学校歯科健診で虫歯を見つけただけでは足りない?576人研究で受診率61.7%→90.2%|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

〒730-0032 広島県広島市中区立町2-1 立町中央ビル4F

082-258-6411

ネット予約はこちらから
受付

学校歯科健診で虫歯を見つけただけでは足りない?576人研究で受診率61.7%→90.2%

学校歯科健診で虫歯を見つけただけでは足りない?576人研究で受診率61.7%→90.2%|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

チャットボット チャットボット

2026年10月21日

学校歯科健診で虫歯を見つけただけでは足りない?576人研究で受診率61.7%→90.2%

(受付さんの備忘録)

はじめに|学校から渡された一枚の紙。その先は?

「学校の歯科健診で虫歯があると言われたのですが、なかなか歯医者へ連れて来られなくて……」

受付では、学校歯科健診をきっかけにした受診について、ご相談いただくことがあります。

学校から渡された結果票には「要受診」と書かれている。保護者の方も、歯科医院で診てもらった方がよいことは分かっている。

それでも、すぐには受診できないことがあります。

仕事が忙しく、子どもを連れて行ける日が限られている。

学校や習い事との予定が合わない。

本人は痛がっていないので、急ぐ必要があるのか判断できない。

あるいは、歯科医院で何を相談すればよいのか分からないまま、結果票を保管しているということもあるかもしれません。

学校で歯科的な問題を見つけることと、その子どもが実際に歯科医院で診察を受けること。

この二つは、似ているようで別の出来事です。

2026年10月3日、歯科医学誌『BMC Oral Health』に、この問題を真正面から扱った研究が公開されました[1]。

中国・上海の小学校4校で行われた、576人の児童を登録した研究です。

学校単位で児童を二つの群に無作為に分け、通常の学校歯科健診だけを行う方法と、健診に加えて家庭・学校・地域の保健機関・病院をつなぎ、紹介、予約支援、受診確認、家庭への継続的な支援まで行う方法を比較しました。

その結果、包括的な支援を受けた群では、歯科サービス利用率が61.7%から90.2%へ増加しました。

一方、通常の学校歯科健診を受けた群では、63.3%から59.8%へとわずかに低下していました。

非常に興味深い結果です。

ただし、ここでいう90.2%は、虫歯の治療をすべて終えた子どもの割合ではありません。

また、この研究によって「新しい虫歯の発生を大幅に防げた」と証明されたわけでもありません。

今回、最も明確な改善が認められたのは、学校健診の後に、実際の歯科医療へつながった割合でした。

この違いを丁寧に読み解くと、学校歯科健診の役割だけでなく、受付を含む医療機関が患者さんを迎えるまでの過程についても、考えさせられることがあります。

今回は、上海の研究を中心に、日本の学校歯科健診後の未受診問題、保護者の受診しにくさ、そして受付でできることを整理してみたいと思います。

学校歯科健診で虫歯を見つけた。その後、本当に受診できている?

「要受診」の紙が届くことと、歯科医院へ行くことは違う

学校歯科健診には、大切な役割があります。

自分では痛みや異常を感じていない子どもも含め、多くの児童・生徒の歯や口の状態を定期的に確認できることです。

虫歯だけでなく、歯肉の状態、歯垢の付着、歯並びやかみ合わせ、顎関節などについても確認します。

そして、必要に応じて保護者へ結果が伝えられます。

しかし、学校から結果票が届いた時点で、歯科医院への受診が成立したわけではありません。

保護者は結果を読み、受診の必要性を理解し、歯科医院を選び、予約を取り、子どもと一緒に来院する必要があります。

さらに診察後には、必要な治療や予防管理を継続する場合もあります。

整理すると、次のような段階があります。

学校での発見 → 結果通知 → 家庭での確認 → 予約 → 来院 → 診察 → 必要な治療・予防管理

一つ一つは当たり前に見えるかもしれません。

しかし、どこか一つでも難しい段階があると、学校健診で問題が見つかっていても、実際の受診に結びつかないことがあります。

例えば、結果票を受け取っても、予約する時間を取れない家庭。

予約はしたものの、保護者の仕事の都合で来院できなくなった家庭。

一度受診したけれど、複数回の治療が必要になり、その後の通院を続けることが難しくなった家庭。

それぞれ抱えている問題は違います。

つまり「学校健診で虫歯が見つかった子どもが、なぜ歯科医院へ行かないのか」という問いには、一つの答えだけでは対応できないのです。

今回の研究は、健診の精度を比較したものではない

ここで、今回の上海研究について最初に確認しておきたいことがあります。

この研究は、学校歯科健診で虫歯を発見する精度を改善した研究ではありません。

異なる診断方法を比較して、どの検査がより正確に虫歯を見つけられるかを調べたわけでもありません。

研究が比較したのは、健診後に行う支援の違いです。

したがって、「虫歯を見つける精度より予約支援の方が大切だ」と直接証明した研究ではありません。

学校健診で問題を発見することは、もちろん重要です。

そのうえで、見つけた問題を実際の診療へつなげる仕組みも重要ではないかという問いが、今回の研究の出発点になっています。

健診で発見できなければ、その後の対応を考えることもできません。

一方、せっかく問題を見つけても、必要な診療に結びつかなければ、未処置の状態が続いてしまう可能性があります。

この二つは、どちらか一方を選ぶ問題ではありません。

上海の小学校4校で行われた「576人の比較研究」とは?

小学1〜3年生を対象にした12か月間の研究

今回の中心となる論文は、Zhangらによる次の研究です。

A family–school–community–hospital closed-loop intervention for childhood caries management: a cluster-randomized controlled trial

家庭・学校・地域・病院をつなぎ、小児の虫歯への対応を進める仕組みを検討した研究です。

研究が行われたのは、中国・上海市閔行区の小学校4校です。

対象は小学1〜3年生で、学校歯科健診の結果、予防的または治療的な歯科対応が必要と判断された児童でした。

ここで重要なのは、参加した576人すべてが、確定した虫歯の治療を必要としていたわけではないということです。

虫歯の治療だけでなく、歯科的な予防処置や管理を必要とする児童も対象に含まれています。

研究への参加は2024年7〜10月に行われ、その後12か月間追跡しました。

最初に610人について研究参加の条件を満たしているかが調べられ、34人が除外されました。

最終的に576人が研究へ登録されています。

子ども一人ずつではなく、学校単位で分けた

この研究は、クラスターランダム化比較試験という方法を採用しています。

少し難しい名前ですが、今回は学校を一つのまとまりとして、無作為に二つの群へ振り分けた研究だと考えると分かりやすいと思います。

通常のランダム化比較試験では、参加者を個人単位で無作為に割り付けることがあります。

しかし今回は、児童を一人ずつ振り分けたのではありません。

4つの小学校を、2校ずつ介入群と通常健診群へ無作為に割り付けました。

その理由の一つは、同じ学校の中で、健康教育や受診支援の情報が児童や保護者の間に広がってしまう可能性を減らすためです。

同じ学校に支援を受ける児童と受けない児童が混在していると、情報や対応が互いに影響するかもしれません。

そこで学校単位で分ける方法が選ばれました。

ただし、この方法には重要な制約もあります。

実際に無作為に割り付けた単位は4校しかありません。

児童が576人いても、学校固有の事情が結果に影響する可能性は残ります。

この点は後半で詳しく説明します。

登録576人、最終解析528人

研究の参加者の流れは、次のようになっています。

項目介入群通常健診群
割り付けられた学校2校2校
登録児童284人292人
12か月後の完全データ解析対象264人264人

登録した576人のうち、12か月後の完全データ解析に含まれたのは528人でした。

両群で264人ずつです。

途中で質問票が不完全になった児童や、追跡できなくなった児童がいました。

介入群では20人、通常健診群では28人が、完全データ解析の対象から外れています。

したがって、576人を対象に計画・実施された研究ですが、主要な統計解析の中心となるのは528人のデータです。

研究で報告された結果を読むときには、この違いを忘れないようにしたいところです。

通常の学校健診だけを受けた子どもたちは、何が違った?

通常健診群でも、歯科健診は行われていた

介入の効果を理解するには、比較相手を知る必要があります。

今回の通常健診群では、研究地域で行われていた標準的な学校歯科健診を受けていました。

地域の保健機関に所属する歯科医師が、学校で口腔内を確認します。

診査には歯科用ミラーや探針などを使用し、自然光のもとで検査が行われました。

結果は学校の健康記録に記載され、児童には簡単な口頭での説明が行われました。

ただし、研究で比較対象となった通常の運用では、保護者への詳細な書面での説明や、具体的な治療勧告、予防指導などが標準的な手順として整えられていたわけではありません。

保護者がどの歯科医院を受診するか、実際に受診するかどうかは、基本的に家庭の判断に委ねられていました。

予約を手伝う仕組みや、受診したかどうかを継続的に確認する仕組みも、介入群のようには設けられていませんでした。

比較したのは「健診あり」と「健診なし」ではない

この研究を読むとき、「学校健診をした群と、何もしなかった群を比べた」と誤解しないよう注意が必要です。

通常健診群も、学校で歯科健診を受けています。

比較したのは、通常の健診にとどまる方法と、通常の健診に加えて家庭への連絡、予約支援、受診確認、教育などを組み合わせる方法です。

つまり、学校健診に何を追加するかを検討した研究なのです。

日本の学校健診と同じ条件ではない

もう一つ、重要な注意があります。

上海の通常健診群で行われていた仕組みを、日本の学校歯科健診制度と完全に同じものとして考えることはできません。

日本では、学校保健安全法に基づき、健診結果の通知や必要な事後措置が定められています。

学校から家庭へ結果が伝えられ、医療機関で診察を受けた結果を報告する様式も存在します。

そのため、今回の上海研究を根拠に「日本の学校健診は結果を知らせて終わりだから問題だ」と断定することは適切ではありません。

比較対象の違いを理解したうえで、日本でも参考になる点を探していく必要があります。

「家庭・学校・地域・病院」をつなぐ閉じた紹介ループとは?

