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広域抗菌薬の使用中、糖の多い食事で腸内細菌の乱れが強まる?173人・9,419食のNature研究

広域抗菌薬の使用中、糖の多い食事で腸内細菌の乱れが強まる?173人・9,419食のNature研究|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

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2026年10月02日

広域抗菌薬の使用中、糖の多い食事で腸内細菌の乱れが強まる?173人・9,419食のNature研究

(院長の徒然コラム)

はじめに

抗菌薬を使うと、腸内細菌叢が変化する。

これは、いまではそれほど珍しい話ではありません。

歯科でも抗菌薬を処方することがありますし、このコラムでも以前、抗菌薬と腸内細菌叢の関係や、必要以上に広域な抗菌薬を使わないことの重要性を取り上げてきました。

では、その「次」の疑問は何でしょうか。

抗菌薬による腸内細菌叢の乱れは、薬だけで決まるのでしょうか。

抗菌薬によって腸内細菌同士のバランスが大きく崩れている最中に、そこへ糖の多い飲料、甘い食品、栄養補助飲料などが入ってきたら、その後の生態系の崩れ方は変わるのでしょうか。

2026年9月30日、Natureに掲載された研究では、造血幹細胞移植のため入院していた173人について、実に9,419食を詳細に記録しました。

さらに158人から得られた1,009便検体を解析すると、広域抗菌薬に曝露していた時期では、糖を多く含む食品群の摂取が多いほど腸内細菌叢のα-diversityが低く、Enterococcusが増える方向がみられました。

そして、このヒトで見つかった関連を研究者たちはマウスでも検証しています。

抗菌薬を投与したマウスへショ糖を追加すると、抗菌薬だけの場合よりEnterococcusの増加が強く、しかも長く続きました。

非常に面白い研究です。

ただし、最初に大事なことを書いておきます。

これは「抗菌薬を飲んでいる人は甘い物を食べてはいけない」と証明した研究ではありません。

まして、「抜歯後に数日間抗菌薬を飲むなら砂糖は禁止」という研究でもありません。

今回の対象は、血液がんに対して同種造血幹細胞移植を受ける、非常に特殊な患者さんたちです。

その違いをきちんと意識しながら、この論文を読んでみます。

今回のNature研究は「砂糖が腸に悪い」というだけの研究ではありません

今回の論文は、Dai A, Ballweg A, Jogia W, et al. “Sugar-rich foods exacerbate antibiotic-induced microbiome disruption”です。

タイトルだけを見ると、「糖の多い食事が腸内細菌に悪い」という、よくある栄養記事のようにも見えます。

しかし研究内容を読むと、主題は少し違います。

研究者が知りたかったのは、食事の影響が、腸内細菌叢の置かれた状態によって変わるのではないかということです。

腸内細菌叢が比較的安定した健康な人と、抗菌薬・化学療法・炎症などによって生態系が激しく揺らいでいる患者では、同じ食事でも意味が違うかもしれません。

そこで研究者たちは、同種造血幹細胞移植、allo-HCTを受ける患者に注目しました。

今回の研究は、ヒトの詳細な食事記録、連続した便検体、臨床上の抗菌薬曝露、Bayesian multilevel model、そしてマウス実験を組み合わせています。

人で関連を見つけて終わりではなく、その結果から仮説を立て、動物実験で操作的に検証しているところが大きな特徴です。

173人はどんな患者だったのでしょうか

今回の173人は、一般の健康成人ではありません。

ニューヨークのMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで、血液悪性腫瘍に対して同種造血幹細胞移植を受けた成人です。

造血幹細胞移植では、移植前後に非常に強い治療負荷がかかります。

化学療法、好中球減少、感染症、広域抗菌薬、口腔・咽頭の粘膜炎、悪心、食欲低下、体重減少、GVHDなどが同時に起こり得ます。

この研究でも好中球生着までの中央値は12日、範囲は8〜37日でした。

食事を十分に取れず、TPN、つまり中心静脈栄養を必要とした患者は23人、経腸栄養を必要とした患者も5人いました。

この特殊な患者集団であることには、二つの意味があります。

一つは、腸内細菌叢が大きく揺れるため、食事との相互作用を観察しやすかったことです。

もう一つは、今回の数字をそのまま一般の人へ当てはめることができないということです。

この両方を忘れずに読む必要があります。

なぜ「9,419食」まで分かったのでしょうか

今回の研究で特に面白いのが、食事の測り方です。

栄養疫学では、「この1か月に魚を週何回食べましたか」「甘い物をどれくらい食べますか」といった、過去の食生活を思い出して答える調査が使われることがあります。

もちろん重要な方法ですが、人の記憶には限界があります。

今回の研究はかなり違います。

病院で提供された食事について、患者自身が食後すぐ、0%、25%、50%、75%、100%のどれだけ食べたかを記録しました。

その情報を病院厨房が持つ料理のレシピや重量データと結び付け、さらに研究栄養士が内容を確認しています。

最終的に記録されたのは、173人、9,419食、40,702食品項目でした。

そして腸内細菌解析に利用できたのが、158人、1,009便検体です。

「普段甘い物が好きですか」という大まかな調査ではなく、この便を採取する直前に、実際に何をどれくらい食べていたのかへかなり近づいたデータです。

なぜ便を採る「直前2日」の食事を見るのでしょうか

研究者は最初から「2日」と決め打ちしたわけではありません。

便検体と、1日前、2日前、3日前、4日前、5日前までの食事をそれぞれ対応させ、食事構成と腸内細菌叢構成の関係を調べています。

その結果、1日から2日の窓へ広げたときに得られる情報の改善が大きく、一般的なヒトの腸管通過時間とも整合するため、主要解析では便採取前2日間の平均食事摂取量を使いました。

