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乳歯はどうせ抜けるから大丈夫?――下の奥歯を早く失うと「永久歯のスペース」が平均1.24mm減る?

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2026年11月04日

乳歯はどうせ抜けるから大丈夫?――下の奥歯を早く失うと「永久歯のスペース」が平均1.24mm減る?

(受付さんの備忘録)

はじめに|「乳歯はどうせ抜けるから、早く抜いても大丈夫?」

「子どもの奥歯に大きな虫歯ができて、抜歯が必要になるかもしれないと言われたんです」

「でも、乳歯って、いずれ永久歯に生え替わりますよね?」

「それなら、少しくらい早く抜いてしまっても大丈夫なのでしょうか?」

お子さんの歯について、このような疑問を持たれる保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに、乳歯は一生使い続ける歯ではありません。

一般的には6歳前後から永久歯への生え替わりが始まり、12歳頃までに多くの乳歯がその役割を終えていきます。

それなら、虫歯になった乳歯を予定より早く抜いたとしても、後から永久歯が生えてくれば問題はないように思えるかもしれません。

しかし、乳歯には、今現在の食事や発音を支えること以外にも、大切な役割があります。

その一つが、後から生えてくる永久歯のために、歯列のスペースを保っておくことです。

乳歯の奥歯が予定より早くなくなると、隣にある歯が少しずつ動き、永久歯が生えてくるための場所が狭くなってしまうことがあります。

では、実際にどのくらい狭くなるのでしょうか。

2026年10月30日、歯科医学の国際学術誌『BMC Oral Health』に、この疑問を調べた新しい研究が発表されました。

研究対象となったのは、下顎第二乳臼歯、つまり下の乳歯の中で一番奥に位置する歯を予定より早く失った子どもたちです。

研究者らは、過去に発表された4研究を系統的レビューに採用し、そのうち3研究、合計38人のデータを統合して解析しました。

その結果、乳歯を失った場所のスペースは、抜歯後3か月時点で平均0.80mm、6か月時点で平均1.10mm、9〜10か月時点で平均1.24mm減少したと推定されました。

「1.24mmって、ずいぶん小さな数字ですね」

そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。

一方で、

「永久歯が生える場所が狭くなるなら、歯並びが悪くなってしまうのでは?」

「矯正治療が必要になるのでしょうか?」

「スペースを守るための装置を、すぐに入れた方がよいのでしょうか?」

そんな心配も浮かんでくると思います。

ところが、今回の研究には、少し意外な結論がありました。

研究者らは、乳歯を早く失った子ども全員に、スペースを維持するための装置を使用すべきだとは結論していないのです。

なぜでしょうか。

実は、歯が移動してスペースが狭くなることと、将来の歯並びが悪くなることは、必ずしも同じではありません。

歯の生え替わりには、もともと自然な歯の移動が伴います。

また、同じ1mm程度の変化でも、元の歯並びや永久歯の大きさによって、その意味は変わってきます。

今回は、乳歯の奥歯が持つ役割、2026年の新しい研究で分かったこと、そして保隙装置という治療の必要性について、受付さんの視点から詳しくご紹介します。

乳歯の奥歯は、永久歯が生える場所を守っている

乳歯は全部で20本。奥歯にも2種類ある

まず、今回の研究で対象となった歯が、どこにあるのかを確認してみましょう。

乳歯は、上下左右にそれぞれ5本ずつ、合計20本あります。

歯科医院では、乳歯を前から順番にA・B・C・D・Eというアルファベットで表すことがあります。

Aは乳中切歯、Bは乳側切歯、Cは乳犬歯、Dは第一乳臼歯、Eは第二乳臼歯です。

DとEが乳歯の奥歯に当たります。

今回の研究で中心となったのは、下顎のE、つまり下の乳歯列で一番奥にある第二乳臼歯です。

「奥歯」と聞くと、大人の大きな永久歯を思い浮かべるかもしれません。

しかし、乳歯の奥歯と永久歯の奥歯には、少し複雑な関係があります。

第二乳臼歯の後ろから、6歳臼歯が生えてくる

永久歯には、乳歯と交代して生えてくる歯と、乳歯とは交代せず、新しい場所に生えてくる歯があります。

その代表が、6歳臼歯と呼ばれる第一大臼歯です。

第一大臼歯は、第二乳臼歯のさらに後ろに生えてきます。

つまり、第二乳臼歯が抜けた場所に第一大臼歯が生えるわけではありません。

一方、第二乳臼歯が自然に抜けた後、その場所に生えてくる永久歯は第二小臼歯です。

少し整理してみましょう。

下の奥歯では、第二乳臼歯の後ろに第一大臼歯が生え、第二乳臼歯の下では、後継永久歯である第二小臼歯が発育しています。

第二乳臼歯は、第二小臼歯が生えてくるまで、その場所を占めています。

そして、後ろにある第一大臼歯との位置関係も保っています。

この第二乳臼歯が予定より早くなくなると、後ろにある第一大臼歯が手前へ移動し、第二小臼歯が生えてくるために利用できる場所が狭くなることがあるのです。

第二乳臼歯は何歳頃まで使う歯?

米国歯科医師会(ADA)の歯の発育資料では、下顎第二乳臼歯が自然に抜ける時期は、おおむね10〜12歳頃とされています。

その後継永久歯である第二小臼歯も、一般にこの前後の時期に生えてきます。

もちろん、これはあくまでも目安です。

歯の生え替わりには個人差があり、上下顎や歯の種類によっても時期は異なります。

年齢だけで正常・異常を判断できるわけではありません。

それでも、例えば6歳で下顎第二乳臼歯を失った場合、本来はまだ何年間も使うはずだった歯が、予定よりかなり早くなくなった可能性があります。

乳歯だから短い期間しか必要ない、というわけではないのです。

乳歯は、永久歯が生えてくるまでの間、噛むことや発音を助けるだけでなく、歯と歯の位置関係を保つ働きも担っています。

乳歯の生え替わりの時期については、以前のコラム「乳歯が生え変わるタイミングは?」でも紹介しています。

また、乳歯には歯列スペースの維持以外にも、さまざまな役割があります。

乳歯を健康な状態で維持する意味については、「乳歯を大切にする理由:子どもの未来を守るために」も参考にしていただければと思います。

2026年の新研究|乳歯を早く失うとスペースは何mm変わる?

BMC Oral Healthに発表された系統的レビュー・メタ解析

今回の中心となるのは、El-Motayamらによる2026年の研究です。

論文タイトルは、

Space changes after premature loss of mandibular second primary molars: a systematic review and meta-analysis

日本語にすると、「下顎第二乳臼歯の早期喪失後に起こるスペースの変化:系統的レビュー・メタ解析」という意味になります。

2026年10月30日に『BMC Oral Health』で公開されました。

研究者らが知りたかったのは、大きく分けて二つのことでした。

一つは、下顎第二乳臼歯を予定より早く失った場合、歯列のスペースがどのくらい変化するのか。

もう一つは、その変化を防ぐために保隙装置を使用する必要性について、現在の研究からどこまで判断できるのか、ということです。

メタ解析とは何をする研究?

