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歯科エアロゾル、0.30–1.0µm粒子の最高濃度は超音波でもタービンでもない?55人で実測

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2026年9月23日

歯科エアロゾル、0.30–1.0µm粒子の最高濃度は超音波でもタービンでもない?55人で実測

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに――「歯科エアロゾル」と聞いて、何を思い浮かべますか?

歯科医院で治療を見ていると、水しぶきや細かな霧が出やすそうな器具がいくつかあります。

歯石取りで使う超音波スケーラー。

虫歯治療や被せ物の形成で聞こえる「キーン」という高速エアタービン。

新型コロナウイルス感染症の流行以降、「歯科治療のエアロゾル」と聞いて、この2つを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

私も今回の論文を読む前なら、同じように考えていたと思います。

ところが2026年9月21日にBMC Oral Healthで公開された研究では、実際の患者さん55人の歯科処置中に空気中の粒子を測定したところ、0.30~1.0µmという非常に細かな粒子で最も高い濃度を示したのは、超音波スケーラーでも高速エアタービンでもありませんでした。[1]

最も高かったのは、

ストレートサージカルハンドピースを使用した埋伏智歯の外科的抜歯

でした。

術者、つまり歯科医師の顔の近くに相当する「呼吸域」では、0.30~1.0µm粒子が164,445.10 particles/m³まで測定されています。[1]

「それなら親知らずの抜歯が一番エアロゾルが多いの?」と思ってしまいますが、実はそう簡単ではありません。

粒子の大きさを変えると、一番高かった処置も変わります。

さらに、「処置中に一番高い濃度だった」という見方と、「処置前からどれだけ増えたか」という見方でも印象が変わります。

そして何より、今回測ったのは空気中の物理的な粒子数です。

粒子が多いことと、細菌やウイルスが多いこと、まして実際の感染リスクが高いことは同じではありません。

今回は、ちょっと意外な最新研究を入口に、「歯科エアロゾルが多い処置って、そもそもどうやって決めるの?」というところまで詳しく見ていきます。

なお、この論文は現時点ではArticle in Pressです。査読を経て採択され、恒久的なDOIも付いていますが、最終編集版へ置き換えられる前の早期公開版です。今後、本文や表記などが最終編集で変更される可能性がある点は頭に置いて読んだ方がよさそうです。[1]

2026年の研究では、実際の歯科治療55人を調べた

今回取り上げるのは、Heidariらによる“Are all dental procedures equally high risk for aerosol generation? Evidence from a clinical experimental study”という研究です。[1]

イランのHamadan University of Medical Sciencesの歯科診療施設で、2025年7月から9月にかけて実施されました。

最終解析に入った患者さんは55人です。

比較したのは3種類の処置

  • 超音波スケーリング:22人
    ピエゾ式超音波スケーラーを使用。
  • 高速エアタービンによる修復治療:19人
    口腔内で注水しながら高速エアタービンハンドピースを使用。
  • ストレートサージカルハンドピースによる埋伏智歯の外科的抜歯:14人
    No.702 fissure burと生理食塩水による注水を使用。

ここで、研究を読むうえで最初に大切なことがあります。

55人全員に3種類の治療を行って比べたわけではありません。

22人は超音波スケーリング、19人は修復治療、14人は外科的抜歯という別々の患者群です。

つまり、「同じ人に超音波スケーラーを使い、そのあとタービンを使い、そのあとストレートハンドピースを使って比較した」というクロスオーバー試験ではありません。

この違いは、後ほど研究の限界を考えるときにかなり重要になります。

タービンとストレートハンドピースは、同じ「歯を削る器械」ではありません

患者さんから見ると、「どちらも歯医者さんが歯を削るときに使う器械」に見えるかもしれません。

でも、高速エアタービンとストレートサージカルハンドピースは同じ器械ではありません。

駆動の仕組みや使う場面、回転条件、注水方法などが異なります。

今回は器械そのものの解説が主題ではないので詳しくは省きますが、タービンやコントラなど歯科用ハンドピースの違いについては以前の記事で詳しく紹介しています。

今回大切なのは、「ストレートサージカルハンドピース」と「高速エアタービン」を同じ器械として扱わないことです。

今回の研究で数えたのは「空気中の粒子」

では、研究者は何を測ったのでしょうか。

使用したのはGRIMM Model 1.108 aerosol spectrometerという粒子測定装置です。

この装置では、空気中にある0.3~20µmの粒子を測定できます。

測定値は6秒ごとに記録され、1つの測定場所につき3分間、合計30回の測定値が得られました。研究では、その30回の算術平均を患者さんごとの解析値として使っています。[1]

