2026年11月05日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科衛生士です。
虫歯の治療で白い詰め物を入れたとき、「周りの歯と色が合っているかな」「きれいな状態はどのくらい続くのかな」と気になることはありませんか。
治療直後には周囲の歯となじんで見えていても、時間がたつと色の違いが気になることがあります。患者さんからは、「コーヒーをよく飲むからでしょうか」「歯磨きが足りないのでしょうか」といったご相談をいただくこともあります。
白い詰め物の色が変わる原因というと、コーヒーや紅茶などの飲食物、日々の清掃、材料そのものの性質を思い浮かべるかもしれません。しかし、それだけではありません。
歯科医院で材料をどのように固めるか、どのように仕上げ研磨するかによっても、その後の色の変化が異なる可能性があります。
2026年10月31日、『BMC Oral Health』に、アルカサイト系修復材料を中心とした112試料の材料実験が公開されました[1]。研究者らは、光を使わずに固める自己重合、強い光・弱い光による重合と、2種類の仕上げ研磨を組み合わせました。さらに、模擬歯磨きを加えながら、コーヒーへの24日間浸漬や温度変化試験を行っています。
その結果、コーヒー着色後のアルカサイトの平均色差は、組み合わせによって5.67から13.33まで異なっていました。
ただし、最も色差が小さかった条件でも、歯科色彩研究で広く参照される許容閾値1.8を超えています。「この固め方なら変色しない」という意味ではありません。また、これは実験室で作った円盤状の試料の結果であって、患者さんの歯に詰めた修復物を2年間追跡した研究でもありません。
今回は、112試料の内訳から実験条件、色差と表面粗さの測定結果、統計学的な注意点まで詳しく見ていきます。そのうえで、ほかの研究ではどうだったのか、歯科衛生士として患者さんに何をお伝えできるのかを考えてみたいと思います。

白い詰め物の色は、材料の名前だけで決まるのでしょうか?

「変色」にはいくつかの違う現象があります
一口に「白い詰め物が茶色くなった」といっても、実際には異なる現象が含まれています。
コーヒーや紅茶などの色素が表面に付いた場合は、外因性の着色です。一方、樹脂成分の吸水や化学的な変化などによって、材料自体の色調が変わることも考えられます。さらに、詰め物と歯の境目に色素が残り、黒や茶色の線のように見えることもあります。
これらは患者さんの目には似て見えることがありますが、原因も対応も必ずしも同じではありません。表面に付着した色素なら清掃や研磨で改善できる場合がありますが、材料内部の変化や歯との適合の問題であれば、別の判断が必要になることがあります。
樹脂とフィラー、そして治療時の操作
多くの白いレジン系修復材料は、樹脂マトリックスと無機フィラーを組み合わせた構造をしています。樹脂は成形や硬化に、無機フィラーは機械的な性質や光学的な性質などに関係します。しかし、配合されている成分だけで完成後の性能を説明できるわけではありません。
材料の硬化がどのように進むか、硬化後の表面をどのように仕上げるか、どのような環境で使われるかも関係してきます。表面の微細な凹凸が色素の付着・保持に影響する可能性もあれば、樹脂の状態や水分の取り込みが色に関係する可能性もあります。
ここで注意したいのは、今回の研究がこれらすべての機序を直接測定したわけではないという点です。分かったのは、決められた硬化・研磨条件で作った試料について、人工老化後の色差や粗さが異なっていたことです。
今回の「磨き方」は家庭の歯磨きではありません
タイトルにある「仕上げ研磨」とは、歯科医院で詰め物を固めたあと、専用器具で形や表面を整える工程を指しています。家庭で使用する歯ブラシの当て方や歯磨きの回数を比べた研究ではありません。
模擬ブラッシングは実験の一部として全試料に行われていますが、主に比較したのは硬化方法と仕上げ研磨方法です。この違いを意識して読み進めていただければと思います。
アルカサイトとは?イオンを放出する白い修復材料

今回の材料はCention Forte
中心となったのは、Ivoclar社のCention Forte(センティオン フォルテ)というアルカサイト系修復材料です。アルカサイトは、アルカリ性の無機フィラーを含み、イオン放出性を持つレジン系の修復材料として開発されてきました[2]。
Cention ForteにはUDMA(ウレタンジメタクリレート)などの樹脂成分と、カルシウムフルオロシリケートガラスなどの無機フィラーが含まれます。主論文では、無機フィラー含有量を58~59vol%、無機フィラー粒子径を0.15~1.7μmと記載しています[1]。これは試験で使用した製品の組成情報であって、一般的な白い詰め物すべての数値ではありません。
Cention NとCention Forteは区別が必要
先に登場したCention Nは粉末と液体を手で混ぜる方式でした。Cention Forteはカプセルを機械で練和する方式です。機械練和には操作条件のばらつきや気泡混入を減らす可能性がありますが、それだけで臨床的な優越性が証明されるわけではありません。
両製品には違いがあり、古いCention Nの臨床研究をそのままCention Forteの実績として扱うことはできません。今回の112試料研究でアルカサイトとして使用されたのはCention Forteです。
フッ化物・カルシウム・水酸化物イオンを放出する
メーカーの説明書には、Cention Forteがフッ化物、カルシウム、水酸化物イオンを放出する特徴が記されています[3]。こうした性質は、再石灰化や酸性環境への応答との関係で研究されています。
ただし、イオンを出すことと、実際の患者さんで二次う蝕を減らすことは同じではありません。 イオン放出量の測定と、患者さんの虫歯再発率を評価する臨床研究は、別の種類の証拠です。今回の112試料研究では、イオン放出量、再石灰化量、二次う蝕の発生率は測定していません。
イオン放出性材料については、院長コラム「歯科修復物の『フッ素再充電』理論」でも詳しく紹介しています。
すべての歯の白い詰め物に使えるとは限らない
材料には用途と適応があります。2024年8月版のCention Forte海外向け使用説明書では、専用のCention Primerとの併用を前提に、Ⅰ級・Ⅱ級修復と条件付きのⅤ級修復が記載されています。一方、Ⅲ級・Ⅳ級修復は審美的な理由から適さないと記されています[3]。
白い材料だから前歯にも奥歯にも同じように選べる、というものではありません。日本国内での適応や実際の使用については、国内の承認内容と最新の使用説明書を確認する必要があります。
研究者らは何を確かめようとしたのか?
従来のアルカサイト研究では、表面粗さや着色に関する結果が報告されていましたが、材料世代や研磨器具、測定装置、人工老化条件が異なるため、必ずしも結果が一致していませんでした[1、2]。
今回の研究では、硬化方法や研磨方法を変えても結果が変わらないのか、人工老化を加えても変わらないのか、通常の比較レジンと差がないのかという3つの帰無仮説を設定しました。
特に重要なのは、硬化方法と研磨方法を別々に見るだけではなく、ある硬化方法の下では研磨方法の影響が大きく、別の硬化方法では小さいといった「組み合わせの効果」を検討したことです。統計学では、こうした関係を交互作用と呼びます。
112試料は、どのように16条件へ分けられた?

