2026年9月21日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
口腔内スキャナーで歯型を取っているところを見ていると、少し不思議な工程があります。
まず上の歯をスキャンします。
次に下の歯をスキャンします。
画面を見ると、上下それぞれの歯並びは、もうきれいな3Dデータになっています。
「これで型取りは終わりかな」と思っていると、先生が患者さんに、
「はい、いつもの位置で噛んでください」
と声をかけました。
そして患者さんが上下の歯を噛み合わせたまま、今度はスキャナーを頬側へ当てて、上下の歯を横から数秒ほど読み取ります。
上顎や下顎をスキャンしたときより、ずっと短い時間です。
最初に見たときは、
「上も下ももうスキャンしたのに、最後に何を読んでいるんだろう?」
と思いました。
この最後の工程が、いわゆるバイトスキャンです。
文献ではvirtual occlusal record、virtual interocclusal record、buccal bite registrationなど、いくつかの呼び方があります。
この記事では分かりやすく、患者さんが噛んだ状態で頬側から情報を取得し、上下顎の位置関係を登録する工程を「バイトスキャン」と呼ぶことにします。
実は、上顎と下顎の歯型がそれぞれ3Dになっただけでは、コンピューターの中で「どう噛み合っているのか」はまだ決まっていません。
バイトスキャンは、別々に存在している上顎と下顎の3Dデータを、患者さんが噛んだときの位置関係へ組み合わせるための重要な情報なのです。
しかも調べてみると、単純に「噛んだところを横から撮っている」というだけではありませんでした。
どこを何本くらい読むのか、歯がどれだけ残っているのか、患者さんがどのように噛んだのか、歯がわずかに動くこと、さらにソフトウェアが上下のデータをどう重ね合わせるのかまで関係しています。
今回は、診療中にはほんの数秒で終わってしまうバイトスキャンの中で、実際には何が行われているのかを詳しく見てみます。
なお、この記事で主に扱うのは、上下の歯が最大限かみ合う最大咬頭嵌合位(maximum intercuspation position:MIP)でのバイトスキャンです。歯科では治療目的によって中心位(centric relation:CR)など別の顎位を記録することもあり、それらをすべて同じ「噛み合わせ」として扱うわけではありません。

上顎と下顎を別々にスキャンしただけでは「噛み合わせ」は決まらない
口腔内スキャナーで上顎を読み取ると、コンピューター上には上顎歯列の3Dモデルができます。
下顎を読み取れば、同じように下顎歯列の3Dモデルができます。
ここまでで分かっているのは、それぞれの「形」です。
- 削った歯の形
- 隣の歯の形
- 歯列の形
- 反対側の歯の形
口腔内スキャナーが歯型を3Dデータへ変換する仕組みについては、以前の記事で詳しく取り上げています。
しかし、ここで一つ問題があります。
コンピューターの中には、上顎の3Dモデルと下顎の3Dモデルが別々に存在しているだけです。
この2つを、どの位置で組み合わせればよいのでしょうか。
下顎を上顎に対して前へ動かすことも、後ろへ動かすこともできます。右にも左にも動かせます。上下方向にも動かせますし、角度を変えることもできます。
つまり、上顎の形と下顎の形が分かっただけでは、上下の位置関係までは分からないのです。
そこで必要になるのがバイトスキャンです。
歯列スキャンは「形」を記録するもの。
バイトスキャンは上下顎の「関係」を記録するもの。
こう分けて考えると、とても分かりやすくなります。

最後に横から読む「バイトスキャン」とは?
上顎と下顎のスキャンが終わると、患者さんに上下の歯を噛んでもらいます。
その状態を保ったまま、上下の歯が同時に見える頬側から口腔内スキャナーで読み取ります。
2022年の日本補綴歯科学会誌のレビューでも、咬合した状態の頬側を口腔内スキャナーで撮像し、そのデータと上顎・下顎のデジタル模型を専用ソフトウェア上で重ね合わせ、位置決めする工程が説明されています(文献12)。
このように、コンピューター上で上下顎を組み合わせる操作はバーチャルマウントとも呼ばれます。
ここで大切なのは、バイトスキャンが「3つ目の歯型」ではないことです。
上顎の模型はすでにあります。
下顎の模型もあります。
バイトスキャンの役割は、
「この上顎と、この下顎は、この位置関係で噛んでいました」
という情報を与えることです。
歯型と咬合採得の役割の違いについては以前の記事で詳しく扱っています。今回はそこからさらに一歩進んで、コンピューターがバイト情報をどう利用しているのかを見ていきます。
コンピューターは何を目印に上下の歯を合わせる?
