2026年8月06日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

「プロテインは一日一回だけです」と話してくれた患者さん
ある日のメンテナンスで、患者さんからこんなお話を聞きました。
「最近、前歯の先が少し透けて見える気がします」
「冷たい水を飲んだときに、歯の根元がしみることもあります」
虫歯ができやすくなるような食生活へ変わっていないか確認しましたが、甘いお菓子はほとんど食べず、ジュースもあまり飲まないとのことでした。
ただ、患者さんは身体づくりのため、毎日プロテインドリンクを飲んでいました。
「プロテインは一日に何回飲みますか?」
そう尋ねると、
「一日一回だけです。朝に作って、仕事中に飲んでいます」
と答えてくれました。
さらに詳しく聞いてみると、朝8時ごろに作ったシェイカーをデスクへ置き、仕事をしながら11時ごろまで少しずつ飲んでいることが分かりました。
一日一本ではあります。
しかし、歯の立場から見ると、朝に一回飲んで終わった状態とは少し違います。
数分から十数分おきに一口ずつ飲んでいれば、口の中にはそのたびに飲料が入ってきます。一本を数時間かけて飲む習慣は、栄養成分表示のうえでは一本でも、歯にとっては長時間にわたる繰り返しの接触になることがあるのです。
もちろん、この時点で、前歯の変化や知覚過敏の原因がプロテインドリンクだと決めたわけではありません。
歯の形や表面が変化する原因には、
- 歯ぎしりや食いしばり
- 強いブラッシング
- 歯肉退縮
- 胃酸の逆流
- 口腔乾燥
- 過去から続く酸性飲料の摂取
- 年齢や噛み合わせによる歯の摩耗
など、さまざまなものがあります。
そのため、歯の状態、磨き方、噛み合わせ、全身状態などを確認したうえで、歯へ糖質や酸が触れる時間を長くしている可能性のある習慣として、プロテインドリンクの飲み方にも注目しました。

最初にお伝えしたいこと――プロテインそのものが歯に悪いわけではありません
「プロテインを飲むと虫歯になるのでしょうか?」
このように心配される方もいるかもしれません。
プロテインは、本来「たんぱく質」を意味する言葉です。
ホエイ、カゼイン、大豆、えんどう豆などのたんぱく質そのものを理由に、すべてのプロテインドリンクが歯に悪いと決めつけることはできません。
実験室内でプロテイン飲料やたんぱく質素材が歯の表面へ及ぼす影響を調べた研究でも、すべての製品やたんぱく質が一様にエナメル質を軟らかくするという結果にはなっていません。
歯科で確認したいのは、プロテインという商品名だけではなく、次のような内容です。
- 粉末を自分で溶かしているか、市販の液体製品か
- どのようなたんぱく質が使われているか
- 水、牛乳、豆乳、ジュースの何で溶かしているか
- 糖質や糖類がどのくらい含まれているか
- 果汁、クエン酸、酸味料などが含まれているか
- 一回分をどのくらいの時間で飲み終えるか
- 運動中、仕事中、就寝前のどの時間帯に飲むか
- 飲み終わった後に水を飲んでいるか
- 口腔乾燥や口呼吸がないか
同じ「プロテインドリンク」でも、中身は一つではありません。
水に溶かした低糖質の粉末製品もあれば、糖質を含むミルク系飲料もあります。果汁や酸味料が入った、さっぱりした風味の製品もあります。
プロテインをスポーツドリンクやジュースで割る方もいます。
したがって、この記事で問題にしたいのは「プロテインを飲んでいること」ではありません。
その一杯に何が含まれ、どのように、どのくらいの時間をかけて飲んでいるかです。
同じプロテインドリンクでも、歯科で見るポイントは異なります
プロテインドリンクは、おおまかに次のように分けて考えると分かりやすくなります。
このように、プロテインという共通点だけで、すべてを同じ危険度として扱うことはできません。
「一日一回」でも、口の中では一回とは限りません
食べ物や飲み物が口へ入った後、唾液はさまざまな働きをします。
唾液は、口の中を濡らしているだけの水分ではありません。
- 飲料や食べかすを薄める
- 一部を洗い流す
- 嚥下によって口の外へ送り出す
- 酸を中和する
- カルシウムやリン酸を歯へ供給する
- 軽度に失われたミネラルの回復を助ける
- 歯や粘膜を薄い膜で保護する
私たちは、何も食べたり飲んだりしていないときにも、唾液を分泌して飲み込んでいます。
