2026年6月15日

(院長の徒然コラム)

要旨
睡眠時ブラキシズムは、単に「歯ぎしりをしているかどうか」だけで判断できる現象ではありません。歯のすり減り、顎の疲れ、家族からの指摘、ナイトガードの傷は、確かに重要な手がかりになります。しかし、それらは現在の睡眠中の咀嚼筋活動をそのまま定量するものではありません。ナイトガードは睡眠時ブラキシズムを根本的に止める装置ではなく、歯質、補綴物、修復物、顎口腔系への損害を減らすための防御装置です。だからこそ、何を守るために作るのか、何は守れないのかを分けて考える必要があります。
はじめに:ナイトガードを作る前に、何を診断しているのか
歯科臨床では、「歯ぎしりをしているようなのでナイトガードを作りましょう」という流れが比較的自然に行われます。患者さん側からも、「寝ている間に歯ぎしりをしていると言われた」「歯がすり減っていると言われた」「朝起きると顎が疲れている」「詰め物や被せ物がよく割れる」といった訴えがあり、そこからナイトガード作製に進むことは珍しくありません。
しかし、ここで一度立ち止まる必要があります。
私たちはその時、本当に睡眠時ブラキシズムを診断しているのでしょうか。それとも、過去の咬耗、現在の筋症状、補綴物の破損リスク、患者さんの不安、歯科医師側の経験的判断をまとめて「歯ぎしり」と呼んでいるのでしょうか。
睡眠時ブラキシズムは、歯の咬耗、歯冠破折、歯根破折、補綴装置の破損、修復物の脱離、咀嚼筋痛、顎関節症様症状などと関係し得る重要な現象です。一方で、近年の国際的な整理では、睡眠時ブラキシズムは健康な人においては単純な「疾患」や「睡眠障害」とみなすのではなく、睡眠中の咀嚼筋活動という「行動」として扱う方向に整理されています。
この視点は非常に重要です。なぜなら、睡眠時ブラキシズムを「病気」として単純に消しにいくのか、それとも「リスクをもつ行動」として管理するのかで、臨床判断が大きく変わるからです。
ナイトガードは便利な装置です。比較的安全で、可逆的で、患者さんにも説明しやすい。しかし、便利であることと、診断が正確であることは別です。また、ナイトガードを作ったことと、睡眠時ブラキシズムを治療したことも別です。
今回のテーマは、患者さん向けの「ナイトガードとは何か」ではありません。それは受付記事や一般向け記事で十分です。ここでは、睡眠時ブラキシズムをどう診断し、その限界をどう理解し、ナイトガードをどのような臨床的位置づけで使うべきかを、できるだけ手加減せずに整理します。

睡眠時ブラキシズムは「歯ぎしり」だけでは狭すぎる
睡眠時ブラキシズムを日本語で説明するとき、多くの場合は「睡眠中の歯ぎしり」あるいは「寝ている間の食いしばり」と表現されます。患者さんに説明するうえでは、それで大きな問題はありません。しかし、医療従事者向けに考えるなら、この表現だけでは不十分です。
2018年の国際コンセンサスでは、睡眠時ブラキシズムは睡眠中に起こる咀嚼筋活動であり、rhythmic、つまり律動性の活動と、non-rhythmic、つまり非律動性の活動を含むものとして定義されています。ここで重要なのは、診断の中心が「歯」ではなく「咀嚼筋活動」に置かれていることです。
従来の歯科臨床では、歯の咬耗、ファセット、頬粘膜圧痕、舌圧痕、骨隆起、咬筋肥大、補綴物破損などから、睡眠時ブラキシズムを推測してきました。もちろん、それらは臨床的に重要な所見です。しかし、それらの多くは「結果」であり、現在睡眠中にどの程度の咀嚼筋活動が起きているかを直接示すものではありません。
また、ブラキシズムは睡眠時だけではありません。覚醒時ブラキシズムもあります。覚醒時ブラキシズムは、日中の持続的な歯列接触、くいしばり、下顎のbracingやthrustingを含む咀嚼筋活動として捉えられます。睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムは、同じ「ブラキシズム」という言葉で括られますが、発生時間帯も、意識状態も、評価方法も、管理方法も異なります。
