2026年8月09日

(院長の徒然コラム)

SHIN-BOWの「約4,500N」「200万回」とテレビ朝日「耐久性は金属並み」報道を検証する
2026年8月3日、テレビ朝日「グッド!モーニング」で、同年6月から保険適用となった白いCAD/CAMブリッジ用材料「KZR-CAD ファイバーブロック シンボー(SHIN-BOW)」が紹介されました。
テレ朝NEWSに掲載された記事のタイトルは、
「保険適用、歯科治療の白い新素材は割安 耐久性は金属並み、ブリッジに選ぶ患者増える」
です。
本文にも、
「強度や耐久性は金属製と同じくらいだといいます」
という説明があります。
歯科材料を扱う立場として、私はこの「金属並み」という表現には賛成できません。
ただし、このコラムのタイトルについて最初に明確にしておかなければならないことがあります。
SHIN-BOWを用いたブリッジのすべての機械的試験値が、金属製ブリッジより低いという意味ではありません。
むしろ、YAMAKINが公表した特定条件での静的破壊試験では、SHIN-BOWで製作したブリッジは、金銀パラジウム合金をフレームとして硬質レジンをフルカバレッジした比較ブリッジより高い破壊荷重を示しています。
それでも「金属並みの強度はありません」と書いたのは、「金属並みの強度」という一つの総合的な物性が存在するわけではなく、現在公表されているデータから、金銀パラジウム合金ブリッジとの総合的・長期的な力学的同等性まで証明されたわけではないからです。
材料試験片の曲げ強さ。
材料の変形しにくさを表す弾性率。
完成したブリッジへ一度大きな荷重を加えたときの静的破壊荷重。
何十万回、何百万回と荷重を繰り返す疲労試験。
そして患者さんの口腔内で5年、10年と機能する臨床耐久性。
これらは関連していても、同じものではありません。
今回の報道を考えるうえで、まずここを分ける必要があります。
SHIN-BOWとはどのような材料なのか
SHIN-BOWは、単純な白いレジンの塊ではありません。
ブロック内部には、シート状のガラス繊維を積層して樹脂を含浸させたグラスファイバー強化型レジンの芯材が配置されています。その周囲を、大臼歯用CAD/CAM冠にも使用されるレジン系材料と同系統の材料が覆っています。
メーカー資料では、内部に「芯棒」を配置していることと、約4年間「辛抱」しながら開発したことの双方が「SHIN-BOW」という名称に込められていると説明されています。

この材料を使ったCAD/CAMブリッジが2026年6月から保険診療に導入されました。
保険上の対象は、第二小臼歯または第一大臼歯の1歯中間欠損に対する3ユニットブリッジです。メーカー資料では④5⑥、⑤6⑦として示されています。
制度導入時の背景については、当院でも以前に2026年6月導入「CAD/CAMブリッジ」の制度と材料上の課題を詳しく整理しています。
今回の焦点は、その後に公開された詳細な材料データを踏まえて、テレビ報道の「金属並み」という表現がどこまで妥当なのかを考えることです。
「強い」「丈夫」「耐久性がある」は同じ意味ではない
一般向けの説明では、「強い」「丈夫」「耐久性が高い」はほとんど同じ意味で使われます。
しかし歯科材料学では、分けて考えなければなりません。


これは言葉の定義にこだわっているだけではありません。
日本歯科理工学会と日本補綴歯科学会が2025年10月に公表した「コンポジットレジンを用いた3ユニットCAD/CAMブリッジの具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方」でも、材料試験片の曲げ強度と、実際のブリッジ形態で測定する破壊荷重は明確に区別されています。
両学会の資料には、さらに興味深いデータがあります。
3点曲げ試験では748MPaという高い曲げ強度を示した高強度硬質レジンでも、ブリッジ形態にすると破壊荷重は2,240Nでした。一方、ファイバー補強コンポジットレジンブロックによるブリッジでは3,710N、別のブリッジ用コンポジットレジンブロックでは4,119Nという結果が示されています。
つまり、
材料単体の曲げ強さの順位と、完成ブリッジの破壊荷重の順位は一致しない。
ブリッジは材料片ではなく、形態、厚み、連結部、補強材の位置などを含む「構造物」だからです。
ここを理解すると、「強度」という一言だけで材料を比較することの難しさが見えてきます。
芯材の「600MPa以上」は完成ブリッジの耐久性ではない
SHIN-BOWの資料には、内部の芯材について「600MPa以上」というデータがあります。
数字だけを見ると、かなり強そうに感じるかもしれません。
しかし重要なのは、何を測定した600MPaなのかです。
YAMAKINのテクニカルレポートでは、芯材と同じ組成のブロックから、
高さ1.2mm、
幅4.0mm、
長さ14mm
の試験片を作製しています。
その試験片を37℃の水中へ7日間浸漬した条件、あるいは4℃と60℃の水中への浸漬を5,000回繰り返した条件で、3点曲げ試験を行っています。

