2026年9月17日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
詰め物や被せ物の治療が終わりに近づくと、歯医者さんからこんな声が聞こえることがあります。
「はい、カチカチしてください」
薄い赤や青の紙を歯の間に挟んで、何度か噛んでもらいます。
ところが、それで終わりかと思ったら、
「今度は右へギリギリしてください」
「反対側にもお願いします」
と、今度は下あごを横へ動かしてもらうことがあります。
治療を横で見ている私は、最初のころ「さっきカチカチして噛み合わせを見たのに、どうして今度はギリギリするんだろう?」と思っていました。
実はこの2つ、同じ確認を繰り返しているわけではありません。
「カチカチ」は、噛み込んだ位置を見る。
「ギリギリ」は、そこからあごを動かした途中を見る。
大きく分けると、こんな違いがあります。
今回は、歯医者さんでよく聞く「カチカチしてください」と「ギリギリしてください」が、それぞれ何を確認するためのものなのかを、歯科助手の見学目線でまとめます。
「カチカチ」と「ギリギリ」は見ている瞬間が違います
まずは大きな違いからです。
「カチカチしてください」と言われたときは、口を少し開けて、閉じる動きを何度か繰り返します。
ここで主に確認しているのは、上下の歯がいつもの位置まで噛み込んだとき、どの歯がどこで接触するかです。
一方、「ギリギリしてください」と言われたときは、上下の歯を接触させた状態で、下あごを右や左、場合によっては前へ動かします。
こちらで見ているのは、噛み込んだ位置からあごを動かしていく途中で、歯の接触がどう変化するかです。
つまり、同じ噛み合わせの確認でも、「閉じきったところ」と「そこから動いていく途中」では見ている情報が違います。

「カチカチしてください」で見ているのは“噛み込んだ位置”
上下の歯が最もよく噛み合う位置を、歯科では咬頭嵌合位と呼びます。
少し難しい言葉なので、この記事では分かりやすく「噛み込んだ位置」と呼ぶことにします。
詰め物や被せ物を入れたあとにカチカチしてもらうと、歯科医師は、新しく治療した歯だけが先に当たっていないか、周囲の歯にも接触があるか、患者さん自身が「ここだけ高い」と感じていないかなどを確認します。
ただし、「カチカチ=あごが静止している」という意味ではありません。
実際には口を何度も開けたり閉じたりしています。
より正確には、開閉運動を繰り返しながら、閉じきったところの接触を確認していると考えると分かりやすいでしょう。

このとき使う薄い紙そのものの役割や、なぜ何度も噛んで確認するのかについては、噛み合わせの紙をカチカチ噛むのはなぜ?詰め物・被せ物の高さ確認で詳しく解説しています。
「ギリギリしてください」で見ているのは“動く途中”
では、カチカチで噛み合わせを確認したあと、なぜわざわざ横へ動かすのでしょうか。
私たちの下あごは、単純に上下へ開閉するだけではありません。
食事をするときには、上下だけでなく左右や前後にも動いています。
ただし、歯医者さんで行う「ギリギリ」は、普段の食事の動きをそのまま完全に再現しているわけではありません。
歯を接触させた状態で意図的に下あごを滑らせ、特定の方向へ動いたときの接触関係を確認するための動きです。
このとき歯科医師が見ているのは、単に「どこに色が付いたか」だけではありません。
噛み込んだ位置からあごが動くにつれて、
- どの歯の接触が残るのか
- どの歯が離れるのか
- 途中で別の場所が接触するのか
という接触の移り変わりを見ています。
右にギリギリ、左にもギリギリするのはなぜ?
横へ動かす確認では、
「右へお願いします」
「今度は左へ」
と両方向へ動かすことがあります。
右へ動かしたときと左へ動かしたときでは、歯の位置関係が変わるからです。
例えば下あごを右へ動かした場合、歯科では右側を作業側、反対側を非作業側などと呼びます。
患者さんがこの専門用語を覚える必要はありません。
大切なのは、右へ動かしたときと左へ動かしたときでは、接触する歯の組み合わせが同じとは限らないということです。
さらに、同じ右方向への動きでも、ほんの少し横へ動かしたときと、そこからさらに大きく横へ動かしたときでは、接触する歯が変わることがあります。
つまり歯科医師は、「右へ動いたか」「左へ動いたか」だけではなく、噛み込んだ位置から離れていくにつれて、接触がどう変化していくかも確認しています。