噛んだ状態を頬側からスキャンすると、そのデータの中には上顎の歯面と下顎の歯面が一緒に入っています。
そして、すでに取得済みの上顎3Dモデルにも同じ歯面があります。
下顎3Dモデルにも同じ歯面があります。
そこで、バイトスキャンに含まれる歯面と、上顎・下顎それぞれの3Dモデルにある対応部分を照合し、上下顎の位置関係を構築します。
イメージとしては、透明な上顎模型と透明な下顎模型が別々に浮かんでいて、横から取得したバイトデータを手掛かりに、両者を一つの「噛んだ口」として配置していくような感じです。
「この1点を合わせる」より、全体がよく合う位置を探す
ここから少しだけ専門的になります。
口腔内スキャンで作られる3Dデータは、たくさんの点や、それらを結んだ小さな三角形の集合として表現できます。
具体的な位置合わせアルゴリズムは口腔内スキャナーやソフトウェアによって異なりますが、研究では対応する表面同士をbest-fitで重ね合わせ、その位置関係や誤差を評価する方法が広く用いられています(文献1)。
現実の計測データなので、すべての点が数学的に完全一致するとは限りません。
そこで、
「この1点だけを絶対に合わせる」というより、対応する表面全体ができるだけ矛盾なく合う位置を探す
という考え方が重要になります。
2023年のレビューでも、スキャン品質、best-fit alignment、ソフトウェアアルゴリズム、上下顎メッシュの重なりなどがvirtual occlusal recordのaccuracyへ影響する要素として整理されています(文献1)。

どうして最後のバイトスキャンだけ短時間で終わるの?
上顎をスキャンするときは、歯列の広い範囲を読みます。
下顎も同じです。
ところが最後のバイトスキャンは、頬側の一部を読んだだけで終わることがあります。
これは、バイトスキャンで上顎や下顎の歯型をもう一度一から作っているわけではないからです。
上顎の3Dモデルも、下顎の3Dモデルもすでにあります。
必要なのは、その2つを結び付けられる共通の目印です。
噛んだ状態で上下の歯を同時に読み、すでにある上顎・下顎モデルの対応部分と照合できれば、上下の位置関係を求めることができます。
そのため、上顎・下顎全体のスキャンより短時間で終了することがあります。
ただし、短ければ短いほどよいわけでも、広く読めば読むほど必ず正確になるわけでもありません。
「何本の歯を横から読むか」でも結果は変わる?
実際に研究されています。
Revilla-Leónらは、virtual occlusal recordに含める歯数や記録位置を変え、上下顎関係のaccuracyを比較しました。
2歯、3歯、4歯を含める条件を比較すると、この研究条件では4歯を含めた記録のtruenessが最も高く、記録位置によっても結果が変化しました(文献3)。
ここでいうtruenessは、「真の値にどれだけ近いか」という意味です。
一方のprecisionは、「繰り返したときにどれだけ似た結果になるか」を表します。
つまり、何度測っても似た結果になることと、その結果が真の位置に近いことは同じではありません。
なお、この研究には2024年に訂正公告が出ており、4歯群を構成する歯種の記載が修正されています。主要な結論そのものの撤回ではありませんが、この記事では特定の歯種の組み合わせをそのまま臨床ルールとして一般化しません(文献4)。
2023年のsystematic reviewでは、MIPのaccuracyへ影響する主な要素として、口腔内スキャナー、歯列スキャン範囲、欠損部、バイト記録の数・位置・範囲、咬合力、歯の動揺、alignment methodが整理されています(文献2)。

左右をたくさんスキャンしたほうが正確……とは限らない?