この600MPaが示すのは、規定された条件下における芯材試験片の曲げ強さです。
完成したSHIN-BOWブリッジの「耐久年数」や「耐久力」ではありません。
金銀パラジウム合金ブリッジと同じ条件で何年間使用できるかを測定した数字でもありません。
したがって、
600MPaだから金属並みに丈夫
という変換はできません。
完成したブリッジの試験は「芯材の3点曲げ試験」とは別物
完成した3ユニットブリッジについても、もちろん試験されています。
ただし試験方法は、先ほどの細長い材料片を使った3点曲げ試験とは別です。
ブリッジの両支台装置を支台歯模型に接着し、中央のポンティックへ球体を介して荷重します。
左右2点で支持して中央へ荷重するため、力学的な見た目は3点曲げに似ています。
しかし、
材料試験片の3点曲げ試験
と、
実際の3ユニット補綴物を用いるブリッジ破壊試験
を同じものとして説明するべきではありません。

両学会も、規格化されたブリッジを支台歯へ接着して測定する破壊荷重を、材料片の曲げ強度とは別に評価しています。
SHIN-BOWの約4,500Nという結果はそのまま紹介すべきである
では完成したSHIN-BOWブリッジは、どの程度の破壊荷重を示したのでしょうか。
両学会が定めた考え方では、ファイバー補強された3ユニットCAD/CAMブリッジについて、7日間水中浸漬後の規格ブリッジ形状で、すべての試料が2,200N以上の破壊荷重を示すことが要件とされています。
YAMAKINによる測定では、SHIN-BOWは規格化した3本ブリッジ形状で約4,500Nの破壊荷重を示したと報告されています。
また、ファイバー補強によって支台装置の脱離や、ブリッジが完全に分断されるような破壊は確認されなかったとされています。
これはそのまま評価すればよいでしょう。
SHIN-BOWを、
「レジン系だからすぐ折れる」
と決めつけるデータではありません。
しかし同時に、
約4,500Nだったから金属と同じ耐久性がある
とも言えません。
これはあくまで、一定の条件で一度荷重して破壊するまでを測定した静的破壊試験だからです。
金銀パラジウム合金との比較ではSHIN-BOWの方が高い破壊荷重を示した
ここは今回の議論で、メーカー側が公表しているシンボーの優れた実験結果も含めて正確に書く必要があります。
YAMAKINは、SHIN-BOWと金銀パラジウム合金を使用したブリッジの比較試験も行っています。
第一小臼歯と第一大臼歯を支台歯とし、第二小臼歯欠損を想定した④5⑥の3ユニットブリッジです。
SHIN-BOWはCAD/CAMによって切削加工。
比較対象は、金銀パラジウム合金「パラゼット12-n」でフレームを鋳造し、その上を硬質レジン「ツイニー」でフルカバレッジしたブリッジです。
両者をチタン製支台歯へ接着し、37℃水中へ1日浸漬した後、ポンティック咬合面へ直径8mmのステンレス球を介して荷重を加えています。
この条件では、SHIN-BOWの方が高い静的破壊荷重を示しました。

