ガムピーリングはなぜ戻る?90%フェノールからレーザー・ビタミンCまで75年の歯肉脱色史|広島市中区立町の歯医者(紙屋町、八丁堀、袋町からすぐで通いやすい)|ブランデンタルクリニック|土曜日、日曜日、祝日診療

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ガムピーリングはなぜ戻る?90%フェノールからレーザー・ビタミンCまで75年の歯肉脱色史

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2026年9月09日

ガムピーリングはなぜ戻る?90%フェノールからレーザー・ビタミンCまで75年の歯肉脱色史

(院長の徒然コラム)

はじめに

「ガムピーリング」という言葉から、どのような処置を思い浮かべるでしょうか。

薬剤を塗って歯肉の表面を剥離する処置、レーザーで黒い歯肉を除去する処置、あるいは歯肉のメラニン色素を薄くする審美歯周治療全般を指して使われることもあります。

実は、この言葉自体が少し曖昧です。

日本では歯科の学術文献でも「ガムピーリング」という名称が使われてきました。2014年の日本歯科保存学雑誌の総説では、ガムピーリングを歯肉のメラニン色素除去法として扱い、レーザー治療と、液状フェノール・無水エタノールを用いる化学的方法が紹介されています。

一方、英語圏の歯周・審美歯科文献で中心になるのは、gingival depigmentation(歯肉脱色)、あるいは gingival melanin depigmentation(歯肉メラニン色素除去) という用語です。

そして重要なのは、これは一つの術式を指す言葉ではないことです。

メスによる上皮除去、バーによる擦過、電気外科、凍結療法、フェノールなどの化学的方法、CO₂・Nd:YAG・半導体・Er:YAG・Er,Cr:YSGGなど各種レーザー、さらに近年ではビタミンCの歯肉内注入や微細針治療(マイクロニードリング)までが研究されています。

つまり、「ガムピーリングは何を使って行う治療なのか」という問いそのものが、少し単純化しすぎています。

この分野の文献を遡ると、非常に象徴的な対比があります。

1951年には90%フェノールを歯肉に作用させる治療が報告されました。

2026年には、ビタミンCを歯肉内へ届け、メラニンを作る過程そのものへ介入しようとする治療が無作為化比較試験で検討されています。

75年間で方法は大きく変わりました。

ところが、古い論文から2026年の最新研究まで、何度も繰り返し登場する問題があります。

再色素沈着です。

一度明るくなった歯肉に、なぜ再びメラニン色素が現れるのでしょうか。

そして、「よく色が取れる方法」と「患者にとってよい治療」は、本当に同じなのでしょうか。

今回はガムピーリングを単なる「黒い歯ぐきをピンクにする処置」としてではなく、1951年から2026年までの歯肉脱色治療の変遷と、その間ずっと残り続けてきた再色素沈着という生物学的問題として掘り下げます。

まず「黒い歯肉=ガムピーリングの適応」ではない

術式を比較する前に、もっと重要な問題があります。

診断です。

健康な歯肉はしばしば「コーラルピンク」と表現されます。しかし、正常な歯肉がすべて同じピンク色をしているわけではありません。

歯肉の色は、上皮の厚さ、角化の程度、血管分布、ヘモグロビン、メラニン、炎症状態など複数の要因によって決まります。

そのなかで、メラニンによる褐色から黒褐色の色調は、多くの場合は正常な生理的変異です。

したがって、生理的な歯肉メラニン色素沈着そのものは疾患ではありません。

しかし逆に、「茶色い、黒い歯肉だから生理的メラニンだろう」と決めてしまうのも危険です。

歯肉・口腔粘膜の色素変化には、生理的メラニン沈着だけではなく、喫煙、薬剤、全身疾患、炎症、金属などの外来性色素、良性の色素性病変、そして稀ではあるものの腫瘍性病変まで含まれます。

治療前には、いつから存在するのか、以前から同じ大きさなのか、びまん性か局所性か、左右対称か、最近拡大していないか、色調は均一か、服薬歴・喫煙歴はどうか、修復物や金属との位置関係はどうか、他の口腔粘膜や皮膚にも色素変化がないか、といった情報を確認する必要があります。

ここで特に区別したいのが、生理的メラニン沈着と金属などによる外来性色素沈着です。

どちらも患者さんからは「歯ぐきが黒い」と見えるかもしれませんが、生物学的にはまったく異なります。

メタルタトゥーでは、メラノサイトがメラニンを作って黒くなっているわけではありません。そのため、治療法も再び黒くなる機序もメラニン色素沈着とは同じではありません。

また、歯肉炎や歯周炎による発赤、うっ血、腫脹などが混在している場合には、まず炎症をコントロールする必要があります。歯周病そのものの診断と治療については別稿で詳しく解説しています。

「黒い歯肉」という色だけから治療法を選ばず、何が黒く見えているのかを診断してから処置を考える。

これが大前提です。

以下では、主として生理的・審美的な歯肉メラニン色素沈着について話を進めます。

歯肉の色は「メラノサイトの数」だけでは決まらない

歯肉メラニンを理解するうえでもう一つ重要なのが、

「色が濃い=メラノサイトがたくさんある」と単純には言えない

という点です。

メラノサイトは主に歯肉上皮の基底層周辺に存在し、細胞内のメラノソームでメラニンを作ります。そのメラニンは周囲の角化細胞へ受け渡されます。

したがって臨床的な歯肉色は、単純なメラノサイトの数だけではなく、メラノサイトの活動性、メラニン合成量、メラノソーム形成、角化細胞への受け渡し、上皮内での分布、上皮の厚さ、色素が存在する深さなどによって変わります。