粒子は3つの大きさに分けて評価した

  • 0.30~1.0µm
  • 1.0~5.0µm
  • >5.0µm

ちなみに1µmは0.001mmです。

ここで「5µm以下がエアロゾルで、5µmを超えたら飛沫」と単純に二分するのも避けたいところです。

粒子は連続した大きさを持ち、空気中での挙動は粒径だけでなく、密度、形、空気の流れなどにも左右されます。

この記事では混乱を避けるため、原著と同じように「0.30~1.0µm粒子」「1~5µm粒子」「>5µm粒子」と呼ぶことにします。

測定したのは「先生の顔の近く」「ライト」「少し離れた台」の3か所

  • 歯科医師の呼吸域
    測定プローブを術者の保護眼鏡付近、頭の高さに装着。
  • デンタルライト付近
  • ワークベンチ
    診療台から約150cm離れた場所。

つまり研究者たちは、「口のすぐ横だけ粒子が多いのか」だけでなく、「少し離れた場所ではどうなのか」も調べています。

ただし後ほど詳しく触れますが、この3地点は同時に測ったわけではありません。

結果――0.30~1.0µmでは外科的抜歯が3処置中最高濃度

まず今回、最も注目された結果から見てみます。

LEV、つまり局所排気装置を使用していない条件で、歯科医師の呼吸域における0.30~1.0µm粒子の平均濃度は次のようになりました。[1]

  • ストレートサージカルハンドピースを使った外科的抜歯:164,445.10 particles/m³
  • 高速エアタービンによる修復治療:129,304.77 particles/m³
  • 超音波スケーリング:48,468.60 particles/m³

今回比較された3つの処置の中では、ストレートサージカルハンドピースを使用した埋伏智歯の外科的抜歯が最も高い濃度を示したことになります。

しかも0.30~1.0µmについては、歯科医師の呼吸域だけではなく、デンタルライト付近、ワークベンチでも外科群が高い値を示しました。[1]

術者の呼吸域では18,303から164,445 particles/m³へ

外科群だけを見ると、0.30~1.0µm粒子の歯科医師呼吸域では、処置前のbaselineが18,302.90 particles/m³だったのに対して、処置中は164,445.10 particles/m³でした。[1]

単純な比で見ると約9倍です。

論文のDiscussionでも、baselineの8倍を超えたことが強調されています。[1]

ただし、ここからすぐに「外科的抜歯が歯科治療の中で一番エアロゾルが多い」とは言えません。

理由は、次の結果を見るとよく分かります。

1~5µmと>5µmでは、今度はタービンが一番高かった

歯科医師の呼吸域で、3つの粒径をすべて比べます。[1]

0.30~1.0µm

  • 外科的抜歯:164,445.10
  • タービン:129,304.77
  • 超音波:48,468.60

1~5µm

  • 外科的抜歯:1,523.12
  • タービン:3,284.57
  • 超音波:2,802.28

>5µm

  • 外科的抜歯:56.87
  • タービン:77.54
  • 超音波:74.23

つまり、0.30~1.0µmでは外科群が最高濃度ですが、1~5µmと>5µmではタービンが最高濃度です。

「どの歯科処置が一番粒子を出す?」という質問は、一見とても単純に見えます。

でも実際には、「どの大きさの粒子を見ていますか?」という条件を決めないと答えられません。

「一番高かった」と「処置前から一番増えた」は、さらに別の話

ここからもう一段ややこしくなります。

各患者群では、処置前のbaselineの粒子濃度も測っています。

ところが、このbaselineが3群でかなり違います。

0.30~1.0µm、歯科医師呼吸域のbaselineは、

  • 外科群:18,302.90
  • 超音波群:25,502.66
  • タービン群:114,920.86

でした。

タービン群は、治療開始前からすでに0.30~1.0µmの粒子濃度がかなり高かったことになります。

そのため、「処置中に存在した絶対濃度」と、「処置前からどれくらい増えたか」は分けて考える必要があります。

論文表に記載された平均値を使って、歯科医師呼吸域でbaselineとの差を単純に計算すると、次のようになります。

  • 0.30~1.0µm
    外科群:約+146,142
    超音波群:約+22,966
    タービン群:約+14,384 particles/m³
  • 1~5µm
    外科群:約+295
    超音波群:約+2,296
    タービン群:約+893 particles/m³
  • >5µm
    外科群:約+29.6
    超音波群:約+51.9
    タービン群:約+6.7 particles/m³

ただし、この数字の扱いには注意が必要です。

これは研究者が統計解析によって示した「処置による増加量ランキング」ではありません。

原著表に記載された平均値同士を、この記事で記述的に単純減算した参考値です。

したがって、「1~5µmでは超音波が統計学的に最も増加させた」と解釈することはできません。

それでも、「処置中に何個存在したのか」と、「その群の処置前からどのくらい数字が変化したのか」が別の質問であることは分かります。

なぜ外科用ストレートハンドピースで細かな粒子が増えたの?