唾液が分泌され、口の中のものを薄め、一部を飲み込み、また新しい唾液が分泌される。この繰り返しによって、口の中は少しずつ元の状態へ戻っていきます。
一口飲んだ後、唾液は回復作業を始めます
プロテインドリンクを一口飲んだとします。
飲料が口の中からなくなったように感じても、歯面や歯垢、舌、頬の内側などには一部が残っています。
唾液は、それを薄めて洗い流そうとします。
一度飲んで終わり、その後しばらく何も口へ入れなければ、唾液が働く時間を確保できます。
しかし、回復途中で次の一口が入ると、口の中へ再び飲料が供給されます。
数分おきに少量ずつ飲む習慣では、
飲む
↓
唾液が薄め始める
↓
完全に回復する前にまた飲む
↓
再び唾液が薄め始める
↓
また次の一口が入る
という状態が繰り返されます。

大切なのは「何本飲んだか」だけではありません
メンテナンスで食習慣を確認するとき、私たちはつい「一日に何回飲みますか」と尋ねます。
しかし、今回のようなケースでは、それだけでは十分ではありません。
一日に一本でも、
- 食事と一緒に飲み終える
- トレーニング後に決めた時間内で飲む
- 仕事中に数時間かけて飲む
- トレーニング開始から帰宅後まで飲み続ける
- 歯磨き後から就寝まで少量ずつ飲む
のでは、歯への接触の仕方が異なります。
歯科衛生士が知りたいのは、飲み始めた時間と飲み終わった時間です。
「一日に何本ですか?」だけでなく、
「一本をどのくらいかけて飲みますか?」
「朝に作ったものは、何時ごろ飲み終わりますか?」
と確認することで、初めて見えてくる習慣があります。
口の中にためる飲み方にも注意が必要です
飲料の影響は、成分と時間だけでなく、口の中での動かし方によっても変わります。
酸性飲料に関する臨床報告では、飲料を上顎前歯付近へ一度ため、少しずつ奥へ流し込む飲み方を長期間続けた患者さんに、強い歯質の欠損が認められています。
口の中に飲料をためることは「holding」、時間をかけて少しずつ飲むことは「sipping」と呼ばれることがあります。
もちろん、酸性度の高い黒酢などの飲料と、すべてのプロテインドリンクを同じように扱うことはできません。
ここで知っていただきたいのは、飲料の種類だけでなく、
- 前歯付近にためる
- 舌で口全体へ広げる
- 味わいながら少しずつ飲み込む
- すすぐように口の中で動かす
といった飲み方も、歯と飲料の接触を増やす可能性があるということです。
プロテインドリンクは、普通に口へ入れ、そのまま飲み込めば十分です。
口の中で長く味わう必要はありません。
虫歯と酸蝕症は、歯が傷む仕組みが違います
プロテインドリンクの口腔リスクを考えるときは、「虫歯」と「酸蝕症」を分ける必要があります。
この二つは、どちらも歯のミネラルが失われる現象ですが、始まり方が異なります。
スポーツドリンクや炭酸飲料による虫歯と酸蝕症の違いでも詳しく解説していますが、簡単に分けると次のようになります。
虫歯は、細菌が糖質を利用して酸を作る病気です
虫歯では、歯垢の中にいる細菌が発酵可能な糖質を利用し、酸を作ります。
その酸によって歯からカルシウムやリン酸が失われる状態が繰り返されると、やがて虫歯が進行します。
つまり虫歯には、
- 歯垢中の細菌
- 細菌が利用できる糖質
- 歯が酸性環境へさらされる時間
- 唾液による回復
- フッ化物の使用状況
- 歯磨きや歯間清掃
などが関係します。
酸蝕症は、飲料そのものの酸が直接歯へ作用します
酸蝕症は、虫歯とは異なり、歯垢中の細菌が糖を分解しなくても起こり得ます。
酸性の飲み物や食べ物、あるいは胃酸などが歯へ繰り返し触れることで、歯の表面が化学的に軟らかくなり、少しずつ失われていく状態です。
したがって、糖類が入っていなくても、飲料自体が酸性であれば、酸蝕症側の注意が必要になります。

糖質を含むプロテインドリンクでは、虫歯側のリスクを考えます
プロテインドリンクには、製品によって糖質が含まれています。
また、粉末自体の成分だけでなく、何で溶かしているかも重要です。
例えば、
- 加糖された牛乳飲料
- 調整豆乳や豆乳飲料
- 果汁飲料
- スポーツドリンク
- はちみつ
- シロップ
- バナナなどの果物
を加えれば、一杯全体の糖質量は変わります。
「砂糖」という文字だけを探すのでは不十分です
