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歯周病で死亡リスク23倍?『ザ・シンプソンズ』150人を本気で解析した査読論文

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2026年9月12日

歯周病で死亡リスク23倍?『ザ・シンプソンズ』150人を本気で解析した査読論文

(院長の徒然コラム)

診療後のおふざけ

2026年9月11日の『British Dental Journal』を読んでいたら、なかなか穏やかではない数字が目に入りました。

歯周炎、あるいは歯の喪失があるキャラクターでは、死亡ハザードが約23倍。

23%増ではありません。2.3倍でもありません。

23倍です。

歯周病と糖尿病や心血管疾患などとの関連を検討した研究は珍しくありません。それでも「23倍」は、さすがに数字が大きすぎます。

気になって原著を開いてみると、研究対象は150人。最長36年にわたり追跡し、死亡までの時間を扱うCox比例ハザード回帰を使い、喫煙、腹部肥満、所得なども調整しています。

なかなか本格的です。

そして対象者の欄を見ると、

『ザ・シンプソンズ』に登場する人間キャラクター150人。

……なるほど。そういう研究でした。

ただし、ここで「なんだ、ジョーク論文か」と閉じるのはもったいない。この論文、ふざけています。かなりふざけています。

しかし同時に、医学論文に出てくる「○倍」「p<0.05」「調整後」「95%信頼区間」といった数字を、どう読めばいいのかをかなり本気で教えてくれる論文でもあります。

9月11日の『British Dental Journal』も、この研究を「関連を因果関係へ変換しないこと」「代替指標に注意すること」を学ぶ題材として紹介しています。150人のうち歯周炎または歯の喪失が確認されたのは4人、死亡も9人しかなく、23倍という派手な推定値の裏に大きな不確実性があるというわけです。

今回はSpringfieldまで出張して、医学研究の数字の読み方を考えてみます。

研究名は「IMPOSTERS」――最初から隠す気がない

今回の原著は、Sharma氏とDietrich氏による“‘The Simpsons’ Did It Again! Periodontitis and Tooth Loss Predict Mortality in Springfield: A Retrospective Cohort Study”です。

『Journal of Periodontal Research』の2026年の特集号に、Perspective Article(論考)として掲載された査読済み論文です。ネット上の思いつき企画ではありません。

そして、この研究には正式名称があります。

Investigating Mortality and Periodontitis Or tooth loss in Simpsons TV charactERS

頭文字を拾うと、

IMPOSTERS(偽物)。

なんだこいつら!(失礼)

もう隠す気がありません。

研究方法の冒頭にも、「倫理委員会にはユーモアのセンスがないと思われたため、倫理審査は求めなかった」という趣旨の一文が書いてあります。

その一方で統計解析は、死亡までの時間を扱うCox比例ハザード回帰を使い、あらかじめ作った因果関係図を参考に交絡因子を選び、比例ハザード性を確認し、モデルの識別性能をHarrellのC-indexで評価し、さらにAIC(赤池情報量規準)まで計算しています。

どうやら著者らは、ふざけるために、本気を出したようです。

ならば私もそのおふざけに敬意を持って答えるために、敢えて真剣にこの論文を分析する責務を全うするべきでしょう!

まず200人を集め、ちゃんと除外基準まで作った

研究者らは、『ザ・シンプソンズ』に繰り返し登場するキャラクター200人を集めました。

ただし、ここにも一つ注意点があります。この200人はSpringfield住民から無作為に選ばれた標本ではなく、繰り返し登場するキャラクターから集めた便宜的な標本です。最初から「Springfield全住民を代表する無作為抽出」ではありません。

そこから、3エピソード未満しか登場しないキャラクター、「人間」ではないキャラクター、『ザ・シンプソンズ』世界の中でも架空の存在、歴史上の人物などを除外しました。

49人が除外されて151人。さらに共変量の情報が不足していたCapital City Goofballが1人除外され、

最終解析150人。

論文の3ページには、普通の臨床研究と見間違えるようなフローダイアグラムまで用意されています。除外例にはSnowball、Kang and Kodos、Itchy and Scratchyなどが、真顔で並んでいます。

