2026年8月09日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「また口内炎ができたんです」
定期的にクリーニングへ来られている患者さんから、そんなお話を聞くことがあります。口内炎そのものもつらいのですが、「歯磨き粉がしみる」「磨いたあとにヒリヒリする」「痛いから歯磨きしたくなくなる」といった困りごとが一緒に出てくることも少なくありません。
こういうとき、私は口内炎の場所や大きさだけでなく、普段どんな歯磨き粉を使っているのかも確認するようにしています。
もちろん、歯磨き粉がすべての口内炎の原因になるわけではありません。けれども、歯磨き粉は毎日、口の粘膜に直接触れるものです。口内炎を何度も繰り返す人では、歯磨き粉の発泡剤や香味が刺激になっていないか、一度見直してみる意味があります。
口内炎を繰り返す人に、歯磨き粉の話を聞く理由
患者さんから「歯磨き粉で口内炎ができるんですか」と聞かれることがあります。結論からいうと、歯磨き粉が再発性アフタ性口内炎そのものの原因とは限りません。ただし、歯磨剤に含まれる成分が粘膜への刺激になったり、口の中の荒れを目立たせたりすることはあります。
特に、歯磨きのたびにしみる、使ったあとにヒリヒリする、歯ぐきや頬の内側が白っぽく剥ける感じがある、という人では、歯磨剤との関係を考えた方がよい場合があります。最近は、典型的な丸いアフタだけでなく、粘膜が白く剥ける、赤くなる、歯磨きすると不快感が強い、といったタイプの口腔粘膜トラブルも知られるようになってきました。
ですから、口内炎を繰り返す人に対しては、単に「口内炎がありますね」で終わるのではなく、歯磨きの前後で何が起きているかまで見ていくことが大切です。

まず見るのは「歯磨きしたあと、どうなるか」
同じ「口内炎」でも、見え方や出方はいつも同じとは限りません。
よくみられる再発性アフタ性口内炎では、丸みを帯びた浅い潰瘍が1個、あるいは数個できて、痛みを伴いながらもしばらくすると治っていくことが多いです。一方で、歯磨剤の刺激や接触反応が関係している場合には、典型的な丸いアフタだけではなく、頬の内側や歯ぐきが赤くなる、白く剥ける、広い範囲でヒリヒリする、といった出方をすることがあります。
そのため、私はこんな点を確認します。歯磨きすると特にしみるのか、歯磨き直後から違和感が出るのか、朝起きたときに粘膜が剥けた感じはないか、歯磨き粉を替えた時期と症状の始まりが重なっていないか、といったことです。
大切なのは、「口内炎があるかどうか」だけを見るのではなく、「歯磨きと症状に時間的な関係があるか」を見ることです。ここが分かると、単なる“いつもの口内炎”なのか、歯磨剤の刺激も重なっているのかを考えやすくなります。
発泡剤のSLSは何をしているのか
歯磨き粉を使うと口の中で泡が広がります。この泡立ちに関係している代表的な成分の一つが、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)です。SLSは界面活性剤で、歯磨剤を口の中へ広げやすくし、洗浄を助ける目的で広く使われてきました。
ここでまずお伝えしたいのは、「SLS=悪い成分」と単純に考えないことです。問題なく使えている人はたくさんいますし、症状のない人まで一律にSLSを避ける必要はありません。
ただし、口内炎を繰り返す人や、歯磨きのあとに粘膜の刺激を感じやすい人では、SLSを含まない歯磨剤へ変えることで、しみ方やヒリヒリ感が軽くなることがあります。再発性アフタ性口内炎がある人では、SLSを含まない歯磨剤へ変更したときに、口内炎の痛みや治るまでのつらさが軽くなったという報告もあります。
つまり、SLSは「みんなに悪い成分」ではなく、「合わない人では見直す価値がある成分」と考えるのがちょうどよいと思います。

SLSフリーだけで選ばないことも大切です
最近は「SLSフリー」と表示された歯磨き粉も増えています。口内炎を繰り返す人にとって、SLSフリーはたしかに有力な選択肢です。
ただし、SLSフリーと書かれていても、それだけで“絶対に低刺激”とは限りません。歯磨剤には発泡剤以外にも、香味剤、清掃剤、湿潤剤、保存料、薬効成分など、さまざまな成分が入っています。SLSを抜いても、ミントの刺激が強かったり、使い心地が自分に合わなかったりすることもあります。
また、患者さんによっては「SLSフリーだから大丈夫」と思って使い続けていても、実際にはヒリヒリ感が続いていることがあります。ですから、パッケージの表示だけで決めるのではなく、実際に使ったあとの口の反応を見ることが大切です。

