2026年6月11日

(院長の徒然コラム)

tooth-level prognosis と「残す責任」を、数値から考える
歯周ポケットが深い歯を本当に残すべきか。
この問いに対して、臨床家はしばしば二つの誘惑にさらされます。
一つは、「深いから抜歯」という短絡です。
もう一つは、「患者さんが残したいと言うから残す」という先送りです。
どちらも、臨床判断としては不十分です。
歯周ポケットが深い歯を残すかどうかは、信念や好みで決めるものではありません。PPD、CAL、BOP、排膿、骨吸収量、骨欠損形態、根分岐部病変、動揺、歯内病変、歯根破折、補綴設計、咬合、清掃性、SPT遵守性を読み、さらにそのリスクが治療によって修正可能かどうかを判断する必要があります。
そして、その判断は数字から逃げてはいけません。
Matulieneらの11年メインテナンス研究では、PPD 3mm以下と比較して、治療後に残ったPPD 5mmは歯の喪失リスクを部位レベルでOR 5.8、歯レベルでOR 7.7に上げています。PPD 6mmではOR 9.3と11.0、PPD 7mm以上ではOR 37.9と64.2です。
この数字を前にしてなお、「深いポケットが残っているが、とりあえず様子を見ましょう」という言葉を軽く使えるでしょうか。
一方で、Pretzlらの10年データでは、歯周治療後のregular SPT下において、初期に60〜80%の骨吸収を示した歯であっても93%が10年生存しています。Graetzらの15年研究では、侵襲性歯周炎患者において、questionable teethの88.2%、hopeless teethの59.5%がregular SPT下で15年生存しています。
この数字を前にしてなお、「重度だから抜歯」と言い切れるでしょうか。
ここに、深い歯周ポケットを持つ歯の臨床判断の難しさがあります。
残存ポケットは明確にリスクです。
しかし、重度歯周病歯でも条件が整えば長期生存し得ます。
したがって、本稿で考えたいのは、「深い歯周ポケットの歯を抜くべきか、残すべきか」ではありません。
本当に問うべきは、
そのリスクを管理可能な形に変換できるのか
ということです。

歯周病は、今なお日本人が歯を失う主戦場です
まず、歯周ポケットの深い歯を論じる前に、歯周病が歯の喪失にどれほど関与しているかを確認する必要があります。
Suzukiらによる日本の第2回全国抜歯原因調査では、日本歯科医師会会員名簿から5,250名の歯科医師が抽出され、2,345名が回答しました。回収率は44.8%です。調査期間は2018年6月4日から6月10日までの1週間で、6,398名の患者から7,809本の永久歯抜歯情報が解析されています。
その結果、歯周病は男性で40.4%、女性で34.9%を占め、男女とも抜歯原因の最多でした。う蝕は男性30.2%、女性29.0%、破折は男性16.8%、女性19.2%です。さらに、55歳以上では歯周病が抜歯原因として優勢になります。
このデータは、「歯周ポケットが深い歯をどう扱うか」が特殊な歯周病専門医だけの議論ではないことを示しています。中高年以降の臨床で歯を失う主戦場は、う蝕だけではありません。歯周病、破折、補綴的負担、歯内疾患が絡み合う領域です。
歯周ポケットが深い歯を残すのか、抜歯するのか。
この判断を誤ると、一本の歯を失うだけでは済みません。
隣在歯の骨支持を失うことがあります。
補綴設計を複雑にすることがあります。
将来のインプラントや義歯設計を不利にすることがあります。
逆に、残せる歯を早期に抜歯すれば、天然歯の価値を不必要に失わせます。
したがって、このテーマは情緒で語ってはいけません。数字で見て、病態を読み、長期予後で判断する必要があります。
PPDは判断の入口でありPPD単独で歯の運命を決めることはできません
歯周ポケットの深さ、すなわちPPDは重要です。これは間違いありません。深いポケットは清掃困難であり、縁下プラークや歯石が残存しやすく、炎症の温床になりやすいからです。
しかし、PPDは単独で歯の予後を決める指標ではありません。
PPDは、プローブがどこまで入ったかを示す臨床計測値です。炎症性腫脹が強ければ深く出ます。歯肉退縮が進めば、PPDは浅くてもCALは大きく失われていることがあります。プロービング圧、歯石の残存、根面形態、根面溝、歯根の近接、ポケットの方向、歯肉の厚み、骨欠損形態によっても、PPDの臨床的意味は変わります。
