2026年11月02日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科衛生士です。
毎日の歯磨きは、虫歯や歯周病を予防するための大切な習慣です。
ところで、セラミックやCAD/CAM冠などの被せ物を入れている方は、こんなことを考えたことはありませんか?
「被せ物も毎日歯ブラシで磨いているけれど、長い間磨いていたら、表面に傷がついたり、色が変わったりしないのかな?」
天然歯と同じように、被せ物にも歯ブラシの毛先が触れています。歯磨剤を使えば、そこに含まれる清掃・研磨成分も被せ物の表面に接触します。
歯垢を落とすためには必要な歯磨きですが、被せ物の材料から見れば、毎日繰り返し機械的な力を受けることでもあります。
では、歯磨きを何年も続けることで、被せ物の表面にはどのような変化が起こるのでしょうか。
2026年10月14日、国際学術誌『BMC Oral Health』に、この疑問に関係する研究が発表されました[1]。
研究者は4種類の永久クラウン材料から合計104個の試料を作り、電動歯ブラシを用いて約2年相当と仮定した摩耗試験を行いました。
調べたのは、歯磨き前後の「色」と「表面粗さ」です。
その結果、少し意外な違いが見つかりました。
色の変化は、各材料の中央値で見ると人が見分ける目安より小さかったのに、表面の細かな凹凸は4種類すべてで統計学的に有意に増加していたのです。
見た目には大きな変化がなくても、材料の表面では微細な変化が生じている場合があるということです。
ただし、この研究は「被せ物を2年間使うと必ず傷む」「歯磨きによって虫歯が増える」ということを証明したものではありません。
そこで今回は、研究の方法や数値を詳しく確認しながら、表面が粗くなると歯垢が付きやすいのか、セラミックスとレジンでは違うのか、電動歯ブラシやホワイトニング歯磨剤をどう考えるべきかを、一つずつ見ていきたいと思います。
最後に、歯科衛生士の視点から、被せ物とその周囲の天然歯を守るためのケアについてもお話しします。
被せ物も歯磨きで傷む?まず知っておきたい研究の結論
最初に、今回の研究で確認された重要な結果を3つ紹介します。
- 4種類の永久クラウン材料すべてで、ブラッシング後の表面粗さが統計学的に有意に増加しました。
- 歯磨き前後の色差の中央値は、4種類すべてで知覚閾値とされるΔE00=0.8を下回りました。
- 表面粗さの増加量を材料間で比較したところ、統計学的な有意差は確認されませんでした。
これが今回の研究結果の中心です。
「傷む」といっても、さまざまな意味があります
一般的に「被せ物が傷む」と聞くと、欠けたり、割れたり、色が変わったりする状態を想像するかもしれません。
しかし、歯科材料の研究では、材料の状態をもっと細かく分けて評価します。
例えば、表面に細かな傷が増えること、微細な凹凸が大きくなること、色の数値が変わること、光沢が変化すること、材料の一部が失われることなどです。
これらは互いに関連する場合がありますが、同じ現象ではありません。
表面の粗さが増えても、必ずしも肉眼で傷が分かるとは限りません。反対に、色の違いが小さくても、表面の微細な状態は変化している場合があります。
今回の研究では、色の変化と表面粗さの変化が、材料群全体として異なる結果を示しました。
ただし、色と粗さは別々の試料で評価されています。そのため、同じ被せ物について「表面が粗くなるほど色が変わりにくい」と証明されたわけではありません。
表面が粗くなることと、被せ物が壊れることは違います
今回の研究では、表面粗さをRaという数値で評価しています。
Raが増加したということは、測定した表面の平均的な凹凸が大きくなったことを示します。しかし、クラウンの厚みがどれだけ減ったのか、材料が何mg失われたのか、破折しやすくなったのかまでは、この数値から直接判断できません。
表面粗さは歯科修復材料を評価する重要な指標ですが、材料の耐久性を決める唯一の指標ではありません。
「表面粗さが増えた」ことと「被せ物の寿命が短くなった」ことは、区別して考える必要があります。
歯磨きを控えたほうがよいという研究ではありません
ここで最初にお伝えしておきたいことがあります。
今回の研究は、歯磨きをやめたり、回数を減らしたりすることを勧める研究ではありません。
被せ物の周囲には天然歯や歯肉があり、プラークを適切に取り除くことは引き続き重要です。研究で材料の表面変化が観察されたことと、患者さんが日常の清掃方法をどのように選ぶべきかは、分けて考えていきましょう。
4種類104試料を使った研究。対象は永久クラウンの材料
今回の研究を行ったのは、トルコのKaradeniz Technical Universityに所属するMuhammet Fatih Bulut氏とFatih Mehmet Korkmaz氏です[1]。
研究の正式タイトルは、Effect of toothbrushing abrasion on color stability and surface roughness of four permanent crown materials produced by additive and subtractive manufacturingです。
日本語では、「積層造形法と切削加工法によって製造された4種類の永久クラウン材料について、歯ブラシ摩耗が色調安定性と表面粗さに与える影響」という内容になります。
この研究は、人の口の中に装着した被せ物を追跡した臨床研究ではありません。歯科材料から作った試験片を使う、実験室研究(in vitro研究)です。
完成した被せ物ではなく、平らな試験片を使いました
研究者は、4種類のクラウン材料から平板状の試験片を作りました。厚さは約1mmです。
縦横の大きさは材料によって多少異なりますが、厚さは標準化されています。実際の歯の形をしたクラウンではなく、平らな試験片を使うことで、同じような条件で歯ブラシを接触させ、測定しやすくしています。
一方、実際の被せ物には曲面や溝、歯と接する部分、歯肉に近い部分などがあります。歯の形態によって歯ブラシの当たり方も変わります。
そのため、平板状の試験片で得られた結果を、そのまま実際のクラウンのすべての部位に当てはめることはできません。
材料① IPS e.max CAD
IPS e.max CADは、二ケイ酸リチウムガラスセラミックスのCAD/CAM材料です。
ガラスセラミックスは、無機質を主体とする歯科修復材料で、天然歯に近い色調や透明感を表現できることなどから、審美的な修復に使用されています。
二ケイ酸リチウムガラスセラミックスは、ガラス成分の中に特徴的な結晶構造を持っています。
今回の研究では、材料を切り出して結晶化処理を行い、表面を調整した後にグレーズ処理を施しました。グレーズとは、セラミックスの表面を焼成によって仕上げる方法の一つです。
材料② VITA Mark II
VITA Mark IIは、長石系セラミックスを使用したCAD/CAM材料です。同じガラスセラミックスの仲間でも、IPS e.max CADとは組成や内部の微細構造が異なります。
研究では試験片を切り出して研磨し、その後にグレーズ処理を行いました。
患者さんが普段ひとまとめに呼んでいる「セラミック」にも、さまざまな種類があるということです。一つのセラミックスで確認された結果が、すべてのセラミックスに共通するとは限りません。
材料③ Tetric CAD
Tetric CADは、レジン系コンポジットのCAD/CAMブロックです。
レジン系コンポジットは、樹脂成分と無機フィラーなどを組み合わせた材料です。無機フィラーとは、材料の機械的性質などを調整するために配合される粒子のことです。
セラミックスとは内部構造が異なるため、表面に力が加わったときの変化の仕方にも違いが生じる可能性があります。
今回の研究では、あらかじめ製造されたブロックから試験片を切り出し、機械研磨によって仕上げました。
なお、歯科では「ハイブリッドセラミック」という名称を見かけることがありますが、材料の分類や呼び方には注意が必要です。
レジン系CAD/CAM材料とセラミックスの違いについては、以前の院長コラム「歯科医師はCRだと知っている…それでも『ハイブリッドセラミック』と呼ばれるのはなぜか」でも詳しく解説しています。
材料④ VarseoSmile Crown Plus
VarseoSmile Crown Plusは、3Dプリンターで造形する永久クラウン用のハイブリッドレジンです。
今回の4材料のうち、3Dプリントによる積層造形法を使用した材料はこれだけでした。
研究では、厚さ50μmの積層条件で試験片を造形し、洗浄や追加の光硬化処理などを行ってから、機械研磨によって表面を仕上げています。
3Dプリントは、材料を層状に積み重ねるようにして形を作る製造方法です。一方、ほかの3材料は、あらかじめ製造されたブロックから削り出す切削加工法を用いています。
ただし、今回の研究は「全く同じ材料を3Dプリントと削り出しの2通りで作り、製造方法だけを比較した研究」ではありません。材料の組成も、最終的な仕上げ方法も異なっています。
そのため、3Dプリントという製造方法そのものの優劣を判断する研究ではないことに注意が必要です。

