歯科電子カルテを2030年ほぼ100%へ――年間いくら払い、何時間楽になる?厚労省「医療DX」の費用対効果を検証する|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

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歯科電子カルテを2030年ほぼ100%へ――年間いくら払い、何時間楽になる?厚労省「医療DX」の費用対効果を検証する

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2026年9月18日

歯科電子カルテを2030年ほぼ100%へ――年間いくら払い、何時間楽になる?厚労省「医療DX」の費用対効果を検証する

(院長の徒然コラム)

はじめに

厚生労働省が、歯科を含めた電子カルテの普及を本格的に進めようとしています。

政府目標はかなり明確です。

2025年の医療法等改正に伴い、地域医療介護総合確保法には、2030年12月31日までに電子カルテ普及率を約100%とすることを政府が目指す規定が設けられました。ここでいう電子カルテ普及率についても、「電子診療録等情報その他の心身の状況に関する記録に係る情報に係る電磁的記録を利用する体制を整備している医療機関」の割合という法令上の定義が置かれています。(参考資料1・2)

歯科についても、2026年度中に歯科診療所向け電子カルテの標準仕様Ver.1を策定し、その後、標準仕様に沿った製品の開発・認証・普及へ進む工程が示されています。(参考資料3)

さらに令和9年度概算要求では、「歯科電子カルテの普及」に54億円を要求。認証されたクラウドネイティブ製品の導入や、オンプレミス型システムからのデータ移行などを支援し、補助率は1/2以内・上限ありとされています。なお、2026年9月現在ではあくまで概算要求であり、最終的な予算額や補助制度の詳細が確定したという意味ではありません。(参考資料4)

厚労省がこの事業の目的として掲げているのは、電子カルテの導入・運用コストを適正化しながら、「全国的な医療情報共有基盤の整備」を進めることです。(参考資料4)

ここまで読むと、かなり魅力的な政策に見えます。

  • 電子カルテで診療が便利になる
  • 医科と歯科の情報共有が進む
  • 紹介状などの二重入力が減る
  • クラウド化でシステム費用を抑えられる
  • しかも国が導入費の一部を補助する

私は電子カルテそのものに反対しているわけではありません。

必要な患者情報を安全かつ迅速に確認でき、過去の診療記録をすぐ検索でき、紹介先・紹介元との情報連携が簡単になり、カルテ入力まで効率化されるのであれば、歓迎すべきことです。

ただ、実際に歯科診療所を運営する側から厚労省の資料を一つずつ読んでいくと、どうしても非常に単純な疑問に戻ってきます。

結局、歯科医院1軒あたり年間いくら払うのでしょうか。

そして、

その費用を払った結果、年間何時間の仕事が減るのでしょうか。

さらにもう一つ。

その「年間いくら」の中には、保守料、パソコンの買い替え、データ移行、スタッフ研修まで含まれているのでしょうか。

「医療DXで業務効率化」と言うのであれば、かなり基本的な数字のはずです。

ところが厚労省資料、政府の政策評価資料、国会答弁まで追ってみると、2026年9月現在、この部分は驚くほどはっきりしていません。

そもそも歯科の「電子カルテ普及率」は12%なのか、30.4%なのか、41.5%なのか

最初に、電子カルテの普及率そのものから確認してみます。

2026年7~8月に行われた厚労省委託調査では、歯科診療所のカルテ作成方法について、電子カルテ12%、カルテ作成支援機能付きレセコン51%、同レセコンと紙カルテの併用28%、紙カルテへの手書き9%という結果でした。

つまり、カルテ作成支援機能を持つレセコンを利用している施設は合計79%です。厚労省自身も「カルテ作成支援機能を備えたレセコンが主流」と整理しています。(参考資料3)

しかも、この調査で「電子カルテ」として数えられたのは、「いつ・だれが修正したかの履歴をカルテシステム内で確認できる」と回答したものです。(参考資料3)

ところが、同じ2026年に厚労省が公表した別の調査を見ると数字が変わります。

社会保険診療報酬支払基金が2026年6月に実施したアンケートでは、回答した歯科診療所44,609施設のうち18,533施設が「電子カルテシステム導入済み」と回答しており、その割合は41.5%でした。導入状況未回答施設まで未導入として計算すると36.8%です。(参考資料5)