家庭・学校・地域・病院の4者連携

今回の研究では、家庭・学校・地域・病院を結ぶ仕組みが構築されました。

論文では、それぞれの英語の頭文字からFSCHと呼ばれています。

研究の特徴は、どこか一つの機関がすべてを担当するのではなく、役割を分けていることでした。

関係者主な役割
家庭子どもの受診、家庭での口腔ケア、連絡への参加
学校歯科健診、家庭への連絡、受診状況の情報共有
地域保健機関家庭への連絡、予約支援、受診確認、関係機関の調整
病院専門的な診療支援、受診・治療状況の確認、技術的な支援

特に注目したいのが、地域の保健機関です。

学校で問題が見つかった児童について、保護者へ連絡し、受診の案内を行い、予約を支援し、その後の状況を確認する調整役を担っていました。

学校が健診を行い、歯科医院が治療する。

その二つを単につなぐだけでなく、家庭との連絡や受診状況の確認まで含めて、連携する経路が作られていたのです。

「閉じた」とはどういう意味なのか

今回の論文には、closed-loopという言葉が使われています。

直訳すると「閉じたループ」です。

少し分かりにくい表現ですが、紹介した後の受診状況を確認し、その情報が必要な関係者へ戻ってくる仕組みだと考えると理解しやすいと思います。

通常、学校健診で受診が必要と判断されれば、保護者へ通知が行われます。

しかし、通知の後に本当に受診できたのか、必要な治療へつながったのかが確認できなければ、紹介の先が分からない状態になります。

今回の研究では、紹介した後の受診や治療について確認し、その情報を学校や家庭へ戻す経路まで含めて設計していました。

これが「閉じた紹介ループ」と呼ばれる理由です。

ただし、ここでいうループの完結は、虫歯治療がすべて終了したことと同じではありません。

実際の受診や治療の情報が確認され、連絡の経路が成立していることを意味しています。

地域保健機関が橋渡し役になった

受付さんとして興味深いのは、患者さんが受診する前の過程に、明確な担当者が配置されていたことです。

家庭で結果票を見て、保護者だけで受診先を探し、予約し、来院するという流れではありません。

間に調整役が入ることで、受診のための情報を届け、必要な支援を行い、その後の状況を確認することができました。

もちろん、今回の研究は中国の特定地域で構築された仕組みです。

日本の一般的な歯科医院の受付に、同じ業務がすべて求められているわけではありません。

それでも、患者さんが診療室へ来る前にも、医療へのアクセスを支える仕事があるのだと考えさせられます。

健診から1週間以内に家庭へ連絡――受診につなぐ具体的な手順

健診が終わってからの動きが決められていた

今回の介入では、学校健診で歯科的な対応が必要と判断された児童について、家庭との連絡や紹介が計画的に行われました。

介入群では、健診後1週間以内に家庭へ連絡することが定められていました。

その後、地域の保健機関が保護者へ健診結果や受診の必要性を説明し、必要に応じて歯科受診の予約を支援しました。

さらに、紹介後に実際の歯科受診が行われたかを確認し、治療状況についても記録を照合しました。

情報は学校や家庭へ戻され、その後も口腔衛生に関する支援が続けられました。

重要なのは、健診後の流れが個々の家庭の自主的な対応だけに任されていなかったことです。

「受診してください」と言われても、困ることがある

例えば、学校から「歯科医院で診てもらってください」と通知されたとします。

近所に通い慣れた歯科医院がある家庭なら、予約は比較的スムーズかもしれません。

一方、これまで子どもを歯科医院へ連れて行った経験が少ない家庭では、どこへ相談すればよいのか分からない場合もあるでしょう。

歯科医院が見つかっても、保護者の仕事や学校の予定に合わせて予約を取ることが難しいかもしれません。

今回の研究では、そうした受診までの過程を支える仕組みが組み込まれていました。

ただし、どの家庭がどの理由で受診を先送りしていたか、また予約支援のどの部分が最も効果的だったかを詳しく分けて検証したわけではありません。

ここは研究から得られた結果と、実務上考えられる問題を区別する必要があります。

受診確認までが一つの流れ

研究では、受診するよう勧めた時点で介入を終わりにしていません。

紹介後3か月以内に歯科受診が行われたかどうかも確認していました。

さらに、12か月間の歯科サービス利用を主要な評価項目としています。

つまり、単に案内した件数ではなく、実際に歯科医療を利用したかどうかを重視していたのです。

これは、学校健診後の支援を考えるうえで非常に重要な視点だと思います。

WeChatでは歯磨き動画まで確認していた?

デジタル支援も介入の一部だった

今回の研究では、中国で広く利用されている連絡サービス「WeChat(ウィーチャット)」も活用されました。

ただし、単に保護者へ健康情報を送信するだけではありません。

介入群では、保護者に1日2回の歯磨きを見守ってもらい、その様子を週1回、写真または動画で記録して送信する仕組みがありました。

地域の歯科衛生士は、送信された記録を48時間以内に確認し、個別の助言を行いました。

また、保護者に対する口腔衛生教育は2か月ごとに行われ、月1回の質問会も設けられていました。

健診結果を通知して終わるのではなく、家庭での行動についても継続的に支える設計だったことが分かります。

保護者はどのくらい参加していたのか

研究では、WeChatへの参加状況も確認されています。

項目結果
WeChatグループへの参加253/264家庭、95.8%
健康情報の平均週間閲覧率73.1%
月例質問会への平均参加率55.3%

WeChatへの参加率は高いものでした。

しかし、これらの数字は同じ意味ではありません。

グループへ参加したことと、配信された情報を読むこと、質問会へ参加すること、家庭での記録を継続して提出することは、それぞれ違う行動です。

したがって、95.8%の保護者がすべての家庭ケア記録を継続して提出した、という意味ではありません。

また、WeChatの参加割合は、参加記録がそろっていた264家庭を分母にしています。

介入群に登録された284家庭すべてを分母とした値ではありません。

デジタル化しただけで成功したわけではない

今回の介入には、電話や対面での連絡も含まれていました。

予約支援や受診確認も、人が実際に関わる業務です。

そのため、WeChatを使ったことだけが受診率改善の原因だったとはいえません。

また、日本で同じ仕組みを採用したとしても、同じ参加率が得られるとは限りません。

通信環境、保護者の生活状況、個人情報の取り扱いなど、考えるべき問題もあります。

デジタル技術は連絡や記録を助ける手段ですが、それだけで受診に必要な支援のすべてが解決するわけではないのです。

この研究の「受診率」は、実際には何を数えている?

主な評価項目は歯科サービス利用

ここから研究結果を詳しく見ていきます。

まず確認したいのが、今回の「受診率」の定義です。

研究で最も重視された評価項目は、12か月の追跡期間中に、学校の通常の歯科健診とは別に、予防または治療を目的として歯科医療機関を少なくとも1回利用したかどうかでした。

予防目的の受診には、歯科診査やフッ化物塗布などが含まれています。

治療目的の受診には、虫歯の修復処置や抜歯などが含まれています。

一方、学校で行われた通常の歯科健診は、この歯科サービス利用には数えられていません。

開始前と12か月後で、評価した期間が異なる

開始前の歯科サービス利用率は、研究開始前の12か月間に受診したかどうかで評価しています。

一方、研究終了時の利用率は、介入が行われた12か月間に受診したかどうかで評価しています。

同じ児童についての比較ですが、対象となる期間は異なります。

そのため、ある一日の時点での「現在受診している割合」として理解するのは適切ではありません。

また、研究終了時の受診状況は、保護者の回答をもとに、可能な範囲で医療機関の記録と照合して確認されています。

受診率と治療完了率は同じではない

ここは今回の記事で、特に強調したいところです。

例えば、学校健診で虫歯を指摘された子どもが、歯科医院で診察を受けたとします。

その結果、すぐに充填治療を受ける場合もあれば、追加の検査が必要になる場合もあります。

複数回の治療を計画することもあるでしょう。

一方、虫歯だと思われた場所が、診察の結果、経過観察でよいと判断される可能性もあります。

今回の研究で数えたのは、歯科医療を利用したかどうかです。

必要な治療がすべて終了したかを主要な評価項目にした研究ではありません。

「予約した」「受診した」「治療中」「治療が終わった」は、それぞれ別の状態です。

この違いを理解しておくと、これから紹介する90.2%という数字を正確に読むことができます。

歯科サービス利用率は61.7%から90.2%へ――12か月後の結果

介入群では28.5ポイント増加

研究の中心となる結果がこちらです。

群開始前12か月後変化
包括的支援を受けた介入群61.7%90.2%+28.5ポイント
通常健診群63.3%59.8%−3.5ポイント

介入群では、研究開始前の12か月間に歯科サービスを利用した割合が61.7%でした。

包括的な支援を受けた12か月間では、その割合が90.2%となりました。

28.5パーセントポイントの増加です。

一方、通常健診群では、63.3%から59.8%へと、3.5ポイント低下しました。

学校健診を受けた後、家庭や地域の保健機関からの支援を組み合わせた群では、通常健診のみの群より、歯科サービスを利用した児童の割合が明らかに高くなっていたのです。

12か月後の群間差は30.4ポイント

研究終了時の90.2%と59.8%を比較すると、差は30.4ポイントになります。

一方、介入群の変化は+28.5ポイント、通常健診群の変化は−3.5ポイントなので、その変化量の差を単純に計算すると32.0ポイントです。

この二つは異なる数字です。

30.4ポイントは、12か月後の二つの群の割合の差。

32.0ポイントは、両群の開始前からの変化量を比較した記述的な差です。

また、これらの単純な割合の差と、後ほど説明する統計モデルによるオッズ比も別のものです。

なぜ注目すべき結果なのか

今回の研究では、両群とも学校歯科健診を受けていました。

そのうえで、家庭への連絡、予約支援、受診確認、家庭での口腔ケア支援などを追加した群では、歯科サービス利用率が大きく改善しました。

このことは、健診後の対応によって、実際の受診行動が変わる可能性を示しています。

ただし、学校は4校だけです。

研究地域の事情や介入の内容も、日本とは異なります。

90.2%という数字を、日本のすべての学校で達成できる目標値だと考えるべきではありません。

それでも、学校健診の後に何を行うかが重要な研究課題であることを示した結果として、注目に値します。

「OR=6.39」は受診率が6.39倍になったという意味ではない

オッズ比とは何か

今回の研究で報告された重要な統計量に、OR=6.39があります。

ORはオッズ比のことです。

オッズとは、ある出来事が起こる確率を、起こらない確率で割ったものです。

例えば、受診する確率が80%なら、受診しない確率は20%です。

この場合、オッズは80÷20で4になります。

受診率80%とオッズ4は、同じ数字ではありません。

今回のOR=6.39は何を比較したのか

研究では、介入群と通常健診群の間で、時間に伴う歯科サービス利用のオッズの変化がどの程度異なるかを統計モデルで評価しています。

その結果が、次の値でした。

指標結果
群と時間の交互作用OR6.39
95%信頼区間3.55〜11.52
P値<0.001

これは、介入群における歯科サービス利用のオッズの時間的変化が、通常健診群と比較して大きかったことを示しています。

決して「受診率が6.39倍になった」という意味ではありません。

また、「受診する確率が6.39倍になった」と説明するのも正確ではありません。

12か月後の群間OR=6.14とも違う

原著では、12か月後の介入群と通常健診群を比較したオッズ比も報告されています。

こちらはOR=6.14、95%信頼区間3.76〜10.03でした。

交互作用OR=6.39とは、比較している内容が異なります。

前者は12か月後の群間比較、後者は群間での時間的変化の比較です。

一般の患者さんに研究を紹介する場合には、まず61.7%から90.2%になったという実際の割合を示し、統計学的な補足としてオッズ比を説明した方が分かりやすいと思います。

