2026年9月28日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
歯科助手として治療についていると、患者さんに同じようなお願いを何度もしている場面があります。
「はい、一度噛んでください」
「カチカチしてください」
「ありがとうございます。開けてください」
先生が歯についた色を確認して、ほんの少しだけ調整します。
ところが、その直後。
「では、もう一度噛んでください」
また噛む。
また開ける。
また確認する。
さらに少し調整して、また、
「もう一度お願いします」
最初のころは、私も不思議でした。
「さっき噛んでもらって、当たっている場所はもう分かったんじゃないの?」
でも治療を見ているうちに、この「噛んで、開けて」の繰り返しは、同じことを何度も確認しているわけではないと分かってきました。
一か所を調整すれば、その前とは歯の接触状態が変わります。
つまり先生は、
確認する
↓
必要なところだけ少し調整する
↓
調整後の新しい状態をもう一度確認する
という作業を繰り返していたのです。
今回は、治療中にはちょっと不思議に見える「何度も噛んで、開けて」の理由を、歯科助手の目線から追いかけてみます。
一度噛んだのに、どうしてまた噛むの?
先に今回の答えを書いてしまうと、
一度調整すると、さっき確認したときとは噛み合わせの状態が変わるからです。
たとえば、詰め物や被せ物の治療が終わった直後の状態を「A」としてみます。
まずAの状態で噛んでもらい、上下の歯がどこで接触しているのか確認します。
そして必要な部分だけを少し調整します。
すると、口の中はもうAではありません。
調整後の「B」という新しい状態になっています。
そのため、
Aで調べた結果だけを見ながら、そのままずっと調整を続けるわけにはいきません。
今度はBの状態を確認する必要があります。
そしてBでも調整が必要なら、もう一度少し整えて「C」になる。

イメージとしては、
A:治療直後の状態
↓
噛んで確認
↓
必要な部分だけ微調整
↓
B:調整後の状態
↓
もう一度噛んで確認
↓
必要ならさらに微調整
↓
C:さらに調整した後の状態
という流れです。
患者さんから見ると、どれも同じ
「噛んでください」
に見えます。
でも先生が確認している口の中の状態は、毎回少しずつ違っています。
これが今回の記事で一番大切なポイントです。
最初の「噛んでください」で何を見ている?
詰め物や被せ物の高さを確認するとき、薄い色付きの紙を上下の歯の間に入れて噛んでもらうことがあります。
いわゆる咬合紙です。
噛むと上下の歯が接触した部分に色がつくため、
「この歯のどこが当たっているのか」
を確認する手掛かりになります。
先生は治療した歯だけを単独で見るのではなく、
- 治療した部分のどこに印がついているか
- 周囲の歯にはどのような印がついているか
- 一部分だけ不自然な接触になっていないか
- もう一度噛んだときにも似た位置へ印が出るか
- 上下の歯で対応する位置に印があるか
なども見ています。
ただし、ここで大切なのは、
咬合紙は「接触した場所」を知るには便利でも、印の大きさだけをそのまま「そこにかかった力の大きさ」と読み替えられる道具ではない
ということです。
詳しくは後ほど触れますが、だからこそ先生は一度の色だけを見て機械的に削っているわけではありません。
咬合紙そのものについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
噛み合わせの紙をカチカチ噛むのはなぜ?詰め物・被せ物の高さ確認を歯科助手が解説
「開けてください」の間に先生は何をしている?
