「矯正には行くつもり」だけでは足りない?12〜18歳168人を1年間追跡|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

〒730-0032 広島県広島市中区立町2-1 立町中央ビル4F

082-258-6411

ネット予約はこちらから
受付

「矯正には行くつもり」だけでは足りない?12〜18歳168人を1年間追跡

「矯正には行くつもり」だけでは足りない?12〜18歳168人を1年間追跡|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

チャットボット チャットボット

2026年10月08日

「矯正には行くつもり」だけでは足りない?12〜18歳168人を1年間追跡

(受付さんの備忘録)

はじめに

矯正治療の次回予約をお取りしていると、

「その日なら大丈夫です」
「次もちゃんと来ます」
「忘れないようにしておきます」

とお話しくださる患者さんや保護者の方は少なくありません。

もちろん、その言葉を疑っているわけではありません。予約を取ったその時点では、本当に「その日に行こう」と思っている方がほとんどだと思います。

ただ、矯正治療は1回や2回で終わる治療ではありません。

数週間後の予定を取り、その次も、そのまた次も通う。学校の予定が変わることもあれば、部活動や試験、塾、保護者の仕事、送迎、移動時間、体調など、予約を取った時点では分からなかった事情が後から重なることもあります。

では、

「予約へ行こうと思っていること」と、「実際に長期間、予約どおり通い続けられること」は同じなのでしょうか。

2026年10月6日、European Journal of Orthodontics に、この問いを考えるうえで興味深い研究が掲載されました。

12〜18歳で固定式矯正治療を始める168人とその保護者を1年間追跡し、治療開始時の「予約へ行こうという意思」と、その後の実際の予約状況との関係を調べた研究です。

結果は少し意外なものでした。

研究開始時の「予約へ行こうという意思」そのものは、実際の予約状況を有意には予測しませんでした。

一方で、「自分にはその予約へ実際に行けそうだ」と感じる程度を表すPBC(perceived behavioral control:知覚された行動コントロール)は、予約へ行こうという意思にも、予定どおり受診できなかった予約の割合にも関連していました。