論文を読み慣れている人ほど、じわじわ来る図です。

Bartは何十年たっても10歳だが、生存時間は測れるらしい

死亡までの時間を解析するなら、当然「時間」を決めなければなりません。

ところが『ザ・シンプソンズ』には重大な問題があります。

Bart Simpsonは何十年たっても10歳です。

生物学的年齢がほとんど進まない世界で、どうやって生存時間を測るのでしょうか。

著者らは、生物学的年齢ではなく、そのキャラクターが最初に放送へ登場した日から、公式設定上の死亡日または観察終了日までを生存時間としました。

そして観察終了日は2023年2月17日。

なぜその日なのか。

第一著者に最初の子どもが生まれ、テレビを見る時間がなくなったから。

だそうです。

完全な冗談に見えます。でも、生存時間解析では「いつから観察を始めるのか」「どの時点で観察終了とするのか」は本当に重要です。

つまり、この論文はBartの年齢をネタにしながら、時間の起点と打ち切りをどう定義するかまで教材にしています。

ところで、この研究の「歯周病」は誰が診断したのか

ここから少しずつ、笑ってばかりではいられなくなってきます。

今回の研究で「曝露あり」とされたのは、歯周炎、または病的な歯の喪失があるキャラクターです。

歯周炎についてはキャラクター自身の情報を使っています。代表例がBleeding Gums Murphy。名前からして歯肉出血があります。

ところが著者自身が後で指摘している通り、「Bleeding Gums Murphy」という名前は、歯科医師による歯周炎の診断ではありません。自己申告情報に近いものです。

さらに、歯の喪失については、Google Imagesでキャラクター画像を調べ、研究者が判定しています。

さすがSpringfieldです。

しかし、ここには現実世界の疫学研究にも通じる重要な問題があります。

「歯がない」と「歯周病」は同じではない

歯を失う理由は歯周炎だけではありません。虫歯、外傷、歯根破折、その他の理由による抜歯もあります。

したがって、歯の喪失=歯周炎と置き換えてしまえば、実際には歯周炎ではない人まで「歯周炎側」に入ってしまう可能性があります。

しかもGoogle画像で判断するなら、前歯の欠損は見つけやすくても、奥歯が1本なくなっているかどうかを正面写真だけで確認するのは困難です。

著者らも、この問題を現実世界の歯周疫学における曝露の誤分類になぞらえています。部分的な歯周検査では病変を見落とし、分類を誤る可能性があることにも触れています。

大規模な疫学研究では、何万人もの参加者すべてに詳細な歯周組織検査を行うことが難しい場合があります。自己申告、歯の本数、部分的な歯周検査などが代わりに使われることもあります。

だから論文を読むときには、「何人を調べたか」だけでなく、「何をもって歯周病ありとしたのか」を見る必要があります。

ブランデンタルクリニックでは以前、約4万8千人の日本人高齢者を追跡し、歯の喪失と社会経済状況、要介護・死亡との関係を調べた研究も紹介しました。歯の喪失という情報は重要ですが、それがそのまま「歯周病の量」を意味するわけではありません。詳しくは歯の喪失と要介護・死亡を扱った記事をご覧ください。

交絡因子もちゃんと集めた――ただし腹部肥満は目測だった

著者らは、死亡にも歯周病にも関係しそうな要因を調整しています。

性別、民族的分類、世帯所得、腹部肥満、喫煙です。

ここまで読むと、「おお、交絡因子もちゃんと考えている」と思います。

ところが、民族的分類の評価方法は、ophthalmic gauging。

難しそうな名前ですが、論文では括弧付きで、eyeballing。

要するに、見た目で判断。です。

腹部肥満については当初、Google画像からウエスト・ヒップ比を測ろうとしました。ところが4人ほど調べた段階で、大学のIT部門から検索内容について物言いが入り、断念。

残りのキャラクターは、それまで分類した体型との類似性を目で見て判定しました。

さらに世帯所得は、Cletus–Burns scale。

貧困層を象徴するCletusから、大富豪Mr. Burnsまでの尺度です。

ここまで来ると完全に笑い話ですが、この笑いの中にかなり大事なことが隠れています。

「調整済み」は「すべて解決済み」ではない

医学ニュースでは、「年齢、性別、喫煙などを調整しても○倍だった」と書かれることがあります。交絡因子を考えること自体は非常に重要です。

しかし、統計モデルへ変数を入れたことと、その変数を正確に測れていたことは別問題です。

腹部肥満を調整した。でも、その腹部肥満の分類が間違っていたら?