さらに、2025年11~12月に実施された別の厚労省委託調査では、電子カルテを導入していると答えた割合は30.4%、レセコン導入は94.4%でした。(参考資料6)

つまり、同じ「歯科の電子カルテ普及率」の話でも、調査によって、

  • 12%
  • 30.4%
  • 41.5%

という数字が出てきます。

これは、どれか一つが間違っているという意味ではありません。

法令上、「電子カルテ普及率」には定義が置かれています。一方、実際の調査では調査対象、質問方法、「電子カルテ」と判定する基準が異なります。

したがって、2030年の「約100%」を政策評価するときには、どの調査方法・どの判定基準で達成率を測るのかを明確にする必要があります。

問題は「電子カルテという言葉に定義がない」ことではありません。

政策目標を実際に測定する際の物差しを統一して示す必要がある、ということです。

比較対象は「紙」ではなく、今使っているレセコンではないか

もう一つ重要なのは、電子カルテ12%=歯科医院の88%が紙だけで診療している、という意味ではないことです。

先ほどの最新調査ではカルテ作成支援機能付きレセコンが79%。別の調査でも診療録の84%がシステムで作成されていました。(参考資料3・6)

歯科は「ほとんど紙だから、電子化するだけで一気に効率化する」という状況ではありません。

多数の歯科医院にとっては、

すでに使っているカルテ作成支援レセコンから、新しい電子カルテへ移行する

という話です。

ならば比較すべき相手は紙ではありません。

今使っているシステムです。

新しい電子カルテに何ができるかではなく、

  • 今より何分速くなるのか
  • 今より年間何円高くなるのか、安くなるのか
  • 現在行っている何の作業がなくなるのか
  • 新しく増える作業は何か

という「差分」で評価するべきだと思います。

実際、厚労省委託報告書自身も、電子カルテのメリットとして多く挙げられた「検索」「患者情報の一元管理」「カルテ作成の簡便化」は、すでにカルテ作成支援レセコンでも実現できるメリットであり、レセコンから電子カルテへ移行する理由としては機能しにくいと指摘しています。(参考資料6)

もちろん電子カルテにはメリットがある

ここは公平に見ておきたいところです。

厚労省委託調査で電子カルテ利用者459人にメリットを尋ねると、

  • 過去の記録をすぐ検索・参照できる 81.5%
  • 患者情報を一元的に管理できる 78.9%
  • カルテの作成を簡単にできる 62.3%
  • 紙の保管スペースが不要になる 54.9%
  • 記載ミスや転記ミスが減る 47.3%
  • 他のスタッフと情報共有しやすい 46.4%

という結果でした。(参考資料6)

医科歯科連携にも期待できます。

多数の薬を服用している患者さん、全身疾患のある患者さん、大学病院・総合病院との紹介や逆紹介、周術期の患者さんなどでは、薬剤、アレルギー、感染症、検査情報、紹介情報などを必要なときに確認できれば、診療上大きな価値があります。

当院でも、手術前に歯科受診を求められた患者さんについては、単純な「検診」とは違い、病院側の指示や手術予定などを確認する必要があります。こうした医科歯科連携については、「手術前に『歯科を受診してください』と言われたら何を予約する?」でも取り上げています。

電子的に必要情報が正確にやり取りできるようになれば、確かに便利です。

私が問題にしているのは、「メリットがあるかどうか」ではありません。

そのメリットが、新しく発生する費用と作業を上回るのか。

そこです。

「今ので十分」も「費用が高い」も、どちらも厚労省調査に出ている

電子カルテを導入していない理由も興味深い結果です。

2025年11~12月に実施された厚労省委託調査で、電子カルテ未導入者1,052人へ理由を尋ねると、

  • 現在のレセコンや紙運用で十分対応できている 70.2%
  • 導入や運用にかかる費用が高い 61.4%
  • 導入時の業務負担が大きい 50.3%

でした。(参考資料6)

一方、2026年7~8月の別の最新調査では、厚労省は「電子カルテ未導入の理由は、導入・運用費用が高額という回答が多い」と整理しています。(参考資料3)