今回は受付の立場から、この研究を詳しく読んでみたいと思います。

12〜18歳の矯正患者168人と保護者を1年間追いかけた

今回の研究は、カナダ・アルバータ大学の矯正歯科クリニックで行われた、前向きに患者さんを追跡した単施設研究です。

対象となったのは、上下顎に固定式のマルチブラケット装置を用いる矯正治療を開始する12〜18歳の患者さんと、その保護者でした。

研究は2017年8月から2019年11月に行われました。つまり、「2026年に168人を治療して1年間追跡した」という意味ではありません。

2017〜2019年に行われた研究の結果が、2026年に公表されたものです。

対象となったのは168組。

患者さんの平均年齢は14歳、保護者は平均44歳でした。患者さんの54%が女性で、保護者の約80%は母親でした。

この研究が面白いのは、単純に、

「何人が予約を休んだか」

だけを数えたわけではないことです。

治療開始前には、患者さんと保護者の両方に、予約へ行くことについてどう考えているかを質問しました。

一方で、実際に予約を守ったかどうかについては、電子予約記録を使って、その後1年間を追跡しています。

つまり、

「自分ではどう思っているか」

と、

「実際にはどう行動したか」

を分けて見た研究です。

ここが今回の大きなポイントです。

「予約を逃した」は無断キャンセルだけではありません

この研究を読むうえで、まず押さえておきたいのが「予定どおり受診できなかった予約」の定義です。

原著では“missed appointment”という言葉が使われています。

今回、これに含まれたのは、

  • 来院しなかった
  • 当日にキャンセルした
  • 遅刻によってその日の診療ができず、予約変更になった

場合です。

ですから、

「57%が矯正の予約をすっぽかした」

と読むのは正しくありません。

無断で来なかった場合だけでなく、当日になって予定が変わった場合や、遅刻によってその日の診療ができなかった場合も含まれています。

受付から見ても、この違いは大きいです。

たとえば、

「予定そのものを忘れていた」

場合と、

「学校から急いで向かったけれど間に合わなかった」

場合では、背景はまったく同じではありません。

今回の研究は、そうした一人ひとりの理由を細かく分けて、「何が原因だったか」を特定する研究ではありません。

ですから、この記事でも、

「予約を守れなかった理由は○○だった」

と一つの原因に決めつけないようにしたいと思います。

著者報告では、1年間すべての予約を守ったのは43%でした

論文では、1年間の予約状況について、

43%がすべての予約を守った

一方で、

57%は少なくとも1回、予定どおり受診できなかった

と報告されています。

表3には、

  • 0回:43%
  • 1回:32%
  • 2回:11%
  • 3回以上:14%

と掲載されています。

ここでも注意が必要です。

「57%が予約を守れなかった」

とだけ書くと、

「半分以上の人が何度も予約を休んでいた」

ようにも見えます。

でも、57%という数字は、

1年間のどこかで少なくとも1回、予定どおり受診できない予約があった

という意味です。

一方、3回以上という群は14%でした。

ですから、

「1年間に1回だけ予定が崩れた人」と、

「何度も予定どおり受診できなかった人」を、

まったく同じものとして扱うこともできません。

むしろ今回の数字を見て私が気になったのは、

1年間という長い期間を通して、一度も予定が崩れずに通い続けること自体が、思っている以上に簡単ではない

というところでした。

ただし、この論文の人数と割合には不整合があります

今回の論文は非常に興味深いのですが、数字を読む際には注意が必要です。

表3には、

  • 0回:78人(43%)
  • 1回:55人(32%)
  • 2回:17人(11%)
  • 3回以上:18人(14%)

