2026年10月08日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科助手です。
ある日の治療を見学していたときのことです。
患者さんの奥歯には、以前治療した白い詰め物が入っていました。その一部が欠けていて、先生が古い白い材料にバーを当てて削り始めました。
私はてっきり、
「今日はこの古いレジンを全部外して、新しく詰め直すんだろうな」
と思っていました。
ところが、先生は途中で削るのをやめました。
歯を見ると、古い白い詰め物がかなり残っています。
さらに少し不思議だったのが、そのあとです。
先生は、残した古いレジンの表面にももう一度バーを当てていました。
「残すのに、そこも削るんだ……?」
その後、表面を処理し、接着操作を行い、新しいコンポジットレジンを必要な部分へ追加します。青い光を当てて固め、形を整え、噛み合わせを確認し、最後に研磨して治療が終わりました。
そこで先生に聞いてみました。
「古いレジンって、全部取らなくてもいいんですか?」
答えは、状態によっては、全部外さず、問題のある部分だけを新しいレジンで修理することがあります、というものでした。
今回は、すでに何年か使われてきたコンポジットレジンの一部を残し、新しいレジンを足して直す「部分修理(repair)」について、治療の流れと、その裏で歯科医師が何を判断しているのかを詳しく見ていきます。

古い白い詰め物に問題があっても、「全部交換」だけが選択肢ではありません
古い白い詰め物に欠けや段差、着色などが見つかると、
「もう古いから全部やり直すんだろう」
と思う方もいるかもしれません。
でも、修復物への対応はそんなに単純ではありません。
2023年に改訂されたFDIの修復物評価基準では、状態に応じて、経過観察、表面や形態を整える処置、小さな部分の封鎖、部分修理、全部交換といった異なる対応が関連づけられています。
FDIの評価では、score 1~3はおおむね臨床的に許容できる状態です。score 4は問題があり、部分修理が検討される状態、score 5は修理だけでは対応しにくく、交換が必要となる状態として整理されています。
ただし、score 4だから必ずその場で修理する、という意味ではありません。経過観察を含め、患者さんのう蝕リスク、歯と修復物の状態、予後、全身状態なども合わせて判断します。
つまり、「異常があるか、ないか」だけではなく、「どの程度の異常なのか」「どこまで介入する必要があるのか」を考えるということです。
古い白い詰め物を見つけたからといって、「全部取る」と最初から決まっているわけではありません。

部分修理は「とりあえず欠けたところへ足す」処置ではありません
今回の部分修理は、
「少し欠けているから、とりあえず白い材料を足しておこう」
という意味ではありません。
FDI World Dental Federationは、修復物の部分修理を、臨床的に受け入れられない状態になった修復物へ材料を追加し、より低侵襲に臨床的に受け入れられる状態へ戻す方法として位置づけています。
修理を行う前には、残っている修復物がまだ使えるのか、歯そのものに問題がないのか、欠けた原因がどこにあるのか、本当に部分修理で対応してよいのかを判断する必要があります。
つまり、部分修理で一番大切なのは、新しいレジンを足すことではなく、古いレジンのどこまでを残してよいかを見極めることです。
この判断ができて、初めて「部分修理」という治療が成り立ちます。
新しい虫歯にレジンを詰める治療とは、出発点が違います
小さな虫歯に初めてコンポジットレジンを詰める治療では、虫歯を取り除いた歯へ接着処理をして、新しいレジンで形を回復します。
一方、今回の部分修理では、治療開始時点ですでに古いレジンがあります。
しかも、不良部分を削っていくと、一つの小さな修理範囲の中に、古いコンポジットレジン、エナメル質、象牙質が同時に見えてくることがあります。
そこへ、新しいコンポジットレジンを追加します。
つまり部分修理では、歯と新しいレジンを接着するだけではなく、長期間使われてきた古いレジンと新しいレジンをどう接着するかという問題も出てきます。
これが、新しい虫歯を最初からレジンで治療する場合との大きな違いです。
まず見るのは「どこが欠けたか」だけではありません
先生が最初に確認しているのは、欠けている一点だけではありません。
修復物全体を見ます。
欠損は局所的なのか。それとも、修復物のあちこちに問題があるのか。
残っているレジンは安定しているか。修復物自体が動いていないか。辺縁には大きな段差や隙間がないか。周囲の歯質にう蝕がないか。歯そのものに亀裂や破折がないか。残っている歯質は十分か。歯と歯の間の接触はどうか。噛んだときに強い力が集中していないか。患者さん自身のう蝕リスクはどうか。