ここは後で出てくる「100g」という数字にも関係します。

研究のモデルでいうSweets 100gとは、単一の食事で100g食べたという意味ではなく、便採取前2日間の平均1日摂取量として、対象カテゴリーの摂取が100g多い場合を表しています。

しかも後述するように、その100gは通常の食品重量そのものでもありません。

つまり今回見ているのは、「何年も続けた食生活」というより、治療中の腸内細菌が大きく動いている数日間に、何を食べていたかです。

この研究の「抗菌薬あり・なし」は、普通の意味とは少し違います

もう一つ注意したいのが「抗菌薬曝露」です。

173人全員が、食事記録期間中に少なくとも一つの抗菌薬を受けていました。

多くの患者では最初から感染予防目的でフルオロキノロンや静注バンコマイシンなどが使われています。

その後、発熱や感染の可能性が出てくると、より広域の抗菌薬へ切り替わります。

実際、173人中138人、約80%がこのような広域抗菌薬へ移行しています。

今回主要解析で「microbiome-damaging antibiotics」として扱われたのは、piperacillin–tazobactam、carbapenem系、cefepime、linezolid、経口vancomycin、metronidazoleなどです。

一方、予防的なfluoroquinoloneや静注vancomycinは、この主要な広域抗菌薬曝露の変数には含めていません。

ですから、「抗菌薬を飲んだ人」と「抗菌薬を全く飲んでいない人」を比較した研究ではありません。

より正確には、移植治療という特殊な環境の中で、腸内細菌をより強く乱し得る広域抗菌薬へ曝露された直近2日間と、そうではない期間を比較したと考えた方がよいでしょう。

論文の“Sweets”は「お菓子」だけではありません

ここも非常に誤解しやすいところです。

論文では食品をFNDDSという分類体系へ当てはめています。

その中で今回注目されたカテゴリーは、“sugars, sweets and beverages”です。

論文では短く“Sweets”と呼んでいます。

しかし、日本語の「お菓子」と完全に同じではありません。

このカテゴリーには糖類、甘い食品、甘い飲料、スポーツドリンク、nutritional drinks、nutritional shakesなども含まれます。

さらに治療後半では、胃管から投与される一部の栄養製剤までFNDDS上でSweets側へ分類される場合がありました。

つまり、「甘いケーキやチョコレートをたくさん食べた患者」だけを比較しているわけではありません。

栄養補助飲料がSweetsに入ったせいで結果が出たのでしょうか

これは当然出てくる疑問です。

移植患者では口腔粘膜炎、悪心、食欲低下などによって通常の食事が難しくなり、栄養補助飲料へ頼ることがあります。

では、Sweetsという分類にoral nutritional supplementsが入っているせいで、今回の結果が見えただけではないか。

研究者もこの問題を確認しています。

ONS、つまりoral nutritional supplementsをSweetsカテゴリーから分離して再解析すると、ONSと非ONSのSweetsの両方で、広域抗菌薬曝露中の摂取が低いmicrobiome diversityと関連しました。

したがって、「栄養補助飲料がSweetsへ分類されたという分類上の事情だけで結果が出た」とは考えにくくなります。

それでも食品分類は複雑です。そこで研究者は、さらに別の方向からも確認しています。

「100g」も、普通の食品100gではありません

ここは数字だけが一人歩きしやすいところです。

研究で使われている食品重量は、dehydrated weightです。

食品から水分量を差し引いて計算した重量です。

論文自身も、「Sweets 100g増加」と表現するときの100gは、このSweetsカテゴリー食品の脱水重量であることを明記しています。

さらに前述のとおり、モデルの係数は便採取前2日間の平均1日摂取量100gあたりとして推定されています。

したがって、「チョコレート100gを食べるごとに腸内環境が24.1%悪化する」という意味ではありません。

ジュース100mLでもありません。砂糖100gそのものでもありません。

この点はかなり大切です。

まず、広域抗菌薬だけでも腸内細菌の多様性は低下していました

今回の主要アウトカムの一つが、α-diversityです。

α-diversityは、簡単にいえば一つの便検体の中で細菌群集がどの程度多様であるかを見る指標です。

今回使われたのはinverse Simpson indexでした。

これは単純に「菌が何種類いるか」だけを見るものではありません。

どれくらい多くの種類がいるかというrichnessと、一部の菌だけが極端に増えていないかというevennessの両方を反映します。

広域抗菌薬への曝露自体が、このα-diversity低下と関連していました。

ここまでは、ある意味予想どおりです。

問題はその先です。

本当に面白かったのは「糖」単独ではなく「広域抗菌薬×糖」でした

食品群としてのSweets摂取だけを見ると、腸内細菌のα-diversityとの明確な関連は出ませんでした。

ところが、広域抗菌薬 × Sweetsという組み合わせを見ると結果が変わりました。

広域抗菌薬へ曝露している状態で、便採取前2日間の平均1日Sweets摂取量が脱水重量で100g多い場合、広域抗菌薬非曝露時と比較して、平均α-diversityがさらに24.1%低いとモデルから推定されました。