調査によって順位や割合は異なります。

しかし、見えてくるものはかなり共通しています。

  • 今のシステムですでに診療が回っている
  • 新しくすると費用がかかる
  • 導入・移行自体にも業務負担がある

現場が電子カルテを嫌っているというより、

「今より高くなり、今より面倒になるなら、なぜ替えるのか」

という極めて普通の疑問を持っているのではないでしょうか。

現在の電子カルテは、レセコンより初期費用も月額費用も高かった

では、費用はどうでしょうか。

厚労省委託調査では、現在市場で利用されているレセコンと電子カルテについて、電子カルテの方が初期費用・月額費用ともに高い傾向が確認されています。

初期費用の平均は、レセコン209.5万円、電子カルテ238.9万円。

平均で約30万円の差です。

月額費用も、電子カルテの方が平均で約1.3万円高いという結果でした。(参考資料6)

もちろん、これは今後登場する認証クラウドネイティブ型電子カルテの将来価格ではありません。

新しい製品によって価格が下がる可能性は十分あります。

したがって、「将来も必ず電子カルテは月1.3万円高い」と言うことはできません。

ただ、現時点の実態としては、

電子カルテはレセコンより安かったのではなく、高かった。

ここからスタートする必要があります。

なお、この月額費用差だけから、各製品の保守契約、端末更新、周辺機器、ネットワーク、データ移行などを含む総保有コストまで比較できるわけではありません。

見落としやすい費用①――保守料

電子カルテ導入時に目につきやすいのは、本体価格と月額利用料です。

しかし長期間使うのであれば、保守料も無視できません。

  • 不具合への対応
  • 問い合わせ
  • アップデート
  • 制度改正への対応
  • 周辺機器との接続
  • システム保守

こうした費用が継続的に発生します。

私自身、実際にシステムについて説明を受けた際、現在利用しているレセコンと電子カルテでは保守料にも差があり、電子カルテ側の方が高くなるという説明を受けたことがあります。

もちろん、これは特定製品について私が受けた説明です。すべての電子カルテ製品に一般化するつもりはありません。

しかし興味深いことに、厚労省の調査でも、電子カルテ未導入歯科診療所が導入を考える条件として、

「現行システムと比べて月額利用料・保守費用が大きく増えないこと」

が最上位級の項目として挙げられています。(参考資料3)

保守料の増加は、一医院だけの特殊な心配ではありません。

見落としやすい費用②――「今のパソコンでは動きません」

さらに重要なのが、パソコンと周辺機器です。

これも私自身が実際に説明を受けたことですが、現在レセコンで使用しているパソコンの性能が電子カルテの動作要件を満たさなければ、パソコンそのものを買い替える必要があると言われたことがあります。

もちろん、これも全製品に当てはまるわけではありません。

今後の認証製品はクラウドネイティブ型を想定しており、従来型オンプレミスシステムのような高性能院内サーバーが不要になる方向性もあります。

しかし、クラウドだから現在のPCが必ずそのまま使えるわけでもありません。

  • 対応OS
  • ブラウザ
  • CPU
  • メモリ
  • 画面解像度
  • セキュリティ要件
  • カードリーダー
  • プリンター
  • スキャナー
  • 画像システム
  • 院内ネットワーク

など、最終的には製品ごとの条件があります。

そして厚労省の調査でも、導入の条件として、

「既存の端末・周辺機器を活用でき、機器更新費用を抑えられること」

が上位に挙がっています。(参考資料3)

歯科医院のPCは1台ではない

歯科医院で使うパソコンは、受付の1台だけとは限りません。

  • 受付
  • 診療室
  • カウンセリングスペース
  • 院長室
  • 各ユニット周辺

複数端末を運用している医院も少なくありません。

「電子カルテ用に1台だけ買い足す」のと、「現在使っている複数端末が要件を満たさず更新する」のでは、費用が全く違います。

さらにモニター、プリンター、スキャナー、ネットワーク機器なども更新が必要になれば、電子カルテ本体とは別に費用が積み上がります。

しかもPCは一度購入すれば永久に使えるものではありません。

だから、本当に知りたいのは、

「電子カルテはいくらですか?」

ではありません。

「このシステムを5年間使うために、医院から最終的にいくら出ていきますか?」

です。

見るべきは「値札」ではなくTCO――総保有コスト

そこで重要になるのがTCO、Total Cost of Ownership、総保有コストという考え方です。

歯科医院が電子カルテを5年間使用すると考えるなら、少なくとも、

  • 電子カルテ導入費
  • 月額利用料
  • 保守料
  • データ移行費
  • PC更新費
  • モニター・プリンター・スキャナー等の周辺機器
  • 院内ネットワーク
  • セキュリティ対策
  • 既存システムとの接続費
  • 設定費
  • スタッフ研修
  • 導入直後の生産性低下
  • 旧システムを残す場合の維持費
  • 将来のPC更新
  • 別システムへ乗り換える場合の再移行費