所得を調整した。でも、所得という複雑な社会的背景を3段階だけで十分に表現できていなかったら?

喫煙を調整した。でも、喫煙本数や期間などの重要な情報を捉えきれていなかったら?

そして、そもそも研究者が測っていない重要な要因が残っていたら?

変数をモデルに入れても、すべての交絡が消えるわけではありません。

「調整済み」は「すべて解決済み」ではない。

今回の腹部肥満の目測は、その問題をわざと極端な形で見せています。

「150人の研究」と聞く前に、まず4人を見よう

いよいよ結果です。

最終解析は150人。ここだけを見ると、それなりの人数がいるように感じます。

ところが、歯周炎または歯の喪失が確認されたキャラクターは4人。

わずか4人です。

そして観察期間中に死亡したキャラクターは、9人。

中央値の追跡期間は32年でした。

ここは今回の論文で最も覚えておきたい点の一つです。

「150人を調べた」という総数だけを見ない。
その中で、問題となる条件を持つ人が何人いて、死亡などの出来事が何件起きたのかを見る。

同じ150人の研究でも、75人対75人に分かれ、何十件もの死亡が起きた研究と、4人対146人に分かれ、死亡が9件しかない研究とでは、得られる情報量がまったく違います。

生の人数では「1人対8人」だった

Table 1を見ると、さらに分かりやすくなります。

歯周炎または歯の喪失があった4人では、1人死亡。

なかった146人では、8人死亡。

つまり、1/4対8/146。

この単純な死亡割合をFisherの正確確率検定で比べたp値は、0.221。

通常よく使われる0.05という基準を下回っていません。

「あれ? 23倍はどこへ行った?」となります。

ここで注意したいのは、Fisher検定とCox比例ハザード回帰では、同じ問いに答えているわけではないということです。

Fisher検定では単純な死亡割合を比べます。一方、Cox比例ハザード回帰では、死亡するまでの時間と観察打ち切りを考慮し、さらに複数の背景因子も同時に扱います。

ですから、「単純比較では有意じゃなかったのに、複雑な統計を使って無理やり有意にした」と決めつけるのも正しくありません。

しかし逆に、複雑な解析でp<0.05が出たから、それだけで強い証拠になったと考えるのも危険です。

その理由が、次の数字に出てきます。

Cox回帰に入れたら「23.14倍」が爆誕した

性別、民族的分類、所得、腹部肥満、喫煙などを調整したCox比例ハザード回帰では、

歯周炎または歯の喪失あり:HR 23.14

となりました。

さらに、

95%信頼区間 1.50〜358.06

p=0.025。

Springfieldの歯周医学に激震が走ります。

23%増ではない。2倍でも5倍でもない。

23.14倍。

この一行だけを切り取れば、「歯周病で死亡リスク23倍」という見出しが簡単に出来上がります。

でも、原著が報告したのは正確には、調整後の全死亡ハザード比23.14です。

ハザード比は「死亡する確率が23倍」という意味ではない

今回の23.14はハザード比です。

簡単に言えば、各時点でまだ生存している対象の中で、死亡という出来事が起こる瞬間的な発生率を2群で比べた指標です。

一定期間で何%が死亡したかを直接比べる「リスク比」とは同じではありません。

医学ニュースでは、リスク比、オッズ比、ハザード比が、すべて「○倍」と日本語で要約されてしまうことがあります。

しかし、意味は同じではありません。

「23倍」という数字を見る前に、何の23倍なのかを確認する必要があります。