104試料はどのように分けられた?
今回の研究では、合計104個の試験片が用意されました。4材料について、それぞれ26試料です。
さらに各材料の26試料は、次の2つの独立した群に分けられました。
- 色の変化を調べる13試料
- 表面粗さを調べる13試料
つまり、色の評価に使った試料が合計52個、表面粗さの評価に使った試料が合計52個です。
104個すべてについて、色と粗さの両方を測定したわけではありません。
ここは今回の結果を理解するうえで非常に重要です。色と表面粗さは、それぞれ別の試料を使って評価しています。
したがって、一つの試料について「表面が粗くなったほど色も変わった」あるいは「粗さが増えても色は変わらなかった」という個別の関連性は検証できません。
今回示されたのは、各材料群において、色差の中央値が比較的小さい一方で、表面粗さには統計学的に有意な増加が見られたという結果です。

「約2年相当の歯磨き」は、どのように再現した?
今回の研究を紹介するうえで、もう一つ重要なのが「約2年相当」という表現です。
これは、被せ物を装着した患者さんを実際に2年間追跡したという意味ではありません。研究者が設定した条件で歯ブラシを当て、日常生活の一定期間に相当すると仮定した摩耗試験です。
使用したのは電動歯ブラシ
研究では、Oral-B Smart 6000という電動歯ブラシを使用しました。ブラシヘッドはCross Action Clean Maximizerです。
歯ブラシを専用の装置に固定し、試験片の一定の場所に接触するように設定しました。
主な実験条件は次のとおりです。
- ブラッシング時の荷重:約2N
- 電動歯ブラシの運動:約7,600回/分
- 1試料あたりの連続ブラッシング時間:60分
- 合計の往復回転運動:約456,000回
- 使用した歯磨剤:Colgate Total
- 歯磨剤と蒸留水の体積比:1対4
歯磨剤は蒸留水と混ぜた状態で使用しています。また、各試料には新しいブラシヘッドと、新しく調製した歯磨剤の混合液を使用しました。
ブラシヘッドの使用状態などによって試験条件が大きく変わらないようにするための工夫です。
荷重2Nとはどのくらい?
Nはニュートンという力の単位です。約2Nは、重力による力に換算すると、およそ200gの物体の重さに相当します。
ただし、これは実験装置に一定の荷重を加えるために設定された数値です。患者さんがすべての歯を2Nの力で磨くべきだという意味ではありません。
実際のブラッシングでは、使用する歯ブラシや毛先の当て方、歯肉の状態などによって適切な方法が異なります。
60分間がなぜ約2年相当になる?
研究者は、先行研究で使用された換算方法を採用しています。その考え方は、1つの修復物表面を1日に5秒間磨くという仮定です。
60分は3,600秒です。3,600秒を1日5秒で割ると、720日になります。720日は約2年です。
こうして、60分間の連続ブラッシングを約2年相当と表現しています。
ただし、この換算には「1つの修復物表面を毎日5秒間磨く」という前提があります。歯ブラシの運動回数も含めた負荷条件を、すべての患者さんの日常生活へそのまま置き換えることはできません。

実際の口の中の2年間とは違う
実際の歯磨きでは、患者さんによってブラシの種類、当てる角度、力、時間、歯磨剤などが異なります。
歯の表面には唾液由来の被膜が形成され、食事や飲み物による影響も加わります。さらに、温度変化、噛み合わせ、歯ぎしりなども、修復材料が置かれる環境に影響します。
今回の研究では、そうした条件をすべて再現したわけではありません。そのため、約2年相当という数字は、実験負荷を説明するための目安です。
実際に口の中で2年間使ったクラウンが、必ず今回と同じ変化を示すと証明されたわけではありません。
研究では「色」と「表面粗さ」をどう測定した?
今回の研究では、色と表面粗さを別々の装置で評価しました。どのように測定したのかを知ると、研究結果の数字も理解しやすくなります。
色は分光測色計で測定
色の測定には、VITA Easyshade Vという歯科用分光測色計が使用されました。
測定は標準化されたD65照明条件下で行われ、L*、a*、b*という3つの色座標が記録されました。
L*は明るさ、a*は赤と緑の方向、b*は黄色と青の方向を表します。
私たちが「少し黄色い」「白っぽい」「暗く見える」と感じる色も、研究ではこのような数値を使って評価することがあります。ただし、色の見え方は明るさや色の方向などを総合して決まるため、一つの色座標だけですべての違いを説明することはできません。
表面粗さは接触式の測定装置で調べた
表面粗さの測定には、Perthometer M2という接触式の測定装置が使われました。
試料表面の微細な凹凸を測定し、Raという数値で表しています。各試料について3か所を測定し、その平均値を試料のRaとして記録しました。
Raは、測定した表面輪郭の平均的な凹凸の程度を示す指標です。この数値が大きくなったからといって、同じ量だけクラウンの厚みが減ったことにはなりません。

ブラッシング後には洗浄して再測定
ブラッシング後の試料は、蒸留水ですすいでから10分間の超音波洗浄を行いました。その後、歯磨き前と同じ方法で色と表面粗さを測定しています。
今回の研究では、コーヒーや紅茶による着色試験などは組み合わせていません。
つまり、日常生活の中で起こるさまざまな変色をまとめて調べた研究ではなく、規定された歯ブラシ摩耗試験の前後で、材料の色と表面粗さがどう変わるかを評価した研究です。
被せ物の色はどれくらい変わった?ΔE00の結果
ここから、実際の研究結果を詳しく見ていきます。まずは色の変化です。
ΔE00は色の違いを表す指標
研究では、歯磨き前後の色差をCIEDE2000という計算方法で求めています。その結果をΔE00と表します。
ΔE00は、比較した2つの色の違いを数値化する指標です。一般に、数値が大きいほど色の違いが大きいことを示します。
ただし、ΔE00=1だから1%変色したという意味ではありません。また、ΔE00だけで、白くなったのか、黄色くなったのかという変化の方向を判断することもできません。
0.8と1.8という2つの目安
歯科の色差研究では、2015年にParavinaらが報告した知覚閾値と許容閾値がよく使用されます[2]。
この研究では、歯科医師、歯科学生、歯科医療補助職、歯科技工士、一般の人など、合計175人の観察者が歯科用セラミックスの色の違いを評価しました。
その結果、CIEDE2000による50:50%の知覚閾値は0.8、許容閾値は1.8と推定されました。
知覚閾値とは、色の違いを見分けられるかどうかを考えるための目安です。一方、許容閾値は、その色の違いを臨床的に受け入れられるかどうかを考えるための目安です。
「色の違いが分かること」と「その違いを許容できること」は同じではありません。
また、0.8未満なら絶対に誰にも分からない、1.8を超えたら全員が受け入れられない、という意味でもありません。観察する人や照明条件などによって判断は変わります。
4材料のΔE00中央値
今回の研究で報告された歯磨き前後のΔE00中央値は、次のとおりです。
- IPS e.max CAD:0.63
- VITA Mark II:0.67
- Tetric CAD:0.63
- VarseoSmile Crown Plus:0.71
4種類すべてで、中央値は知覚閾値の0.8を下回っていました。つまり、各材料の代表的な色差は、今回用いた知覚閾値より小さかったという結果です。
材料間で色差を比較したところ、p=0.238でした。通常用いられる5%の有意水準では、材料間の色差に統計学的な有意差は確認されていません。
数値だけを見るとVarseoSmile Crown Plusの中央値が最も大きくなっていますが、この結果から「3Dプリント製の被せ物は最も変色しやすい」と決めることはできません。