同じ6mmでも、意味はまったく違います。
歯周基本治療後にBOP陰性で、排膿もなく、プラークコントロールが良好で、エックス線的にも進行が止まっている6mm。
BOP陽性で、排膿を伴い、垂直性骨吸収が進行し、根分岐部病変も悪化している6mm。
この二つを同じ「6mmポケット」として扱うなら、それは歯周病の診断ではなく、単なる計測値の読み上げです。
2018年のAAP/EFP分類でも、歯周炎はStage、Grade、範囲で評価されます。Stage IIIではPPD 6mm以上、垂直性骨吸収3mm以上、根分岐部病変Class IIまたはIIIなどが複雑性因子として扱われます。Stage IVではさらに、咀嚼機能障害、二次性咬合性外傷、病的移動、咬合崩壊、残存歯数20本未満など、口腔機能全体の問題に広がります。
つまり、PPDは入口です。
しかし、StageとGradeは、その入口の先にあるリスク構造を読むための言語です。
島袋らの研究では、歯周炎治療後の328名を60〜143か月、中央値97か月相当で後ろ向きに評価し、2018年新分類とメインテナンス期間中の歯の喪失との関連を解析しています。Stage IおよびGrade Aではメインテナンス期間中の歯の喪失が認められず、97か月時点の歯周炎由来の歯の喪失累積発生率は、Stage IVで6.6%、Grade Cで3.4%、広汎型で2.8%でした。
このデータが示しているのは、StageやGradeが単なる分類名ではないということです。Stage IVやGrade Cは、メインテナンス期の歯周炎由来の歯の喪失を読むための臨床的シグナルです。
深い歯周ポケットを見たとき、臨床家はPPDだけを見てはいけません。
その歯が、どのStage、どのGrade、どの範囲の歯周炎患者の中に存在しているかを読まなければなりません。

残存ポケットは、ただの“残った数字”ではありません
歯周基本治療後、再評価で深いポケットが残ることがあります。この残存ポケットをどう扱うかで、臨床家の本気度が分かれます。
「初診時より改善したので、様子を見ましょう」
「患者さんが抜きたくないので、メインテナンスで見ましょう」
「今すぐ腫れていないので、残しておきましょう」
こうした判断が妥当なこともあります。問題は、その“様子見”が何を根拠にしているかです。
Matulieneらは、active periodontal therapy後にsupportive periodontal therapyへ移行した172名を、3〜27年、平均11.3年追跡し、残存PPDと歯周炎進行・歯の喪失の関係を検討しました。
結果は強烈です。
PPD 3mm以下と比べて、PPD 5mmでは歯の喪失リスクが部位レベルでOR 5.8、歯レベルでOR 7.7。
PPD 6mmではOR 9.3、11.0。
PPD 7mm以上ではOR 37.9、64.2。
さらに患者レベルでは、重度喫煙、初診時診断、SPT期間、PPD 6mm以上が歯周炎進行のリスク因子となり、PPD 6mm以上とBOP 30%以上が歯の喪失リスクとして示されています。
このデータを読むと、「深いポケットを残す」という言葉の重さが変わります。
残存ポケットは、再評価表に残った数字ではありません。
将来の歯周炎進行と歯の喪失リスクを、口腔内に残すことです。
もちろん、全ての残存ポケットが即抜歯を意味するわけではありません。しかし、BOPを伴う5mm以上の残存ポケット、6mm以上のポケット、7mm以上の深いポケットを、何の介入基準もなくSPTへ流すことは危険です。
Salehらの25年追跡研究でも、残存ポケットの“分布量”が問題になります。中央値25年の追跡で、全体の13.7%の歯が喪失し、そのうち4.6%が歯周炎由来でした。歯周炎由来の歯の喪失を経験した患者の90.8%は5mm以上の残存ポケットを1部位以上有し、77.6%は6mm以上の残存ポケットを1部位以上有していました。さらに、5mm以上の残存ポケットが全体の15%を超える患者では、歯周炎由来の歯の喪失に対するHRが2.34、Grade CではHR 4.6でした。
ここで重要なのは、「一本の歯に6mmがあるか」だけではないということです。
5mm以上の残存ポケットが、口腔内にどの程度広がっているか。
