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顔や頭のけがは「家やその周辺」が最多?約235万件・20年間の米国救急データ

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2026年10月25日

顔や頭のけがは「家やその周辺」が最多?約235万件・20年間の米国救急データ

(受付さんの備忘録)

はじめに

こんにちは。ブランデンタルクリニックの受付です。

「子どもが転んで前歯をぶつけました」

「家の中で転倒して、口元から血が出ています」

「スポーツ中に顔へボールが当たりました」

歯科医院に顔や口のけがについて相談するとき、きっかけとなった出来事はさまざまです。

顔や歯の外傷と聞くと、交通事故やスポーツ中の衝突など、比較的大きな事故を思い浮かべる方もいるかもしれません。

しかし、外傷が起こる場所は、特別な場所ばかりではありません。

いつも生活している家やその周辺にも、ベッド、テーブル、階段、床など、転倒や衝突につながる環境があります。

では、実際に救急外来を受診した顔や頭の外傷は、どこで起こっているのでしょうか。

2026年10月20日、医学誌『BMC Emergency Medicine』に、米国の救急外傷データを20年間にわたって解析した研究が発表されました。

研究対象となったのは、2,345,287件、約235万件の救急外来受診記録です。

その結果、けがをした場所が記録されていた症例では、家やその周辺が63.1%と最も多く、スポーツ・レクリエーション施設は14.1%でした。

また、受傷の仕組みでは、転倒や転落などが合計53.0%を占めました。

さらに興味深いのは、年齢によって外傷と関連するものが大きく異なっていたことです。

乳児ではベッド、幼児ではテーブル、学童期や青年期ではスポーツ用品、高齢者では床が目立ちました。

ただし、この研究には大切な注意点があります。

約235万件という数字は、米国全体で発生した外傷の総数ではありません。

また、研究で「家やその周辺」として扱われている場所には、本人の住居だけでなく、他人の住居や庭、ガレージなども含まれます。

そして、この研究は頭部・顔面・口腔・頸部・眼球・耳を対象としており、歯の破折や脱臼だけを調べたものではありません。

今回は、原著論文の数字を一つずつ確認しながら、顔や頭のけががどのような場所で起こり、年齢によってどんな違いがあるのかを、受付の立場から整理してみたいと思います。

1.約235万件の外傷を調べた研究――NEISSとは?

米国の20年間の救急外来記録を分析

今回紹介するのは、Alfertshoferらによる研究です。

論文の原題は、

Head, face, and neck injury patterns across the life course: a 20-year NEISS analysis of 2,345,287 emergency department visits in the U.S.

日本語では、「生涯にわたる頭部・顔面・頸部外傷の特徴:米国の救急外来受診2,345,287件を対象とした20年間のNEISS解析」といった意味になります。

対象期間は、2006年から2025年までの20年間です。

研究には、ドイツ、スイス、米国などの研究機関に所属する研究者が参加しています。

利用されたのは、米国消費者製品安全委員会が管理する「全米電子傷害監視システム」です。

英語の頭文字を取って、NEISS(ニース)と呼ばれています。

NEISSは、米国内で救急外来を持つ約100病院を標本として選び、消費者製品などに関連する外傷の情報を収集する仕組みです。

記録には、患者さんの年齢や性別、主な受傷部位、受傷場所、関連する製品、救急外来での診療後の経過などが含まれます。

今回の研究では、2006〜2025年にNEISSへ登録された7,365,561件のうち、頭部、顔面、眼球、口腔、頸部、耳のいずれかが主な受傷部位として記録されていた2,345,287件を抽出しました。

