2026年9月24日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科助手です。
治療が終わったあと、診療台の上にはいろいろな物が残っています。
紙コップやエプロン、手袋のように、患者さんごとに新しいものへ交換する物もあります。
一方で、デンタルミラーやピンセットなどの銀色の器具を見ると、
「これは毎回新品というわけではなさそうだけれど、治療が終わったあと何をしているんだろう?」
と思ったことはないでしょうか。
私も歯科医院で働き始める前は、
「使った器具を洗って、最後に滅菌器へ入れているんだろうな」
くらいのイメージでした。
でも、実際に器具の流れを追ってみると、そんなに単純ではありません。
使い終わった器具を安全に回収する。
付着した汚れを落とす。
乾燥させて、汚れや破損がないか確認する。
必要な器具は包装する。
決められた条件で滅菌する。
滅菌工程が適切に行われたか確認し、記録する。
そして、使用するときまで包装された状態を保って保管する。
つまり患者さんから見える「袋を開けて器具を取り出す」という数秒の前には、長い工程があります。医療機器の再処理は、使用直後の処理から洗浄、乾燥、点検、包装、滅菌、保管までを一連の流れとして考えます。[7][8]
今回は主に、口の中で使用し、洗浄後に熱による滅菌を行って再使用することを前提とした器具を中心に、その流れを追ってみます。
すべての歯科器具を同じ方法で処理するわけではありません。
その違いも一緒に見ていきましょう。

歯医者の器具は「全部使い捨て」でも「全部再使用」でもありません
最初に知っておきたいのは、歯科医院で使用する物がすべて同じ扱いではないことです。
当院では、コップやエプロン、スタッフが使用する手袋など、患者さんごとに新しい物へ交換する物があります。
一方で、デンタルミラーやピンセットなど、適切な再処理を行ったうえで繰り返し使用することを前提につくられた器具もあります。
つまり歯科医院では、
単回使用の物は、一人の患者さんへの使用後に廃棄する。
再使用できる器具は、定められた処理を行ってから次の患者さんへ使用する。
という二つを使い分けています。[2][5]
ここで大切なのは、
「再使用する」=「前の患者さんに使用した状態のまま、次の患者さんにも使う」
ではないということです。
再使用可能な器具には、次の患者さんに使用できる状態へ戻すための再処理工程があります。

当院の感染対策全体については、歯科医院での患者さんへの感染対策についてでも紹介しています。
金属だから何度も使う?見た目だけでは判断できません
患者さんから見ると、
「金属なら丈夫だから何度も使う」
「プラスチックなら使い捨て」
というイメージを持ちやすいかもしれません。
でも、実際はそこまで単純ではありません。
同じように金属でできていても、洗浄・滅菌して再使用することを前提とした器具もあれば、1回だけ使用することを前提とした器具もあります。
CDCも、単回使用器具は一人の患者さん・一回の処置に使用するものであり、洗浄・消毒・滅菌して別の患者さんへ再使用することを前提としていないとしています。さらにバー、根管治療用ファイル、ブローチなどは、形が複雑で十分な洗浄が難しいことや、繰り返す処理によって切削部分の劣化や破折リスクが高まる場合があるため、製品によっては単回使用として扱われます。[5]
一方、日本の歯科診療所を調べた研究では、洗浄・滅菌後の再利用が可能な歯科用器具の例も報告されています。[9]
つまり、
- 金属かどうか
- プラスチックかどうか
- 丈夫そうかどうか
- 高そうかどうか
- 見た目がきれいかどうか
だけでは、再使用できるかどうかは決まりません。
その器具がどのように設計され、メーカーがどのような使用方法・再処理方法を指定しているかが重要です。[2][5][7]
根管治療で使用するファイルについては、根管治療で細い器具を太さ順に何本も使う理由でも詳しく紹介しています。
診療が終わった瞬間から「次の患者さんのための準備」が始まります
では、再使用できる器具はどのような道をたどるのでしょうか。
まずは診療直後です。
先生が治療を終え、患者さんが診療台から立った時点で、トレーの上には使用済みの器具があります。
見た目があまり汚れていなくても、
「患者さんに使用した、まだ再処理していない器具」
として扱います。
治療内容によっては器具に、
