2026年9月05日

(院長の徒然コラム)

はじめに
ジルコニアについて少し勉強すると、だいたい次のような整理に行き着きます。
3Yは強い。4Yはその中間。5Yは透光性が高い代わりに弱い。
大筋では間違っていません。
実際、2026年に公表された78研究のシステマティックレビューでは、4Y-PSZの曲げ強さは平均803±233 MPa、5Y-PSZは570±116 MPaでした。数字だけを見れば、「5Yは570MPaくらいの材料なのだな」と覚えたくなります。
しかし、同じレビューを少し先まで読むと、その理解だけでは足りないことが分かります。
4Y-PSZ群では、市販材料の報告値が526 MPaから1248±109 MPaまで広がっていました。5Y-PSZ群でも最低278 MPaから、マルチレイヤー材料IPS e.max ZirCAD Prime Estheticの5Y相当エナメル層では841±171 MPaまで報告されています。しかも5Yでは、試験片の製作方法、表面処理、曲げ強さの試験法そのものが測定値へ有意に影響していました。
つまり、「5Y=570MPa」ではありません。570MPaは、多数の研究結果をまとめた平均値です。
さらに2026年には、もう一つ大きな変化がありました。
私たち歯科医師は長い間、高透光性ジルコニアについて「イットリアを増やすと立方晶、いわゆるcubic phaseが増え、光を通しやすくなる。その代わり相変態強化が減るため、強度や破壊靱性が低下する」と説明してきました。
ところが、高分解能の放射光X線を使って3~8 mol%イットリア安定化ジルコニアを解析した2026年の研究では、少なくともその研究で調べた未劣化の3Y~5Yに明確なc相は検出されず、2種類の正方晶、t相とt′相として解析されました。明確なc相が確認されたのは8Yでした。
となると、3Y・4Y・5Yという数字はいったい何を意味するのでしょうか。
そして5Yが3Yより機械的に不利なのであれば、なぜ私たちは前歯部で5Yを選ぶことがあるのでしょうか。
今回は「3Yは強い、5Yはきれい」という説明から、もう一段奥へ入ってみます。
まず結論――3Y・4Y・5Yは「強さの順位」ではない
YはイットリアのY
3Y、4Y、5Yの「Y」は、ジルコニアへ添加される安定化材、イットリア(Y₂O₃)に由来します。
歯科用ジルコニアでは、3 mol%前後のイットリアを含む3Y-TZPが古くから使われてきました。従来型3Y-TZPは高強度ですが透光性が低く、かつてはジルコニアフレームの上へ陶材を前装して色調を再現する使い方が中心でした。
その後、アルミナ含有量を減らして光散乱を抑えた高透光性3Yが登場し、さらに透光性を高めるため4 mol%、5 mol%前後へイットリア量を増やした4Y、5Yが開発されます。現在は3Y、4Y、5Yなどを同じディスクの中に配置する強度グラデーション型のマルチレイヤージルコニアも普及しています。
なお、論文やメーカー資料によって3Y-TZP、4Y-PSZ、4Y-TZP、5Y-PSZ、5Y-TZPなど表記に揺れがあります。本稿では基本的に3Y-TZP、4Y-PSZ、5Y-PSZと表記します。
ジルコニアを含むセラミックス全体の位置づけについては、以前のセラミック(ジルコニアを含む)歯科修復治療の現在でも解説しています。今回は、その中でも3Y・4Y・5Yに話を絞ります。
「白いほど弱い」ではなく「高透光化とのトレードオフ」
ここで一つ、言葉を整理しておきましょう。
「白いジルコニアほど弱い」という表現は正確ではありません。
従来型3Yは光を通しにくいため、むしろ不透明で白っぽく見えやすい材料です。
5Yの特徴は「白い」ことではなく、透光性が高いことです。
したがって、本稿で扱っている現象をより正確に言えば、
高透光化を狙ったジルコニアでは、一般に強度や破壊靱性とのトレードオフが生じやすい。
ということになります。
ただし、この「一般に」が重要です。
3Yなら必ず1000 MPa、4Yなら800 MPa、5Yなら500 MPaになるという意味ではありません。

