2026年8月26日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
根管治療を見学していると、先生がとても細い器具を歯の中へ入れている場面をよく見かけます。
細いファイルという器具を根の中へ入れて動かしたかと思うと、いったん取り出し、今度は細い針のついた注射器のような器具から液体を入れます。そして液を吸い取り、またファイルを使い、もう一度液を入れる――。
最初に見たとき、私は少し不思議に思いました。
「もう器具で根の中を削っているのに、どうして何度も液で洗うんだろう?」
患者さんから見ても、「注射器みたいなものから何を入れているの?」「根の先に薬を注射しているの?」「水で洗っているだけ?」「一度洗えば十分じゃないの?」と気になる処置だと思います。
実は根管治療は、細い器具で根の中を「削る治療」であると同時に、洗浄液を使って根管内を「洗う治療」でもあります。
しかも、この「洗う」という工程は最後に一度だけ行う仕上げではありません。ファイルによる根管形成と洗浄を組み合わせながら、根管内の細菌、壊死した組織、象牙質の削りかすなどを少しずつ減らしていきます。
今回は、根管治療でなぜ注射器のような器具から液を入れるのか、ファイルでは取りきれない汚れとは何なのか、そして代表的な洗浄液である次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)やEDTAがどのような仕事をしているのかを、治療を見学する歯科助手の目線からご紹介します。
あの「注射器」は、根の先へ薬を注射しているわけではありません
根管治療で使われる洗浄用のシリンジは、見た目だけを見ると注射器によく似ています。
しかし、麻酔のように針を組織へ刺し、根の先へ薬液を注射することが目的ではありません。
細く複雑な根管という歯の内部の空間へ洗浄液を届け、根管内を清掃するために使っています。
洗浄液には、単に「歯の中を濡らす」以上の仕事があります。
- 根管内へ新鮮な洗浄液を届ける
- 細菌や残った組織へ化学的に作用する
- ファイルで削った象牙質の粉を洗い流す
- 汚れを含んだ液を根管口側へ運ぶ
- 古くなった洗浄液を新しい液へ交換する
ですから、見た目は「歯の中へ何かを注射している」ようでも、実際には細い根管の中へ洗浄液を届け、液を入れ替えながら清掃していると考えるほうが近いでしょう。

なぜ洗浄液を何度も入れ直すの?
ここは、治療を見学していて特に不思議に感じやすいところです。
先生は一度だけ洗浄液を入れて終わりにするのではなく、治療中に何度も新しい液を入れています。
それには理由があります。
洗浄液は根管の中へ入ると、細菌、歯髄組織、壊死組織、削りかすなどと接触します。つまり、汚れへ作用している間も、ずっと最初と同じ状態のまま働き続けるわけではありません。
そのため、根管洗浄では、汚れと反応した液を新鮮な洗浄液へ交換することが大切です。
イメージとしては、
- 新鮮な洗浄液を入れる
- 根管内の汚れへ作用する
- 汚れを含んだ液を外へ出す
- 再び新鮮な洗浄液を入れる
という流れを繰り返しています。
洗浄液を交換することには、薬としての作用が残っている新鮮な液を届ける意味だけでなく、削りかすなどのデブリを液の中へ分散させ、薄めながら外へ運ぶ意味もあります。
同じ汚れた水をずっと使ってすすぐのではなく、何度も新しい水へ交換しながら洗うほうが効率的なのと少し似ています。ただし根管洗浄では、単なる水ではなく、薬液そのものの化学的な作用も利用しています。

ファイルで削っているのに、なぜ根管洗浄が必要なの?
