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咬合性外傷とアブフラクション仮説を混同しない:NCCL・歯頸部欠損を力と炎症から整理する

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2026年6月17日

咬合性外傷とアブフラクション仮説を混同しない:NCCL・歯頸部欠損を力と炎症から整理する

(院長の徒然コラム)

はじめに:臨床で「力」という言葉は便利すぎる

歯科臨床では、「力」という言葉が非常に便利に使われます。

歯がしみる。歯の根元が削れている。咬耗が強い。歯が揺れる。歯が浮く。補綴物がよく外れる。歯周ポケットが限局して深い。歯根膜腔が拡大している。患者さんが食いしばりを自覚している。

これらを見たとき、私たちはしばしば「力がかかっていますね」と説明します。もちろん、これは臨床的には間違いではありません。過大な咬合力、非軸方向荷重、ブラキシズム、TCH、習慣性咀嚼側、補綴設計、歯周支持量の低下などは、歯と歯周組織に大きな影響を与えます。

しかし問題は、「力」という言葉が便利すぎるために、異なる病態が同じ箱に入れられてしまうことです。

特に混同されやすいのが、咬合性外傷とアブフラクション仮説です。

咬合性外傷は、過大な咬合力によって歯周支持組織に生じる損傷または適応反応として考えるべき概念です。一方、アブフラクションは、咬合力による歯頸部応力集中が歯質の微小破壊を生じ、非う蝕性歯頸部欠損、すなわちNCCLの形成に関与するという説明モデルです。両者はどちらも「力」と関係しますが、診断対象が違います。

咬合性外傷は、歯根膜、セメント質、歯槽骨、歯の動揺、フレミタス、咬合痛、歯根膜腔拡大などを通して評価するものです。アブフラクション仮説は、歯頸部の歯質欠損を咬合応力から説明しようとする病因仮説です。この二つを同じ意味で使ってしまうと、臨床判断が一気に粗くなります。

本稿では、「力を軽視しない。しかし、力で全部を説明しない」という立場から、NCCL、アブフラクション仮説、咬合性外傷、歯周炎における炎症とメカニカルストレスの関係を整理します。

【NCCL(非う蝕性歯頸部欠損)の基礎についてはこちら】

NCCLは病因名ではなく、まず形態・部位を表す概念です

NCCLはnon-carious cervical lesionの略であり、日本語では非う蝕性歯頸部欠損と訳されます。文字通り、う蝕ではない原因によって歯頸部に生じる歯質欠損を指します。

ここで重要なのは、NCCLという言葉自体は、病因を一つに決める診断名ではないということです。NCCLはまず、部位と性状を表す臨床的な記述です。つまり「歯頸部に、う蝕ではない歯質欠損がある」という状態を示す言葉であって、その原因がブラッシング圧なのか、酸蝕なのか、咬耗なのか、歯肉退縮に伴う根面露出なのか、咬合応力なのかを、それだけで確定するものではありません。

2020年のTeixeiraらによるシステマティックレビューでは、成人におけるNCCLの有病率は加重平均で46.7%と報告されています。NCCLは珍しい病変ではなく、むしろ日常臨床で頻繁に遭遇する所見です。しかし頻繁に見られるからこそ、その病因を安易に単一化しやすい危険があります。

NCCLの病因として語られる要素には、abrasion、erosion、attrition、biocorrosion、gingival recession、ブラッシング習慣、酸性飲食物、胃食道逆流、歯肉退縮、年齢、歯列・咬合、パラファンクションなどがあります。これらは独立して作用することもありますが、多くの場合は複合します。

臨床でよく見られる「V字型だからアブフラクション」「丸みを帯びているからブラッシング」「皿状だから酸蝕」といった説明は、教育的にはわかりやすい反面、実際の病態を単純化しすぎます。形態は病因推定の一材料にはなりますが、形態だけで病因を確定することはできません。病変の位置、深さ、辺縁形態、象牙質の硬化、歯肉退縮、プラークコントロール、歯ブラシの動かし方、酸性飲食習慣、咬耗面、補綴物、歯周支持量、経時的変化を合わせて評価する必要があります。

