2026年7月09日

《歯科助手さんの治療見学ノート》

麻酔の前に、歯ぐきへ薬を塗ることがあります
歯科治療で「麻酔をしますね」と言われると、注射を思い浮かべる方が多いと思います。
その注射麻酔の前に、歯ぐきや粘膜に薬を塗ることがあります。これは「表面麻酔」と呼ばれるもので、注射の針が入るときの刺激を少しでもやわらげるための準備です。
表面麻酔は、治療中の痛みをすべて止めるための薬ではありません。深い虫歯の治療や神経に近い処置では、治療中の痛みを抑えるために注射麻酔が必要になります。表面麻酔は、その注射麻酔を少しでも受けやすくするための、最初のひと手間です。
患者さんから見ると、「麻酔の前に、また麻酔をするの?」と感じるかもしれません。診療室では、いきなり注射へ進むのではなく、歯ぐきを乾かし、薬を塗り、少し待ち、患者さんの様子を見ながら麻酔へ進んでいます。

ブランデンタルクリニックではジンジカインゲル20%を使うことがあります
ブランデンタルクリニックでは、処置内容や患者さんの状態に応じて、ジンジカインゲル20%という歯科用表面麻酔剤を使うことがあります。
ジンジカインゲル20%は、歯ぐきや粘膜の表面に塗るタイプの麻酔薬です。当院では主に、注射麻酔の前に針が入る場所へ塗る目的で使います。ほかにも、歯周ポケット周囲の処置、スケーリング・ルートプレーニング、型取りや口内法のレントゲン撮影で嘔吐反射が出やすい場合など、必要に応じて使うことがあります。
ただし、毎回必ず使うものではありません。処置の内容、麻酔をする場所、患者さんの緊張の強さ、唾液の量、お口の中の状態を見ながら判断します。
表面麻酔も薬の一つです。過去に歯科の麻酔で気分が悪くなったことがある方、薬でアレルギーを指摘されたことがある方、妊娠中・授乳中の方、持病や服薬がある方は、治療前にお知らせください。

表面麻酔は、塗る前の乾かす準備から始まります
表面麻酔を塗る前には、まず麻酔をする場所を確認し、エアーで歯ぐきや粘膜の表面を軽く乾かします。
口の中には唾液があります。そのまま薬を塗ると、薬が唾液で薄まったり、塗りたい場所から流れたりすることがあります。すると、必要な場所に薬がとどまりにくくなり、表面麻酔の効果が不安定になることがあります。
歯科助手の立場から見ると、表面麻酔は「薬を塗る」だけの処置ではありません。先生が塗りやすいように頬や唇をよける、唾液を吸う、塗る場所が見えやすいようにする。そうした準備も、痛みを減らすための流れに含まれます。
小さな動きに見えるかもしれませんが、麻酔前の数分間には意味があります。

ロールワッテを置くのは、唾液で薬が流れないようにするためです
エアーで乾かしたあと、表面麻酔を塗り、必要に応じてロールワッテを置きます。
ロールワッテとは、歯科でよく使う細長い綿のようなものです。唾液を吸わせたり、唇や頬を少しよけたりするために使います。
表面麻酔のあとにロールワッテを置くのは、唾液で薬が湿って流れないようにするためです。薬が流れると、効かせたい場所からずれてしまうことがあります。唾液が出やすい方では、吸引も使いながら、できるだけ薬が必要な場所にとどまるようにしています。
表面麻酔は、薬を塗ったかどうかだけで効果が決まるわけではありません。唾液で流れないようにすること、必要な場所にとどめること、症例に応じて待つことが大切です。診療室で行っているエアー乾燥、ロールワッテ、吸引、待機時間の調整は、すべてこのための準備です。
診療室でロールワッテを入れられると、「何のために入れているのだろう」と感じる方もいるかもしれません。表面麻酔の場面では、薬を効かせるための防湿として、とても大切な役割があります。

