2026年7月23日

(院長の徒然コラム)

はじめに
根管治療を見学していると、先生が細い器具を使って歯の根の中を清掃し、何度も洗浄したあと、白いペースト状の材料を入れることがあります。
患者さんからも、
「最後に入れた白いものは何ですか?」
「薬を入れたということは、これで細菌はいなくなったのですか?」
「毎回薬を交換しているけれど、治りが悪いのでしょうか?」
と聞かれることがあります。
根管治療の途中で入れる代表的な薬の一つが、水酸化カルシウムです。
水酸化カルシウムには、清掃や洗浄を行ったあとに残る細菌の活動を抑えたり、次の治療まで細菌が再び増えにくい環境を保ったりする役割があります。細菌が残した炎症性物質へ働きかけることも、この薬が使われる理由の一つです。
ただし、根管内へ薬を入れれば、それだけで歯の中が完全な無菌状態になるわけではありません。
根管治療では、器具による清掃、洗浄液による洗浄、必要に応じた根管内貼薬、仮の詰め物、根管充填、最終的な詰め物や被せ物を組み合わせて、感染を管理していきます。
今回の治療見学ノートでは、根管治療中に入れる薬の役割だけでなく、洗浄液や根管充填材との違い、薬だけでは感染を取り切れない理由、薬を入れない場合がある理由、仮の詰め物の重要性まで詳しくご紹介します。
根管治療を見学して気になった「洗浄後の白い薬」
根管治療では、歯の内部にある「根管」という細い空間を治療します。
根管内に感染した歯髄や細菌が残っている場合、先生は細い器具を少しずつ根管へ入れ、感染した組織や汚れを取り除きます。処置の途中では洗浄液を繰り返し使用し、細い吸引管で液体を吸い取ります。ペーパーポイントと呼ばれる細い紙製の材料で、根管内を乾燥させる場面もあります。
そのあと、その日の治療をいったん終了する場合に、先生が根管内へ白いペーストを入れていました。
私は最初、
「洗浄液で何度も洗ったのに、なぜ最後に別の薬を入れるのだろう」
と疑問に思いました。
見学を続けて分かったのは、洗浄液と白い薬は、どちらも感染管理に関係するものの、使用するタイミングと役割が異なるということです。

洗浄液・途中で入れる薬・最後に詰める材料は別物です
患者さんから見ると、歯の中へ入る液体や材料は、すべて同じ「薬」のように見えるかもしれません。
しかし、根管治療で使う洗浄液、治療と治療の間に置く根管内貼薬材、最後に根管を封鎖する根管充填材は、それぞれ目的が異なります。
治療中に使う洗浄液には、細菌を減らすだけでなく、壊死した歯髄、器具で削った象牙質の粉、根管壁に付着した汚れなどを洗い流す役割があります。根管は細く複雑で、器具だけでは直接触れられない場所があるため、洗浄液による化学的な清掃が欠かせません。洗浄液は、基本的には次の予約まで根管内へ残しておくものではありません。
これに対して根管内貼薬材は、清掃と洗浄を行ったあと、次回来院まで根管内へ一時的に置いておく薬です。清掃後に残った細菌の活動を抑え、細菌が再び増えにくい状態をつくりながら、治療途中の根管内を管理します。
そして、根管内の清掃と洗浄が終わり、最終的に封鎖できる状態になったと判断したときに使うのが根管充填材です。根管充填材は一時的な薬ではなく、根管内を封鎖し、再感染を防ぐために残す材料です。
つまり、洗浄液は治療中に根管を洗うもの、根管内貼薬材は次の治療まで置くもの、根管充填材は最後に根管を封鎖するものです。

根管治療の主役は「中へ入れる薬」だけではありません
根管治療で最も大切なのは、どの薬を入れたかだけではありません。
感染した根管に対しては、まず虫歯や古い修復物を除去し、歯の内部へ到達するための入口をつくります。その後、根管の位置と長さを確認し、細い器具を使って感染した歯髄や根管壁の汚れを取り除きます。
器具による清掃と並行して洗浄液を使い、器具が直接触れにくい場所に残る細菌、壊死組織、削りかすなどを減らします。その日のうちに根管充填まで進めない場合は、必要に応じて根管内へ薬を置き、歯の入口を仮の詰め物で閉じます。
次回来院時には、前回入れた薬を取り除いて再び洗浄し、根管内の出血、浸出液、排膿、におい、乾燥状態、患者さんの症状などを確認します。条件が整えば根管充填へ進み、その後は歯の入口を詰め物や被せ物で封鎖します。