【歯ぐきの境目が削れてしみる症状についてはこちら】

「くさび状欠損」という言葉の限界

日本では、歯頸部の非う蝕性欠損を長く「くさび状欠損」と呼んできました。患者さんへの説明としては今でも通じやすい言葉です。しかし、専門的にはこの言葉には限界があります。

第一に、「くさび状」という言葉は形態を限定します。実際のNCCLには、鋭いV字型だけでなく、皿状、浅い陥凹、広くなだらかな欠損、根面摩耗を伴うもの、歯肉退縮と連続するものなど、さまざまな形態があります。すべてを「くさび状」と呼ぶと、病変の多様性が失われます。

第二に、「くさび状欠損」という表現は、しばしば「咬合力で歯の根元が割れるように削れた」という説明と結びつきます。しかし、形態と病因は同義ではありません。V字型に見える欠損であっても、酸蝕とブラッシングが主因のこともありますし、歯肉退縮により露出した根面が清掃・酸・咬耗の影響を受けている場合もあります。

第三に、臨床ではすでに病変が成立した後に観察しています。これは非常に重要です。病変ができた後の咬合力、咬耗面、歯ブラシ習慣、知覚過敏の訴えを見て、病変発生前の原因を推定しているに過ぎません。つまり、多くの臨床研究は本質的に「形成後の所見」を見ています。ここには逆因果、交絡、選択バイアスが入り込みます。

したがって、本稿では「くさび状欠損」という言葉は患者説明上の便宜としては認めつつ、専門的にはNCCLまたは非う蝕性歯頸部欠損という概念で整理します。

【くさび状欠損の患者向け解説はこちら】

アブフラクション仮説の成立:力学モデルとしての魅力

アブフラクションという概念は、Lee and Eakleが1984年に提唱した、歯頸部に生じる引張応力と歯質喪失の関係に関する考察を背景に、Grippoが1991年に用語として整理したものです。Grippoは、abrasionやerosionとは区別される硬組織喪失としてabfractionを提示しました。

この仮説の魅力は、力学的には非常にわかりやすい点にあります。

歯に非軸方向の力が加わると、歯冠と歯根の移行部、特にCEJ付近に応力が集中します。咬頭傾斜、側方運動、早期接触、平衡側干渉、ブラキシズムなどによって繰り返し歯がわずかにたわむと、歯頸部のエナメル質、象牙質、セメント質の界面に微小破壊が生じる。そこに酸蝕やブラッシング摩耗が加わることで、歯質欠損が進行する。これがアブフラクション仮説の基本的な考え方です。

この説明は、臨床家にとって非常に納得しやすいものです。特に小臼歯部、犬歯部、頬側歯頸部、咬耗面、知覚過敏、補綴物の破損、パラファンクションが同時に見られる症例では、「力で歯頸部が壊れている」と説明したくなります。

しかし、力学的に納得しやすいことと、臨床的因果が証明されていることは別です。ここを分けることが、今回のテーマの核心です。

有限要素解析は何を示すのか

有限要素解析(FEA)は、アブフラクション仮説を支持する方向の議論で頻繁に用いられてきました。FEAでは、歯や歯周組織、修復材料の形態と物性をモデル化し、荷重方向や荷重量を変えて応力分布を解析します。

2022年のJakupovićらの研究では、下顎小臼歯にアブフラクション様病変を設定し、200Nの機能的荷重と非機能的荷重を加え、6種類の修復材料における応力分布を有限要素解析で比較しています。この研究では、斜め荷重は軸方向荷重に比べて修復材料に約4倍高い応力を生じ、鋭い病変底部ではvon Mises stressが最大240MPaに達したと報告されています。また、修復後には病変底部の極端な応力が有意に低下するとされています。