これは、同期間のNEISS登録記録全体の31.8%に相当します。

ただし、米国のすべての救急外来受診の31.8%が頭・顔・首のけがだった、という意味ではありません。

分母となっているのは、NEISSに登録された記録です。

約235万件は、全米の患者数を推計した数字ではない

NEISSには、全米の外傷発生状況を推計するための統計的な情報も含まれています。

しかし、今回の研究では、その情報を使って全国の患者数を推計するのではなく、実際にデータベースへ登録された記録をそのまま集計しています。

これを「重み付けを行わない解析」、専門的には「非加重解析」といいます。

したがって、2,345,287件という数字は、20年間にNEISSで確認された対象の受診記録数です。

米国全体の実際の外傷患者数を示すものではなく、同じ人が複数回受診した可能性を除いた実人数とも限りません。

研究者が重み付けを行わなかった理由は、全米の発生率を推定することよりも、記録された症例の中で、年齢、受傷部位、受傷原因などの相対的な特徴を詳しく調べることを重視したためです。

今回の記事でも、研究の数字を米国全体の外傷発生率として扱わないようにします。

受傷原因は、短い記録から分類している

もう一つ、この研究の特徴があります。

NEISSには、受傷した状況を短い文章で記録する欄があります。

しかし、今回必要とされた細かい受傷原因が、すべて統一された項目として登録されているわけではありません。

そこで研究者は、記録された文章から受傷の仕組みを読み取り、分類するための規則を作成しました。

例えば、

「つまずいて転んだ」

「階段から落ちた」

「スポーツ中に衝突した」

といった記録をもとに、同じ高さでの転倒、高さのある場所からの転落、スポーツ、交通事故、異物による外傷などへ分類しています。

この分類方法は、研究の途中で何度も見直されました。

最終的には200種類以上の語句や表現を判定に使用し、原因を特定できなかった「その他・不明」の割合は5.9%となっています。

内部検証も行われていますが、短い記録から受傷原因を判断している以上、分類の誤りが完全になくなったわけではありません。

この点は、後ほど転倒とスポーツの割合を比較するときにも重要になります。

2.頭部51.2%、顔面28.2%――どこをけがした人が多かった?

研究対象となった2,345,287件について、主な受傷部位を調べると、最も多かったのは頭部でした。

具体的な内訳は次のとおりです。

頭部:1,200,413件(51.2%)

顔面:660,252件(28.2%)

口腔:157,415件(6.7%)

頸部:122,729件(5.2%)

耳:104,463件(4.5%)

眼球:100,015件(4.3%)