小児ではロールワッテがずれないように確認しながら進めます
お子さんの場合、舌や頬がよく動きます。緊張していると、口を開けていること自体が難しいこともあります。
そのため、小児で表面麻酔を使うときは、ロールワッテがずれないように注意しながら進めます。ロールワッテを入れたまま目を離さず、必要に応じてスタッフが指で保持しながら進めます。
これは、表面麻酔の効果を落とさないためだけではありません。ロールワッテがずれて、誤って飲み込まれたり、気道の方へ入ったりしないようにするための安全管理でもあります。
お子さんに表面麻酔を使うかどうかは、年齢、体格、処置内容、全身状態、治療への協力度を見ながら判断します。小児では、薬を塗ることだけでなく、ロールワッテや器具が安全な位置にあるかを確認しながら進めることが大切です。
患者さんや保護者の方からは見えにくい部分ですが、小児の治療では「薬を塗ること」と同じくらい、「置いたものが安全な位置にあるか」を確認することが大切です。

塗ったあとに少し待つ時間にも意味があります
表面麻酔は、塗った瞬間にすぐ最大限に効くわけではありません。
薬が粘膜の表面に作用するまで、少し時間を置きます。診療室で「少しこのままお待ちください」と声をかける時間は、単なる待ち時間ではなく、麻酔前の準備の一部です。
待つ時間は、症例によって変わります。塗る場所、処置の内容、唾液の量、患者さんの緊張の強さ、お子さんか大人かによっても調整します。
表面麻酔を塗ったあと、先生やスタッフが患者さんの様子を見ているのは、薬が効くのを待っているだけではありません。口を開けているのがつらくないか、気分が悪くなっていないか、ロールワッテがずれていないか、そうした点も確認しています。

注射の痛みには、針の痛みと薬が入るときの痛みがあります
患者さんが「麻酔が痛い」と感じる場面は、一つではありません。
まず、針が歯ぐきや粘膜に入るときのチクッとした痛みがあります。表面麻酔は、主にこの最初の刺激をやわらげるために使います。
もう一つは、麻酔薬が組織の中に入っていくときの、押されるような痛みや違和感です。この痛みは、表面麻酔だけで完全に消えるとは限りません。注入する場所、炎症の有無、組織の硬さ、注入のスピードなども関係します。
そのため、先生は針の入れ方や注入の速さを調整しながら、少しずつ麻酔を進めます。歯科助手は、患者さんの表情、手の動き、肩の力の入り方などを見ながら、吸引や声かけでサポートします。
「痛かったら左手を上げてください」とお伝えするのは、治療を中断するためだけではありません。患者さんの反応を見ながら、安全に進めるための合図でもあります。

薬が流れると、舌や唇に違和感が出ることがあります
表面麻酔の薬が、塗った場所以外へ流れて舌や唇、頬、のどに近い部分に触れると、その部分の感覚が一時的に鈍くなることがあります。
「しびれた感じがする」
「違和感がある」
「少し飲み込みにくい感じがする」
このように感じることがありますが、多くの場合、時間の経過とともに少しずつ元に戻ります。
ただし、感覚が鈍い間は注意が必要です。飲食がしにくくなったり、熱いものに気づきにくかったり、頬や唇を噛みやすくなったりすることがあります。表面麻酔や注射麻酔の効果が残っている間は、食事や熱い飲み物に気をつけてください。
特にお子さんの場合は、感覚が鈍いまま食べたり飲んだりすると、頬や唇を噛んだり、熱さに気づきにくかったりすることがあります。保護者の方は、しびれや違和感が残っている間の飲食に注意してください。
違和感が強いとき、飲み込みにくさが気になるとき、気分が悪いときは、遠慮なくスタッフにお知らせください。

表面麻酔だけで治療ができるとは限りません
表面麻酔を塗ると、粘膜の表面の感覚は鈍くなります。
しかし、深い虫歯を削る痛み、神経に近い部分の痛み、根管治療で必要になる痛みのコントロールは、表面麻酔だけでは足りないことが多くあります。
そのため、虫歯が深い場合や、神経に近い治療、根の治療、外科的な処置では、注射麻酔が必要になります。表面麻酔は、その注射麻酔を少しでも受けやすくするための準備です。
一方で、歯ぐきの処置や歯周ポケット周囲の処置、型取りやレントゲン撮影時の嘔吐反射などでは、症例によって表面麻酔が役立つことがあります。どの麻酔を使うかは、処置の内容と患者さんの状態を見ながら判断します。