歯肉の色素沈着が強い人では、メラノサイトの数そのものよりメラノサイトの活動性が高いことが重要と考えられています。

ここを理解すると、歯肉脱色という治療の意味も変わってきます。

ガムピーリングは、歯肉表面に付着した茶色い汚れを拭き取る処置ではありません。

実際には、色素を含む上皮、あるいは色素を作る細胞とその周辺組織へ介入する治療です。

歯肉脱色には大きく二つの治療思想がある

75年間の治療法を大きく整理すると、二つの方向が見えてきます。

一つは、色素を含む上皮やメラノサイトが存在する組織そのものを除去・破壊する方法です。

メス、バー、電気外科、凍結療法、フェノール、各種レーザーなどはこちらに入ります。

もう一つが、メラニンを作る過程そのものを抑える方法です。

近年研究されているビタミンCはこちらに近い考え方です。

ビタミンCは、メラニン合成に重要なチロシナーゼの働きを抑えることなどにより、メラニン生成量を低下させる可能性が研究されています。

さらに微細針治療と組み合わせる方法では、歯肉上皮に多数の微細な通路を作り、その部分からビタミンCを組織内へ届けます。

もちろん、微細針そのものが創傷治癒や上皮の再構築を引き起こすため、完全に「薬だけで色素生成を抑える治療」というわけではありません。

それでも、

色素を含む組織を除去する治療から、色素を作る仕組みまで制御しようとする治療へ

という大きな流れは見えてきます。

1951年――90%フェノールを用いたPhenol-Alcohol法

歯肉メラニン除去の歴史で繰り返し引用されるのが、Hirschfeldらが1951年に発表した、

Oral pigmentation and a method of removing it

です。

後世の系統的レビューでは、20例に90%フェノールと95%アルコールを用いた古典的報告として引用されています。

ただし、「Phenol-Alcohol法」という名前だけを見て、1951年以降の処置法がすべて同じだったと考えるべきではありません。

後年の術式紹介では、90%フェノールを約1分作用させ、その後99%アルコールで洗浄する方法が紹介されています。

さらに2002年の日本の比較研究では99%エチルアルコールが用いられています。

つまり、同じPhenol-Alcohol法と呼ばれていても、フェノール濃度、アルコール濃度、作用時間、反復回数などは文献によって完全には一致しません。

これは古い治療を現代の研究と比較するときに非常に重要です。

高濃度フェノールは歯肉に何をしているのか

フェノールは高濃度では蛋白を凝固させ、組織へ化学的な損傷を与えます。

歯肉へ高濃度フェノールを作用させると、色素を含む上皮が障害され、その後に上皮が脱落・再生することで色調が変化します。

古い文献ではメラノサイトの活動を低下させる作用も説明されています。

高濃度フェノールによって表層蛋白が急速に凝固することで、深部への薬剤浸透がある程度制限されるという説明もあります。

しかし、これは作用深度を精密に制御できるという意味ではありません。

薬剤による化学的組織障害では、塗布量、接触時間、反復回数、処置面積、組織の厚さなどによって反応が変わります。

ここで歯肉脱色治療の重要な論点が出てきます。

よく色が取れることと、よい治療であることは同義ではありません。

1951年から有名なのに、フェノール法の長期データは驚くほど薄い

2014年、Linらは歯肉脱色治療について1951年から2013年までの文献を系統的に検討しました。

Hirschfeldら1951年のフェノール報告は歴史的には重要ですが、正確な再色素沈着時期が記載されていなかったため、再色素沈着率の定量解析から除外されています。

さらに、化学薬剤を使用した臨床研究そのものが極めて少数でした。

これはかなり重要な事実です。

Phenol-Alcohol法は「昔から行われてきたガムピーリング」として有名です。

しかし、

何か月後、何年後にどの程度色が戻るのか

という現在なら当然求められる問いについて、古典的フェノール法の長期臨床エビデンスは決して厚くありません。

長期間使われてきたという歴史と、長期予後が質の高い研究で証明されていることは別です。

日本でも1970年代から「再沈着」が問題になっていた

日本では1973年に長谷川・岡木氏による「Phenol-Alcohol法による歯肉部メラニン色素除去法」が報告されました。

1977年には福岡歯科大学から臨床例、さらに1978年には「歯肉Melanin沈着症に対するPhenol-Alcohol法の臨床例 その二,再沈着について」という報告が出ています。