なぜ3Yは強いのか――クラックの先端で起きる「相変態強化」
3Y-TZPの強さを理解するために欠かせないのが、相変態強化(transformation toughening)です。
ジルコニアは温度や安定化材の量によって結晶構造が変化します。
3Y-TZPでは、室温において準安定な正方晶を多く保持できるように設計されています。
そこへクラックが生じ、クラック先端へ強い応力が集中すると、一部の正方晶が単斜晶へ変態します。
重要なのは、このとき結晶の体積が増えることです。
歯科用ジルコニアを解説した国内総説でも、正方晶から単斜晶への転移には約4%の体積変化を伴い、この体積膨張がクラックの進展を妨げる「応力誘起相変態強化機構」として説明されています。
ざっくり言えば、
クラックが進もうとする
→周囲のジルコニアが相変態して膨らむ
→クラックを閉じる方向の力が働く
ということです。
これが3Y-TZPの非常に大きな武器です。

曲げ強さと破壊靱性は同じ数字ではない
ここでもう一つ区別しておきたいものがあります。
曲げ強さと破壊靱性です。
曲げ強さは、決められた試験条件で材料に応力を加え、どの程度の応力で破壊したかを見る値です。一般にMPaで示されます。
一方、破壊靱性は、すでに材料中へ存在するクラックがどの程度進展しにくいかを見る物性で、MPa√mなどで示されます。
したがって、
「曲げ強さが高い=どんなクラックにも強い」
ではありません。
この違いは、実際に3Y・4Y・5Yを同条件で比べるとよく見えてきます。
本当に3Y>4Y>5Yなのか――同じ条件で比べると4Yが3Yより弱いとは限らない
3Y、4Y、5Yの直接比較で特に参考になるのが、Zhangらが2019年に報告した研究です。
同系列のTosoh製粉末から作製した3Y、4Y、5Yを同じ4点曲げ試験で比較しています。
結果は次の通りです。
| 3Y | 4Y | 5Y | |
|---|---|---|---|
| 4点曲げ強さ | 908±44 MPa | 928±82 MPa | 534±56 MPa |
| 破壊靱性 KIC | 5.0±0.3 MPa√m | 4.0±0.2 MPa√m | 3.3±0.2 MPa√m |
| 0.5 mm厚でのCR | 0.54±0.02 | 0.47±0.01 | 0.36±0.01 |
| 透光性 | 低い | 中間 | 高い |
CRは低いほど光を通しやすい指標です。
まず目につくのが、曲げ強さです。
3Yが908 MPaに対し、4Yは928 MPa。
この研究では3Yと4Yの曲げ強さに有意差はありませんでした。
つまり、
「イットリアが3Yから4Yへ増えると、その分だけ必ず強度が落ちる」
とは言えません。
しかし破壊靱性を見ると、5.0→4.0→3.3 MPa√mと低下しています。
5Yでは曲げ強さも534 MPaまで下がりました。
つまり、
3Y→4Y→5Yと一定量ずつ階段状に弱くなるわけではない。
しかし同時に、
高イットリア化・高透光化するほど、変態強化や破壊靱性との交換条件が大きくなる傾向は存在する。
この二つを同時に理解する必要があります。

「5Y=570MPa」と覚えてはいけない理由
一つの実験だけではなく、多数の市販材料をまとめるとどうでしょうか。
2026年のBernauerらのシステマティックレビューでは、78本のin vitro研究が解析されました。
全体の平均曲げ強さは、
4Y-PSZ:803±233 MPa
5Y-PSZ:570±116 MPa
で、4Yが有意に高値でした。
ここだけなら「4Yは800、5Yは570」と覚えたくなります。
しかし製品別の範囲を見ると、4Yでは526 MPaから1248±109 MPa。
5Y群ではTT-MTの278 MPaが最低値でした。一方、最高値として集計された841±171 MPaは、単一組成の5Yブロックではなく、IPS e.max ZirCAD Prime Estheticというマルチレイヤー材料の5Y相当エナメル層です。
