2026年1月28日

(院長の徒然コラム)

はじめに
根管治療を終えた歯に被せ物を作るとき、歯冠部分が大きく失われている場合には、そのままではクラウンなどを安定して支えられないことがあります。
そこで行われるのが「支台築造」です。
一般には「歯の土台」と呼ばれる処置で、古くから使われてきた鋳造金属によるメタルコア、コンポジットレジンによるレジンコア、そして現在広く使われているファイバーポストを併用したレジン支台築造などがあります。
ここで最初に、言葉を整理しておきます。本稿では検索時や患者さんとの会話でよく使われる「ファイバーコア」という言葉をタイトルに使用していますが、厳密には多くの場合、白色・半透明のファイバーポストと、歯冠側のレジンコアを組み合わせた支台築造を指します。また、既製金属ポストとレジンコアを組み合わせた方法は、鋳造によってポストとコアを製作する「メタルコア」とは別の構成です。
以前であれば、「メタルコアとファイバーコアはどちらが強いのか」「ファイバーコアの方が歯根破折を起こしにくいのか」という材料同士の比較から話を始めることが多かったように思います。
しかし2026年現在、根管治療歯の修復を考えるときには、この順番そのものを変えた方がよいと私は考えています。
最初に考えるべきなのは、「メタルかファイバーか」ではありません。
まず見るべきなのは、天然の歯がどれだけ残っているのか。そして、そもそも根管内へポストを入れなければ土台を保持できないのか、ということです。
材料を選ぶのは、その後です。
以前公開していたメタルコアとファイバーコアの記事を今回全面的に見直すにあたり、過去の支台築造研究、長期臨床研究、フェルール、再根管治療、接着、そして近年の国内外のレビューまで改めて読み直しました。
すると見えてきたのは、「どのポストが一番強いか」という競争ではありませんでした。
むしろ支台築造をめぐる問いそのものが、「どうやって強いポストを入れるか」から、「本当にポストを入れる必要があるのか」へ変わってきたように思います。
そもそも「支台築造」とは何をしているのでしょうか
支台築造とは、むし歯や外傷、過去の修復、根管治療などによって失われた歯質を人工材料で補い、その後のクラウンなどを装着できる適切な支台歯形態へ回復する処置です。
つまり、「歯の根へ棒を入れること」が支台築造なのではありません。
本来の目的は、失われた歯質を補い、最終的な修復物・補綴装置を支えられる形を作ることです。
ここで重要なのが、「コア」と「ポスト」を分けて考えることです。
コアは、失われた歯冠側を補って被せ物を支える土台部分です。
ポストは、歯冠側だけではコアの保持が十分に得られないとき、根管内へ保持を求めるために利用する部分です。ポストが歯根そのものを魔法のように強くするわけではありません。
歯冠側に十分な残存歯質があり、さらに髄腔などを利用してコアを安定して保持できる場合には、根管内へポストを入れなくても支台築造が成立することがあります。
反対に、残存歯質が少なく、コアだけでは保持が難しい場合に、初めてポストを使う意味が大きくなります。
実際の治療中に見える白い棒、つまりファイバーポストそのものの役割については、「根管治療後、歯の中に白い棒を入れるのはなぜ?ファイバーポストの役割・必要なケースと限界」で患者さん向けに詳しく解説しています。
今回の院長コラムでは、その一段前に戻って、「その白い棒をそもそも使う必要があるのか」から考えます。

直接法と間接法は何が違うのでしょうか
支台築造には、大きく直接法と間接法があります。
直接法
直接法は、口腔内でコンポジットレジンなどを使い、その場で支台築造を行う方法です。必要に応じてファイバーポストなどを併用します。
接着性レジンを利用できるため、天然の根管形態に存在するアンダーカットをすべて消して一方向から挿入できる形へ変える必要がなく、症例によっては健全歯質をより多く保存できることが大きな利点です。
間接法
間接法では、形成した歯の型を採り、模型上など口腔外で支台築造体を製作してから装着します。代表的なのが鋳造メタルコアです。ファイバーポストとレジンを使用した間接法もあります。
口腔外で形態を整えられる一方、鋳造体を挿入できる形にするためにアンダーカットを除去する必要が生じれば、その分だけ歯質削除量が増える可能性があります。