非常に興味深いのは、1970年代の時点ですでに論文タイトルへ「再沈着」という言葉が現れていることです。

つまり、歯肉脱色治療では古くから、

「色を消せるか」

だけではなく、

「その色がまた戻らないか」

が問題だったわけです。

そして2000年代になると、日本からフェノールとレーザーを直接比較する研究が出てきます。

2002年――Phenol-Alcohol法はEr:YAGより強く色を除去した

松田氏らは2002年、26~33歳の男性5名を対象として、上顎前歯部でEr:YAGレーザーとPhenol-Alcohol法を比較しました。

Phenol-Alcohol側では表面麻酔を行ったうえで、

90%フェノールを30秒作用させ、続いて99%エチルアルコールを30秒作用させて水洗する

という一連の操作を行っています。

そして重要なのは、この一連の処置を同一施術日に3回反復したことです。

したがって、この研究を単に「90%フェノールを30秒塗った研究」と表現すると、処置強度を過小評価することになります。

結果として、短期の色素除去ではPhenol-Alcohol法の方がEr:YAGより強い結果を示しました。

術後2週の時点ではPhenol-Alcohol側で非常に良好な色素除去が認められましたが、一部には炎症所見も記録されています。

一見すると、

「だったらフェノールの方がレーザーより優れているのではないか」

と考えたくなる結果です。

しかし、ここからが論文を読むうえで重要です。

2002年研究から「フェノールの方が優れている」とは言えない

まず症例数は5名です。

さらに右側をEr:YAG、左側をPhenol-Alcoholとする固定した左右割り付けであり、現在の無作為化比較試験のような設計ではありません。

観察期間も24週です。

そして何より、

これは安全性比較試験ではありません。

血中フェノール濃度は測定していません。

心電図も評価していません。

肝機能や腎機能を主要な安全性評価項目として追跡している研究でもありません。

この研究から言えるのは、

「この5名、この処置条件では、Phenol-Alcohol法の色素除去効果がEr:YAGより大きかった」

ということです。

そこから、

「Phenol-Alcohol法の方が治療法として優れている」

とは言えません。

まして、

「安全性もEr:YAGと同じ」

とは言えません。

これは医療論文を読む際の基本でもあります。

有効性を調べた研究は、安全性まで自動的に証明してくれるわけではありません。

色調改善、疼痛、創傷治癒、長期再発、安全性は、それぞれ別々の評価項目です。

2008年――12か月追うと「後戻り」が見えてくる

2008年には森元氏らが、10名を対象としてEr:YAGとPhenol-Alcohol法を12か月追跡しました。

喫煙者5名、非喫煙者5名を含み、歯科用色彩計を使って色調を評価しています。

肉眼的な「薄くなった」「濃くなった」だけではなく、CIE L*a*b*表色系を用いて経時変化を追跡した点が重要です。

喫煙群ではEr:YAG側で比較的早い時期から色調の後戻りが認められ、Phenol-Alcohol側でもその後後戻り傾向が現れました。

非喫煙群でも、観察期間を延ばすと両法に後戻りがみられました。

各群5名ですから、

「喫煙者にはPhenol-Alcohol法の方が有利」

などとは言えません。

むしろこの研究が示しているのは、

術後2週間の写真だけで治療成功を判断するのと、12か月後を見るのでは、治療の評価が変わる

ということです。

歯肉脱色では、

初期の脱色効果と、長期的な色調安定性を別々に評価する必要があります。

フェノールは発がん物質なのか

ここで、高濃度フェノールそのものを現在の毒性学から見直してみます。

「90%フェノールを粘膜へ使う」と聞くと、

「フェノールには発がん性があるのではないか」

という疑問が出るかもしれません。

ここは正確に整理する必要があります。

IARCの1999年評価では、フェノールはGroup 3です。

つまり、

ヒトに対する発がん性について分類できない

という位置づけです。

「ヒト発がん物質である」と分類されているわけではありません。

また、NTPが行ったラット・マウスの長期飲水試験でも、フェノールによる明確な発がん性を支持する結果は得られていません。

一方、実験レベルでは小核形成、染色体異常、酸化的DNA損傷など、遺伝毒性を示唆する所見が報告されています。

したがって、

「フェノールは発がん物質だから使えない」

という説明は正確ではありません。

しかし逆に、

「発がん性が証明されていないから安全」

ということでもありません。

この二つは完全に別の話です。

フェノールでより直接的に問題になるのは腐食性と全身毒性

臨床的には、フェノールの発がん性よりも直接的な問題があります。

高濃度フェノールには強い組織腐食性があります。

また、吸収された場合には循環器系、中枢神経系、腎臓などへの全身毒性を起こし得ます。

ATSDRも、フェノールによる局所の腐食性障害と全身毒性を整理しています。

日本の現行の濃厚フェノール製剤の添付文書でも、損傷皮膚や粘膜では吸収による中毒のおそれがあるため使用しないよう注意されています。

もちろん、これをもって、

「1951年に行われたPhenol-Alcohol法は現在の添付文書違反である」

という議論にはなりません。

時代も、製剤も、適応も違います。

しかし、

現在の毒性学を知ったうえで、90%前後のフェノールを口腔粘膜へ意図的に使用する古典術式をどう評価するのか

という問題は残ります。

「30秒しか塗らないから全身吸収は無視できる」とも言えない

1980年代、日本ではラット口腔粘膜を用いたフェノール吸収研究が行われています。

1987年の研究では、フェノールの口腔粘膜からの短時間吸収が検討されました。

1988年の続報でも、0.1~0.5%という低濃度条件ながら、頬粘膜を介したフェノールの吸収が確認され、接触後早期の吸収が比較的速いことが示されています。

ここでも注意が必要です。

これはラットの研究です。

使用濃度も90%ではありません。

したがって、この実験から、ヒト歯肉に90%フェノールを30秒使用した際の血中濃度を計算することはできません。

しかし反対に、

「短時間だから吸収を考えなくてよい」

という根拠にもなりません。

歯肉Phenol-Alcohol法の安全性を本格的に評価するのであれば、本来知りたいのは、一回のフェノール使用量、処置面積、接触時間、反復回数、歯肉からの吸収量、血中フェノール濃度、心電図変化、肝・腎機能、基礎疾患との関係です。