さらに、Peresらの2022年の有限要素解析では、上顎小臼歯モデルを用いて、NCCLの有無、レジン修復の有無、垂直性・水平性骨吸収、100Nの垂直荷重、頬側荷重、口蓋側荷重を組み合わせて応力分布を評価しています。その結果、骨支持量の違いはamelodentinal junction付近の応力分布に大きな影響を与えず、頬側荷重では頬側骨表面の圧縮応力が、口蓋側荷重では頬側歯頸部の引張応力が増加しました。また、NCCLの存在は歯頸部応力集中を増強し、とくに斜め荷重と組み合わさった場合に顕著でした。

これらの結果は、非軸方向荷重が歯頸部に応力集中を生じさせるという力学的妥当性を支持します。したがって、「咬合力は歯頸部に何の関係もない」と考えるのは不自然です。

しかし、FEAは病因を証明する研究ではありません。

FEAが示すのは、設定したモデル、物性値、境界条件、荷重条件の中で、応力がどのように分布するかです。FEAは、臨床で病変が発生することを直接観察しているわけではありません。患者さんの唾液、酸性飲食習慣、ブラッシング、象牙質硬化、歯肉退縮、歯周支持量、パラファンクションの頻度と持続時間、修復物の有無、年齢変化を完全に再現することはできません。

つまり、FEAはmechanical plausibility、すなわち「力学的には起こりうる」ことを示す研究です。一方で、clinical causality、すなわち「臨床的にその病変がその力によって発生した」と証明する研究ではありません。

ここを混同すると、「FEAで応力が集中しているから、臨床のNCCLは咬合力が原因である」という過剰推論になります。

アブフラクション仮説の現在地:2024年スコーピングレビューから

2024年にDioguardiらは、Abfraction Theoryに関するスコーピングレビューを報告しています。このレビューは、PubMedとScopusで「abfraction」「NCCL」を検索し、PRISMA-ScRに準拠して進められました。最初に抽出された文献は1449本でしたが、最終的に質的評価に含まれた研究は6本のみでした。研究デザインは不均一で、症例対照研究、RCT、前向きコホート、横断研究が混在していました。

この時点で、すでに重要なことがわかります。アブフラクションという言葉は臨床で広く使われているにもかかわらず、「咬合力がNCCLの発生にどの程度寄与するのか」を検討する臨床研究は極めて限られています。

同レビューの結論は慎重です。NCCLの進行と歯に加わる力を関連づけた研究は、咬合荷重がアブフラクション発生の病因であることを確認するにも、否定するにも十分ではないとしています。また、将来的にはabrasionやerosionなど他の病因を含めた前向き縦断研究が必要であると述べています。

この結論は、臨床家にとって不満が残るかもしれません。なぜなら、私たちは日常臨床で、咬耗面、骨隆起、ブラキシズム、NCCL、知覚過敏が同時に存在する症例を多く見ているからです。しかし、同時に存在することと、因果関係があることは同じではありません。

Dioguardiらのレビューでは、過去の臨床観察も整理されています。たとえば、NCCLを有する患者の多くにwear facetが存在したという報告や、犬歯誘導の欠如、側方運動時干渉、ブラキシズムとの関連を示唆する報告があります。一方で、T-Scanを用いた研究では、NCCLと咬合力の関連が明確でない報告もあります。2023年のWerneckらの症例対照研究では、78名を対象にNCCLと咬合力、ブラッシング方法、習癖などを検討しましたが、NCCLの存在と咬合強度との関連は認められなかったとされています。

ここで重要なのは、研究の難しさです。すでにNCCLが存在する歯の咬合力を測定しても、それは病変発生前の咬合力ではありません。病変ができた後、咬合接触や歯の応力分布は変化している可能性があります。つまり、「できた後の力」を測って「できる前の原因」を推定することになります。この問題を解決するには、健全歯を起点として、咬合力、側方運動、ブラッシング、酸性飲食、胃酸逆流、唾液、歯肉退縮、年齢を長期追跡する前向き研究が必要です。しかし、そのような研究は臨床的にも倫理的にも実施が難しいのです。

したがって、現時点で最も妥当な表現は、「アブフラクションは力学的に魅力のある仮説であり、臨床的関連を示唆するデータもあるが、NCCLの原因を咬合力単独に還元できるほどの決定的なエビデンスはない」です。

