2026年5月28日

(院長の徒然コラム)

はじめに
歯が痛いとき、多くの方がまず思い浮かべるのが「痛み止め」ではないでしょうか。
夜に急に歯がズキズキして眠れない。
仕事中に歯が痛くなって集中できない。
抜歯や治療のあとに痛みが出て不安になる。
このような場面で、痛み止めはとても頼りになる薬です。実際に歯科でも、虫歯による炎症、歯ぐきの腫れ、親知らずの痛み、抜歯後の痛みなどに対して痛み止めを処方することがあります。
ただし、最初に大切なことをお伝えしておきます。
「痛み止めは、歯の痛みを一時的に和らげる薬であり、痛みの原因そのものを治す薬ではありません。」
痛み止めを飲んで楽になったとしても、虫歯が治ったわけではありません。
もちろん神経の炎症や、歯の根の先にたまった膿がなくなったわけでもありません。
痛み止めは上手に使えばとても有効です。しかし、「痛みが引いたから大丈夫」と受診を先延ばしにしてしまうと、かえって治療が大きくなり最悪抜歯や全身に影響を及ぼすことがあります。
今回のコラムでは、歯科で使う代表的な痛み止めの種類、ロキソニン・イブ・ボルタレン・バファリン・カロナールの違い、飲み方、副作用、飲み合わせ、そして痛み止めで様子を見ない方がよい歯痛について、歯科医師の立場からわかりやすく解説します。
痛み止めは歯痛に効くのか
結論から言うと、歯の痛みに痛み止めは効ききます。(ただし口内炎は今回紹介の痛み止めは効果薄いです。詳しくはステロイドのコラムを見てくださいね。)
特に、炎症が関係している痛みには効果が期待できます。
たとえば、虫歯が進んで神経に炎症が起きているとき、歯の根の先に炎症があるとき、歯ぐきが腫れているとき、親知らずの周囲が炎症を起こしているとき、抜歯や外科処置の後などです。
歯科でよく使う痛み止めの多くは、体の中で痛みや炎症に関係する物質が作られるのを抑えることで効果を発揮します。
そのため、痛みが強い時期に服用すると、つらさが軽くなり、食事や睡眠が少し楽になることがあります。
ただし、痛み止めはあくまで「症状を抑える薬」です。
虫歯が大きければ虫歯の治療が必要です。神経の炎症が強ければ、根の治療が必要になることもあります。
歯の根の先に膿がたまっていれば、原因となっている歯に対する処置が必要です。歯ぐきの腫れであれば、歯周病や親知らずの周囲炎などを確認しなければなりません。
つまり、痛み止めは大切なサポート役ですが、主役はあくまで痛みの原因に対する歯科治療です。
歯科で使う痛み止めにはどんな種類があるか
歯科で使う痛み止めは、大きく分けるとNSAIDsとアセトアミノフェンがあります。
NSAIDsは「非ステロイド性抗炎症薬」と呼ばれる薬の仲間です。名前は少し難しいですが、簡単に言うと、炎症や痛みに関係する物質を抑えて、痛みや腫れを和らげる薬です。
代表的な成分には、ロキソプロフェン、イブプロフェン、ジクロフェナク、アスピリンなどがあります。
商品名でいうと、ロキソニン、イブ、ボルタレン、バファリンAなどです。むしろこっちの名前の方が馴染みがあるのではないでしょうか?
一方、アセトアミノフェンはNSAIDsとは少し違うタイプの痛み止めです。
商品名ではカロナール、タイレノールAなどがよく知られています。
炎症を強く抑える作用はNSAIDsほどではありませんが、副作用が少ないので痛みや熱を和らげる薬として広く使われています。
臨床では胃腸や腎臓への負担、年齢、妊娠中かどうか、持病の有無、服用中の薬などを考えて、どの痛み止めを使うか判断します。
よく聞く痛み止めの名前と違い
患者さんにとっては、「ロキソプロフェン」や「イブプロフェン」という成分名よりも、「ロキソニン」「イブ」「ボルタレン」「バファリン」「カロナール」といった商品名の方がなじみがあると思います。
ここで大切なのは、薬は商品名だけでなく、成分名で考えることです。
同じような名前の市販薬でも、製品によって成分が違うことがあります。
また、風邪薬、頭痛薬、生理痛の薬の中に、歯科で処方する痛み止めと同じ成分や近い成分が入っていることもあります。