中央値は小さくても、色の変化が大きい試料はあった?
4材料すべての中央値が0.8未満だったからといって、すべての試料の色差が0.8未満だったわけではありません。ここは、今回の研究で見逃したくない部分です。
知覚閾値0.8を超えた試料
各材料13試料のうち、ΔE00が0.8を超えた数は次のとおりです。
- IPS e.max CAD:1試料
- VITA Mark II:2試料
- Tetric CAD:5試料
- VarseoSmile Crown Plus:6試料
合計すると、52試料中14試料です。割合にすると約26.9%になります。
中央値では小さな色差だった一方、個別に見ると知覚閾値を超える試料も存在していました。
ただし、この26.9%という数字は、実験室で評価した試料の割合です。約27%の患者さんが2年後に被せ物の変色を自覚するという意味ではありません。
許容閾値1.8を超えた試料
もう一つの目安である1.8を超えた試料はどうだったのでしょうか。
IPS e.max CADとVITA Mark IIでは0試料でした。Tetric CADでは1試料、VarseoSmile Crown Plusでは2試料でした。
合計52試料中3試料、約5.8%です。
なお、この3試料は、知覚閾値0.8を超えた14試料の中に含まれています。別々に14試料と3試料を足して17試料と数えるわけではありません。
今回の試験では色差が全体として比較的小さかったものの、一部には比較的大きな色の変化も認められたということです。

平均値と中央値でも印象は変わる
原著には中央値に加え、平均値も掲載されています。
例えば、Tetric CADのΔE00中央値は0.63でしたが、平均値は0.90でした。VarseoSmile Crown Plusでは、中央値0.71に対して平均値は0.91でした。
一部の試料で比較的大きな色差が認められると、平均値と中央値の関係が変わることがあります。研究結果を見るときには、代表値だけでなく、個々の試料にどの程度のばらつきがあるのかも重要です。
明るさや黄色方向にも変化が見られた
色の数値をさらに詳しく調べると、L*、a*、b*の一部に統計学的に有意な変化が見られました。
例えば、Tetric CADではL*中央値が85.6から85.4へ低下しました(p=0.027)。VarseoSmile Crown Plusでも88.4から88.1へ低下しました(p=0.004)。
L*が低下することは、測定上の明るさが小さくなる方向の変化です。
また、黄色と青の方向を表すb*については、VITA Mark IIでは8.5から8.7へ増加しました(p=0.036)。一方、Tetric CADでは9.6から9.0へ低下し(p=0.001)、VarseoSmile Crown Plusでは21.0から20.2へ低下しました(p=0.042)。
赤と緑の方向を表すa*についても、Tetric CADとVarseoSmile Crown Plusでは有意な変化が認められています。
ただし、これらの個別の色座標の変化を、そのまま「目で見て黄色くなった」「白くなった」と置き換えることはできません。人が感じる色の違いは、明るさや色の方向などを総合したものだからです。
実際、今回の研究では、一部の色座標に有意な変化がありながら、全体の色差ΔE00の中央値は4材料とも0.8未満でした。
統計学的に測定できる色座標の変化と、肉眼で認識できる色の違いは、同じ意味ではないのです。
材料自体の色の違いにも注意
今回の研究では、IPS e.max CAD、VITA Mark II、Tetric CADがA1 HT、VarseoSmile Crown PlusがA1 Dentinというシェードで準備されています。
そのため、ブラッシング前のL*、a*、b*に材料間の差があったとしても、それを材料の変色しやすさの順位として扱うことはできません。
また、今回調べたのは歯ブラシ摩耗前後の色差です。実際の口腔内では、コーヒーや紅茶などによる外来性の着色が加わることもあります。
材料自体の色調変化と、表面に付着するステインは分けて考える必要があります。
着色の原因や清掃方法については、以前の日誌「コーヒー・紅茶で歯が着色するのはなぜ?」でも詳しく紹介しています。

表面粗さは4材料すべてで有意に増加した
次に、今回の研究で特に重要な表面粗さの結果です。色差の中央値は4材料すべてで知覚閾値未満でしたが、表面粗さでは異なる結果が認められました。
Raとは何を表す数値?
Raは、表面の平均的な凹凸を評価する指標です。単位にはμm(マイクロメートル)を使用します。1μmは1mmの1,000分の1です。
歯科材料の表面にある非常に細かな凹凸を調べるため、このような小さな単位が使われます。
ただし、Raは表面輪郭の粗さを表す指標であり、材料の体積損失や質量減少そのものを示すものではありません。
IPS e.max CADの結果
ブラッシング前のRa中央値は0.09μmでした。ブラッシング後には0.16μmとなりました。
前後比較のp値は0.002で、統計学的に有意な増加が認められました。
二ケイ酸リチウムガラスセラミックスでも、今回の実験条件では表面粗さが増加したことになります。
VITA Mark IIの結果
ブラッシング前のRa中央値は0.09μmでした。ブラッシング後には0.18μmとなりました。
p=0.001で、有意な増加が認められました。こちらも、グレーズ処理されたセラミックスの表面が、今回の歯ブラシ摩耗試験によって変化したことを示しています。
Tetric CADの結果
ブラッシング前のRa中央値は0.12μmでした。ブラッシング後には0.21μmとなりました。
p=0.001で、有意な増加が認められました。
ブラッシング後の中央値は0.2μmを超えています。この0.2μmという数字については、後ほど細菌付着との関係を詳しく説明します。
VarseoSmile Crown Plusの結果
ブラッシング前のRa中央値は0.14μmでした。ブラッシング後には0.23μmとなりました。
p=0.001で、有意な増加が認められました。
4材料の中では、ブラッシング前後ともRa中央値が最も大きい値でした。ただし、最初からRa中央値が大きかったことにも注意が必要です。
ブラッシング後の数値が大きいことだけで、歯磨きによる増加量も最も大きいと決めることはできません。
4材料をまとめると
ブラッシング前後のRa中央値は、次のように変化しました。
- IPS e.max CAD:0.09→0.16μm
- VITA Mark II:0.09→0.18μm
- Tetric CAD:0.12→0.21μm
- VarseoSmile Crown Plus:0.14→0.23μm
4材料すべてで、統計学的に有意な増加が認められました。
さらに、ブラッシング後のRaの絶対値について材料間比較を行ったところ、p=0.001で有意差が認められています。
個別比較では、IPS e.max CADのRaはTetric CADより有意に小さく(p=0.020)、VarseoSmile Crown Plusよりも有意に小さい結果でした(p=0.012)。
ただし、これらの比較には、ブラッシング前から存在していた粗さの差や、材料の仕上げ方法の違いも関係します。そのため、ブラッシング後のRaの順位だけを使って、材料そのものの摩耗への強さをランキングすることは適切ではありません。