前へ「ギーッ」と動かすこともあります
左右だけでなく、
「そのまま下あごを前へ出してください」
と言われることもあります。
これは前方運動の確認です。
下あごを前へ動かしたとき、前歯がどのように接触するか、奥歯の接触がどのように変化するか、治療した歯が途中であごの動きを邪魔していないかなどを確認することがあります。
ただし、すべての患者さんに「前へ動かしたら奥歯は絶対に一切触れてはいけない」と同じルールを当てはめるわけではありません。
天然歯、被せ物、入れ歯、ナイトガードなどでは確認したい咬合の条件も異なりますし、その患者さんの歯並びや治療した場所、もともとの噛み合わせも関係します。
カチカチでは問題ないのに、ギリギリすると当たることがあります
ここが今回いちばんお伝えしたいところです。
例えば、新しく被せ物を入れたとします。
上下にまっすぐ閉じてカチカチしたときには、周囲の歯と一緒に自然に接触していて、患者さんも特に高く感じない。
ところが、そこから下あごを右へ滑らせると、被せ物の斜面が途中で接触して、引っ掛かるように感じることがあります。
つまり、
「まっすぐ噛める」と「横へ動かしても違和感なく動ける」は、同じ確認ではありません。
そのため、
カチカチ
↓
問題なさそう
↓
それでもギリギリを確認
という流れになることがあります。
被せ物を作る前に行う「噛み合わせの記録」と、完成した被せ物を口の中で実際に確認する工程は同じではありません。詳しくは、被せ物の高さを決める「噛み合わせの型」は何?咬合採得の役割と歯型との違いも参考にしてください。

「ギリギリしてください」は歯ぎしりの検査なの?
「ギリギリ」という言葉を聞くと、
「歯ぎしりがあると思われているのかな?」
と心配になる方もいるかもしれません。
でも、「ギリギリしてください」と言われた=歯ぎしりがあると診断されたという意味ではありません。
診療室で行うギリギリは、歯を接触させながら意図的にあごを動かし、その方向での歯の接触を確認するためのものです。
睡眠中などに起こるブラキシズムとは、目的も評価方法も別です。
つまり、歯医者さんでの「ギリギリ」は、歯ぎしりをそのまま再現しているのでも、普段の咀嚼運動を完全に再現しているのでもなく、決めた方向へあごを動かしたときの接触を確認していると考えると分かりやすいでしょう。
ギリギリして色が付いた歯は全部削るの?
ここも、とても大切です。
色が付いたところを全部削るわけではありません。
咬合紙を使うと、上下の歯が接触した場所に色が付きます。
しかし、
色が付いた=悪い接触
ではありません。
歯科医師は、
- どの歯に付いたのか
- 歯のどの部分に付いたのか
- 右へ動かしたときか、左へ動かしたときか
- 噛み込んだ位置からどれくらい動いたところか
- 周囲の歯はどう接触しているか
- 今回治療した歯か
- もともとの噛み合わせはどうだったか
- 患者さん自身はどのように感じているか
などを合わせて確認します。
側方運動では、犬歯が主にあごの動きを誘導する犬歯誘導もあれば、犬歯だけでなく複数の歯が一緒に接触するグループファンクションもあります。
そのため、「ギリギリして奥歯に色が付いたから異常」と単純には判断できません。

