歯科衛生士が麻酔をする?歯周治療時の浸潤麻酔と患者さんへの説明|制度の前に、患者さんへの説明は十分か|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐ)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

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歯科衛生士が麻酔をする?歯周治療時の浸潤麻酔と患者さんへの説明|制度の前に、患者さんへの説明は十分か

歯科衛生士が麻酔をする?歯周治療時の浸潤麻酔と患者さんへの説明|制度の前に、患者さんへの説明は十分か|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐ)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

2026年6月06日

歯科衛生士が麻酔をする?歯周治療時の浸潤麻酔と患者さんへの説明|制度の前に、患者さんへの説明は十分か

(院長の徒然コラム)

はじめに

歯科衛生士による局所麻酔、より正確には、歯科医師の指示の下で歯科衛生士が歯周治療時などに浸潤麻酔を行うことについて、歯科界で議論が続いています。

この話題は、単純に「賛成か反対か」で片づけられるものではありません。

歯科衛生士の専門性をどう評価するのか。

歯周治療の質をどう高めるのか。

歯科医療の現場で、タスクシフトやタスクシェアをどう考えるのか。

歯科医師の指示と責任をどこまで明確にするのか。

そして何より、患者さんにどこまで説明し、どのように納得してもらうのか。

これらがすべて絡み合っています。

最初に、当院の立場を明確にしておきます。

私は、歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔そのものを、一律に否定する立場ではありません。

適切な教育、十分な研修、歯科医師の明確な診断と指示、患者さんの全身状態の確認、緊急時対応、院内の安全管理、そして患者さんへの十分な説明と同意が整っているのであれば、将来的に議論される余地はあると思います。

一方で、当院では現時点で、歯科衛生士による浸潤麻酔は実施していません。

その理由は、歯科衛生士の能力を疑っているからではありません。

歯科衛生士の職能拡大そのものに反対しているからでもありません。

国や制度を批判したいからでもありません。

私が強く引っかかっているのは、患者さんへの説明です。

制度として可能かどうか。

研修プログラムが示されたかどうか。

歯科医師の指示があればよいのか。

歯科医院の運営上、効率がよいのか。

歯科衛生士の職能拡大として望ましいのか。

医療従事者側では、こうした議論が進みます。

しかし、実際に麻酔を受けるのは患者さんです。

患者さんは、その制度の内容をどこまで知っているのでしょうか。

誰が麻酔を行うのかを、事前に説明されるのでしょうか。

歯科医師がどのように関与しているのかを理解できるのでしょうか。

歯科衛生士による麻酔を希望しない場合、断ることができるのでしょうか。

断った場合に、診療上の不利益がないことは明確に伝えられるのでしょうか。

ここが曖昧なまま、「制度上できるようになったから」という理由だけで現場が進んでいくなら、それは患者さんを置いてきぼりにしているのではないかと思うのです。


まず、何が認められる話なのか

この話題で最初に整理しなければならないのは、そもそも何が議論されているのか、という点です。

「歯科衛生士による局所麻酔」と聞くと、患者さんの中には、虫歯治療、抜歯、外科処置、根管治療、インプラント治療など、歯科治療全般の麻酔を歯科衛生士が行うようになるのか、と不安に思う方がいるかもしれません。

しかし、今回の議論をそのように広く受け取ると、誤解が生じます。

現在示されている研修プログラム例の中心は、歯科医師の指示の下で、歯科診療の補助行為として、主に歯肉縁上・歯肉縁下の歯石除去やルートプレーニング時の疼痛除去を目的とした浸潤麻酔を行う場合を想定したものです。

つまり、患者さんが一般的に想像する「虫歯を削る前の麻酔」や「抜歯のための麻酔」を、歯科衛生士が自由に判断して行うという話ではありません。

歯科衛生士が自分の判断で、「今日は麻酔が必要だから打ちます」と決める話でもありません。

歯科医師の診断と指示が前提です。

患者さんの状態、処置内容、全身疾患、服薬状況、過去の麻酔経験、歯科衛生士の知識や技能、院内の安全管理体制を踏まえて、指示を出す歯科医師が個別に慎重に判断すべきものです。