アルカサイト84試料と比較レジン28試料
直径8mm、厚さ2mmの円盤状試料を合計112個作製しました。うち84個がCention Forte、28個が比較用のナノハイブリッドコンポジットレジンNeo Spectra ST HVです[1]。
Cention Forteは高出力光重合、低出力光重合、自己重合の3条件に各28試料ずつ分けました。Neo Spectra ST HVは高出力光重合で28試料を作製しました。
この4つの材料・硬化条件を、ディスク研磨とスパイラル研磨の2方法に分けると、各14試料の8群になります。さらに、コーヒー着色と温度変化の2種類の人工老化条件に分け、最終的に16条件・各7試料となりました。
すなわち「4つの材料・硬化条件×2種類の研磨×2種類の老化条件×7試料=112試料」です。
試料作製もできるだけ標準化した
Cention Forteは専用練和機で15秒間混合し、型に詰めて透明ストリップとガラス板で平らに整えています。作製時の欠けや明らかな不良を顕微鏡で確認し、硬化・研磨後は37℃の蒸留水に24時間保管してから基準測定を行いました。
同じ形にそろえることで実験条件を比べやすくできますが、実際の虫歯は歯の中で複雑な形をしています。厚みや照射方向、唾液、防湿、噛み合わせなども異なるため、円盤の結果をそのまま患者さんの修復物へ当てはめることはできません。
色と粗さは、同じ数の試料を測定していない
色差は112試料すべてを分析しました。 一方、原子間力顕微鏡(AFM)による粗さの測定は一部の試料です。ベースラインでは8群から各3試料の24試料、人工老化後の評価では16群から各3試料の48試料を測定しました[1]。
「112試料すべてについて色もナノレベルの粗さも測った」と書くのは正確ではありません。この違いは、後で統計学的な限界を説明するときにも重要になります。
「光を使わずに固める」と「光で固める」はどう違う?

自己重合は化学反応で硬化する
自己重合は、材料が乾いて固まることではなく、化学的な重合反応によって硬化する方法です。研究では光を当てず、9分間硬化させています[1]。
ここには製品の標準操作と区別すべき点があります。2024年8月版のCention Forte使用説明書に記載された自己重合の設定時間は、練和開始から約6.5分です[3]。研究の「試験片を9分間自己重合させた」という条件と、メーカーが示した「練和開始からの設定時間」は同じ意味ではありません。
研究で9分待ったから、実際の治療で必ず9分間待つべきだということではないのです。
高出力光重合は1,400mW/cm²で20秒
高出力群ではLED照射器を用い、1,400mW/cm²で20秒間照射しました。低出力群では700mW/cm²で20秒間照射しています。光を使って重合を促すという点は共通しますが、設定した強さは2倍異なります。
設定値から計算すると、高出力群の照射エネルギー密度は28J/cm²、低出力群は14J/cm²です。したがって、光の強さだけでなく、照射された総エネルギー量も同時に変わっていることになります。
光強度だけの独立した効果を取り出した試験ではない点に注意が必要です。
光の距離、角度、材料の厚みも重要
実際の歯科治療では、光照射器の先端と材料の距離、照射角度、光の波長、材料の厚みや色調なども硬化に影響します。東京歯科大学の2024年の解説では、深い窩洞で光が届きにくいことや、製品の指示に従った照射、必要に応じた多方向からの照射が説明されています[4]。
ただし、この一般的な光重合レジンの説明を、自己重合も可能なCention Forteにそのまま転用することはできません。青い光の基本的な仕組みは、関連記事「歯医者で青い光を当てるのはなぜ?」でも紹介しています。
高出力ならいつでも良い?メーカーの照射条件との違い
2024年8月版のCention Forteの海外向け使用説明書には、500~900mW/cm²で20秒、1,000~1,300mW/cm²で15秒、Ⅰ級・Ⅱ級修復向けには1,800~2,200mW/cm²で5秒を2回という光照射条件が記載されています[3]。
また、永久歯のⅤ級修復には1,300mW/cm²未満という条件があり、乳歯には1,300mW/cm²を超える光強度を使用しないよう明記されています。つまり高出力光照射が一律に禁止されているわけではありませんが、用途に応じた条件と制限があります。
今回の高出力群は1,400mW/cm²・20秒であり、確認した2024年版説明書に掲載された組み合わせとは一致しません。したがって、色差が小さかったからといって、臨床でそのまま同じ出力と照射時間を推奨することはできません。
研究の条件は実験の説明として紹介し、実際の治療では適用される最新の説明書と臨床判断を優先する必要があります。
「ディスク研磨」と「スパイラル研磨」は何が違う?