今回の研究は、新しく38人の子どもを集めて抜歯を行った実験ではありません。

過去に発表された複数の研究を集め、一定の条件に合うデータを統合して解析しています。

このような研究方法を、系統的レビュー・メタ解析と呼びます。

研究者らは、PubMed、Web of Science、LILACS、EMBASE、Cochrane Libraryという5つの学術データベースを検索しました。

検索によって確認された記録は736件でした。

そこから重複した記録を除き、研究対象や方法、評価項目などを確認して、最終的に4研究を系統的レビューに採用しました。

そのうち、数値を統合できたのは3研究で、対象者数の合計は38人でした。

研究が一つだけの場合、その研究に特有の条件が結果に影響している可能性があります。

複数の研究をまとめることで、より広い視点から結果を検討できる点が、メタ解析の利点です。

ただし、メタ解析であれば必ず十分な科学的根拠が得られる、というわけではありません。

元になる研究の数が少なかったり、対象者数が少なかったりすれば、統合された結果にも不確実性が残ります。

今回の38人という人数は、研究結果を読むうえで注意すべき部分です。

どのような子どもが対象だった?

研究の採用基準では、主に4〜9歳の子どもで、第二乳臼歯の早期抜歯が必要となった症例などを対象としていました。

統合解析では、下顎第二乳臼歯を失った後のスペース変化が評価されました。

研究の中心的な結論は、第一大臼歯がすでに萌出している子どもに関するものです。

そのため、第一大臼歯が生える前に第二乳臼歯を失った場合や、上顎の第二乳臼歯を失った場合に、今回の数字をそのまま当てはめることはできません。

また、この研究の統合解析で主に評価されたのは、保隙装置による積極的な介入を行わなかった場合のスペース変化です。

保隙装置の長期的な有効性を直接証明することを目的としたメタ解析ではありません。

抜歯後3か月で0.80mm、9〜10か月で平均1.24mmのスペース減少

それでは、今回の研究で報告された主要な数値を、順番に見ていきましょう。

抜歯後3か月:平均0.80mmの減少

抜歯から3か月後の統合解析では、下顎第二乳臼歯があった場所のスペースが、平均0.80mm減少したと推定されました。

95%信頼区間は、減少量として0.60〜1.00mmでした。

95%信頼区間とは、統計モデルの仮定に基づき、推定値にどの程度の不確実性があるかを示す範囲です。

難しい統計用語ですが、ここでは、平均0.80mmという値にも一定の幅がある、と考えていただければよいと思います。

重要なのは、乳歯を失ってから3か月という比較的短い期間でも、スペースの変化が確認されたということです。

乳歯が抜けた場所は、必ずしも何も変わらずにそのまま残っているわけではありません。

抜歯後6か月:平均1.10mmの減少

6か月時点では、平均1.10mmのスペース減少が推定されました。

95%信頼区間は、減少量として0.96〜1.24mmでした。

3か月時点よりも大きな減少量が報告されています。

今回の研究は、乳歯の早期喪失後、最初の数か月間にスペースの減少が比較的大きく生じるという、過去の研究で報告されてきた傾向とも整合しています。

ただし、すべての子どもで同じ速度でスペースが狭くなるわけではありません。

抜歯後9〜10か月:平均1.24mmの減少

9〜10か月時点の統合推定値は、平均1.24mmでした。

論文本文では、95%信頼区間は減少量として1.02〜1.48mmと報告されています。

つまり今回の研究では、抜歯後1年弱の時点で、平均1mmを超えるスペース減少が推定されたことになります。

1.24mmという数字は、普段の生活では小さな長さに感じられるかもしれません。

しかし、永久歯を並べるスペースを評価する際には、数mmの差も意味を持つ場合があります。

特に、もともと歯が並ぶための場所に余裕が少ない子どもでは、このような変化に注意が必要になる可能性があります。

38人全員を10か月間追跡したわけではない

ここで、一つ注意しておきたいことがあります。

今回のメタ解析に含まれた38人全員が、同じ期間にわたって継続的に調べられたわけではありません。

3か月・6か月時点の解析と、9〜10か月時点の解析では、使用された研究の組み合わせが異なっています。

3か月・6か月時点ではMacenaらの研究とde Souzaらの研究が使われ、9〜10か月時点ではMacenaらの研究とKundraらの研究が使われています。

つまり、38人という人数は3研究全体の合計であり、38人全員を10か月間追跡したという意味ではありません。

また、9〜10か月時点の統合推定値は、Macenaらの研究の影響を強く受けています。

そのため、複数の研究から得られた数字ではありますが、独立した多数の研究で完全に一致した結果と考えることはできません。

歯列弓の片側の長さにも変化が見られた

今回の研究では、抜歯した場所のスペースだけでなく、歯列弓の片側に沿った長さも評価されました。

歯列弓とは、歯がアーチ状に並んでいる形のことです。

研究では、6か月時点において、歯列弓の片側周長にも平均1.06mmの減少が報告されています。

これは、抜歯部位の局所的な隙間だけでなく、歯列全体の位置関係にも変化が生じ得ることを示唆しています。

ただし、抜歯部位のスペースと歯列弓の片側周長は異なる測定項目です。

同じ1mm程度の変化でも、測定している場所や意味が違うことには注意が必要です。

では、そもそもなぜ、乳歯を失った場所のスペースは狭くなるのでしょうか。

なぜ抜けた乳歯の隙間は狭くなる?――6歳臼歯の近心移動

歯は、同じ場所に完全に固定されているわけではない

私たちは普段、歯が決まった場所に並んでいる状態を見ています。

そのため、一度生えてしまった歯は、ずっと同じ場所に固定されているように感じるかもしれません。

しかし実際には、歯は周囲の骨や歯根膜などと関係しながら、成長や噛み合わせの変化に伴って位置を変えることがあります。

乳歯が予定より早く抜けると、隣の歯との接触関係が変わります。

その結果、歯がなくなった方向へ隣の歯が傾斜したり、移動したりする場合があります。

今回の研究で特に重要なのは、下顎第二乳臼歯の後ろにある第一大臼歯の動きです。

第一大臼歯が手前に動く「近心移動」

歯科では、歯が歯列の中央に近い方向へ移動することを「近心移動」と呼びます。

