2026年10月31日

(受付さんの備忘録)

はじめに|AIに「うちの子は虫歯になりやすい?」と聞いてみたら
「うちの子、毎日歯磨きをしているけれど、虫歯になりやすいのでしょうか?」
子どもの虫歯予防について、保護者の方が気になることはたくさんあります。
歯磨きは1日何回すればいいのか。フッ化物配合の歯磨き粉はどれを選べばいいのか。おやつを食べる回数は多すぎないか。定期検診には何か月ごとに行けばいいのか。
今は、こうした疑問をインターネットで調べるだけでなく、ChatGPTやGeminiなどのAIに直接質問することもできる時代になりました。
例えば、こんな場面を考えてみてください。
5歳のお子さんがいる保護者の方が、AIに普段の食生活や歯磨きの習慣を伝えて、「虫歯になりやすい子でしょうか?」と質問します。すると、AIから「お子さんは虫歯リスクが高い可能性があります」という回答が返ってきました。
そう言われたら、やはり心配になりますよね。そして、もう少し詳しく聞いてみたくなると思います。
「では、次の歯科検診はいつ行けばいいですか?」
「歯磨き粉を変えた方がいいですか?」
「フッ素塗布は何か月ごとに受ければいいですか?」
「奥歯にシーラントをした方がいいのでしょうか?」
AIはこうした質問にも、すぐに文章で回答してくれます。説明が分かりやすく、専門的な言葉も含まれていると、なんとなく信頼できるように感じるかもしれません。
でも、ここで少し考えてみたいことがあります。
「虫歯になりやすい」と分類することと、「その子に必要な予防法」を適切に案内することは、本当に同じ能力なのでしょうか。
2026年10月27日、国際学術誌『BMC Oral Health』に、この違いを調べた興味深いAI比較研究が公開されました[1]。
研究では、5種類のAIに12パターンの小児歯科症例を提示し、虫歯リスクの分類、受診間隔、フッ化物応用、食事指導、シーラント、修復処置について回答させました。
その結果、リスク分類では比較的良好な成績を示した一方で、具体的な予防計画を提案する段階になると、完全な回答の割合が大きく下がる項目がありました。さらに、フッ化物、食事指導、シーラントでは、相対的に高い成績を示すAIも異なっていたのです。
しかも、全体の評価を詳しく調べると、「完全な不正解」よりも「部分的には正しいけれど、不完全な回答」が多いことも分かりました。
今回は、この研究を詳しく読みながら、AIに子どもの虫歯予防を相談するときに気をつけたいこと、AIから得た情報を実際の歯科受診へどう生かせばよいのかを、受付の立場から考えてみたいと思います。
5種類のAIに12症例を提示――「1,080評価」の正体とは?
2026年10月27日公開の小児歯科AI比較研究
今回の中心となる論文は、次の研究です。
Artificial intelligence in pediatric dentistry: are chatbots aligned with AAPD caries risk assessment guideline?
日本語にすると、「小児歯科における人工知能――チャットボットはAAPDのう蝕リスク評価ガイドラインに沿っているのか?」という意味になります。
著者は、トルコのAnkara Yıldırım Beyazıt Universityに所属するEsra Ceren Tuğutlu氏とZeynep Betül Arslan氏です。論文の公開日は2026年10月27日ですが、実際にAIへ質問したのは2026年1月5日、6日、7日の3日間でした。
研究者が評価したのは、論文に記載された名称で、ChatGPT 5.2(Plus)、ChatGPT 4o(Free)、Microsoft Copilot、Google Gemini 1.5、Claudeの5種類です。
いずれも、文章で質問すると文章で回答するチャット型AIです。歯科用X線写真から虫歯を検出する専用AIや、口腔内写真を自動解析する装置の性能を比較した研究ではありません。
また、研究対象は2026年1月に研究者が使用したシステムです。各サービスはその後も更新されるため、今回の結果が現在利用できる同じブランドのAIの性能を示すわけではありません。Geminiのモデル名には、研究実施日との整合性について確認が必要な点もあります。これについては後ほど説明します。
実際の子どもを診察した研究ではない
研究者は、米国小児歯科学会(American Academy of Pediatric Dentistry:AAPD)のう蝕リスク評価・管理指針を基に、12種類の架空の小児患者プロフィールを作成しました[1、2]。
年齢は3〜15歳で、低リスク2症例、中リスク4症例、高リスク6症例という内訳です。0〜5歳用の評価表に対応する症例が6例、6歳以上の評価表に対応する症例が6例でした。
それぞれの症例には、歯磨き、フッ化物の使用、糖分を含む飲食物の摂取、歯科受診歴、虫歯や修復処置の所見、口腔内装置、服薬状況などが設定されていました。
つまり、1,080人の実際の子どもを診察した研究ではありません。
AIが子どもたちを長期間追跡して、将来の虫歯発生を予測できたかを調べた研究でもありません。あくまで、研究者が設定した分類とAAPDの指針に、AIの回答がどの程度一致するかを評価しています。
AIへ質問したのは180回。なぜ1,080という数字になる?
12症例を5種類のAIに提示し、これを3日間繰り返したため、AIの応答は「12症例×5種類×3日間=180回」です。
研究者は、180回の応答それぞれを、次の六つの項目で採点しました。
① う蝕リスク分類。 低・中・高リスクを適切に判断したか。
② 定期診察・X線検査の推奨頻度。 診察と撮影について、適切な間隔を提案したか。
③ フッ化物応用。 リスクや年齢に応じた予防方法を説明したか。
④ 食事指導。 AAPDの食事指導方針に沿った内容を示したか。
⑤ シーラント。 奥歯の溝を保護する処置の推奨が適切だったか。
⑥ 修復処置。 既に虫歯がある場合の対応が指針に沿っていたか。
したがって、「180回のAI応答×6評価項目=1,080評価記録」となります。
論文の抄録には1,080 responsesという表現がある一方、研究方法の欄には1,080 recordsという計算式が示されています。今回の記事では、混乱を避けるため「1,080評価記録」と表現します。

完全回答・部分正答・不正解の3段階で評価
AIの回答は、AAPDの2025年版参考資料に照らして0点、1点、2点で採点されました。
2点は、ガイドラインに十分一致した「正答・完全回答」。
1点は、一部正しいものの、不完全だったり、誤りや情報不足が含まれたりする「部分正答」。
0点は、ガイドラインに一致しない、または必要な情報がない「不正解」。
採点の中心となったのは臨床経験10年の小児歯科医で、評価時にはAI名が伏せられ、判断に迷った場合は研究者間で検討されました。
AIには最初からAAPDのう蝕リスク評価・管理指針と2025年版食事指導方針を参照するよう指示しています[2、14]。ガイドラインを示さず、保護者が自由に質問した場合の性能ではないことも覚えておきたい点です。