Sof-Lex XTは粗い粒度から順番に仕上げる
ディスク式には、酸化アルミニウムを用いたSof-Lex XTが使用されました。研究では粗いものから超微粒度のものまで複数段階で順に磨き、各ディスクを15秒使用しました。4段階の合計は約60秒です。試料ごとに新しいディスクセットを使っています[1]。
OptraGlossはスパイラル形状の研磨器具
もう一方は、ダイヤモンド粒子を含むOptraGlossというスパイラル形状の研磨器具です。こちらは1試料につき15秒間使用しました。器具に明らかな変形がなければ、最大10試料まで同じ器具を使用しています。
両方とも回転数は10,000rpmで、研磨は同じ術者が担当しました。
比べたのは「形」だけではない
ここが結果を読むうえで大切な点です。ディスク研磨とスパイラル研磨では、研磨材、工程数、時間、器具の交換条件が異なります。つまり、器具の形だけを変え、ほかの条件をすべてそろえた実験ではありません。
今回の結果から「どの材料でもディスク型が必ず優秀」とは言えません。 正しくは「Cention Forteについて、今回設定した多段階ディスク研磨プロトコルの方が好ましい結果を示す条件があった」です。
治療で行う仕上げ研磨の基本的な役割については、「白い詰め物、もう固まったのになぜまた削る?」で解説しています。
コーヒー24日間、温度変化2万回、そして模擬歯磨き

コーヒーへの24日間浸漬
コーヒー群の56試料には、インスタントコーヒー2gを水200mLで調製した液体を使用しました。37℃に冷ましてから試料を浸漬し、液は毎日新しいものに交換しています。これを24日間続けました[1]。
著者らは約2年間のコーヒー摂取に相当すると仮定していますが、日常生活でコーヒーが口に触れるのは限られた時間です。唾液の洗い流しや飲食の間隔などもあります。24日間の連続的な実験曝露を、そのまま患者さんの2年間の変色量に換算することはできません。
5℃と55℃を20,000サイクル
別の56試料では、5℃と55℃の間を20,000回往復するサーモサイクル試験を行いました。冷たい飲み物と温かい飲み物による温度変化を人工的に表す方法ですが、口の中の複雑な温度変化を完全に再現するものではありません。
全試料に模擬ブラッシングを行った
電動歯ブラシを固定した装置を使い、2Nの荷重で、1日1.5分、24日間ブラッシングしました。合計36分です。RDA37の歯磨剤0.2gを蒸留水0.5mLと混ぜたスラリーを使い、ブラシヘッドは毎日交換しています[1]。
著者らは1つの修復物に割り当てられる日常のブラッシング時間を仮定し、約2年相当と表現しています。ただし、人によってブラシの当て方や力、歯磨剤、歯磨き時間は違います。この「2年相当」は実験負荷の説明であり、臨床寿命を予測する数字ではありません。
コーヒーと温度変化を同じ試料に加えたわけではない
コーヒー着色と温度変化は別々の試料群で行われました。両群とも模擬ブラッシングを受けましたが、コーヒーも温度変化もすべて同時に加える実験ではありません。
現実の口の中では、飲食物、温度、清掃、噛み合わせ、細菌などの影響が重なります。今回の条件だけでそれらを完全に再現したとは言えません。
色の違いを測る「ΔE00」とは?

VITA Easyshade Vで測色した
研究ではVITA Easyshade Vという測色装置を用い、各試料について3回測定して色のデータを記録しました。背景や照明などの測定条件も統一されています[1]。
測定結果はCIEDE2000という方法で色差に変換され、ΔE00として表されました。ΔE00は2つの色の違いを数値化する指標で、一般には値が大きいほど色の差が大きいことを示します。
ただし「ΔE00=5だから5%変色した」という意味ではありません。数字が2倍なら肉眼での違いも必ず2倍になるわけではありません。色が黄色い方向に変わったのか、暗くなったのかも、この一つの値だけでは決められません。
今回は補正係数2:1:1で計算している
ここは他研究と比較するときに必要な情報です。原著では、CIEDE2000の計算に用いる補正係数をkL:kC:kH=2:1:1に設定しています[1]。
この係数は明るさ、鮮やかさ、色相の差を計算の中でどのように重みづけするかに関係します。色差の数字は、測色条件だけでなく計算設定によっても異なり得ます。そのため別の論文のΔE00を並べる際は、材料や着色条件に加えて計算方法も確認しなければなりません。
知覚閾値0.8と許容閾値1.8
原著は、色差の解釈に知覚閾値0.8、許容閾値1.8を参照しています。これらはParavinaらが2015年に歯科用セラミックスの色の違いを175人の観察者に評価してもらい、50%が違いを識別・許容する境界として推定した値です[5]。
知覚閾値は「色の違いを見分けられるか」、許容閾値は「その違いを受け入れられるか」の目安です。0.8未満なら誰にも見えない、1.8を超えたらすべての人が不満に感じる、といった絶対的な線ではありません。
また、元の閾値研究は歯科用セラミックスの視覚評価に由来しており、今回のCention Forteを同じ条件で患者さんに評価してもらったものではありません。今回の論文が採用した参考値として理解する必要があります。
色差は交換時期を決める数字ではない
同じΔE00でも、修復物の大きさや位置、周囲の歯との関係、照明、患者さんの希望によって気になり方は違います。測定された数値だけから、修復物を交換すべきかどうかは判断できません。
コーヒー着色後の平均色差は5.67~13.33