頭部と顔面を合わせると、対象記録の約8割を占めています。

一方、歯科と関係する口腔外傷も15万件以上含まれていました。

「頭部外傷」は、すべて脳の外傷という意味ではない

ここで注意したいのが、頭部という分類の意味です。

頭をぶつけた場合、皮膚の傷や打撲から、頭蓋内の損傷まで、さまざまな状態が考えられます。

しかし、今回のNEISSデータは、主な受傷部位を記録したものであり、頭蓋外の損傷と頭蓋内の損傷を信頼性高く区別できるほど詳しい情報はありません。

そのため、頭部51.2%を「脳のけがが51.2%」と読み替えることはできません。

また、顔と頭を同時にぶつけた場合でも、この研究の部位別集計は主に記録された受傷部位を基準としています。

体に生じたすべての損傷を、一つずつ独立して数えた結果ではないのです。

対象者の年齢中央値は14歳

患者さんの年齢は0歳から113歳までと幅広く、年齢中央値は14歳でした。

男性は56.4%、女性は43.6%です。

中央値14歳という結果からは、研究記録に若い年齢層が多く含まれていることが分かります。

ただし、これは米国全体で14歳前後の人が最もけがをしやすいという意味ではありません。

NEISSの調査対象には小児病院の区分も設けられており、今回の重み付けを行わない解析では、年齢構成に標本抽出の影響が残る可能性があります。

このため、年齢別の件数や割合は、各年齢群の人口当たりの発生率とは区別して読む必要があります。

3.発生場所が分かった症例では、家やその周辺が63.1%で最多

今回の研究で、特に注目したい結果です。

研究者は、外傷がどこで起こったのかを調べました。

その結果、受傷場所の記録がある症例では、家やその周辺が63.1%と最多でした。

次いで、スポーツ・レクリエーション施設が14.1%、その他の公共施設が11.8%、学校・保育施設が7.7%、道路が3.2%でした。

「顔や頭のけが」と聞いて、スポーツや交通事故を思い浮かべる方にとっては、少し意外に感じられるかもしれません。

63.1%は、約235万件すべてを分母とした割合ではない

ただし、ここには重要な条件があります。

研究対象となった約235万件のうち、受傷場所が記録されていたのは73.1%でした。

残る26.9%では、けがをした場所が記録されていません。

つまり、家やその周辺63.1%とは、場所が分かっている症例の中での割合です。

約235万件すべての63.1%が家やその周辺で発生した、という意味ではありません。

発生場所が不明な症例をすべて住宅以外と考えることもできませんし、反対に住宅で発生したものとして補うこともできません。

研究結果を正しく紹介するには、この分母の違いを明示する必要があります。

口腔外傷に限っても、家やその周辺が最多

歯科と関係の深い口腔外傷についても、発生場所別の結果が示されています。

主たる受傷部位が口腔と記録されていた157,415件のうち、場所が記録されていたのは108,636件でした。

その中では、家やその周辺が66.6%、スポーツ・レクリエーション施設が15.7%でした。

全対象における63.1%と同様に、口腔外傷でも住宅に関連する場所の割合が高かったことが分かります。

ただし、口腔外傷には歯だけでなく、唇や舌などの損傷も含まれます。

したがって、「歯が折れた事故の66.6%は家庭で発生した」とは言えません。

研究が示している範囲を守りながら考えると、救急外来で扱われた口腔を主な受傷部位とする外傷では、家やその周辺という身近な環境が重要な受傷場所になっていたということになります。

4.「家やその周辺で多い」は「家のほうが危険」という意味?

家やその周辺63.1%、スポーツ・レクリエーション施設14.1%。

数字だけを見ると、住宅で過ごすほうがスポーツ施設にいるよりずっと危険なのではないか、と感じるかもしれません。

しかし、そこは慎重に考える必要があります。

NEISSの「家やその周辺」は、建物の中だけを意味しない

まず、NEISSにおける場所の定義を確認しておきましょう。

NEISSの公式マニュアルでは、「Home」という分類に、一戸建て住宅などの屋内に加えて、庭、ガレージ、玄関ポーチ、私有の車道など、住宅の周囲にある私的な場所も含めています。