Grade Cの背景を持つ患者なのか。
BOPを伴っているのか。
SPTに定期的に来るのか。
この歯だけではなく、口腔全体が再発しやすい環境にあるのか。
残存ポケットの評価は、部位単位であり、歯単位であり、患者単位でもあります。

重度歯周病歯は“即抜歯”ではありません
ここまで読むと、深いポケットを有する歯は早期に抜歯すべきだと感じるかもしれません。しかし、話はそこまで単純ではありません。
Pretzlらは、active periodontal therapy後の100名、2,301歯を10年追跡し、歯の喪失に関与する因子を解析しています。10年間で155歯が喪失しました。患者関連因子として、高いプラークスコア、irregular SPT、年齢が歯の喪失に関与しました。歯単位の因子として、ベースラインの骨吸収、根分岐部病変、支台歯であることが歯の喪失に関連しました。
ここまでは予想通りです。
しかし重要なのは、regular SPT下では、ベースラインで60〜80%の骨吸収を示した歯でも93%が10年生存したという点です。
これは、「骨吸収が大きい=即抜歯」ではないことを示しています。
また、Graetzらは、侵襲性歯周炎患者において、questionable teethとhopeless teethの15年生存を検討しています。regular SPT下で、questionable teethは237歯中209歯、つまり88.2%が15年生存しました。hopeless teethでも37歯中22歯、つまり59.5%が15年生存しました。
この数字は、保存を重視する臨床家にとって非常に重要です。
ただし、ここを都合よく読んではいけません。
“hopelessでも59.5%残る”という数字は、同時に“40.5%は失われる”という意味でもあります。
つまり、重度歯周病歯は残せる可能性があります。
しかし、残せる可能性があることと、残してよいことは同じではありません。
ここで臨床判断に必要なのは、保存可能性の有無ではなく、保存可能性を成立させる条件です。
regular SPTに来るのか。
プラークコントロールが改善するのか。
BOPが消えるのか。
歯周外科や再生療法の適応があるのか。
根分岐部を清掃可能な形にできるのか。
咬合を安定させられるのか。
補綴設計上、その歯を残す意味があるのか。
PretzlやGraetzのデータは、「何でも残せる」と言っているのではありません。
「条件が整えば、重度歯周病歯でも長期生存し得る」と言っているのです。
この違いを誤ると、保存主義は単なる先送りになります。

予後不安な歯(compromised tooth) の判断は、患者単位・歯単位・部位単位で分ける
Cárcamo-Españaらのレビューでは、歯周病で予後不安な歯を保存するか抜歯するかの判断には、患者の期待、糖尿病コントロール、社会経済的背景、年齢、口腔衛生、PPD、動揺、根形態異常、根分岐部病変、歯周治療およびメインテナンスへの協力度、広範なう蝕、喫煙など複数の因子が関与すると整理されています。
この整理は重要です。なぜなら、深いポケットを持つ歯の予後判定は、部位単位だけでは決まらないからです。
部位単位では、PPD、CAL、BOP、排膿、骨欠損形態、骨壁数、ポケットの方向、角化歯肉、根面形態を見ます。
歯単位では、残存骨支持、歯根長、歯根形態、根分岐部病変、動揺、歯内病変、歯根破折、セメント質剥離、う蝕、支台歯としての役割、咬合負担、補綴物の適合を見ます。
患者単位では、喫煙、糖尿病、年齢、口腔衛生、SPT遵守性、治療理解、通院可能性、費用、時間、歯を残すことへの価値観を見ます。
この三層を混同すると、判断は崩れます。
部位単位では再生療法の適応があっても、患者単位でSPTが成立しなければ長期予後は悪くなります。
歯単位で保存可能に見えても、補綴設計上その歯が口腔全体を不安定にするなら、残す意味は再考が必要です。
逆に、部位単位で深いポケットがあっても、患者単位でリスク管理が成立し、歯単位で戦略的価値があるなら、保存に挑戦する意義はあります。
「この歯は残せますか」という問いは、正確にはこう言い換えるべきです。
この患者で、
この歯を、
この部位の病態として、
この治療介入と、
このSPT体制のもとで、
どの程度の期間、機能させることができるのか。
ここまで分解して初めて、保存可能性の議論になります。
