2026年9月12日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
「前に入れたシーラント、まだきれいに残っていますね」
定期検診で、お子さんの奥歯を見ながらそんなお話をすることがあります。
シーラントは、奥歯の深い溝を歯科用の材料でふさぎ、歯ブラシの毛先が届きにくい場所に汚れがたまりにくくなるようにする予防処置です。特に、生えたばかりの第一大臼歯、いわゆる「6歳臼歯」では検討されることがあります。
シーラントそのものの仕組みや対象については、以前の子どもの奥歯のシーラントについての記事で詳しくご紹介しました。
では、ここから一歩先の疑問です。
シーラントは、長く残れば残るほど虫歯も減るのでしょうか?
さらに、シーラントを入れる前に「ボンディング材」という接着材料を一工程追加して、シーラントをより残りやすくできたとしたら、その分だけ虫歯予防効果も高くなるのでしょうか。
2026年9月10日、BMC Oral Healthに、この疑問を考えるうえで興味深いシステマティックレビュー(系統的レビュー)が公開されました。
このレビューでは、子ども581人を含む9件のランダム化比較試験を検討しています。いくつかの試験では、ボンディング材を追加するとシーラントがより長く残りました。
ところが、「新しい虫歯がさらに減ったか」については、一貫した追加利益を確認できませんでした。
しかも、シーラントの残存についてのエビデンスの確実性は「非常に低い」、新しくできた虫歯についても「低い」と評価されています。
「それなら、ボンディング材はいらないということ?」
「そもそもシーラントにも意味がないの?」
そう思われるかもしれません。
でも、この研究が示しているのは、そのどちらでもありません。
今回は、「材料が残っている」という評価と、「本当に虫歯を防げた」という評価は、なぜ同じではないのかを中心に見ていきます。
今回の研究は「シーラントをする・しない」の比較ではありません
まず、一番大切なところを整理しておきます。
今回のレビューは、
シーラントをする
vs
シーラントをしない
という比較ではありません。
比較したのは、
酸処理 → シーラント
と、
酸処理 → ボンディング材 → シーラント
です。
つまり、どちらのグループもシーラントを行っています。
違うのは、その前にボンディング材という追加の接着工程を入れたかどうかです。
レビューでは、永久臼歯にシーラントを行う子どもや青少年を対象に、酸処理後にボンディング材を使った場合と、酸処理後そのままシーラントを行った場合を比較したランダム化比較試験だけを採用しています。
主な評価項目は「シーラントがどれくらい残ったか」です。
さらに、次の2つも別々の結果として評価しました。
- もともと健全だった歯に新しく虫歯ができたか
- すでに存在していたう蝕病変が進行したか、安定していたか
ボンディング材そのものについて詳しく知りたい方は、以前のエッチング・プライマー・ボンディングの役割を解説した治療見学ノートも参考にしてください。
今回の記事では、「シーラントの下に薄い接着層を一工程追加する」と考えていただくと分かりやすいと思います。
581人・9件のRCT――でも581人全員で「虫歯」を調べたわけではありません
レビューには、10報の論文から9件のランダム化比較試験が採用されました。
対象は、重複を除いて581人の子どもです。
すべて永久第一大臼歯を対象とし、追跡期間は3か月から5年までありました。研究によって、使用した接着材やシーラント、防湿方法、対象となる歯質、評価方法、追跡期間などはかなり異なります。
ここで注意したいのが、「581人」という数字です。
581人全員について、すべての結果を評価できたわけではありません。
| 評価したもの | 試験数 | 対象者数 | エビデンスの確実性 |
|---|---|---|---|
| シーラントの残存 | 9 RCT | 581人 | 非常に低い |
| 健全歯に新しくできたう蝕 | 5 RCT | 306人 | 低い |
| 既存ICDAS 2~4病変の進行・コントロール | 1 RCT | 98人 | 非常に低い |
つまり、
「581人を調べた結果、ボンディング材を使っても虫歯が減らなかった」
という研究ではありません。
581人は、主にシーラントの残存について評価できた全体の人数です。
「もともと健全だった歯に新しく虫歯ができたか」を評価したのは、5件の試験、306人でした。
この違いは、今回の論文を正確に読むうえでとても重要です。

「スプリットマウス法」って何でしょう?