原材料を見るときは、「砂糖」だけを探せばよいわけではありません。
製品によっては、
- ショ糖
- ぶどう糖
- 果糖
- 果糖ぶどう糖液糖
- ぶどう糖果糖液糖
- 果汁
- デキストリン
- マルトデキストリン
などが含まれていることがあります。
これらが入っていれば、すべて同じ強さで虫歯を起こすという意味ではありません。
また、原材料表示だけで実際の虫歯リスクを正確に判定することもできません。
それでも、パッケージ正面の「砂糖不使用」「低糖質」などの表示だけで判断せず、栄養成分表示と原材料表示の両方を見ることは大切です。
糖質や糖類が個別に書かれていない製品もあります
栄養成分表示では、まず炭水化物の量を確認します。
製品によっては、炭水化物の内訳として「糖質」や「糖類」が書かれているものもありますが、個別に表示されていないものもあります。
糖類という欄が見当たらないからといって、糖類ゼロとは限りません。
また、表示の単位も確認しましょう。
- 100mL当たり
- 一本当たり
- 一食分当たり
- 粉末のみ
- 指定量の水や牛乳で作った後
のどれかによって、実際に摂る量の計算は変わります。
例えば「100mL当たりの炭水化物」が少なく見えても、一本が400mL以上あれば、一本全体では数倍になります。
糖質の総量だけでなく、口へ入れる頻度が関係します
糖質を含む飲料を一度飲んだ後、何も口へ入れない時間があれば、唾液が酸を中和し、口の中を回復させます。
しかし、長時間にわたって少量ずつ飲めば、そのたびに細菌が利用できる成分が歯垢へ供給されます。
同じ量の糖質でも、
- 食事と一緒に飲んで終える
- 決めた時間内に飲み終える
- 数時間かけて何度も飲む
のでは、口腔内での曝露の仕方が違います。
そのため、虫歯予防では「一日に何グラムの糖質を摂ったか」だけでなく、「何回、どのくらいの時間をかけて口へ入れたか」も確認します。
無糖の牛乳で溶かしたプロテインは、酸性清涼飲料と同じではありません
牛乳でプロテインを作っている方も多いと思います。
無糖の牛乳は、果汁飲料や酸味の強い清涼飲料水と同じ性質ではありません。
牛乳には、
- カルシウム
- リン酸
- カゼインなどのたんぱく質
が含まれています。
また、牛乳に含まれる乳糖は、ショ糖とまったく同じように虫歯へ作用する糖ではありません。
したがって、無糖の牛乳で作ったプロテインドリンクを、酸味の強い果実系飲料やスポーツドリンクと同じ危険度で扱う必要はありません。
ただし、
- 粉末自体に糖質が含まれる
- 加糖された乳飲料を使う
- シロップや果物を加える
- 歯磨き後から就寝まで長時間飲む
- 口腔乾燥がある
- 飲んだままマウスピースを装着する
といった条件が加われば、別の問題が生じます。
「牛乳で作ったから何時間飲んでも安全」と判断するのではなく、一杯全体の成分と飲み方を確認しましょう。
豆乳は、無調整・調整・豆乳飲料を分けて考えます
豆乳も、製品によって中身が異なります。
無調整豆乳、調整豆乳、果実やコーヒーなどで味付けされた豆乳飲料では、糖質量や添加されている成分が違います。
「豆乳」という名称だけで安全性を判断せず、加糖の有無と栄養成分表示を確認してください。
また、牛乳に含まれる成分と豆乳に含まれる成分は同じではありません。
「牛乳より豆乳が必ず歯によい」「豆乳より牛乳が必ず安全」と単純に順位をつけることはできません。
糖類ゼロでも、酸味のある製品では酸蝕症側のリスクを考えます
最近は、糖類ゼロ、低糖質、砂糖不使用を特徴としたプロテイン飲料も増えています。
糖質が少なければ、歯垢中の細菌が糖を利用して酸を作る虫歯側のリスクは抑えやすくなります。
しかし、それだけで歯への影響が完全になくなるとは限りません。
果実系、スポーツドリンク系、さっぱりした風味の製品では、
- クエン酸
- リンゴ酸
- 酸味料
- 果汁
- ビタミンC
などが使われていることがあります。
糖類ゼロでも、製品そのものが酸性であれば、酸蝕症側の問題は残ります。
これは、無糖炭酸飲料と酸蝕症の関係を解説した記事と共通する考え方です。
甘くないことと、酸性ではないことは同じではありません。
pHだけで製品の影響を決めることもできません
エナメル質の脱灰を考える目安として、pH5.5前後という数値がよく用いられます。
