2026年8月06日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科助手です。
虫歯を削った部分へ、歯の色に近い白い材料を直接詰める「CR治療」。
正式には、コンポジットレジン修復といいます。
治療を見学していると、虫歯を削ったあと、すぐに白い材料を詰めるわけではないことがあります。
歯科医師が最初に用意したのは、薄い金属板のような器具と、小さなくさび形の器具でした。
治療する場所によっては、歯を両側から挟むようなリングや、金属製のバンドを締めるための器具も登場します。
薄い板は「マトリックス」、小さなくさびは「ウェッジ」と呼ばれます。
どちらも治療が終われば取り外され、口の中に残るものではありません。
それなのに、なぜCRを詰める前に、わざわざこのような器具を装着するのでしょうか。
マトリックスとウェッジは、単に白い材料が隣へこぼれないようにするためだけの器具ではありません。
虫歯を削って失われた歯の壁を一時的につくり、隣の歯との接触面、歯の自然なふくらみ、歯肉側の境目、噛む面の縁、フロスを通せる形まで再現するための大切な器具なのです。

CR治療とはどのような治療?
CRは「コンポジットレジン」の略です。
虫歯を削った部分へ歯の色に近い樹脂系材料を詰め、専用の光を当てて硬化させます。
小さな虫歯であれば、歯を大きく削らずに治療できることがあり、治療した部分が目立ちにくいことも特徴です。
ただし、同じCR治療でも、虫歯の場所によって治療の難しさは大きく変わります。
噛む面だけにある小さな虫歯
奥歯の噛む面だけに小さな虫歯があり、周囲の歯質が十分に残っている場合は、残っている歯の壁がCRを支えてくれます。
このような場合には、マトリックスやウェッジを使わずに治療できることがあります。
歯と歯の間まで広がった虫歯
虫歯が隣の歯と接する面まで広がっている場合、虫歯を削ると歯の側面の壁がなくなります。
そのままCRを詰めようとしても、材料を支える壁がありません。
CRが隣の歯へ広がったり、歯肉側へ流れ出たり、歯の側面が不自然な形になったりする可能性があります。
この失われた壁を一時的につくるのが、マトリックスです。

マトリックスは失われた歯の壁を一時的につくる
マトリックスは、薄い金属や透明な樹脂でできた板状の器具です。
虫歯を削って失われた歯の側面へ設置し、その内側へCRを詰めます。
建物をつくる際、コンクリートが流れ出さないように設置する「型枠」を思い浮かべると、分かりやすいかもしれません。
ただし、歯科治療で使うマトリックスは、単に材料をせき止めるだけの板ではありません。
治療後に必要となる、次のような形をつくる役割があります。
- 隣の歯側にある歯の壁
- 歯肉側から接触面へ向かう立ち上がり
- 隣の歯と接する位置と広さ
- 頬側・舌側へ広がる歯のふくらみ
- 噛む面の端にある辺縁隆線
- 歯間乳頭が収まる空間
- フロスを通せる清掃空間
- 食べ物が自然に流れる形
CR治療は、虫歯で開いた穴を白い材料で埋めるだけではありません。
失われた歯の立体的な形をつくり直し、隣の歯との関係まで回復させる治療でもあります。
マトリックスがないとどうなる?
歯の側面の壁がない状態でCRを詰めると、次のような問題が起こる可能性があります。
- CRが隣の歯へ付着する
- 歯肉側へCRや接着材が流れる
- 歯の側面が平らになる
- 隣の歯との接触面をつくれない
- フロスが通らない形になる
- 食べ物が挟まりやすい形になる
- 歯肉側に段差が残る
- 噛む面の縁が低くなる
マトリックスは、これらを防ぎながら、もともとの歯に近い形へ導くための器具です。

ウェッジは何のために入れるの?