患者さんからすると、
「噛んでください」
の方が検査らしく見えて、
「開けてください」
は単なる次の指示に聞こえるかもしれません。
でも私たちから見ると、開けてもらっている時間も大切な確認時間です。
噛んでもらったあとに口を開けてもらい、先生はついた印を観察します。
そして、
「どの部分についた印なのか」
「周囲の歯との関係はどうか」
「上下で対応する印になっているか」
「この接触は本当に調整する必要があるのか」
「形を整えるなら、どの部分をどの程度にするのか」
を考えます。
必要なら、ほんの少し形を整えます。
そして、もう一度噛んでもらう。
私はこの流れを見ていると、
「噛む」は接触の痕跡を記録する時間。
「開ける」はその記録を読む時間。
と考えると、とても分かりやすいと思います。

噛んだままでは、ついた印を直接見ることも、必要な部分を調整することもできません。
「噛んで、開けて」は、実は一組の作業なのです。
一か所を調整すると、“次の当たり”が見えてくることがある
ここが、今回いちばんお伝えしたかったところです。
分かりやすくするため、新しく治療した歯の一部分を「A点」とします。
治療直後、A点が周囲より先に接触していたとします。
先生がそこを確認し、調整が必要だと判断すれば、必要な範囲だけ少し形を整えます。
すると、次に噛んだときの接触関係は、調整前とまったく同じではありません。
A点の形が変わったことで、
それまで分かりにくかった別の接触や、周囲の歯との関係を評価しやすくなることがあります。

そこで今度は、
「さっきとは違う場所」
にも目を向けることがあります。
患者さんから見ると、
「え? さっきそこを削ったのに、今度は別のところ?」
と思うかもしれません。
でも、これは必ずしも、
「最初の場所を間違えた」
という意味ではありません。
一つ前の調整によって状態が変わったので、その変化した状態を新しく確認している
ということです。
だから咬合調整は、
「最初に色がついたところを全部一気に削る」
という作業にはなりません。
少し調整して、いったん止める。
もう一度噛んでもらう。
新しい状態を見る。
まだ必要なら、また少し調整する。
この繰り返しになります。
さっき付けた咬合紙の跡は、調整した瞬間に「前の状態の記録」になる
咬合紙の跡は、いわば
その瞬間の噛み合わせを記録したもの
です。
そのあと歯や修復物の形を少し変えれば、その記録を取ったときとは条件が変わります。
ですから、
「さっき色がついた場所が分かっているなら、そのまま最後まで調整すればいいのでは?」
とはなりません。
調整前についた印は、
調整前の口の中についての情報
だからです。
調整したあとは、
もう一度、調整後の状態を記録し直す
必要があります。
ここまで分かると、
「噛んでください」
「開けてください」
「もう一回お願いします」
が何度も続く理由が、かなり見えてきます。
何度も確認するのは、「必要以上に削らないため」でもある
患者さんからすると、
「どうせ調整するなら、一度にまとめて削った方が早いのでは?」
と思うかもしれません。
でも天然歯は、一度削った部分が自然に元の形へ戻るわけではありません。
詰め物や被せ物も、必要以上に削ってしまえば、その後に別の修正が必要になる可能性があります。
だから、
必要な部分を少し整える
↓
いったん止める
↓
もう一度噛んでもらう
↓
まだ調整が必要か確認する
という手順になります。
つまり、何度も噛んでもらうのは、
削る場所を探すためだけではありません。
場合によっては、
「もうこれ以上調整しなくてよい」ことを確認するため
にも噛んでもらっています。
私がこの治療の流れを見ていて、一番なるほどと思ったのがここでした。
最後の、
「では、もう一度だけ噛んでください」
は、
「まだどこか削るところはないかな?」
だけではなく、
「これで調整を終えてよいかな?」
を見る確認でもあるのです。
何回「噛んで、開けて」を繰り返したら終わるの?