ここを説明しないまま、「歯科衛生士が麻酔をする時代になった」とだけ語るのは危険です。

患者さんにとっては、言葉の印象が先に立ちます。

「歯科衛生士が麻酔をする」と聞けば、多くの方は、歯科治療全般の麻酔を連想するでしょう。

虫歯を削る時も、親知らずを抜く時も、外科処置の時も、歯科衛生士が麻酔をするのかと受け取る方がいても不思議ではありません。

だからこそ、このテーマを扱うなら、最初に範囲を明確にしなければなりません。

今回考えたいのは、歯科衛生士が歯科治療全般の麻酔を広く担当するという話ではありません。

歯科医師の指示の下で、主に歯周治療時の疼痛除去を目的とした浸潤麻酔を行う場合について、患者さんへの説明や同意の仕組みが十分かどうか、という話です。

この前提を抜きにして賛否を語ると、患者さんに余計な不安を与えます。

そして、患者さんを置いてきぼりにしないための記事が、かえって患者さんを置いてきぼりにしてしまいます。

現時点で、広く一般化している処置とは言いにくい

患者さんにもう一つ知っておいていただきたいことがあります。

歯科衛生士による浸潤麻酔は、「すでに多くの歯科医院で当たり前に行われている処置」というわけではありません。

厚生労働省の検討会資料では、歯科衛生士による浸潤麻酔の実施状況について、SRP、つまり歯ぐきの中の歯石除去やルートプレーニング時で3.4%、SRP時以外では2.8%にとどまっていたことが示されています。

この数字だけで、全国すべての歯科医院の実態を単純に言い切ることはできません。

それでも少なくとも、「最近の歯科医院では、どこでも歯科衛生士が麻酔をするようになっている」と受け取る必要はないと思います。

また、歯科衛生士養成課程においても、歯科衛生士自身が浸潤麻酔を実施することを前提とした教育や実習は、これまで十分に行われてきたとは言いにくい状況があります。

だからこそ、今回、研修プログラム例が示されたのだと考えられます。

これは、患者さんを不安にさせるために書いているのではありません。

むしろ逆です。

「最近の歯科医院では、虫歯治療でも抜歯でも、歯科医師ではない人が麻酔をするのではないか」と過剰に心配する必要はありません。

今回の議論は、主に歯周治療時の疼痛除去を目的とした浸潤麻酔について、歯科医師の指示の下でどのように安全に扱うかという話です。

そして、現時点で一般的に広く行われている処置とは言いにくいからこそ、導入する医院には、患者さんへの丁寧な説明が必要だと考えます。

「制度上可能かどうか」だけではなく、その医院では実施しているのか、どの処置で行うのか、誰が担当するのか、歯科医師はどう関与するのか、患者さんは断れるのか。

ここまで説明して初めて、患者さんは安心して判断できるのではないでしょうか。

厚生労働省が「積極的に推奨している」という話でもない

もう一つ、誤解してはいけないことがあります。

それは、厚生労働省が「歯科衛生士による浸潤麻酔をどんどん推奨している」という話ではない、という点です。

厚生労働省が示しているのは、歯科医師の指示の下で、歯科診療の補助として歯科衛生士が浸潤麻酔を行う場合に、どのような知識や技術を身につけるべきかを整理した研修プログラムの例です。