硬いセラミックスでも表面は変化する
セラミックスは一般に硬く、優れた機械的性質を持つ材料として知られています。しかし、硬いことは表面に全く変化が起こらないことを意味しません。
今回の試験では、グレーズ処理された2種類のセラミックスでもRaが増加しました。
ただし、今回の結果から、その増加が臨床的な問題になる程度だったのか、修復物の耐用年数に影響するのかまでは判断できません。
粗さの増加量に材料間の有意差はなかった。その意味は?
4材料すべてでRaは有意に増加しました。では、どの材料で粗さの増加が最も大きかったのでしょうか。
ここでは、ブラッシング後のRaそのものではなく、歯磨き前後の変化量に注目します。
増加量ΔRaを比較した結果
研究者は、各試料について歯磨き後のRaから歯磨き前のRaを引き、変化量をΔRaとして計算しています。
報告されたΔRa中央値は次のとおりです。
- IPS e.max CAD:0.06μm
- VITA Mark II:0.05μm
- Tetric CAD:0.07μm
- VarseoSmile Crown Plus:0.10μm
数値上はVarseoSmile Crown Plusが最も大きくなっています。
しかし、4材料間のΔRaを比較した結果はp=0.068でした。通常用いられる5%の有意水準では、統計学的な有意差は確認されていません。
有意差がないことは、全部同じという意味ではない
統計学的な有意差が確認されなかった場合、「材料の性能は全部同じだった」と考えたくなるかもしれません。しかし、これは正確ではありません。
有意差が検出されなかったことと、材料同士が同等であることを証明したことは違います。
今回の研究では、各材料の表面粗さ測定群は13試料でした。また、研究の試料数は、主に色差を評価することを想定した事前の検出力分析によって決められています。計算では、大きな効果量に相当する0.8を仮定していました。
そのため、表面粗さの小さな材料間差まで十分に検出できる設計だったかどうかは、別途考える必要があります。
原著でも、この研究は同等性を検証する試験ではないと説明されています。
今回の結果は「材料間のΔRaに有意差を確認できなかった」であり、「4材料の歯ブラシ摩耗に対する性能が等しいと証明された」ではありません。
前後の中央値を単純に引いた数字とも違う
少し専門的ですが、研究の数字を正確に読むために重要な点があります。
例えば、IPS e.max CADのRa中央値は0.09μmから0.16μmへ増加しました。単純に引くと0.07μmです。
しかし、原著に掲載されているΔRa中央値は0.06μmです。これは必ずしも矛盾ではありません。
歯磨き前の13試料の中央値と、歯磨き後の13試料の中央値を引いた値と、各試料の変化量を13個計算してその中央値を求めた値は、必ずしも一致しないからです。
今回の研究では、各試料で計算したΔRaの中央値を使用しています。研究の数字を比較するときには、何を計算したものなのかを確認することが大切です。

電子顕微鏡では、被せ物の表面に何が見えた?
今回の研究では、表面粗さの数値だけでなく、走査電子顕微鏡(SEM)による観察も行われました。SEMは、非常に細かな表面構造を観察するための装置です。
100倍と2,500倍で表面を観察
研究者は、各材料の表面粗さ測定群から1試料ずつを選び、ブラッシング前後の同じ領域を観察しています。倍率は100倍と2,500倍でした。
100倍では変化が比較的小さく見える一方、2,500倍では細かな傷や凹凸の違いがより明瞭に観察されました。
これは、肉眼で見る表面の印象と、材料研究で評価する微細な表面構造が同じではないことを理解するうえで、興味深い結果です。
セラミックスには細かな傷や不規則性
IPS e.max CADとVITA Mark IIでは、ブラッシング後に細かな傷や表面の不規則性が観察されました。
セラミックスは硬い材料ですが、今回の試験条件では表面の微細な状態に変化が生じたと考えられます。ただし、SEMで見えた傷の数や深さを、4材料について定量比較したわけではありません。
Tetric CADではフィラーの露出も観察
Tetric CADでは、ブラッシング後の代表画像に、樹脂マトリックスの摩耗とフィラーの露出が認められました。また、フィラーの脱落に関連すると考えられる微小な空隙も観察されています。
レジン系材料は樹脂成分と無機フィラーなどで構成されています。それぞれの成分の性質が異なるため、摩耗によって樹脂部分が変化すると、フィラーが露出したり、細かな凹みが生じたりする可能性があります。
ただし、今回のSEM画像だけで、その変化が材料全体にどの程度生じていたかまでは分かりません。
VarseoSmile Crown Plusでは凹みや不均一性
VarseoSmile Crown Plusでは、ブラッシング後に表面の凹みが目立ち、均一性が低下した様子が観察されました。
ただし、これも選ばれた1試料の代表的な結果です。「3Dプリントの被せ物は必ず表面に穴ができる」と一般化することはできません。
SEM画像は材料の優劣を決めるためのものではない
研究でSEM観察を行ったのは各材料1試料です。また、画像評価は盲検化されていませんでした。
SEM画像は、歯磨き後にどのような表面変化が生じたのかを理解するための定性的な資料として使用されています。
すべての試料について傷の数や深さを測り、材料間で統計的に比較したものではありません。そのため、SEM画像の見た目だけで材料の優劣を判断することは適切ではありません。

セラミックスとレジンでは、表面の傷み方が違う?
ここまで、4種類の材料について、色差や表面粗さの結果を紹介してきました。では、その違いは何によって起こるのでしょうか。
材料の内部構造が違う
セラミックスとレジン系コンポジットでは、内部の構造が異なります。
二ケイ酸リチウムガラスセラミックスには、ガラス成分と特徴的な結晶構造があります。長石系セラミックスにも、その材料固有の組成と微細構造があります。
一方、レジン系コンポジットは、樹脂マトリックスと無機フィラーなどを組み合わせて作られています。樹脂とフィラーでは、硬さや摩耗に対する反応が異なる場合があります。
そのため、機械的な力を繰り返し受けることで、表面に不均一な変化が生じる可能性があります。
レジン系材料では水分の影響も考えられる
原著の考察では、レジン系材料の水分吸収や加水分解などにも言及しています。
樹脂マトリックスに水分が取り込まれたり、樹脂とフィラーの界面に変化が生じたりすると、材料の性質や表面状態に影響する可能性があります。
また、フィラーと樹脂を結び付ける成分が劣化することで、フィラーの脱落や微小な空隙につながる可能性も考えられています。
ただし、今回の研究では、こうした化学的変化を直接測定していません。これらは、先行研究を踏まえて考えられる材料学的な仕組みです。
材料そのものの違いと、仕上げ方の違いを分離できない
今回の研究では、2種類のセラミックスにグレーズ処理が施されました。一方、Tetric CADとVarseoSmile Crown Plusには機械研磨が施されています。
つまり、材料の組成だけでなく、試験を始める時点での表面仕上げも異なっていました。
そのため、ブラッシング後の表面粗さに違いが認められたとしても、それが材料の組成によるものなのか、仕上げ方法によるものなのかを明確に分離することはできません。
これは、今回の研究で著者ら自身が挙げている重要な限界です。

3Dプリント製クラウンが最も弱いと証明されたわけではない
VarseoSmile Crown Plusは、今回の4材料の中でブラッシング後のRa中央値が最も大きい値でした。しかし、歯磨き前のRa中央値も最も大きい値でした。
また、ほかの材料とは組成も仕上げ方も異なり、3Dプリント材料は1種類しか調べられていません。
そのため、今回の研究から「3Dプリント製クラウン全体の表面耐久性は切削加工品より劣る」と結論づけることはできません。
材料を評価するときには、単に「セラミック」「レジン」「3Dプリント」という名称だけでなく、具体的な材料名、組成、製造方法、表面仕上げを確認することが重要です。
色があまり変わらなくても、ツヤが変わることはある?
ここで、今回の研究から少し視野を広げてみましょう。被せ物の見た目を考えるときには、色だけでなく表面のツヤも気になるところです。
しかし、色と光沢は同じものではありません。
色・表面粗さ・光沢は別々の指標
色の違いは、材料から反射・透過する光の性質などに関係します。表面粗さは、材料表面の微細な凹凸を数値化したものです。光沢は、表面で光がどのように反射するかに関係する性質です。
表面が滑らかになると、光の反射の仕方が変わる場合があります。反対に、細かな傷や凹凸が増えることで、光沢の見え方が変化する可能性もあります。
そのため、色差が比較的小さくても、別の条件では光沢に変化が生じることがあります。