「23.14」より先に「1.50〜358.06」を見たい

ここから、この論文の本領です。

HR 23.14。たしかに強烈です。

しかし、その横に書かれている95%信頼区間は、

1.50〜358.06。

幅がものすごい。

著者ら自身もこれを皮肉って、ハザード比を増加率として機械的に言い換えれば、約50%増から35,706%増までという、とんでもなく広い範囲になると書いています。

これは何を意味するのでしょうか。

23.14という値は、一つの点推定値です。

しかし、この研究から得られた推定は非常に不精確です。

「23倍」という一本の数字だけを見ると、ものすごく強い関連が分かったように感じます。

でも、1.50〜358.06まで見れば、「関連の大きさについては、かなり不確実なのでは?」と印象が変わります。

p<0.05だけでは、この不精確さは見えない

今回のp値は0.025です。0.05を下回っています。

だからといって、「死亡ハザードが23.14倍であることが正確に証明された」わけではありません。

効果の大きさを示す点推定値、その不確実性を示す信頼区間、そしてデータと帰無仮説との整合性について一つの情報を与えるp値。これらは、それぞれ違うものを見ています。

今回ほど、「p<0.05だったか」だけでは研究を読めないことが分かりやすい例も珍しいでしょう。

死亡9件なのに、モデルには7つのパラメータ

そして、この論文の最大の見どころが来ます。

死亡は、9件。

それに対してモデルで推定するパラメータは、7。

著者らは、9÷7=1.3 events per parameterと計算しています。

つまり、1つのパラメータあたり約1.3件の死亡しかありません。

そして自分たちのモデルについて、深刻に過適合しており、統計的な検出力も不足し、ばかばかしいほどであるという趣旨で自ら評しています。

「1変数あたり10イベント」は絶対的な合否ラインではない

古典的には、Cox回帰などで安定した推定を行うための目安として、「1変数あたり10イベント」という経験則がよく引用されてきました。今回の原著もPeduzziらの1995年研究を引用しています。

ただし、10以上なら合格、9なら失格という絶対的な法則ではありません。

特に近年の予測モデル開発の方法論では、必要なイベント数は扱うパラメータ数、予想されるモデル性能、過適合をどこまで抑えるかなどによって変わるため、「10イベント」という一律の経験則だけで決めないことが提案されています。

もちろん、予測モデル開発の議論と、今回のような関連を検討するCox回帰は、目的がまったく同じではありません。

ですから、ここで言いたいのは、「1.3は10より小さいから自動的に失格」という単純な話ではありません。

今回について最も重要なのは、著者自身が、このイベント数でこのモデルを組めば猛烈に不安定になることを承知したうえで、わざと実演しているという点です。

10か9かを議論しているところに、1.3がやってきた。

そんな研究です。

ところがC-indexは0.81、AICも少し良く見える

ここからが怖いところです。

この危ういモデルは、比例ハザード性の確認を通っています。

HarrellのC-indexは、0.81。

さらにAICは、歯周炎/歯の喪失を含めたモデルが89.8、含めないモデルが91.4

差は1.6と大きくありませんが、少なくとも数字の上では、歯周炎/歯の喪失を入れたモデルのAICの方がわずかに低くなっています。原著自身も「モデル適合はわずかに良かった」という程度の扱いです。

