2026年10月01日

(院長の徒然コラム)

はじめに
ジルコニアの被せ物をセットするとき、最後に必ず確認するものの一つが「噛み合わせ」です。
患者さんに咬合紙を噛んでもらい、強く当たっている部分を確認します。
「ここが少し高いですね」
そう言って、ジルコニアの咬合面をほんの少し削る。もう一度噛んでもらう。必要ならさらに微調整する。
高さが合えば、そこで咬合調整は終わったように見えます。
しかし、実はもう一つ大事な仕事が残っています。
いま削ったジルコニアの表面を、そのまま患者さんの口の中へ残してよいのでしょうか。
今回扱うのは、主としてモノリシックジルコニア冠の咬合面です。
ジルコニアの上に別の前装陶材を盛った補綴物ではなく、ジルコニアそのものが咬合面を構成し、対合歯と直接接触するタイプを中心に考えます。
ジルコニアは非常に硬く、摩耗しにくい材料です。だからこそ、咬合調整で作った細かな傷や凹凸を残してしまえば、その硬い凹凸が長期間、対合歯と接触し続けることになります。
一方、ジルコニアには「グレーズ」と呼ばれる、表面へ光沢を与える処理もあります。
では、咬合調整したジルコニアはグレーズした方がよいのでしょうか。
それとも、ジルコニアそのものを十分に研磨した方がよいのでしょうか。
さらに、研磨するとしたら、どこまで行えば「研磨終了」なのでしょうか。
今回は、2024年、2025年、そして2026年の新しい研究まで含め、ジルコニア表面の仕上げ、対合歯摩耗、グレーズ膜の経時変化、そして実際のチェアサイド研磨まで掘り下げてみます。
今回のテーマは「ジルコニアは硬いから歯を削る?」ではありません
以前のコラム「セラミックス(ジルコニア)は対合歯を摩耗させるのか?:硬さと摩耗の関係性」では、「ジルコニアは非常に硬いから、反対側の天然歯を削りやすい」という説明が、そのまま正しいのかを取り上げました。
結論を簡単に振り返ると、対合歯摩耗は材料の硬さだけでは決まりません。
表面粗さ、摩擦、微細構造、接触面積、滑走方向、咬合力なども関係します。
2025年の伴清治先生の総説でも、鏡面研磨されたジルコニアは低い摩擦係数を示し、粗研磨面やグレーズ面とは摩擦挙動が異なることが示されています。
ですから今回は、その続きです。
「表面状態が重要なのは分かった。では歯科医院で咬合調整したあと、どう仕上げるべきなのか?」
ここを主題にします。
ジルコニア冠を削った瞬間、それまでの表面仕上げは一度失われます
完成したジルコニア冠は、何らかの表面仕上げを受けています。
ジルコニアそのものを機械的に研磨している場合もあります。
表面にステインやグレーズを施している場合もあります。
しかし、口腔内で高さを合わせるためダイヤモンドポイントを当てれば、削った部分の表面は変化します。
グレーズされていた咬合面なら、その部分のグレーズ層も削り取られます。

つまり、患者さんの口の中で最終的に問題になるのは、「歯科技工所から届いた時にどう仕上げられていたか」だけではありません。
むしろ重要なのは、「最後に咬合調整したあと、何をして治療を終えたか」です。
今回の記事では、製作時の表面 → 試適 → 咬合調整 → 再仕上げ → 数か月・数年の使用という時間軸で見ていきます。
そもそも「研磨」と「グレーズ」は同じ“ツヤ出し”ではありません
患者さんから見ると、研磨もグレーズも「被せ物をツルツル、ピカピカにする処置」に見えるかもしれません。
しかし材料学的には、かなり違います。
研磨はジルコニアそのものを滑らかにする
研磨では、ジルコニア母材にできた傷や凹凸を、より細かな研磨材によって順番に小さくしていきます。
イメージとしては、粗い傷 → 少し細かい傷 → さらに細かい傷 → 鏡面に近い滑沢面です。
別の膜を付けるわけではありません。
最終的に対合歯と触れるのは、平滑化したジルコニアそのものです。
グレーズは表面に別の層を作る
一方のグレーズは、ジルコニアそのものを削って平らにしているわけではありません。
今回参照した代表的なジルコニア用ステイン・グレーズ材料では、ガラス系の材料をジルコニア表面へ焼き付けます。
伴先生の資料では、表面ステインは主として色調調整、グレーズは主として光沢を与える目的とされ、アルミノシリケート系ガラスを基本とする製品が示されています。
製品ごとに組成は異なるため、「すべてのグレーズ材が全く同じ組成」という意味ではありません。
しかし今回重要なのは、研磨=ジルコニア母材そのものを滑らかにするのに対し、グレーズ=母材の上へ別の表層を形成するという違いです。

