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歯の神経は本当に再生できる?――11研究レビューとヒト臨床試験で見えた「修復」と「再生」の境界

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2026年11月04日

歯の神経は本当に再生できる?――11研究レビューとヒト臨床試験で見えた「修復」と「再生」の境界

(院長の徒然コラム)

「一度取ってしまった歯の神経は、もう二度と戻らないのでしょうか」

深いむし歯の治療で、歯科医師から「神経を取る必要があるかもしれません」と説明された経験がある方なら、一度は疑問に思ったことがあるかもしれません。

最近では、医療のさまざまな分野で再生医療という言葉を耳にするようになりました。

幹細胞を使って傷んだ組織を修復する研究、失われた組織の再形成を促す研究、人工的な材料を使って細胞が成長する環境を作る研究など、かつては想像しにくかった技術が次々と報告されています。

それなら、歯の神経も再生できるのではないか。

そう考えるのは自然なことだと思います。

実際、歯科医学の分野でも、失われた歯髄組織を再生させる研究が進められています。

ただし、最初に明確にしておきたいことがあります。

歯科診療で一般的に使われる「歯の神経」という言葉は、正確には「歯髄」という組織を指しています。

歯髄は神経線維だけで構成されているわけではありません。

血管、免疫細胞、結合組織、象牙質を形成する細胞、幹細胞・前駆細胞などが存在し、複数の機能を持つ生体組織です。

したがって、歯髄の再生を考える場合、単に神経線維を伸ばせばよいという話にはなりません。

血流が回復し、神経が機能し、象牙質を形成する細胞が適切に配置され、感染に対する防御機能も維持されなければ、正常な歯髄に近い組織が再生したとは言い切れないのです。

一方、現在の歯科医療では、MTAやBiodentineなどの材料を使って、残存する歯髄を保護し、修復を促す生活歯髄療法(Vital Pulp Therapy:VPT)が行われています。

この治療は、歯髄を最初から作り直すものではありません。

あくまで生き残っている組織の能力を利用して、歯髄を保存することを目指しています。

2026年10月31日、英国の学術誌『BDJ Open』に、こうしたケイ酸カルシウム系材料と、組織再生を目的とする新しい足場材料(スキャフォールド)を検討した系統的レビューが掲載されました。〔1〕

研究者らが採用したのは11研究です。

原著によると、6件はケイ酸カルシウム系材料を使用したヒト臨床研究、5件は新しいスキャフォールドを利用した動物実験でした。

研究者らは、現在の生活歯髄療法ではケイ酸カルシウム系材料の臨床的な根拠が蓄積している一方、スキャフォールドを用いた再生医療には臨床応用までの大きな課題が残っていると結論しています。

しかし、この論文を詳しく読み、引用された個別研究を調べていくと、注意すべき問題が見つかりました。

参考文献の書誌情報には複数の不一致があり、今回のレビューに採用されていないヒトの比較研究も存在していたのです。

実際、2021年には45人を対象に、歯髄修復を目的とする新しいハイドロゲル材料とMTA・Biodentineを直接比較した臨床試験が報告されています。〔5〕

また、日本では2017年に、自家歯髄幹細胞を使用した5人のパイロット臨床研究が発表されています。〔10〕

海外でも、乳歯由来の幹細胞を使った40人登録の無作為化比較試験が報告されています。〔11〕

つまり、歯髄再生の研究がすべて動物実験の段階にとどまっているわけではありません。

では、これらの研究によって、歯髄の再生は本当に実現したのでしょうか。

そして、なぜ新しい材料や幹細胞を使った治療が、すでに一般的な歯科診療として普及しているわけではないのでしょうか。

今回は、2026年の11研究レビューを出発点として、ヒト臨床試験、動物実験、日本の研究、診療ガイドラインを照合しながら、歯髄の「保護」「修復」「再生」の違いと、再生医療が患者さんの治療として確立するまでの課題を考えてみたいと思います。

1.歯の神経は、一度失ったら二度と戻らないのか

「神経を取る」という説明は、医学的には何を意味するのか

歯科診療で「神経を取る」という言葉を使うと、患者さんは歯の中に細い神経が一本通っていて、それを引き抜くような治療を想像するかもしれません。

しかし、実際の歯髄は、そのような単純な構造ではありません。

歯冠部の内部には歯髄腔があり、歯根の内部には根管があります。その空間に歯髄組織が存在しています。

歯髄には神経線維だけでなく、血管、結合組織、免疫細胞、線維芽細胞、幹細胞・前駆細胞など、さまざまな細胞や組織が含まれています。

根管治療で抜髄を行う場合には、こうした歯髄組織を除去し、根管内の感染や炎症に対応することになります。

したがって、抜髄によって失われるのは、痛みを伝える神経だけではありません。血液による栄養供給、免疫防御、象牙質形成など、歯髄が担っていた生物学的な機能も失われます。

ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。

抜髄した歯は、必ず早期に抜歯になるわけではありません。

適切な根管治療と歯冠修復によって、長期間機能する歯は数多く存在します。

歯髄を失っても、歯根膜や歯槽骨などの歯周組織は生きています。歯は咀嚼機能を担い続けることができます。

また、歯髄を除去したこと自体が歯根破折の唯一の原因になるわけでもありません。歯根破折には、残存歯質量、歯の形態、修復方法、咬合力、亀裂など、さまざまな要因が関係します。

重要なのは、歯髄を失うことによって生物学的な機能が変化する一方、適切な歯科治療によって歯を保存できる可能性も十分にあるということです。

歯髄を残す治療と、歯髄を作り直す治療

ここで二つの治療方針を区別しておきましょう。

一つは、まだ生きている歯髄を残す治療です。

深いむし歯や露髄に対して、残存歯髄を保存し、その修復能力を利用する生活歯髄療法がこれに当たります。

もう一つは、失われた歯髄を再び形成することを目指す治療です。

幹細胞移植やスキャフォールド、成長因子などを利用する歯髄再生研究が、この方向に含まれます。

両者は関連していますが、同じ治療ではありません。

残っている歯髄を守ることと、存在しなくなった歯髄を再構築することでは、必要な技術も、成功を評価する方法も異なります。

今回のコラムでは、この違いを最初から最後まで一貫して区別したいと思います。

2.歯髄はなぜ単純な神経組織ではないのか

硬い象牙質に囲まれた、特殊な軟組織

歯髄の大きな特徴は、硬い象牙質に囲まれた限られた空間に存在することです。

皮膚や筋肉などの軟組織では、炎症によって腫脹した場合、周囲の組織がある程度変形できます。

一方、歯髄は象牙質に囲まれており、膨張できる余地が限られています。

炎症によって血管透過性が変化し、組織液が増加すると、局所の圧力や微小循環に影響する可能性があります。

歯髄にも血流を調節する仕組みはありますが、持続的な細菌感染や強い炎症が起これば、細胞の障害や組織壊死につながることがあります。

ただし、歯髄の炎症は、歯髄全体に同じ程度で広がるとは限りません。

たとえば、深いむし歯に近い歯冠部歯髄では強い炎症が起こっていても、根部歯髄には比較的良好な生活組織が残っている場合があります。

このような炎症の局在性が、近年の生活歯髄療法の考え方を変えてきました。

以前は不可逆性歯髄炎と診断されると、歯髄全体を除去する方針が一般的でした。しかし、炎症がすべての部位へ一様に波及しているわけではないのであれば、炎症の強い部分を除去し、残存組織を保存できる可能性があります。