この一連の工程の中で、根管内貼薬はあくまで補助的な役割を担っています。
器具による清掃だけで根管系を完全に無菌化することは難しく、洗浄液や貼薬材を組み合わせる必要があります。一方で、薬を入れるだけでは感染した組織や根管内の削りかすを取り除くことはできません。
【根管治療の日は何をしている?治療の流れを歯科助手の目線から解説】

薬を入れる前に、防湿と無菌的な操作も重要です
根管治療では、根管内にいる細菌を減らすだけでなく、治療中に唾液から新しい細菌を入れないことも重要です。
口の中には多くの細菌が存在します。せっかく根管内を清掃・洗浄しても、処置中に唾液が流れ込めば、根管内が再び汚染される可能性があります。
そのため根管治療では、治療する歯を唾液から隔離する防湿、使用する器具や材料を清潔に保つ操作、根管内へ不用意に触れないことなどが大切です。ラバーダムをはじめとする防湿方法は、唾液による汚染を防ぐだけでなく、細い器具や洗浄液から患者さんを守る意味もあります。
根管治療の感染管理は、薬を入れた瞬間だけで行われているのではありません。歯を開ける前から、根管充填後に入口を封鎖するまで続いています。
根管治療中に入れる代表的な薬が水酸化カルシウムです
水酸化カルシウムは、根管内貼薬材として長く使われてきた材料です。
純粋な水酸化カルシウムペーストは、約pH12.5~12.8の強いアルカリ性を示します。水分に触れるとカルシウムイオンと水酸化物イオンに分かれ、主に水酸化物イオンの作用によって細菌の細胞膜、タンパク質、DNAなどへ障害を与えると考えられています。
ただし、水酸化カルシウムが十分に働くためには、薬が必要な場所へ届き、一定時間接触し、アルカリ性が保たれる必要があります。
根管の入口付近へ少し薬が入っただけで、根の先や細い分岐へ同じように作用するわけではありません。薬を使う場合には、根管内へ適切に行き渡らせながら、根の外へ過剰に押し出さないことが求められます。
なお、根管内へ入れる白い材料がすべて水酸化カルシウムとは限りません。症状、感染の状態、歯根の成長段階、外傷の有無、再治療かどうかなどによって、使用する材料が異なる場合があります。
水酸化カルシウムは残った細菌の活動を抑えます
根管は、レントゲン写真では一本の細い線のように見えることがあります。
しかし、実際には単純な筒ではありません。主根管から細い側枝が分かれていることもあれば、二つの根管の間をイスムスという狭い空間がつないでいることもあります。楕円形の根管、フィン状に広がった部分、根の先で複数に分かれる根尖分岐もあります。
さらに、根管壁をつくる象牙質には、象牙細管という非常に細い管が無数にあり、その中へ細菌が入り込むこともあります。
器具は基本的に主根管の中を通るため、どれだけ丁寧に清掃しても、根管系のすべての壁や分岐へ直接触れられるとは限りません。洗浄液も重要ですが、根管の形、気泡、削りかす、液体の流れ方などに影響されます。
そこで、清掃と洗浄を行ったあとに水酸化カルシウムを置き、残った細菌の活動を抑えます。
ただし、水酸化カルシウムは、離れた場所の細菌を自動的に消してくれる薬ではありません。薬が細菌のいる場所へ届き、十分に接触する必要があります。

次の治療まで細菌が増えにくい環境を保ちます
根管を清掃・洗浄すると、根管内の細菌数は大きく減少します。
しかし、少数の細菌が残った場合には、次の治療までに再び増える可能性があります。根管内に壊死組織や細菌が利用できる栄養が残っていたり、仮の詰め物から唾液が入り込んだりすれば、再増殖や再汚染が起こりやすくなります。
水酸化カルシウムには、強いアルカリ性によって細菌が活動しにくい環境をつくり、治療と治療の間の再増殖を抑える役割があります。
ここで重要なのは、根管内へ薬を入れるだけでは十分ではないという点です。
歯の入口を仮の詰め物で閉じ、唾液や食べ物に含まれる細菌が外から入り込まないようにする必要があります。根管内貼薬が中に残る細菌の活動を抑え、仮の詰め物が外からの細菌侵入を防ぐことで、次回までの感染管理が成り立ちます。
細菌が残した炎症性物質へも働きかけます
根管治療で問題になるのは、生きている細菌だけではありません。