こうした情報を重ねて、「この修復物は部分的に残す価値があるのか」を判断します。
「なぜ壊れたのか」を見ずに、欠けた場所だけ埋めても十分ではありません
例えば、奥歯のレジンが一部分だけ欠けていたとします。
欠けた部分に新しいレジンを足せば、形は戻せます。
でも、なぜその場所が欠けたのでしょうか。
強い咬合接触があったのかもしれません。歯ぎしりや食いしばりが関係しているかもしれません。もともとレジンが薄い場所だったのかもしれません。
残っている歯質の形や修復物の大きさが関係している可能性もあります。経年的な摩耗や材料の変化が背景にあるかもしれません。新たなう蝕が関係している場合もあります。
原因を確認せず、同じ場所へただ新しいレジンを足せば、再びそこへ強い力が集中する可能性があります。
部分修理では、「壊れた場所」だけでなく「壊れた理由」も見ることが重要です。
どんな場合に部分修理が候補になるのでしょうか
典型的なのは、問題が局所的で、残っている修復物や歯質がまだ安定している場合です。
例えば、レジンの一部分だけが欠けた場合、局所的な破折がある場合、辺縁の一部分だけに不良がある場合、一部が摩耗して形が不足している場合、局所的な形態不良を修正したい場合などです。
前歯などで一部分の形や色調を修正したい場合にも、状態によっては部分修理が検討されます。
また、修復物周囲に問題があっても、その範囲が限られ、悪い部分だけへ十分にアクセスできる場合には部分修理が検討されることがあります。
ただし、「何mm以下なら修理できる」と単純に決まるわけではありません。
修復物の位置、問題の範囲、残存歯質、う蝕、接着環境、噛み合わせなどを総合して判断します。
逆に、全部交換した方がよい場合もあります
部分修理は、古い修復物を何でも残す方法ではありません。
修復物全体に複数の問題がある場合、大部分が破折している場合、残っている修復物自体が動いている場合、広範囲にう蝕がある場合、古いレジンを支えている歯質が十分でない場合、歯そのものに大きな亀裂や破折がある場合などには、全部交換(replacement)が必要になることがあります。
また、修理したい部分へ十分にアクセスできない場合や、唾液や出血を避けられず、安定した接着操作が難しい場合にも、部分修理が適切とは限りません。
こうした状況では、部分修理へこだわるより、全部交換した方が合理的なことがあります。
歯を削らないことそのものが目的なのではありません。
必要な部分はきちんと処置し、不必要な部分まで治療範囲を広げない。
そのバランスが大切です。
「茶色い線がある=虫歯」でもありません
古い白い詰め物の境目に、茶色や黒っぽい線が見えることがあります。
患者さんからすると、
「詰め物の下にまた虫歯ができたのでは?」
と気になるところだと思います。
しかし、修復物辺縁の着色と、実際のう蝕は同じではありません。
FDIの評価基準でも、辺縁着色と修復物周囲のう蝕は別の評価項目として扱われています。
歯科では、色がついているだけなのか、段差なのか、隙間なのか、表面が粗くなっているのか、それとも実際に歯質へう蝕が生じているのかを分けて考えます。