この区別を曖昧にしたまま「歯ぎしりがある」とまとめてしまうと、診断がぼやけます。たとえば、日中のTCHや覚醒時の軽い持続的歯列接触によって咀嚼筋痛が出ている患者さんに、睡眠時ブラキシズム対策としてナイトガードだけを入れても、主訴が改善しないことがあります。逆に、睡眠中の強い筋活動によって補綴物破損リスクが高い患者さんに、日中の行動指導だけで十分とは限りません。
睡眠時ブラキシズムを「歯ぎしり音があるかどうか」で捉える時代から、睡眠中の咀嚼筋活動をどう評価し、その活動がどの組織にどの程度の臨床的リスクを与えているかを見る時代へ移ってきています。
ブラキシズムは病気か、行動か
睡眠時ブラキシズムを考えるうえで、最も重要な転換点の一つが「病気か、行動か」という問題です。
2018年の国際コンセンサスでは、健康な人におけるブラキシズムは、それ自体を疾患とみなすのではなく、臨床的結果に応じて、無害な行動、リスク因子、場合によっては保護因子にもなり得る行動として整理されています。
この整理は、臨床的に非常に大きな意味を持ちます。
たとえば、ある患者さんに睡眠中の咀嚼筋活動が認められたとしても、それが歯質、補綴物、歯周組織、顎関節、咀嚼筋、睡眠の質に何らかの損害を与えていなければ、それを直ちに病的と呼ぶべきかは慎重に考える必要があります。一方で、同程度の筋活動であっても、残存歯質が少ない歯、根管治療済み歯、フェルールが乏しい補綴歯、セラミック修復物、インプラント上部構造、重度歯周炎の支持組織がある場合には、臨床的リスクは大きく変わります。
つまり、睡眠時ブラキシズムの「活動量」と「臨床的な危険度」は同義ではありません。
ある患者さんでは無害に近い筋活動が、別の患者さんでは補綴物破損や歯根破折の引き金になることがあります。ある患者さんでは単なる睡眠中の運動現象に過ぎないものが、別の患者さんでは歯科治療計画全体を変えるリスク因子になります。
さらに、ブラキシズムには保護的に働く可能性が議論される場面もあります。たとえば、睡眠呼吸障害に関連する覚醒反応、上気道開存、唾液分泌、胃食道逆流に伴う酸性環境への反応などです。もちろん、これらの議論は「歯ぎしりは体に良い」と短絡すべきものではありません。しかし、少なくとも、すべての睡眠時ブラキシズムを一律に悪者として抑制するという考え方は、現在の整理とは合いません。
したがって、臨床で問うべきことは「この患者さんは歯ぎしりをしているか」だけではありません。
本当に問うべきなのは、「この患者さんの睡眠中の咀嚼筋活動は、どの組織に、どの程度のリスクを与えているのか」です。

診断の限界:問診、咬耗、ナイトガードの傷でどこまで言えるか
歯科医院で睡眠時ブラキシズムを疑うきっかけは、多くの場合、問診と臨床所見です。
患者さん本人の自覚、家族や睡眠同伴者からの指摘、歯ぎしり音、起床時の顎の疲れ、咬筋痛、側頭部痛、開口時の違和感、歯の咬耗、ファセット、頬粘膜圧痕、舌圧痕、骨隆起、補綴物の破損、修復物の脱離。これらは臨床上、無視できない所見です。
しかし、ここで重要なのは、これらがすべて「現在の睡眠中の咀嚼筋活動量」を直接測定しているわけではないということです。
日本補綴歯科学会の睡眠時ブラキシズム検査・診断ガイドラインでは、PSGに音声動画撮影を加えたPSG+AVを参照基準として、各種検査の有用性が整理されています。その中で、PSG単体は弱く提案、筋電計単体も弱く提案、簡易型ブラキシズム測定装置も弱く提案、歯質の咬耗による臨床診査も弱く提案とされています。一方で、問診・質問票、口腔スプリントの咬耗による評価については、検査として提案できるか不明とされています。
この整理は臨床家にとって少し痛いところです。なぜなら、日常臨床では、まさに問診、咬耗、患者の自覚、ナイトガードの摩耗を根拠に判断しているからです。
もちろん、臨床所見は無意味ではありません。むしろ、臨床現場では不可欠です。ただし、それらを「確定診断」として扱うか、「疑う材料」として扱うかは分けなければなりません。