「ファイルで根の中をきれいに削っているなら、それだけで十分なのでは?」と思われるかもしれません。
ところが、実際の根管は一本のきれいな円形のストローのような形をしているわけではありません。
根管の中には「器具が触れない場所」があります
根管には、
- 細長く扁平な部分
- 壁のくぼみ
- フィンと呼ばれる薄い広がり
- 2本の根管をつなぐイスマス
- 主根管から分かれる側枝
- 根の先で細かく分岐する根尖分岐
など、さまざまな形があります。
ファイルは主に中心となる根管を通り、その壁を削りながら形を整えます。しかし、固体であるファイルを、こうした細かな脇道やくぼみのすべてへ直接当てることはできません。
つまり、ファイルが一度通ったからといって、根管内のすべての壁を直接こすっているわけではないのです。
そもそも根管治療では何をしているのかを最初から知りたい方は、根管治療の目的や治療全体の流れをまとめた解説も参考にしてください。

実は、根管を削ること自体で「新しい汚れ」もできます
根管治療を始める前から存在する汚れだけが、洗浄の対象ではありません。
ファイルで象牙質を削ると、非常に細かな象牙質の粉が発生します。
さらに根管内には、残っていた歯髄組織、壊死した組織、細菌、細菌が作った物質、血液やタンパク質なども存在します。
こうしたものと象牙質の削りかすが混ざり、削った根管壁の表面へ付着してできる薄い層をスメア層と呼びます。
つまり根管治療では、掃除をするために歯を削っている一方で、その操作によって新しい削りかすも発生しています。
だからこそ、削る → 洗う → また削る → また洗うという処置を組み合わせます。
2024年に日本の歯科大学・歯学部を対象として行われた根管洗浄の調査でも、回答した講座では根管形成の途中から洗浄が行われており、最終的な根管形成がすべて終わったあとだけ洗浄すると回答した講座はありませんでした。
削った粉がイスマスへ押し込まれることもあります
根管の中には、2本の主根管を細くつないでいる「イスマス」という空間が存在する場合があります。
イスマスは非常に細く、通常のファイルで内部を直接削ることが難しい場所です。
さらに研究では、主根管をファイルで形成したときに生じた象牙質の削りかすや細菌などが、イスマス内部へ押し込まれることも確認されています。
つまり根管洗浄には、もともと感染していた場所を洗うだけでなく、治療中に発生したデブリを細かなすき間から取り除くという役割もあります。

「それなら全部大きく削ればいい」のでは?
ファイルが届かない場所があるなら、もっと根管を大きく削ればよいのではないでしょうか。
しかし、歯を大きく削れば、その分だけ根の周囲に残る歯質は少なくなります。
根管治療では感染源を減らすことが重要ですが、同時にできるだけ歯質を残すことも大切です。
細いイスマスやくぼみをすべて機械的に削ろうとすると、歯根が必要以上に薄くなったり、場合によっては穿孔などの問題につながったりする可能性があります。
そのため、ファイルで必要な根管形成を行い、直接削れない部分を洗浄で補うという考え方が重要になります。
根管治療は「できるだけ大きく削ること」と「できるだけ強い薬で洗うこと」のどちらを目指しているわけでもありません。
歯質をできるだけ残しながら洗浄液が働ける形をつくり、機械的清掃と化学的清掃を組み合わせる。このバランスが大切です。
根管内の細菌は、液の中を漂っているだけではありません
根管内に感染が起きている場合、細菌は一個ずつバラバラに浮いているだけではありません。
根管壁へ付着し、複数の微生物が集まってバイオフィルムと呼ばれる集団を形成することがあります。
身近なものでいえば、歯の表面につくデンタルプラークもバイオフィルムの一つです。
さらに根管内の細菌は、象牙質の中にある非常に細かな象牙細管へ入り込むこともあります。
組織学的な研究では、根管形成や洗浄、根管充填まで行った歯でも、器具が直接触れなかった主根管の一部、イスマス、側枝などに細菌の集団が残っていることが確認された例があります。
ですから根管治療は、単に「見える汚れを水で流せば終わり」という治療ではありません。
機械的に削ることと、洗浄液を化学的に作用させることを組み合わせながら、感染源を可能な限り減らしていきます。
次亜塩素酸ナトリウムは何をしているの?