高リスク症例が半数を占めていた
12症例の内訳は、低リスク2例、中リスク4例、高リスク6例。高リスク症例が半数を占めていました。
一般的な小児患者集団のリスク分布を再現した研究ではありません。また、各AI・各項目の評価数が36件でも、36人の異なる子どもを評価したわけではありません。
そのため、今回の完全回答率をそのまま「一般の子どもたちに対するAI相談の正答率」と読み替えることはできません。これは、同じ12症例を繰り返した特定条件での評価です。
虫歯が見えなくても「高リスク」?研究で用意された子どもの症例
同じ3歳児でも、一人は低リスク、もう一人は高リスク
AIの成績を見る前に、12症例の一部をご紹介します。
症例1は、低リスクと設定された3歳の男の子です。定期的に歯科医院へ通い、フッ化物配合歯磨剤で1日2回歯を磨き、砂糖を加えた飲み物を哺乳瓶で飲む習慣はありません。母親には活動性の虫歯がなく、本人にも目に見える虫歯や歯垢は認められませんでした。
一方、症例4も3歳の男の子です。定期受診をしており、1日2回歯磨きをし、目に見える虫歯や歯垢はありません。
ところが、研究者が設定した分類は高リスクでした。
この子には、間食時に糖分を含む食品を1日に3回を超えて摂取する習慣があり、母親にも活動性の虫歯がありました。また、歯磨剤はキシリトール含有とされていましたが、フッ化物配合とは確認できない設定でした。
つまり、二人とも「1日2回磨いている」「目に見える虫歯がない」という共通点があっても、ほかの条件が異なっていたのです。
母親に虫歯があるだけで子どもが必ず虫歯になるわけではありませんし、家庭を責めるための評価でもありません。生活習慣や健康状態、予防へのアクセスなどを把握し、必要な支援を考えるための情報です。

矯正装置を使っている9歳児は中リスク
症例9は、上顎の歯列を広げる矯正装置を使用している9歳の男の子です。フッ化物配合歯磨剤で1日2回歯を磨き、糖分を摂取する頻度にも気をつけています。検査では虫歯が認められませんでした。
それでも、研究では中リスクの設定でした。
AAPDの6歳以上の評価表では、口腔内装置を使用していることもリスク要因に含まれます[2]。装置によっては周囲が磨きにくくなることがありますが、矯正中の子ども全員が高リスクという意味ではありません。装置の種類、清掃状態、食生活などを総合して考えます。
虫歯のない8歳児にも高リスクの設定がある
症例12は8歳の女の子です。歯磨きや歯科受診が不規則で、間食時の糖分摂取が多く、複数の永久歯にエナメル質形成異常がありました。
明らかな虫歯は認められませんでしたが、研究者は高リスクと設定しました。
「今は虫歯がない」ことと、「将来も虫歯になりにくい」ことは同じではありません。そして、こうした所見には歯科医師が実際に診察しなければ分かりにくいものもあります。
今回の研究では、研究者が必要な情報をあらかじめ文章で準備していました。家庭でAIに尋ねる場合、同じように情報をそろえられるとは限りません。
虫歯になりやすさに関係する要因については、当院の「虫歯になりやすいのはどんな人?歯磨きしているのに虫歯ができる原因・体質・唾液・食生活と予防法」でも詳しく紹介しています。
虫歯リスクの分類では、AIは比較的良好な成績だった
最も高い完全回答率はGeminiの91.7%
それでは、研究の結果を見ていきましょう。最初は、う蝕リスクを低・中・高のどれに分類するかという項目です[1]。
ChatGPT 5.2(Plus):63.9%(36評価中23件)。
ChatGPT 4o(Free):66.7%(36評価中24件)。
Copilot:83.3%(36評価中30件)。
Gemini:91.7%(36評価中33件)。
Claude:83.3%(36評価中30件)。
今回の研究では、Geminiの完全回答率が最も高い結果でした。5種類を合わせると180評価中140件が完全回答となり、全体の77.8%です。ほかは部分正答13件、不正解27件でした。
ただし、同じ症例を3日間繰り返した数値です。180人の独立した患者を調べたわけではありません。

p=0.053は「AIの性能が全部同じ」という意味ではない
数値だけを見るとGeminiとChatGPT 5.2には差があるように思えますが、研究のAI間比較ではp=0.053となり、設定された有意水準0.05では統計学的に有意な差は確認されませんでした。
これは、5種類のAIが完全に同じ性能だと証明したことではありません。今回の症例数と評価方法で、有意差を検出できなかったという意味です。
しかも各AIの評価数は36件なので、数件の違いで割合が大きく変化します。AIの優劣を単純に決めることはできません。
有料版だから必ず正確というわけでもない
今回比較されたChatGPT 5.2はPlus環境、ChatGPT 4oは無料環境でした。う蝕リスク分類の完全回答率はそれぞれ63.9%と66.7%です。
ただし、料金だけでなくモデル自体が異なり、リスク分類のAI間比較で有意差も確認されていません。ここから「有料版の方が劣っていた」と断定することはできません。
料金やモデル名だけで、特定の医療相談への正確さが保証されるわけではない、という点に注目したいと思います。
91.7%は将来の虫歯を予測した精度ではない
もう一つ、必ず区別したいことがあります。Geminiの91.7%は、研究者が設定したリスク分類への完全一致率です。
実際の子どもが将来虫歯になるかを91.7%の精度で予測できた、という意味ではありません。
虫歯リスク評価は、予防管理を考えるための出発点です。その次の受診時期や予防処置について、AIはどう回答したのでしょうか。
「次にいつ歯医者へ行く?」では、AIの完全回答率が大きく下がった
受診・X線検査の推奨では完全回答率19.4〜55.6%
今回の研究で特に注目したいのが、定期診察とX線検査の推奨間隔です。リスクに応じた次の診察や撮影の頻度を、AAPDの指針に沿って案内できるかが評価されました。
ChatGPT 5.2:19.4%。
ChatGPT 4o:25.0%。
Copilot:30.6%。
Gemini:55.6%。
Claude:33.3%。
5種類を合計すると、180評価中59件が完全回答で、32.8%です。リスク分類の77.8%に対して低い割合でした。AI間の差はp=0.013で、統計学的に有意と報告されています。
ただし研究は、診察間隔とX線検査間隔を一つの評価項目として採点しています。それぞれ独立した完全回答率は公表されていません。
同じGeminiでも91.7%と55.6%
Geminiのう蝕リスク分類は36評価中33件で91.7%。一方、診察・X線検査の計画は36評価中20件で55.6%でした。
ChatGPT 5.2でも、リスク分類の完全回答率63.9%に対して、診察・X線計画では19.4%でした。
これらは評価項目ごとの集計であり、「リスク分類に正解した同じ症例について、続く受診計画を誤った」という個別の対応関係を直接示してはいません。
それでも、リスクを三つに分類することと、年齢や所見を踏まえて管理計画を立てることには、異なる難しさがあると考えられます。
AAPDの管理表に書かれた間隔とは
AAPDの2025年版参考資料には、う蝕リスクに応じた管理経路の例が掲載されています[2]。
定期診察は、低リスクで6〜12か月、中リスクで6か月、高リスクで3か月。X線検査の目安は、それぞれ12〜24か月、6〜12か月、6か月と例示されています。
ただし、これは米国の管理経路の例であり、日本の子ども全員に機械的に当てはめる指示ではありません。
特にX線検査は、撮影で得られる情報と被ばくを考慮して必要性を判断します。米国歯科医師会(ADA)が2026年1月に発表した新たな推奨でも、病歴、既存の画像、現在の診察所見を確認し、臨床的に必要なときに撮影するという考え方が示されています[3]。