95%区間は、7.7〜38.1%低下です。

ここが今回の研究の中心です。

「糖を食べれば腸内細菌が減る」ではありません。

むしろ、広域抗菌薬で腸内生態系が揺らいでいるときに、糖の多い食事の影響が目立って現れたという結果です。

「24.1%低下」は、腸内細菌が24.1%死んだという意味ではありません

この数字はかなりキャッチーです。だからこそ、慎重に扱う必要があります。

24.1%低下したのは、腸内細菌の総数ではありません。

菌種数が24.1%消えたわけでもありません。いわゆる「善玉菌」が24.1%減ったわけでもありません。まして、「腸の健康が24.1%悪化した」という数字でもありません。

今回モデル化されたのは自然対数変換したinverse Simpson indexです。

つまり、細菌群集の多様性という統計指標の平均値が、モデル上さらに低くなるという意味です。

菌が消えなくても「多様性」は下がります

たとえば20種類の菌がいたとしましょう。

最初は20種類がそれなりに均等に存在していた。ところが抗菌薬後、一つの菌だけが全体の80%を占めるようになった。

他の19種類が完全に消えていなくても、群集の均等性は大きく崩れます。

inverse Simpson indexは、このような変化にも反応します。

今回、α-diversity低下と同時に、Enterococcus expansionが注目されたのは偶然ではありません。

一部の菌が大量に増えて群集を占拠すること自体が、diversityを下げる方向へ働き得ます。

ただし、今回の24.1%低下をすべてEnterococcusだけで説明できる、とまでは論文は示していません。

「Sweetsという分類のせいでは?」――そこで糖そのものでも解析しました

“Sweets”という食品分類はかなり広い。なら、「このカテゴリー分けのクセによって結果が出ただけではないか」という疑問が出ます。

そこで研究者は、今度は食品カテゴリーではなく栄養素としてのsugarsを使って解析しました。

すると、やはり広域抗菌薬との相互作用が認められました。

便採取前2日間の平均1日糖摂取が100g多い場合、広域抗菌薬曝露中では、平均α-diversityがさらに20.6%低いという推定でした。

95%区間は、2.0〜35.6%低下です。

24.1%と20.6%は別の解析なので、一つの数字として混ぜることはできません。

しかし、食品群として見ても、栄養素として見ても、同じ方向が出たことは研究の補強材料になります。

調整前のデータでも「広域抗菌薬がある時だけ」関係が見えました

複雑な統計モデルを使ったから結果が出ただけでしょうか。研究者は生のデータも確認しています。

広域抗菌薬曝露があった検体では、Spearman ρ=−0.195、P=3.7×10−5でした。Sweetsが多いほどα-diversityが低い方向です。

一方、広域抗菌薬曝露がなかった検体では、ρ=0.045、P=0.28でした。明確な関連はみられません。

ここでも、糖単独ではなく、抗菌薬によって腸内細菌叢が置かれた「状態」が重要という研究のストーリーが見えてきます。

一般の成人でも、糖が多いほど腸内細菌の多様性は下がるのでしょうか

ここで少し外の研究も見てみましょう。

スウェーデンのMalmö Offspring Studyでは、一般成人を対象に、added sugarについて1,371人の食事と腸内細菌叢を調べています。砂糖入り飲料や人工甘味飲料についても1,000人を超える解析が行われました。

結果として、いくつかの菌属とは関連がみられましたが、多重比較を考慮すると残る関連は限られ、研究者自身も一般人口での糖・甘味飲料と腸内細菌叢の関連は全体としてmodest、つまり控えめと評価しています。

重要なのは、一般成人で、「糖が多いほど一律にα-diversityが大きく低下する」という単純な結果ではなかったことです。

これは今回のNature論文を理解するうえで重要です。

ただし、両研究を直接比較することはできません。

Malmö研究は一般成人を対象とする横断的な解析で、α-diversityにはShannon indexが用いられています。一方、今回のNature研究はallo-HCT患者を縦断的に追跡し、inverse Simpson indexを使い、さらに広域抗菌薬とのinteractionを解析しています。