一部の細菌は、細胞壁にエンドトキシンと呼ばれる成分を持っています。代表的なものが、リポ多糖、略してLPSです。
LPSは、細菌が増殖するときだけでなく、細菌が壊れたり死んだりしたあとにも放出されます。根の先の組織で免疫反応を引き起こし、炎症や周囲の骨吸収に関与する可能性があります。
つまり、根管治療では生きた細菌を減らすだけでなく、細菌が残した炎症性物質も管理する必要があります。
水酸化カルシウムには、LPSの中でも生物学的作用の強い部分を変化させ、その働きを弱める作用が報告されています。
ただし、水酸化カルシウムだけで根管系のすべてのLPSを完全に除去できるとは限りません。器具による清掃、洗浄液による洗浄、必要に応じた貼薬を組み合わせて、細菌とその産物を段階的に減らしていきます。

浸出液や排膿が続く根管を、次回まで管理することもあります
根の先の炎症が強い歯では、根管内を乾燥させても、根の先から液体がにじんでくることがあります。この液体を浸出液といいます。感染の状態によっては膿が出てくることもあります。
根管内へ浸出液や膿が続けて出てくる状態では、すぐに根管充填を行わず、清掃と洗浄を行ったうえで薬を置き、仮の詰め物をして経過を確認することがあります。
次回来院時には、浸出液や排膿が減っているか、根管を乾燥できる状態になったか、自発痛や咬んだときの痛み、腫れなどが変化したかを再確認します。
ここで誤解しやすいのが、「薬が膿を吸い取っている」という考え方です。
根管内貼薬材は、膿をスポンジのように吸収して病変を治す材料ではありません。感染源となる根管内を清掃・洗浄したうえで細菌の活動を抑え、根の先の組織が落ち着きやすい環境を支えるものです。
複数回に分ける治療には、次回来院時に根管内と症状の変化を再評価できるという意味もあります。
薬を入れても、根管内が完全な無菌状態にならない理由
水酸化カルシウムは有用な根管内貼薬材ですが、万能ではありません。
その理由は、薬が弱いからだけではなく、根管の形、根管内の環境、細菌の生き方が複雑だからです。
水酸化カルシウムが十分に作用するには、細菌のいる場所へ薬が届き、接触する必要があります。しかし、細い側枝、イスムス、根尖分岐、象牙細管の深部などには、ペーストが十分に入り込まないことがあります。
また、試験管の中で水酸化カルシウムを細菌へ直接作用させた場合と、実際の根管内とでは条件が異なります。根管内には象牙質、ハイドロキシアパタイト、壊死した歯髄、炎症性浸出液、タンパク質、削りかすなどがあり、水酸化カルシウムのアルカリ性を弱める緩衝作用を示します。
保存資料に収載された研究でも、象牙質が加わることで、水酸化カルシウムの抗菌作用が大きく低下することが確認されています。
さらに、根管内の細菌は一個ずつばらばらに浮いているだけではありません。根管壁へ付着し、複数の微生物が集まり、自分たちを守る成分に包まれたバイオフィルムを形成することがあります。
バイオフィルムとなった細菌は、単独で浮遊している状態よりも、洗浄液や薬へ抵抗しやすくなる場合があります。水酸化カルシウムの抗バイオフィルム作用についても、研究結果は一貫していません。
Enterococcus faecalisやCandida albicansなど、水酸化カルシウムに対して比較的抵抗性を示す微生物も研究されています。ただし、これら一種類だけが根管治療の失敗を引き起こす「犯人」というわけではありません。実際の感染は、複数の微生物、根管形態、歯の封鎖状態などが関係する複雑なものです。
人の感染根管を対象とした研究をまとめた系統的レビューでも、水酸化カルシウムには細菌を減らす可能性がある一方、根管内の細菌を確実に排除できるとは確認されませんでした。

根管内に入れる薬は「神経を殺す薬」ではありません
患者さんの中には、
「歯の中へ薬を入れて、神経を少しずつ殺しているのですか?」
と心配される方もいらっしゃいます。
現在、一般的な根管治療で使われる水酸化カルシウムなどの根管内貼薬材は、歯の神経を意図的に殺すための薬ではありません。
根管治療では、炎症が回復できない状態になった歯髄や、すでに壊死・感染した歯髄を、器具によって除去します。その後に入れる薬は、残った感染を管理し、次回まで根管内の状態を保つために使います。