非常に重要なのは、この比較対象です。
テレビ朝日の報道では「金属製」と一括りにされていますが、YAMAKINの比較試験は、一般的な全部金属の鋳造ブリッジそのものとの比較ではありません。
金銀パラジウム合金のフレームを硬質レジンで覆ったブリッジとの比較です。テレビ朝日の記事では、その試験条件や比較対象の構造までは説明されていません。
この実験を正確に表現するなら、
「この設計と試験条件では、SHIN-BOWブリッジが金銀パラジウム合金フレーム+硬質レジンブリッジより高い静的破壊荷重を示した」
となります。
これと、
「強度や耐久性は金属製と同じくらい」
は同じ文章ではありません。
そもそも金銀パラジウム合金とは変形の仕方も違う
日本の保険ブリッジで長年使用されてきた金属として、12%金銀パラジウム合金を比較対象にしてみます。
SHIN-BOWの有限要素解析で設定されている弾性率は、周囲のレジン部分が約12GPa、グラスファイバー強化型レジン芯材が約22GPaです。
一方、12%金銀パラジウム合金については、GCの歯科材料資料で85~95GPa程度の弾性係数が示されています。
もちろん、異なる目的・条件の資料から数字だけを取り出し、
「95だから22より何倍も強い」
と比較するのは適切ではありません。
弾性率は「破壊する強さ」そのものではないからです。
ただし、これによって分かることがあります。
金銀パラジウム合金とSHIN-BOWは、荷重を受けたときに同じように変形する材料ではありません。
つまり、そもそも材料としての力学的挙動が異なるのです。
YAMAKIN自身も別のファイバーフレーム材料について、フレーム単体では金銀パラジウム合金「パラゼット12-n」の方が強いものの、完成ブリッジとしては表層レジンが先に破壊するため、ブリッジ全体の破壊荷重は同等以上になる場合があると説明しています。
これはまさに、
材料単体の強さと、完成補綴物全体の破壊荷重は別
であることを示す好例です。
一度大きな力に耐えたことと、長期間耐えることは違う
静的破壊試験は重要な試験です。
しかし、その試験が答えるのは、
「この条件で一度荷重を増していったとき、どこで破壊したか」
です。
実際の口腔内では、そうした一発の巨大な荷重だけが問題になるわけではありません。
食事のたびに何度も咀嚼します。
力の大きさは毎回変化します。
荷重点も変わります。
垂直方向だけでなく、咬頭斜面から斜めの力や側方力も加わります。
そして材料や構造体では、最大破壊荷重よりはるかに小さな力でも、それを何度も繰り返すことで微小な損傷が蓄積し、破壊へ至ることがあります。
これが疲労です。
したがって、
静的破壊荷重が高い
=疲労寿命が長い
ではありません。
さらに、
疲労寿命が長い
=実際の口腔内で長期間問題なく機能する
でもありません。

静的破壊荷重がほぼ同じでも、疲労寿命が約6倍違った研究がある
この問題はSHIN-BOW特有の話ではありません。
セラミック接着ブリッジのin vitro研究には、非常に分かりやすい例があります。
アルミナセラミックを使用した接着ブリッジで、両側リテーナー設計と片側リテーナー設計を比較したところ、静的破壊荷重は291Nと313Nで、有意差は認められませんでした。
しかし25Nの繰り返し荷重では、両側リテーナー群は約5万回で破壊したのに対し、片側リテーナー群では約30万回まで耐えました。

これはかなり示唆的です。
一回壊す試験ではほぼ同じ。
繰り返してみると約6倍違う。
静的破壊荷重だけから「耐久性」を推定することが難しい理由がよく分かります。
材料がレジンだからこの議論をしているのではありません。
金属でもセラミックでもレジンでも、試験が違えば答えている問いも違います。
SHIN-BOWには「1,080N×200万回」の疲労試験もある
もちろんYAMAKINも静的破壊試験だけを行っているわけではありません。
3ユニットブリッジ形状を使用した動的疲労試験も公開しています。
第一小臼歯と第一大臼歯を支台歯とした④5⑥のモデルで、連結部は高さ3.8mm、幅5.7mm、断面積18mm²。
ポンティック咬合面へ直径8mmのステンレス球を介して繰り返し荷重を加えています。
結果は、
1,080N × 200万回で破折なし。
です。
この結果も、素晴らしい結果です。
疲労に関する重要な実験データです。
ただし、資料を読むうえで二つ注意点があります。
一つは、テクニカルレポート上、この疲労試験で使用された材料が、現在の市販製品そのものではなく、SHIN-BOWの開発品である「KZR-CAD ファイバーブロック ブリッジ」と記載されていることです。
もう一つは、200万回をそのまま「口腔内で3年間使えた」と読み替えてはいけないことです。
「200万回=臨床3年間」ではない
メーカーは、一度の食事における咀嚼回数を620回、1日3食と仮定して、200万回を約3年相当と換算しています。
そしてメーカー自身の結論は慎重です。
「3年間もつことが証明された」
とは書いていません。
3年相当で最大咬合力以上の荷重に耐える疲労耐久性を持つことが「示唆された」
という表現です。
この「示唆された」という言葉は大切です。