では、
「普通は3回?」
「5回やったら多い?」
というように、回数の目安があるのでしょうか。
実際には、一律に何回と決めることはできません。
たとえば、
- 詰め物なのか被せ物なのか
- 治療した範囲がどの程度か
- 最初の接触状態がどうだったか
- 一度の調整でどの程度変化したか
- 咬合紙の印がどの程度再現するか
- 患者さん自身がどう感じているか
- 閉じた位置だけでなく、顎を動かしたときの確認が必要か
などによって変わります。
一度確認しただけでほとんど調整が必要ないこともあれば、少しずつ調整しながら数回確認することもあります。
大切なのは回数そのものではありません。
調整したあとに、その状態を確認せず終わらせないこと。
ここが「何度も噛む」理由につながります。
咬合紙の“大きな印”が一番強いとは限らない
咬合紙の跡を見ると、濃いところ、大きいところ、小さな点など、いろいろな印がつきます。
見る側としては、
「一番大きな印が、一番強く当たっているのでは?」
と思いたくなります。
ところが、この関係を実際に調べた研究があります。
2012年、天然歯のある女性30人を対象に、上顎の奥歯についた咬合紙の印240個と、機器で測定した各歯の相対的な咬合力を比較した研究です。
結果は、咬合紙の印の面積と咬合力との関係は弱く、印の面積から咬合力を説明できた割合を示す決定係数は0.067でした。
さらに、各部位で
「一番大きな咬合紙の印がついた歯」
と
「最も大きな力が測定された歯」
が一致したのは38.3%でした。

もちろん、これは
「咬合紙は役に立たない」
という意味ではありません。
咬合紙は、接触した位置を知るために非常に便利な道具です。
しかし、
大きい印=一番強い力
と単純に置き換えることはできない、ということです。
だから先生は、色の大きさランキングを作って上から順番に削っているわけではありません。
2026年の32人研究でも、咬合紙には「本当の接触」と「見かけの印」があった
さらに2026年には、天然歯列の成人32人を対象に、咬合紙で記録した接触と、基準となるシリコーンによる記録を比較した臨床研究が報告されています。
この研究では、咬合紙による接触点について、
真陽性が81.0%、偽陽性が15.0%
と報告されました。
ここでいう偽陽性とは、
咬合紙には印がついたものの、基準となる方法では真の接触点と判定されなかったもの
です。
そして研究者らは、上の歯と下の歯についた咬合紙の印が互いに対応していることも調べました。
上下で対応する印だけを接触と判定すると、偽陽性は2.0%まで少なくなりました。
一見すると、
「だったら上下で一致する印だけを見れば正確なのでは?」
と思います。
ところが、そう単純でもありません。
上下の印の一致を条件にすると、真の接触を正しく拾えた割合も81.0%から72.3%へ低下しました。
つまり、
上下の印が対応することを確認すれば、見かけだけの接触を減らしやすい一方、本当に存在する接触まで拾いきれなくなる可能性があります。

これも、咬合紙を一つの情報だけで機械的に読むのが難しい理由です。
「下の歯に青い点がある」
「上下に同じような印がある」
という一つ一つの所見は大切です。
しかし、
どれか一つを絶対的な判定基準にすればよいわけではありません。
だから先生は、
上下の印を見る。
周囲の接触を見る。
もう一度噛んでもらう。
患者さんの感覚も確認する。
必要に応じて別の方法も使う。
そうして複数の情報を合わせながら判断しています。
歯を乾かしてから、また噛んでもらうことがあるのはなぜ?
治療を見ていると、
先生が歯にエアーを当てたり、
私たち助手がバキュームをしたり、
必要に応じて綿ロールで唾液を避けたりしてから、
もう一度咬合紙を入れることがあります。
これにも理由があります。
2026年、32人を対象に、40µmの親水性咬合紙を使って、
- 特に防湿しない状態
- エアーで乾燥させた状態
- 綿ロールで唾液を避け、さらに乾燥させた状態
の3条件を比較した研究があります。
最大の咬合紙マークの平均サイズは、
防湿なし:1.27mm
エアー乾燥:1.06mm
綿ロール防湿:0.99mm
と変化しました。
さらに、濃く明瞭な印の割合も防湿条件によって異なり、綿ロールを使用した条件では90.6%が濃い印として記録されました。

接触点の数にも有意な違いがみられています。
つまり、この研究の範囲では、
歯の表面に唾液がどの程度残っているかによって、咬合紙の印の数・大きさ・濃さが変わりました。
これは助手としても興味深いところです。
「先生がまた歯を乾かしている」
「バキュームしてからもう一度紙を入れている」
という一見地味な動きにも、意味があるわけです。
