2026年10月07日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
メンテナンス中に患者さんと食生活のお話をしていると、
「甘いものって、やっぱり虫歯になるから控えた方がいいんですよね?」
と聞かれることがあります。
歯科衛生士としては、もちろん「はい」と答えられます。
虫歯は、口の中の細菌が発酵可能な糖質を利用して酸をつくり、その酸による脱灰が再石灰化を上回る状態が続くことで進行します。特に、砂糖を含む飲み物やお菓子を頻繁に摂る習慣は、虫歯を考えるうえで昔から大切なポイントです。
でも今回、2026年9月30日にClinical Oral Investigationsに掲載された論文を読んでいて、少し考えさせられました。
この研究が見ていたのは、虫歯だけではありません。
肥満、2型糖尿病、心血管・心代謝関連、痛風、非アルコール性脂肪性肝疾患、認知・精神関連、腎疾患、骨、喘息、睡眠、妊娠・出生アウトカム、そして口腔疾患。
砂糖摂取と健康との関係を調べた既存のsystematic review(系統的レビュー)を大量に集め、口腔と全身をまとめて俯瞰したumbrella reviewでした。
最終的に採用されたsystematic reviewは、228本です。
「228本もレビューがあるなら、砂糖がいろいろな病気の原因だとはっきり分かったということ?」
と思ってしまいそうです。
ところが、今回の論文を読み進めていくと、私はむしろ別のところが気になりました。
228本もsystematic reviewがある。
それなのに、71%はAMSTAR-2でlowまたはcritically lowと評価されている。
さらに、研究で扱われている「砂糖」も一種類ではありません。そして、糖源について詳細なデータが得られた範囲では、著者らは132件(68%)が砂糖入り飲料を扱っていたと報告しています。
今回いちばん面白かったのは、「砂糖が18の健康領域と関連していた」という派手な部分だけではありません。
研究がたくさんあることと、証拠が全部同じ強さであることは、まったく別なんだ。
そこでした。
今日は、砂糖を「良い」「悪い」の二択にするのではなく、228本のsystematic reviewが何を示し、何をまだ示していないのかを、歯科衛生士の目線でじっくり読んでみます。
今回の研究は「研究をまとめた研究を、さらにまとめた研究」です

まず、今回の研究がどのような位置づけなのかを整理しておきます。
医学研究にはいろいろな段階があります。
たとえば、ある食習慣と病気との関係を長期間追跡するコホート研究や、ある介入と別の介入を比較する臨床試験があります。
そうした一次研究を、あらかじめ定めた方法で系統的に検索し、選び、評価し、まとめるのがsystematic reviewです。
複数研究の結果を統計的に統合できる場合には、meta-analysisが行われることもあります。
今回の研究は、さらにその上です。
一次研究 → systematic review / meta-analysis → umbrella review
という位置にあります。
つまり今回、新しく何万人もの人に砂糖を食べてもらって、その後の健康状態を追跡した研究ではありません。
すでに存在するsystematic reviewを集めて、
- 砂糖摂取について、これまでどのような健康アウトカムが研究されているのか
- 結果はどの程度同じ方向を向いているのか
- systematic reviewそのものの方法論的な質はどうなのか
- 口腔と全身で、証拠の厚みはどう違うのか
を一段高いところから見渡した研究です。
検索は2026年3月まで、3つのデータベースを使用
今回の研究では、Epistemonikos、PubMed、Cochrane Libraryが検索されました。
検索は2026年3月まで。
2人のreviewerが独立してscreeningとdata extractionを行い、意見が一致しない場合は研究グループで相談して決める方法が採られています。
2人のreviewerによる採否判断のCohen’s κは0.492で、論文ではmoderate agreementとされています。
また、このumbrella reviewはPROSPEROへ登録され、PRISMA 2020に沿って進められています。
10,593件から、最終的に228本のsystematic reviewが残りました
論文の選定過程を見ると、かなり大規模です。
検索で見つかったのは、10,593件。
そこから重複を除き、タイトル・抄録をscreeningし、全文を確認する必要があると判断された文献が633本。
さらに全文を読んで適格性を評価し、最終的に今回のumbrella reviewへ組み入れられたのが、228本のsystematic reviewでした。

