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キシリトールは本当に脳梗塞を起こすのか|「リスク2倍」報道から2年、原著とその後の論争を読み直す

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2026年7月20日

キシリトールは本当に脳梗塞を起こすのか|「リスク2倍」報道から2年、原著とその後の論争を読み直す

(院長の徒然コラム)

はじめに

2024年6月、キシリトールをめぐる一つの研究が発表され、国内外で大きく報じられました。

今回、当時の記事や動画をあらためて確認すると、次のような見出しが並んでいます。

「キシリトール多量摂取、心臓発作・脳卒中のリスク2倍に」
「キシリトールの摂取量が多い人は、脳卒中や心臓発作のリスクが2倍になることが判明」
「キシリトールの摂取は心血管イベントのリスクを高める」
「キシリトールは虫歯予防に効果的だが……心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める」

医療従事者によるYouTube動画の概要欄にも、

「キシリトールガムをよく食べる人は要注意!ある病気にかかりやすくなります……」

という表現が使われていました。

こうした見出しだけを見れば、キシリトールガムを日常的に噛んでいる人ほど心筋梗塞や脳卒中になりやすいことが、大規模な研究によって証明されたように感じます。

しかし、元の論文は、本当に「キシリトールを多く摂取した人」や「キシリトールガムをよく噛む人」を調べた研究だったのでしょうか。

結論から申し上げると、そうではありません。

元の観察研究が示したのは、主として心血管疾患の評価を受けていた患者において、空腹時の血中キシリトール濃度が高い人ほど、その後3年間の主要心血管イベントが多かったという関連です。

参加者がキシリトールガムを何粒噛んでいたのか、食品から1日に何gのキシリトールを摂っていたのかは調べられていません。

さらに、キシリトールは、食品やガムから入ってくるだけの物質ではありません。私たちの体内でも、糖代謝の過程で日常的に作られています。

この前提を知らなければ、

血中キシリトール濃度が高かった

キシリトールをたくさん摂取していた

キシリトールガムをよく噛んでいた

そのために心筋梗塞や脳卒中が増えた

という、元の研究には存在しない物語を作ってしまいます。

本稿では、2024年の原著が実際に何を調べたのか、研究としてどこを評価すべきなのか、どこに重要な限界があるのか、そして、その後どのような批判、反論、再反論、追加研究が出たのかを詳しく整理します。

これは「キシリトールは絶対に安全だ」と主張するための記事ではありません。

新しい安全性シグナルが出たのであれば、医療者は正面から受け止めなければなりません。しかし、研究が示していないことまで拡大し、患者さんや保護者の方を必要以上に不安にさせることも、医療者として避けなければならないと考えています。

2026年現在の結論を先にお伝えします

現時点における結論は、次の二文に集約されます。

キシリトールについて、検討を続けるべき心血管安全性シグナルが報告されたことは事実です。

一方で、

通常量のキシリトールガムが、心筋梗塞や脳卒中を増やすことは、現在も証明されていません。

この二つは、どちらか一方だけが正しいのではありません。両方を同時に理解する必要があります。

2024年の原著は、空腹時血中キシリトール濃度と主要心血管イベントの関連に加えて、ヒト血小板、全血、マウスの血栓モデル、健康成人への30g負荷試験を組み合わせた、非常に意欲的な研究でした。単なるアンケート調査ではなく、複数の実験系が同じ方向を向いていた点は、無視できません。

しかし、同じ「キシリトール」という言葉の中には、性質の異なる条件が混在しています。

たとえば、

  • 12時間以上絶食した人の血中キシリトール濃度
  • 体内で作られた内因性キシリトール
  • 食品から吸収された食事由来キシリトール
  • 試験管の中でキシリトールへ曝露させた血小板
  • 腹腔内注射で血中濃度を上げたマウス
  • 健康成人10人に30gを一度に飲ませた急性負荷
  • 1日5〜6g程度を複数回に分けて噛むキシリトールガム
  • 砂糖の代わりとして数十gを使う食品用キシリトール
  • 飲み込む量がごく少ない歯磨剤や洗口剤

は、研究上、同じ曝露ではありません。

したがって、「キシリトールに関する研究だから、すべての日常使用にそのまま当てはまる」と考えることはできないのです。

そもそもキシリトールは「人工甘味料」なのでしょうか

今回の論争では、研究結果以前に、キシリトールという物質そのものへの誤解が広がっていました。

キシリトールは、炭素を5個持つ糖アルコール、すなわちポリオールです。

工業的に製造され、ガムや菓子、食品の甘味料として利用されているため、広い意味で「人工甘味料」や「低カロリー甘味料」の一群に含めて表現されることがあります。

しかし、アスパルテームやスクラロースなどと全く同じように、

人体内には本来存在せず、外から摂取したときだけ体内に入る物質

と理解するのは誤りです。

キシリトールは植物中にも存在しますが、それだけではありません。人の体内でも、グルクロン酸―キシルロース回路の中間体として作られます。

簡略化すると、代謝は次のようにつながります。

グルクロン酸

L-グロン酸

L-キシルロース

キシリトール

D-キシルロース

キシルロース5リン酸

キシルロース5リン酸は、さらにペントースリン酸経路などの糖代謝系へ接続します。

この経路は肝臓を含む組織で働き、キシリトールは日常的に内因性代謝物として存在します。原著でも、内因性産生量は1日約15gと推定されると紹介されています。もっとも、この数字は現代の大規模トレーサー研究で一般人口を精密測定した確定値ではなく、古い代謝研究をもとに引用されている推定値として理解する必要があります。