まで含めて考える必要があります。

電子カルテ本体の見積金額だけでは、本当の医院負担は分かりません。

「1/2以内の補助」でも、総費用が半額になるわけではない

ここで補助金についても注意が必要です。

令和9年度概算要求では、認証されたクラウドネイティブ製品の導入等にかかる費用や、オンプレミス型から認証製品へ移る際のデータ移行費などを支援する構想です。

資料上は補助率1/2以内、上限ありです。(参考資料4)

しかし、

「1/2以内を補助」=「電子カルテを5年間使う総費用が半額になる」

ではありません。

補助対象は何か。

PCはどこまで対象か。

月額利用料や保守料はどうか。

ネットワーク費用はどうか。

補助上限はいくらか。

最終制度の詳細を見なければ、本当の自己負担額は分かりません。

国は「ランニングコストは数分の一になるのでは」と期待している

クラウド化すれば、本当に安くなるのでしょうか。

2025年12月4日の参議院厚生労働委員会では、標準型電子カルテの費用について質問が行われています。

政府側は、クラウドネイティブ型への移行によって初期費用がかなり小さくなり、ランニングコストも「数分の一になるのではないか」との見通しを示しました。

しかし同時に、実際にどの程度の費用が医療機関に乗ってくるのかを確認する必要があるという趣旨の答弁もしています。

さらに、端末導入費、システム利用料、更新、保守などを含めた医療機関側の具体的なコスト負担については、「引き続き検討」と答弁しています。(参考資料7)

これは歯科電子カルテだけについての答弁ではなく、標準型電子カルテ全体についての国会審議です。

そこは区別しなければなりません。

しかし、重要なことが分かります。

「クラウド化すれば安くなるだろう」という見込みと、「医療機関が実際に年間何円払うか」は別問題です。

「数分の一」では医院経営の判断はできません。

数分の一になった結果、何円なのか。

知りたいのはそこです。

データ移行――乗り換えで重要な部分が「次版以降」

歯科では、すでにカルテ作成支援レセコンが広く普及しています。

つまり今後の電子カルテ普及は、多くの場合、ゼロからシステムを導入するのではなく、既存システムから乗り換える話になります。

そこで極めて重要になるのが、データ移行です。

ところが2026年9月に示された歯科診療所向け電子カルテ標準仕様の概要では、

  • システム連携――次版以降において設定予定
  • データ移行――次版以降において設定予定

とされています。(参考資料3)

標準仕様Ver.1ですべてを一度に完成させる必要はありません。

段階的に仕様を作ることには合理性があります。

しかし医院側から見ると、乗り換えで最も重要な部分の一つが、まだ詳細確定前ということでもあります。

  • 患者基本情報はどう移るのか
  • 過去カルテはどうか
  • 歯式はどうか
  • 歯周検査値はどうか
  • 画像情報はどうか
  • 自費治療記録はどうか
  • 文書はどうか
  • 何年間分を検索可能な状態で移行できるのか

ここで費用も使い勝手も大きく変わります。

CTのデータでも、「データが存在する」ことと「受け取った医院で実際に使える」ことは同じではありません。CD・USBなどの媒体とDICOM等のデータ形式・規格を区別する必要があることは、「他院で撮ったCTデータは歯医者に持参できる?」でも解説しました。