228本という数字だけを見ると、非常に多く感じます。
実際、一つの食事要因について、これだけ多くのsystematic reviewを口腔から全身まで横断して整理するのは大きな仕事です。
ただし、ここで一つ注意が必要です。
今回の研究は、228本のreviewから得られた数字を全部一つに足して、
「砂糖を摂ると病気のリスクが総合的に○%上がる」
という巨大なmeta-analysisを行ったわけではありません。
対象者も違えば、調べている糖も違い、健康アウトカムも違います。
そのため今回の研究では、新しい総合リスク値を一つ計算するのではなく、結果を主としてnarrative synthesis、つまり叙述的に整理する方法が採られています。
「228本を一つの数字にまとめた研究」ではなく、228本のreviewを一枚の大きな地図へ並べ直した研究と考える方が近いと思います。
「228本ある」ことと「228個の独立した証拠がある」ことも同じではありません
umbrella reviewには、もう一つ特有の注意があります。
たとえば、ある大規模なコホート研究があったとします。
その同じ一次研究が、systematic review A、B、Cの3本すべてに含まれていたらどうでしょう。
umbrella review上では「3本のsystematic review」が存在します。
しかし、元になった患者集団や観察データの一部は重複しているかもしれません。
つまり、
reviewが3本ある=完全に独立した証拠が3倍ある
とは限らないのです。

今回の著者らも、このprimary study overlapを正式には定量していないことをlimitationsの一つとして挙げています。
そのため「228レビューで証明された」という表現は避ける必要があります。
レビューの本数と、完全に独立した情報の量は同じではありません。
実は、砂糖のumbrella reviewは今回が初めてではありません
もう一つ、今回の研究の位置づけを知るうえで大切なのが、2023年にBMJへ掲載されたHuangらのumbrella reviewです。
今回の論文の著者らも、この先行研究を引用しています。
Huangらのレビューでは73の研究を含め、2型糖尿病、体重、肥満、メタボリック症候群、冠動脈疾患、LDLコレステロール、高血圧、膵がんなど、さまざまな健康アウトカムが検討されていました。
一方、今回の著者らは、2023年のreviewは代謝関連を中心に扱い、定量的な二次解析に適したsystematic reviewを主に組み入れていたため、口腔疾患、口腔マイクロバイオーム、その他の全身アウトカムが十分に表現されていなかったと説明しています。
ですから、2026年の今回の研究の新しさは、
「砂糖が全身にも悪いことを初めて発見した」
ことではありません。
口腔と全身を、より広い範囲で同じumbrella reviewの中へ並べ、歯科の予防という視点まで含めて俯瞰したことにあります。
そもそも今回の「砂糖」は、一種類ではありません
次に気になったのが、「sugar」という言葉です。
患者さんと「砂糖」の話をすると、多くの場合、白砂糖やお菓子に入っている砂糖をイメージすると思います。
でも研究の世界では、もう少し複雑です。
free sugarsとは何でしょうか
WHOでいうfree sugarsには、食品メーカー、調理者、消費者が食品や飲料へ加えた単糖・二糖だけではなく、蜂蜜、シロップ、果汁、濃縮果汁などに含まれる糖も含まれます。
一方、果物や野菜など、食品の細胞構造の中にもともと存在している糖を、すべて同じfree sugarsとして扱うわけではありません。
今回のumbrella reviewは、さらに広い「糖」を扱っています
今回のumbrella reviewの組み入れ基準は、WHOのfree sugarsだけに限定されたものではありません。
- free sugars
- added sugars
- total sugars
- monosaccharides
- disaccharides
- fructose
- sucrose
- sugar-sweetened beverages
- soft drinks
- sweets
- chocolate
- fruit juice
- honey
- FODMAPを含む食事パターン
などが対象になっています。

つまり、「砂糖」という同じ言葉の中に、かなり違う曝露条件が混ざっているということです。
コーラを毎日飲む研究と、100%果汁を調べた研究と、フルクトースを一定量与えた研究と、食事パターン全体を調べた研究を、完全に同じものとして扱うことはできません。
今回の証拠の中心にあったのは「砂糖入り飲料」でした
ここは今回の論文を読むうえで、とても重要だと思いました。
著者らは、糖源について詳細なデータが得られた範囲で、132件(68%)がsugar-sweetened beverages、つまり砂糖入り飲料を扱っていたと報告しています。
そのほか、論文では、
- 固形の糖:17
- juice:12
- fructose:13
- FODMAP:20
と整理されています。
ここで大切なのは、「228本の68%」と単純計算する数字ではないことです。