- 唾液
- 血液
- 歯の削りかす
- 材料の削りかす
- 組織片
- 骨片
などが付着する可能性があります。
日本歯科衛生学会で報告されたインプラント手術の検討でも、埋入窩形成に使用したドリル表面へ骨片や血液などが付着することを前提として、術中の汚染物除去が検討されています。[11]
もちろん、
「使用した器具には危険な病原体が大量に付いている」
という意味ではありません。
大切なのは、見た目だけで清潔かどうかを判断せず、使用した器具は決められた再処理工程へ進めるということです。
洗う前に大切なのは「安全に回収すること」
ここも患者さんからはほとんど見えない部分だと思います。
歯科器具の中には、
- 切削用のバー
- スケーラーチップ
- 根管治療用ファイル
- 外科器具
など、細かったり鋭かったりする物があります。
不用意に置いたままにすると、歯科医師や歯科衛生士、歯科助手が手を傷つける可能性があります。
ある病院から報告された15年間の歯科衛生士関連の出来事1067件のうち、切削バーやスケーラーチップの放置に関連した器具刺しは15件でした。その施設では、バーやチップを安全に扱うための対策を周知した後、器具刺しの報告件数が減少しています。[12]
これは一施設の報告であり、すべての歯科医院で同じ頻度という意味ではありません。
ただ、使用済み器具の扱いが、患者さんだけでなくスタッフの安全にも関係することはよく分かります。
つまり器具の再処理は、
次の患者さんを守るためだけに行うものではありません。
器具を扱うスタッフを、切創や血液への接触から守る意味もあります。CDCも使用済み器具を運搬・洗浄する際の安全な取り扱いや、鋭利器具への接触を減らす方法を推奨しています。[2][3]

なぜ、そのまま滅菌器へ入れないのでしょうか?
ここで、一つ疑問が出てきます。
「最終的に高温の蒸気で滅菌するなら、最初から滅菌器へ入れればいいのでは?」
私も、最初は似たようなイメージを持っていました。
でも、そうではありません。
なぜなら、
「洗浄」と「消毒」と「滅菌」は、それぞれ目的が違うからです。
洗浄
器具に付着した血液、唾液、タンパク質、組織片、削りかすなどを取り除く工程です。
まず、器具表面などの汚れをできるだけ除去します。
消毒
病原性のある微生物を減らしたり、不活化したりするための処理です。
必要とされる消毒の程度は、その器具が何に触れるかなどによって異なります。
滅菌
細菌芽胞を含む微生物を対象として、生存する微生物が残る可能性を十分に低くする処理です。医療現場では、単に「熱をかけた」というだけでなく、その滅菌工程が正しく成立していることを管理し、無菌性を保証していく考え方が重要です。[6]
ここで大切なのは、
洗浄したから滅菌したことにはならない。
そして、
滅菌するから洗浄しなくてもよいわけではない。
ということです。[1][2][3]

「最後に滅菌するから、多少汚れていてもいい」は違います
私が特に「なるほど」と思ったのが、この部分でした。
血液や唾液などの有機物が器具に残っていると、微生物を覆ってしまい、その後の消毒・滅菌工程を妨げる可能性があります。CDCも、滅菌や消毒を行う前に器具を十分に洗浄することを重要な前提としています。[2][3]
さらに、汚れが乾燥して器具へ固着すると、後から除去しにくくなります。
つまり、
「最後に高温で処理するから、その前は多少汚れていても大丈夫」
ではありません。
滅菌へ進む前に、器具に付着した汚れを適切に取り除くことが重要です。
オートクレーブは、器具についた血液や削りかすを洗い流してくれる機械ではありません。
私は以前、
「最後に滅菌器へ入れるのだから、そこが一番大事なのだろう」
と思っていました。
でも実際には、滅菌器へ入る前から再処理の重要な工程は始まっています。
今回の「器具の洗浄」と、根管治療の「根管洗浄」は別です
歯科では「洗浄」という言葉がいろいろな場面で使われます。
当院でも以前、根管治療で注射器から液を入れる理由について紹介しました。
こちらでいう「根管洗浄」は、
治療中の歯の根の中を洗うこと
です。
今回の「器具の洗浄」は、
治療で使用した医療器具そのものに付着した汚れを取り除くこと
です。
同じ「洗浄」でも、対象は全く違います。
器具の洗浄は「全部スタッフが手でゴシゴシ洗う」という意味でもありません
器具の洗浄方法は、
- 器具の種類
- 形
- 材質