ところが、そうした現代的な安全性評価を行った臨床研究は非常に乏しい。

つまり古典的フェノール法について重要なのは、

「重大事故が高頻度に起こることが証明された」ことではなく、「高濃度フェノールを口腔粘膜へ使用する処置として、現在求められる水準の安全性データが不足している」こと

なのです。

フェノールと不整脈――顔面ピーリングの39%を歯肉へ持ち込んではいけない

フェノールの心毒性は、形成外科・皮膚科の深いケミカルピーリングで古くから問題になっています。

Grossが1984年に報告したrapid phenol face peelingの54例では、39%に何らかの不整脈が観察されました。

Truppmanらも、広範囲の顔面へフェノールを使用した際の処置速度と心電図変化との関係を報告しています。

しかし、この「39%」を歯科へそのまま持ち込むことはできません。

顔面全体にフェノールを使用する深いピーリングと、前歯部歯肉の限られた範囲へ使用する処置では、曝露面積も総量もまったく違います。

したがって、

「ガムピーリングでは39%に不整脈が起こる」

という解釈は誤りです。

この研究から使えるのは、

フェノールは局所使用であっても、十分量が体内へ吸収されれば心毒性を起こし得る物質である

というところまでです。

歯肉Phenol-Alcohol法そのものの不整脈発生率を示した研究ではありません。

「アルコールで中和する」という表現にも注意したい

Phenol-Alcohol法の古い歯科文献では、フェノール処置後のアルコール操作を「中和」と表現することがあります。

しかし、化学的な意味で本当に中和されているのでしょうか。

別領域ではありますが、2012年にヒト皮膚を用いて行われた実験では、アルコールも生理食塩水もフェノールを化学的に中和しているわけではなく、主として希釈・洗浄・除去していると考えられました。

さらに2013年の爪のフェノール処置研究でも、一度アルコールで洗浄しただけでは十分量のフェノールが除去されませんでした。

ただし、これらは歯肉を対象とした研究ではありません。

したがって、

「歯肉でもアルコールには意味がない」

とは言えません。

しかし、

「アルコールを作用させればフェノールが化学的に中和される」

と当然のように説明するのも適切ではありません。

古典文献で「中和」と呼ばれてきた操作は、少なくとも化学的には希釈・洗浄・除去という意味合いが大きい可能性があると理解した方がよいでしょう。

歯肉脱色は「フェノール対レーザー」の二択ではない

ここまでフェノールを詳しく見てきましたが、歯肉メラニン除去には多数の術式があります。

短期的な色素減少だけを見ると、その多くで「有効」という結果が出ています。

だからこそ、治療法を単純に「効く/効かない」で比較してはいけません。

  1. 一回でどの程度色が取れるか――即時の脱色効果。
  2. 術中出血――メス、電気外科、レーザーでは大きく異なる。
  3. 術中・術後疼痛――色素除去効果とは別の重要な患者評価。
  4. 創傷治癒――上皮化、炎症、潰瘍、瘢痕など。
  5. 組織侵襲――歯肉退縮、骨膜・骨面への過剰侵襲を含む。
  6. 再色素沈着――術直後の成功とは別に評価する。
  7. 必要な治療回数――一回の外科処置と複数回の薬剤投与は同じではない。
  8. 安全性――薬剤毒性、熱損傷、感染など術式ごとに異なる。
  9. 設備・費用・術者依存性――機器と技術の影響を受ける。
  10. 患者が何を優先するか――脱色の完全性、痛み、外科回避、治療回数など。

この10項目のどれに重みを置くかによって、「よい治療」の意味は変わります。

メスは古い。しかし「色素を直接取り切る」という点では今も強い

メスを用いる上皮除去は古典的な方法です。

色素を含む上皮と必要に応じてごく浅い結合組織を、術者が直接見ながら除去します。

最大の利点は、どこを除去したかを直接確認しやすいことです。

特に歯間乳頭のような狭く複雑な場所でも、器具が適切に届けば処置できます。

一方で、出血、術後疼痛、広い創面、二次治癒、薄い歯肉での深度管理、骨膜・骨面への過剰侵襲などが問題になります。

したがってメスは、

「古いから劣る治療」

ではありません。

後ほど触れる2026年の無作為化比較試験では、最新の微細針+ビタミンC法より、むしろメスの方が色素除去の完全性で良好な結果を示しています。

電気外科――良好な止血性と熱損傷の交換条件

電気外科は比較的導入しやすく、術中の止血性に優れ、視野を確保しやすい利点があります。

一方で、熱によって組織を処理する以上、接触時間や反復操作が過剰になれば、周囲への熱損傷が大きくなります。

2026年の系統的レビューでは、電気外科も短期的な色素除去には有効でした。

しかし、半導体レーザーとの比較では、術後早期の疼痛や創傷治癒はレーザー側に有利な傾向が認められました。

一方、再色素沈着については研究間のばらつきが大きく、長期安定性についてのエビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。

つまり、

「電気外科は止血できるから優れている」

でも、

「熱を使うから劣っている」

でもありません。

止血性と熱損傷、患者負担、長期安定性をそれぞれ分けて考える必要があります。

2014年の数字を「再発しにくい治療ランキング」にしてはいけない

Linら2014年の系統的レビューでは、バー、メス、凍結療法、電気外科、レーザーなどの再色素沈着が解析されています。

一見すると、凍結療法、電気外科、レーザーの数字が低く、バーやメスが高い結果です。

しかし、この数値は単純な、

「患者100人のうち何人が再発したか」

という累積再発率ではありません。

研究ごとに観察期間が大きく違うため、Linらは症例数と観察時間を考慮するランダム効果ポアソン回帰を用いて再色素沈着率を推定しています。

さらに、収載された研究には症例報告や症例集積が多く、患者背景、処置範囲、術式、色素評価法、再発の定義、観察期間が揃っていません。

したがって、この結果をそのまま、

「1位は凍結療法、2位は電気外科、3位はレーザー」

などと順位付けすることはできません。

実際、2026年に発表された凍結療法の新しい系統的レビュー・メタ解析では、比較対象によってレーザーやメス側が有利になる結果も示されており、2014年の推定順位を現在の「最良術式」として固定することはできません。