2021年のCAD/CAM材料研究
de Andradeらは、2021年に5種類のCAD/CAM修復材料を用い、人工的なブラッシングが表面粗さ、光沢、摩耗に与える影響を検討しました[5]。
各材料15試料、合計75試料を用意し、100,000ストロークのブラッシングを行っています。
この研究では、表面粗さRaと光沢GUとの間に強い負の相関が認められました。相関係数はr=−0.925でした。
つまり、調べた条件では、表面粗さが大きいほど光沢が小さい傾向があったということです。ただし、相関が認められたことと、表面粗さだけが光沢の変化を決定することは同じではありません。
2025年のジルコニア研磨研究
Kochらは、4Y-TZPと5Y-TZPという2種類のジルコニアについて、研磨方法や回転速度、研磨回数などを変えて評価しました[6]。
その結果、研磨によって表面粗さが減少し、光沢が増加する傾向が認められました。一方、色の測定値にも変化が認められています。
この研究からは、表面を滑らかにすることと、元の色を完全に維持することは、必ずしも同じではないと分かります。
なお、この研究で使用された表面粗さの指標にはSaなどがあり、今回の主論文のRaとは測定方法が異なります。また、色差の計算方法も異なるため、両研究の数値をそのまま比較することはできません。
見た目にツヤがあっても、細かな傷が残ることがある
2025年の日本補綴歯科学会誌には、伴清治氏による「対合歯の摩耗を考える」という依頼論文が掲載されています[7]。
この論文では、ジルコニアの表面仕上げと摩擦・摩耗の関係が詳しく説明されています。
特に興味深いのは、肉眼ではある程度の光沢があり、十分に研磨されているように見える面でも、電子顕微鏡では研磨傷が確認される場合があるという点です。
適切な鏡面研磨によって表面を滑らかに仕上げることは、咬み合う天然歯への影響を考えるうえでも重要とされています。
ただし、この論文で主に扱っているのは、噛み合わせによる摩擦と対合歯の摩耗です。今回の歯ブラシ摩耗とは異なる現象なので、同じものとして扱うことはできません。
ジルコニアのグレーズと研磨、咬合調整後の仕上げについては、院長コラム「ジルコニア表面はグレーズより研磨?対合歯摩耗と咬合調整後の仕上げを徹底検証」で詳しく解説しています。
今回の104試料研究では光沢を測定していない
ここで主論文に戻りましょう。今回の研究で評価したのは、色差、表面粗さ、SEMによる表面形態です。光沢を直接測定したわけではありません。
したがって、今回の研究で表面粗さが増加したことを根拠に、「4材料すべてでツヤが落ちた」と断定することはできません。
ただし、関連研究を合わせて考えると、色、表面粗さ、光沢を別々に評価する意味が理解できます。
表面が粗くなると、歯垢や虫歯菌が付きやすくなる?
被せ物の表面に細かな凹凸が増えると、その部分に細菌が付着しやすくなるのではないかと心配になるかもしれません。
実際、歯科修復材料の表面粗さと細菌付着の関係は、以前から研究されてきました。ただし、表面粗さの数値から実際の虫歯や歯周病の危険性を判断するには注意が必要です。
Ra 0.2μmという数値はどこから来た?
1997年、Bollenらは、口腔内の硬い材料の表面粗さとプラーク保持について文献レビューを発表しました[3]。
このレビューでは、Ra約0.2μmという数値が一つの目安として示されています。その後、歯科材料の研究では、この数値が表面粗さを考える際にしばしば引用されるようになりました。
しかし、0.2μmは絶対的な安全・危険の境界ではありません。Raが0.2μm以下なら細菌が全く付着しないという意味でも、0.2μmを超えた瞬間に歯垢が急増するという意味でもありません。
今回は52試料中20試料が0.2μmを超えた
今回の原著では、ブラッシング後のRaが0.2μmを超えていた試料数も報告されています。
- IPS e.max CAD:13試料中1試料
- VITA Mark II:13試料中3試料
- Tetric CAD:13試料中7試料
- VarseoSmile Crown Plus:13試料中9試料
合計52試料中20試料、約38.5%でした。これは、今回の試験条件下でRaが0.2μmを超える試料が一定数存在したことを示しています。
ただし、VarseoSmile Crown Plusでは、ブラッシング前の時点でRaが0.2μmを超える試料もありました。そのため、0.2μmを超えた結果をすべて歯磨きによって初めて生じた変化と扱うこともできません。
また、この約38.5%という数字は実験室の試料の割合であり、患者さんにおける虫歯や歯周病の発生率ではありません。

2018年の系統的レビューでは?
2018年には、Dutraらが、修復材料の仕上げと研磨が細菌付着やバイオフィルム形成に与える影響を検討した系統的レビューを発表しています[4]。
研究者は2,882件の候補文献から18研究を採用しました。その内訳は、実験室研究12件、口腔内に試料を設置する研究4件、臨床試験2件でした。
しかし、研究間で材料や測定方法が大きく異なり、バイアスリスクが低いと判定された研究は2件だけでした。11研究は高リスク、5研究は中程度のリスクと評価されています。
このレビューでは、表面粗さと細菌付着の関係を、単一の閾値だけで考えるのではなく、一定の粗さの範囲や材料の性質、研磨条件などを踏まえて考える必要があるとされています。
つまり、Raという一つの数値だけで細菌付着を完全に予測することはできないということです。

表面粗さ以外にも関係する要因がある
細菌が材料表面に付着する過程には、表面粗さだけでなく、材料の性質、表面の化学的状態、唾液由来の被膜、細菌の種類などが関係します。
さらに、実際の口腔内では、患者さん自身の清掃習慣、飲食物、唾液の状態なども影響します。歯垢が付着したとしても、それがどの程度残り、虫歯や歯肉の炎症につながるのかは、さらに別の問題です。
今回の研究では細菌を直接調べていない
今回の104試料研究では、細菌の付着量やバイオフィルム形成量を直接測定していません。患者さんの虫歯や歯肉炎、歯周病の発生も調べていません。
そのため、今回の研究から直接言えるのは、規定のブラッシング条件によって表面粗さが増加したということです。その変化が実際の口腔内で細菌付着や病気の発生にどの程度影響するかは、別の研究によって確認する必要があります。
表面の平滑性は重要な評価項目ですが、Raが0.2μmを超えたという数字だけで、患者さんの病気の危険性を判断することはできません。
ホワイトニング歯磨剤は被せ物を傷めやすい?
今回の研究を読むと、歯磨剤の選び方が気になる方もいるかもしれません。特に、着色を落とすことを目的とした歯磨剤について、「研磨成分が多いと被せ物が削れるのでは?」と心配になることがあります。
歯磨剤の研磨成分には役割がある
歯磨剤に含まれる清掃・研磨成分は、歯面の汚れや外来性着色を除去するために利用されます。
ただし、研磨作用は単に成分の量だけで決まるものではありません。粒子の硬さ、大きさ、形状、濃度、歯磨剤全体の処方など、さまざまな要因が関係します。
また、歯ブラシの種類やブラッシング圧によっても、材料表面に加わる機械的な負荷は変わります。
RDAはクラウンの摩耗を直接表す数値ではない
歯磨剤の研磨性を示す指標の一つにRDAがあります。RDAはRelative Dentin Abrasivityの略で、象牙質に対する相対的な研磨性を評価する指標です。
今回の主論文では、使用したColgate Totalについて、文献上の参考RDA値70が記載されています。
しかし、RDAはセラミックスやCAD/CAMレジンなどのクラウン材料の摩耗量を直接表す数値ではありません。
例えば、RDAが2倍の歯磨剤を使用した場合に、あらゆるクラウン材料の摩耗が必ず2倍になるという意味ではありません。