ただし、実際の口腔内では「pHが5.5より低いか」という一点だけで、歯が溶けるかどうかが決まるわけではありません。
歯への影響には、
- 飲料のpH
- 酸の種類
- 酸の量
- 中和されるまでに必要な唾液の働き
- カルシウムやリン酸などの成分
- 飲む量
- 飲む頻度
- 歯へ触れる時間
- 唾液分泌量
- 歯垢の付着
- フッ化物の使用状況
などが関係します。
同じようなpHでも、少量の唾液ですぐに中和される飲料と、酸性が長く残りやすい飲料があります。
この「中和されにくさ」を考える指標の一つが滴定酸度です。
ただし、市販のプロテインドリンクについて、一般の方が滴定酸度をパッケージから知ることはできません。
だからこそ、
- 酸味が強い
- 果汁や酸味料を含む
- 長時間かけて飲んでいる
- 飲んだ後に歯がキシキシする
- 最近、前歯の透明感や知覚過敏が増えた
といった情報を組み合わせて考えます。
虫歯と酸蝕症は、どちらか一方とは限りません
プロテインドリンクに糖質と酸の両方が含まれている場合、虫歯と酸蝕症の両方を考える必要があります。
例えば、酸性の飲料によって歯面が軟らかくなりやすい環境へ、糖質と歯垢が重なれば、歯は複数の方向から影響を受けます。
- 飲料そのものの酸が歯面へ作用する
- 歯垢中の細菌が糖質を利用して酸を作る
- 軟らかくなった歯面へ歯ぎしりや強い歯磨きが加わる
- 唾液が少なく、酸が十分に洗い流されない
こうした要因が重なることがあります。

「虫歯は見つからなかったから大丈夫」と思っていても、酸蝕症による歯面変化が始まっている可能性があります。
反対に、酸蝕症だけだと思っていた歯面へ歯垢が付着し、虫歯が重なっていることもあります。
患者さん自身で完全に見分けるのは難しいため、飲み方と歯面の変化を歯科医院で一緒に確認することが大切です。
運動後は、水分を飲んでいても口腔内が回復しているとは限りません
プロテインドリンクを利用する方の多くは、トレーニング前後に摂取しています。
運動時には、
- 発汗
- 脱水
- 口呼吸
- 緊張
- 運動強度
- 水分補給
- 補食
などが唾液や口腔内環境へ影響します。
「運動すると必ず唾液が減る」とは限りません
運動をすると、全員の唾液分泌量が必ず低下するわけではありません。
適切に水分を補給していれば、唾液分泌量の大きな低下が見られない場合もあります。
一方で、口がねばつく、口呼吸で粘膜が乾く、発汗量が多く脱水へ傾くなど、唾液量の数値だけでは表せない変化もあります。
そのため、
「運動後は必ず口が乾く」
「水を飲んでいれば口腔内は安全」
のどちらとも一律には言えません。
水分補給と、酸性飲料によるpH変化は別の問題です
健康な若年成人を対象とした小規模研究では、運動中にスポーツドリンクを繰り返し摂取した場合、唾液分泌量には大きな変化がなかった一方、唾液pHと緩衝能が低下しました。
原液のスポーツドリンクを飲んだ条件では、運動前の状態へ戻るまでに60分程度またはそれ以上を要しています。
これはスポーツドリンクを調べた研究であり、すべてのプロテインドリンクへ同じ時間を当てはめることはできません。
それでも、
水分を飲んでいることと、口腔内の酸性環境が回復していることは同じではない
という点は参考になります。

水分補給用の水と、栄養補給用のプロテインを分ける方法もあります
のどが渇くたびにプロテインドリンクを飲んでいる方は、
- 日常の水分補給は水
- プロテインは栄養を摂る時間にまとめる
と役割を分ける方法があります。
プロテインドリンクを水分補給の代わりとして一日中飲むより、摂取する時間を決めた方が、口の中に回復時間を作りやすくなります。
激しい運動、長時間運動、高温環境などでは、水分や電解質の補給が重要です。
歯への影響を心配するあまり、必要な水分補給を我慢してはいけません。
身体に必要な補給を続けながら、必要のない長時間のちびちび飲みを減らすことが大切です。
「口が乾く」「ねばつく」は、唾液の量だけでは決まりません
患者さんから、
「唾液は出ていると思うけれど、口の中がねばつきます」
「水を飲んでも、すぐにまた乾く感じがします」
と相談されることがあります。
口腔乾燥感と、検査で確認される唾液分泌量の低下は、必ずしも一致しません。
唾液量が大きく減っていなくても、