下顎第二乳臼歯が早く抜けると、その後ろにある第一大臼歯が手前へ動き、第二乳臼歯があった場所のスペースが狭くなることがあります。

歯を失った場所へ、奥にある永久歯が寄ってくるイメージです。

このとき、第一大臼歯が歯全体として移動する場合もあれば、手前へ傾斜するような形で位置を変える場合もあります。

歯の動き方は、年齢、第一大臼歯の萌出状態、噛み合わせ、周囲の歯の状況などによって異なります。

1.24mm減ったのは、下顎の骨が縮んだからではない

今回の数字について、もう一つ区別しておきたいことがあります。

研究で報告された1.24mmの減少は、下顎の骨そのものが1.24mm小さくなったという意味ではありません。

主に、乳歯があった場所の前後的なスペースがどれだけ変化したかを示したものです。

顎の骨の大きさや成長と、歯が並ぶ位置関係の変化は、同じものではありません。

永久歯が生えてくるための場所を考える際には、どの歯が、どの方向へ、どの程度移動しているのかが重要になります。

第二乳臼歯と第二小臼歯の大きさは違う

ここで、もう一つ知っておきたいのが「E-space」という考え方です。

第二乳臼歯は、後から生えてくる第二小臼歯よりも、一般に前後方向の幅が大きい歯です。

そのため、第二乳臼歯が第二小臼歯へ生え替わると、歯の幅の差に相当するスペースが生まれます。

この差をE-spaceと呼びます。

また、乳犬歯・第一乳臼歯・第二乳臼歯と、それぞれの後継永久歯の大きさの差を合わせて考える場合には、leeway spaceという用語も使われます。

このようなスペースは、永久歯の噛み合わせを形成する過程で利用されます。

つまり、歯が手前へ移動すること自体が、必ずしも異常な現象というわけではないのです。

1.24mmの減少は、本当に悪いことなのか?

ここまで読むと、乳歯を失った後に第一大臼歯が手前へ動くことは、できるだけ防いだ方がよいように思えるかもしれません。

ところが、今回の研究では、その考え方についても慎重に検討されています。

永久歯への生え替わりには、自然な歯の移動がある

乳歯から永久歯への生え替わりが進むと、第一大臼歯が手前へ移動することがあります。

この現象は、late mesial shiftと呼ばれます。

乳歯と永久歯の大きさの差によって生じるスペースを利用し、第一大臼歯が正常な噛み合わせの位置関係へ近づいていく現象です。

つまり、永久歯の生え替わりに伴って、歯が少し手前へ動くことは自然な変化でもあります。

今回の研究者らは、早期喪失後に観察された1.24mmのスペース減少についても、こうした生理的な移動の初期段階を反映している可能性があると考察しています。

ただし、今回観察された歯の移動が、すべて正常で問題のない変化だったと証明されたわけではありません。

歯が動いたことと、歯並びが悪くなったことは違う

例えば、もともと永久歯が十分に並ぶだけのスペースがある子どもであれば、ある程度の歯の移動が起きても、最終的な歯並びに大きな問題が生じない可能性があります。

一方で、最初から歯が並ぶためのスペースが不足している子どもでは、同じ1mm程度の減少でも影響が大きくなるかもしれません。

同じ1.24mmという数字でも、その意味は子どもによって違います。

研究者らも、スペース減少の量だけではなく、もともとの歯列の状態、永久歯の大きさ、噛み合わせ、叢生の程度などを総合的に考える必要があると述べています。

スペースをできるだけ残せばよい、というわけでもない?

原著では、正常な生え替わりに必要な歯の移動を、不必要に妨げることにも理論上の問題があり得ると考察されています。

例えば、本来第一大臼歯が手前へ移動することで良好な噛み合わせが形成される場合、その移動を過度に制限することが適切とは限りません。

しかし、これは今回の38人の研究で保隙装置の有害性が直接確認されたという意味ではありません。

歯列発育の仕組みに基づいて、研究者らが検討した臨床的な可能性です。

したがって、「保隙装置を入れると歯並びが悪くなる」と結論することもできません。

重要なのは、スペースをできる限り残すことだけを治療目標にするのではなく、将来どのような永久歯列や噛み合わせを目指すのかという視点です。

同じ1.24mmでも、元の歯並びによって意味が変わる

もともと歯列に余裕がある場合

永久歯が並ぶためのスペースに十分な余裕がある場合には、多少の歯の移動が起きても、大きな問題にならない可能性があります。

正常な生え替わりに伴う自然な変化として経過することも考えられます。

ただし、実際に十分なスペースがあるかどうかは、見た目だけでは判断できない場合があります。

永久歯は乳歯よりも大きいことも多く、現在の乳歯列に余裕があるように見えても、永久歯が並ぶための条件が異なることがあるからです。

もともと少し歯が混み合っている場合

永久歯が並ぶスペースが少し足りない子どもでは、1mm程度の変化でも臨床的な意味を持つ可能性があります。

もともと余裕が少ない歯列で、さらにスペースが狭くなると、後継永久歯の位置関係に影響することが考えられます。

このような場合には、単純に装置を使うか使わないかだけでなく、どの程度のスペースが必要なのかを評価することが重要になります。

最初から強い叢生がある場合

もともと歯が大きく重なっていたり、永久歯を並べるスペースが大幅に不足していたりする場合には、早期喪失によるスペース減少だけが問題とは限りません。

歯列全体のスペース不足を考えた矯正学的な評価が必要になることがあります。

保隙装置を入れるだけで、すべての歯並びの問題が解決するわけではないのです。

ALDという考え方

歯科では、永久歯を並べるために必要なスペースと、実際の歯列に存在するスペースとの差を評価することがあります。

これをArch Length Discrepancy、略してALDと呼びます。

分かりやすく言えば、「歯を並べるための場所が足りているか、足りていないか」という評価です。

今回の論文では、このALDをもとに、スペース減少が子どもによって異なる意味を持つ可能性を考察しています。

ただし、今回の38人をALDの程度別に分類し、将来の歯並びを長期間追跡して比較したわけではありません。

ALDについての説明は、あくまでも臨床的な判断を考えるための補足です。

今回のメタ解析から、ALDの値だけで保隙装置の必要性を自動的に決めることはできません。

大切なのは、1.24mmという数字そのものよりも、その子の歯列にどのくらいの余裕があるかということです。

「1.24mm減ったから将来は矯正が必要」と言えるのか?