今回採用された9件は、すべて「スプリットマウス法」という研究デザインでした。
簡単にいうと、同じ子どもの口の中で2つの方法を比べる研究です。
例えば、右側の第一大臼歯には「酸処理+ボンディング材+シーラント」、左側の第一大臼歯には「酸処理+シーラント」というように割り付けます。

同じ口の中で比べる=スプリットマウス法
この方法には利点があります。
別々の子ども同士を比較すると、食生活、唾液、フッ化物の使用状況、歯磨き習慣、もともとの虫歯リスクなどが違います。
同じ子どもの口の中で比較すれば、こうした個人差をある程度そろえた状態で2つの処置を比べることができます。
一方で、同じ子どもの右側の歯と左側の歯は、まったく無関係なデータではありません。
この特徴が、後ほど出てくる「9件の試験があるのに、一つの数字へまとめたメタ解析ができなかった理由」にもつながります。
ボンディング材を追加すると、シーラントが長持ちした試験は確かにありました
まず、「シーラントがどれくらい残ったか」を見てみます。
ボンディング材を追加した方が、明らかに残存率が高かった試験があります。
24か月で83.3%対53.7%
Kasemkhunらの2021年の試験では、98人の子どもを対象に、ICDAS 2~4の咬合面病変がある第一大臼歯を調べました。
24か月後の完全残存率は、
ボンディングあり:83.3%
ボンディングなし:53.7%
でした。
統計学的にも有意な差です。
12か月の時点でも、88.2%対61.3%とボンディングを追加した側の残存率が高くなっていました。
ここだけを見ると、「やっぱりボンディング材を使った方が良いのでは?」と思いたくなります。
12か月で92%対79%
McCaffertyらの研究では112人の子どもを対象とし、12か月後にシーラントが損なわれず残っていた割合は、
ボンディングあり:92%
ボンディングなし:79%
でした。
この研究でも、ボンディング材を使った方が残存は良好でした。
MIHでは4年後70.2%対25.5%
さらに目を引くのが、MIHの歯を対象にしたLygidakisらの研究です。
MIHはMolar Incisor Hypomineralizationの略で、第一大臼歯や前歯のエナメル質が作られる過程で正常に成熟せず、白色~黄褐色の変化や、歯質の弱さがみられることがある形成異常です。
4年後に完全にシーラントが残っていた割合は、
ボンディングあり:70.2%
従来法:25.5%
でした。
かなり大きな差です。
ただし、この試験は通常のエナメル質ではなく、MIHという性質の異なるエナメル質を対象にした試験です。
普通の6歳臼歯すべてで70.2%対25.5%になる、という意味ではありません。
MIHについては子どものMIH・エナメル質形成不全についての記事で詳しく解説しています。
すべての研究でボンディングが勝ったわけではありません
一方で、ほとんど差がなかった研究もあります。
Pinarらの24か月後の残存率は、
79%対75%
で、有意差はありませんでした。
Moreiraらでも、24か月後の残存について有意差は認められませんでした。
Kuwaitで行われた試験でも、2年後、さらに5年後の同じ子どもの左右の歯を組にして比較する解析で、明確な残存率の差は確認されませんでした。
つまり、
「ボンディング材を追加すれば、どんな歯でも必ずシーラントが長持ちする」
という結果ではありません。

シーラント残存率は研究によって結果が違いました
Kasemkhun:83.3% vs 53.7%
McCafferty:92% vs 79%
Lygidakis・MIH:70.2% vs 25.5%
Pinar:79% vs 75%
ところが「新しい虫歯」は、ほとんど起きていませんでした
ここからが、今回のレビューの大切なところです。
シーラントの残存率には研究によってかなり大きな違いがありました。
ところが、実際に「新しく虫歯ができたか」を見ると、事情が変わります。
Moreiraらでも新規う蝕はほとんど起きませんでした
Moreiraらの研究では、研究で報告された「う蝕予防率」は全体で約99.4%でした。
ただし、これは「ボンディング材を使えば99.4%虫歯を予防できる」という意味ではありません。
ボンディングあり・なしを含めて、研究対象となった歯のほとんどに新しいう蝕が生じなかったという結果です。
グループ間に有意な差も認められませんでした。
Unverdiらでは24か月で新規う蝕ゼロ
Unverdiらの57人の研究では、24か月にわたり、どのグループにも新しいう蝕は認められませんでした。
シーラントの残存については、ボンディングを追加した方法の方が良好でした。
しかし新規う蝕については、
0対0
です。
両方とも虫歯ができていないので、「どちらがさらに虫歯を防いだか」という差を見つけることはできません。
Khareらでは、う蝕は1歯だけ
Khareらの研究でも、新しいう蝕は1歯だけでした。
シーラント残存率にはグループごとに数字の違いがあっても、虫歯そのものがほとんど起こらなければ、「虫歯予防効果の差」を統計的に見つけることは難しくなります。
MIHでは70.2%対25.5%の残存差があっても、虫歯には有意差なし
先ほどのMIHの研究を思い出してください。
4年後の完全残存率は、70.2%対25.5%と大きく違っていました。
ところが、新しいう蝕やエナメル質崩壊については有意な差が認められませんでした。
この結果は、今回のテーマをとても分かりやすく表しています。
「シーラントがよく残った」
ことと、
「さらに虫歯が減った」
ことは、同じ結果ではありません。
レビュー全体でも、最初は健全だった歯に生じた新規う蝕は少なく、ボンディング材を追加することで一貫した追加のう蝕予防効果が得られたとは確認できませんでした。
すでにう蝕病変があった歯ではどうだったのでしょう?