生きた歯髄を薬だけで失活させ、後日取り除くという意味ではありません。
白い薬を入れたから神経が死んだのではなく、診断に基づいて必要な歯髄処置を行ったあと、根管内の感染管理として薬を置いているのです。
水酸化カルシウム以外の根管内貼薬材もあります
根管内貼薬材には、水酸化カルシウム以外の選択肢もあります。
クロルヘキシジンを含む材料、ヨード系の材料、抗菌薬を組み合わせたペーストなどが研究・使用されることがあります。ただし、それぞれ作用する微生物、組織を溶解する能力、持続性、除去のしやすさ、組織への影響などが異なります。
例えば、クロルヘキシジンには抗菌作用がありますが、次亜塩素酸ナトリウムのように壊死組織を溶解する能力はありません。水酸化カルシウムとクロルヘキシジンを組み合わせる方法についても、効果が高まるとする研究と、混合によって性質が変わるとする研究があり、結論は一定していません。
抗菌薬ペーストは、根が完成していない永久歯に行う再生歯内療法などで使われることがありますが、通常の成人の根管治療すべてに使うものではありません。歯の変色、細胞への影響、薬剤耐性なども考慮する必要があります。
「抗菌作用が強そうな薬を何種類も混ぜればよい」というわけではなく、歯の状態と治療目的に応じて選択します。
根管内の薬は一般的な痛み止めではありません
水酸化カルシウムを入れたあとに痛みが軽くなったため、
「痛み止めの薬が入っているのかな」
と思われることがあります。
しかし、水酸化カルシウムは、飲み薬の鎮痛薬のように神経の痛みを直接止める薬ではありません。
根管内の細菌や炎症性物質へ働きかけ、感染環境を変化させることによって、結果として症状が軽減する可能性があります。
水酸化カルシウムを使用した場合に、治療と治療の間の痛みを抑える可能性を示した研究はありますが、根拠は限定的で、すべての歯で痛みを予防できるわけではありません。
根管治療後には、もともとあった根の先の炎症や、根管清掃による刺激、咬んだときに根の周囲へ加わる力などによって、一時的な違和感や痛みが出ることがあります。
薬を入れたのに痛むから薬が効いていない、痛みが出たから必ず治療が失敗した、と直ちに判断することはできません。
一方で、時間とともに強くなる痛み、顔まで広がる腫れ、発熱、口が開きにくい、飲み込みにくいなどの症状がある場合は、早めの確認が必要です。
同じ水酸化カルシウムでもペーストの性質が異なります
水酸化カルシウムは、白い粉末のままでは根管内へ運びにくく、水酸化物イオンを放出するためにも水分が必要です。
そのため、水や生理食塩水、粘性のある基材などと混ぜ、ペースト状にして使用します。
何と混ぜるかによって、イオンが放出される速さ、ペーストの流れやすさ、根管内へとどまる期間、次回来院時の除去しやすさなどが変わります。
水系の基材では比較的速くイオンが放出されます。粘性の高い基材では、イオンがよりゆっくり放出され、根管内へ長く残りやすくなります。一方、残りやすい材料ほど次回に取り除きにくいこともあります。
患者さんから見ると同じ白いペーストに見えても、製品や基材、ペーストの硬さによって性質が異なるのです。
ただし、長く残る薬ほど優れているとは限りません。必要な期間に作用し、その後の根管充填前にできるだけ除去できることも重要です。
薬は多く入れればよいわけではありません
根管内へ薬を十分に行き渡らせることは重要ですが、根の先から外へ大量に押し出せばよいわけではありません。
水酸化カルシウムは強いアルカリ性を持つため、根管外へ過剰に出ると、根の周囲の組織を刺激したり、組織障害を起こしたりする可能性があります。
根の先が大きく開いている歯、歯根吸収や穿孔がある歯、下顎の神経や上顎洞に近い歯などでは、特に慎重な操作が必要です。
治療では、根管の長さや根尖部の形を確認し、薬を運ぶ器具を適切な位置で使用します。器具を根管内で詰まらせた状態で強い圧力を加えず、薬が根の外へ過剰に押し出されないようにします。
薬を入れずに、その日に根管を詰めることもあります
根管治療では、毎回必ず水酸化カルシウムを入れるわけではありません。