電子カルテでも同じで、「データを持っている」「移せる」「移した後も診療で使える」は別々の問題です。

データが完全に移らなければ、旧システムも残すことになるかもしれない

ここからは、現段階での予想です。

仮に、新しい電子カルテへ過去情報を完全には移行できなかったとします。

すると、

  • 現在の診療は新電子カルテを見る
  • 昔の治療は旧レセコンを見る
  • 画像は別システムを見る
  • 一部文書は紙を見る

という状態になる可能性があります。

DXした結果、患者さん1人について確認する場所が増える。

そうなる可能性もゼロではありません。

さらに旧レセコンを数年間参照可能な状態で残す必要があれば、旧システムの保守料と新電子カルテの料金を同時に払う期間が生じる可能性もあります。

これもTCOへ含めるべき費用です。

そして最大の疑問――年間何時間、仕事が減るのか

ここまで費用について見てきました。

しかし、私が最も知りたいのは実は費用そのものではありません。

年間何時間、仕事が減るのか。

これです。

内閣府の「経済・財政新生計画 進捗管理・点検・評価表2025(改訂版)」では、医療DXの成果として、「医療機関等の業務効率化」が明記されています。

ところが、その欄には、医療DX関連施策はいずれも基盤の開発・普及の途上であるため、「定量的な指標の在り方については2027年度を目途に検討し、指標を設定する」と記されています。(参考資料8)

これは歯科電子カルテだけの評価指標ではありません。

医療DX全体についての政府の評価体系です。

しかし、それでもかなり重要です。

2026年9月現在、少なくとも政府全体の医療DX評価体系では、

「業務効率化を具体的に何で測るのか」という定量的な物差しそのものが、まだ確定していません。

一方で、

  • 2030年という期限
  • 約100%という普及目標
  • 54億円という歯科電子カルテ普及の概算要求
  • 1/2以内という補助率
  • 導入工程

は、すでに数字として示されています。

普及を測る数字は先にある。

しかし、「現場の仕事が実際に何時間減ったか」を測る物差しはこれから設定する。

今回、私が最も気になったのはこの順番です。

「普及した」と「効率化した」は同じではない

例えば2030年に電子カルテ普及率が約100%になったとします。

政策上は大きな目標達成です。

しかし、その医院で、

  • 月額料金が上がった
  • 保守料が増えた
  • PCを複数台買い替えた
  • データ移行に時間がかかった
  • スタッフ研修が必要になった
  • 入力項目が増えた
  • 旧システムも維持した
  • IT管理業務が増えた

という状態だったらどうでしょうか。

それでも「普及率約100%」という目標は達成できます。

普及率は、医院の業務効率化そのものを表す数字ではありません。

逆に、費用が多少増えても、

  • 紹介状作成が大幅に短縮された
  • 病院情報をすぐ確認できるようになった
  • 転記がなくなった
  • 重複問診が減った
  • 年間100時間の事務作業が減った
  • 医療安全も向上した

のであれば、十分な価値があるかもしれません。

だからこそ、導入前と導入後を実測して比較する必要があるのです。

月額費用差15.6万円だけでも、年間31.2時間

ここで、一つだけ単純な思考実験をしてみます。

先ほどの厚労省委託調査では、現在の電子カルテとレセコンの月額費用差は平均約1.3万円でした。

単純に12か月を掛けると、

年間15万6,000円。

これは今後の認証電子カルテの価格予測ではありません。

現在の調査で確認された平均差を使った、あくまで理解のための仮定です。

仮に、業務時間1時間の価値を5,000円と置けば、

156,000円 ÷ 5,000円 = 31.2時間

です。

年間240診療日なら、1日あたり約7.8分。

つまり、この単純モデルでは、毎日約8分の仕事が純粋に減って、ようやく月額費用差と同等になります。

1時間3,000円なら年間52時間。

1時間1万円なら年間15.6時間です。

もちろん、医療安全や情報共有など、時間換算できない利益があります。

しかし、この試算には、

  • 保守料の追加分
  • PC買い替え
  • 周辺機器
  • データ移行費
  • スタッフ研修
  • 旧システム維持費

を一切入れていません。

かなり電子カルテ側に有利な試算です。

本当に必要なのは「5年TCO」と「5年間の純業務削減時間」ではないか

ならば、もっと現実的に、

5年間で電子カルテ関連に総額いくら支払ったのか。

そして、

5年間で何時間の業務が純粋に減ったのか。

この二つをセットで測るべきではないでしょうか。

例えば年間費用が30万円増えても、年間300時間の仕事が減るのであれば魅力的です。

逆に年間10万円しか増えなくても、入力やIT管理で年間50時間仕事が増えるのであれば、「業務効率化」と評価するのは難しいでしょう。

もちろん、その上に医療安全、患者利便性、情報連携といった金額化しにくい便益を加えて評価します。

過去の別目的の実証では、紙等から歯式を電子化する工程に患者1人約10分を要した

「電子化=仕事が減る」とは限りません。

2024年に公表された厚労省の歯科情報利活用事業の報告書では、紙等から歯式情報を電子化する別目的の実証について、28~32歯を1歯あたり10秒程度で転記すると約5分、さらに情報のダブルチェック等に約5分、合計約10分程度を要したとされています。