ステインとグレーズも目的を分けて考えます
ステインには、歯の溝、歯頸部、咬頭などに自然な色調を付与する審美的役割があります。
グレーズには表面へ光沢を与える役割があります。
このような審美処理にはもちろん意味があります。
ただし、色をきれいに見せるための表面処理と、何度も対合歯と接触・滑走する機能面をどう仕上げるかは別問題です。
今回のテーマは後者です。
「ピカピカに見える」と「本当に滑らか」は同じではありません
ここは今回かなり重要なところです。
私たちは、光沢がある=滑らかと考えがちです。
しかし、光沢と表面粗さは同じ指標ではありません。
2025年の伴先生の報告では、ジルコニアをダイヤモンドポイントのコース → ミディアム → ファインと順番に研磨すると、砥粒が細かくなるにつれて表面粗さは低下しました。
ファインまで使用すると、肉眼ではある程度の光沢が見られます。
一見すると、「もう十分ツルツルだろう」と思える状態です。
ところがSEM、つまり走査電子顕微鏡で見ると、まだ明瞭な研磨傷が残っていました。
ダイヤモンドペーストで鏡面研磨した面とは異なります。

つまり、「光ったから研磨終了」とは限らないということです。
削ったままのジルコニアは対合側にどれくらい影響するのか
この点を非常に分かりやすく示した日本の研究があります。
2025年に報告された「ジルコニアの研磨状態の違いが対合歯摩耗に及ぼす影響」です。
研究ではジルコニア表面を4種類に分けました。
- 鏡面研磨
- ダイヤモンドで切削したまま
- 切削後に3段階研磨
- さらに最終研磨材を使用
37℃の水中、75 N、10,000回で摩耗試験を行い、対合側にはエナメル質を想定した人工セラミックスを使いました。
| ジルコニア表面 | 対合材の最大摩耗深さ |
|---|---|
| 鏡面研磨 | 2.27 ± 1.4 µm |
| 切削したまま | 75.2 ± 42.9 µm |
| 切削後3段階研磨 | 11.8 ± 5.0 µm |
| さらに最終研磨 | 10.4 ± 1.9 µm |

最も目を引くのは、ダイヤモンドで切削したままの群です。
ただし、この75.2 µmを、「患者さんの天然歯がそのまま75.2 µm削れる」と読むのは間違いです。
これはヒト天然エナメル質ではなく、エナメル質を模した人工材料を使った実験です。
75 N、10,000回という条件も臨床そのものではありません。
したがって、人の口の中の年間摩耗量へ単純換算することはできません。
それでも、切削したままの表面と、再研磨した表面では、対合側への摩耗作用が大きく変わり得ることを示す研究として重要です。
11.8 µmと10.4 µmを見て「最終研磨材で必ずさらに改善」とは言えません
3段階研磨群は11.8 ± 5.0 µm。
さらに最終研磨材を使用した群は10.4 ± 1.9 µm。
平均だけを見ると、最終研磨材を使った群の方が小さく見えます。
しかしこの研究では、鏡面研磨群、3段階研磨群、最終研磨追加群の間には有意差がありませんでした。
したがって、「最終研磨材を使えば対合歯摩耗がさらに何%減る」という結論にはできません。
この研究から強く言えるのは、少なくとも切削したままで終了せず、十分に再研磨することが重要というところです。
ジルコニア自身の厚さ減少は、この試験では検出されませんでした
同じ研究ではジルコニア側の自己摩耗も評価されています。
この測定法では、4条件とも試験前後のジルコニア試料の厚さ減少は検出されませんでした。
ここは、「ジルコニアは絶対に1 nmも摩耗しない」という意味ではありません。
この実験・測定条件の範囲で、厚さの減少として捉えられる自己摩耗が認められなかったという意味です。
それでも面白いのは、修復物側ではほとんど変化を検出できなくても、対合側には摩耗が生じ得るという非対称性です。
したがって、被せ物が見た目上ほとんど減っていない=咬合全体も何も変化していないとは限りません。
なぜ何段階もかけて研磨するのでしょうか
患者さんからすると、「さっき削ったのに、今度は別のゴムみたいな器具を何本も当てている」という場面があります。
これは単なる艶出しではありません。
粗いダイヤモンドでできた深い傷を、いきなり最も細かな研磨材だけで消そうとするのではなく、大きな傷を少し小さな傷へ、さらにその傷をもっと細かな傷へと置き換えていくためです。
非常に硬いジルコニアだからこそ、最初に作った深い研削傷を残さないことが重要になります。
2段階研磨より3段階研磨の方が必ず優れている?
ここも単純ではありません。
2025年にClinical Oral Investigationsへ掲載されたKochらの研究では、4Yと5Yのジルコニアを対象に、複数の口腔内研磨システムを比較しています。
調べたのは、2段階/3段階、砥粒の大きさ、砥粒を保持する結合材、回転数、移動回数です。
3段階システムでは、第2段階終了時点では表面粗さがあまり改善しなかったり、一部条件では前段階より粗さが増えたりしました。
そして、第3段階まで完了して初めて目的とした粗さ低下を得られた条件がありました。
一方、最終状態を比較すると、2段階システムと3段階システムで大きな差が出ない条件もありました。
つまり、3本だから優秀、2本だから不足ということではありません。
重要なのは、そのシステムが想定している工程を、途中で勝手に省略しないことです。
Nomotoら2024年研究――研磨コンパウンドとグレーズを比較する
今回のテーマにかなり直接的なのが、東京歯科大学のNomotoらが2024年に報告した研究です。
3Yと5Yの簡易モノリシックジルコニア冠を製作し、咬合調整後に、研磨ポイントを使用したあと研磨コンパウンドで仕上げる方法と、シリカ系コーティングを焼成する方法を比較しました。
結果として、3Yと5Yの間で最終的な表面粗さに有意差は認められませんでした。
一方、研磨ポイントだけでは十分に粗さを下げきれず、研磨コンパウンドを使うことで表面粗さが大きく低下しました。
グレーズ系コーティングでも光沢は得られます。
しかし、表面粗さという点では研磨コンパウンド仕上げの方が良好でした。