並べてみると、

HR 23.14

p=0.025

C-index=0.81

AICもわずかに低い

なんだか急に、立派な研究に見えてきました。

でも、ここで大切なのは、「指標が立派に見えること」と「推論が信頼できること」は同じではないということです。

特に今回のC-index 0.81は、同じ解析データの上で得られた指標です。過適合したモデルは、モデルを作ったデータそのものにはよく合って見えることがあります。

別の集団で23.14という結果が再現された、という意味ではありません。

したがって、C-index 0.81だから、この「23倍」が信頼できるという意味にはなりません。

BICは「話に合わなかったので載せなかった」

そしてDiscussionには、かなり強烈な一文があります。

BIC、つまりベイズ情報量規準という別のモデル評価指標について、著者らは、

今回の物語に同意してくれなかったので提示しなかった

という趣旨のことを堂々と書いています。

もちろん、これはジョークです。

というより、都合のいい解析結果だけを拾って、もっともらしい研究の物語を作る行為を風刺するために、わざと書いています。

AICは出す。BICは出さない。

理由は、話の都合が悪いから。

この論文では、それを隠さず書いているので笑えます。

現実の研究で同じことが、読者に見えない形で行われていたら笑えません。

研究を読むときには、「何が報告されているか」だけでなく、「何を測定し、どの解析をして、何を報告することにしたのか」も考える必要があります。

このモデルでは「男性」の死亡ハザードが91%低く出た

Table 2には、さらに味わい深い結果があります。

男性の死亡ハザード比は、0.09。

95%信頼区間は0.02〜0.57。p=0.010。

一方、腹部肥満はHR 8.60。喫煙はHR 4.99、p=0.051でした。

このモデルの数字だけを文字どおりに読めば、Springfieldでは男性であることが死亡に対する強烈な保護因子に見えます。

著者らも、Springfieldにおける男性の保護効果について、その世界を作っている人たちを介して因果が生じているのでは、というメタな冗談まで書いています。

では、「男性なら長生きできることがp=0.010で証明された」のでしょうか。

もちろん、そんな話ではありません。

p=0.049とp=0.051の間に崖はない

さらに喫煙を見てみましょう。

ハザード比は4.99。かなり大きな点推定値です。

でもp値は、0.051。

よく使われる0.05を、ほんの少し上回っています。

もし0.049だったら「統計学的に有意」。0.051なら「有意ではない」。

では、0.049なら喫煙は危険で、0.051なら安全なのでしょうか。

そんなわけはありません。

0.049と0.051の間に、医学的な崖があるわけではないからです。

p値は研究結果を読むための一つの情報であって、真実と間違いを切り分ける電源スイッチではありません。

今回の論文は、それをわざと極端な形で見せています。

ここでSpringfieldから現実世界へ帰ってこよう

ここまで読むと、「つまり、歯周病と死亡の研究なんて信用できないという話なのか」と思われるかもしれません。

それも違います。

現実世界の歯周炎は、歯を支える組織が破壊される慢性炎症性疾患です。

現在では単に「悪い細菌が増えた病気」と考えるのではなく、口腔内細菌叢と宿主の免疫反応の不均衡、過剰な炎症、炎症を収束させる仕組みの障害などが複雑に関係すると考えられています。

2025年の『Journal of Periodontal Research』のレビューでも、歯周炎は慢性的な免疫炎症性疾患として整理され、口の中で起きる炎症が全身の免疫系にも影響し得ることが論じられています。

ブランデンタルクリニックでも、歯周治療後の細菌ネットワークや宿主応答、炎症と全身との関係について「歯周治療後も炎症の履歴は残るのか?」で詳しく整理しています。

糖尿病、心血管疾患、慢性腎臓病などと歯周病との関連を示した研究も多数あります。

問題は、「関連が観察された」から、「歯周病が直接その病気を起こした」へ一気に飛んではいけないことです。

現実の研究者には「死亡するまで何十年も待てない」という問題がある

今回の『ザ・シンプソンズ』研究には、現実の臨床研究が少しうらやましくなる長所があります。

放送期間が長い。35年以上あります。

だから「死亡」という、患者に直接関わる最終的な出来事を観察できます。

現実世界で、「歯周治療をすると心血管死亡が減るのか」を確かめるために、何万人もの患者を何十年間も追跡するのは簡単ではありません。

そこで臨床研究では、HbA1c、CRP、IL-6、血管内皮機能、血圧など、将来の病気や死亡と関係する代替指標を調べることがあります。

たとえばPeriodontology 2000のレビューでは、上腕動脈の血流依存性血管拡張反応が心血管疾患の代替指標として紹介され、歯周病患者では低下しており、歯周治療後に改善した研究が整理されています。

日本のレビューでも、高感度CRP、IL-6、空腹時血糖、血流依存性血管拡張反応、拡張期血圧などが、歯周治療による心血管代謝リスクへの影響を評価する指標としてまとめられています。