3か月以内の受診確認は80.3%――90.2%とは別の数字

紹介後3か月以内に受診した児童

研究では、12か月間の歯科サービス利用率とは別に、紹介後3か月以内に歯科医院を受診したかどうかも確認しています。

その結果、介入群に登録された284人のうち、228人について、紹介後3か月以内の受診完了が確認されました。

割合は80.3%です。

一方、3か月の紹介過程に関する記録が完全にそろっていた264人を分母にすると、228人は86.4%になります。

指標結果
介入群全登録者に対する3か月以内の紹介完了228/284人、80.3%
3か月の記録が完全な児童に限った紹介完了228/264人、86.4%
12か月間の歯科サービス利用率90.2%

同じ研究に異なる受診率が出てくる理由

この三つの数字は、同じものを別の言い方で表しているわけではありません。

80.3%と86.4%は、紹介後3か月以内の受診を確認した割合です。

一方、90.2%は、12か月間に学校健診以外で歯科医療を利用した割合です。

評価期間も、評価方法も異なります。

例えば、紹介後3か月以内には受診できなかった子どもが、後に受診することも考えられます。

ただし、今回の集計値だけから、各児童がいつ予約し、いつ受診したかを詳細に再構成することはできません。

何を「完了」とするかで結果の意味が変わる

紹介が完了したという言葉も、治療がすべて完了したことを意味するわけではありません。

研究では、紹介後3か月以内の歯科受診が紹介完了の指標でした。

つまり、紹介状を渡しただけでも、予約が成立しただけでもなく、実際に受診したことを確認したという意味です。

このように、受診までの経過を段階ごとに分けて評価する考え方は、患者さんを診療へつなぐ仕組みを考えるうえで参考になります。

未処置の虫歯が減り、充填した歯が増えた

受診率だけでなく、実際の歯の状態も調べていた

今回の研究は、歯科サービス利用率だけを評価したものではありません。

研究開始時と12か月後に、歯科医師による口腔内診査も行われました。

虫歯の診査には世界保健機関(WHO)の診断基準を用い、診査担当者は群の割り付けを知らない状態で評価しました。

検査者間の一致度を表すCohenのκは0.84〜0.89、検査者内の一致度は0.88〜0.92でした。

これは、異なる診査者が評価した場合や、同じ診査者が繰り返し評価した場合に、判定がどの程度一致するかを示す指標です。

値が高いほど一致度が高いことを表しますが、0.89という数値を「89%正確」と言い換えるものではありません。

今回の研究では、診査の標準化にも配慮されていたことが分かります。

未処置う蝕歯数の変化

原著の図5に掲載された未処置う蝕歯数の平均値は、次のとおりです。

群開始前12か月後
介入群2.53±1.51本1.22±0.58本
通常健診群2.17±1.22本2.26±1.68本

介入群では、未処置の虫歯の平均本数が減っていました。

通常健診群では、平均値がわずかに増加していました。

群と時間の交互作用について、統計モデルによる推定値は次のとおりでした。

β=−1.40、95%信頼区間−1.72〜−1.08、P<0.001

介入群では、通常健診群と比較して、未処置う蝕歯数の減少が大きかったことが示されています。

β=−1.40は「誰でも1.40本減る」という意味ではない

ここで、統計の数字をもう少し正確に説明しておきます。

βという記号は、研究で使用した統計モデルによる推定値を表しています。

今回のβ=−1.40は、介入群と通常健診群の間で、開始前から12か月後までの未処置う蝕歯数の変化がどれだけ違ったかを示したものです。

研究では、同じ学校に通う児童同士の状態が似ている可能性を考慮し、学校ごとのまとまりを統計モデルに含めています。

そのため、β=−1.40は、介入群の単純な前後差そのものではありません。

また、支援を受けた子ども全員について、必ず虫歯が1.40本減ると予測した数字でもありません。

集団全体で観察された変化について、二つの群を比較した推定値です。

なお、開始前の未処置う蝕歯数は、介入群の方が有意に多い状態でした。

両群が完全に同じ虫歯の本数からスタートしたわけではない点も、解釈には必要です。

充填歯数の変化

次に、充填された歯の平均本数を見てみます。

群開始前12か月後
介入群1.14±1.56本2.53±1.91本
通常健診群1.22±1.40本1.47±1.48本

介入群では、充填歯数が増加していました。

群と時間の交互作用は、

β=+1.14、95%信頼区間0.76〜1.53、P<0.001

でした。

このβ=+1.14も、二つの群の時間的な変化の差を統計モデルで推定した値です。

介入を受けたすべての児童について、充填歯が1.14本ずつ増えたという意味ではありません。

未処置う蝕歯数が減り、充填歯数が増える。

この二つの結果を組み合わせると、すでに存在していた虫歯について、治療が進んだという解釈と整合的です。

歯科医院を受診できることの臨床的な意味

歯科サービス利用率が改善したという数字だけでは、子どもの歯にどんな変化が起こったのか分かりません。

しかし、今回の研究では、未処置う蝕歯数の減少と充填歯数の増加も報告されています。

つまり、単に歯科医院へ行った子どもが増えただけでなく、既存の歯科疾患に対する処置が進んだことを示唆する臨床所見も得られたのです。

ただし、この結果だけで全員の治療が終了したと考えてはいけません。

また、充填歯が増えたという事実は、虫歯になった経験そのものが消えたことを意味するものでもありません。

では、新しい虫歯そのものを減らせたのか?

う蝕経験歯数の合計には有意差がなかった

今回の研究を理解するうえで、最も重要な部分の一つです。

未処置う蝕歯数は減少し、充填歯数は増加しました。

では、虫歯になった経験のある歯の合計は、どうなったのでしょうか。

原著の結果は次のとおりです。

群開始前12か月後
介入群3.87±2.16本3.93±2.00本
通常健診群3.62±2.20本4.00±2.20本

群と時間の交互作用は、

β=−0.33、95%信頼区間−0.83〜0.18、P=0.207

でした。

統計学的に有意な群間の変化の差は認められませんでした。

なお、β=−0.33についても、二つの群の変化の差を推定した値であり、介入群で平均0.33本の虫歯が減ったという意味ではありません。

虫歯を治療しても、虫歯になった経験は消えない

ここは少し分かりにくいので、例を考えてみます。

ある子どもに未処置の虫歯が2本あるとします。

歯科医院でそのうち1本を充填治療しました。

すると、未処置の虫歯は2本から1本に減ります。

一方、充填済みの歯は0本から1本に増えます。

しかし、虫歯になった経験のある歯は合計2本のままです。

虫歯だった歯を治療したからといって、過去に虫歯になったという事実がなくなるわけではないからです。

今回の研究結果は、まさにこのような変化と整合的です。

乳歯と永久歯を合計していることにも注意

研究で使われたう蝕経験歯数は、未処置う蝕歯、う蝕による喪失歯、充填歯を合計したものです。

さらに、乳歯と永久歯を一緒に数えています。

そのため、通常の乳歯dmftや永久歯DMFTと同一の指標ではありません。

子どもは乳歯から永久歯へ生え替わる時期にあるため、歯列ごとの評価との違いも重要になります。

新しく発生した虫歯は、独立して数えていない

原著では、新規に発生した虫歯を独立した指標として記録していません。

そのため、12か月間に新しい虫歯がどれだけ発生したのかを、この結果だけで厳密に判断することはできません。

今回の研究について、

「受診支援によって虫歯の新規発生を大幅に予防できた」

と説明することは適切ではありません。

今回の結果は、すでにある虫歯を実際の治療へつなげる効果が大きかったことを示唆していると考える方が正確です。

また、う蝕経験歯数に有意差がなかったことは、今回の研究で予防効果が存在しないと証明したことでもありません。

新規発生を直接測定し、さらに長期間追跡する研究が必要です。

シーラントが増えなかったのは、予防支援に意味がなかったから?

シーラント処置歯数には有意差がなかった

研究では、奥歯の溝を封鎖するシーラント処置を受けた歯の数も確認しています。

シーラント処置歯数の群と時間の交互作用は、

β=0.17、95%信頼区間−0.39〜0.73、P=0.559

でした。

介入群で有意に増えたという結果ではありません。

シーラントが必要かどうかは、一人ひとり違う

ここで、シーラントの数が増えなかったことだけを理由に、予防支援に意味がなかったと判断するのは適切ではありません。

シーラントを行うかどうかは、永久歯の萌出状況、歯の形態、虫歯のリスク、保護者の同意、診療へのアクセスなど、さまざまな要因によって変わります。

また、今回の介入では、すべての児童にシーラント処置を行うことが決められていたわけではありません。

そのため、シーラント処置歯数に有意差がなかったという結果から、予防的な歯科受診全般に効果がなかったと結論づけることはできません。

受診したことと、どんな処置を受けたかは別

歯科医院を受診した子どもが、必ずしも同じ処置を受けるわけではありません。

診察、フッ化物塗布、シーラント、修復治療、抜歯、経過観察など、必要な対応は一人ひとり異なります。

受診率を高めることは、必要な医療へアクセスする機会を増やすことにつながります。

しかし、実際にどの処置が必要だったか、どの処置が行われたか、その後の健康状態がどう変わったかについては、別の評価が必要です。

歯磨きの習慣にも変化があった――8項目中5項目で有意差

口腔衛生行動にも変化が見られた

研究では、歯科サービス利用だけでなく、家庭での歯磨きや口腔衛生行動についても調べています。

評価した8項目のうち、5項目で有意な群と時間の交互作用が認められました。

行動交互作用OR結果
1日2回以上の歯磨き3.33有意
毎日のフロス使用2.68有意
1回2分以上の歯磨き2.13有意
フッ化物配合歯磨剤の使用4.61有意
保護者による歯磨きの見守り1.89有意
洗口液の使用1.13有意差なし
就寝前の歯磨き後の飲食0.71有意差なし
食後のうがい0.94有意差なし