今回の研究が調べたのは、最大10か月程度の変化

今回のメタ解析では、下顎第二乳臼歯の早期喪失後、最大10か月程度までのスペース変化が評価されました。

しかし、永久歯列が完成するまで何年間も追跡した研究をまとめたものではありません。

そのため、今回の研究だけでは、スペースの減少がその後も続くのか、永久歯が生えるときにどの程度影響するのか、将来の不正咬合や矯正治療の必要性がどのくらい増えるのか、といった疑問に答えることはできません。

また、保隙装置を使用することによって、将来の矯正治療がどの程度減るのかについても、今回の研究では明らかになっていません。

メタ解析でも、38人ではまだ少ない

今回の系統的レビューには4研究が採用されましたが、統合解析に含まれたのは3研究38人でした。

しかも、9〜10か月時点の数値には2研究しか使用されていません。

このように研究数が少ない場合、新しい研究が一つ追加されただけでも、統合推定値が変わる可能性があります。

また、元研究によって測定方法や患者さんの条件が異なっており、もともとの歯並びや永久歯の発育状態なども十分にそろっていません。

そのため、統合された数値を、すべての子どもに当てはまる確実な平均値として扱うことはできません。

元の研究から、どの子どもを採用したかにも確認すべき点がある

今回の統合解析に使われたde Souzaらの研究について、もう少し詳しく見てみましょう。

de Souzaらの元の研究は、保隙装置を使用する群と使用しない群を比較したランダム化比較試験でした。

元研究では26人が参加し、そのうち装置を使用しない対照群は14人でした。

しかし、2026年のメタ解析では、この研究から10人を採用したと記載されています。

さらに、元研究には第一乳臼歯と第二乳臼歯の両方の症例が含まれています。

今回のレビューでは、下顎第二乳臼歯の早期喪失に関する結果を統合することが目的でしたが、元研究からどのような基準で10人を抽出したのか、論文本文だけでは詳細を十分に確認できません。

この点だけで研究結果が誤っていると断定することはできません。

しかし、38人という人数の内訳や、統合解析の対象を理解するうえでは、確認すべき点として残ります。

研究方法にも限界がある

原著では、今回の統合解析について、複数の方法論上の限界が説明されています。

例えば、同じ子どもの左右を比較した研究では、左右の測定値に相関があることが考えられます。

しかし、元研究では、その相関を統合解析で十分に調整するための情報が報告されていませんでした。

そのため、統合推定値の信頼区間が、実際よりも狭く見積もられている可能性があります。

また、研究者らが文献検索で見つけた古い研究のうち、9報は全文を入手できず、最終的な評価対象に含めることができませんでした。

入手できなかった研究に異なる結果が含まれていた可能性も、完全には否定できません。

研究者ら自身も、今回の結果を暫定的な根拠として慎重に解釈する必要があるとしています。

原著の信頼区間にも記載上の不一致がある

原著を詳しく確認すると、9〜10か月時点のスペース減少について、本文では95%信頼区間が−1.48〜−1.02mm、図3では−1.46〜−1.02mmと記載されています。

また、歯列弓の片側周長についても、6か月時点の平均減少量は1.06mmで一致していますが、本文では95%信頼区間が−1.26〜−0.31mm、図4では−1.36〜−0.76mmと記載されています。

この不一致について、論文本文では十分な説明がありません。

したがって、平均減少量の結果と、統計的な精度に関する情報は区別して慎重に解釈する必要があります。

これらの不一致が、平均1.24mmという主要な推定値そのものを直ちに否定するわけではありません。

しかし、細かな統計値まで確定的なものとして扱うのではなく、元研究の規模や解析方法を含めて慎重に評価する必要があります。

「統計的に有意」と「将来の歯並びへの影響」は違う

今回の研究では、スペース減少について統計的に有意な結果が報告されています。

ただし、統計的に有意な変化が認められたことと、その変化が将来の歯並びに重大な影響を与えることは、同じではありません。

今回、比較的確かに言えるのは、下顎第二乳臼歯の早期喪失後に、短期的なスペース減少が生じる傾向があるということです。

一方、1.24mmの減少によって将来必ず歯列不正が生じる、あるいは矯正治療が必要になると結論することはできません。

この違いを理解しておくことが、研究結果を正しく受け止めるためには大切です。

乳歯を抜く前に考えたいこと|保存できる乳歯と抜歯が必要な乳歯

乳歯の虫歯は、痛みがなくても進行する

乳歯は永久歯と比べてエナメル質や象牙質が薄く、虫歯が歯の内部へ進行しやすい特徴があります。

そのため、見た目には小さな虫歯でも、内部では深く進行している場合があります。

痛みが出ていなくても、虫歯が深く進んでいることがあります。

また、乳歯の歯根の周囲で感染が起きていても、必ずしも強い痛みが出るとは限りません。

そのため、「痛がっていないから大丈夫」と考えている間に、保存が難しい状態まで進行してしまう場合があります。

乳歯の虫歯を早い段階で発見し、必要な治療を受けることには、痛みや感染を防ぐこと以外にも意味があります。

乳歯が抜ける前から、スペースが狭くなることもある

2020年に『PeerJ』に掲載された研究では、乳臼歯の隣接面う蝕や欠損と、歯列スペースの関係が調べられました。

論文タイトルは、

Impact of proximal cavities and primary molar absence on space in the dental arches

研究者らは、6〜7歳の子ども235人の歯列模型を評価しました。

その結果、乳臼歯が欠損している場合に加え、歯と歯の間の虫歯によって隣接歯との接触関係が失われている場合にも、歯列スペースが小さくなっていることが確認されました。

一方、虫歯があっても、頬側や舌側などに隣の歯との接触が残っている場合には、同じようなスペース減少は確認されませんでした。

つまり、単に虫歯があるかどうかだけではなく、虫歯によって歯の形や隣接歯との接触関係がどの程度失われているかも重要だと考えられます。

ただし、この研究は横断研究であり、子どもたちの歯列を長期間追跡したものではありません。

虫歯による歯冠の崩壊が、すべてのスペース減少を直接引き起こしたと証明した研究ではない点にも注意が必要です。

虫歯を治すことには、歯の幅を守る意味もある

虫歯の治療というと、虫歯を取り除いて穴を詰めることを想像されるかもしれません。

しかし、乳歯の奥歯では、歯の形を適切に回復することも重要です。

特に、歯と歯が接している部分は、隣の歯との位置関係に関わります。

虫歯によって歯の形が大きく崩れている場合、適切な修復治療で歯冠形態を回復することが、歯列スペースの維持に役立つ可能性があります。

AAPDの診療指針でも、可能であれば虫歯の乳歯を修復し、適切な歯冠形態を回復することが、歯列発育の観点から重要な考慮事項とされています。

乳歯の虫歯治療は、単に現在の痛みをなくすことだけを目的としているわけではありません。

永久歯への生え替わりまで、歯の働きや位置関係をできるだけ維持することにも意味があるのです。

それでも抜歯が必要な乳歯もある

ここで誤解していただきたくないのは、乳歯を抜かずに残すことが常に正しいわけではないということです。

重度の虫歯で歯の形が大きく失われている場合、感染を十分に制御できない場合、歯根の吸収が進んでいる場合、外傷などで保存が難しい場合には、抜歯が必要と判断されることがあります。

永久歯の発育状態や、乳歯の保存可能性も重要です。

無理に感染した乳歯を残すことで、かえって周囲の組織や後継永久歯に問題が生じる可能性もあります。

そのため、乳歯を保存できるかどうかと、抜歯後にスペース管理が必要になるかどうかは、分けて判断する必要があります。

乳歯の根の感染や保存・抜歯の判断については、以前のコラム「乳歯の根の感染は抗生物質だけで治る?「どうせ生え変わる」で決めない治療判断と後継永久歯への影響」でも詳しく紹介しています。