- メーカーの指示
- 医療機関の設備
などによって異なります。
医療現場では、超音波洗浄器や器具洗浄機、洗浄と熱による処理を組み合わせた機器などの自動洗浄設備が用いられることがあります。必要に応じて手洗いを行う場合もあります。[2][3]
機械を利用する理由は、単に作業を楽にするためではありません。
洗浄条件をそろえやすくすることに加え、
使用済みの鋭い器具をスタッフが直接手で扱う機会を減らす
という安全面での意味もあります。[3]
ただし、ここで一つ注意があります。
超音波洗浄=滅菌ではありません。
超音波洗浄器を使用して汚れを落としたからといって、その時点で器具が「滅菌済み」になるわけではありません。
洗浄と滅菌は別の工程です。
器具によって「洗いにくさ」が違います
平らで表面が滑らかな器具と、細かな溝や関節がある器具。
同じようには洗えません。
歯科器具には、
- 細かな溝がある
- 刃がある
- 開閉する関節がある
- 内部に細い通り道がある
- 分解できる
- 複雑な内部構造がある
ものがあります。
開閉する器具なら、処理時に適切に開く必要がある場合があります。
分解できる器具なら、メーカーの指示に従って分解して洗浄・再処理する場合もあります。
ISO 17664-1では、再使用する医療機器について、使用直後の処理、洗浄前準備、洗浄、消毒、乾燥、点検・保守、包装、滅菌、保管など、メーカーが示すべき再処理情報を一連の工程として整理しています。[7]
さらに2026年には、再使用医療機器を洗浄の難しさという観点から分類し、適切な洗浄工程へ結びつける考え方を示したISO/TS 17664-3:2026も発行されています。[8]
つまり、
「金属器具だから全部同じ洗い方」ではありません。
器具の構造まで考えて再処理する必要があります。
使用済みの側から清潔な側へ――器具の流れも一方向です
器具を安全に再使用するためには、どの機械を使うかだけでなく、
器具がどちら向きに流れていくか
も大切です。
使用済み器具と、すでに洗浄・包装・滅菌を終えた器具が、同じ場所を行ったり来たりするのは好ましくありません。
基本的な考え方は、
使用済み器具
↓
洗浄
↓
乾燥・点検
↓
包装
↓
滅菌
↓
清潔な状態で保管
というように、汚染度の高い側から清潔な側へ進んでいく流れをつくることです。[2]
器具の再処理は、一つの機械だけで完結するのではありません。
工程全体がつながっていることが大切なのです。

洗ったら、すぐ袋に入れて滅菌?――その前に乾燥と点検
洗浄した器具は、その後、すすぎ、乾燥、状態の確認へ進みます。
ここで見るのは、たとえば、
- 汚れが残っていないか
- 破損していないか
- 変形していないか
- 刃先に問題がないか
- 関節部分が正常に動くか
- 必要な部品がそろっているか
などです。
CDCも、洗浄後の器具を乾燥させて目視確認し、その後に包装・滅菌へ進めることを示しています。[2][3]
つまり再処理には、
次の患者さんへ清潔な器具を届けること
だけでなく、
その器具が次の治療でも正常に機能できる状態なのか確認すること
という意味もあります。
きれいでも、壊れている器具では安全な治療には使えません。
ハンドピースは「先端のバーだけ替えればいい」わけではありません
患者さんが歯科医院でよく耳にする、
「キーン」
「ブーン」
という音。
高速・低速ハンドピースとタービン・コントラの違いについては、以前の記事でも詳しく紹介しました。
では、
「歯に直接触れた先端のバーだけ交換すれば、ハンドピース本体はそのままでいいの?」
と思うかもしれません。
これも違います。
歯科ユニットの空気・水の管から取り外せるハンドピースや関連するアタッチメントは、患者さんごとにメーカーの指示に従って洗浄し、必要な手入れを行い、熱による滅菌を行うことが推奨されています。厚生労働省の歯科院内感染対策指針でも、歯科用ハンドピースは患者ごとに交換し、オートクレーブ滅菌することが強く推奨されています。[1][4]
ハンドピースは内部にも複雑な構造があります。
そのため、
「外側を拭いたから終わり」
「先端のバーだけ替えれば終わり」
という器具ではありません。[4]
内部構造や注油などの手入れについては、それだけでも一つの記事になるほど奥が深いため、ここでは「先端だけの問題ではない」という点を押さえておきましょう。
なぜ洗った器具を、わざわざ袋に入れるのでしょうか?