- 唾液が粘稠になっている
- 口呼吸で水分が蒸発している
- 鼻づまりがある
- 緊張やストレスが強い
- 脱水へ傾いている
- 口を開けたまま運動している
といった条件によって、乾きやねばつきを感じることがあります。
反対に、唾液量が少ない方でも、こまめな水分補給や保湿によって不快感が軽減されていることがあります。
口腔乾燥については、唾液量だけでなく、口が乾く人にフッ化物ケアが重要な理由も含めて、口腔内を守る働き全体を考える必要があります。
Sjögren病など、持続的な口腔乾燥がある方は、朝・食前・就寝前に分けたドライマウス対策も参考にしてください。
服薬や全身状態が関係していることもあります
口腔乾燥には、
- 抗アレルギー薬
- 抗うつ薬
- 抗不安薬
- 睡眠薬
- 一部の降圧薬
- 頻尿や過活動膀胱に使用する薬
- 自己免疫疾患
- 糖尿病
- 頭頸部への放射線治療
- 鼻閉や睡眠中の口呼吸
など、さまざまな要因が関係します。
薬との関連が疑われても、自己判断で中止や減量をしてはいけません。
必要に応じて、処方した医師や薬剤師と連携しながら、薬を続けつつ口腔内を守る方法を考えます。
同じ口の中でも、飲料が残りやすい場所があります
唾液は、口の中のすべての場所へ同じ量、同じ速さで届くわけではありません。
大きな唾液腺の出口に近い場所では唾液が流れやすく、離れた場所では飲料の成分が残りやすくなることがあります。
研究では、下顎前歯の裏側に比べて、上顎前歯の表側では唾液による洗い流しが遅く、クリアランスに大きな差があることが示されています。
そのため、プロテインドリンクを前歯付近にためる癖があると、唾液が届きにくい歯面へ繰り返し飲料が触れる可能性があります。
歯科衛生士が確認する場所
メンテナンスでは、次のような場所を確認します。
- 上顎前歯の表側と裏側
- 歯と歯ぐきの境目
- 歯肉退縮によって露出した根面
- 奥歯の噛む面のくぼみ
- 詰め物の周囲
- 歯間部
- 矯正装置の周囲
- マウスピースで覆われる歯面
特に歯肉退縮がある方では、エナメル質より酸の影響を受けやすい根面が露出しています。
口腔乾燥、歯垢、長時間の飲用が重なると、根面う蝕にも注意が必要です。
マウスピースを着けたまま飲まないようにしましょう
マウスピース矯正装置や透明なリテーナーを使用している方は、原則として装置を外してからプロテインドリンクを飲みましょう。
装置を着けたまま飲むと、糖質や酸を含む飲料が歯面とマウスピースの間へ入り、唾液で薄まりにくい状態になる可能性があります。
透明な装置では、飲料による着色や臭いも問題になります。
プロテインドリンクを飲んだ後は、
- 水を飲むか軽く口をすすぐ
- シェイカーからの飲用を終える
- マウスピースにも汚れがないことを確認する
- 担当の歯科医師から受けた指示に従って装置を戻す
という順序を意識してください。
糖質や酸を含む飲料を、装置の中へ閉じ込めたまま長時間過ごさないことが大切です。
歯科衛生士は、こんな歯の変化を見ています
酸蝕症は、痛みが出る前から少しずつ進むことがあります。
初期には穴が開かず、患者さん本人が変化に気づかないこともあります。
酸蝕症を疑う変化
- 歯の表面が以前より滑らかで光って見える
- 前歯の先が透けて見える
- 前歯の先が薄くなった
- 歯の角が取れて丸く見える
- 奥歯の山に小さなくぼみができる
- 噛む面が平らになる
- 詰め物だけが浮き上がって見える
- 歯が黄色く見える
- 冷たいものがしみる
- 噛んだときに違和感がある
- 歯が欠けやすくなった
虫歯を疑う変化
- 歯と歯ぐきの境目が白く濁っている
- 歯間部に白濁や着色がある
- 歯の根元が黄色や茶色に変わった
- 歯垢が残る場所がざらつく
- 同じ場所に食べ物が挟まる
- 甘いものや冷たいものがしみる
- 短期間に複数の虫歯ができた
虫歯と酸蝕症が同時に起きていることもあるため、見た目だけで自己判断するのは難しいところです。

プロテインをやめずにできる、歯へ負担を残しにくい飲み方
プロテインを飲む目的は、人によって異なります。
- トレーニング後の栄養補給
- 筋肉量や体力の維持
- 食事だけでは不足するたんぱく質の補充
- 高齢者の低栄養対策
- 食欲がないときの栄養補助
必要な栄養を摂ることは大切です。