重要なのは、正確な産生量が5gなのか15gなのかという一点ではありません。

血液中にキシリトールが存在すること自体は、キシリトール入り食品を食べた証拠ではないという点です。

血中キシリトール濃度には、少なくとも、

  • 体内での産生量
  • 食事からの吸収量
  • 肝臓などでの代謝
  • 腎臓からの排泄
  • 基礎疾患に伴う代謝経路の変化

が関係します。

したがって、「血中濃度が高い人」を、そのまま「キシリトールをたくさん食べた人」と読み替えることはできません。

FDAもキシリトールを、アスパルテームなどの高甘味度甘味料と同一ではなく、「糖アルコール」という別の甘味料群に分類しています。FDAの説明では、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどが糖アルコールの例として示されています。

【予防歯科は「一つの成分」だけで決まるものではありません】

2024年の原著は、四つの異なる研究を組み合わせていました

2024年にEuropean Heart Journalへ掲載されたWitkowskiらの論文は、一つの臨床試験だけで構成されていたわけではありません。

大きく分けると、四つの研究から成っています。

第一は、空腹時血中キシリトール濃度と、その後の心血管イベントとの関連を見た観察研究です。

第二は、ヒト血小板、血小板豊富血漿、洗浄血小板、全血を使った体外実験です。

第三は、マウスの血中キシリトール濃度を高めたうえで、頸動脈の血栓形成を調べた動物実験です。

第四は、健康成人10人にキシリトール30gを水へ溶かして摂取させ、摂取前後の血小板反応を比較した急性負荷試験です。

それぞれの研究は別の問いに答えています。

観察研究が調べたのは、空腹時血中濃度と3年間の予後の「関連」です。

血小板実験が調べたのは、キシリトール存在下で血小板が刺激にどう反応するかです。

マウス実験が調べたのは、血中キシリトール濃度を上げた状態で、人工的な動脈損傷を加えたときに血栓形成が速くなるかです。

健康成人の試験が調べたのは、30g一括摂取30分後の血小板反応です。

この研究は、複数の角度から一つの仮説を検証しようとした点に価値があります。

一方で、四つの結果を一つにつなぎ、

通常量のキシリトールガムを噛むと、心筋梗塞や脳卒中になる

と結論づけることはできません。

その問いを直接検証した研究は、この四つの中には存在しないからです。

観察研究は何を示したのでしょうか

最初の発見コホートには、待機的な心臓診断を受けた1,157人が含まれていました。

研究者らは、12時間以上絶食した状態で採取された血漿を網羅的に解析し、その後3年間に主要心血管イベント、すなわちMACEが起きた人と、起きなかった人の代謝物を比較しました。

この研究におけるMACEは、

  • 死亡
  • 非致死性心筋梗塞
  • 非致死性脳卒中

をまとめた複合評価項目です。

最初の網羅的解析では、キシリトールと推定された物質の相対量が高い人ほど、3年間のMACEが多いという関連が見つかりました。

ただし、糖アルコールには同じ分子式を持つ構造異性体が存在します。キシリトール、アラビトール、リビトールなどを、通常の網羅的な質量分析だけで完全に区別することは簡単ではありません。

そこで研究者らは、別の2,149人からなる検証コホートを用い、キシリトールを構造異性体から分離して定量できる安定同位体希釈LC-MS/MS法を開発しました。

検証コホートでは、血中キシリトール濃度の最高三分位群は、最低三分位群に比べて3年間のMACEが多く、未調整ハザード比は1.81でした。

年齢、性別、喫煙、糖尿病、収縮期血圧、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、高感度CRPを調整した後のハザード比は1.57、95%信頼区間1.12〜2.21でした。

腎機能を追加調整した解析でも、ハザード比は1.50で統計学的に有意でした。

これは、無視してよい結果ではありません。

少なくとも、心血管リスクの高い患者集団において、空腹時キシリトール濃度が予後と関連する可能性が示されたからです。

ただし、ここで「心筋梗塞や脳卒中のリスクが2倍になった」と表現するのは、いくつかの点で正確ではありません。

第一に、主要解析の調整後ハザード比は1.57です。

第二に、評価しているのは、死亡、心筋梗塞、脳卒中をまとめたMACEです。心筋梗塞や脳卒中が、それぞれ単独で2倍になったと示されたわけではありません。

第三に、比較されたのは「キシリトールを多く食べた人」と「少なく食べた人」ではありません。

空腹時血中濃度が高かった人と低かった人が比較されています。

対象者は一般的な健康集団ではありませんでした

発見コホートと検証コホートは、一般住民から無作為に集められた集団ではありません。

検証コホートでは、

  • 心血管疾患の既往が約78%
  • 冠動脈疾患が約75%
  • 心筋梗塞の既往が約40%
  • 高血圧が約70%
  • 糖尿病が約22%
  • アスピリン使用が約72%
  • スタチン使用が約59%

でした。

年齢中央値も60歳代です。

このような集団で調べること自体が不適切なのではありません。

糖尿病、肥満、心血管疾患を持つ人は、砂糖の代替として低カロリー甘味料を利用する機会が多いため、安全性の検討対象として重要です。

原著者側も、批判への回答で、まさにそのような高リスク患者が代替甘味料を勧められやすいのだから、この集団を調べる意義は大きいと反論しています。

ただし、

高リスク患者で関連があった

という結果を、

健康な若年者や子どもにも同じリスクがある

と、そのまま一般化することはできません。

一般人口への外挿には、別の研究が必要です。

観察研究の最大の穴は、摂取量を調べていないことです

この研究の観察コホートには、キシリトールの食事摂取データがありません。

参加者が、

  • キシリトールガムを何粒噛んでいたのか
  • キシリトール入り食品をどの程度食べていたのか
  • 1日何g摂取していたのか
  • 毎日摂取していたのか
  • ほとんど摂取していなかったのか