器具を洗って乾燥させ、状態を確認したら、必要な器具は包装して滅菌工程へ進みます。
患者さんが診療台で目にすることがある、透明な面と紙のような面を組み合わせた滅菌用の包装です。
私は以前、
「滅菌するなら、袋へ入れない方が蒸気が直接当たってよさそうなのに」
と思っていました。
でも、この包装には大切な役割があります。
一つは、
滅菌に必要な蒸気を中の器具まで届かせること。
もう一つは、
滅菌後、実際に使用するときまで器具を外部から守ること。
です。
つまり滅菌用の包装は、
「滅菌器へ入れるためだけの袋」
ではありません。
滅菌後の状態を使用時まで維持するためのバリアでもあります。[2][3]

そして、ようやくオートクレーブへ
ここまで来て、ようやく高圧蒸気滅菌器、いわゆるオートクレーブの出番です。
オートクレーブでは、高温の蒸気を利用して滅菌を行います。
ブランデンタルクリニックでは、院内設備としてクラスBオートクレーブを導入しています。[13]
ただし、
「クラスBだから、何をどのように入れても大丈夫」
という意味ではありません。
器具ごとに、
- 蒸気による滅菌が可能なのか
- どのように包装するのか
- どの条件で処理するのか
- 分解や手入れが必要なのか
などを確認し、器具と滅菌器のメーカーが示す方法に従う必要があります。[2][7]
今回の記事では、クラスBという言葉を「安全性の順位表で最高だから大丈夫」という意味では扱いません。
重要なのは、処理する器具に適した工程が正しく成立していることです。
「121℃で何分」と一つの数字だけ覚えればいいわけではありません
オートクレーブについて調べると、
「121℃で○分」
「134℃なら○分」
といった数字を目にすることがあります。
もちろん、温度や時間は滅菌条件の重要な要素です。
ただし、
すべての器具に共通する一つの温度・一つの時間があるわけではありません。
条件は、
- 使用する滅菌器
- 選択する滅菌工程
- 器具
- 包装
- 器具の入れ方
などによって変わります。
大切なのは、
その器具と滅菌器に対して定められた条件で処理すること
です。[2][7]
滅菌器は「たくさん詰め込めば効率的」という機械でもありません
一度にたくさん処理できれば効率がよさそうですが、滅菌器の中では必要な蒸気が器具や包装へきちんと届かなければなりません。
不適切に詰め込みすぎたり、蒸気の流れや浸透を妨げるような入れ方をしたりすれば、正しい工程とはいえません。
実際にCDCは、滅菌不良の原因として不十分な洗浄、滅菌器の誤操作、不適切な包装に加え、滅菌器への不適切な積載・過積載も挙げています。[3]
つまり、
「滅菌器へ入れた」だけではなく、「どのように入れ、どの条件で処理したか」までが大切
なのです。
日本医療機器学会の「医療現場における滅菌保証のガイドライン2026」でも、再生処理された医療機器の無菌性を、一つの機械だけではなく工程全体として保証する考え方が重視されています。[6]
袋の色が変わったら「滅菌成功」なのでしょうか?
滅菌用の包装を見ると、処理前後で色が変化する部分が付いていることがあります。
「色が変わっているから、これだけで完全に滅菌できた証拠なんだ」
と思いそうです。
でも、もう少し正確に考える必要があります。
このような表示は、一定の滅菌条件にさらされたことを確認するために利用される化学的な指標です。
ただし、
色が変わったことだけで、中の器具一本一本が完全に問題ないと証明しているわけではありません。
滅菌工程では一般的に、次のような方法を組み合わせて確認します。[3][4]
機械的な確認
時間、温度、圧力などが必要な条件へ到達したかを確認します。
化学的な確認
滅菌用の包装や内部に使用する、条件へ反応する指標を確認します。
生物学的な確認
熱に強い細菌の芽胞を用いて、滅菌器が適切に働いているか確認する方法です。
CDCでは、機械的な確認は各ロードで、生物学的な指標による芽胞試験は少なくとも週1回行うことを推奨しています。[4]

ただし、これはCDCが示している一般的な推奨です。
「ブランデンタルクリニックで週1回芽胞試験を行っている」という意味ではありません。
当院について公開している情報では、滅菌が適切に行われているか確認するためのテストを定期的に行っていることを紹介しています。[14]
滅菌は、
機械のスタートボタンを押したら終わる仕事ではなく、工程が適切に成立していることを確認する仕事
でもあるのです。
滅菌は「記録」も大切です
滅菌が終われば、
「はい、終了」
というわけでもありません。
CDCは、包装された器具について、使用した滅菌器、サイクル・ロード番号、滅菌日、必要な場合は有効期限などを識別できるようにすることを勧めています。[3]
なぜでしょうか。
もし後から、
「この滅菌工程に問題があった可能性がある」
と分かった場合、
どの器具がその工程で処理されたのかを確認できるようにするため
です。
医療では、
「そのときは大丈夫そうだった」
だけではなく、
あとから確認し、必要な器具を追跡できるようにしておくこと
も安全管理につながります。
オートクレーブから出てきたら、そこで終わり?