ここでのORは、介入群と通常健診群の間で時間的な変化がどの程度異なったかを示すものです。

単純に「フッ化物配合歯磨剤の使用率が4.61倍になった」と読む数字ではありません。

ただし、これらは研究で最も重視された評価項目ではなく、副次的に調べられた結果です。多くの項目を同時に検討していますが、複数の統計検定を行うことに対する補正は実施されていません。そのため、有意差が認められた項目についても、今後の研究で再確認する必要がある結果として解釈します。

この注意点は、後述する食習慣や保護者の知識・態度についても共通します。

フッ化物配合歯磨剤の使用にも変化

フッ化物配合歯磨剤の使用割合は、介入群では開始前68.9%から12か月後92.4%へ増加しました。

通常健診群では67.0%から70.8%への変化でした。

また、1日2回以上の歯磨きについても、介入群では79.5%から94.3%へ増加していました。

こうした結果は、家庭への継続的な教育や支援を含んだ介入のもとで、いくつかの口腔衛生行動に変化が見られたことを示しています。

保護者の見守りが増えたことも興味深い

私が特に興味深いと思ったのは、保護者による歯磨きの見守りです。

子どもの歯磨きは、本人が歯ブラシを持つだけで十分に行えるとは限りません。

年齢や発達の状況によっては、保護者による確認や仕上げ磨きが重要になります。

今回の研究では、保護者が子どもの歯磨きを見守る行動にも改善が認められていました。

ただし、これも自己申告による行動評価です。

実際にすべての家庭を直接観察し、歯磨きの質や磨き残しを同じ方法で測定したわけではありません。

また、見守りの改善そのものが虫歯の新規発生を減らしたと証明されたわけでもありません。

変わらなかった項目も大切

研究で注目されやすいのは、有意差が出た項目です。

しかし、洗口液の使用、就寝前の歯磨き後の飲食、食後のうがいについては、有意な交互作用が確認されませんでした。

複数の支援を行ったからといって、家庭のすべての生活習慣が変わるわけではないことも、今回の結果から分かります。

食生活では炭酸飲料と菓子類に変化――ただし全部ではない

食習慣5項目を評価

研究では、保護者への質問票を使用して、子どもの食習慣も調べています。

その結果、5項目中2項目で有意な交互作用が認められました。

食習慣交互作用OR結果
炭酸飲料の摂取0.17有意
キャンディー・チョコレートの摂取0.51有意
甘い間食0.63有意差なし
加糖乳・ヨーグルト1.06有意差なし
果物0.97有意差なし

炭酸飲料とキャンディー・チョコレートについては、介入群で摂取頻度の低下が大きかったことが示されています。

これらも副次的な評価項目であり、多重比較の補正が行われていないため、探索的な結果として慎重に読む必要があります。

炭酸飲料の摂取割合はどう変わったか

原著では、1日1回以上炭酸飲料を摂取する児童の割合が示されています。

介入群では43.9%から9.1%へ低下しました。

通常健診群では49.2%から42.0%への変化でした。

キャンディー・チョコレートの1日1回以上の摂取も、介入群では52.7%から31.8%へ減少しました。

通常健診群では53.8%から48.9%でした。

こうした食習慣の変化も、家庭への継続的な働きかけを含む介入のもとで認められた結果です。

甘いものを食べなくなれば、必ず虫歯が減る?

ここでも、生活習慣の改善と実際の虫歯の発生を分けて考える必要があります。

糖の摂取は、う蝕の発生に関わる重要な要因です。

しかし、今回の研究は、新しい虫歯の発生そのものを独立して測定していません。

また、食習慣の変化は保護者の報告に基づいています。

したがって、炭酸飲料や菓子類の摂取頻度が低下したことと、新規う蝕の予防が証明されたことを同じ意味で説明することはできません。

家庭での習慣が変わることは大切です。

その変化が長期間続くかどうか、実際に将来の虫歯の発生を減らすかどうかについては、さらに研究が必要です。

保護者の歯科知識や意識はどのくらい変わった?

知識7項目、態度6項目を評価

今回の研究では、子ども本人の口腔衛生行動だけでなく、保護者の知識や態度についても調査しています。

質問票には、口腔保健に関する知識7項目と態度6項目が含まれていました。

知識と態度の合計得点は0〜13点です。

点数が高いほど、口腔保健に関する知識が多く、望ましい態度を示していると評価される仕組みです。

合計得点は介入群で大きく改善した

原著の図6には、次の平均値が示されています。

群開始前12か月後
介入群7.63±1.88点11.88±1.09点
通常健診群7.45±1.65点8.14±1.79点

群と時間の交互作用については、次の結果でした。

評価項目β95%信頼区間
知識1.491.23〜1.75
態度2.071.76〜2.37
合計得点3.563.17〜3.95

いずれもP<0.001でした。

保護者への教育や継続的な連絡を含む介入によって、口腔保健に関する知識と態度の得点も改善していたことが分かります。

これらのβも、開始前から12か月後までの得点の変化について、二つの群を比較した統計モデルの推定値です。

介入群の単純な前後差とは区別します。

また、これらは副次的な評価項目のため、多重比較の補正が行われていない点に注意が必要です。

知識が増えれば、必ず受診できるわけではない

ただし、ここにも注意が必要です。

歯科受診の必要性を理解していることと、実際に子どもを歯科医院へ連れて行けることは、同じではありません。

保護者が虫歯の危険性を十分に理解していても、仕事や家庭の事情で予約を取りにくいことがあります。

そのため、知識を伝える教育と、実際に受診するための支援は、役割の異なるものです。

今回の研究では、この二つが組み合わされていました。

また、保護者への質問票は、正式な予備試験や、質問票が測定したい内容を適切に測れているかを確認する妥当性検証が行われたものではありませんでした。

得点の改善は重要な結果ですが、測定方法の限界も踏まえて読む必要があります。

学校で虫歯を見つけるだけで受診率は上がる?2022年コクランレビュー

8研究・21,290人をまとめたレビュー

ここまで上海の研究結果を見てきました。

では、以前から行われてきた学校歯科健診そのものには、歯科受診を促す効果があるのでしょうか。

この問題を考えるうえで参考になるのが、2022年に公開されたコクランレビューです[2]。

コクランレビューとは、一定の基準で集めた複数の研究をまとめ、結果の信頼性も含めて評価する研究です。

Aroraらは、学校歯科健診の効果を評価した8つのランダム化比較試験、合計21,290人の子どものデータを検討しました。

対象となった子どもの年齢は4〜15歳です。

研究が実施された地域は、英国、インド、米国、サウジアラビアでした。

従来型の学校健診だけで受診率が上がるかは不確実

レビューでは、従来型の学校歯科健診を行うことによって、その後の歯科受診が増えるかどうかについて、十分に確実な根拠が得られませんでした。

健診によって口腔内の問題が発見されても、それが必ず実際の歯科受診へつながるとは限らないということです。

一方、健診後に個別化された紹介文書を使用したり、受診への動機付けを加えたりする方法には、受診を促す可能性が報告されていました。

しかし、これらの証拠の確実性も非常に低いと評価されていました。

学校健診が無意味という結論ではない

ここで、学校歯科健診には意味がないと結論づけるのは適切ではありません。

学校健診には、児童・生徒の健康状態を把握し、必要な保健指導や受診のきっかけを作る役割があります。

ただし、健診を実施したという事実だけで、受診率や口腔健康の改善まで達成できるとは限りません。

今回の上海研究は、まさにその間にある問題へ働きかけた研究として位置づけられます。

参考文献:Aroraら、Cochrane Database of Systematic Reviews、2022年[2]

紹介先の歯科医院を指定するだけでも足りない?2021年のRCT

サウジアラビアの16校・1,098人研究

もう一つ、興味深い先行研究があります。

2021年、Alayadiらはサウジアラビアのリヤドで、学校歯科健診後の紹介方法について検討しました[3]。

16校の児童1,098人を解析したクラスターランダム化比較試験です。

研究では、特定の歯科病院を紹介する方法と、一般的に歯科医院での受診を勧める方法を比較しました。

具体的な紹介先を示しても有意差はなかった

その結果、未処置う蝕の増加量について、有意な群間差は認められませんでした。

報告された比率は0.88、95%信頼区間0.53〜1.06でした。

歯科医院を受診した児童の割合についても、有意な群間差は認められませんでした。

つまり、受診先の歯科病院を具体的に指定したからといって、通常の受診勧奨より明確に良い結果が得られたわけではなかったのです。

上海研究とは何が違うのか

この2021年の研究は、今回の上海研究と比較して考える価値があります。

上海の介入は、受診先を案内するだけではありませんでした。

家庭への連絡、予約支援、受診確認、学校への結果報告、家庭での口腔ケア支援などを一体として行っています。

ただし、二つの研究は対象地域や研究方法、介入内容、評価項目が異なります。

したがって、上海研究の結果を根拠に「紹介先の指定ではなく予約支援こそが効果を生んだ」と断定することはできません。

それでも、紹介先を示すことと、実際の受診まで支えることは別の介入であるという違いを考える材料になります。

なお、この2021年の研究は、前節で紹介した2022年のコクランレビューにも含まれています。独立した証拠として二重に数えることはしません。

参考文献:Alayadiら、Caries Research、2021年[3]

予約を支える人がいると何が変わる?米国の受診調整研究

2010年の研究では受診調整担当者が置かれた

歯科受診を支える担当者の存在については、米国でも研究されています。

2010年、Binkleyらは、Medicaidという公的医療保障制度の対象となっている子ども136人を対象に、受診調整支援の効果を検討しました[4]。

対象となった子どもは4〜15歳で、過去2年間、Medicaidの歯科受診請求記録がなかった児童でした。

介入群では、家庭への教育だけでなく、歯科医院を探す支援、予約の手配、予約どおりに受診するための支援などが行われました。

受診率43%対26%

12か月間の歯科サービス利用率は、次のとおりでした。

群歯科サービス利用
受診調整支援を受けた群29/68人、約43%
通常対応群18/68人、約26%

P=0.047で、有意差が報告されました。

この研究では、受診を調整する担当者を加えることで、歯科サービス利用が改善しました。

学校健診後の研究ではありませんが、歯科医院へ行くための具体的な支援に着目した先行研究として参考になります。

2024年の研究では、測定方法によって結果が異なった

一方、受診支援の効果は、どの研究でも一貫しているわけではありません。

2024年、『JAMA Network Open』に掲載されたNelsonらの研究では、米国の小児診療施設18施設、1,023組の親子を対象にしたクラスターランダム化比較試験が行われました[5]。