高出力光重合では5.67と7.54
高出力光重合+ディスク研磨の平均ΔE00は5.67±0.77でした。同じ高出力光重合でも、スパイラル研磨では7.54±1.16でした[1]。
「±」の後は標準偏差です。平均の周囲で測定値がどの程度ばらついたかを示しています。硬化条件が同じでも、今回の研磨プロトコルの違いによって平均色差が異なったことが分かります。
低出力光重合では6.86と11.27
低出力光重合+ディスク研磨は6.86±0.89、低出力光重合+スパイラル研磨は11.27±1.33でした。こちらも平均値ではディスク研磨の方が小さくなっています。
自己重合では8.24と13.33
自己重合+ディスク研磨では8.24±2.03、自己重合+スパイラル研磨では13.33±2.22でした。後者の13.33が6条件の中で最も大きな平均色差でした。
ただし、多重比較では、自己重合+スパイラル研磨と低出力光重合+スパイラル研磨との間に有意差は確認されていません。「すべての条件より統計学的に大きく変色した」という表現は正確ではありません。
6条件を整理すると
高出力ではディスク5.67/スパイラル7.54、低出力ではディスク6.86/スパイラル11.27、自己重合ではディスク8.24/スパイラル13.33でした。
3種類の硬化条件すべてで、今回のディスク研磨プロトコルの平均色差はスパイラル研磨群より小さい値でした。ただし、各数値は特定製品・各群7試料の人工着色条件で得られた結果です。ほかの材料や実際の口腔内へそのまま一般化はできません。
温度変化群では、最小の平均色差が1.64だった

コーヒー群とは別に、模擬ブラッシングと温度変化を組み合わせた群も比較しました。
高出力+ディスク研磨は2.23±0.78、高出力+スパイラル研磨は2.33±0.33でした。低出力+ディスク研磨は1.64±0.45、低出力+スパイラル研磨は2.87±0.51でした。自己重合+ディスク研磨は2.28±0.59、自己重合+スパイラル研磨は3.22±0.79でした[1]。
この温度変化群で最も平均色差が小さかったのは、低出力光重合+ディスク研磨の1.64です。コーヒー着色群では高出力+ディスク研磨が最小だったので、最小の平均値を示す硬化条件は老化方法によって異なりました。
また、6つの硬化・研磨条件すべてで、コーヒー着色群の平均色差は温度変化群より有意に大きく、いずれもp<0.001でした。
ただし2つの老化条件は別の試料群で比較しています。「実際の患者さんではコーヒーが温度変化より何倍悪い」と判断するものではありません。
最も良い条件でも、色差がゼロだったわけではない

今回のコーヒー着色群で最も小さい平均値は5.67でした。しかし、原著が参照した許容閾値1.8を大きく超えています。
「比較した条件で最も小さい」という相対的な評価と、「臨床的に色の違いが十分小さい」という判断は別です。まして、今回の円盤試料の平均値を、患者さんが治療後に感じる色の違いや、交換時期へ直接置き換えることはできません。
もう一つ重要なのは、色差が大きいこと自体が、虫歯や破折、脱離を意味するわけではないという点です。色の変化は材料を評価する重要な指標ですが、修復物の寿命を決める唯一の指標ではありません。
比較レジンと「有意差なし」だったのは1条件

比較対象として使われたのは、Neo Spectra ST HVというナノハイブリッドコンポジットレジンです。研究者らは、この材料にも同じ研磨法と老化条件を適用しています。
コーヒー着色後、高出力光重合+ディスク研磨のCention Forte群は、対応する比較レジン群との間で色差に有意差を検出しませんでした(p=0.351)。ほかの5条件では、対応する比較レジンとの間に有意差が認められました[1]。
ただし、「統計学的な有意差を検出しなかった」と「性能が同等だと証明した」は違います。 同等性を主張するには、事前に同等とみなす範囲を設定した適切な解析が必要ですが、今回はそうした同等性試験ではありません。
比較対象はあくまで特定の1製品です。すべての通常型コンポジットレジンとCention Forteの性能が同じだと示すものでもありません。
「硬化方法×研磨方法」の交互作用が示すもの

交互作用は、一つの条件による差が、別の条件によって変わることです。例えば同じ研磨器具でも、高出力光重合の場合と自己重合の場合で色差の違いが同じとは限りません。
今回、硬化方法と研磨方法の交互作用は、色差ΔE00でp=0.002、表面粗さのSa・Sq・Szでいずれもp<0.001でした[1]。これは組み合わせによって結果が違っていたことを示しています。
色差の解析では、硬化方法の部分η²が0.45、研磨方法が0.54、老化条件が0.90と報告されています。ただし、これを「変色の45%を硬化方法が決める」「研磨すれば54%防げる」と解釈することはできません。部分η²は統計モデル内での効果量を表す指標で、患者さんへの予防効果率ではありません。
また、硬化方法・研磨方法・老化条件の3要因交互作用については、Saでp=0.004、Sqでp=0.002でしたが、Szではp=0.059、色差ΔE00ではp=0.152でした。すべての測定項目で3要因交互作用が確認されたわけではありません。
研究では6日・12日・24日の色差経過も分析しています。高出力のディスク研磨群はp=0.187、スパイラル研磨群はp=0.064で、時間経過による有意な差が検出されませんでした。しかし24日後には色差5.67、7.54が測定されています。「有意な時間効果なし」は「変色なし」と同義ではないのです。
AFMで見た、ナノレベルの表面の凹凸