根分岐部病変は、深いポケットの意味を変えます
大臼歯の深い歯周ポケットでは、根分岐部病変の評価が避けられません。
単根歯の垂直性骨欠損と、複根歯の根分岐部病変は、同じ「深いポケット」ではありません。根分岐部は、器具到達性が悪く、セルフケアも難しく、歯科衛生士によるSPTでも管理が難しい部位です。
分岐部入口の狭さ、ルートトランクの長さ、エナメル突起、根面溝、根の離開度、上顎大臼歯の近心・遠心・頬側分岐部の複雑性。これらは、PPDの数字には表れません。しかし、長期予後には大きく関与します。
Pretzlらの10年データでも、歯単位の喪失因子として、ベースラインの骨吸収、根分岐部病変、支台歯であることが挙げられています。Salviらのmulti-rooted teethの長期予後研究でも、複根歯の喪失には根分岐部病変、喫煙、regular SPT不遵守などが関与します。
根分岐部病変を持つ歯を残すなら、単に「ポケットが改善するか」では足りません。
患者がその分岐部を清掃できるのか。
歯科衛生士がその分岐部をSPTで管理できるのか。
外科処置後に清掃可能な形態になるのか。
固定や連結で清掃性を悪化させないか。
根分割やルートリセクションを行うなら、補綴的予後を見込めるのか。
これを考えずに「残す」と言うのは、保存ではなく、問題の延期です。

再生療法は保存可能性を広げますが、保存不能歯の免罪符ではありません
歯周組織再生療法は、深い歯周ポケットを有する歯の保存可能性を確実に広げてきました。
GTR、EMD、FGF-2、骨移植などは、単なるポケット除去ではなく、失われたセメント質、歯根膜、歯槽骨の再生、すなわち新付着の獲得を目指す治療概念です。
ただし、再生療法は適応症の治療です。
魔法ではありません。
日本臨床歯周病学会会誌に掲載された歯周組織再生療法の解説では、一般的な再生療法の適応は2壁性以上の垂直性骨吸収部位とされ、根分岐部病変ではLindheとNyman分類の1度および2度が適応になると整理されています。さらに、エムドゲイン®ゲルの適応症としては、歯周基本治療終了後の歯周ポケットが6mm以上、エックス線上で深さ4mm以上、幅2mm以上の垂直性欠損を有する中等度または重度歯周炎の歯周外科手術時に、露出根面へ補助的に局所適用すると記載されています。
ここでも数字が重要です。
PPD 6mm以上。
垂直性欠損の深さ4mm以上。
幅2mm以上。
つまり、再生療法は「深いポケットがあるから何となく行う手術」ではありません。骨欠損形態、骨壁数、スペースメイキング、軟組織被覆、感染制御、術後の創安定、患者の清掃性を前提に成立する治療です。
水平性骨吸収主体の歯。
高度なClass III分岐部病変。
清掃不能な根面形態。
コントロール不能な炎症。
喫煙継続。
糖尿病コントロール不良。
SPT不参加。
咬合性外傷の放置。
補綴設計として無理な支台歯。
こうした条件下で、再生療法という言葉だけで保存を正当化してはいけません。
再生療法は、保存可能性を広げる武器です。
しかし、保存不能歯を保存可能に見せるための免罪符ではありません。

動揺歯を、一本調子に抜歯へ運んではいけません
深いポケットに動揺を伴う歯では、抜歯判断に傾きやすくなります。確かに、高度動揺は予後不良因子です。しかし、動揺の原因を分けずに「揺れているから抜歯」とするのは、やはり粗い判断です。
炎症性動揺は、歯周基本治療後に改善することがあります。支持骨喪失による動揺は、炎症が改善しても残ることがあります。二次性咬合性外傷が関与する動揺では、咬合調整、暫間固定、補綴的固定、咬合支持の再構成まで考える必要があります。
問題は、固定すれば保存できる、という誤解です。
固定は歯周組織を再生する治療ではありません。固定は、機能時の負担を分散し、動揺に伴う不快感を軽減し、治療中またはSPT中の安定を補助する手段です。炎症が制御されず、清掃性が悪いまま固定すれば、固定装置そのものがプラークリテンションファクターになります。
動揺歯を残すなら、最低限次の問いに答える必要があります。
その動揺は炎症制御で改善する余地があるのか。
支持骨喪失に対して咬合負担は過大ではないか。
固定後に清掃性は保てるのか。
支台歯として使う場合、その歯は補綴設計上のリスクにならないか。
固定や連結によって、将来のトラブルを大きくしないか。