この違い自体が、歯肉脱色研究の難しさをよく表しています。

再色素沈着は時間依存性が強い評価項目です。

3か月しか追っていない研究と5年間追った研究を、単純に「再発した/しなかった」で並べることには無理があります。

「レーザー」と一括りにすること自体が間違っている

ガムピーリングについて、

「薬剤よりレーザーの方がよい」

という説明を見かけます。

しかし専門的には、その前に、

何レーザーなのか

を確認しなければ意味がありません。

レーザーの組織作用は波長によって異なります。歯科用レーザーそのものの基本については別稿でも紹介していますが、歯肉脱色では波長差が特に重要です。

Er:YAGレーザーは2,940nmで、水への吸収が極めて大きい波長です。そのため、組織内の水を利用して表層を効率よく蒸散しやすく、適切な条件では深部への熱影響を比較的小さくできます。

CO₂レーザーは10,600nmで、こちらも水への吸収が大きく、軟組織の蒸散と止血に適しています。ただし熱的な凝固層を形成するため、Er:YAGと同じ組織反応ではありません。

Nd:YAGレーザーは1,064nmで、水よりもメラニンなどの色素へ吸収されやすく、組織深達性も考える必要があります。

半導体レーザーでは810、940、980nmなどの近赤外域が歯肉脱色研究で多く用いられてきましたが、近年は445nm前後の青色半導体レーザーも研究されています。

つまり、

「半導体レーザー」という呼び方だけでも一種類の治療ではありません。

Er,Cr:YSGGレーザーは2,780nmで、水への吸収を利用するエルビウム系レーザーですが、2,940nmのEr:YAGとは波長も組織作用も同一ではありません。

したがってレーザー脱色を比較するときには、

何nmの光を、どの出力・パルス・接触条件で、どの深さまで作用させたのか

を見る必要があります。

同じ「レーザー」でも2年後の再色素沈着は違う

レーザーを一括りにできないことをよく示すのが、Altayebらの2021年の比較研究です。

60名を30名ずつに分け、940nm半導体レーザーと2,780nm Er,Cr:YSGGレーザーを比較し、2年間追跡しました。

両群とも初期の色素除去は良好でした。

しかし再色素沈着は同じではありませんでした。

Er,Cr:YSGG群では1年時点で50%、2年時点で83.3%に再色素沈着が認められたのに対し、940nm半導体レーザー群では1年23.3%、2年36.7%でした。

一方、Er,Cr:YSGGには処置時間、麻酔の必要性、初期治癒や不快感など別の利点がありました。

ここで重要なのは、

「半導体レーザーが常に最高」

という結論ではありません。

波長と術式によって、即時の脱色、患者負担、長期再色素沈着という評価項目が異なる方向へ動き得る

ということです。

「レーザー治療の再発率」と一つの数字で表現すること自体に無理があります。

見た目の色が消えたことと、メラノサイトを十分処理できたことは同じではない

レーザー脱色で難しいのが、処置終了点です。

肉眼的に茶色が消えた。

それで十分でしょうか。

メラノサイトは主として基底層周辺に存在します。

歯肉上皮の上皮脚が深い部位では、表面上は色が消えていても、基底側にメラニンを作る能力を持つ細胞が残っている可能性があります。

しかし、再発を恐れて深く処置すればよいわけでもありません。

深くなれば、結合組織への損傷、歯肉退縮、骨膜への侵襲、骨面露出などの危険が増えます。

ここに歯肉脱色の本質的な難しさがあります。

再色素沈着を減らすためにどこまで処置するのか。
組織を守るためにはどこで止めるのか。

これは完全には同じ方向を向かない目標です。

「6か月再発なし」は「再発しない」を意味しない

Talらが2003年に報告したEr:YAGの研究では、10例で良好な脱色、軽度の疼痛、良好な創傷治癒が認められ、6か月時点では再色素沈着が確認されませんでした。

しかし、著者ら自身が6か月の観察では将来の再色素沈着を予測できないという趣旨の限界を述べています。

この読み方は非常に重要です。

「6か月再発なし」とは、

6か月間は再発を確認しなかった

という意味です。

一生再発しないという意味ではありません。

長期観察すれば、短期研究では見えなかった再色素沈着が現れることがあります。

本当の難題は「取れるか」ではなく「なぜ戻るか」

短期的な色素除去であれば、多くの方法で可能です。

歯肉脱色で本当に難しいのは、

再色素沈着です。

古くから有名なのがメラノサイト移動説です。

処置部の周囲に残るメラノサイトが治癒過程で処置部へ移動し、再びメラニンを作るという考え方です。

この考え方を支持する重要な研究の一つがBergamaschiら1993年の研究です。

対象は5例と少数ですが、5年間の臨床観察に加えて透過型電子顕微鏡による組織観察まで行っています。

術後6~7日にはメラノサイトの移動や細胞分裂が観察され、15日では樹状突起や複数段階のメラノソーム形成が確認されました。

臨床的にも1.5~3年でかなり元の色調に戻った症例が報告されています。

しかし、この研究が、

「すべての再色素沈着は周囲からメラノサイトが移動するため起こる」

と証明したわけではありません。

再色素沈着には、周囲からのメラノサイト移動、処置部に残ったメラノサイトの再活性化、色素を含む基底層の不完全除去、創傷治癒に伴うメラニン生成再活性化、炎症性物質や増殖因子の影響、喫煙・ホルモン・遺伝的背景など複数の要因が関与すると考えられます。