は分かりません。

そのため、観察研究から、

キシリトールをたくさん食べたために、心血管イベントが増えた

とは結論づけられません。

しかも、採血は12時間以上の絶食後に行われています。

後述する30g負荷試験では、摂取後の血中キシリトール濃度は短時間で急上昇しましたが、4〜6時間後には大きく低下しています。

原著者ら自身が、この速い消失を根拠に、

観察研究の空腹時血中キシリトール濃度は、最近の食事摂取ではなく、主として内因性産生量の個人差を反映している可能性が高い

と考察しています。

つまり、当時の報道が「多量摂取」と呼んだ観察研究の血中キシリトールは、原著者自身の解釈では、主として体内で作られたキシリトールだったのです。

空腹時キシリトール高値は、原因なのでしょうか、それとも病気の結果なのでしょうか

観察研究では、原因と結果の向きを決定できません。

考えられる一つの経路は、

キシリトール濃度が高い

血小板が刺激に反応しやすくなる

血栓形成が促進される

心筋梗塞や脳卒中が増える

というものです。

しかし、逆の可能性もあります。

心血管疾患や糖代謝異常がある

酸化ストレスや糖代謝の側副経路が変化する

内因性キシリトール産生や排泄が変化する

空腹時血中キシリトール濃度が高くなる

という経路です。

後者の場合、キシリトールは原因物質というより、疾患に伴う代謝変化を映すバイオマーカーである可能性があります。

反論した研究者らは、心血管疾患や虚血再灌流によってペントースリン酸経路や関連する代謝経路が活性化し、その結果として糖アルコール濃度が上がっているのではないかと指摘しました。

また、キシリトールだけでなく、

  • キシロース
  • キシルロース
  • グルクロン酸
  • アラビトール
  • リビトール
  • その他の糖アルコール

を同時に評価し、代謝経路全体の変化を調べるべきだったという批判も出ています。

もちろん、キシリトールが病気のマーカーであることと、キシリトール自体が血小板へ作用することは両立し得ます。

疾患によってキシリトールが増え、その増えたキシリトールが血小板反応へさらに影響する可能性も否定できません。

問題は、2026年現在も、どの割合で原因なのか、どの割合で結果なのかが確定していないことです。

別の観察研究では、空腹時キシリトール高値が「良い予後」と関連しました

この論争を複雑にする別の研究があります。

2025年、中国の前糖尿病患者を対象に、3.5年間の追跡期間中に2型糖尿病へ進行した180人と、進行しなかった180人を比較した研究が発表されました。

その研究では、空腹時血清キシリトール濃度が高い人ほど、前糖尿病から2型糖尿病へ進行する割合が低く、最高三分位群の調整後オッズ比は、最低三分位群と比較して0.338、95%信頼区間0.182〜0.628でした。

この結果から、

キシリトールを食べれば糖尿病を予防できる

とは言えません。

この研究も、食事摂取量ではなく空腹時血中濃度を測定した観察研究だからです。

しかし、心血管研究では空腹時キシリトール高値が悪い予後と関連し、糖尿病研究では良い予後と関連したことになります。

これは、空腹時キシリトール濃度が、単純な「毒物濃度」ではなく、

  • グルクロン酸―キシルロース回路
  • ペントースリン酸経路
  • 糖新生
  • 酸化還元状態
  • 腎排泄
  • インスリン抵抗性
  • 基礎疾患

など、複雑な代謝状態を反映している可能性を示します。

空腹時血中キシリトールが高いという一つの数値だけで、体内で起きていることを一方向へ決めることはできません。

血小板実験では何が起きたのでしょうか

観察研究だけでは因果関係を証明できないため、原著者らは健康成人から採取した血小板や全血を使った実験を行いました。

ここで非常に重要なのは、キシリトールを加えただけで血小板が勝手に凝集したわけではないことです。

血小板豊富血漿へ30µMのキシリトールを加えただけでは、明瞭な凝集は起きませんでした。

しかし、キシリトール存在下で、

  • ADP
  • TRAP6
  • トロンビン
  • コラーゲン

などの血小板刺激物質を加えると、刺激に対する凝集反応が増強しました。

つまり、キシリトールは単独で血栓を作ったというより、既に存在する血小板刺激に対して反応しやすくしたと解釈する方が正確です。

原著者らは、これを「刺激に対する用量反応曲線を左へ移動させる」と説明しています。

さらに、洗浄したヒト血小板を使い、

  • トロンビン刺激後の細胞内カルシウム放出
  • P-selectinの表面発現
  • GPⅡb/Ⅲaの活性化
  • 血小板と白血球の凝集体形成

を調べたところ、キシリトール濃度に応じた増強が報告されました。

全血をコラーゲンで被覆したマイクロ流路へ流す実験でも、キシリトールを加えた群では、血小板の付着と広がりが速くなりました。

これらの結果は重要です。

空腹時キシリトール高値を、単なる無害な疾患マーカーとして完全に片づけることができない理由になります。

一方で、血小板反応性は、心筋梗塞や脳卒中そのものではありません。

血栓症は、

  • 動脈硬化性プラーク
  • 血管内皮
  • 凝固因子
  • 線溶系
  • 血流
  • 炎症
  • 血小板機能
  • 抗血小板薬
  • 腎機能
  • 喫煙
  • 糖尿病

など、多数の要因によって起きます。

血小板反応が一時的に高まったことと、実際の臨床イベントが増えたことの間には、まだ距離があります。

血小板がキシリトールを認識する仕組みは分かっていません

原著者らは、キシリトールが血小板のどの受容体や分子へ作用するのかは不明としています。

ADP、トロンビン、コラーゲンなど複数の刺激経路で反応が強まったため、特定の一つの受容体ではなく、細胞内カルシウムや、複数経路に共通する反応機構が関与している可能性があります。