動揺があるから抜歯ではありません。
しかし、固定したから保存できたわけでもありません。
限局性の深いポケットでは、歯周炎以外を疑うべきです
深い歯周ポケットを見たとき、歯周炎だけで説明してはいけない症例があります。
①孤立性の深いポケット
②J型の根に沿ったレントゲン透過像
③根尖から辺縁へ連続する透過像
④瘻孔
⑤打診痛
⑥咬合痛
⑦根管治療歴
⑧太いポスト
⑨急速な局所骨破壊
⑩通常の歯周治療に反応しない腫脹
このような所見がある場合、歯内歯周病変、垂直性歯根破折、セメント質剥離、医原性穿孔、外部吸収、根面う蝕、補綴物マージン不適合を鑑別に入れる必要があります。
特に、限局性に深いポケットを持つ失活歯やポストコア装着歯では、歯根破折を除外せずに再生療法や歯周外科へ進むべきではありません。歯周ポケットが深いから歯周病、という診断は、時に破折の発見を遅らせます。
歯周病専門の視点だけでは見落とすことがあります。
歯内療法の視点だけでも見落とすことがあります。
補綴の視点だけでも、歯周の活動性を過小評価することがあります。
深いポケットを持つ歯を残すかどうかを論じる前に、そのポケットが何によって生じているのかを確定しなければなりません。
診断が間違っていれば、保存判断も抜歯判断も間違います。

インプラントにすれば解決、という発想も甘いです
深いポケットの歯を抜歯し、インプラントに置き換える。その選択が正しい症例は確かにあります。
しかし、「天然歯が危ないからインプラント」という発想は、歯周病感受性の高い患者では特に慎重であるべきです。
Cárcamo-Españaらのレビューでも、近年はquestionable prognosisの歯に対してインプラントが最善の選択肢と見なされがちな傾向がある一方で、天然歯には歯根膜による固有感覚や機能負荷への適応があると述べられています。また、インプラントは歯の代替物ではなく、歯を失った後の治療選択肢です。
さらに、歯周病患者の口腔内で天然歯周囲の炎症管理ができないままインプラントへ移行すれば、インプラント周囲疾患という別の問題を抱えます。
過去に扱ったインプラント周囲炎の資料でも、メインテナンス遵守がインプラント周囲炎の発生率に大きく関与していました。メインテナンス来院が規則的な群でもインプラント周囲炎は35.5%、不規則な群では62.7%で、差は有意でした。インプラント周囲粘膜炎、歯周炎、定期チェックの有無は、それぞれインプラント周囲炎のオッズ比に関与していました。
この数字を見れば、「抜いてインプラントにすれば解決」とは言えません。
天然歯を残す責任があるように、インプラントに置き換える責任もあります。
天然歯周囲の炎症管理ができない患者で、インプラント周囲だけが都合よく安定するとは考えにくいです。
“様子を見る”という言葉を、無定義で使ってはいけません
臨床で最も便利で、最も危険な言葉の一つが「様子を見ましょう」です。
歯周治療では再評価が不可欠です。急性炎症がある歯を、初診時の一時点だけで抜歯判断するのは危険です。歯周基本治療後、BOP、排膿、動揺、PPD、プラークコントロール、咬合痛がどう変化するかを見ることは重要です。
しかし、何を見るのかが決まっていない“様子見”は、臨床判断ではありません。放置です。
何か月後に再評価するのか。
PPDが何mm以上残れば外科を検討するのか。
BOPが残れば介入するのか。
排膿が続けば抜歯を再検討するのか。
エックス線的骨吸収が進めば方針転換するのか。
SPT間隔は1か月なのか、2か月なのか、3か月なのか。
患者が来院しなくなった場合、その歯の保存判断は成立するのか。
これを定義せずに深いポケットの歯を残すことは、臨床家の責任を曖昧にします。
MatulieneらのORを見れば、PPD 5mm以上、6mm以上、7mm以上の残存ポケットを“なんとなく”SPTへ流すことが危険であることは明らかです。
PretzlやGraetzの生存率を見れば、重度歯周病歯でも条件が整えば残せることも明らかです。
だからこそ、“様子を見る”なら条件を定義すべきです。
保存方針を継続する条件。
外科へ移行する条件。
再生療法を検討する条件。
補綴設計を変更する条件。
抜歯へ方針転換する条件。
これらを持たない保存は、保存ではありません。
残す責任とは、リスクを数値で見たうえで、それでも残す条件を作ることです
ここで、ようやく「残す責任」という言葉に戻ります。
