2026年9月17日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科助手です。
虫歯を削って白いレジンを詰める治療を横で見ていると、ときどき不思議に思う操作があります。
虫歯を削り終わって、歯を洗ったあと。
先生は歯にエアーを当てますが、いつまでも「シューッ」と風を当てて、象牙質をカラカラに乾燥させているわけではありません。
ところが、そのあと透明な接着材を小さなブラシで塗ったと思ったら、今度はまたエアーを当てています。
「さっきは乾かしすぎないようにしていたのに、今度は乾かすの?」
最初に見たとき、私は少し不思議でした。
実は、ここで行われている二つの「エアー」は同じ意味ではありません。
象牙質そのものを接着に適した状態へ整えることと、接着材を塗ったあとに余分な水分や溶媒を飛ばすことは、別の工程です。
しかも象牙質接着では、「乾いていればいるほどよい」わけでも、「濡れていればいるほどよい」わけでもありません。
今回は、白いレジンの下で行われている、肉眼ではほとんど見えない「水分管理」を見学してみたいと思います。
そもそも象牙質は、エナメル質と同じ「乾いた硬い歯」ではありません
歯というと、白くて硬い一つの塊を想像するかもしれません。
しかし、歯の表面を覆うエナメル質と、その内側にある象牙質では性質がかなり違います。
エナメル質は無機質の割合が非常に高い組織です。
一方、象牙質には無機質だけでなく、コラーゲンなどの有機成分や水分が含まれています。
さらに象牙質には、歯の内部にある歯髄の方向へつながる「象牙細管」という非常に細い管が無数に存在しています。
つまり象牙質は、単なる乾燥した鉱物の板ではありません。
もともと水分を含んだ生体組織です。
この違いが、レジン接着を考えるうえでとても重要になります。

象牙質は深さによっても同じではありません
象牙質は、どの場所でもまったく同じ構造をしているわけではありません。
一般に歯髄へ近づくほど象牙細管の占める割合などが変わるため、浅い象牙質と深い象牙質では、接着する相手としての条件も違います。
さらに、健全な象牙質とう蝕の影響を受けた象牙質でも状態は異なります。
そのため、「象牙質なら全部同じ方法で、同じくらい乾かせばよい」という単純な話ではありません。
レジンは「歯を完全に乾燥させてから貼る接着剤」ではありません
日常生活の接着剤を思い浮かべると、「濡れているものより、きれいに乾燥したものの方がくっつきそう」と考えるのは自然だと思います。
ところが、象牙質へのレジン接着、とくにリン酸処理を行ったあとの象牙質では、それほど単純ではありません。
コンポジットレジン治療では、白いレジンを詰める前に、歯とレジンをつなぐための接着処理を行います。
エッチング・プライマー・ボンディングそれぞれの役割については以前の記事で詳しくご紹介しました。
今回は接着処理全体をもう一度説明するのではなく、その中でも特に、「水をどこまで残し、どこから除くのか」に注目します。
リン酸処理した象牙質では何が起きているの?
エッチ&リンスと呼ばれる接着法では、歯面をリン酸で処理してから水洗する工程があります。
象牙質へリン酸が作用すると、表面のミネラル成分の一部が取り除かれ、コラーゲン線維のネットワークが露出します。
そこへ接着材のレジン成分が浸透し、重合して固まることで、歯とレジンの間に接着界面が作られます。
この、レジン成分が象牙質へ浸透して一体化した層は「樹脂含浸象牙質」、英語ではハイブリッド層などと呼ばれます。
患者さんからは見えない場所ですが、白いレジンの下では、この非常に薄い接着界面が作られています。

「深く入り込めば入り込むほど強い」わけでもありません
ここで少し注意があります。
象牙質を強く脱灰して、レジンが奥深くまで入り込めば接着が強くなる、と単純に考えることはできません。
酸によって脱灰された深さと、接着材が実際に浸透できる深さが合わなければ、脱灰されたのにレジン成分が十分届いていない部分が残る可能性があります。
接着界面の質には、脱灰の深さ、コラーゲンの状態、接着材の浸透、水分、溶媒、重合状態、材料そのものの組成など、多くの条件が関係しています。
ですから、象牙質接着は「できるだけ深くレジンを染み込ませれば成功」という話でもありません。
では、なぜ象牙質を乾かしすぎないの?