まだ終わりではありません。
滅菌後の器具は、十分に乾燥・冷却された状態で扱い、包装を傷つけないように保管します。
なぜなら、せっかく滅菌しても、
- 包装が濡れる
- 穴が開く
- 破れる
- シール部分が損傷する
といったことが起これば、使用するときまで器具を適切に守れなくなる可能性があるからです。[2][3]
滅菌用の包装は、
「滅菌器の中で使う物」だけではなく、「滅菌後の器具を使用時まで守る物」
なのです。
包装が濡れたり破れたりしたら、そのまま使える?
使いません。
滅菌後であっても、
- 包装が濡れた
- 穴が開いた
- 破れた
- シールが外れた
- その他、包装の完全性が失われた
場合には、そのまま患者さんへ使用しません。
CDCは、このような包装の内容物について、再び洗浄し、包装し、熱による滅菌を行うよう示しています。[3]
単に、
「もう一度滅菌器へ入れればいい」
という意味でもありません。
再洗浄から再包装、再滅菌まで再処理するということです。

一度滅菌した器具なら、何日でも使えるのでしょうか?
これも単純に、
「○日前に滅菌したから大丈夫」
あるいは、
「○日を過ぎたから自動的に使えない」
と一つの数字だけで考えるものではありません。
滅菌済み器具の保管には、滅菌日や有効期限を基準として管理する方法があります。
一方で、包装が濡れる、破れる、穴が開くなど、無菌状態を損なう可能性のある出来事を重視して管理する考え方もあります。[2]
施設の管理方法や使用する包装材などによって運用は異なります。
共通して大切なのは、
使用する瞬間まで包装が適切な状態で保たれていること
です。
患者さんが見る「袋を開ける場面」は、実は一番最後です
ここまで追いかけると、熱滅菌する再使用器具の主な流れは、次のようになります。
患者さんに使用
↓
安全に回収
↓
洗浄
↓
すすぎ・乾燥
↓
汚れ・破損などを点検
↓
必要な手入れ
↓
包装
↓
滅菌
↓
滅菌工程の確認・記録
↓
乾燥・冷却
↓
清潔な状態で保管
↓
使用前に包装状態を確認
↓
次の患者さんの診療で開封
こうして見ると、かなり長いですよね。
患者さんが診療台で見る、
「スタッフが袋を開けてミラーを出す」
という場面は、この長い流れの一番最後なのです。
実際の歯科治療でも「滅菌済みの器具を使い分ける」場面があります
歯科の症例報告を読んでいると、治療手順の中に、
「滅菌したダイヤモンドポイント」
「滅菌したKファイル」
「滅菌したペーパーポイント」
などという記載が出てきます。
ある再生歯内療法の症例報告では、滅菌したダイヤモンドポイント、滅菌したKファイルなどを用い、根管洗浄後には滅菌ペーパーポイントで乾燥し、その後さらに新たな滅菌Kファイルを使用する工程が記載されています。[10]
もちろん、これは一つの症例で行われた具体的な治療手順です。
ただ、ここからも分かるのは、
診療室の外で器具を次回使用できる状態へ準備する仕事と、実際の治療は一本につながっている
ということです。
すべての器具を同じように滅菌するわけではありません
ここまで主に、洗浄後に熱滅菌して再使用する器具を追ってきました。
しかし、歯科で使用するすべての器具や設備が同じ処理を受けるわけではありません。
歯科器具は、患者さんへの使用方法や感染リスクに応じて考えます。[2][3]
歯ぐきや骨などへ侵襲する器具
外科器具や歯周治療用のスケーラーなどが代表例です。
こうした器具は、滅菌が必要な器具として扱われます。
口腔粘膜に触れる器具
デンタルミラーなどが含まれます。
再使用可能で熱に耐えられる器具なら、熱による滅菌が基本です。
健康な皮膚などに触れる物や、診療台周囲の表面