つまり、「黒いから修理」でも、「黒いから全部交換」でもありません。
まず何が起きているのかを診断します。
X線検査も「古い詰め物だから毎回撮る」わけではありません
修復物を確認するときは、まず口の中を実際に観察します。
必要に応じて表面を清掃し、乾燥させて確認したり、辺縁の状態を器具で確かめたりします。
そのうえで、修復物周囲のう蝕、隣接面の状態、見た目だけでは分からない歯質の変化などを確認するために画像診断が必要と判断されれば、X線写真も参考にします。
つまり、修復物が古いという理由だけで一律に撮影するのではなく、診断上必要かどうかで判断するということです。
実際の部分修理は、どんな流れで進むのでしょうか
大まかな流れとしては、
診査 → 清掃 → 必要に応じて麻酔 → 防湿 → 不良部分の除去 → 残す古いレジンの表面処理 → 露出した歯質と古いレジンへの接着処理 → 新しいレジンの追加 → 光重合 → 形態修正 → 噛み合わせ確認 → 研磨
という順序になります。

もちろん、すべての症例が全く同じ手順になるわけではありません。
使用するコンポジットレジン、接着システム、修理部位、露出している歯質によって細部は変わります。
でも、古いレジンの上へそのまま新しいレジンを盛るだけではないということは共通しています。
接着する前の「防湿」も大切な工程です
レジン修復では、接着操作を行う場所へ唾液などが入りにくい環境を作ることが重要です。
部分修理でも同じで、せっかく古いレジンや歯質の表面を整えても、接着操作の途中で唾液などによる汚染が起きれば、接着に不利になる可能性があります。
そのため、修理する場所や歯の位置、歯ぐきとの関係などに合わせて、適切な防湿を行います。
ただし、防湿方法はすべての症例で同じではありません。
大切なのは、接着操作を安定して行える環境を確保することです。
先生が古いレジンを全部削らず、途中で止めた理由
この日の治療で、私が一番気になった場面でした。
先生は古い白い詰め物を削り始めたのに、途中で止めました。
最初は、
「古いレジンを取り残したのかな?」
とも見えます。
でも実際には逆でした。
残してもよいと判断した部分だから、そこで削るのを止めたのです。
全部交換する場合には、古いレジンを歯質との境界まで追いながら撤去していきます。
ところが、歯と色の近いコンポジットレジンだけを完全に選択して取り除き、健全な歯質を一切削らないことは簡単ではありません。
修復物を交換するたびに窩洞が大きくなる可能性があり、結果として次の治療がさらに大きくなることがあります。
そのため、まだ安定している修復物まで本当に全部外す必要があるのかを考えることが重要になります。
だからといって「古いレジンは残せるだけ残す」のでもありません
ここは非常に大切です。
歯質保存が重要だからといって、
「削る量が少ない方が必ず正しい」
というわけではありません。
古いレジンの下や周囲にう蝕が広がっていれば、必要な範囲まで処置しなければなりません。
残っているレジンが十分に支持されていなければ、その部分を土台として修理しても安定しない可能性があります。
つまり、部分修理の目的は、削らないことではなく、必要以上に削らないことです。
残したレジンにも、もう一度バーを当てていたのはなぜ?
ここで、もう一つ不思議な場面がありました。
先生は、
「この部分は残す」
と判断した古いレジンの表面にも、バーを当てていました。
残すなら、触らなくてもよさそうに見えます。
でも、この「削る」には別の目的があります。
一つ目は、悪くなっている部分を取り除くための切削。
もう一つは、残す古いレジンを、新しいレジンと接着しやすい表面へ整えるための切削。
です。
同じバーを使っているように見えても、「取るために削る」のと、「残して使うために表面を作る」のでは、意味が違います。

何年も口の中にあったレジンは、新品のレジンと同じ状態ではありません
新しくコンポジットレジンを充填するときは、材料を積み重ねながら光で固めていきます。
しかし、何年も前に重合され、長期間口の中で使われてきたレジンは状態が違います。
水分、唾液、冷たいものと温かいものによる温度変化、噛む力、摩耗、食事由来の酸など、さまざまな環境に長期間さらされています。