多くの臨床研究は術後写真や色素指数を追跡しているだけで、実際にメラノサイト一つ一つの移動を直接追跡しているわけではありません。

したがって、

移動説は有力な説明の一つではあるものの、再色素沈着を一つの機序だけで説明することはできない

というのが現在の適切な理解でしょう。

同じ治療でも7年で戻る人と8年維持する人がいる

Perlmutterらが1986年に報告した2症例も示唆的です。

一例では32か月ごろから再色素沈着が始まり、7年後にはかなり元の色へ戻りました。

一方、もう一例は8年間比較的良好な色調を維持しました。

症例数はわずか2例ですから、この数字を一般化することはできません。

しかし、少なくとも、

再色素沈着には大きな個人差がある

ことをよく示しています。

「この治療なら5年間もちます」

「このレーザーなら10年間戻りません」

といった一律の説明を、現在のエビデンスから行うことは困難です。

喫煙者ではレーザー選びより先に考えることがある

患者側の要因として特に重要なのが喫煙です。

2025年の日本のEr:YAG総説では、喫煙量と歯肉メラニン沈着との関連が整理されています。

さらに禁煙後には時間とともに色素沈着が減少する可能性が報告されていることから、喫煙者の歯肉メラニン沈着ではまず禁煙指導を考えるという臨床的な考え方が示されています。

これは非常に重要です。

Nd:YAGにするのか。

Er:YAGにするのか。

メスにするのか。

フェノールにするのか。

その議論より先に、

患者側でメラニン産生を促している可能性のある因子を残したままではないか

を考える必要があります。

喫煙が歯肉・歯周組織へ与える影響については、タバコが歯や歯茎に与える影響でも詳しく解説しています。

再色素沈着は術式だけで決まる問題ではありません。

「何で治療したか」だけでなく、「誰を治療したか」も重要なのです。

2009年以降、「組織を取る」以外の発想が歯肉にも入ってきた

ここでビタミンCの話に移ります。

従来の歯肉脱色は、多かれ少なかれ、

メラニンを含む組織を除去・破壊する

という発想でした。

一方、ビタミンCでは、

メラニンを作る生化学的過程へ介入する

ことを狙います。

メラニン生成ではチロシナーゼが重要な役割を持ちます。

ビタミンCはチロシナーゼ活性への影響、ドーパキノン生成の抑制、還元作用、メラノサイトと角化細胞間の色素移送への影響などを通じてメラニン量を減らす可能性があります。