ただし、ここは注意が必要です。
この研究で使われたのは40µmの特定の親水性咬合紙です。
すべての咬合紙について、
「乾燥すれば必ず同じ変化が起こる」
とまでは言えません。
製品の材質や厚さによっても性質は異なります。
色のつかない、とても薄いフィルムを噛むこともある
治療によっては、色のつく咬合紙とは違う、とても薄いフィルムを噛んでもらうことがあります。
代表的なものの一つがシムストックです。
咬合紙のように色をつけて位置を見るというより、
薄いフィルムを歯の間に入れ、
噛んだときに保持されるか、引っ張ると抜けるかなどから接触を確認する使い方があります。
インプラントの奥歯に装着したジルコニア単冠を6年間追跡した臨床研究では、咬合確認に8µmのシムストックが使用されています。
必要な場合には咬合調整を行い、その後に調整したジルコニア表面を専用の器具で再研磨していました。
つまり、
「色をつけること」だけが噛み合わせ確認ではありません。
先生が途中で違う薄い材料へ持ち替えても、
「別の方法でも接触を確認しているんだな」
と考えると分かりやすいと思います。

患者さんの「まだ少し高い気がします」も大切な情報
咬合紙を見るだけではなく、先生が患者さんへ、
「高く感じませんか?」
「その歯だけ先に当たる感じはありませんか?」
と尋ねることがあります。
私は最初、
「そんな微妙な違いって、本当に分かるものなのかな?」
と思っていました。
ところが、人の歯の感覚はかなり細かなところまで調べられています。
2024年の研究では、19~34歳の健康な成人63人、平均年齢24.6歳を対象に、8~72µmまで8µm刻みのアルミ箔を使って、噛んだときに異物を感じ取れるかを調べました。
何も挟まない条件も混ぜ、それぞれの厚さを10回ずつ、順番をランダムにして試しています。
ここで大切なのは、この数字が
すべての年齢、すべての歯、すべての患者さんにそのまま当てはまるわけではない
ということです。
この研究の対象は、若い健康な成人です。
その条件を踏まえたうえで結果を見てみましょう。
63人で最も多かった最小識別厚さは32µm
この研究では、
10回中少なくとも5回、正しく「挟まっている」と答えられた最も薄い厚さ
を、その人の最小識別厚さとして評価しました。
結果は、
- 24µm:8人(12.7%)
- 32µm:25人(39.7%)
- 40µm:12人(19.1%)
- 48µm:14人(22.2%)
- 56µm:4人(6.4%)
でした。
最も多かったのは32µmです。

さらに、各厚さを正しく判別できた平均割合は、
- 8µm:0.5%
- 16µm:3.6%
- 24µm:16.8%
- 32µm:45.1%
- 40µm:56.6%
- 48µm:68.9%
- 56µm:84.9%
- 64µm:93.5%
- 72µm:98.4%
でした。
この結果から分かるのは、
「人は必ず10µm程度の差まで分かる」という話ではない
ということです。
8µmを正しく判別できた割合は非常に低く、個人差もあります。
しかし一方で、
健康な若年成人の中には、数十µmという非常に小さな厚さの違いを識別できる人がいる
ことも分かります。
ですから、
「ほんの少し高い気がします」
という患者さんの感覚は、決して無視してよい情報ではありません。
ただし、
患者さんの感覚だけですべてを決めるわけでもありません。
咬合紙などの記録と、実際の口の中の状態と、患者さん自身の感覚。
それらを合わせて判断します。
天然歯が細かな違いを感じる仕組みには「歯根膜」も関わる
天然歯は、顎の骨へ直接カチッと固定されているわけではありません。
歯の根と骨の間には、歯根膜という組織があります。
歯根膜には、力や機械的な刺激を感じ取る受容器があり、歯へ加わった力や接触を感じる仕組みに関わっています。
2024年の研究でも、過去の研究を踏まえて、天然歯の咬合感覚には歯根膜からの感覚入力が重要であることが説明されています。
歯は単なる硬い部品ではありません。
噛んだときに、
「何か挟まっている」
「この歯が先に当たる感じがする」
と感じ取る仕組みも持っています。
だから先生が最後に、
「今、どうですか?」
と患者さんへ聞くことにも意味があります。
患者さんの感覚は大切。でも「違和感がある=もっと削ればいい」ではない
ここは、とても大切なところです。
ここまで、
「患者さんの感じ方も大切な情報」
と書いてきました。
しかし、
違和感のあるところを、何も感じなくなるまで削り続ければよい
という意味ではありません。
まず区別しておきたいのは、治療直後に実際の早期接触などがあり、
「治療した歯が明らかに先に当たる」
と感じる一般的な状況と、