AFMは非常に小さな面を三次元的に調べる
今回の研究では、原子間力顕微鏡(AFM)で表面粗さを評価しています。各試料の中央、周辺、その中間の3領域を、各10μm×10μmの範囲で走査しました[1]。
1μmは1mmの1,000分の1です。AFMは微細な凹凸を詳しく調べられる一方、歯の詰め物全体の広い表面を代表するとは限りません。
Sa・Sq・Szはそれぞれ異なる粗さ指標
Saは面の高さの平均的なばらつきを示す指標、Sqは大きな凹凸の影響を受けやすい二乗平均平方根高さ、Szは測定した面の最大高さに関係する指標です。
以前の104試料の被せ物研究で使われたRaは輪郭に沿った粗さ指標で、今回のSaとは測定の考え方が異なります。Raの0.2μmという細菌付着に関する目安を、そのままSaに当てはめることは適切ではありません。
そもそも今回の実験では、細菌の付着量や虫歯の発生率は測定されていません。粗さの数字が大きいからといって、患者さんの虫歯リスクが何倍になると説明することもできません。
自己重合+スパイラル研磨では、着色後の粗さが大きかった

着色後のSa平均値を比べる
コーヒー着色後のSa平均値は、高出力+ディスク研磨235.0nm、高出力+スパイラル研磨505.9nm、低出力+ディスク研磨293.1nm、低出力+スパイラル研磨364.9nm、自己重合+ディスク研磨263.6nm、自己重合+スパイラル研磨1,398.1nmでした[1]。
着色後の比較では、自己重合+スパイラル研磨群のSaとSqが、ほかの実験群より有意に大きい結果でした。ただし、独立したAFM評価試料は各条件3試料で、測定値のばらつきにも注意が必要です。
老化前から数値上は大きかったが、有意差はなかった
自己重合+スパイラル研磨群のSaは、人工老化前の平均値が816.0nmでした。ほかの5条件より数値上は大きい値です。
しかし、ベースラインにおける6条件全体の比較では有意差が確認されていません(p=0.170)。 また、この群の着色後Saは1,398.1nmでしたが、人工老化前との比較でも有意差は確認されませんでした(p=0.242)[1]。
したがって、「この組み合わせは人工老化前から統計学的に最も粗かった」「コーヒーで著しく粗くなった」と断定することはできません。着色後にほかの群より粗い表面が認められたことと、老化前後に有意な増加が確認されたことは、別の話です。

ディスク研磨群では有意な粗さの変化が検出されなかった
Cention Forteのディスク研磨群では、今回の人工老化条件に伴うSa・Sq・Szの有意な変化は検出されませんでした。著者らがディスク研磨の表面安定性を好ましいと評価した理由の一つです。
ただし「有意差がない」は「表面が全く変化しなかった」の証明ではありません。AFMの独立試料数が少ないことも考える必要があります。
統計解析には感度分析も行われた
1つの試料から3か所を測定しても、3個の独立試料があるわけではありません。著者らは試料単位の平均値での再解析、試料内の測定を考慮した混合効果モデル、分散の不均一性に対応する解析などを行っています[1]。
主要な結果はおおむね維持されましたが、HC3という頑健な標準誤差を用いた解析では、硬化方法と老化条件の交互作用についてSaとSqの有意性が維持されませんでした。あらゆる統計結果が解析方法にかかわらず完全に安定していたわけではないのです。
なぜ硬化と研磨の組み合わせで色が違ったのか?
樹脂の重合と水分の関係は「可能性」
レジン系材料では、重合反応の進み方や架橋構造が材料の性質に影響する場合があります。原著でも、光照射による重合状態やUDMA系マトリックスの吸水性が色調安定性に関係した可能性を考察しています[1]。
しかし、今回の研究では重合率、吸水量、色素の内部への浸透量を直接測定していません。 これらを確認済みの原因のように書くことはできません。
表面粗さが大きいから必ず変色するわけではない
材料表面の凹凸は色素の付着や保持に関係する可能性があります。ただし、表面着色、樹脂の化学的変化、吸水、フィラーとマトリックスの界面の変化など、複数の機序が考えられます。
今回の実験は、粗さが何%変色を増やすかという因果関係を独立して調べたものではありません。「粗い条件で色差も大きかった」ことと、「粗さが色差を大きくしたと証明した」ことは区別します。
研磨時間や工程の違いも影響し得る
多段階ディスク式は約60秒、今回のスパイラル式は15秒でした。形状、研磨材、器具の使用回数なども異なるため、結果の違いを特定の1要因だけに帰すことはできません。
実は、最終測定の前に3分間洗浄していた

研究者らは、人工老化が終わった試料を180秒間、超音波洗浄してから最終測色・粗さ測定をしています[1]。
つまりコーヒー液が表面に付いたまま測定したわけではありません。それでもコーヒー群の色差が大きかった点は興味深いところです。
ただし超音波洗浄で表面色素がすべて取れたと確認されたわけではありません。洗浄後に残る色差が、表面への付着によるものか、内部への色素浸透によるものか、その割合は今回の研究だけでは分かりません。
また、着色したあとに仕上げ研磨をやり直す「再研磨」の効果も、主研究では検証していません。
別のCention Forte研究では、色差18.93や21.10も報告された

2026年のBaytok Kavcıらの研究では、Cention Forteを含む3種類、計180試料について、コーヒーとクロルヘキシジン洗口液などの影響を調べています[6]。
Cention Forteの平均ΔE00はコーヒー単独で18.93、通常のクロルヘキシジン洗口液+コーヒーの条件では21.10、変色抑制システムADSを含むクロルヘキシジン洗口液+コーヒーでは13.56でした。
ただし、こちらは85℃のコーヒーへ1日15分、14日間曝露するなど、今回の112試料研究とは条件が異なります。研磨方法や試料の準備も違います。5.67と18.93を単純に並べ、「一方の研究の方法の方が3倍変色しにくい」とは言えません。
クロルヘキシジンは医療上の目的で使われる場合があります。この材料実験だけを理由に、指示された洗口液の使用を自己判断でやめる必要はありません。なお、メーカー説明書にも、クロルヘキシジンや一部の洗口液との組み合わせで変色が起こり得る旨が記載されています[3]。
酸性環境でも材料の表面は変化する?

