2026年9月06日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
先日、この「歯科衛生士さんのある日の日誌」で、7万9800円のカメラ付き歯ブラシ「Dyson CameraJet」を取り上げました。
歯間をカメラで見て、見つけて、水を噴射する。
「歯ブラシもずいぶん賢くなったなあ」と思っていたら、今度はさらに先へ行く研究が出てきました。
「そもそも、歯ブラシを自分で動かさなくてもいいのでは?」
です。
2026年9月1日、『Journal of Oral Biology and Craniofacial Research』に、全自動口腔ケアロボットを実際に人で評価した前向きクロスオーバー研究が公開されました。
参加したのは10人の歯科医療従事者。同じ参加者が、
- 手用歯ブラシ
- 音波歯ブラシ
- 全自動口腔ケアロボット
- 全自動口腔ケアロボット+MA-T gel
という4条件をそれぞれ試しています。
そして結論から先に言うと、全自動ロボットでもブラッシング後のプラークは有意に減りました。
しかも、この10人の初期研究では、全自動ロボットが手用歯ブラシや音波歯ブラシと比べて大きく見劣りする結果にはなっていません。
とうとう歯磨きまでロボット任せなのでしょうか。
明日から普通の歯ブラシを捨ててもいいのでしょうか。
さすがに、そこまではまだ早そうです。
今回は、日本で開発が進んできたロボット歯ブラシ「g.eN」につながる研究をたどりながら、「くわえるだけの全自動歯ブラシ」は本当に磨けるところまで来たのかを見てみます。
電動歯ブラシでも、人間はまだかなり働いている
「電動歯ブラシなら、自分で動かさなくていいですよね?」
歯科衛生士をしていると、ときどき聞かれる質問です。
確かに電動歯ブラシや音波歯ブラシは、ブラシの細かな振動や回転をモーターが担当してくれます。手用歯ブラシのように、自分の手で細かな往復運動をずっと繰り返す必要はありません。
でも、それで人間の仕事が全部なくなったわけではありません。
- どの歯に当てるか
- 歯と歯ぐきの境目へどう当てるか
- 頬側・舌側・噛む面をどう回るか
- 奥歯の後ろ側まで届いているか
- どのくらい押しつけるか
- いつ隣の歯へ移動するか
こうした操作は、まだ使う人の担当です。
以前の電動歯ブラシの正しい使い方と、歯ぐきを傷めない押しつけ方・当てる角度・動かし方でもお話ししましたが、電動歯ブラシは「スイッチを入れて口に入れておけば、自動的に全部きれいになる機械」ではありません。
2015年に報告された音波歯ブラシの臨床研究でも、電動・音波歯ブラシによるプラーク除去効果はヘッドの形や機能だけではなく、使用者の経験や熟練度にも左右されると考察されています。
つまり、これまでの電動化は主に、「ブラシを細かく動かす仕事」を機械へ渡した段階だったわけです。
では、「歯ブラシをどこへ当て、口の中でどう移動させるか」まで機械へ渡したらどうなるのでしょうか。

全自動歯ブラシは「もっと強い電動歯ブラシ」ではない
今回の話を理解するには、電動歯ブラシと全自動歯ブラシを分けて考えた方が分かりやすいと思います。
普通の電動歯ブラシでは、1つの小さなヘッドを自分の手で歯列に沿って移動させていきます。
一方、全自動歯ブラシでは、マウスピース状の部分を口にくわえ、そこに配置された複数のブラシを機械的に動かします。
日本で開発されている「g.eN」も、歯列に沿う装置へブラシを配置し、ロボット技術を用いてブラッシング動作を自動化する方向で研究開発されてきました。
つまり目指しているのは、「電動歯ブラシをもっと高速にすること」ではありません。
人が歯ブラシを1本ずつ歯へ運び、当て、移動させる操作そのものを自動化すること。
ここが大きな違いです。
口へ入れて、くわえる。装置を作動させる。あとはブラシ側が仕事をする。
本当にそこまで行けば、「歯を磨く」という毎日の習慣はかなり変わります。