ここが今回の中心です。
リン酸処理によってミネラルの一部が取り除かれた象牙質では、露出したコラーゲン線維のネットワークが水分によって形を保っています。
この状態から水分を強く奪いすぎると、コラーゲンネットワークが収縮し、つぶれたような状態になることがあります。
「コラーゲンが壊れる」というより、レジン成分が入り込むための網目の空間を保ちにくくなると考える方が近いでしょう。
その結果、使用する接着材によってはモノマーが十分に浸透しにくくなり、接着界面の形成に影響する可能性があります。
これが、リン酸処理後の象牙質をむやみにカラカラに乾燥させない理由の一つです。

「wet bonding」という考え方はなぜ生まれたの?
1990年代には、リン酸処理して水洗した象牙質を完全に乾燥させるよりも、ある程度の水分を保った状態で接着操作を行う方が高い接着強さを示す接着システムが報告されました。
こうした研究から広がったのが「wet bonding」という考え方です。
酸処理された象牙質のコラーゲンネットワークを水分で保ちながら、その中へ接着材を浸透させようという考え方です。
現在の象牙質接着を理解するうえでも重要な歴史です。
ただし、1990年代に重要だったwet bondingの考え方を、現在販売されているすべての接着材へそのまま当てはめることはできません。
接着材の組成も、溶媒も、モノマーも、接着方法も大きく変化しているからです。
じゃあ、象牙質は濡れているほどいいの?
乾かしすぎがよくないと聞くと、「では、水をたくさん残しておけばいいのでは?」と思うかもしれません。
これも違います。
象牙質接着では、水が多すぎることも問題になります。
表面へ余分な水分が残っていると、使用する接着材によっては接着材が均一になじみにくくなったり、材料の成分が分離したり、レジン成分の濃度や重合状態へ影響したりする可能性があります。
古典的な実験研究でも、過度に乾燥した状態だけでなく、過度に湿潤した状態でも接着強さが低くなった材料があります。
カラカラも違う。びしょびしょも違う。
象牙質接着の水分管理は、この両極端を避けることから始まります。

「適度な水分」は全製品共通の一点ではありません
ここでもう一段大切なのが、「では水分を何%にすればいいの?」という問題です。
実際には、どの接着材にも共通する一つの水分量が決まっているわけではありません。
接着材には、水を含むもの、エタノールを含むもの、アセトンを含むもの、HEMAを含むもの・含まないもの、10-MDPなどの機能性モノマーを含むものなど、さまざまな製品があります。
そのため、象牙質の状態に対する反応も同じではありません。
治療では「象牙質は必ずこの程度濡らす」という一つのルールではなく、使用する接着材と接着方法に合わせた操作が重要になります。
ここで注意。「必要な水分」と唾液はまったく別です
「象牙質を乾かしすぎない方がいいなら、少しくらい唾液がついていても大丈夫?」
これは全く別の話です。
象牙質そのものに含まれる水分や、接着操作の中で管理する水分と、唾液や血液による汚染を一緒にしてはいけません。
唾液や血液には水だけでなく、タンパク質などさまざまな成分が含まれています。
これらが接着する歯面へ付着すると、レジン接着を妨げる原因になる可能性があります。
そのため治療では、バキューム、ロールワッテなどの吸湿材、必要に応じたラバーダム、歯肉からの出血管理などを使い、接着面へ唾液や血液が入りにくい環境を作ります。

「象牙質を乾かしすぎない」=「唾液で濡れていてもよい」ではありません。
ここは、とても大切な違いです。
では接着材を塗ったあと、なぜ今度はエアーを当てるの?
