位断・冠状断・矢状断そのものではなく、その歯に合わせて斜めに切り直した断面として観察することもあります。
つまり、「3方向を見る」というのはスタート地点であり、必要に応じてさらに見やすい方向へ切り直しているのです。
先生が同じ歯を何枚も送っているのは、歯の「高さ」を変えているから
さらに先生は、1本の歯を表示したままマウスやホイールを操作し、画像を次々と送っていきます。
これも、単に「一番きれいに見える1枚」を探しているわけではありません。
同じ歯でも、
- 歯冠
- 歯頸部
- 歯根の上部
- 歯根中央部
- 根尖部
と場所が変われば、断面の形も中身も変わります。
CTでは、その変化を連続して追えます。
日本歯内療法学会誌に掲載された複雑な陥入歯の症例でも、1本の歯について、水平断・冠状断・矢状断をそれぞれ複数の位置で示し、三次元的な形態を評価しています。
つまり、CTには「この1枚だけ見れば正解」という画像があるとは限りません。
何枚もの連続した断面を追うことで、初めて1本の歯の立体的な形が見えてきます。

根管は途中で1本から2本へ分かれることもあります
この「断面を追う意味」が特に分かりやすいのが根管です。
根管というと、歯の中を根の先まで1本の管が真っすぐ通っているように想像しやすいかもしれません。
しかし、実際の根管形態にはさまざまなパターンがあります。
途中で1本から2本に分かれることもあれば、2本あった根管が途中で1本に合流することもあります。
1本から2本へ分かれ、さらに再び1本へ合流する形態も知られています。
そのため、ある1枚の横断面だけを見て根管が1つに見えたとしても、「この歯の根管は最初から最後まで1本」とは限りません。
ただし、CBCTにも空間分解能の限界があります。非常に細い根管の分岐や側枝など、根管系のすべてが画像上で確認できるわけではありません。
CT画像だけですべてを決めるのではなく、実際の治療では口腔内所見やマイクロスコープ下での確認なども組み合わせます。

根管治療では、このような根管の本数や走り方、湾曲などが治療計画に関係する場合があります。
根の先の黒っぽい部分も、見る方向で大きさが変わることがあります
根尖性歯周炎などでは、根の先の骨に黒っぽい透過像が確認されることがあります。
ただし、先ほど触れたように、黒く見える場所がすべて病変という意味ではありません。
位置や形、周囲との関係、症状などを合わせて評価した結果、根尖周囲の病変が疑われる場合に、その広がりを複数の断面で確認することがあります。
病変は、必ずしもきれいな球形に広がっているわけではありません。
正面方向から見ると小さく見えても、別の方向には長く広がっていることがあります。
日本歯内療法学会誌に報告された再生歯内療法の症例では、同じ根尖病変でも、冠状断・矢状断・軸位断で測定した最大径が異なっていました。
つまり、ある1方向で見えた大きさが、その病変全体の大きさとは限りません。

通常のエックス線写真では分かりにくい根尖周囲の状態を確認するとき、必要に応じてCBCTが治療方針の判断材料になることがあります。
ただし、CTを撮れば必ず原因が一つに決まるわけではありません。
診察や症状、歯周組織の状態、通常のエックス線写真などと組み合わせて判断します。
「せっかくCTなら、3Dの立体画像だけを見ればいいのでは?」
患者さんからすると、CTと聞いて最もイメージしやすいのは、歯や骨が立体模型のように表示された3D画像かもしれません。
実際、3D表示は、歯と骨の位置関係や埋まっている歯の向き、周囲の構造との関係などを直感的に理解するのに役立つことがあります。
ただし、3D画像と断面画像は、どちらか一方が優れているという関係ではありません。
役割が違います。
歯根の内部や根尖周囲を細かく確認したいときには、白黒の断面画像を少しずつ送って観察することが重要になる場面があります。
そのため、患者さんから見ると、「せっかくCTなのに、先生は立体画像ではなく白黒の画像ばかり見ている」ように見えることがあります。
しかし実際には、立体データの中を断面に分け、必要な位置を細かく追っています。
他院で撮ったCTの「スマホ写真」では、同じように断面を追えないことがあります
最近は、他院で撮影したCT画像をスマートフォンで撮影して持参されるケースもあります。
もちろん、画像が何もないより参考になる場合はあります。
ただし、CT画面を撮影した写真やスクリーンショットと、元のCTデータは同じものではありません。
スクリーンショットでは、
- 前後の断面へ移動する
- 別方向へ切り替える
- 歯の向きへ断面を合わせる
- 十字線の位置を動かして別断面と照合する
といった操作はできません。
対応する形式の元データがあり、受診先のソフトで正常に読み込めれば、こうした操作ができる場合があります。
他院CTを持参したい場合のCD・USB・DICOMなどの違いについては、他院で撮ったCTデータは歯医者に持参できる?CD・USB・DICOM形式と予約前の確認も参考にしてください。
なお、DICOM形式であれば必ずどの歯科医院でも読み込める、という意味ではありません。
ソフトウェアやデータ形式、媒体、情報セキュリティ上の運用などによって対応できない場合もあります。
CTなら歯のヒビや歯根破折まで必ず見つかるのでしょうか?
ここは誤解しやすいところです。
「3方向から細かく見られるなら、歯のヒビも全部見えるのでは?」と思うかもしれません。
しかし、CTでも見えないものはあります。
特に垂直性歯根破折では、破折線そのものが非常に細い場合があります。
さらに、
- 根管の中に詰めるガッタパーチャなどの根管充填材
- 金属ポスト
- 金属修復物
- 撮影中の患者さんの動き
などによって、画像の乱れであるアーチファクトが生じることがあります。
そのため、CBCTだけを見て、
「線があるから絶対に破折」
「線が見えないから絶対に破折していない」
とは判断できません。
むしろ、破折線そのものだけでなく、歯根の周囲で骨がどのように失われているかという変化が診断の手がかりになる場合もあります。
実際には、痛みや腫れ、打診に対する反応、限局した深い歯周ポケット、通常のエックス線画像、歯根周囲の骨の変化、治療歴などを合わせて判断します。
垂直性歯根破折の診断が難しい理由については、垂直性歯根破折はなぜ見逃されるのかでも詳しくご紹介しています。