ただし、この発想には大きな難所がありました。
実は「くわえるだけの歯ブラシ」は以前からあった。でも、あまり磨けなかった
「マウスピース型の歯ブラシなんて、前からネットで見たことがある」という方もいるかもしれません。
その通りです。
口の中の歯列を一度に覆うU字型などの自動歯ブラシは、以前から登場していました。
ところが、実際に人で調べた研究結果を見ると、かなり厳しいものがあります。
20人の研究では、手磨き31.39%に対して自動装置11.37%
Schnablらのランダム化クロスオーバー・パイロット研究では、20人が自動清掃装置と手用歯ブラシを試しました。
全顎のプラーク減少率は、自動装置で11.37±3.70%、手用歯ブラシで31.39±5.27%。手磨きの方が明らかに高い結果でした。
さらに歯列模型でブラシの接触状態を調べると、場所によってはブラシ毛が歯面へ接触していないことも確認されています。
別のU字型歯ブラシでは「磨かない」との差も出なかった
別の2020年の22人によるクロスオーバーRCTでは、U字型自動電動歯ブラシは通常の電動歯ブラシや普段どおりの歯磨きよりプラーク除去効果が低く、さらに「磨かない」条件との間にも統計学的な有意差が確認されませんでした。
その後、ナイロン毛を使ったY字型装置などへ改良が進みます。
2024年の研究では、Y字型装置は「磨かない」より有意にプラークを減らしました。ただし、45秒・120秒の手磨きと比べると、まだ手磨きの方が高いプラーク除去効果を示しました。
つまり、「歯をブラシで囲えば勝手に全部磨ける」ほど、歯磨きは単純ではなかったのです。

歯磨きは結局「毛先が歯へ届くか」が勝負
歯並びは人によって違います。
歯の大きさも違います。前歯と奥歯では形が違い、頬側と舌側でも形態が違います。歯が少し内側へ傾いていることもあれば、重なっていることもあります。
被せ物、ブリッジ、インプラント、矯正装置がある人もいます。
そのため、マウスピースを口に入れただけで、すべてのブラシ毛がすべての歯へ理想的に接触するとは限りません。
歯ブラシによるプラーク除去の基本は、毛先を歯面へ適切に接触させ、物理的にバイオフィルムを除去することです。
さらに、ただ毛先が触れていればよいわけでもありません。
2022年に毛先形状の違いを比較した臨床研究では、毛先の形状だけでもプラーク除去率に差がみられました。細い毛先は歯面へ届きやすい一方、たわみ方によってはプラークをかき取る力を十分に伝えられない可能性も考察されています。
また同研究では、歯冠部に比べて歯頸部や歯間部ではプラーク除去率が低い傾向がありました。
つまり全自動歯ブラシに必要なのは、「ブラシがあること」ではなく、「必要な場所へ、適切な状態で、きちんと当たり続けること」です。
ここが技術的に難しいところです。
その課題へ挑んできた日本のロボット歯ブラシ「g.eN」
ここで登場するのが、日本で開発されているロボット歯ブラシ「g.eN」です。
g.eNは、突然生まれた家電製品ではありません。
出発点の一つは、早稲田大学のロボット研究です。
2017年には、栄田源氏、松原崇伸氏、石井裕之氏、高西淳夫氏による「Development of automatic teeth cleaning robot driven by cam mechanism」がIEEEの国際会議で発表されています。
研究の目的には、毎日の歯磨きが重要である一方、高齢者や身体的な制約のある人の中には介助なしで歯を磨くことが難しい人がいることが挙げられ、マウスピース型の自動歯面清掃ロボットが検討されていました。
その後、JSTの大学発新産業創出プログラムSTARTにおける社会還元加速プログラム(SCORE)で、「ロボット技術を応用した全自動歯ブラシ」の事業化検証が進められます。
このSCOREの成果をもとに、2018年4月、株式会社Genicsが設立されました。