ここでも、光沢と表面粗さは同じではないことが分かります。
Nomotoら2026年――新しい研磨材なら最終コンパウンドを省ける?
そして2026年8月、同じ東京歯科大学のグループから続編がオンライン先行公開されました。
2026年9月30日時点では、PubMed上ではahead of printとして確認できる論文です。
今回の問いはさらに臨床的です。
研磨材料も進歩している。それなら、新しい研削・研磨材を使用すれば、最後のコンパウンド研磨を省略できるのではないか。
研究では3Yと5Yについて、新しい2種類の研削・研磨材を使い、各工程後の表面粗さと光沢を測定しました。
結果、新しい研磨材は有効でした。
しかし、コンパウンド研磨を省略できると判断できる表面粗さには到達しませんでした。
さらに、途中の研削・研磨工程のいずれかを省略すると、最終仕上げ後の表面粗さのばらつきが大きくなりました。

著者らは、装着時に咬合調整を行ったモノリシックジルコニア冠では、コンパウンドによる最終研磨を強く推奨しています。
ここで注目したいのは平均値だけではありません。
ばらつきが増えたという点です。
歯科治療では、「たまたま一回だけきれいに仕上がる」よりも、毎回安定して良好な表面を作りやすい工程の方が大切です。
グレーズ膜は「永久に残る透明保護膜」ではありません
グレーズという言葉から、ジルコニアの上を滑らかな透明膜で覆い、そのままずっと守ってくれるという印象を持つかもしれません。
しかし、少なくとも今回参照したグレーズ系材料では、表面に形成される層はジルコニア母材そのものではなくガラス系材料です。
伴先生の資料でも、こうした表層はジルコニア母材より機械的性質が低く、咬合による局所応力で破折し、表面凹凸が形成され得ることが説明されています。
2回・4回グレーズしても、硬い相手と擦れると膜は変化した
伴先生らは、ジルコニア表面を鏡面研磨、2回グレーズ、4回グレーズとして、異なる接触子で摩擦係数を測定しています。
鏡面研磨ジルコニアでは、接触子の材質が変わっても摩擦係数はおよそ0.1で、100回の摺動後も大きく変化しませんでした。
一方、グレーズ面では硬い接触子を使った場合、摺動とともに摩擦係数が上昇し、SEMでは滑走部のグレーズ膜剥離が確認されました。