研究デザインも対象集団もα-diversity指標も違います。

したがって、「一般人では影響なし、HCTでは影響あり」と単純に優劣を比べることはできません。

それでも、抗菌薬で強く揺さぶられたmicrobiomeという特殊な条件で、食事との相互作用が目立った可能性を考える材料にはなります。

「単にたくさん食べられる人と食べられない人の差では?」も調べています

この患者さんたちは食欲が大きく変化します。

それなら、「Sweetsが多い・少ないというより、単純に食事量全体の違いでは?」とも考えられます。

そこで総カロリー摂取も解析されています。

しかし、直前2日間の総カロリー摂取だけでは、今回のα-diversityとの関係を十分説明できませんでした。

もちろん、総カロリーを統計モデルへ入れた=栄養状態に関する交絡がすべて消えたという意味ではありません。

それでも「単に食事量が多かったから」という説明だけではなさそうだ、という材料にはなります。

一部の重症患者だけが結果を引っ張った可能性も確認しています

研究者たちはかなり多くの感度分析を行っています。

たとえば、経腸栄養やTPNに曝露していた139検体を除いた解析では、870検体・139人が残りました。

確定した菌血症やC. difficile感染症を治療している時期を除くと、817検体・147人。

さらに、移植後の重い粘膜炎や栄養障害が進んだ時期の影響をできるだけ避けるため、移植前の194検体・99人だけでも解析しています。

その移植前subsetでは、広域抗菌薬曝露があった30検体・22人では、ρ=−0.38、P=0.04でした。

一方、広域抗菌薬非曝露の164検体・86人では、ρ=0.06、P=0.45でした。

さらに、研究者は重複を避けてランダムに抽出したサブセットによる50回の感度分析も行っています。

その結果、abx×Sweetsの相互作用項は94%の解析で有意でした。

これは「94%の確率で正しい」という意味ではありません。

しかし、一部の特定患者や、大量に便を提供した患者だけが結果を作ったのではないかという疑問に対する一つの確認になります。

「もともと甘い物好きな患者は多様性が低かった」だけでもありませんでした

患者ごとの平均的なSweets摂取量と、その患者固有のmicrobiome diversityの高さ・低さとの関係も調べられています。

結果は、ρ=0.065、P=0.42でした。

つまり、「甘い物をよく食べるタイプの患者だから、もともと腸内細菌の多様性が低かった」という単純な説明ではなさそうです。

今回の研究で見ているのは、同じ患者の治療経過の中で、抗菌薬と直近の食事がどう重なったかという時間的な変化なのです。

そして増えていたのがEnterococcusでした

多様性低下とともに注目されたのが、Enterococcusです。

日本語では腸球菌と呼ばれます。

Enterococcusというと「悪玉菌」と一言で片づけたくなるかもしれませんが、それも正確ではありません。

Enterococcusは人の腸内にも存在し得ます。しかし、抗菌薬などによって生態系が大きく崩れた状況では、一部の菌が大きく増殖し、臨床的に問題となることがあります。

このように、普段は共存し得るが、環境が崩れると問題を起こし得る微生物をpathobiontと表現することがあります。

今回のヒトデータでは、とくにEnterococcus faeciumが目立ちました。

広域抗菌薬曝露後、Sweets摂取量100g増加あたり、E. faeciumのCLR値が0.89上昇し、95%区間は0.22〜1.58でした。

ただし「0.89増加」は89%増加ではありません

ここも数字の読み違いに注意が必要です。

この0.89は、CLR=centered log ratioという組成データ解析で使われる変換値です。

したがって、「0.89倍」でも「89%増加」でもありません。

腸内細菌の研究では、便の中に含まれる菌の割合を扱うため、このような特殊な統計処理が必要になります。

「Enterococcusが89%増えた」と置き換えることはできません。

なぜEnterococcusに注目するのでしょうか

これは今回突然出てきた菌ではありません。

同種造血幹細胞移植の領域では以前から、腸内細菌多様性の低下とEnterococcusの優占が重要な研究テーマになっています。

2023年に17研究をまとめたsystematic review+meta-analysisでは、腸内細菌の多様性が高い患者ではoverall survivalが良好な方向で、HR 0.66、95%CI 0.55〜0.78でした。

さらにtransplant-related mortalityについても、HR 0.56、95%CI 0.41〜0.76と低い方向でした。

一方、Enterococcus高値は不良なoverall survivalと関連し、HR 2.03、95%CI 1.55〜2.65でした。

もちろん、これは「Enterococcusが多いから死亡した」と因果関係を証明した数字ではありません。

しかし今回のNature研究で、α-diversity低下とEnterococcus増加が重要視されるのには、こうしたHCT領域での研究の積み重ねがあります。

実は2019年には「乳糖とEnterococcus」という研究がありました

今回の研究には、かなり興味深い前史があります。

2019年のScienceでは、造血幹細胞移植患者におけるEnterococcus expansionとGVHDとの関係が調べられました。

さらにマウス実験では、乳糖がEnterococcusの増殖を支えることが示され、乳糖を制限した食事ではEnterococcusの増殖やGVHDが抑えられる方向が確認されています。

つまり2026年になって突然、「糖とEnterococcusが関係している」という話が登場したわけではありません。

2019年には乳糖。その後、菌同士の栄養競争。そして2026年には、実際の患者の9,419食まで追跡してsimple sugarsとの関係を見るところまで研究が進んできた。

そういう流れの中に今回の論文があります。

ただしヒトの観察だけでは「糖が原因」とは言えません

ここまで読むと、「では糖がEnterococcusを増やしたのですね」と言いたくなります。

しかし、ヒト部分だけからそこまで断定することはできません。

広域抗菌薬を使う患者は、そもそも状態が違います。発熱がある。感染が疑われる。菌血症がある。C. difficile感染症がある。粘膜炎が強い。食欲が落ちている。栄養補助飲料に頼っている。