診療台のスイッチやライトの取っ手などは、口の中へ入れる金属器具とは同じ扱いではありません。
清拭、適切な消毒、使い捨てのカバーなどを組み合わせて管理します。
つまり、
「患者さんに使用した物を全部まとめて同じ滅菌器へ入れる」
という仕組みではありません。
「滅菌しているから感染しない」と単純には言い切りません
感染対策について説明するとき、
「滅菌しているから絶対に感染しません」
と言い切るのも正確ではありません。
感染対策は、一つの設備や一つの方法だけで完成するものではないからです。
歯科医院では、
- 器具の洗浄・滅菌
- 手指衛生
- 手袋などの交換
- 診療台周囲の清拭
- 飛沫への対策
- 口腔内・口腔外バキューム
- 診療で使用する水の管理
- 空気環境への対策
など、複数の対策を重ねていきます。
歯科ユニットの水については、歯科治療の「水」の安全性と給水管路の管理でも詳しく紹介しています。
感染対策は、
オートクレーブ一台だけで完成するものではありません。
複数の対策を重ねることで、患者さんとスタッフの双方を守ります。
ブランデンタルクリニックではどのような感染対策をしていますか?
ブランデンタルクリニックでは、公式サイトや過去の記事で院内の感染対策について公開しています。
現在公開している内容では、
- 患者さんごとの治療器具の交換
- 器具の洗浄・滅菌処理
- コップ・エプロン・手袋などの患者さんごとの交換
- クラスBオートクレーブの導入
- 診療台の清拭
- 口腔外バキューム
- 歯科ユニット給水管路洗浄システム
- 空気環境への配慮
などを行っています。[13][14]
ただし、すべての器具を同じ方法で処理するわけではありません。
器具によって、
- 洗浄方法
- 必要な手入れ
- 熱による滅菌が可能か
- 包装方法
- 単回使用か再使用可能か
などが異なります。
そのため、
「すべての器具を同じ方法で洗っています」
「すべての器具を○℃で○分滅菌しています」
というような単純な話ではありません。
それぞれの器具と装置に定められた方法で管理することが大切です。
歯科助手として見て分かったこと――主役は「滅菌器」だけではありませんでした
私は最初、
「使った器具を洗って、オートクレーブへ入れて、終わり」
くらいに考えていました。
でも、一つ一つの工程を追ってみると、印象が変わりました。
治療が終わったら、まず器具を安全に回収する。
使用済みの側から清潔な側へ流していく。
付着した汚れをきちんと落とす。
乾燥させて、汚れや器具そのものの異常がないか確認する。
必要な器具は包装する。
決められた条件で滅菌する。
滅菌工程が適切だったか確認し、記録する。
滅菌後も包装を傷めないよう保管する。
そして次の患者さんに使う直前まで、その状態を守る。
そう考えると、
「オートクレーブがあるかどうか」だけが感染対策なのではない
ことがよく分かります。
再使用する器具では、
前の患者さんが使い終わった瞬間から、次の患者さんの前で包装を開ける瞬間まで
が、一続きの工程なのです。
患者さんから見えるのは、その最後の数秒かもしれません。
でも、その数秒の前には長い準備があります。
「このミラー、毎回新品じゃないけれど大丈夫なのかな?」
と思ったことがある方には、
再使用可能な器具は、そのまま使い回しているわけではない
ということを知っていただけたらと思います。
よくある質問
Q.歯医者の器具は毎回すべて新品ですか?
いいえ。
患者さんごとに新しい物へ交換する単回使用品と、適切な再処理を行って繰り返し使用することを前提につくられた器具があります。
それぞれを正しく使い分けることが大切です。
Q.再使用する器具は、前の患者さんと同じ物なのですか?