もっとも、術前の症状だけで炎症の分布を正確に判断することは容易ではありません。

この診断の難しさについては、以前の「可逆性歯髄炎と不可逆性歯髄炎の境界を再考する」でも詳しく取り上げています。

歯髄は細菌から歯を守っている

歯髄には、マクロファージや樹状細胞などの免疫担当細胞が存在します。

う蝕が進行して象牙質へ達すると、細菌や細菌由来成分が象牙細管を通じて歯髄に影響を及ぼすことがあります。

歯髄細胞はこうした刺激を認識し、炎症性シグナルを発して免疫反応を調節します。

炎症は必ずしも悪い反応ではありません。適切に制御された炎症は、感染防御や組織修復の開始に関係します。

問題となるのは、感染や炎症が持続し、組織破壊へ進行する場合です。

したがって、歯髄を再生する場合にも、単に炎症を完全に抑えればよいというわけではありません。

細菌を制御しながら、組織修復に必要な生物学的反応を維持する必要があります。

象牙芽細胞と歯髄神経

歯髄の周辺には象牙芽細胞が並んでいます。

象牙芽細胞は象牙質を形成する細胞ですが、外部刺激への応答にも関係しています。

象牙質に刺激が加わると、象牙細管内の液体の移動などを通じて、象牙芽細胞や歯髄神経に影響が及びます。

近年では、Piezo1などの機械感受性イオンチャネルと、象牙芽細胞の機能との関係も研究されています。

こうした機構については、以前の「Piezo1・Piezo2と象牙芽細胞」でも詳しく解説しました。

今回重要なのは、正常な歯髄の機能が、神経だけでは成立していないという点です。

象牙芽細胞、血管、神経、免疫細胞などが互いに作用しているため、歯髄全体を再生しようとすれば、これらの構造と機能を統合する必要があります。

3.「保護」「修復」「再生」は医学的に何が違うのか

保護――生きている組織をできるだけ残す

歯髄保護の基本は、残存する生活歯髄を保存することです。

深在性う蝕であれば、歯髄に近い象牙質を不必要に除去しないという考え方も歯髄保護に含まれます。

露髄している場合には、感染や炎症の状態を評価し、必要な処置を行ったうえで、残存歯髄が治癒できる環境を整えます。

MTAやBiodentineなどのケイ酸カルシウム系材料は、こうした治療で使用されています。

修復――失われた部分を新しい組織で補う

歯髄や象牙質が損傷すると、歯髄は第三象牙質を形成して刺激から自らを守ろうとすることがあります。

第三象牙質には、大きく分けて反応象牙質と修復象牙質があります。

反応象牙質は、もともと存在していた象牙芽細胞が生存し、刺激に応答して形成するものです。

一方、修復象牙質は、既存の象牙芽細胞が失われた後に、新たに分化した象牙芽細胞様細胞などによって形成されるものです。

修復象牙質は、元の象牙質と完全に同じ構造とは限りません。象牙細管が少なかったり、配列が不規則であったりする場合があります。

しかし、組織学的に完全な再現ではなくても、露髄部を覆い、残存歯髄を保護する役割を果たせれば、臨床的には重要な修復と考えられます。

再生――本来の組織と機能を回復させる

再生という言葉は、研究分野によって幅広く使われています。

たとえば、損傷後に象牙芽細胞様細胞が新しく形成されることも、細胞レベルでは再生に関係する現象です。

しかし、歯髄組織全体の再生を論じる場合には、より厳しい評価が必要です。

血管網、神経線維、象牙芽細胞層、細胞外基質、免疫機能などが適切に再構築され、長期間機能しなければなりません。

つまり、部分的な細胞再形成と、機能的な歯髄再生は異なります。

そして、修復と再生は必ずしも完全に対立する概念ではありません。細胞レベルの再生過程を利用して、組織修復が成立する場合もあります。

重要なのは、論文に「再生」という言葉が使われているからといって、元の歯髄が完全に戻ったと理解しないことです。

リバスクラリゼーションの位置づけ

歯髄が壊死した根未完成永久歯に対して、根管内に新しい組織形成を誘導する再生歯内療法があります。

代表的な方法では、根尖部から出血を誘導し、根管内に血餅を形成させます。

この血餅を足場として、細胞の侵入や組織形成を促すことを目指します。

リバスクラリゼーションやリバイタライゼーションと呼ばれてきた方法です。

しかし、動物実験で形成組織を詳しく調べると、正常な歯髄ではなく、線維性結合組織、セメント質様硬組織、骨様硬組織などが確認される場合があります。

日本歯内療法学会誌に掲載された北島佳代子の2023年総説でも、この問題が詳しく論じられています。〔12〕

X線写真で歯根が伸び、根管壁が厚くなったように見えても、それだけで正常な象牙質歯髄複合体が再生したとは言えません。

この違いを理解することが、歯髄再生研究を読み解く第一歩です。

4.痛みが消えた、神経の検査が陽性になった――それだけで歯髄が再生したと言えるのか

痛みが消えることの意味

患者さんにとって、治療後に痛みや腫れが改善することは非常に重要です。

根尖部の病変が縮小し、日常生活で問題なく噛めるようになれば、それは治療の成功を示す重要な結果です。

しかし、通常の根管治療でも同様の改善は得られます。

したがって、症状が消えたことだけで、歯髄が再生したと判断することはできません。

電気歯髄診と冷温診

歯科診療で行われる冷温診や電気歯髄診は、主として歯髄神経の反応を調べる検査です。

しかし、歯髄の生存に不可欠な血流を直接評価しているわけではありません。

外傷後の歯では、神経の反応が一時的に失われても、血流が維持されている場合があります。

逆に、歯髄の一部に生活組織が残っている場合には、組織全体の状態と感覚検査の結果が単純に一致しないことがあります。

血流を評価する技術

歯髄の生活性をより直接的に評価するため、レーザードップラー血流測定やパルスオキシメトリーなどが研究されています。

これらは血流や酸素化に関連する情報を得ることを目的としています。

ただし、歯の厚み、周囲組織からの信号、測定条件などの影響があり、すべての症例で簡単に使用できる標準検査として普及しているわけではありません。

また、MRIによって歯髄に近い信号が得られても、それだけで正常な細胞構造が再現されたと証明できるわけではありません。

再生研究では、検査の意味を分けて考える必要がある

治療後に電気歯髄診が陽性になった。

CBCTで新しい硬組織が確認された。

MRIで歯髄に近い信号が認められた。

これらはそれぞれ重要な所見ですが、評価しているものが異なります。

神経の反応、硬組織形成、軟組織の状態を、単一の「再生成功」という言葉にまとめてしまうと、研究の実際の成果を正確に理解できなくなります。

この点を踏まえて、2026年の系統的レビューを見ていきましょう。

5.2026年『BDJ Open』の11研究レビューは何を調べたのか

原著の目的

2026年10月31日、『BDJ Open』にMenezes SantanaとBarnwellによる系統的レビューが掲載されました。〔1〕

論文名は、Scaffold-based and calcium-silicate biomaterials in vital pulp therapy: a systematic review of current evidence and translational perspectivesです。

研究者らは、生活歯髄療法で使用されるケイ酸カルシウム系材料と、再生用スキャフォールド材料に関する研究を整理し、臨床応用へ進む際の課題を検討しました。

重要なのは、材料の性質だけでなく、研究成果が患者の治療にどこまで応用できるかを問題にしている点です。

文献検索の方法

研究者らはMEDLINE、Scopus、Web of Scienceを使用し、2025年3月までの研究を検索しました。

対象には、ヒトの臨床研究と、動物を用いた生体内実験が含まれています。

研究選定と報告はPRISMA 2020に沿って行われたと説明されています。

ただし、レビューの研究計画はPROSPEROなどへ事前登録されていませんでした。

著者らは研究方法を事前に定めていたと説明していますが、事前登録がなかったこと自体は方法論上の限界として認めています。

1,240記録から11研究へ

検索によって得られた記録は1,240件でした。

そこから621件の重複記録を除外し、619件のタイトルと抄録を確認しています。

30論文について全文を評価し、最終的に11研究を採用したと報告されています。

採用研究の内訳は、ヒト臨床研究6件と動物実験5件です。

ヒト研究は無作為化比較試験5件と前向きコホート研究1件で構成されていました。

原著によると、ヒト研究はケイ酸カルシウム系材料を評価し、動物研究は再生用スキャフォールドを評価していました。

なぜメタアナリシスを行わなかったのか

著者らは、研究対象、材料、実験モデル、評価項目、追跡期間などの違いが大きいため、定量的なメタアナリシスを行っていません。

そのため、このレビューには11研究を統合した再生成功率は存在しません。

また、研究間の異質性が大きいことから、正式なGRADE評価も行われていません。

代わりに、研究の限界、バイアス、間接性、不一致などを考慮して、記述的な評価が行われています。

11件の研究を集めたということと、新旧材料の優劣を定量的に証明したということは別です。

この違いは、今回のレビューを解釈するうえで非常に重要です。

6.ケイ酸カルシウム系材料の6研究は何を示したのか

レビューでは、6件のヒト研究から、ケイ酸カルシウム系材料を用いた生活歯髄療法に良好な臨床成績が報告されたとしています。

評価項目には、歯髄生活性の維持、修復象牙質橋の形成、症状、X線所見などが含まれています。

ヒトでの臨床実績があるということ

MTAやBiodentineなどは、臨床で使用されている材料です。

生活歯髄療法では、これらの材料によって残存歯髄の治癒を促すことが期待されます。

ただし、材料を置けば正常な歯髄が新しく形成されるという意味ではありません。

残存組織が生き残り、修復反応を進められる環境を整えることが中心です。

研究の追跡期間

原著で採用されたとされる臨床研究の追跡期間は、おおむね12〜24か月でした。

歯髄保存の成績を評価するうえで一定の意味はありますが、長期的な歯の寿命を考えると、さらに長い観察が必要です。

また、歯髄炎の程度や最終修復の方法、術者の技術などによって治療成績が変わる可能性があります。

材料の生物活性だけで、治療成功をすべて説明することはできません。

今回のレビューの限界

ここで注意が必要なのは、採用研究の一部に書誌情報の不一致があることです。

そのため、レビューがどの臨床研究を評価し、どのデータを抽出したのかを、参考文献リストだけから完全に追跡することは難しい状態です。

したがって、今回はレビューの結論を紹介する一方、個々の研究結果については、確認できる実在論文を別に検討する必要があります。

7.再生用スキャフォールドの5研究は、どこまで再生を示したのか

レビューでは、5件の動物研究がスキャフォールド系材料を評価していたと説明されています。

著者らは、血管新生、象牙芽細胞関連マーカーの発現、歯髄様組織形成、象牙質様硬組織形成など、有望な結果が報告されたとしています。

足場材料が目指しているもの

スキャフォールドとは、細胞が付着し、移動し、増殖し、分化するための三次元的な環境を提供する材料です。

正常な組織では、細胞は周囲の細胞外基質や生物学的なシグナルから影響を受けています。

スキャフォールド研究では、こうした環境の一部を人工的に再現しようとしています。

材料の構造や硬さ、分解速度、成長因子の保持などを調節することで、細胞の活動を誘導することが期待されています。

動物で確認されたこと

原著が紹介した研究では、血管形成に関係する反応や、象牙芽細胞系への分化を示唆する所見が報告されています。

しかし、ここで重要なのは、何をもって再生と判断したのかです。

組織が形成されたということと、血管が十分な血流を維持していることは異なります。

神経関連マーカーが確認されたことと、正常な歯髄の感覚機能が回復したことも同じではありません。

また、数週間の動物実験で組織形成が認められても、数年間の機能維持が保証されるわけではありません。

動物実験にはどのような限界があるのか

動物実験は、細胞や組織の変化を直接観察できるという重要な利点があります。

しかし、研究室で管理された動物の健康な歯と、長期間う蝕によって細菌感染を受けた患者の歯では条件が異なります。

年齢、免疫状態、細菌感染、歯の大きさ、歯根形態、咬合なども影響します。

動物実験で有望な結果が得られたことは、ヒトへの応用を検討する根拠にはなります。

しかし、そのままヒトでの治療成功を予測できるわけではありません。

8.11研究レビューの参考文献を照合して分かった問題

今回の原著を評価するうえで、特に注意したいのが参考文献の書誌情報です。

系統的レビューは、複数の研究を体系的に集めて評価する方法です。

ただし、系統的レビューという形式だけで、結論の正確性が保証されるわけではありません。

どの研究を採用したのか。その研究は実際に何を調べたのか。必要なデータを正確に抽出できているのか。研究間の違いを適切に評価できているのか。

これらを第三者が確認できることが重要です。

今回のレビューでは、この追跡可能性に関わる問題が見つかりました。

Cunhaらの参考文献

レビューの参考文献20には、Cunhaらによる2023年の歯髄再生研究が、Journal of Endodontics49巻1012〜1020ページの論文として記載されています。

