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セメント質剥離をどう診断し、どう分類するか:歯周病・根尖性歯周炎・垂直歯根破折との鑑別と治療戦略

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2026年6月24日

セメント質剥離をどう診断し、どう分類するか:歯周病・根尖性歯周炎・垂直歯根破折との鑑別と治療戦略

(院長の徒然コラム)

はじめに

セメント質剥離は、歯根表面を覆うセメント質がセメント象牙境、またはセメント質内の成長線に沿って部分的または完全に剥離する病態です。英語ではcemental tearと表記され、象牙質を含む場合にはcementodentinal tearと表現されます。臨床的には、限局性の深い歯周ポケット、排膿、瘻孔、歯肉腫脹、咬合痛、動揺、根尖部または歯根側面の透過像を呈し、歯周病、根尖性歯周炎、歯周歯内病変、垂直歯根破折と極めて類似した臨床像を示します。

セメント質剥離が臨床的に問題となる理由は、頻度の高さそのものではありません。むしろ、診断から漏れた場合に、根管治療、再根管治療、SRP、歯周外科、根尖外科、さらには抜歯判断までが、本来の病因に届かないまま進んでしまう点にあります。剥離片が残存していれば、いかに根管内を清掃しても、歯周ポケット内を処置しても、原因が取り残される可能性があります。逆に、垂直歯根破折と誤診すれば、保存可能性のある歯が抜歯に近づくこともあります。

近年、CBCTの普及により、従来のデンタルエックス線写真では見えにくかった頬側・舌側・口蓋側の剥離片や、根尖部に近いセメント質剥離が検出されるようになってきました。その結果、セメント質剥離は「前歯部のまれな歯周病類似病変」としてだけでなく、歯内療法領域においても鑑別に入れるべき病態として再認識されつつあります。

本コラム(もはやコラムというレベルではないが)では、セメント質剥離をroot surface fractureとして捉え、定義、セメント質組織学、病因仮説、疫学、臨床像、画像診断、LeeらによるClass 0〜6 / Stage A〜D分類を整理します。後半では、垂直歯根破折、根尖性歯周炎、歯周病、歯周歯内病変、外部歯根吸収との鑑別、診断確定、治療アルゴリズム、予後因子、文献上の限界について考察します。

セメント質剥離とは何か:歯周病ではなくroot surface fractureとして捉える

セメント質剥離は、歯根表面に存在するセメント質が、セメント象牙境、あるいはセメント質内部の成長線に沿って剥離する病態です。歯周ポケットが深くなる、歯肉が腫れる、排膿する、根尖部に透過像が出る、といった臨床像だけを見ると歯周病や根尖性歯周炎に見えます。しかし、病変の起点は歯周ポケット内のプラークだけではなく、根管内感染だけでもありません。歯根表面の硬組織片そのものが病変形成に関与する点が、この病態の本質です。

セメント質剥離を単純に「歯周病に似た珍しい病気」と扱うと、臨床判断を誤りやすくなります。より正確には、セメント質剥離はroot surface fractureの一種として理解するべき病態であり、歯周組織と根尖周囲組織の両方に波及しうるものです。剥離片が歯肉溝や歯周ポケットと交通すれば、プラークや歯石の停滞部位となり、限局した歯周組織破壊を生じます。剥離片が根尖側に位置すれば、根尖性歯周炎に類似した透過像や瘻孔を形成することがあります。さらに、既根管治療歯に生じた場合には、根管治療の失敗、歯周歯内病変、あるいは垂直歯根破折と見なされることもあります。

この病態の厄介さは、臨床所見が非特異的であることに加え、歯科医師の専門領域によって見え方が変わる点にあります。歯周病を主に診る臨床家には、限局型の深い歯周ポケット、垂直性骨欠損、歯周基本治療抵抗性の病変として見えます。歯内療法を主に診る臨床家には、根尖部透過像、瘻孔、治らない根尖性歯周炎、良好な根管充填後にも残る病変として見えます。補綴・保存の視点では、咬合負担、支台歯、動揺、歯根破折様の骨吸収として見えます。

つまり、セメント質剥離は「歯周」か「歯内」かの二分法に収まりにくい病態です。病変の入口は歯根表面のセメント質剥離であっても、その臨床像は歯周病にも、根尖性歯周炎にも、歯周歯内病変にも、歯根破折にも似ます。そのため、本稿ではセメント質剥離を、歯周病の亜型としてではなく、歯根表面硬組織の剥離に起因する複合的病態として扱います。

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なぜセメント質剥離は見逃されるのか

セメント質剥離が見逃される理由は、病名の認知度だけではありません。むしろ、日常臨床でよく遭遇する疾患の臨床像に、あまりにもよく似ていることが最大の問題です。

たとえば、1歯だけ深い歯周ポケットがあり、BOPや排膿がある場合、多くの臨床家はまず歯周病、局所的な歯石、根面形態、咬合性外傷、あるいは根面溝などを考えます。根尖部透過像があれば根尖性歯周炎を考えます。既根管治療歯で病変が残っていれば、根管治療の不備、見落とし根管、根尖孔外感染、あるいは垂直歯根破折を考えます。これらはいずれも自然な臨床判断であり、決して誤った発想ではありません。

しかし、セメント質剥離では、これらの診断候補の背後に、根面に沿って剥離した硬組織片が存在します。剥離片が病変の中心にある場合、その破片を認識し、除去しない限り、治療は本質的な原因に届きません。SRPを繰り返しても改善しない。再根管治療をしても瘻孔が消えない。根尖外科を行っても病変の説明がつかない。歯根破折を疑って抜歯した後に、実はセメント質剥離であったと認識される。こうした診断の遅れは、セメント質剥離の文献で繰り返し問題視されています。

特に注意すべきなのは、セメント質剥離では歯髄が生活反応を示すことがある点です。根尖部透過像や瘻孔があれば、根管由来の病変と判断したくなります。しかし、生活歯であっても、根尖付近または歯根側面のセメント質剥離によって、根尖性歯周炎に似た病変が形成されることがあります。これは、歯髄診断を軽視したまま画像所見だけで根管治療に進む危うさを示しています。

また、デンタルエックス線写真で剥離片が明瞭に見えるとは限りません。近遠心面の剥離であれば、根面に沿う針状、薄片状、不規則な不透過性像として認識できることがあります。一方、頬側、舌側、口蓋側の剥離では、二次元画像上で歯根と重なり、ほとんど見えないことがあります。根管充填材、補綴物、歯槽骨の重なりも読影を難しくします。したがって、PRで明らかな剥離片が見えないことは、セメント質剥離を否定する根拠にはなりません。