ウェッジは、木材や樹脂などでできた、小さなくさび形の器具です。
多くの場合、歯と歯の間の歯肉に近い位置から差し込みます。
治療を受けている患者さんには見えにくい器具ですが、マトリックスを正しく機能させるために欠かせません。
ウェッジには、いくつもの役割があります。
役割1 マトリックスを歯肉側へ密着させる
歯と歯の間は、平らな形ではありません。
歯の根元へ向かって細くなり、場所によってはくぼみもあります。
そのため、マトリックスを歯と歯の間へ差し込んだだけでは、歯肉に近い部分へすき間が残ることがあります。
ウェッジを適切な位置へ入れることで、マトリックスを歯面へ押しつけ、歯肉側のすき間を閉じます。
役割2 CRや接着材のはみ出しを防ぐ
マトリックスと歯の間にすき間があると、CRだけでなく、ボンディング材などの接着材料も歯肉側へ流れ出る可能性があります。
余分な材料が歯の外側へ張り出した状態は「オーバーハング」と呼ばれます。
オーバーハングがあると、フロスが引っ掛かったり、歯垢が残りやすくなったり、歯肉へ刺激が加わったりすることがあります。
ウェッジで歯肉側をきちんと閉じることは、余分な材料が流れ出るのを防ぐためにも重要です。
役割3 マトリックスを動きにくくする
CRを詰めるときには、器具で材料を押したり、歯の形に合わせて動かしたりします。
薄いマトリックスは、何も支えがなければ動いたり浮いたりする可能性があります。
ウェッジは、マトリックスの歯肉側を固定し、治療中の位置ずれを防ぐ支えにもなります。
役割4 歯と歯を一時的にわずかに離す
マトリックスは非常に薄い器具ですが、それでも厚みがあります。
マトリックスを歯と歯の間へ入れたままCRを硬化させ、あとから抜き取ると、マトリックスの厚みの分だけすき間が残る可能性があります。
そこで、ウェッジやリングを使い、治療中だけ歯と歯をほんのわずかに離します。
マトリックスを外すと、歯を支えている歯根膜の弾力によって、歯は元の位置へ戻ろうとします。
その力を利用して、修復したCRと隣の歯との接触をつくります。
これは矯正治療のように歯を大きく動かす処置ではありません。
マトリックスの厚みなどを補うための、ごく小さく一時的な歯間分離です。
役割5 歯肉を避けて作業空間をつくる
適切なウェッジは、歯と歯の間にある歯肉を少し歯肉側へ避ける働きもあります。
マトリックスを歯の根元へ沿わせやすくし、歯肉側の境目を確認するための視野を確保します。
ただし、大きすぎるウェッジを無理に入れると、歯肉を強く圧迫することがあります。
歯肉を避けることと、傷つけないことの両方を考えてサイズを選びます。
役割6 隣の健康な歯を守る
虫歯を削る前に、マトリックスやウェッジを入れることもあります。
薄いマトリックスを隣の歯との間に入れておくことで、切削器具が健康な隣の歯へ当たるのを防ぐ保護板として使えます。
CRを詰めるためだけではなく、虫歯を削る段階から隣の歯を守る目的でも使われているのです。

ウェッジは大きければよいわけではありません
ウェッジは、歯と歯の間に入れば何でもよいわけではありません。
大きさ、高さ、形、差し込む方向によって、マトリックスの適合や完成する歯の形が変わります。
ウェッジが小さすぎる場合
小さすぎるウェッジでは、マトリックスを十分に歯面へ押しつけられません。
その結果、次のような問題が起こる可能性があります。
- 歯肉側のすき間が閉じない
- マトリックスが動く
- CRや接着材が漏れる
- 歯肉側に段差が残る
- 適切な歯間分離が得られない
ウェッジが大きすぎる場合
反対に、大きすぎるウェッジを無理に入れると、マトリックスを強く押し上げたり、内側へへこませたりすることがあります。
- 歯の側面に不自然なくぼみができる
- 歯肉を強く圧迫する
- 必要以上に歯と歯が離れる
- リングとぶつかって安定しない
- マトリックスの形が変わる
といった問題につながる可能性があります。
高さや方向も重要です
ウェッジが高すぎると、マトリックスが持ち上げられ、隣の歯と接する位置が本来より上へずれる場合があります。
反対に低すぎると、歯肉側のマトリックスを十分に押さえられません。
ウェッジは「歯と歯の間に入るもの」を選ぶのではなく、マトリックスが歯面へどのように沿うかを見ながら選ぶ器具なのです。

リング状の器具は何をしているの?