麻酔が効きにくいと感じる場合もあります
表面麻酔を塗って、注射麻酔をしても、すべての方が同じように麻酔を感じるわけではありません。
炎症が強い歯、痛みが強く出ている歯、下顎の奥歯、緊張が強い状態では、麻酔が効くまでに時間がかかったり、追加の麻酔が必要になったりすることがあります。
これは、表面麻酔が悪い、注射麻酔が悪いという単純な話ではありません。部位、炎症、神経の走り方、患者さんの不安、治療内容など、いくつかの要素が関係します。
治療中に痛みがあるときは、我慢せずに左手を上げてください。麻酔を追加する、少し待つ、治療の進め方を調整するなど、状況に応じて対応します。
お子さんの表面麻酔では、不安を減らす声かけも大切です
お子さんの場合、痛みそのものよりも、「何をされるかわからない」という不安が強いことがあります。
表面麻酔を塗るときも、いきなり口の中に薬を入れるのではなく、「ここに少しお薬を塗るね」「苦かったら教えてね」「動かずにいてくれると早く終わるよ」と声をかけながら進めます。
ロールワッテを入れるときも、急に入れられると驚くことがあります。そのため、できるだけ短い言葉で、これから何をするのかを伝えながら進めます。
表面麻酔は、お子さんの治療を必ず無痛にするものではありません。それでも、注射麻酔へ進む前の不安を減らし、治療を受けやすくする準備として役立つことがあります。

麻酔が不安な方は、先に伝えてください
麻酔が苦手な方は少なくありません。
過去に麻酔で気分が悪くなったことがある方、注射が苦手な方、痛みに強い不安がある方、しびれる感覚が苦手な方は、治療前にお知らせください。
事前にわかっていると、表面麻酔を使うかどうか、声かけのタイミング、休憩の入れ方、麻酔後にどのくらい待つかを調整しやすくなります。
治療中に「これくらいなら我慢しなければ」と思う必要はありません。痛みや違和感、気分の悪さがあるときは、左手を上げるなどして知らせてください。
よくある質問
表面麻酔を塗れば、注射はまったく痛くありませんか?
完全に痛みがなくなるとは限りません。表面麻酔は、主に針が入るときのチクッとした刺激をやわらげるための準備です。麻酔薬が入るときの押される感覚や、炎症が強い部位の痛みは別に感じることがあります。
表面麻酔だけで虫歯治療はできますか?
多くの場合、表面麻酔だけでは虫歯治療に必要な麻酔効果は足りません。深い虫歯や神経に近い治療では、注射麻酔が必要になります。
なぜ表面麻酔を塗る前に乾かすのですか?
唾液で薬が薄まったり、塗った場所から流れたりするのを防ぐためです。薬を必要な場所にとどめるために、エアーで乾燥し、必要に応じてロールワッテや吸引を使います。
ロールワッテは何のために置くのですか?
唾液で表面麻酔が流れにくくするためです。小児では、ロールワッテがずれないように確認しながら進めることがあります。これは防湿だけでなく、誤飲や誤嚥を防ぐ安全管理でもあります。
表面麻酔のあと、口の中がしびれる感じがします。大丈夫ですか?
薬が触れた場所は、一時的に感覚が鈍くなることがあります。違和感や飲み込みにくい感じが出ることがありますが、時間の経過とともに戻ります。感覚が鈍い間は、食事、熱い飲み物、頬や唇を噛むことに注意してください。

まとめ
表面麻酔は、注射の痛みを完全になくす魔法の薬ではありません。
けれど、麻酔をする場所を乾かし、ジンジカインゲル20%を必要な場所に塗り、ロールワッテで唾液をよけ、必要に応じて吸引し、少し待つ。この一つひとつの準備には、患者さんの負担を減らす意味があります。
歯科助手の立場から見ると、麻酔前の数分間には、治療を少しでも楽に、安全に受けてもらうための工夫が詰まっています。
麻酔が不安な方、過去に麻酔でつらい経験がある方、治療中に痛みや違和感が出やすい方は、遠慮なくお知らせください。表面麻酔、声かけ、休憩、麻酔の効き具合の確認を行いながら、できるだけ安心して治療を受けられるように進めていきます。