Turkistaniが2026年に発表した別の研究では、Cention Forteを人工唾液、コーラ、模擬胃酸に96時間浸漬し、表面粗さ、光沢、硬さを評価しました[7]。
Cention ForteのRa平均値は、人工唾液で0.34μm、コーラで0.52μm、模擬胃酸で0.71μmでした。光沢はそれぞれ46.30GU、32.72GU、23.47GUでした。電子顕微鏡では樹脂マトリックスの侵食やフィラー脱落に関連する表面変化も報告されています。
これは酸性環境が材料表面に影響し得ることを示す実験ですが、96時間連続浸漬は日常の飲食そのものではありません。コーラを飲むだけで同じ変化が起こるという意味ではないのです。
また、この研究のRaと112試料研究のSaは異なる指標です。直接比較して材料の優劣を決めるものではありません。
実際の患者さんの歯ではどうだった?1年間のCention Forte臨床研究

2025年、Gözetici-ÇilらはCention Forteを用いた臼歯部修復について、49人・90修復物の臨床研究を報告しました[8]。1年後には86修復物を評価し、成功率98.8%、生存率100%と報告しています。
一方で、色調や表面光沢には軽度の変化が認められ、1修復物で臨床的に許容できない小さな欠けが認められました。
ここでの「成功」は、「色が全く変わらなかった」という意味ではありません。修復物の機能や形態、周囲の状態などを含む臨床的な評価です。また、この研究には通常のコンポジットレジンと無作為に比較する対照群がないため、Cention Forteの方が優れていると証明したものではありません。
59人のランダム化臨床試験では、6か月後の色と光沢をどう評価した?
Etiennotらは2025年、59人の患者さんにそれぞれ条件の似た2本の歯を選び、Cention ForteとEquia Forte HTを比較するランダム化臨床試験を報告しました[9]。6か月後の再診率は96.6%でした。
6か月後の色調適合について、Cention Forteの57.9%がFDI評価1、すなわち優れた色合わせと評価されています。一方、表面光沢については82.5%がFDI評価2で、わずかに光沢が鈍いものの臨床的には許容できる状態でした。
この研究の比較対象はガラスハイブリッド系材料であり、今回の主研究のナノハイブリッドレジンではありません。また、追跡期間は6か月です。長期の色調安定性を証明したものではありません。
研究資金についても重要な情報があります。 原著には、この臨床試験がCention Forteの製造元であるIvoclar Vivadent AGの支援を受けたことが明記されています[9]。資金提供があるから結果が誤りだと決めつけることはできませんが、製品の臨床性能を評価する際は、支援元も含めて確認する必要があります。
旧製品Cention Nを48か月追跡した研究もある

2026年、MeralらはCention Nと通常の臼歯部コンポジットレジンG-ænial Posteriorを比較したランダム化臨床試験を発表しました[10]。
対象は31人・100修復物で、各材料50本ずつです。48か月時点のKaplan–Meier法による推定生存率は、Cention Nが83.6%、比較レジンが88.4%でした。log-rank検定はp=0.49で、統計学的な有意差は確認されませんでした。
ただし48か月時点の追跡率は58%で、脱落例が少なくありません。また、使われたのは旧製品Cention Nです。Cention Forteの48か月成績として読み替えることはできません。
色差が大きいことと、臨床寿命が短いことは違う
円盤試料の材料実験で測るのは色差や粗さです。一方、患者さんの臨床研究では、修復物が残っているか、欠けや脱離がないか、歯との境目や周囲の組織がどのような状態かを評価します。
色差が大きいこと自体は、二次う蝕や破折、脱離を意味しません。また「成功率」「生存率」は研究ごとに定義が異なることもあります。異なる研究の数字を、同じ物差しのように並べることはできないのです。
同じ材料でも「歯との接合部分」は別の性能
Sağunらが2026年に発表した別の材料実験では、36本の抜去大臼歯に72か所のⅤ級窩洞を形成し、Cention Forteを含む3種類の材料の内部・辺縁の適合状態をmicro-CTなどで評価しました[11]。
Cention Forte群の歯頸部の内部ギャップ体積は、人工老化前の平均1.255mm³に対し、老化後の群では1.584mm³で、群間差はp=0.027でした。ただし、別々の試料群の比較であり、同じ修復物の隙間がその量だけ広がったと直接測定したものではありません。
この研究では、外側の辺縁ギャップに同様の有意な老化関連変化は確認されませんでした。また、内部ギャップについてCention ForteとActiva BIOACTIVE Restorativeとの有意な群間差が確認されたわけでもありません。材料に応じて接着システムも異なるため、材料成分だけの独立した差とも断定できません。
同じCention Forteでも、112試料研究は外側の表面と色、72窩洞研究は歯との内部・辺縁適合性を調べたものです。測定している性能が違います。イオン放出性があるから歯との接合状態も優れる、色差が小さいから虫歯も減る、といった結論は導けません。
詳しくは歯科助手さんのコラム「“生体活性”の詰め物は隙間も少ない?10万回荷重で従来レジンの内部ギャップが小さかった」で紹介しています。
以前の104試料研究とは、どこが違う?
2026年11月2日の歯科衛生士さんの日誌では、4種類の永久クラウン材料・計104試料を使ったブラッシング摩耗研究を紹介しました[12]。色差の中央値は各材料で0.63~0.71、表面粗さRaは4材料すべてで有意に増加しました。
今回の112試料研究は、特定の直接修復材料について硬化方法と仕上げ研磨の組み合わせを調べ、コーヒー着色と温度変化も加えた研究です。104試料研究とは材料も、負荷条件も、粗さの測定方法も違います。さらに前者の色差は中央値、今回のコーヒー群は平均値です。
0.63と5.67を直接比較して、片方の材料が何倍も変色しやすいとは判断できません。以前の記事は「被せ物は歯磨きで傷む?104試料・約2年相当の実験」からご覧いただけます。
どちらの研究も、患者さんに歯磨きを減らすよう求めるものではありません。清掃によってプラークを取り除き、天然歯や歯肉の健康を守ることは引き続き重要です。
白い詰め物が茶色くなったら、虫歯の再発でしょうか?