臨床でセメント質剥離を拾い上げるためには、診断名から逆算するのではなく、病変の「不自然さ」を拾う必要があります。全顎的な歯周病の重症度に比べて、1歯だけ急速に骨吸収が進む。生活歯なのに根尖部透過像がある。根管充填は良好なのに瘻孔が残る。歯周基本治療後も同じ部位の深いポケットだけが残る。歯根破折を疑うが、明瞭な破折線が見えない。こうした場面で、セメント質剥離を鑑別に入れることが重要です。

セメント質の組織学:なぜ「剥がれる」という病態が成立するのか

セメント質剥離を理解するには、歯周ポケットや根尖部透過像の話だけでは足りません。病変名の中心にある「セメント質」そのものを理解する必要があります。

セメント質は、歯根表面を覆う石灰化組織であり、歯根膜線維を介して歯を歯槽骨に支持するための重要な組織です。骨と似た石灰化組織ではありますが、通常の骨のような血管、神経、Havers管を持たず、リモデリングも限定的です。歯根膜線維、特にSharpey線維の付着を受けることで、歯と歯周組織をつなぐ機能的な接合部として働きます。

セメント質の厚さは部位によって異なります。一般に歯頸部付近では薄く、根尖部に向かうほど厚くなります。2025年のexpert consensusでは、歯頸部付近ではおよそ20〜50µm、根尖部では150〜200µm程度と整理されています。さらに、セメント質は年齢とともに厚くなる傾向を持ちます。これは単に組織が厚くなるというだけでなく、長い年月の咬合機能、歯根膜線維の再配向、修復反応、加齢性変化を反映していると考えられます。

組織学的には、無細胞性セメント質と細胞性セメント質に大別されます。無細胞性セメント質は主に歯頸部から根中央部に多く、歯根膜線維の付着に深く関与します。細胞性セメント質は根尖部や根分岐部付近に多く、セメント細胞を含み、加齢とともに厚みを増します。さらに、セメント質には外因性線維と内因性線維が関与します。外因性線維は歯根膜線維に由来し、歯の支持に関わります。一方、内因性線維はセメント芽細胞に由来し、セメント質内部の構造形成に関与します。

セメント質と象牙質の境界はセメント象牙境、すなわちCDJです。ここは単なる線ではなく、セメント質と象牙質を接合する界面であり、セメント質剥離が発生しうる重要な場です。文献上、セメント質剥離はCDJに沿って剥がれる場合と、セメント質内部の成長線に沿って剥がれる場合があります。前者ではセメント質が象牙質から剥離し、後者ではセメント質の層構造内で裂けるように剥離します。

では、なぜセメント質は剥がれるのでしょうか。現時点で病因は完全には解明されていませんが、大きく内的要因と外的要因に分けて考えると整理しやすくなります。

内的要因としては、セメント質そのもの、またはCDJの構造的脆弱性が挙げられます。加齢に伴ってセメント質が厚くなり、細胞性セメント質や層状構造が増えると、内部の構造的不均一性が増す可能性があります。CDJではセメント質と象牙質の接合様式が、歯根膜とセメント質の接合とは異なります。加齢や機械的負荷により、この界面の接合強度が変化すれば、セメント質が象牙質から剥がれる素地が生じるかもしれません。

外的要因としては、咬合性外傷、過大な咬合力、ブラキシズム、外傷、補綴支台としての負担、既往の歯周治療や歯内治療、隣在歯抜歯や外科処置に伴う偶発的外力などが候補として挙げられます。特に咬合負担との関連は古くから議論されていますが、ここで注意すべきなのは、セメント質剥離を「噛み合わせが原因」と単純化しないことです。

咬合性外傷や過剰な咬合力がセメント質剥離に関与する可能性はあります。しかし、臨床研究の多くは症例報告や後ろ向き研究であり、因果関係を断定できる段階ではありません。咬合力は、セメント質剥離の背景因子の一つとして考えるべきであり、単独原因として扱うべきではありません。むしろ、加齢したセメント質、構造的に弱いCDJ、既存の歯周支持低下、過去の治療歴、補綴・咬合環境などが重なり、そこに機械的負荷が加わることで発症または進行する、と考える方が臨床的には自然です。

セメント質剥離を診断するということは、単に根面の破片を見つけることではありません。歯根表面の付着界面がどのように破綻し、その破綻が歯周組織や根尖周囲組織の炎症とどうつながっているのかを考えることです。この視点がないと、病変は歯周病にも根尖性歯周炎にも歯根破折にも見え続けます。

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疫学:一般集団では稀でも、専門外来では無視できない

セメント質剥離は、頻度の高い疾患として扱われてきたわけではありません。むしろ、長い間「まれな病態」「症例報告で見かける病変」という位置づけでした。2021年のレビューでは、英語文献37本、内訳として観察研究8本、症例報告29本が整理され、有病率は2%未満、発生率は不明とされています。

これまで有病率に関するデータとして引用されてきたものには、デンタルエックス線写真を用いた研究で0.89%、CBCT画像を用いた研究で1.9%という報告があります。ただし、これらはいずれも画像上の診断に基づくものであり、臨床診査、術中所見、病理組織学的確認を伴った真の有病率とは言い切れません。画像だけで診断した場合、見落としも過剰診断も起こりえます。

一方で、難治性の歯内・歯周病変が集まる専門外来では、セメント質剥離の頻度はもう少し高く検出される可能性があります。2026年に報告された大学院歯内療法クリニックの後ろ向き横断研究では、2019年9月から2024年3月までに紹介された445症例・445歯のうち、25歯にセメント質剥離が認められ、有病率は5.6%でした。この数字は一般集団の有病率ではなく、歯内療法専門外来に紹介される症例群での頻度として読むべきです。しかし、臨床的には非常に重要です。なぜなら、治りにくい根尖部病変、歯周歯内病変様の病変、良好な根管治療後にも説明しにくい病変の中に、セメント質剥離が一定数含まれる可能性を示しているからです。

同研究では、25症例の平均年齢は58.7歳で、男女差は明確ではありませんでした。多くの症例で根管治療が開始または完了しており、Class 2およびClass 4、Stage CおよびStage Dが多かったとされています。つまり、専門外来に紹介される時点では、単純な初期病変ではなく、根尖関与や複数根面関与を伴う進行した症例として発見されることが少なくないと考えられます。