つまり、制度上・教育上の整理です。

安全に行うには、何を学ばなければならないのか。

どのような研修内容が必要なのか。

卒前教育だけでは不足している部分を、どのように補うべきなのか。

歯科医師の指示や安全管理をどう考えるのか。

そうした現場上の課題に対して、研修プログラム例が示されたものと理解すべきです。

しかし、それは「すべての歯科医院で歯科衛生士による浸潤麻酔を積極的に行うべきだ」という意味ではありません。

研修を受けたからといって、直ちに患者さんに実施すべきだという意味でもありません。

実際に導入するかどうかは、各歯科医院と歯科医師が慎重に判断すべきことです。

ここを曖昧にすると、患者さんの不安の矛先が国に向いてしまうかもしれません。

「国が決めたから、歯科医院はやっているのか」

「厚生労働省が進めているなら、患者は受け入れるしかないのか」

「制度で決まったなら、断れないのか」

もし患者さんがそう受け取ってしまうなら、それもまた誤解です。

制度は、医療現場に選択肢や枠組みを示すものです。

しかし、その制度を実際にどう使うのか、どの範囲で導入するのか、どのように患者さんへ説明するのか、誰が責任を持つのかは、最終的には各歯科医院と歯科医師の判断に委ねられます。

「国が認めたから」

「制度上できるから」

「研修を受けているから」

これらは、患者さんへの説明を省略する理由にはなりません。

むしろ制度上の整理が進んだ今だからこそ、歯科医院側にはより重い説明責任があると考えます。

患者さんが不安に思った時に、「これは国が認めた制度です」と答えるだけの医院でよいのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