つまり、歯ブラシを少し便利にするところから始まったというより、「歯磨きという人間の作業をロボットでどう自動化するか」という研究の流れから生まれてきた技術です。
2022年、試作g.eNを実際に人へ使った研究
2022年には、新潟大学、Genics、早稲田大学の研究者らから「試作全自動歯ブラシによるデンタルバイオフィルム除去効果」という研究が発表されています。
この研究では、装置名が明確に「試作全自動歯ブラシg.eN」と記載されています。
220秒間のブラッシング後、平均Plaque Control Record(PCR)は22.4%となり、ブラッシング前より有意に減少しました。全顎を6つのブロックに分けた評価でも、それぞれの部位でブラッシング後のPCRが有意に低下しています。
PCRというのは、簡単にいえば歯のどの面にプラークが残っているかを評価する指標です。
「ロボットのモーターがちゃんと動いた」という機械の動作確認だけではなく、実際に人の口へ使って、プラークがどう変わったかまで評価されたわけです。
さらに2025年の日本歯周病学会では、「全自動歯ブラシg.eNの有用性とマウスクリーンジェル(MA-T)の効果に関する研究」が発表され、手用歯ブラシ、電動歯ブラシ、g.eN、g.eN+MA-Tという比較へ研究が進みました。
そして2026年9月1日、この研究系統とつながる新しい査読論文が公開されます。

ここは大事:2026年論文を「市販版g.eNの試験」とは断定しない
ここで一つ、研究を正確に読むために線を引いておきます。
2022年の研究は、使用装置を「試作全自動歯ブラシg.eN」と明記しています。2025年の学会発表もタイトルにg.eNと明記されています。
一方、2026年9月1日の査読論文では、公開されているタイトル・抄録上、装置はoral care robot(OCR:口腔ケアロボット)と表記されており、「市販版g.eN」という商品名までは明記されていません。
著者や比較条件、これまでの研究経過からg.eNにつながる研究系統として読むことはできますが、本稿では「2026年論文で市販版g.eNそのものを試験した」とは断定しません。
新しい技術の記事ほど、「似ている」「つながっている」と「そのものを試験した」を分けておくことが大切です。
9月1日の研究では、10人が4種類の歯磨きを全部試した
今回の中核となる論文は、Sato氏らによる「Efficacy of the fully automated oral care robot with adjunctive MA-T gel for dental biofilm removal: A prospective crossover study」です。
研究に参加したのは10人の歯科医療従事者です。
比較されたのは、
- 手用歯ブラシ
- 音波歯ブラシ
- 全自動口腔ケアロボット(OCR)
- 全自動口腔ケアロボット+MA-T gel(OCRM)
の4条件です。
ポイントは、「10人を4つのグループへ分けて終わり」ではないことです。
同じ参加者が複数の条件を経験する前向きクロスオーバー研究になっています。
人によって歯並びも違えば、プラークの付き方も違います。同じ人が各条件を経験することで、こうした個人差の影響を抑えながら比較しやすくなります。
プラーク評価にはO’LearyのPlaque Control Recordが用いられ、ブラッシング前後からDental Biofilm Reduction Rate(DBRR:デンタルバイオフィルム減少率)が比較されました。
さらにロボット単独とロボット+MA-Tの条件では、無作為に選ばれた5人について、唾液中の総レンサ球菌とStreptococcus mutans(S. mutans)も評価されています。

結果その1|ロボットでもプラークは有意に減った
まず、一番知りたいところです。
全自動ロボットで、本当に磨けたのでしょうか。