従来の文献では、セメント質剥離は高齢者、男性、前歯部、単根歯に多いと説明されることが多くありました。実際、古い症例報告やレビューでは前歯部の報告が目立ちます。しかし、近年のCBCTを用いた研究では、臼歯部の報告も増えています。2024年の63歯を対象とした後ろ向き研究では、大臼歯に多く、上顎大臼歯では口蓋根、下顎大臼歯では近心根に多い傾向が示されています。これは、従来のPR中心の診断では、近遠心面にある剥離片が見つかりやすく、頬舌側や口蓋側の剥離が見逃されてきた可能性を示しています。

セメント質剥離の疫学を読むときには、どの集団を対象にした研究か、どの画像モダリティを使ったか、臨床診査や病理確認があるかを分けて考える必要があります。一般集団の画像研究で低頻度だから、専門外来で無視してよいとは言えません。逆に、専門外来で5.6%だから一般診療でも同じ頻度であるとは言えません。重要なのは、セメント質剥離が「頻度の高い疾患」かどうかではなく、「見逃すと治療方針を大きく誤りうる疾患」だということです。

臨床像:深いポケット、瘻孔、排膿、生活歯の根尖部透過像

セメント質剥離の臨床像は多彩です。典型的には、限局性の深い歯周ポケット、BOP、排膿、歯肉腫脹、瘻孔、咬合痛、動揺、急速な付着喪失、根尖部または歯根側面の透過像として現れます。病変が歯周ポケットと交通すれば歯周病に見え、根尖側に及べば根尖性歯周炎に見え、既根管治療歯であれば治療失敗に見え、垂直性骨欠損を伴えば歯根破折に見えます。

臨床上、特に重要なのは「局所性」です。全顎的なプラークコントロール、歯石沈着、歯周病の進行度と比較して、ある1歯だけ病変が進んでいる場合、セメント質剥離を鑑別に入れる価値があります。もちろん、局所因子として根面溝、エナメル突起、補綴物マージン、不良修復物、食片圧入、咬合性外傷なども考えるべきです。しかし、歯周基本治療後も同じ部位に6mm以上のポケットが残る、排膿が続く、画像上の骨欠損とポケット位置が一致する、根面に硬い段差や薄片状構造を触知する、といった所見があれば、セメント質剥離を考えるべきです。

もう一つ重要なのは、歯髄診断との関係です。根尖部透過像や瘻孔があれば、臨床家は根管由来の病変を疑います。しかし、セメント質剥離では、歯髄が生活していても根尖部や側方に透過像を示すことがあります。2024年の63歯研究では、根管治療を受けていなかった35歯のうち34歯が生活歯でした。これは、根尖部透過像の存在だけで歯髄壊死や根管治療適応を決めてはいけないことを示しています。

同研究では、初期診断として最も多かったのは根尖性歯周炎であり、次いで歯根破折またはクラック、歯周炎が多かったとされています。つまり、セメント質剥離は臨床現場で最初からセメント質剥離と診断されるよりも、他疾患として疑われることが多いということです。これは病態の希少性だけでなく、臨床像が既存の診断カテゴリーに容易に吸収されてしまうことを意味します。

歯種についても、従来の理解を少し更新する必要があります。古い文献では、前歯部、単根歯、高齢者に多いとされてきました。これは現在でも重要な知見です。しかし、CBCTを用いた近年の研究では、臼歯部のセメント質剥離も決して無視できません。特に上顎大臼歯の口蓋根、下顎大臼歯の近心根など、従来のPRでは確認しにくかった部位に病変が見つかるようになっています。今後は「前歯に多い疾患」としてだけでなく、「CBCTで初めて拾える臼歯部根面病変」としても認識する必要があります。

ここで臨床的に押さえておきたいのは、セメント質剥離を疑う場面は、決して派手な症状があるときだけではないという点です。痛みや腫れがなく、偶発的に発見される場合もあります。一方で、急速な骨吸収、瘻孔、排膿、動揺を伴い、抜歯に近い判断を迫られることもあります。症状の強さではなく、病変の局在、歯髄診断、画像所見、既往治療への反応を総合して判断することが重要です。

【根管治療で治らない病変を考える記事はこちら】

画像診断:PRで見えるもの、CBCTで初めて見えるもの

セメント質剥離の画像診断では、まずPR、すなわちデンタルエックス線写真の読影が重要です。典型的には、歯根表面に沿う細い不透過性像として現れます。文献では、prickle-like、flake-like、chip-like、calculus-like、raindrop-like、oblong、U-shapedなど、さまざまな表現が用いられています。いずれも、根面に沿う小さな硬組織片として認識される点が共通しています。

ただし、PRで見える不透過性片は、セメント質剥離そのものとは限りません。歯石、根面の過形成セメント質、外部吸収に伴う不整像、根尖部の硬組織片、破折片、補綴物や根管充填材の重なりなどと鑑別する必要があります。したがって、画像上の小さな不透過性像を見つけることだけで診断は完結しません。臨床所見、歯周ポケット、瘻孔の位置、歯髄診断、既往治療、CBCT所見を統合する必要があります。

PRでセメント質剥離が検出されやすいのは、主に近遠心面に存在する剥離片です。歯根の頬側、舌側、口蓋側に存在する剥離片は、二次元画像では歯根本体と重なり、見逃されやすくなります。これはセメント質剥離の診断において極めて重要です。PRで見えないからセメント質剥離ではない、とは言えません。

2026年の大学院歯内療法クリニック研究では、CBCTを基準とした場合、PRの感度は0.60、特異度は1.00でした。つまり、PRでセメント質剥離らしい像が見えた場合の診断的価値は高い一方、PRで見えない症例が一定数存在します。25症例のうち15症例はPRとCBCTの両方で検出され、残り10症例はCBCTでのみ検出されました。このデータは、PRが不要という意味ではありません。むしろ、PRで拾える症例は拾い、PRで説明がつかない症例ではCBCTへ進む、という診断ステップの重要性を示しています。

CBCTでは、剥離片の位置、広がり、根面との関係、骨欠損の形態、根尖関与の有無、歯槽頂から根尖まで病変が連続しているか、関与する根面数がどれだけかを評価できます。特にLee分類では、Class分類に骨欠損パターンと根尖関与が、Stage分類に関与根面数が関係するため、3次元的評価が実質的に重要になります。