ここはかなり大事なところです。
同じ「5Y」というカテゴリーへ分類されていても、単一組成材なのか、強度グラデーション材の特定層なのかでも意味が違います。
5Yでは「どう作ったか」「どう処理したか」「どう測ったか」まで効く
Bernauerらは、イットリア量だけでなく、試験片の製作方法、表面処理、曲げ強さの試験方法も検討しています。
4Yではこれらの影響が統計学的に明確ではなかった一方、5Yではいずれも強度値へ有意に影響していました。
曲げ強さの試験方法にも3点曲げ、4点曲げ、二軸曲げなどがあります。
試験によって最大応力が加わる範囲や、試験片の辺縁欠陥をどの程度拾うかが違うため、異なる試験法で得たMPaをそのまま横並びにするのは危険です。
5YについてBernauerらがまとめた平均値でも、4点曲げ509±115 MPa、3点曲げ484±181 MPa、二軸曲げ501±145 MPaと、試験条件をそろえて理解する必要があります。
したがって、
「論文Aでは600 MPa、論文Bでは900 MPaだった。どちらかが間違っている」
とは限りません。
強度の数字には必ず、
どの製品を、どの層から取り出し、どう加工し、どう表面処理し、何mm厚で、どの試験法を使ったのか
という条件が付いています。

2026年、“cubic zirconia”という説明そのものに修正が入り始めた
私たちは長く「立方晶が増えるから透明になる」と説明してきた
これまでの歯科材料学では、高透光性ジルコニアを次のように説明することが一般的でした。
イットリア量が増える。
正方晶が減り、立方晶が増える。
立方晶は光学的に等方性なので複屈折がなく、粒界での散乱が少なくなる。
そのため透光性が上がる。
一方で、立方晶は応力誘起相変態を起こさないため、相変態強化が減って強度・破壊靱性が下がる。
2018年の伴氏の国内総説でも、アルミナ量の低減とイットリア量の増加による透光性改善、そして強度と透光性の相反関係がこの従来モデルで整理されています。
2022年の国内総説でも、4 mol%以上の高透光性Y-PSZでは立方晶含有量が増えるという説明が採用されています。
当院の過去のジルコニア解説にも、この従来モデルに基づいて説明している部分があります。
しかし2026年、より高分解能の解析によって、この「4Y・5Yは立方晶が何%」という単純な説明を見直す必要性が出てきました。
放射光XRDでは、3Y~5Yにt相とt′相の2種類の正方晶が見えた
Nakamuraらは、3~8 mol%のイットリアを含むジルコニアを、放射光X線回折とXAFSを用いて解析しました。
その研究で評価した未劣化試料では、3Y~5Yに2種類の正方晶、t相とt′相が確認され、c相は検出されませんでした。
一方、8Yでは明確なc相が確認されています。
さらに重要なのが、t相の割合です。
変態可能性が比較的高いt相は、イットリア量が増えるにつれて減少しました。
3Yでは83.1 mass%。
5Yでは25.3 mass%。
つまり5Yでは、「正方晶がなくなった」というより、より強く安定化されたt′相側へ大きくシフトしていると見る方が、少なくともこの研究結果には合います。
「すべての5Yに立方晶は存在しない」とまで言ってはいけない
ここは慎重に区切っておきます。
Nakamuraらが調べたのは、3~8 mol%イットリアを含む特定条件の焼結試料です。
この研究から、
「世界中のすべての市販5Y製品にはc相が絶対に存在しない」
と一般化することはできません。
言えるのは、
少なくとも従来の通常XRDをもとにした「4Yは立方晶○%、5Yは立方晶○%」という単純な説明には、高分解能の結晶学的解析を踏まえた再検討が必要になった
ということです。
これを受けてBelli氏とLohbauer氏は2026年、Journal of Dental Researchに「A Plot Twist in the Tale of Dental Cubic Zirconia—and a (Dis)course Correction」を発表し、歯科で長く使われてきた“cubic zirconia”という呼び方そのものを論じています。