どちらが常に正解というわけではありません。残存歯質、歯肉縁の位置、防湿のしやすさ、歯根形態、最終補綴設計などによって判断します。
「神経を取った歯だからポストで補強する」は単純すぎる
根管治療をした歯について、以前は「神経を取ると水分がなくなり、枯れ木のようにもろくなる」という説明を耳にすることがありました。
確かに、失活歯の水分量やコラーゲンなどの変化を報告した研究があります。
一方で、人の根管治療歯と生活歯を比較し、圧縮強さや曲げ強さなどの機械的性質に大きな違いを認めなかった研究もあります。
現在、より重要視すべきなのは「神経があるかないか」だけではなく、その歯が治療に至るまで、そして治療によって、どれだけ構造を失ったのかです。
根管治療が必要になる歯は、もともと大きなむし歯があったり、大きな修復物が入っていたり、歯が破折していたりすることが少なくありません。
さらに根管治療では歯髄腔へ到達するためのアクセス窩洞を形成します。その後、ポストを入れるために根管をさらに削れば、その分だけ歯根象牙質も失われます。
ですから現在は、
「根管治療をしたから弱い。だからポストで強くする」
という一本線ではなく、
「失われた構造をどう補いながら、残っている歯をこれ以上失わないようにするか」
と考える方が、現在の根管治療歯修復の考え方に近いでしょう。
支台築造で最初に見るべきなのは「残っている歯質」です
同じ「根管治療済みの歯」でも、天然歯質がほぼ残っている歯と、歯肉近くまで歯冠を失っている歯では、必要な治療はまったく違います。
そこで重要になるのが、歯肉縁より上に十分な厚みと高さを持つ天然歯質が何壁残っているか、という「残存壁数」の考え方です。
2024年に坪田有史氏が整理した原則的な臨床ガイドラインでは、歯質厚径1mm以上、高径2mm以上を残存壁の一つの判定基準として、4壁残存から0壁残存まで分類しています。
ただし、この数字を絶対的な境界線として使うものではありません。同論文でも、実際には検査・診断を行い、症例ごとに支台築造法を選択すべきであるとされています。
また、Ferrari氏らが提案したRDES(Restorative Difficulty Evaluation System)でも、残存する歯冠歯質を縦方向・横方向から評価し、4壁や3壁が十分に残る場合にはポストを使用しない修復を検討し、残存壁が減るほど他の条件を合わせてポストの必要性を判断する考え方が示されています。
さらに臼歯では、髄室の深さや形そのものからコアの保持を得られる場合があります。
つまり、最初から「メタルコアにするか、ファイバーコアにするか」と考えるのではありません。
まず、ポストなしで成立する歯なのかを見る。
これが現在の支台築造を理解する重要な出発点です。

2026年の保険診療にも「ポストを使わない支台築造」が明記されています
この考え方は、研究論文だけの話ではありません。
令和8年度の歯科診療報酬では、支台築造M002に、間接法としてメタルコアやファイバーポストを用いる方法、直接法としてファイバーポストを用いる方法や「その他」の方法が定められています。
さらに厚生労働省の令和8年度の算定留意事項では、根管治療を行った歯について、近遠心および唇頬舌側の歯質のうち3壁以上が残存し、複合レジンだけで築造できる場合には、スクリューポストなどを使用しなくても直接法「その他」として算定できることが明記されています。
これは非常に興味深い変化です。
「根管治療した歯だから、とりあえず何かポストを入れる」という発想ではなく、残存歯質によっては保険診療上もポストを使わない支台築造が明確に位置付けられているということだからです。
もちろん、3壁あるという情報だけで治療法が機械的に決まるわけではありません。残存歯質の厚み、位置、フェルール、咬合、歯種、最終補綴などを含めて診断する必要があります。
ポストを使わないことは「何もしない」ことではありません
「ポストを入れない」と聞くと、「土台が弱くなるのではないか」と感じるかもしれません。
しかし、ポストを入れないことと、支台築造をしないことは全く違います。
残っている天然歯質や髄室を利用し、接着性コンポジットレジンなどによってコアを形成する方法があります。
