2026年6月13日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
歯磨き粉を買おうと思ってドラッグストアに行くと、棚にたくさんの商品が並んでいて、どれを選べばよいのか迷ってしまうことがあります。
「フッ素高配合」「知覚過敏ケア」「ホワイトニング」「歯周病予防」「低研磨」など、魅力的な言葉がたくさん書かれていますが、すべての人に同じ歯磨き粉が合うわけではありません。
歯磨き粉選びで大切なのは、一番高いものや人気の商品を選ぶことではなく、今のお口の悩みに合っているかを見ることです。むし歯予防を重視するならフッ素、冷たいものがしみるなら知覚過敏用、コーヒーや紅茶などの着色が気になるなら着色ケア用というように、目的に合わせて選ぶと失敗しにくくなります。

まず基本は「フッ素入り」を選ぶ
毎日のむし歯予防で、まず基本になるのはフッ素入りの歯磨き粉です。フッ素には、歯の表面を酸に溶けにくくする働きや、初期のむし歯で起こる脱灰からの再石灰化を助ける働きがあります。
特に大人の場合は、6歳以上で使用できる1,400〜1,500ppmF程度のフッ素入り歯磨き粉が選択肢になります。もちろん、小さなお子さんでは年齢に合った濃度と量を守る必要がありますので、家族全員が同じ歯磨き粉を使えばよいとは限りません。
ここで気をつけたいのは、「フッ素配合」と書かれていても、濃度が分かりにくい商品があることです。日本で販売されているフッ化ナトリウム配合歯磨剤のうち、フッ化物濃度の記載がない8種類を調べた報告では、500ppmF未満のものが1種類、500ppmF前後のものが4種類、900〜1,000ppmFのものが3種類でした。つまり、フッ素入りと書かれていても、実際の濃度には差があるということです。
むし歯予防をしっかり考えるなら、パッケージの「フッ素配合」という言葉だけでなく、「1450ppm」「高濃度フッ素配合」などの表示も確認するとよいでしょう。フッ素の種類や働きについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考になります。
フッ素は「選び方」だけでなく「使い方」も大切
せっかくフッ素入り歯磨き粉を選んでも、使い方によって口の中への残り方は変わります。フッ素の効果には、濃度、使用量、磨く時間、うがいの量や回数などが関係します。
たとえば、歯磨き後に何度も強くうがいをすると、口の中に残したいフッ素まで流れてしまいやすくなります。1,450ppmFの歯磨剤を使った研究では、洗口なしの場合、ブラッシング10分後まで唾液中のフッ化物イオン濃度が有意に高かった一方、洗口ありでは有意に高かったのは直後のみでした。
患者さんにお伝えするときは、「歯磨き粉はしっかり使い、最後のうがいは少量の水で軽く1回くらい」と説明すると分かりやすいと思います。もちろん、口の中に歯磨き粉が残る感覚が苦手な方もいますので、無理のない範囲で続けられる方法を選ぶことが大切です。

冷たいものがしみるなら「知覚過敏用」を選ぶ
冷たい水、歯ブラシの毛先、風、甘いものなどで一瞬しみる場合、知覚過敏が関係していることがあります。知覚過敏は、歯ぐきが下がったり、歯の根元の象牙質が露出したりすることで起こりやすくなります。
知覚過敏用の歯磨き粉には、刺激の伝わり方を抑える成分や、象牙細管と呼ばれる細い管をふさぐことを目的とした成分が使われることがあります。代表的なものとして、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、ステアリン酸亜鉛などがあります。
5%硝酸カリウム配合歯磨剤の臨床試験では、知覚過敏を訴える74名を対象に調べたところ、試験群では2週目で44%が症状改善、4週目以降では80%を超える方が改善し、8週目で42%、12週目で56%が症状消失に達したと報告されています。
ただし、ここで大切なのは、「しみる=必ず知覚過敏」と決めつけないことです。むし歯、歯のひび、詰め物の隙間、歯周病、噛み合わせの負担でも、しみる症状が出ることがあります。
知覚過敏用歯磨き粉を使ってみること自体はよい選択肢ですが、痛みが強い、だんだん悪化している、何もしなくてもズキズキする、同じ歯だけがしみる、といった場合は歯磨き粉だけで様子を見続けない方が安心です。知覚過敏について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