実験室では、荷重点や試験条件を一定にできます。
口腔内は違います。
咬合力には個人差があります。
力の方向も毎回違います。
食物が介在します。
支台歯はチタン製模型ではなく、生体の歯です。
歯根膜を介して顎骨に支持され、微小に動きます。
唾液があります。
温度変化があります。
接着界面があります。
表面摩耗や経時的な咬合変化もあります。
したがって、
実験室で200万回破折しなかった
という結果は臨床耐久性を考えるうえで重要ですが、
患者さんの口腔内で3年間問題なく使えることを直接証明した
という意味ではありません。
そして金銀パラジウム合金と「200万回対決」をしたわけではない
テレビ朝日の「耐久性は金属並み」を考えるうえで、ここが最も重要なポイントの一つです。
YAMAKINの公表資料には、
SHIN-BOWと金銀パラジウム合金フレーム+硬質レジンブリッジの静的破壊比較
があります。
また、SHIN-BOW系開発品の200万回疲労試験
があります。
しかし、今回公表されている製品資料・テクニカルレポートには、
SHIN-BOWと金銀パラジウム合金ブリッジを、同じ形態、同じ支台歯、同じ接着条件、同じ荷重点、同じ荷重値、同じサイクル数で直接比較した200万回の疲労試験
は示されていません。
これは、
「そのような試験が世界のどこにも存在しない」
という意味ではありません。
今回「金属並み」という表現の根拠として確認できるメーカー公表資料には示されていない
という意味です。
静的比較で金属系の比較対象より高かった。
別の疲労試験で200万回破折しなかった。
この二つを頭の中でつなげ、
だから金属並みの耐久性である
とすることはできません。
別の実験だからです。
実験結果は臨床耐久性を予測する材料だが、臨床耐久性そのものではない
だからといって、実験室の試験に意味がないわけではありません。
むしろ逆です。
材料の臨床応用には不可欠です。
材料単体の物性を測定する。
水中に置く。
温度変化を与える。
完成補綴物を壊す。
繰り返し荷重を加える。
その積み重ねによって、臨床使用へ進むための安全性や機械的性質を評価します。
ただ、その先にもう一段階あります。
実際の患者さんでの臨床経過です。

例えばブリッジ本体が4,000Nを超える荷重まで折れなくても、接着が外れれば補綴物としては機能しません。
本体が折れなくても、支台歯に二次う蝕が発生すれば再治療になります。
レジン部分のチッピングが繰り返されれば修理が必要です。
臨床における「長持ち」は、材料本体の破折だけでは決まりません。
だから、
in vitroの実験結果をそのまま耐久年数へ変換してはいけない
のです。
現在の臨床データは18症例、最長1,016日
実際の患者さんでの経過も公開されています。
YAMAKINのテクニカルレポートでは18症例が掲載され、最長観察期間は1,016日です。
修復不能と位置づけられた連結部破折は0例。
一方、1症例では装着後188日に脱離し、再装着後は機能を継続しています。
別の1症例では470日後にレジン部の表層チッピングが認められ、研磨処置後に経過しています。
この結果を悪いと評価する必要はありません。
しかし、
18症例・最長1,016日
と、
金銀パラジウム合金ブリッジとの長期臨床耐久性が同等
との間には大きな距離があります。
金銀パラジウム合金を対照群とした比較臨床試験ではありません。
5年・10年の観察でもありません。
しかも18症例の経過期間は一様ではなく、41日、42日、113日など比較的短い症例も含まれています。
さらに18症例の内訳には、現在の電子添文では対象外となる4ユニットの③45⑥症例も1例含まれています。 現在の電子添文では4歯以上連結への使用は禁止されています。
したがって、18例をそのまま「現在の保険適応3ユニット症例18例の長期成績」と読むこともできません。
現時点では、
初期臨床データ
として読むのが適切です。
「破折しなかった」だけが耐久性ではない
YAMAKINの臨床評価が興味深いのは、連結部破折だけを評価していないことです。
チッピング。
ブリッジの脱離。
プラークの付着。
変色・着色。
こうした項目も評価しています。
臨床では当然です。
補綴物が真っ二つに折れなくても、頻繁に脱離すれば「問題なく長持ちした」とは言いにくい。
本体が残っていても、支台歯に問題が生じれば再治療が必要です。
この意味でも、
破折試験の数字=臨床耐久性
とはなりません。
ブリッジ治療そのもののメリット・デメリットや、支台歯に生じる長期的な負担については別稿でも解説しています。
SHIN-BOWの「芯棒」は、そのまま一本残るわけではない
SHIN-BOWの製品写真を見ると、長方形のブロック中央に芯材が通っています。
そのため、
「丈夫な芯棒が完成したブリッジの端から端まで一本そのまま入っている」
というイメージを持つかもしれません。
実際の製作工程は違います。
SHIN-BOWは、芯材を内包したブロックそのものをCAD/CAMで切削し、ブリッジの形を作る材料です。
つまり、周囲のレジンだけではなく、元のブロックに存在していた芯材も、完成する補綴物の形態に従って切削されます。