「AIに3か月ごとと言われたのですが」と相談しても大丈夫
「AIから高リスクと言われたので、どのくらいの間隔で歯科医院へ通うべきか相談したいです」
こうした伝え方で構いません。受付では、なぜ受診を考えたのかが分かることが大切です。
そのうえで、お口の中の状態を確認し、歯科医師が必要な診察や予防管理を判断します。AIの回答だけで、次回の受診間隔やX線撮影を確定するものではありません。
フッ化物・食事指導・シーラント――得意なAIが入れ替わった
フッ化物応用ではClaudeの完全回答率が相対的に高かった
フッ化物は虫歯予防に重要な役割を果たします。家庭のフッ化物配合歯磨剤だけでなく、歯科医院でのフッ化物歯面塗布など複数の応用方法があります。
今回の研究で、フッ化物応用に関する完全回答率は、ChatGPT 5.2が11.1%、ChatGPT 4oが13.9%、Copilotが5.6%、Geminiが8.3%、Claudeが36.1%でした[1]。
Claudeが最も高い結果でしたが、36評価中13件です。AI間の差はp=0.010で有意と報告されています。
これはClaudeがすべてのフッ化物相談で最も正確だという証明ではありません。今回の特定条件下で相対的に完全回答率が高かった、という意味です。
食事指導ではClaudeが約66.7%、Geminiが0%
さらに大きな差が認められたのが食事指導です。
Claudeは36評価中24件が完全回答で、計算上は約66.7%に相当します(原著の表記は66.6%)。
一方、Geminiの完全回答は0件でした。ChatGPT 5.2は8.3%、ChatGPT 4oは13.9%、Copilotは5.6%です。AI間の比較ではp<0.001と報告されています。
リスク分類で91.7%を示したGeminiが、食事指導では完全回答0%。とても意外な結果に見えます。
ただし、この「0%」には重要な続きがあります。Geminiの食事指導36件は、すべて「部分的に正しい回答」と判定され、完全な不正解は0件だったのです。
シーラントではGeminiとCopilotが80.6%
シーラントは、主に奥歯の噛む面の細い溝を歯科用材料で保護し、虫歯の発生を予防する処置です。
今回の研究では、シーラントの完全回答率はGeminiとCopilotがともに80.6%、Claudeが61.1%、ChatGPT 5.2とChatGPT 4oがともに55.6%でした。AI間の差はp=0.006でした。
食事指導ではClaudeの完全回答率が高かったのに、シーラントではGeminiとCopilotが高い結果となりました。
ただし、シーラントの適応はリスク区分だけで決まりません。日本小児歯科学会の2025年ガイドラインは、主に健全な乳歯と幼若永久歯の咬合面への予防的な使用を対象にしています[6]。歯の状態や萌出状況などを確認して判断します。
また今回のAI研究では、シーラントの材料選択や実際の臨床成績を独立して検証したわけではありません。
修復処置でも完全回答率は100%には届かなかった
今回の研究には修復処置の推奨も含まれます。完全回答率はChatGPT 5.2が47.2%、ChatGPT 4oが50.0%、Copilotが55.6%、Geminiが50.0%、Claudeが66.7%でした。
AI間に統計的な有意差は確認されませんでした(p=0.480)。しかし、完全回答率が100%のAIもありません。
子どもの修復処置には、虫歯の状態、乳歯と永久歯の違い、年齢、協力度などが関係します。今回の記事の主題は予防ですが、修復処置においても個別の判断が必要なことが分かります。

一つの総合ランキングにはできない
あるAIの食事指導が相対的に良かったからといって、フッ化物やシーラントまで一番優秀とは限りません。
しかも、必要な説明が抜けていることと、不要な検査を勧めることを、同じ重みの問題として扱うことはできません。
「どのAIが一番頭がいいか」だけでなく、「その回答は何を根拠にし、どこまで必要な条件を確認しているか」を考えることが重要です。
「食事指導の完全回答0%」でも、全部が不正解だったわけではない
Geminiの36件はすべて部分正答
ここは今回の研究を読むうえで、特に大切なところです。
Geminiの食事指導は、完全回答0件、部分正答36件、不正解0件でした[1]。
つまり、完全回答率0%と、すべてが完全な誤回答だったことは同じではありません。
もっとも、部分正答の中には、情報不足だけでなく誤った内容を含む場合もあります。そのため「部分正答なら安全に使える」とも言えません。

1,080評価記録では部分正答が最多
原著のTable 2〜5に掲載された数値を再集計すると、次のようになりました。
完全回答は477件(44.2%)。
部分正答は514件(47.6%)。
不正解は89件(8.2%)。
最も多かったのは部分正答です。ただし、この集計にはリスク分類、受診・X線計画、修復処置も含まれます。「予防法だけの正答率が44.2%」と言い換えることはできません。
また、分母は独立した患者数ではなく、同じ仮想症例を繰り返し採点して得た評価記録数です。