ポスト孔を形成しなければ、そのために歯根内部を追加切削する必要がありません。穿孔リスクを減らし、将来もし再根管治療が必要になった際にも、根管へ再び到達しやすくなる可能性があります。
特に大臼歯では髄室が比較的大きく、髄室そのものから保持を得られることがあります。
さらに現在では、臼歯を中心としてエンドクラウンのように髄室を利用し、従来型の根管内ポストを使わず修復する考え方も発展しています。
支台築造の選択肢は、すでに「メタルコアかファイバーコアか」という二択ではありません。
メタルコアとはどのような土台でしょうか
一般にメタルコアと呼ばれるものは、鋳造金属によってポスト部とコア部を製作する支台築造です。
高い機械的強度を持ち、間接法によって形態を整えられ、歯冠部歯質が大きく失われた症例でも保持を得やすいという特徴から、長年にわたり広く用いられてきました。
ブリッジなど複数の支台歯間で平行性を確保したい場面でも、鋳造支台築造は重要な役割を担ってきました。
したがって、メタルコアを「古いから間違った治療」と扱うのは適切ではありません。
一方、鋳造体を一方向から挿入できるようにするためには、アンダーカットを除去する必要があります。症例によっては、そのために健全な歯質まで削らなければならない場合があります。
また、金属は象牙質より高い剛性を持つため、残存歯質が薄くなった歯根へ強い力が集中した場合には、歯根破折という重篤なfailure modeにつながることがあります。
大臼歯では「全部の根にポストを入れる」わけではありません
大臼歯には複数の根・根管があり、それぞれ走行方向も異なります。
今回読み返した2001年の国内資料では、非平行な大臼歯根管へ鋳造ポストを設計するとき、複数の根管を無理に平行化することによる歯質削除や穿孔の問題を回避するため、分割構造などを利用する工夫が紹介されていました。
つまり昔から、歯科医師は「ポストを入れるために根を削りすぎてはいけない」という問題と向き合ってきたことになります。
現在は接着技術やポストレス修復が発達したことで、その問いがさらに一歩進み、「必要のない根管へ、そもそもポスト孔を作らない」方向へ変化してきています。
ファイバーコアとは何でしょうか
一般に「ファイバーコア」と呼ばれているものの多くは、グラスファイバーなどからできたファイバーポストと、歯冠側のコンポジットレジンコアを組み合わせた支台築造です。
ファイバーポストは白色から半透明で、金属ポストより弾性係数が象牙質に近いという材料学的特徴があります。
また、直接法によるレジン支台築造では、鋳造体を挿入するために根管内のアンダーカットをすべて除去する必要がなく、残存歯質を保存しやすいという大きな利点があります。
金属色がないため、高透過性のセラミックやレジン系歯冠修復物を使用するときにも、支台歯の色調が最終的な審美性を邪魔しにくいという利点があります。
ここまでは、ファイバーポストが普及してきた重要な理由です。
しかし、ここから「だからファイバーコアはメタルコアより必ず長持ちする」と結論すると、現在のエビデンスから離れてしまいます。
長期予後は「ファイバーなら勝ち」というほど単純ではありません
ファイバーポストと金属ポストを比較した臨床研究やシステマティックレビューは数多くあります。
しかし、結論は完全には一致していません。
2024年に吉田圭一氏が整理したレビューでは、生存率についてファイバーポストが有利とする解析がある一方、金属ポストとの有意差を認めない解析もあります。
歯根破折についても、ファイバー群で少ないという報告と、統計学的な差を認めない報告が混在しています。
紹介されているメタ解析の一つでは、生存率はファイバーポスト92.8%、メタルポスト78.1%でしたが、生存率自体には有意差がなく、歯根破折はメタル群で多かった一方、二次う蝕はファイバー群で多いという結果でした。
また、別の11年RCTでは累積生存率がチタンポスト74.2%、ファイバーポスト58.7%でした。
この数字だけを見れば今度は「チタンの方が良い」と見えるかもしれません。しかし、この研究からポストの剛性が生存率を決めた、あるいは硬いポストほど長持ちすると結論することはできません。研究者らもポストの剛性による生存差としては説明していません。
つまり、材料の弾性係数だけでは一本の歯の長期予後を説明できないということです。