このような要素は、抗菌薬選択にも、食事にも、腸内細菌にも影響します。

研究者は統計的にかなり調整しています。それでも観察研究です。

特に、病状が悪いから広域抗菌薬が選ばれたというconfounding by indicationは、完全に消せるとは限りません。

そこで次に行ったのが、マウス実験でした。

マウスに抗菌薬とショ糖を与えるとどうなったのでしょうか

研究者はC57BL/6マウスに、biapenemというカルバペネム系抗菌薬を単回皮下注射しました。

すると、もともとマウスの腸内にいたEnterococcusが増えました。

抗菌薬だけでもEnterococcusは増える。では、そこへショ糖を加えたらどうなるのか。

結果はかなり大きなものでした。

3日目

16.3倍。P=0.048。

6日目

33.4倍。P=0.001。

までEnterococcusが多くなりました。

人の観察データで見えた、抗菌薬と糖が重なるとEnterococcus bloomが強まるのではないかという仮説と同じ方向です。

重要なのは「ショ糖だけ」では増えなかったことです

ここが今回の研究の肝だと思います。

抗菌薬なしでショ糖だけを与えたマウスでは、Enterococcus burdenに有意な増加はみられませんでした。

つまり、ショ糖=Enterococcusをいつでも爆発的に増やす食品ではありません。

抗菌薬によって腸内細菌叢が撹乱されているという条件が重要だったわけです。

人とマウスの両方で、「糖」単独ではなく「抗菌薬×糖」という構造が見えている。

今回の論文で最も面白いところの一つです。

ただし33倍の差が永久に続いたわけではありません

「33.4倍」と聞くと強烈です。しかし長期追跡も見ておく必要があります。

別のマウス実験では21日まで観察しています。

biapenem+sucrose群とbiapenem単独群の差は、3日目と6日目には認められました。

ところが、9日目、14日目、21日目では明確な差がなくなっています。

したがって、ショ糖によってEnterococcusが永久に増え続けたわけではありません。

より正確には、抗菌薬後のEnterococcus bloomを大きくし、その収束を遅らせたと表現するのがよいでしょう。

Enterococcusだけではなく、腸内細菌群集全体も変化していました

このマウス実験で変わったのはEnterococcusの培養数だけではありません。

biapenem+sucrose群ではα-diversityが低下し、群集全体の構成も変化していました。

つまり、培養皿でEnterococcusだけが増えたという単独の現象ではありません。

ヒトで観察された「多様性低下とEnterococcus増加」という組み合わせと、方向として対応しています。

「ショ糖を飲んだから普通の餌を食べなくなった」だけでしょうか

ショ糖を追加すると、「甘いものを飲んで普通の餌を食べなくなったのでは?」という疑問も出ます。

しかしマウスのchow consumptionは、ショ糖追加によって大きく減っていませんでした。

短期間の体重にも大きな変化はありませんでした。

したがって、ショ糖を飲んだ→餌を食べなくなった→食物繊維不足になった→Enterococcusが増えた、だけでは説明できなさそうです。

それなら食物繊維不足が原因なのでしょうか

抗菌薬後の腸内細菌叢回復と食物繊維の関係は、以前から研究されています。

そこで今回の研究でも、あえて食物繊維を含まない餌を与えたマウスを調べています。

それでも、ショ糖は抗菌薬後のEnterococcus expansionを長引かせました。

つまり、「糖の多い食事だったから」というより、「そのぶん食物繊維を食べなかったから」という説明だけでもありません。

ショ糖だけなのでしょうか――ブドウ糖と果糖も調べています

研究者はさらに、sucrose、glucose、fructoseを分けて調べました。

3日目にはいずれの糖でもEnterococcus増加が強まる方向がみられました。

ただし6日目まで明確な差が残ったのは、この実験ではショ糖でした。

したがって、「ショ糖という分子だけに固有の作用」ともまだ言い切れません。

さらに市販のfruit smoothieを使ったマウス実験でも、6日目には抗菌薬単独群との差が認められています。

だからといって、「果物は抗菌薬中に食べてはいけない」という意味ではもちろんありません。

これはあくまでマウスへ特定条件で与えた実験です。

では、糖がEnterococcusの「餌」になっただけなのでしょうか

ここから、この論文はもう一段面白くなります。

非常に単純に考えれば、糖を与える→Enterococcusが糖を食べる→Enterococcusが増える、という説明ができます。

ところが研究者は、その説明も試しています。

無菌マウスへE. faecalisだけを定着させました。他の腸内細菌がほとんどいない状態です。

そしてショ糖あり・なしを比較しました。

結果は、P=0.7。

Enterococcusの増殖動態に明確な差がありませんでした。

これはかなり面白い結果です。

糖を直接食べてEnterococcusが増えるだけなら、Enterococcusしかいないマウスでも差が出てもよさそうです。

ところが、そうではなかった。

どうやら今回の現象には、複数の菌が共存する腸内生態系そのものが関係している可能性があります。

腸内細菌は「菌の一覧」ではなく、生態系です

私たちは腸内細菌について、「この菌は良い菌」「この菌は悪い菌」と、菌の名前ごとに考えがちです。

しかし実際の腸内では、多数の菌が同時に存在しています。

そこでは栄養、居場所、酸素、代謝産物、宿主との関係をめぐって競争しています。

この競争そのものが、一部の微生物が異常増殖するのを防ぐことがあります。

これをcolonization resistance、定着抵抗性と呼びます。

2023年のScienceでは、多様な腸内細菌群集が病原菌の必要とする栄養を先に利用することで、病原菌の定着を抑えるnutrient blockingという仕組みが示されました。