歯肉では局所塗布、歯肉内注入、微細針との併用などが研究されてきました。

しかし、

「ビタミンC治療」という一つの方法が存在するわけではありません。

L-アスコルビン酸なのか誘導体なのか。

何%あるいは何mg/mLなのか。

表面へ塗るのか、注入するのか。

微細針を使うのか。

何回治療するのか。

研究ごとにかなり違います。

これは、レーザーを波長抜きで一括りにできないのと同じです。

微細針+ビタミンCは何をしているのか

微細針治療では、多数の非常に細い針を歯肉上皮へ刺入し、微小な通路を形成します。

この方法には少なくとも二つの作用が考えられます。

一つは、局所塗布したビタミンCを組織内へ届けやすくすること

もう一つは、微小損傷そのものが創傷治癒反応を起こすことです。

微細な組織損傷によって血小板、増殖因子、線維芽細胞などが関与し、コラーゲン形成や組織再構築が進む可能性があります。

したがって、微細針+ビタミンCの研究結果を見ても、

ビタミンCだけの効果なのか、微細針だけの効果なのか、両者の併用効果なのか

を完全には分けられない試験があります。

この点も最新研究を読むうえで重要です。

ビタミンCは「有望」だが、長期予後まで確立したわけではない

2024年には42例を対象として、局所注入ビタミンCと外科的脱色を比較した無作為化比較試験が発表されています。

両方法とも色素を減少させ、6か月では概ね良好な結果を示しました。

ビタミンC群では患者満足度が高かった一方、外科処置は初期の色素除去が強く、ビタミンCは比較的徐々に改善するという違いがみられました。

さらに2026年のAljahdaliらの系統的レビューでは、5つの無作為化試験と3つの症例集積、計8研究が評価されています。

ビタミンCを用いた各方法で色素減少が認められ、歯肉内注入は単純な局所塗布より速く強く作用する可能性も示されています。

しかし、濃度、投与法、治療回数、色素評価法が研究間で大きく異なります。

無作為化試験のバイアスリスクにもばらつきがあり、長期観察も十分ではありません。

したがって、

「ビタミンCは効かない」とも言えない。
しかし「既存治療と同等以上の長期安定性が確立した」とも言えない。

この段階です。

2026年の微細針+ビタミンC系統的レビューでも確実性は低い

Kusumawardaniらの2026年の系統的レビューでは、微細針+アスコルビン酸について7研究が検討されています。

色素減少、創傷治癒、術後疼痛・不快感についてのエビデンスの確実性は「低い」、再色素沈着と安全性については「非常に低い」と評価されました。

つまり、

短期的に有望であることと、長期的に優れた治療であることはまだ別

です。

そして、このレビューを読むうえでも重要なことがあります。

文献検索は2026年2月28日で終了しています。

その後、2026年中に重要な無作為化比較試験がさらに発表されています。

2026年刊の系統的レビューでも「検索日」を見なければならない

これは歯肉脱色に限らず、医療論文全般にいえることです。

「2026年の系統的レビュー」と書かれていると、2026年の最新研究まで入っているように感じます。

しかし、系統的レビューには検索、選定、解析、査読、出版まで時間がかかります。

Aljahdaliらの2026年レビューは、検索が2025年1月までです。

Mehrotraらの2026年のスコーピングレビューは、検索更新が2024年2月です。

Kusumawardaniらの2026年レビューは2026年2月まで。

つまり、

刊行年と、含まれているエビデンスの最終日は違います。

系統的レビューを「最新」と評価するときには、

出版年だけでなく、文献検索がいつ終了したか

を見る必要があります。

そして2026年には、その検索終了後に重要な比較試験が出ています。

2026年RCT①――半導体レーザーと微細針+ビタミンCを12か月比較

Singhらは2026年、36名を登録し、32名が試験を完遂した無作為化比較試験を報告しました。

比較したのは、

940nm半導体レーザー

と、

微細針+局所アスコルビン酸

です。

対象は18~40歳、全身的に健康で、生理的歯肉メラニン沈着を持つ非喫煙者でした。

色素評価にはDummett-Gupta Oral Pigmentation Index、DOPIが用いられています。

試験開始時のDOPIは半導体レーザー群が2.05±0.58、微細針+ビタミンC群が2.06±0.60でした。

3か月では、それぞれ0.05±0.16と0.00。

つまり両群とも、ほぼ完全に色素が見えなくなるほど改善しました。

しかし6か月では0.15±0.28と0.07±0.17。

12か月では、

半導体レーザー:0.42±0.34
微細針+ビタミンC:0.47±0.22

となりました。

12か月時点で群間の有意差はありません。

これは今回のテーマを非常によく表しています。

3か月ではほとんど色が消えた。
しかし、その後は両方とも少しずつ戻った。

新しい治療でも。

レーザーでも。

再色素沈着という問題は残っています。

「12か月で差がなかった」ことを「完全に同等」と読んではいけない

Singhらの研究は、12か月まで観察した点に価値があります。

しかし完遂者は32名です。

単施設の比較的小規模な研究です。

主な色素評価はDOPIで、0~3の肉眼的な段階評価です。

また、微細針+ビタミンC群では、微細針自体の作用とビタミンCの作用を分離することができません。

したがって、

「微細針+ビタミンCは半導体レーザーと完全に同等である」

という結論まで広げるべきではありません。

正確には、

「この対象、このプロトコル、この32名の12か月観察では、両群のDOPIおよび再色素沈着に明確な群間差を認めなかった」

です。

論文の「差がない」と、治療法の「完全な同等性」は別です。

2026年RCT②――今度はメスの方が色素除去で優れた

さらに興味深いのが、Dawarらが2026年9月に発表した無作為化比較試験です。

26名を無作為化し、最終的に23名を解析しました。

比較は、

メスによる上皮除去1回

と、

微細針+アスコルビン酸3回

です。

この研究の特徴は評価法の多さです。

DOPIだけではなく、Gingival Pigmentation Index、写真による色素沈着面積、CIE L*a*b*による明度、メラニンメーター、歯肉厚、患者報告アウトカムまで評価しています。

特に、メラニンメーターによる客観的評価を加えている点は興味深いところです。

DOPIは1か月時点で、

メス:0.31±0.15
微細針+ビタミンC:0.92±0.27

3か月では、

0.71±0.24

1.10±0.35

6か月では、

0.89±0.31

1.27±0.35

でした。

つまり少なくとも色素強度については、

古典的なメスによる上皮除去の方が、新しい低侵襲法より強い色素除去を維持した

という結果です。

これは非常に重要です。

新しい治療=効果も高い

ではありません。

そして、

低侵襲=すべての評価項目で優れている

でもありません。

一方で、メス側には術後の患者負担があります。

微細針+ビタミンC側では歯肉厚増加という興味深い副次所見もありました。

どの評価項目を見るかで、治療法の見え方は変わります。

微細針+ビタミンC群で局所歯肉膿瘍が1例報告された

Dawarらの研究では、微細針+ビタミンC群の一人で、初回処置翌日から上顎犬歯部の局所歯肉膿瘍が発生しました。

局所デブライドメントによって約1週間で改善しています。

1例ですから、

「微細針治療では膿瘍が起こりやすい」

とは言えません。

また、処置との因果関係も確定していません。

研究者らは、局所組織損傷、微細孔からの細菌侵入、ビタミンCによる局所刺激などの可能性を挙げています。

しかし、安全性評価という意味では無視できない所見です。

「低侵襲」という言葉は、

「有害事象が起こらない」

という意味ではありません。

低侵襲法には低侵襲法なりの安全性評価が必要です。

微細針には「歯間乳頭へ器具が届きにくい」という弱点もある

Dawarらの研究でもう一つ非常に臨床的なのが、器具形状の問題です。

皮膚科用の微細針ペンは、比較的平坦な皮膚に当てることを想定しています。

しかし歯肉は平面ではありません。

歯間乳頭は狭く、歯に囲まれ、複雑な曲面です。

そのため微細針器具が十分に適合せず、歯間乳頭に色素が残った症例が報告されています。

これは重要です。

理論的に優れた薬剤でも、

口腔内で本当に目的部位へ器具が届くか

という臨床工学的な問題があります。

一方、メスなら術者が直接見ながら狭い部位へ器具を届かせることができます。

「新しい技術」と「口腔内で使いやすい技術」は同義ではありません。

低侵襲であることと、高性能であることは同義ではない

低侵襲治療を追求することは重要です。

必要のない組織を傷つけない。

患者の痛みを減らす。

治癒を早める。

これは当然、歯科医療の重要な方向です。

しかし、

低侵襲性は「色素除去能力が高い」という意味ではありません。

メスは侵襲が大きい代わりに、色素を含む上皮を直接除去できます。

微細針+ビタミンCは組織切除を減らせる可能性がありますが、処置部位によっては色素除去が不完全になることがあります。

レーザーは止血性や疼痛の面で有利な場合がありますが、波長や設定によって再色素沈着は大きく変わります。

フェノールは強い脱色効果を示す研究がありますが、組織毒性と安全性評価を無視できません。

したがって、

歯肉脱色治療を「侵襲が少ない順」に並べても、治療の優劣にはなりません。

「一番よいガムピーリング」は今も決められない

ここまで文献を読んでも、

「結局どれが一番よいのか」

という問いには簡単に答えられません。

なぜなら、研究条件が揃っていないからです。

色素評価だけでもDOPI、Hedin Melanin Index、Gingival Pigmentation Index、写真による色素面積、CIE L*a*b*色差、メラニンメーターなどがあります。