後継永久歯が存在しない場合もある

もう一つ、乳歯の生え替わりについて知っておきたいことがあります。

永久歯は、必ずすべてそろって形成されるとは限りません。

生まれつき特定の永久歯が形成されない「先天欠如」があります。

第三大臼歯を除く永久歯の中では、下顎第二小臼歯は先天欠如が比較的多い歯種の一つです。

後継永久歯が存在しない場合には、乳歯を長期間保存する方針が検討されることもあります。

一方で、歯列や噛み合わせの状況によっては、抜歯後にスペースを閉じることや、将来の補綴治療を考慮した管理が必要になる場合もあります。

永久歯が存在するかどうかによって、乳歯の扱い方が変わることがあるのです。

そのため、乳歯がなかなか抜けない場合も、予定より早く抜けた場合も、必要に応じてエックス線検査などで後継永久歯の状態を確認することが大切です。

同じ第二乳臼歯でも、6歳臼歯が生える前と後では事情が違う

第一大臼歯が生える前に第二乳臼歯を失った場合

今回の2026年のメタ解析は、主として第一大臼歯が萌出した後の下顎第二乳臼歯の早期喪失を扱っています。

しかし、第二乳臼歯は、第一大臼歯がまだ生えていない時期にも重要な役割を持っています。

第一大臼歯は、第二乳臼歯の後ろから生えてきます。

その際、第二乳臼歯は、第一大臼歯が適切な位置へ萌出するための目印にもなっています。

もし第一大臼歯が生える前に第二乳臼歯がなくなってしまうと、第一大臼歯が予定とは異なる方向や位置へ萌出する場合があります。

このような場合には、第一大臼歯がすでに生えている子どもとは異なる対応が必要になることがあります。

ディスタルシューという特殊な保隙装置

第一大臼歯がまだ萌出していない段階で第二乳臼歯を早期に失った場合、ディスタルシューと呼ばれる装置が検討されることがあります。

ディスタルシューは、後から生えてくる第一大臼歯の萌出方向を誘導するために使用される特殊な装置です。

一般的なバンドループなどとは異なり、装置の一部が歯肉の下に延びる構造を持っています。

そのため、装置の適応、設計、装着後の管理には、特に注意が必要です。

すべてのお子さんに使用できる装置というわけではありません。

2025年のレビューでは67人中64人が萌出成功

2025年には、このディスタルシューについての系統的レビューが『Children』に掲載されました。

研究タイトルは、

Effectiveness of Distal Shoe Space Maintainers for First Permanent Molar Eruption: A Systematic Review

研究者らは6研究、合計67人の症例を検討しました。

報告された第一大臼歯の萌出成功は64人で、全体の95.5%でした。

一方、軽度の合併症は25.4%で報告されました。

この結果は、適切に選択された症例でディスタルシューが役立つ可能性を示すものです。

ただし、研究数が少なく、研究方法にも違いがあります。

装置を使用しなかった場合と比較して、どの程度成功率が改善したのかを、この95.5%という数字だけで判断することはできません。

また、今回の1.24mmのメタ解析とは、対象となる歯の発育段階が異なります。

両方の研究を、同じ条件の結果として比較することはできません。

乳歯を失った時期によって、必要な対応や装置の選択肢が変わる場合がある。

これも、乳歯の早期喪失を考えるうえで重要な点です。

保隙装置は、乳歯を早く失った子ども全員に必要なのか?

ここまでの内容から、乳歯を予定より早く失った場合には、スペースを守るための装置を入れた方がよいのではないか、と考えられるかもしれません。

では、すべての子どもに保隙装置を入れるべきなのでしょうか。

今回の2026年のメタ解析では、現在得られている研究の根拠だけでは、一律の保隙装置使用を支持するには不十分と結論しています。

これは、とても重要な結論です。

保隙装置が必要ないと証明されたわけではない

「すべての子どもに保隙装置を使う根拠が十分ではない」ということは、「保隙装置は不要である」と証明されたことではありません。

研究者らが述べているのは、保隙装置の必要性は、子ども一人ひとりの歯列の状態によって判断する必要があるということです。

どのような条件を確認するのか

AAPDの診療指針では、乳歯の早期喪失後に保隙装置を検討する際、複数の条件を考慮するとされています。

例えば、どの乳歯を失ったのか、抜歯からどのくらい時間が経過しているのか、後継永久歯がどの程度発育しているのか、第一大臼歯が生えているのか、元の歯並びにどれくらい余裕があるのか、といったことです。

さらに、現在の噛み合わせ、隣の歯の位置、口腔衛生状態、装置を管理できるかどうか、全身的な健康状態なども判断材料になります。

例えば、同じ下顎第二乳臼歯を失った場合でも、すでに第二小臼歯が萌出しそうな子どもと、まだ数年間かかる子どもでは、状況が異なります。

元から歯列のスペースに余裕がある子どもと、永久歯が並ぶ場所が不足している子どもでも事情は違います。

経過観察が適切な場合もある

歯列に十分な余裕があり、後継永久歯の発育も進んでいる場合などには、装置を使用せずに経過を観察することが適切と判断される可能性があります。

ただし、経過観察は何もしないことではありません。

現在の歯列を評価し、その後の歯の移動や永久歯の萌出状況を確認するという意味があります。

保隙装置を検討する場合もある

元からスペースが不足している場合や、隣の歯が大きく傾斜する可能性がある場合、後継永久歯の萌出まで長い期間が残っている場合などには、保隙装置を検討する理由があります。

ただし、今回のメタ解析から「何mm減ったら必ず保隙装置を入れる」という一律の基準を設定することはできません。

保隙装置を使用するかどうかは、歯科医師が診察や必要な検査を行い、将来の歯列発育も踏まえて判断するものです。

保隙と空隙回復は違う

保隙装置について、もう一つ知っておきたいことがあります。

保隙とは、現在存在しているスペースが、それ以上減少しないように維持することです。

一方、すでに狭くなってしまったスペースを回復する処置は、空隙回復と呼ばれます。

例えば、乳歯を抜いてから時間が経過し、第一大臼歯が大きく手前へ移動している場合には、単に保隙装置を入れるだけでは十分でない可能性があります。

そのような場合には、現在の歯の位置を確認し、空隙回復などの処置が必要かどうかを検討します。

乳歯を抜いてしまった後でも、歯科医院で相談する意味があるのは、このためでもあります。

保隙装置にはどんな種類がある?装着後は何に気をつける?