今回のレビューでは、「新しい虫歯」と「すでにあった病変の進行」を分けて評価しています。
これは大切な点です。
最初からICDAS 2~4の咬合面病変があった歯を調べた試験は、1件・98人だけでした。
24か月の追跡中に、レントゲン画像上で象牙質う蝕が進行したため修復治療へ移行した歯は3歯でした。
内訳は、
ボンディングなし:2歯
ボンディングあり:1歯
です。
病変の進行や変化を含めた全体の比較では、有意な群間差は認められませんでした。
ただし、進行したイベントが3歯しかありません。
1歯対2歯という数字だけから、「ボンディング材を使うと病変進行を半分にできる」とも、「まったく効果がない」とも判断できません。
そのため、この評価項目のエビデンスの確実性は「非常に低い」とされています。
「差がなかった」=「効果がないと証明された」ではありません
ここは、とても大切です。
「ボンディング材を使っても虫歯に差がなかった」
と聞くと、
「では、ボンディング材を追加しても、虫歯予防上の意味はないんですね」
と考えたくなります。
しかし、研究結果の読み方としては少し違います。
今回の試験では、新しい虫歯そのものが非常に少なかったからです。
例えば、2つの方法を比べたとき、一方で50件、もう一方で10件の虫歯が起きれば、違いは比較しやすくなります。
一方で、
0件と0件
0件と1件
という程度しか起きていなければ、本当に処置の効果が同じなのか、それとも少し違うけれど研究の人数や期間では見つけられなかったのか、判断が難しくなります。
エビデンスの確実性を評価するGRADEでも、新規う蝕については、イベント数が少ない、あるいはゼロの試験が多かったため、「不精確さ」が問題とされました。
つまり、現在の研究では、
実は臨床的に意味のある追加効果が存在する可能性
も、
追加してもほとんど変わらない可能性
も、完全には除外できません。
したがって、今回の研究から言えるのは、
「ボンディング材には虫歯予防効果がない」
ではありません。
より正確には、
「現在あるRCTでは、ボンディング材を追加することで、新しい虫歯がさらに減るという一貫した追加利益までは確認できていない」
です。

「材料が残っている」と「本当に虫歯を防いだ」は同じ評価ではありません
今回のレビューを読むうえで、最も大切なのはここだと思います。
研究では、治療や予防処置の効果を見るために、さまざまな「ものさし」を使います。
シーラントなら、
- 完全に残っている
- 一部が失われた
- 全部なくなった
という状態は、比較的早い段階で評価できます。
6か月後でも、12か月後でも確認できます。
一方で、患者さんにとって最終的に避けたいのは、
「材料が少し欠けること」そのものではなく、「その歯が虫歯になること」
です。
虫歯ができるかどうかは、シーラントだけで決まりません。
もともとのう蝕リスク、フッ化物の使用、歯磨き、食生活、プラークの量、定期受診、部分的に外れたシーラントをその後どう管理したかなど、多くの条件が関係します。
原著でも、シーラントの残存は比較的早く観察できる物理的な結果である一方、虫歯はより長い時間が必要で、さまざまな要因に影響される結果として整理されています。
ここで注意したいのは、
「残存率は大切ではない」
という意味ではないことです。
「完全に残っていた割合」は、シーラントの性能や接着状態を考えるための大切な評価です。
ただし、
残存率が10%高くなったら、虫歯も10%減る
という単純な関係ではありません。
完全に残っていなくても、すぐ「保護効果ゼロ」になるとは限りません