結果は、手用歯ブラシ、音波歯ブラシ、全自動ロボット、ロボット+MA-Tの4条件すべてで、ブラッシング後のPCRが有意に低下しました。
つまり今回の研究では、全自動ロボットを使った場合にも、実際に人の歯面に付着していたデンタルバイオフィルムが減少したということです。
過去のU字型自動歯ブラシ研究では、便利そうでも肝心のプラーク除去が十分ではないケースがありました。
今回の結果が面白いのは、「全自動だから便利そう」という話から、「全自動でもヒトでプラークが減った」ところまで進んだことです。
結果その2|手磨き・音波歯ブラシと大きく見劣りする結果ではなかった
さらに興味深いのが、4条件同士の比較です。
ペアごとの比較では、手用歯ブラシのDBRRが音波歯ブラシより有意に高いという結果が出ました。
一方、手用歯ブラシと全自動ロボット、音波歯ブラシと全自動ロボットなど、その他の比較では統計学的な有意差が確認されませんでした。
論文著者らは、全自動口腔ケアロボットのデンタルバイオフィルム除去効果を、手用歯ブラシや音波歯ブラシとcomparableな結果だったとまとめています。
ただし、ここから「手用歯ブラシの方が音波歯ブラシより優秀」と一般化することもできません。
今回の10人、この研究で使用された歯ブラシ、この研究の条件の中で得られた比較結果だからです。
歯ブラシ全般の優劣を決めた研究ではありません。
「有意差がなかった」と「同等だと証明した」は違う
医学研究を読むときに、とても大切なところです。
今回、手用歯ブラシとロボットの間で統計学的な有意差が確認されなかったからといって、「両者が完全に同じ性能だと証明された」という意味にはなりません。
参加者は10人です。
サンプル数が少ない研究では、本当に差がない場合だけではなく、差があったとしても統計学的に検出できなかった可能性があります。
また、最初から「両者の差があらかじめ決めた範囲以内であること」を証明するために設計された大規模な同等性試験でもありません。
ですから、患者さん向けに一番正確に表現するなら、
「この10人の初期研究では、全自動ロボットは手磨きや音波歯ブラシと比較して大きく見劣りする結果ではなかった」
くらいだと思います。
「ロボットが手磨きと同等だと証明された」「人間より上手に磨ける」とまで言ってしまうと、研究結果より先へ走りすぎます。

MA-T gelを足すと、菌までさらに減る?
今回の研究には、もう一つ面白い条件があります。
全自動ロボット+MA-T gelです。
ロボット単独とMA-T gel併用については、無作為に選ばれた5人の唾液から、総レンサ球菌とS. mutansが調べられました。
結果は少し複雑です。
総レンサ球菌は、MA-T gelを併用した方がロボット単独より有意に大きく減少しました。
一方、S. mutansの減少については、両条件の間に有意差は確認されませんでした。
ですから、「MA-Tを使えば虫歯菌まで一掃できる」と読むのは違います。
しかも、この微生物評価は5人です。
今回の記事ではMA-Tを主役にはしません。現時点では、追加的な抗菌作用について興味深い初期データが出た、と考えるくらいが適切でしょう。
プラークは「薬をかければ消える汚れ」ではない
プラークは単なる食べかすではありません。
細菌などが歯面に集まり、まとまりを作ったデンタルバイオフィルムです。
バイオフィルム中の細菌は、液体中に単独で浮遊している細菌とは性質が異なり、抗菌薬や生体の防御機構に対して抵抗性を示すことがあります。
だから歯科では、歯ブラシなどによって物理的にバイオフィルムを壊し、除去することが非常に重要です。
「強い抗菌成分を塗れば、歯ブラシはいらない」とはなりません。
まずブラシで機械的にバイオフィルムへ働きかける。そこへ化学的なアプローチを組み合わせる。
今回のロボット+MA-Tという設計も、そう考えると理解しやすくなります。
では、もう自分で歯ブラシを動かさなくていい?