一部の反論では、糖アルコールの濃度や浸透圧が血小板反応へ影響した可能性も議論されていますが、これも確定していません。

2025年の総説も、キシリトールと心血管イベントとの直接的な因果関係は確立しておらず、血小板反応の再現と分子機構の解明が必要だと整理しています。

マウスはキシリトールガムを食べて脳梗塞になったのではありません

原著の動物実験も、報道では単純化されました。

研究者らは当初、マウスへキシリトールを経口投与しました。

しかし、マウスでは人と異なり、経口キシリトールの吸収が悪く、多くが便中へ排泄されました。

そのため、人で観察された濃度に近い血中キシリトール濃度を再現する目的で、研究者らはキシリトールを腹腔内注射しました。

そのうえで、塩化鉄を使って頸動脈を人工的に損傷させ、血栓が成長して血流が停止するまでの時間を比較しました。

キシリトール群では、対照群より速く血流が停止しました。

この実験が示したのは、

血中キシリトール濃度を上げた状態で、強い動脈損傷を加えると、血栓形成が速くなる可能性がある

ということです。

決して、

キシリトールガムを食べさせたマウスが自然に脳梗塞を発症した

という実験ではありません。

動物モデルとしては意味がありますが、日常的なガム使用との距離は理解しておく必要があります。

健康成人10人への30g負荷試験では何が起きたのでしょうか

健康成人10人に、キシリトール30gを水に溶かして摂取させる試験が行われました。

空腹時血中キシリトール濃度の中央値は0.30µMでした。

摂取30分後には312µMとなり、約1,000倍へ上昇しました。

その後は速やかに低下し、

  • 4時間後は1.87µM
  • 6時間後は0.67µM

となりました。

血中半減期は約13分と推定されています。

摂取前と摂取30分後に採取した血小板をADPやTRAP6で刺激すると、全被験者で反応の増強が報告されました。

さらに、摂取後の血中キシリトール濃度が高い人ほど、ADPやTRAP6への凝集反応が大きい傾向も示されました。

この結果は軽視できません。

少なくとも30gを一度に摂取した直後には、血小板が刺激へ反応しやすくなる可能性が示されたからです。

しかし、この試験には重要な限界があります。

生物学的な被験者は10人です

論文中のグラフには、多数の測定値が表示されています。

しかし、これは被験者が数十人いたという意味ではありません。

一人の被験者から得た血液について、同じ条件の測定を複数回行ったtechnical replicateが含まれています。

反復測定は実験精度の確認に役立ちますが、被験者数を増やすものではありません。

この試験の生物学的な対象者は10人です。

対照飲料がありません

このヒト試験では、同じ参加者の摂取前と摂取30分後が比較されています。

しかし、

  • 水だけを飲んだ群
  • 別の糖アルコールを飲んだ群
  • ブドウ糖を飲んだ群
  • 同じ人が別日に対照飲料を飲むクロスオーバー群

は設けられていません。

血小板反応性は、

  • 採血条件
  • 水分摂取
  • 食事
  • 時刻
  • 運動
  • ストレス
  • カテコールアミン
  • インスリン
  • 血中脂質

などでも変化します。

したがって、「摂取前後で変化した」だけでなく、「キシリトール以外の条件では変化しなかった」ことを確認できる対照試験が必要です。

主に30分後の急性変化を見た試験です

評価されたのは、主として摂取30分後の変化です。

その反応が、

  • 1時間後にも続くのか
  • 4時間後にも続くのか
  • 6時間後には消えるのか
  • 毎日摂った場合に適応するのか
  • 慢性的に血小板反応が高まるのか

は分かりません。

原著者ら自身も、慢性曝露の影響は今後調べる必要があるとしています。

心筋梗塞や脳卒中が起きた試験ではありません

この試験で観察されたのは、採取した血小板を体外で刺激したときの反応です。

参加者に血栓症が起きたわけではありません。

したがって、結果から直接言えるのは、

30gを一度に摂ると、短時間のうちに血小板の刺激反応が増強する可能性がある

ということです。

30gを摂ると心筋梗塞や脳卒中が起こる

とまでは言えません。

30gはキシリトールガム何粒分でしょうか

市販品や歯科専用品では、ガム1粒当たりのキシリトール量に製品差があります。

一般用製品の一例では、1パック14粒に関与成分キシリトール7.0gが含まれているため、1粒当たり約0.5gです。歯科専用品には、1粒当たり1.3gを含む製品もあります。