ミントなどの香味も見直しポイントになります
「泡は気にならないけれど、ミントの感じがしみるんです」と話される方もいます。
歯磨剤には、メントール、ペパーミント、スペアミント、シナモン系など、さまざまな香味が使われています。これらは多くの人にとって爽快感につながり、歯磨きを続けやすくしてくれる大事な要素でもあります。
けれども、粘膜が荒れているときや、もともと刺激に敏感な人では、香味の強さがつらく感じられることがあります。強いミント味の歯磨き粉を使うたびにしみる、爽快感の強い製品だと違和感が出る、という場合には、香味の穏やかな歯磨剤へ変えてみる価値があります。
ここで大事なのは、「ミントが悪い」と決めつけることではありません。あくまでも、その人の口の状態に対して刺激が強すぎないかを見る、という考え方です。
口が乾きやすい人は、刺激を感じやすくなることがあります
歯磨き粉の刺激を考えるとき、口の乾燥も見逃せません。唾液には、口の中を濡らすだけでなく、粘膜を潤滑して守る、細菌の増殖を抑える、食べかすを洗い流す、といった大切な役割があります。
そのため、口が乾きやすい人では、同じ歯磨き粉でもしみやすく感じることがあります。朝起きると口がカラカラする、水がないと食べにくい、口の中がネバネバする、舌や粘膜がヒリヒリする、といった症状がある場合には、歯磨き粉だけの問題ではなく、口腔乾燥そのものが関係している可能性があります。
口呼吸、薬の副作用、加齢、全身疾患など、口が乾く背景はいろいろあります。乾燥が気になる方は、Sjögren病で口が乾く人の口腔ケアや、口が乾く人のフッ素ケアと根面むし歯対策もあわせて読んでみてください。口の乾きが強い人ほど、刺激を減らしながらケアを続ける工夫が大切になります。

歯磨き粉を替えるときは、一度に全部替えない方が分かりやすいです
口内炎が気になると、「とにかく刺激になりそうなものを全部やめよう」と思うかもしれません。けれども、歯磨き粉、洗口液、歯ブラシ、保湿剤などをいっぺんに全部替えてしまうと、何が合わなかったのか、何が良かったのかが分からなくなってしまいます。
まずは今使っている歯磨き粉の商品名や成分表示を確認します。そのうえで、最初は発泡剤を見直す、次に必要なら香味を見直す、というように一つずつ変えていくのがおすすめです。あわせて、口内炎ができた日、場所、痛み、治るまでの日数などを簡単に記録しておくと、前後の比較がしやすくなります。
ただし、「本当にこの歯磨き粉が原因か確かめるために、わざともう一度使ってみる」ということは勧めません。強い痛み、広い範囲の粘膜剥離、しみ方の悪化が出た場合には使用を中止し、歯科医院で相談してください。

低刺激を選ぶことと、フッ化物を確保することは両立させたいです
口内炎がつらいと、「無添加」「自然派」「低刺激」といった言葉に目が向きやすくなります。もちろん、刺激の少ない歯磨剤を選ぶことは大切です。
ただ、それと同じくらい大切なのが、むし歯予防に必要なフッ化物をきちんと確保することです。刺激が少ないことばかりを優先して、フッ化物の配合が不十分な歯磨剤へ変わってしまうと、むし歯予防の面では不利になることがあります。
特に、口が乾く人、歯ぐきが下がって根面が出てきている人、むし歯のリスクが高い人では、フッ化物の存在はとても大切です。ですから歯磨剤選びは、「低刺激かどうか」だけでなく、「必要なフッ化物が入っているか」という2つの視点で見ていきたいところです。

口内炎が痛いときほど、歯磨きを全部やめないことが大切です
口内炎があると、歯ブラシが少し当たるだけでも痛いことがあります。すると、「今日は痛いから磨かないでおこう」となりがちです。
でも、口内炎を繰り返すたびに歯磨きを控えていると、プラークが増え、歯ぐきまで炎症を起こして、口の中全体の不快感が強くなることがあります。痛いときこそ、“どうすれば痛みを増やさずに清掃できるか”を考えることが大切です。
たとえば、毛先のやわらかい歯ブラシを使う、小さめの歯ブラシやワンタフトブラシで当て方を調整する、口内炎そのものは無理にこすらない、刺激の少ない歯磨剤を使う、磨ける場所はいつも通り丁寧に清掃する、といった工夫があります。
歯磨きは「やる」「やらない」の二択ではありません。痛い場所を避けつつ、できる範囲で続けることが、口の中を守ることにつながります。

こんなときは、歯磨き粉だけの問題にしないでください
口内炎を何度も経験している人ほど、「またいつもの口内炎だろう」と思いやすくなります。けれども、口の中にできる潰瘍や白い病変が、すべて再発性アフタ性口内炎とは限りません。
2週間以上治らない、同じ場所に残り続ける、だんだん大きくなる、硬さがある、白い部分や赤い部分が消えない、しこりがある、これまでの口内炎と明らかに様子が違う、といった場合には、歯磨き粉の変更だけで長く様子を見ない方が安心です。
そのようなときは、口内炎・白い病変・しこりが2週間以上続くときの歯科受診の目安も参考にしながら、早めに歯科や口腔外科で相談してください。
どの歯磨き粉が一番いいか、ではなく「今の口に合っているか」が大切です
患者さんから「結局、どの歯磨き粉が一番いいですか」と聞かれることがあります。でも、一つの商品がすべての人に一番合うわけではありません。
むし歯が気になる人、歯周病が気になる人、知覚過敏がある人、口が乾く人、口内炎を繰り返して刺激が気になる人では、選ぶポイントが少しずつ違います。
口内炎を繰り返しているなら、発泡剤はどうか、香味は強すぎないか、使ったあとにヒリヒリしないか、口は乾燥していないか、フッ化物はしっかり入っているか、そういった点を一つずつ見ていくことが大切です。
歯磨き粉がしみるたびに「歯磨き自体が嫌になる」と感じる方もいます。けれども、刺激を減らす工夫をしながら、歯や歯ぐきを守るセルフケアは続けていくことができます。自分の口に合った歯磨剤を見つけることは、口内炎のつらさを減らすだけでなく、毎日のケアを無理なく続ける助けにもなります。