一方、独立して確認できる、研究主題が近い実在論文は、3D-printed microgels supplemented with dentin matrix molecules as a novel biomaterial for direct pulp cappingという研究です。〔7〕

掲載誌はClinical Oral Investigations、2023年27巻1215〜1225ページです。

著者の組み合わせ、掲載誌、ページがレビューの記載と一致していません。

ただし、研究の主題が近いからといって、この実在論文がレビュー著者の実際に採用した研究であると断定することはできません。

Hanらの参考文献

参考文献21では、GelMA/β-TCPを利用した研究が、2024年のActa Biomaterialia170巻245〜256ページとして記載されています。

一方、実際に確認できる研究は、Yuanyuan HanらによるGelMA/TCP nanocomposite scaffold for vital pulp therapyです。〔8〕

掲載はActa Biomaterialia173巻495〜508ページです。

こちらも書誌情報と著者構成が一致していません。

Biomaterials誌の論文番号

さらに明確な不一致があるのは、参考文献23です。

レビューでは、2024年のBiomaterials301巻、論文番号122257として、歯髄再生用の階層型ハイドロゲルに関する研究が引用されています。

しかし、実際に301巻122257に掲載されているのは、2023年のがん光線力学療法と免疫療法に関する研究です。〔17〕

歯髄再生とは異なる分野の論文が対応しています。

これは研究結果の解釈の違いではなく、記載された書誌情報が別の論文を指しているという問題です。

Gilhotraらの参考文献

ヒト臨床研究の参考文献34にも、同様の不一致があります。

レビューではGilhotraらによる複数の覆髄材料の比較研究が、2024年のClinical Oral Investigationsに掲載されたものとして記載されています。

一方、確認できる実在論文は、Journal of Conservative Dentistry and Endodonticsに掲載された80人の無作為化比較試験です。〔16〕

こちらも著者構成や掲載誌などに違いがあります。

参考文献の不一致は何を意味するのか

ここで強調したいのは、書誌情報の不一致だけから、研究不正があったと断定することはできないということです。

引用管理上の誤り、原稿作成時の混同、編集上の問題など、複数の可能性が考えられます。

また、似た研究を発見したからといって、それをレビューの採用研究と自動的に同一視することもできません。

しかし、系統的レビューでは、どの研究が採用されたのかを正確に追跡できることが重要です。

採用研究を特定できなければ、研究対象、サンプル数、比較材料、結果、バイアス評価などを第三者が再検証することが難しくなります。

今回のレビューが提示した問い自体には重要な価値があります。

ただし、引用された研究と書誌情報の整合性には確認が必要であり、レビューに記載された個別研究の結果を無条件に利用することは避けるべきです。

「今回のレビューに採用されなかった」と「研究が存在しない」は違う

もう一つ、重要な論点があります。

レビューは、採用した11研究の中に、スキャフォールドとケイ酸カルシウム系材料を同じ研究で直接比較したものはなかったと説明しています。

しかし、この記述と、世界中に直接比較研究が存在しないという主張は異なります。

独立して確認できるCunhaらの2023年研究では、MTAを比較群に設定しています。

Hanらの研究でも、MTAが参照材料として使用されています。

さらに、2021年にはヒトでTDMH、MTA、Biodentineを直接比較した臨床試験も報告されています。

もっとも、先ほど述べたように、レビューの書誌情報には不一致があります。

そのため、CunhaらやHanらの実在論文を、そのままレビューの採用研究と断定し、「採用研究に直接比較があった」と結論することはできません。

レビューが採用したと説明する研究の範囲と、独立して確認できる実在研究の状況を分けて考える必要があります。

この区別ができなければ、レビューの結論を批判する側も、同じように研究を不正確に扱ってしまうことになります。

レビュー全体を否定すべきなのか

今回の参考文献の問題によって、ケイ酸カルシウム系材料の臨床的な価値や、スキャフォールド研究の可能性がすべて否定されるわけではありません。

これらは別の研究や診療ガイドラインからも検討できます。

問題は、今回のレビューだけからどこまでの結論を導けるかということです。

研究内容を正確に理解するためには、レビューの結論を読むだけでなく、可能な限り個別の原著論文を確認する必要があります。

今回の記事では、そうした検証を通じて、歯髄再生研究の実際の進展と限界を考えていきます。

9.現在の歯科医療では、歯髄をどこまで保存できるのか

新しい再生医療を評価するには、現在の歯髄保存療法がどこまで進んでいるかを理解する必要があります。

すでに良好な結果が得られる治療があるなら、新しい材料には、それを上回る臨床的な利益が求められます。

深いむし歯でも、必ず神経を露出させる必要はない

従来、むし歯治療では感染した象牙質を十分に除去することが重視されてきました。

しかし、歯髄に非常に近い深在性う蝕では、非選択的に軟化象牙質を除去すると、露髄が起こる危険があります。

そのため、歯髄の状態やう蝕の深さに応じて、歯髄側の象牙質を必要以上に除去せず、周辺部を適切に封鎖する選択的う蝕除去が行われています。

これは、感染した歯質を無条件に残してよいという意味ではありません。

う蝕の活動性、歯髄診断、修復物の封鎖性などを考慮して判断する必要があります。

詳しくは以前の「深在性う蝕でどこまで削るか?」でも説明しています。

不可逆性歯髄炎と診断されても、すべて抜髄になるわけではない

以前は、不可逆性歯髄炎という診断名が付けば、歯髄全体を除去する方針が一般的でした。

しかし、近年は炎症が歯髄全体に均一に広がるとは限らないことが重視されています。

歯冠部に強い炎症が存在していても、根部歯髄には治癒可能な組織が残っている場合があります。

そこで、炎症の強い部分を除去し、残った根部歯髄を保存する部分断髄や全部断髄が検討されるようになっています。

ただし、これは不可逆性歯髄炎であれば必ず歯髄保存ができるという意味ではありません。

症状、X線所見、感染の程度、術中の出血状態、修復可能性などを総合的に評価する必要があります。

2025年AAPDガイドライン

2025年、米国小児歯科学会(AAPD)は永久歯の生活歯髄療法に関するガイドラインを公表しました。〔3〕

このガイドラインは、小児だけでなく成人の永久歯を扱う研究も対象としています。

正常歯髄または可逆性歯髄炎と診断された深在性う蝕では、間接覆髄を目的とした選択的う蝕除去が強く推奨されています。

この推奨のエビデンス確実性は高いと評価されています。

一方、自発痛、夜間痛、刺激除去後も持続する痛みなどがあり、根尖部に感染を示す異常所見がない場合には、う蝕を非選択的に除去して露髄部の状態を評価し、適応があればケイ酸カルシウム系材料を用いた全部断髄を検討する考え方が示されています。