根管内をその日のうちに十分清掃・洗浄でき、根管を乾燥させることができ、排膿や持続的な浸出液がなく、根管充填へ進める条件が整っていれば、根管内貼薬を行わずに根管充填まで進むことがあります。
一方、感染や症状が強い場合、根管内から浸出液や膿が続く場合、再根管治療で感染が複雑な場合、一回で必要な清掃を完了できない場合には、薬を入れて複数回に分けることがあります。
一回で行う根管治療と、複数回に分ける根管治療を比較した研究では、治癒や術後痛について、どちらか一方が常に優れているとは確認されていません。
2023年に公表された欧州歯内療法学会の診療ガイドラインでも、無症候性の根尖性歯周炎があり、十分な清掃・洗浄を完了できる永久歯については、治療間に水酸化カルシウムを置かずに根管充填まで行う考え方が示されています。ただし、この判断を急性症状や排膿のあるすべての歯へそのまま当てはめることはできません。
したがって、薬を入れなかったから手抜き、何度も薬を交換するほど丁寧、一回で終わったから簡単な歯、回数が多いから治療が失敗している、とは一概にいえません。
治療回数よりも、その歯に必要な清掃・洗浄が行われ、根管充填へ進める状態かどうかが重要です。
根管内の薬と仮の詰め物はセットで考えます
水酸化カルシウムを根管内へ入れても、歯の入口が開いたままでは、唾液や食べ物に含まれる細菌が入り込んでしまいます。
そこで、根管内へ薬を入れたあとは、歯の入口を仮の詰め物で閉じます。
仮の詰め物は、単に食べ物が詰まらないように穴を塞いでいるだけではありません。根管内へ唾液が入るのを防ぎ、清掃した内部が再び汚染されるのを抑えるという重要な役割があります。
根管内の薬が中に残った細菌の活動を抑えるのに対し、仮の詰め物は外から新しい細菌が入るのを防ぎます。
どちらか一方だけでは、次の治療までの感染管理として十分ではありません。
ブランデンタルクリニックでは、キャビトンを中心に使用し、歯の状態や次回までの期間などに応じてストッピングやベースセメントを使うことがあります。
【根管治療中の仮の詰め物はなぜ必要?取れた・穴が開いた・薬の味がするときの対応】

仮の詰め物や薬について連絡してほしいサイン
根管治療後、次のような状態がある場合は、なるべく早く歯科医院へ連絡してください。
- 歯に穴が開いた感じがする
- 食べ物が中へ入り込む
- 薬のような味やにおいが繰り返す
- 中に入れた綿が見えている
- 仮の詰め物が大きく取れた、または割れた
- 歯そのものが欠けた
- 強い痛みや腫れが出た
- 咬んだときに仮の詰め物が極端に高く感じる
薬のような味がする場合、必ずしも根管内の薬そのものが漏れているとは限りません。仮封材の成分や治療時に使った材料の味を、一時的に感じることもあります。
ただし、味が繰り返す、穴が開いた感じがする、食べ物が入る、綿が見えるといった場合は、仮の詰め物の封鎖が不十分になっている可能性があります。
処置直後は仮封材が十分に固まっていないことがあるため、当院では原則として30分程度は飲食を控えていただくようご案内しています。

薬が入っていても、治療を長期間空けてはいけません
「根の中に薬が入っているなら、しばらく治療へ行けなくても大丈夫だろう」
と思われることがあります。
しかし、根管内へ薬を入れた状態は、治療が終了した状態ではありません。
時間が経過すると、仮の詰め物がすり減ったり、仮封材と歯の境目に隙間ができたりします。そこから唾液や食べ物が入り込めば、根管内が再び汚染される可能性があります。
治療途中の歯は内部を大きく開けていることも多く、残った歯質が薄くなっています。仮の詰め物をしたまま長期間経過すると、歯が欠けたり割れたりするリスクもあります。
水酸化カルシウムも、理由なく何か月も放置することを前提とした材料ではありません。症例によって一定期間入れて管理する場合もありますが、その場合も歯科医師が定期的に状態を確認します。
根管内に薬が入っていることは、「次の治療まで何か月空いても安全」という意味ではありません。
予定された時期に再受診し、根管内と仮の詰め物の状態を確認することが大切です。
【歯医者の治療途中で通院が空いてしまったとき、予約時に何を伝える?根管治療・仮歯・型取り後の再開方法】
長期間使うと歯が弱くなるという話は本当ですか?