たとえば歯の咬耗は、睡眠時ブラキシズムを疑う強い手がかりになります。しかし咬耗は累積的な結果です。数年前、あるいは10年前の咬耗が現在も残っています。酸蝕、咬耗、摩耗、食習慣、咬合様式、補綴物の有無、歯質の耐摩耗性、年齢、性別なども影響します。したがって、歯がすり減っていることは、過去に歯に力が加わったことを示唆しても、現在の睡眠時ブラキシズムの活動量をそのまま示すわけではありません。
同じことはナイトガードの傷にも言えます。
ナイトガードに傷がつくと、患者さんにも歯科医師にも非常に分かりやすい説明材料になります。「これだけ擦っています」と見せることができるからです。しかし、スプリントの摩耗や傷は、筋活動量、力の大きさ、方向、持続時間、装置の材質、厚み、咬合調整、使用時間、清掃状態などに左右されます。ナイトガードの傷は臨床的なコミュニケーションには役立ちますが、睡眠時ブラキシズムの定量診断としては限界があります。
ここを曖昧にしてしまうと、患者さんへの説明も過剰になります。「歯ぎしりがひどいですね」と言いたくなる場面でも、より正確には「睡眠中の咀嚼筋活動が疑われ、歯や補綴物に負担がかかっている可能性があります」と言うべきです。
診断の精度を上げるためには、問診と臨床所見を軽視するのではなく、その限界を理解したうえで使う必要があります。

PSG+AV、PSG、携帯型筋電計:理想と現実の間
睡眠時ブラキシズムの評価で最も厳密な参照基準とされるのは、PSGに音声動画記録を組み合わせた評価です。
PSGでは、脳波、眼電図、筋電図、心電図、呼吸、酸素飽和度、体位などを同時に記録できます。これに音声動画が加わることで、咀嚼筋活動が本当に睡眠時ブラキシズムに関連したものか、体動、嚥下、咳、寝言、顔面を掻く動作、開眼、ため息、唇を舐める動作などではないかを除外しやすくなります。
ただし、PSG+AVを日常歯科臨床で全例に行うのは現実的ではありません。施設、費用、時間、患者負担、睡眠環境の変化という問題があります。睡眠検査室での一晩が、その患者さんの普段の睡眠をどこまで代表するのかという問題も残ります。
一方、携帯型筋電計は、日常に近い環境で測定できるという大きな利点があります。自宅で複数夜測定できれば、睡眠検査室での一夜よりも生活実態に近いデータが得られる可能性があります。近年、歯科領域でも携帯型筋電計の普及が進み、睡眠時ブラキシズムを数値で捉えようとする流れは確実に強くなっています。
しかし、携帯型筋電計にも限界があります。
特に1チャンネルの筋電図だけで測定する場合、睡眠ステージ、体動、覚醒、嚥下、顔面筋活動との切り分けが難しくなります。筋活動の振幅や持続時間の抽出条件によって、イベント数が大きく変わる可能性もあります。顎関節症と睡眠時ブラキシズムの関係を検討した総説でも、研究結果が一定しない理由の一つとして、筋電図波形の抽出方法の違いが指摘されています。
さらに、従来の評価では「1時間当たり何回のイベントがあるか」が重視されてきました。しかし、生体への負荷という意味では、回数だけでなく、振幅、持続時間、総筋活動量、波形積分値、低振幅だが長時間持続する活動なども重要になります。強い短時間のグラインディングと、弱いが長時間続くクレンチングでは、同じイベント数でも組織への影響は異なる可能性があります。
つまり、数値が出ることと、臨床的意味が明確になることは同じではありません。
携帯型筋電計は有用です。PSG+AVが現実的でない日常臨床では、非常に重要な橋渡しになります。しかし、その数値もまた、臨床所見、補綴リスク、歯周組織の状態、睡眠背景、薬剤、患者の症状と統合して解釈すべきものです。
「4回/時以上」だけで病的と呼べるのか
睡眠時ブラキシズムの研究では、RMMA indexやSB episode indexなど、1時間当たりのイベント数を用いた基準が使われてきました。たとえば、RMMA indexが4回/時以上で中等度以上の睡眠時ブラキシズムと扱われるような研究基準があります。
このような基準は、研究を進めるうえでは必要です。対象者を分類しなければ、研究ができないからです。しかし、臨床にそのまま持ち込むと問題が生じます。
なぜなら、4回/時という数値が、すべての患者さんにおいて同じ臨床的意味を持つわけではないからです。