普通に考えると、右側も左側も広く読み、情報をたくさん集めたほうが正確そうです。
ところが、必ずしも単純にはそうなりません。
口腔内スキャナーは、連続して取得した情報をつなぎながら歯列の3Dデータを構築します。
全顎スキャンそのものにわずかな歪みが生じていれば、複数のバイト情報を同時に完全一致させることが難しくなる場合があります。
2018年の模型研究では、virtual interocclusal recordを取得する位置によって表示される咬合接触が変化し、その差はquadrant scanよりcomplete-arch scanで目立ちました。complete-archではバイト記録を取得した側へ傾くようなtilting effectも観察されています(文献5)。
つまり、
「バイトスキャン=横から撮影した情報をそのまま貼り付ける」
ではなく、複数の3D情報をどう整合させるかという問題が、その裏にあります。

歯が少ないとバイトスキャンが難しくなるのはなぜ?
歯は私たちにとっては歯ですが、位置合わせをするコンピューターから見れば、たくさんの特徴を持った「目印」でもあります。
- 咬頭
- 溝
- 隆線
- 頬側面の豊隆
- 歯ごとの形の違い
こうした特徴が、対応部分を見つける手掛かりになります。
ところが、歯が何本も連続して欠損している場合は、特徴的な歯面そのものが少なくなります。
Renらの2020年の部分欠損模型研究では、欠損部の長さや位置によってvirtual interocclusal recordのaccuracyが影響を受けました(文献6)。
2023年のsystematic reviewでも、2歯以上の欠損領域はMIPのaccuracyを低下させる要因になり得るとまとめられています(文献2)。
だからといって、
「歯が抜けている人には口腔内スキャナーが使えない」
という意味ではありません。
欠損範囲や咬合支持の状態によって、記録方法や補助的な方法を使い分ける必要がある、ということです。
バイトスキャンは「正しい噛み合わせ」を自動で探す装置ではない
患者さんが噛んだ状態をスキャンすると聞くと、
「スキャナーが自動的に正しい噛み合わせを探してくれるのかな?」
と思うかもしれません。
しかし、少し違います。
患者さんがある顎位で噛む
↓
スキャナーがその状態を記録する
↓
ソフトウェアが上下顎モデルを位置合わせする
という順番です。
2024年の日本補綴歯科学会誌でも、現在の咬頭嵌合位が適切で、咬合支持歯が相当数ある場合には、噛ませた状態をIOSで記録することによって咬合関係をPC上へ再現できると説明されています(文献13)。
一方、咬合支持そのものが失われている症例などでは、「噛んでください」だけで上下顎関係を決められず、咬合床や中間媒体などが必要になる場合があります。
つまりバイトスキャンは、患者さんにとって適切な顎位を機械だけで診断する装置ではありません。
人間も毎回まったく同じ位置で噛めるわけではない
バイトスキャンの誤差というと、機械側の精度ばかり考えがちです。
でも、スキャンされる側は人間です。
Jaschouzらが15人の天然歯列を対象に行った研究では、習慣的な咬頭嵌合を繰り返し記録したときの下顎位置のずれは平均42 ± 34 µmでした。
しかも個人別では、22 ± 9 µmから77 ± 58 µmまで幅がありました(文献7)。
つまり、
「もう一度、いつものところで噛んでください」
と言われても、毎回まったく同じ3次元座標へ戻るとは限りません。
少し前後左右へずれたり、噛む力が変わったりすることがあります。
バイトスキャンのaccuracyを考えるときには、機械側だけでなく、人間側の生理的な揺らぎも考える必要があります。
さらに、歯そのものも噛むと少し動く
調べていて、ここが特に面白いところでした。
歯は顎の骨へカチカチに接着されているわけではありません。
歯根と歯槽骨の間には歯根膜があります。
そのため、歯へ力が加わると、ごくわずかに位置が変化します。