報告書自身も、この方法は医療現場には負担になると指摘しています。(参考資料9)

ここは誤解しないでください。

これから導入される電子カルテで患者さん1人あたり10分余分にかかる、という意味ではありません。

目的も仕組みも異なる実証です。

むしろ今後は、こうした手入力をしなくて済むようにする必要があります。

ただ、この実証は一つの重要な教訓を示しています。

情報を電子化・標準化すること自体は、省力化を保証しない。

設計によっては、新しい入力作業を生み出します。

全国共有のためのデータを、誰が入力するのか

全国の医療機関で情報を共有するには、一定の標準化が必要です。

  • 歯式
  • 傷病名
  • 歯周情報
  • 薬剤
  • アレルギー
  • 感染症
  • 検査情報
  • 紹介情報

こうした情報が共通形式になって初めて、別のシステムでも利用できます。

標準化自体は必要です。

問題は、誰がその標準データを作るのかです。

普段どおり診療入力をすれば、裏側で自動的に共有用データへ変換される。

それなら非常に良いと思います。

しかし、

  • 共有するため、この項目も選んでください
  • このコードを入力してください
  • この欄も埋めてください

が増えるのであれば、全国医療情報基盤を作るための作業を現場が担うことになります。

例えば患者さん1人について追加操作が10秒だけだったとしても、1日30人、年間240診療日なら、

10秒 × 30人 × 240日 = 72,000秒=20時間

です。

一つ一つのクリックは小さくても、年間にすると無視できません。

電子カルテの評価では、機能数だけではなくクリック数まで測るくらいでよいと思います。

「情報が見える」と「診療が速くなる」も同じではない

情報共有にはもう一つ注意点があります。

情報は少なすぎれば困ります。

しかし、多ければ多いほど診療が速くなるわけでもありません。

  • 長年の病名
  • 大量の処方履歴
  • 検査値
  • 紹介状
  • 他院の診療情報

これらがすべて見えるようになっても、今必要な情報を探すため何画面も開かなければならないのであれば、効率化にはなりません。

本当に重要なのは、

「何種類の情報を共有できるか」ではなく、「必要な情報へ何秒で到達できるか」

でしょう。

最終的にはUI、つまり毎日触る画面と操作性が大きく影響します。

歯科医師だけではありません。

  • 歯科衛生士
  • 歯科助手
  • 受付

全員が「以前より速い」「以前より分かりやすい」「以前より間違えにくい」と感じるかどうかまで見る必要があります。

医科歯科情報共有の「完成形」を現在の導入メリットとして語ってはいけない

医療情報共有は、今後の電子カルテ普及で最も期待できる部分の一つです。

しかし、歯科については2026年9月現在、すべてが完成しているわけではありません。

まず標準仕様を作る。

その仕様に沿った製品を開発する。

認証する。

情報共有サービスとの連携を整備する。

歯科固有情報についても段階的に仕様を整える。

という工程です。(参考資料3)

つまり、新しい電子カルテを導入したその日から、将来構想に描かれている医科歯科情報共有がすべて利用できるわけではありません。

現在利用可能な機能。

今後提供される機能。

まだ仕様を検討している機能。

これらは分けて評価するべきです。

将来の完成形を、現在の導入メリットとして全部先取りして計算すると、便益を過大に見積もることになります。

標準化は必要だが、「全国最適」と「医院最適」は同じとは限らない

全国で情報共有する以上、標準化は必要です。

各医院が全く異なる形式でデータを持っていては、相互利用できません。

厚労省が示す標準仕様では、クラウドネイティブ、SaaS、マルチテナント方式など、共通基盤を多くの医療機関で利用する方向が示されています。また、個々の医療機関向けカスタマイズを前提としない考え方も示されています。(参考資料3)