なお、この研究の対象児は平均56.1か月、約4歳8か月で、上海研究の小学1〜3年生とは年齢層が異なります。また、介入も小児の一般診療を通じた口腔保健支援であり、学校歯科健診後の受診支援を直接比較したものではありません。

臨床検査に基づく受診評価では、介入群の受診オッズが高い結果でした。

調整オッズ比は1.34、95%信頼区間1.07〜1.69です。

一方、Medicaidの請求記録に基づく2年間の評価では、介入群の受診オッズが低い方向の結果でした。

調整オッズ比は0.71、95%信頼区間0.53〜0.94でした。

同じ研究でも、臨床検査による評価と保険請求記録による評価で、結果が一致していなかったのです。

なお、請求記録による3年間の評価では有意な群間差は認められませんでした。

「受診した」を何で確認するかも重要

この研究は、受診率という数字を読む際の注意点を教えてくれます。

保護者が受診したと報告したか。

医療機関の診療記録が確認できたか。

医療保険の請求記録が存在するか。

それぞれで捉えられる情報が異なります。

今回の上海研究でも、歯科サービス利用について保護者の回答を利用し、可能な範囲で診療記録との照合を行っています。

受診率を評価するときには、単に数字を見るだけでなく、何を受診として数え、どう確認したのかまで見る必要があります。

日本でも、学校健診後に受診していない子どもがいる

2025年度学校健診後治療調査

では、日本では学校健診後の受診について、どのような問題があるのでしょうか。

全国保険医団体連合会は、2026年4月16日に「2025年度学校健診後治療調査」の結果を公表しました[7]。

この調査は、31都道府県の学校を対象に行われたものです。

小学校、中学校、高校、特別支援学校、義務教育学校など、合計4,785校から回答がありました。

回答率は19.5%です。

歯科健診後の未受診率66.8%

公表資料によると、歯科健診に関する主な結果は次のとおりでした。

項目公表値
歯科健診を受けた児童・生徒1,208,755人
要受診とされた児童・生徒329,548人
受診した人数109,193人
未受診の人数220,279人
要受診率27.3%
要受診者の未受診率66.8%

歯科健診で要受診とされた児童・生徒のうち、未受診と報告された割合が66.8%だったという結果です。

非常に大きな数字に見えます。

しかし、これを「日本の子どもの66.8%が歯科医院へ行っていない」と言い換えてはいけません。

分母は、調査に回答した学校で歯科健診後に要受診とされた児童・生徒です。

また、調査対象には小学生だけでなく、中学生や高校生なども含まれています。

なお、公表表では、要受診者329,548人に対して受診者109,193人と未受診者220,279人の合計が76人少なくなっています。

本稿では公表値をそのまま使用し、不明分を独自にどちらかへ振り分けません。

上海の90.2%と直接比較できる?

ここは誤解しやすいところです。

上海研究の90.2%は、12か月間に学校健診以外の歯科サービスを少なくとも1回利用した割合です。

一方、日本の調査の66.8%は、学校健診で要受診とされた児童・生徒のうち、調査時点で未受診と報告された割合です。

対象、評価期間、受診の定義、確認方法が異なります。

したがって、「上海では90.2%が受診したのに、日本では33.2%しか受診していない」と直接比較することはできません。

ただし、日本にも学校健診後の受診が実現しない子どもがいるという問題を考える資料にはなります。

2020年の62.3%から悪化したのか

同調査では、2020年の歯科未受診率は62.3%、2025年は66.8%と報告されています。

数字だけを見れば、2025年の方が高くなっています。

しかし、2020年調査は2〜3月、2025年調査は9〜10月と、調査時期が異なります。

学校健診後、どのくらいの期間が経過しているかによっても受診状況は変わり得ます。

そのため、この二つの数字だけで、日本全体の未受診問題が確実に悪化したと断定することはできません。

また、回答率が19.5%であるため、回答していない学校の状況についても不確実性があります。

数字を読む際には、対象と調査方法を確認することが大切です。

そもそも学校歯科健診を受けられなかった子どもは?

学校健診当日に受診できなかった児童・生徒

ここまで、学校歯科健診で問題が見つかった後の受診について考えてきました。

しかし、もう一つ別の問題があります。

そもそも学校の歯科健診を受けられなかった子どもたちは、どうなるのでしょうか。

全国保険医団体連合会の2025年度調査では、欠席などによって歯科健診を受けられなかった児童・生徒が45,259人報告されています。

そのうち、後日健診を受けた人数は13,703人で、割合は30.3%でした。

なお、調査表には、後日受診できなかった児童・生徒28,434人も記載されていますが、これらの人数を合計しても欠席者総数と一致しないため、不明分が残ります。

健診後の支援だけでは対応できない問題

上海研究では、学校健診を受けて歯科的な対応が必要と判断された児童が対象になっていました。

したがって、学校健診自体を受けられなかった児童への支援は、今回の介入で直接評価されたものではありません。

学校に登校することが難しい。

健診の日に欠席していた。

転校などで情報がつながりにくい。

そうした子どもへの健康確認には、別の課題があります。

「見つけた後」だけでなく「見つけられる機会」も重要

健診で問題を発見した後に、必要な医療へつなげる仕組みを作ることは重要です。

しかし、最初の健診そのものを受けられない場合には、その仕組みの入口にたどり着くこともできません。

学校健診後の受診支援を考えるときには、健診を受けられなかった子どもへの対応も、別の重要な問題として考える必要があります。

なぜ虫歯を指摘されても、歯科医院へ行けない家庭があるのか

東京都足立区の保護者1,613人を対象とした研究

ここからは、家庭の事情に目を向けてみたいと思います。

2020年、『日本公衆衛生雑誌』に「子どものう蝕に対する保護者の消極的受診態度に関する要因の探索的研究」が掲載されました[6]。

井上らによる研究です。

この研究は、東京都足立区で2016年に行われた子どもの健康・生活実態調査のデータを用いた横断研究でした。

小学4年生、小学6年生、中学2年生の保護者が対象です。

最終的に、受診態度などの必要な情報がそろった1,613人を解析しました。

269人が「すぐには連れて行けない」と回答

研究では、子どもに虫歯が指摘された場合、すぐに歯科医院へ連れて行けるかを尋ねています。

その結果、269人、16.7%の保護者が、すぐには連れて行けないという消極的な受診態度を示しました。

ここで重要なのは、この研究が調べたのは実際に歯科医院を受診したかどうかではなく、虫歯を指摘された場合に保護者がどう対応すると考えているかという「受診態度」だったという点です。

269人が消極的な受診態度を示したからといって、その269人全員が実際に歯科医院を受診しなかったという意味ではありません。

したがって、今回の上海研究で評価された、実際の歯科サービス利用率とは異なる指標です。

ただし、保護者が受診をためらう背景を知るうえでは、重要な研究だと思います。

最も多かった理由は「連れていく時間がない」

その理由として最も多かったのは、

「歯科医院へ連れていく時間がないから」

という回答でした。

原著では172人がこの理由を挙げています。

論文には55.8%という割合も記載されていますが、この割合は主要解析で消極的な受診態度を示した269人をそのまま分母にして計算すると一致しません。

そのため、ここでは公表された172人という人数と、最も多かった理由であるという点を中心に紹介します。

この結果は、保護者が歯科受診をためらう背景として、時間的な制約が大きな問題になり得ることを示しています。

ただし、実際の未受診の原因をこの研究だけで確定できるわけではありません。

家庭環境や生活時間との関連

研究では、保護者の受診態度と、社会経済的背景や家庭での生活習慣との関連も調べています。

母親の最終学歴が中学校または高校であること、子どもが朝食を食べないこと、歯磨き回数が少ないことなどが、消極的な受診態度と関連していました。

また、小学生では母親が就業していること、母親の帰宅時間が遅いことなども関連していました。

もちろん、これらの結果から、母親の就業が直接的な原因となって子どもを歯科医院へ連れて行けなくしていると断定することはできません。

横断研究であるため、原因と結果の関係は証明されていません。

また、各家庭には研究で測定できない事情もあります。

「行かない」と「行けない」を一緒にしない

受付さんとして考えさせられるのは、この部分です。

子どもを歯科医院へ連れて来られていない家庭について、最初から「歯の健康に関心がない」と考えてしまうと、本当の理由を見落とす可能性があります。

受診の必要性を理解していても、仕事が忙しく、子どもと一緒に来院できる時間を確保できないことがあります。

歯科医院へ行くことを子どもが怖がっていて、予約をためらっている場合も考えられます。

複数回の通院が必要になるかもしれないことが、負担になっている家庭もあるでしょう。

もちろん、受診を先送りしてよいという意味ではありません。

子どもに必要な診察や治療を受けてもらうことは大切です。

ただ、そのために必要なのは、保護者を責めることだけではなく、実際に受診できない理由を理解し、必要な支援を考えることではないでしょうか。

今回の足立区の研究は、実際の受診行動ではなく保護者の受診態度を調べた研究でした。

だからこそ、その結果を単純に未受診者の数へ置き換えず、家庭の受診しにくさを考える資料として受け止めたいと思います。

医療費が安くなれば、子どもの未受診はなくなる?