では、なぜストレートサージカルハンドピースを使った外科処置で、0.30~1.0µmの粒子がこれほど高い濃度を示したのでしょうか。

考えられる要素はいくつかあります。

  • 回転するバー
  • 生理食塩水による注水
  • 処置部位での切削操作
  • 器具の移動
  • 液体と回転器具の相互作用

回転する器具に液体が触れると、液膜が細かく分裂したり、切削面やバーへの衝突によって小さな液滴が形成されたりする可能性があります。回転速度や注水、吸引条件によって粒径分布が変わることも過去の研究で示されています。[8]

ただし、今回のBMC Oral Health研究は、「なぜ164,445 particles/m³になったのか」という発生機序を直接検証した研究ではありません。

回転数、実際の注水量、切削時間などを一つずつ変えて比較したわけでもありません。

ですから、「外科用ストレートハンドピースだから必ず細粒子が多くなる」と断定することはできません。

「抜歯だから多かった」と考えるのも早い

ここも誤解しやすいところです。

今回調べられたのは、ストレートサージカルハンドピースを使った埋伏智歯の外科的抜歯です。

いわゆる「普通の抜歯」と同じ条件ではありません。

抜歯と一口に言っても、歯肉付着や歯根膜線維を切り離し、エレベーターや鉗子を使って歯を脱臼させて抜く処置もあります。

以前、抜歯前に歯肉付着や歯根膜線維を切り離す工程でも紹介しましたが、「抜歯」という名前だけでは実際の処置内容は分かりません。

Duddingらの実患者研究では、吸引を併用したその研究条件下で、通常の抜歯、局所麻酔、軟組織フラップの操作、縫合などではbackgroundを超えるエアロゾルが検出されなかった一方、surgical drillingでは粒子発生が確認されています。[3]

したがって今回の結果を、「歯を抜く行為そのものが大量のエアロゾルを発生させる」と一般化するのは適切ではありません。

むしろ、「どの器具を、どんな処置で、どのように使ったのか」を見る必要があります。

164,445個の「唾液」が飛んだわけではありません

今回の記事で、私が一番注意したいと思ったところです。

164,445 particles/m³。

数字だけを見ると、「唾液の細かな粒がそれだけ飛んだ」と思ってしまいそうです。

でも、今回測っているのはあくまで空気中に存在する物理的な粒子の個数です。

その粒子について、注水液、唾液、血液、切削由来成分などが、それぞれどの程度を占めたのかは、この研究では同定していません。

したがって、粒子数=唾液量ではありません。

粒子数=細菌数でもありません

164,445 particles/m³という数字が、「細菌が164,445個あった」という意味でもありません。

今回の研究では、粒子を培養して細菌数を調べたわけではありません。

粒子数=生きたウイルス数でもありません

もちろん、「ウイルスが164,445個飛んだ」という意味でもありません。

ウイルス含有量、病原体の生存性、感染可能な病原体量は測定していません。

そして粒子数=感染リスクでもありません

感染が成立するまでには、いくつもの段階があります。

  1. 空気中に粒子が発生する
    今回の研究が主に測ったのはここです。
  2. その粒子に病原体が含まれる
  3. 病原体が感染できる状態で残っている
  4. 十分な量が人に到達する
  5. 実際に感染が成立する

今回の論文自身も、微生物・ウイルス含有量、病原体の生存性、infectious dose、実際の感染結果は調べていないと明記しています。[1]

ですから、「外科群の粒子濃度が一番高かった」=「外科的抜歯の感染リスクが一番高い」とは言えません。

では、口腔外から吸引すると粒子は減った?