天然歯が多く、歯周組織も安定し、補綴物も少なく、症状もない患者さんの4回/時と、残存歯質の少ない根管治療歯にポストコアとクラウンが入っている患者さんの4回/時は、リスクが違います。重度歯周炎で支持組織が減少した歯列、インプラント上部構造、セラミック修復物、咬合支持が偏った歯列では、同じ筋活動量でも臨床的帰結は変わります。
2018年国際コンセンサスでは、健康な人においては標準的なカットオフ値だけでブラキシズムの有無を決めるのではなく、咀嚼筋活動を連続量として評価すべきとされています。
これは非常に臨床的です。
ブラキシズムは「ある/ない」だけでなく、「どの程度あるか」「どのようなパターンか」「どの組織にリスクを与えているか」「他のリスク因子と重なっているか」で評価すべきです。カットオフは便利ですが、患者さんのリスクを完全に表すものではありません。
この章で強調したいのは、睡眠時ブラキシズムの診断は数値だけでも、臨床所見だけでも不十分だということです。
数値は必要です。臨床所見も必要です。しかし最終的には、筋活動の量と質、組織側の脆弱性、補綴設計、睡眠背景、患者の症状を統合する必要があります。

ナイトガードで守れるもの
ナイトガードは、睡眠時ブラキシズムを根本的に治す装置ではありません。
この点は明確にしておく必要があります。ナイトガードは、睡眠中の中枢性の覚醒反応を止めるものではありません。睡眠構築を正常化するものでもありません。睡眠時無呼吸を治すものでもありません。薬剤性ブラキシズム、GERD、ストレス、不安、生活習慣の問題を直接解決するものでもありません。
では、ナイトガードには意味がないのでしょうか。
もちろん、そうではありません。
ナイトガードの臨床的価値は、睡眠時ブラキシズムを「止める」ことではなく、睡眠時ブラキシズムによって生じ得る損害を減らすことにあります。
具体的には、歯質の保護、修復物の保護、補綴物の保護、咬合力の分散、咬耗面の保護、歯周組織への過剰な局所負担の緩和、顎関節や咀嚼筋への負荷の調整が主な目的になります。もちろん、それぞれの効果をどこまで客観的に証明できているかには限界があります。それでも、歯質や補綴物を物理的に守るという観点では、ナイトガードは臨床的に非常に実用的です。
ナイトガード使用に関する総説では、ナイトガードは睡眠時ブラキシズムの根本治療ではなく、咬合の均一化による力の合理的配分や顎口腔機能系の保護を目的とした対症療法と整理されています。また、短期的には睡眠時ブラキシズムを減少させる報告がある一方で、長期的な抑制は見込めないとされています。
この「短期的には減ることがあるが、長期的には根本抑制ではない」という整理は重要です。
患者さんには、ナイトガードを「歯ぎしりを止める装置」と説明したくなるかもしれません。しかし、それは不正確です。より正確には、「寝ている間に歯や被せ物へ加わる力を受け止め、損傷を減らすための装置」です。
たとえば、セラミックインレーやジルコニアクラウンが入っている患者さんでは、歯ぎしりそのものを止められなくても、修復物や対合歯へのダメージを減らす意義があります。根管治療済み歯や補綴歯が多い患者さんでは、歯根破折や補綴物破損を完全に防げるとは言えなくても、力の集中を緩和する意味があります。
したがって、ナイトガードを作るべき症例とは、「歯ぎしりがある症例」ではなく、「守るべき歯質、補綴物、修復物、顎口腔系がある症例」です。
ナイトガードで守れないもの
ナイトガードの限界も、同じくらい明確に説明する必要があります。
ナイトガードで守れないものは、睡眠時ブラキシズムの背景にある中枢性の発生機序です。睡眠時ブラキシズムは、睡眠中の微小覚醒、心拍数変化、自律神経活動、睡眠段階の変化と関係して生じることが知られています。ナイトガードは歯列の間に介在する装置であり、このような中枢性の覚醒反応そのものを消すものではありません。
また、睡眠時無呼吸を治すものでもありません。むしろ、口腔内装置の種類や設計によっては、睡眠呼吸に影響する可能性も考えなければなりません。ナイトガード使用に関する総説では、OSA患者にミシガンタイプのスタビライゼーションスプリントを使用した場合に、呼吸障害の悪化が認められた報告にも触れられています。