だからこそ、メーカーは芯材をどこに残すかを細かく指定しています。
芯材は両側の連結部へ配置。
芯材の咬合面側にはレジン1.0mm以上。
連結部では芯材周囲にレジン0.9mm以上。
連結部は高さ3.8mm以上、断面積18mm²以上です。
PMDAの電子添文でも同じ条件が規定されています。
さらに、切削後に近遠心隣接面やマージンへ芯材が露出した場合には、露出芯材を約0.5mm削合し、表面処理後に硬質レジンを築盛する工程まで指定されています。
咬合面側に芯材が露出する症例には使用しないとされています。
つまりSHIN-BOWは、
「強い棒が中に一本入っているから金属並みに丈夫」
という単純な材料ではありません。
切削後にファイバー芯材をどこへ残し、その周囲にどれだけレジンを確保し、連結部をどのような形態にするかまで含めて成立する構造体
です。
だからといって、芯材を切削するから意味がないわけでもない
逆方向へ極端に考える必要もありません。
「芯材を切ってしまうなら、ファイバー補強など意味がない」
ということでもありません。
YAMAKINの有限要素解析では、第一大臼歯欠損を想定したモデルへ1,280Nの垂直荷重を加えた場合、芯材を配置することによって、連結部下部のレジン材料に発生する最大主応力が、芯材なしの場合より最大約13%低下しています。
つまり、規定位置へ残された芯材には補強効果が示されています。
正確な理解は、
「芯材が強いから金属並み」でもなく、
「芯材を切削するから意味がない」でもない。
完成した補綴物の形態、芯材位置、レジン厚、連結部断面積まで含めて評価する、ということです。
生活歯にも使える――これは利点だが「ほとんど削らない」という意味ではない
今回のCAD/CAMブリッジには、従来の保険の高強度硬質レジンブリッジと異なる大きな特徴があります。
生活歯を支台歯として使用できることです。
従来の高強度硬質レジンブリッジでは咬合面2.0mm以上の厚みが必要で、原則失活歯への適応でした。
一方、SHIN-BOWでは、小臼歯で小窩裂溝1.0mm以上、咬頭頂1.3mm以上、大臼歯では1.5mm以上などの設計寸法が設定され、生活歯にも適応可能とされています。
神経のある歯を支台歯として、保険診療でメタルフリーの3ユニットブリッジを選択できる症例が生まれたことは利点です。
ただし、
生活歯に使える
=どの症例でも歯をあまり削らずに済む
ではありません。

特に連結部には高さ3.8mm以上、断面積18mm²以上という設計条件があります。
さらに芯材位置と周囲レジン厚も確保しなければなりません。
一方、PMDA電子添文は、咬合面や切端を削りすぎて支台歯が短くなると接着面積が減少し、脱離につながる恐れがあるため、必要以上に削除しないことも求めています。
ここに臨床上のバランスがあります。
材料厚は必要。
連結部断面積も必要。
しかし、その条件を満たすためなら健康歯質をいくら削ってもよいわけではありません。
必要なクリアランスや連結部形態を無理なく確保できない症例なら、歯を材料に無理やり合わせるのではなく、その材料を選択すること自体を再検討するべきでしょう。
適応範囲はかなり限定されている
SHIN-BOWが保険適用になったからといって、あらゆるブリッジに使用できるわけではありません。
基本となる適応は④5⑥、⑤6⑦の3ユニット中間欠損です。
現在の電子添文では、カンチレバー症例、4歯以上の連結には使用しないことが明記されています。
さらに重要なのがブラキシズムです。
電子添文には、
「ブラキシズム等の負荷のかかる症例には使用しないこと」
と明記され、不正咬合やブラキシズムを伴うような破折リスクの高い症例も使用対象から除外されています。

これは、
「制限があるから危険な材料」
という意味ではありません。
評価され使用が認められている範囲に条件がある
ということです。
ただ、一般の患者さんへ「耐久性は金属並み」とだけ伝えた場合、この条件はかなり重要な情報になります。
「銀歯のブリッジと同じくらい丈夫なら、歯ぎしりが強くても同じように使えるだろう」
と理解されれば、正式な使用条件とは違うからです。
「CAD/CAMブリッジ」だが、保険ではまだフルデジタルではない
名前はCAD/CAMブリッジです。
実際、CADで補綴物を設計し、CAMでブロックから切削します。
しかし現行の保険診療では、口腔内スキャナによる光学印象からそのまま製作するフルデジタルワークフローにはなっていません。
2026年度診療報酬改定で光学印象の対象はCAD/CAM冠にも拡大されましたが、厚生労働省が示す光学印象の算定対象はCAD/CAM冠またはCAD/CAMインレーです。CAD/CAMブリッジは含まれていません。
YAMAKINのSHIN-BOW製作資料にも、
「光学印象を用いた製作は保険適用外」
と明記されています。
したがって現在の保険診療では、
印象採得 → 作業模型 → 模型スキャン → CAD設計 → CAM切削
という工程になります。