今回の研究では、LEV:Local Exhaust Ventilationという局所排気装置も評価しています。

考え方としては歯科で使われる口腔外吸引装置に近いものですが、一般的な「口腔外バキューム」すべてと同じ仕様という意味ではありません。

今回使用されたLEVは、

  • 吸引能力:4,800L/min
  • フード直径:20cm
  • 患者さんの口から:約80cm

という条件でした。[1]

各患者さんについてLEVあり・LEVなしの両方を同じ治療セッション内で比較し、どちらを先に行うかはランダムに決められました。

全体としてLEVは多くの条件で粒子濃度を下げた

論文全体としては、LEVを使用すると、多くの粒径・測定位置で粒子濃度が低下したという結果でした。[1]

0.30~1.0µmの歯科医師呼吸域を平均値で見ると、

  • 外科群:164,445.10 → 149,685.30
  • タービン群:129,304.77 → 86,558.70
  • 超音波群:48,468.60 → 26,761.53

確かに低くなっています。

ただし、「LEVを使えば全部の粒子が同じ割合で減る」という結果ではありません。

一部の測定セルではLEVありの方が高い数字もあった

例えば外科群の>5µm粒子、歯科医師の呼吸域では、LEVなし56.87に対してLEVあり81.91でした。デンタルライト付近でも43.83に対して45.28でした。[1]

つまり、表の一部のセルではLEV条件の平均値が高い数字を示しています。

ただし、この一部のセルだけを見て、「LEVを使ったことで>5µm粒子が増えた」と判断することはできません。

著者らの全体解析ではLEVによる粒子濃度低減効果が示されており、その効果は粒径や測定位置によって一様ではなかったと解釈されています。[1]

したがって現時点では、「LEVは多くの条件で粒子濃度を下げたが、すべての粒径・すべての位置で同じような低下が見られたわけではない」と読むのがよさそうです。

実は全員、口の中ではすでに吸引していました

ここは助手として特に気になったところです。

今回の研究は、吸引なし vs LEVありの比較ではありません。

3つの処置すべてで、もともと歯科ユニットの口腔内吸引が使われていました。[1]

そのうえで、口腔外のLEVを追加する/しないを比べています。

つまり、

通常の口腔内吸引あり+LEVなし

と、

通常の口腔内吸引あり+LEVあり

の比較です。

助手が持っている太いバキュームは、水を吸っているだけではありません

治療中、患者さんからすると、「口の中に水がたまるから、助手さんが吸っている」ように見えると思います。

もちろん、それも大切な仕事です。

でもバキュームは、注水された水、唾液、切削片、治療部位周辺の飛散物を、できるだけ発生源の近くで回収する役割も持っています。

太い口腔内バキュームと、細い排唾管は同じものではありません。

この違いは、太い口腔内バキュームと細い排唾管の違いで詳しく解説しています。

ただし、バキュームを使えば感染リスクがゼロになる、という意味ではありません。

今回の研究から読み取れるのは、発生源近くの吸引や局所排気が、空気中の粒子濃度を抑えるための対策の一つになるというところまでです。

そもそも、歯を削るときの「水」は必要だから出しています

「それなら、そもそも水を少なくすればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。

でも歯を削るときの注水には重要な役割があります。

  • 歯を冷却する
  • 歯髄への熱負担を抑える
  • 切削片を洗い流す
  • バー周辺を冷却する

詳しくは、歯を削るときの注水とバキュームが必要な理由で解説しています。

つまり感染対策だけを考えて、「水を出さなければいい」という単純な話でもありません。

一番高い濃度が測定されたのは、先生の顔の近く

今回の研究では、多くの条件で高い濃度が測定されたのは歯科医師の呼吸域でした。[1]

発生源から近い場所では、粒子が空気中で薄まったり吸引されたりする前に術者へ到達しやすいことが関係している可能性があります。

ただし、今回測ったのは歯科医師の呼吸域です。

歯科助手の顔の位置では測っていません。

私たち助手も患者さんのすぐ横にいますが、164,445 particles/m³という数字を、そのまま助手の曝露量として使うことはできません。

この研究には、実はかなり多くの注意点があります

注意点① 3つの処置は同じ患者さんで比較していない

超音波スケーリング22人、修復治療19人、外科的抜歯14人は別々の患者群です。

注意点② 患者さんの年齢や口腔状態も違う

平均年齢は超音波群56歳、修復群45歳、外科群26歳でした。O’Leary Plaque Indexなどにも群間差があります。[1]