残存歯質、歯種、フェルール、根管治療の状態、接着、最終補綴、咬合、むし歯や歯周病、患者さんのメインテナンス状況など、多数の因子が関係します。

15年、17年と追いかけると「残っている歯質」の重要性が見えてきます
支台築造の長期研究を読んでいると、材料を比較していたはずなのに、何度も同じところへ戻ってきます。
それが、残存歯質です。
2014年の峯篤史氏のレビューでは、支台築造に関する多数の臨床研究が検討され、Ferrari氏らによる小臼歯360歯のRCTなども紹介されています。
そこでは、残存壁数が少なくなるほど生存率が低下し、歯冠部歯質が少なくとも1壁以上残る群は、歯冠部歯質が全くない群より良好な予後を示す研究が複数報告されています。
また15年の臨床研究では、既製メタルポストを併用したレジンコアの生存率78.7%、鋳造メタルコア55.4%という結果が報告されています。
ここは誤解してはいけません。この78.7%は「ファイバーポスト」の数字ではなく、既製金属ポスト+レジンコアです。
そして同研究の解析では、コア材料の種類だけでなく、歯頸部に残っている歯質の有無も支台築造の生存率へ有意に影響していました。
さらに17年の研究でも、十分な残存歯質がある症例では、メタルコア、既製金属ポスト+レジンコア、ポストなしレジンコアの間に大きな生存率差が認められなかった報告があります。
材料を比較しているはずなのに、長く追いかけるほど「結局どれだけ自分の歯が残っているか」という話へ戻ってくる。
これが、今回の改稿で最も伝えたいことの一つです。
フェルールは重要ですが「2mmあれば成功」というスイッチではありません
根管治療後の補綴を考えるときに欠かせない言葉が「フェルール」です。
クラウンが歯頸部付近に残った天然歯質を帯状に取り囲むことで、機能時に加わる力に抵抗しやすい構造を作ります。
「フェルール2mm」という数字がよく知られています。2024年の国内ガイドラインでも、残存壁の高径を評価する基準として2mmが採用されています。
しかし、「2.0mmなら成功、1.9mmなら失敗」というスイッチではありません。
フェルールを考えるときには、高さだけでなく、歯質の厚み、全周のどの程度が残っているか、どの位置に残っているか、残存壁同士が連続しているか、歯種、そして荷重方向まで評価する必要があります。
特に小臼歯などは斜方向からの力や解剖学的形態の影響を受けやすく、高さ一つで予後を決めることはできません。
そして、フェルールが不足しているからといって、長いファイバーポストを入れればその不足を補えるわけでもありません。
歯の外側に残っている天然歯質と、根の中に入れるポストは、同じ役割ではないからです。
「長いポストほど強い」という考え方も見直されています
機械的な保持だけを考えれば、長いポストには利点があります。
しかし、ポストを長くするためには、根管充填材をより多く除去し、症例によっては歯根象牙質も追加切削する必要があります。
過去の研究では、ポスト長について、歯根長の2/3程度がよいとするもの、1/2程度でも同等とするもの、ポスト長が破折抵抗性にほとんど影響しないとするものなど、結果が一致していません。
その一方で、長いポスト孔を作れば歯質削除量が増え、将来再根管治療が必要になった場合には除去すべき構造物も増えます。
そのため現在では、必要な保持を得られる範囲で、根管充填や根管壁をできるだけ温存する方向へ考え方が変わってきています。
ファイバーポストに合わせて歯を削るのも本末転倒です
天然の根管は完全な円柱ではありません。
楕円形だったり、扁平だったり、湾曲していたりします。
一方、既製ファイバーポストは規格化された形をしています。
ここで「ポストをぴったり合わせたい」という理由で根管側を大きく削ってしまえば、本来守りたかった歯根象牙質を失います。
基礎研究でも、ポストの適合を向上させるために追加形成を行っても破折抵抗性が改善しなかった報告があります。
現在の考え方は、歯を既製ポストの形に合わせるより、残っている根管形態をできるだけ尊重し、その中で必要な保持を得るという方向です。
「太いポストほど強い」「根管にぴったりするまで削った方がよい」とは限りません。
接着はファイバーコアの強みであり、同時に難しさでもあります