過去の強度研究が無効になったわけではない
ここを混同してはいけません。
結晶相の解釈が更新されたからといって、過去の研究で実際に測定された曲げ強さ、破壊靱性、透光性、疲労特性、摩耗、臨床生存率まで無効になるわけではありません。
Zhangらが3Y、4Y、5Yで測った908、928、534 MPaという曲げ強さは、XRD相の呼び方を変えたから消える数字ではありません。
変わっているのは、
「なぜその物性になるのか」を結晶学的にどう説明するか
です。
実際、2024年のMirtらによる3Dプリントジルコニアの研究でも、5YはXRD上t相とt′相として解析されています。
材料の名前が同じでも、その材料を理解する理論は更新されていきます。
“cubic”という言葉を外しても、5Yの破壊靱性が低い理由は消えない
では、「立方晶が多いから弱い」という説明を修正すると、5Yの機械特性をどう考えればよいのでしょうか。
重要なのは、結晶相の名前そのものより、
クラック先端で応力を受けたときに相変態できる結晶が、どれだけ残っているか
です。
高イットリア化すると正方晶はより強く安定化されます。
安定しすぎれば、応力が加わっても単斜晶へ変態しにくくなる。
その結果、3Yが持っていた、
クラック発生
→応力誘起相変態
→体積膨張
→クラック進展を抑える
という機構が弱くなります。
Zhangらの研究で破壊靱性が3Y 5.0、4Y 4.0、5Y 3.3 MPa√mへ低下したことも、この方向性と整合します。
相変態しにくいことには利点もある
しかし「変態しにくい=悪い」でもありません。
3Y系では、水分が存在する比較的低温の環境下で正方晶から単斜晶への変態が徐々に進む、低温劣化、いわゆるLTDが問題となります。
Nakamuraらの研究では、LTD処理によって3Yと4Yでは単斜晶相などが生じましたが、その研究で評価された5Yでは同様の相変態は確認されませんでした。
したがって、
変態しやすいことは、3Yの高い破壊靱性を生む武器である一方、水熱環境下で相変態し得る性質でもある。
逆に、
変態しにくいことは5Yの相変態強化を弱める一方、LTDに対する安定性には有利に働き得る。
ということになります。
3Yが一方的に優秀で、5Yがその劣化版という関係ではありません。
マルチレイヤーなら「強い層+透明な層」で全部解決するのか
現在は、一枚のジルコニアディスク内で色だけでなく組成や強度まで変化させたマルチレイヤー材料が使われています。
発想は非常に合理的です。
切縁側・咬合面側には透光性の高い高イットリア層を置く。
歯頸部側には高強度の低イットリア層を置く。
天然歯に近い光学的グラデーションと、補綴物に必要な機械的強度を一枚の材料で両立させようという考え方です。
国内総説でも、切縁・咬合面側へ高透光性ジルコニア、歯頸部側へ高強度ジルコニアを配置する混合組成型が整理されています。
しかし、
「3Yと5Yを混ぜれば3Yの強さと5Yの透明感をそのまま両取りできる」
と考えると、また話を単純化しすぎます。
弱いエナメル相当層が、全層試験片の破折を支配した
Vardhamanらは5Y/4Yマルチレイヤージルコニアを層ごとに調べています。
結果は、
3Y対照:851.1±96.8 MPa
象牙質相当層:744.2±103.8 MPa
エナメル相当層:386.7±59.8 MPa
全層縦断試験片:429.8±54.0 MPa
でした。
強い象牙質相当層も含んでいるにもかかわらず、全層縦断試験片の429.8 MPaは、744.2 MPa側ではなく、弱いエナメル相当層386.7 MPa側に近い値です。
破面解析でも、全層縦断試験片の50%はエナメル相当層、30%は移行層、20%は象牙質相当層から破折していました。
つまり、
強い層がどこかに入っているからといって、補綴物全体がその層の強度になるわけではない。
しかし「層の境界が必ず弱点になる」わけでもない