つまり、グレーズを何度か施せば、その膜が咬合面を永久に守るという単純な構図ではありません。
ただし、2回より4回の方が悪いという結論でもありません。
この研究から言えるのは、複数回グレーズした膜でも、反復する硬い接触に対して永久不変ではなかったというところです。
グレーズが取れたら、その下の滑らかなジルコニアが出るだけ?
それも少し違います。
もしグレーズ膜が、ある瞬間に咬合面全体から均一に消え、その下から均一な鏡面研磨ジルコニアが現れるのであれば話は簡単です。
しかし摩耗はそんなに整然とは進みません。
- ある場所にはグレーズが残る
- 別の場所では薄くなる
- あるところでは欠ける
- 別のところではジルコニア母材が露出する
つまり、残存グレーズ、欠けたグレーズ、露出したジルコニア、その境界が混在する可能性があります。
したがって、古くなったグレーズ面=最初から十分に研磨されたジルコニア面ではありません。
実際、口の中で10か月使ったジルコニアではどうなっていたか
2024年のDental Materialsの総説には、非常に興味深いSEM像があります。
Katana STMLのモノリシックジルコニア臼歯を、インプラント支持のチタンベースへ装着し、口腔内で10か月使用した後の咬合面です。
そこでは、グレーズ層のmicrocracking、つまり微小亀裂と、グレーズが失われてジルコニア粒子が露出した部分が観察されています。

同総説でも、グレーズ層は時間とともに摩耗し、下地のジルコニアを露出し得ると整理されています。
ただし、この一例を見て、「すべてのグレーズは10か月で同じように壊れる」とは言えません。
これは多数例を無作為比較した臨床試験ではなく、口腔内使用後の代表的なSEM観察です。
だから「グレーズは全部やめるべき」とは言いません
ステインやグレーズには、審美性を高める役割があります。
唇側・頬側、歯頸部、裂溝などで、自然な色調や表面表現を作る意味があります。
今回問題にしているのは、対合歯と繰り返し接触し、滑走する咬合面です。
ですから、「グレーズが良いか悪いか」だけで考えるより、どこに、何の目的で、その処理を残すのかと考えた方が正確です。
実際の患者さんでは研磨とグレーズの差は出ているのか
ここまでには実験室研究が多く含まれます。
では、本当に患者さんの口の中でも差が出るのでしょうか。
ここからが少し複雑です。
臨床研究は、研磨を支持する報告がある一方で、結果が完全には一様ではありません。
2021年――研磨冠とグレーズ冠を同じ患者さんの口の中で比較
Selvarajらの臨床pilot studyでは、14人を対象として、同じ患者さんの左右に研磨ジルコニア冠とグレーズジルコニア冠を装着しました。
1年後の冠そのものの平均摩耗は、研磨冠13 ± 3 µm、グレーズ冠27 ± 9 µmでした。
さらに、第一大臼歯部の対合天然エナメル質は、研磨ジルコニア対合63 ± 22 µm、グレーズジルコニア対合113 ± 33 µmでした。
この小規模研究では、グレーズ群の方が冠自身にも対合歯にも大きな摩耗を示しました。
ただし、対象は14人です。
この数字を全ての患者さんへそのまま当てはめることはできません。
2023年――6か月では差がなく、12か月では差が出た
さらに興味深いのがDondaniらの臨床研究です。
30人に合計60冠を装着し、各患者さんにグレーズしたモノリシックジルコニア冠と研磨したモノリシックジルコニア冠を左右で比較しました。
6か月時点の対合エナメル質摩耗は、グレーズ群42.80 µm、研磨群42.50 µmで、P=.855。
つまり、6か月では有意差がありませんでした。
ところが12か月になると、グレーズ群81.87 µm、研磨群71.43 µmとなり、有意差が認められました。
これは非常に示唆的です。
短期で差がないことと、少し長く使っても差がないことは同じではありません。

一方、2年間では天然歯同士と有意差がなかった研究もあります
ここで話は単純ではなくなります。
2025年のWoraganjanaboonらの無作為化臨床研究では、24人を対象に、研磨した5Y-TZP冠または研磨した二ケイ酸リチウム冠を装着し、2年間追跡しました。
5Y-TZP冠に対合するエナメル質の平均体積損失は、0.042 ± 0.005 mm³。
対側の天然歯同士では、0.046 ± 0.004 mm³でした。
有意差は認められませんでした。
さらに、表面粗さと摩耗量との間にも有意な相関がありませんでした。