根管洗浄で代表的に使用される薬液の一つが、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)です。
細菌へ作用するだけでなく、有機物を溶かす
次亜塩素酸ナトリウムの大きな特徴は、抗菌作用と有機質溶解作用を持っていることです。
根管内には細菌だけでなく、歯髄の残りや壊死した歯髄組織などの有機物が存在します。
ファイルはそれらを機械的に取り除く手助けをしますが、細かな凹凸、フィン、イスマス、側枝などに残った組織をすべて直接かき出すことはできません。
そこで、次亜塩素酸ナトリウムの化学的な作用を利用します。
患者さん向けに簡単に表現すれば、「ファイルで取りきれなかった軟らかい組織や細菌へ、液体の薬が化学的に働きかける」という役割です。
根管治療1回ごとの麻酔、清掃、洗浄、薬の交換などの流れについては、根管治療の日に何をしているのかを解説した記事でも詳しくご紹介しています。
「濃ければ濃いほどよく効く」と単純には考えません
薬液である以上、「強い薬をたくさん使ったほうが根管はきれいになるのでは?」と思われるかもしれません。
しかし根管治療では、薬としての効果だけでなく、周囲組織や歯質への影響とのバランスも考える必要があります。
次亜塩素酸ナトリウムの有機質溶解作用は、濃度だけではなく、接触時間、温度、洗浄液の動き、接触する有機物の量などにも影響されます。
また、臨床研究では濃度を高くすれば根管治療後の治癒率がそのまま高くなる、と単純に言えるわけではありません。
そのため根管洗浄は、「できるだけ強い薬で徹底的に溶かす」という処置ではなく、症例や治療工程に応じて洗浄液の種類、濃度、量、接触時間、使い方を考えながら行います。
EDTAは何のために使うの?
根管治療でもう一つよく使用されるのが、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)です。
次亜塩素酸ナトリウムとEDTAは、単純に「殺菌力の違う二つの薬」という関係ではありません。
次亜塩素酸ナトリウムとEDTAには役割分担があります
大まかに整理すると、
- 次亜塩素酸ナトリウム:歯髄や壊死組織などの有機質へ作用する
- EDTA:スメア層などに含まれる無機質成分へキレート作用を示し、その除去を助ける
という違いがあります。
根管形成によって作られるスメア層には、有機成分と無機成分の両方が含まれています。
一種類の洗浄液ですべての仕事を完全にこなすことは難しいため、それぞれ異なる性質を持つ洗浄液を、治療工程に応じて使い分けます。
つまり、「薬を何種類も使うほど強力になる」のではなく、「汚れの性質が違うので担当する薬液も違う」と考えると分かりやすいでしょう。
また、これらの薬液は単純に全部を混ぜ合わせればよいわけではありません。それぞれの化学的性質や作用を考えながら、治療工程に応じた順序で使用します。

スメア層を取るのは「見た目をきれいにするため」だけではありません
スメア層は非常に薄いため、患者さんが肉眼で見るような大きな汚れではありません。
しかし根管壁を覆うことで、洗浄液や根管内へ入れる薬、最終的な根管充填材と象牙質との関係へ影響する可能性があります。
そのためEDTAなどを用いて、根管壁表面の状態を整えることがあります。
ただし、「スメア層を100%取れば根管治療が必ず成功する」という単純なものではありません。
根管治療の予後は、感染の状態、根管形態、清掃・洗浄、根管充填、歯冠側からの再感染防止など、多くの要素に左右されます。
EDTAも長時間使えばよいわけではありません
EDTAには無機質へ作用する性質があります。
これはスメア層除去には役立ちますが、作用時間や濃度などの条件によっては、根管壁の象牙質そのものにも脱灰や浸食を生じる可能性があります。
つまりここでも、「長く洗えば洗うほどよい」わけではありません。
必要な清掃効果を得ながら歯質を守るというバランスが重要です。
普通の水や生理食塩水で洗うだけではだめなの?