一方、Inokoshiらは別の2種類の強度グラデーションジルコニアを調べています。
YMLではbody層が911~923 MPa、enamel層634 MPa。
IPS e.max ZirCAD Primeではbody層989 MPa、transition層693 MPa、enamel層535 MPaでした。
そして、複数層を横断する試験片の二軸曲げ強さはエナメル相当層とボディ相当層の中間に位置し、異なる層の界面そのものが一律に破折の弱点になるわけではないことが示されました。
ですから、マルチレイヤーで見るべきなのは単に「3Yが入っているか」「5Yが入っているか」ではありません。
どの層が、補綴物のどの位置に、どの厚みで存在するか。咬合面・切縁・連結部など、強い応力がかかる位置へどの組成が来るのか。
そこまで含めて設計を見る必要があります。

歯科技工所を出たあと、歯科医師自身がジルコニアの状態を変えている
メーカーから出荷されたディスクが、そのまま口腔内へ入るわけではありません。
切削され、焼結され、技工所で調整され、診療室でも咬合やコンタクトを調整し、研磨し、場合によっては内面をサンドブラストし、セメントで装着します。
その工程の一つひとつが材料へ影響します。
5Yは無調整377 MPaから、調整後156~168 MPaになった実験もある
Abdulmajeedらは、同一メーカーの3Y、4Y、5Yを使い、チェアサイドでのダイヤモンド調整の影響を比較しました。
無調整時の二軸曲げ強さは、
3Y:985±51 MPa
4Y:602±68 MPa
5Y:377±34 MPa
でした。
調整した後に専用システムで研磨した群では、
3Y:703±38 MPa
4Y:418±18 MPa
5Y:156±7 MPa
粗いダイヤモンドのみで調整した群では、
3Y:667±52 MPa
4Y:422±19 MPa
5Y:168±7.61 MPa
でした。
もちろん、これは1.2 mm厚の円板状試験片を使ったin vitro研究です。
臨床で5Yクラウンを少し咬合調整したら「156 MPaのクラウンになる」という意味ではありません。
しかし、
材料表に書かれた強度が、そのまま調整後の材料状態を保証しているわけではない
ことは分かります。
同研究では調整後の単斜晶相が3Yと4Yでは確認された一方、5Yでは検出されませんでした。
調整によって表面へ傷や欠陥が生じたとき、3Y・4Yでは相変態による圧縮応力が一部働き得るのに対し、5Yではその機構を使いにくい。
同じ「ジルコニアを削る」でも、材料によって意味が違います。
以前の接着修復の限界をどう読むかでも触れた通り、現在の歯科用ジルコニアは「ジルコニア」という一種類の材料として扱うには多様化しすぎています。
同じサンドブラストでも、4Yと5Yで結果が逆になることがある
ジルコニア内面の接着性を高めるため、アルミナによるairborne-particle abrasion、いわゆるサンドブラストを行うことがあります。
ところが、この処理に対する強度の反応も材料によって異なります。
McLarenらは4Y 1製品、5Y 3製品へ複数の表面処理を行い、二軸曲げ強さを調べています。
この研究では4Yがすべての表面処理条件で5Yより高強度でした。
さらに、アルミナによるサンドブラストは4Yでは強度を上げる方向へ働いた一方、5Yでは低下させました。
全16条件の平均曲げ強さは、最低464±43 MPaから最高975±89 MPaまで約2倍に広がりました。
一方、1 mm厚で測定した光透過率は5Yがおよそ34%、4Yがおよそ29%でした。
5Yは確かに光を通しやすい。
しかし表面欠陥へ対する機械的な余裕は、条件によって小さくなります。
また、Mirtらが3Dプリント3Y・5Yで行った研究でも、アルミナサンドブラストにより3Yの強度は増加し、5Yでは減少しました。その後、再生焼成(regeneration firing)を行うと、両材料とも概ね焼結直後の強度へ戻っています。

ですから、
「ジルコニアはサンドブラストすればよい」