GERDも同様です。胃食道逆流が睡眠時ブラキシズムと関連する可能性は議論されていますが、ナイトガードは逆流そのものを治療する装置ではありません。酸蝕と咬耗が重なった患者さんでは、ナイトガードだけでなく、酸蝕、食習慣、逆流症状の確認が必要になります。
薬剤性ブラキシズムも見逃してはいけません。SSRIやSNRIなど、抗うつ薬に関連したブラキシズムは複数報告されています。もちろん、歯科医師が独断で薬剤を中止することはできません。しかし、服薬開始後や増量後に顎のこわばり、くいしばり、歯ぎしり、咀嚼筋痛が増えた場合には、医科主治医との連携を考えるべきです。
ストレスや睡眠不足も単純ではありません。「ストレスが原因です」と言い切るのは簡単ですが、実際には心理社会的要因、睡眠構築、微小覚醒、覚醒時ブラキシズム、睡眠時ブラキシズム、自覚症状が複雑に絡みます。患者さんに「ストレスですね」と言うだけでは、診断にも治療にもなりません。
ナイトガードは歯を守れます。しかし、睡眠そのもの、呼吸、薬剤、逆流、心理社会的背景、日中の歯列接触癖までは守れません。
だからこそ、ナイトガードを作る前には、少なくとも以下のような背景を確認する必要があります。いびき、睡眠中の呼吸停止の指摘、日中の眠気、CPAP使用歴、抗うつ薬や向精神薬の服薬、GERD症状、飲酒、喫煙、カフェイン摂取、睡眠不足、日中のくいしばり、TCH、顎関節症状。これらはナイトガードの適応を否定するためではなく、ナイトガードだけで完結させてはいけない症例を見つけるために重要です。

OSAと睡眠時ブラキシズム:併存するが、単純な因果ではない
睡眠時ブラキシズムを語るとき、睡眠時無呼吸症候群との関係は避けて通れません。
OSAと睡眠時ブラキシズムは併存することがあります。いびき、呼吸イベント、微小覚醒、睡眠段階の変化、咀嚼筋活動は、同じ睡眠中の生理現象として関連し得ます。そのため、「歯ぎしりは無呼吸のサインではないか」「無呼吸があるから歯ぎしりが起きるのではないか」と考えたくなります。
しかし、ここは単純化してはいけません。
若年の睡眠時ブラキシズム患者を対象に、無呼吸・低呼吸イベントとRMMAの関係を検討した研究では、呼吸イベントを認めるSB群でも、呼吸イベントを認めないSB群と比べて、主観的睡眠、睡眠構築、RMMA indexは同等であり、呼吸イベントの発生がRMMAの発生数に強く影響しているとは考えにくいとされています。また、RMMAと呼吸イベントが10秒以内に近接した頻度は、RMMA総数の最大約30%程度とされ、高いとは言えません。
この結果から言えるのは、OSAとSBが併存することはあっても、「呼吸イベントが直接RMMAを誘発している」と単純には言えないということです。
臨床的には、これが非常に重要です。
歯科医院でナイトガードを作るとき、患者さんにいびきや日中の眠気がある場合、通常のナイトガードだけで対応してよいとは限りません。睡眠呼吸障害が疑われる患者さんに対して、単なる歯ぎしり用のナイトガードを入れて経過を見るだけでよいのか。医科への相談が必要なのか。睡眠検査が必要なのか。下顎前方位型のOA適応があるのか。ここを見極める必要があります。
ナイトガードは歯を守る装置です。一方で、OSAに対する口腔内装置は、上気道の開存を目的として下顎位を調整する装置です。目的が異なります。
したがって、睡眠時ブラキシズムとOSAを混同してはいけません。併存する可能性を見落としてもいけませんが、因果関係を単純化してもいけません。
【挿絵③挿入位置:SBとOSAの関係図。中央に“微小覚醒”を置き、片側にRMMA、もう片側に呼吸イベントを配置する。両者は近接することがあるが、太い一方向矢印ではなく、点線で“併存・関連・不確実性”を表現する。】
睡眠不足、ストレス、生活習慣は「原因」ではなく「修飾因子」として扱う
睡眠時ブラキシズムの患者さんに対して、「ストレスが原因ですね」と説明する場面は多いと思います。患者さんも納得しやすく、説明としては便利です。しかし、医療従事者向けに考えるなら、この言い方は少し粗いです。