原著が「詳細なデータが得られた範囲で132件(68%)」と報告している数字です。
そして、この偏りを考えると、
「砂糖一般が18の健康問題に関係した」
とまとめるよりも、
「今回積み上がっている証拠のかなりの部分は、砂糖入り飲料を扱った研究だった」
と読む方が正確です。
歯科でも、砂糖入り飲料はよく問題になります。
ただし歯科の場合には、もう一つ大切な視点があります。
砂糖入り飲料は、糖を細菌が利用して酸をつくるという虫歯の問題だけではなく、飲料そのものの酸が歯面へ作用する酸蝕の問題もあります。
逆に、糖を含まない飲料でも酸性であれば、酸蝕という別の問題は残り得ます。
228レビューは、18の健康領域へ整理されました
今回の論文では、systematic reviewの結果が18の健康アウトカム領域へ整理されています。
ここでは「18疾患」とは呼ばない方がよいと思います。
血液検査値、テロメア長、妊娠・出生アウトカム、睡眠など、病名そのものではない項目も含まれているからです。
| 健康アウトカム領域 | 該当systematic review数 |
|---|---|
| 心血管・心代謝アウトカム | 47 |
| 体重管理・メタボリック症候群 | 43 |
| 口腔健康 | 21 |
| 過敏性腸症候群関連 | 20 |
| 認知・神経変性関連 | 19 |
| 2型糖尿病 | 19 |
| 全死亡・テロメア長 | 15 |
| がん | 14 |
| 血液検査値 | 13 |
| 痛風 | 8 |
| 非アルコール性脂肪性肝疾患 | 6 |
| 妊娠・出生アウトカム | 4 |
| 炎症 | 3 |
| 骨健康 | 3 |
| 腎疾患 | 3 |
| 男性妊孕性 | 2 |
| 喘息 | 2 |
| 睡眠 | 1 |

この一覧を見るだけでも分かることがあります。
研究の厚みが、まったく同じではありません。
47本ある領域もあれば、3本、2本、1本しかない領域もあります。
「18領域に関連が報告された」という一文だけでは、この差が見えなくなってしまいます。
そして今回、私が一番気になった数字が「71%」でした
228本のsystematic reviewは、AMSTAR-2という方法を使って評価されています。
| AMSTAR-2 | review数 |
|---|---|
| Critically low | 98 |
| Low | 64 |
| Moderate | 22 |
| High | 44 |

つまり、228本中162本、71%がlowまたはcritically lowでした。
228本ものsystematic reviewがある。
一方で、その7割以上はsystematic reviewとしての方法論的confidenceが低いと評価されている。
この二つが同じ論文の中に並んでいるところが、今回とても印象に残りました。
AMSTAR-2でlowだから「結果が間違っている」という意味ではありません
ここは誤解しやすいところです。
AMSTAR-2は、そのsystematic reviewが方法論的にどれだけ適切につくられているかを見るための批判的評価ツールです。
検索方法は十分だったか。
研究選択は適切だったか。
risk of biasを適切に評価したか。
meta-analysisを行う場合、その方法は妥当だったか。
利益相反などを適切に扱っているか。
そういったsystematic reviewの作り方を評価します。
ですから、
「71%がlowだった」=「71%の研究結果が間違っていた」
という意味ではありません。
逆も同じです。
AMSTAR-2がhighだから、
「その健康アウトカムと砂糖との因果関係がhigh certaintyで確定した」
という意味でもありません。
今回のumbrella reviewでは、各健康アウトカムについてGRADEを使ってcertainty of evidenceを改めて判定したわけではありません。
著者ら自身も、systematic reviewの方法論評価にはAMSTAR-2を用いた一方、追加のGRADE評価は実施していないと明記しています。
つまり、
レビューの方法論的な質
と、
その関連をどこまで因果関係として確信できるか
は、別の話なのです。
まず口の中――虫歯は今回の中でも比較的証拠の厚い領域でした
歯科衛生士として、まず気になるのはやはり口腔領域です。
う蝕・酸蝕など歯の硬組織については、15本のsystematic reviewが含まれていました。
1本を除き、糖摂取とう蝕との有意な正の関連を報告しています。
AMSTAR-2では、high 3本、moderate 1本、low 6本、critically low 5本でした。
もちろんlowやcritically lowも含まれています。
それでも今回の著者らは、15のsystematic reviewが含まれたう蝕について、口腔領域の中では比較的robustなevidence baseと評価しています。
これは、
「今回のumbrella reviewで初めて、砂糖が虫歯と関係すると分かった」
という話ではありません。
砂糖とう蝕の関係は、これまでも長年研究されてきました。
今回の価値はむしろ、比較的よく分かっているう蝕と、まだ研究の薄い領域を同じ地図の中で見比べられたことにあると思います。
虫歯では「どれだけ摂るか」だけでなく「何回口に入るか」も大切です
全身疾患の研究では、「1日何serving」「高摂取群と低摂取群」のように、総摂取量を比較することがよくあります。
でも歯科ではもう一つ、摂取頻度という軸があります。
同じ量の砂糖でも、食事のときにまとめて摂る場合と、仕事をしながら少しずつ飴を舐める場合、砂糖入りのカフェラテを何時間もかけて飲む場合では、口の中が酸性に傾く回数や時間が変わります。
ですから歯科で食生活を聞くときは、
「甘いものをどのくらい食べますか?」
だけではなく、
「何回くらいですか?」
「長時間少しずつ飲んでいませんか?」
というところも見ます。
今回のumbrella reviewが教えてくれる「量」の視点に、歯科では「頻度」や「接触時間」の視点も加えて考える必要があります。
砂糖の話は「虫歯」だけではなく、歯ぐきにも広がっています
歯周疾患について含まれていたsystematic reviewは、4本でした。
このうち3本では糖摂取との有意な正の関連が報告され、1本では明確な関連を認めませんでした。
砂糖入り飲料と歯肉出血、甘い飲み物や食品の高頻度摂取と歯周疾患、糖摂取を減らした場合の歯肉炎症低下などが報告されています。
ここは興味深いところです。
「砂糖は虫歯だけ」というイメージから、一歩外へ出ています。
ただし、ここでも数字を比べてみます。
う蝕・酸蝕は15 reviews。
歯周疾患は4 reviews。
同じ「口の病気」でも、証拠の厚みは違います。
ですから、砂糖とう蝕の関係と、砂糖と歯周疾患の関係を同じ確度で説明するのは適切ではありません。
患者さんへお話しするときにも、
「虫歯との関係はかなりよく研究されています。一方、歯ぐきについても関連研究はありますが、虫歯ほど研究は厚くありません」
くらいの距離感がよいと思います。
口腔マイクロバイオームになると、レビューはさらに2本です
口腔マイクロバイオームについては、2本のsystematic reviewが含まれていました。
高糖摂取と口腔細菌叢の多様性低下、さらにStreptococci、Scardovia、Veillonella、Rothia、Actinomyces、Lactobacilliなどの変化が報告されています。
ただしAMSTAR-2では、1本がmoderate、1本がcritically lowでした。
ですから、
「砂糖を食べると口腔マイクロバイオームが壊れることが証明された」
とまでは言えません。
同じ口腔領域でも、15本、4本、2本。
この差そのものが、今回の論文の読み方をよく表しています。