本人の住居だけを対象とした分類ではなく、訪問先の住宅なども含まれ得ます。

一方、集合住宅の共用廊下や共用駐車場などは、別の場所として分類されます。

つまり、この研究における「Home」は、単純に「自分の家の建物の中」ではありません。

本記事では、この分類を原則として「家やその周辺」と表現します。

したがって、「屋内だけで63.1%」という言い換えは正確ではありません。

それぞれの場所で過ごす時間が違う

もう一つ大切なのは、各場所で過ごす時間です。

多くの人は、日常生活のかなりの時間を家で過ごします。

一方、スポーツ施設で過ごす時間は、人によって大きく異なります。

ある場所で起きた外傷の件数が多くても、そこで過ごした時間が長ければ、時間当たりの発生率が高いとは限りません。

今回の研究では、それぞれの場所に何人がどれくらい滞在していたのかを調べていません。

したがって、63.1%と14.1%を比較して、「家にいるほうが約4.5倍けがをしやすい」と結論づけることはできません。

分かるのは、対象となった救急外傷のうち、場所が記録された症例では、家やその周辺で発生したものが多かったという事実です。

「スポーツ中」と「スポーツ施設で」は同じではない

研究では、けがの発生場所と、けがが起こった仕組みを別々に分類しています。

たとえば、学校でスポーツをしていたときの外傷が、場所としては学校に記録される可能性があります。

家の敷地内でスポーツ用品を使っているときにけがをする場合もあるでしょう。

このため、「スポーツが原因の外傷」と「スポーツ施設で起きた外傷」は、同じ集団ではありません。

研究では、スポーツ・レクリエーション施設という受傷場所が14.1%だった一方、受傷原因として分類されたスポーツ・レクリエーションは14.2%でした。

数字はよく似ていますが、分母と意味が異なります。

この違いを理解しておくと、研究結果をより正確に読むことができます。

5.けがの原因は転倒が53.0%――スポーツだけではなかった

次に、けががどのように起こったかを見てみましょう。

今回の研究では、転倒に関連する3つの分類を合わせると、全対象記録の53.0%を占めました。

内訳は、同じ高さでの転倒27.9%、高さのある場所からの転落21.0%、失神・医学的要因に関連する転倒4.1%です。

一方、スポーツ・レクリエーションという受傷機序は14.2%でした。

研究対象となった頭・顔・首などの外傷では、スポーツよりも転倒・転落に分類された記録が多かったことになります。

スポーツ中の転倒は、必ずしも「転倒」に分類されない

ここで、研究方法について一つ補足しておきます。

今回の研究では、短い文章から受傷原因を分類する際に、あらかじめ決めた順序で判定しています。

スポーツ、交通事故、自転車などの特定の受傷原因は、一般的な転倒より先に判定される仕組みです。

そのため、例えば「スポーツ中に転んだ」という記録があった場合でも、分類規則によってスポーツ・レクリエーションに含まれることがあります。

つまり、転倒53.0%は、あらゆる状況で起きた転倒を漏れなく合計した割合とは限りません。

この研究で作成された分類方法によって、転倒に振り分けられた記録の割合だということです。

同様に、スポーツ14.2%も、研究で定めた分類規則に基づく数字です。

スポーツと転倒は現実の出来事として重なり合うことがありますが、この研究では原則として一つの受傷記録を一つの原因区分に割り当てています。

したがって、両者の割合を比較するときには、その分類方法を理解しておく必要があります。

同じ高さでの転倒とは?

たとえば、歩いているときにつまずいて倒れる、床で滑って転ぶなど、基本的に同じ高さの地面や床面で起こる転倒です。

段差や家具から落ちた場合は、別の分類になることがあります。

同じ「転んだ」という表現でも、どこからどのように倒れたかによって、研究上の分類は変わります。

転落は、ビルのような高い場所からだけではない

「高い場所からの転落」と聞くと、高層階や崖から落ちるような大きな事故を想像するかもしれません。

しかし、この研究の分類には、ベッド、ソファ、椅子、階段といった身近な高さからの転落も含まれています。

実際に、高さのある場所からの転落に関連する製品・環境を調べると、ベッド20.3%、階段・段差18.6%、椅子7.2%、ソファ5.3%、テーブル3.5%、はしご1.8%でした。

ここでも家具や階段が目立っています。

ただし、これらは外傷に関連して記録された製品・環境の割合です。

例えば、ベッドが関係していたからといって、ベッド自体に欠陥があったことを意味するわけではありません。

転落につながった状況には、本人の動き、周囲の環境、年齢、体の状態など、複数の要因が関係している可能性があります。

発生場所と受傷原因は、別々に考える

ここで、もう一度整理しておきます。

家やその周辺63.1%は、「どこでけがをしたか」という場所の分類です。

転倒53.0%は、「どのようにけがをしたか」という原因の分類です。

両者は別々の項目から集計されています。

したがって、「家やその周辺で転倒した人が53.0%」という意味ではありません。

今回の研究では、外傷が起きた場所と原因をそれぞれ調べた結果、住宅に関連する場所が多く、転倒に分類された受傷も多かったことが示されています。

6.乳児はベッド、幼児はテーブル、学童期はスポーツ、高齢者は床

今回の研究で特に興味深いのが、年齢による違いです。

研究者は患者さんを7つの年齢群に分け、受傷の仕組みや関連する製品・環境などを比較しました。

その結果、すべての年齢で同じような外傷が起こっていたわけではないことが分かりました。

年齢別の関連製品・環境の数字は、何を数えている?