①ロキソニン
ロキソニンの主成分はロキソプロフェンです。
歯科でもよく使う代表的なNSAIDsで、歯の痛みや抜歯後の痛みに対して処方されることがあります。
患者さんにもなじみがある薬ですが、胃、腎臓、喘息、妊娠中などには注意が必要です。
「よく飲む薬だから大丈夫」と思わず、持病がある方や他の薬を飲んでいる方は、必ず歯科医師に伝えてください。
②イブ
イブの主成分はイブプロフェンです。
市販薬として飲んでいる方が多い痛み止めの一つです。歯痛に使われることもありますが、注意したいのは市販薬との重複です。
たとえば、歯科で処方された痛み止めを飲んだうえで、家にあるイブを追加してしまうと、同じNSAIDs系の薬を重ねることになる場合があります。
痛みが強いと「もう少し足したい」と思うかもしれませんが、自己判断で重ねて飲むのは避けてください。
③ボルタレン
ボルタレンの主成分はジクロフェナクナトリウムです。
歯科でも処方することがある薬で、痛み止めとしてしっかりした効果が期待できます。一方で、注意点が比較的多い薬でもあります。
ボルタレンは、胃への負担だけでなく、腎臓、肝臓、血圧、喘息、妊娠中の使用などにも注意が必要です。
効果が期待できる薬だからこそ、患者さんの全身状態や服用中の薬を確認したうえで使用する必要があります。
特に、自己判断でロキソニン、イブ、バファリンなど他の痛み止めと重ねて飲むことは避けてください。効果が単純に倍になるわけではなく、副作用のリスクが高くなる可能性があります。
④バファリンA
バファリンAの主成分はアスピリンです。
アスピリンもNSAIDsの仲間ですが、ロキソニンやイブと同じ感覚で考えると少し注意が必要です。
アスピリンには、痛みや熱を抑える作用に加えて、血液を固まりにくくする作用があります。
そのため、胃への負担だけでなく、出血しやすさにも注意が必要です。
抜歯や外科処置の前には、バファリンAや低用量アスピリンを飲んでいるかどうかが大切な情報になります。
また、「バファリン」といっても製品によって成分が違うことがあります。
バファリンAはアスピリンを含みますが、バファリンシリーズの中にはイブプロフェンやアセトアミノフェンを含む製品もあります。
歯科を受診するときは、「バファリンを飲んだ」と伝えるだけでなく、できれば薬の箱、お薬手帳、スマートフォンで撮った写真などを見せていただくと安全です。
⑤カロナール
カロナールの主成分はアセトアミノフェンです。
NSAIDsではないタイプの痛み止めで、胃腸や腎臓への負担を考慮したい場面で選ばれることがあります。小児や高齢の方、妊娠中の方などで検討されることもあります。
ただし、カロナールも「いくら飲んでも安全」という薬ではありません。
飲みすぎると肝臓に負担がかかることがあります。また、市販の風邪薬や解熱鎮痛薬にもアセトアミノフェンが含まれていることがあるため、知らないうちに重複してしまうことがあります。

痛み止めの正しい飲み方
痛み止めは、正しく使えば非常に役立つ薬です。しかし、飲み方を間違えると副作用のリスクが高くなります。
まず大切なのは、指示された量と回数を守ることです。
「痛いから多めに飲む」
「効かないから短い間隔で飲む」
「家にある別の痛み止めも追加する」
こうした飲み方は避けてください。
特にNSAIDsは、空腹時に飲むと胃に負担がかかりやすくなることがあります。
可能であれば食後に服用し、どうしても食事が取れない場合は、少し何かを口にしてから飲む方がよい場合があります。
ただし、薬によって指示が異なることもありますので、処方時の説明を優先してください。
また、痛みが強いからといって、ロキソニン、イブ、ボルタレン、バファリンAなどを自己判断で重ねて飲まないでください。
同じNSAIDs系の薬を重ねても、効果が単純に倍になるわけではありません。
むしろ、胃腸障害、腎機能障害、出血しやすさなどの副作用リスクが高くなる可能性があります。
アセトアミノフェンについても同じです。
カロナールやタイレノールAだけでなく、市販の風邪薬、解熱鎮痛薬、総合感冒薬にも含まれていることがあります。
成分を確認せずに複数の薬を飲むと、知らないうちに飲みすぎになることがあります。
副作用は「胃が荒れる」だけではありません
痛み止めというと、「胃が荒れる薬」というイメージを持っている方が多いかもしれません。
確かにNSAIDsでは、胃痛、胃もたれ、胸やけ、吐き気、胃潰瘍、胃からの出血などに注意が必要です。
しかし、注意すべきなのは胃だけではありません。
①腎臓への影響
NSAIDsは腎臓にも影響することがあります。
特に、高齢の方、高血圧や糖尿病がある方、腎臓の数値を指摘されたことがある方、利尿薬や血圧の薬を飲んでいる方は注意が必要です。
腎機能の低下は、自覚症状が出にくいことがあります。
「元気だから大丈夫」「尿が出ているから大丈夫」とは限りません。
市販薬であっても、長く続けたり、複数の薬を重ねたりする場合は注意が必要です。
②喘息との関係
喘息のある方では、NSAIDsによって喘息発作が誘発されることがあります。
過去に痛み止めを飲んで息苦しくなったことがある、じんましんが出た、顔が腫れた、気分が悪くなった、という経験がある方は必ずお伝えください。
③肝臓への影響
アセトアミノフェンは、NSAIDsに比べて胃腸への負担が少ない選択肢として使われることがあります。
しかし、飲みすぎると肝臓に負担がかかります。お酒をよく飲む方、肝臓の病気がある方、複数の市販薬を飲んでいる方は特に注意が必要です。
④妊娠中・授乳中の注意
妊娠中や授乳中の方は、市販の痛み止めを自己判断で飲まないようにしてください。
妊娠中は、時期によって使える薬と避けた方がよい薬があります。
「市販薬だから安全」「以前飲んだことがあるから大丈夫」とは限りません。妊娠中、授乳中、妊娠の可能性がある方は、必ず事前に相談してください。