ではありません。
どの組成の、どの製品へ、何µmの粒子を、どの圧力・距離・時間で、何の目的で行うのか。
メーカー使用説明書(IFU)まで含めて判断する必要があります。
材料が500MPaなら、クラウンも半分の強さ――ではない
ここまで曲げ強さを大量に見てきました。
では、500 MPaの5Yは1000 MPaの3Yの半分しか噛む力に耐えられないのでしょうか。
そう単純にはなりません。
材料試験の曲げ強さと、完成したクラウンの破折抵抗は別のものだからです。
曲げ強さはMPaです。
一方、実際のクラウン形態を作り、支台へ装着して荷重を加える試験では、破折荷重をNで評価することがあります。
クラウンという構造物になれば、材料、厚み、咬合面形態、支台形態、セメント、接着、荷重方向、内面の欠陥がすべて関与します。
厚みと接着で、5Yクラウンの破折荷重は大きく変わる
Chenらは3Yと5Yの小臼歯クラウンを作り、材料厚みと装着条件を比較しました。
0.5 mm厚の3Yクラウンは639.30±111.77 N。
1.0 mm厚3Yは1378.10±143.22 Nでした。
一方5Yでは、
0.8 mm厚+アルミナ処理+レジンセメント:635.89±78.00 N
1.0 mm厚+レジンセメント:980.10±123.50 N
1.2 mm厚+レジンセメント:1272.44±97.78 N
でした。
この研究では、0.8 mm厚5Y群はいずれも0.5 mm厚3Y群より統計学的に低いとは判定されず、1.0 mm厚3Yに対しては1.2 mm厚5Y+レジンセメント群のみが同程度の破折荷重を示しました。
もちろん、この一つのin vitro研究から「5Yは0.8 mmあればよい」「1.2 mmなら3Yと同じ」と臨床の最低厚みを決めることはできません。
しかし、
3Yが900 MPa、5Yが500 MPaだから、5Yクラウンは3Yクラウンの約半分しか耐えない
という単純計算が成立しないことはよく分かります。
材料のMPaと、補綴装置全体のNを直結させてはいけません。
ISOの材料適応と「実際に何年もったか」は同じ証拠ではない
ここから臨床の話へ移ります。
新しいジルコニア材料を考えるとき、ISO 6872は重要です。
2026年9月現在、発行済みの現行規格はISO 6872:2024です。
BernauerらはこのISO基準と文献の曲げ強さを照合し、全体として4Y-PSZは3ユニットFDP、5Y-PSZについては前歯部3ユニットFDPへの使用を支持する、という慎重な結論を示しました。
ただし、ここでISOと臨床研究を混同しないことが重要です。
ISOに基づく分類は、規格化された材料試験から臨床適応を整理するものです。
一方、臨床研究は、
特定の製品を
特定の形態で
特定の厚みにし
特定の支台歯へ
特定のセメントで装着し
選択された患者を追跡した結果
です。
したがって、
「臼歯部で5Yが3年間100%生存した研究がある」=「すべての5YがISO上、臼歯部ブリッジに無条件で適応できる」
ではありません。
この二つは証拠の種類が違います。
それでもなぜ前歯に5Yを使うのか――「最強」を選ぶことが補綴治療ではない
ここまで読むと、5Yの機械的な弱点ばかりが目立ちます。
それでも5Yが前歯部で使われる理由は、ある意味では単純です。
補綴治療は、一番大きなMPaの材料を選ぶ競技ではないからです。
臨床で必要なのは、
その症例に必要な機械的安全性を確保しながら、必要な審美性、厚み、歯質削除量、接着、咬合条件を満たすこと
です。
前歯部単冠に、長い臼歯部ブリッジと同じ機械的余裕が常に必要とは限りません。
逆に「前歯だからきれいな5Y」と審美性だけで材料を決めるのも違います。
必要なのは、適応条件を満たす範囲の中で材料を選ぶことです。
5Yノンプレップベニアでは良好な2年成績が報告された
2025年には、5Y-TZPを用いた超薄型ノンプレップベニア201枚の後ろ向き研究が報告されています。