奥歯のCR治療では、マトリックスとウェッジを設置したあと、歯を両側から挟むようなリングを取り付けることがあります。
このリングは、セパレーションリングやリテーナーなどと呼ばれます。
リングには、次のような役割があります。
- 歯と歯を一時的にわずかに離す
- マトリックスを安定させる
- 頬側と舌側からマトリックスを支える
- 隣の歯との接触面をつくりやすくする
- 歯の自然なふくらみを再現しやすくする
リングも強く挟めばよいわけではありません
リングの脚が正しい位置に乗っていなかったり、ウェッジと干渉していたりすると、マトリックスが変形することがあります。
- マトリックスが内側へへこむ
- 歯面から浮く
- ウェッジが動く
- 接触面の位置がずれる
- 歯肉側にすき間ができる
といったことが起こり得ます。
リングを装着したから、自然な歯の形が自動的にできるわけではありません。
歯科医師は、リングを取り付けたあとも、噛む面側、頬側、舌側、歯肉側から、マトリックスの状態を確認します。

「接触点」だけでなく歯の側面全体を再現する
歯と歯の間のCR治療では、「隣の歯と接触させること」が重要だと説明されることがあります。
しかし、実際には単純な一点だけをつくっているわけではありません。
天然歯は、ある程度の広がりを持った「接触面」で隣の歯と接しています。
さらに、その接触面より歯肉側には、歯肉から立ち上がる自然なふくらみがあります。
治療では、次のすべてを考えながら形を整えます。
- 接触の強さ
- 接触する位置
- 接触面の広さ
- 歯肉側からの立ち上がり
- 頬側と舌側のふくらみ
- 歯間乳頭が収まる空間
- フロスを通せる清掃性
接触が強ければ成功とは限りません
隣の歯と強く接していれば、食べ物が挟まらないように思えるかもしれません。
しかし、接触が強すぎてフロスが通らなければ、歯と歯の間を清掃できません。
また、接触面が強くても、その下の歯がへこんでいたり、歯肉側へCRが張り出していたりすると、食べ物や歯垢が残りやすくなることがあります。
接触が弱すぎる場合
隣の歯との接触が弱すぎると、次のような症状につながることがあります。
- 食事のたびに食べ物が挟まる
- 歯肉が押されて痛む
- 歯肉から出血する
- 歯と歯の間に違和感がある
接触が強すぎる場合
反対に接触が強すぎる場合は、
- フロスが通らない
- フロスが裂ける
- 歯と歯の間に圧迫感がある
- 清掃できない
といった問題が起こることがあります。
目標は、単に強い接触をつくることではありません。
フロスが適度な抵抗で通り、食べ物が挟まりにくく、歯肉側も清掃できる形をつくることが大切です。

噛む面の縁にある「辺縁隆線」もつくり直す
奥歯の噛む面の端には、少し高くなった「辺縁隆線」という部分があります。
歯と歯の間の虫歯を削ると、隣接面の壁だけでなく、この辺縁隆線も失われることがあります。
辺縁隆線は、単なる飾りではありません。
噛む面の形を保ち、食べ物が歯と歯の間へ直接押し込まれにくい形をつくる役割があります。
CR治療では、隣の歯との接触面だけでなく、辺縁隆線の高さや丸みも、周囲の歯に合わせて再現します。
辺縁隆線が高すぎれば噛み合わせへ影響し、低すぎれば食べ物の流れが不自然になることがあります。
そのため、マトリックスを外したあとには、歯と歯の間だけでなく、噛む面の形や噛み合わせも確認します。

歯肉側の封鎖と接触面づくりは別の課題です
深い虫歯では、一枚のマトリックスに二つの難しい役割が求められます。
一つは、虫歯を削った最も深い部分まで届き、歯肉側の境目をきれいに閉じること。
もう一つは、隣の歯との接触面と、自然な歯のふくらみをつくることです。
しかし、歯肉側まで深く広がった虫歯では、両方を一度に再現することが難しい場合があります。
そのような場合は、最初に歯肉側の壁や立ち上がりをつくり、そのあとでマトリックスを変更し、隣の歯との接触面や噛む面の形を仕上げることがあります。
先に「歯肉側をきれいに閉じる工程」を行い、そのあと「隣の歯と接する形をつくる工程」へ進む考え方です。
症例によっては、歯の周囲を囲む金属製バンドの内側へ、部分的な金属マトリックスを追加して形を整えることもあります。
一つの器具だけで無理にすべてを再現するのではなく、歯肉側の密着と歯冠側の形態を分けて考える方法です。