患者さんが知りたいのは、誰かに責任を預ける言葉ではありません。

その医院が、患者さんの不安をどう受け止め、どのような安全管理を行い、どのような方針で診療しているのかです。

制度を理由にするのではなく、医院としての考えを示すこと。

これが、患者さんから信頼される医療機関の姿勢ではないかと思います。

「できる」と「安心して受けられる」は違う

医療では、「制度上できること」と「患者さんが安心して受けられること」は同じではありません。

ある医療行為が制度上可能であったとしても、それをすべての医院が直ちに始めるべきだとは限りません。

医院ごとの診療体制、スタッフの教育、緊急時対応、患者層、説明体制、歯科医師の関与の仕方によって、導入の可否は変わります。

歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔も同じです。

痛みを伴う歯周治療において、適切な麻酔が使えることには意味があります。

深い歯周ポケットに対するスケーリング・ルートプレーニングでは、痛みのコントロールが治療の質に影響することがあります。

患者さんが痛みに耐えながら処置を受けることは望ましくありませんし、術者側も十分な処置がしにくくなることがあります。

その意味で、歯科衛生士が歯周治療の流れの中で疼痛管理に関われるようになることには、医療上の意義があるかもしれません。

しかし、だからといって説明を軽くしてよいわけではありません。

局所麻酔は、患者さんにとって大きな医療行為です。

針を刺す行為です。

薬液を体内に入れる行為です。

血管収縮薬を含む局所麻酔薬が使われることもあります。

全身疾患、服薬状況、過去の麻酔経験、不安の強さ、迷走神経反射、アレルギー様症状、血圧変動、動悸など、確認すべきことがあります。

歯科医師が行う場合でも、局所麻酔にリスクはあります。

歯科医師なら絶対に安全で、歯科衛生士なら危険だという単純な話ではありません。

ただし、患者さんが「誰が麻酔をするのか」を気にするのは当然です。

麻酔に強い恐怖心を持つ方がいます。

過去に麻酔で気分が悪くなった方がいます。

動悸や過呼吸、気分不良を経験した方もいます。

持病や薬の関係で不安を持つ方もいます。

「麻酔は歯科医師が行うもの」と思って来院している方も多いでしょう。

その患者さんに対して、何の前提説明もなく「今日は歯科衛生士が麻酔しますね」と伝えたらどうでしょうか。

患者さんは、その場で本音を言えるでしょうか。

チェアに座り、エプロンをつけ、処置が始まる直前に、拒否できるでしょうか。

「歯科医師にお願いしたいです」と言えるでしょうか。

歯科衛生士を否定しているように受け取られるのではないかと、気を遣う方もいるかもしれません。

医療現場では、患者さんは必ずしも対等に発言できるわけではありません。

だからこそ、事前の説明が必要なのです。

患者さんが本当に知りたいこと

この問題で、患者さんが本当に知りたいのは、法律論の細かな解釈ではないと思います。

もちろん制度の説明は必要です。

しかし、患者さんにとって一番大切なのは、自分が受ける医療がどう行われるのかです。

患者さんが知りたいのは、たとえば次のようなことです。

誰が麻酔を行うのか。

どの処置で行う可能性があるのか。

歯科医師は事前に自分の状態を確認しているのか。

歯科医師はどのような指示を出しているのか。

担当する歯科衛生士はどのような研修を受けているのか。

体調が悪くなった時は誰が対応するのか。

歯科医師は院内にいるのか。

持病や薬の確認はされるのか。

過去に麻酔で気分が悪くなった経験は反映されるのか。

歯科衛生士による麻酔を希望しない場合、断ることはできるのか。

断った場合に、治療を受けにくくなることはないのか。

これらは、患者さんにとって当然の疑問です。

しかし、制度論や医療従事者側の議論では、こうした患者さんの不安が後回しになりがちです。

「歯科医師の指示があるからよい」

「研修を受けているからよい」

「診療補助の範囲だからよい」

「今後の歯科医療には必要だからよい」

医療者側から見れば、これらは一定の説明になります。

しかし、患者さんから見れば、それだけでは足りません。

患者さんは制度の対象ではありません。

医療を受ける本人です。

本人が知らないまま、あるいは十分に理解しないまま、「そういうものです」と進められるのであれば、それは患者さん中心の医療とは言えません。

私は、ここに今回の問題の核心があると思っています。

歯科衛生士の職能拡大を否定しているわけではない

ここは、誤解されないように丁寧に書いておきたいと思います。

私は、歯科衛生士の職能拡大そのものを否定しているわけではありません。

むしろ、歯科衛生士の専門性はもっと正当に評価されるべきだと思っています。

歯周基本治療、メインテナンス、口腔衛生指導、生活習慣への介入、患者さんとの継続的な関係づくり。

これらは、歯科医院の質を大きく左右します。

歯科衛生士は、歯科医院の中で単に歯科医師の補助をするだけの存在ではありません。

患者さんの口腔内を長期的に見守り、生活背景を理解し、セルフケアを支え、歯周病の進行を防ぐために欠かせない専門職です。

特に歯周治療において、歯科衛生士の役割は非常に大きいものです。

深い歯周ポケットに対する処置では、痛みの管理が必要になる場面があります。

痛みを我慢させながら行う処置は、患者さんにとって苦痛です。

処置への恐怖心が強くなれば、通院継続にも影響します。

十分な処置ができなければ、治療の質にも関わります。

もし適切な麻酔によって患者さんの苦痛が軽減され、歯周治療の質が高まるのであれば、その意義は否定できません。

また、日本の歯科医療は今後、超高齢社会、訪問歯科診療、医科歯科連携、医療従事者の偏在といった課題に向き合う必要があります。

その中で、タスクシフトやタスクシェアという考え方が重要になることも理解できます。

だからこそ、歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔を、感情的に否定することは適切ではないと思います。