口の中を調べても、それだけでは説明できない咬合違和感が長く続く状態は、同じものではない
ということです。
2026年には、咬合違和感(Occlusal Dysesthesia)について1976年から2026年1月までの文献を調べた総説が発表され、46文献がまとめられました。
この状態では、臨床的に明らかな咬合異常を確認できないにもかかわらず、
「噛み合わせがおかしい」
「以前の噛み合わせを失った感じがする」
といった感覚が持続することがあります。
さらに、この総説で取り上げられた、薄い箔の識別能力を患者群と健常群で比較した3研究では、咬合を識別する閾値に明確な群間差は確認されていませんでした。
この分野では、原因や診断基準、標準的な治療法について、まだ不明な点が多く残っています。
だからこそ、
患者さんの違和感を無視しない。
一方で、
「違和感があるなら、そこをさらに削ればよい」とも決めつけない。
この両方が大切です。
先生は患者さんの感覚を聞きながら、
咬合紙の印を見る。
上下の接触を見る。
必要なら別の方法でも確認する。
そして実際に調整すべき接触があるのかを判断します。
「カチカチ」のあとに「横へ動かしてください」と言われるのは?
噛み合わせ確認の最後に、
「噛んだまま右へ動かしてください」
「今度は左へ」
「前へ動かしてください」
と言われることがあります。
これは先ほどまでの、
「カチカチ」
とは少し目的が違います。
歯を閉じきったところでの接触だけでなく、
顎を動かしている途中で、治療した歯が不自然に接触しないか
も確認するためです。
天然歯の咬合分析をまとめた2023年の系統的レビューでも、咬合は閉じた位置だけでなく、左右への運動や前方運動などを含めて評価されることが整理されています。
同じ「噛み合わせを見る」でも、
カチカチ噛んで見る情報と、顎を動かしながら見る情報は同じではありません。
この違いは別の記事で詳しく取り上げています。
「カチカチしてください」と「ギリギリしてください」は何が違う?噛んだ位置と動かした途中を見る理由
詰め物と被せ物では、噛み合わせを確認するまでの流れも少し違う
同じ「噛んでください」でも、治療内容によってその前の工程は少し違います。
コンポジットレジンなどの詰め物
むし歯を削ってレジンを詰め、光で硬化させます。
そのあと歯の形を整え、
噛み合わせを確認
↓
必要なら調整
↓
もう一度確認
↓
仕上げ・研磨
という流れになります。
「もう詰め物は固まったのに、どうしてまた削るの?」
という疑問につながる場面です。
被せ物の場合
被せ物では、噛み合わせを見る前にも確認することがあります。
被せ物がきちんと歯へ座っているか。
隣の歯との接触はどうか。
縁の適合はどうか。
そうした条件を確認したうえで、上下の噛み合わせを見ます。
被せ物が正しく座っていない状態で咬合だけを調整しても、本来評価したい状態とは違ってしまいます。
そのため、
入れる。
確認する。
必要なら外す。
もう一度入れる。
最後に噛み合わせを見る。
という流れになることがあります。
被せ物を何度も入れて外すのは失敗?試適で先生が確認していること
最後にもう一度噛むのは「最終テスト」
治療の終わりごろ。
先生が、
「では最後に、もう一度噛んでください」
と言うことがあります。
最初のころの私なら、
「また噛んでもらうんだ」
と思っていました。
でも今は、
最後の一回にも大切な意味がある
と分かります。
調整した結果、
周囲との接触はどうなったか。
さっき調整した部分に不自然な接触は残っていないか。
患者さん自身はどう感じているか。
これ以上調整する必要はないか。
それを確認する一回だからです。

つまり最後の咬合確認は、
「次に削る場所を探すため」だけではありません。
むしろ、
「もうこれ以上削らなくてよい」ことを確認するため
でもあります。
何度も噛んでもらうのは、たくさん削りたいからではありません。
必要なところだけを少しずつ確認しながら整え、
必要なところで調整を止めるため
でもあるのです。
調整したところは、そのままで終わりではないことも
咬合調整で詰め物や被せ物の表面を削ったあと、材料によっては最後にもう一度、仕上げや研磨を行います。
たとえば、インプラントの奥歯に装着したジルコニア単冠を追跡した臨床研究では、8µmのシムストックで咬合を確認し、必要な部分を調整したあと、調整面を専用の研磨器具で仕上げています。
ですから、
「噛む」
「少し削る」
「また噛む」
「最後に別の器具で磨く」
という流れになることもあります。
調整して終わりではなく、
調整した表面を整えるところまでが治療
という場合もあるのです。
白い詰め物、もう固まったのになぜまた削る?仕上げ・研磨の理由
治療後に「この歯だけ先に当たる」と感じたら?