つまり、研磨5Y-TZPが2年間で天然歯対天然歯より多く摩耗させなかったという結果です。
これは重要です。
都合のよい研究だけを集めれば、「研磨すれば必ず天然歯より摩耗が少ない」とも、「ジルコニアは必ず天然歯を余計に削る」とも書けてしまいます。
しかし、実際の臨床研究はそんなに単純ではありません。
36か月研究では再び差が出ました
2026年のRygolらの研究では、5Yモノリシックジルコニア冠を装着した患者さんを36か月追跡しました。
当初32人でしたが、解析基準を満たして最終解析へ入ったのは10人です。
対合エナメル質の平均最大垂直喪失量は、216 ± 113 µm。
対側の天然歯同士では、151 ± 59 µmと113 ± 57 µmでした。
一方、ジルコニア冠自体は38 ± 14 µmでした。

著者らは、ジルコニア冠に対合するエナメル質では天然歯接触のおよそ2倍の摩耗が認められたと結論しています。
ただし著者らは同時に、その摩耗量は他の歯科用セラミックスで観察される範囲と同程度だったとも述べています。
そして何より、最終解析は10人です。
この数値を、すべての5Yジルコニア冠の「3年間の標準摩耗量」と考えることはできません。
5年間の研磨3Y研究でも差は出ましたが、臨床使用を否定する結論ではありません
Bömickeらは、研磨した3Y-TZPのレジン接着ブリッジを5年間追跡しました。
対象は6人と非常に少数です。
5年後の平均エナメル質摩耗深さは、ジルコニア対合77 µm、天然歯対天然歯54 µmでした。
最大摩耗深さは、229 µm対135 µmでした。
ただし年次解析を見ると、有意差の出方は評価指標と時点によって一貫していません。
平均摩耗深さは1年、3年、4年、5年で有意差が認められ、2年時点はP=.051でした。最大摩耗深さについても、すべての時点で一律に有意差が出たわけではありません。
したがって、「2年目から突然差が出た」と単純化するのは適切ではありません。
一方で、5年間を通して見ると、ジルコニアに対合する側の摩耗は天然歯対照より大きい傾向を示しました。
そして著者らの臨床的な結論は、研磨3Y-TZPは天然歯より多くエナメル質を摩耗させたものの、その量は一般的な間接修復材料で報告される範囲内であり、対合歯摩耗という観点から臨床使用は妥当というものです。
この研究を、「5年でジルコニアは危険だった」とだけ紹介するのは不正確です。
臨床研究を並べると、むしろ「単純ではない」ことがよく分かります
ここまでの臨床研究を時間軸で見ると面白いです。
Dondaniらでは、6か月ではグレーズと研磨で差なし、12か月ではグレーズの方が対合歯摩耗大でした。
一方、研磨5Yを使った別の研究では、2年で天然歯同士と有意差なしでした。
さらに別の小規模研究では、3年で5Y対合歯に天然歯同士より大きい摩耗が認められました。
5年の研磨3Y研究でも、天然歯同士より摩耗が大きい傾向が示されています。
しかし、これらは同じ研究を5年間追ったわけではありません。
- 材料が違う
- 修復物の形が違う
- 患者さんが違う
- 表面処理が違う
- 測定方法が違う
だから、「6か月 → 12か月 → 2年 → 3年 → 5年」と一本のグラフにつないではいけません。
それぞれ別の研究だからです。
7臨床研究・177人・261冠をまとめた2024年解析
2024年には、臼歯部セラミック修復物と対合エナメル質摩耗を対象とした系統的レビュー+ネットワークメタ解析も報告されています。
含まれた臨床研究は7報、177人、261冠でした。
モノリシックジルコニアに対合するエナメル質は、天然歯同士と比べて平均垂直喪失量(MVL)が40.1 µm多い方向に推定されました。
表面仕上げ別の解析では、天然歯対照との差が研磨ジルコニアで38.8 µm、グレーズジルコニアで62.8 µmと推定されました。
ただし、この38.8 µmと62.8 µmは、同じRCTの中で「グレーズが研磨より24.0 µm多かった」と直接比較した数字ではありません。

