2026年6月10日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「歯の根元がしみるんです」
「歯ぐきの境目が少し削れている気がします」
「冷たい水だけでなく、歯ブラシが当たってもキーンとします」
歯科衛生士として診療室でお話を伺っていると、このようなご相談をいただくことがあります。
毎日きちんと歯を磨いている方ほど、「磨き方が足りないのかな」「もっとしっかり磨いた方がいいのかな」と思われることがあります。けれども、歯ぐきの境目がしみる場合、磨き残しだけでなく、歯ブラシを当てる力が強すぎることが関係していることもあります。
ただし、ここで大切なのは「強い歯磨きだけが原因」と決めつけないことです。歯と歯ぐきの境目に起こる削れやへこみは、歯磨きの力、酸性の飲み物や食べ物、噛みしめ、歯ぎしり、歯ぐきの下がり方など、いくつかの要素が重なって起こることがあります。
今回は、歯ぐきの境目が削れてしみる時に、どのようなことが起こっているのか、そして歯磨きでは何を見直せばよいのかをお話しします。

歯ぐきの境目が削れて見えることがあります
歯と歯ぐきの境目は、もともと形が複雑で、歯ブラシの毛先も当たりやすい場所です。さらに、年齢とともに歯ぐきが少し下がったり、歯の根の面が見えたりすると、そこに刺激が加わりやすくなります。
昔は、この部分がV字型に削れた状態を「くさび状欠損」と呼ぶこともありました。現在は、形だけで原因を決めつけるのではなく、むし歯ではない歯頸部の歯質欠損、つまり歯の根元付近に起こるすり減りや欠けとして、いくつかの原因を合わせて考えることが大切です。
患者さんにとっては専門用語よりも、「歯の根元が削れているように見える」「歯ぐきの境目がへこんでいる」「そこに歯ブラシが当たるとしみる」と感じることが多いと思います。
このような状態があると、見た目の変化だけでなく、知覚過敏の症状につながることがあります。
強すぎる歯磨きは、悪化のきっかけになります
「歯をきれいにしたい」
「歯ぐきの境目に汚れを残したくない」
そう思って、つい力を入れて磨いてしまう方は少なくありません。
特に、硬めの歯ブラシで横に大きくゴシゴシ動かす磨き方は、歯ぐきの境目に負担が集中しやすくなります。歯ブラシの毛先がすぐに開いてしまう方、磨いている時の音が大きい方、しみる場所ほど念入りにこすってしまう方は、少し力が入りすぎているかもしれません。
ただ、歯磨きそのものが悪いわけではありません。むしろ歯ぐきの境目は、プラークが残りやすい大切な清掃ポイントです。問題は「磨くこと」ではなく、「強く押しつけてこすること」です。
歯ブラシは、力で汚れを削り落とす道具ではありません。毛先を必要な場所にそっと届かせて、小さく動かすことで汚れを落としていくものです。
歯磨きだけでなく、酸や噛む力も関係します
歯ぐきの境目の削れやしみる症状は、歯磨きの力だけで説明できないこともあります。
たとえば、炭酸飲料、スポーツドリンク、柑橘類、酢を使った食品など、酸性の飲食物を頻繁にとる習慣があると、歯の表面が酸の影響を受けやすくなります。その状態で強く歯ブラシを当てると、歯の表面にさらに負担がかかることがあります。
また、食いしばりや歯ぎしりがある方では、歯に強い力がかかり続けることがあります。歯の根元付近に負担が集中したり、すでにある小さな欠損に症状が出やすくなったりすることもあります。
そのため、診療室では歯の根元だけを見て終わりではなく、歯ブラシの当て方、歯ぐきの下がり方、噛み合わせ、歯のすり減り、飲食習慣などを一緒に確認します。
「強く磨いたから削れた」と単純に決めるのではなく、「どの要素が重なって、今の症状につながっているのか」を見ることが大切です。
なぜ知覚過敏でキーンとしみるのでしょうか
歯の表面は、硬いエナメル質に守られています。ところが歯ぐきの境目では、エナメル質が薄かったり、歯ぐきが下がって根の面が見えていたりすることがあります。
根の面や内側の象牙質が刺激を受けやすい状態になると、冷たい水、歯ブラシの毛先、風、甘いものなどで「キーン」と鋭くしみることがあります。これが、いわゆる知覚過敏です。
知覚過敏の特徴は、刺激が加わった時に一瞬鋭く痛み、刺激がなくなると痛みが引いていくことです。ただし、自己判断は禁物です。むし歯、歯のひび、詰め物のすき間、歯周病、歯の神経の炎症などでも、似たようなしみ方をすることがあります。
「たぶん知覚過敏だろう」と思って市販の歯磨剤だけで様子を見るより、症状が続く場合は一度確認してもらう方が安心です。

今日から見直したい歯磨きの力
しみるところがあると、患者さんの中には「汚れが残っているからしみるのかも」と考えて、さらに強く磨いてしまう方がいます。けれども、しみる場所を強くこすり続けると、かえって症状が長引くことがあります。
まず意識したいのは、歯ブラシを握りしめすぎないことです。力いっぱい持つと、どうしても歯に押しつける力が強くなります。歯ブラシは軽く持ち、毛先が歯と歯ぐきの境目にやさしく触れるくらいを目安にします。
動かし方も、大きく横にこするより、小さく細かく動かす方が向いています。歯ブラシの毛先が広がるほど押しつける必要はありません。毛先が寝てしまうと、汚れを落としたい場所にうまく届かず、歯や歯ぐきをこすってしまうことがあります。
歯ブラシの硬さも大切です。しみる症状がある時に硬い歯ブラシを使うと、刺激が強く感じられることがあります。お口の状態によって合う歯ブラシは違いますので、歯科衛生士に確認していただくと選びやすくなります。

しみる時の処置は、状態によって変わります
歯ぐきの境目がしみる時、すべてのケースですぐに削って詰めるわけではありません。
欠損が小さく、主に知覚過敏の症状が出ている場合には、知覚過敏用の歯磨剤を使ったり、歯科医院でしみ止めの薬を塗ったり、フッ素を使って歯質を守ったりすることがあります。歯ブラシの圧や当て方を見直すだけで、症状が落ち着いてくる方もいます。
一方で、歯の根元の欠損が大きい場合、汚れがたまりやすい形になっている場合、見た目やしみる症状が強い場合には、樹脂の材料で表面を保護する処置を検討することもあります。
ただし、詰めればすべて解決というわけではありません。強い歯磨き、酸性飲食物、噛みしめなどの影響が残ったままだと、詰めた部分の境目に負担がかかったり、再びしみる症状が出たりすることがあります。
だからこそ、処置と同じくらい、毎日の歯磨きや生活習慣の見直しが大切になります。
「磨かない」ではなく「やさしく届かせる」
歯ぐきの境目が削れてしみると聞くと、「あまり磨かない方がいいのかな」と不安になる方もいます。
でも、大切なのは磨かないことではありません。歯と歯ぐきの境目は、むし歯や歯周病を防ぐためにも清潔に保ちたい場所です。必要なのは、力を入れてこすることではなく、毛先をやさしく届かせることです。
しみる症状がある時は、歯ブラシの力、歯ブラシの種類、歯磨剤、飲食習慣、噛みしめの有無などを一緒に見直していきましょう。
ブランデンタルクリニックでは、歯科衛生士が患者さんのお口の状態に合わせて、歯ブラシの当て方や力加減も確認しています。歯ぐきの境目がしみる、歯の根元が削れている気がする、冷たいものがつらいという方は、我慢せずご相談ください。
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