医療費の自己負担だけが受診の負担ではない

日本には、自治体による子どもの医療費助成制度があります。

対象年齢や自己負担額などは自治体によって異なりますが、家庭の医療費負担を軽減する役割があります。

しかし、医療費の自己負担が少なくなれば、すべての家庭が簡単に受診できるようになるのでしょうか。

前節で紹介した足立区の研究では、医療費助成のある地域でも、家庭の社会的背景や生活上の要因が歯科受診に対する態度と関連していました。

例えば、窓口で支払う医療費が軽減されていても、保護者が仕事を休む必要があるかもしれません。

歯科医院まで移動する時間が必要なこともあります。

小さなきょうだいを連れて行くことが難しい場合もあるでしょう。

受診するための負担は、診療費だけではないのです。

上海研究の介入にも費用がかかる

一方、今回の上海研究で行われた包括的な支援にも、人的・経済的な負担があると考えられます。

保護者へ連絡する。

予約を支援する。

受診状況を確認する。

学校や家庭へ結果を伝える。

歯磨き動画を確認し、個別の助言を行う。

これらは、誰かが時間を使って実施する仕事です。

今回の研究では、こうした包括的な支援によって歯科サービス利用率が改善しました。

しかし、その効果を得るために、どれだけの費用や人員が必要だったか、通常の地域保健サービスとして長期間維持できるかについては、十分に検証されていません。

家庭側と支援側、両方の負担を考える

未受診を減らす仕組みを作るためには、家庭の負担を軽くするだけでなく、その支援を行う学校や医療機関、地域の保健機関の負担も考える必要があります。

受診につながる仕組みがあっても、それを維持する担当者がいなければ長続きしません。

子どもの歯科医療へのアクセスを改善するには、家庭と支援する側の両方について考える必要があるのです。

日本では学校健診の結果をどう知らせ、どう受診につなげる?

日本には健診後の事後措置が定められている

ここまで上海の研究と、日本の未受診問題を見てきました。

では、日本の学校歯科健診では、健診後の対応はどのように定められているのでしょうか。

学校保健安全法施行規則第9条では、学校で健康診断を行った場合、21日以内に結果を児童・生徒と保護者へ通知し、必要な事後措置を取ることが定められています[8]。

事後措置には、必要な医療を受けるよう指示することや、適切な保健指導を行うことなどが含まれます。

つまり、日本でも学校健診は、検査を行って終わりという仕組みではありません。

健診の結果を家庭へ伝え、その後の対応へつなげることが制度上想定されています。

21日以内は治療完了の期限ではない

ここで誤解しやすいのが、21日以内という期間です。

これは学校が健康診断の結果を通知することに関する規定です。

「学校健診から21日以内に虫歯治療を全部終えなければならない」という意味ではありません。

歯科医院での診察や治療に必要な期間は、実際の歯の状態や治療内容によって異なります。

そのため、学校から結果通知を受け取った場合には、まず内容を確認し、必要に応じて受診について相談することが大切です。

日本にも結果報告や受診後の対応がある

日本学校歯科医会が公開している「歯・口腔の健康診断結果のお知らせ」の参考様式には、歯科医院で記入する受診結果の欄も設けられています[9]。

そこでは、治療が終わったのか、継続中なのか、経過観察なのかといった状態を報告できるようになっています。

また、学校歯科保健の資料でも、健診結果を家庭や学校での保健指導につなげることが重視されています。

したがって、今回の上海研究を紹介するときに、日本には受診後の確認や事後措置の仕組みがまったくないと説明することはできません。

仕組みがあっても、受診できない場合がある

問題は、仕組みの存在と、実際の受診が成立することは同じではないという点です。

学校で受診を勧められても、家庭の事情によって予約できない場合があります。

受診を勧める通知が届いても、保護者がその重要性を十分に理解できない場合もあるでしょう。

また、学校ごとに受診状況の確認方法や、家庭への継続的な支援の運用が異なる可能性もあります。

そのため、日本の制度を否定するのではなく、すでにある結果通知や受診報告の仕組みを踏まえたうえで、さらに受診しやすくする方法を考えることが大切です。

学校へ返す「受診報告書」は治療が終わってから?

学校の結果票には受診結果の欄がある場合がある

学校歯科健診の結果票について、保護者の方から相談されやすいのが、学校へ返す書類です。

例えば、虫歯を複数本指摘されて歯科医院を受診したとします。

診察の結果、何回かに分けて治療することになりました。

この場合、すべての治療が終わるまで、学校へ報告書を返せないのでしょうか。

必ずしもそうとは限りません。

日本学校歯科医会の参考様式には、歯科医院が記入する受診結果の欄があり、転帰として次の区分が設けられています[9]。

区分意味
治療済必要な治療を終えた状態
継続中必要な診療や治療を続けている状態
経過観察診察の結果、継続的に状態を確認する状態

このように、学校へ報告する内容は、必ずしも治療がすべて完了したという結果だけではありません。

ただし、実際に使用される用紙や提出時期は学校によって異なるため、学校から渡された書類の案内を確認する必要があります。

一度受診すれば、全部の虫歯が治るわけではない

ここも今回の上海研究とつながる部分です。

研究では、12か月間に歯科医療機関を少なくとも1回利用したかどうかが主要な評価項目でした。

しかし、実際の歯科診療では、複数回の通院が必要になることがあります。

一度受診したことと、必要な治療が終了したことは同じではありません。

学校へ提出する受診報告書でも、その違いが重要になる場合があります。

受付で判断できることと、歯科医師が判断すること

受付では、学校から渡された用紙にどのような記入欄があるか、提出期限があるか、診療内容の確認が必要かなどを確認できます。

しかし、実際に治療済みなのか、継続中なのか、経過観察なのかについては、歯科医師の診療内容に基づく判断が必要です。

受付が独自に治療完了を認定して、学校へ報告するものではありません。

CとCOは同じ意味ではない

学校歯科健診では、CやCOといった記号が使われます。

Cは、臨床的な虫歯が認められ、歯科医療機関での精密な診察や必要な治療につなげる判定です。

日本学校歯科医会では、Cを明らかなう窩の形成がある臨床的う蝕として説明しています[10]。

一方、COは「要観察歯」を意味します。

明らかな穴は確認できないものの、歯の表面に脱灰を疑う白濁や褐色斑などが認められ、虫歯の初期病変が疑われる歯です。

COは、学校での保健指導や経過観察を基本とします。

ただし、COが複数認められる場合や、歯垢の付着状態・歯肉の状態・生活状況などから、学校での保健指導だけでは虫歯が進行する危険性が高いと考えられる場合があります。

そのような場合には、「CO要相談」として、歯科医療機関での専門的な保健指導や予防処置を勧めることがあります。

CO要相談は、単純にCOが何本以上あれば必ず該当するという判定ではありません。

子どもの口腔内の状態や、必要な管理を総合的に考えたものです。

また、学校健診はスクリーニングです。

学校健診で何か指摘されたからといって、すべての子どもに同じ治療が必要になるわけではありません。

最終的な診断や治療の必要性は、歯科医院での診察に基づいて判断します。

詳しい記号の読み方や予約時の伝え方については、当院のコラム「学校歯科健診で『要受診』の紙をもらったら?歯医者の予約時に伝えること・結果票の持参・CO/GOの見方」でも説明しています。

学校や会社へ提出する歯科書類の種類については、「学校・会社へ提出する歯科の書類はいつ相談すればいい?」も参考にしてください。

学校から「受診しましたか?」と問い合わせが来たら?

受診確認と個人情報の共有は別の問題

今回の上海研究では、学校、家庭、地域の保健機関、病院の間で情報をやり取りし、受診や治療の状況を確認していました。

これは、受診の経路を途切れさせないための重要な仕組みでした。

しかし、日本で同じような連携を考える場合には、個人情報の取り扱いについても注意が必要です。

例えば、学校から歯科医院へ電話があり、

「この児童は、そちらの歯科医院を受診していますか?」

と問い合わせがあった場合を考えてみます。

学校関係者からの問い合わせだからといって、歯科医院が無条件に受診歴や診療内容を回答してよいわけではありません。

医療情報は原則として本人の同意が必要

個人情報保護委員会が公開している医療・介護関係事業者向けガイダンスでは、学校の教職員から児童・生徒の健康状態や回復の見込みについて問い合わせがあった場合、原則として本人の同意なしに回答してはいけないとされています[11]。

ただし、法令に基づく場合など、本人の同意を必要としない例外もあります。

また、未成年者の場合、本人の判断能力や情報の内容などに応じて、親権者・法定代理人の同意が必要になる場合があります。

そのため、実際の情報提供については、法令や院内の取り扱いに沿って判断する必要があります。

受診した事実だけでも個人情報になる

「診断名は伝えないから、受診したかどうかだけなら答えてよいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、特定の児童が特定の医療機関を受診したという情報も、個人に関わる診療情報です。

問い合わせを受けた場合には、誰からの問い合わせなのか、何のために情報が必要なのか、本人・保護者の同意があるのかなどを確認する必要があります。

学校指定の報告書を家庭から提出する方法との違い

学校健診後の受診報告書を、保護者を通じて学校へ提出する方法もあります。

この場合、患者さんや保護者が学校へ報告するための用紙を持参し、歯科医院で必要な確認を行って記入するという流れになります。

一方、学校からの電話に対して、歯科医院が直接受診歴や治療内容を伝える方法は、別の情報共有です。

同じ「受診結果を学校へ伝える」という目的であっても、その方法によって確認すべきことが異なります。

今回の研究から情報連携の重要性を学ぶことはできます。

しかし、情報をつなぐために、子どもや家庭のプライバシーを軽視してよいわけではありません。

受付さんは、学校と歯科医院の間で何ができる?