歯肉より深い位置にある修復境界を、CRで扱いやすい位置へ移す処置については、医療従事者向けのDeep Margin Elevationは新しい治療ではない――深部マージン再建の歴史、STA、接着、材料、修復設計、長期予後再考でも詳しく取り上げています。
ブランデンタルクリニックでは複数の方法を使い分けています
マトリックスには、さまざまな種類があります。
「この器具が最も新しいから、すべての歯に使う」というものではありません。
ブランデンタルクリニックでも、治療する歯、虫歯を削った範囲、残っている歯質、隣の歯との位置関係に応じて、複数の方法を使い分けています。
なお、この記事には二種類の「リテーナー」が登場します。
コンポジタイト3Dシステムの3Dリテーナーは、歯を両側から挟むリング状の器具です。
一方、マトリックスリテーナーは、歯の周囲へ巻く金属製バンドを締めて保持する器具です。
名称は似ていますが、形と役割は異なります。
透明なストリップを使う方法
前歯の歯と歯の間などでは、薄く透明なストリップを使用することがあります。
透明なストリップには光を通しやすいという特徴があり、前歯のCR治療で形を整える際に利用できます。
ストリップを歯と歯の間へ入れ、必要に応じてウェッジで歯肉側へ密着させます。
歯科医師が指や器具でストリップを歯面へ沿わせながら、前歯の丸みや隣接面をつくります。
透明なストリップを入れれば、自然な形が自動的にできるわけではありません。
押さえる場所や強さによって、CRが平らになったり、反対に張り出したりするため、歯の形に合わせた調整が必要です。

通常のマトリックスを使う方法
虫歯の位置や大きさに応じて、一般的な金属製マトリックスや樹脂製マトリックスを使用することもあります。
同じ「マトリックス」という名前でも、形、高さ、厚さ、湾曲の程度はさまざまです。
歯の大きさや削った範囲に合わせて選びます。
コンポジタイト3Dシステムを使う方法
奥歯の歯と歯の間を含むCR治療では、コンポジタイト3Dシステムを使用することがあります。
この方法では、主に次の器具を組み合わせます。
- 削った側に入れる部分的な金属製マトリックス
- 歯肉側へ密着させるウェッジ
- マトリックスを支え、歯間分離を助ける3Dリテーナー
このように、歯の一部分だけへ設置するマトリックスは「セクショナルマトリックス」と呼ばれます。
金属製マトリックスには、あらかじめ歯の形に近い湾曲がついています。
歯の高さや虫歯の深さに応じて複数のサイズから選び、ウェッジと3Dリテーナーを組み合わせて安定させます。
マトリックスは、横幅だけでなく高さも歯に合わせて選びます。
低すぎると、必要な歯の壁を十分に支えられません。
反対に高すぎると、治療器具の操作や視野、光照射の妨げになることがあります。
セクショナルマトリックスは、奥歯の自然なふくらみや隣の歯との接触面をつくりやすい方法です。
ただし、残っている歯質が少ない場合や、虫歯を削った範囲が非常に広い場合には、マトリックスやリングを安定させにくいことがあります。
マトリックスリテーナーと金属バンドを使う方法
治療する歯の周囲を、金属製バンドで囲む方法もあります。
ブランデンタルクリニックでは、マトリックスリテーナーへ金属製バンドを装着し、歯の周囲を囲んでCRを充填することがあります。
リテーナーのつまみを調整すると、輪になった金属製バンドが歯の周囲へ引き寄せられます。
削って失われた部分に、連続した仮の壁をつくる方法です。
歯の一部分だけへ入れるセクショナルマトリックスに対して、歯を一周するタイプは「全周型マトリックス」や「環状マトリックス」と呼ばれることがあります。
次のような場合に選択肢になります。
- 虫歯を削った範囲が広い
- 複数の歯の壁が失われている
- 頬側や舌側の残存歯質が少ない
- 部分的なマトリックスが安定しにくい
- 隣の歯がなく、リングで固定しにくい
- 歯の周囲へ連続した壁をつくりたい
全周型の金属製バンドを巻いた場合も、必要に応じてウェッジを入れ、歯肉側を密着させます。
また、金属製バンドをただ締めるだけでは、歯の側面が平らになることがあります。
歯科医師は、バンドにあらかじめ丸みをつけたり、器具で形を調整したりしながら、自然な歯のふくらみを再現します。

どのマトリックスが一番優れているの?