しかし、職能拡大は、患者さんの信頼の上に成り立つべきです。

医療者側が「これからはこうなります」と決めるだけでは足りません。

患者さんが理解し、納得し、不安を表明でき、断ることもできる。

その仕組みがあって初めて、職能拡大は医療として健全に進むのだと思います。

歯科衛生士の専門性を尊重することと、患者さんへの説明を丁寧にすることは、対立するものではありません。

むしろ、患者さんにきちんと説明し、信頼の中で役割を広げていくことこそ、歯科衛生士の専門性を本当の意味で社会に認めてもらう道ではないでしょうか。

問診票で確認するという考え方

患者さんを置いてきぼりにしないためには、どうすればよいのでしょうか。

私は、一つの方法として、問診票や初診時の確認項目に、歯科衛生士による麻酔についての不安や希望を確認する欄を設けることは、検討に値すると思います。

ただし、ここで注意が必要です。

問診票にいきなり、

「歯科衛生士による局所麻酔を許可しますか」

と書くだけでは不十分です。

なぜなら、その時点で患者さんは、何を許可するのか十分に理解できていない可能性があるからです。

どの処置で行うのか。

どの範囲で行うのか。

どの歯科衛生士が行うのか。

歯科医師がどのように診断し、指示しているのか。

歯科医師は院内にいるのか。

緊急時は誰が対応するのか。

断ることができるのか。

そうした説明がないまま丸をつけても、それは本当の意味での同意とは言いにくい。

ですから、問診票で最初に行うべきなのは、「同意を取ること」ではなく、「不安や希望を拾い上げること」だと思います。

たとえば、麻酔に関して過去に気分が悪くなったことがあるか、動悸がしたことがあるか、怖かった経験があるか、説明を受けたいか。

あるいは、処置を担当する職種について、事前に説明を希望するか。

歯科医師の指示の下で歯科衛生士が一部の歯周治療時に浸潤麻酔を担当することについて、不安や確認したいことがあるか。

このような聞き方であれば、患者さんの不安を拾うことができます。

そのうえで、実際に歯科衛生士による浸潤麻酔を導入する医院であれば、処置前に改めて個別説明を行うべきです。

誰が行うのか。

どの処置のために必要なのか。

歯科医師がどのように診断し、指示しているのか。

担当する歯科衛生士はどのような研修を受けているのか。

麻酔後の処置は何か。

偶発症や体調不良時には誰が対応するのか。

患者さんは断ることができるのか。

断った場合に不利益がないのか。

ここまで説明して初めて、患者さんは「自分が何を受けるのか」を理解できます。

問診票は、同意書の代わりではありません。

患者さんの不安を拾う入口です。

同意は、その後の説明と確認の中で、個別に行われるべきものです。

説明文書なしで導入するのは危うい

もし歯科医院が歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔を導入するのであれば、私は少なくとも患者さん向けの説明文書が必要だと思います。

口頭説明だけでは、患者さんはその場の雰囲気で流されてしまうことがあります。

歯科医院のチェア上で、エプロンをつけ、処置が始まる直前に、

「今日は歯科衛生士が麻酔しますね」

と言われたら、患者さんは断りにくいかもしれません。

「断ったら迷惑かな」

「治療が遅れるのかな」

「先生に嫌がられるかな」

「歯科衛生士さんを否定しているように思われるかな」

そう考えて、本当は不安でも黙ってしまう人がいます。

だからこそ、説明は事前に、落ち着いた状態で行われるべきです。

説明文書には、実施する可能性のある処置の範囲、歯科医師の診断と指示、担当する歯科衛生士の研修、患者さんが断れること、断っても不利益がないこと、緊急時対応、記録の残し方などを明記する必要があります。

特に大切なのは、「断れること」をはっきり書くことです。

医療における同意で重要なのは、患者さんが「はい」と言えることだけではありません。

「いいえ」と言えることです。

断れない空気の中で得られた同意は、本当の同意とは言えません。

説明が不十分なまま取られた同意も、本当の同意とは言いにくい。

患者さんが、自由に質問できる。

不安を伝えられる。

希望を言える。

歯科医師による麻酔を希望できる。

歯科衛生士による麻酔を希望しない場合も、診療上の不利益がない。

ここまで明確にされて、初めて同意は意味を持ちます。

制度上可能であることと、患者さんが納得して選べることは別の問題です。

制度をどう使うかは、歯科医院側の責任である

ここは、このコラムで最も強く伝えたい部分です。

制度は、医療現場に選択肢を示すものです。

しかし、その制度をどう使うかは、歯科医院側の責任です。

国が研修プログラム例を示した。

歯科医師の指示の下での実施が整理された。

一定の条件下で行う道筋が示された。

それでも、実際に患者さんの前で行うかどうか、どの範囲で行うか、どの歯科衛生士に行わせるか、どのように説明するか、どのように同意を取るか、緊急時にどう対応するかは、各歯科医院と歯科医師が責任を持って判断すべきことです。