と書かれています。

人数を合計すると、

78+55+17+18=168人

となり、研究参加者数とは一致します。

ところが、

78÷168=約46.4%

です。

つまり、

「78人=43%」とはなりません。

さらに、1回以上予定どおり受診できなかった人数を合計すると、

55+17+18=90人。

90÷168=約53.6%です。

一方、要旨では、

57%が少なくとも1回予定どおり受診できなかった

と報告されています。

さらに考察では、

「32%が少なくとも1回予定を逃した」

と読める記述もあり、要旨の57%とも一致しません。

つまり、この論文では、

人数と割合の対応だけでなく、「少なくとも1回」という表現にも原著内で不整合があります。

そのため本稿では、43%、57%という数字については、

「原著の著者らが報告している割合」

として紹介しています。

人数からこちらで計算し直した割合と、原著に掲載された割合を混ぜて、

「78人=43%」

のように扱うことはしません。

新しい論文を紹介するときは、数字が掲載されているからといって、そのまま写すだけではなく、表の中で数字が合っているかを見ることも大切だと感じます。

研究者が調べたのは「やる気」だけではありません

今回の研究では、計画的行動理論(Theory of Planned Behavior:TPB)という行動科学の考え方が使われています。

名前だけ聞くと少し難しそうですが、今回の記事では大きく4つに分けて考えると分かりやすいと思います。

予約を守ることへの態度

たとえば、

「矯正の予約を守ることは大切だ」

「予約どおり通うのは良いことだ」

と考えているか。

周囲からの期待をどう感じているか

家族などから、

「ちゃんと予約へ行くべきだ」

と期待されていると感じているか。

予約へ行こうという意思

実際に、

「予約へ行こう」

と思っているか。

「自分には実際にできそうだ」と感じているか

そして今回、特に重要だったのがPBCです。

これは簡単に言えば、

「自分には、その行動を実際にできそうだ」

と感じている程度です。

「予約へ行きたい」と思うことと、

「自分なら実際にその日に行ける」

と感じることは、似ているようで少し違います。

研究では、この二つを別のものとして評価しています。

特に印象に残ったのは、「行くつもり」が実際の来院を予測しなかったことです

今回の研究で、私が特に印象に残ったのがここです。

表5では、

「予約へ行こうという意思」と、予定どおり受診できなかった予約の割合との関係

について、

P=0.48

でした。

統計学的に有意な関連は確認されていません。

つまり、治療開始時に、

「ちゃんと予約へ行こう」

と思っていた程度だけでは、その後1年間に実際に予約を守れるかどうかを有意に予測できませんでした。

もちろん、

「行こうと思うことには意味がない」

という話ではありません。

気持ちがどうでもよい、という研究でもありません。

ここで分かったのは、

「行こうという意思だけでは、実際の予約行動を十分には説明できなかった」

ということです。

受付にいると、これは少し納得できる部分もあります。

予約を取ったときには、

「その日なら行けます」

と思っていた。

でも、その後の数週間で学校の予定が変わる。

部活動の試合が入る。

保護者の仕事の予定が変わる。

送迎できる人がいなくなる。

もちろん、今回の研究がこれら一つひとつを原因として証明したわけではありません。

ただ、

「行きたい」と「本当に行ける」の間には何かがある

という今回の結果は、長く患者さんの予約を見ている受付として、とても興味深く感じます。

「実際にできそう」という感覚は、予約行動と関連していました

では、何が関連していたのでしょうか。

患者さん側の解析では、PBC、つまり、

「自分には実際にその予約へ行くことができそうだ」

と感じる程度が、予約へ行こうという意思と有意に関連していました。

表5では、

PBC → 予約へ行こうという意思
P<0.001

です。

さらにPBCは、

予定どおり受診できなかった予約の割合

とも直接関連していました。

こちらも表5では、

P<0.001

でした。

PBCが高いほど、予定どおり受診できなかった予約の割合が低い方向の関連です。

ここが、今回の研究でかなり面白いところです。

「行こうと思っているか」だけでは、実際の予約行動との有意な関連は確認できなかった。

一方で、

「自分は実際にその行動をできると思えるか」は、予約行動と関連していた。

つまり、

「行くつもり」

と、

「実際に行けそう」

は、同じではなかったということです。