本コラムで「アブフラクション」と単独で断定せず、「アブフラクション仮説」と表現する理由はここにあります。

咬合性外傷は、歯頸部欠損の名前ではありません

次に、咬合性外傷を整理します。

咬合性外傷は、過大な咬合力によって歯周支持組織に生じる損傷または適応反応として扱われます。Fan and Catonの2018年のレビューでは、occlusal trauma and excessive occlusal forcesについて、定義、症例分類、診断上の考慮が整理されています。重要なのは、咬合性外傷の確定診断は本来、歯周組織の組織学的変化に基づくものであり、臨床ではそれを直接確認できないため、臨床所見・X線所見を代理指標として用いているという点です。

臨床的には、進行性の歯の動揺、フレミタス、咬合不調和、咬耗面、歯の移動、歯の破折、温度刺激への過敏、歯根吸収、セメント質剥離、歯根膜腔拡大、白線肥厚などが咬合性外傷を疑う所見として挙げられます。

ここで注意すべきなのは、NCCLがこの定義の中心ではないことです。

もちろん、咬耗面や非軸方向荷重がある症例でNCCLを併発することはあります。しかし、咬合性外傷の診断対象は、歯頸部歯質欠損ではなく、歯周支持組織です。歯頸部に欠損があるから咬合性外傷と診断するのではなく、歯根膜、セメント質、歯槽骨、歯の動揺、フレミタス、咬合痛、X線所見、経時変化を評価して判断すべきです。

この点を曖昧にすると、「歯の根元が削れているので咬合性外傷です」という説明になってしまいます。しかしこれは、NCCLと咬合性外傷を混同しています。

NCCLは歯質の欠損です。咬合性外傷は歯周支持組織の反応です。両者は重なることがありますが、同義ではありません。

MRI研究が示す、咬合性外傷評価の方向性

咬合性外傷の診断は難しいという問題があります。咬合紙の色が濃い、咬合接触がある、患者さんが食いしばると言う、歯が少し揺れる。その一つ一つは所見として重要ですが、それだけで外傷性咬合を断定するには不十分です。

2023年のDewakeらの研究は、この点で興味深い報告です。20名、平均年齢35.9歳を対象に、ブラキシズム自覚、歯の動揺、フレミタス、咬合接触面積、咬合力、歯根膜腔拡大、白線肥厚を咬合性外傷の臨床所見としてスコア化し、T2強調MRIのIDEAL画像で歯根膜腔の最大信号強度と比較しています。

結果として、咬合性外傷の総臨床スコアと歯根膜腔の最大信号強度には有意な相関があり、Spearmanの順位相関係数は全歯で0.529、前歯で0.517、臼歯で0.396、いずれもp<0.001でした。

この研究はサンプル数が20名と小さく、MRIを日常臨床の咬合診断にそのまま導入できる段階ではありません。しかし、咬合性外傷を「歯頸部欠損の形」ではなく、「歯根膜腔の状態」「歯周支持組織の反応」として客観化しようとしている点で重要です。

今後、咬合性外傷の評価は、咬合紙の濃淡だけではなく、咬合力分布、接触時間、動揺、フレミタス、歯根膜腔、歯槽骨、歯周炎活動性、患者のパラファンクションを統合していく方向に進むべきだと考えます。

一次性咬合性外傷と二次性咬合性外傷

咬合性外傷を考えるとき、一次性と二次性の区別は避けられません。

一次性咬合性外傷は、歯周支持組織が正常または十分に保たれている歯に、過大な咬合力が加わることで生じる外傷性変化です。たとえば、高い修復物、強い早期接触、非軸方向の過大荷重、ブラキシズムによる過負荷などが考えられます。

一方、二次性咬合性外傷は、歯周炎などによって支持組織が低下した歯に、通常範囲あるいはそれほど大きくない力が加わっただけでも、相対的に過負荷となる状態です。同じ咬合力でも、支持骨が十分にある歯と、支持骨が著しく減少した歯では、歯根膜や歯槽骨にかかる意味が違います。