フッ化物・食事指導では不完全な回答が多かった
フッ化物応用は180評価中、完全回答27件、部分正答150件、不正解3件。
食事指導は180評価中、完全回答34件、部分正答146件、不正解0件でした。
一方、シーラントは完全回答120件、部分正答46件、不正解14件でした。
なぜ差が出たのかについて、著者らは、シーラントの推奨には比較的明確な条件がある一方、食事指導やフッ化物応用では年齢や生活状況など複数の情報を総合する必要があると考察しています。
ただし、今回の論文には、各AIが全症例で何と回答し、具体的にどの説明が不足して減点されたかを十分に再検証できる個別データは掲載されていません。
「このAIは糖分摂取の頻度を書き忘れた」「あのAIはフッ化物濃度を必ず間違えた」といった具体的な失敗内容を、原著から断定することはできません。
自然な文章と十分な予防計画は違う
例えば「甘い物を控え、毎日歯を磨き、フッ化物を利用しましょう」という説明は、一般論として違和感のない助言かもしれません。
でも、実際に知りたいのは「何歳の子に、どの濃度の歯磨剤を、どれくらい使うのか」「どの歯にシーラントが必要なのか」「次の診察では何を確認するのか」といった、より具体的なことではないでしょうか。
AIが自然で分かりやすい文章を返していても、その子に必要な条件がすべてそろっているとは限りません。
なぜ「虫歯になりやすい」と分かるだけでは、予防法が決まらないのか?
AAPDはリスク要因・防御因子・病変を総合して判断する
AAPDのう蝕リスク評価では、糖分の摂取頻度、目立つ歯垢、歯の形成異常、口腔内装置、唾液量、虫歯の病歴などを確認します。
一方、フッ化物配合歯磨剤の使用、専門家によるフッ化物応用、定期的な歯科受診などは防御因子として扱われます[2]。
大切なのは、チェック項目を機械的に足し引きするだけではないことです。AAPDは、リスク要因と防御因子、疾病を示す所見のバランスを見て、臨床判断で重み付けすることも認めています。
同じ「高リスク」でも、改善する内容は違う
例えば、同じ高リスクの子どもでも、一人は砂糖入り飲料を繰り返し飲む習慣が中心の問題かもしれません。もう一人は、矯正装置の周囲が磨きにくく、フッ化物の利用が十分でないことが問題かもしれません。
両者に共通する基本的な予防はありますが、重点的に改善する内容は異なる場合があります。「高リスクだから全部の予防処置を増やす」という単純な話ではありません。
予防計画を立てた後にも見直しが必要
現在の虫歯の状態や、初期の白い病変の活動性、歯の生え替わり、生活習慣などは変わっていきます。
一度リスクを評価した後も、必要な予防を実施し、その後の所見を確かめて管理を見直すことが大切です。

日本の矯正患者44人を対象にしたCAMBRA研究
2025年、『日本歯科保存学雑誌』に、菅井琳太朗氏らの研究が掲載されました[8]。
昭和医科大学歯科病院の矯正歯科患者44人を対象に、CAMBRAというう蝕リスク評価に基づいた予防管理を行い、ICDASという指標を使って歯の状態を再評価した後ろ向き研究です。
対象年齢は12〜60歳で、平均年齢は24歳。小児だけを対象とした研究ではありません。
問診、口腔清掃状態、唾液の量や緩衝能、細菌検査などを利用してリスクを評価し、必要な予防を考え、その後に歯の状態を確認する流れが示されています。
44人中23人では、少なくとも1歯面のICDASコードの増加が認められました。著者らは管理の有効性が示唆されたと述べていますが、無介入の比較群はありません。この研究だけでCAMBRAによる虫歯減少効果を証明したとは言えません。
今回のAI研究とは別の研究ですが、リスク分類で終わるのではなく、その後の状態を確かめて管理を続けることの意味を考えられます。
日本の調査でも「フッ化物を知っている」と「適切に使える」に差があった
日本の小児383人を対象とした歯磨剤調査
ここで、AI研究から少し離れて、日本の子どもたちの歯磨剤利用状況に関する研究を見てみましょう。
2021年、『小児歯科学雑誌』に中内彩乃氏らによる「千葉県内の小児歯科診療所に来院した患児における歯磨剤の利用状況に関する調査」が掲載されました[4]。
研究では、2018年5月〜2020年4月に小児歯科を受診した13歳未満の383人について、保護者へのアンケートを行っています。
調べたのは、歯磨剤の種類や使用量、フッ化物の効果への理解、使っている歯磨剤のフッ化物濃度をどの程度把握しているかなどです。
効果を知っている人は81.8%、でも濃度は?
フッ化物の効果・効能について「知っている」「少し知っている」と答えた人は313人で、81.8%でした。
商品名などから濃度を確認できた333人のうち、フッ化物配合歯磨剤を使用していたのは295人、88.6%です。
一方、使用している歯磨剤のフッ化物濃度が「分からない」と回答した割合は、3〜5歳で54.4%、6〜12歳で53.0%でした。
フッ化物が虫歯予防に役立つと知っていても、何ppmFの製品を使っているかまでは把握していない場合があったのです。

当時の推奨に濃度と使用量の両方が合っていた割合
この研究では、当時の日本口腔衛生学会の推奨に照らして、濃度と使用量の両方が適切だった割合も示されています。
0〜2歳では9.5%、3〜5歳では1.0%、6〜12歳では10.5%でした。
この数字だけを見ると驚くかもしれませんが、現在の日本の子どもたちの適合率を表すものではありません。
調査は2018〜2020年に実施され、当時の推奨で判定されています。日本では2023年にフッ化物配合歯磨剤の年齢別推奨が更新されました。また、調査対象は一つの小児歯科医療機関の受診者であり、日本全国を代表する集団ではありません。
したがって「いまの3〜5歳児の99%が間違っている」と解釈することはできません。
それでも、効果について知っていることと、適切な濃度・量で実際に使えることは別だと考える材料になります。
AIの知識と保護者の実践を直接比較した研究ではない
今回のAI研究ではリスク分類と予防計画の完全性に差があり、日本の保護者調査ではフッ化物の知識と使用実態に違いが見られました。
ただし、二つの研究の対象も方法も異なるため、同じ原因があると証明されたわけではありません。
共通して考えたいのは、「知っている」ことと「その子に適切な方法で実行できる」ことは同じではないという点です。
米国の予防ガイドラインを、日本の子どもにそのまま使える?
日本には年齢別のフッ化物配合歯磨剤の推奨がある
今回のAI比較研究は、米国AAPDの2025年版参考資料を評価基準にしています。
しかし、日本で子どもの予防管理を考えるときには、国内の推奨や使用可能な製品、診療環境も確認する必要があります。
2023年1月、日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会の4学会が、フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法を公表しました[5]。
歯が生えてから2歳まで: 900〜1,000ppmFの歯磨剤を米粒程度、1〜2mmほど使います。
3〜5歳: 900〜1,000ppmFをグリーンピース程度、約5mm使います。
6歳以上: 1,400〜1,500ppmFを歯ブラシ全体、1.5〜2cm程度使う方法が推奨されています。
いずれも就寝前を含む1日2回の歯磨きを基本とし、年齢に応じた吐き出し方やうがいの方法も示されています。乳幼児では保護者が使用量を管理し、大量に飲み込まないよう注意することも必要です。
ここで紹介した数字は日本の2023年合同提言のものです。現在の子どもの歯磨剤の選び方については、当院の「子どもの歯磨き粉は何歳から大人用?6歳からのフッ素濃度と使う量の目安」でも詳しくご案内しています。
「フッ化物配合歯磨剤を使いましょう」という一般的な助言があっても、年齢や製品によって確認したいことが変わるのです。