ファイバーコアについて、「接着するから強い」と説明されることがあります。
確かに接着は非常に重要です。
しかし根管内は、一般的な歯冠表面よりも接着操作が難しい場所です。
根管深部では光が届きにくく、水分管理も難しくなります。さらに根管治療時に使用した薬剤、仮封材、仮着材などがその後の接着へ影響する可能性があります。
過去の研究では、根管内の接着強さは歯冠側から根尖側へ低下する傾向も報告されています。
したがって、
「ファイバーポストという材料を選んだ」ことと、「そのファイバーポストを良好に接着できた」ことは別問題です。
材料選択だけではなく、防湿、清掃、前処理、接着材料、重合まで含めた臨床手技が予後に関係します。
「ファイバーポストにはシラン処理」は本当に絶対なのでしょうか
ここは、旧稿から大きく書き換えたい部分です。
2016年頃の国内解説を見ると、ファイバーポストへシランカップリング処理を行うことが、接着操作の基本として説明されていました。
ところが2024年の吉田圭一氏の研究では、評価したファイバーポストにおいて、シラン処理単独では支台築造用コンポジットレジンとの接着強さを改善せず、0.15MPaという低圧のアルミナブラスティングで接着強さ・耐久性の改善が認められました。
一方、より強い条件ではファイバーの損傷が確認されています。
これは「シランは全部不要」「ファイバーポストは全部ブラスティングすればよい」という意味ではありません。
ファイバーポストは製品によってファイバー径、バインダーレジン、表面構造などが異なります。
したがって実際の臨床では、個々の製品の添付文書・メーカー指定の処理法と、併用する接着システムを確認する必要があります。
「昔からそうしているから」という一律の処理ではなく、材料ごとに考える必要があります。
根管治療で使った薬剤も、その後の接着と無関係ではありません
根管治療と支台築造は、別々に切り離された治療ではありません。
根管治療では、感染制御のために次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄剤を使用します。
近年のレビューでは、次亜塩素酸ナトリウム処理が、その後の象牙質とレジンの接着強さへ影響する可能性が検討されています。抗酸化処理によって接着強さが回復するという研究もありますが、研究間の異質性は大きく、特定の前処理を万能な方法として単純化することはできません。
それでも一つ確かなのは、根管治療が終了した瞬間に歯内療法が終わり、そこから補綴治療が全く別の世界として始まるわけではないということです。
根管治療、支台築造、最終修復までを連続した一つの治療として考える必要があります。
再根管治療を考えると、メタルもファイバーも「外せばいい」ではありません
一度治療した歯が、一生再治療を必要としないことが理想です。
しかし現実には、根尖病変の再発や根管内感染などによって再根管治療が必要になることがあります。
ポストが入っていれば、根管へ再び到達する前に、支台築造を除去しなければなりません。
鋳造メタルコアは材質が硬く、長いポストが根管深部まで入っている場合もあります。歯根を破折させずにこれを除去することは、決して単純な処置ではありません。
周囲の歯質を大きく削れば除去しやすくなりますが、それでは歯を保存するための再治療で歯質を失うという矛盾が生じます。
では、ファイバーポストなら簡単に外せるのでしょうか。
これも単純ではありません。
ファイバーポストは白色で、コアレジンや歯質との境界が視認しにくい場合があります。抜去歯を用いた実験では、回転切削器具、超音波器具、ポスト除去用器具などによるファイバーポスト除去時に、穿孔や歯軸の逸脱が確認された報告があります。
基礎研究の結果をそのまま臨床での事故率とみなすことはできませんが、少なくとも「ファイバーなら誰でも簡単・安全に除去できる」と言い切れるものではありません。
したがって、
「メタルコアは外しにくいが、ファイバーコアなら簡単に外せる」
という以前の単純な説明も、現在は修正すべきでしょう。
どちらも再治療を複雑にする可能性があり、その難しさの種類が異なります。
だから既存のメタルコアを全部ファイバーへ交換する必要もありません