咬合調整は「印が付いたから削る」処置ではありません
咬合調整では、必要に応じて歯や詰め物・被せ物を実際に削ることがあります。
歯質を削った部分は元には戻らず、修復物を削った場合も必要に応じて追加修復や再調整が必要になります。
そのため、咬合紙に印が付いたという理由だけで機械的に削るのではなく、本当に調整が必要かを確認してから処置します。
治療中に何度も「カチカチ」「ギリギリ」を繰り返すのも、こうした確認を重ねるためです。
特に、原因がはっきりしない噛み合わせの違和感では、安易に歯を削るのではなく、ほかの原因も含めて考えることが大切です。詳しくは、顎関節症と非歯原性歯痛:咬合調整に飛びつかないための鑑別思考でも解説しています。
咬合紙の印が大きいほど「強く当たっている」?
咬合紙を見ると、
「一番大きく色が付いたところが、一番強く当たっているのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、咬合紙の印の大きさだけから、その場所にどれくらいの力がかかっているかを正確に読み取ることはできません。
咬合紙は特に、どこで歯が接触したかを見るために便利な道具です。
一方で、
- どの接触にどれくらい力がかかっているか
- どこが先に接触したか
- どれくらいの時間接触しているか
などは、紙の印だけでは十分に分からない情報があります。
研究でも、咬合紙のマークの大きさとコンピューターで測定した接触力は単純には一致しないことが報告されています。
必要に応じて、患者さん自身の感覚、視診、別の薄い接触確認材、デジタル咬合分析などを組み合わせて判断することがあります。
赤い紙と青い紙には意味がある?
治療中に、赤と青の咬合紙を使い分けている場面を見ることもあります。
例えば、一方の色で噛み込んだ位置を記録し、もう一方の色で横や前へ動かしたときの接触を記録する、といった使い方があります。
ただし、「赤=必ずカチカチ」「青=必ずギリギリ」という全国共通の決まりではありません。
大切なのは紙の色そのものではなく、どの動きで付いた印なのかを区別して評価することです。
「ここだけ先に当たる感じ」も大切な情報です
咬合紙の印だけでなく、患者さん自身の感覚も大切です。
治療後、
- 「右で噛むと高い感じがします」
- 「普通に閉じると平気だけど、横へ動かすと引っ掛かります」
- 「左は平気なのに、右へ動かしたときだけ当たります」
- 「前へあごを出すと治した歯が気になります」
と感じた場合は、そのまま歯科医師へ伝えてください。
患者さんからすると、
「専門家が紙を見ているんだから、自分の感覚は言わなくてもいいのかな」
と思うかもしれません。
でも、いつ・どの方向で・どこが気になるのかという情報は、噛み合わせを確認するうえで役立ちます。
「噛み合わせが変な感じです」でも十分ですが、
「カチカチでは平気ですが、右へ動かしたときだけ当たります」
と伝えられると、さらに状況が分かりやすくなります。
調整したあとは表面も整えます
噛み合わせを確認して、詰め物や被せ物を実際に少し調整した場合、それで終わりとは限りません。
材料や調整した場所に応じて、削った表面を仕上げたり研磨したりします。
特にコンポジットレジンでは、形や噛み合わせを調整したあとに表面を整える工程も大切です。詳しくは、白い詰め物、もう固まったのになぜまた削る?細いバーと仕上げ研磨の役割で紹介しています。
治療後「普通に噛めるけど横へ動かすと気になる」ときは?
詰め物や被せ物を入れたあと、
- 普通に口を閉じるだけなら気にならない
- 食事中に引っ掛かる感じがする
- 横へ動かしたときだけ一か所が当たる
- 前へあごを出したときに違和感がある
- 新しく治した歯だけ先に触れる感じがする
という状態が続く場合は、歯科医院へ相談してください。
自分で歯や被せ物を削ったり、硬い物を何度も噛んで「慣らそう」としたりする必要はありません。
ブランデンタルクリニックは、広島市中区・立町駅徒歩1分、立町中央ビル4階・エレベーターありです。
治療後の噛み合わせが気になる場合は、WEB・LINE・電話でご相談いただけます。
当日電話受付可で、急患同日可(当日の診療状況によります)です。痛みや被せ物の破損など急ぐ症状がある場合は、まずお電話で状況をお伝えください。
よくある質問
「ギリギリしてください」と言われたら、歯ぎしりがあるという意味ですか?
いいえ。
診察中の「ギリギリ」は、歯を接触させながらあごを動かし、その途中の咬合接触を確認するためのものです。
歯ぎしりがあると診断されたという意味ではありません。
横へうまく動かせません。失敗ですか?
失敗ではありません。
普段は意識して行わない動きなので、うまくできないこともあります。
無理に大きく動かそうとせず、「うまくできません」と伝えてください。歯科医師が動かし方を案内します。
ギリギリすると顎が痛いのですが、我慢して動かした方がいいですか?
我慢する必要はありません。
あごが痛い、引っ掛かる、動かしにくいなどがある場合は、無理に大きく動かさず、その場で歯科医師へ伝えてください。
確認する範囲や方法を調整することがあります。
ギリギリしたとき奥歯に色が付きました。噛み合わせが悪いのでしょうか?
色が付いただけでは判断できません。
どの歯に、どの方向の運動で、どの位置からどの程度動かしたときに接触したのかなどを全体として評価します。
赤い咬合紙と青い咬合紙では意味が違いますか?
色を使い分けて、異なる顎運動で付いた印を区別することはあります。
ただし、「赤は必ずカチカチ、青は必ずギリギリ」という全国共通の決まりではありません。
治療後、カチカチは平気なのに横へ動かすと気になります。相談した方がいいですか?
違和感が続く場合は相談してください。
「普通に噛むと平気ですが、右へ動かしたときだけ当たります」のように、気になる動きを具体的に伝えると確認しやすくなります。
まとめ|カチカチは「噛んだ位置」、ギリギリは「動く途中」
歯医者さんで言われる、
「カチカチしてください」
と、
「ギリギリしてください」
は、同じ噛み合わせを二度確認しているわけではありません。
カチカチでは、主に上下の歯が噛み込んだ位置の接触を確認します。
ギリギリでは、そこから下あごを横や前へ動かした途中で、歯の接触がどのように変化していくかを確認します。
しかも、同じ方向でも、ほんの少し動かしたところと、さらに大きく動かしたところでは、接触する歯が変わることがあります。
まっすぐ噛んだときには問題がなくても、横へ滑らせたときだけ新しく治療した歯が接触することもあります。
だからこそ、治療の最後に何種類かのあごの動きを確認することがあります。
そして、咬合紙に色が付いた場所を機械的に全部削っているわけでもありません。
歯の位置、接触した方向、動かした距離、周囲の歯、もともとの噛み合わせ、そして患者さん自身の感覚まで合わせて、必要な場合だけ調整します。
治療中に「カチカチ」「ギリギリ」と何度も言われたら、
「噛んだところと、そこから動いていく途中をそれぞれ見ているんだな」
と思っていただければ、あの不思議なやり取りの意味が少し分かりやすくなると思います。
参考文献
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