ここまで読むと、「それならもう普通の歯ブラシを捨ててもいい?」と思うかもしれません。
まだです。
少なくとも今回の論文から、そこまでは言えません。
参加者は10人
まず、かなり小規模な初期研究です。
10人で、世界中の歯並びや口腔状態を代表することはできません。
しかも全員が歯科医療従事者
参加者は一般の患者さんではなく、歯科医療従事者です。
口腔衛生への意識や、手用歯ブラシを扱う技術などが一般集団と同じとは限りません。
長期追跡ではない
今回の中心は、各条件でブラッシング前後のデンタルバイオフィルムがどう変化するかという短期的な評価です。
数か月・数年使い続けたときに、
- 歯肉炎が減るのか
- 歯周炎の進行を抑えられるのか
- 虫歯が減るのか
- 毎日使っても磨き残しが偏らないのか
- 装置を衛生的に管理し続けられるのか
- 利用者が長期間使い続けられるのか
までは、この研究だけでは分かりません。
複雑な口の中でも同じ結果になるとは限らない
実際の患者さんには、歯列不正、歯肉退縮、深い歯周ポケット、ブリッジ、インプラント、矯正装置、欠損歯、大きく開いた歯間など、さまざまな条件があります。
今回の結果を、そのまますべての口へ当てはめることはできません。
今回の研究は、「もう人間は歯磨きをしなくてよい」と結論づける研究ではなく、「歯磨きを全自動化する技術が、ヒトでも実際にバイオフィルムを減らせるところまで進んできた」ことを示す初期研究と考えるのがよいでしょう。
フロスと歯間ブラシは、まだ失業していません
そして大切なことをもう一つ。
今回ロボットでプラークが減ったからといって、「これ1台で歯間清掃まで全部終了」という研究ではありません。
歯ブラシが得意なのは、基本的にはブラシ毛が接触できる歯面です。
ところが、歯と歯が接触する隣接面や、歯周病によって形が変わった歯間、ブリッジの下、根分岐部などは別問題です。
先ほど紹介した2022年の歯ブラシ研究でも、歯冠部に比べて歯頸部・歯間部ではプラーク除去率が低い傾向がありました。
だから、歯ブラシを動かす担当者はロボットに代わる日が来るかもしれませんが、フロスと歯間ブラシには今のところまだ仕事があります。
歯間ブラシとフロスは、どちらか一方が絶対に優れているわけではなく、歯間の広さや形によって使い分けます。詳しくは、ブラックトライアングルができた歯間での歯間ブラシ・フロスの選び方も参考にしてください。

本当にすごいのは「歯磨きがラクになること」だけではない
健康で手を自由に動かせる人から見れば、全自動歯ブラシは「朝の歯磨きがラクになる」「忙しいときに便利」という新しい家電に見えるかもしれません。
でも歯科医療側から見ると、私はもう少し違うところにも可能性を感じます。
そもそも、自分の手で十分な歯磨きをすることが難しい人です。
自動歯面清掃ロボットの初期研究から、高齢者や身体的な制約によって歯磨きに介助を必要とする人は開発の背景として意識されてきました。
介護の現場では、毎日の口腔ケアを行うのは本人だけとは限りません。
- 家族
- 介護職
- 看護師
- 歯科衛生士
など、誰かが口腔清掃を介助することがあります。
要介護高齢者の口腔ケアに関する研究でも、セルフケアが難しい人の口腔衛生状態を良好に維持することは容易ではなく、含嗽ができない場合にはさらに介助の負担が増えることが指摘されています。
だから全自動歯ブラシの本当の価値は、健康な人の歯磨きを数分ラクにすること以上に、自分で十分に磨けない人や、毎日その人の歯磨きを介助している人の負担を減らせるかどうかに出てくるのかもしれません。
ただし、今回の2026年研究は、要介護高齢者や障害のある人を対象にした研究ではありません。
「介護での有効性が証明された」とは言えません。
むしろ今後、本当にその価値を示すためには、手指の巧緻性が低下した人やセルフケアが難しい人を対象とした臨床研究が必要になります。
高齢のご家族については歯磨きだけでなく、むせ、口の乾燥、入れ歯の状態なども確認したいため、高齢の家族の口腔ケアで見逃したくないサインもあわせてご覧ください。
歯科医師の手も、患者さんの手もロボット化へ?