「国が認めたから」

「制度上できるから」

「研修を受けているから」

「他の医院でもやっているから」

これらを理由に、患者さんへの説明を軽くしてよいわけではありません。

患者さんが不安を訴えた時に、

「これは国が認めた制度です」

とだけ答える医院で、本当に安心できるでしょうか。

私は、そうではないと思います。

患者さんが知りたいのは、国の制度そのものではありません。

その医院がどう考えているのかです。

その医院がどのように安全管理をしているのかです。

その医院が患者さんの不安をどう扱うのかです。

その医院が、患者さんに断る自由をきちんと残しているのかです。

誰かのせいにする医療機関ではなく、自分たちの診療方針として説明できる医療機関であること。

制度を盾にするのではなく、医院としての責任を引き受けること。

これは、歯科衛生士による浸潤麻酔に限らず、すべての医療に通じる姿勢だと思います。

当院では現時点で実施していません

ブランデンタルクリニックでは、現時点で歯科衛生士による浸潤麻酔は実施していません。

これは、歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔そのものに反対しているからではありません。

歯科衛生士の専門性を否定しているわけでもありません。

国の制度整理を批判しているわけでもありません。

患者さんに対して、十分な説明ツール、確認手順、同意の取り方、拒否できる仕組み、緊急時対応、院内の安全管理体制を整えないまま始めるべきではないと考えているからです。