シーラントは、「100%完全に残っている」か、「すべてなくなった」かだけではありません。
一部分だけ失われることもあります。
部分的に残ったシーラントが、一部の裂溝をまだ覆っている場合もあります。
また、定期検診で部分的な欠損を見つけて再評価し、必要に応じて補修や再処置を行えば、その後の経過も変わります。
原著も、完全残存率が改善したからといって、自動的にさらに優れたう蝕予防へつながると考えるべきではないとしています。
部分的に残ったシーラントが一部の裂溝を保護している可能性や、診察・補修がその後の虫歯発生へ影響する可能性があるからです。
私たちが定期検診でシーラントを見るときも、
「シーラント材がまだ残って見えるから大丈夫」
という見方だけをするわけではありません。
どこまで残っているか、周囲の裂溝が露出していないか、汚れがたまりやすくなっていないか、歯質に変化がないかなどを合わせて見ています。
では「残存率はどうでもいい」の?――それも違います
ここまで読むと、今度は反対に、
「残存率と虫歯が同じではないなら、少しくらい取れても放っておいていいのでは?」
と思われるかもしれません。
これも違います。
シーラントが欠けたり脱落したりすれば、深い裂溝が再び口の中に露出することがあります。
辺縁に段差ができたり、汚れが停滞したりする場合もあります。
そのため、シーラントをした歯も定期的な確認が必要です。
小児歯科の接着に関する報告では、グラスアイオノマーセメント系シーラントについて、摩耗が進んだ場合に定期検診時の再シーラントで対応する考え方が示されています。長期管理を前提に材料を使うという考え方です。
ここは、すべてのシーラント材料が同じように摩耗するという意味ではありません。
材料の種類によって、保持性や摩耗の仕方、フッ化物の放出などの性質は異なります。
生えたばかりの第一大臼歯は、高さがまだ十分でなかったり、歯ぐきが一部を覆っていたりして、歯ブラシも届きにくくなります。
6歳臼歯と生え替わり期の磨き方についての記事でもご紹介しているように、この時期は「一度予防処置をしたら終わり」ではなく、成長とともに状態を追っていくことが大切です。
9件もRCTがあるのに、なぜメタ解析をしていないのでしょう?
今回の論文はシステマティックレビューですが、9件の試験を一つにまとめて、
「ボンディング材を使うと残存率が○%改善する」
という統合値は出していません。
理由は、先ほどお話ししたスプリットマウス法にあります。
同じ子どもの左右の歯を比較しているので、2本の歯を「まったく別の2人のデータ」のように扱うことはできません。
例えば、
- 両方とも残った
- 両方とも外れた
- ボンディング側だけ残った
- ボンディングなし側だけ残った
という、同じ子どもの中での組み合わせが重要になります。
ところが、古い試験の多くでは、この「同じ子どもの中での違い」を正しく統合するために必要なデータが十分に報告されていませんでした。
そのため著者らは、無理に一つの数字にまとめず、研究ごとの結果を整理して評価する方法を選びました。
確実性評価でも、同じ子どもの歯を組にして計算した効果推定値について、信頼できる統合値を出すことは妥当ではないと判断されています。
「システマティックレビュー」と「メタ解析」は、同じ意味ではありません。
研究を系統的に集めて評価しても、データの形や研究条件が違いすぎれば、無理に一つの数字へまとめない方が適切なこともあります。
581人もいるのに、なぜエビデンスの確実性は「低い」の?