「フッ素入り」でも、濃度が分かりにくい製品がある
この点を考えるうえで、2026年6月3日にJ-STAGEで公開された国内の調査報告も参考になります。
石塚洋一氏、石黒梓氏、武井すみれ氏、武井奈奈氏、杉原直樹氏による「フッ化物濃度の記載がないフッ化ナトリウム配合歯磨剤のフッ化物イオン濃度」です。『日本ヘルスケア歯科学会誌』第26巻第1号、41〜46ページに掲載されています[13]。
研究者は、容器やメーカーのホームページなどでフッ化物濃度の詳細が確認できない、または詳細濃度が非開示である歯磨剤8種類を選び、フッ化物イオン濃度を測定しました。
結果は、500ppmF未満が1種類、500ppmF前後が4種類、900〜1,000ppmFが3種類でした。
これは対象を限定した8種類の調査であり、市販歯磨剤すべての濃度分布を表すものではありません。また、特定の製品が安全でないことや、虫歯予防効果がなかったことを示す研究でもありません。
しかし、「フッ素入り」という情報だけでは、年齢に合った濃度を判断しにくい場合があることが分かります。
以前は学会抄録として紹介されていた内容ですが、今回の記事では正式に掲載された調査報告を根拠としています。

米国と日本では水道水のフッ化物利用状況も違う
AAPDの管理表には、適切なフッ化物濃度に調整された飲料水の利用も予防方法として書かれています[2]。
米国では地域によって水道水のフロリデーションが行われています。一方、日本では一般的に普及していません。
国内ではフッ化物配合歯磨剤に加え、必要に応じてフッ化物洗口や歯面塗布などを組み合わせて考えます。海外の高濃度製剤が日本でも同じ条件で利用できるとは限りません。
米国の指針を正確に説明できることと、日本の子どもに実行可能な予防を案内できることは、別の問題です。
フッ化物とシーラント、食事指導――本当に一つの正解を選べる?
シーラントは奥歯の溝を守る予防処置
今回の研究で、GeminiとCopilotはシーラントの項目で80.6%の完全回答率を示しました。
シーラントは主に奥歯の噛む面の細い溝を歯科用材料で保護し、虫歯の発生を予防する処置です。特に生えたばかりの永久歯は溝が深かったり、磨きにくかったりすることがあります。
日本小児歯科学会は2025年3月に『乳歯と幼若永久歯の小窩裂溝塡塞ガイドライン』を公表しました[6]。
このガイドラインでは、健全な乳歯と幼若永久歯の咬合面へのシーラントが、それぞれ弱く推奨されています。ただし、エビデンスの確実性は低と評価されています。
誰にでも、どの歯にでも同じ処置をすればよいという意味ではありません。歯の形態、溝の状態、萌出状況、清掃の難しさ、う蝕リスクなどを確認します。
今回引用した日本のガイドラインは主に健全な咬合面のう蝕予防を対象にしています。初期う蝕への適用を論じる場合には、別の診査条件や根拠を考える必要があります。
詳しくは、当院の「子どもの奥歯のシーラントとは?6歳臼歯を虫歯から守る予防処置を歯科衛生士が解説」をご覧ください。
「フッ素とシーラント、どちらが優秀?」は二者択一とは限らない
保護者の方がAIに「フッ素塗布とシーラントなら、どちらがよいですか?」と質問することもあるかもしれません。
フッ化物は歯の再石灰化を促すなどして虫歯予防に役立ちます。一方、シーラントは奥歯の溝を物理的に保護します。それぞれ働きや対象が異なります。
日本小児歯科学会の2025年ガイドラインでは、シーラントとフッ化物歯面塗布のどちらを優先すべきかという比較について、採用基準を満たす研究がなく、推奨を評価できないとしています[6]。
「どちらも効果がない」「両者の効果は同じ」という意味ではありません。優劣を判定するのに十分な比較研究を、このガイドラインの条件では採用できなかったという意味です。
専門家が作成した指針でさえ、根拠が不足している場合は無理に一つの正解を決めていません。AIが自信を持って一方だけを勧めたとしても、その子に適した判断とは限らないのです。

シーラントの材料も一種類ではない
シーラントにはレジン系やグラスアイオノマーセメント系など、複数の材料があります。
日本のガイドラインでは、幼若永久歯の材料比較について、どちらか一方を優先する十分な根拠がなく、両方を使用できるという条件付き推奨になっています。乳歯の材料比較では、根拠の確実性が非常に低く、優劣を評価できないとされています[6]。
実際の歯科医療では、「シーラントをするか」だけでなく、対象となる歯や材料の選択など、さらに細かい判断が必要になるのです。
なお、今回のAI研究はシーラント材料の選択能力を独立して検証したものではありません。
食事指導は「甘い物を禁止する」だけではない
子どもの間食は成長に必要な栄養を補う役割もあり、おやつを一律に禁止することが解決策とは限りません。
糖分の摂取量だけでなく、回数、時間帯、飲み物、家庭で無理なく続けられる習慣などを考える必要があります。
今回の研究では、食事指導の完全回答率がAIによって大きく異なりました。ただし、どのAIが具体的にどんな食事指導を間違えたかは、原著の公開データだけでは特定できません。
子どもの間食については、当院の「子どものおやつは虫歯になる?間食の時間・選び方・食べ方を歯科衛生士が解説」でも詳しくご案内しています。
研究で使われたAAPDの食事指導方針は2025年版だった
今回のAI研究では、う蝕リスク評価の指針に加え、AAPDのPolicy on Dietary Recommendations for Infants, Children, and Adolescents(2025年Reference Manual掲載、最終改訂2022年)が評価基準として指定されていました[14]。
しかし、AAPDは2026年に食事・栄養相談の方針を改訂し、Policy on Nutrition and Dietary Counseling in the Pediatric Dental Settingという名称で公開しています[15]。
新しい方針でも、子どもの成長に必要な栄養、添加糖、飲料や間食などが扱われていますが、今回の研究は2026年の改訂後の方針にAIがどれだけ一致するかを検証したものではありません。
ガイドラインを指定して評価した研究は、どの版を正解基準にしたのかまで確認することが大切です。
AIに「低リスク」と言われたら、もう虫歯にならない?
低リスクでも将来の虫歯はゼロとは限らない
AIから「低リスク」と答えられたら、少し安心できるかもしれません。
でも、低リスクは将来の虫歯を完全に否定する言葉ではありません。子どもの成長に伴って乳歯が抜け、永久歯が生え、歯ブラシの届きにくい場所や生活習慣も変わります。
一度のリスク分類を、将来にわたる保証書のように考えることはできません。
日本の小学生3,321人を4年間追跡した研究
日本のA-CHILD研究でも、この問題を考える材料が得られています[7]。
東京都足立区の小学生3,321人について、2016年の小学2年生時点から2020年の小学6年生時点まで、永久歯の虫歯経験の変化を調べた研究です。
開始時点で永久歯の虫歯経験がなかった児童は93.6%でした。それでも、4年間で増えた永久歯DMFTの多くは、開始時点で虫歯経験がなかった集団から生じていました。
ただし、虫歯経験がある子どもの方が、一人当たりではその後の虫歯経験が増えやすいという関連も認められました。人数の多い集団では、一人当たりのリスクが相対的に低くても、集団全体としての増加本数が多くなる場合があるのです。
この研究が用いたのは開始時点の永久歯DMFTであり、今回のAI研究で使われたAAPDの多因子リスク評価と同じ分類ではありません。
詳細は、当院の「『永久歯のむし歯経験ゼロ』の子から新たなむし歯の8割超?小学生3,321人を4年間追跡」で紹介しています。