患者さんから見ると、リングを使う大きなシステムのほうが、新しく高度な治療に見えるかもしれません。
しかし、どのマトリックスが一番優れているかを単純に決めることはできません。
それぞれに得意な形があります。
セクショナルマトリックスが得意な場面
- 奥歯の隣接面を含む虫歯
- 削った側だけに壁をつくりたい場合
- 隣の歯との接触面を再現したい場合
- 歯の自然なふくらみをつくりたい場合
- 頬側・舌側の歯質がある程度残っている場合
全周型金属バンドが得意な場面
- 虫歯を削った範囲が広い
- 複数の壁を一度につくらなければならない
- セクショナルマトリックスを支える歯質が少ない
- 隣の歯がない
- 歯の周囲を連続して囲いたい
- マトリックス全体の安定が必要
透明ストリップが得意な場面
- 前歯の歯と歯の間
- 光を横方向からも当てたい場所
- 前歯の丸みや表面形態をつくる場合
新しい器具だからすべての歯に適しているわけでも、歯を一周する金属製バンドだから古い治療というわけでもありません。
大切なのは、虫歯を削ったあとの歯の形に合っているかどうかです。
マトリックスとウェッジは防湿にも関係します
CR治療で接着を安定させるためには、唾液などの水分が入りにくい環境を整える必要があります。
注意するのは唾液だけではありません。
- 歯肉からの出血
- 歯肉溝から出る液体
- 洗浄時の水分
- ラバーダムの巻き込み
- 歯肉そのものの巻き込み
なども管理します。
マトリックスが歯肉側へ適切に密着すると、CRの型枠になるだけでなく、歯肉側から水分や出血が入りにくい環境をつくる助けになります。
反対に、歯肉やラバーダムが、マトリックスと歯の間へ挟まってしまうと、その部分にCRがきれいに適合しません。
歯科医師がマトリックスを入れたあと、噛む面側だけでなく、頬側や舌側から何度も確認しているのは、器具が外れないかを見るためだけではありません。
歯肉やゴムのシートを挟んでいないか、歯肉側までバンドが届いているか、すき間がないかも確認しています。
金属製マトリックスを使ってもCRは固まるの?