水酸化カルシウムと歯根象牙質の強さについては、長期間接触させた場合の影響が研究されています。
2024年の系統的レビューとネットワークメタ解析では、使用期間が長くなると象牙質の破折抵抗性へ影響する可能性が示されました。特に4週間以上使用した実験群で影響が現れる可能性が検討されています。
ただし、収載された研究の多くは、抜去した歯を使って行われた実験です。実際の口の中では、残っている歯質の量、虫歯やひびの有無、根管形成で削った量、仮封や最終修復、咬み合わせ、歯ぎしりや食いしばりなど、多くの要因が破折リスクへ関係します。
そのため、実験結果だけから、水酸化カルシウムを入れた歯はすぐ弱くなると判断することはできません。
通常の短期間の根管内貼薬を過度に心配する必要はありませんが、理由なく長期間放置してよいわけでもありません。歯科医師が治療目的と期間を決め、必要に応じて薬を交換したり、根管充填へ進んだりします。
根管を詰める前には、前回入れた薬を取り除きます
水酸化カルシウムは、最終的に根管内へ残しておくための根管充填材ではありません。
根管充填へ進むときには、前回入れた水酸化カルシウムを、洗浄液や器具などを使ってできるだけ取り除きます。
根管壁へ薬が多く残ったままだと、根管充填用シーラーが根管壁へ接触するのを妨げたり、接着や封鎖へ影響したりする可能性があるためです。
ただし、細い溝、イスムス、根尖部、複雑な分岐へ入り込んだ水酸化カルシウムを完全に除去することは簡単ではありません。器具や通常の洗浄に加え、音波・超音波などを用いた洗浄補助も研究されていますが、どの方法でも残留を完全にゼロにできるとは限りません。
次回来院時に前回の薬を洗い流しているのは、単に古い薬を新しい薬へ交換しているだけではありません。
前回の薬を取り除き、もう一度清掃・洗浄し、根管内の状態を確認して、根管充填へ進めるかを判断する大切な工程です。

外傷後の歯根吸収では、別の目的で使うことがあります
水酸化カルシウムは、通常の虫歯由来の根管治療だけに使われるわけではありません。
歯を強くぶつけたり、歯が抜けかけるような外傷を受けたりしたあと、歯髄が壊死して感染すると、歯根の外側が吸収されることがあります。これを炎症性外部歯根吸収といいます。
このような場合には、根管内の感染を抑え、歯根吸収を進める炎症環境を管理する目的で、水酸化カルシウムを一定期間使用することがあります。
また、根が完成していない若い永久歯では、通常の成人の根管治療とは異なる方法が必要です。現在はMTAなどで根尖部にバリアをつくる方法や、再生歯内療法なども行われており、水酸化カルシウムを使用する目的や期間は症例によって異なります。
これは特殊な使い方であり、すべての根管治療で長期間薬を入れるという意味ではありません。
【外傷後に歯の根が吸収されるのはなぜ?歯髄壊死と炎症性歯根吸収、経過観察の重要性】
飲み薬の抗菌薬と、根管内へ入れる薬は別物です
根管内貼薬材は、歯の中へ局所的に使う薬です。
口から飲む抗菌薬とは、投与方法も役割も異なります。
壊死した根管内は血流がほとんどないため、飲み薬の抗菌薬だけで、根管内の壊死組織やバイオフィルムを取り除くことはできません。根管を開け、感染した組織を器具で取り除き、洗浄液で洗うことが治療の中心です。
一方、腫れが広がっている、発熱や全身倦怠感がある、リンパ節が腫れている、口が開きにくい、飲み込みにくい、免疫機能への配慮が必要といった場合には、歯科医師が全身的な抗菌薬の必要性を判断します。
根管内貼薬と飲み薬の抗菌薬は、どちらか一方を使えば同じというものではありません。
治療を見学して分かった「薬を入れる前後」の確認
治療を見学していると、白い薬を入れている時間だけを見れば、数分で終わる処置のように見えます。
しかし、実際には、その前後に多くの確認が行われています。
薬を入れる前には、予定した範囲まで根管を清掃できているか、根管長を確認できているか、洗浄が十分か、出血や浸出液が続いていないか、膿や強いにおいがないか、根管内を乾燥できるかなどを確認します。
根の先が大きく開いていないか、歯根吸収や穿孔がないかも、薬を安全に入れるために重要です。
薬を入れるときには、根管内へ適切に行き渡っているか、根の先へ過剰に押し出していないか、器具が根管内で詰まった状態になっていないかを確認します。
薬を入れたあとは、歯の入口を仮の詰め物で確実に閉じられたか、仮封に穴や隙間がないか、咬み合わせが高すぎないか、次回までの注意事項が患者さんへ伝わっているかを確認します。
歯科助手も、洗浄液と貼薬材を取り違えないように準備し、仮封に必要な材料をすぐに出せるようにします。処置後には、飲食を控える時間や、仮の詰め物が取れた場合の連絡方法を患者さんへお伝えします。