受付は診断する場所ではない

ここまで研究の結果と、日本の学校健診制度を見てきました。

では、歯科医院の受付では、どのようなことができるのでしょうか。

まず大切なのは、受付の役割と歯科医師の役割を区別することです。

学校健診で虫歯を指摘されていても、歯科医院で実際に診察するまでは、必要な治療内容が決まっているわけではありません。

受付で「その虫歯なら削る必要があります」「この歯は治療しなくても大丈夫です」と判断することはできません。

学校健診の結果は大切な情報ですが、最終的な診断や治療方針は歯科医師が判断します。

受診するまでの困りごとを整理する

例えば、次のような相談を想定してみます。

「学校で虫歯があると言われたのですが、仕事が忙しくて、なかなか予約できませんでした」

この場合、受付でできるのは、まず相談の内容を確認することです。

学校健診で何を指摘されたのか。

現在、痛みや腫れなどの症状があるのか。

すでに歯科医院へ通っているのか。

予約について困っていることがあるのか。

学校へ提出する書類が必要なのか。

こうした情報が分かれば、診療側へ適切に伝えたり、予約について案内したりしやすくなります。

ただし、強い痛みや急な腫れなどがある場合には、単なる学校健診後の受診相談として扱わず、現在の症状を歯科医師へ適切につなぐ必要があります。

「何を予約すればよいか分からない」でも相談できる

学校の結果票には、CやCOなど、普段は見慣れない記号が書かれていることがあります。

保護者の方が、そのすべてを理解してから歯科医院を予約する必要はありません。

「学校歯科健診で受診を勧められました」

という情報があれば、受付では必要な内容を確認しながら案内できます。

結果票が手元にある場合には、受診時に持参していただくと、指摘された内容を確認しやすくなります。

また、学校へ提出する用紙がある場合にも、その書類を確認する必要があります。

受付で確認しておきたいこと

学校健診をきっかけにした受診相談では、次のような情報が参考になります。

確認する内容受付での役割
学校健診で何を指摘されたか相談内容の把握
現在の痛み・腫れ症状の確認と診療への申し送り
現在の通院状況すでに治療・管理中か確認
学校からの結果票や報告書書類の内容・記入欄の確認
予約についての事情来院日程の相談
保護者が気にしていること診療側への情報共有

ただし、これは今回の研究結果を踏まえて整理した受付業務上の考え方です。

上海研究で、この表の各項目を受付専用の確認表として検証したわけではありません。

受付だけで解決できないこともある

もちろん、受付がすべての問題を解決できるわけではありません。

希望日時に予約できるとは限りません。

必要な治療が1回で終わるとも限りません。

学校と歯科医院の間で、すべての受診情報を自由に共有できるわけでもありません。

今回の上海研究では、地域の保健機関が専用の連携体制を作り、家庭への連絡や受診状況の確認を行っていました。

一般の歯科医院の受付が、それと同じ業務を標準的に実施しているわけではありません。

だからこそ、受付としてできることと、歯科医師や学校、行政などの判断が必要なことを区別することが大切です。

ブランデンタルクリニックでの受診相談

ブランデンタルクリニックでは、通常のご予約はWEB・LINE・電話から受け付けています。

学校歯科健診で受診を勧められた場合は、その旨を予約時にお知らせください。

結果票がある場合は、受診時に持参していただくと確認がスムーズです。

学校からの書類が必要な場合も、受付へお知らせください。

また、強い痛みや急な腫れなどがある場合には、学校健診後の受診であることだけでなく、現在の症状もお伝えください。

受付は診断する場所ではありません。

それでも、受診を希望する患者さんの状況を確認し、必要な情報を診療へつなげるという役割があります。

今回の研究を読んで、その役割について改めて考えさせられました。

広島市のこども医療費補助制度と、受診するための負担

2026年10月時点の制度

学校歯科健診をきっかけに受診する際、費用について気になる保護者の方もいると思います。

広島市には、こども医療費補助制度があります[12]。

2026年10月時点では、中学校3年生までが対象となっており、所得要件や自己負担額などの条件があります。

学校から「要受診」の結果票をもらったという理由だけで、歯科医院での診察や治療が一律に無料になるわけではありません。

実際の費用は、健康保険の適用、医療費助成の対象、行う診療内容などによって異なります。

2027年1月から制度拡充が予定されている

広島市の公式案内では、2027年1月診療分から、こども医療費補助制度を拡充する予定とされています。

対象年齢を中学校3年生までから高校生年代まで拡大し、所得制限を撤廃する内容です。

ただし、これは2026年10月時点の制度ではなく、2027年1月から予定されている変更です。

受診時点によって適用条件が異なるため、最新の制度内容は広島市の公式案内で確認する必要があります。

費用が軽減されても、受診の難しさは残る

医療費の自己負担が軽減されることは、家庭にとって重要な支援です。

しかし、子どもを歯科医院へ連れて行くには、保護者が付き添う時間や移動の負担なども必要です。

前述の足立区の研究でも、医療費助成のある地域で、保護者の生活状況が歯科受診への態度と関連していました。

受診しやすい仕組みを考えるときには、費用だけでなく、時間や生活上の負担にも目を向ける必要があります。

受診率を上げる仕組みは、誰が維持するのか?

上海研究の介入は、かなり手厚い

今回の研究で行われた介入を振り返ってみます。

学校健診後1週間以内の家庭への連絡。

予約の支援。

歯科受診の確認。

学校と家庭への結果報告。

2か月ごとの口腔衛生教育。

月1回の質問会。

週1回の家庭ケア記録。

48時間以内の専門職による記録確認と助言。

これらは、単なる健診結果の通知と比較すると、非常に多くの業務を含んでいます。

誰が連絡するのか

例えば、学校健診で要受診とされた児童が何百人もいる場合を考えてみます。

家庭への連絡だけでも相当な時間が必要になる可能性があります。

さらに、予約支援や受診状況の確認、学校への報告まで行うには、担当者や情報管理の仕組みが必要です。

今回の研究では、地域の保健機関が調整役を担いました。

しかし、同じ体制をどの地域でも簡単に用意できるとは限りません。

スタッフ個人の努力だけに頼ってはいけない

受診率を改善することは重要です。

しかし、それを支えるために、学校の先生や歯科医院の受付、歯科衛生士などに、際限なく追加の業務が求められる仕組みでは、継続が難しくなる可能性があります。

必要なのは、担当者の役割を明確にし、適切な人数や時間、費用、個人情報の管理体制などを整えることです。

特に日本で導入を検討する場合には、学校や地域保健制度の違いも考える必要があります。

効果があることと、続けられることは違う

今回の研究では、12か月間の歯科サービス利用率が大きく改善しました。

しかし、同じ支援を何年間も続けた場合に、同じ効果が維持されるかどうかは分かりません。

また、どの程度の費用をかければよいのか、費用に見合う効果があるのかについても、十分な検証はありません。

効果のある介入を見つけることと、日常の制度として継続できる仕組みを作ること。

この二つも、分けて考える必要があります。

4校だけの研究で、どこまで信じてよいのか?

限界① 無作為に割り付けた学校が4校しかない

今回の研究では、576人の児童が登録されました。

しかし、無作為に割り付けた学校は4校だけです。

介入群2校、通常健診群2校でした。

学校ごとに、家庭の背景、地域の医療資源、教職員の協力度、保護者の生活環境などが異なる可能性があります。

研究では学校をランダム効果として扱い、学校内の児童の類似性を考慮した統計モデルが用いられました。

しかし、学校が4校しかないため、学校間のばらつきを正確に推定するには限界があります。

信頼区間やP値も、その制約を踏まえて解釈する必要があります。

限界② 学校の割り付け後に参加児童を募集した

この研究では、学校を介入群と通常健診群へ割り付けた後に、児童を募集しました。

そのため、参加児童の募集時点で、どちらの群に所属するかが分かっていました。

これは、割り付け後の募集バイアスにつながる可能性があります。

例えば、介入内容を知ったうえで研究に参加するかどうかが決まれば、参加者の特徴に影響するかもしれません。

もちろん、必ず偏りが生じたと証明されたわけではありません。

しかし、研究設計上の注意点です。

限界③ 試験登録が事後登録だった

原著では、研究の登録日が2026年1月5日と記載されています。

これは、予定された12か月の追跡期間が終了した後でした。

つまり、試験登録は事後登録です。

研究開始前から評価項目や解析計画がどのように定められていたかを、試験登録情報から独立して確認することが難しいという問題があります。

これは研究結果が必ず間違っていることを意味するものではありません。

しかし、研究の透明性を評価するうえで重要な限界です。

限界④ 48人が完全データ解析から外れた

研究に登録された576人のうち、12か月後の完全データ解析対象は528人でした。

48人は質問票の不完全な回答や追跡不能などによって、完全データ解析に含まれていません。

研究では、解析に含まれた児童と含まれなかった児童の、測定済みの開始時特性に有意な違いは認められなかったとしています。

しかし、欠測による偏りを完全に否定できるわけではありません。

限界⑤ 歯科受診の確認には保護者の報告も使われた

歯科サービス利用については、保護者の報告が利用されました。

可能な範囲で地域の保健機関や病院の診療記録と照合されましたが、すべての受診を同じ精度で確認できたとは限りません。

特に、研究に参加した医療機関以外での受診は、確認が難しかった可能性があります。

限界⑥ 生活習慣は保護者の自己申告

歯磨きや食習慣は、主に保護者への質問票によって評価されました。

保護者がすべての行動を正確に覚えているとは限りません。

また、望ましいと考えられる行動を回答しやすくなる可能性もあります。

研究結果を読む際には、行動の実測値と質問票による自己申告を区別する必要があります。

限界⑦ 複数の副次評価項目を検討している

研究では、歯磨き、食習慣、未処置う蝕歯数、充填歯数、保護者の知識など、多くの項目を調べています。

その一方で、副次評価項目に関する多重比較の補正は行われていません。

多数の検定を行うと、偶然に有意差が出る可能性も考えなければなりません。

そのため、主な評価項目である歯科サービス利用率の結果と、副次評価項目の結果は、同じ強さの証拠として扱うべきではありません。

限界⑧ 乳歯と永久歯を合計している

今回のう蝕経験歯数は、乳歯と永久歯を合計して評価しています。

従来の乳歯dmftや永久歯DMFTとは異なる指標です。

乳歯から永久歯へ生え替わる年齢の児童を対象としていることも考えると、歯列ごとの変化を細かく確認できない点には注意が必要です。

限界⑨ 新規う蝕の発生を独立して測定していない

今回の研究では、未処置う蝕歯数の減少と充填歯数の増加が認められました。

しかし、新しく発生した虫歯を別の指標として記録していません。

そのため、今回の介入が虫歯の新規発生を減らしたかどうかは、直接判断できません。

限界⑩ どの介入要素が重要だったか分からない

家庭への連絡、予約支援、受診確認、健康教育、WeChatによる支援などは、まとめて実施されました。

予約支援だけの群、保護者教育だけの群、デジタル支援だけの群などを設けた研究ではありません。

そのため、どの要素がどれだけ効果に寄与したかは分かりません。

限界⑪ 12か月を超える効果と費用対効果は不明

今回の追跡期間は12か月でした。

その後も歯科受診が継続したのか、家庭での習慣が維持されたのか、新しい虫歯の発生にどのような影響があったのかは不明です。

また、介入に必要な費用や人員についても、十分な評価は行われていません。

それでも研究の価値はある

ここまで多くの限界を紹介しました。

しかし、限界があることと、研究に価値がないことは同じではありません。

今回の研究は、学校歯科健診で問題が見つかった子どもを、家庭、学校、地域の保健機関、病院の連携によって実際の歯科受診へつなげるという、具体的な仕組みを検討しています。