冒頭の疑問に戻ります。
先生は象牙質をむやみにカラカラにしなかったのに、接着材を塗ったあとには、またエアーを当てていました。
これは矛盾しているのでしょうか。
実は、乾かしている対象が違います。
接着材には、製品によって水、エタノール、アセトンなどの溶媒が含まれています。
こうした成分は、接着性モノマーを歯面へ行き渡らせたり、湿った象牙質となじませたりするために重要な役割を持っています。
しかし、接着材を塗ったあとまで余分な水分や有機溶媒を大量に残しておけばよいわけではありません。
光を当てて接着材を重合させる前に、材料の指示に応じてエアーを当て、余分な溶媒や水分を適切に揮発・除去します。
接着材を塗る前
→ 象牙質そのものを過乾燥させないようにする場面がある
接着材を塗った後
→ 接着材中の余分な水分や溶媒を除去する
という違いです。

患者さんから見れば、どちらも同じ「シューッ」という風です。
でも、治療の中での役割は同じではありません。
接着材の中にも「水」が入っているの?
少し不思議ですが、セルフエッチ系のプライマーや接着材では、水そのものが材料の働きに必要なことがあります。
酸性の機能性モノマーは、水があることでイオン化して酸性を示し、歯面へ作用できるものがあります。
つまり、「接着に水分は邪魔だから、材料からも完全になくせばよい」というわけではありません。
一方で、塗布したあとに余分な水分が接着層へ残れば、長期的な吸水や加水分解など、接着界面の劣化に関係する可能性があります。
接着する前には役割がある水分でも、接着後まで余分に残すことが望ましいとは限らない。
ここが象牙質接着の少し難しいところです。
エアーは強く、長く当てるほどいいの?
これも違います。
接着材にはさまざまな種類があります。
例えば、プライマーへエアーを当てる工程、1液型の接着材へエアーを当てる工程、ボンディング材の厚みを整える工程では、同じエアーでも目的が異なります。
揮発性の高い溶媒を飛ばしたい場合もあれば、接着材を均一に広げたい場合もあります。
一方、ボンディング材を強すぎるエアーで必要以上に薄くしてしまうことが望ましくない材料もあります。
ですから、「強い風を10秒当てれば全部の接着材で正解」といった共通ルールはありません。
使用する材料によって、塗る量、塗布時間、擦り方、エアーの方法、光を当てる時間などが指定されています。
治療を横で見ていると数秒の操作ですが、その数秒にも材料ごとの意味があります。
接着材は「塗れば終わり」でもありません
水分だけでなく、接着材の塗り方も接着性能に関係します。
接着システムによっては、接着材を歯面へ一定時間擦り込むように塗布する「active application」が、ただ静かに置いておく塗布法より実験的な接着強さを高める条件が報告されています。
ただし、これもすべての製品に同じように当てはまる万能ルールではありません。
こうした研究の多くは実験室で測定した接着強さを評価したもので、修復物が実際の口の中で何年間も長持ちするかを直接示したものではありません。
そのため、「強くこすればこするほど長持ちする」と臨床成績へそのまま置き換えることはできません。
それでも、接着材は単に液を歯へ付ければ終わりではなく、材料ごとに指定された塗布方法、時間、エアー、光照射までを含めて一つの接着操作だということが分かります。
エッチ&リンスとセルフエッチでは、水分管理の話も違います
象牙質接着にはさまざまな方法があります。
大きく分けると、リン酸処理して水洗するエッチ&リンス法と、酸性モノマーを含む材料で歯面処理と接着操作を行うセルフエッチ法などがあります。
エッチ&リンスの場合
リン酸処理したあとに水で洗うため、「水洗後の象牙質をどの程度乾燥させるか」という問題が生じます。
古典的なwet bondingの議論が特に関係するのはこちらです。
セルフエッチの場合
セルフエッチでは、酸性モノマーを含むプライマーや接着材そのものが歯面へ作用します。
エッチ&リンスと同じように、「リン酸を塗る→水洗する→少し湿らせておく」という工程ではありません。
したがって、「象牙質接着なら、どんな材料でも最後に少し水を残せばよい」という理解は正しくありません。
ユニバーサル接着材の場合
現在は、一つの製品をセルフエッチ、エッチ&リンス、セレクティブエナメルエッチングなど複数の方法で使用できるユニバーサル接着材もあります。
だからこそ、接着材の名前だけでなく、どのモードで、どの歯質へ、どのように使用するのかまで含めて考える必要があります。
今でも「wetの方が必ず接着する」の?