模型を介するから精度が悪い、と一概に断定することはできません。
ただし、完全なデジタルワークフローではないことは事実です。
CAD/CAM補綴では、材料だけでなく支台歯形態や接着も結果を左右します。CAD/CAM冠の脱離と支台歯形態・接着の関係については、別稿で3D解析をもとに詳しく解説しています。
「金属並み」というなら、何が金属並みなのか
ここまでの話を整理しましょう。
SHIN-BOWについて公表されている主な数字には、
600MPa以上
→ 芯材試験片の3点曲げ試験。
約4,500N
→ 規格化された完成ブリッジの静的破壊荷重。
1,080N×200万回
→ SHIN-BOW系開発品の疲労試験。
18症例・最長1,016日
→ 初期の臨床経過。
があります。

どれも意味のあるデータです。
しかし、全部違うことを測っています。
ではテレビ朝日のいう「金属並み」とは何でしょう。
材料単体の曲げ強さが金属並みなのか
金銀パラジウム合金と同一試験条件で比較したSHIN-BOW芯材のデータではありません。
弾性率が金属並みなのか
SHIN-BOWのレジン・芯材と12%金銀パラジウム合金では、弾性率が大きく異なり、材料として同じ力学的挙動ではありません。
完成ブリッジの静的破壊荷重が金属並みなのか
特定条件では、SHIN-BOWが金銀パラジウム合金フレーム+硬質レジンの比較ブリッジより高い値を示しています。
しかし、それは静的破壊試験です。
疲労耐久性が金属並みなのか
200万回の疲労試験はあります。
しかし、同条件で金銀パラジウム合金ブリッジと直接比較した結果ではありません。
長期臨床耐久性が金属並みなのか
公表されているSHIN-BOWの臨床データは18症例、最長1,016日です。
金銀パラジウム合金ブリッジとの5年・10年直接比較ではありません。
こうして一項目ずつ分解すると、
「金属並みの強度・耐久性」という一文に直接対応する、一つの比較試験があるわけではない
ことが分かります。
テレビ朝日の表現を一つずつ検証すると

「保険で白いブリッジが選べる」
これはその通りです。
ただし、使用できる部位・ユニット数・症例・設計条件があります。
「コンピューターで設計してブロックから削り出す」
これもその通りです。
SHIN-BOWはCAD/CAM切削加工用材料です。
「金属並みの強度」
何を「強度」と呼んでいるのかを定義しなければ評価できません。
静的破壊荷重については金属系比較対象より高かった試験があります。
しかし、それを材料全体の「金属並みの強度」と一般化するのは適切ではありません。
「耐久性は金属並み」
ここはさらに慎重であるべきです。
現時点で公表されている資料から、金銀パラジウム合金ブリッジとの長期臨床耐久性が同等であることまでは確認できません。
「ブリッジに選ぶ患者増える」という見出しも分けて読む必要がある
テレビ朝日のタイトルには、
「ブリッジに選ぶ患者増える」
ともあります。
本文では、「都内の歯科医院でも選ぶ患者が増えています」と紹介し、一人の30代男性患者が登場します。
ただしテレビ朝日の記事自身が、その男性について、
この歯科医院を運営する医療法人に勤務し、患者として通院している
と説明しています。
もちろん、その患者さん自身の治療経験や感想を否定する理由はありません。
しかし、
一医院で選択する患者が増えていること
と、
一般の患者全体でSHIN-BOWを選ぶ人が増えていること
は別です。
ここでも、一つの事実をどこまで一般化してよいかという同じ問題があります。
むしろメーカー資料の方が慎重に書かれている
今回の件でYAMAKINを責める必要はないと考えています。
公開されたテクニカルレポートを見る限り、メーカーは、
静的破壊試験は静的破壊試験として、
疲労試験は疲労試験として、
臨床例は臨床例として、
それぞれ分けて提示しています。
200万回の疲労試験についても、
「3年間もつ」
とは書かず、
「示唆された」
という慎重な表現にとどめています。
18症例についても、連結部破折がなかったことだけではなく、脱離した症例やチッピングした症例まで表に掲載しています。
正式な電子添文ではブラキシズム、カンチレバー、4歯以上連結、必要厚み、連結部断面積、芯材位置、接着方法などが細かく規定されています。
一次資料から見えてくるSHIN-BOWは、
「何でも金属と同じように使える白い材料」
ではありません。
「適応・設計・加工・接着条件を守って使用する、新しいファイバー補強型CAD/CAMブリッジ材料」
です。
こちらの方がずっと正確でしょう。
新しい材料を高く評価しすぎる必要も、低く評価しすぎる必要もない
SHIN-BOWを「夢のような高強度材料」と持ち上げる必要はありません。
反対に、
「レジン系だから弱い」
と切り捨てる必要もありません。
規格化された破壊試験があります。
芯材による応力低減を示す有限要素解析があります。
疲労試験があります。
初期臨床データも公開されています。
一方で、長期臨床データはまだ限られています。
適応条件もあります。
設計寸法も守らなければなりません。
これだけです。
歯科材料を公平に評価するなら、
分かっていることを大きく言いすぎず、分かっていないことを分かったことにしない。
そこが重要です。
ちなみに「CAD/CAMレジン」と「セラミック」が混同されやすい点については、保険CAD/CAM冠・CAD/CAMインレーとセラミックの違いや、「ハイブリッドセラミック」という名称とコンポジットレジンの関係でも材料学的に整理しています。
SHIN-BOWも「白い」という外観だけで、セラミックや金属と同じ物性の材料として理解するべきではありません。
実験結果が臨床耐久性になるまでには何段階もの確認が必要である
歯科材料のエビデンスは、一枚のグラフだけで完成するものではありません。