歯のためにプロテインを全面的にやめるのではなく、飲み方を調整しましょう。
1.一本を飲む時間を決めましょう
急いで一気に流し込む必要はありません。
むせたり、胃が不快になったりしない範囲で飲むことが大切です。
ただし、
- 朝に作って昼まで飲む
- デスクに置いて一日中飲む
- 車の中へ置いて移動中ずっと飲む
- トレーニング開始から帰宅後まで飲み続ける
よりは、摂取する時間帯を決めて飲み終える方が、唾液による回復時間を確保しやすくなります。
「何分以内なら安全」という一律の境界があるわけではありません。
まずは、飲み終えるまでに何度も口へ運ぶ習慣になっていないかを確認しましょう。
2.日常の水分補給は水を基本にしましょう
のどが渇くたびにプロテインドリンクを口へ入れるのではなく、水分補給と栄養補給を分けます。
水分補給は水で行い、プロテインドリンクは必要な時間に摂取します。
運動時に特別な水分・電解質補給が必要な場合は、運動の内容や体調に合わせて適切に行ってください。
3.口の中へためず、そのまま飲み込みましょう
前歯付近へためる、舌で口全体へ広げる、すすぐように飲む必要はありません。
ストローを使う場合も、ストローを使っているから何時間飲み続けても安全という意味ではありません。
ストローより、飲む時間と回数を整えることを優先します。
4.飲み終わった後は、水を一口飲みましょう
プロテインドリンクを飲み終えたら、水を一口飲むか、軽く口をすすぐ方法があります。
水によって、口の中に残った飲料を薄め、洗い流すことができます。
大量の水で何度もうがいする必要はありません。
特に酸味がある製品では、飲み終わった後の水を一つの区切りにすると、「ここで摂取を終える」という習慣も作りやすくなります。
5.酸味の強い製品を長時間飲んだ直後は、強く磨かないようにしましょう
酸性飲料に触れた直後の歯面は、一時的に軟らかくなっている可能性があります。
その状態で、
- 硬い歯ブラシを使う
- 強い力で横磨きする
- 研磨性の高い歯磨剤で長時間磨く
と、歯面の摩耗が重なることがあります。
まず水を飲むか軽くすすぎ、直後にごしごし強く磨くことは避けましょう。
ただし、すべてのプロテインドリンクについて「必ず何分待つ」と一律に決めることはできません。
製品の酸性度、飲んだ時間、唾液の状態によって条件が異なるためです。
具体的な待ち時間だけを気にするより、酸味のある飲料を何時間も飲み続けないことの方が重要です。
6.フッ化物配合歯磨剤を継続しましょう
飲み方を改善しても、毎日の歯磨きが不要になるわけではありません。
フッ化物配合歯磨剤を使用し、歯垢を落としながら歯の再石灰化を助けます。
歯間部には、必要に応じてデンタルフロスや歯間ブラシを使用します。
口腔乾燥や根面露出がある方、虫歯を繰り返している方は、使用する歯磨剤やフッ化物ケアについて歯科医院で相談してください。
7.歯磨き後に、また何度も飲み直さないようにしましょう
就寝前にプロテインを摂ること自体を、一律に禁止するものではありません。
ただし、
- 歯磨き後に少しずつ飲み続ける
- ベッドへシェイカーを持ち込む
- 飲み終わらないまま眠る
- 夜中に目が覚めるたびに飲む
という習慣は見直した方がよいでしょう。
睡眠中は、日中より唾液分泌と嚥下が少なくなります。
就寝前に飲む場合は、飲む時間と飲み終える時間を決め、その後の口腔ケアまで一つの流れにしておくと安心です。

作ったプロテインドリンクの保存方法にも注意してください
口腔リスクとは別に、作った飲料の保存方法にも注意が必要です。
特に、
- 牛乳
- 豆乳
- 果物
- ヨーグルト
などを使ったプロテインドリンクを、室温へ長時間置いたまま飲み続けることは、食品衛生の面からもおすすめできません。
製品の保存方法に従い、必要に応じて保冷してください。
また、シェイカーに残ったプロテインは時間がたつと臭いがつきやすく、洗浄しにくくなります。
飲み終わったら放置せず、できるだけ早めに洗浄し、十分に乾燥させましょう。
こんな方は、プロテインドリンクの飲み方を一度確認してみてください
次の項目に当てはまるからといって、必ず虫歯や酸蝕症があるわけではありません。
ただし、歯への接触時間が長くなっている可能性があります。
- 一本を飲み終えるまでに何度も口にしている
- 仕事中や運動中に長時間かけて少量ずつ飲んでいる