「制度上可能になったから、すぐに始める」

この考え方は、当院には合いません。

患者さんにとって、麻酔は大きな不安を伴う医療行為です。

歯科医師が行う場合であっても、説明と確認が必要です。

まして、これまで多くの患者さんが「歯科医師が行うもの」と受け止めてきた局所麻酔について、歯科衛生士が担当する可能性があるなら、なおさら丁寧な説明が必要です。

将来的に、教育体制がさらに整い、研修の質が担保され、社会的理解が進み、患者さんへの説明文書や同意確認の仕組みが整った場合には、議論の余地はあると思います。

しかし、少なくとも現時点では、当院としては導入していません。

これは慎重すぎると思われるかもしれません。

けれど、患者さんが十分に理解しないまま不安を抱える可能性があるなら、私は急いで導入する必要はないと考えています。

歯科医療は、患者さんの信頼の上に成り立っています。

新しい制度や業務範囲の変化がある時こそ、その信頼を損なわない順番で進めるべきです。

患者さん向け説明ツールが必要だと思う

今回の件で、私が最も必要だと感じるのは、患者さん向けの説明ツールです。

専門家向けの研修プログラムや行政文書だけでは、患者さんには届きません。

歯科医師会や学会、行政が議論しても、それだけではチェアに座る患者さんの不安は解消されません。

必要なのは、患者さんが読んで理解できる言葉です。

歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔とは何か。

どのような処置で行われる可能性があるのか。

虫歯治療や抜歯の麻酔まで歯科衛生士が広く行う話ではないこと。

歯科医師はどのように診断し、指示するのか。

担当する歯科衛生士はどのような研修を受けるのか。

患者さんは拒否できるのか。

緊急時には誰が対応するのか。

その医院では実施しているのか、していないのか。

これを医院ごとに明示するべきだと思います。

また、問診票で不安を拾う仕組みも必要です。

患者さんの中には、麻酔が怖い方がいます。

過去に動悸や気分不良があった方もいます。

歯科治療そのものに強い恐怖心がある方もいます。

持病や服薬の関係で不安を持つ方もいます。

そうした方にとって、「誰が麻酔をするのか」は非常に大きな問題です。

だから、患者さん側から言い出すのを待つのではなく、医院側から確認する。

これが患者さん中心の医療だと思います。

ただし、問診票でいきなり同意を取るのではなく、まずは不安や希望を拾う。

その後、必要に応じて説明し、処置ごとに同意を確認する。

この順番が大切です。

制度が変わる時ほど、言葉が必要になる

医療制度が変わる時、現場には必ず戸惑いが生じます。

新しい制度を早く取り入れる医院もあります。

慎重に見守る医院もあります。

導入しない医院もあります。

患者さんから質問を受けることも増えるでしょう。

この時に大切なのは、沈黙しないことだと思います。

「制度で認められているから大丈夫です」

「研修を受けています」

「歯科医師の指示があります」

「他でも行われています」

これだけでは足りません。

患者さんに向けて、自分たちの医院はどう考えているのかを言葉にする必要があります。

当院ではなぜ実施していないのか。

将来的にどう考えるのか。

何を重視しているのか。

患者さんには何を知っておいてほしいのか。

不安がある時、どう相談すればよいのか。

これを発信することは、医院の責任でもあると思います。

特に、歯科衛生士による浸潤麻酔のように、患者さんの不安に直結しやすいテーマでは、説明を避けるべきではありません。

患者さんがネットで断片的な情報を見て、不安になってから説明するのでは遅いのです。

医院側が先に、冷静に、誠実に説明する。

それが信頼につながります。

制度が変わる時ほど、言葉が必要です。

医療者側の都合だけではなく、患者さんが理解できる言葉が必要です。

国の文書ではなく、実際に通う医院の言葉が必要です。

終わりに

歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔について、私は一律に反対する立場ではありません。

歯科衛生士の専門性は尊重されるべきです。

歯周治療の質を高めるために、疼痛管理が重要であることも理解できます。

超高齢社会の中で、タスクシフトやタスクシェアの議論が必要になることも理解できます。

制度や研修プログラムの整理にも、一定の意味があると思います。

しかし、それでも強く思うことがあります。

患者さんを置いてきぼりにしてはいけない。

そして、誤解を与えてもいけません。

今回の話は、歯科衛生士が虫歯治療や抜歯、外科処置、根管治療などの麻酔を広く担当するという話ではありません。

主に歯周治療時の疼痛除去を目的とした浸潤麻酔について、歯科医師の指示の下でどのように扱うかという話です。

また、厚生労働省が一律に実施を推奨しているという話でもありません。

研修プログラム例が示されたからといって、すべての医院が導入すべきという意味ではありません。

さらに、現時点で多くの歯科医院で当たり前に行われている処置と考える必要もありません。

だからこそ、導入する医院には、患者さんへの丁寧な説明が求められます。

制度として選択肢が示されたとしても、それをどう使うかは歯科医院側の責任です。

患者さんが、誰に、何を、なぜされるのかを理解しているか。

不安を伝えられるか。

断ることができるか。

断っても不利益がないと明示されているか。

緊急時の責任体制が整っているか。

医院としての方針が明確に示されているか。

ここまで整って初めて、患者さんの前に出せる医療行為になるのだと思います。

当院では、現時点で歯科衛生士による浸潤麻酔は実施していません。

これは、歯科衛生士の職能拡大を否定するためではありません。

制度の流れに反対するためでもありません。

患者さんに十分な説明と選択の機会を用意できないまま、新しい体制を導入するべきではないと考えているからです。

制度が変わること自体は、医療の中で必要なことです。

しかし、制度が変わる時ほど、患者さんへの説明が必要になります。

医療従事者と国だけで話が進むのではなく、患者さんが理解し、納得し、選べる形にすること。

制度を理由にするのではなく、医院として責任を持って説明すること。

誰かのせいにするのではなく、自分たちの診療方針として患者さんに向き合うこと。

それがなければ、どれほど制度上正しくても、患者さんの信頼にはつながりません。

歯科衛生士による歯周治療時の浸潤麻酔をめぐる議論は、単なる業務範囲の話ではありません。

これからの歯科医療が、誰のために制度を変えていくのか。

患者さんの不安を、どこまで真剣に受け止めるのか。

説明と同意を、どこまで丁寧に扱うのか。

医院が自分たちの責任として、どこまで言葉にできるのか。

その姿勢が問われているのだと思います。

制度より先に、患者さんの納得を。

効率より先に、説明と信頼を。

職能拡大の前に、患者さんが置いてきぼりにならない仕組みを。

私は、その順番を間違えない歯科医療でありたいと考えています。

《参考資料》

1.厚生労働省「歯科衛生士による浸潤麻酔の実施に向けた研修プログラム(例)令和7年度版」


2.厚生労働省「歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会」関連資料

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