飲み合わせにも注意が必要です
痛み止めは、他の薬との飲み合わせにも注意が必要です。
特に、血液をサラサラにする薬、血圧の薬、利尿薬、腎臓の薬、糖尿病の薬、リウマチの薬、精神科のお薬、一部の抗菌薬などを飲んでいる方は、自己判断で市販の痛み止めを追加しない方が安全です。
また、心筋梗塞や脳梗塞の予防目的で、低用量アスピリンを飲んでいる方もいらっしゃいます。
この場合、アスピリンは単なる痛み止めではなく、血栓を予防するための薬です。
抜歯や外科処置の前に「血液をサラサラにする薬を飲んでいるから、歯科治療ができない」と心配される方もいますが、多くの場合(というか最近はほぼ休薬しない)、歯科側で止血方法を工夫しながら治療を行います。
痛み止めで様子を見ない方がよい歯痛
大切なのは、自己判断で薬を中止しないことです。
自己判断で中止すると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクにつながることがあります。
服用中の薬がある方は、必ず歯科医師にお知らせください。必要に応じて、主治医の先生と連携しながら安全に治療を進めます。
痛み止めを飲んで一時的に楽になることはあります。
しかし、次のような症状がある場合は、薬だけで様子を見るのではなく、早めの歯科受診をおすすめします。

強い痛みが続く場合や、夜眠れないほど痛い場合は、神経の炎症が強くなっている可能性があります。
痛み止めが効きにくい、噛むと強く痛む、何度も同じ歯が痛くなる場合は、歯の根の先の炎症、歯のひび、噛み合わせの問題などが関係していることがあります。
歯ぐきや顔が腫れている、発熱がある、口が開きにくい、飲み込みにくいといった症状がある場合は、炎症が広がっている可能性があります。このような場合は、早めの対応が必要です。
また、虫歯の穴が大きい、治療途中の歯が痛むという場合も、放置せずに受診してください。
治療途中の歯は、仮のふたが外れたり、内部で炎症が進んだりすることがあります。
痛み止めを飲んでから受診してもよいのか
「痛み止めを飲んでしまうと、歯医者で原因が分からなくなりませんか」と聞かれることがあります。
基本的には、痛みが強いときに痛み止めを飲んでから受診していただいて構いません。痛みが強すぎる状態で我慢する必要はありません。
ただし、受診時には、何を、いつ、どれくらい飲んだかを教えてください。
たとえば、
「朝8時にロキソニンを1錠飲みました」
「夜中にイブを飲みました」
「昨日からバファリンを何回か飲んでいます」
「家にあったカロナールを飲みました」
このように教えていただけると、追加で薬を出してよいか、同じ成分が重ならないか、副作用のリスクがないかを判断しやすくなります。
薬の名前が分からない場合は、箱やシート、お薬手帳、スマートフォンで撮った写真を見せてください。

終わりに
歯科で使う痛み止めには、ロキソニン、イブ、ボルタレン、バファリンAなどに関係するNSAIDsと、カロナールなどに関係するアセトアミノフェンがあります。
これらは歯の痛みを和らげるうえで非常に役立つ薬です。炎症による痛み、抜歯後の痛み、治療後の痛みなどで、つらさを軽くしてくれることがあります。
しかし、痛み止めは痛みの原因そのものを治す薬ではありません。
虫歯、神経の炎症、根の先の膿、歯周病、親知らずの炎症などは、原因に応じた歯科治療が必要です。薬で一時的に楽になっても、原因が残っていれば再び痛くなることがあります。
また、痛み止めは安全に使うことが大切です。
ロキソニンやイブは重複服用に注意が必要ですし、ボルタレンは効き目が期待できる一方で、胃、腎臓、肝臓、血圧、喘息、妊娠中など注意点が多い薬です。
バファリンAはアスピリンを含み、出血しやすさにも配慮が必要となります。
このように各痛み止めには注意すべき点が幾つもあるのです。
歯が痛いときに痛み止めを使うこと自体は悪いことではありません。
大切なのは、薬で無理に我慢し続けるのではなく、痛みの原因をきちんと確認することです。
歯の痛みが続く方、市販薬を飲んでも改善しない方、どの薬を飲めばよいか迷う方は、早めに歯科医院へご相談ください。
早めに原因を確認することで、結果的に治療を小さく済ませられることもあります。