注意点③ 「器具」だけを比較した研究ではない

超音波スケーラー=スケーリング、高速エアタービン=修復治療、ストレートサージカルハンドピース=埋伏智歯外科と、器具と処置内容がセットになっています。

したがって、ストレートハンドピースそのものがタービンより0.30~1.0µm粒子を多く発生させるとまで証明した研究ではありません。

注意点④ 術者も3処置で違う

超音波スケーリングは同じ歯周病医、修復治療は同じ一般歯科医、外科処置は同じ口腔外科医が担当しました。[1]

処置内のばらつきを抑える利点がある一方、器具・処置・術者の違いを完全には分離できません。

注意点⑤ baselineが3群で大きく違う

特に0.30~1.0µmの術者呼吸域では、タービン群のbaselineが114,920.86 particles/m³と高く、「絶対濃度」と「baselineからの変化」を分けて読む必要があります。

注意点⑥ 3か所を同時に測っていない

測定器は1台だけで、歯科医師呼吸域→デンタルライト→ワークベンチの固定順で移動しています。[1]

したがって、3地点の違いを純粋に距離だけの違いとして解釈することはできません。

注意点⑦ 各測定区間で器具を実際に何秒使ったかは処置間で比較できない

各3分間の測定区間のうち器具が実際に何秒間作動していたのかを、処置間で比較できる形では詳しく報告していません。

したがって、particles/m³をそのまま「器具を1分間回したときの粒子発生能力」とは読み替えられません。

注意点⑧ 治療室の換気条件は一般の診療室とかなり違う

研究室はsingle-chairで、エアコンなし、機械換気なし、fresh-air exchangeなし、窓閉鎖、ドア閉鎖という条件でした。[1]

一方、患者さんごとの測定後にはポータブル空気清浄機を15分使用し、その後は少なくとも24時間、次の患者さんを入れないという対応も行っています。

環境をかなり統制した研究ですが、日常的に換気されているすべての歯科医院へ今回の絶対値をそのまま当てはめることはできません。

注意点⑨ LEVは1種類だけ

今回使ったのは4,800L/min、20cmフード、口から約80cmという特定のLEVです。

別の機種、流量、距離、吸引口形状で同じ結果になるとは限りません。

注意点⑩ 微生物も実際の感染も測っていない

今回の研究は空中粒子の物理的な濃度を測った研究です。

細菌数、ウイルス量、感染率の研究ではありません。

それでも、この研究はかなり面白い

  • 実際の患者さんで測った
    模型だけの実験ではありません。
  • 3つの代表的処置を同じ研究内で比較した
  • 粒径を分けた
    総粒子数だけでまとめていません。
  • 測定位置も変えた
    術者呼吸域、ライト、約150cm離れた場所を評価しています。
  • LEVあり・なしも比較した

そして何より、ストレートサージカルハンドピースを使用した外科処置が、0.30~1.0µmという細かな粒子でかなり高い濃度を示したことは、今後さらに検証する価値のある結果だと思います。

「一番エアロゾルが多い処置は?」には、本当は一つの答えがありません

今回の論文を読んで、一番感じたのはここでした。

  • どの粒径を見るのか
  • 処置中の絶対濃度を見るのか
  • baselineからの変化を見るのか
  • 口元で測るのか、離れた場所で測るのか
  • 粒子の個数を見るのか、質量を見るのか
  • 物理的な粒子を見るのか
  • 微生物を含む粒子を見るのか
  • 感染可能な病原体を見るのか
  • 最終的な感染成立を見るのか

によって、問いそのものが変わります。

同じ「歯科エアロゾル研究」という名前でも、実は測っているものがかなり違うのです。

今回の研究から「言えること」と「言えないこと」

言えること

  • 3処置すべてで空中粒子濃度がbaselineより増加した
  • 0.30~1.0µmでは、ストレートサージカルハンドピースを使った埋伏智歯外科が3処置中で最も高い濃度を示した
  • 歯科医師の呼吸域では164,445.10 particles/m³だった
  • 1~5µm、>5µmではタービンの方が高い測定条件があった
  • LEVは多くの粒径・測定位置で粒子濃度を低下させた
  • 処置、粒径、測定位置で結果が変わった

言えないこと

  • 歯科治療全部の中で外科的抜歯が最も粒子を発生させる
  • 普通の抜歯も同じである
  • ストレートハンドピース単独が原因である
  • 164,445個の唾液粒子が飛んだ
  • 164,445個の細菌やウイルスが飛んだ
  • 外科的抜歯の感染リスクが最も高い
  • LEVを使えば感染を防げる
  • 超音波スケーラーは粒子が少ないから問題ない