現在、新しく支台築造を行う場合にファイバーポストを選択する症例が増えていることと、すでに入っているメタルコアを全て除去してファイバーへ交換することは、全く別の問題です。
既存のメタルポストが太く長く、周囲の歯質が薄い場合には、除去そのものが歯根破折や穿孔などのリスクを伴います。
2023年に報告された前歯CAD/CAM冠の臨床例では、太く長いメタルポストが入り、歯肉縁上に健全歯質がほとんど残っていない症例で、患者さんと相談したうえでメタルポストを除去せず、そのまま利用して最終補綴を行う判断がされています。
「今ならファイバーを選ぶことが多い」と「昔のメタルコアは全部外した方がよい」は同じ意味ではありません。
外すことで失うものと、残すことで生じる問題を比較して判断する。
これも支台築造における重要な意思決定です。
支台築造は「一番強い材料」を選ぶ競争ではありません
材料学の立場から見ると、さらに興味深い考え方があります。
田上直美氏は2022年の総説で、人工物は破損しても作り直すことができますが、天然歯質は一度失えば取り戻せないため、歯冠修復において最も守られるべきものは歯質である、という考え方を提示しています。
歯冠修復後のトラブルには、クラウンの脱離、クラウンの破折、支台築造の脱離、支台築造の破折、そして天然歯そのものの破折など、さまざまなfailure modeがあります。
極端な例を考えてみます。
100年間絶対に壊れない人工材料を歯根の中へ固定できたとしても、過負荷がかかったときに人工物ではなく歯根だけが割れる構造なら、それを本当に理想の治療と呼べるでしょうか。
逆に、トラブルが起きたときに人工物側が脱離・破折し、天然歯を保存したまま修理や再製作が可能であれば、その方が望ましい場合があります。
もちろん、「わざと外れやすい治療をする」という意味ではありません。
ここで重要なのは、強度や接着力の最大値だけを見るのではなく、もし失敗したときに何が壊れるのかまで考えるという視点です。

メタルコアとファイバーコア、結局どちらを選ぶのでしょうか
ここまで読むと、「では結局、メタルコアとファイバーコアのどちらがよいのですか」と聞きたくなると思います。
メタルコアには、高い機械的強度と長い臨床使用歴があります。歯冠部欠損が大きくても形態を作りやすく、現在でも症例によって有効な選択肢です。
一方、ファイバーポストを用いたレジン支台築造は、特に直接法では健全歯質を保存しやすく、金属色がなく、審美修復とも相性がよく、金属とは異なる力学特性を持ちます。
しかし接着操作の影響を受け、脱離やコア破折などのトラブルも起こり得ます。
長期研究でも、研究条件によって優劣は変わります。
したがって、
「メタルコア=悪、ファイバーコア=善」
でもなければ、
「金属の方が強いからメタルコアの方が上」
でもありません。
まず、「その歯にポストが必要なのか」。
必要なら、「どの構造・材料なら残存歯質をできるだけ守りながら必要な保持を得られるのか」。
この順番で考えるべきです。
2001年、2016年、2024年――支台築造の問いが変わってきました
今回、古い資料から最近の論文まで読み比べていて、非常に興味深く感じた部分があります。
今回確認した2001年の国内資料では、非平行な大臼歯根管へどう安全にポストを設計するかという技術的工夫が紹介されていました。
2016年にはファイバーポストが保険適用となり、「メタルコアからレジンコア・ファイバーポストへ」という変化が強く意識されるようになりました。
そして2024年の坪田氏の整理では、十分な残存歯質と髄腔保持が得られるなら、そもそもポストを設置しないという考え方が明確に示されています。
さらに同じ2024年の吉田氏のレビューでは、「ファイバーだから長期予後が必ず優れる」というほど臨床研究の結論は単純ではないことも整理されています。
少なくとも今回読み比べた資料群からは、支台築造の問いが、
「どうやってポストを入れるか」
から、
「そもそもポストを入れる必要があるのか」
へ移ってきたことが見えてきます。

私なら何を見て支台築造を決めるのか
結局、診療室で私が最初に見たいのは、材料の商品名ではありません。
その歯を本当に保存できるのか。
根管治療は適切に終了しているのか。
歯冠側に天然歯質がどれだけ残っているのか。
その歯質は十分な厚みを持っているのか。
フェルールはどの位置に、どの程度確保できるのか。