要するに、相手を直接殺さなくても、相手の食べ物を先に使ってしまえば増えにくくできるというわけです。

抗菌薬を使うと「空いた席」ができるのかもしれません

この考え方を今回の研究へ当てはめると、一つの仮説が見えてきます。

普段の腸内では、多数の菌が栄養を奪い合っています。

そこへ広域抗菌薬が入る。一部の菌が大きく減る。

すると、栄養を利用する競争相手が減る。

いわば生態系に「空席」ができる。

そこへ糖を多く含む栄養環境が重なる。

すると、その条件を利用しやすい一部の菌が大きく増える。

Enterococcus bloomは、そのような現象の一つなのかもしれません。

ただし、これは非常に重要ですが、2026年Nature研究がこの一連の機序すべてを直接証明したわけではありません。

現時点では有力な説明候補の一つです。

考えられる仕組みは少なくとも三つあります

1.糖がEnterococcus側の増殖に有利になる可能性

これは最も直感的です。

ただし、E. faecalis単独定着マウスではショ糖による菌数増加が確認されなかったので、これだけでは説明できません。

2.抗菌薬で競争相手が減り、定着抵抗性が弱くなる可能性

これはnutrient blockingの考え方とよく合います。

多数の菌が糖やその他の栄養を使っていた環境から、その競争相手が消えることで、一部の菌に資源が集中する可能性があります。

3.糖が宿主側を変える可能性

単純糖の多くは小腸で吸収されます。

ですから、食べた糖がそのまますべて大腸へ流れてEnterococcusの餌になるとは限りません。

糖が腸上皮、免疫応答、代謝、粘膜環境などを変え、その結果としてmicrobiomeが変化する可能性もあります。

論文の著者自身も、これら複数の機序を考察しています。

現時点で、ヒトでどの機序が主役なのかは分かっていません。

一般的な短期抗菌薬でも腸内細菌は変わるのでしょうか

ここで歯科へ少し近づいてみます。

今回の患者は特殊だから、「歯科で数日飲む抗菌薬なら腸内細菌には何も起こらない」というわけでもありません。

たとえば健康成人12人全員に、amoxicillin 375mgを1日3回、5日間投与した研究があります。

この研究でランダム化されたのはamoxicillinの有無ではなく、amoxicillinを服用する条件下でのgalacto-oligosaccharidesとplaceboです。

したがって、「amoxicillin vs 無投薬のRCT」ではありません。

そのうえで、amoxicillin投与期間には、Bifidobacterium spp.の減少、Enterobacteriaceaeの増加、便中succinateの増加、monosaccharidesやoligosaccharidesの増加など、菌構成だけでなく腸内代謝環境の変化も観察されています。

ですから、数日間のamoxicillinなら腸内細菌には一切影響しないとは言えません。

しかし「だから歯科患者でも24.1%低下する」にはなりません

ここは非常に大切です。

健康成人が5日間amoxicillinを服用しても腸内細菌叢が変わり得る。これは既存研究から言えます。

しかし、その時に糖を多く摂るとα-diversityが24.1%追加で低下するのかについては、一般的な歯科患者では調べられていません。

今回の173人には、血液がん、allo-HCT、化学療法、好中球減少、予防抗菌薬、広域抗菌薬、粘膜炎、栄養障害などがあります。

抜歯後に数日amoxicillinを服用する健康な患者とは、条件が大きく異なります。

したがって今回の研究から言えるのは、歯科で使う短期抗菌薬でもmicrobiomeが無関係とはいえないところまで。

「その患者でも糖との相互作用が同じように起こる」とまでは言えない。

この線引きが重要です。

死亡率の解析までありますが、ここはかなり慎重に読む必要があります

今回の研究では臨床アウトカムも探索されています。

エネルギー量で補正した糖摂取が中央値より多い患者では、広域抗菌薬の使用日数が1日増えるごとに、HR 1.12、95%CI 1.01〜1.23、P=0.027でした。

一方、糖摂取が中央値以下の群では、HR 1.07、95%CI 0.96〜1.19、P=0.23でした。

数字だけを抜き出すと、「糖+抗菌薬で死亡率12%増」と書きたくなるかもしれません。

しかし、それは適切ではありません。

糖が多かった群そのものの死亡率が高かったわけではありません

重要なのはここです。

抗菌薬曝露を考慮せず、高糖群と低糖群そのものを比較した場合には、HR 0.72、95%CI 0.18〜2.85、P=0.6で、死亡リスクに明確な差はありませんでした。

さらに死亡率に関するWald検定は、多重比較補正を行っていません。

しかも糖比率が高い食事パターンの患者では、全体のカロリー摂取量自体が低い傾向もありました。

つまり、重症、食べられない、糖の比率が相対的に高い、広域抗菌薬を長く使う、という複雑な関係が混ざっている可能性があります。

死亡率解析は興味深いですが、「砂糖が死亡を増やした」ことを証明した解析ではありません。

この部分はあくまで探索的な臨床アウトカム解析として読むべきでしょう。

もう一つ忘れてはいけないことがあります――この患者さんたちは「食べられないこと」も危険です

今回の論文だけを見て、「それなら糖分を減らせばいい」と考えるのも危険です。

造血幹細胞移植を受ける患者では、低栄養そのものが大きな問題です。

EBMT Handbookでは、HCT、とくにallo-HCT患者はmalnutritionの高リスクであり、低栄養は不良な臨床転帰、感染・免疫合併症、生着遅延、長期入院などと関連すると整理されています。

食べられない患者から、「microbiomeに良くないかもしれないから」という理由だけでカロリー源を取り上げるわけにはいきません。

だから次に必要なのは「糖を切る」研究ではなく、栄養と腸内細菌を両立させる研究ではないでしょうか

消化管が使える場合、EBMT Handbookでは経口・経腸栄養を静脈栄養より優先する考え方が示されています。

これは、消化管機能やmicrobiomeの維持との関係も理由の一つです。

そう考えると、今回のNature研究から次に必要なのは、「甘い物を禁止する」という単純な介入ではないと思います。

必要なカロリーと蛋白質は確保する。そのうえで、糖質・食物繊維・脂質・蛋白質の組成をどう設計すれば、抗菌薬によるmicrobiome injuryを最小限にできるのか。