根管内へ薬を入れる処置は、それだけで独立した治療ではありません。その前に行う清掃と洗浄、そのあとに行う仮封、次回来院時の再評価までが、一つの感染管理としてつながっています。

根管治療の結果は薬の種類だけでは決まりません
根管治療の結果には、多くの要因が関係します。
治療前の状態としては、根の先に病変があるか、病変がどの程度広がっているか、痛みや腫れ、排膿があるか、歯根吸収やひびがあるか、修復できるだけの歯質が残っているかなどが影響します。
治療中には、必要な根管を見つけられたか、適切な長さまで清掃できたか、洗浄を十分に行えたか、根管内貼薬が必要な症例か、根管充填を根管内へ適切に行えたかなどが重要です。
治療後には、歯の入口をしっかり封鎖できているか、詰め物や被せ物に隙間がないか、歯が割れないように保護できているか、咬み合わせに問題がないか、必要な経過観察を受けているかが関係します。
根管内へどの薬を入れたかは、その中の一要素にすぎません。
根管内の感染環境を治癒しやすい方向へ変え、その状態を根管充填と最終的な修復によって維持できるかが重要です。
まとめ|根管内の薬は、次の治療まで歯の中を管理する補助役です
根管治療中に入れる白い薬は、水酸化カルシウムであることが多くあります。
水酸化カルシウムには、清掃後に残った細菌の活動を抑え、次回まで細菌が再び増えにくい環境を保つ役割があります。細菌が残した炎症性物質へ働きかけたり、外傷後の炎症性歯根吸収を管理したりする目的で使われることもあります。
しかし、根管は複雑な形をしており、象牙質による緩衝作用やバイオフィルムの存在もあるため、水酸化カルシウムだけで根管内を完全な無菌状態にすることはできません。
根管治療では、器具による清掃、洗浄液による洗浄、必要に応じた根管内貼薬、仮の詰め物、根管充填、最終的な詰め物や被せ物を組み合わせます。
症例によっては、根管内へ薬を入れず、その日のうちに根管充填へ進むこともあります。反対に、感染、浸出液、外傷、歯根吸収などの状態によっては、薬を入れて複数回に分けることがあります。
治療回数や薬の有無だけで、治療の良し悪しを判断することはできません。
根管治療中に入れる薬は、歯の中を薬だけで治すものではありません。丁寧に清掃・洗浄した根管を、次の治療までできるだけ再汚染させずに管理するための大切な補助役なのです。
よくあるご質問
根管治療で入れる白い薬は、必ず水酸化カルシウムですか?
必ずしも水酸化カルシウムとは限りません。
水酸化カルシウムは代表的な根管内貼薬材ですが、歯の状態、感染の程度、外傷の有無、歯根の成長段階、再治療かどうかなどによって、別の材料を使用する場合があります。
また、白く見える材料でも、仮封材、根管充填用シーラー、歯を修復する材料など、役割が異なるものがあります。
根管内へ入れる薬は、神経を殺すための薬ですか?
一般的な水酸化カルシウムによる根管内貼薬は、神経を殺すための薬ではありません。
根管治療では、診断に基づいて炎症が回復できない歯髄や、壊死・感染した歯髄を器具で除去します。その後に入れる薬は、清掃した根管内を次回まで管理するためのものです。
水酸化カルシウムは痛み止めですか?
一般的な鎮痛薬ではありません。
水酸化カルシウムは、根管内の細菌や細菌由来の炎症性物質へ働きかけ、感染環境を管理するための薬です。
その結果として痛みが軽減することはありますが、薬を入れれば必ず痛みが止まるわけではありません。
薬を入れれば、根管内の細菌はいなくなりますか?
完全にゼロになるとは限りません。
根管には側枝、イスムス、根尖分岐、象牙細管などがあり、薬が十分届かない場所があります。
また、象牙質や壊死組織によって薬の作用が弱くなったり、バイオフィルムを形成した細菌が残ったりする可能性があります。そのため、器具による清掃、洗浄、根管内貼薬、根管充填を組み合わせます。
毎回薬を交換しているのは、治りが悪いからですか?
薬を交換している回数だけで、治りが悪いとは判断できません。
前回の薬を取り除き、根管内をもう一度洗浄し、浸出液、出血、排膿、におい、症状などを確認したうえで、新しい薬を入れる場合があります。
複雑な根管や再根管治療では、清掃そのものに複数回必要になることもあります。
薬を入れないで根管を詰めても大丈夫ですか?
歯の状態によっては、薬を置かずに根管充填まで進めることがあります。
根管を十分に清掃・洗浄でき、乾燥できる状態で、排膿や持続的な浸出液などの問題がなければ、一回で根管充填まで進む場合があります。
薬を入れなかったことだけで、必要な治療を省略したとは判断できません。
根管内へ薬を入れたあとに痛みが出ることはありますか?