診療室では特に気にならなかったのに、
家に帰って食事をしたとき、
「この歯だけ先に当たるような気がする」
と気づくこともあります。
診療室で意識して何度か噛むときと、普段の食事では、顎の動き方や噛み方の条件も同じではありません。
また、局所麻酔を使った治療では、治療直後にまだ麻酔が残っている場合もあります。
こうした複数の条件が重なるため、日常生活へ戻ってから初めて違和感に気づくこともあります。
たとえば、
- いつ噛んでも、その歯だけ先に当たる感じがする
- 噛むと治療した歯だけが気になる
- 噛んだときに痛みが出る
- 違和感が続いている
- 時間とともに症状が強くなっている
といった場合には、自己判断で我慢し続けず、治療を受けた歯科医院へ相談してください。
ただし、
「少し気になる=必ず咬合が高い」
とも、
「必ず削る必要がある」
とも限りません。
実際の歯の状態や噛み合わせを確認したうえで判断します。
助手さんが分かった「何度も噛む」の正体
治療を見始めたころは、
「先生、何回噛んでもらうんだろう?」
と思っていました。
でも、
一回目はAの状態。
少し調整すればB。
さらに調整すればC。
と考えると、
同じことを繰り返していたのではない
と分かります。
一回調整するたびに状態が少し変わる。
だから、その都度確認していたのです。
そして、
「噛んでください」
で接触を記録し、
「開けてください」
でその記録を読み、
必要なら少し整えて、
また新しい状態を確認する。
歯科治療の中ではほんの数分の作業かもしれません。
でも、その
「噛んで」
「開けて」
の一回一回にも、ちゃんと役割がありました。
まとめ|「噛んで、開けて」は同じ確認の繰り返しではありません
治療中に何度も「噛んで、開けて」を繰り返す主な理由をまとめると、
- 現在の接触状態を確認する
- 必要な部分だけ少し調整する
- 調整後の新しい状態をもう一度確認する
- 調整後に新たに確認できる接触関係を見る
- 一度ついた咬合紙の印だけで判断しない
- 上下の印の対応も、ほかの所見と合わせて確認する
- 必要に応じて歯面の状態を整えてから確認する
- 咬合紙だけでなく、患者さん自身の感覚も参考にする
- 必要に応じて顎を動かしたときの接触も調べる
- 最後に「もうこれ以上調整しなくてよい」ことを確認する
ためです。

一度調整すれば、その前とは口の中の状態が少し変わります。
だからもう一度噛む。
また少し調整したら、また確認する。
歯医者で何度も聞こえる、
「噛んでください」
「はい、開けてください」
は、同じ確認を何度もやり直しているわけではありません。
少しずつ変わる噛み合わせを、その都度確かめながら、必要なところだけを必要な範囲で整え、そして「もう調整しなくてよい」と判断するための工程なのです。
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