2023年の研磨剤研究
Enaxらは2023年に、歯磨剤の研磨粒子量と摩耗について研究しています[8]。
この研究では、PMMAという樹脂系の試料表面を用い、含水シリカの配合量を変えたモデル歯磨剤や市販歯磨剤を比較しました。
モデル処方では、含水シリカの割合が増えることに伴い、表面の粗さや体積損失などの摩耗指標が増加する傾向が認められました。
ただし、調べたのはPMMAを用いた実験モデルであり、今回の4種類の永久クラウン材料ではありません。また、PMMAは天然歯の象牙質とも異なります。
そのため、この研究の結果から、市販の特定の歯磨剤がすべての被せ物をどのくらい摩耗させるかを判断することはできません。
なお、この研究には歯磨剤関連企業Dr. Kurt Wolff社の研究部門に所属する著者が含まれています。 著者らは論文で利益相反なしと申告していますが、企業との関係も含めて研究背景を確認することは大切です。企業所属というだけで結果を否定せず、実験条件と測定項目を踏まえて解釈します。
ホワイトニング歯磨剤だから必ず危険とはいえない
ホワイトニングをうたう歯磨剤にも、さまざまな製品があります。外来性の着色を除去するために研磨成分を利用するものもあれば、別の成分を組み合わせて清掃性などを調整しているものもあります。
そのため、ホワイトニング歯磨剤という名称だけで、すべての製品が被せ物を傷めやすいと決めることはできません。反対に、どのような製品でも被せ物に全く影響しないと断定することもできません。
研磨剤なしなら安心?
研磨剤が入っていない歯磨剤を選べば、すべての問題が解決するのでしょうか。そう単純ではありません。
歯磨剤には、汚れの除去、フッ化物による虫歯予防、使用感など、複数の役割があります。
研磨剤を含まないことと、汚れをどのくらい除去できるか、フッ化物がどのように残るか、クラウン表面にどの程度影響するかは、それぞれ別の評価項目です。
広島大学の研究を中心に、研磨剤とフッ化物保持の関係を検討した「研磨剤なしの歯磨き粉はフッ素が長く残る?成人7人で調べた広島大学の研究を読み解く」でも、歯磨剤の一つの特徴だけで製品全体の優劣を決めることの難しさを紹介しています。
歯磨剤選びは何を重視すればよい?
患者さんによって、虫歯リスク、歯肉の状態、知覚過敏の有無、着色の悩み、使用している修復材料などは異なります。
そのため、歯磨剤は「研磨剤入りか、研磨剤なしか」という一つの条件だけで選ぶものではありません。フッ化物配合の有無や濃度、使い方、清掃の目的、口腔内の状態などを合わせて検討することが大切です。
また、被せ物の表面に変化がある場合には、歯磨剤を変更する前に、その原因を確認したほうがよいこともあります。
電動歯ブラシは被せ物に使っても大丈夫?
今回の研究で電動歯ブラシが使われたと聞くと、手用歯ブラシよりも被せ物を傷めるのではないかと心配になるかもしれません。しかし、今回の研究はその疑問に直接答えたものではありません。
電動歯ブラシと手用歯ブラシを比較した研究ではない
今回の主論文では、すべての試料に同じ種類の電動歯ブラシを使用しています。手用歯ブラシで磨いた比較群は設けられていません。
そのため、今回の結果から「電動歯ブラシのほうが被せ物を傷めやすい」と判断することはできません。また、「手用歯ブラシなら表面粗さが増加しない」ともいえません。
今回確認されたのは、特定の電動歯ブラシと歯磨剤の条件下での材料表面の変化です。
歯ブラシは種類だけでなく使い方も重要
日常の歯磨きでは、ブラシの種類だけでなく、毛先の当て方や押しつける力も重要です。
力を入れすぎれば、毛先が広がって清掃したい場所にうまく当たらなくなる場合があります。反対に、弱い力で当てていても、必要な場所に毛先が届いていなければ十分な清掃にはなりません。
大切なのは、歯面や歯肉の状態に合わせて、毛先を適切に当てることです。
電動歯ブラシを使うときに気を付けたいこと
電動歯ブラシは製品によって動作方式や使用方法が異なります。そのため、すべての電動歯ブラシに共通する一つの動かし方があるわけではありません。
使用する機種の説明に従い、過度に押しつけず、清掃したい歯面や歯肉との境目へ適切に当てることが大切です。
被せ物がある場合も、クラウン表面だけでなく、周囲の天然歯や歯肉との境目に磨き残しがないか確認する必要があります。
電動歯ブラシの具体的な当て方や動かし方については、「電動歯ブラシの正しい使い方|歯ぐきを傷めない押しつけ方・当てる角度・動かし方」で詳しく説明しています。

被せ物の表面がざらついたら、磨き直したほうがいい?
ここまで、実験室で測定された微細な表面変化について紹介してきました。では、実際に使っている被せ物の表面がざらついているように感じた場合、どのように考えればよいのでしょうか。
Raが増加しても、舌で分かるとは限らない
今回の研究では、専用の測定装置を使用してRaを評価しています。患者さんの舌や指で、どの程度の表面変化を感じ取れるかは調べていません。
そのため、今回のRa増加が実際の患者さんに違和感を生じさせるかどうかは分かりません。Raが0.2μmを超えたら必ず舌でざらつきを感じる、という意味でもありません。
ざらつきには複数の原因がある
実際に被せ物の表面がざらついていると感じる場合、その原因は一つとは限りません。
例えば、外部から付着した歯石や着色、表面仕上げの状態、細かな欠け、材料の破損、被せ物と天然歯の境目など、さまざまな可能性があります。
特に、急に引っかかるようになった場合や、舌が傷つく場合、フロスがほつれたり切れたりする場合には、状態を確認することが大切です。
研磨で改善できる場合もある
被せ物の材料や表面状態によっては、歯科医院で専用の研磨器具を用いて表面を整えられる場合があります。ただし、すべての材料に同じ研磨方法が適しているわけではありません。
また、表面に欠けや亀裂がある場合、修復物の適合に問題がある場合、二次う蝕が疑われる場合には、研磨だけで対応できないこともあります。
今回の研究でRaが増加したからといって、そのようなクラウンはすべて交換すべきだという結論にはなりません。
歯科医院でのクリーニングにも材料への配慮が必要
歯科衛生士が行う専門的な清掃では、歯や歯肉だけでなく、修復物の種類や表面状態にも注意を払います。
使用する器具や研磨材、清掃方法によって、材料表面に与える影響が異なる可能性があるためです。
ただし、専門的なクリーニングと、患者さんが毎日行う歯磨きは、目的も器具も条件も異なります。今回の電動歯ブラシの摩耗試験から、歯科医院で使用するすべての清掃方法の安全性を判断することはできません。
被せ物の表面に異常が疑われる場合には、材料や状態に応じて適切な対応を検討することが重要です。