表面にコーヒーなどの色素が付着した場合、材料内部で色調が変化した場合、歯と修復物の境界に着色した場合では、原因も対応も異なります。
修復物の境目に黒や茶色の線があっても、それだけで二次う蝕とは断定できません。しかし、実際に二次う蝕が起きている可能性を否定することもできません。着色、段差、歯質の状態、必要に応じた画像検査などを歯科医師が総合して判断します。
詳しくは「詰め物の周りが黒くなった…それって虫歯?」でも解説しています。
色が変わったら全部交換する?
表面の着色であれば、適切な清掃や再研磨によって改善する場合があります。部分的な欠けなら、状態によっては修理が可能なこともあります。一方、進行した二次う蝕や大きな破損、適合不良があれば、交換を検討することもあります。
修復物を取り除く際には、残っている健康な歯質へ影響する可能性があります。だからこそ着色だけで即交換と決めず、修復物と周囲の歯を確認することが大切です。ただし、必要な交換を避けることが最優先という意味でもありません。
再研磨の効果を調べた別研究
Fidanは2024年、4種類のバルクフィル系レジン・計240試料について、コーヒー着色後の再研磨を検討しました[13]。報告された平均ΔE00は、再研磨なし3.78、二段階再研磨1.49、一段階再研磨2.50でした。
この実験では再研磨で色差が小さくなる条件がありましたが、対象はCention Forteではありません。また、再研磨で表面の一部を除去することもあるため、すべての材料に繰り返し研磨を行えば良いわけではありません。
ホワイトニングと詰め物の色は別
天然歯を漂白するホワイトニングは、通常、既存のコンポジットレジンやセラミック修復物を天然歯と同じように白くするものではありません。天然歯が白くなると、かえって以前の詰め物との色の差が目立つこともあります。
一方、修復物の表面についた着色を清掃で取り除くことは、天然歯の漂白とは別の処置です。気になる場合は、何が原因で色が違って見えるのかを確認してから対応を考えましょう。
今回の研究で「分かったこと」と「まだ分からないこと」