つまり、
力がかかる前の歯の位置
と、
噛む力が加わっている瞬間の歯の位置
は、厳密には完全に同じとは限りません。
2023年のsystematic reviewでも、咬合力と歯の動揺はMIPのaccuracyへ影響する要因として挙げられています(文献2)。
ここまで来ると、
「3Dスキャンなのだから、噛み合わせも完全に固定された絶対的な数字として取れる」
というイメージとは少し違ってきます。
画面の中では、上下の歯が「めり込む」ことまである
そして、デジタル咬合にはさらに不思議な現象があります。
実際の口の中では、上の歯と下の歯という硬い物体が互いの内部へ貫通することはありません。
ところが、コンピューター上で上下顎モデルを位置合わせすると、場所によっては上顎と下顎の3Dメッシュが重なり、
歯が相手の歯へ少し「めり込んで」いるような状態
になることがあります。
こうした現象はvirtual occlusal collisionやintermesh penetrationなどと呼ばれます。
「デジタルなのに、そんなことが起こるの?」と思いますよね。
しかし、上顎スキャン、下顎スキャン、バイトスキャンは、それぞれ別々に取得されたデータです。
- 上顎・下顎スキャンの誤差
- 全顎データのわずかな歪み
- バイトスキャンの条件
- 患者さんの噛み方
- 噛む力
- 歯の生理的な移動
- 上下顎を合わせる方法
などが重なり、仮想空間では上下のメッシュ同士が重なってしまう場合があります(文献1,8)。

2026年には「噛むと歯が動くこと」を考慮した臨床研究まで出ている
この問題は現在も研究が続いています。
2026年8月5日、Journal of Prosthodonticsに、Zhaoらによるself-controlled clinical trialが公開されました(文献10)。
対象は29人、第一大臼歯のフルクラウン29本です。
研究では、通常のbuccal bite registrationによる仮想咬合と、歯の生理的変位を考慮したsegmented tooth registrationによる仮想咬合を比較しました。
その結果、生理的歯牙変位を考慮した方法では、通常法よりも負のinterocclusal distance、つまり仮想的な「めり込み」が浅くなり、算出された咬合接触面積も有意に小さくなりました。
著者らは、生理的な歯の変位を考慮することでvirtual occlusal collisionを補正できる可能性を示しています。
つまり、
「現実の歯は、噛むとごくわずかに動く」
という生体側の現象まで、デジタルの噛み合わせへどう反映するかが研究されています。
もちろん、これは29人・29クラウンを対象とした一つの臨床試験です。
この研究だけで、
「従来のバイトスキャンは間違っている」
とは言えません。
むしろ、デジタル咬合をさらに実際の口腔内へ近づけるためには、歯根膜を介した歯の微小な移動まで考える余地があることを示した研究と考えるのがよさそうです。

「めり込み」が見つかったら、ソフトで消せば終わり?
ここにも、もう一段難しい問題があります。
画面上で上下の歯が食い込んで見えるなら、
「重なっているところをソフトで修正すればいいのでは?」
と思います。
しかし、補正方法そのものによって結果が変わる可能性があります。
2024年に掲載された研究では、occlusal collisionを口腔内スキャナー側で補正する方法と、歯科用CADソフト側で補正する方法などが比較され、補正方法によって上下顎関係のtruenessが変化しました(文献9)。
さらに、CAD上で衝突部分をtrimする方法では、元のスキャンデータの咬合面形態に体積変化が生じました。
つまり、デジタル咬合では、
「どう上下を合わせるか」だけでなく、「合わなかった部分をどう補正するか」まで結果に関係し得る
ということです。
では、画面で赤い歯は「強く噛みすぎている歯」?