PBCを「自己管理能力」と決めつけるのは違います

ここは誤解したくないところです。

PBCが予約状況と関連していたからといって、

「自己管理能力の低い子ほど予約を守れなかった」

と結論づけることはできません。

PBCは、

予定管理能力を客観的に検査した点数ではありません。

本人が、

「自分はその行動をできそうだ」

「実行できるだけの余裕やコントロールがある」

と感じている程度です。

ですから、

「だらしない人ほど来ない」

「予定管理が苦手な子ほど予約を休む」

という患者さんを評価する話に変えてはいけないと思います。

著者らも、PBCと実際の行動との直接的な関連について、外部の制約が行動の実行に影響する場合という、計画的行動理論の考え方と合わせて解釈しています。

ここから私が受付として受け取ったのは、

「行く気があるか」だけではなく、「その予定を本当に実行できる状態なのか」を考える必要がある

ということでした。

「予約を守る気持ち」から、「実際に行ける予定」へ

予約表の上では、空いている時間に患者さんのお名前が入れば予約は成立します。

でも、長期の矯正治療では、

空いている時間=長く通い続けやすい時間

とは限りません。

たとえば12〜18歳なら、学校の授業、定期試験、部活動、塾、学校行事。

さらに、保護者が付き添いや送迎をする場合には、仕事、兄弟姉妹の予定、家族の生活時間。

そして、医院までの移動時間、交通事情、体調。

いろいろな条件が重なります。

繰り返しますが、今回の研究は、

「部活動が予約欠席の原因だった」

「保護者の仕事が原因だった」

と一つひとつを実測して証明した研究ではありません。

著者ら自身も、今回使った心理的な指標だけでは予約行動を十分には説明できず、

移動や送迎など実務上の制約、予定調整の難しさ、治療を続ける負担、生活環境などの影響

も今後検討する必要があるとしています。

だから受付としては、

「その日時が空いています」

だけではなく、

「その日時なら、本当に通えそうですか」

という視点も大切なのだと思います。

ただし、このような予約の取り方をすれば、予定どおり受診できない予約が減る、と今回の研究が証明したわけではありません。

研究結果と、そこから私たちが考えられる実務上のヒントは分けて考える必要があります。

「予約を守るべきだと思うこと」だけでも足りませんでした

患者さん側の解析では、PBC以外の心理的な項目は、同じような強い結果を示しませんでした。

たとえば、

「予約を守ることは大事だと思う」

という態度や、

「家族や周囲から、予約を守るべきだと思われている」

と感じることは、今回の解析では予約へ行こうという意思や実際の予約行動を十分には説明しませんでした。

つまり、

「予約を守ることは大事だと思っている」

「家族からも通うよう言われている」

「本人も行こうと思っている」

これだけで、

実際に1年間、予定どおり通えるとは限らなかった

ということです。

これは、

「本人の意識が低いから来なかった」

と読む研究ではありません。

むしろ、

意識だけでは説明しきれなかった

からこそ面白い研究なのだと思います。

では、親御さんの意識が高ければ予約を守れるのでしょうか

12〜18歳の矯正治療では、患者さん本人だけで予約が完結しないことも多いと思います。

保護者が予定を把握したり、送迎したり、学校や家庭の予定と調整したりする場合もあります。

そのため今回の研究では、患者さん本人だけでなく、保護者についても同じような心理的な項目を調べています。

ところが保護者側の解析では、

  • 予約を守ることへの態度
  • 周囲からの期待をどう感じているか
  • 実際にできそうだという感覚
  • 予約へ行こうという意思
  • SOC

のいずれも、実際の予約状況を明確に予測する有意な関連を示しませんでした。

これも興味深いところです。

「子どもの予約なのだから、親がしっかり管理すればよい」

という単純な話でもありませんでした。

もちろん、この研究から、

「親の関与は意味がない」

とは言えません。

むしろ12〜18歳では、本人と保護者の両方が関わるからこそ、予約行動を一人の心理だけで説明することが難しいのかもしれません。

少なくとも今回のデータでは、

保護者側の心理的な指標だけでも、実際の予約状況は十分には説明できなかった

ということです。

本人だけの問題でもない。

保護者だけの問題でもない。

長期通院は、思っているより複雑な行動なのだと思います。

SOCまで加えても、予約行動を十分には説明できませんでした

この研究では計画的行動理論に加えて、

SOC(Sense of Coherence:首尾一貫感)