観察期間も1か月、3か月、6か月、12か月、24か月、数年と違います。

レーザーなら波長、出力、パルス、繰り返し周波数、ファイバー径、接触・非接触、注水、処置終了点が違います。

フェノールなら濃度、塗布時間、反復回数、アルコール濃度、洗浄方法が違います。

ビタミンCなら薬剤の種類、濃度、局所塗布か注入か、微細針を使うか、刺入深度、治療回数が違います。

さらに患者背景まで違います。

喫煙者を除外した研究も多く、若い全身健康な成人の前歯部だけを対象とした研究も少なくありません。

この状態で、

「この方法が第1位」

と決めることにはかなり無理があります。

歯肉脱色の現在地は、「最良の一手が決まった」という段階ではなく、「何を優先するかによって選択肢が変わる」と理解すべき段階です。

生理的メラニン色素沈着に対するガムピーリングは、病気を治す治療ではない

最後に治療の目的へ戻ります。

生理的な歯肉メラニン色素沈着は病気ではありません。

本人が気にしていなければ、治療する必要はありません。

一方、笑ったときの歯肉色を強く気にしている患者さんであれば、審美歯周治療の一つとして改善を検討できます。

そのとき歯科医師が最初に考えるべきなのは、

「当院には何レーザーがあるか」

ではないと思います。

本当に生理的メラニンなのか。

炎症はないか。

喫煙はないか。

歯肉は厚いか薄いか。

色素はどの範囲に存在するのか。

笑ったときにどこまで露出するのか。

患者がどこまで色調改善を求めているのか。

外科的処置を許容できるのか。

複数回治療を受けられるのか。

再色素沈着や再処置の可能性をどう考えるのか。

そうした情報から治療を選ぶべきです。

装置から治療を選ぶのではなく、診断と患者の希望から術式を選ぶ。

これは審美歯科でも変わりません。

私なら最後に必ず「また色が戻る可能性があります」と説明する

ガムピーリングの説明で重要なのは、

「この治療で歯ぐきが明るくなります」

という説明だけではありません。

それ以上に重要なのが、

「一度明るくなっても、将来またメラニン色素が目立ってくる可能性があります」

という説明だと思います。

再色素沈着は、必ずしも治療失敗を意味するものではありません。

私たちが治療しているのは、生きた歯肉です。

上皮は代謝します。

メラノサイトは活動します。

創傷治癒が起こります。

細胞は増殖し、色素を再び作ります。

そして、その反応には個人差があります。

だから、

「何年もちますか」

という問いに一律の数字を返すことは難しい。

処置方法、処置深度、処置範囲、残存メラノサイト、周囲組織、創傷治癒、炎症、喫煙、患者固有の色素産生能、そして観察期間。

複数の要因が関係するからです。

75年で変わった治療、変わらなかった再色素沈着

1951年には90%フェノール。

その後、メス、バー、電気外科、凍結療法。

CO₂、Nd:YAG、半導体、Er:YAG、Er,Cr:YSGGレーザー。

そしてビタミンC。

微細針治療。

75年間で、歯肉脱色は確実に変わりました。

大きく見れば、

色素を含む組織を強く除去する治療から、必要な範囲だけに介入する治療へ。

さらに、

メラノサイトを含む組織を除去するだけではなく、メラニン生成そのものを調節する治療へ。

研究の方向は移っています。

しかし、一つだけ75年間解決していない問題があります。

再色素沈着です。

フェノールでも戻ることがある。

メスでも戻る。

レーザーでも戻る。

ビタミンCでも戻る。

微細針でも戻る。

もちろん長期間安定する患者もいます。

しかし現時点で、

「この方法なら永久に戻らない」

といえる術式はありません。

75年かけて分かったのは、「強く消せばよい」ではないということ

1951年の90%フェノールと、2026年の微細針+ビタミンC。

二つを並べるだけでも、歯肉脱色治療が大きく変化したことが分かります。

しかし、75年間の文献を通して見えてくるのは、単純な「技術の進歩」だけではありません。

研究の問いそのものが変わっています。

かつては、

「どうすれば歯肉の黒い色を消せるか」

が中心だった。

現在は、

「どこまで組織へ介入すれば十分なのか」
「患者負担をどこまで減らせるのか」
「どの方法が長期安定性を得やすいのか」
「メラニンを作る仕組みそのものへ介入できないか」

という問いへ広がっています。

だからこそ、

フェノールは古いからすべて悪い。

レーザーだから安全で再発しない。

メスは古いから劣る。

ビタミンCだから低侵襲で同等以上に効く。

こうした単純な結論はいずれも現在のエビデンスには合いません。

むしろ新しい研究が増えるほど、

脱色効果、疼痛、出血、創傷治癒、組織侵襲、安全性、必要回数、患者満足度、そして長期の再色素沈着を、それぞれ独立して評価しなければならない

ことが明確になっています。

審美歯科は、術直後の「きれいな写真」だけを評価する医療ではありません。

なぜその治療を選んだのか。

どの組織へ何をしたのか。

何を守るために、どこまで介入したのか。

そして、

半年後、1年後、数年後にどうなったのか。

そこまで追って初めて、その治療を評価できるのではないでしょうか。

ガムピーリングの75年史は、

より強く黒い色を消す方法を探してきた歴史というより、「再び色を作る生きた歯肉と、どう付き合うか」を探してきた歴史

なのだと思います。

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