口腔内スキャナーの画面では、上下の歯を組み合わせたあと、接触や近接する部分が色分けされることがあります。
赤く表示された場所を見ると、
「ここに一番強い力がかかっているんだ」
と思ってしまいそうです。
しかし、ここも注意が必要です。
3D surface scanによる仮想咬合では、上下歯面同士の距離や、設定された接触判定範囲をもとに咬合接触面積などを評価します。表示方法や閾値はスキャナーやソフトウェアによって異なります。
それは、その歯に何Nの力がかかっているかを直接測定していることとは別です。
Ayuso-Monteroらが31人の有歯顎成人を対象に行った研究では、T-Scan、3D surface scan、咬合記録から算出した咬合接触面積は同じ結果にはなりませんでした(文献11)。
したがって、
画面が赤い=その歯に最大の咬合力が○Nかかっている
と単純に読み替えることはできません。
バイトスキャンで「顎を動かしたときの全部」まで分かるわけではない
もう一つ区別しておきたいのが、静的な噛み合わせと顎運動です。
通常のバイトスキャンでは、患者さんがある顎位で噛んだときの上下顎関係を登録します。
主に、カチッと噛み込んだ位置の情報です。
しかし実際の口は、その位置で止まっているだけではありません。
- 前へ動かしたときにどこが当たるか
- 左右へ動かした途中でどこが接触するか
- どの歯が離れるか
- どの順番で接触するか
といった情報は別です。
「噛んだ位置を記録すること」と「顎運動全体を記録すること」は同じではありません。
この違いについては、カチカチと噛んだときと、前後左右へギリギリ動かしたときに見ている情報の違いでも詳しく取り上げています。
それなら、バイトスキャンは信用できないの?
ここまで誤差や限界の話をすると、
「じゃあ、デジタルの噛み合わせは信用できないの?」
と思われるかもしれません。
そういう意味ではありません。
Abdulateefらは10人を対象に、virtual interocclusal recordと従来のPVSによる咬合記録を比較しました。
仮想咬合記録が接触を正しく識別する感度は87%、特異度は95%で、著者らは咬合接触の識別について臨床的に許容できるaccuracyと評価しています(文献8)。
一方で、3回繰り返したバイトスキャンでは、近接部位を3回とも一貫して検出できた割合は74%で、同じ側の反復スキャンの再現性はfairと評価されました。また、接触を余計に作るよりも実際の接触を見逃す傾向や、上下の仮想模型が食い込む現象も報告されています。
ここが大切です。
デジタルだから絶対に間違わない。
でもありません。
誤差があり得るから使えない。
でもありません。
バイトスキャンは現在のデジタル補綴で非常に有用な方法ですが、何を記録していて、どこに変動や誤差が入り得るのかを理解して使うことが大切なのです。
バイトスキャンしたのに、完成した被せ物でもう一度「カチカチ」するのはなぜ?
ここまで読むと、もう一つ疑問が出てきます。
バイトスキャンで上下の噛み合わせまでコンピューターへ渡したのなら、完成した被せ物を入れたあとに、どうしてまた咬合紙を噛んだり、口の中で高さを確認したりするのでしょうか。
これは、
製作時のデジタル上の上下顎関係
と、
完成した補綴物を実際の口腔内へ装着した状態
が別だからです。
- 支台歯へ完全に入っているか
- 隣の歯とのコンタクトは適切か
- マージンは合っているか
- 実際の口腔内でどこが接触するか
- 必要に応じて前方・側方運動でどう当たるか
などは、完成した補綴物を口腔内へ入れた状態で最終的に確認します。
被せ物を何度も入れて外しながらコンタクト・適合・咬合を順番に確認する理由でも解説したように、被せ物はまず正しく座っていることを確認し、その状態で咬合を評価します。
つまり、
バイトスキャンをしたことと、完成後に口の中で咬合を確認することは二者択一ではありません。
バイトスキャンは製作するための重要な情報。
完成後の咬合確認は、実物を患者さんの口へ入れた状態で行う最終確認。
役割が違うのです。
「もう一度噛んでください」とバイトスキャンを取り直すこともある
診療中に、
「すみません、もう一度噛んでもらいますね」
と言って、バイトスキャンを取り直すことがあります。
何度か取り直されると、
「最初のスキャンに失敗したのかな?」
と心配になるかもしれません。
もちろん読み取りが十分でなく再取得する場合もありますが、取り直しそのものが異常というわけではありません。
- 噛む途中で顎が動いた
