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「歯医者はコンビニより多い」の次に来る問題|歯科医師数の減少と治療技術の継承を考える

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2026年6月28日

「歯医者はコンビニより多い」の次に来る問題|歯科医師数の減少と治療技術の継承を考える

(院長の徒然コラム)

はじめに

「歯医者はコンビニより多い」

この言葉は、かなり昔からよく使われてきました。
一般の方との会話でも、業界の中でも、半ば定番のように語られてきた言葉です。

ただ、最初に整理しておきたいのは、この言葉で比較されているのは、正確には「歯科医師の人数」ではなく「歯科診療所の数」だということです。

実際、厚生労働省の医療施設動態調査では、令和7年12月末時点の歯科診療所数は65,475施設です。一方、コンビニエンスストアの店舗数は2026年5月時点で56,132店とされており、今でも「歯科診療所の数がコンビニ店舗数を上回る」という構図自体は成り立っています。
しかし、だからといって「歯科医療は供給過剰だ」と単純に言えるかというと、私はそうは思いません。

むしろ今考えるべきなのは、歯科医院の数そのものよりも、治療を担える歯科医師がどう育ち、その技術がどう継承されていくのかだと思います。

歯科医師数は、もう“増え続ける前提”ではない

厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、全国の届出歯科医師数は103,652人でした。前回調査から1,615人、1.5%減少しています。人口10万人あたりの歯科医師数も83.7人で、前回よりやや減少しています。

この数字だけを見て、すぐに「歯科医師不足だ」と言いたいわけではありません。
実際、人口あたりで見れば、日本の歯科医師数は国際的に見て特別少ないわけではありません。

ただし、ここで大事なのは、日本の歯科医師数は“これからも当然増え続ける”という時代ではなくなってきているということです。

かつては「歯科医師が多すぎる」と言われ、それを前提とした議論が多く見られました。
しかし、現実には総数は頭打ちとなり、年齢構成や新規参入の厚み、地域偏在といった、もっと中身のある問題を見ないと本質が見えにくくなっています。

海外と比べても、日本は“総数だけ見れば少ない国”ではない

たとえば米国では、2024年時点の現役歯科医師数は202,485人、人口10万人あたり59.5人とされています。
日本は人口10万人あたり83.7人ですから、単純な人口比で見れば、むしろ高い水準です。

ヨーロッパでも国によってかなり差があり、人口10万人あたりの歯科医師数はキプロス、ブルガリア、リトアニア、ルーマニアなどでは日本より高い数字が見られます。
一方で、統計上は「実際に診療している歯科医師」なのか「免許登録者」なのかが国によって異なるため、厳密には単純比較はできません。

それでも少なくとも言えるのは、日本の問題は“絶対数が足りないこと”だけではないということです。

言い換えると、
「人口あたりでそこそこ多い」
「それでも将来に不安がある」
この二つは両立します。

なぜかと言えば、問題は人数の表面だけではなく、誰が、どこで、どんな診療を担っているかにあるからです。

本当に気になるのは、若い歯科医師がどれだけ現場で育っているか

私が個人的に一番気になっているのは、歯科医師の総数そのものよりも、若い世代の厚みです。

令和6年の統計では、医療施設に従事する歯科医師100,266人のうち、29歳以下は5,943人、30〜39歳は16,119人でした。40歳未満を合わせても22,062人で、全体の約22%です。
一方で、50〜59歳は21,558人、60〜69歳は22,970人で、50代・60代が大きな層を占めています。

さらに診療所に限ると、若手層はもっと薄くなります。
診療所に従事する歯科医師88,703人のうち、29歳以下は2,617人、30〜39歳は12,387人で、40歳未満は約16.9%です。

もちろん、若い歯科医師がいないわけではありません。
大学病院や病院には若手が多く、医育機関附属病院では40歳未満が大きな割合を占めています。

ただ、地域の歯科医療を日常的に支えているのは、多くの場合、診療所です。

虫歯を診る。
歯周病を診る。
根管治療をする。
被せ物や入れ歯を作る。
急な痛みや腫れに対応する。
持病のある方や高齢の方の口腔管理を続ける。

こうした日常臨床の多くは、地域の診療所で行われています。
その診療所の現場で、若い歯科医師が十分に育っているのか。
ここは、これからかなり大事なテーマになると思います。