したがって、30gは単純計算すると、

約23〜60粒分

に相当します。

しかも、これを朝から晩まで分けて噛んだのではありません。

水へ溶かし、短時間で一度に摂っています。

一方、歯科領域で一般的に検討されてきた使用法は、

  • 1日5〜6g程度
  • 1回1〜2g程度
  • 3回以上に分ける
  • 食後などにガムとして噛む

というものです。

30gの一括負荷と、1日5〜6gを複数回に分けて噛むことでは、

  • 一回量
  • 摂取速度
  • 血中濃度のピーク
  • 消化管へ流入する速度
  • 唾液中で作用する時間
  • 未吸収分が大腸へ届く量

が異なります。

普通は、キシリトールガムを二十数粒から六十粒、一度に食べる人はほとんどいないでしょう。

仮にそれほど大量に摂取すれば、心血管への影響以前に、軟便、下痢、腹痛、腹部膨満、ガスなどが現実的な問題になります。

キシリトールは小腸ですべて吸収されるわけではなく、未吸収分が大腸へ届いて水分を引き込むため、一度に大量に摂ると浸透圧性下痢を起こしやすくなります。

反論論文でも、30g一括摂取は通常の歯科使用を再現するものではなく、消化器症状を生じ得る負荷量だと指摘されています。

ただし、

30gなど現実には絶対に摂らないから、研究は無意味である

と片づけることも公平ではありません。

キシリトールは砂糖と同程度の甘さを持ち、粉末として砂糖と1対1で置き換えられることがあります。

低糖質の焼き菓子、アイス、菓子、飲料などでは、1回に数十gを摂取する可能性があります。

したがって、30g負荷試験は、

通常の歯科用ガム数粒を再現した試験

ではありませんが、

キシリトールを食品として高用量摂取する場面の急性作用を考える試験

としては意味があります。

2022年の用量試験とは、結果の解釈が食い違っています

反論側は、2022年に行われたキシリトールの用量試験を引用しました。

この試験では、健康成人に7g、17g、35gのキシリトールを投与し、吸収と代謝を調べています。

反論側は、7g摂取後には血中キシリトール増加が明瞭に検出されなかったとして、歯科で使われる少量の分割摂取が、30g一括負荷と同じ血中濃度を作るとは限らないと主張しました。

これに対して原著者側は、

  • 構造異性体を分離できていたか
  • 測定法の感度と特異性が十分だったか
  • 採血時点が適切だったか

に疑問を呈し、ポリオールの定量には、異性体を分離できる検証済みLC-MS/MS法が必要だと再反論しました。

この論争から分かるのは、通常量のキシリトールガムを摂取した後の血中濃度について、まだ十分に確立されたデータがないということです。

本来必要なのは、

高濃度キシリトールガムを1〜2粒噛む

異性体を確実に分離できる分析法で血中濃度を連続測定する

プラセボまたは対照ガムと比較する

血小板反応も同時に測定する

という研究です。

2026年現在、この問いに十分答える独立した大規模試験は見当たりません。

その後、どのような批判が出たのでしょうか

2024年の原著発表後、European Heart Journal上で複数の批判的意見が発表されました。

主な論点は次の通りです。

まず、観察コホートの空腹時キシリトールは最近の摂取を反映しておらず、既存の心血管疾患や糖代謝異常に伴う代謝マーカーではないかという指摘です。

次に、30g一括負荷と日常の歯科使用を同一視できないという指摘です。

さらに、ヒト負荷試験が10人と小規模で、対照群がなく、主として30分後の一時点を評価していることも批判されました。

また、過去に長期間、高用量のキシリトールを使用した臨床経験があるにもかかわらず、明瞭な血栓症の安全性シグナルが報告されてこなかったことも挙げられました。

Bonominiらは、原著のタイトルが研究対象を越えて一般化されやすいと批判し、観察研究から一般人口のキシリトール摂取とMACEを結びつけることはできないと述べています。

これらは、原著の血小板実験そのものを再現不能と証明した研究ではありません。

正確には、原著の解釈と一般化にブレーキをかける批判です。

原著者側はどのように再反論したのでしょうか

Witkowski、Hazenらは、観察研究だけで因果関係を主張したわけではないと反論しました。

彼らは、

  • 洗浄ヒト血小板
  • 血小板豊富血漿
  • 全血
  • マイクロ流路
  • マウスの血栓モデル
  • ヒト30g負荷試験

のすべてで同じ方向の結果が得られたため、キシリトール自体が血小板反応へ作用すると考えるのが妥当だと主張しています。

また、作用が見られたのは30g負荷後の数百µMという高濃度だけではなく、10〜30µM程度でも刺激依存性の反応増強が観察されたとしています。

そのため、歯科で推奨される5〜6gでも、一時的には作用濃度を超える可能性があると反論しました。

さらに、問題にしているのはガムだけではなく、砂糖と1対1で置き換えられる食品用キシリトールだとも述べています。

興味深いことに、原著者側も、洗口後に吐き出す形式の口腔ケア製品については、飲み込む量が少ないため、心血管リスクの観点から安全である可能性が高いと述べています。

この再反論にも合理的な部分があります。

したがって、2026年現在の論争は、

原著が完全に否定された

でも、

通常量ガムの危険性まで確定した

でもありません。

24gを5週間摂取したランダム化比較試験

原著と異なる条件を調べた重要な試験があります。

肥満があるものの血糖値は正常な成人42人を、

  • エリスリトール群
  • キシリトール群
  • 対照群

の3群へ無作為に割り付けました。

キシリトール群は、8gを1日3回、合計24gを5週間摂取しました。

評価されたのは、

  • 脈波伝播速度
  • 網膜細動脈・静脈径比
  • 内臓脂肪
  • 皮下脂肪
  • 肝脂肪
  • 血中脂質
  • 経口糖負荷試験
  • インスリン
  • 尿酸
  • 肝機能
  • 腎機能
  • 消化器症状

です。

その結果、キシリトール群で、血管機能、腹部脂肪、糖代謝、脂質、肝機能、腎機能の統計学的に有意な悪化は認められませんでした。

消化器耐容性はおおむね良好でしたが、軟便や下痢に関連する症状は一部で認められました。

この試験は、キシリトールの長期心血管安全性を証明した研究ではありません。

各群は14人で、期間は5週間です。血小板反応や心筋梗塞、脳卒中を主要評価項目にしていません。

しかし少なくとも、

24gを1日3回に分けて5週間摂ると、血管機能が明らかに悪化する

という結果ではありませんでした。

30gを一度に摂取した30分後の反応と、24gを分割して5週間摂った結果が異なることは、総量だけでなく、摂取速度、分割方法、慢性適応、評価項目の違いが重要であることを示しています。