ストレス、睡眠不足、飲酒、喫煙、カフェイン、不安、GERD、睡眠時無呼吸、薬剤などは、睡眠時ブラキシズムと関連する可能性がある因子です。しかし、それらを単純な一方向の原因として扱うと、臨床判断を誤ります。
近年の研究では、健康成人28名を対象に、通常睡眠、1晩の断眠、回復睡眠を比較し、携帯型筋電計と睡眠評価装置で睡眠時ブラキシズムイベントと睡眠変数を測定しています。その結果、回復睡眠1日目では、SBイベント頻度がBaselineの54.7±8.10/hから38.7±5.81/hへ有意に低下し、microarousal indexも1.84±0.29から1.27±0.16へ低下しました。一方で、総睡眠時間は5.85±0.17時間から6.53±0.12時間へ、睡眠効率は85.1±2.17%から88.6±1.39%へ、N3睡眠割合は24.2±2.96%から29.4±2.87%へ上昇しています。
この結果は、「睡眠不足だと歯ぎしりが増える」と単純に読むべきではありません。むしろ、睡眠構築、深睡眠、微小覚醒、ストレス状態が変化すると、睡眠時ブラキシズムイベントも変動し得ると読むべきです。
睡眠時ブラキシズムは、固定された癖ではなく、睡眠の状態に応じて揺れ動く生理現象です。したがって、睡眠不足、ストレス、飲酒、喫煙、カフェインを確認することは重要ですが、それらを「原因」と断定するのではなく、「修飾因子」として扱う方が臨床的です。
この考え方は患者指導にも直結します。
「ストレスをなくしてください」と言われても、多くの患者さんは困ります。そうではなく、「睡眠の質を落とす要因を減らす」「過度な飲酒を避ける」「夕方以降のカフェインを見直す」「日中の歯列接触に気づく」「顎や歯に負担がかかる習慣を減らす」といった具体的な介入に落とし込む必要があります。
ナイトガードは歯を守る装置ですが、生活背景を無視してよい免罪符ではありません。
TMDとの関係:睡眠時ブラキシズムだけで説明しない
睡眠時ブラキシズムと顎関節症の関係も、非常に誤解されやすい領域です。
歯ぎしりや食いしばりが顎関節症の原因になる、という説明は一般的です。確かに、睡眠時ブラキシズムは咀嚼筋疲労や疼痛のリスク因子の一つと考えられています。しかし、現段階では、睡眠時ブラキシズムと顎関節症の関係を肯定する論文と否定する論文が混在しており、単純な結論は出ていません。
この理由の一つは、何を睡眠時ブラキシズムとして抽出しているかが研究によって異なることです。筋電図の波形抽出条件、振幅閾値、持続時間、睡眠中の覚醒期の扱い、体動や嚥下の除外、PSGか携帯型筋電計かによって、評価される筋活動が変わります。
さらに、顎関節症は多因子疾患です。解剖学的因子、咬合因子、外傷因子、精神的因子、行動因子が重なり、発症、維持、慢性化に関与します。睡眠時ブラキシズムだけで、顎関節症をすべて説明することはできません。
臨床的には、顎関節症状がある患者さんにナイトガードを使うことはあります。しかし、それは「睡眠時ブラキシズムが顎関節症の唯一の原因だから」ではありません。可逆的な保存療法として、咀嚼筋や顎関節への負担を分散し、夜間の過剰負荷から顎口腔系を守る目的で用いるのです。
この区別をしないと、ナイトガードに過剰な期待を持たせてしまいます。
顎関節症の疼痛が、日中のTCH、姿勢、心理的緊張、咀嚼習慣、開口制限、筋痛、関節円板障害、変形性変化、睡眠障害など複数の因子で生じている場合、ナイトガードだけで症状が消えるとは限りません。
ナイトガードはTMD治療の一部になり得ますが、TMDをすべて解決する装置ではありません。
ナイトガードにも副作用がある
ナイトガードは比較的安全な装置です。可逆的であり、歯を削る必要がなく、患者さんにも受け入れられやすい。歯科医院で行う睡眠時ブラキシズム管理として、非常に現実的な選択肢です。
しかし、安全そうに見える装置ほど、管理を怠ると問題が起こります。