ここ最近の歯科ロボットを見ていると、少し不思議な気分になります。
つい先日、院長の徒然コラムでは、歯を削る歯科ロボットSARPと「平均39μm」の初期臨床研究を紹介しました。
こちらは、これまで歯科医師がハンドピースを持って行ってきた切削操作の一部をロボットへ渡そうという研究です。
そして今度は、患者さんが毎日手に持っていた歯ブラシです。
もちろん、人間が不要になるという意味ではありません。
SARPでも歯科医師による診断や治療計画が消えたわけではありませんし、全自動歯ブラシでも、
- この人にはどんな清掃用具が必要か
- この場所は本当に磨けているか
- 歯間ブラシが必要か
- 歯周病や虫歯の治療が必要か
という判断まで自動的に代わってくれるわけではありません。
人間が繰り返していた動作の一部を、機械が受け持つ。
歯科のロボット化は、そういうところから進んでいるのかもしれません。
CameraJetとg.eN、同じ未来の歯ブラシでも方向が違う
さらに面白いのが、ほんの数日前に取り上げたDyson CameraJetとの違いです。
7万9800円のカメラ付き歯ブラシ「Dyson CameraJet」は、人間が歯ブラシを持って口の中を動かすことを前提にしながら、カメラや機械学習などで歯磨きを補助する方向へ進んでいます。
一方、g.eNにつながる研究の発想は、「細かなブラッシング操作そのものを人間がしなくてもよくできないか」です。
一方は、歯磨きを賢く補助する。
もう一方は、歯磨きを自動化する。
どちらが将来の主流になるのか。あるいは、いつか両方の技術が組み合わさるのか。
まだ分かりません。
ただ、「歯ブラシは毛の付いた棒」というところから、ずいぶん遠くまで来たことだけは確かです。
g.eNは研究室の中だけの話ではなくなりつつある
そしてg.eNは、研究用試作機だけの話でもなくなっています。
早稲田大学発のロボット研究を基盤にGenicsが事業化を進め、クラウドファンディングを経て量産化へ進んでいます。
ただし、ここも「もう普通に全国へ出荷済み」と先走らない方がよさそうです。
2026年9月6日時点で確認できるGenicsの公式活動報告では、2026年8月16日に「g.eNの出荷開始に向けて配送の準備を進めている」と報告されています。
したがって現時点では、研究室の試作機から、実際に利用者へ届ける段階へかなり近づいていると表現するのが適切でしょう。
歯科衛生士としては「磨いた」より「磨けた」を見たい
全自動歯ブラシ。
カメラ付き歯ブラシ。
AI。
ロボット。
これから歯ブラシがもっと便利になることには、私は期待しています。
毎日行うものだからこそ、少しでも楽になり、続けやすくなる技術には大きな価値があります。
でも歯科衛生士として、一つだけ忘れてほしくないことがあります。
「歯磨きをした」と「歯が磨けている」は同じではない。
これは手用歯ブラシでも同じです。
電動歯ブラシでも同じです。
そして全自動ロボットになっても同じです。
口の中は一人ひとり違います。歯並びも、歯ぐきの位置も、歯間の広さも、歯周ポケットも違います。被せ物、ブリッジ、インプラント、矯正装置がある人もいます。
だから、本当に見たいのは「最新の機械を使っています」ではなく、
「あなたの口の中で、実際にどこまでプラークが落ちていますか?」
です。
必要なら染め出して確認する。歯間を確認する。歯ぐきからの出血を見る。普段使っている歯ブラシを歯科医院へ持ってきてもらう。
そうすれば、「高いから」「新しいから」「ロボットだから」ではなく、その人の口に本当に合っているかを考えられます。
もう歯ブラシすら自分で動かさなくていい日は来るのか
少し前まで、「電動歯ブラシは自分でゴシゴシ動かさなくても、ブラシが動いてくれます」と説明していました。
今度は、「そもそも歯ブラシ自体を自分で動かさなくてよいかもしれない」ところまで来ました。