そのため、古いレジンの上へ新品のレジンを載せれば、そのまま新品同士のように接着するとは考えません。
長期間保存したり人工的に老化させたりしたコンポジットレジンでは、修理時の接着強さが影響を受けることも研究されています。
だからこそ、古いレジン表面へあらためて処理を行います。
古いレジン表面を少し粗くするのは、新しい接着面を作るためです
古いコンポジットレジンの修理では、表面を機械的に処理する方法が多く研究されています。
例えば、ダイヤモンドバーによる粗面化、アルミナ粒子を用いたエアーアブレーション、シリカコーティングなどです。
76研究を整理した2024年のスコーピングレビューでは、機械的処理ではアルミナブラスト、シリカコーティング、ダイヤモンドバーなどが検討されていました。
また、接着材、ユニバーサル接着材、シランなどを用いた化学的処理も検討され、機械的処理と化学的処理を組み合わせる方が、短期・長期の人工老化条件とも修理時の接着強さが高い傾向が示されています。

ここで大切なのは、古いレジンを削っているからといって、必ずしも「古いレジンを除去している」わけではないということです。
2022年のネットワークメタ解析では、どんな処理が強かったのでしょうか
2022年には、長期老化処理を受けたメタクリレート系コンポジットレジンの修理について、26研究をまとめたネットワークメタ解析が報告されています。
その結果、ダイヤモンドバーで粗面化したあとに、シランと接着システムを組み合わせた条件で高い接着強さが示されました。
セルフエッチ型とトータルエッチ型の接着手順の間には、明確な差は示されませんでした。
ただし、この26研究は実験室研究です。

ここはとても重要です。
試験片で測定した接着強さが高いことと、患者さんの口の中で何年間も脱離・破折せず使えることは同じ意味ではありません。
古いレジンだけでなく、歯質も同時に露出していることがあります
部分修理では、不良部分を削った結果、古いレジンの横にエナメル質が見え、さらに別の場所には象牙質が見えている、ということがあります。
そこへ新しいコンポジットレジンを接着します。
つまり、一つの修理範囲の中で、
古いレジン + エナメル質 + 象牙質 + 新しいレジン
という複数の材料・組織が関わることがあります。

そのため、「レジン同士だけを接着する治療」と考えると、実際の処置を単純化しすぎてしまいます。
歯と古いレジンでは、必要な表面処理が同じとは限りません
例えば、エナメル質ではリン酸による酸処理が重要な役割を持ちます。
リン酸処理によってエナメル質表面へ微細な凹凸を作り、レジンが接着しやすい状態を作ります。
一方、何年も前に硬化したコンポジットレジンでは、リン酸だけで新品のような接着面ができるわけではありません。
そのため古いレジン側では、機械的な粗面化、シラン、接着材などを、使用材料や接着システムに応じて組み合わせます。
つまり、同じ修理窩洞に見えても、「歯」と「古いレジン」は同じ表面ではないのです。
シランを使えば必ず部分修理が長持ちするのでしょうか
実験室研究では、シランを使うことでコンポジットレジン修理時の接着強さが向上するという報告があります。
その一方で、臨床成績を見ると話は少し複雑です。
2022年のUgurluらの後ろ向き研究では、40人の患者さんにある80本の臼歯部Ⅱ級コンポジットレジン修復を対象に、シランを使用した部分修理と、シランを使用せずユニバーサル接着材で修理した群を比較しました。
2年間の追跡では、両群とも失敗は0本で、シランの有無による有意差は認められませんでした。
これは、「シランは不要」と証明した研究ではありません。
症例数も限られ、後ろ向き研究で、観察期間も2年です。