という心理尺度も調べています。

SOCは、かなり簡単に言えば、

「日々起こることを理解できる」

「自分で対処できる」

「意味のあることとして受け止められる」

といった、生活上の出来事やストレスへの向き合い方に関係する概念です。

これまでの研究では、SOCと健康行動との関連が報告されてきました。

しかし今回の矯正予約では、患者さん側でも保護者側でも、SOCは予約へ行こうという意思や実際の予約状況を有意に予測しませんでした。

著者らはその理由として、12〜18歳ではSOCが成人ほど安定していない可能性や、今回の研究対象が比較的社会経済的に均質だった可能性などを考察しています。

これも、

一つの心理尺度を測れば、「この人は予約を守れる」と分かる

ような単純な話ではないことを示しています。

心理的な項目だけで、予約行動の全部を説明できたわけではありません

今回使われた統計モデルについて、著者らは全体として、予約行動を説明するには限界があると解釈しています。

患者さん側のモデルでは、モデルの当てはまりを評価する指標としてCMIN/DF=1.74、RMSEA=0.06、CFI=0.84が報告されています。

こうした数値そのものを患者さんが覚える必要はありません。

重要なのは、著者ら自身が、

心理的な要因だけでは、実際の予約行動を十分には説明できない

と結論づけていることです。

PBCが関連していたからといって、

「これで予約を守れる人と守れない人を見分けられる」

という話ではありません。

むしろ研究から見えてくるのは、

「やる気」だけでも、心理尺度だけでも、人が長期間通院し続ける行動は説明しきれない

ということです。

受付で、

「患者さんが来なかった」

という事実だけを見ると、

「忘れたから」
「やる気がなかったから」
「ルーズだったから」

と簡単に説明したくなることがあります。

でも、今回の研究は、

それほど単純ではない

と教えてくれているように思います。

同じ168人では、歯の表面にももう一つの「ズレ」が見えていました

今回の研究では、予約状況だけでなく、口腔衛生についても評価しています。

固定式矯正装置を付けた患者さんでは、ブラケット周囲などにプラークが残ると、歯の表面に白い脱灰病変が現れることがあります。

これが、いわゆるホワイトスポット病変(WSL)です。

研究では、歯の唇側・頬側を5秒間乾燥させて評価しています。

著者らの報告では、少なくとも1つホワイトスポットがあった患者さんは、

  • 治療開始時:22%
  • 4〜6か月:48%
  • 12か月:59%

へ増加しました。

一方、治療開始時の自己申告では、

患者さん本人の73%、

保護者回答の76%が、

「1日2回以上歯磨きしている」

と答えていました。

ここにも、

「していると答えること」と「実際の口腔内所見」

の間のズレが見えます。

予約では、

「行こうと思っている」
→ 実際に来院できたか

口腔衛生では、

「磨いていると答える」
→ 実際の歯の表面はどうだったか

という二つの違いが、同じ患者群の中で見えてきました。

ただし、ホワイトスポットを「予約を休んだ結果」と考えてはいけません

ここは非常に重要です。

今回の研究は、

予定どおり受診できない予約が多かったから、ホワイトスポットが増えた

という因果関係を証明した研究ではありません。

予約を逃した人ほどホワイトスポットができた、と今回の記事で断定することもできません。

予約状況とホワイトスポットは、同じ168人について調べられています。

しかし、

「予約を守れなかった → ホワイトスポットができた」

という関係を証明したわけではありません。

今回ここでホワイトスポットを紹介するのは、

本人の意思や自己申告だけでは、実際の行動や客観的な臨床所見を完全には把握できない

という、記事全体のテーマと重なるからです。

論文著者自身も、比較的高い歯磨き頻度の自己申告があった一方でホワイトスポットが増加したことから、自己申告だけでなく客観的な臨床所見も見る重要性を述べています。

ホワイトスポットの数字にも、原著内で気になる不整合があります

予約回数だけでなく、ホワイトスポットの数字にも注意が必要です。

表3では、12か月時点でホワイトスポットがあった患者さんについて、

97人(59%)

と掲載されています。

ただ、168人中97人なら約57.7%です。

また、12か月時点の重症度についても、

  • Grade 1:57人(53%)
  • Grade 2:32人(39%)
  • Grade 3:8人(9%)