30患者を対象とした単一コホートで、24か月時点の生存率は99.5%、脱離0件、破折率0.5%でした。
良好な数字です。
しかし、対照群はありません。
単施設・短期の症例集積であり、特定製品、特定の接着プロトコル、選択された症例での結果です。
したがって、
「5Yベニアは長期的にも99.5%成功する」
とは言えません。
ここから言えるのは、
選択された症例と特定プロトコルのもとで、5Y超薄型ベニアが良好な短期成績を示した
というところまでです。
ノンプレップベニアそのものについてはノンプレップベニアの解説を、実際の材料選択や咬合についてはノンプレップベニアの臨床経験と咬合でも詳しく触れています。
4Y・5Yの臨床データは「ほとんどない」から、少しずつ次の段階へ進んでいる
数年前まで、高透光性4Y・5Yについては長期臨床データが不足していることが大きな問題でした。
2024年の三浦氏の国内総説でも、4Y・5Yによる臨床報告はまだ少なく、長期予後は不明であると整理されています。
これは2024年時点として妥当な説明でした。
しかし2026年現在、そこから少し状況が変わっています。
4Yの臼歯部3ユニットFDPに5年RCTが出た
2026年に発表された多施設ランダム化比較試験では、4Y-TZPによる臼歯部3ユニットFDPを、モノリシック、部分前装、全面前装の3群に分け、5年間追跡しています。
5年生存率は、
モノリシック:94.7%
部分前装:100%
全面前装:100%
でした。
技術的合併症は前装群にのみみられ、部分前装33%、全面前装38%で軽微なチッピングが生じました。一方、モノリシック4Yではチッピング・材料破折は記録されませんでした。
これは4Yの臨床データとして重要です。
ただし、すべての4Y製品の5年成績を証明したわけではありません。
特定材料、特定設計の3ユニット臼歯部FDPを評価したRCTです。
5Yの臼歯部3ユニットFDPでも3年データがある
5Yでも、臼歯部3ユニットFDP 22装置を対象とした前向きパイロット研究があります。
3年時点で21名が評価され、生存率は100%。
機械的合併症は0件でした。
一方で生物学的合併症が3件あり、いずれも処置によって機能障害を残さず管理されています。
かなり興味深い結果ですが、22症例の単群パイロット研究です。
したがって、
「5Yなら臼歯ブリッジでも問題ない」
と一般化する研究ではありません。
むしろ、
5Yを臼歯部の複数歯補綴へ使った臨床データが、少数ながら実際に蓄積し始めている
と読むべきでしょう。
5Y後方歯修復では5年データも出た
さらに2026年には、後方歯修復を約5年間追跡した研究も発表されています。
38患者に合計65修復物が装着され、その内訳は5Y-PSZクラウン32本、5Y-PSZ部分被覆修復16本、二ケイ酸リチウム冠17本でした。
観察期間中央値60か月で、5Y-PSZを含む全65修復物に交換はなく、全修復物での生存率は100%でした。
5Y-PSZ部分被覆修復1本には小さなセラミック破折が生じましたが、研磨で対応されています。
これも「5Y一般の長期予後が証明された」という意味ではありません。
5Y後方歯修復の臨床エビデンスは、依然として限定的です。
ただ、2026年9月現在、
「4Y・5Yには臨床データがほとんどない」
とだけ書くのも、もう少し古い説明になりつつあります。
より正確には、
4Y・5Yにも3~5年の臨床成績が出始めている。ただし製品数、症例数、追跡期間はまだ十分とは言えず、3Yと同じ厚さのエビデンスがあるわけではない。
という段階でしょう。
「5Yは弱い」と「5Yはすり減りやすい」も同じ意味ではない
もう一つ、材料の言葉で混同しやすいものがあります。
- 曲げ強さ
- 破壊靱性
- 硬さ
- 摩耗
- 対合歯摩耗
これらは別の物性です。
5Yの曲げ強さや破壊靱性が3Yより低いからといって、5Y自体がすぐにすり減るという意味ではありません。
5Y-ZPを対合材として行った摩耗試験では、この実験条件下で5Y-ZP自体の摩耗量は小さく、リチウムジシリケートより高い耐摩耗性を示しました。