全身では2型糖尿病がよく研究されていました
全身領域では、2型糖尿病がかなり多く研究されています。
今回のumbrella reviewには、19本のsystematic reviewが含まれていました。
SSB、つまり砂糖入り飲料との関係を調べたreviewが多く、複数のdose-response analysisで1日1serving程度のSSB摂取増加と2型糖尿病リスク上昇との関連が報告されています。
レビューによって数字は異なりますが、今回の論文では、1 serving/dayあたり13〜31%程度のリスク上昇が報告されたとまとめられています。
この数字だけを見ると、
「やっぱり砂糖と糖尿病の関係はかなり強いんだ」
と思うかもしれません。
ところが、ここでもAMSTAR-2を見ると印象が変わります。
19本のうち、critically lowが14本、lowが4本、moderateが1本でした。

つまり、
結果が繰り返し同じ方向を向いていること
と、
systematic reviewとして方法論的に強いこと
は、同じではありません。
肥満・体重管理では43 reviews――でもここでも中心はSSBです
体重管理・肥満関連はさらに研究量が多く、43本のsystematic reviewが含まれていました。
そのうち35 reviewsがSSBと肥満、過体重、体重変化などを扱い、多くで正の関連が報告されています。
Discussionでは、液体の糖は固形食品と比べて満腹感が弱く、その結果として総エネルギー摂取量を増やしやすい可能性も議論されています。
ただし、これも「液体の砂糖なら必ず太る」という意味ではありません。
体重は、総エネルギー摂取量、身体活動、食事全体、睡眠、薬剤、基礎疾患など、多くの要因に影響されます。
今回の研究から読み取れるのは、砂糖入り飲料を多く摂取する人で、体重増加や肥満との関連が繰り返し報告されているというところまでです。
心血管・心代謝は47 reviews――「砂糖一般」と「SSB」を分けて読みます
心血管・心代謝関連は、47 systematic reviewsと、今回の18領域の中でも非常に大きなグループです。
高血圧、脳卒中、冠動脈疾患、心不全、心血管死亡などが扱われています。
特にSSB摂取との関連は、複数reviewで繰り返し報告されています。
一方、added sugarsやfree sugarsそのものを扱ったreviewは、SSBの研究ほど単純に同じ方向へ揃っているわけではありません。
ここでも、
「砂糖入り飲料との関連」
と、
「食品中のあらゆる糖との関連」
を混同しないことが重要です。
面白かったのは、痛風のreview品質が比較的良かったことです
痛風・高尿酸血症については、8 systematic reviewsが含まれていました。
数だけを見ると、2型糖尿病の19本より少ないです。
ところがAMSTAR-2では、high 4本、moderate 1本、low 3本、critically low 0本でした。