と記載されています。

人数は57+32+8=97人で、ホワイトスポット保有者数とは一致します。

一方で、掲載されている割合とはきれいに一致しません。

そのため本稿では、

22%→48%→59%は、原著で著者らが報告している割合

として紹介しています。

こちらで独自に補正した数字へ置き換えることはしません。

図1と表5にも食い違いがあります

さらにもう一つ、今回の論文を読む際に気になった点があります。

論文5ページの図1では、

「予約へ行こうという意思」から「実際の来院」へ向かう経路に、統計学的に有意であるように見える星印が付いています。

ところが表5では、

「予約へ行こうという意思」と、予定どおり受診できなかった予約の割合との関係はP=0.48

で、有意ではありません。

さらに、要旨、結果、考察、結論は、いずれも、

予約へ行こうという意思は、実際の予約状況を有意には予測しなかった

という方向で一致しています。

そのため本稿では、

図1には有意であるように見える表示がある一方、表5と本文・要旨・結論では有意ではないとされている

と整理し、表5と本文全体の記述を基準に読みました。

これを「図1の誤植だ」と断定することはしません。

ただ、新しい研究だからといって図や数字をそのまま受け入れるのではなく、表と本文が一致しているかを確認することは大切だと思います。

この研究を日本の矯正患者さん全員へ、そのまま当てはめることはできません

今回の研究結果は興味深いですが、

「日本の矯正患者さんの57%も予約を守れない」

という意味ではありません。

いくつかの限界があります。

まず、対象はカナダの大学病院にある矯正歯科クリニックの1施設です。

また、対象者は便宜的に集められており、無作為に選ばれた集団ではありません。

英語を読んだり話したりすることが難しい家族は対象から除外されました。

さらに、保護者の約80%が中等教育後の教育を受けており、研究者ら自身も比較的社会経済的に均質な集団であった可能性を指摘しています。

そして観察したのは、矯正治療の最初の1年間です。

論文では、包括的な矯正治療は一般に2〜3年続くことがあると説明されています。

治療開始直後と2年目、3年目では、患者さんの生活も意識も変わるかもしれません。

ですから今回の結果は、

長期の矯正治療全体のすべてを説明するものではありません。

受付として思う――「ちゃんと来てください」より、その予約が生活に入るか

今回の研究を読んで、受付として一番考えさせられたのはここでした。

「次もちゃんと来てくださいね」

とお伝えすることは簡単です。

でも、患者さんが予約を守れるかどうかは、その人の気持ちだけで決まるわけではないのかもしれません。

特に矯正治療のように長く続く治療では、

予約表の空いている時間に名前を入れること

と、

その時間がその人の生活の中で本当に続けられること

は少し違います。

学校から間に合うのか。

部活動がある曜日ではないか。

保護者の方が送迎するなら、その時間は継続的に動けるのか。

仕事帰りなら、移動時間に無理はないか。

もちろん、どこまで確認するかは患者さんによって違います。

患者さんの生活を受付が管理する、という意味でもありません。

ただ、

「この時間は空いています」から、「この時間なら実際に続けられそうでしょうか」へ。

そのくらいの視点を持って予約を一緒に考えることは、長期治療では意味があるのかもしれません。

そして、予定が変わってしまうこと自体はあります。

学校、部活動、家族の予定、仕事、送迎や移動、そして治療を続けること自体の負担。さまざまな条件の中で、長期の通院は続いていきます。

予定が崩れてしまったときには、そのままにせず、できるだけ早く医院へ相談し、次の予約につなげることも大切だと思います。

「行くつもり」は大切。でも、それだけで長期治療は続かない

「ちゃんと矯正に通おう」

そう思うことは、もちろん大切です。

今回の研究は、その気持ちを否定しているわけではありません。

ただし、12〜18歳の168人を1年間追跡すると、

「予約へ行こう」という意思そのものは、実際の予約状況を有意には予測しませんでした。

一方で、

「自分には実際にその予約へ行くことができそうだ」という感覚は、予約へ行こうという意思とも、実際の予約状況とも関連していました。

そして、その感覚だけですべてを説明できたわけでもありません。

だから、

予約を守ることを、「本人のやる気」だけの問題にしない。

今回の研究から、受付として一番覚えておきたいのはそこでした。

受付で次回予約をお取りする数分間は、単にカレンダーの空欄を埋める時間ではありません。

その予約を、患者さんの実際の生活の中に置いていく時間でもある。

長く続く矯正治療だからこそ、

「行くつもりです」

から、もう一歩先の、

「その予定なら本当に通えそうです」

へ。

そんな視点も持ちながら、次回の予約を一緒に考えていければと思います。

参考文献

  1. Elyasi M, Bohlouli B, Tiwari A, Amin M. Predicting orthodontic appointment adherence in adolescents and parents using an extended behavioral model. European Journal of Orthodontics. 2026;48:cjag065. doi:10.1093/ejo/cjag065.
  2. Ajzen I. The theory of planned behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes. 1991;50:179–211. doi:10.1016/0749-5978(91)90020-T.
  3. van der Bie RM, Bos A, Bruers JJM, et al. Patient adherence in orthodontics: a scoping review. BDJ Open. 2024;10:58. doi:10.1038/s41405-024-00235-2.
  4. Nobre R, Pozza DH. Parental influence in orthodontic treatment: a systematic review. Med Pharm Rep. 2023;96:28–34. doi:10.15386/mpr-2415.
  5. Daniels AS, Seacat JD, Inglehart MR. Orthodontic treatment motivation and cooperation: a cross-sectional analysis of adolescent patients’ and parents’ responses. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2009;136:780–787. doi:10.1016/j.ajodo.2007.11.031.
  6. Aljabaa A, McDonald F, Newton JT. A randomized controlled trial to compare 3 methods designed to enhance adherence among orthodontic patients. JDR Clinical & Translational Research. 2016;1:59–68. doi:10.1177/2380084415627130.
  7. Bos A, Hoogstraten J, Prahl-Andersen B. Failed appointments in an orthodontic clinic. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2005;127:355–357. doi:10.1016/j.ajodo.2004.11.014.
  8. Elyasi M, Lai H, Major PW, et al. Modeling the theory of planned behaviour to predict adherence to preventive dental visits in preschool children. PLoS One. 2020;15:e0227233. doi:10.1371/journal.pone.0227233.
  9. de Almeida NKVL, de Brito DHS, Dos Santos TGFT, et al. Sense of coherence and oral health in children and adolescents: a scoping review. Pediatric Dentistry. 2023;45:92–98.
  10. Chapman JA, Roberts WE, Eckert GJ, et al. Risk factors for incidence and severity of white spot lesions during treatment with fixed orthodontic appliances. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010;138:188–194. doi:10.1016/j.ajodo.2008.10.019.

TOP