このような症例で部分断髄より全部断髄を選択することについては、条件付き推奨であり、エビデンスの確実性は低いとされています。

つまり、選択的う蝕除去に対する強い推奨と、不可逆性歯髄炎を疑う症例での全部断髄に対する条件付き推奨は、同じ確実性の根拠に基づいているわけではありません。

また、部分断髄や全部断髄では、6分以内に止血できた場合に成功率が高い可能性があるとされています。

ただし、この推奨も条件付きで、エビデンスの確実性は低いものです。

6分という時間を絶対的な基準として扱うべきではありません。

止血までの時間は、歯髄の状態を評価する一つの情報であり、それだけで治療方針が決まるわけではありません。

さらに、感染による根尖部の病変がある症例や、歯髄からの出血を制御できない症例では、同ガイドラインは断髄を適応としていません。

歯髄を保存することは重要ですが、保存できない状態を見極めることも同じくらい重要なのです。

日本の2024年ガイドライン

日本歯科保存学会と日本歯内療法学会は、2024年に『歯髄保護の診療ガイドライン』を公表しています。〔4〕

このガイドラインでは、深在性う蝕への対応、直接覆髄、断髄などが検討されています。

感染歯質除去後に露髄した永久歯へ直接覆髄を行う場合、MTAは水酸化カルシウム製剤より強く推奨されています。

断髄についてもMTAが推奨されていますが、推奨の強さは弱いものです。

ここには、材料に関する臨床研究の蓄積と、その研究の確実性を区別する姿勢が見られます。

歯髄保存療法はすでに臨床で用いられていますが、すべての疑問が解決したわけではありません。

10.MTA・Biodentineは、歯髄を再生しているのか

MTAやBiodentineは、生活歯髄療法で使用される代表的なケイ酸カルシウム系材料です。

これらの材料は、残存歯髄の修復反応を支えるために利用されます。

ケイ酸カルシウム系材料の生物学的な作用

ケイ酸カルシウム系材料は、水分と反応して硬化します。

材料によって組成や反応は異なりますが、カルシウムイオンの放出、アルカリ性環境の形成、生体組織との界面反応などが、硬組織形成に関係すると考えられています。

また、露髄部を適切に封鎖することで、細菌による持続的な刺激を減らすことも重要です。

つまり、材料の生物学的な作用と、細菌を遮断する作用の両方が治癒に関係しています。

材料は歯髄を直接作り直しているわけではない

MTAやBiodentineを置いた後に修復象牙質が形成される場合、その形成には残存歯髄の細胞が関わっています。

材料そのものが正常な歯髄組織へ変化するわけではありません。

適切な治癒環境を整えることで、残存組織の修復能力を利用しているのです。

したがって、これらの材料によって歯髄生活性が維持され、象牙質橋が形成されたとしても、失われた歯髄全体が元の構造で再形成されたという意味ではありません。

最終修復の重要性

歯髄保存療法の結果は、覆髄材料だけで決まるわけではありません。

ラバーダム防湿、感染制御、止血、材料の配置、最終修復物の封鎖性などが関係します。

たとえ生体適合性の高い材料を使用していても、修復物から細菌が侵入すれば、炎症が持続する可能性があります。

材料ごとの特徴と限界

MTAには、使用する製品によって変色などの問題があります。

また、硬化時間や操作性、材料費なども実務上の判断に関係します。

Biodentineも同じケイ酸カルシウム系材料ですが、製品特性はMTAと完全に同じではありません。

材料の成分や臨床研究の対象が異なるため、すべての製品に同じ効果を保証することはできません。

材料の詳しい特徴については、以前の「MTAを使った歯内療法」も参照してください。

今回重要なのは、MTAなどがすでに一定の臨床的実績を持っているということです。

新しい再生用材料は、こうした既存治療と比較して、どのような利益をもたらせるのかを検証する必要があります。

11.25件のRCTで成功率86.7%――生活歯髄療法の現在地

2024年、Li、Yang、Shiらは、むし歯によって露髄した永久歯に対する断髄の臨床成績を、系統的レビューとメタアナリシスによって検討しました。〔2〕

対象となったのは25件の無作為化比較試験です。

評価可能だった2,012歯のうち、臨床的・X線的成功が確認されたのは1,743歯でした。

統合成功率は86.7%、95%信頼区間は82.0〜90.7%でした。

86.7%という数字の意味

この86.7%は、研究対象となった永久歯に対する断髄の臨床的成功率を統合した推定値です。

歯髄再生の成功率ではありません。

また、すべての患者に対して86.7%の確率で成功するという意味でもありません。

研究によって対象患者、材料、断髄方法、追跡期間、成功の定義などが異なります。

実際、個々の試験で報告された成功率には大きなばらつきがありました。

歯髄炎の診断による違い

正常歯髄または可逆性歯髄炎と診断された群の統合成功率は92.0%でした。

一方、不可逆性歯髄炎と診断された群は82.4%でした。

両者の差は統計学的に有意でした(P=0.013)。

この結果は、術前の歯髄状態が治療結果に関係する可能性を示しています。

ただし、臨床症状による歯髄炎の分類には限界があります。

不可逆性歯髄炎と診断された歯の中にも、炎症の程度や分布が異なる症例が含まれている可能性があります。

MTAと水酸化カルシウム製剤の比較

MTAと水酸化カルシウム製剤を直接比較した解析では、MTAが有利でした。

MTA群の成功率は88.2%、水酸化カルシウム製剤群は79.1%でした。

オッズ比は2.41、95%信頼区間は1.28〜4.51、P=0.006でした。

一方、Biodentineと水酸化カルシウム製剤の比較では、Biodentine群の成功率が高い傾向を示しましたが、統計学的有意水準には達していませんでした。

また、MTAと他の生体材料との比較でも、明確な有意差が認められないものがありました。

「有意差がない」ということは、すべての条件で材料が完全に同等であることを証明するものではありません。

症例数や追跡期間、評価方法によって、差を検出する能力は変わります。

エビデンスの確実性は非常に低い

この研究で特に重要なのは、統合成功率86.7%という数値のエビデンス確実性が「非常に低い」と評価されていることです。

研究間の異質性やバイアスなどが、この評価に影響しています。

これは断髄療法が無効という意味ではありません。

統合された成功率を、確実な予測値としてすべての患者へ当てはめることはできないという意味です。

また、材料比較に関するエビデンス確実性も、低いものが含まれています。

新しい再生材料を評価する際には、既存治療の成績も、こうした不確実性を踏まえて比較する必要があります。

12.ヒト45人の直接比較試験――再生用ハイドロゲルはMTAより優れていたのか

2021年、Holielらは、注入型処理象牙質基質ハイドロゲル(Treated Dentin Matrix Hydrogel:TDMH)を用いた無作為化比較試験を発表しました。〔5〕