「581人も参加しているなら、かなり確かな結果なのでは?」
と感じるかもしれません。
しかし、研究の確かさは人数だけでは決まりません。
今回、シーラント残存についてのエビデンスは非常に低い、新規う蝕については低いと評価されました。
残存率については、次のような問題があります。
- 研究によって結果が揃っていない
- 使用したボンディング材が違う
- 接着方法が違う
- シーラント材料が違う
- 通常のエナメル質とMIHが含まれる
- 防湿方法が違う
- 残存の判定方法が違う
- 追跡期間が違う
- スプリットマウス法に適した統計データの報告が不十分
実際、10報のバイアスリスク評価では、
低リスク:2報
懸念あり:6報
高リスク:2報
でした。
さらにMoreiraらでは43%、Pinarらでは26%が追跡途中で脱落しており、結果の信頼性へ影響する可能性が指摘されています。
ですから、
「581人で証明された」
と人数だけを見て結論づけることはできません。
そして大切なこと――シーラントそのものを否定した研究ではありません
もう一度、今回の研究の問いに戻りましょう。
比較しているのは、
シーラントあり vs シーラントなし
ではありません。
ボンディング材を追加したシーラント vs ボンディング材を追加しないシーラント
です。
したがって今回の結果から、
「シーラントは虫歯予防に意味がない」
とは言えません。
日本小児歯科学会が2025年に公開した『乳歯と幼若永久歯の小窩裂溝塡塞ガイドライン』では、健全な幼若永久歯の咬合面について、う蝕予防のために小窩裂溝塡塞を実施することを提案するとしています。
ただし、推奨の強さは「弱い推奨」、エビデンスの確実性は「低」です。
12か月後に評価された歯では、う蝕発生は、
シーラント群:35/938歯(3.7%)
シーラントなし:103/862歯(11.9%)
で、リスク比は0.31でした。
6か月後でも、
シーラント群:12/437歯(2.7%)
シーラントなし:37/311歯(11.9%)
という結果でした。
ここでの割合は「子どもの何%」ではなく、評価された歯のうち何歯にう蝕が生じたかという数字です。
ただし、この数字もそのまま「日本のすべての子どもで同じ割合になる」と考えることはできません。
日本小児歯科学会のガイドライン自体も、海外試験の対照群でみられた11.9%というう蝕発生率が、日本の子どもの現在のう蝕リスクと同じとは限らず、日本の基礎的なう蝕リスクを考えて実際の利益を評価する必要があるとしています。

似ているようで違う2つの研究質問
A シーラントそのものの効果
シーラント vs シーラントなし
→ シーラント自体に虫歯予防効果があるか
B ボンディング材の追加効果
シーラント+ボンディング材 vs シーラントのみ
→ ボンディング材を足すことで、さらに良くなるか
今回の2026年レビューはBを調べた研究です
では、すべてのシーラントでボンディング材を使えばいいのでしょうか?
今回のレビューは、すべてのシーラントの下に一律にボンディング材を使用することを支持していません。
一方で、
「ボンディング材は使わなくてよい」
とも結論していません。
著者らは、考えられる残存率の利益と、
- 処置時間が増えること
- 操作手順が増え、手技の影響を受けやすくなること
- 材料費が追加されること
などを考え、症例ごとに判断する必要があるとしています。
歯の萌出状態、エナメル質の状態、防湿のしやすさなどは、実際の診療で材料や方法を考えるうえで大切な条件です。
ただし、今回のレビューから、
「防湿が難しい歯ほどボンディング材を使えば特に有効」
と証明されたわけではありません。
今回の研究では、防湿の難しさやエナメル質の状態によってボンディング材の効果が変わることまでは確認できていません。
どの方法を選ぶかは、実際の歯の状態や使用する材料などを確認したうえで歯科医師が判断します。
「子どもにとって総合的に良かったか」は、まだ十分に分かっていません
もう一つ、このレビューを読むときに忘れたくない点があります。
研究では主に、
シーラントが残ったか
虫歯になったか
を調べています。
しかし、実際に子どもが歯科処置を受けるときには、それ以外にも大切なことがあります。
- 処置にどれくらい時間がかかったか
- 子どもがどのくらい不快に感じたか
- 追加工程を受け入れやすかったか
- 後で補修や再シーラントが必要になったか
- 費用に見合う利益があったか
原著では、こうした患者さんにとって重要な結果や、実際の診療に関わる結果はほとんど報告されていなかったとしています。
そのため、
「ボンディング材を追加した方が、子どもにとって総合的に優れている」
とまで判断できるレビューではありません。
「材料が長く残る」という結果だけでなく、処置の負担や再処置まで含めて、本当に患者さんにとって良い方法なのかを調べる研究も今後必要です。
歯科衛生士として大切だと思うのは「材料が残っているか」だけではありません
メンテナンスでシーラントを確認するとき、もちろん「取れていないか」は大切です。
でも、それだけを見ているわけではありません。
- その歯の周囲にプラークが残っていないか
- 深い溝が再び露出していないか
- 生えかけだった歯がどこまで萌出したか
- 歯ブラシが届くようになったか
- 白濁や着色など、虫歯を疑う変化はないか
- 毎日のフッ化物配合歯磨剤を適切に使えているか
そうしたことを一緒に確認します。

6歳以上で使うフッ化物配合歯磨剤の濃度や量については、6歳からのフッ素濃度と歯磨き粉の使い方も参考にしてください。
シーラントは、虫歯予防のための大切な選択肢の一つです。
でも、それ一つで子どもの虫歯予防が完結するわけではありません。
今回の論文を読んで改めて感じるのは、
私たちが守りたいのは「シーラントという材料」ではなく、その下にある歯だということです。
材料が長く残ることは大切です。
でも最終的な目標は、
その歯をできるだけ健康な状態で長く守ること
です。
よくある質問
シーラントが少し欠けたら、すぐ虫歯になりますか?