年齢別の結果を見る前に、数字の意味を確認しておきましょう。

NEISSでは、一つの外傷記録に複数の関連製品を登録できる場合があります。

しかし、今回の年齢別ランキングでは、主に登録された関連製品・環境の情報を使用しています。

つまり、ベッド17.8%やテーブル8.9%といった数字は、事故に関係した可能性のある製品すべてを重複して数えた割合ではありません。

各年齢群の対象記録の中で、主な関連製品・環境として記録された割合です。

また、製品が記録されていることは、その製品自体が直接の原因だったことを証明するものではありません。

例えば、床が記録されていても、床が滑りやすかったことが原因とは限りません。別の原因で転倒し、床にぶつかった可能性もあります。

この点を踏まえながら、年齢ごとの特徴を見ていきます。

2歳未満――ベッドが最も多く関連していた

2歳未満では、関連製品・環境としてベッドが17.8%で最も多く、次いで床10.6%、階段8.6%でした。

また、受傷場所が記録された症例の89.6%は家やその周辺でした。

受傷の仕組みでは、高さのある場所からの転落41.6%、同じ高さでの転倒35.2%が目立っています。

この年齢では、ベッドや家具の上に寝かせられたり、寝返りやハイハイなどによって体の位置が変わったりする場面があります。

本人が危険を理解して避けることは難しいため、周囲の環境が事故に関係しやすいと考えられます。

ただし、この研究でベッドが17.8%だったということは、ベッドに寝かせた乳児の17.8%がけがをしたという意味ではありません。

救急外来で扱われた対象外傷の中で、ベッドが主な関連製品として記録されていた割合です。

2〜4歳――テーブルが最も多く関連していた

2〜4歳では、テーブル8.9%、ベッド8.7%、階段6.8%という結果でした。

受傷場所が記録された症例の79.5%は家やその周辺です。

さらに、この年齢群では、受傷部位にも特徴がありました。

顔面が40.7%、頭部が38.8%で、顔面の割合が頭部をわずかに上回っていたのです。

口腔外傷も12.0%を占めていました。

2〜4歳といえば、歩く、走る、方向を変える、家具の間を移動するといった動きが増える時期です。

家具との衝突や転倒が起こり得る生活場面を考えると、歯科にとっても関心のある年齢群といえます。

ただし、テーブルが関連した外傷のすべてが、テーブルの角に顔をぶつけた事故だったわけではありません。

研究から分かるのは、テーブルが関連製品・環境として最も多く記録されたということです。

5〜14歳――スポーツ用品との関連が目立つようになる

5〜14歳では、外傷の特徴が変わってきます。

関連製品・環境として自転車5.7%、フットボール5.4%、バスケットボール3.9%などが上位に入っています。

また、スポーツ・レクリエーションを受傷原因として分類された症例は30.1%でした。

乳幼児期のようにベッドやテーブルが中心というわけではなく、活動内容に関係する外傷が目立ち始めます。

ただし、この年齢群でも住宅に関係する外傷がなくなるわけではありません。

発生場所が記録された症例では、家やその周辺44.3%、スポーツ・レクリエーション施設27.0%でした。

スポーツが重要な受傷原因となる一方、家やその周辺も依然として大きな割合を占めています。

15〜24歳――スポーツ・レクリエーションがさらに目立つ

15〜24歳では、スポーツ・レクリエーションによる外傷が受傷原因の38.4%を占めました。

関連製品・環境でも、バスケットボール9.7%、フットボール6.9%などが上位に挙げられています。

この年齢群では、外傷が発生した場所にも大きな特徴があります。

家やその周辺よりも、スポーツ・レクリエーション施設の割合が高くなっていたのです。

これは次の章で詳しく見てみます。

25〜45歳――成人期にもさまざまな受傷環境がある

25〜45歳では、受傷場所が記録された症例の61.1%が家やその周辺でした。

主たる受傷部位は頭部44.1%、顔面25.0%、頸部11.1%、眼球10.4%などです。

同じ高さでの転倒は18.2%、高さのある場所からの転落は13.0%でした。