対象は45人です。

この研究は、2026年の11研究レビューを検討する際に、特に重要な意味を持っています。

なぜなら、ヒトを対象に、新しいスキャフォールド関連材料とMTA・Biodentineを同一研究内で比較しているからです。

TDMHとは何か

TDMHは、処理した象牙質基質粉末とアルギン酸ナトリウムを組み合わせた注入型材料です。

象牙質基質には、組織修復や細胞分化に関係する分子が含まれています。

研究者らは、こうした成分を利用しながら、直接覆髄後の象牙質橋形成を促進しようとしました。

TDMHは、単に露髄部を物理的に塞ぐだけでなく、組織修復に関係する生物学的な環境を提供することが期待される材料です。

45人を3群に割り付けた

研究では、TDMH、Biodentine、MTAの3群が設定されました。

対象となったのは、歯科学生による治療中に偶発的な機械的露髄が生じた永久臼歯です。

ここは重要な条件です。

深いむし歯によって長期間細菌感染を受けた歯髄ではありません。

機械的な露髄と、感染性歯髄炎を伴う露髄では、歯髄の炎症環境が異なります。

したがって、この試験で良好な結果が得られたとしても、感染性歯髄炎に対して同じ結果が得られるとは限りません。

24か月間の追跡

研究では、3・6・12・18・24か月に臨床的・X線的評価が行われました。

歯髄感覚検査として、冷温診や電気歯髄診も使用されています。

また、CBCTによって形成された象牙質橋の厚さとX線濃度が評価されました。

臨床的な結果

追跡期間中、各群の患者では症状や明らかなX線的病変は認められなかったと報告されています。

つまり、臨床的な経過はTDMH群だけが良好だったわけではありません。

MTA群やBiodentine群でも良好な経過が確認されていました。

TDMH群で象牙質橋が厚かった

一方、CBCTによる評価では、TDMH群で形成された象牙質橋が、MTA群やBiodentine群より厚く、X線濃度も有意に高かったと報告されています。

これは、TDMHが硬組織形成に関する特定の評価項目で、有望な結果を示したことを意味します。

しかし、ここで「TDMHはMTAより歯髄再生に優れている」と結論するのは適切ではありません。

なぜ優位性を限定して考える必要があるのか

今回の研究で明確な差が認められたのは、主として象牙質橋の厚さやX線濃度という評価項目です。

各群とも臨床的には良好な経過を示していたため、臨床的成功率でTDMHがMTAより優れていたとは言えません。

また、象牙質橋が厚いことと、正常な歯髄全体が再構築されたことも同じではありません。

神経線維、血管網、象牙芽細胞層、免疫機能などを含む歯髄全体の正常な再生を、この試験が直接証明したわけではないのです。

この研究が2026年レビューに与える意味

この2021年の研究は、2026年レビューの検索終了日より前に発表されています。

しかし、今回の11研究には含まれていません。

研究対象、材料の定義、選定基準などによって除外された可能性はあります。

ただし、公開されたレビュー本文だけでは、個別の除外理由を確定できません。

重要なのは、今回のレビューに採用されなかったことと、ヒトでの比較研究が存在しないことを混同しないことです。

13.ヒト30歯の組織学研究――象牙質橋は本物に近かったのか

Holielらの研究グループは、別の論文でTDMHの組織学的評価も報告しています。〔6〕

対象となったのは、矯正目的で抜歯予定の健全な小臼歯30本でした。

TDMH、Biodentine、MTAの3群に分け、各群10歯で直接覆髄を行っています。

2週間と2か月の観察後に抜歯し、組織学的な評価が行われました。

なぜ組織学的な研究が必要なのか

通常、歯髄保存療法が成功した歯は、できる限り長く口腔内で機能させることが目標です。

治療が成功している歯を、研究目的だけで抜歯して組織を調べることは一般的ではありません。

そのため、通常の臨床研究では、X線写真やCBCT、歯髄感覚検査などによって間接的に評価することになります。

一方、もともと矯正目的で抜歯予定の歯であれば、適切な研究計画と同意のもとで、治療後の組織を直接観察できる場合があります。

この方法によって、画像診断だけでは分からない細胞構造や炎症の状態を確認できます。

2か月後の組織学的結果

研究では、観察期間中、すべての歯が生活性を維持しました。

2か月後には、各群で象牙質橋の形成と、炎症反応を認めない歯髄所見が報告されています。

象牙質橋形成や炎症反応について、群間に有意差は認められませんでした。

一方、TDMH群で形成された象牙質は有意に厚く、比較的整った象牙芽細胞層や細管構造が観察されたと報告されています。

この結果は、TDMHが象牙質修復に有望な作用を持つ可能性を示しています。

厚さだけではなく、組織の質が重要

象牙質には、象牙芽細胞突起が関係する象牙細管が存在しています。

修復象牙質では、細管の数や配列が不規則になる場合があります。

そのため、形成された硬組織の厚さだけでなく、細管構造や象牙芽細胞層の配列を評価することには意味があります。

しかし、構造が正常象牙質に近いことと、歯髄全体の機能が回復したことは異なります。

今回の研究で評価されたのは、主として直接覆髄後の象牙質形成と短期の歯髄反応です。

長期間の血流維持、神経機能、免疫防御などが完全に回復したことを証明したものではありません。

短期の組織形成と長期予後

2か月時点で良好な組織像が得られても、5年後、10年後の歯髄生存が保証されるわけではありません。

また、今回の研究では感染した深在性う蝕歯ではなく、健全歯の機械的露髄が評価されました。

こうした対象条件の違いも、臨床応用を考える際には重要です。

14.動物実験ではMTAと比較されていた――Cunhaら・Hanらの研究

新しい再生用材料とMTAの関係を考えるうえで、二つの動物研究が参考になります。

ただし、ここで紹介する研究は、2026年レビューの書誌情報から確実に同定された採用研究として扱うのではなく、独立して実在を確認できた関連研究として紹介します。

Cunhaらの2023年研究

Cunhaらは、3Dプリントした微小ハイドロゲルに象牙質基質由来成分を添加し、直接覆髄材として評価しました。〔7〕

研究では、ラットの上顎第一大臼歯に人工的な露髄を作り、複数の材料を比較しています。

比較条件には、材料を添加しない微小ゲル、象牙質基質由来成分を異なる濃度で添加した微小ゲル、PDGF添加微小ゲル、MTAなどが含まれていました。

抄録では6条件、各群15歯と記載されています。

ただし、本文には必要動物数や実験計画に関する記述があり、実験単位の正確な解釈には原著全体の確認が必要です。

4週間後の結果

4週間後に、硬組織形成、歯髄組織の構築、血管密度などが評価されました。

象牙質基質成分を添加した微小ゲル群では、MTA群と比較して象牙質橋形成が多く、歯髄壊死が少なかったと報告されています。

これは、動物実験の特定条件下では、新しい足場材料が従来材料より有望な修復反応を示す可能性を意味します。

しかし、ラットの健康な歯への人工的な露髄で得られた結果を、成人の感染した歯髄へそのまま当てはめることはできません。

なお、この研究には後に訂正論文が掲載されていますが、確認できた訂正内容は所属機関情報であり、実験結果そのものの訂正ではありません。

HanらのGelMA/TCP研究

Hanらは、GelMAとβ-TCPを組み合わせたナノコンポジットスキャフォールドを報告しました。〔8〕

GelMAはゼラチンメタクリロイルを利用した材料です。

β-TCPはリン酸三カルシウムで、硬組織関連の生体材料として研究されています。

この研究では、電界紡糸によってGelMAの繊維状足場を作り、β-TCP粒子を組み込みました。

材料の形態、機械的性質、分解挙動、細胞適合性、象牙芽細胞系への分化などが評価されています。

20%TCP配合群の結果

20%TCPを含むGelMAスキャフォールドでは、比較的良好な繊維構造、機械的性質、分解挙動が得られました。

細胞培養では、細胞の広がりや石灰化関連の反応が促進されました。

動物実験でも、硬組織形成に関係する結果が報告されています。

ただし、NestinやDMP1などの評価では、MTAの結果を明確に上回ったわけではありません。

研究者らは、新しい材料が標準材料に近い生物学的反応を示した可能性を報告しています。

複雑な材料が必ず優れるわけではない

この研究は、材料設計の進歩がそのまま臨床的な優位性に結びつくとは限らないことを示しています。

ただし、新材料が標準材料と同程度の性能を示しながら、操作性や硬化時間などで利点を持つなら、それ自体が臨床的な価値につながる可能性もあります。

新しい材料を評価する際には、硬組織形成だけでなく、操作性、封鎖性、費用、安全性などを含めて判断する必要があります。

2025年の動物研究メタアナリシス

2025年には、直接覆髄用スキャフォールドを評価した動物研究17件をまとめた系統的レビューも報告されています。〔9〕

そのうち13研究がメタアナリシスに組み込まれました。

細胞量、象牙質の厚さ、炎症制御などについては、スキャフォールド群で有利な結果が示されました。

一方、象牙質橋形成、異栄養性石灰化、歯髄組織の構築では、明確な有意差が確認されない評価項目もありました。

エビデンス確実性は非常に低いと評価されています。

スキャフォールドが組織修復に関係する現象を促進する可能性はあります。

しかし、機能的な歯髄再生としてどこまで優れているかは、まだ十分に結論できません。

15.失われた歯髄を作る細胞は、どこから来るのか

歯髄再生には、組織を形成する細胞が必要です。

しかし、「幹細胞」という言葉だけでは、実際にどのような細胞が利用されるのか分かりません。

歯科領域では、採取部位や細胞の性質によって、複数の幹細胞・前駆細胞が研究されています。

歯髄幹細胞(DPSC)

Dental Pulp Stem Cells(DPSC)は、歯髄から分離される間葉系幹細胞様の細胞集団です。

培養条件によって増殖し、象牙芽細胞様細胞などへの分化能力が研究されています。

ただし、歯髄に存在する細胞のすべてが幹細胞というわけではありません。

また、培養環境で特定の細胞へ分化できることと、患者の根管内で同じように機能することも異なります。

乳歯由来歯髄幹細胞(SHED)

乳歯の歯髄から得られる細胞は、SHEDと呼ばれます。

乳歯は生え替わりによって失われる歯であるため、歯髄由来細胞の採取源として研究されています。

ただし、脱落した乳歯から必ず移植に適した細胞が得られるわけではありません。

採取時の状態、保存条件、培養、品質管理などが必要になります。

根尖乳頭由来幹細胞(SCAP)