- いつもの位置とは違うところで噛んだように見える
- 頬や舌などが入り込んだ
- 必要な歯面を十分に取得できなかった
- 上下顎を合わせた画面に不自然な部分がある
- もう一度同じ位置で噛めるか確認したい
など、さまざまな理由が考えられます。
むしろ、上下顎関係がおかしいまま技工へ進めないために確認している場面もあります。
バイトスキャンは「おまけの数秒」ではなかった
上顎をスキャン。
下顎をスキャン。
そして最後に、噛んだ状態を横から数秒。
診療を見学しているだけだと、最後のバイトスキャンは一番簡単な工程に見えました。
でも調べてみると、そこには、
別々に取得した上顎と下顎を、一つの「噛んだ口」として組み立てる
という大切な役割がありました。
さらに、その数秒の情報の裏には、歯面の照合、スキャンする範囲、欠損歯、全顎データの歪み、患者さん自身の噛み方、噛む力、歯根膜による歯の微小変位、virtual occlusal collision、そしてその補正方法まで関係しています。
上顎と下顎のスキャンが「歯の形」を作る工程だとすれば、バイトスキャンは、
その二つの歯列に「上下関係」を与える工程
なのだと思います。
「最後にちょっと横から撮っているだけ」に見えても、被せ物をデジタルで設計するためには、とても大切な数秒だったんですね。
まとめ
- 上顎・下顎を別々にスキャンしただけでは、両者の位置関係までは決まらない
- バイトスキャンは、噛んだ状態の頬側情報を使って上下顎3Dデータを位置合わせするための重要な記録
- 取得する位置・歯数・範囲、欠損部、咬合力、歯の動揺、alignment methodなどがaccuracyへ影響し得る
- 患者さん自身も毎回まったく同じ位置で噛めるとは限らない
- 歯は歯根膜を介して噛む力でごくわずかに動く
- 仮想模型上では上下歯面が食い込むvirtual occlusal collisionが起こる場合がある
- 2026年には生理的歯牙変位を考慮したバイト登録法も臨床研究されている
- collisionは「消せば終わり」ではなく、補正方法そのものが仮想咬合へ影響し得る
- IOS画面の色表示は、そのまま「何Nで噛んでいるか」を表すものではない
- 通常のバイトスキャンと、前方・側方運動などの動的な咬合情報は別
- 完成した被せ物では、最終的に実際の口腔内でも咬合を確認する
よくある質問
Q.上顎と下顎をスキャンしただけでは被せ物を作れないのですか?
上顎と下顎それぞれの形は分かりますが、それだけでは両者をどの位置関係に置くかが決まりません。被せ物の咬合面を設計するには上下顎関係も重要で、その情報をデジタル上へ伝える方法の一つがバイトスキャンです。
Q.バイトスキャンは痛いですか?
通常は、上下の歯を噛んだ状態で頬側からスキャナーを当てて読み取る工程なので、スキャンそのものによる痛みは基本的にはありません。ただし、治療中の歯が痛くて噛めない場合などは無理をせず、歯科医師やスタッフへ伝えてください。
Q.何度か「もう一度噛んでください」と言われました。失敗したのでしょうか?
必ずしもそうではありません。患者さんが噛んだ位置や取得できたデータ、上下顎を合わせた後の表示などを確認するため、再度バイトスキャンを行うことがあります。
Q.画面で赤くなっているところは、一番強く噛んでいる歯ですか?
必ずしもそうではありません。口腔内スキャナーの表示は、上下歯面の距離や接触判定などをもとに色分けしているものがあります。表示方法はシステムによって異なり、「赤=そこへ何Nの咬合力がかかっている」という意味とは限りません。
Q.バイトスキャンをしたのに、なぜ完成した被せ物でも咬合紙を噛むのですか?
バイトスキャンは補綴物を設計・製作するための上下顎関係を記録する工程です。一方、完成した被せ物を実際の口腔内へ装着した後の確認は別の工程です。被せ物が完全に入っていることを確認したうえで、実際の咬合接触や必要に応じた顎運動を確認します。
Q.バイトスキャンをすれば、前後左右へ動かしたときの噛み合わせも全部分かりますか?
通常のバイトスキャンは、ある顎位での静的な上下顎関係を記録するものです。前方運動や側方運動などの動的な咬合は別の情報です。
Q.バイトスキャンで記録されるのは必ず「正しい噛み合わせ」ですか?
必ずしもそういう意味ではありません。バイトスキャンは、患者さんがそのとき噛んだ顎位を記録する方法です。どの顎位を記録するか、その関係が治療目的に適切かは歯科医師が判断します。
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