材料試験をする。
完成ブリッジを壊してみる。
水中や温度変化を与える。
繰り返し荷重を加える。
患者さんへ使用する。
症例数を増やす。
観察期間を延ばす。
既存材料と比較する。
こうした積み重ねによって、初めて長期的な臨床性能が見えてきます。
だから、
約4,500Nだった。
200万回破折しなかった。
18症例で連結部破折がなかった。
という三つの結果を一つに足し合わせ、
「だから金属並みの耐久性」
とはできません。
三つとも、違う問いに対する違う答えだからです。
患者さんへ説明するなら、私は「金属並み」とは言わない
実際に患者さんから、
「新しく保険になった白いブリッジは、銀歯と同じくらい丈夫なんですか?」
と聞かれたとします。
私は、
「金属と同じです」
とは説明しません。
例えば、
「保険で使用できる新しいファイバー補強型の白いCAD/CAMブリッジ材料です。ブリッジ形状での破壊試験や繰り返し荷重試験のデータはあります。ただし新しい材料ですので、従来の金属ブリッジと同じ長期耐久性があるかについては、今後さらに臨床データが蓄積されていく段階です。使える場所や噛み合わせにも条件があります」
と説明するでしょう。
これなら、現在分かっていることにも、まだ分かっていないことにも嘘がありません。
SHIN-BOWの価値は「金属並み」と言わなくても説明できる
SHIN-BOWには、「金属並み」という言葉を付けなくても説明できる特徴があります。
保険診療でメタルフリーの3ユニットブリッジを選択できる。
条件を満たせば生活歯を支台歯とすることができる。
ファイバー芯材を利用した新しい構造設計である。
CAD/CAMによる切削加工で製作できる。
これだけで、新しい選択肢として説明できます。
わざわざ、
「金属並み」
という曖昧で大きな言葉を付ける必要はありません。
結論――現時点で「金属並みの耐久性」とは言えない
SHIN-BOWについて現在公表されている資料には、
芯材の3点曲げ試験があります。
完成ブリッジの静的破壊試験があります。
金銀パラジウム合金フレーム+硬質レジンブリッジとの静的比較があります。
SHIN-BOW系開発品の200万回疲労試験があります。
18症例、最長1,016日の初期臨床経過があります。
これらはすべて意味のあるデータです。
しかし、
金銀パラジウム合金ブリッジと同条件で疲労寿命を直接比較した結果や、5年・10年という長期臨床成績を直接比較した結果が示されているわけではありません。
したがって現時点で、
SHIN-BOWについて「耐久性は金属並み」と一般の患者さんへ断定的に説明する根拠は十分ではない
と私は考えます。
そしてタイトルに、
「保険適用の歯科治療の白いブリッジ用新素材は金属並みの強度はありません」
と書いた理由もここにあります。
すべての試験値が金属より低い、という意味ではありません。
むしろ特定の静的破壊試験では、金銀パラジウム合金を含む比較対象より高い結果もあります。
それでも、
「金属並みの強度」という一つの総合性能が証明されたわけではない。
まして、
「金属ブリッジと同じように長持ちする」と証明されたわけでもない。
という意味です。
メーカーが詳細なデータを公開しているからこそ、そこは区別するべきでしょう。
YAMAKINの資料は、試験条件を示し、それぞれの結果を比較的慎重に書いています。
だからメーカーを責める話ではありません。
問いたいのは、それぞれ意味の異なるデータを一般向けニュースへ変換するときに、
「耐久性は金属並み」
とまで単純化してよかったのか、ということです。
実験結果は臨床耐久性を考えるための重要な根拠です。
しかし、
実験結果は臨床耐久性そのものではありません。
「曲げ強さ」と「静的破壊荷重」は同じではない。
「静的破壊荷重」と「疲労寿命」も同じではない。
「200万回耐えた」と「患者さんの口腔内で3年間耐えた」も同じではない。
そして、
「実験室で壊れにくかった」と「金属と同じくらい長持ちする」は、まったく同じ意味ではありません。
新しい歯科材料について分かりやすく報道することは必要です。
ただし、分かりやすくするために省略してよい情報と、省略した瞬間に結論そのものが変わってしまう情報があります。
「強度」と「耐久性」の違いは、後者です。
そこは患者さんへ正確に伝えてほしいと思います。
参考文献
- YAMAKIN株式会社.KZR-CAD ファイバーブロック シンボー 製品レポート.2026年6月1日.SHIN-BOWの材料構造、芯材の3点曲げ試験、有限要素解析、ブリッジ静的破壊試験、疲労試験、18症例の臨床経過を収載。