根未完成永久歯の根尖部には、歯根形成に関係する歯乳頭由来の細胞が存在します。

これらの細胞はSCAPと呼ばれます。

根未完成歯では根尖孔が大きく開いており、根尖部からの細胞や血管の供給が比較的得られやすい可能性があります。

一方、根が完成した成人の歯では、同じ条件を期待できるとは限りません。

この違いは、再生歯内療法の適応を考える際に重要です。

細胞移植とcell homing

歯髄再生研究には、大きく分けて二つの方向があります。

一つは、体外で採取・培養した細胞を根管内へ移植する方法です。

もう一つは、患者自身の組織に存在する細胞を、成長因子や材料によって目的の場所へ呼び寄せる方法です。

後者はcell homingと呼ばれる研究領域に関係します。

細胞移植には細胞培養や品質管理が必要ですが、cell homing型の方法でも、必要な細胞が十分に存在していることが前提になります。

歯髄が広範囲に壊死している場合や、根尖部に利用可能な細胞が少ない場合には、同じ結果を期待できない可能性があります。

血管周囲のペリサイト

歯髄の毛細血管の周囲には、ペリサイトと呼ばれる細胞が存在します。

東京歯科大学の研究では、マウスの象牙芽細胞を損傷させた後、NG2陽性のペリサイト関連細胞が増殖し、象牙芽細胞様細胞へ分化することが示されています。〔15〕

この研究は、歯髄がもともと持っている修復能力の一端を説明するものです。

また、ATF6αなどの細胞内ストレス応答に関係する分子が、象牙芽細胞様細胞への分化や機能に関係する可能性も示されています。

ただし、これはマウスを用いた基礎研究です。

患者の歯髄全体を再生できることが証明されたわけではありません。

細胞が存在するだけでは足りない

歯髄再生では、細胞が生存し、適切な場所へ移動し、目的の細胞へ分化し、長期間機能し続ける必要があります。

必要な細胞があることと、その細胞を正しく働かせられることは別です。

そのため、細胞だけでなく、細胞が活動する環境を整える必要があります。

16.スキャフォールドは何をするのか――血餅から3Dプリント材料まで

スキャフォールドは、細胞が付着し、移動し、増殖するための足場です。

しかし、単に空間を埋める材料ではありません。

細胞の活動に影響する三次元的な微小環境を提供することが期待されています。

足場の硬さと構造

細胞は周囲の材料の硬さや構造から影響を受けます。

材料が硬すぎれば、細胞の移動や組織形成を妨げる場合があります。

反対に、柔らかすぎれば、必要な形状を維持できない可能性があります。

また、材料内部の空隙構造や水分量も重要です。

細胞が十分に侵入できなければ、足場内部に新しい組織を形成することは難しくなります。

天然の足場としての血餅

再生歯内療法では、根尖部からの出血によって形成された血餅を利用する方法があります。

血餅にはフィブリンを中心とした網目構造が形成され、細胞の移動や組織修復を支える可能性があります。

また、血小板からは成長因子が放出されます。

これは、生体が本来持っている創傷治癒の仕組みを利用する方法です。

PRPとPRF

多血小板血漿(PRP)や多血小板フィブリン(PRF)も、歯髄再生研究で利用されています。

これらは患者の血液に由来する成分を利用し、細胞の移動や組織形成を促すことを目指すものです。

ただし、調製条件や患者の血液成分によって結果が変わる可能性があります。

PRPやPRFが人工スキャフォールドより常に優れているという結論は出せません。

人工ハイドロゲルの利点

人工ハイドロゲルでは、材料の組成、硬さ、分解速度、細胞接着性などをある程度調節できます。

成長因子を材料内部へ保持し、時間をかけて放出させることも研究されています。

注入型材料であれば、複雑な形状の空間へ配置しやすい可能性があります。

ただし、実際の根管は単純な円筒形ではありません。

側枝や根管分岐、根尖部の複雑な形態などがあり、人工材料を均一に配置することは簡単ではありません。

材料はいつ分解されるべきなのか

スキャフォールドは、細胞が組織を形成する間、必要な構造を支える役割が期待されています。

しかし、材料が早く分解しすぎれば、組織形成前に足場が失われる可能性があります。

反対に、長期間残りすぎれば、正常な組織形成を妨げる場合があります。

分解産物が細胞や周囲組織へ与える影響も評価する必要があります。

スキャフォールドの性能は、細胞が増えたという結果だけでは判断できません。

形成された組織がどのように成熟し、材料がどのように置き換わるのかまで考える必要があります。

17.歯髄再生を導く分子――成長因子・象牙質基質・ペプチド

細胞と足場があっても、それだけで正常な組織が形成されるわけではありません。

細胞がどこへ移動し、どのような種類の細胞へ分化し、どの順番で組織を形成するかを調節するシグナルが必要です。

成長因子の役割

VEGFは血管新生に関係します。

BMPは硬組織形成や細胞分化に関係します。

FGFやPDGFは細胞増殖や組織修復などに関わります。

NGFは神経細胞の生存や成長に関係する因子です。

ただし、これらの成長因子を多く加えれば、必ず正常な歯髄が形成されるわけではありません。

同じ分子でも、作用する細胞、濃度、タイミング、周囲環境などによって結果が変わる可能性があります。

象牙質は修復に関係する分子を含んでいる

象牙質にはコラーゲンなどの有機成分に加え、組織修復に関係するさまざまな分子が含まれています。

こうした成分は、象牙質基質の分解や変化によって利用可能になる場合があります。

大阪大学の高橋雄介による2022年の総説では、象牙質基質成分の分解産物が歯髄の創傷治癒を促す可能性が紹介されています。〔14〕

MMP20を利用した研究

研究グループは、象牙質基質成分をMMP20というタンパク質分解酵素で処理し、その分解産物を利用した実験を行いました。

ラットの直接覆髄実験では、MMP20処理によって得られた分解産物を用いた群で、比較的緻密な第三象牙質の形成が促進されたと報告されています。

形成された硬組織には、象牙細管様構造が観察されました。

これは、外部から新しい材料を持ち込むだけでなく、歯がもともと持っている修復関連分子を利用する可能性を示しています。

S100A7・S100A8などの候補分子

研究グループは、象牙質基質分解産物を解析し、修復反応に関係する可能性がある複数のタンパク質を同定しています。

その中にはS100A7やS100A8なども含まれていました。

これらの分子を用いたラット実験では、第三象牙質形成が促進されたと報告されています。

ただし、ヒトの歯髄炎に使用して確実に治癒させられることが証明されたわけではありません。

ペプチド覆髄材という発想

組換えタンパク質をそのまま製剤として使用する場合、製造や保存、費用などが課題になる場合があります。

そこで、タンパク質の機能に関係する短いアミノ酸配列を利用するペプチド材料も研究されています。

大阪大学の研究では、候補ペプチドが第三象牙質形成を促進し、抗炎症作用を持つ可能性が検討されています。

ただし、資料には未公表データに基づく記述も含まれており、臨床的な有効性が確立したと判断することはできません。

Periostinと細胞の遊走

愛知学院大学の研究グループは、Periostinという細胞外基質タンパク質と歯髄幹細胞の移動との関係も研究しています。

培養実験では、Periostinの添加によって乳歯由来歯髄幹細胞の遊走が促進される可能性が示されています。

また、Wntシグナルとの関係も検討されています。

これは学会発表段階の研究であり、臨床効果を証明したものではありません。

しかし、患者自身の細胞を適切な場所へ誘導するという再生医療の方向性を考えるうえで、興味深い研究です。

成長因子を増やすだけでは再生しない

正常な組織が形成される過程では、細胞の増殖、血管形成、神経の伸長、細胞分化などが時間的・空間的に調節されています。

それぞれの過程が、すべて同時に進めばよいわけではありません。

必要な場所で、必要なタイミングに、適切な分子が作用することが重要です。

歯髄再生の難しさは、再生を促す分子を発見することだけでなく、それらを生体内で正しく働かせることにもあります。

18.血管と神経を同時に再生できるのか――歯髄再生の核心

歯髄再生で最も重要な課題の一つが、血管と神経の再形成です。

細胞が増殖し、歯髄に似た組織が形成されたとしても、十分な血流がなければ長期間生存することはできません。

また、神経線維が伸びたとしても、正常な感覚機能が回復したとは限りません。

血管新生が必要な理由

歯髄は血流を通じて酸素と栄養を受け取っています。

また、細胞の活動によって生じる代謝産物も血流によって運ばれます。

新しい組織が形成され、その厚みが増せば、内部へ十分な血液を供給する必要があります。

単に細胞が集まっただけでは、組織を維持することはできません。

血管マーカーと実際の血流

動物実験では、血管内皮細胞に関係するマーカーを用いて血管形成を評価する場合があります。

しかし、血管関連細胞が存在することと、形成された血管が宿主の循環系につながり、十分な血流を維持することは異なります。

機能的な再生を証明するには、血管構造の存在だけでなく、灌流や長期的な維持についても検討する必要があります。

神経再生はさらに複雑である

歯髄には感覚神経が存在し、冷温刺激や侵害刺激の伝達に関係しています。

再生医療では、新しく形成された組織へ神経線維が伸び、感覚機能が回復することが期待されます。

しかし、神経関連マーカーが確認されたことと、患者が正常な感覚機能を取り戻したことは同じではありません。

電気歯髄診への反応が回復しても、神経線維の種類、分布、密度、血管との関係、炎症への応答などが完全に正常であるかどうかは分かりません。

象牙芽細胞との統合

正常歯髄では、象牙芽細胞層と神経、血管、細胞外基質が互いに関係しています。

象牙芽細胞が再形成されたとしても、その細胞が正常な位置に配列し、象牙質形成機能を維持する必要があります。

また、神経や血管との関係も重要です。

つまり、歯髄再生は、神経線維と血管を同じ空間に存在させれば完成するわけではありません。

歯髄の閉鎖空間という問題

歯髄は硬い象牙質に囲まれています。

組織が再生するための空間は限られており、根尖部からの血管や細胞の供給にも解剖学的な制約があります。

さらに、根管内に不規則な硬組織が過剰に形成されれば、組織の配置や血流に影響する可能性があります。

たくさん硬組織を形成することが、必ずしも良い再生を意味するわけではありません。

完全な歯髄再生という表現の難しさ

研究で血管や神経を伴う歯髄様組織が形成されたという報告には大きな意味があります。

しかし、それが長期的に正常歯髄と同等の機能を持つかどうかは、別の検証が必要です。

構造が似ていることと、機能が同じであることは異なります。

歯髄再生の研究では、この二つを分けて評価する必要があります。