ここは、昔の接着の説明だけを読むと誤解しやすいところです。
2025年に報告された系統的レビュー・メタ解析では、エッチ&リンス型接着材、またはユニバーサル接着材をエッチ&リンスモードで使用し、湿潤象牙質と乾燥象牙質を比較した5件のsplit-mouthランダム化臨床試験が解析されています。
対象は成人195人で、追跡期間は最長5年でした。
その結果、修復物の保持率について、18~24か月、36か月、60か月のいずれでも、wetとdryの間に明確な差は確認されませんでした。
術後知覚過敏についても有意な違いは認められていません。
このレビューでは、こうした結果についてエビデンスの確実性は中等度と評価されています。
研究の「dry」と「過乾燥」は同じ意味ではありません
ここで、とても大切な注意があります。
臨床研究でいう「dry」は、それぞれの試験で決められた方法に従って象牙質を乾燥させた条件です。
脱灰した象牙質へ強いエアーを長時間当て続けて、極端に脱水させる「過乾燥」と、必ずしも同じ意味ではありません。
「dry群でも成績が変わらなかった」=「象牙質はどれだけ乾かしても問題ない」ではありません。
ここを分けて考えることが、とても重要です。
また、この系統的レビューに含まれる臨床試験は、非う蝕性歯頸部欠損という、虫歯ではない原因で歯ぐきに近い部分が欠けた病変を対象としています。
そのため、虫歯を削ったすべての窩洞や、すべての深さの象牙質へ、そのまま同じ結果を当てはめられるわけではありません。
それでも、「wetなら必ず長持ちし、dryならすぐ取れる」というほど単純ではないことは分かります。
7年半追跡してもwetとdryで明確な差がなかった研究
さらに2026年掲載のランダム化臨床試験では、50人の患者さんに合計200本の非う蝕性歯頸部欠損を修復し、一つのユニバーサル接着材を4種類の接着法で比較しています。
7.5年時点で報告された保持率は、
エッチ&リンス+乾燥象牙質:76.5%
エッチ&リンス+湿潤象牙質:79.4%
でした。
数字だけを見るとwetの方が少し高く見えますが、統計的な有意差はありませんでした。
また、セルフエッチやセレクティブエナメルエッチングを含む4つの接着方法全体でも、主要な臨床成績に有意差は認められていません。
ただし、この長期データにも確認しておきたい点があります。
7.5年時点の患者リコール率は84%で、135修復が解析されました。
最初に行った200修復がすべて7.5年間評価できたわけではありません。
さらに、この7.5年報告は、以前5年時点まで報告されていた同じ50人・200修復の臨床試験を延長して追跡したものです。
別の200修復を追加した独立した研究ではありません。

このため、5年報告と7.5年報告を別々の独立した臨床試験として数えることもできません。
そして、この結果も「昔のwet bondingは間違いだった」という意味ではありません。
酸処理した象牙質を極端に乾燥させたとき、コラーゲンネットワークが収縮するという材料学的な現象は、象牙質接着を理解するうえで重要です。
一方で、現在の接着材は組成や溶媒、モノマー、塗布方法が進歩しています。
そのため現在は、象牙質がwetかdryかという一つの条件だけで、修復物の長期成績が決まるわけではないと考えた方が実際の臨床に近いでしょう。
水分だけ見ても、接着の良し悪しは決まりません
ここまで水分の話をしてきましたが、接着を左右する条件は水分だけではありません。
- 歯面が唾液や血液で汚染されていないか
- 接着材を十分に塗布できているか
- 材料に応じて必要な時間、歯面へなじませたり擦り込んだりできているか
- 余分な溶媒を適切に飛ばせているか
- 接着材が極端に薄くなっていないか
- 十分な光が届いているか