残す責任とは、患者さんの希望をそのまま受け入れて抜歯を避けることではありません。
残す責任とは、PPD 5mm、6mm、7mm以上の残存ポケットがどれほど歯の喪失リスクを上げるかを知ったうえで、それでもその歯を残す条件を作ることです。
残す責任とは、60〜80%の骨吸収歯でもregular SPT下で93%が10年生存し得ることを知ったうえで、その症例が本当にregular SPTを成立させられるかを見極めることです。
残す責任とは、questionable teethの88.2%、hopeless teethの59.5%が15年生存したという数字を、保存の免罪符ではなく、厳格な症例選択とSPT遵守の結果として読むことです。
残す責任とは、Grade CでHR 4.6、5mm以上残存ポケットが15%超でHR 2.34という長期リスクを見たうえで、口腔全体の炎症を管理することです。
残す責任とは、再生療法の適応条件を満たす症例と、そうでない症例を分けることです。
残す責任とは、根分岐部病変を“深いポケット”という一語でごまかさず、清掃性、補綴設計、SPT管理まで含めて読むことです。
残す責任とは、歯内歯周病変や歯根破折を見落とさないことです。
残す責任とは、患者さんに「残せる可能性」だけでなく、「残した場合の失敗確率」「追加治療の可能性」「将来抜歯になる可能性」まで説明することです。
そして、残す責任とは、必要になれば保存方針を撤回することです。
保存に挑戦することと、保存に固執することは違います。
抜歯を避けることと、歯を守ることは違います。
深いポケットを残すことと、歯を残すことは違います。

抜歯は敗北ではありません。しかし、早すぎる抜歯もまた敗北です
歯を残すことは重要です。
しかし、保存不能歯を残し続けることは、周囲の歯を犠牲にすることがあります。
感染源が残る。
隣在歯の骨支持を失う。
補綴設計が複雑になる。
清掃性が悪化する。
患者の時間と費用を消耗する。
将来のインプラントや義歯設計が不利になる。
このような場合、戦略的抜歯は敗北ではありません。口腔全体を守るための介入です。
一方で、数字は保存の可能性も示しています。
骨吸収が大きくても残る歯があります。
questionableでも、hopelessでも、regular SPT下で長期生存する歯があります。
したがって、早すぎる抜歯もまた敗北です。
歯科医師に求められるのは、保存への情熱と、抜歯への冷静さの両方です。
数字を見ずに残すのは甘いです。
数字を見ずに抜くのも甘いです。
終わりに:深いポケットの歯を残すのではなく、管理可能なリスクへ変換できる歯を残すべきです
歯周ポケットが深い歯を本当に残すべきか。
私の答えは、単純ではありません。
PPD 5mmでOR 5.8、7.7。
PPD 6mmでOR 9.3、11.0。
PPD 7mm以上でOR 37.9、64.2。
この数字を見れば、深い残存ポケットを軽く扱うことはできません。
一方で、regular SPT下では60〜80%骨吸収歯でも93%が10年生存し、questionable teethの88.2%、hopeless teethの59.5%が15年生存するというデータもあります。
この数字を見れば、重度歯周病歯を短絡的に抜歯することもできません。
つまり、臨床判断の本質は、深いか浅いかではありません。
残せるか抜くかでもありません。
そのリスクを管理可能な形に変換できるかどうかです。
炎症を止められるのか。
BOPを消せるのか。
排膿を止められるのか。
清掃可能な形態にできるのか。
分岐部を管理できるのか。
再生療法の適応があるのか。
咬合を安定させられるのか。
補綴設計を破綻させないのか。
SPTを継続できるのか。
悪化したときに方針転換できるのか。
これらに答えられるなら、深い歯周ポケットを持つ歯でも保存に挑戦する価値があります。
答えられないなら、その保存は「歯を残すこと」ではなく、「問題を未来へ送ること」になります。
歯周ポケットが深い歯を残すとは、抜歯を避けることではありません。
リスクを引き受け、管理し、必要なら撤退する覚悟を持つことです。
それが、重度歯周病における保存可能性と“残す責任”だと考えます。
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