全国規模でシステムを普及させるのであれば合理的です。

個別カスタマイズを減らせば、開発・更新・保守を効率化しやすくなるからです。

一方、医院には医院ごとの業務フローがあります。

  • この項目はこの画面に欲しい
  • この順番なら入力が速い
  • この帳票をこの形で出したい
  • 画像と歯周検査を同時に確認したい

全国にとっての標準化と、個々の医院にとっての最適な操作性は必ずしも一致しません。

ここは実際の認証製品が出てきた時点で評価する必要があります。

クラウド化しても、IT管理責任が消えるわけではない

クラウド型電子カルテには大きなメリットがあります。

  • 院内サーバー管理の軽減
  • バックアップ
  • システム更新
  • 災害時のデータ保全

などは、専門事業者が担いやすくなります。

一方で、リスクがなくなるわけではありません。

  • インターネット障害
  • クラウド障害
  • 認証障害
  • ベンダー障害
  • サイバー攻撃

今度はこうした部分への依存が高まります。

そして医院側にも、

  • アカウント管理
  • アクセス権限管理
  • 端末管理
  • スタッフ教育
  • インシデント対応

などの業務は残ります。

クラウドによってIT管理業務が減る部分がある一方、新しく必要になる管理もあります。

ならば、これも差し引きして「年間純業務時間」で評価するべきでしょう。

最大の論点――便益を受ける人と、費用を負担する人は同じなのか

全国医療情報プラットフォームが完成すれば、社会全体には大きなメリットがあると思います。

患者さんは転院時や救急時に情報を引き継ぎやすくなる。

病院は診療所の情報を確認しやすくなる。

診療所も病院側の情報を利用しやすくなる。

国は全国的な医療情報基盤を構築できる。

研究や政策評価にも利用できる可能性があります。

これは社会的な便益です。

一方で、

  • システムを導入する
  • データを移行する
  • スタッフを教育する
  • PCを更新する
  • 月額料金を払う
  • 保守料を払う
  • 日々入力する
  • IT機器を管理する
  • 障害に対応する

こうした直接的な負担の多くは各医療機関に発生します。

厚労省自身、この事業の目的を「全国的な医療情報共有基盤の整備」としています。(参考資料4)

ならば、

全国的な医療インフラを構築する社会的便益のために、個々の歯科医院がどの程度の費用と労力を負担するのが妥当なのか。

という議論も必要です。

これは電子カルテへの好き嫌いではありません。

受益者と負担者の問題です。

「デメリットを隠している」とまでは言わない。ただし数字の見え方はかなり非対称だ

私は、厚労省が意図的にデメリットを隠している、と断定するつもりはありません。

むしろ詳細な資料まで読めば、

  • 導入・運用費用が高い
  • 保守料を増やしたくない
  • 既存端末を活用したい
  • 導入時の業務負担がある
  • データ移行が重要である
  • 現場の負担を増やさない仕組みが必要である

といった問題は、かなり率直に書かれています。

この点は評価してよいと思います。

私が気になるのは、目につきやすい数字と、医院が本当に知りたい数字が違うことです。

目につきやすい数字は、

  • 2030年
  • 約100%
  • 54億円
  • 1/2以内の補助

です。

一方、医院側が知りたい、

  • 1医院あたり5年間で総額いくらか
  • 年間保守料はいくらか
  • PCを何台更新する必要があるか
  • データ移行費はいくらか
  • スタッフ研修は何時間か
  • 年間何時間仕事が減るか
  • 何年で投資回収できるか

という数字は、まだ十分に示されていません。

私は、この非対称性こそもっと議論されてよいと思います。

厚労省には、少なくともこれだけは実測して公表してほしい

今後モデル事業や先行導入を進めるのであれば、普及率だけではなく、少なくとも次の項目を実測して公表してほしいと思います。

費用

  • 1歯科診療所あたりの導入総額
  • データ移行費
  • PC・モニター・プリンター等の更新額
  • ネットワーク更新額
  • 年間利用料
  • 年間保守料
  • 旧システム維持費
  • 3年間TCO
  • 5年間TCO
  • 10年間TCO
  • 他社システムへの再移行費

時間

  • 導入準備に要した総時間
  • スタッフ研修時間
  • 新しい操作へ慣れるまでの期間
  • 1患者あたりのカルテ入力時間
  • 受付・会計業務時間
  • 紹介状作成時間
  • 他院情報確認時間
  • システム管理・セキュリティ対応時間
  • 医院全体の年間純業務削減時間

医療の質

  • 転記ミスは減ったか
  • 薬剤・アレルギー情報の確認率は上がったか
  • 重複問診は減ったか
  • 重複検査は減ったか
  • 紹介・逆紹介時の情報欠落は減ったか
  • システム障害による診療への影響はどの程度か