19.細菌を殺しながら再生細胞を守る――感染歯髄という難しい環境

歯髄再生を実際の患者へ応用する際、大きな問題となるのが感染制御です。

通常の根管治療では、根管内の細菌や感染した組織を適切に除去し、感染を制御することが重要です。

一方、再生歯内療法では、新しい組織を形成するために生きた細胞が必要です。

感染を制御するための処置が、再生に必要な細胞へ悪影響を与える可能性があるという問題が生じます。

次亜塩素酸ナトリウムの二面性

次亜塩素酸ナトリウムは、根管洗浄で使用される代表的な薬剤です。

抗菌作用や有機物溶解作用があり、感染制御に役立ちます。

しかし、濃度や作用時間などによっては、残存する生活細胞にも影響を与える可能性があります。

再生歯内療法では、感染制御と細胞生存を両立する必要があります。

EDTAと成長因子

EDTAは象牙質の無機成分に作用し、表面の状態を変化させます。

これによって象牙質基質に保持された成長因子などが利用可能になり、細胞の生存や分化に影響する可能性があります。

一方、EDTAを長時間作用させればよいという単純な話ではありません。

過度な脱灰や歯根象牙質への影響にも配慮する必要があります。

再生歯内療法では、薬剤の選択だけでなく、濃度、量、作用時間、細胞への影響などを総合的に考える必要があります。

感染歯髄を再現する動物モデル

大阪大学の研究グループは、健康な歯に人工的な露髄を作る実験と、実際のう蝕性歯髄炎では病態が異なることを問題としていました。〔14〕

そこで、ラットにStreptococcus mutansを定着させ、高スクロース食によってう蝕を誘発するモデルを研究しています。

この研究では、比較的浅いう蝕でも歯髄に炎症反応が認められる場合があることが報告されています。

また、MTAによる覆髄後に炎症の改善がみられる条件と、炎症が残る条件についても検討しています。

健康な歯で成功した材料が、感染した歯で成功するとは限らない

健康な動物の歯に人工的な露髄を作り、材料を置いた場合、細菌感染が少ない環境で修復反応を観察できます。

しかし、長期間う蝕が進行した歯では、細菌、細菌由来毒素、炎症性サイトカイン、組織壊死などが複雑に関係しています。

その環境で細胞が生き残り、血管や神経が形成されるかどうかは別の問題です。

将来の歯髄再生材料には、組織形成能力だけでなく、実際の感染環境に対応できる性能も必要になります。

20.すでに始まっているヒト歯髄幹細胞移植――日本5人研究と海外40人研究

ここまで読むと、歯髄再生は動物実験だけの研究のように感じるかもしれません。

しかし、実際にはヒトを対象とした臨床研究も行われています。

ただし、その研究の対象条件や評価方法を正確に理解することが重要です。

2017年・日本の5人パイロット研究

2017年、Nakashimaらは、不可逆性歯髄炎の患者5人を対象に、自家歯髄幹細胞を移植するパイロット臨床研究を発表しました。〔10〕

研究では、患者自身の歯から採取した歯髄細胞を培養し、G-CSFを用いて選択した動員歯髄幹細胞を使用しています。

移植にはアテロコラーゲンも組み合わされました。

この研究は、歯髄再生を目指す細胞移植がヒトで実施された重要な初期臨床研究です。

対象患者は厳しく選ばれていた

今回の研究では、対象患者に明確な条件が設定されていました。

年齢は20〜55歳です。

対象歯は単根管歯で、修復可能な歯質が残っていること、研究登録時に根尖部のX線透過性病変を認めないことなどが参加条件に含まれていました。

また、細胞採取に利用できる別の不要歯を有することも必要でした。

重篤な全身疾患や感染などについても除外条件が設けられています。

つまり、すべての不可逆性歯髄炎や感染根管に対して、同じ方法を適用した研究ではありません。

移植までには複雑な工程がある

研究では、不要歯から歯髄細胞を採取し、GMPに準じた環境で培養・品質管理を行っています。

細胞の生存率、微生物汚染、染色体異常なども評価されています。

このような工程は、通常の歯科医院で覆髄材を使用する処置とは大きく異なります。

単に細胞を採取して根管内に入れればよいという治療ではありません。

4週間後の電気歯髄診

研究では、移植前に陰性だった電気歯髄診が、4週間後には5人中4人で陽性となりました。

これは、神経応答に関係する機能が回復した可能性を示唆する所見です。

しかし、電気歯髄診陽性だけで、正常な神経支配が完全に再構築されたと証明することはできません。

MRIとCBCTの結果

24週間後のMRIでは、根管内に形成された組織の信号が、正常歯髄に近い状態へ変化したと報告されています。

また、CBCTでは5人中3人に象牙質形成に関係する所見が確認されています。

これらの結果は、ヒトの歯髄再生研究における重要な進歩です。

個別症例には異なる経過もあった

ただし、5人すべてが同じ経過を示したわけではありません。

特に患者2の経過は、研究の参加条件と実際の治療時の状態が異なった理由を理解するうえで重要です。

患者2は研究登録後、患者側の事情によって細胞移植までの期間が3か月以上空きました。

その間に歯冠側からの漏洩が起こり、細胞移植時には根尖性歯周炎とサイナストラクトを生じていました。

つまり、研究登録時には根尖部に明らかな透過性病変を認めないという条件を満たしていましたが、実際の移植時には状態が変化していたのです。

この症例に対しては、細胞移植前に根管の感染制御が行われています。

移植後、根尖部病変は縮小しました。

しかし、患者2では24週間後の電気歯髄診が陰性でした。

画像上の根尖病変の改善と、神経応答の回復が必ずしも一致していないことが分かります。

また、患者4では12週間後に歯根膜腔の拡大が認められ、24週間後には根尖部のX線透過性所見が確認されています。

研究では、血液検査や尿検査、心電図などによる安全性評価で、細胞移植に関連する明らかな全身的有害事象は認められなかったと報告されています。

しかし、これはすべての患者で局所的な異常所見が存在しなかったという意味ではありません。

5人という小規模な研究だからこそ、平均的な結果だけでなく、患者ごとの経過を確認する必要があります。

5人研究から何を結論できるのか

研究者らは、歯髄再生に関して有望な結果を報告しています。

しかし、対照群のない5人のパイロット研究です。

長期的な安全性、効果の再現性、他の治療との比較優位性などを確立したものではありません。

また、対象条件が厳しく設定されているため、複雑な感染根管や大臼歯などへ同じ結果を一般化することはできません。

2018年・Xuanらの40人RCT

2018年、Xuanらは、外傷後に歯髄壊死を起こした根未完成永久歯に対し、乳歯由来幹細胞を利用する無作為化比較試験を報告しました。〔11〕

40人が登録され、30人が幹細胞移植群、10人が従来のアペキシフィケーション群に割り付けられました。

幹細胞移植群では、追跡不能となった3人と再外傷を受けた1人が主な解析対象から除外され、26人が評価されています。

対照群は10人が評価されています。

12か月後の結果

研究では、幹細胞移植群において、歯根長の増加と根尖孔の縮小が報告されています。

対照群と比較した歯根長の増加、根尖孔幅の減少はいずれも統計学的に有意でした(P<0.0001)。

また、血管や感覚神経を伴う歯髄様組織の形成に関係する有望な所見が示されています。

ヒトで確認したことと、動物で確認したことを分ける

この研究では、動物モデルを利用して、象牙芽細胞層、血管、神経を含む組織形成が組織学的に検討されています。

一方、ヒト臨床試験では、歯根発育、画像診断、感覚機能などの評価から、有望な結果が得られました。

しかし、ヒトの治療歯すべてについて、正常歯髄と完全に同じ組織が再構築されたことを直接的な組織学検査で証明したわけではありません。

これは研究成果を否定するものではありません。

人間で歯を保存しながら、組織内部の構造を詳細に評価することには、そもそも限界があるからです。

24か月の安全性追跡

研究者らは、幹細胞移植を受けた患者20人について、24か月間の安全性追跡も行っています。

この追跡では、有害事象は観察されなかったと報告されています。

ただし、20人を24か月追跡した結果から、さらに長期間の安全性や、まれな有害事象が存在しないことまで保証できるわけではありません。

より多くの患者を対象とした研究と、長期的な経過観察が必要です。

成人の深いむし歯治療へ一般化できるのか

この研究の対象は、外傷によって歯髄壊死を起こした根未完成永久歯です。

成人の根完成歯や、長期間細菌感染を受けた歯髄とは条件が異なります。

また、細胞の採取や培養、品質管理など、特殊な工程が必要です。

したがって、ヒトで有望な結果が得られたことと、一般歯科診療で確立した治療として利用できることは別です。

ヒト研究が存在することの本当の意味

歯髄再生研究は、すでにヒトでの臨床研究へ進んでいます。

これは大きな進歩です。

一方、対象症例は限定的で、研究規模も小さく、長期予後に関する情報も十分ではありません。

今後は、より多くの患者を対象とした比較研究と長期追跡によって、再現性と患者利益を検証する必要があります。

21.日本の13歳女性の症例――歯根が約1mm伸びたことをどう評価するか

日本歯内療法学会誌には、根未完成永久歯に対して再生歯内療法を行った症例報告も掲載されています。

2023年、紅林尚樹は、根尖病変を伴う13歳女性の下顎犬歯に対する治療を報告しました。〔13〕

術前の状態

対象は右下顎犬歯でした。

歯根は未完成で、根尖部には比較的大きな病変が存在していました。

電気歯髄診は陰性で、歯肉にはサイナストラクトが認められていました。

CBCTでは根尖病変の大きさが評価され、最大断面で約16mmの病変が報告されています。

治療後の経過

1か月後にはサイナストラクトが消失しました。

3か月後には電気歯髄診が陽性になりました。

6か月後には、X線写真で象牙質橋を示唆する所見が確認されました。

24か月後には根尖病変が大きく縮小し、歯根長にも変化が認められました。

歯根長は約23mmから約24mmへ

術前に約23mmだった歯根長は、24か月後のCBCT評価で約24mmとなり、約1mm伸長したと報告されています。

根未完成永久歯では、歯根が伸び、根管壁が厚くなり、根尖孔が狭くなることに臨床的な意味があります。

ただし、この1mmは画像診断上で評価された変化です。

測定条件や画像の再現性なども考慮する必要があり、すべての症例で同じ程度の歯根伸長が起こるという意味ではありません。

これは本当に歯髄再生なのか

この症例では、根尖部に残存生活組織が存在していた可能性についても考察されています。

その場合、治療後に確認された歯根伸長や感覚検査の陽性化は、完全に失われた歯髄を最初から新しく作った結果だけではなく、残っていた組織の修復能力を利用した結果である可能性もあります。