ナイトガード使用に関する総説では、ハードタイプスタビライゼーションスプリントを装着した顎関節症患者の6〜26%に、頭痛、咀嚼筋痛、耳鳴り、開口障害などの自覚症状が生じる報告が示されています。また、OSA患者にミシガンタイプのスタビライゼーションスプリントを適用した場合、約半数に睡眠中の呼吸障害悪化が認められた報告にも触れられています。
もちろん、これらをもって「ナイトガードは危険」と言うべきではありません。しかし、「安全だから作って終わり」と考えるべきでもありません。
ナイトガードは咬合面を持つ装置です。装着すれば、顎位、咬合接触、滑走運動、筋活動、睡眠時の下顎位に影響を与える可能性があります。摩耗すれば咬合面は変化します。破損すれば保護能力が落ちます。適合が変われば違和感や咬合干渉を生みます。調整不足のまま使い続ければ、装置そのものが新たな問題になる可能性もあります。
口腔内装置の指針でも、咬合接触、偏心運動時の干渉除去、使用指導、症状悪化時の中止、咬合変化の可能性、リコールの必要性が示されています。これは、ナイトガードが単なる「物」ではなく、管理を伴う医療行為であることを意味します。
特に、ナイトガードの摩耗が進行している患者さんでは、定期的な咬合調整が必要です。咬合面が偏って摩耗すれば、力の分散装置だったものが、力の集中装置になる可能性もあります。
ナイトガードは、作ることよりも、作った後にどう管理するかが重要です。

不可逆的な咬合調整を安易に行わない
睡眠時ブラキシズムの話になると、咬合調整の問題を避けることはできません。
古典的には、咬合異常がブラキシズムの原因であると考えられていた時代がありました。しかし現在では、睡眠時ブラキシズムは末梢性の咬合因子だけで説明できるものではなく、中枢性、睡眠関連、自律神経活動、覚醒反応を含む現象として理解されています。
したがって、「歯ぎしりがあるから噛み合わせを削る」という発想は、極めて慎重であるべきです。
明らかな早期接触、補綴物の高い咬合、修復後の咬合干渉、咬合変化に伴う局所的外傷がある場合に、それを調整することはあります。しかし、それは「睡眠時ブラキシズムを治すために咬合を削る」のとは別です。
歯を削る治療は不可逆です。ナイトガードは調整でき、作り直すことができますが、削った歯は戻りません。したがって、睡眠時ブラキシズムの抑制を目的とした不可逆的咬合調整には、強い根拠と慎重な判断が必要です。
臨床では、まず可逆的な管理を考えるべきです。生活背景の確認、覚醒時ブラキシズムの指導、睡眠関連症状の確認、薬剤の確認、補綴設計の見直し、ナイトガードによる保護、定期的な観察。これらを行う前に、歯を削る方向へ進むべきではありません。
歯科医師にとって咬合は重要です。しかし、咬合だけで睡眠時ブラキシズムを説明しようとすると、現在の知見からずれてしまいます。
ナイトガードを作るべき症例、慎重に考えるべき症例
では、どのような症例でナイトガードを作るべきでしょうか。
最も分かりやすいのは、守る対象が明確な症例です。咬耗が進行している症例、補綴物や修復物が多い症例、セラミック修復物が入っている症例、根管治療済み歯が多い症例、フェルールが乏しい補綴歯、歯根破折リスクが高い歯、インプラント上部構造、歯周支持が低下した歯列などです。
これらの症例では、睡眠時ブラキシズムを完全に定量できなくても、歯科的損害を減らす目的でナイトガードを検討する価値があります。
一方で、慎重に考えるべき症例もあります。強いいびきがある、日中の眠気が強い、睡眠時の呼吸停止を指摘されている、CPAPを使用している、抗うつ薬や向精神薬の開始後に症状が出た、GERD症状が強い、強い顎関節痛や開口障害が主訴である、ナイトガード管理のための定期通院が困難である、装置を入れることで咬合変化のリスクが高い。このような場合は、ナイトガードを作らないというより、先に確認すべきことがあると考えるべきです。
特に睡眠呼吸障害が疑われる患者さんでは、通常のナイトガードと睡眠時無呼吸用の口腔内装置を混同してはいけません。目的も設計も異なります。
また、薬剤性が疑われる場合には、歯科単独で完結させるのではなく、処方医との連携が必要になることがあります。患者さんに薬をやめるよう指示するのではなく、服薬開始時期、増量時期、症状出現時期を整理し、必要に応じて医科へ情報提供する姿勢が重要です。