ここまで測れば、ようやく費用対効果を評価できます。

年間40万円高くなっても、年間300時間仕事が減り、医療安全が向上するなら、十分価値があるかもしれません。

逆に年間10万円しか増えなくても、年間100時間仕事が増えるなら、「業務効率化」と評価するのは難しいでしょう。

KPIは「何%入ったか」だけでなく「何時間減ったか」にしてほしい

電子カルテ普及率は重要な指標です。

全国で情報共有するには、一定の普及率が必要だからです。

しかし、それだけを成功指標にしてほしくありません。

本当に見たいのは、例えば、

導入前IT費用:年間○万円
導入後IT費用:年間○万円

そして、

導入前業務時間:年間○時間
導入後業務時間:年間○時間
純削減:年間○時間

です。

その上で、医療安全、患者利便性、災害対応、紹介・逆紹介などの金額化しにくい便益を加える。

これなら、費用は増えたが十分な価値があったのか、期待ほど効率化しなかったのかを評価できます。

電子カルテに反対なのではない――良いシステムなら数字でも証明できるはずだ

最後に、もう一度書いておきます。

私は電子カルテに反対しているわけではありません。

大学病院などへ紹介するとき、カルテにすでに入力した情報が紹介状へ自動的に反映される。

病院から受け取った情報も簡単にカルテへ取り込める。

処方薬やアレルギーをすぐ確認できる。

過去の診療情報を瞬時に検索できる。

転院しても必要な歯科情報が引き継がれる。

バックアップが強くなる。

カルテ入力時間まで短くなる。

そこまで実現するなら、ぜひ使いたいと思います。

しかし、その一方で、

  • 保守料が上がる
  • PCを複数台買い替える
  • データ移行に費用がかかる
  • 研修が必要になる
  • 入力項目が増える
  • 旧システムも維持しなければならない

のであれば、その負担も同じ表に載せなければフェアではありません。

「クラウドだから安くなるはず」

ではなく、

5年間使った結果、本当に何円だったのか。

「医療DXで業務効率化が期待される」

ではなく、

1年間で、本当に何時間仕事が減ったのか。

「1/2以内を補助する」

ではなく、

補助後もPC・保守・移行まで含め、医院は最終的に何円払ったのか。

この数字を見たいのです。

そして厚労省には、電子カルテを導入した歯科医院へ数年後、ぜひ一つ質問してほしいと思います。

「以前のレセコンに戻りたいですか?」

多くの医院が、

「もう戻りたくない。今の電子カルテの方が圧倒的に便利だ」

と答えるのであれば、この政策はかなり成功したと言えるでしょう。

逆に、

  • 制度対応のために仕方なく使っている
  • 保守料が増えた
  • PCまで買い替えた
  • クリックが増えた
  • 思ったほど仕事は減らなかった

という声が多いのであれば、たとえ普及率が約100%になったとしても、それだけで成功と呼べるのかは疑問です。

電子カルテ政策の価値を決めるのは、何軒に入れたかだけではありません。

導入した医院が負担した費用と労力を上回る価値を、本当に生み出したか。

全国的な医療情報共有基盤を作るという政策目的には、十分理解できる部分があります。

だからこそ、その価値を、

普及率だけではなく、実際の費用と実際の業務削減時間でも証明してほしい。

私はそう思います。

参考資料

  1. 地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律 第12条の3第4項
  2. 厚生労働省「医療法等の一部を改正する法律」の公布及び一部施行について、2025年12月
  3. 厚生労働省「歯科における医療DXについて」第35回 健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ資料、2026年9月10日
  4. 厚生労働省「歯科電子カルテの普及」令和9年度概算要求資料、2026年
  5. 厚生労働省「直近の電子カルテシステムの普及状況」社会保険診療報酬支払基金アンケート、2026年6月
  6. 厚生労働省委託事業「歯科情報の利活用推進事業」調査・検証事業等報告書、2026年
  7. 参議院 第219回国会 厚生労働委員会 第6号、2025年12月4日
  8. 内閣府「経済・財政新生計画 進捗管理・点検・評価表2025(改訂版)」2025年12月25日
  9. 厚生労働省「歯科情報の利活用推進事業(歯科診療情報による身元確認のためのデータベースに関する検証等)」報告書、2024年3月

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