水や生理食塩水にも役割はあります。
- 浮いている削りかすを運ぶ
- 根管内の汚れを希釈する
- 別の洗浄液を洗い流す
といった物理的な清掃はできます。
しかし、次亜塩素酸ナトリウムが持つ有機組織への溶解作用や、EDTAが持つ無機質成分へのキレート作用まで同じように期待できるわけではありません。
根管洗浄では、液体として流す物理的な力と、洗浄液そのものが持つ化学的な力の両方を利用しています。
根管洗浄ではラバーダムなどによる防湿も大切です
根管内をきれいに洗っていても、治療中に唾液が入り込めば、口の中の細菌が新たに根管内へ持ち込まれる可能性があります。
また、次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄液は根管内では有用ですが、口腔粘膜へ不用意に触れさせるものではありません。
そのため根管治療では、ラバーダムなどを用いて治療する歯を周囲から隔離する防湿が重要になります。
防湿には、唾液による根管内の再汚染を防ぐだけでなく、洗浄液が口の中へ流れることや、細かな治療器具・材料が口腔内へ落下することを防ぐ意味もあります。
根の先ほど、根管洗浄は難しくなります
根管の中でも、特に清掃が難しいのが根の先に近い部分です。
根管口に近いところでは比較的空間が広く、洗浄液も出入りしやすいのですが、根尖側へ進むほど根管は細くなります。
シリンジ洗浄の効果は、
- 根管がどの程度形成されているか
- 根管の太さやテーパー
- 洗浄針の太さ
- 洗浄針をどこまで入れるか
- 洗浄液の流量
- 液が根管口側へ戻るスペースがあるか
などによって変わります。
つまり、シリンジから液を出せば、自動的に根管の最深部まで同じように洗えるわけではありません。
実験研究でも、シリンジ洗浄では歯冠側や根中央部に比べ、根尖側1/3の清掃が難しくなることが繰り返し示されています。
根の先に「空気の栓」ができるvapor lockとは?
根管洗浄には、vapor lock(ベーパーロック)と呼ばれる現象があります。
根管の先端近くに空気や気泡が残ると、その気泡が栓のようになり、洗浄液がさらに先へ進みにくくなることがあります。
細いストローの先に空気が閉じ込められ、液体の進行を邪魔しているような状態を想像すると分かりやすいかもしれません。
根管は非常に細く、しかも根の先が無制限に開いているわけではありません。そのため、外から見ると「液を流しているだけ」に見えても、根管内部では複雑な液体の動きが起こっています。

超音波や音波で洗浄液を「動かす」こともあります
根管治療では、症例や治療方法によって、根管内に入れた洗浄液を超音波や音波で動かすことがあります。
これは、別の強い薬を追加しているという意味ではありません。
根管内にある洗浄液へ振動を与え、液の流れを活発にする処置です。
洗浄液の中に流れや渦をつくる
超音波による根管洗浄では、細いチップなどの振動によって液体の中に強い流れや渦が生じます。
このような液体の流れに関係する現象の一つがアコースティックストリーミングです。
洗浄液を静かに入れておくだけの場合に比べ、液そのものを動かすことで、ファイルが直接触れにくいくぼみ、イスマス、根尖側などの清掃を補助できる可能性があります。
2023年のEuropean Society of Endodontology(ESE)のS3レベル臨床診療ガイドラインでは、当時の臨床アウトカムに関するエビデンスが限られていたため、洗浄液活性化法については慎重な評価がされていました。
一方、その後も研究は増えており、2026年に発表された5件のランダム化比較試験・451歯を統合した系統的レビューとメタ解析では、PUI(受動的超音波洗浄)またはレーザーによって洗浄液を活性化した群で、従来のシリンジ洗浄のみの場合より根尖病変の治癒が良好だったという結果が報告されています。
ただし、研究数はまだ多いとはいえず、エビデンスの確実性にも限界があります。そのため、「超音波を使えば必ず治る」「すべての症例で必要」という意味ではありません。
超音波や音波による洗浄液の活性化は、複雑な根管を清掃するための補助的な方法の一つと考えるのが適切です。

それなら針を根の先まで入れて、強く押せばよいのでは?