- 光照射器の状態や出力は適切か
- どのような象牙質へ接着しているか
こうした条件が組み合わさって接着界面が作られています。
ですから、「歯を濡らしたから接着成功」「歯を乾かしたから接着失敗」と、一つの操作だけで治療結果を判断することはできません。
「水分ゼロ」を目指しているのではなく、その工程に必要な状態を作っています
ここまでを整理すると、治療中に出てくる「水」は、すべて同じものではありません。
- 象牙質そのものに含まれる水分
- 象牙細管からの水分
- エッチングを洗い流したあとに歯面へ残る水
- プライマーや接着材に含まれる水
- エタノールやアセトンなどの有機溶媒
- 接着には望ましくない唾液や血液による汚染
これを全部まとめて、「濡れているか、乾いているか」の二択だけで考えることはできません。
必要な水分を必要な場面では保ち、不要になった水分や溶媒は適切に除き、唾液や血液は入り込ませない。
これが象牙質接着における水分管理です。
数秒の「シューッ」の中にも、いろいろな判断があります
歯科助手として横から治療を見ていると、接着処理は本当に短い時間で進んでいきます。
小さなブラシで透明な液を塗る。少し待つ。必要に応じて歯面へなじませる。エアーを当てる。青い光を当てる。
それだけを見ると、毎回同じことを繰り返しているようにも見えます。
でも実際には、今扱っているのはエナメル質か象牙質か、どの接着システムを使っているか、リン酸処理をしたか、表面へ水分が残りすぎていないか、逆に乾燥させすぎていないか、接着材を十分になじませたか、溶媒は十分に飛んだか、唾液や血液は入っていないか、光は十分届くか、といった条件を見ながら進んでいます。

白いレジンを詰める前の数十秒は、完成すると患者さんからほとんど見えなくなる部分です。
でも、その見えないところで行われている接着処理も、レジン修復の大切な工程なのだと、治療を見ていると感じます。
歯を削っているときに出る大量の水とは別の話です
ここで一つ、混同しやすい「水」があります。
虫歯を削っているとき、歯科用の器具からかなり多くの水が出ます。
この水は主に、歯を削るときに発生する熱を抑えたり、切削片を流したりするためのものです。
歯を削るときに水をたくさん出す理由については、以前の記事で詳しくご紹介しています。
今回お話ししているのは、そのあとに行われる接着操作中の象牙質の水分管理です。
同じ治療中に出てくる水ですが、目的は違います。
レジンを固めたあとにも治療は続きます
接着処理が終わると、ようやく白いコンポジットレジンを詰めていきます。
レジンを光で固めたら、それで治療終了というわけでもありません。
形を整え、噛み合わせを確認し、表面を滑らかに仕上げて研磨します。
固まったレジンをもう一度削って磨く理由についても詳しくご紹介しています。
接着から充填、光重合、仕上げまで、どの工程も役割が違います。
よくある質問
レジン治療では、歯を完全に乾かしてはいけないのですか?
すべての接着方法で「完全に乾燥させてはいけない」という意味ではありません。
特にリン酸処理後の象牙質では、過度な乾燥がコラーゲンネットワークや接着材の浸透へ影響することがあります。
一方、セルフエッチ系などでは接着工程そのものが異なります。使用する接着材の指定された方法に従うことが重要です。
象牙質は濡れているほど接着しやすいですか?
いいえ。
水分が多すぎても、接着材の広がりや成分の均一性、重合などへ影響する可能性があります。
「wetほど良い」ではありません。
唾液で濡れている状態でも同じですか?
違います。
象牙質内部の水分や、接着操作で管理する水分と、唾液による汚染は別です。
唾液や血液が接着面へ入ると、接着を妨げる原因になることがあります。
治療中に唾液が少し入ったら、そのレジン治療は失敗ですか?