虫歯がない状態を守り続けることが大切
過去に虫歯がなかったというのは、とても良いことです。そこに不必要な不安を感じる必要はありません。
ただ、その健康な状態を続けるために、日常のケア、必要な予防処置、経過に応じた診察を考える意味があります。
AIが「低リスク」と答えたからといって予防をやめる必要はありませんし、「高リスク」と答えたから必ず虫歯になると決まったわけでもありません。
大切なのは現在の状態を把握し、改善できるところを見つけ、必要な予防を継続することです。
同じ質問でもAIの回答は変わる?研究には注意点もある
Copilotでは3日間の完全回答数に有意な変化
研究では同じ12症例を3日間繰り返して質問したため、回答の成績が日によって変わるかどうかも調べています。
6項目を合計すると、各AIについて1日72評価です。Copilotの完全回答数は、1日目27件、2日目33件、3日目34件でした[1]。
統計的な比較ではp=0.023で、日間の差が有意と報告されています。ほかの4モデルでは今回の3日間について有意な日間差は確認されませんでした。
これは、ほかのモデルの回答が常に一定であるという証明ではありません。また、どの症例のどの予防処置の回答が変化したのかは、完全回答数だけでは特定できません。
それでも、同じ条件で質問しても回答品質がいつも同じとは限らないことは、健康情報を利用するうえで注意したい点です。

2026年1月当時のAIと現在のAIは同じではない
研究が行われたのは2026年1月、論文が公開されたのは同年10月です。
AIのサービスは短期間で更新されるため、「ChatGPT」「Gemini」「Claude」「Copilot」というサービス名だけで現在の回答品質を断定することはできません。
今回の論文では、モデルを正確に識別するための情報にも確認が必要な点があります。
Gemini 1.5というモデル名と研究実施時期の不整合
論文には、研究者が2026年1月に公式Webインターフェースで「Google Gemini 1.5」を使用したと記載されています。
しかしGoogleは2025年1月30日、GeminiアプリにGemini 2.0 Flashを導入すると発表し、旧1.5 Flashと1.5 Proの利用継続については「今後数週間」と案内していました[10]。
さらに、GoogleのGemini API公式リリースノートには、Gemini 1.5シリーズの提供終了日として2025年9月29日が記録されています[11]。
もちろん、APIとWebアプリでは提供条件が同じとは限りません。この記載だけを理由に論文全体を無効と断定することはできません。
ただし、公式の提供履歴と研究で報告されたモデル名には整合しない点があり、実際にどのモデルが使われたのか、追加確認が必要です。
ClaudeやCopilotについても、研究で使用された内部モデルの詳細は十分に特定できません。結果を再現したり現在のAIと比較したりするためには、こうした情報が重要です。
症例5には歯の喪失に関する矛盾がある
研究の症例説明にも気になる箇所があります。
5歳児の症例5では、文章の前半にう蝕による歯の喪失はないとする記述がある一方、後半には75番の乳歯を虫歯で失ったという記述が存在します[1]。
同じ架空症例の情報が一致していません。AIがどちらの情報を重視したかによって回答が変わる可能性がありますが、この不整合が実際の結果にどれくらい影響したかは報告されていません。
受診・X線計画の本文と表にも食い違いがある
原著のTable 3では、ChatGPT 4oの完全回答は36評価中9件で25.0%、Copilotは36評価中11件で30.6%でした。
つまり、表ではCopilotの方が完全回答率が高い数値です。
しかし結果の本文には、ChatGPTの方がCopilotより完全回答率が有意に高かったとする説明があります。割合の大小関係と一致しません。
このため、今回の記事では各AIの完全回答率は表の値に基づいて示し、細かなモデル間の優劣や有意差の説明については慎重に扱っています。
統計処理と評価にも限界がある
研究では同じ12症例を3日間繰り返し評価したため、各評価が完全に独立しているわけではありません。その依存性をモデル間比較でどう扱ったかについて、原著の説明は十分ではありません。
また、複数の評価項目やモデル間比較が行われているため、多重比較に伴う偶然の有意差の可能性にも注意が必要です。
回答の評価は主に経験10年の小児歯科医が行い、判断に迷った場合には合議がありました。しかし、複数の独立評価者がすべてを採点した場合の一致度は報告されていません。
さらに研究は架空の12症例を使っており、実際の保護者が不完全な情報で相談する場面や、診察室で子どもを診る場面を再現したわけではありません。
今回の結果はAIの課題を考える材料として有用ですが、特定のモデルの現在の臨床能力を保証したり、総合順位を確定したりするものではありません。