再使用可能な器具そのものは繰り返し使用します。
ただし、前の患者さんに使用した状態のまま次の患者さんへ使用するわけではありません。
器具に応じて洗浄、乾燥、点検、包装、滅菌などの再処理を行ってから使用します。
Q.洗浄と滅菌は同じですか?
違います。
洗浄は、血液や唾液、削りかすなどの汚れを取り除く工程です。
滅菌は、細菌芽胞を含む微生物を対象として、生存する微生物が残る可能性を十分に低くし、その工程を管理する処理です。
Q.オートクレーブに入れるなら、先に洗わなくてもいいですか?
いいえ。
血液やタンパク質などの汚れが残っていると、その後の処理を妨げる可能性があります。
そのため、まず器具に付着した汚れを適切に取り除くことが重要です。
Q.滅菌袋の色が変われば、完全に滅菌できた証拠ですか?
色が変化する表示は、一定の処理条件にさらされたことを確認するために使われます。
ただし、その表示だけで滅菌工程のすべてを判断するわけではありません。
時間、温度、圧力などの機械的な確認、化学的な指標、生物学的な指標などを組み合わせて工程を管理します。
Q.歯を削る機械は、先端のバーだけ交換するのですか?
いいえ。
歯科ユニットから取り外せるハンドピースや関連するアタッチメントも、患者さんごとにメーカーの指示に従って洗浄・必要な手入れを行い、熱による滅菌を行います。
Q.金属製のファイルやバーなら、全部再使用できますか?
いいえ。
金属製であっても単回使用として扱う製品があります。
再使用できるかどうかは、見た目や材質ではなく、その医療機器の設計やメーカーの再処理指示を確認して判断します。
Q.滅菌した袋が破れたり濡れたりしたら、そのまま使えますか?
いいえ。
包装が濡れたり、破れたり、穴が開いたりして完全性が失われた場合は、そのまま患者さんへ使用しません。
必要な再洗浄・再包装・再滅菌を行います。
Q.一度滅菌した器具は、何日でも使えますか?
単純に日数だけで判断するものではありません。
施設によって滅菌日や有効期限を基準として管理する場合もあれば、包装が濡れたり破れたりしていないかという出来事を重視する管理方法もあります。
いずれの場合も、使用するときまで包装が適切な状態に保たれていることが重要です。
Q.ブランデンタルクリニックにはオートクレーブがありますか?
はい。
ブランデンタルクリニックではクラスBオートクレーブを導入しています。
また、患者さんごとの器具交換、器具の洗浄・滅菌処理、使い捨て用品の交換、診療台の清拭、口腔外バキューム、歯科ユニット給水管路洗浄システム、空気環境への配慮など、複数の感染対策を組み合わせています。
まとめ
歯科医院で何度も見かける銀色の器具。
毎回新品には見えなくても、
前の患者さんに使用した器具を、そのまま次の患者さんへ使っているわけではありません。
再使用可能で、洗浄・熱滅菌の対象となる器具では、
使用後の安全な回収
↓
洗浄
↓
すすぎ・乾燥
↓
点検
↓
必要な手入れ
↓
包装
↓
滅菌
↓
滅菌工程の確認・記録
↓
乾燥・保管
↓
使用前の包装確認
という流れを経て、次の診療へ戻ってきます。
そして、すべての歯科器具を同じ方法で処理するわけでもありません。
単回使用なのか、再使用可能なのか。
熱による滅菌ができるのか。
どのような洗浄や手入れが必要なのか。
それぞれの器具に合わせて管理します。
患者さんから見える、
「滅菌用の袋を開けて器具を取り出す」
という短い場面。
その前には、次の患者さんへ器具を安全に届けるための長い工程があります。
それを知ってから診療室を見ると、いつもの銀色の器具が少し違って見えるかもしれません。
参考文献
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- Centers for Disease Control and Prevention. Sterilization and Disinfection: Dental Infection Prevention and Control. Updated May 15, 2024.
- Centers for Disease Control and Prevention. Best Practices for Sterilization Monitoring in Dental Settings. Updated May 15, 2024.
- Centers for Disease Control and Prevention. Best Practices for Single-Use (Disposable) Devices. Updated May 15, 2024.
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- ブランデンタルクリニック.医院案内/初診の方へ.2026年9月24日確認.
- ブランデンタルクリニック.歯科医院での患者さんへの感染対策について/歯科治療における感染予防対策について.2026年9月24日確認.