という研究です。

これなら、栄養不良を防ぐという臨床上の大切な目的と、腸内細菌叢を守るという新しい目的を両立できます。

ただし、HCTにおける栄養介入そのものも、大規模介入試験によってすべてが確立しているわけではありません。

経腸栄養と静脈栄養の比較などには有望なデータがありますが、対象、移植条件、栄養法が研究ごとに異なり、まだ検証すべき点が多く残っています。

現時点では、「糖を減らせば良い」にも、「この栄養法が最善」にも、まだ簡単には結論できません。

この研究の統計解析はかなり工夫されています

今回、158人から1,009便検体を集めています。

ただし1人あたりの検体数は同じではありません。中央値は5検体ですが、1〜28検体と大きな差があります。

普通に全検体を一列に並べて解析すると、28回便を提供した患者の情報が、1回しか便を提供していない患者より圧倒的に大きく効いてしまう可能性があります。

そこで研究者はBayesian multilevel modelを使い、患者ごとのvarying interceptを入れています。

さらに、移植後の週ごとのtime-binもvarying interceptとしてモデルへ入れました。

そしてpartial poolingを使い、検体数が非常に多い患者だけがpopulation-level estimateを支配しにくいようにしています。

今回のような不均衡な反復測定データには、かなり合理的な設計です。

sequencingそのものの「測定ブレ」はどうだったのでしょうか

ここも研究の細かい長所です。

1,009便検体のうち42検体について、同じ便を複数回sequencingしています。

同じ試料を繰り返した場合のBray–Curtis distance中央値は、0.01でした。

一方、同じ患者でも別の日に採った便では、0.54。別の患者同士では、0.89でした。

少なくともこのデータでは、sequencingの技術的なブレより、実際の時間変化や患者間差の方がはるかに大きかったことになります。

これは研究の技術的信頼性を評価するうえで重要な情報です。

データと解析コードが公開されているのも長所です

今回の研究では、ヒトの16S rRNA sequencing、shotgun metagenomics、食事データ、臨床曝露データ、マウスのmicrobiomeデータなどが公開リポジトリへ登録されています。

解析コードについても、Figure再現を含めたreproducibility repositoryが公開されています。

もちろん、データやコードが公開されている=研究の結論が必ず正しいという意味ではありません。

しかし第三者が解析過程を確認し、再解析や再現を試みやすいという点では、研究の透明性を高める材料です。

それでも「高度な統計=因果証明」ではありません

Bayesian model。感度分析。マウス実験。公開データ。

ここまで読むと、かなり強い研究に見えます。実際、よく作り込まれています。

しかし、それでもヒト部分はランダム化比較試験ではありません。

特に重要なのが、confounding by indicationです。

つまり、「なぜその患者に広域抗菌薬が必要だったのか」自体に意味があります。

高熱が出た。感染症が疑われた。菌血症があった。C. difficileがあった。状態が悪かった。

その病状自体が、microbiome、食欲、栄養、予後へ影響します。

統計モデルで完全に消し去れるとは限りません。

著者自身も、この点を主要な限界として認めています。

研究デザイン上の弱点も確認しておきましょう

Nature PortfolioのReporting Summaryを見ると、ヒト研究についてformal power calculationは行われていません。

2017〜2022年の研究期間中に参加した患者数が、今回のコホートサイズになっています。

動物実験でもformalな事前サンプルサイズ計算は行われていません。

また通常のマウス実験では、マウスは治療群へランダムに割り付けられています。

一方で、blindingは行われていません。

著者は、CFUや次世代sequencingなど客観的な定量アウトカムを使っていること、同じ研究者が割付・処置・試料処理を担当することが多く物流上の盲検化が難しかったことなどを説明しています。

したがって、「マウス実験はランダム化されている」という長所と、「盲検化されていない」という限界の両方を見る必要があります。

Natureに掲載された研究だから、あらゆるバイアスが消えているわけではありません。

この研究の強みを改めて整理すると

今回の研究には、かなり多くの長所があります。

  • 9,419食という高密度の食事記録。
  • 158人・1,009便検体を使った縦断解析。
  • 患者ごとの反復測定と入院時期を考慮したmultilevel model。
  • 食品群としてのSweetsだけでなく、栄養素としてのsugarsでも同方向を確認したこと。
  • ONSを分離しても結果が残ったこと。
  • EN・TPN曝露や確定感染症を除いた感度分析。
  • 移植前検体だけでも同方向だったこと。
  • 重複を避けてランダムに抽出したサブセットによる50回の感度分析。
  • ヒトで得た仮説をマウスで操作的に検証したこと。
  • 食物繊維ゼロ条件やE. faecalis単独定着モデルまで使って、単純な説明を一つずつ検討したこと。
  • sequencingの技術的再現性も確認したこと。
  • データとコードが公開されていること。