日本語による実際の相談成績は分からない
今回の研究は、日本の保護者が日本語で相談する場合を調べたものでもありません。
この点について、2024年の『Journal of Digital Dentistry』に掲載された柳束氏らの研究が参考になります[9]。
GPT-3.5とGPT-4に日本の歯科医師国家試験の問題を解かせた研究で、日本語で正答できなかった58問を英語に翻訳して再出題すると、29問で正答率の改善が認められました。
ただし、古いモデルの研究であり、もともと日本語で正答できなかった問題を選んでいます。現在のAI全般が英語なら常に高精度だと証明したものではありません。
質問の言語や書き方で結果が変わる可能性を示す補足研究として捉え、今回のAI比較の数字をそのまま日本語での歯科相談の精度と考えないことが重要です。
子どもの虫歯予防について、AIにはどう質問すればいい?
一般的な情報の整理には活用できる
ここまでAIの限界を紹介しましたが、AIに子どもの虫歯予防について質問すること自体が悪いわけではありません。
「フッ化物は何に役立つの?」「シーラントとはどんな処置?」「虫歯リスク評価では何を見るの?」といった一般的な疑問を整理する助けになることはあるでしょう。
専門用語をやさしい言葉にしてもらったり、診察で質問したいことを整理したりする用途も考えられます。
ただし、AIが挙げる文献名やガイドライン名が正しいか、紹介された内容が実際の資料と一致するかは、必要に応じて確認することが大切です。
個別の診断を求めるより、確認したいことを整理する
例えば、5歳のお子さんについて次のように質問する方法があります。
「5歳の子どものフッ化物配合歯磨剤の一般的な使い方を、日本の小児歯科学会などの推奨に沿って教えてください。また、歯科医院で個別に確認した方がよい点も挙げてください」
このような質問であれば、AIに診断を委ねるというより、受診前に知識と疑問を整理する目的になります。
もちろん、この聞き方なら必ず正確な回答になるという保証はありません。AIの文章だけで予防処置や診察間隔を確定することは避けたいところです。
文献名が表示されても、それだけで正解とは限らない
AIが参考文献を挙げた場合には、実在する資料か、いつの版か、どの国の推奨か、現在も適用できる内容かを確認しましょう。
今回の研究では、研究者が参照するガイドラインを指定していたにもかかわらず、完全回答にならなかった項目が多くありました。資料名を提示できることと、内容を正しく個別のケースに適用できることは違います。
子どもの個人情報は安易に入力しない
一般的な予防の質問をするために、子どもの実名、生年月日、学校名、患者番号などの情報は通常必要ありません。
診療記録や、本人が特定され得る写真の入力にも注意が必要です。サービスごとに情報の保存や利用に関する条件が異なるため、プライバシーの設定や利用規約を確認してください。
詳しい健康情報や写真を入力することと、医療機関で適切な診察を受けることは同じではありません。

AIで調べた後、受付には何を伝えればいい?
「AIにこう言われたのですが」と相談しても大丈夫
ここからは受付の立場でお話ししたいと思います。
例えば、AIから「虫歯リスクが高い」と言われて心配になった場合、そう調べたことを隠す必要はありません。
「AIで調べたら虫歯になりやすいと言われたので、一度診てもらいたいです」
そのように伝えていただければ、受診を考えた理由が分かります。
「フッ化物塗布を勧められた」「シーラントが必要か知りたい」といったご相談でも構いません。
ただし、受付でAIの回答を医学的に採点したり、AIが勧めた処置をそのまま実施すると約束したりするものではありません。診察して必要な予防処置を判断するのは歯科医師の役割です。
予約時には現在の症状を優先して伝える
AIから得た情報も参考になりますが、実際の予約で特に大切なのは、お子さんの現在の状態です。
年齢、痛みや腫れの有無、いつから気になっているか、学校の歯科健診で指摘されたのか、予防について相談したいだけなのか。こうした情報があると、受診目的を把握しやすくなります。
「5歳で奥歯が少し黒く見えます」
「8歳で、AIに虫歯リスクが高いと言われたので相談したいです」
「6歳臼歯にシーラントが必要か確認したいです」
こうした伝え方で十分です。専門用語で説明する必要はありません。
詳しくは、当院の「子どもの歯医者予約で何を伝える?年齢・症状・泣きやすさを受付に伝えるコツ」をご覧ください。
AIに勧められた検診間隔は、そのまま確定しない
「AIから3か月ごとに検診へ行くよう勧められたのですが」という相談も、診察で確認できます。
3か月が常に正しいわけでも、常に間違っているわけでもありません。現在の所見、治療歴、予防管理の必要性によって適切な間隔は変わります。
受付がAIの回答だけで診察の間隔やX線撮影の時期を決めることはありません。
痛みや顔の腫れがあるときは、現在の症状を優先
たとえAIから「虫歯リスクは低い」と言われても、いま歯が痛い、歯ぐきが腫れている、顔が腫れているといった症状があれば、現在の症状について受診を考える必要があります。
今回の研究には顔面腫脹のある仮想症例も含まれていますが、急性症状の緊急度判断がどの程度正しかったかを独立して評価した研究ではありません。
AAPDの小児歯科抗菌薬使用指針でも、歯が原因と考えられる顔面腫脹や感染症では迅速な歯科的評価が必要とされています[12]。
腫れが急速に広がる、発熱を伴う、口が開きにくい、飲み込みにくいといった症状は特に注意が必要です。呼吸が苦しい、飲み込めない、気道への影響が疑われる場合には、通常の歯科予約を待たず救急医療機関での緊急対応が必要です。
AIのリスク分類を理由に、受診を先延ばしにしないでください。
AIの回答は診察で質問するための材料にもなる
AIの答えをすべて捨てる必要も、すべて信じる必要もありません。
「AIではこう書いてあったのですが、うちの子にも当てはまりますか?」
「このフッ化物の使い方は日本でも同じですか?」
「高リスクと言われたら、何から見直せばいいですか?」
こうした疑問を診察で伝えていただければと思います。
受付は診断をする場所ではありませんが、受診前の不安や希望を伺い、必要な診療へつなぐことができます。