これは今回、とても面白い比較です。
2型糖尿病は19 reviewsありますが、14本がcritically low。
痛風は8 reviewsですが、critically lowは0。
もちろん、これだけで「痛風の方が因果関係まで強く証明されている」と言うことはできません。
AMSTAR-2は因果関係のcertaintyそのものを測るものではないからです。
でも少なくとも、reviewの本数が多いことと、systematic reviewとしての方法論的な質が高いことは別だとよく分かります。
IBSは20 reviewsあっても、「砂糖でIBSになる」と読むのは危険です
過敏性腸症候群、IBS関連では、20 reviewsが含まれています。
本数だけならかなり多い領域です。
しかし、中身を見るとlow-FODMAP dietを扱ったsystematic reviewが多く含まれています。
FODMAPとは、Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides And Polyolsの略です。
一般に患者さんが「砂糖」と聞いて思い浮かべる白砂糖だけの話ではありません。

ここがumbrella reviewを読む難しいところです。
カテゴリーだけ見ると、
「砂糖関連のIBS reviewが20本」
となります。
でも中身を見ると、一般的なfree sugarとはかなり異なる発酵性炭水化物の制限を扱う研究が多く含まれています。
ですから、
「砂糖を食べるとIBSになる」
という記事にはできません。
むしろ、カテゴリー名だけではなく、実際に何を曝露として調べた研究なのかを見る必要があるという例として、とても分かりやすいと思います。
脂肪肝では「糖の種類」だけでなく、総エネルギーも重要そうです
非アルコール性脂肪性肝疾患、NAFLDについては、6 reviewsでした。
SSB摂取とNAFLDとの正の関連を報告したreviewがあります。
また、高エネルギー条件でフルクトースを多く摂取した研究では、肝内脂肪の増加が報告されています。
一方、等エネルギー条件の試験では、肝関連指標に明確な変化が確認されなかったとするreviewもありました。
つまり、
「フルクトースだから脂肪肝になる」
と一言では言えません。
何を摂ったかだけでなく、総エネルギー摂取量という条件も見なければいけません。

認知・精神関連は19 reviews――でも一つの病気を見ているわけではありません
認知・精神関連は、19 systematic reviewsでした。
ただ、その中身はかなり幅広いです。
- ADHD
- うつ
- 不安
- Parkinson病
- dementia
- mood
- executive function
- attention
- memory
などが一つの大きな領域に含まれています。
短時間の糖摂取による気分変化を調べた研究と、長年のSSB摂取と認知症発症との関係を調べた研究では、研究しているものがまったく違います。
だから、
「砂糖は脳に悪い」
という一言にまとめてしまうのは危険です。
関連が報告されている領域はある。
でも、何をアウトカムにした研究なのかを分けて読む必要があります。
がん14 reviewsでも、「砂糖ががんを起こす」とは言えません
がんについては、14 systematic reviewsが含まれていました。
全体がんリスクや、一部の大腸がん、肝がん、乳がん、前立腺がんなどとの関連が報告されています。
ただし、今回の著者ら自身も、がん領域ではより質の高いsystematic reviewが必要だと評価しています。
ですから、
「砂糖ががんを起こす」
と書くのは明らかに言い過ぎです。
今回のumbrella reviewに「cancer」という項目が存在することと、砂糖がそのがんの直接原因だと証明されたことは、まったく同じではありません。
全死亡リスクの数字も、「寿命が○%短くなる」という意味ではありません
全死亡・テロメア長に関するreviewは15本。
SSB高摂取と全死亡との関連については、4〜12%程度のリスク上昇を報告したsystematic reviewが含まれていました。
でもこれは、
「砂糖入り飲料を飲むと寿命が4〜12%短くなる」
という意味ではありません。
研究で使われるrelative riskと、寿命そのものの短縮率は別です。
また、この領域の多くは観察研究です。
運動習慣、喫煙、肥満、食事全体、社会経済的背景などが、糖摂取と死亡リスクの両方に関係している可能性があります。
こういうところほど、数字だけが独り歩きしやすいので注意が必要です。
腎疾患3、骨3、喘息2、睡眠1――「18領域」の中にもかなり薄いところがあります
今回の18領域の中には、review数がかなり少ないものもあります。
腎疾患は3 reviews。
骨健康も3 reviews。
喘息は2 reviews。
そして睡眠は、1 systematic reviewだけでした。
「18の健康領域と関連」
というタイトルだけでは、47 reviewsある領域と1 reviewしかない領域が同じように見えてしまいます。
でも実際には、エビデンスの厚みはかなり違います。
睡眠の研究は「逆因果」を考える分かりやすい例です
睡眠について含まれたsystematic reviewでは、短時間睡眠の人ほど糖やSSBの摂取量が多いという関連が報告されています。
でも、そのreviewに含まれた研究はcross-sectional study、横断研究でした。
だから、
糖を多く摂る → 睡眠時間が短くなる
なのか、
睡眠不足 → 甘いものやenergy drinkを多く摂る
なのか分かりません。
あるいは、長時間労働、夜型生活、ストレスなど、別の要因が両方に影響している可能性もあります。
原著自身も、この睡眠に関する結果から因果関係を判断することはできないとしています。
これは、「関連」と「原因」は違うということを考える、とても分かりやすい例だと思います。