こうした研究には十分な価値があります。

ただし、血管内皮機能が改善した=心筋梗塞が減ったではありません。

さらに、心筋梗塞が減った=全死亡が減ったとも限りません。

一段ずつ、問いが違います。

糖尿病でも同じです。歯周治療後にHbA1cが改善したという結果と、「歯周治療によって糖尿病の長期予後が改善した」という結論は同じではありません。詳しくは糖尿病と歯周病の双方向性、HbA1cと歯周治療効果の記事で整理しています。

「関連は因果ではない」で全部終わらせるのも雑である

医学論文の話になると、「相関関係は因果関係ではない」という便利な言葉があります。

確かに重要です。

でも、この一言ですべての観察研究を切り捨てるのも乱暴です。

現実の医学では、どちらが時間的に先なのか、同じ関連が別の集団でも再現されるか、重症度が上がるほど結果も変わるか、生物学的に説明できるか、喫煙や糖尿病、社会経済状況など別の原因で説明できないか、介入したときに何かが変わるかなど、さまざまな証拠を積み重ねながら因果関係の可能性を考えます。

観察研究だけで簡単に、「AがBを起こした」とは言えません。

しかし、「観察研究だから価値がない」でもありません。

大切なのは、その研究が何を示し、どこから先はまだ示していないのかを区別することです。

2025年の『British Dental Journal』のレビューでも、歯周病と全身疾患との関連を支持する研究を多数紹介する一方、たとえば歯周治療が将来の心血管疾患を予防するかについては証拠に限界があり、因果関係や長期的な治療利益をさらに検討する必要があると整理されています。

メタ解析に入ったら、この惨状も「一つの点」になる

この論文でもう一つ好きなのが、メタ解析への皮肉です。

著者らは、自分たちの巨大な信頼区間や過適合について説明したあと、将来この分野のメタ解析へ取り込まれれば、こうした細かな事情は失われ、この論文も一つのデータ点へ縮約されるだろうという趣旨のことを書いています。

考えてみると、かなり怖い話です。

森林プロットに小さな四角が一つ追加される。

その四角の中には、Google画像で判定した歯の欠損、目測した腹部肥満、Cletus–Burns所得尺度、曝露者4人、死亡9件、7パラメータ、そして物語に合わなかったBICまで、全部押し込まれます。