海外と比べると、“若手の厚み”は日本とかなり違って見える

米国では、35歳未満が17.3%、35〜44歳が26.0%で、45歳未満が4割を超えています。
英国でも、登録歯科医師に占める22〜30歳、31〜40歳の比率はかなり高く、40歳以下で約46.5%です。

もちろん、日本と海外では制度も資格制度も違います。
英国では海外資格の歯科医師が一定数含まれており、そのまま日本と横並びで評価することはできません。

それでも、少なくとも一つの示唆はあります。
それは、日本は総数だけ見ると少なくないが、若手〜若手中堅層の厚みという点では、やや心もとない構造に見えるということです。

私はここに、将来の歯科医療を考える上での大きな論点があると思っています。

歯学部定員と新規参入の細さは、技術継承にも関わる

歯科医師の将来を考えるなら、入口の問題も見ておく必要があります。

歯学部入学定員は、昭和56〜60年頃には3,380人でしたが、その後減少し、令和6年度には全29校で2,485人となっています。
また、第119回歯科医師国家試験の合格者数は1,757人、新卒合格者数は1,482人でした。

私は、単純に定員を増やせばよいと思っているわけではありません。
歯科医師の質を保つことは重要ですし、国家試験の水準も大切です。

ただ、入口が細くなり、若い世代が少なくなり、さらに診療所で経験を積む若手が厚く育ちにくいとなれば、治療技術を受け取る側の世代が薄くなるのは当然です。

歯科治療は、知識だけで完結する仕事ではありません。
診断、切削、形成、根管治療、歯周治療、補綴設計、咬合、外科処置、義歯調整。
これらは、実際に手を動かし、臨床の中で積み上げ、先輩の考え方を学びながら身につけていく部分が非常に大きいと思います。

【根管治療の質や考え方に興味のある方は、こちらの院長コラムもあわせてご覧ください】

「予防歯科の時代」になっても、治療が不要になるわけではない

最近のネット記事では、「これからは予防歯科にシフトする」「虫歯が減ったから治療中心ではなくなる」といった論調を見かけます。
この方向性自体は間違っていません。

予防歯科は非常に重要です。
定期検診を受けること。
歯科衛生士によるメンテナンスを継続すること。
早期発見・早期対応を行うこと。
これは間違いなく大切です。

実際、歯科疾患実態調査でも、8020達成者や歯科検診受診率は上がってきています。
歯を残す意識、予防意識が高まってきているのは、良い流れだと思います。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、予防が広がることと、治療が不要になることはまったく別だということです。

虫歯はゼロにはなりません。
歯周病もなくなりません。
根管治療が必要になる歯もあります。
古い詰め物や被せ物の再治療もあります。
高齢者の根面う蝕もあります。
咬合の問題もあります。
義歯や補綴の再設計が必要になることもあります。

むしろ、歯が長く残る時代だからこそ、残した歯をどう守るか、悪くなったときにどう治すかという、より難しい問題が増えていく面もあります。

【小さい虫歯の治療や、できるだけ歯を残す考え方については、こちらも参考になります】

【詰め物・被せ物の境目や、長持ちさせるための清掃ポイントについては、こちらでも解説しています】

デジタル化は助けになるが、治療技術の代わりにはならない

今の歯科医療は、確実にデジタル化が進んでいます。
口腔内スキャナー、CAD/CAM、デジタル技工、画像診断支援、AIの活用など、昔と比べて診療環境は大きく変わりました。

これらは非常に有用ですし、今後も歯科医療を支える重要な要素になると思います。
実際、デジタル化によって精度や効率が高まる場面はたくさんあります。

ただし、デジタル化が進んでも、
どこまで削るか
どこは削らないか
神経を残せるか
保存か抜歯か
補綴設計をどう考えるか
咬合をどう読むか
全身状態を踏まえてどこまで治療するか