ナイトガードの適応は、「歯ぎしりがあるか」だけで決めるものではありません。
「何を守るのか」
「何は守れないのか」
「他に見落としてはいけない背景がないか」
「作った後に管理できるか」
この4点を確認して初めて、ナイトガードは意味のある医療装置になります。
臨床での説明:患者さんにはどう伝えるか
医療従事者向けに厳密に考えるほど、患者さんへの説明は難しくなります。診断には限界がある。ナイトガードは根本治療ではない。睡眠時無呼吸や薬剤やGERDも関係するかもしれない。咬耗だけでは診断できない。これらをすべて説明すると、患者さんは不安になります。
だからといって、「歯ぎしりですね。マウスピースを作りましょう」で終わらせるのも不十分です。
患者さんには、次のように説明するのが現実的だと思います。
「歯のすり減りや症状から、寝ている間に歯や顎へ負担がかかっている可能性があります。ただし、歯ぎしりそのものを完全に止める治療は簡単ではありません。ナイトガードは、寝ている間の力から歯や被せ物を守るための装置です。歯ぎしりを治すというより、歯を守るために使います。いびきや強い眠気、服薬の変化などがある場合は、別の確認が必要になることもあります。」
この説明なら、過剰な断定を避けつつ、ナイトガードの価値も伝えられます。
歯科医師側が正確に理解していれば、患者さんへの説明はむしろシンプルになります。複雑なことを複雑なまま伝えるのではなく、複雑さを理解したうえで、患者さんに必要な形に翻訳するのが医療者の役割です。
まとめ:ナイトガードは歯ぎしり治療ではなく、損害管理である
睡眠時ブラキシズムは、単純な「歯ぎしり」ではありません。睡眠中の咀嚼筋活動であり、健康な人では疾患というより行動として捉えられます。その行動が無害に近い場合もあれば、歯質、補綴物、歯周組織、顎関節、咀嚼筋にとって明らかなリスク因子になる場合もあります。
診断には限界があります。問診、歯の咬耗、舌圧痕、頬粘膜圧痕、骨隆起、ナイトガードの傷は重要な手がかりですが、現在の睡眠中の咀嚼筋活動を正確に定量するものではありません。PSG+音声動画は強い参照基準ですが、日常臨床では現実的でない場面も多く、携帯型筋電計にも偽陽性や波形抽出の限界があります。
ナイトガードは、睡眠時ブラキシズムを根本的に止める装置ではありません。中枢性の覚醒反応、睡眠時無呼吸、GERD、薬剤性、ストレス、睡眠構築そのものを治すものでもありません。
それでも、ナイトガードには大きな臨床的価値があります。
その価値は、歯ぎしりを止めることではなく、歯質、補綴物、修復物、顎口腔系への損害を減らすことにあります。つまり、ナイトガードは睡眠時ブラキシズムの根本治療ではなく、歯科的損害管理のための防御装置です。
重要なのは、「作るか作らないか」ではありません。
何を守るために作るのか。
何は守れないのか。
背景に睡眠呼吸障害、薬剤、GERD、睡眠不足、覚醒時ブラキシズムがないか。
作った後に調整とメインテナンスを継続できるか。
そこまで考えて初めて、ナイトガードは単なるマウスピースではなく、歯科治療計画の一部になります。
ブランデンタルクリニックでは、歯のすり減り、被せ物の破損、顎の疲れ、朝の違和感などを単独で判断するのではなく、歯質、補綴物、歯周組織、顎関節、生活背景を含めて診査します。ナイトガードが必要な場合もありますし、先に別の確認が必要な場合もあります。大切なのは、歯ぎしりを怖がらせることではなく、患者さんの歯を長期的に守るために、どのリスクをどう管理するかを一緒に考えることです。
《参考文献・資料メモ》
- Lobbezoo F, Ahlberg J, Raphael KG, et al. International consensus on the assessment of bruxism: Report of a work in progress. J Oral Rehabil. 2018.
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