あります。
治療前から根の先に炎症がある場合や、根管清掃による刺激が加わった場合には、一時的に咬んだときの痛みや違和感が出ることがあります。
痛みが時間とともに強くなる、顔まで腫れる、発熱がある、口が開きにくい、飲み込みにくいといった場合は、早めに歯科医院へ連絡してください。
薬のような味がしたら、根管内の薬が漏れていますか?
必ずしも根管内の薬が漏れているとは限りません。
治療に使った材料や仮封材の味を一時的に感じることもあります。
ただし、薬の味が繰り返す、穴が開いた感じがする、食べ物が入る、中の綿が見える場合は、仮の詰め物に隙間ができている可能性があります。できれば当日にご連絡ください。
仮の詰め物が少しすり減りました。すぐに受診が必要ですか?
仮の詰め物は、咬むことで表面が多少すり減ることがあります。
表面がわずかに削れただけで、すぐに根管が開いているとは限りません。
一方、明らかな穴がある、食べ物が入り込む、綿が見える、大きく欠けた、薬の味が繰り返す場合は確認が必要です。判断が難しい場合は、予約日まで待たずにお問い合わせください。
根管内に薬が入っていれば、次の予約まで長く空いても大丈夫ですか?
大丈夫とはいえません。
時間がたつと仮の詰め物が劣化し、隙間から唾液が入って根管内が再汚染される可能性があります。また、治療途中の歯は薄くなっており、欠けたり割れたりすることがあります。
薬が入っていても、予定された時期に治療を続けてください。
水酸化カルシウムを長く入れると、歯が割れやすくなりますか?
長期間の接触によって歯根象牙質の性質が変化する可能性は研究されていますが、研究の多くは抜去した歯を用いた実験です。
通常の短期間の使用で、直ちに歯が割れやすくなると考える必要はありません。
ただし、理由なく長期間放置してよい材料ではなく、歯科医師が目的と期間を決めて管理します。
根管内へ入れる薬と、飲み薬の抗菌薬は同じですか?
異なります。
根管内貼薬材は歯の中へ局所的に使用し、根管内の環境を管理します。
飲み薬の抗菌薬は全身を通して作用し、腫れの広がり、発熱、全身状態などに応じて必要性を判断します。
飲み薬だけで、壊死した歯髄や感染した根管内を清掃することはできないため、根管の清掃と洗浄が必要です。
根管内へ入れた薬は、最後まで歯の中に残すのですか?
通常の水酸化カルシウムによる根管内貼薬は、最終的な根管充填の前にできるだけ取り除きます。
水酸化カルシウムは、治療と治療の間に使用する薬であり、根管を最終的に封鎖する材料ではありません。
薬を除去したあと、根管内を再び洗浄・乾燥し、根管充填へ進める状態かを確認します。
参考文献
- American Association of Endodontists. AAE White Paper: Treatment Standards. 2018.
- Duncan HF, Kirkevang LL, Peters OA, et al. Treatment of pulpal and apical disease: The European Society of Endodontology S3-level clinical practice guideline. International Endodontic Journal. 2023;56 Suppl 3:238–295.
- Mohammadi Z, Dummer PMH. Properties and applications of calcium hydroxide in endodontics and dental traumatology. International Endodontic Journal. 2011;44:697–730.
- Sathorn C, Parashos P, Messer H. Antibacterial efficacy of calcium hydroxide intracanal dressing: a systematic review and meta-analysis. International Endodontic Journal. 2007;40:2–10.
- Rossi-Fedele G, Rödig T, et al. Effectiveness of root canal irrigation and dressing for the treatment of apical periodontitis. International Endodontic Journal. 2023.
- Mergoni G, Ganim M, Lodi G, et al. Single versus multiple visits for endodontic treatment of permanent teeth. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2022;12:CD005296.
- Ahmad MZ, et al. Calcium hydroxide as an intracanal medication for postoperative pain during primary root canal therapy: a systematic review and meta-analysis with trial sequential analysis. 2022.
- Sunlakawit C, et al. Effect of calcium hydroxide as an intracanal medication on dentine fracture resistance: a systematic review and network meta-analysis. Journal of Endodontics. 2024;50:1712–1723.
- Gulabivala K, Ng YL. Factors that affect the outcomes of root canal treatment and retreatment: a reframing of the principles. International Endodontic Journal. 2023;56 Suppl 2:82–115.