もちろん実際の系統的レビューやメタ解析では、研究ごとの質や偏りを評価します。

それでも、「メタ解析だから自動的に最高の真実になる」わけではありません。

もとの研究の対象、定義、測定方法、偏り、研究間の違いを確認する必要があります。

材料の問題は、統合しただけでは消えません。

医学ニュースの「○倍」を見たら、まずこの8項目を見る

今回の研究から学べることを、実際の医学ニュースを読むときに使える形にまとめてみます。

1.誰を調べた研究なのか

一般住民なのか。糖尿病患者なのか。透析患者なのか。それともSpringfield住民なのか。

対象集団が違えば、もともとの病気や死亡の起こりやすさも違います。

2.問題となる条件を持つ人は何人いたのか

今回なら「150人」だけでなく、歯周炎/歯の喪失あり4人を見る必要があります。

3.死亡などの出来事は何件起きたのか

今回の死亡は、9件。

複雑な統計モデルを支える情報量を考えるうえで重要です。

4.「○倍」は何の倍率なのか

リスク比なのか。オッズ比なのか。ハザード比なのか。

どれも「○倍」と表現できますが、意味は同じではありません。

5.95%信頼区間はどこからどこまでか

HR 23.14だけなら強烈です。

でも、1.50〜358.06まで見ると、推定の不確実さが見えてきます。

6.何をどう測り、何を調整したのか

「調整済み」という一言だけで安心しない。

研究上の条件をどう定義したか。交絡因子をどう測定したか。測定されていない重要な要因が残っていないか。

そこを見ます。

7.本当に知りたい結果なのか、代替指標なのか

CRPが下がった。HbA1cが下がった。血管内皮機能が改善した。

どれも意味のある結果です。

ただし、死亡や心筋梗塞そのものが減ったという意味とは限りません。

8.「関連」を示したのか、「原因」まで示したのか

最後はここです。

関連と因果関係を混同しない。

ただし、「因果が証明されていないから全部無意味」とも考えない。

その研究が、因果を考える長い階段のどこまで登っているのかを見る。

以前、ブランデンタルクリニックでは「キシリトールで心血管リスク2倍」という報道を原著まで戻って検証しました。あのときも、血中濃度が高かったという観察結果が、途中で「たくさん摂取した人」「ガムをよく噛む人」へ変換されていました。医学ニュースでは、数字だけでなく、数字がどのような研究から出てきたのかを見る必要があります。詳しくは「リスク2倍」報道を原著から読み直した記事をご覧ください。

歯周病は治したほうがいい。でも「死亡23倍だから」ではない

今回の論文を読んで、「ほら、歯周病と全身疾患の話なんて全部インチキじゃないか」という結論にはなりません。

逆に、「歯周病があると23倍死にやすい。今すぐ治療しなければ危険だ」という結論にもなりません。

歯周病は、歯を支える組織を破壊し、進行すれば歯の喪失につながる慢性炎症性疾患です。

糖尿病との双方向性や、心血管疾患をはじめとする全身疾患との関連についても、多数の研究が積み重ねられています。

それだけで、予防し、診断し、必要な治療を行う十分な理由があります。

患者さんを怖がらせるために、「死亡23倍」を持ち出す必要はありません。

今回の論文から私が一番覚えておきたいのは、次の4つです。

23倍を見る前に、4人を見る。
p=0.025を見る前に、9死亡を見る。
HRを見る前に、1.50〜358.06を見る。
「調整済み」を見る前に、何をどう測ったかを見る。

論文に載っている数字そのものが、計算間違いとは限りません。

むしろ今回の論文の怖さは、計算された数字が、ちゃんと論文らしい顔をしているところにあります。

数字が正しく計算されていることと、その数字から作った物語が正しいことは、別問題です。

そのことを、Springfieldの住民150人を使い、これでもかというほど面白おかしく実演してくれた。

そう考えると、この論文は単なるジョーク論文ではなく、かなり優秀な医学研究の教材だと思います。

少なくとも、Springfieldへ移住する予定の先生方は、歯周検査をお忘れなく。

参考文献

  1. Sharma P, Dietrich T. ‘The Simpsons’ Did It Again! Periodontitis and Tooth Loss Predict Mortality in Springfield: A Retrospective Cohort Study. Journal of Periodontal Research. 2026. doi:10.1111/jre.70138.
  2. Wadia R. The Simpsons did it again! British Dental Journal. 2026;241:320. doi:10.1038/s41415-026-0169-7.
  3. Peduzzi P, Concato J, Feinstein AR, Holford TR. Importance of events per independent variable in proportional hazards regression analysis. II. Accuracy and precision of regression estimates. Journal of Clinical Epidemiology. 1995;48(12):1503-1510.
  4. Riley RD, Snell KIE, Ensor J, et al. Minimum sample size for developing a multivariable prediction model: Part II—binary and time-to-event outcomes. Statistics in Medicine. 2019;38(7):1276-1296. doi:10.1002/sim.7992.
  5. Baima G, Arce M, Romandini M, Van Dyke T. Inflammatory and Immunological Basis of Periodontal Diseases. Journal of Periodontal Research. 2025. doi:10.1111/jre.70040.
  6. Tattar R, da Costa BDC, Neves VCM. The interrelationship between periodontal disease and systemic health. British Dental Journal. 2025;239:103-108. doi:10.1038/s41415-025-8642-2.
  7. Nibali L, Gkranias N, Mainas G, Di Pino A. Periodontitis and implant complications in diabetes. Periodontology 2000. 2022;90:88-105. doi:10.1111/prd.12451.
  8. 三辺正人、山本裕子、河野寛二、中澤正絵、山本龍生.歯周治療による咀嚼機能回復は血糖コントロール改善に寄与するか?―特に食習慣・食栄養バランス改善の点からの考察―日本歯科保存学雑誌.2024;67(1):10-19.

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