ただし、CBCTを撮影すれば自動的に診断できるわけではありません。CBCTは、疑って見るから診断に近づきます。セメント質剥離を想定せずにCBCTを読めば、小さな硬組織片を歯石やアーチファクトとして見逃すこともあります。逆に、セメント質剥離を疑いすぎれば、外部吸収、歯根破折、根面形態異常を誤ってセメント質剥離と解釈する危険もあります。

診断上は、PRで見える小不透過性片、CBCTでの根面に沿う硬組織片、局所の骨欠損、ポケット位置、瘻孔の走行、歯髄診断が一致するかを確認します。ガッタパーチャポイントで瘻孔をトレースした場合、その先端が根尖孔ではなく、根面の剥離片周囲に向かうこともありえます。こうした情報が重なるほど、セメント質剥離の疑いは強くなります。

Lee分類:Class 0〜6 / Stage A〜Dをどう読むか

セメント質剥離を専門家向けに論じるうえで、LeeらによるClass 0〜6 / Stage A〜D分類は避けて通れません。この分類の価値は、病変名に番号を付けることではありません。剥離片へのアクセス性、骨欠損のパターン、根尖関与、関与根面数を整理し、診断、治療計画、予後判断に結びつける点にあります。

セメント質剥離の治療は、剥離片を除去できるかどうかに大きく左右されます。したがって、剥離片が臨床的に探知できるのか、歯周ポケット内から到達できるのか、歯槽頂が保たれているのか、根尖部まで病変が及んでいるのか、複数根面にまたがっているのかを分類する意義は大きいといえます。

Class分類はアクセス性、骨欠損、根尖関与の分類です

Lee分類のClassは、剥離片の位置とアクセス性、関連する骨欠損の形態、根尖関与の有無に基づきます。

Class 0〜2では、歯槽頂が保たれているため、通常の歯周ポケットとして表面化しにくいことがあります。特にClass 2では、根尖部透過像を伴うため、根尖性歯周炎として扱われやすくなります。歯髄が失活していれば根管治療の適応となりますが、歯髄生活歯であれば診断は一気に難しくなります。生活歯の根尖部透過像を見たときに、セメント質剥離を鑑別に入れられるかどうかが重要です。

Class 3とClass 4では、歯槽頂骨の喪失や垂直性骨欠損、裂開を伴います。臨床的には歯周病に見えやすい病態です。Class 3は根尖関与を伴わないため、限局型歯周病や咬合性外傷、根面形態異常として扱われやすいと考えられます。Class 4は根尖関与を伴うため、歯周歯内病変、根尖性歯周炎、垂直歯根破折との鑑別がさらに難しくなります。

Class 5とClass 6では、剥離片の歯冠側部分が歯肉溝または歯周ポケット内に及び、臨床的に視認または触知できます。これは診断上は有利に見えますが、治療上は必ずしも単純ではありません。なぜなら、歯冠側で触れられることと、剥離片全体を安全に除去できることは別だからです。特にClass 6では根尖関与を伴うため、歯周外科だけで対応できるのか、根尖外科や意図的再植まで考えるべきか、慎重な判断が必要になります。

この分類で注意すべき点は、Classの数字が単純な重症度順ではないことです。Class 5はアクセス可能である一方、垂直性骨欠損や裂開を伴います。Class 2は歯槽頂が保たれていても根尖関与を伴います。Class 4や6は根尖関与と歯槽頂側の骨欠損が重なり、診断・治療ともに難度が上がります。したがって、Class番号だけを見るのではなく、「アクセス性」「歯槽頂関与」「根尖関与」の3つに分解して読む必要があります。

Stage分類は関与根面数の分類です

Lee分類では、Classに加えてStage A〜Dが設定されています。Stageは、セメント質剥離と関連骨欠損が何面の根面に関与しているかを表します。

Stage分類は、治療計画に直結します。1根面に限局していれば、外科アクセス、剥離片除去、根面処置、再生療法の設計が比較的立てやすくなります。一方、Stage CやStage Dでは、病変が複数根面または全周性に広がるため、清掃性、歯周支持、動揺、咬合負担、再生可能性、抜歯判断まで含めて評価しなければなりません。

PRのみでは、Stage分類は困難です。二次元画像では、頬側・舌側・口蓋側の関与を十分に評価できないからです。PRでClassの一部を推定できても、Stageまで含めた3次元分類にはCBCTが必要となります。実際、Leeらの分類は、CBCTによる3次元的な評価を前提として理解する方が臨床に落とし込みやすいといえます。

2026年の大学院歯内療法クリニック研究では、25歯のうちClass 2とClass 4が多く、Stage CとStage Dが多かったとされています。これは、専門外来に紹介されるセメント質剥離が、単純な1面限局型ではなく、複数根面に及ぶ進行例として見つかることが少なくないことを示しています。特にStage C・Dの病変では、根管治療だけ、SRPだけ、再生材料だけといった単一の治療発想では対応できないことがあります。

分類を本文に載せる意味は、単に情報量を増やすことではありません。臨床家が病変を見たときに、「これはClass 4/Stage Cかもしれない」「根尖関与がある」「複数根面に広がっている」「PRだけでは足りない」「剥離片の除去が難しい」「再生療法をしても予後は慎重に見るべきだ」と考えるための言語を持つことにあります。

セメント質剥離は、病名がついた瞬間に治療方針が決まる病気ではありません。むしろ、セメント質剥離と診断した後に、どこまで広がっているか、どこからアクセスできるか、根尖部に関与するか、歯髄が生活しているか、歯周支持はどれだけ残っているか、患者がメインテナンス可能かを詰める必要があります。その入口として、Lee分類は非常に有用です。

鑑別診断:似た病名に回収しないために


セメント質剥離を臨床で扱ううえで最も重要なのは、疾患名を知っていることではなく、似た病態の中からどのように拾い上げるかです。セメント質剥離は、垂直歯根破折、根尖性歯周炎、歯周病、歯周歯内病変、外部歯根吸収などと重なって見えます。そのため、1つの所見だけで診断を決めるのではなく、歯髄診断、歯周ポケットの形態、画像上の硬組織片、骨欠損の広がり、治療への反応を組み合わせて考える必要があります。