臨床では、この二次性咬合性外傷の方が重要になる場面が多いです。重度歯周炎、限局性垂直性骨欠損、病的移動、フレアアウト、動揺、補綴的負担、欠損放置による咬合支持の喪失などが重なると、咬合力は歯周炎の進行様式を修飾します。

ここでも大事なのは、咬合性外傷を歯周炎の初発原因として単純に扱わないことです。現在の歯周病学では、歯周炎の主因はプラークバイオフィルムに対する宿主応答です。咬合性外傷は、それ単独でプラーク性歯周炎を発症させる原因ではなく、既存の炎症性歯周破壊を修飾し、臨床像を複雑化する因子として捉えるのが妥当です。

この認識は、治療方針にも直結します。歯周炎の炎症コントロールを行わずに咬合調整だけをしても、本質的な改善は期待できません。一方で、歯周支持量が低下した歯に明らかな外傷性咬合が加わっている場合、SRPやプラークコントロールだけで力の問題を無視するのも不十分です。

【2018年歯周病新分類と歯周病の考え方はこちら】

炎症と力は、別々ではなく相互作用します

歯周炎と咬合性外傷の関係を考えるうえで、近年重要なのは、炎症とメカニカルストレスの分子レベルでの接点です。

歯周炎では、Porphyromonas gingivalisに代表される歯周病原細菌由来のLPSが、骨芽細胞や歯根膜細胞に直接または間接的に作用します。その結果、RANKLが産生され、RANKを発現する破骨細胞前駆細胞に作用して破骨細胞分化が促進されます。これが歯槽骨吸収の重要な経路です。

一方で、咬合性外傷はメカニカルストレスです。骨はメカニカルストレスを受け、骨細胞や骨芽細胞がそれを感知し、細胞内カルシウム、NO、プロスタグランジンなどを介して応答します。生理的な荷重は骨量維持に必要ですが、炎症下で過剰または異常なメカニカルストレスが加わると、歯槽骨吸収が進行しやすくなる可能性があります。

竹谷らのミニレビューでは、歯周炎と咬合性外傷が共存した場合の歯槽骨吸収に、メカニカルストレス応答性カルシウムイオンチャネルであるTRPV4とPiezo1が関与する可能性が整理されています。

ラットやビーグル犬の動物実験では、歯周炎を伴う咬合性外傷が歯槽骨吸収を進行させることが示されてきました。また、歯周炎モデルと咬合性外傷モデルを併用したラットでは、それぞれ単独処置の群と比較して、根分岐部におけるRANKL陽性細胞数が有意に増加したとの報告があります。

さらに、マウス骨芽細胞を用いた研究では、P. gingivalis由来LPS刺激とメカニカルストレスが共存した場合に、LPS単独またはメカニカルストレス単独と比較して、RANKL mRNA発現が有意に上昇したとされています。このRANKL発現上昇はTRPV4アンタゴニストやTRPV4ノックダウンで抑制されており、TRPV4を介したシグナル伝達経路の関与が示唆されています。

Piezo1についても同様に、メカニカルストレスによって開孔し、細胞内へのカルシウム流入を生じる機械受容チャネルとして注目されています。歯根膜細胞や骨芽細胞におけるPiezo1は、骨形成だけでなく、圧縮力や炎症環境下でのRANKL発現、RANKL/OPG比の変化にも関与する可能性があります。

これは、臨床的には非常に重要です。

「炎症は歯周病、力は咬合」と分けて考えるだけでは不十分です。炎症と力は、同じ歯周組織の中で相互作用します。プラーク性炎症が存在する部位に過大なメカニカルストレスが加わると、骨吸収の場において両者が相加的、場合によっては相乗的に作用する可能性があります。

ただし、ここでも過剰解釈は避けるべきです。TRPV4やPiezo1を標的にした歯周治療がすでに確立しているわけではありません。現時点では、分子機構の理解が進んでいる段階です。臨床でできることは、まずプラークコントロール、炎症の制御、歯周基本治療、必要に応じた咬合性外傷の評価と介入を統合することです。

