2026年6月15日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
お子さんの仕上げ磨きをしているときに、「前歯にすき間があるけれど大丈夫かな」「乳歯なのにすきっ歯みたいに見える」と気になったことはありませんか。乳歯のすき間は、必ずしも悪いものではありません。むしろ、これから大きな永久歯が生えてくるための“成長の余白”として大切な場合があります。
ただし、歯並びは「すき間があるか、ないか」だけで決まるわけではありません。仕上げ磨きのときには、歯と歯の間だけでなく、前歯の噛み合わせ、奥歯の高さ、口がぽかんと開いていないか、舌で前歯を押していないか、6歳臼歯が磨けているかも一緒に見てあげると、お子さんの変化に気づきやすくなります。

乳歯のすき間は「永久歯の準備」として見られることがあります
乳歯は永久歯より小さく、あとから生えてくる永久歯、とくに前歯は乳歯より幅が大きくなります。そのため、乳歯の時期に前歯の間にすき間があることは、将来の永久歯が並ぶために必要なスペースとして働くことがあります。
保護者の方から見ると、「すき間がある=歯並びが悪い」と感じるかもしれません。でも、乳歯列ではある程度のすき間が見られること自体は珍しくありません。むしろ、乳歯の時点で歯と歯がぎっしり詰まっていて、フロスが通りにくいほど隙間がない場合には、永久歯が生えるときのスペース不足に注意して見ていくことがあります。
ただし、「すき間があるから絶対に安心」「すき間がないから必ず歯並びが悪くなる」と単純に決めることはできません。顎の成長、歯の大きさ、乳歯のむし歯や早期喪失、口呼吸や舌の癖、指しゃぶりなど、いくつもの要素が重なって将来の歯並びが変わっていきます。
乳歯の歯並びがきれいでも、永久歯まで同じとは限りません
乳歯の時期にきれいに並んでいると、「このまま永久歯もきれいに並びますか」と聞かれることがあります。もちろん、乳歯列が整っていることはよい材料のひとつです。しかし、生え変わりの時期には歯の大きさも本数も変わり、顎の成長も進むため、乳歯の見た目だけで永久歯列を予測することはできません。
実際、乳歯列から永久歯列への変化を追った研究では、乳歯列のときに正常咬合だったお子さんでも、永久歯列で必ず同じように正常咬合になるわけではないことが報告されています。とくに、永久歯が生えそろう時期には叢生、つまり歯が重なって並ぶ状態が増えていくことがあります。
だからこそ、仕上げ磨きは「今日の汚れを落とす時間」であると同時に、「お口の成長を見守る時間」でもあります。前歯のすき間が少しずつ変わっているか、永久歯がどの位置から出てきているか、左右差が強くないかを、毎日完璧に確認する必要はありませんが、ふと気づいた変化を定期検診で相談していただくと、早めの確認につながります。

仕上げ磨きでは、前歯だけでなく奥歯も見てあげましょう
乳歯のすき間というと前歯に目が行きやすいのですが、仕上げ磨きで見てほしい場所は前歯だけではありません。奥歯のかみ合わせ、歯の高さ、歯と歯の間の磨き残しも大切です。
乳歯の奥歯は、永久歯が生える場所を守る役割もあります。むし歯が大きくなって早く抜けてしまうと、隣の歯が寄ってきて、後から生える永久歯のスペースが狭くなることがあります。これは「乳歯だから、いずれ抜けるので大丈夫」と考えすぎない方がよい理由のひとつです。
また、奥歯の乳歯が周りの歯より低く見える、歯ぐきに沈んでいるように見える、片側だけ噛みにくそうにしている、という場合もあります。専門的には低位乳歯と呼ばれる状態が関係することがあり、放置すると清掃しにくくなったり、隣の歯が傾いたり、永久歯の生える場所が不足したりすることがあります。仕上げ磨きのときに「この奥歯だけ高さが違うかも」と感じたら、一度歯科医院で確認しておくと安心です。
6歳前後は、前歯と6歳臼歯が動き始める大切な時期です
6歳前後になると、下の前歯が抜けたり、乳歯のさらに奥から第一大臼歯、いわゆる6歳臼歯が生えてきたりします。この時期は、乳歯と永久歯が混ざる混合歯列期の始まりで、お口の中が大きく変化します。
6歳臼歯は、乳歯の後ろにこっそり生えてくるため、保護者の方もお子さん自身も気づきにくい歯です。しかも、生え始めは歯ぐきに一部が覆われていたり、噛む面の溝が深かったりするため、歯ブラシが届きにくく、むし歯のリスクが高くなりやすい場所です。
前歯のすき間を見ながら、奥に新しく生えてきた歯がないかも一緒に見てあげてください。永久歯が生え始めた時期の注意点については、こちらでも詳しく解説しています。
6歳臼歯の溝が深い、磨きにくい、むし歯が心配という場合には、シーラントが選択肢になることもあります。