根の先ほど洗いにくいと聞くと、「では洗浄針をもっと奥まで入れて、強く液を押せばよいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、それは安全な根管洗浄とは反対の考え方です。
根管洗浄では、洗浄液を根の外へ不用意に押し出さないことが非常に重要です。
根管洗浄では「液の戻り道」が必要です
シリンジから洗浄液を入れると、その液は根管口側へ戻ってくる必要があります。
洗浄針と根管壁との間に十分なスペースがなく、針先が根管壁へぴったりはまり込んでしまうと、液の逃げ道が少なくなります。
その状態でシリンジを強く押せば、根尖側へ圧力が加わりやすくなります。
日本で行われた根管洗浄時の圧力測定実験でも、洗浄針が根管壁へロックされた状態や、針が根尖孔を越えた条件では、根尖孔外へ加わる圧力が大きくなることが示されています。
根管洗浄では、針を根の先まで刺して薬を注射することよりも、洗浄針を根管壁へ嵌合させず、液が戻れるスペースを確保して穏やかに洗浄液を届けることが重要です。

次亜塩素酸ナトリウムが根の外へ出る事故はまれですが、報告されています
次亜塩素酸ナトリウムは根管内では非常に有用な洗浄液ですが、根尖側の組織へ不用意に押し出されると、痛みや腫れなどを伴う偶発症につながることがあります。
このような偶発症は一般的なものではありませんが、報告されているため、洗浄針の位置、流量、圧力、根管壁との隙間、根尖部の状態などに注意して使用します。
「根の先まで届かせること」と「根の外へ押し出すこと」はまったく別です。
根管洗浄のためにも、ある程度は根管を形成する必要があります
ここまで読むと、「ファイルで全部削らなくても、洗浄液で洗えばよいのでは?」という逆の疑問も出てきます。
ところが、洗浄液を十分に働かせるためにも根管形成は必要です。
極端に細い根管のままでは、
- 洗浄針を必要な位置まで入れにくい
- 洗浄液を深い位置まで届けにくい
- 古い液が外へ戻りにくい
- 新鮮な洗浄液へ交換しにくい
という問題が出てきます。
つまり根管形成には、感染した歯質を機械的に減らすだけでなく、洗浄液が入り、動き、交換されるための空間を作るという側面もあります。
一方で、根管を必要以上に大きく形成すれば歯質を失います。
そのため根管治療は、
- 必要な範囲で根管を形成する
- 洗浄液が働ける空間を作る
- ファイルが直接触れなかった領域を洗浄で補う
というように、機械的清掃と化学的清掃がお互いを補っています。
根管洗浄をすれば「完全な無菌状態」になるの?
ここも誤解されやすいところです。
根管治療では、細菌や感染した組織を可能な限り減らすことを目指します。
しかし根管は非常に複雑です。
イスマス、側枝、根尖分岐、象牙細管など、器具や洗浄液が完全には到達しない場所もあります。
そのため、「根管洗浄を行えば、歯の中の細菌が必ず0になる」とは言えません。
根管治療の目的は単純に「完全無菌」を証明することではなく、感染源をできる限り減らし、根の周囲の組織が治癒しやすい環境を整え、再び細菌が入りにくいように封鎖していくことです。
洗浄液と、次回来院まで入れておく「白い薬」は別物です
ここは患者さんから混同されやすいところです。
根管治療中にシリンジから使う洗浄液と、治療の最後に根管内へ入れて次回来院まで置いておく薬は、目的が違います。
代表的な根管内貼薬材には水酸化カルシウムがあります。
洗浄液は治療中に根管内を清掃するために使うものです。
一方、水酸化カルシウムなどの根管内貼薬材は、清掃・洗浄を行ったあと、必要に応じて次回の治療まで根管内を管理するために使用します。
治療の最後に入れる白い薬が気になった方は、根管治療中に使う水酸化カルシウムの役割と、洗浄液との違いもあわせてご覧ください。
治療中に「同じことを何度もしている」ように見える理由
治療を横から見ていると、
ファイルを入れる。
洗う。
吸う。
またファイルを入れる。
また洗う。
と、同じ操作を繰り返しているように見えることがあります。
しかし実際には、少しずつ治療が進んでいます。
- ファイルで感染した歯質や内容物を減らす
- 生じた削りかすを洗う
- 汚れた洗浄液を新鮮な液へ交換する
- さらに根管形成を進める
- より深い位置まで洗浄液が届きやすい状態を作る
- もう一度洗浄する
というように、形成と洗浄を組み合わせながら根管内の環境を少しずつ変えているのです。
治療中に何度も洗っているからといって、「汚れがひどすぎる」「治療がうまくいっていない」という意味ではありません。
根管形成と根管洗浄を繰り返すこと自体が、根管治療の重要な工程です。

歯科助手として見ていて分かったこと
私は最初、根管治療というと、「細いファイルで歯の根の中を削って、きれいにする治療」というイメージを持っていました。
もちろん、ファイルによる根管形成はとても大切です。
でも治療を見学していると、それだけではないことが分かります。
根管は一本の単純な管ではありません。器具が触れないくぼみや脇道があります。
細菌は液体の中を漂っているだけではなく、根管壁に付着してバイオフィルムを作ったり、象牙細管へ入り込んだりすることがあります。
さらに、根管をきれいにするためのファイル操作そのものでも、象牙質の削りかすやスメア層が生まれます。
だから先生は、ファイルを使ったあと何度もシリンジを手に取っていたんですね。
次亜塩素酸ナトリウムで有機物へ作用し、EDTAでスメア層の無機質成分の除去を助け、必要に応じて洗浄液そのものを動かしながら、ファイルだけでは届きにくい場所を補っていきます。
そして、洗浄液は奥へ強く押し込むのではなく、根の外へ押し出さないよう注意しながら使います。
根管治療は「削る治療」であると同時に、「洗う治療」でもある。
今回の治療見学で、何度も繰り返されていた洗浄には、一つひとつ意味があることが分かりました。
よくあるご質問
根管治療で注射器から入れている液は何ですか?