- YAMAKIN株式会社.KZR-CAD ファイバーブロック シンボー 製品資料.2026年.芯材構造、600MPa以上の曲げ試験、約4,500Nのブリッジ破壊試験、支台歯形成・芯材配置・切削加工条件等を収載。
- YAMAKIN株式会社.KZR-CAD ファイバーブロック シンボー 製品情報.CAD/CAMブリッジ用材料としての保険適用、認証番号305AKBZX00011000、関連資料・電子添文への公式案内。
- 一般社団法人日本歯科理工学会・公益社団法人日本補綴歯科学会.コンポジットレジンを用いた3ユニットCAD/CAMブリッジの具備すべき機械的性質要件に関する基本的な考え方.2025年10月.材料試験片の曲げ強度と、完成ブリッジ形状の破壊荷重を区別して評価する根拠資料。
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).KZR-CAD ファイバーブロック シンボー 電子添文.認証番号305AKBZX00011000.適応症、カンチレバー・4歯以上連結・ブラキシズム等に関する使用条件、連結部寸法、芯材配置等を確認する一次資料。
- 厚生労働省.「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」等の一部改正について.保医発0529第2号,2026年5月29日.CAD/CAMブリッジの保険導入に関する制度上の根拠資料。
- 厚生労働省保険局医療課.令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】.2026年.CAD/CAM冠・CAD/CAMインレー、光学印象、歯科治療のデジタル化に関する改定内容。光学印象の対象としてCAD/CAM冠・CAD/CAMインレーが示されている。
- 株式会社ジーシー.ジーシー・サークル No.156「歯根破折のリスクを低減する ファイバーポストとレジンコア」.2016.12%金銀パラジウム合金の弾性係数85~95GPaなど、金属とレジン・グラスファイバー系材料の弾性率を比較する参考資料。
- 小峰 太.「ジルコニア接着ブリッジの現状と可能性」日本歯科理工学会誌.2022;41(1):58-62.静的破壊試験と繰り返し荷重試験が異なる結果を示し得ることや、ジルコニア接着ブリッジの中長期臨床成績を整理した総説。
- Koutayas SO, Kern M, Ferraresso F, Strub JR. Influence of framework design on fracture strength of mandibular anterior all-ceramic resin-bonded fixed partial dentures. Int J Prosthodont. 2002;15:223-229. 静的破壊荷重291N対313Nに大差がなかった一方、25N反復荷重では約5万回対約30万回という差が生じた研究。 院長12(4).pdf 書誌情報は原総説の文献一覧にも記載されている。
- Kern M, Gläser R. Cantilevered all-ceramic, resin-bonded fixed partial dentures: a new treatment modality. J Esthet Dent. 1997;9(5):255-264. doi:10.1111/j.1708-8240.1997.tb00951.x. セラミック接着ブリッジの設計・臨床応用に関する基礎的報告。
- Kern M, Passia N, Sasse M, Yazigi C. Ten-year outcome of zirconia ceramic cantilever resin-bonded fixed dental prostheses and the influence of the reasons for missing incisors. J Dent. 2017;65:51-55. 長期耐久性を論じる際に「実験値」ではなく実際の長期臨床追跡が必要であることを示す比較材料。書誌情報は日本歯科理工学会誌の総説文献にも収載されている。
- テレビ朝日「グッド!モーニング」/テレ朝NEWS.保険適用、歯科治療の白い新素材は割安 耐久性は金属並み、ブリッジに選ぶ患者増える.2026年8月3日.本稿で検証した報道の原典。