Turku Sugar Studiesの長期高用量データ

1970年代にフィンランドで行われたTurku Sugar Studiesでは、キシリトール群52人が約2年間、平均67g/日を摂取しました。

一部の参加者では100gを超える摂取量となり、短期間にはさらに多い量が記録されました。

2025年の心血管総説では、この研究で用量依存性の消化器症状以外に明瞭な有害事象は登録されなかったと整理されています。

ただし、この研究の主目的はう蝕予防です。

  • 心筋梗塞や脳卒中を主要評価項目にしていない
  • 血小板機能を系統的に測定していない
  • MACEを検出できる規模ではない
  • 1970年代の有害事象報告である

という限界があります。

したがって、

67gを2年間食べても安全だったから、心血管リスクは絶対にない

とは言えません。

一方で、キシリトールが非常に強力で、高頻度に重大な血栓症を引き起こす物質なのであれば、長期間の高用量使用歴の中で、より明瞭な安全性シグナルが現れても不思議ではありません。

このデータは、小さなリスクを否定するものではありませんが、「摂取すれば直ちに重大な血栓症を起こす」という単純なモデルとは整合しにくい資料です。

静脈栄養や透析での大量使用経験

過去には、キシリトールが静脈栄養の糖質源として使用された研究や、腹膜透析液に含まれた研究もあります。

2025年の総説では、集中治療患者への大量静脈投与や、腎機能を失った患者への高濃度曝露でも、明瞭な急性血栓症の増加は報告されていないと整理されています。

ただし、

  • 重症患者を対象としている
  • 投与経路が経口摂取と異なる
  • 心血管イベントを主要評価項目にしていない
  • 小規模研究である

ため、通常量ガムの安全性を証明する資料にはなりません。

それでも、高い血中濃度へ一時的に曝露すれば必ず血栓症が起きる、という単純な関係に疑問を投げかける資料ではあります。

原著を完全に否定する「反証」はまだありません

ここは言葉を正確に使う必要があります。

2024年の原著を完全に覆し、

キシリトールは血小板反応へ全く作用しない

と証明した独立研究は、現在のところ確認できません。

存在するのは、

  • 原著の一般化へ疑問を示した論評
  • 逆因果や代謝マーカー説を提示した論文
  • 30g一括負荷と歯科用量の違いを指摘した論文
  • 分割摂取で血管機能悪化を認めなかった小規模RCT
  • 長期高用量使用でも明瞭な重大有害事象を認めなかった過去のデータ
  • 空腹時キシリトール高値が良い代謝予後と関連した別の観察研究

です。

したがって、「原著は完全に間違いだった」と言うのも、「キシリトールガムの危険性が証明された」と言うのも、どちらも現在の科学的な位置から外れています。

歯科的な有効性も誇張すべきではありません

歯科側が原著の過剰解釈を批判するのであれば、キシリトールの有効性についても過剰に宣伝すべきではありません。

2025年のシステマティックレビューでは、キシリトールガムをソルビトールガムなどと直接比較した研究が整理されました。

その結果、

  • ミュータンス連鎖球菌は14研究中12研究でキシリトール群が有意に減少
  • プラーク蓄積は10研究中6研究で減少
  • う蝕発生は5試験中3試験で減少

していました。

著者らは、キシリトールガムを、歯みがきへ追加する補助的手段として位置づけています。

一方、2024年の別のシステマティックレビューでは、対象者、使用製品、投与量、使用期間、評価方法のばらつきが大きく、キシリトールのう蝕予防効果を確定できないと結論づけています。

つまり、歯科側も、

キシリトールさえ噛めば虫歯にならない
キシリトールがフッ化物より重要である
キシリトールガムが歯みがきの代わりになる

と説明してはいけません。

妥当な位置づけは、

キシリトールガムには、ミュータンス連鎖球菌やプラークを減らし、う蝕予防を補助する可能性がある。しかし、フッ化物配合歯磨剤、糖摂取管理、正しいブラッシングに代わるものではない

というものです。

【予防は一つの材料ではなく、日々のセルフケアと定期管理の積み重ねです】

FDA、JECFA、EFSAは現在どのような立場なのでしょうか

2024年の研究が発表された後も、キシリトールが米国で心血管リスクを理由に禁止されたわけではありません。

FDAの現在の一般向け情報では、キシリトールはソルビトール、エリスリトール、マンニトールなどとともに、糖アルコールという甘味料群に分類されています。

FDAの公開情報を確認した範囲では、2026年7月現在、キシリトールについて心筋梗塞や脳卒中を理由とする個別の警告表示や使用禁止は確認できません。

FDAは、糖アルコールを砂糖代替として使用できる甘味料群として扱い、新しい科学的情報を継続的に監視しています。

ただし、

FDAが2024年のキシリトール研究を検証して、心血管リスクを否定した

という意味ではありません。

現時点で規制を変更するほど、摂取と心血管イベントの因果関係が確立していない、という位置づけです。

FAO/WHO合同食品添加物専門家会議であるJECFAは、キシリトールをADI not specifiedとしています。

これは、評価された用途と摂取条件では、健康保護のために数値としての一日摂取許容量を設定する必要がない区分です。

しかし、

無制限に好きなだけ食べてもよい

という意味ではありません。

キシリトールを一度に大量摂取すれば、消化器症状が起きる可能性があります。また、新しい心血管安全性シグナルを今後検討する必要がないという意味でもありません。

EFSAでは、キシリトールE967の再評価が現在も進行中です。

2026年には、食品中の実際の使用量や分析値を集めるためのデータ募集も行われています。EFSAは、摂取量評価と毒性学的データを含めた再評価を継続している段階です。