各サブグループが天然歯対照と比べてどの程度違ったかを統合した推定値です。
また、研究数そのものが少なく、表面処理別に分けるとデータ量はさらに小さくなります。
著者らも、より均質で長期の臨床研究が必要としています。
したがって現在の整理としては、基礎研究では咬合調整後の十分な再研磨の重要性がかなり一貫している。臨床研究にも研磨を支持する報告はあるが、患者さんの口の中での長期結果は完全には一様でない、くらいが妥当だと思います。
なぜ実験室と患者さんの口では結果が揃わないのでしょうか
摩耗は材料単体の性質ではありません。
二つの物体が、どれくらいの力で、どの方向へ、どのくらい長く、どれだけ接触するか。その間に何が介在するか。
こうした「系」全体から生じる現象です。
口腔内ならさらに、咬合力、接触面積、顎運動、食習慣、唾液、歯の形、滑走方向、咀嚼回数、酸性環境、ブラキシズムなどが関係します。
伴先生の総説でも、口腔内エナメル質摩耗は咬合力、食習慣、唾液など多様な要因の影響を受け、個人差が大きいため、実験室試験と臨床経過に強い相関を見いだすことは難しいと整理されています。
したがって、「50 Nで何十万回だから口の中の○年分」という換算は、あくまでシミュレーション上の目安です。
Raが低ければ、それだけで対合歯摩耗も少ないのか
研究では「Ra」という表面粗さの指標がよく使われます。
しかしRaは平均粗さです。
深い傷が少数ある表面と、細かな凹凸が多数ある表面が、似たRaを示すこともあり得ます。
さらに研究によって、Ra、Sa、Sz、Rz、RMS、最大垂直摩耗、平均垂直摩耗、体積損失など、違う指標が使われます。
だから、研究Aの100 µmと研究Bの50 µmを見て「AはBの2倍悪い」とは簡単には言えません。
測っているもの自体が違う可能性があるからです。

表面粗さが重要なのに、摩耗量と相関しなかった研究があるのは矛盾?
矛盾ではありません。
表面粗さは重要です。
特に、咬合調整で大きな研削傷を残したままにすれば、対合側へ影響し得ます。
しかし、摩耗は粗さだけで決まりません。
Woraganjanaboonらの2年研究で、表面粗さと対合エナメル質摩耗との間に有意な相関が出なかったのも、その一例です。
したがって、「粗さは重要」と「粗さだけでは摩耗を予測できない」は両立します。
ブラキシズムの人ではどうなのでしょうか
ここは実臨床では非常に気になるところです。
「私は歯ぎしりが強いんですが、ジルコニアは大丈夫ですか?」という質問です。
ところが、この疑問には研究上の難しさがあります。
2025年のBritish Dental Journalの総説では、ジルコニアの臨床性能を扱った研究の中にparafunction患者を除外しているものがあり、材料選択時にその点を考慮すべきと指摘されています。
実際、Sorrentinoらの6年前向き研究では、severe wear facets、clenching、bruxismを除外基準にしています。

つまり、強い歯ぎしりがある患者さんこそ結果を知りたいのに、その患者さんが研究から除外されていることがあります。
だからブラキシズム患者へ平均値をそのまま当てはめられません
強いブラキシズムがある人で、対合歯摩耗が正常群の何倍になると高い確実性で定量できるデータは、今回調べた範囲では不足しています。
したがって、「歯ぎしりがある人はジルコニア禁止」とも、「十分研磨すればブラキシズムでも全く問題なし」とも言いません。
正確には、高負荷患者は臨床的に重要だが、一般的な臨床研究から除外されることもあるため、研究の平均値をそのまま外挿しにくいということです。
3Y・4Y・5Y――「ジルコニア」を全部同じ材料として扱わない
現在の歯科用ジルコニアには、3Y、4Y、5Yなど複数の材料があります。
透光性、結晶相、強度、相変態の起こりやすさなどが違います。
この話は以前のコラム「先生!その5Yを「570MPa」だと思っていませんか?ジルコニア3Y・4Y・5Yの強度・透光性と2026年“cubic”再考」で詳しく扱ったので、今回は繰り返しません。
今回必要なのは、「ジルコニア」という材料名が同じでも、表面処理に対する反応まで完全に同じとは限らないという点です。
Nomotoらの2024年・2026年研究では、3Yと5Yの研磨後の表面粗さに大きな差は認められていません。
一方、機械的性質まで見れば材料世代による違いがあります。
再研磨すれば、削る前のジルコニアへ完全に戻るのでしょうか
対合歯への影響を小さくするため、咬合調整後の再研磨は重要です。
では、研磨すればジルコニア自体も完全に「削る前」の状態へ戻るのでしょうか。
そこまでは言えません。
Abdulmajeedらは3Y、4Y、5Yについて、無調整、調整+研磨、粗いダイヤモンド調整のみを比較しました。
調整+研磨群では、fine-grit、extra-fine-gritのダイヤモンドを使用した後、Medium、Fineのジルコニア用カップで仕上げています。
それでも、3Y、4Y、5Yすべてで、調整を行った群は無調整群より曲げ強さが低い結果でした。
つまり、再研磨は表面を滑らかに戻すうえで重要ですが、一度削った材料を機械的にも完全な「新品状態」へ戻す魔法ではありません。
だから理想は「大きく削ってから一生懸命磨く」ではありません
まず設計・適合・咬合をできるだけ合わせる。
そのうえで、必要なところだけ最小限に調整する。
そして、削ったところを十分に再研磨する。
これが理想です。
では実際、咬合調整後はどういう順序で仕上げるのか
ここからは少し臨床的な話です。
ただし、以下の数字は特定研究の実験条件であって、すべてのジルコニア用研磨材を同じ回転数で使うためのマニュアルではありません。
製品ごとに推奨条件は異なります。
まず必要以上に粗い傷を作らない
Abdulmajeedらの調整+研磨群では、fine-grit diamond → extra-fine-grit diamond → Medium cup → Fine cupという順序でした。
ダイヤモンドは30,000 rpmで各10ストローク、その後のカップは6,000 rpmで、研磨工程には60~80秒をかけています。