着色ケア用は「歯を漂白するもの」ではない
コーヒー、紅茶、緑茶、赤ワイン、カレー、喫煙などによる着色が気になる方は、着色ケア用やホワイトニング用と書かれた歯磨き粉が気になると思います。
ここで整理しておきたいのは、市販の着色ケア用歯磨き粉は、基本的には歯の表面についたステインを落としやすくするためのものだということです。歯科医院で行うホワイトニングのように、歯の内部の色を薬剤で漂白して大きく白くするものとは役割が違います。
ホワイトニング用歯磨剤と一般的な歯磨剤の着色除去効果を比較した実験では、着色させたウシ前歯に対してブラッシングを行い、着色除去率はホワイトニング用歯磨剤で55%または47%、一般的な歯磨剤で40%、ブラッシングのみで11%と報告されています。この結果から、製品によっては表面の着色除去に役立つ可能性があります。
一方で、着色ケアを意識しすぎて強く磨きすぎると、歯ぐきが下がったり、歯の根元が削れたり、知覚過敏につながることがあります。「白くしたいから強くこする」のではなく、歯と歯ぐきの境目にやさしく毛先を当て、必要に応じて歯科医院でクリーニングを受ける方が安全です。
ホワイトニング後の白さを維持したい方や、歯の色戻りが気になる方は、こちらの記事も参考になります。
迷ったときは「今一番困っていること」で選ぶ
歯磨き粉を選ぶときに、むし歯予防もしたい、しみるのも気になる、着色も落としたい、歯ぐきも心配、というように、いろいろな希望が出てくることがあります。
そのようなときは、まず今一番困っていることを考えてみてください。むし歯になりやすい方、詰め物や被せ物が多い方、間食が多い方は、まずフッ素濃度を重視します。冷たいものがしみる方は、知覚過敏用を優先します。コーヒーや紅茶の着色が気になるけれど痛みはない方は、着色ケア用を選ぶのもよいでしょう。
ただし、知覚過敏と着色ケアを同時に気にしている方では、研磨力の強いものを避けた方がよい場合もあります。歯ぐきが下がっている方、歯の根元が削れている方、すでにしみる症状がある方は、着色を落とすことよりも、まず歯を傷めにくいケアを優先した方がよいことがあります。
歯磨き粉の成分全般について知りたい方は、こちらも参考になります。

歯磨き粉だけで判断しない方がよい症状
歯磨き粉は毎日のセルフケアを助けてくれる大切な道具ですが、治療の代わりになるものではありません。
たとえば、冷たいものだけでなく温かいものもしみる、何もしなくても痛い、噛むと痛い、歯に穴や黒い部分がある、詰め物の周りが変色している、歯ぐきから出血が続く、前より歯が長く見える、といった場合は、歯磨き粉を変えるだけでは原因を見逃してしまうことがあります。
特に「しみるから知覚過敏用を使っているけれど、何週間も変わらない」という場合は、一度歯科医院で確認しておくと安心です。原因が知覚過敏であれば、歯磨き粉の選び方や磨き方の調整で楽になることもありますし、むし歯や詰め物の不具合であれば早めの処置が必要になることもあります。
広島市中区立町周辺、紙屋町・八丁堀・本通近くで、歯のしみる症状や着色、歯磨き粉選びについて相談したい方は、定期検診やクリーニングの際にお気軽にご相談ください。
FAQ
Q. 歯磨き粉は高いものを選んだ方がいいですか?
A. 必ずしも高いものがよいとは限りません。大切なのは、今のお口の状態に合っているかです。むし歯予防を重視するならフッ素濃度、しみる症状があるなら知覚過敏用成分、着色が気になるならステイン除去を目的とした歯磨き粉というように、目的で選ぶことが大切です。
Q. 大人は1450ppmのフッ素入り歯磨き粉を使った方がいいですか?
A. 6歳以上であれば、1,400〜1,500ppmF程度のフッ素入り歯磨き粉はむし歯予防の選択肢になります。ただし、使用量やうがいの仕方も大切です。小さなお子さんでは年齢に合った濃度と量を守る必要があります。
Q. 知覚過敏用歯磨き粉はどれくらいで効果が出ますか?
A. 成分や症状によって差がありますが、数週間単位で様子を見ることが多いです。硝酸カリウム配合歯磨剤の臨床試験では、2週目から症状改善が見られた報告もあります。ただし、痛みが強い場合や悪化する場合は、むし歯や歯のひびなど別の原因が隠れていることがあります。
Q. ホワイトニング歯磨き粉で歯は白くなりますか?
A. 市販のホワイトニング用歯磨き粉は、主に歯の表面の着色を落としやすくするものです。歯科医院で行うホワイトニングのように、歯の内部の色を大きく白くするものとは違います。コーヒーや紅茶のステイン対策には役立つことがありますが、歯そのものの色を変えたい場合は歯科医院で相談するとよいでしょう。
Q. 歯磨き粉を変えても歯がしみる場合はどうすればいいですか?
A. しみる原因が知覚過敏とは限らないため、歯科医院で確認することをおすすめします。むし歯、歯周病、歯のひび、詰め物の不具合、噛み合わせの負担などでもしみることがあります。歯磨き粉を変えても改善しない場合は、早めに相談してください。
まとめ
歯磨き粉は、毎日の歯みがきを助けてくれる身近なセルフケア用品です。ただ、種類が多いからこそ、何となく選ぶのではなく、自分の目的に合わせて選ぶことが大切です。
むし歯予防ならフッ素、しみる症状があるなら知覚過敏用、着色が気になるならステインケア。ただし、痛みやしみる症状、歯ぐきの変化がある場合は、歯磨き粉だけで判断せず、歯科医院で原因を確認しましょう。
ブランデンタルクリニックでは、患者さんのお口の状態に合わせて、歯磨き粉や歯ブラシ、磨き方のアドバイスも行っています。いつもの検診やクリーニングの際に、「自分にはどんな歯磨き粉が合っていますか?」と気軽に聞いてみてください