被せ物を長く使うためには、表面の傷以外にも注意が必要
今回の研究は、クラウン材料の微細な表面変化に注目したものです。しかし、実際に被せ物を長く使うことを考えると、表面の状態だけでなく、周囲の天然歯や歯肉の状態も重要です。
被せ物そのものと、土台の天然歯は違う
セラミックスやレジン製のクラウンそのものが、天然歯と同じように虫歯になるわけではありません。しかし、クラウンの下や周囲には、もともとの天然歯が残っている場合があります。
その天然歯は、虫歯の影響を受ける可能性があります。また、被せ物の周囲にプラークが残りやすい場合には、歯肉の炎症につながることもあります。
つまり、クラウンの表面がきれいに見えることだけでは、歯全体が健康だとは判断できません。
206修復物を約10年間追跡した別の研究
ここで、2026年10月19日にBMC Oral Healthへ発表された、Zhouらの研究を紹介します[9]。
この研究では、根管治療済みの歯に装着された206個のCAD/CAMオールセラミック修復物について、約10年後の状態が調べられました。対象は186人の患者さんです。
研究で定めた基準による臨床的成功率は85.92%でした。206修復物のうち177個が成功、29個が失敗と判定されています。
失敗と判定された29修復物には、延べ34件の問題が記録されていました。そのうち、二次う蝕が13件(34事象中38.24%)、脱離や接着の喪失が12件(34事象中35.29%)でした。
この研究からも、修復物に関する問題は、材料そのものの破折だけではないことが分かります。
なお、解析対象の206修復物は、研究の選択・除外基準を満たし、約10年後の評価を受けた症例に限られます。 したがって、85.92%という成功率を、すべてのセラミック修復物に共通する10年成功率として扱うことはできません。
10年後の虫歯リスクとの関連
Zhouらの研究では、約10年後の診察時に評価された虫歯リスクと、修復物の状態との関連も調べられました。
低リスク群の成功率は89.19%、中リスク群は89.34%、高リスク群は74.47%でした。高リスク群では、中リスク群と比べて修復物の臨床的成功率が低い結果でした。
ただし、虫歯リスクを評価したのは修復物を装着する前ではなく、約10年後の診察時です。
そのため、装着前から虫歯リスクが高かったことが、修復物の失敗を引き起こしたと証明した研究ではありません。また、定期的なメンテナンスによって成功率が何%改善するかを直接調べたものでもありません。
この点は、研究結果を患者さんへ伝える際に区別する必要があります。
歯ブラシ摩耗の研究とは目的が違う
Zhouらの研究は、実際に装着された修復物の長期的な臨床経過を調べた研究です。一方、今回のBulut・Korkmazらの研究は、実験室でクラウン材料の表面粗さと色差を測定した研究です。
研究対象も評価した指標も異なります。したがって、今回のRa増加が、10年追跡研究で見られた二次う蝕や脱離を引き起こしたと証明されたわけではありません。
ただし、両研究を合わせて読むことで、被せ物の状態を考える際には、材料表面だけでなく、残っている天然歯や修復物の適合状態なども重要であることが理解できます。
長期成績の詳しい解説は、院長コラム「セラミックの歯は10年もつ?206本の追跡で見えた成功率85.92%と虫歯リスク」をご覧ください。
被せ物と天然歯の境目を清掃する
日常のケアでは、被せ物の表面だけでなく、天然歯との境目にも注意が必要です。
特に、歯肉に近い部分や歯間部は、歯ブラシだけでは清掃しにくい場合があります。適切なデンタルフロスや歯間ブラシを使用することで、歯ブラシが届きにくい場所のプラーク除去を補うことができます。
ただし、歯間ブラシは歯と歯の隙間の大きさに合ったものを使う必要があります。無理に太い歯間ブラシを通すことは避け、清掃方法が分からない場合には歯科医院で確認するとよいでしょう。
メンテナンスで確認したいこと
被せ物がある方のメンテナンスでは、クラウンの表面だけを見ているわけではありません。例えば、次のような点を確認します。
- 被せ物の周囲にプラークが残っていないか
- 歯肉に発赤や腫れ、出血がないか
- 被せ物と天然歯の境目に異常が疑われないか
- 歯間部の清掃ができているか
- 表面に欠けや明らかなざらつきがないか
- 患者さんが使用している歯ブラシや歯磨剤は適切か
- 必要に応じて歯科医師による診査や追加検査につなげるべき状態がないか
これらは、被せ物を含めた口腔内の状態を総合的に把握するための項目です。
もちろん、毎回すべての項目を同じ方法で評価するわけではありません。患者さんの症状、使用している修復物、歯肉や天然歯の状態などに応じて、必要な確認を行います。

今回の研究で分かったこと、まだ分からないこと
ここまで、今回の104試料研究と関連する文献を紹介してきました。最後に、科学的に確認されたことと、今後の研究が必要なことを整理します。