もちろんin vitroの摩耗試験ですから、その数字をそのまま口腔内の年間摩耗量へ変換することはできません。
ここで言いたいのは、
「弱い」という一語に、曲げ強さ・破壊靱性・硬さ・耐摩耗性を全部押し込めてはいけない
ということです。
ジルコニアと対合歯摩耗については、ジルコニアは対合歯を摩耗させるのか?でも詳しく解説しています。
では3Y・4Y・5Yを、臨床でどう読むのか
最後に、実際の材料選択へ戻ります。
① まずY量を見る
3Y、4Y、5Yという情報は重要です。
3Yは一般に、相変態強化と機械的余裕を重視する側。
5Yは一般に、高透光性を重視する側。
4Yはその中間的な設計思想を持つ材料が多い。
この入口は今後も使えます。
② 次に製品を見る
しかし同じ5Yだから同じ強度ではありません。
単一組成なのか、マルチレイヤーなのか。
メーカー公称値はいくつなのか。
独立研究ではどの程度の強度が出ているのか。
そこまで確認します。
③ マルチレイヤーなら、ディスク内での切削位置を見る
何Yが含まれているかだけでは足りません。
クラウンの咬合面、前歯の切縁、ブリッジの連結部が、ディスクのどの層から切り出されるのか。
強度グラデーション材では重要な情報です。
④ 必要な厚みを確保できるかを見る
強度の低い材料ほど、厚みや補綴設計の影響が大きくなります。
審美性を優先して高透光材料を選んでも、必要な厚みを確保できない症例であれば話は変わります。
⑤ 支台歯と補綴設計を見る
単冠か。
3ユニットFDPか。
長いスパンか。
連結部の高さと幅を確保できるか。
咬合力はどこへかかるか。
「材料」だけではなく「構造物」を設計します。
⑥ 調整量と表面処理を見る
装着時に大幅な咬合調整が必要になりそうなのか。
内面へサンドブラストを行うのか。
その処理は対象製品のメーカー使用説明書で認められているのか。
ここまで含めて材料選択です。
⑦ 接着か合着かを見る
レジン接着による支持を期待する薄い修復なのか。
従来型のクラウンのように保持形態を利用して合着するのか。
Chenらの研究が示すように、材料厚みと装着方法は完成クラウンの破折抵抗へ影響します。
⑧ 最後にIFU、ISO、独立研究、臨床データを重ねる
最終的には、
Y量
→ 製品
→ 層
→ 厚み
→ 補綴設計
→ 調整・表面処理
→ 接着/合着
→ メーカー使用説明書・ISO・独立研究・臨床成績
という順番で考えるのが分かりやすいと思います。

まとめ――3Y・4Y・5Yは「答え」ではない。しかし非常に重要な「入口」である
冒頭の質問へ戻りましょう。
5Yは570MPaなのでしょうか。
78研究をまとめた平均値は570±116 MPaでした。
ですから、
5Yは4Yより一般に低強度である
という説明には根拠があります。
しかし、
目の前にある5Yクラウンが570MPaである
という意味ではありません。
同じ5Yでも製品が違えば強度は変わります。
単一組成かマルチレイヤーかでも違います。
ディスクのどの層かでも違います。
加工方法、表面処理、試験法でも数字は変わります。
咬合調整すれば材料表面の状態は変わります。
厚みや接着条件が変われば、完成したクラウンの破折抵抗も変わります。
そして2026年には、
「5Yは立方晶が多いcubic zirconiaだから透明になる」
という長年の説明そのものも、より高分解能なt相・t′相の理解を踏まえて再検討されるようになりました。
だからといって、3Y・4Y・5Yという分類が無意味になったわけではありません。
むしろ反対です。
3Y・4Y・5Yは、今でも最初に確認するべき重要な情報です。
ただし、その数字を見たところで思考を止めない。
その先にある、
製品、微細構造、層、厚み、加工、表面処理、接着、補綴設計、そして臨床エビデンス
までを見る。
そこまで見て初めて、
「この症例に、このジルコニアを使う」
という判断になるのだと思います。
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