2026年9月1日に公開された研究では、小規模な初期研究ではありますが、全自動口腔ケアロボットでもヒトのデンタルバイオフィルムが有意に減少しました。
これはかなり面白い結果です。
一方で、長期的な虫歯・歯周病予防効果や、多様な歯列・口腔状態でも同じ結果を再現できるのかは、これから確かめる必要があります。
まだ、「人間の歯磨き終了のお知らせ」ではありません。
それでも、過去の自動歯ブラシ研究では十分に磨けなかった時代から、「歯磨きという動作を本当にロボットへ渡せるかもしれない」ところまで研究が進んできたのは興味深い変化です。
そして、その技術が本当に大きな意味を持つのは、健康な人の歯磨きを少しラクにする場面だけではないのかもしれません。
自分で歯ブラシを十分に動かすことが難しい人。
毎日その人の歯磨きを介助している人。
そうした人たちの口腔ケアを支えられるところまで進んだとき、「歯磨きロボット」は単なる面白い家電ではなく、本当の意味で口腔ケアを変える道具になるのだと思います。
さて。
ロボットに歯磨きを任せる時代は、本当に来るのでしょうか。
歯科衛生士としては、その答えより先に一つだけ確認したいことがあります。
その歯、本当に磨けていますか?
歯ブラシや磨き残しが気になる方へ
「電動歯ブラシを使っているのに、いつも同じところへプラークが残る」「どの歯間ブラシを使えばよいか分からない」「自分の磨き方が合っているのか見てほしい」という場合は、普段使っている歯ブラシや補助清掃用具を歯科医院へ持参して相談する方法もあります。
ブランデンタルクリニックは立町駅徒歩1分、立町中央ビル4階です。4階へはエレベーターをご利用いただけます。通常のご相談はWEB・LINE・電話からご予約いただけます。
また、急な歯の痛みや腫れ、外傷などについては当日電話受付可です。診療状況を確認しながら急患同日可としてご案内していますので、緊急性のある症状ではWEB予約だけで待たず、お電話で症状をお伝えください。
参考文献・資料
- Sato R, Sotozono M, Takenaka S, Ishii H, Noiri Y. Efficacy of the fully automated oral care robot with adjunctive MA-T gel for dental biofilm removal: A prospective crossover study. Journal of Oral Biology and Craniofacial Research. 2026;16(5):101526.
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- 佐藤莉沙子,野杁由一郎,外園真規.全自動歯ブラシg.eNの有用性とマウスクリーンジェル(MA-T)の効果に関する研究. 第68回春季日本歯周病学会学術大会 O-20.
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- 竹下萌乃,岡澤悠衣,加藤啓介.歯ブラシにおける毛先形状の違いがプラーク除去に及ぼす効果.口腔衛生会誌.2022;72:84-91.
- 恵比須繁之,野杁由一郎.バイオフィルム感染症としての歯周病の特徴.炎症・再生.2001;21:141-147.
- 早稲田大学.“口にくわえるだけ”で通常の歯磨きと同じ効果―手による磨き動作不要の次世代型全自動歯ブラシの開発に成功. 2019.
- 早稲田大学.早大発のロボット技術を社会へ―Genicsのロボット歯ブラシ「g.eN」がクラウドファンディング目標達成で量産化. 2025.
- Genics/GREEN FUNDING.g.eN活動報告「配送準備のため、お届けのご住所に変更がある方は変更手続きをお願いいたします」. 2026年8月16日.