また、電気歯髄診の陽性化、根尖病変の縮小、象牙質橋の形成だけでは、正常な歯髄全体の組織学的再生を証明できません。

症例報告の著者は、これらの所見を歯髄再生の証拠として前向きに解釈しています。

しかし、今回のコラムでは、その著者による解釈と、正常歯髄全体の再生が証明されたかどうかという問題を分けて考えたいと思います。

独自の術式を一般化しない

この症例では、根管内の状態を評価するための独自の診査・処置方法が報告されています。

しかし、単一症例で良好な経過が得られたことを理由に、その方法が一般的な患者へ推奨される標準術式であると結論することはできません。

特に、侵襲的な診査や薬剤の使用条件については、症例報告の内容をそのまま一般診療の手順として適用すべきではありません。

26年後に歯根破折した別症例

同じ報告には、従来のアペキシフィケーションを行い、約26年後に歯根破折が認められた別症例も紹介されています。

これは単一症例であり、アペキシフィケーションを受けた歯が必ず破折するという証明ではありません。

しかし、若年期に治療した歯を長期間保存することの難しさを考える資料として重要です。

治療直後に根尖病変が改善したことと、数十年後まで歯が保存されることは別の評価です。

歯髄再生医療についても、短期的な組織形成だけでなく、長期的な歯の生存を考える必要があります。

22.「歯髄再生に成功した」と証明するには、何を調べる必要があるのか

ここまで紹介してきた研究では、さまざまな方法で治療結果が評価されていました。

しかし、「成功」という言葉が意味する内容は研究によって異なります。

臨床的な成功、画像診断上の成功、組織学的な成功、機能的な成功を区別しなければ、研究結果を正確に比較することはできません。

第1段階:症状と感染の改善

痛み、腫脹、サイナストラクト、打診痛、根尖病変などが改善することは重要です。

患者にとっては、まず症状がなくなり、歯が正常に使えることが大切です。

しかし、これらは通常の根管治療でも達成できる結果です。

したがって、症状の改善だけでは歯髄再生を証明できません。

第2段階:歯髄感覚検査の陽性化

電気歯髄診や冷温診への反応は、神経応答に関係する情報を与えます。

ただし、歯髄の血流や細胞構造を直接評価するものではありません。

感覚検査の陽性化は重要な所見ですが、正常な神経支配が完全に回復したという結論とは分ける必要があります。

第3段階:血流の回復

新しく形成された組織が長期間生存するには、十分な血流が必要です。

レーザードップラー血流測定、パルスオキシメトリー、MRIなどの研究的な評価方法が検討されています。

しかし、いずれの方法にも測定上の制約があります。

単独の検査で正常な歯髄機能を完全に証明できるわけではありません。

第4段階:組織学的な構造

正常な歯髄に近い組織が形成されたかどうかを評価するには、象牙芽細胞層、神経線維、血管、細胞外基質、免疫細胞などの構造を確認する必要があります。

しかし、通常の臨床研究では、保存した歯を抜去して組織学的に調べることはできません。

そのため、動物実験、抜歯予定歯を用いた研究、ヒトの非侵襲的な検査を組み合わせる必要があります。

第5段階:象牙質形成機能

新しく形成された組織が象牙質を作り続けられるかどうかも重要です。

ただし、硬組織形成量が多いほど必ず良いとは限りません。

根管内で不規則な硬組織が過剰に形成されれば、血管や神経の配置に影響したり、将来の再治療を難しくしたりする可能性があります。

第6段階:長期的な組織の維持

治療後数週間や数か月の結果では、長期予後を十分に評価できません。

感染の再発、歯髄壊死、根管内の石灰化、歯根吸収、歯根破折、再治療、抜歯などを長期間追跡する必要があります。

CBCTによる評価の限界

CBCTは、歯根形態や根尖部病変、硬組織形成などを三次元的に評価するために有用な場合があります。

しかし、CBCTには放射線被曝があります。

研究で象牙質橋を評価するために使用されたからといって、生活歯髄療法後のすべての患者へ繰り返しCBCT撮影を行うことが推奨されるわけではありません。

撮影によって得られる情報と被曝の負担を考慮し、必要性を判断することが重要です。

また、CBCTで硬組織が確認できても、その内部の細胞構造や神経機能まで分かるわけではありません。

最後に必要なのは患者にとっての利益

新しい材料が組織形成を促進したとしても、患者にとって本当に価値があるかどうかは別の問題です。

歯の生存率が改善するのか。

感染や疼痛が減るのか。

再治療を減らせるのか。

長期間機能するのか。

治療費や通院負担に見合う利益があるのか。

こうした臨床的な結果を評価する必要があります。

組織学的な成功と、患者の長期的な利益は同じではありません。

23.再生医療が日常診療になるために、何を証明しなければならないのか

歯髄再生の研究は、幹細胞、スキャフォールド、成長因子などの発展によって進歩しています。

しかし、研究成果を一般的な歯科診療へ導入するには、いくつもの段階を超える必要があります。

新しい材料は何を改善するのか

現在の生活歯髄療法では、MTAやBiodentineなどの材料が使用されています。

また、歯髄保存が困難な場合には、根管治療という選択肢があります。

新しい再生用材料を評価する場合、比較対象を適切に設定する必要があります。

MTAを用いた直接覆髄と比較するのか。

全部断髄と比較するのか。

歯髄壊死歯に対する従来の再生歯内療法と比較するのか。

それとも根管治療と比較するのか。

対象となる歯の状態と治療目的によって、適切な比較対象は異なります。

病態の違いを無視してはいけない

機械的な露髄と、深いう蝕による感染性露髄では炎症環境が異なります。

根未完成歯と根完成歯でも、生物学的な条件が異なります。

若年者と高齢者では、歯髄腔の大きさ、細胞の状態、血管の条件などが変わる可能性があります。

そのため、新しい材料を評価する臨床試験では、対象患者を明確にする必要があります。

異なる病態を一つの集団として扱うと、得られた結果の解釈が難しくなる場合があります。

十分な臨床試験が必要

新しい材料を日常診療で使用するには、適切な研究計画に基づく臨床試験が必要です。

症例数、無作為化、比較群、評価者の盲検化、追跡期間、脱落例の扱い、アウトカムの定義などが重要になります。

特に、再生医療研究では組織形成に関する評価項目が注目されやすい傾向があります。

しかし、患者にとっての利益を示すには、歯の生存率、再治療率、生活の質なども評価する必要があります。

材料の品質と再現性

人工スキャフォールドでは、材料の組成や構造が均一である必要があります。

分解速度、滅菌方法、保存条件、細胞への影響なども確認しなければなりません。

細胞移植では、細胞採取、培養、品質管理、安全性確認など、さらに複雑な工程が必要になります。

研究機関で成功した処置を、多くの医療機関で同じように再現できるかどうかが問題になります。

感染と安全性

歯髄再生材料が組織形成を促進しても、感染への対応が不十分であれば、長期的な成功は期待できません。

また、異常石灰化、歯髄壊死、根管内の組織変化、再治療の難しさなども評価する必要があります。

新しい材料が長期間残留する場合には、分解産物や周囲組織への影響も重要です。

日本での臨床導入

細胞を利用した再生医療は、研究内容や提供方法によって、日本の再生医療等安全性確保法や医薬品医療機器等法などとの関係を検討する必要があります。

ただし、すべての歯髄再生関連材料が同じ法的区分になるわけではありません。

細胞を利用するものなのか、医療機器や医薬品として扱われるものなのか、研究として実施するのかによって、必要な手続きや規制は異なります。

研究として実施できることと、承認された医療技術として広く提供できることは別です。

また、患者自身の細胞を利用する場合には、採取、培養、管理、移植などに専門的な設備と費用が必要になることがあります。

どれほど生物学的に優れた技術でも、安全性、再現性、費用対効果が確認されなければ、一般診療で広く利用することは難しいでしょう。

生物学的な進歩と臨床的な利益

2026年の『BDJ Open』レビューでは、biological ceilingという考え方が論じられています。〔1〕

これは、材料の生物学的な機能が高度になっても、それが必ずしも臨床的な利益の増加に直結しない可能性を考えるための枠組みです。

ただし、歯髄再生の進歩に固定的な限界が存在すると証明されたわけではありません。

むしろ、新しい技術がどのような患者に、どのような利益をもたらすのかを考える必要があるということです。

たとえば、新しい材料によって象牙質橋が厚く形成されたとしても、歯髄の長期生存率が改善しなければ、その臨床的な意味は限定的かもしれません。

一方、従来治療では保存が困難だった歯を、安全に長期間機能させられるようになるなら、それは大きな進歩です。

再生医療の最終目的

歯髄のような組織を作ることは、研究として非常に重要です。

しかし、臨床歯科医療では、それだけでは十分ではありません。

形成された組織が長期間機能するのか。

感染や疼痛を防げるのか。

再治療を減らせるのか。

歯を長く保存できるのか。

患者の生活の質を改善できるのか。

再生医療の価値は、最終的にこうした患者利益によって評価されるべきだと考えます。

24.結論――歯の神経を再生する未来と、今ある歯髄を守る現在

今回、2026年の『BDJ Open』系統的レビューを起点に、歯髄の保護・修復・再生について検討してきました。

原著では、ケイ酸カルシウム系材料に関する6件のヒト研究と、再生用スキャフォールドを用いた5件の動物研究が採用されたと報告されています。

ケイ酸カルシウム系材料には、生活歯髄療法で残存歯髄を保存するための臨床的な実績があります。

一方、新しいスキャフォールドは、血管新生、細胞分化、組織形成などの面で有望な研究結果を示しています。

しかし、両者は研究対象や評価方法が異なり、この11研究から直接的な臨床的優劣を結論することはできません。

さらに今回のレビューには、参考文献の書誌情報に複数の不一致が確認されました。

そのため、採用研究と結果を個別に検証する必要があります。

独立して実在を確認できる研究を調べると、動物実験ではスキャフォールドとMTAの直接比較が行われており、ヒトでもTDMHとMTA・Biodentineを比較した臨床試験が存在していました。

また、日本では自家歯髄幹細胞を移植した5人のパイロット研究が報告され、海外でも乳歯由来幹細胞を利用した40人登録の無作為化比較試験が行われています。

したがって、歯髄再生研究を「まだ何も実現していない」と片づけることは適切ではありません。

一方で、失われた歯髄の血管、神経、象牙芽細胞、免疫機能などを元の状態に近い形で再構築し、それを長期間安定して機能させることには、なお多くの課題が残されています。

ここで改めて考えたいのは、歯髄の修復と再生は、どちらが優れているかという単純な競争ではないということです。

修復象牙質が形成され、残存歯髄が生き続けることによって、歯を長期間機能させられるなら、その治療には十分な価値があります。

一方、現在の歯髄保存療法では対応できない歯に対し、再生医療によって新しい選択肢を提供できるようになれば、それも大きな進歩です。

研究室で形成された組織がどれほど正常歯髄に似ていても、その技術によって患者の歯が長期間保存されなければ、臨床的な意味は限定されます。

逆に、形成された組織が正常歯髄と完全に同一でなくても、患者の歯を安全に長期間機能させることができるなら、臨床的には重要な利益となる可能性があります。

もちろん、正常な組織に近い構造を再構築することには大きな意義があります。

しかし、組織学的な完成度と患者の長期予後は、必ずしも同じ指標ではありません。

私は、歯髄再生研究の最終的な価値は、この二つをどのように結びつけるかによって決まると考えています。

歯科医師として現在できることは、歯髄の状態を適切に評価し、保存可能な組織があるなら、その可能性を慎重に検討することです。

同時に、感染や壊死が進行している歯に無理な保存を行い、患者の予後を悪化させることがあってはいけません。

必要な場合には、適切な根管治療によって感染を制御し、歯を保存することも重要な選択肢です。

そして将来、失われた歯髄を機能的に再生する治療が、より多くの患者に安全に提供できるようになれば、歯科治療の考え方はさらに変わるかもしれません。

歯髄を守る治療と、歯髄を再生する研究。

そのどちらも、最終的には歯を長く機能させるための取り組みです。

新しい技術の登場に期待しながらも、その効果を正しく検証し、現在利用できる治療の価値も見失わないこと。

研究の可能性と臨床の現実を区別しながら、患者にとって最も利益のある選択を考えていきたいと思います。

主要参考文献

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https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2023.122257

※文献〔17〕は歯髄再生の根拠文献ではなく、2026年『BDJ Open』レビューの参考文献に記載された巻・論文番号の不一致を確認するための照合資料です。

※国内の専門総説・症例報告については、各論文の原文を参照しました。動物実験、単一症例、学会発表の結果は、一般臨床で確立した治療効果と区別して記述しています。

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