口ぽかん、舌の癖、指しゃぶりも歯並びと一緒に見ます
歯並びは、歯だけで決まるわけではありません。唇を閉じる力、舌の位置、飲み込み方、鼻呼吸ができているか、指しゃぶりや爪噛みの癖があるかなど、毎日の口の使い方も関係します。
たとえば、いつも口が開いている、舌が前歯の間に出やすい、飲み込むときに舌で前歯を押している、指しゃぶりが長く続いている、といった状態があると、前歯が噛み合わない開咬や、前歯の突出、噛み合わせの左右差につながることがあります。もちろん、癖があるからすぐに大きな問題になるという意味ではありません。年齢、頻度、続いている期間、噛み合わせへの影響を合わせて見ていくことが大切です。
お子さんの口呼吸、舌の癖、指しゃぶりなどが気になる場合は、院長コラムでも詳しく解説しています。
仕上げ磨きは「磨く時間」から「見守る時間」へ
仕上げ磨きというと、むし歯予防のために行うものというイメージが強いかもしれません。もちろん、歯垢を落とすことはとても大切です。ただ、毎日お口の中を近くで見られるのは、保護者の方だからこそできる大切な見守りでもあります。
見てほしいのは、歯並びを細かく診断することではありません。前より歯と歯の間がきつくなっていないか、永久歯が乳歯の内側や外側から出てきていないか、奥歯だけ低く見えないか、前歯が噛み合わずすき間が開いていないか、口がぽかんと開いたままになっていないか。そうした日常の気づきを、定期検診のときに教えていただければ十分です。
仕上げ磨きをいつまで続けるか迷う方は、こちらの記事も参考にしてください。
また、年齢に合った歯磨き粉やフッ素の使い方も、仕上げ磨きの効果を高めるうえで大切です。

よくある質問
乳歯の前歯にすき間があります。治療が必要ですか?
多くの場合、乳歯の前歯のすき間はすぐに治療が必要なものではありません。永久歯が生えるための余裕として見られることもあります。ただし、すき間が極端に大きい、上唇のすじが強く入り込んでいる、永久歯が生えてもすき間が閉じない、噛み合わせに問題がある場合は、歯科医院で確認しておくと安心です。
乳歯にすき間がない方が心配ですか?
乳歯の時点で歯と歯がぎっしり詰まっている場合、永久歯が生えるスペースが足りるかを見ていく必要があります。ただし、すき間がないから必ず矯正が必要になるわけではありません。顎の成長、歯の大きさ、生え変わりの順番、むし歯の有無などを含めて、定期的に確認することが大切です。
フロスを使うと、歯と歯のすき間が広がりますか?
通常、フロスを使ったから歯と歯のすき間が広がることはありません。むしろ、歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れが残りやすいため、乳歯の奥歯が接している部分や、永久歯が生え始めた時期にはフロスが役立つことがあります。使い方が不安な場合は、歯科衛生士に一度見てもらうと安心です。
指しゃぶりや口呼吸は、いつ相談した方がいいですか?
年齢が低い時期の指しゃぶりは、すぐに叱ってやめさせるよりも、生活リズムや安心できる環境を整えながら見ていくことが多いです。ただし、4歳以降も頻繁に続く、前歯が噛み合わない、口がいつも開いている、舌が前に出る、発音や食べ方が気になる場合は、歯科医院で相談してみてください。必要に応じて、歯科だけでなく耳鼻科などとの連携が必要になることもあります。
仕上げ磨きで気になるところを見つけたら、すぐ受診した方がいいですか?
痛みや腫れ、歯ぐきから膿が出る、永久歯が大きくずれて生えてきた、乳歯が大きく揺れて食べにくい、奥歯が明らかに沈んで見える場合は、早めの相談がおすすめです。急ぎではなさそうでも、写真を撮っておく、次の定期検診で伝える、気になる変化をメモしておくと診察時に役立ちます。
まとめ
乳歯のすき間は、将来の永久歯のための大切な余白であることがあります。すき間があること自体を心配しすぎる必要はありません。
一方で、歯並びはすき間だけで決まるものではありません。仕上げ磨きのときには、前歯のすき間、歯と歯のきつさ、噛み合わせ、奥歯の高さ、6歳臼歯、口ぽかんや舌の癖も一緒に見てあげましょう。
ブランデンタルクリニックでは、お子さんのむし歯予防だけでなく、生え変わりや仕上げ磨きの相談も行っています。広島市中区・本通エリアで、お子さんの乳歯のすき間や将来の歯並びが気になる方は、定期検診の際にお気軽にご相談ください。