ブラキシズム・TCH・咬耗面をどう扱うか

NCCLや咬合性外傷の話になると、ブラキシズムやTCHが必ず登場します。これは当然です。睡眠時ブラキシズム、覚醒時ブラキシズム、クレンチング、グラインディング、TCH、習慣性咀嚼側は、歯、歯周組織、補綴物、顎関節、咀嚼筋に影響を与えます。

しかし、ブラキシズムの臨床診断にも限界があります。

咬耗面がある、骨隆起がある、頬粘膜圧痕がある、舌圧痕がある、咬筋が発達している、NCCLがある、知覚過敏がある。これらはブラキシズムを疑う所見にはなりますが、単独で確定診断にはなりません。特に睡眠時ブラキシズムは、自己申告や家族からの指摘、臨床徴候だけでは過小評価・過大評価の両方が起こります。

また、咬耗面は過去の履歴を示すことがあります。現在進行中のブラキシズムを示すとは限りません。患者さんが若い頃に強く咬耗した可能性もありますし、補綴前後で咬合関係が変化している可能性もあります。現在の咬耗面と現在のNCCLを、そのまま現在の咬合力で説明するのは危険です。

TCHも同様です。上下歯列接触癖は、日常的な低強度・長時間の接触として、歯周組織や咀嚼筋に慢性的負荷を与える可能性があります。しかし、TCHがあるからNCCLの原因がTCHである、とは言えません。TCHは力の評価における重要な生活習慣因子ですが、歯頸部欠損の病因を単独で説明するものではありません。

臨床では、ブラキシズムやTCHを、NCCLの原因名としてではなく、リスク背景として扱う方が妥当です。咬耗、補綴物破損、歯根破折、歯周組織の負担、筋症状、顎関節症状、知覚過敏、修復物の脱離などと合わせて、総合的に評価すべきです。

咬合紙の濃淡だけで診断しない

咬合紙は日常臨床で非常に便利です。修復物の高さ、早期接触、側方運動時の干渉、咬合接触の位置を確認するうえで欠かせません。

しかし、咬合紙の濃さは咬合力の大きさをそのまま表すわけではありません。紙の厚み、唾液、咬ませ方、咬合面の形態、材料、操作、患者さんの咬み方によって印記は変わります。濃く付いた点を「強い力」と単純に読むと、誤った削合につながります。

デジタル咬合分析、たとえばT-Scanは、接触時間や相対的な力の分布を定量的に可視化できる利点があります。天然歯列における咬合分析のシステマティックレビューでも、従来の咬合紙は主観性が残り、デジタル咬合分析の方が客観的であると整理されています。

ただし、T-Scanも万能ではありません。相対値であり、センサーの厚みや測定条件、咬合様式、咬ませ方に影響されます。また、咬合接触が可視化されても、その接触が組織破壊を起こしているかどうかは別問題です。

咬合診断では、「接触があるか」だけではなく、「その接触がその歯周支持量に対して過大か」「動揺やフレミタスと対応しているか」「歯根膜腔や白線に変化があるか」「歯周炎活動性があるか」「症状と時間軸が合うか」を見る必要があります。

咬合紙は所見の入口です。診断そのものではありません。

NCCL修復における「力」の扱い

NCCLの修復は、単純なV級窩洞修復とは違います。

NCCLでは、歯頸部という隔壁の取りにくい部位に、硬化象牙質、象牙質知覚過敏、歯肉縁、歯肉溝滲出液、ブラッシング、酸蝕、咬合応力、歯肉退縮が重なります。接着にとって不利な条件が多く、修復物の辺縁適合や保持に問題が起こりやすい領域です。

有限要素解析では、NCCLを修復することで病変底部の極端な応力が低下することが示されています。これは、修復が単に形を埋めるだけでなく、応力分布にも影響しうることを示唆します。一方で、修復材料の弾性率、接着戦略、辺縁の位置、歯肉縁との関係、咬合荷重の方向によって、修復物や周囲歯質の応力分布は変わります。