一方で、実験室で接着強さが上がったからといって、それがそのまま臨床的な生存率の差になるとは限らないということを考える材料にはなります。
修理方法には、まだ完全に統一された一つの「正解手順」があるわけではありません
古いコンポジットレジンの修理では、どのように表面を粗くするか、シランを使うか、どの接着材を使うか、古い材料の種類が分かっているか、歯質がどれだけ露出しているかなどによって手順が変わります。
2026年に発表された、複数の系統的レビューをさらにまとめたアンブレラレビューでも、修復物の部分修理自体は臨床的に合理的な保守的選択肢として評価されている一方で、標準化された意思決定の方法や修理手順の不足が課題として挙げられています。
ですから、
「この薬をこの順番で塗れば、すべての古いレジンが修理できる」
という治療ではありません。
昔入れたレジンの商品名が分からなくても、即「修理不能」ではありません
何年も前に治療されたレジンなら、
「どこのメーカーの、何という材料なのか分からない」
ことは珍しくありません。
材料が分かれば、表面処理を選ぶうえで参考になることはあります。
しかし、元のレジンの商品名が分からない=部分修理できないとは限りません。
現在残っている修復物の状態、修理部位、接着材料、使用する接着システムなどを考えながら治療方法を決めます。
接着処理が終わったら、新しいレジンを必要な場所だけ足します
古いレジンと露出した歯質へ必要な処理を行ったら、新しいコンポジットレジンを追加します。
修理範囲や深さによっては、レジンを少しずつ加えながら光を当てて硬化させます。
ここからは、通常のレジン充填と似た工程になります。
ただし今回の目的は、修復物全部を新品へ置き換えることではなく、不足している部分だけを回復することです。
新しいレジンを足しただけでは終わりません
レジンが硬くなっても、まだ完成ではありません。
奥歯には山や溝があります。
歯と歯の間には適切な接触が必要です。
前歯なら、輪郭や長さ、見た目も重要になります。
追加したレジンが出っ張っていれば、舌で触ったときに引っかかることがあります。
歯と歯の間の形が悪ければ、食べ物が詰まりやすくなることがあります。
そのため、光重合のあとに形態を整えます。
必要な症例では、通常のレジン充填と同じようにマトリックスやウェッジなどを使って形を回復することもあります。
最後に「噛んで、開けて」と確認する理由
部分修理した場所が奥歯なら、噛み合わせも確認します。
ここには二つの意味があります。
一つは、そもそも古いレジンが欠けた原因として、強い咬合が関係していなかったかを見ること。
もう一つは、新しく足したレジンが、今度は高く仕上がっていないか確認すること。
せっかく修理しても、その部分だけへ強い力が集中すれば、新たな破折の原因になる可能性があります。
つまり咬合確認は、部分修理前の原因分析と、部分修理後の仕上げの両方に関係します。
最後の研磨にも、部分修理ならではの意味があります
部分修理後には、古いレジンと新しいレジンの境目、新しいレジンと歯の境目、場合によっては古いレジンと歯の境目という複数の界面が存在します。
そこに大きな段差や粗い面が残らないように仕上げます。
治療を見ていると、
「光を当てて固まったから終わり」
に見えがちですが、その後に形態、咬合、表面性状を整えるところまでが修復治療です。
前歯では「接着できるか」だけでなく、「色が合うか」も問題になります
部分修理が技術的に可能でも、それが最もよい治療とは限りません。
特に前歯です。
何年も使われてきた古いレジンは、色調や透明感が変化していることがあります。
そこへ新品のレジンを追加すると、古い部分と新しい部分の境界が色として見える場合があります。
奥歯なら機能的に問題がなくても、前歯では患者さんが気になるかもしれません。
そのため前歯では、接着可能かどうかだけではなく、審美的に自然に仕上げられるかも治療方法を決める材料になります。
部分修理の予定でも、途中から全部交換へ変わることがあります
治療前には、
「問題はここだけだろう」
と見えていたケースでも、不良部分を除去すると新しい情報が見えることがあります。
予想よりう蝕が広かった。
古いレジンの内部支持が弱かった。
歯に亀裂があった。
残存歯質が想定より少なかった。
こうした、処置前には把握できなかった内部の状態が、不良部分を除去したことで初めて確認できる場合があります。
その結果、部分修理から全部交換へ方針を変更することがあります。
部分修理は、「何があっても古いレジンを残す」治療ではありません。
では、部分修理と全部交換では、どちらが長持ちするのでしょうか
患者さんとしては、
「全部新品にした方が長持ちするのでは?」
と思うかもしれません。
この疑問については、長期臨床研究があります。
2015年に報告されたFernándezらの臨床試験では、28人・50本のコンポジットレジン修復が、部分修理25本と全部交換25本へ無作為に振り分けられました。
10年間の追跡では、辺縁適合、二次う蝕、色調などについて、両群はおおむね似た経過を示しました。