よくある質問|子どもの虫歯予防とAI相談
Q1.AIに「虫歯リスクが低い」と言われたら、歯科検診は不要ですか?
いいえ。低リスクは、将来も虫歯が発生しないことを保証するものではありません。今回の研究で評価されたのも架空症例のリスク区分への一致度で、実際の将来予測の精度ではありません。適切な受診間隔については、診察時にご相談ください。
Q2.AIに「3か月ごとに歯医者へ」と勧められました。そのとおりに予約すべきですか?
今回の研究で使われた米国AAPDの管理経路は、日本のすべての子どもに同じ間隔を指示するものではありません。現在のお口の状態や予防の必要性に応じて判断するため、「AIにこう勧められたので相談したい」とお伝えください。
Q3.AIからフッ化物塗布やシーラントを勧められたら、その処置を予約できますか?
まずは検診や予防相談として受診できます。具体的な処置の必要性は、年齢や歯の状態などを確認して歯科医師が判断します。受付では「フッ化物塗布について相談したい」「シーラントが必要か確認したい」とお伝えください。
Q4.AIの回答と歯科医師の説明が違うときは、どうすればよいですか?
どの部分が異なるかを確認し、診察で質問してください。参照する国や版の違い、AIに伝えていなかった診察所見などが理由になることもあります。AIの回答を見せて相談していただいて構いません。
Q5.子どもの歯の写真や診療情報をAIに入力しても大丈夫ですか?
サービスごとの個人情報の取り扱いを確認し、名前、生年月日、学校名、患者番号、診療記録や本人が特定できる写真を安易に入力しないよう注意してください。一般的な虫歯予防の質問なら、詳細な個人情報は通常必要ありません。実際の診断が必要な場合は歯科医院でご相談ください。
まとめ|AIが虫歯リスクを見分けることと、子どもの歯を守ることは違う
今回の研究では、5種類のAIに12種類の架空の小児歯科症例を提示し、3日間にわたって回答を比較しました。
180回のAI応答を6項目ずつ評価した結果、1,080評価記録が得られました。
う蝕リスク分類では、5種類のAI間に統計学的に有意な差は検出されませんでした。一方、定期診察・X線検査の推奨、フッ化物応用、食事指導、シーラントについては、AI間に有意な差が報告されています。
1,080評価記録を再集計すると、完全回答44.2%、部分正答47.6%、不正解8.2%でした。
完全回答にならなかったからといって、すべての回答が誤りだったわけではありません。しかし、部分的に正しいからといって、そのまま個別の予防計画に利用できるとも限りません。
さらに、日本の子どもについて予防を考える際には、国内のフッ化物配合歯磨剤の推奨やシーラントの指針、実際に使える製剤や診療環境を踏まえる必要があります。
AIは一般的な歯科情報を知り、疑問を整理する助けになる場合があります。しかし、実際の歯の状態を診察し、その子に必要な予防を選び、経過に応じて管理を見直すこととは別の問題です。
以前、当院の受付さんの備忘録では、「学校歯科健診で虫歯を見つけただけでは足りない?576人研究で受診率61.7%→90.2%」という記事で、学校健診で問題を見つけた後に、実際の歯科受診へつなげる仕組みをご紹介しました。
学校健診で問題を見つけることと、実際に受診することは別です。今回のAI研究も、リスクを分類することと、適切な予防を続けることが別の段階にあると考えさせてくれます。
受付にいると、患者さんや保護者の方が何を心配しているのか、どんな疑問を抱えて受診を考えたのかを伺うことがあります。
AIで調べたことがきっかけでも、学校歯科健診で指摘されたことがきっかけでも、構いません。
子どもの虫歯リスクを知ることは、予防のゴールではなく出発点です。
AIの答えを読んで迷ったときは、その疑問も一緒に歯科医院へ持ってきてください。
私たち受付も、必要な診療へつながるよう、ご相談をお受けしていきたいと思います。
参考文献・資料
[1]Tuğutlu EC, Arslan ZB. Artificial intelligence in pediatric dentistry: are chatbots aligned with AAPD caries risk assessment guideline? BMC Oral Health. 2026年10月27日公開。 https://doi.org/10.1186/s12903-026-10135-6
[2]American Academy of Pediatric Dentistry. Caries-risk Assessment and Management for Infants, Children, and Adolescents. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. 2025:325–331. 最終改訂2022年。 https://www.aapd.org/research/oral-health-policies–recommendations/caries-risk-assessment-and-management-for-infants-children-and-adolescents/
[3]American Dental Association. New Recommendations Confirm Dental X-Rays Most Effectively Used in Moderation. 2026年1月5日。 https://www.ada.org/about/press-releases/new-recommendations-confirm-dental-x-rays-most-effectively-used-in-moderation
[4]中内彩乃ほか.千葉県内の小児歯科診療所に来院した患児における歯磨剤の利用状況に関する調査.小児歯科学雑誌. 2021;59(1):1–7. https://doi.org/10.11411/jspd.59.1_1
[5]日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会.4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法.2023年1月。 https://www.jspd.or.jp/recommendation/article19/
[6]日本小児歯科学会.乳歯と幼若永久歯の小窩裂溝塡塞ガイドライン.2025年3月。 https://jspd.or.jp/recommendation/pdf/guideline_202503.pdf
[7]Shimada S, Aida J, Isumi A, Fujiwara T. Evaluation of caries incidence and caries risk among elementary school children in Japan: results from A-CHILD longitudinal study. Journal of Dentistry. 2026;174:106860. https://doi.org/10.1016/j.jdent.2026.106860
[8]菅井琳太朗ほか.齲蝕リスク診断に基づく予防管理プログラムの効果―ICDASを用いた齲蝕評価による分析―.日本歯科保存学雑誌. 2025;68(3):131–139. https://doi.org/10.11471/shikahozon.68.131
[9]柳束ほか.歯科教育に対するGPTモデルの可能性.Journal of Digital Dentistry. 2024;13(3):91–97. https://doi.org/10.57516/jdd.13.3_91
[10]Google. The Gemini app is now powered by Gemini 2.0 Flash. 2025年1月30日。 https://gemini.google/jp/release-notes/?hl=ja
[11]Google AI for Developers. Gemini API Release Notes. https://ai.google.dev/gemini-api/docs/changelog
[12]American Academy of Pediatric Dentistry. Use of Antibiotic Therapy for Pediatric Dental Patients. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. 2026年改訂。 https://www.aapd.org/research/oral-health-policies–recommendations/use-of-antibiotic-therapy-for-pediatric-dental-patients/
[13]石塚洋一・石黒梓・武井すみれ・武井奈奈・杉原直樹.フッ化物濃度の記載がないフッ化ナトリウム配合歯磨剤のフッ化物イオン濃度.日本ヘルスケア歯科学会誌. 2026;26(1):41–46(J-STAGE公開:2026年6月3日)。 https://doi.org/10.51066/jhcda.26.1_41
[14]American Academy of Pediatric Dentistry. Policy on Dietary Recommendations for Infants, Children, and Adolescents. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. 2025:118–122. 最終改訂2022年。 https://www.aapd.org/globalassets/media/policies_guidelines/p_recdietary25.pdf
[15]American Academy of Pediatric Dentistry. Policy on Nutrition and Dietary Counseling in the Pediatric Dental Setting. The Reference Manual of Pediatric Dentistry. 2026年改訂。 https://www.aapd.org/research/oral-health-policies–recommendations/dietary-recommendations-for-infants-children-and-adolescents/