- デスクや車内に常にシェイカーがある
- 朝に作ったものを昼まで飲んでいる
- 運動中から帰宅後まで同じ飲料を飲み続ける
- 果実系、酸味系のプロテイン飲料を好む
- プロテインをジュースやスポーツドリンクで割っている
- 口の中で味わいながら少しずつ飲む
- 前歯付近へ一度ためてから飲み込む
- マウスピースを着けたまま飲む
- 歯磨き後にも何度も飲み直す
- 飲み終わらないまま眠る
- 口が乾きやすい
- 唾液がねばつく
- 口呼吸や鼻づまりがある
- 胃酸の逆流や胸焼けがある
- 歯肉退縮がある
- 最近、歯が透ける、丸くなる、しみるなどの変化がある
- 甘いお菓子を食べていないのに虫歯を繰り返している
一つでも思い当たる場合は、プロテインをすぐにやめるのではなく、まず「一本を飲み終えるまでの時間」と「何で作っているか」を確認してみてください。
こんな変化があれば、飲み方の見直しだけで済ませずご相談ください
次のような変化がある場合は、プロテインドリンクを自己判断でやめるだけでなく、歯科医院で歯面の状態を確認しましょう。
- 前歯の先が薄く、透けてきた
- 歯の角が丸くなってきた
- 奥歯の山に丸いくぼみができた
- 詰め物だけが浮き上がって見える
- 冷たいものがしみる状態が続く
- 歯の根元が短期間で削れたように見える
- 歯が欠けやすくなった
- 短期間に複数の虫歯ができた
- 口の乾燥やねばつきが続く
- 胸焼けや、酸っぱいものが上がる感じがある
- 嘔吐を繰り返している
酸蝕症、虫歯、強いブラッシング、歯ぎしり、胃酸逆流などが重なっていることもあります。
飲料だけを原因と決めつけず、歯科医院で複数の可能性を確認することが大切です。
メンテナンスでは、製品名と飲み方を教えてください
歯科医院でプロテインドリンクについて相談するときは、次のような情報があると分かりやすくなります。
- 商品名
- パッケージや原材料表示の写真
- 粉末か液体か
- 水、牛乳、豆乳など何で溶かしているか
- 果物やシロップを加えているか
- 一回に飲む量
- 一日に飲む回数
- 飲み始める時刻
- 飲み終える時刻
- 運動中に飲むか
- 就寝前に飲むか
- 飲んだ後に水を飲むか
- マウスピースを使っているか
- 口腔乾燥やねばつきがあるか
- 知覚過敏や歯の形の変化を感じるか
「プロテインを一日一回飲んでいます」だけでなく、
「朝8時に作り、仕事をしながら11時ごろまで飲んでいます」
と教えていただくことで、より具体的に口腔リスクを考えられます。
現時点で分かっていることと、まだ分からないこと
プロテインドリンクについては、製品の種類や成分が非常に多く、すべてを一つの結論でまとめることはできません。
また、同じプロテインドリンクを、
- 短時間で飲み終えた場合
- 数時間かけて少量ずつ飲んだ場合
で直接比較し、虫歯や酸蝕症の発生を長期間追跡した大規模な臨床研究は、現時点では十分ではありません。
この記事では、
- プロテイン飲料や栄養補助飲料の成分に関する研究
- 糖質の摂取頻度と虫歯に関する研究
- 酸性飲料の接触時間と酸蝕症に関する研究
- 唾液による希釈とクリアランスの研究
- 運動後の唾液pHや緩衝能に関する研究
を組み合わせて解説しています。
そのため、
「三時間飲んだら必ず虫歯になる」
「一気に飲めば絶対に安全」
という意味ではありません。
飲用時間は、製品の成分、口腔乾燥、歯垢、フッ化物ケア、歯肉退縮などと組み合わせて考える一つの要因です。
よくあるご質問
プロテインを飲むと虫歯になりますか?
プロテインという名称だけでは決まりません。
糖質の量、飲料自体の酸性度、何で溶かしているか、飲む頻度、飲み終えるまでの時間、歯垢、唾液、フッ化物ケアなどを組み合わせて考えます。
水で溶かした低糖質・低酸性の製品を決めた時間に飲む場合と、糖質や酸を含む製品を数時間かけて飲む場合を、同じように扱うことはできません。
人工甘味料を使った製品なら、歯に安全ですか?
甘味料の中には、砂糖と同じようには虫歯菌に利用されにくいものがあります。
ただし、甘味料を使っていることと、飲料全体が低酸性であることは別です。
糖類ゼロでも、クエン酸、酸味料、果汁などが含まれ、飲料自体が酸性であれば、酸蝕症側の注意は必要です。
水で溶かせば大丈夫ですか?