これは、適切に症例を選んだ部分修理は、数か月だけの応急処置とは限らないことを示す重要な臨床データです。
12年研究もありますが、コンポジットレジンだけの研究ではありません
さらに12年間追跡した研究もあります。
ただし、この研究は少し注意して読む必要があります。
対象は34人・167修復物で、その内訳は、コンポジットレジン67本、アマルガム100本でした。
部分修理群35本のうち、コンポジットレジンは15本。
全部交換群43本のうち、コンポジットレジンは22本でした。
このほか、経過観察された2つの対照群も含まれています。
12年後、多くの臨床評価項目では各群に大きな差が認められませんでした。
したがって、「コンポジットレジン167本を12年間比較して、部分修理と交換が同じだった」と読むのは正確ではありません。
コンポジットレジンとアマルガムを含む長期臨床研究として理解する必要があります。
2022年のメタ解析では、部分修理と全部交換に明確な差は示されませんでした
2022年の系統的レビュー・メタ解析では、部分修理と全部交換を直接比較できる臨床研究が検討されています。
1,224件の候補から13研究が全文評価され、最終的にメタ解析へ入った研究は3本でした。
部分修理と全部交換の失敗リスクは、
RR 1.21
95%CI 0.51~2.83
で、明確な差は認められませんでした。
ただし、研究のバイアスリスクは高く、エビデンスの確実性はvery low(非常に低い)と評価されています。

つまり、
「部分修理と全部交換は同じ成績だと証明された」
という意味ではありません。
むしろ、現時点では部分修理の方が明らかに悪いとは示されていないものの、直接比較できる質の高い臨床研究がまだ少ないという読み方が適切です。
2026年のアンブレラレビューでは、これまでの研究をどう評価したのでしょうか
2026年には、コンポジットレジンの部分修理について、複数の系統的レビューをさらにまとめたアンブレラレビューが発表されました。
対象となった系統的レビューは7本です。
そこでも、部分修理と全部交換の失敗率について明確な差は示されず、部分修理は適切に症例を選んだ場合の保守的な選択肢として位置づけられています。
一方で、エビデンスの確実性には限界があり、標準化された意思決定の方法、患者さん自身が評価した結果、費用対効果などを含むさらなる研究が必要とされています。
ここから分かるのは、「部分修理は合理的な選択肢である」ことと、「部分修理の方が全部交換より優れていると証明された」ことは別ということです。
一般歯科診療での修理は、どのくらい持っているのでしょうか
大学の長期臨床試験だけではなく、一般診療に近いデータもあります。
2012年の実臨床研究では、もともと治療された1,949修復物のうち失敗した修復物から、246本がコンポジットレジンを使って部分修理されました。
重要なのは、246本すべてが元々コンポジットレジンだったわけではないことです。
内訳は、
アマルガム133本
コンポジットレジン113本
でした。
平均4.8年後、151本、つまり61%が追加介入なしで使用されていました。
4年間の年間失敗率は、部分修理されたアマルガムで9.3%、部分修理されたコンポジットレジンで5.7%でした。

したがって、
「コンポジットレジン246本の61%が4.8年間残った」
と書くのは正しくありません。
ただし、一般診療に近い環境で部分修理が実際に使われ、その後も一定期間機能していることを示すデータとして参考になります。
「一度修理したら、その修復物は失敗した」と数えるかでも数字が変わります
これは部分修理の研究を読むときに、とても面白いところです。
例えば、10年間一度も追加処置を受けなかった修復物。
一方で、7年目に一部だけ修理し、その後さらに長く使えた修復物。
研究上は、
「一度でも修理したら失敗」
と定義することもできます。
でも患者さんから見れば、
「部分修理をしながら、その修復物を使い続けられた」
とも考えられます。
2020年のKanzowらの後ろ向き研究では、3,239人に入っていた8,542本の直接コンポジットレジン修復が解析されました。
10年時点で、追加介入なしの「成功(success)」は68.3%。
最初の部分修理を許容し、修復物を使い続けられた「生存(survival)」として評価すると77.3%。
複数回の部分修理を許容すると80.4%でした。