CRは専用の光を当てて硬化させます。
そのため、金属のマトリックスを使うと、光が届かないのではないかと感じるかもしれません。
確かに金属製マトリックスは、透明なストリップのように光を通しません。
しかし、金属製マトリックスを使うとCRが固まらないということではありません。
使用するCR、窩洞の深さ、充填する厚さなどに応じて、次のような方法で必要な部分へ光を当てます。
- 噛む面側から光を当てる
- 使用する材料に応じて、一回または複数回に分けて充填する
- 照射器をできるだけ適切な位置へ近づける
- 光を当てる角度を調整する
- 必要に応じて、マトリックスを外したあとに頬側や舌側から追加照射する
- 使用するCRの照射時間や照射条件を守る
透明ストリップには、光を通しやすい利点があります。
一方、金属製マトリックスには、形を保ちやすく、歯の側面を支えやすい特徴があります。
治療する場所に応じて、それぞれの性質を使い分けます。
マトリックスはCRの重合収縮をなくす器具ではありません
CRは光を当てて硬化するときに、わずかに収縮します。
マトリックスはCRの外側の形を支えますが、材料の収縮そのものをなくす器具ではありません。
そのため、マトリックスとウェッジを正しく装着したあとも、次のような操作が重要です。
- 歯面への接着処理
- 一度に詰めるCRの量
- CRを重ねる方向
- 各層の厚さ
- 光照射器との距離
- 光を当てる角度
- マトリックスによる遮光
- 使用する材料の性質
使用するCRの種類や窩洞の深さによって、一回で充填することもあれば、複数回に分けて材料を重ねることもあります。
大切なのは、「必ず少量ずつ詰める」ということではなく、使用する材料に定められた厚さや照射条件を守り、深い部分まで適切に硬化させることです。
実際の治療ではどのように進むの?
歯と歯の間の虫歯をCRで治療する場合、おおむね次のように進みます。
1.虫歯の位置と広がりを確認する
口腔内やレントゲン写真から、虫歯の深さ、隣接面への広がり、歯髄との距離などを確認します。
2.唾液や水分が入りにくい環境を整える
必要に応じてラバーダムなどを使用し、唾液、出血、歯肉溝からの液体が接着面へ入りにくい環境を整えます。
使用する防湿方法は、治療部位や歯肉の状態によって異なります。
3.必要に応じて隣の歯を保護する
虫歯を削る前にマトリックスやウェッジを入れ、切削器具が隣の健康な歯へ当たらないように保護することがあります。
4.虫歯を取り除く
感染した歯質を除去します。
虫歯をどこまで取り除くかを確認するために、虫歯検知液を使用することもあります。
赤い液が何を染めているのかは、虫歯治療で赤い液を塗るのはなぜ?虫歯検知液は何を染め、何を染めない?で詳しくご紹介しています。
5.虫歯を削ったあとの形を確認する
どの歯の壁が残っているか、歯肉側の境目がどこにあるか、マトリックスを安定して置けるかを確認します。
使用するマトリックスは、治療前に考えていたものから変更することもあります。
虫歯を実際に除去したあとの形を見て、最も適した方法を選ぶためです。
6.マトリックスを試しに入れる
歯肉側の境目まで届いているか、歯面へ密着するか、頬側や舌側で浮いていないかを確認します。
7.ウェッジを選ぶ
歯と歯の間の広さや歯肉側の形に合わせて、ウェッジの大きさと方向を選びます。
8.必要に応じてリングを装着する
セクショナルマトリックスを使用する場合は、必要に応じてリング状の3Dリテーナーなどを取り付け、マトリックスの安定と歯間分離を図ります。
9.接着処理を行う
歯の表面へ、CRを接着させるための処理を行います。
10.CRを充填して光を当てる
使用するCRの種類や窩洞の深さに応じて、一回または複数回に分けて材料を充填します。
歯の壁、隣接面、辺縁隆線、噛む面をつくりながら、定められた条件で光を当てて硬化させます。
11.リング、ウェッジ、マトリックスを外す
CRが硬化したら、治療に使用した器具を取り外します。
マトリックスやウェッジが歯の中に残ることはありません。
12.接触面と段差を確認する
フロスや細い器具を使い、隣の歯との接触、歯肉側の段差、材料のはみ出しを確認します。
13.噛み合わせと表面を仕上げる
治療した歯だけが高く当たっていないかを確認し、表面を滑らかに研磨します。

マトリックスを外したあとに何を確認しているの?