これは研究条件であり、臨床で必ずこの数字にすべきという意味ではありません。
ここから分かるのは、粗い器具一発で削って、そのまま終えるのではなく、細かな器具へ段階的に移行するという考え方です。
研磨の回転数は何rpmが正解?
一つの数字では答えられません。
Kochらの2025年研究では、5,000、10,000、15,000 rpmを比較しています。
さらに、18、42、66往復と移動回数も変えました。
圧は2 N、水冷は50 mL/minに固定しています。
このように条件を揃えて初めて、「回転数の違い」を比較できます。
結果として、回転数や移動回数は表面粗さ、光沢、色調に影響しました。
しかし、最も高い回転数が全ての評価項目で最良だったわけではありません。
高速なら短時間でツルツル――でもありません
回転数を上げれば、条件によって研磨効率は高くなります。
一方で問題になるのが発熱です。
KochらはLiuら2023の研究を引用し、20,000 rpmではより滑らかな表面を得やすい一方、温度上昇も大きくなるとしています。
Liuらの研究でも、高回転条件で温度上昇が大きくなりました。
したがって、速く回せば回すほど短時間で、表面にも歯にも全部よいという話ではありません。

水冷は何のため?
研削や研磨では摩擦熱が生じます。
水冷には、熱を逃がす、研削粉を除去する、過度な熱の蓄積を避けるという意味があります。
Kochらの実験では、研削時に40,000 rpm、2 N、50 mL/minの水冷を使用し、研磨時も50 mL/minの連続水冷で標準化しています。
ただし、すべての市販ジルコニア用ポリッシャーを必ず水冷で使うという意味ではありません。
製品ごとに使用法があります。
したがって実臨床では、メーカーが指定する回転数・使用圧・乾湿条件を守ることが前提です。
強く押し付ければ早く磨ける?
ここも研究結果と臨床的な推論を分けて考えます。
Koch研究では比較条件を揃えるため2 Nに固定しました。
しかし、これは、「臨床で必ず2 Nで研磨してください」という推奨ではありません。
口腔内の研磨は手作業です。
接触圧、回転数、動かす速度、接触時間は術者によって変わります。
強い圧や一点への長時間停留では、摩擦仕事と発熱が集中しやすいと考えられるため、必要以上に押し付けない、同じ場所に止め続けない、研磨材を動かしながら使うというのは合理的な臨床原則です。
ただし、今回の資料から、「○Nを超えたら危険」という臨床閾値までは設定できません。
何秒磨けば鏡面になる?
これも固定できません。
Abdulmajeedらでは60~80秒。
別の研究では各段階30秒、さらに方向を変えて30秒という条件もあります。
しかし、削った面積、傷の深さ、ジルコニアの種類、研磨システム、回転数、圧が違います。
だから、「1分磨けば完成」とは言えません。
大切なのは時間そのものより、前工程で作った傷を、次の工程で十分に減らせたかです。
最後のコンパウンドは必ず必要?
ここは少し慎重に考える必要があります。
伴2025では、Fineのポイントで肉眼的に光沢が出ても、SEMでは研磨傷が残り、ダイヤモンドペーストによる鏡面研磨とは異なりました。
さらにNomotoら2026では、新しい研削・研磨材を使用しても、コンパウンド研磨を省略できる表面粗さには到達しなかったため、最終コンパウンドが強く推奨されています。
一方で、市販のジルコニア研磨システムには、2段階・3段階の最終ステップ自体が非常に細かな研磨を担うものもあります。
したがって、「すべての製品で必ず別売りのペーストを追加しなければならない」とまでは一般化しません。
より正確には、使用する研磨システムの最終工程まできちんと完了し、そのシステムだけでは十分な最終表面が得られない場合には、ダイヤモンドコンパウンドなどによる最終仕上げまで行うという考え方です。
一番見落としやすいのは「最後にもう一度削った一点」
実際の診療では、こんなことがあります。
咬合を調整する。
研磨する。
もう一度咬合紙を噛んでもらう。
「あとここだけ、ほんの少し高い」
もう一度そこを削る。
ここで治療を終了すると、最後に削った一点だけ、再び粗い表面へ戻っています。