髄室や残存壁だけでコアを保持できるのか。
ポストが必要なら、そのためにどれだけ歯根象牙質を失うのか。
歯根の形、厚み、湾曲はどうなっているのか。
最終的に何を被せるのか。
単冠なのか、ブリッジや義歯の支台になるのか。
どの方向からどの程度の咬合力が加わるのか。
そして数年後、十数年後に再根管治療が必要になった場合、もう一度根管へ到達できるのか。
こうした条件を見た後に、メタルコア、ファイバーポスト併用レジンコア、あるいはポストを使用しない支台築造などを選択します。

「ファイバーコアにしてください」と決めて受診する必要はありません
患者さん自身が治療材料について調べることは、とてもよいことだと思います。
ただし、「神経を取ったからファイバーコア」「メタルコアは歯が割れるから絶対にダメ」「ファイバーなら歯が割れない」「金属の方が強いからメタルコアの方が長持ちする」というように、材料名だけで治療法を決める必要はありません。
ファイバーポストには多くの利点があります。
メタルコアにも、現在なお適応となる症例があります。
そして条件が整っていれば、どちらのポストも使わずに支台築造できる場合があります。
重要なのは、最新の材料を使うことそのものではありません。
その歯に不要な侵襲をできるだけ加えず、最終的に天然歯を長く残せる治療を選ぶことです。
最後に――「一番強い土台」より「自分の歯を残す土台」を考えたい
昔の支台築造の文献を読むと、「維持力」という言葉が何度も出てきます。
抜けないこと。
折れないこと。
強いこと。
もちろん、どれも大切です。
しかし接着技術が進歩し、ファイバーポストが普及し、さらにポストを使用しない修復法まで発展してきた現在、支台築造に求めるものも少し変わってきました。
人工物は条件が整えば交換できます。
クラウンも、コアも、作り直せる場合があります。
一方、削った天然歯質は戻りません。
歯根が破折すれば、人工物だけ交換すればよいというわけにはいかない場合があります。
ですから私は、メタルコアとファイバーコアを比較するときにも、
「どちらが一番強いか」ではなく、「どちらがこの歯を一番残せるか」
という問いから考えたいと思います。
そして、その問いのさらに一つ前には、もっと大切な問いがあります。
「そもそも、この歯にポストは必要なのか」
保険適用のメタルコアとファイバーコアを選ぶ本当のスタート地点は、材料カタログではありません。
患者さん自身の歯に、どれだけ天然歯質が残っているか。
結局、そこへ戻ってくるのだと思います。
主な参考文献・資料
- 坪田有史.ファイバーポストを使用したレジン支台築造の臨床.日補綴会誌.2024;16:354-359.
- 吉田圭一.ファイバーポストを使用したレジン支台築造の臨床経過と接着―ファイバーポストと築造窩洞の前処理―.日補綴会誌.2024;16:360-369.
- 峯篤史.“2013年における”歯根破折防止策の文献的考察.日補綴会誌.2014;6:26-35.
- Takaba M, Tanaka S, Kamimura E, Baba K. ファイバーポストを用いた支台築造.日歯内療誌.2016;37:11-19.
- Ferrari M, Pontoriero DIK, Ferrari Cagidiaco E, Carboncini F. Restorative difficulty evaluation system of endodontically treated teeth. J Esthet Restor Dent. 2022;34:65-80.
- Mannocci F, et al. Present status and future directions: The restoration of root filled teeth. Int Endod J. 2022.
- Hawthan M, Larsson C, Chrcanovic BR. Survival of fixed prosthetic restorations on vital and nonvital teeth: A systematic review. J Prosthodont. 2024.
- 厚生労働省.令和8年度 歯科診療報酬点数表に関する事項 M002 支台築造.