今回のumbrella review自体も「因果関係は結論できない」と書いています
ここは今回の記事で最も大切なところの一つです。
今回の著者ら自身がLimitationsで、基礎となる証拠の多くはobservational studiesから来ているため、causal conclusions cannot be drawn、つまり因果関係について結論することはできないと明記しています。

今回の研究が主として示したのは、
砂糖やSSBの摂取量が多いことと、ある健康アウトカムとの間に関連が報告されている
ということです。
そこから一気に、
砂糖がその病気を直接起こした
と結論することはできません。
関連が繰り返し観察されることには意味があります。
でも因果関係を考えるには、時間的な順序、交絡因子、用量反応、介入試験、他研究との整合性など、さらに多くの情報を見る必要があります。
「砂糖だけ」を見ていない研究もあります
さらに著者らは、別の大きな問題にも触れています。
今回含まれたsystematic reviewの中には、砂糖だけを独立して調べたのではなく、食事パターン全体の一要素として糖摂取を扱った研究もあります。
その場合、糖摂取量が多い人は同時に、
- 総エネルギー摂取が多い
- 加工食品が多い
- 飽和脂肪摂取が多い
- 運動量が少ない
- screen timeが長い
- 健康行動や健康意識が異なる
といった傾向を持っている可能性があります。