助手として印象に残ったのは「器具名だけでは決まらない」こと

診療中に見ていると、「超音波スケーラーだから飛ぶ」「タービンだから飛ぶ」「外科だから飛ぶ」と、つい器具や治療名だけで考えたくなります。

でも今回の研究を読むと、

器具 × 注水 × 処置内容 × 粒径 × 発生源からの距離 × 吸引 × 換気

まで考えないと、空中粒子の状況は分からないことが見えてきます。

私たち助手が治療中にバキュームを持つ位置も、単に「水がたまらないようにする」だけではありません。

治療の邪魔をせず、患者さんの頬や舌を傷つけず、先生が見える範囲を確保しながら、できるだけ発生源の近くで水や切削片を回収する。

いつもやっている動作ですが、こういう研究を読むと、その意味が少し違って見えてきます。

まとめ――「超音波でもタービンでもなかった」は半分正しい。でも、それだけでは足りません

今回の2026年の研究では、0.30~1.0µmという細かな粒子に限れば、ストレートサージカルハンドピースを使用した埋伏智歯の外科的抜歯が、比較した3処置中で最も高い濃度を示しました。

これは確かに意外な結果です。

でも、1~5µmや>5µmではタービンの方が高い。

baselineからの変化という見方をすると印象も変わる。

さらに、今回数えたのは細菌やウイルスではなく、物理的な空中粒子です。

だから、「外科的抜歯が歯科で一番危険」という結論にはなりません。

「歯医者で一番エアロゾルが多い処置は何?」という単純そうな質問ほど、“何を、どの大きさで、どこで、どう測ったのか”まで見ないと、本当の答えには近づけない。

今回の論文を読んで、私が一番印象に残ったのはそこでした。

よくある質問

Q.超音波スケーラーはエアロゾルが少ないということですか?

いいえ。

今回の研究でも、超音波スケーリングでは0.30~1.0µm、1~5µm、>5µmのすべてでbaselineより粒子濃度が増えています。

今回比較した3処置のうち、0.30~1.0µmの絶対濃度が外科群より低かった、という意味です。

Q.親知らずの抜歯は普通の抜歯より感染しやすいのですか?

今回の研究からは分かりません。

研究で調べたのは、ストレートサージカルハンドピースを使用した埋伏智歯の外科的抜歯中の空中粒子濃度です。感染率は測定していません。

Q.164,445 particles/m³は、細菌が164,445個あったという意味ですか?

違います。

空気1m³あたりに測定された物理的な粒子数です。粒子の中にどれだけ細菌やウイルスが含まれていたかは、この研究では調べていません。

Q.口腔外バキュームを使えばエアロゾルはなくなりますか?

なくなるわけではありません。

今回使われたLEVは多くの粒径・場所で粒子濃度を低下させましたが、baselineまで完全に戻ったわけではなく、効果もすべての条件で同じではありませんでした。

また、今回のLEVは特定の仕様の装置なので、すべての口腔外吸引装置で同じ結果になるとは限りません。

Q.治療中に助手さんが持っている太い吸引管にも意味がありますか?

はい。

口の中の水や唾液、切削片を除去することに加えて、発生源近くの飛散物をできるだけ回収する役割もあります。

ただし、バキュームだけで空中粒子や感染リスクを完全になくせるわけではありません。

参考文献

  1. Heidari A, Shirahmadi S, Meschi M, et al. Are all dental procedures equally high risk for aerosol generation? Evidence from a clinical experimental study. BMC Oral Health. 2026. Article in Press. doi:10.1186/s12903-026-09943-7.
  2. Lahdentausta L, Sanmark E, Lauretsalo S, et al. Aerosol concentrations and size distributions during clinical dental procedures. Heliyon. 2022;8(10):e11074. doi:10.1016/j.heliyon.2022.e11074.
  3. Dudding T, Sheikh S, Gregson FKA, et al. A clinical observational analysis of aerosol emissions from dental procedures. PLoS One. 2022;17(3):e0265076. doi:10.1371/journal.pone.0265076.
  4. Meethil AP, Saraswat S, Chaudhary PP, Dabdoub SM, Kumar PS. Sources of SARS-CoV-2 and other microorganisms in dental aerosols. J Dent Res. 2021;100(8):817-823. doi:10.1177/00220345211015948.
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  6. D’Antonio N, Newnum J, Kanellis M, Howe B, Anthony TR. Assessment of respirable aerosol concentrations using local ventilation controls in an open multi-chair dental clinic. J Occup Environ Hyg. 2022;19(5):246-255. doi:10.1080/15459624.2022.2050738.
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