バンドループ・クラウンループ

バンドループやクラウンループは、乳歯を1本早期に失った場合などに使用される固定式保隙装置です。

残っている歯にバンドやクラウンを装着し、そこからループ状の構造を延ばして、欠損した部分のスペースを維持します。

患者さん自身が日常的に取り外す装置ではありません。

そのため、本人が装置を外したままにしてしまう心配はありませんが、装置の脱離や破折、周囲の虫歯などに注意が必要です。

リンガルアーチ

リンガルアーチは、主に下顎の歯列の内側に沿ってワイヤーを配置する装置です。

左右の大臼歯などを利用して、歯列のスペースを維持する目的で使用される場合があります。

ただし、乳歯を1本早く失った場合に必ず使用する装置というわけではありません。

歯列の発育段階や噛み合わせによって、適応は異なります。

可撤式保隙装置・小児義歯

取り外しができる装置を使用する場合もあります。

複数の乳歯が失われている場合などに、小児義歯のような形態の装置を使用することがあります。

可撤式の場合には、装着時間や清掃方法、保管方法など、家庭での管理が重要になります。

また、小さなお子さんの場合には、装置をきちんと使用できるか、保護者が管理を手伝えるかといった点も考慮する必要があります。

保隙装置にも問題が起こることがある

保隙装置は、歯列スペースを守るために役立つ場合があります。

しかし、装置を入れること自体にも注意点があります。

例えば、装置が外れる、壊れる、周囲にプラークが付着する、虫歯や歯肉の炎症が起こる、後継永久歯の萌出に干渉する、といった問題です。

AAPDも、保隙装置の使用に伴うこうした不利益を挙げています。

装置を使用する場合には、スペースを維持できるという利点と、装置を管理する負担やリスクの両方を考える必要があります。

装置は一度入れれば終わりではない

子どもの口の中は、成長とともに変化していきます。

永久歯が生えてくると、歯の位置関係が変わります。

そのため、保隙装置は装着後も定期的な確認が必要です。

場合によっては、装置を調整したり、修理したり、別の装置に変更したりすることもあります。

また、後継永久歯が適切な位置に萌出した後には、装置を撤去することも検討します。

装置が外れたり壊れたりしたら?

保隙装置が外れたり、ワイヤーが曲がったり、痛みが出たりした場合には、無理に自分で戻したり調整したりせず、歯科医院に相談してください。

壊れた装置を使い続けると、歯肉や周囲の歯を傷つける可能性があります。

特に装置が大きく動く場合や、飲み込んでしまいそうな状態では注意が必要です。

保隙装置の管理も、永久歯が生えてくるまでの大切な診療の一部なのです。

保隙装置を使った場合と使わなかった場合、研究結果はどう違う?

2025年のランダム化比較試験

今回のメタ解析に関連する重要な研究として、de Souzaらによるランダム化比較試験があります。

この研究は、『International Journal of Paediatric Dentistry』の2025年掲載論文です。

6〜9歳の子ども26人を対象に、下顎乳臼歯の早期喪失後、保隙装置を使用しない群14人と、使用する群12人を比較しました。

3か月時点では、装置を使用しない群のスペース減少が平均0.9mm、装置を使用する群では平均0.4mmでした。

つまり、3か月時点では、装置を使用しない群でより大きなスペース減少が見られたのです。

この差は統計的に有意でした。

しかし、6か月時点では、両群間に統計的に有意な差は認められませんでした。

ここで注意したいのは、6か月時点に有意差がなかったからといって、両群の治療結果が完全に同じだった、あるいは保隙装置に効果がないと証明されたわけではないことです。

研究対象者は26人と少なく、検出できる差にも限界があります。

また、この研究には第一乳臼歯と第二乳臼歯の症例が含まれているため、結果を第二乳臼歯だけに当てはめることはできません。

さらに、装置を使用しない群では、第一大臼歯の噛み合わせが十分に成立していない場合に、より大きなスペース減少が認められました。

この点も、保隙装置の必要性を一律に決めることが難しい理由の一つです。

2023年の系統的レビューでも、根拠の不足が指摘されていた

2023年には、TabatabaiとKjellbergによる系統的レビューが『European Journal of Orthodontics』に掲載されています。

この研究では、第二乳臼歯の早期抜歯後に使用する保隙装置の効果を検討しました。

検索された研究のうち、採用基準を満たしたのは2研究でした。

その結果、保隙装置が歯列のスペースを維持する可能性は示されましたが、プラークの蓄積や歯周組織への影響も報告されました。

また、費用対効果、虫歯の発生リスク、患者満足度などについて、採用基準を満たす十分な研究は得られませんでした。

研究者らは、保隙装置の効果や不利益を判断するための科学的根拠が不足していると結論しています。

第一乳臼歯の早期喪失では、別の結果も報告されている

2026年3月には、今回と同じEl-Motayamらの研究グループが、第一乳臼歯の早期喪失を扱った別のメタ解析を発表しています。

こちらでは7研究が採用され、下顎第一乳臼歯の早期喪失後、8〜9か月時点で平均1.78mmのスペース減少が推定されました。

今回の第二乳臼歯の1.24mmと比較すると、第一乳臼歯の方が大きな数字になっています。

ただし、これらは異なる研究集団と解析方法から得られた推定値です。

第一乳臼歯と第二乳臼歯を、同じ条件で直接比較した研究ではありません。

また、第一乳臼歯のレビューでは、下顎の早期喪失後に保隙装置を使用することについて、今回の第二乳臼歯のレビューよりも積極的な見解が示されています。

この違いも、乳歯の種類や対象となる研究の違いを考慮して解釈する必要があります。

同じ乳歯の奥歯でも、歯の種類や位置によって役割が異なり、臨床的な判断も変わる可能性があるのです。

保隙装置でスペースを守ることと、矯正治療を防ぐことは違う

ここまでの研究から、保隙装置が一定の条件でスペース維持に役立つ可能性は考えられます。

しかし、保隙装置によって数mmのスペースが維持されたことと、将来の矯正治療が不要になることは同じではありません。

最終的な歯並びには、永久歯の大きさ、顎の成長、もともとの叢生、噛み合わせ、萌出の順序など、多くの条件が関係します。

保隙装置は、必要に応じて検討する治療の選択肢ですが、将来の歯並びを必ず保証するものではないのです。

日本の小児歯科では、乳歯を早く失った子どもをどう管理している?