この数字は、部分修理を「失敗」と定義するか、「修復物を使い続けるための追加介入」と考えるかで、修復物の寿命の見え方が変わることをよく示しています。
部分修理した修復物と、全部交換した修復物を比べるとどうでしょうか
同じ研究では、部分修理された616修復物と、全部交換された264修復物も解析されています。
10年後の「追加介入なし」という成功は、部分修理群43.4%、全部交換群48.6%でした。
一方、その後の部分修理も「修復物が機能している」として扱うと、複数回の部分修理を許容した10年生存率は、
部分修理群 74.8%
全部交換群 74.1%
とかなり近い値になっています。
ただし、これは無作為化比較試験ではなく後ろ向き研究です。
もともと部分修理された歯と全部交換された歯では、治療前の条件が同じとは限りません。

それでも、修復物の管理は「問題が起きたら毎回全交換」という一方向だけではないという考え方を理解するうえでは興味深い結果です。
一度部分修理したレジンを、もう一度修理することもあります
部分修理を行ったあと、その修復物へ別の局所的な問題が起きた場合、
「前に一度修理しているから、次は必ず全部交換」
と決まっているわけではありません。
その時点で、残っている修復物、歯質、う蝕、破折、噛み合わせ、接着可能な範囲をもう一度評価します。
症例によっては再び部分修理が選択されることもあります。
ただし、何度でも無限に足し続けられるという意味ではありません。
修理を重ねるたびに歯と修復物の状態は変わります。
毎回、その時点で部分修理が合理的かを判断します。
「部分修理は治療を先送りしているだけ」なのでしょうか
「どうせいつか全部やり直すなら、最初から全部新しくした方がいいのでは?」
と思う方もいるかもしれません。
確かに、将来全部交換が必要になる可能性はあります。
でも、修復治療では、治療を大きくするほど残る歯質が少なくなる場合があります。
今の時点で全部交換する必要がない修復物まで大きく削るより、使える部分を残しながら修復物の機能を延長する。
これは単なる「問題の先送り」とは少し違います。
より大きな治療へ進む時期を遅らせるという考え方です。
ただし、部分修理を選べば必ず天然歯の寿命が何年延びる、とまで断定できるデータがあるわけではありません。
「部分修理=安い簡易治療」とも限りません
部分修理という言葉だけを聞くと、
「少し足すだけだから、全部交換よりずっと簡単で安いのでは?」
と思えるかもしれません。
でも実際には、診査、清掃、防湿、不良部の除去、古いレジンの表面処理、歯質への接着処理、新しいレジンの充填、光重合、形態修正、咬合確認、研磨まで必要です。
さらに2021年の長期費用研究では、部分修理616本と全部交換264本が比較されました。
全部交換は初期治療費が高かったものの、年間化した治療費中央値は、
部分修理 47.58ユーロ
全部交換 50.64ユーロ
で、有意差は認められませんでした。
ただし、これはドイツの大学病院の診療データを用いた研究です。日本の保険診療における窓口負担や診療報酬を比較した研究ではありません。
したがって、この金額を日本の治療費へそのまま当てはめることはできません。