一つ一つを見ると、研究者が、「本当に糖と抗菌薬の組み合わせなのか。それとも別の説明なのか」をかなり粘り強く検討していることが分かります。

では、歯科医師としてこの研究をどう読めばよいのでしょうか

私がこの論文を読んで最初に考えることは、「抗菌薬中の患者へ砂糖禁止を指導しよう」ではありません。

もっと手前にある問題です。

歯科では、抗菌薬が必要な場面があります。

しかし抗菌薬は、感染源そのものを除去する代わりではありません。

感染根管治療が必要なら感染源を処置する。膿瘍なら必要に応じて排膿する。抜歯が必要なら原因歯を処置する。

そのうえで、全身的な抗菌薬が必要な状況かを判断する。

抗菌薬を使うなら、必要以上に広域な薬剤を漫然と使わない。必要以上に長く使わない。

当院でも以前、「歯科治療と抗生物質:あなたの『お腹』と『健康』を守る!薬を自己判断で飲まないことの大切さ」や、「第3世代セフェム依存からの脱却:歯科外来抗菌薬(抗生物質)処方をどう変えるべきか」で、抗菌薬適正使用について取り上げています。

今回のNature研究も、抗菌薬が腸内生態系へ与える影響は、その薬だけで完結していない可能性を示しているからこそ、抗菌薬適正使用の意味を改めて考えさせます。

一般の歯科患者へ、この「24.1%」をそのまま使ってはいけません

ここは最後にもう一度強調しておきたいと思います。

今回の研究から、「抜歯後にamoxicillinを数日飲む+甘い物を食べる=α-diversityが24.1%低下」とは言えません。

そんな研究は行われていません。

一方、「歯科で使うような短期間のamoxicillinなら腸内細菌には一切影響がない」とも言い切れません。

健康成人でも数日間のamoxicillin投与後に、腸内細菌構成や代謝環境が変化した研究があります。

したがって現時点で最も正確なのは、短期抗菌薬でもmicrobiomeは動き得る。

しかし、その状態で糖が今回のHCT患者と同じように追加の影響を与えるかは、まだ分からない。

という結論だと思います。

この研究から言えること、まだ言えないこと

今回の研究からかなり言えるのは、同種造血幹細胞移植患者では、広域抗菌薬曝露中の糖の多い食事が、低い腸内細菌α-diversityと関連していたことです。

食品群としてのSweetsだけでなく、栄養素としてのsugarsでも同じ方向でした。

ヒトではEnterococcus、とくにE. faeciumの増加がみられました。

マウスでは、抗菌薬後のEnterococcus bloomをショ糖が増幅し、長引かせました。

ショ糖だけでは同じ増加は起きませんでした。

E. faecalisだけを定着させたマウスでも、ショ糖による菌数増加は確認されませんでした。

一方で、まだ言えないこともたくさんあります。

  • 糖がヒトで直接、今回のmicrobiome変化を起こしたと確定したわけではありません。
  • 一般の健康成人でも同じ24.1%という数字になるとは分かりません。
  • 歯科の短期amoxicillinでも同じ相互作用が起こるとは分かりません。
  • 果物を避けるべきという研究ではありません。
  • 人工甘味料へ置き換えれば解決するとも分かりません。
  • 糖制限によって死亡率が改善することも証明されていません。

人工甘味料については、当院の「人工甘味料6種+ステビオール配糖体」の記事で別に詳しく検討しています。今回のNature研究は、人工甘味料への置換効果を調べた研究ではありません。

この「言える範囲」と「まだ言えない範囲」を分けて読むことが、今回の論文では特に重要です。

まとめ――今回の主役は「砂糖」より「揺らいだ生態系」なのかもしれません

抗菌薬で腸内細菌叢が乱れる。そこまでは以前から知られていました。

今回のNature研究が面白いのは、そこへ、「その時、何を食べていたのか」というもう一つの要素を重ねたことです。

173人。9,419食。158人から1,009便検体。

広域抗菌薬曝露中では、Sweets摂取が多いほどα-diversityが低く、Enterococcusが増える方向がみられました。

統計モデルでは、便採取前2日間の平均1日摂取量として、Sweetsカテゴリーの脱水重量が100g多い場合、平均α-diversityがさらに24.1%低いと推定されました。

栄養素としてのsugarsでも、20.6%低いという同方向の結果。

そしてマウスでは、抗菌薬単独と比べて抗菌薬+ショ糖で、3日目16.3倍、6日目33.4倍のEnterococcus増加が確認されました。

しかし、ショ糖だけでは増えない。Enterococcusだけを単独定着させたマウスでも増えない。

ここから浮かび上がってくるのは、「砂糖という食品が一方的に悪い」という単純な話ではありません。

抗菌薬によって菌同士の競争関係が崩れたとき、それまでと同じ食事でも、生態系に与える意味が変わるのではないか。

という問いです。

腸内細菌は菌名の一覧ではありません。

互いに栄養を取り合い、代謝物をやり取りし、宿主とも相互作用している生態系です。

抗菌薬でその生態系を大きく揺らしたとき、どの菌が残り、どの菌が増え、そこへどんな栄養が供給されるのか。

今回の研究は、その「薬」と「食事」を別々に見るのではなく、両者の相互作用を見る必要性を示した研究だと思います。

ただし、一般の歯科患者に、「抗菌薬を飲んでいるから糖を一切取らないでください」と勧める根拠ができたわけではありません。

そこはまだ、次の研究が必要です。

今回の論文で一番面白かったのは、「甘い物を減らしましょう」という結論ではなく、腸内細菌叢が安定している時と、抗菌薬で大きく揺らいでいる時では、同じ食事の意味さえ変わるかもしれないというところではないでしょうか。

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