詳しく見えるなら、最初から全員CTを撮ればよいのでしょうか?
これも違います。
CBCTは非常に便利な検査ですが、「詳しく見えるから、とりあえず全員撮影する」というものではありません。
通常の診察やデンタルエックス線写真などで、必要な情報が得られる場合もあります。
一方、
- 通常の画像だけでは原因や位置関係が十分に分からない
- 複雑な根管形態が疑われる
- 病変の広がりや周囲構造との関係を三次元的に確認する必要がある
といった場合に、CBCTを検討することがあります。
CBCTの放射線量は装置や撮影範囲、撮影条件によって異なりますが、一般に口内法エックス線撮影より被ばくが大きくなるため、必要性を判断し、診断に必要な範囲へ照射野を限定して使用することが大切です。
CTは「普通のレントゲンの上位版」というより、必要なときに追加する、別の種類の情報源と考えたほうが分かりやすいかもしれません。
助手さんが分かったこと——先生は「同じ画像」を何度も見ていたわけではありませんでした
最初は、先生がCTの画面で同じ歯ばかり何度も見ているように感じました。
でも、よく見ると行っていることは毎回少しずつ違いました。
- 方向を変える
- 十字線で位置を合わせる
- 歯の傾きに合わせて断面を整える
- 歯冠側から根尖側へ画像を1枚ずつ送る
そうやって複数の断面を頭の中でつなぎ合わせながら、1本の歯の立体的な形や周囲との関係を確認していました。
CTを見るというのは、完成した3D画像を一度眺めることではなく、立体データの中を行ったり来たりしながら必要な情報を組み立てていく作業でもある。
今回、CT画面に並ぶ3方向の意味が少し分かった気がしました。
広島市中区立町のブランデンタルクリニックは、立町駅徒歩1分、立町中央ビル4階です。4階まではエレベーターをご利用いただけます。
急な歯の痛みや腫れ、治療中の歯の異変などは、症状によって早めの確認が必要なことがあります。当日電話受付可で、予約状況や症状によっては急患同日可です。まずはお電話で症状をお伝えください。
よくある質問
Q.CT画面に並んでいる3枚は、それぞれ別に撮影した画像ですか?
基本的には違います。
1回のCBCT撮影で得られた立体データから、軸位断・冠状断・矢状断など異なる方向の断面を再構成して表示します。
Q.十字線を動かすと、ほかの画面まで変わるのはなぜですか?
複数の断面が、同じ立体上の位置を対応させて表示されているためです。
ある画面で位置を動かすと、その位置に対応する別方向の断面も変化します。ただし、ソフトによって表示方法や操作方法は異なります。
Q.先生がCT画像を何度もスクロールしているのはなぜですか?
同じ歯でも、歯冠側・歯根中央・根尖側では断面の形が違うためです。
根管が途中で分岐したり合流したりすることもあるため、連続した断面を少しずつ追って確認します。ただし、非常に細かな根管構造まですべてCBCTで確認できるわけではありません。
Q.3Dの立体画像だけではだめなのですか?
3D表示が役立つ場面もありますが、歯根の内部や根尖周囲などを細かく確認するときには、断面画像が重要になることがあります。
3D表示と断面画像には、それぞれ異なる役割があります。
Q.CTで黒く見えるところは、虫歯や炎症ですか?
必ずしもそうではありません。
正常な解剖構造でも黒っぽく見える場所があります。画像の濃淡だけではなく、位置、形、周囲との関係、症状や診察結果などを合わせて判断します。
Q.他院で撮ったCTのスマホ写真を持参すれば十分ですか?
参考になる場合はありますが、写真やスクリーンショットでは断面を自由に動かしたり切り直したりできません。
元データを持参できるかどうかは、受診先と撮影元の医療機関へ事前に確認してください。
Q.CTなら歯根破折やヒビは必ず分かりますか?
必ずではありません。
非常に細い破折線や、金属・根管充填材などによる画像の乱れの影響で分かりにくい場合があります。
診察、通常のエックス線画像、歯周組織の状態、歯根周囲の骨の変化などを合わせて判断します。
Q.CTのほうが詳しく見えるなら、毎回撮ったほうがよいですか?
通常の診察や2次元のエックス線画像で十分な情報が得られる場合もあります。
CBCTは、検査によって得られる情報と必要性、放射線被ばくなどを考慮して選択します。
参考文献
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※CBCTの適応や画像所見は症例ごとに異なります。実際の診断・治療方針は、口腔内診査、通常のエックス線画像、症状、既往歴などを総合して決定します。