ここで分かるのは、低侵襲=必ず安いとは限らないということです。
低侵襲という言葉は、治療範囲を必要以上に広げないという意味で考えた方が分かりやすいと思います。
「患者さんの86%が部分修理を希望した」という意味でもありません
2024年の系統的レビューでは、部分修理に対する患者受容は高いとまとめられています。
統合された割合は86.3%でした。
ただし、この数字には重要な注意点があります。
このレビューでは、患者さん本人へ直接、部分修理を希望するか尋ねた研究は含まれていませんでした。
主として歯科医師や歯学生側から、
「患者さんが部分修理を受け入れている、あるいは好んでいる」
と回答した調査データから計算された数字です。
したがって、
「患者さんの86%が部分修理を希望した」
と書くのは正確ではありません。
数字を見るときには、誰に質問した数字なのかまで確認する必要があります。
部分修理を知っている歯科医師は多くても、実際に行われる割合はそれほど高くありません
2018年の系統的レビュー・メタ解析では、7,228人の歯科医師、276の歯科大学、30,172修復物のデータがまとめられました。
部分修理を行うと回答した歯科医師の割合は71.5%。
部分修理を教えている歯科大学は83.3%。
一方、実際に問題が起きた修復物のうち部分修理された割合は31.3%でした。
つまり、「部分修理という治療を知っている」ことと、「実際の臨床で部分修理を選ぶ」ことには差があるということです。
その背景には、症例そのものの違いだけでなく、診療環境、教育、費用や制度など、さまざまな要因が関係します。
部分修理後も「新品にリセットされた」とは考えません
部分修理をした歯には、もともとの古いレジン、新しく追加したレジン、歯質、そしてそれぞれの境界があります。
つまり、全部を新品へ置き換えた状態とは違います。
その後も、新しい欠けがないか、辺縁に変化がないか、周囲にう蝕がないか、噛み合わせが変化していないか、表面が粗くなっていないかなどを確認していきます。
部分修理は、
「治療したからもう二度と見なくてよい」
という処置ではありません。
こんな変化が出たら、修理した場所も一度確認してもらいましょう
以前はなかった段差を舌で感じる。
フロスが急に引っかかる、切れる。
食べ物が詰まりやすくなった。
白い詰め物の一部が欠けた。
噛んだときに違和感や痛みが出てきた。
冷たいものでしみる。
詰め物が動いているように感じる。
こうした変化があれば、一度歯科医院で確認してもらった方がよいでしょう。
ただし症状だけで、
「これは部分修理」
「これは全部交換」
と判断することはできません。
実際の修復物と歯の状態を見て決めます。
歯科助手として一番印象に残ったのは、「何を削らなかったか」でした
普段、治療を見学していると、先生が何を削ったか、何を塗ったか、何を詰めたか、どの器具を使ったかという「何をしたか」に目が行きます。
でも今回の治療で印象に残ったのは、先生が何を削らなかったかでした。
最初は、
「古いレジンが残っているけど大丈夫なのかな」
と思いました。
でも、それは取り残したのではありませんでした。
残っている修復物を診査して、まだ使えると判断した部分を、意図的に残していたのです。
一方で、悪い部分まで無理に残すわけでもありません。
必要なところは削る。
残せるところは残す。
残した古いレジンにも、新しいレジンを接着するための処理をする。
見た目には小さな修理でも、その前には多くの判断と工程があることが分かりました。
まとめ 「全部外さなかった」のではなく、残せる部分と直す部分を分けていました
古い白い詰め物に欠けや辺縁の問題が見つかったとき、必ずすべてを撤去して作り直すわけではありません。
問題が局所的で、残っているコンポジットレジンや歯質がまだ安定していると判断できる場合には、不良部分だけを処理し、新しいレジンを追加する部分修理が選ばれることがあります。
ただし、部分修理は、
「削らない方がよいから古いレジンを残す」
治療ではありません。
修復物全体を診査し、欠損、う蝕、残存歯質、亀裂、噛み合わせ、防湿、接着条件などを考え、部分修理が合理的かどうかを判断します。
また、何年も使われてきた古いレジンへ、新しいレジンをそのまま載せるわけでもありません。
古いレジン表面を必要に応じて機械的に処理し、使用する接着システムに合わせた化学的処理を行い、新しいレジンを接着できる環境を作ります。
長期臨床研究では、適切に選択された部分修理が単なる短期間の応急処置ではないことが示されています。
一方で、部分修理が全部交換より長持ちすると断言できるほど強い臨床エビデンスがあるわけではありません。
その歯、その修復物、その時点での状態に合わせて選ぶ治療です。
この日の先生は、古い白い詰め物を「全部外さなかった」のではありませんでした。
残せる部分と、直す必要がある部分を分けていたのです。
修復治療の目的は、古い材料をすべて新品へ交換することだけではありません。
歯と修復物を診査し、まだ使えるものを利用しながら、必要な場所へ必要なだけ介入する。
その選択肢の一つが、コンポジットレジンの部分修理です。
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