根管洗浄では、次亜塩素酸ナトリウム、EDTA、生理食塩水などが目的や治療工程に応じて使用されます。
すべての歯で同じ薬液、濃度、量、順序を使用するわけではなく、根管の状態や治療方法によって選択されます。
次亜塩素酸ナトリウムは何のために使うのですか?
細菌へ作用するだけでなく、残った歯髄や壊死組織などの有機質を化学的に分解する目的があります。
ファイルが直接届きにくい場所の清掃を補うためにも重要な洗浄液です。
EDTAは何のために使うのですか?
EDTAは、根管形成で生じたスメア層などに含まれる無機質成分へキレート作用を示し、その除去を助けます。
次亜塩素酸ナトリウムとは得意な対象が異なるため、それぞれの特徴を利用して根管内を清掃します。
なぜ根管治療中に何度も洗浄するのですか?
ファイルを使うたびに新しい削りかすが生じることや、汚れへ作用した洗浄液を新鮮な液へ交換する必要があるためです。
また、根管形成が進むことで、それまでより深い位置へ洗浄液を届けやすくなる場合もあります。
普通の水や生理食塩水で洗うだけではだめですか?
水や生理食塩水にも、削りかすを物理的に流したり、汚れを希釈したりする役割があります。
一方、次亜塩素酸ナトリウムの有機質溶解作用や、EDTAの無機質成分へのキレート作用までは同じようには期待できないため、目的に応じて洗浄液を使い分けます。
超音波で根管を洗うこともありますか?
あります。
根管内の洗浄液を超音波や音波で動かし、液の流れを活発にして清掃を補助する方法があります。
ただし、すべての歯で必要になるわけではなく、使用すれば根管内が完全に無菌になるという意味でもありません。
根管洗浄の液が根の外へ出ることはないのですか?
まれではありますが、次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄液が根尖側の組織へ押し出される偶発症は報告されています。
そのため、洗浄針を根管壁へ固定させず、針先の位置、流量、圧力、洗浄液の戻り道などに注意して使用します。
根の先へ針を刺して強く薬液を注射する処置ではありません。
広島市中区立町で根管治療について相談したい方へ
根管治療は、患者さんからは歯の中で何をしているのか見えにくい治療です。
「今日は何をしていたの?」「何度も入れていた液は何?」「治療後に少し痛いけれど大丈夫?」「次回の予約まで待ってよい?」「仮の詰め物が取れた」など、治療中に分からないことや気になることがあれば、遠慮なくお尋ねください。
ブランデンタルクリニックは広島市中区立町、立町駅徒歩1分の立町中央ビル4階にあります。4階エレベーターをご利用いただけます。
急な痛みや腫れ、仮詰めの脱離などでお困りの場合、当院では当日電話受付可としており、診療状況に応じて急患同日可でご案内できる場合があります。急な症状があるときは、WEB予約の空きが見つからない場合でも、まずはお電話でご相談ください。
根管治療は、単に歯の中を「削る」だけの治療ではありません。
必要な歯質を残しながらファイルで形を整え、洗浄液を新鮮なものへ交換しながら、器具の届きにくい部分まで可能な限り感染源を減らしていく。
あの小さなシリンジから流れている液にも、歯を残すための大切な役割があります。
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