そうなると、観察された健康アウトカムが、どこまで砂糖そのものによるものなのか、食事パターン全体なのか、生活習慣全体なのかを完全に切り分けるのは難しくなります。
今回のumbrella reviewには、ほかにも方法論上の限界があります
ここまで出てきた内容を含め、著者らは複数のlimitationsを挙げています。
- 含まれたsystematic reviewの多くがAMSTAR-2でlowまたはcritically lowだったこと
- 複数review間の一次研究重複を正式には定量していないこと
- free sugars、added sugars、SSB、total sugars、dietary patternsなど曝露定義が大きく異なること
- 個別associationについて追加のGRADE評価をしていないこと
- 基礎となる証拠の多くが観察研究であり、因果関係を結論できないこと
- 検索対象言語が英語とドイツ語に限られていたこと
228本という大きな数字だけを見ると「全部調べ尽くされた」という印象を持ちますが、umbrella reviewにも当然、検索範囲と方法論上の境界があります。
利益相反の記載も「研究を読む文脈」の一つです
今回の論文では、組み入れられた一部のsystematic reviewに、食品・飲料メーカー、糖関連団体、食品産業などとの利益相反や資金提供の記載があったこともDiscussionで取り上げられています。
ただし、ここは慎重に読む必要があります。
「企業との関係がある」=「その研究結果が間違っている」
ではありません。
利益相反は、研究結果を解釈するときに確認しておく情報の一つです。
研究デザイン、解析方法、再現性、他の独立研究との整合性などと合わせて評価する必要があります。
ちょうど最近、「糖だけでは決まらない」研究も読みました
少し前に院長コラムで、2026年9月30日にNatureへ掲載された、広域抗菌薬使用中の食事と腸内細菌叢に関する研究を取り上げました。
あの研究でも、ポイントは単純な、
「砂糖を食べると腸内細菌が悪くなる」
ではありませんでした。
広域抗菌薬で腸内生態系が大きく揺らいでいる状況で、糖の多い食事との組み合わせによって腸内細菌叢の変化がより目立った、という背景条件との組み合わせが重要な研究でした。
同じ食事でも、薬、宿主状態、基礎疾患、総エネルギー、他の食品との組み合わせによって意味が変わる可能性があります。
100%果汁と砂糖入り飲料が、いつも同じ結果になるわけでもありません
今回のreviewを読んでいてもう一つ興味深かったのは、糖源によって結果が違う場合があることです。
いくつかの全身領域では、SSBではリスク増加との関連が報告されていても、100%fruit juiceでは同じ関連が確認されないreviewがあります。
一方、歯科では別の評価軸があります。
100%fruit juiceでも、酸による歯のerosion、つまり酸蝕については注意が必要です。
今回含まれたsystematic reviewでも、RCTでは100%果汁によるエナメル質硬さ低下や酸蝕増加が報告された一方、prospective cohort studyでは同じ関連が確認されなかったという結果もあります。
つまり、
糖が何g入っているかだけで、食品や飲料全体の健康影響を決めることはできません。
液体か固体か。
酸性度はどうか。
どんな栄養素を含むか。
どのくらいの量か。
どんな頻度で摂るか。
背景が違います。
WHOはfree sugarsを総エネルギーの10%未満にすることを勧めています
今回の論文も、WHOのfree sugarsに関する推奨を背景にしています。
WHOでは、free sugarsを総エネルギー摂取量の10%未満にすることを強く推奨しています。
さらに5%未満へ減らすことについて、追加的な健康利益が期待できるとして条件付きで推奨しています。
特にこの5%未満という考え方では、う蝕など口腔健康のエビデンスが重要な背景になっています。
ただ、診療室で患者さんへお話しするときに、いきなり、
「総エネルギーの5%です」
とだけ言っても、なかなか生活へ落とし込めません。
歯科衛生士としては、まず、
- 毎日どんな飲み物を飲んでいるか
- 加糖飲料を一日に何回飲むか
- 少量ずつ長時間飲んでいないか
- 仕事中に飴やグミを何度も口にしていないか
- 寝る前に甘い飲み物を飲んでいないか
と、実生活の中で見つけやすいところから一緒に確認する方が現実的だと思います。
「砂糖を減らす」ことと「人工甘味料へ替える」ことは別の問いです
ここで、
「じゃあ全部人工甘味料に替えればいいの?」
と思う方もいるかもしれません。
でも、free sugarを減らすことと、代わりにどの甘味料を使うかは別の研究課題です。
人工甘味料も、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、ネオテーム、アドバンテームなど、それぞれ吸収、代謝、ADIなどが異なります。
今回の記事ではそこまで広げません。
「砂糖を減らす」という一つの結論から、
「だから人工甘味料なら好きなだけ摂ってよい」
という別の結論へ自動的に飛ばないことが大切です。
歯科で食生活を聞くのは、虫歯だけのためではありません
今回の論文では、common risk factor approachという考え方がかなり意識されています。
これは、一つの修正可能な生活習慣が複数の慢性疾患に関係することがあるため、病気ごとに完全に別々の対策をするだけではなく、共通するリスク因子にも目を向けようという考え方です。
砂糖や砂糖入り飲料は、その一例として扱われています。
歯科で、
「甘い飲み物はよく飲みますか?」
と聞くとき、もちろん虫歯リスクを知る目的があります。
でも今回の研究を読むと、それだけではありません。
肥満、2型糖尿病、心血管・心代謝など、全身の健康と重なる食習慣について考えるきっかけにもなります。
もちろん、歯科衛生士が糖尿病や心臓病を診断するわけではありません。
でも、口の中から見つかった生活習慣をきっかけに、患者さん自身が食生活を振り返るという役割はあると思います。
口の中は、食生活を振り返る早い手がかりになることがあります
今回の著者らはDiscussionで、う蝕、口腔microbiomeの変化、歯周炎症などの口腔所見は、一部の慢性全身疾患よりも比較的短い期間で現れ得るため、不健康な食事パターンを考える早い臨床的手がかりになり得ると論じています。
ここは、
「口の中を見れば全身疾患が分かる」
という意味ではありません。
虫歯があるから将来糖尿病になる、とも言えません。
そうではなく、
新しい虫歯が繰り返しできる。
歯の酸蝕が目立つ。
歯肉炎症が強い。
そういう口の変化をきっかけに、
「最近の飲み物や間食はどうだろう?」
と一緒に振り返ることができる、ということだと思います。
歯科衛生士としては、「砂糖禁止」より先に見たいことがあります
こういう論文を読むと、
「砂糖を減らしましょう」
と言いたくなります。
でも診療室では、私はもう少し細かく見たいと思います。
まず「飲み物」
普段の水分補給は、水なのか。
無糖のお茶なのか。
加糖コーヒーなのか。
清涼飲料なのか。
スポーツドリンクなのか。
同じ「甘いもの」でも、毎日何度も飲む液体の糖は、口の中へ繰り返し入ってきます。
次に「頻度」
一日一回、食事と一緒にデザートを食べるのか。
仕事中ずっと飴を舐めているのか。
数時間かけて砂糖入りの飲み物を飲むのか。
歯科ではかなり意味が違います。
次に「形」
whole fruitなのか。
fruit juiceなのか。
固形のお菓子なのか。
SSBなのか。
今回のreviewでも、これらは必ずしも同じ結果になっていません。
最後に「その患者さん自身」
虫歯の既往。
唾液量。
口腔乾燥。
歯肉炎症。
歯周病。
糖尿病などの持病。
服薬。
生活時間。
全部違います。
だから、「砂糖」という一語だけで患者さんを評価することはできません。