必ず虫歯になるわけではありません。
部分的にシーラントが残っていれば、一部の裂溝は引き続き覆われている場合があります。
ただし、どの部分が露出したのか、段差や汚れの停滞がないか、すでにう蝕が始まっていないかは、ご家庭では判断しにくいところです。
欠けたように見える場合は、歯科医院で状態を確認してもらいましょう。
ボンディング材を使わないシーラントは効果が低いのですか?
今回のレビューから、そうは言えません。
比較対象となった「ボンディングなし」のグループも、酸処理後に通常のシーラント処置を受けています。
今回調べたのは、そこにボンディング材を追加することで、さらに利益が上乗せされるかです。
シーラントそのものの有効性を比較した研究ではありません。
ボンディング材を使えば、シーラントは絶対に取れませんか?
いいえ。
残存率がかなり改善した試験もありますが、ほとんど違いがなかった試験もあります。
材料、接着方法、歯質、追跡期間などが研究ごとに異なり、今回のレビューでも残存についてのエビデンスの確実性は「非常に低い」と評価されています。
シーラントがずっと残っていれば、定期検診は必要ありませんか?
シーラントが残っていても、定期的な確認は大切です。
シーラントが覆っていない歯面にも虫歯はできます。
また、辺縁の小さな欠損や周囲のプラーク、別の歯の変化などもあります。
「材料が残っているか」だけではなく、歯全体が健康かを見る必要があります。
今回の論文は「ボンディング材は不要」と結論したのですか?
いいえ。
今回のレビューは、ボンディング材を追加することでシーラント残存率が改善する試験がある一方、新規う蝕の追加予防効果は一貫して確認できなかったとしています。
しかし、新規う蝕そのものが少なく、エビデンスの確実性も低いため、
「必要ないことが証明された」
とは言えません。
原著の結論も、すべての症例に一律に使うのではなく、症例ごとに判断するというものです。
シーラントが取れたように見えたら、急いで受診した方がいいですか?
シーラントが少し欠けたように見えるだけで、必ずしも緊急受診が必要とは限りません。
ただし、どの程度失われたのか、深い溝が露出しているのか、すでに虫歯が始まっていないかによって対応は変わります。
また、痛み、歯の破折、腫れなど別の症状を伴う場合は、シーラントだけの問題とは限りません。
その場合は、早めに歯科医院へ相談してください。
まとめ|「長持ち」は大切。でも、それだけがゴールではありません
2026年9月10日に公開されたシステマティックレビューでは、10報・9件のランダム化スプリットマウス試験、581人の子どもが検討されました。
ボンディング材を追加することで、シーラントの残存率が高くなった試験は確かにあります。
一方で、新しくできた虫歯を評価できたのは5件・306人でした。
しかも、新規う蝕そのものが非常に少なく、ボンディング材を追加することで虫歯がさらに減るという一貫した利益は確認されませんでした。
だからといって、
ボンディング材は不要
とは言えません。
また、
シーラントそのものに効果がない
という研究でもありません。
そして、
シーラントの残存率はどうでもいい
という意味でもありません。
今回の研究から考えたいのは、
「材料がよく残った」という物理的な成功と、「本当に虫歯を防げた」という患者さんにとって重要な成功は、同じものとして扱えない
ということです。
シーラントが長く残ることは大切です。
でも、シーラントを長く残すこと自体が最終目的ではありません。
その子の歯を虫歯から守り、できるだけ健康な状態で成長させていくこと。
そのためには、シーラントの状態だけでなく、毎日の歯磨き、フッ化物、食生活、生え替わり、定期的な確認を組み合わせて考えていくことが大切です。
ブランデンタルクリニックは広島市中区立町、立町駅徒歩1分の立町中央ビル4階にあり、エレベーターでお越しいただけます。
シーラントが欠けたように見える、奥歯の深い溝が気になる、虫歯かどうか分からないといった場合もご相談ください。
シーラントの小さな欠損だけで必ずしも急患になるわけではありませんが、痛みや歯の破折などを伴う場合は、当日電話受付可・急患同日可の範囲で診療状況を確認してご案内しています。
参考文献
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