セメント質剥離の診断で危険なのは、見えた所見を既存の病名にそのまま回収してしまうことです。根尖部透過像があるから根尖性歯周炎、深いポケットがあるから歯周病、限局性骨吸収があるから垂直歯根破折、と短絡すると、剥離片という病因が残ります。逆に、セメント質剥離を疑いすぎて、明らかな垂直歯根破折や外部吸収を見逃してもいけません。鑑別診断は、セメント質剥離を特別扱いするためではなく、病因を過不足なく整理するために必要です。

垂直歯根破折との鑑別


垂直歯根破折との鑑別は、セメント質剥離の診断で最も重要な論点の一つです。両者はいずれも、限局性の深い歯周ポケット、垂直性骨欠損、歯肉腫脹、排膿、瘻孔、咬合痛、動揺を示すことがあります。臨床像だけでは区別が難しいことも少なくありません。


しかし、治療方針と予後は大きく異なります。垂直歯根破折では、破折線が歯根を縦方向に走行し、感染や骨吸収を伴う場合、抜歯が最も現実的な治療選択となることが多くあります。

一方、セメント質剥離では、剥離片を適切に除去できれば、歯を機能的に保存できる症例があります。この違いは非常に大きく、セメント質剥離を垂直歯根破折と誤診すれば、保存可能性のある歯が抜歯に近づく可能性があります。


鑑別では、まず既往歴を確認します。垂直歯根破折は既根管治療歯、ポスト装着歯、過大な咬合負担を受ける歯で問題になりやすい病態です。

一方、セメント質剥離は既根管治療歯にも起こりますが、歯髄生活歯にも起こります。根尖部透過像や瘻孔があっても、歯髄診断で生活反応が保たれている場合、根管由来病変や垂直歯根破折だけでなく、セメント質剥離を考える必要があります。
画像上は、垂直歯根破折では破折線、J-shaped lesion、halo-like lesion、根管充填材と歯根外形の間の透過像などが問題になります。

一方、セメント質剥離では、根面に沿う薄片状、針状、不規則な不透過性片を認めることがあります。ただし、PRではどちらも見えないことがあります。CBCTでも、破折線が明瞭に見えない垂直歯根破折や、頬舌側にあるセメント質剥離では判断が難しいことがあります。


したがって、垂直歯根破折との鑑別は、画像だけで完結させるべきではありません。歯髄診断、根管治療歴、ポケットの位置、対側性ポケットの有無、瘻孔の走行、咬合所見、CBCTでの硬組織片の位置、必要に応じた探索的外科処置を組み合わせて判断します。

また、セメント質剥離と歯根破折が同時に存在する可能性もあります。二者択一ではなく、併発もありうる病態として見ておくことが重要です。

根尖性歯周炎との鑑別


根尖部透過像がある場合、臨床家はまず根尖性歯周炎を考えます。これは自然な判断です。しかし、根尖部透過像は歯髄壊死や根管内感染だけで生じるわけではありません。歯根側面や根尖付近のセメント質剥離によって、根尖性歯周炎に似た透過像や瘻孔が形成されることがあります。


この鑑別で最も重要なのは、歯髄診断です。根管治療歴のない歯で根尖部透過像があり、なおかつ歯髄生活反応が明らかに保たれている場合、画像所見だけで根管治療へ進むのは危険です。歯髄生活歯に根尖部透過像がある場合には、外傷、側枝、外部吸収、歯根破折、セメント質剥離などを鑑別に入れる必要があります。


既根管治療歯でも同様です。根管充填が不良で、未処置根管や根管形成の問題がある場合には、再根管治療が合理的です。一方、根管充填が良好で、根管系に明らかな問題が見えないにもかかわらず、限局した骨吸収や瘻孔が残る場合には、根管外の病因を考えるべきです。その中にセメント質剥離が含まれます。


セメント質剥離による病変を根尖性歯周炎と誤診すると、根管治療や再根管治療を行っても原因が残ります。根管内をどれだけきれいにしても、歯根表面に剥離片が残っていれば、炎症の足場は残ります。したがって、根尖部透過像を見たときには、歯髄診断と根面所見を分けて考える必要があります。


【根管充填材除去や再根管治療の考え方はこちら】

歯周病との鑑別

セメント質剥離は、歯周病に非常によく似た臨床像を示します。深い歯周ポケット、BOP、排膿、歯肉腫脹、垂直性骨欠損、動揺を示すため、限局型の歯周炎として扱われやすくなります。特に中高齢者で、ある程度の歯周病既往がある場合、セメント質剥離は歯周病の一部として見過ごされやすくなります。


鑑別では、全顎的な歯周病の重症度と、その歯だけの病変の進み方を比較します。全体としては歯周病が軽度から中等度であるにもかかわらず、1歯の一部位だけに深いポケットがある場合、セメント質剥離を考える価値があります。

歯周基本治療後もその部位だけ改善しない場合、単なる歯石の残存ではなく、根面に沿う硬組織片や剥離面が存在する可能性があります。


また、プロービング時に根面の段差、硬い突起、ざらつき、裂片様構造を感じることがあります。ただし、これも常に触知できるわけではありません。剥離片が歯槽骨に覆われている場合や、根尖側、頬舌側、口蓋側にある場合には、通常の歯周検査だけでは届きません。


歯周病との鑑別で大切なのは、歯周病かセメント質剥離かを二者択一で考えないことです。歯周病を背景にセメント質剥離が生じることもあり、セメント質剥離が局所の歯周組織破壊を進めることもあります。したがって、全顎的な歯周病管理と、局所の病因除去を分けて考える必要があります。

歯周歯内病変との鑑別

歯周歯内病変では、歯内由来病変が歯周組織へ波及する場合、歯周病が歯髄へ波及する場合、あるいは両者が併発する場合があります。セメント質剥離は、この分類の中にすっきり収まらないことがあります。


たとえば、根尖部透過像と深い歯周ポケットがつながっているように見えれば、true combined lesionと判断したくなります。しかし、その交通路の一部にセメント質剥離片が存在し、それが炎症と骨吸収を維持している場合、病態の中心は歯内由来でも歯周由来でもなく、根面硬組織片かもしれません。


歯周歯内病変との鑑別では、歯髄診断、根管治療歴、根管充填の質、ポケットの幅と深さ、瘻孔の走行、CBCTでの骨欠損の連続性、根面に沿う不透過性片の有無を総合します。

歯髄が生活しているにもかかわらず歯周歯内病変様の画像を示す場合、セメント質剥離は重要な鑑別候補になります。

外部歯根吸収・外部歯頸部吸収との鑑別


外部歯根吸収、特に外部歯頸部吸収は、根面の硬組織異常としてセメント質剥離と混同される可能性があります。ただし、病態概念は異なります。外部歯根吸収は、破歯細胞様細胞による歯質の吸収であり、硬組織が失われる病態です。一方、セメント質剥離は、セメント質あるいはセメント象牙質片が根面から剥がれる病態です。