ここでも重要なのは、病因制御なしに修復だけを行わないことです。

酸蝕が主因であれば、酸性飲食、胃食道逆流、摂食障害、唾液、飲食タイミングを見直す必要があります。ブラッシング摩耗が主因であれば、歯ブラシ圧、毛の硬さ、歯磨剤の研磨性、清掃方向を確認すべきです。歯肉退縮が大きく関与している場合は、根面露出と清掃性、歯周組織のフェノタイプを見ます。明らかな咬合性外傷や補綴的過負荷があれば、咬合、補綴設計、ナイトガード、TCH指導、必要に応じた咬合調整を検討します。

NCCLの修復は、「削れたから詰める」ではなく、「なぜ進行しているのか、何を止めるのか、修復後に何が破綻要因になるのか」を考える治療です。

患者説明で「アブフラクション」と言うべきか

患者さん向けには、アブフラクションという言葉を前面に出す必要はあまりありません。専門用語としての厳密性と、患者さんが理解すべき内容は別です。

患者さんには、「歯の根元の欠け方には、歯みがきの力、酸性の飲食物、歯ぐきの下がり方、噛みしめや歯ぎしりなど、いくつかの要素が重なっていることがあります」と説明する方が安全です。

一方で、医療従事者向けの文章では、アブフラクションという言葉を避ける必要はありません。ただし、確定診断名としてではなく、アブフラクション仮説、いわゆるアブフラクション、咬合応力による歯頸部応力集中モデル、といった表現が望ましいです。

避けるべき表現は、「この歯はアブフラクションです」「咬合性外傷で歯の根元が削れています」「歯ぎしりがあるから根元が削れました」「ナイトガードを入れればNCCLの進行は止まります」といった断定です。

より正確には、「この歯頸部欠損には、咬合力が関与している可能性はあります。ただし、NCCLは多因子性であり、力だけで説明することはできません。清掃習慣、酸性環境、歯肉退縮、咬耗、ブラキシズム、歯周支持量、経時的変化を合わせて評価します」となります。

臨床診断では、時間軸を読む必要があります

NCCLと咬合性外傷を評価する際には、時間軸が重要です。

今ある病変が、いつからあるのか。進行しているのか。知覚過敏は新しいのか。歯肉退縮は進んでいるのか。咬耗面は古いのか新しいのか。補綴物の装着時期と症状の発生時期は一致するのか。歯周炎活動性はあるのか。歯周治療後に動揺は変化したのか。ナイトガード使用後に症状は変化したのか。TCH指導後に咬合痛や筋症状は変化したのか。

同じNCCLでも、10年前から変わらない浅い欠損と、半年で明らかに進行した欠損では意味が違います。同じ歯根膜腔拡大でも、急性咬合干渉後に出現したものと、重度歯周炎で支持骨が低下した歯に長期的に認められるものでは意味が違います。

診断は一時点の写真ではなく、経過の読解です。

したがって、NCCLを見たときにすぐ「力」と言うのではなく、まずその病変が静止性か進行性かを見ます。進行性であれば、何が変わったのかを探ります。補綴、矯正、欠損、咬合支持、食生活、清掃習慣、胃酸逆流、生活ストレス、睡眠、服薬、唾液、歯周炎活動性。力はその中の重要な一要素ですが、唯一の要素ではありません。

医療従事者が避けるべき短絡

NCCLと咬合性外傷を扱うとき、臨床で避けたい短絡があります。

「V字型だからアブフラクション」と言うこと。
「NCCLがあるから咬合性外傷」と言うこと。
「咬耗面があるから歯ぎしりが現在も強い」と言うこと。
「咬合紙が濃いから削合すべき」と言うこと。
「ナイトガードで歯頸部欠損の進行を止められる」と言うこと。
「歯周炎が進んでいるのは咬合のせい」と言うこと。
「力の問題だからプラークコントロールは二の次」と考えること。