今回の中心研究は海外の論文ですが、日本でも、乳歯を早期に失った子どもの歯列を長期間管理した症例が報告されています。

ここでは、日本の小児歯科の報告から、実際にどのような管理が行われているのかをご紹介します。

ただし、これから取り上げるのは主に症例報告です。

特定の子どもの経過を詳しく記録したものであり、保隙装置の効果を集団で比較した研究とは異なります。

8年間の長期管理を行った日本の症例

2013年の『小児歯科学雑誌』には、稲田絵美らによる「幼児期に多数歯齲蝕を有した患児に対し包括的な長期管理を行った1例」が掲載されています。

この報告では、初診時5歳10か月の男児に、多数の乳歯の重度虫歯が認められました。

治療の結果、下顎では乳歯3本を抜歯する必要がありました。

その後、歯列スペースを維持する目的で、可撤式保隙装置が使用されました。

さらに、永久歯への生え替わりに合わせて装置を変更し、第二小臼歯の萌出後に撤去しています。

報告では、約8年間にわたる包括的な長期管理によって、永久歯列完成まで良好な状態が維持されたとされています。

ここで特に重要なのは、保隙装置だけを使用していたわけではないことです。

虫歯治療、口腔衛生指導、食生活への対応、フッ化物を用いた予防管理、永久歯へのシーラント、定期的な虫歯リスク評価などが組み合わされていました。

この報告は、保隙装置だけで将来の歯並びが守られたことを証明するものではありません。

むしろ、乳歯を失った後の管理には、永久歯が生えてくるまでを見通した継続的な診療が必要になる場合があることを示しています。

乳歯の虫歯には、子どもの生活背景も関係する

この2013年の症例報告では、子どもの生活環境についても詳しく調べています。

家庭の生活時間、食事や間食の習慣、保護者の就労状況などが、口腔衛生状態や虫歯リスクに関係していました。

研究者らは、こうした生活背景も考慮しながら長期管理を行っています。

小さなお子さんの歯を守ることは、単に「きちんと歯磨きをしましょう」と伝えるだけでは十分ではない場合があります。

家庭によって生活のリズムや事情は違います。

保護者の方が乳歯の虫歯に気づいていても、受診のタイミングが難しいこともあるでしょう。

だからこそ、歯科医院では、それぞれのご家庭に合った予防や受診の方法を一緒に考えていくことも大切です。

W型ループを使った日本の症例

第62回日本小児歯科学会大会では、齊藤一誠らが、第二乳臼歯の早期喪失に対してW型ループという装置を使用した症例を報告しています。

初診時4歳10か月の男児で、重度の虫歯により第二乳臼歯の保存が難しい状態でした。

研究者らは、第一大臼歯の近心移動を防ぎ、永久歯の萌出スペースを確保する目的で、W型ループを装着しました。

その後、成長に合わせて管理が続けられましたが、8歳7か月時にはワイヤーの破折が認められ、装置の変更が行われています。

この症例からも、保隙装置は装着して終わりではなく、長期的な確認や調整が必要になることが分かります。

ただし、これは1症例の学会報告であり、W型ループが他の装置より優れていると証明した研究ではありません。

低位乳歯で約9年間の管理が必要になった症例

東京歯科大学の辻野啓一郎・新谷誠康による資料では、低位乳歯に関する症例も紹介されています。

低位乳歯とは、周囲の歯に比べて相対的に低い位置にある乳歯です。

歯根が骨と癒着することなどによって生じる場合があります。

報告された5歳の女児では、下顎第二乳臼歯が低位となり、第一大臼歯の萌出方向などに問題が生じました。

その後、床型咬合誘導装置やリンガルアーチを使用し、第二小臼歯が萌出するまで管理されました。

処置終了まで約9年間を要したと報告されています。

これは通常の乳歯早期喪失とは異なる病態です。

すべての子どもに長期間の治療が必要になるという意味ではありません。

しかし、乳歯の異常が永久歯の萌出に影響する場合には、成長に合わせた長期管理が必要になることを示す例です。

口腔内スキャナーを利用した保隙装置の製作例も

第61回日本小児歯科学会大会では、栁井有希子らが、口腔内スキャナーを使って小児保隙装置を製作した2症例を報告しています。

従来の印象採得で嘔吐反射などの問題があった子どもに、光学印象を応用したものです。

近年は、こうしたデジタル技術が小児歯科の一部の治療にも応用されています。

ただし、すべての保隙装置を口腔内スキャナーで製作できるわけではありません。

使用する装置や歯列の状態によって、適切な方法は異なります。

保隙装置は保険診療で使える?2026年度の制度を確認

乳歯の早期喪失後に保隙装置を検討するとき、保護者の方にとって気になることの一つが費用ではないでしょうか。

「保隙装置は矯正治療になるのでしょうか?」

「健康保険は使えるのでしょうか?」

「子どもの医療費助成の対象になりますか?」

こうした疑問もあるかと思います。

保隙装置には保険診療の対象になるものがある

2026年度の診療報酬改定では、小児保隙装置の評価が見直されました。

M016-2「小児保隙装置」には、固定式保隙装置850点、可撤式保隙装置1,200点が設定されています。

固定式では、クラウンループやバンドループなど、所定の条件を満たす装置が対象となります。

可撤式についても、早期喪失した歯の本数や位置、使用する装置の形態などに条件が定められています。

例えば、両側の乳臼歯を早期喪失した場合、片側で2本以上の乳臼歯を失った場合、一定条件を満たす片側1本の乳臼歯欠損などが対象として挙げられています。

さらに、乳前歯の早期喪失や、将来の補綴処置に備えて保隙が必要な永久歯の早期喪失などについても、所定の条件が設けられています。

ただし、医学的に使用されるすべての保隙装置が、同じ条件で保険適用になるわけではありません。

また、保険算定には歯列の発育段階などの要件もあるため、装置の名前だけで保険適用を判断することはできません。

装置の点数と窓口での支払額は同じではない

診療報酬の点数は、保険診療で定められた評価です。

装置そのものの点数だけで、診療全体の費用が決まるわけではありません。

診察や検査、必要な処置などの内容によって費用は変わります。

また、子ども医療費助成制度が利用できる場合には、対象年齢や自治体の制度によって実際の自己負担が異なります。

そのため、受付で金額について相談された場合にも、装置の種類や治療内容が決まる前に最終的な費用を確約することはできません。

保隙装置の調整や修理にも保険上の評価がある

2026年度の診療報酬改定では、小児保隙装置の調整や修理についての評価も新設されました。

所定の条件に該当する場合、歯科口腔リハビリテーション料1の「小児保隙装置の場合」として180点が設定されています。

これは、小児保隙装置を装着している患者さんに対し、正常な噛み合わせの獲得を目的として、装置の調整または修理を行った場合の評価です。

算定は月1回までとされ、調整や修理の内容について診療録への記載も求められています。

したがって、装置を装着しているだけで毎月自動的に算定されるものではありません。

このように、保隙装置は装着時だけでなく、その後の管理も制度上考慮されています。

ただし、実際に保険診療の対象になるかどうかは、お子さんの歯列の状態や治療内容によって判断する必要があります。

乳歯が予定より早く抜けたとき、受付で何を伝えればよい?