マトリックスとウェッジを外した時点で、治療が終了するわけではありません。
器具を外したあとに、初めて確認できる部分もあります。
フロスが適度な抵抗で通るか
フロスを歯と歯の間へ通し、接触の強さを確認します。
抵抗がまったくなければ接触が弱い可能性があり、まったく通らなければ強すぎる可能性があります。
フロスが裂けたり、毛羽立ったりしないか
フロスが途中で裂ける、毛羽立つ、強く引っ掛かる場合は、CRの段差や粗い部分が残っていることがあります。
歯肉側に段差がないか
探針などの細い器具で、歯肉側にCRの張り出しや段差がないかを確認します。
頬側・舌側の輪郭が自然か
CRが横へ大きく張り出していないか、反対にへこんでいないかを確認します。
辺縁隆線の高さが適切か
噛む面の端が低すぎたり、高すぎたりしていないかを確認します。
噛み合わせが高くないか
咬合紙などを使い、治療した歯だけが先に当たっていないかを確認します。
必要に応じてレントゲン写真で確認する
歯肉側まで深い隣接面修復では、必要に応じてレントゲン写真で大きなオーバーハングなどを確認することがあります。
ただし、レントゲン写真だけですべての段差が分かるわけではありません。
頬側や舌側にある小さな段差は映りにくいため、目視、フロス、探針、研磨などを組み合わせて確認します。

CR治療後に食べ物が挟まるのは接触が弱いから?
CR治療後、食事のたびに同じ場所へ食べ物が挟まる場合、隣の歯との接触を確認したほうがよいことがあります。
ただし、食べ物が挟まる原因は、接触が弱いことだけではありません。
- 接触面の位置が不適切
- 接触面より歯肉側がへこんでいる
- CRが外側へ張り出している
- 辺縁隆線が低い
- 隣の歯との高さが合っていない
- 噛み合わせによって食べ物が押し込まれる
- 歯周病などで歯が移動している
- 歯間乳頭が下がっている
なども関係します。
隣の歯との接触があっても、その周囲の形が不自然であれば、食べ物が残りやすい場合があります。
次のような症状が続く場合は、歯科医院へご相談ください。
- 食事のたびに同じ場所へ食べ物が挟まる
- フロスが抵抗なく抜けてしまう
- フロスがまったく通らない
- フロスが裂ける、毛羽立つ
- 歯肉から出血する
- 歯肉が押されるように痛む
- 舌で触ると段差を感じる
- 噛むと治療した歯だけが先に当たる
必ずしも修復物をすべてやり直すとは限りません。
研磨や噛み合わせの調整で改善できる場合もあるため、まずは状態を確認します。
オーバーハングとは何?
オーバーハングとは、CRなどの修復材料が、本来の歯の輪郭より外側へ張り出した状態です。
マトリックスとウェッジを使用する大きな目的の一つは、このオーバーハングを防ぐことです。
オーバーハングが起こる原因
- マトリックスと歯の間にすき間がある
- ウェッジが小さすぎる
- 治療中にマトリックスが浮いた
- リングによってマトリックスが変形した
- 接着材が歯肉側へ流れた
- CRを強く押し込みすぎた
- 歯肉やラバーダムを巻き込んだ
- 仕上げ器具が届かなかった
なぜ問題になるの?
オーバーハングがあると、その下に歯垢が残りやすくなります。
フロスが引っ掛かったり、歯肉へ刺激が加わったりすることもあります。
オーバーハングがあれば必ず歯周病になる、という単純なものではありませんが、清掃しにくくなり、歯肉の炎症リスクを高める可能性があります。

マトリックスを使えば、どんな虫歯でもCRで治せるの?
マトリックスやウェッジを工夫すれば、どれだけ大きく深い虫歯でもCRで治せるわけではありません。
次のような場合は、CR以外の治療方法も検討します。
- 虫歯が非常に深く、防湿が難しい
- 出血を十分に止められない
- マトリックスが歯肉側の境目まで届かない
- マトリックスを安定して固定できない
- 頬側や舌側の歯質が大きく失われている
- 歯の咬頭が薄い、または失われている
- 歯に亀裂がある
- 噛む力に耐える歯質が十分に残っていない
- 清掃可能な形をつくれない
- 歯肉や歯槽骨との位置関係に問題がある
このような場合は、別のマトリックスを使ったり、二段階で歯の壁をつくったり、インレー、オンレー、クラウンなどの治療方法を検討します。
「歯肉より何ミリ深ければCRができない」と、距離だけで一律に決めるものではありません。
出血や水分を管理できるか、マトリックスが適合するか、残っている歯質が十分か、治療後に清掃できる形へ仕上げられるかなどを総合して判断します。
ウェッジやリングを入れると痛い?