CBCTでは、外部歯根吸収では歯質の欠損、吸収窩、歯髄腔との関係、病変の侵入経路を確認します。セメント質剥離では、根面に沿う硬組織片と、その周囲の透過性病変を確認します。吸収による欠損なのか、剥離した硬組織片なのかを意識して読影する必要があります。


また、両者が完全に独立しているとは限りません。外部吸収とセメント質剥離が同じ歯に関与する症例もありえます。したがって、鑑別診断は「どちらか一方を選ぶ」だけでなく、病変を構成する要素を分解して理解する作業でもあります。

診断確定:CBCT、術中直視、病理組織学的検査


セメント質剥離の診断は、1つの検査だけで完結するものではありません。臨床所見で疑い、PRで拾い、CBCTで位置と広がりを確認し、必要に応じて術中直視と病理組織学的検査で確定する、という段階的な診断設計が必要です。


まず、臨床所見で疑うことが出発点になります。限局性の深い歯周ポケット、歯周基本治療抵抗性、根尖部透過像、生活歯の瘻孔、良好な根管治療後の病変残存、歯根破折を疑うが明瞭な破折線がない症例では、セメント質剥離を鑑別に入れます。


次にPRを確認します。根面に沿う薄片状、針状、不規則な不透過性像がないかを見ます。角度を変えたデンタルエックス線写真が有用なこともあります。ただし、PRで見えないから否定することはできません。頬舌側や口蓋側の剥離片は、二次元画像では重なって見えにくいためです。


疑いが残る場合には、CBCTが重要になります。小FOV、高解像度で、根面に沿う硬組織片の位置、骨欠損の広がり、根尖関与の有無、関与根面数、外部吸収や歯根破折との関係を確認します。CBCTはLee分類を行ううえでも実質的に必要になります。


ただし、CBCTは確定診断そのものではありません。CBCTで剥離片らしい像が見えても、歯石、外部吸収、破折片、アーチファクトなどとの鑑別が必要です。最終的な確定には、術中直視と病理組織学的検査が大きな意味を持ちます。

歯周外科、根尖外科、意図的再植、あるいは抜歯時に剥離片を直接確認し、除去した片を病理組織学的に確認することで、セメント質、象牙質、骨、肉芽組織、嚢胞性病変などの情報が得られます。


術中には、メチレンブルー染色が剥離片や亀裂の境界確認に役立つことがあります。マイクロスコープや拡大視野も、根面の薄い硬組織片、微細な段差、破折線様所見を確認するうえで有用です。

ただし、探索的外科処置には侵襲があります。保存可能性が低い歯や、外科処置による患者負担が大きい場合には、診断のための介入そのものが妥当かどうかも検討しなければなりません。


臨床的には、次のような流れで考えると整理しやすくなります。

まず、臨床所見でセメント質剥離を疑います。次に、PRと歯髄診断で根管由来病変や歯周病との関係を確認します。続いてCBCTで剥離片、骨欠損、根尖関与、根面数を評価します。そのうえでLee分類を行い、剥離片が除去可能か、どの術式で到達するかを考えます。最後に、除去片を病理組織学的に確認し、診断を確定します。

治療戦略:剥離片除去を中心に、歯髄・歯周・外科を組み立てる


セメント質剥離の治療で最も重要なのは、剥離片を残さないことです。根管治療、歯周治療、再生療法、咬合調整、固定、根尖外科、意図的再植などは、いずれも治療選択肢になりえます。しかし、病因となる剥離片が残存していれば、治療は空振りになります。

治療の原則は剥離片と炎症組織の除去です

セメント質剥離では、剥離したセメント質片が機械的刺激となり、細菌の侵入やプラークリテンションの場となり、周囲の炎症と骨吸収を維持します。したがって、治療の第一原則は、剥離片を除去し、関連する肉芽組織や感染源を取り除くことです。


ただし、根面をどこまで処置するかは慎重に考える必要があります。剥離片や感染性沈着物は除去しなければなりませんが、健全なセメント質や残存歯根膜を不必要に損傷すれば、治癒を妨げる可能性があります。特に、剥離直後または細菌付着が少ない病変では、根面の過剰なデブライドメントが常に有利とは限りません。


治療は、剥離片の位置、アクセス性、骨欠損の形態、根尖関与、歯髄状態、歯周支持、動揺、咬合、患者の清掃性とメインテナンス継続性を総合して決めます。つまり、セメント質剥離の治療は、病名に対する一律の処置ではなく、病変の構造に応じた治療設計です。

無症状で骨欠損を伴わない症例

偶発的に見つかったセメント質剥離、あるいはClass 0に相当するような、明らかな骨欠損や症状を伴わない症例では、ただちに外科的介入する必要がない場合があります。剥離片が歯槽骨頂に覆われ、口腔内と交通せず、炎症や骨吸収を伴わない場合、介入リスクが病変リスクを上回ることがあるからです。


この場合でも、放置ではなく、説明と経過観察が必要です。症状の有無、ポケット、動揺、咬合、PRまたはCBCTでの変化を定期的に確認します。咬合性外傷や動揺があれば、咬合調整や固定を検討することがあります。

非外科的治療が成立する条件


剥離片が歯冠側に近く、歯周ポケット内から到達できる場合には、非外科的に除去できる可能性があります。スケーリング、ルートプレーニング、慎重な根面デブライドメントにより、剥離片が取り除ければ、病変が改善することがあります。


ただし、深部にある剥離片、根尖側にある剥離片、頬舌側や口蓋側に位置する剥離片、複数根面に及ぶ剥離片では、非外科的処置の限界があります。触れられる部分だけを処置して、深部の剥離片を残せば、病変は残ります。

したがって、非外科処置を選択する場合でも、CBCTで位置を把握し、処置後の反応を慎重に評価する必要があります。

歯周外科・探索的フラップ


歯周基本治療後も深いポケットが残る場合、垂直性骨欠損や裂開を伴う場合、または剥離片の位置を直視で確認する必要がある場合には、歯周外科が検討されます。フラップを形成し、剥離片、肉芽組織、歯石、感染性沈着物を直視下で除去します。