つまり、規制当局の現在地も、

危険性が確定したので直ちに使用中止

でもなく、

新しい懸念は完全に否定された

でもありません。

従来の使用を認めつつ、新しい研究と実際の曝露量を監視し、再評価を続けている段階

です。

当時のメディア報道では、どこが変換されたのでしょうか

今回確認した記事の見出しでは、

「キシリトール多量摂取、心臓発作・脳卒中のリスク2倍」

という表現が複数の媒体で使われていました。

しかし、観察コホートで測定されたのは、摂取量ではありません。

12時間以上絶食した後の血中濃度です。

さらに、その空腹時濃度は、原著者自身が、最近の食品摂取よりも主に内因性産生を反映すると考察しています。

したがって、

血中キシリトール濃度が高い

を、

キシリトールを多量摂取していた

へ置き換えることには根拠がありません。

さらに一部の発信では、

キシリトールを多く摂取した人

が、

キシリトールガムをよく食べる人

へ変換されました。

観察研究では、ガムの摂取状況は調べられていません。

食事由来のキシリトールであったとしても、摂取源はガムだけではなく、菓子、飲料、焼き菓子、粉末甘味料など複数あります。

そして最後には、

心筋梗塞や脳卒中になりやすい

という因果関係を示す表現へ変わりました。

研究内容が社会へ伝わる過程で、

血中濃度
→摂取量
→ガム常用
→心筋梗塞・脳卒中の発症

という複数の飛躍が起きたことになります。

見出しが強くても、本文で限界を説明していればよいのでしょうか

一般向けの記事では、短い見出しの中へ研究のすべてを盛り込むことはできません。

見出しを簡潔にする必要があることは理解できます。

しかし、多くの人が読むのは、見出しと冒頭の数行だけです。

さらに、子どもがガムを口にしている写真や、大量のガムの写真を組み合わせれば、読者は自然に、

日常的に噛んでいるガムが危険なのだ

と受け取ります。

今回確認した記事の中には、本文では「関連」「可能性」「追加研究が必要」と慎重に書きながら、見出しでは「リスク2倍」「リスクを高める」と断定的に表現しているものもありました。

見出しで生まれた強い印象を、本文の小さな留保で完全に打ち消すことは難しいと思います。

続報は、初報と同じ熱量では伝えられませんでした

2024年末から2025年にかけて、European Heart Journal上では、

  • 空腹時濃度は代謝異常のマーカーではないか
  • 30g負荷は日常の歯科用量を反映しない
  • 研究対象は高リスク患者に偏っている
  • 対照群のない10人の試験からは断定できない
  • それでも血小板への直接作用は無視できない
  • 低濃度でも作用が見られた可能性がある
  • 食品としての高用量曝露は別に検討すべき

という批判と再反論が続きました。

さらに、分割摂取で血管機能の悪化を認めなかった試験や、空腹時高値が糖尿病進行の低下と関連した研究、歯科的有効性に関する新しいレビューも出ています。

しかし、最初の「リスク2倍」という報道と同じ規模で、

その後、研究者の間ではこのような論争が続いています

という続報が一般社会へ届いたとは言い難い状況です。

「続報が一件もなかった」とまでは言いません。

しかし、最初の警告と、その後の検証過程の情報量には、明らかな差があります。

不安を知らせるのであれば、不安の根拠が揺らいだとき、反論や追加研究が出たときにも、その続きを知らせる責任があるのではないでしょうか。

医療従事者は、メディアの見出しで止まってはいけません

一般の方が刺激的な見出しを見て不安になることは、無理もありません。

すべての患者さんや保護者の方へ、英語の原著を読み、統計解析や質量分析、血小板機能、動物モデルまで理解することを求めることはできません。

しかし、医療従事者はそこで止まってはいけません。

医療者が患者さんへ危険性を説明するのであれば、最低限、

  • 何を測った研究なのか
  • 摂取量を調べたのか
  • 血中濃度は外因性か内因性か
  • 観察されたのは関連か、因果関係か
  • 血小板反応という代替指標か、実際の臨床イベントか
  • 動物実験ではどのような投与経路を使ったのか
  • 研究の量と日常使用量は同じなのか
  • 対照群はあったのか
  • 独立した研究グループが再現したのか