ですから、追加で削った場所も、もう一度仕上げて初めて終了です。
患者さんから見ると、「さっき磨いたのに、また磨いている」ように見えるかもしれません。
しかし、この最後の研磨にも意味があります。
対合歯の方を削れば簡単なのでは?
「ジルコニアが硬いなら、反対側の天然歯を少し削って高さを合わせればよいのでは?」という考え方もあります。
もちろん、咬合診断上、天然歯側を調整する必要がある症例はあります。
しかし、ジルコニア側に作った粗い面の問題を、安易に天然エナメル質を削って解決するという話ではありません。
天然エナメル質は、一度削れば元には戻りません。
伴先生も、対合天然歯を削って咬合調整することについて注意を促しています。
患者さんは「グレーズですか?研磨ですか?」まで確認すべき?
ここまで読むと、「私のジルコニアは研磨なのか、グレーズなのか確認した方がいい?」と思うかもしれません。
しかし、患者さん自身が、「グレーズは禁止してください」「○rpmでこの研磨材を使ってください」と指定する必要はありません。
大切なのは、咬合調整後に粗い面を残さないこと、必要な再研磨を行うこと、追加調整したらその部位も再び仕上げることです。
そして、強い歯ぎしりや著しい摩耗がある場合には、その後の噛み合わせや対合歯も経過観察します。
では結局、「グレーズより研磨」なのでしょうか
今回調べた範囲をかなり慎重にまとめると、こうなります。
まず、比較的強く言えることがあります。
咬合調整したジルコニアを、ダイヤモンドで削ったまま残すべきではありません。
基礎研究では、切削後の十分な再研磨の重要性がかなり一貫して示されています。
そして、咬合接触部の最終表面として、十分に研磨したジルコニア母材を残すことを支持する研究は多いと言えます。
一方で、研磨なら全ての患者さんで天然歯と同じ摩耗になるとは言えません。
臨床研究には、グレーズより研磨の方が対合歯摩耗が少なかった研究、短期では差がなく後に差が出た研究、2年間では天然歯同士との差が出なかった研究、3年・5年で差が出た小規模研究が共存しています。
したがって、「研磨なら絶対安全、グレーズなら絶対ダメ」ではありません。
これが現在の研究を一番正確に反映した表現だと思います。
院長として今回一番伝えたいこと
ジルコニア治療で患者さんから見える大きな処置は、「歯を削る」「型を取る」「被せ物を入れる」といったところだと思います。
最後に小さなポリッシャーで何十秒も磨いている時間は、治療の本体ではないように見えるかもしれません。
でも、実際にはかなり大切です。
ジルコニアは硬く、摩耗しにくい材料です。
だからこそ、最後にどんな表面を残したかが、その後長い期間、対合歯と接触する条件になります。
咬合紙で高さを合わせたところで終わりではありません。
削って変化した表面を、もう一度適切に整える。
そこまで含めて、咬合調整後の仕上げです。
まとめ
ジルコニアは、「硬いから対合歯を削る」とだけ説明できる材料ではありません。
対合歯摩耗には、表面粗さ、摩擦、微細構造、咬合接触、咬合力、顎運動、患者さんごとの習癖などが関係します。
モノリシックジルコニア冠を口腔内で咬合調整すれば、その部分では元の表面仕上げが失われます。
だから、削ったままではなく、十分に再研磨することが重要です。
また、研磨はジルコニア母材そのものを滑らかにする処理なのに対し、グレーズは表面へ別の層を形成する処理です。
両者は同じ「ツヤ出し」を別の方法で行っているわけではありません。
基礎研究では、咬合調整後の十分な研磨を支持する結果がかなり一貫しています。
臨床研究にも研磨を支持するデータがありますが、長期的な対合歯摩耗については結果が完全には揃っておらず、材料、表面処理、咬合、観察期間などを分けて考える必要があります。
今回の話を一言でまとめるなら、
ジルコニア治療では、「何を入れたか」だけでなく、「最後にどんな表面を患者さんの口の中へ残したか」までが大切です。
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