確認されたこと① 4材料すべてで表面粗さが増加した
今回の規定されたブラッシング条件では、IPS e.max CAD、VITA Mark II、Tetric CAD、VarseoSmile Crown Plusの4材料すべてでRaが有意に増加しました。これは実際に測定された結果です。
確認されたこと② 色差の中央値は知覚閾値未満だった
4材料のΔE00中央値は0.63〜0.71で、いずれも知覚閾値0.8を下回りました。
ただし、52試料中14試料では0.8を超え、3試料では1.8を超えています。代表的な値が小さかったことと、すべての試料で色の変化が小さかったことは同じではありません。
確認されたこと③ 材料間のΔRaには有意差が検出されなかった
表面粗さの増加量ΔRaの材料間比較はp=0.068でした。ただし、これは材料の性能が完全に同じであることを証明したものではありません。
まだ分からないこと① 色と粗さの変化は同じ試料で関連していた?
今回の研究では、色と粗さを別々の試料群で測定しています。そのため、一つの試料について、Raが大きく増加するほどΔE00も大きくなるかどうかは直接検証できません。
今回示されたのは、各材料群について、色差の中央値が比較的小さい一方で表面粗さが有意に増加したという結果です。
まだ分からないこと② 実際に歯垢や細菌が増えた?
今回の研究では、細菌付着やプラーク量を直接測定していません。Raの増加から、実際の細菌付着量の変化を計算することもできません。
まだ分からないこと③ クラウンの寿命が短くなった?
今回の研究では、クラウンの破折、脱離、二次う蝕、再治療、交換などを評価していません。また、実際の口腔内で長期間使用したクラウンを追跡していません。
そのため、表面粗さが増加したことから、クラウンの耐用年数を推定することはできません。
まだ分からないこと④ 3Dプリントと削り出しのどちらが優れる?
研究で比較した材料は、製造方法だけでなく、組成や表面仕上げも異なっています。3Dプリント材料は1種類だけでした。
そのため、製造方法そのものの優劣を判断するには、条件をさらにそろえた研究が必要です。
まだ分からないこと⑤ すべての歯ブラシや歯磨剤でも同じ結果になる?
今回使用したのは、特定の電動歯ブラシ、ブラシヘッド、歯磨剤です。手用歯ブラシと比較したわけではなく、さまざまな歯磨剤の研磨性を直接比較したわけでもありません。
別の条件では、異なる結果が得られる可能性があります。
まだ分からないこと⑥ 実際の口の中で2年後も同じ変化が起きる?
今回の研究は60分間の加速摩耗試験です。唾液由来の被膜、食事による影響、温度変化、着色、噛み合わせ、歯ぎしり、長期間の化学的劣化などを十分に再現していません。
そのため、患者さんが2年間使用したクラウンと同じ結果になるとは限りません。
今後はどのような研究が必要?
今後は、実際の口腔内で使用されたクラウンについて、表面粗さ、光沢、色の変化、プラーク付着、歯肉の状態、破折や交換の有無などを長期間調べる研究が必要です。
また、同じ材料で表面仕上げだけを変えたり、同じ組成の材料を異なる製造方法で作ったりする比較も重要になります。
今回の研究は、永久クラウン材料の歯ブラシ摩耗について、新しい比較データを示した研究として位置付けるのが適切でしょう。
歯科衛生士さんからひとこと|被せ物を大切にするなら、歯磨きを減らさないで
今回の研究を読んで、私が特に大切だと感じるのは、「見た目が変わっていなくても、材料の表面では微細な変化が起きている可能性がある」という点です。
普段、被せ物の色や形が変わっていないと、特に問題がないように思えるかもしれません。しかし、歯科材料を詳しく調べると、肉眼では分かりにくい変化が測定されることがあります。
一方で、その微細な変化が、すぐに患者さんの健康上の問題につながるとは限りません。今回の研究も、表面粗さの増加を確認したものの、実際のプラーク付着や虫歯、クラウンの寿命への影響までは証明していません。
では、患者さんは毎日の歯磨きをどのように考えればよいのでしょうか。
歯磨きを減らさないこと
被せ物の表面の変化を心配して、歯磨きの回数を減らす必要はありません。
クラウンの周囲に天然歯が残っている場合、その歯は虫歯になる可能性があります。歯肉にもプラークによる炎症が起こることがあります。
そのため、日常の適切な歯磨きは引き続き重要です。
フッ化物配合歯磨剤を適切に使うこと
日本の4学会合同の2023年の提言では、6歳以上の人について、日本の製品状況を踏まえ1,400〜1,500ppmFのフッ化物配合歯磨剤を使用し、就寝前を含めて1日2回の歯磨きを行う方法が示されています[10]。
使用量の目安は、歯ブラシの植毛部全体に相当する1.5〜2cm程度です。歯磨き後は軽く吐き出し、うがいをする場合には少量の水で1回とされています。
ただし、年齢や口腔内の状態、誤嚥の危険性などによって、個別の配慮が必要になる場合があります。
この推奨は今回の歯ブラシ摩耗実験から導き出されたものではなく、虫歯予防に関する別の研究や専門学会の検討に基づくものです。
強く磨くことより、適切に毛先を当てること
歯磨きでは、力を入れれば入れるほどよく汚れが落ちるわけではありません。必要な場所へ毛先を当て、適切な方法で清掃することが大切です。
特に被せ物がある場合には、クラウンの表面だけでなく、天然歯との境目や歯間部の清掃にも注意しましょう。
被せ物の変化を自分だけで判断しないこと
被せ物の表面がざらつく、欠けたように感じる、フロスが引っかかる、歯肉が腫れるなどの変化があれば、歯科医院で確認することをおすすめします。
原因によって対応は異なります。表面の研磨で対応できる場合もあれば、別の処置が必要になる場合もあります。微細な傷だけで被せ物を交換する必要があるとは限りません。
被せ物と、その周りの天然歯を一緒に守る
今回の研究では、約2年相当と仮定したブラッシングによって、4種類のクラウン材料すべてで表面粗さが増加しました。
一方、色差の中央値は比較的小さく、各材料群で見た色の変化と表面粗さの変化は、同じような結果にはなりませんでした。
これは、歯科材料の性質を考えるうえで興味深い結果です。ただし、実際の患者さんにとって最も大切なのは、表面粗さの数字だけではありません。
被せ物の周囲にプラークを残さないように、毎日の清掃を続けること。必要に応じて、歯磨き方法や歯磨剤の選び方を確認すること。そして、被せ物だけでなく、土台の歯や歯肉の状態も一緒に見ていくことです。
見た目がきれいでも、材料の表面には微細な変化が起きていることがあります。でも、だからといって歯磨きをやめる必要はありません。
被せ物も、その周りの歯も、どちらも大切にできるように。毎日の歯磨きと歯科医院でのメンテナンスを、これからも続けていきましょう。

よくある質問(FAQ)
Q1.セラミックの被せ物も毎日歯磨きしたほうがいいですか?
はい。被せ物がある場合も、適切な歯磨きは必要です。
今回の研究では、セラミックスを含む4種類の永久クラウン材料について、歯ブラシ摩耗後の表面粗さが増加しました。しかし、この結果は歯磨きを減らすべきという意味ではありません。
被せ物の周囲には天然歯や歯肉があり、プラークコントロールが重要です。過度な力を避け、必要な部位に毛先を適切に当てることを意識しましょう。
Q2.電動歯ブラシを使うと、被せ物が削れやすくなりますか?
今回の研究だけでは分かりません。
研究では電動歯ブラシを使用しましたが、手用歯ブラシとの直接比較は行っていません。そのため、電動歯ブラシのほうが摩耗を起こしやすい、あるいは手用歯ブラシのほうが安全とは判断できません。
歯ブラシの種類だけでなく、毛先の当て方、押しつける力、歯磨剤なども考慮する必要があります。
Q3.ホワイトニング歯磨剤はセラミックやCAD/CAM冠に使えますか?
ホワイトニング歯磨剤という名称だけで、すべての製品が被せ物を傷めやすいとはいえません。
歯磨剤の研磨性は、粒子の種類や大きさ、量、製品全体の処方などによって異なります。また、使用しているクラウンの材料や表面仕上げによっても、影響が変わる可能性があります。
着色の悩みがある場合には、使用中の修復物や口腔内の状態を踏まえ、適切な製品や清掃方法を確認するとよいでしょう。
Q4.被せ物がざらついていたら、研磨や交換が必要ですか?
必ずしも交換が必要とは限りません。
表面がざらつく原因には、歯石や着色の付着、表面の傷、欠け、修復物の境目など、さまざまなものがあります。材料や状態によっては研磨などで対応できる場合もありますが、不適合や二次う蝕、破折などがあれば別の対応が必要になることもあります。
自己判断で表面を削ったり磨いたりせず、歯科医院で原因を確認しましょう。
Q5.被せ物の表面が粗いと、虫歯になりやすいですか?
表面粗さは、細菌付着やプラーク保持を考えるうえで重要な指標の一つです。
しかし、今回の研究では実際の細菌付着量や虫歯の発生を調べていません。そのため、表面粗さが増加したことから、直ちに虫歯になりやすくなったとは判断できません。
虫歯や歯周病のリスクには、清掃状況、食習慣、唾液、フッ化物の利用、天然歯や歯肉の状態など、さまざまな要因が関係します。被せ物の表面の数値だけで判断せず、口腔内全体の状態を考えることが大切です。
参考文献
[1]Bulut MF, Korkmaz FM. 2026. Effect of toothbrushing abrasion on color stability and surface roughness of four permanent crown materials produced by additive and subtractive manufacturing. BMC Oral Health. Published October 14, 2026. https://doi.org/10.1186/s12903-026-10204-w
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[3]Bollen CML, Lambrechts P, Quirynen M. 1997. Comparison of surface roughness of oral hard materials to the threshold surface roughness for bacterial plaque retention: a review of the literature. Dental Materials. 13(4):258–269. https://doi.org/10.1016/S0109-5641(97)80038-3
[4]Dutra D, Pereira GKR, Kantorski KZ, Valandro LF, Zanatta FB. 2018. Does finishing and polishing of restorative materials affect bacterial adhesion and biofilm formation? A systematic review. Operative Dentistry. 43(1):E37–E52. https://doi.org/10.2341/17-073-L
[5]de Andrade GS, Augusto MG, Simões BV, et al. 2021. Impact of simulated toothbrushing on surface properties of chairside CAD-CAM materials: An in vitro study. Journal of Prosthetic Dentistry. 125(3):469.e1–469.e6. https://doi.org/10.1016/j.prosdent.2020.08.028
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本記事は2026年10月31日までに公表された研究資料に基づいて作成しています。中心となるBulut・Korkmazらの研究は、2026年10月14日に公開された査読済み早期公開版です。研究結果は特定の材料と実験条件におけるものであり、個々の患者さんの診断、修復物の寿命、治療方法を直接決定するものではありません。