を確認する必要があります。

今回のYouTube動画については、動画全編の内容ではなく、少なくとも公開されたタイトルと概要欄を見る限り、

「キシリトールガムをよく食べる人」

という、元研究では調べられていない対象が作られていました。

さらに、キシリトールを単なる「人工甘味料」と説明し、人体内でも作られる代謝物であることへ触れないまま血中濃度を語れば、研究の入口から誤解が生じます。

「人工甘味料だから危険」
「血中濃度が高いから多く食べたに違いない」
「ガムをよく食べる人は脳梗塞になりやすい」

という説明は、注意喚起ではありません。

研究の射程を越えた断定です。

【かかりつけ医に求められるのは、断片ではなく全体を見て判断する姿勢です】

一度「危険」と発信した医療者は、その後も追う責任があります

科学は更新されます。

一つの研究が発表された後には、

  • 研究方法への批判
  • 異なる集団での追試
  • 独立した研究者による再現
  • メタ解析
  • 規制当局の評価
  • ガイドラインの更新

が続きます。

最初の研究だけを紹介し、その後の議論を一切取り上げなければ、患者さんの中には古い不安だけが残ります。

一度強い言葉で、

キシリトールは危険である
ガムを噛む人は脳梗塞に注意すべきである

と発信したのであれば、その後に反論や追加研究が出たとき、自分の説明が現在も妥当かを見直す必要があります。

医療従事者の役割は、刺激的な論文を誰より早く紹介することではありません。

研究が何を示し、何を示していないのかを見極め、患者さんが必要以上に恐れない形で説明することです。

そして、守るべきなのは過去の自分の発言ではなく、目の前の患者さんです。

利益相反は両方の陣営で確認する必要があります

研究を評価するときには、利益相反の確認も必要です。

原著者側には、心血管診断・治療に関する特許、企業からの研究費、コンサルティング、ロイヤルティーに関する開示があります。

一方、原著へ批判的な2025年の総説にも、キシリトール関連製品を開発する企業の創業者・主要株主である著者が含まれています。

利益相反があるだけで、研究結果が誤りになるわけではありません。

しかし、自分に都合のよい側の利益相反だけを無視し、反対側の利益相反だけを問題視することも公平ではありません。

どちらの研究であっても、

  • 研究デザイン
  • 対象者
  • 投与量
  • 測定方法
  • 評価項目
  • 統計解析
  • 再現性
  • データの公開性

を見て判断すべきです。

私はキシリトールを無条件に擁護したいわけではありません

ここまで読むと、私がキシリトールを擁護し、2024年の原著を否定したいだけのように感じられるかもしれません。

そうではありません。

原著が示した血小板反応は、真剣に検討すべきだと思います。

特に、

  • キシリトール粉末を砂糖と同量使う人
  • 低糖質菓子や飲料から数十gを一度に摂る人
  • 心筋梗塞や脳卒中の既往がある人
  • 動脈硬化や血栓症リスクが高い人
  • 糖尿病、肥満、腎機能低下がある人

における高用量摂取の安全性は、今後さらに調べる必要があります。

現在の研究だけで、

キシリトールは昔から使われているから、どれだけ食べても絶対に安全である

とは言えません。

キシリトールを勧める歯科側も、

  • 一度に大量摂取すると下痢を起こし得ること
  • う蝕予防効果には研究間のばらつきがあること
  • フッ化物やブラッシングの代わりにはならないこと
  • 心血管安全性について未解決点があること

を説明する必要があります。

歯磨剤や洗口剤まで中止する必要はあるのでしょうか

現時点で、歯磨剤や洗口剤へ含まれるキシリトールまで、心血管リスクを理由に中止する根拠はありません。

歯磨剤や洗口剤は、食品として数十gを摂取する使い方ではありません。

通常は口腔内で使用し、吐き出します。飲み込む量は限定的です。

原著者側も、「swish and spit」、すなわち洗口して吐き出す形態の口腔ケア製品は、摂取量がごく少ないため、心血管リスクの観点から安全である可能性が高いと述べています。

したがって、

キシリトール研究が出たから、キシリトール入り歯磨剤や洗口剤をすべて避ける

という対応は、現在のエビデンスからは支持されません。

現時点で患者さんへどう説明するか

私であれば、患者さんへ次のように説明します。

2024年に、空腹時の血中キシリトール濃度が高い心血管高リスク患者では、その後の心筋梗塞、脳卒中、死亡などをまとめたイベントが多かったという研究が発表されました。

また、健康な人10人がキシリトール30gを一度に飲むと、30分後に血小板が刺激へ反応しやすくなる可能性も示されました。

ただし、観察研究ではキシリトールを何g食べたかは調べておらず、測定した空腹時キシリトールは、主に体内で作られたものを反映している可能性があります。

30gはキシリトールガム約23〜60粒分に相当し、通常の歯科的な使い方とは大きく異なります。

現在のところ、キシリトールガムを通常量噛むことで心筋梗塞や脳卒中が増えることは証明されていません。歯磨剤や洗口剤まで怖がる必要もありません。

一方で、粉末を砂糖代わりに大量に使ったり、数十gを一度に摂ったりすることは勧めません。

これが、現在の不確実性を隠さず、過度な恐怖も生まない説明だと考えています。

まとめ|怖がらせることと、正しく警告することは違います

2024年の原著は、キシリトールについて重要な安全性シグナルを提示しました。

空腹時血中濃度とMACEに関連があったこと、複数の血小板実験で刺激反応が増強したこと、マウスの動脈損傷モデルで血栓形成が速くなったこと、健康成人10人への30g負荷後に血小板反応が増強したことは、事実として受け止める必要があります。

一方で、その研究には、

  • 観察研究で摂取量を調べていない
  • 空腹時濃度は主に内因性産生を反映する
  • 高リスク患者集団である
  • ヒト負荷試験は10人である
  • 対照飲料がない
  • 主に30分後の急性反応である
  • マウスは経口摂取ではなく腹腔内投与である
  • 血小板反応は臨床イベントそのものではない
  • 通常量ガムの長期使用を調べていない

という限界があります。

その後の反論や追加研究も、原著を完全に否定したわけではありません。

同時に、通常量ガムの危険性を確定したわけでもありません。

2026年現在の最も誠実な結論は、次の通りです。

キシリトールには、検討を続けるべき心血管安全性シグナルがあります。

しかし、

通常量のキシリトールガムが、心筋梗塞や脳卒中を起こすと断定できる根拠はありません。

そして、この結論は将来変わる可能性があります。

通常量ガムを用いたプラセボ対照試験、独立した研究グループによる血小板実験、長期的な心血管イベント研究が発表されれば、私たちの説明も更新しなければなりません。

科学は、一つの論文で完結するものではありません。

報道も、医療者の説明も、その更新に付き合う必要があります。

危険性を正しく伝えることと、怖がらせることは同じではありません。

分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて伝えることこそ、医療者の責任だと考えています。

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※本稿は2026年7月20日現在の公開論文、規制機関の情報および臨床試験登録に基づいています。今後、独立した追試や規制当局の評価が公表された場合には、内容を更新します。

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