ここまで、乳歯の早期喪失によるスペースの変化や、保隙装置についてお話ししてきました。

では、実際にお子さんの乳歯が予定より早く抜けた場合、保護者の方はどうすればよいのでしょうか。

受付としてお伝えしたいのは、まず現在の状態を歯科医院で確認していただきたいということです。

何歳で、どの歯が抜けたのか

例えば、「6歳の子どもの下の奥歯が抜けた」という情報は、受診時に大切な手がかりになります。

上の歯なのか下の歯なのか。

右側なのか左側なのか。

前歯なのか奥歯なのか。

いつ頃抜けたのか。

もちろん、乳歯の名前や番号が分からなくても問題ありません。

「下の一番奥の乳歯です」「半年前に抜歯しました」という説明だけでも、状況を確認する手がかりになります。

なぜ抜けたのか

正常な生え替わりによって抜けたのか、虫歯や感染で抜歯したのか、外傷で失われたのかによって、必要な対応は変わります。

外傷の場合には、いつ、どのような状況で歯が抜けたのかも重要です。

特に乳歯の外傷と永久歯の外傷では、対応が異なる場合があります。

乳歯の完全脱臼では、後継永久歯への影響を考慮し、通常は再植を行いません。

一方、永久歯の完全脱臼では迅速な対応が重要になります。

抜けた歯が乳歯か永久歯か分からない場合も含め、外傷で歯が抜けた場合には速やかに歯科医院へ連絡してください。

抜歯してから数か月経過していても相談できる?

「抜歯したのは半年前だから、もう遅いのではないでしょうか」

そのように思われる方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、今回の研究では、抜歯後の比較的早い時期からスペース減少が認められました。

しかし、すでに時間が経過しているからといって、今の歯列を確認する意味がなくなるわけではありません。

現在の歯の位置、後継永久歯の発育、スペースの状態などを評価することが大切です。

必要に応じて、経過観察や保隙、空隙回復などを検討することがあります。

ただし、失われたスペースが必ず元に戻せるわけではありません。

学校歯科健診で指摘された場合

学校歯科健診で乳歯や歯並びについて指摘された場合には、結果票を持参していただくと確認がスムーズです。

結果票に書かれた記号の意味が分からなくても問題ありません。

学校歯科健診の結果については、「学校歯科健診で「要受診」の紙をもらったら?歯医者の予約時に伝えること・結果票の持参・CO/GOの見方」でも説明しています。

保護者の同伴や同意について

お子さんの診察や治療では、年齢や治療内容によって、保護者の同伴や同意が必要になる場合があります。

抜歯や保隙装置の製作などを検討する際には、歯科医師から治療内容や必要性について説明を受けることが大切です。

受付で治療方法を決めることはできませんが、相談内容を確認し、必要な診察へつなげることはできます。

また、歯の痛みや歯肉の腫れがある場合には、乳歯の早期喪失についての相談だけでなく、現在の症状も予約時にお知らせください。

よくある質問|乳歯の早期喪失と保隙装置

Q1.乳歯が早く抜けたら、必ず歯医者で診てもらう必要がありますか?

乳歯が抜けた時期や歯の種類によって判断が異なります。

正常な生え替わりであれば問題ない場合もありますが、第二乳臼歯などが予定よりかなり早い時期に抜けた場合には、歯科医院で確認することをお勧めします。

特に後継永久歯がまだ生える段階にない場合には、歯列スペースの評価が重要になることがあります。

Q2.1.24mmのスペース減少で、将来必ず矯正が必要になりますか?

必ず矯正治療が必要になるわけではありません。

今回の研究で確認されたのは、短期的なスペース減少です。

将来の不正咬合や矯正治療の必要性については、十分に明らかになっていません。

元の歯並びや永久歯の状態によっても意味が異なります。

Q3.乳歯を抜いたら、必ず保隙装置を入れるのでしょうか?

必ず使用するわけではありません。

抜けた歯の種類、抜けた時期、永久歯の発育状態、歯列の余裕、噛み合わせなどを考慮して判断します。

今回のメタ解析でも、すべての子どもに一律に保隙装置を使用することを支持できるほど、科学的な根拠は十分ではないとされています。

ただし、保隙装置が必要ないと証明されたわけではありません。

Q4.乳歯を抜いたのは数か月前ですが、今からでも相談できますか?

相談できます。

すでにスペースが変化している可能性はありますが、現在の歯列や永久歯の状態を確認することは大切です。

必要な対応は個別に異なりますので、抜歯した時期や歯の場所を伝えてご相談ください。

Q5.保隙装置は一度入れたら、永久歯が生えるまでそのままでよいですか?

保隙装置の装着後も、定期的な確認が必要です。

装置の破損や脱離、周囲の清掃状態、永久歯の萌出などを確認します。

成長や歯列の変化に伴って、装置の調整、修理、変更、撤去が必要になる場合があります。

まとめ|乳歯を守ることは、永久歯が生える場所と時間を守ること

「乳歯はどうせ抜けるから、早く抜いても大丈夫?」

今回の研究を通して、この疑問について改めて考えてみました。

2026年10月30日に発表された系統的レビュー・メタ解析では、下顎第二乳臼歯を予定より早く失った後、3か月時点で平均0.80mm、6か月時点で平均1.10mm、9〜10か月時点で平均1.24mmのスペース減少が推定されました。

乳歯の奥歯には、永久歯が生えてくるまでの場所を維持する役割があります。

予定より早く失われることで、そのスペースが変化する可能性があることは知っておきたいところです。

しかし、今回の研究は、スペースが1.24mm減少した子どもが、将来必ず歯並びの問題を抱えると証明したものではありません。

また、保隙装置を全員に使用すればよいという結論でもありませんでした。

歯列スペースには、自然な生え替わりの過程で利用される部分もあります。

そして、元の歯並びや永久歯の発育状態によって、スペース減少の意味は変わります。

そのため、乳歯を早く失ったときには、単純に「抜けたから大丈夫」「抜けたから装置が必要」と判断するのではなく、お子さんの歯列全体を確認することが重要です。

また、乳歯をできるだけ健康な状態で維持するためには、虫歯の予防や早期発見、必要な治療を受けることも大切です。

乳歯は永久歯に生え替わります。

でも、いつ抜けてもよい歯ではありません。

永久歯が生えてくるまでの間、乳歯は大切な役割を担っています。

お子さんの乳歯が予定より早く抜けた場合や、抜歯が必要かもしれないと説明された場合には、どうぞ歯科医院でご相談ください。

今ある乳歯の状態だけでなく、これから生えてくる永久歯のための場所や、生え替わりの時間についても考えるきっかけにしていただければと思います。

参考文献・資料

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8.Marqués-Martínez L, Esteve-Ferre C, Galán-López L, Aura-Tormos JI, Guinot-Barona C, García-Miralles E. Effectiveness of Distal Shoe Space Maintainers for First Permanent Molar Eruption: A Systematic Review. Children. 2025;12(12):1642. https://doi.org/10.3390/children12121642

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13.厚生労働省保険局医療課.令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】.2026年3月5日版.小児の咬合機能獲得に向けた対応の充実(45ページ).厚生労働省公式資料

※本記事は、公開された研究、学会発表、診療指針、診療報酬資料に基づき、乳歯の早期喪失と歯列スペースについて一般的な情報を紹介するものです。個々のお子さんの診断や治療方針を決定するものではありません。乳歯の保存・抜歯、保隙装置の使用、矯正治療の必要性などは、実際の診察や必要な検査に基づいて判断します。

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