「全部やめてください」より、減らせるところを一緒に探したい
食事指導というと、
「甘いもの禁止」
になりがちです。
でも、現実にはそれだけでは続きません。
たとえば、毎日何本も加糖飲料を飲んでいるなら、その中の一部を水や無糖のお茶へ置き換えてみる。
仕事中ずっと飴を舐めているなら、食べる時間や回数を見直してみる。
寝る前に甘い飲み物を飲んでいるなら、その習慣を一つ見直してみる。
そういう小さな変更でも、少なくとも口腔への糖曝露を減らす方向には働きます。
ここは今回のumbrella reviewが直接検証した介入結果ではありません。
論文を読んだうえで、歯科衛生士として実際の患者さんと一緒に考えたいことです。
研究結果と、診療室での実践は分けて考える必要があります。
228本もある。それでも「まだ分からない」は残っています
今回の論文を読み終えて、頭に残った数字は三つでした。
228
砂糖と健康について、それだけ多くのsystematic reviewがある。
71%
228 reviewsのうち、AMSTAR-2でlowまたはcritically lowと評価された割合です。
68%
著者らが、糖源について詳細なデータが得られた範囲で、SSBを扱っていたと報告した割合です。
この三つを並べると、今回の研究の面白さがよく分かります。

研究はたくさんある。
でも、
証拠の強さは一様ではない。
そして、
調べられている「砂糖」もかなり偏っている。
だから、
「砂糖が18種類の病気を起こすことが証明された」
とまとめてしまうと、今回の研究で本当に面白いところを全部落としてしまうと思います。
私が今回の論文で一番面白いと思ったこと
最初にこの論文を見たときは、
「228 reviews」
「18の健康アウトカム」
という数字に目が行きました。
やっぱり大きな数字は目立ちます。
でも本文を読んでいくと、だんだん興味が変わりました。
同じ「砂糖との関連」というテーマなのに、reviewが47本ある領域もある。
1本しかない領域もある。
う蝕・酸蝕は15本。
歯周疾患は4本。
口腔microbiomeは2本。
2型糖尿病は19本あるけれど、14本がAMSTAR-2でcritically low。
痛風は8本だけれど、critically lowは0。
同じ「関連あり」でも、背景はこんなに違います。
これを見ていると、
「研究があるか、ないか」だけではなく、「その研究がどのくらい厚く、どんな方法で積み上がっているか」を見ることが大切
なのだと思います。
まとめ|砂糖は虫歯だけの問題ではない。でも「全部砂糖のせい」でもありません
今回のumbrella reviewでは、砂糖摂取と口腔・全身のさまざまな健康アウトカムとの関連が整理されました。
う蝕については、長年積み重ねられてきた比較的厚い研究があります。
歯周疾患にも関連を示すsystematic reviewがありますが、う蝕ほど研究は多くありません。
口腔microbiomeになると、reviewはさらに少なくなります。
全身では、肥満、2型糖尿病、心血管・心代謝関連などについて多くのsystematic reviewがあります。
一方で、腎疾患、骨、喘息、睡眠などはreview数そのものが少ない領域です。
そして228 reviewsの71%が、AMSTAR-2ではlowまたはcritically lowと評価されました。
さらに、糖源について詳細なデータが得られた範囲では、著者らは132件(68%)がSSBを扱っていたと報告しています。
複数review間の一次研究重複は正式には定量されていません。
free sugars、added sugars、SSB、total sugars、dietary patternsなど、曝露の定義も一様ではありません。
個別associationについて追加のGRADE評価も行われていません。
そして、基礎となる証拠の多くが観察研究を含むため、因果関係をそのまま結論することもできません。
ですから、
「砂糖は虫歯だけの問題ではない」
というのは、今回の研究を読んだ一つの答えです。
でも同時に、
「だから砂糖が18の病気の直接原因だ」
というのも違います。
私たち歯科衛生士が患者さんと一緒に見たいのは、砂糖が「良い」か「悪い」かの二択だけではありません。
何を食べているのか。
どんな飲み物を選んでいるのか。
どのくらいの量なのか。
一日に何回なのか。
長時間少しずつ摂っていないか。
そして、その方の口の中や全身の背景はどうなのか。
そこまで含めて考えることが大切だと思います。
「甘いものって、虫歯のために控えるんですよね?」
と聞かれたら、今なら私は、
「虫歯にとって大切なのはもちろんですが、最近はそれだけではないことも研究されています。ただ、全部が同じ強さで分かっているわけではないんですよ」
と答えると思います。
そのくらいの距離感が、今ある証拠にはちょうどいいのかもしれません。
参考文献
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