ジュースやスポーツドリンクで溶かすより、余分な糖質や酸を加えにくい方法です。
ただし、粉末自体に糖質や酸味料が含まれる場合があります。
また、水で溶かしていても、数時間かけて口の中へ繰り返し入れる習慣は見直した方がよいでしょう。
牛乳で溶かせば安全ですか?
無糖の牛乳は、酸味の強い清涼飲料水と同じ性質ではありません。
牛乳にはカルシウムやリン酸、カゼインなどが含まれているため、果汁系やスポーツ系の酸性飲料と同じ危険度で扱う必要はありません。
ただし、加糖された乳飲料を使う場合や、粉末自体に糖質や酸味料が含まれる場合は条件が変わります。
また、就寝前まで長時間飲み続ける、口腔乾燥がある、マウスピース内へ飲料を残すといった習慣にも注意が必要です。
豆乳で溶かせば大丈夫ですか?
無調整豆乳、調整豆乳、豆乳飲料では、糖質量や添加されている成分が異なります。
豆乳という名称だけで判断せず、加糖の有無と栄養成分表示を確認してください。
ストローを使えば酸蝕症を防げますか?
使い方によっては、前歯の表側へ触れる範囲を減らせることがあります。
しかし、ストローの先を前歯の裏側へ向けたまま少量ずつ長時間飲めば、その部分への接触が増える可能性があります。
ストローだけに頼らず、口へためないこと、飲む時間をまとめることを優先してください。
飲んだ後は、すぐ歯を磨いた方がよいですか?
製品によって異なります。
酸味のない低酸性製品と、クエン酸や果汁を含む酸味の強い製品を一律には扱えません。
酸味のある飲料を長時間飲んだ後は、まず水を一口飲むか軽くすすぎ、直後に強い力でごしごし磨くことは避けましょう。
その後は、口の中が落ち着いてから、フッ化物配合歯磨剤を使って丁寧にケアします。
夜にプロテインを飲んではいけませんか?
夜に飲むこと自体を一律に禁止するものではありません。
飲み始めと飲み終わりの時間を決め、歯磨き後に何度も飲み直したり、飲みながら眠ったりしないことが大切です。
プロテインを飲んだ後、水でうがいをすれば長時間飲んでも大丈夫ですか?
水を飲むことや軽くすすぐことは、口の中に残った飲料を減らすために役立ちます。
しかし、飲むたびに水ですすいでいても、数時間にわたって何度も飲料を口へ入れる習慣そのものがなくなるわけではありません。
水は補助的な対策と考え、まず飲用時間をまとめることを優先しましょう。
マウスピースを着けたまま飲んでもよいですか?
水以外の飲料を飲むときは、マウスピース矯正装置や透明なリテーナーを外すのが基本です。
糖質や酸を含む飲料が装置の内側へ入り込むと、歯面へ長く触れる可能性があります。
ただし、装置によって使用方法が異なるため、最終的には担当の歯科医師の指示に従ってください。
まとめ――一本の成分だけでなく、一本を飲み終えるまでの時間を見直してみましょう
プロテインドリンクを飲んでいるからといって、必ず虫歯や酸蝕症になるわけではありません。
たんぱく質を補うことには、それぞれの方にとって大切な目的があります。
一方で、同じプロテインドリンクでも、
- 糖質を含むか
- 飲料自体が酸性か
- 何で溶かしているか
- 口の中へためるか
- どのくらい時間をかけて飲むか
- 運動後に口が乾いているか
- マウスピースを着けたまま飲んでいないか
- 就寝前に飲み続けていないか
によって、歯への影響は変わります。
歯科衛生士が知りたいのは、プロテインを飲んでいるかどうかだけではありません。
その一杯に何が入り、いつ飲み始め、いつ飲み終わり、その間に口の中へ何回運ばれているかです。
一日一本でも、午前中いっぱい飲み続けていれば、唾液が口の中を回復させる時間は細切れになります。
せっかく身体のために続けている習慣です。
プロテインをやめるのではなく、
- 摂取する時間を決める
- 日常の水分補給は水と分ける
- 口の中へためない
- 飲み終わった後に水を飲む
- マウスピースを着けたまま飲まない
- フッ化物ケアを続ける
- 就寝前に飲み終える
という方法で、歯にも負担を残しにくい習慣へ整えていきましょう。
参考文献
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- The Effect of Animal and Plant-Based Proteins on Enamel Micro-hardness. 2024.