この段階では、単に「歯石を取る」のではなく、「どこに剥離片があるのか」「剥離片は完全に除去できたのか」「根面はどの程度滑沢化すべきか」「骨欠損は再生療法の適応か」を判断します。

マイクロスコープや拡大視野を用いることで、根面の薄いセメント質片や段差を確認しやすくなります。


歯周外科で重要なのは、原因除去と組織保存のバランスです。剥離片の取り残しは治癒を妨げます。

一方で、健全部を削りすぎれば、セメント質や歯根膜の治癒能力を損なう可能性があります。セメント質剥離の外科処置は、通常の歯周外科よりも根面の観察精度が問われます。

根尖関与例での根管治療・根尖外科


セメント質剥離が根尖部に関与する場合、根尖性歯周炎や歯周歯内病変に見えやすくなります。このとき重要なのは、歯髄診断です。歯髄が壊死している場合や、既根管治療歯で根管内感染が疑われる場合には、根管治療または再根管治療が必要になることがあります。


一方、歯髄が生活している場合、セメント質剥離だけを理由に根管治療へ進むべきではありません。根管治療は、歯髄・根管系の感染を治療する方法であり、根面に存在する剥離片そのものを除去する治療ではありません。生活歯で根尖部透過像を示す症例では、根管治療の前にセメント質剥離、外部吸収、歯根破折などを鑑別する必要があります。


根尖側の剥離片に通常の歯周外科で到達できない場合には、根尖外科が検討されることがあります。根尖部の骨を開窓し、根尖側から剥離片を確認して除去する発想です。

ただし、根尖外科も原因除去の一手段であり、根管治療とセットで機械的に行うものではありません。歯髄状態、根管治療の質、病変の位置、剥離片のアクセス性を総合して判断します。

歯周組織再生療法の位置づけ


セメント質剥離では、剥離片の除去後に垂直性骨欠損や裂開が残ることがあります。この場合、エナメルマトリックスデリバティブ、GTR、骨補填材、rhFGF-2などを用いた歯周組織再生療法が選択肢になります。日本の症例報告でも、剥離片除去後にエムドゲイン、リグロス、GTR膜などを用いて良好な経過を示した症例が報告されています。


しかし、再生療法は原因除去の代替ではありません。剥離片が残ったまま再生材料を用いても、病因が残ります。また、再生療法の成績は、骨欠損形態、根面の状態、感染制御、歯周支持、動揺、咬合、清掃性、メインテナンス継続に大きく影響されます。


特に、根尖関与を伴うClass 4〜6、Stage C/Dのような症例では、再生療法の効果を過大評価すべきではありません。再生材料を使えば治る、という単純な病態ではありません。むしろ、剥離片除去、感染制御、外科アクセス、咬合管理、メインテナンスを含めた総合的な治療設計が必要です。

意図的再植・歯根切除・抜歯


剥離片が通常の歯周外科や根尖外科で到達困難な位置にある場合、意図的再植が選択肢になることがあります。歯を一度抜去し、根面を直視して剥離片を除去し、必要な根面処置を行ったうえで再植する方法です。

ただし、意図的再植は適応症を厳密に選ぶ必要があります。歯根形態、歯周支持、抜歯時の歯根破折リスク、歯根膜保存、患者の年齢や全身状態を慎重に考えるべきです。


複根歯では、病変が特定の根に限局している場合、歯根切除やヘミセクションが検討されることもあります。ただし、セメント質剥離が複数根面や根分岐部に及ぶ場合、保存処置の予後は慎重に判断する必要があります。


保存不能な骨吸収、重度動揺、根破折併発、清掃不能、繰り返す感染、咬合支持としての予後不良、患者の希望や全身状態を考慮した結果、抜歯が妥当なこともあります。セメント質剥離を知ることは、すべての歯を保存するという意味ではありません。保存可能な歯を不要に抜かないためであり、同時に保存に固執して患者負担を増やさないためでもあります。


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予後因子:Class 4〜6、Stage C/D、根尖関与を軽く扱わない


セメント質剥離の予後は、単に剥離片があるかどうかでは決まりません。剥離片を除去できるか、根尖関与があるか、歯槽頂から根尖まで病変が連続しているか、何面の根面に及んでいるか、歯髄状態はどうか、歯周支持はどれだけ残っているか、動揺はあるか、咬合負担はどうか、患者がメインテナンスを継続できるかによって大きく変わります。


特に重要なのは、Lee分類におけるClass 4〜6です。Class 4〜6では、垂直性骨欠損や裂開に加えて、根尖関与やアクセス性の問題が絡みます。根尖関与を伴う病変は、根尖性歯周炎や歯周歯内病変に見えやすいだけでなく、治療アクセスも難しくなります。

Stage C/Dのように複数根面または全周性に及ぶ場合は、清掃性、支持骨、動揺、再生可能性の面でさらに不利になります。


2026年の後ろ向きコホート研究では、37患者45歯のセメント質剥離が検討され、PRで検出できたのは60.0%だった一方、CBCT、直接視認、病理組織学的検査ではすべての対象歯で検出されています。

また、Class 4〜6に分類された歯では不良転帰が多く、分類が予後に関係する可能性が示されています。
同研究では、再生療法に関する興味深い結果も示されています。Class 1〜3では、EMD、異種骨、コラーゲン膜などを用いた症例で比較的良好な結果が得られた一方、Class 4〜6ではEMDや異種骨を用いても良好な結果が得られなかった症例が目立ちました。

これは、再生材料そのものが悪いという意味ではありません。病変のClass、根尖関与、骨欠損形態、感染制御、剥離片除去の完全性が、材料以上に結果を左右する可能性を示しています。


したがって、セメント質剥離に対する再生療法は、「使うか使わないか」ではなく、「どのClass・Stageに、どの原因除去を行ったうえで、どの骨欠損に対して使うのか」という文脈で判断するべきです。特にClass 4〜6、Stage C/Dでは、術前に予後を慎重に説明し、治療後も長期的に評価する必要があります。


予後説明では、保存可能性と不確実性の両方を伝えるべきです。セメント質剥離は、垂直歯根破折と異なり、保存可能な症例があります。

しかし、すべてが保存できるわけではありません。剥離片が完全に除去できない場合、骨欠損が広範な場合、動揺が強い場合、咬合負担が大きい場合、再発を繰り返す場合には、機能的保存が難しいことがあります。