どれも臨床でよく起こりがちな飛躍です。

力は確かに重要です。しかし、力は単独で全てを説明する万能因子ではありません。特にNCCLは、酸、摩耗、清掃、歯肉退縮、年齢、歯質、唾液、生活習慣、咬合、パラファンクションが絡む多因子性病変です。

一方、咬合性外傷は、NCCLの病因名ではなく、歯周支持組織の反応として評価されるべきです。歯周炎が存在する場合には、炎症性骨吸収の場にメカニカルストレスが加わることで、破壊様式が変化しうる。ここに咬合性外傷の臨床的意義があります。

では、実際の臨床では何を見るべきか

私がこのテーマを臨床で考えるなら、まず歯頸部欠損をNCCLとして記録します。部位、深さ、形態、硬化象牙質の有無、歯肉退縮との連続性、プラーク付着、知覚過敏、修復の必要性を見ます。この段階では、まだ病因を一つに決めません。

次に、酸性環境を見ます。酸性飲食物、摂取頻度、飲み方、胃食道逆流、嘔吐、口腔乾燥、唾液、職業性酸曝露を確認します。酸蝕が関与すると、歯質は摩耗に対して脆弱になります。

次に、清掃習慣を見ます。歯ブラシの硬さ、圧、動かし方、歯磨剤、磨くタイミング、過度な局所清掃、歯肉退縮部への刺激を確認します。

次に、咬合とパラファンクションを見ます。咬耗面、咬合接触、側方運動、平衡側干渉、早期接触、補綴物、欠損、咬合支持、TCH、ブラキシズム、ナイトガードの有無を評価します。ただし、咬耗面やNCCLだけでブラキシズムを断定しません。

次に、歯周支持組織を見ます。PPD、BOP、CAL、動揺、フレミタス、歯肉退縮、X線上の歯根膜腔拡大、白線肥厚、垂直性骨欠損、根分岐部病変、病的移動を確認します。ここで初めて、咬合性外傷が歯周支持組織にどう関与しているかを考えます。

最後に、経時変化を見ます。写真、模型、口腔内スキャン、X線、歯周組織検査、症状の推移を使って、進行性か静止性かを判断します。NCCLは一時点の形ではなく、時間軸の中で評価すべき病変です。

結論:力を軽視せず、力で全部を説明しない

NCCL、アブフラクション仮説、咬合性外傷は、いずれも「力」と関係する領域です。しかし、それぞれの概念は同じではありません。

NCCLは、う蝕ではない歯頸部歯質欠損を示す臨床的記述です。病因は多因子性であり、酸蝕、摩耗、清掃習慣、歯肉退縮、咬耗、ブラキシズム、咬合、唾液、年齢などを総合して評価します。

アブフラクション仮説は、咬合応力による歯頸部応力集中が歯質喪失に関与するという力学モデルです。有限要素解析はこの力学的妥当性を支持します。しかし、臨床的因果を確定するエビデンスはまだ十分ではありません。したがって、アブフラクションは確定診断名ではなく、仮説として慎重に扱うべきです。

咬合性外傷は、歯頸部欠損の名前ではありません。過大な咬合力によって歯根膜、セメント質、歯槽骨などの歯周支持組織に生じる反応として評価すべきものです。歯周炎が存在する場合、炎症とメカニカルストレスはRANKL、TRPV4、Piezo1などを介して相互作用し、歯槽骨吸収を修飾しうる可能性があります。

臨床では、力を軽視してはいけません。しかし、力で全部を説明してもいけません。

歯頸部欠損を見たとき、私たちがすべきことは「これは力ですね」と決めることではありません。病変の形態、生活背景、酸性環境、清掃習慣、歯肉退縮、咬合、パラファンクション、歯周炎活動性、歯周支持量、経時変化を一つずつ整理し、どの因子がどの程度関与しているかを臨床的に推定することです。

「力を読む」ことは大切です。
しかし、力だけで読まないことは、もっと大切です。

力だけで読む…それは「筋肉は全てを解決する」とか言っている人と同レベルですよ?

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