といった臨床判断は残ります。

つまり、デジタル技術は歯科医療を助ける道具であって、治療技術そのものの継承を不要にするものではありません。

ここを見誤ると、「機械が進歩するから人材不足は気にしなくてよい」という危うい議論になってしまいます。

歯科医師だけではなく、歯科医療の“供給網”全体を見る必要がある

もう一つ入れておきたいのは、これは歯科医師だけの問題ではないということです。

歯科医療はチームで成り立っています。
予防やメンテナンスには歯科衛生士が必要です。
補綴治療には歯科技工士が必要です。
診療を安全に進めるためには、歯科助手や受付の存在も欠かせません。

令和6年の衛生行政報告例では、就業歯科衛生士は149,579人で前回より増加しています。
一方で、就業歯科技工士は31,733人で前回より減少し、歯科技工所数も減っています。

この流れは、予防分野の充実という意味では前向きに見える一方で、補綴や修復治療の供給体制という面では別の課題を示しています。

歯を削る歯科医師がいる。
それを支える歯科衛生士がいる。
設計を形にする歯科技工士がいる。
完成後もメンテナンスが続く。

この流れがあって、初めて歯科医療は成り立ちます。
だから、歯科医師数の話をするときも、本当は歯科医療の供給網全体を見なければいけません。

【挿絵③挿入位置:ここに「歯科医療の供給網イメージ」。中央に患者さん、その周囲に歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・受付/歯科助手を配置し、予防・治療・補綴・継続管理がチームで支えられていることを示す図。】

本当に心配なのは、人数ではなく“継承”である

私は、歯科医師の人数そのものを問題にしたいわけではありません。

人口10万人あたり何人いるか。
歯科医院がコンビニより多いか。
歯科医師が減ったのか増えたのか。

もちろん、それらの数字は大切です。
ただ、それだけを見ていても、歯科医療の将来は見えません。

本当に見るべきなのは、
若い歯科医師が地域の現場で育っているか。
治療技術を教えられる環境が残っているか。
予防だけでなく、治療も担える歯科医師が育っているか。
歯科技工士や歯科衛生士を含めたチームが維持されているか。
患者さんが必要なときに、必要な治療へアクセスできるか。
そのあたりだと思います。

歯科医院の数が多くても、治療を担える人材が育っていなければ意味がありません。
逆に、総数がある程度保たれていても、技術が次の世代に引き継がれていなければ、将来の地域医療は細っていきます。

「予防歯科の時代だから、治療技術はそこまで重要ではない」
私はそうは思いません。

予防歯科はこれからますます重要になります。
しかし、治療を必要とする患者さんがゼロになることはありません。
そのときに、きちんと診断し、必要な治療を行い、長期的に管理できる歯科医療が地域に残っているか。
そこが、これからの日本の歯科医療にとって大きなテーマになるのではないかと思います。

【箇条書きイメージ③挿入位置:ここに「この記事の結論まとめカード」。
見出しは『見るべきは人数ではなく構造』。
項目は
・総数
・若手層の厚み
・地域偏在
・技術継承
・予防と治療の両立
・チーム医療の維持
の6項目で整理する。】

まとめ

「歯医者はコンビニより多い」という言葉は、今でもある意味では成り立っています。
しかし、その言葉だけで歯科医療の未来を語る時代では、もうないと思います。

歯科医師は多すぎるのか、少なすぎるのか。
その問いだけでは、本質は見えてきません。

大切なのは、必要な地域に必要な歯科医療が残ること。
若い歯科医師が、診断と治療の経験を積めること。
予防と治療の両方を支えるチームが維持されること。
そして、治療技術が次の世代へきちんと継承されることです。

歯科医療は数字だけでは語れません。
けれども、数字を見ることで、今まで見えにくかった構造が見えてくることがあります。

歯科医院の数ではなく、歯科医療の中身。
歯科医師の総数ではなく、年齢構成と技術継承。
予防へのシフトだけではなく、治療を必要とする患者さんを支える力。

これからの日本の歯科医療を考えるうえで、そこを見落としてはいけないと思います。

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