文献データの限界:まだ「わからないこと」が多い病態です


セメント質剥離については、近年、重要なレビュー、expert consensus、後ろ向き研究、症例集積が増えてきました。しかし、エビデンスとしてはまだ不十分な部分が多く残っています。臨床家は、セメント質剥離を過小評価してもいけませんが、過剰に断定してもいけません。


第一に、真の有病率と発生率がまだ不明です。一般集団でどれくらい起きるのか、歯周病患者でどれくらい多いのか、歯内療法専門外来でどの程度見つかるのかは、対象集団と診断方法によって大きく変わります。PRだけで診断する研究、CBCTで診断する研究、直視や病理確認を伴う研究では、同じ「セメント質剥離」という言葉でも検出される病変の範囲が異なる可能性があります。


第二に、病因がまだ確定していません。加齢、セメント質肥厚、CDJの構造的脆弱性、咬合性外傷、ブラキシズム、外傷、根管治療歴、歯周治療歴、補綴負担などが候補として挙げられていますが、どれがどの程度寄与するのかは明確ではありません。咬合力との関連は臨床的に魅力的な仮説ですが、単純な因果関係として扱うには慎重さが必要です。


第三に、診断基準が完全に標準化されているわけではありません。PRで見える硬組織片、CBCT上の根面不透過性片、術中所見、病理組織学的所見のどこまでを必須とするかは、研究によって差があります。今後は、診断基準の統一、CBCT読影基準の明確化、病理確認の位置づけがさらに重要になります。


第四に、治療法別の成績を比較することが難しい点があります。セメント質剥離の治療では、剥離片除去、デブライドメント、根管治療、歯周外科、根尖外科、再生療法、固定、咬合調整、意図的再植などが組み合わされます。そのため、治癒が得られた場合に、どの処置がどれだけ寄与したのかを分離して評価することが困難です。再生療法の効果も、剥離片除去と感染制御の影響を切り離して考えることはできません。


第五に、Lee分類の臨床的妥当性も、今後さらに検証が必要です。Class 4〜6で予後が悪い傾向は重要ですが、症例数、紹介外来のバイアス、術式、術者、材料、フォロー期間の違いが影響します。分類は非常に有用な臨床言語ですが、それ自体が最終結論ではありません。
セメント質剥離は、まだ「わからないこと」が多い病態です。しかし、わからないから無視するのではなく、わからないからこそ鑑別に入れ、記録し、画像を読み、剥離片を病理に出し、治療結果を蓄積する必要があります。現時点で臨床家に求められるのは、過剰な断定ではなく、疑うべき場面を逃さないことです。

臨床で見逃さないための実践的チェックポイント


セメント質剥離を見逃さないためには、臨床の中でいくつかの場面に注意する必要があります。
まず、限局性の深い歯周ポケットを、すぐに全顎的な歯周病の一部として扱わないことです。全体の歯周病の進行度に比べて、1歯だけ、あるいは1面だけ病変が強い場合、根面形態異常、歯根破折、外部吸収とともに、セメント質剥離を鑑別に入れるべきです。


次に、生活歯の根尖部透過像を見たときには、根管治療へ進む前に立ち止まる必要があります。歯髄生活歯に根尖部透過像がある場合、根管由来以外の病因を考えるべきです。セメント質剥離は、その重要な鑑別候補です。


また、良好な根管治療後にも病変が残る場合、根管内感染だけで説明しないことも大切です。根管充填が適切で、見落とし根管や明らかな根管内問題がないにもかかわらず、瘻孔や透過像が残る場合、根面の病因を考える必要があります。


PRでは、根面に沿う小さな不透過性片を探します。見つかれば大きな手がかりになります。ただし、見つからなくても否定はできません。特に頬舌側、舌側、口蓋側の病変では、CBCTでの評価が重要です。
CBCTを撮影した場合には、剥離片の有無だけでなく、根尖関与、歯槽頂関与、骨欠損の連続性、関与根面数を確認します。そしてLee分類でClassとStageを記録します。これにより、治療方針と予後説明が整理しやすくなります。


再根管治療や抜歯の前に、セメント質剥離を鑑別に入れることも重要です。特に「垂直歯根破折かもしれない」と判断する前には、根面に沿う剥離片がないか、生活歯ではないか、CBCTで硬組織片が見えないかを確認する価値があります。


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考察:歯を残す判断は「病名」ではなく「病因の見極め」から始まります


セメント質剥離は、頻度の高い疾患ではないかもしれません。日常臨床で毎日のように遭遇する病気ではありません。しかし、治らない歯周ポケット、説明しにくい根尖部透過像、生活歯の瘻孔、良好な根管治療後の病変残存、歯根破折に見える限局性骨吸収を前にしたとき、この病態を鑑別に入れるかどうかで、その歯の運命が変わることがあります。


歯を残す臨床は、「抜かない」という気持ちだけでは成立しません。病因を見誤れば、保存を目指した治療そのものが空振りになります。根管治療が必要な歯には根管治療が必要です。歯周病が原因なら歯周治療が必要です。垂直歯根破折で保存不能なら、抜歯が妥当なこともあります。しかし、病因がセメント質剥離であるなら、剥離片を認識し、除去しなければ本質的な治療にはなりません。


一方で、セメント質剥離と診断できればすべて保存できる、というわけでもありません。Class 4〜6、Stage C/D、根尖関与、広範な骨欠損、動揺、咬合負担、清掃困難、破折併発があれば、予後は慎重に見るべきです。保存に固執することで、患者さんの時間、費用、侵襲、将来の補綴・インプラント治療の条件を悪化させることもあります。


大切なのは、「抜かない」ことではなく、「抜く前に何を確認したか」です。根尖部透過像を見たときに歯髄診断をしたか。局所性ポケットを見たときに根面硬組織片を疑ったか。PRだけでなくCBCTで頬舌側・口蓋側を確認したか。垂直歯根破折と判断する前に、セメント質剥離の可能性を考えたか。剥離片が除去可能か、病理確認できるか、ClassとStageはどうか。こうした確認の積み重ねが、歯を残す判断の質を上げます。


セメント質剥離は、珍しい疾患名を覚えるためのテーマではありません。歯周病、根尖性歯周炎、歯周歯内病変、垂直歯根破折に見える病変を前にしたとき、臨床家がどこまで病因を掘り下げられるかを問う病態です。診断は、治療技術の前にあります。

歯を残すか、抜くか。その判断の前に、何がその病変を作っているのかを見極める必要があります。
セメント質剥離は、そのことを強く教えてくれる病態です。

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