そうとは限りません。
接着面への唾液や血液の混入はできるだけ避ける必要がありますが、もし汚染が起きた場合には、どの工程で汚染したか、どの接着材を使っているかなどに応じて、水洗や再処理、接着操作のやり直しなどを行うことがあります。
実験研究でも、汚染後の再処理によって接着強さがある程度回復する場合があります。
ただし、どの方法でも必ず汚染前と同じ状態へ戻せるとは限りません。
そのため、最初から唾液や血液が入りにくい環境を作ることが大切です。
接着材を塗ったあと、どうしてまた風を当てるのですか?
接着材には水、エタノール、アセトンなどが含まれる製品があります。
接着材を歯面へ作用させたあと、余分な水分や溶媒を適切に飛ばし、接着層を整えるためにエアーを使用します。
エアーを長く当てるほど接着は強くなりますか?
必ずしもそうではありません。
材料によって適切なエアーの方法は違います。
強すぎるエアーで接着層を必要以上に薄くすることが望ましくない場合もあります。
治療中に歯が乾いたら、レジンはすぐ取れてしまいますか?
そこまで単純ではありません。
近年の臨床研究では、wetとdryの違いだけで修復物の保持率が大きく変わらなかった研究もあります。
ただし、研究でいうdryと、脱灰象牙質を長時間強く乾燥させる「過乾燥」は同じ意味ではありません。
接着成績には水分だけでなく、材料、塗布操作、防湿、溶媒除去、光重合など多くの条件が関係します。
セルフエッチ接着材でも、象牙質を少し濡らしておくのですか?
エッチ&リンスと同じ考え方をそのまま当てはめることはできません。
セルフエッチでは、酸性モノマーを含む材料そのものが歯面へ作用するため、リン酸処理後に水洗して湿潤状態を調整する方法とは工程が違います。
まとめ|「乾かさない」のではなく、水分をコントロールしています
レジンを詰める前の象牙質接着では、「歯をできるだけ乾燥させる」ことが目的ではありません。
特にリン酸処理した象牙質では、乾燥させすぎることでコラーゲンネットワークが収縮し、接着材の浸透へ影響する場合があります。
だからといって、水をたくさん残せばよいわけでもありません。
余分な水分も接着を乱す原因になり得ます。
そして接着材を塗ったあとは、今度は接着材に含まれる余分な水分や溶媒を適切に飛ばします。
接着前の「乾かしすぎない」と、接着材塗布後の「エアーで飛ばす」は矛盾していません。
同じ「シューッ」という風でも、どの段階で使っているのかによって役割が違うのです。
さらに現在の接着材では、wetかdryかだけで長期成績が決まるわけではないことも臨床研究から分かってきています。
ただし、その「dry」は、象牙質を極端に脱水させる「過乾燥」と同じ意味ではありません。
大切なのは、象牙質を濡らすことでも、カラカラにすることでもなく、使用する接着システムに合わせて適切な状態を作ること。
治療を横で見ているとほんの数秒ですが、白いレジンの下には、こうした細かな接着操作が隠れています。
ブランデンタルクリニックは広島市中区立町、立町駅徒歩1分の立町中央ビル4階にあり、エレベーターをご利用いただけます。
虫歯治療や白い詰め物について気になることがある場合は、WEB・LINE・電話からご相談ください。詰め物が取れた、急に歯が痛くなったなど急ぐ症状については当日電話受付可、予約状況に応じて急患同日可で対応しています。
参考にした主な研究・資料
- Tagami J. Bonding in direct composite restoration. 日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学. 2022;41(3):201-207.
- Re-evaluating the role of moist dentin of adhesive systems used in the etch-and-rinse bonding strategy: A systematic review and meta-analysis. エッチ&リンス接着戦略におけるwet/dry dentinを比較した5件のsplit-mouthランダム化臨床試験、成人195人、最長5年を解析。
- Ñaupari-Villasante R, et al. Longevity of a single-dose, dual-cure universal adhesive: A 7.5-year double-blind split-mouth two-center randomized trial. Dental Materials. 2026;42(4):567-577.
※7.5年報告は、同一試験の5年報告を延長して追跡したものであり、別の独立した200修復の研究ではありません。
※接着材は製品ごとに組成や指定操作が異なります。本稿は特定の製品・接着方式をすべての症例へ推奨するものではありません。