分かったこと:硬化と研磨の組み合わせが関係していた
Cention Forteの人工老化後の色差と表面粗さは、研究で設定された硬化方法と研磨方法の組み合わせによって異なりました。コーヒー群の最小平均色差は高出力+ディスクの5.67、最大は自己重合+スパイラルの13.33でした。
また、ディスク研磨群では人工老化前後の表面粗さに有意な変化が検出されませんでした。しかし「絶対に変化しない」ことの証明ではありません。
限界① 特定製品の円盤試料に限られる
アルカサイトとして測定したのはCention Forte1製品です。直径8mm・厚さ2mmの平らな円盤であり、歯に接着して使った修復物ではありません。ほかの材料や複雑な窩洞の結果へ一般化できません。
限界② 人工的な約2年相当は臨床の2年間とは違う
コーヒー24日間の浸漬や温度変化20,000回、合計36分の模擬ブラッシングは、研究で設定した条件です。実際の食生活、唾液、咬合、清掃を完全に再現していません。
限界③ 研磨の工程数・時間が異なる
多段階のディスク研磨と1段階15秒のスパイラル研磨では、形以外の要因も異なっています。器具の形状そのものが色差を決めたと証明した研究ではありません。
限界④ 光強度と照射エネルギーが同時に変わる
高出力・低出力とも20秒照射したので、総照射エネルギーも異なりました。光の強さだけを独立して検証したものではありません。
限界⑤ AFMは各条件3試料
色差は112試料ですが、粗さは一部の試料です。各条件3試料という限界があり、測定領域も非常に小さな範囲です。統計上の感度分析が行われたことは強みですが、試料数の制約は残ります。
限界⑥ 変色の原因を直接特定していない
重合率、吸水量、色素の内部浸透量などを直接測定していません。表面が粗かったから色差が大きくなったという因果関係も、この実験だけでは証明できません。
限界⑦ 修復物の臨床寿命を測定していない
患者さんの二次う蝕、脱離、破折、交換時期や患者満足度は評価していません。ΔE00が大きいことを「何年で詰め直す必要がある」と読み替えることはできません。
限界⑧ 実験で良い条件を臨床の推奨条件にできない
高出力群の1,400mW/cm²・20秒や自己重合9分は、研究の試験片作製条件です。メーカーの使用説明書に記載される照射時間・設定時間とは一致しない部分があります。実際の治療では用途と国内の適応、最新の使用説明書に従う必要があります。
研究の長所もある
研究者らは事前に試料数を計算し、112試料に脱落なく色差評価を行いました。比較用レジンを置き、硬化・研磨・老化条件の組み合わせを検討しました。AFMによる三次元測定や、試料内の複数測定を考慮した感度分析も行っています[1]。
研究の限界を知ることは、研究に意味がないということではありません。何を調べた結果で、何までは分からないのかを区別することで、結果の価値をより正確に理解できます。
歯科衛生士さんからひとこと|仕上げたあとの管理も大切に
今回の研究を読んで改めて感じたのは、白い詰め物は「材料を選んで詰めれば終わり」というものではない、ということです。
同じ材料でも、硬化や仕上げの条件によって、実験室での表面性状や色の安定性が異なる可能性が示されました。一方で、実際の患者さんの口の中でどれほど違いが生じるか、今回の研究だけでは決められません。
私たち歯科衛生士が患者さんのお口を確認するときには、修復物の色や光沢だけでなく、表面のざらつき、歯と詰め物の境目、周囲のプラークや歯肉の状態、フロスが引っかかる場所などにも目を向けます。気になる所見があれば、必要に応じて歯科医師の診査へつなげます。
白い詰め物が変色したからといって、それまでの治療が失敗だったとは限りません。 反対に、白いままだからといって、周囲の天然歯に問題がないとも限りません。
材料の性質を理解し、適切に硬化・仕上げを行い、その後も清掃と状態確認を続けること。今回の112試料研究は、普段患者さんには見えにくい治療工程にも注目するきっかけを与えてくれました。
よくある質問(FAQ)
Q1.コーヒーを毎日飲むと、白い詰め物は必ず変色しますか?
必ず同じように変色するとは言えません。今回のコーヒーへの24日間浸漬は実験室で設定した強い着色条件です。実際の口腔内では、飲む頻度や接触時間、唾液、清掃なども関係します。今回の研究だけを理由に、すべての患者さんへコーヒーをやめるよう勧めるものではありません。
Q2.歯科医院でしっかり仕上げ研磨すれば、変色しなくなりますか?
今回の多段階ディスク研磨群では色差が小さい条件がありましたが、最も小さい平均色差でも5.67で、原著が参照した許容閾値1.8を超えていました。研磨で変色を完全に防げるという研究ではありません。
Q3.青い光を強く当てれば、詰め物は長持ちしますか?
今回の研究は臨床寿命を調べていません。光照射は材料ごとの適応、厚み、距離、波長、メーカーの指示などが重要で、強ければ必ず良いとは言えません。研究の1,400mW/cm²・20秒をそのまま治療の推奨条件にしてはいけません。
Q4.白い詰め物が茶色くなったら、全部交換する必要がありますか?
必ずしもそうではありません。表面の着色なら清掃や再研磨で改善できる場合があり、部分修理が選択肢になることもあります。一方、二次う蝕、破損、適合不良などがあれば別の治療が必要な場合もあります。まず状態を確認することが大切です。
Q5.フッ素を放出する詰め物なら、虫歯予防の歯磨きは不要ですか?
不要にはなりません。イオンを放出する材料であっても、今回の112試料研究は二次う蝕の予防効果を検証したものではありません。詰め物の周囲には天然歯が残っているため、適切なブラッシングや歯間清掃、患者さんの状態に合わせた予防管理が大切です。
まとめ|白い詰め物の色は、材料名だけでは決まらない
今回の『BMC Oral Health』の112試料研究では、特定のアルカサイト系修復材料について、硬化方法と仕上げ研磨の組み合わせが人工老化後の色差と表面粗さに関係していました。
コーヒー着色後の平均ΔE00は、高出力光重合+ディスク研磨で5.67、自己重合+スパイラル研磨で13.33でした。硬化と研磨の交互作用も統計学的に確認されています。
しかし、最小の5.67でも一般的な許容閾値を超えています。比較レジンとの間で有意差が検出されなかった条件があることも、同等性が証明されたという意味ではありません。
また、研磨時間・工程数は異なり、実験条件も患者さんの口腔内とは違います。今回の結果だけで、材料の寿命や臨床での最適な照射方法まで決めることはできません。
白い詰め物をきれいな状態で使っていくためには、材料の性質だけでなく、治療時の適切な操作と、その後の清掃・状態確認の両方が大切です。 修復物の色や表面の変化が気になったときは、自己判断で交換が必要と決めず、歯科医院で相談してくださいね。
参考文献
[1]Gözetici-Çil B, Misilli T, Ayan G. Color stability and surface roughness of the alkasite restorative material: an in vitro study. BMC Oral Health. 2026. https://doi.org/10.1186/s12903-026-10379-2
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[3]Ivoclar Vivadent AG. Cention Forte / Cention Primer. Instructions for Use. 2024-08-08, Rev.0. https://www.hufa.cz/documents/528223/cs/n%C3%A1vod%20-%20cention%20forte-cention%20primer_origin%C3%A1l.pdf
[4]宮吉美仁・春山亜貴子・村松敬.CR修復の際の適正な照射時間・照射方向について教えていただきたいです。照射時間が長いほど、重合度は高くなるのでしょうか。歯科学報. 2024;124(1):47-49. http://hdl.handle.net/10130/6473
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[11]Sağun AA, Çatak C, Ocak M, Oğlakçı Özkoç B, Eligüzeloğlu Dalkılıç E. Effect of aging on cavity adaptation of Class V cavities restored with bioactive restorative materials: a micro-CT and SEM analysis. BMC Oral Health. 2026. https://doi.org/10.1186/s12903-026-09642-3
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※この記事は、2026年10月31日公開の材料実験と関連する研究を患者さん向けに解説したものです。実験室の色差・粗さを、個々の患者さんの修復物の寿命や交換時期へ直接当てはめることはできません。治療や使用材料の選択は、歯科医師の診査と最新の適用条件・使用説明書に基づいて判断する必要があります。