ウェッジやリングを装着するとき、歯と歯の間が押されるような感覚や、一時的な圧迫感を感じることがあります。
麻酔が効いている場合は、強い痛みというよりも、
- 押されている
- 挟まれている
- 歯の間が窮屈になった
と感じることがあります。
ただし、鋭い痛みや我慢しにくい圧迫感がある場合は、遠慮せずスタッフへお知らせください。
ウェッジの大きさや位置、リングの装着状態を調整できる場合があります。
よくあるご質問
マトリックスやウェッジは治療後も残りますか?
残りません。
CRを硬化させたあと、リング、ウェッジ、マトリックスはすべて取り外します。
金属アレルギーがあっても使えますか?
金属アレルギーを含め、これまでに医療器具や歯科材料でアレルギー症状が出たことがある方は、治療前にお知らせください。
使用する器具や材料を確認します。
ウェッジで歯が動いてしまうことはありませんか?
治療中にごくわずかに歯と歯を離すことがありますが、矯正治療のように歯を大きく移動させるものではありません。
器具を外すと、歯根膜の弾力によって元の位置へ戻ろうとします。
治療後にフロスがきついのは正常ですか?
治療前より少し強く感じることはあります。
ただし、フロスがまったく通らない、強く引っ掛かる、切れる、歯肉へ痛みが出る場合は確認を受けてください。
治療後に食べ物が挟まる場合は、やり直しになりますか?
必ずしも修復物をすべてやり直すわけではありません。
接触面、歯の輪郭、辺縁隆線、段差、噛み合わせ、歯肉の状態を確認し、研磨や調整で改善できる場合もあります。
治療後に歯ぐきが少し痛むことはありますか?
ウェッジを入れた場所の歯肉に、一時的な圧迫感、軽い痛み、少量の出血がみられることがあります。
多くは次第に落ち着きます。
ただし、腫れや痛みが強くなる、出血が続く、フロスを通すたびに強く痛む場合は、歯肉側の段差や材料のはみ出しなどがないか確認するため、歯科医院へご相談ください。
リングを使う方法のほうが優れた治療ですか?
器具には、それぞれ適した症例があります。
リングを使うセクショナルマトリックス、歯を一周する金属製バンド、透明ストリップのどれが優れているかではなく、虫歯を削ったあとの歯の形に合っているかが重要です。
まとめ
CR治療で使うマトリックスは、虫歯を削って失われた歯の壁を一時的につくる器具です。
ウェッジには、マトリックスを歯肉側へ密着させ、材料のはみ出しを防ぎ、マトリックスを固定し、治療中だけ歯と歯をわずかに離す役割があります。
必要に応じてリング状の3Dリテーナーなどを組み合わせ、隣の歯との接触面や歯の自然なふくらみを再現します。
ブランデンタルクリニックでは、治療する場所や欠損の形に応じて、
- 透明なストリップ
- 通常のマトリックス
- コンポジタイト3Dシステム
- マトリックスリテーナーと金属製バンド
などを使い分けています。
目指しているのは、虫歯の穴を白い材料で埋めることだけではありません。
- 歯肉側に段差がない
- 隣の歯と適切に接触している
- フロスを通せる
- 食べ物が挟まりにくい
- 歯垢が残りにくい
- 天然歯に近いふくらみがある
- 辺縁隆線の高さが適切である
- 噛み合わせが適切である
という状態まで含めて、歯の形をつくり直します。
治療中に見える薄い板や小さなくさびは、最後にはすべて取り外されます。
しかし、その器具をどの位置へ、どの強さで、どの組み合わせで使うかによって、治療後の歯の形、フロスの通り方、食べ物の挟まりにくさが変わります。
CR治療は、虫歯の穴へ白い材料を詰めるだけの治療ではありません。
失われた歯の壁と、隣の歯との関係を立体的につくり直す治療でもあるのです。
参考文献
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