そして、12か月間の歯科サービス利用率に大きな群間差が報告されました。

結果は有望です。

ただし、より多くの学校や異なる地域で同じ効果が再現されるかどうかを確かめる必要があります。

「有望な研究結果」と「効果が確立された制度」は、同じではありません。

この違いを忘れずに評価することが大切だと思います。

次の研究では何を調べるべきなのか

より多くの学校で再検証する

今回の研究は上海の4校で行われました。

今後は、さらに多くの学校、異なる地域、さまざまな家庭環境で、同じような介入の効果を確認する必要があります。

都市部と地方では、歯科医院へのアクセスが異なる場合があります。

家庭で利用できる通信環境や医療費の制度も、地域や国によって異なります。

同じ介入が、異なる環境でも同じように機能するとは限りません。

支援の要素を分けて調べる

今回の研究では、複数の支援を一体として実施しました。

次の研究では、健診結果の通知方法、予約支援、受診確認、保護者教育、デジタル支援などを分けて比較できると、実際に必要な仕組みがより明確になるかもしれません。

例えば、結果通知だけの方法に対して、個別の予約支援を追加すると何が変わるのか。

受診しなかった家庭への再連絡には、どの程度の効果があるのか。

電話による連絡とデジタルによる連絡では、参加しやすい家庭に違いがあるのか。

これらは今後調べる価値のある問題です。

なお、今回の研究で実際に比較された群ではありません。

治療完了と新しい虫歯の発生も評価する

歯科サービス利用率が改善したことは重要です。

しかし、一度受診した後、必要な治療が完了したのか、予防管理が継続されたのかも知りたいところです。

さらに長期間追跡し、新しい虫歯の発生についても評価できれば、受診支援が子どもの口腔健康にどの程度の影響を及ぼすのかをより明確にできるでしょう。

費用と継続可能性も必要な評価項目

受診を支援する仕組みを社会全体へ広げるには、効果だけでなく、その費用や人員も考える必要があります。

家庭への連絡、予約支援、受診確認を誰が担当するのか。

どの程度の費用が必要なのか。

支援が必要な家庭へ公平に届くのか。

学校や医療機関の業務として長く維持できるのか。

こうした問題についても、今後の研究が期待されます。

よくある質問|学校歯科健診から受診まで

Q1.学校で虫歯を指摘されたら、必ず削る治療が必要ですか?

必ずしもそうとは限りません。

学校歯科健診は、児童・生徒の歯や口の状態を確認し、必要に応じて歯科医院での診察や管理を勧めるスクリーニングです。

実際に歯科医院で診察した結果、修復治療が必要と判断される場合もあれば、予防管理や経過観察が適切と判断される場合もあります。

必要な対応は歯科医師が判断します。

Q2.痛くなければ、次の学校健診まで待っても大丈夫ですか?

痛みがないことだけで、虫歯やその他の問題がないと判断することはできません。

学校健診で歯科医院での確認を勧められた場合は、症状がなくても受診について相談してください。

特に痛みや腫れがある場合には、現在の症状を優先して歯科医院へ伝える必要があります。

Q3.学校で要受診と言われましたが、仕事でなかなか連れて行けません。

保護者の方が付き添える日時や、現在のお子さんの症状などを確認しながら、予約について相談することができます。

ただし、希望する日時に必ず予約できることや、治療が1回で終了することを保証するものではありません。

受診について困っていることがある場合は、予約時にお知らせください。

Q4.学校へ返す紙は、治療が全部終わるまで提出できませんか?

学校の用紙や運用によって異なります。

日本学校歯科医会の参考様式には、「治療済」「継続中」「経過観察」という区分があります。

治療が複数回にわたる場合でも、現在の受診状況を報告できる場合があります。

実際の提出方法や期限については、学校から渡された書類を確認してください。

Q5.学校健診の結果票をなくしても歯科医院へ行けますか?

結果票を紛失したことだけを理由に、受診相談まで先延ばしにする必要はありません。

ただし、学校で指摘された内容を確認したり、学校へ受診結果を返したりするには、指定の用紙が必要になることがあります。

詳しくは、当院の「学校歯科健診の『要受診』の紙をなくした!結果票なしでも歯医者は予約できる?」をご覧ください。

Q6.今回の研究の90.2%は、虫歯治療を終えた割合ですか?

違います。

研究で報告された90.2%は、12か月間に学校の通常健診以外で、予防または治療目的の歯科サービスを少なくとも1回利用した割合です。

必要な虫歯治療をすべて終えた児童の割合を示しているわけではありません。

Q7.今回の研究で、虫歯の予防効果も証明されたのですか?

新しい虫歯の発生を減らしたことまでは証明されていません。

介入群では未処置う蝕歯数が減少し、充填歯数が増加しました。

一方、う蝕経験歯数の合計には有意な群間の変化の差が認められませんでした。

また、新規に発生した虫歯を独立した評価項目として測定していません。

Q8.学校から歯科医院へ直接、受診したか確認してもらえますか?

学校と歯科医院の間で診療情報を共有する場合には、本人・保護者の同意や個人情報保護の規定などを確認する必要があります。

学校から問い合わせがあったという理由だけで、受付が無条件に受診歴や治療内容を伝えるものではありません。

学校指定の受診報告書を保護者が提出する方法もありますので、学校の案内に従って確認してください。

まとめ|虫歯を見つけることと、治療につなげることは別の仕事

今回紹介した上海の研究では、家庭・学校・地域の保健機関・病院をつなぐ包括的な支援によって、12か月間の歯科サービス利用率が大きく改善しました。

介入群では61.7%から90.2%へ増加しました。

一方、通常健診群では63.3%から59.8%への変化でした。

また、未処置う蝕歯数の減少と充填歯数の増加も報告されました。

ただし、う蝕経験歯数全体には有意な群間の変化の差が認められず、新しい虫歯の発生を減らしたことまでは証明されていません。

つまり、今回の研究で最も明確に示されたのは、学校健診で見つかった歯科的な問題を、実際の歯科医療へつなげる仕組みの可能性でした。

もちろん、この研究には限界があります。

学校は4校だけで、試験登録は事後登録でした。

複数の支援を組み合わせていたため、どの要素がどれだけ効果に寄与したかも分かりません。

中国・上海の医療制度とデジタル環境で行われた研究であり、日本の学校健診へそのまま同じ結果を当てはめることもできません。

それでも、今回の研究が投げかけている問題は、日本の学校歯科健診について考えるうえでも参考になると思います。

学校で歯科的な問題を見つけること。

その結果を家庭へ伝えること。

必要なときに歯科医院で診察を受けられること。

そして、必要な治療や予防管理につながること。

これらは、一つにつながっているようで、それぞれ別の段階です。

保護者の方が受診の必要性を理解していても、実際に歯科医院へ来られない事情があるかもしれません。

そのようなとき、単に「早く歯医者へ行ってください」と伝えるだけで、本当に解決できるのでしょうか。

今回の研究を読んで、そんなことを考えました。

受付でできることには限りがあります。

虫歯を診断したり、治療方針を決めたりするのは歯科医師の役割です。

学校や地域全体の受診支援の仕組みを、受付だけで作ることもできません。

それでも、受診を希望する患者さんの困りごとを聞き、必要な情報を確認し、診療へつなぐことはできます。

学校から渡された一枚の結果票が、家庭の中で止まってしまうのではなく、必要な歯科医療へつながるきっかけになること。

そんな一つ一つの過程を大切にしていきたいと思います。

学校で虫歯を見つけることは、ゴールではありません。必要な歯科医療へつながるための、大切な出発点なのだと思います。

参考文献

中心となる原著論文

  1. Zhang L, Hong W, Liu L, Su D, Wang X, Jiang H, Song L. A family–school–community–hospital closed-loop intervention for childhood caries management: a cluster-randomized controlled trial. BMC Oral Health. Published October 3, 2026. https://doi.org/10.1186/s12903-026-09991-z

学校歯科健診・受診支援に関する研究

  1. Arora A, Kumbargere Nagraj S, Khattri S, Ismail NM, Eachempati P. School dental screening programmes for oral health. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022;7:CD012595. https://doi.org/10.1002/14651858.CD012595.pub4
  2. Alayadi H, Bernabé E, Sabbah W. Effectiveness of School Dental Screening to Reduce Untreated Caries: A Cluster-Randomized Controlled Trial. Caries Research. 2021;55(6):577–584. https://doi.org/10.1159/000519770
  3. Binkley CJ, Garrett B, Johnson KW. Increasing dental care utilization by Medicaid-eligible children: a dental care coordinator intervention. Journal of Public Health Dentistry. 2010;70(1):76–84. https://doi.org/10.1111/j.1752-7325.2009.00146.x
  4. Nelson S, Albert JM, Selvaraj D, et al. Multilevel Interventions and Dental Attendance in Pediatric Primary Care: A Cluster Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open. 2024;7(7):e2418217. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.18217

日本の学校歯科保健・保護者の受診行動

  1. 井上裕子,松山祐輔,伊角彩,土井理美,越智真奈美,藤原武男.子どものう蝕に対する保護者の消極的受診態度に関する要因の探索的研究.日本公衆衛生雑誌. 2020;67(4):283–294. https://doi.org/10.11236/jph.67.4_283
  2. 全国保険医団体連合会.2025年度学校健診後治療調査報告.2026年4月16日.https://hodanren.doc-net.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/20260416release.pdf
  3. 学校保健安全法施行規則.第9条(事後措置).e-Gov法令検索.https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=333M50000080018
  4. 日本学校歯科医会.歯・口腔の健康診断結果のお知らせ(参考様式).https://www.nichigakushi.or.jp/wp-content/uploads/2025/06/A201003.pdf
  5. 日本学校歯科医会.学校歯科健康診断に関する資料・よくある質問(C・CO・CO要相談).https://www.nichigakushi.or.jp/qa/

個人情報保護・地域制度

  1. 個人情報保護委員会.医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス.https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/
  2. 広島市.こども医療費補助制度.https://www.city.hiroshima.lg.jp/living/medical/1021209/1027972/1003459.html

※本稿は2026年10月9日時点で確認できる研究・公的資料に基づいています。研究結果は集団における傾向を示すものであり、個々の児童の診断や治療の必要性を決定するものではありません。学校の受診報告書、医療費助成、受診時の対応は、それぞれの学校・自治体・医療機関の運用や最新の制度を確認してください。

TOP