関連製品・環境では、階段9.0%、床8.3%、自転車5.5%などが挙げられています。

成人期では、仕事、家庭生活、移動、運動など、生活環境が多様になります。

ただし、今回のデータだけで、仕事や家事、特定の生活習慣がそれぞれどの程度外傷を引き起こしたかまで細かく説明することはできません。

この年齢群についても、住宅に関係する場所が重要な受傷場所になっていたことが分かります。

46〜64歳――床や階段が目立ち始める

46〜64歳では、受傷場所が記録された症例の69.9%が家やその周辺でした。

関連製品・環境では、床14.8%、階段11.3%、ベッド5.4%などが挙げられています。

受傷原因では、同じ高さでの転倒28.8%、高さのある場所からの転落20.1%でした。

高齢者だけでなく、中年期にも転倒や転落は重要な受傷原因となっています。

この結果から、床や階段などの環境に注意することは、65歳以上になってから初めて考える問題ではないと分かります。

65歳以上――床26.6%、同じ高さでの転倒47.5%

65歳以上では、関連製品・環境として床が26.6%と最も多く、ベッド11.7%、階段9.5%が続きました。

浴槽も3.3%を占めています。

受傷場所が記録された症例では、家やその周辺69.3%です。

受傷原因では、同じ高さでの転倒47.5%、高さのある場所からの転落30.3%でした。

高齢者では、床や段差など、移動する際の身近な環境が外傷と関係していることが読み取れます。

ただし、今回の研究では筋力や視力、服薬状況、住宅の具体的な設備などを詳しく調べていません。

そのため、転倒が多かった理由を、この研究だけで特定することはできません。

ここまでの結果を通して分かるのは、年齢によって、外傷と関連する製品や生活環境が変わるということです。

同じ頭や顔のけがでも、乳児ではベッド、幼児ではテーブル、学童期や青年期ではスポーツ用品、高齢者では床など、注目するべき環境が異なっていました。

7.15〜24歳では、スポーツ・レクリエーション施設が家やその周辺を上回った

研究全体では、家やその周辺が最も多い受傷場所でした。

しかし、それがすべての年齢に当てはまるわけではありません。

特に15〜24歳では、全体とは異なる結果がみられました。

5〜14歳と15〜24歳を比較すると?

5〜14歳では、発生場所が記録された症例のうち、家やその周辺が44.3%、スポーツ・レクリエーション施設が27.0%でした。

ところが15〜24歳になると、家やその周辺33.1%、スポーツ・レクリエーション施設39.2%となります。

この年齢群では、スポーツ・レクリエーション施設の割合が、住宅に関係する場所を上回っていました。

研究全体の63.1%という数字だけを見ていると、この特徴は分かりません。

年齢別に分けることで、全体の数字に隠れていた違いが見えてきます。

スポーツ関連の外傷は、やはり重要

今回の研究は、家やその周辺での外傷が多いという結果を示していますが、それによってスポーツ外傷の重要性が低くなるわけではありません。

特に学童期や青年期では、スポーツ・レクリエーションに関係する外傷が大きな割合を占めていました。

歯科の分野でも、競技中の衝突や転倒、ボールや用具の接触などによって、歯や口元に外傷が生じることがあります。

そのため、活動内容に応じた適切な防護や事故時の対応は、引き続き重要です。

学校や部活動中に歯をけがした場合の連絡方法については、以前の受付コラム「子どもの部活中に歯が折れた!学校・保護者・歯科への連絡はどの順番?」で詳しく紹介しています。

今回の研究からは、スポーツか家庭かという単純な二者択一ではなく、年齢と生活環境によって外傷の特徴が変わるという点が重要だと分かります。

8.同じ外傷でも、年齢によって頭・顔・口の割合が違う

年齢によって変わるのは、受傷場所や関連する製品だけではありません。

体のどこをけがしたかという受傷部位にも違いがあります。

2歳未満では頭部58.9%

2歳未満では、頭部が58.9%、顔面が27.3%、口腔が10.4%でした。

頭部を主な受傷部位とする症例が半数以上を占めています。

2〜4歳では顔面40.7%が頭部を上回る

一方、2〜4歳では、顔面40.7%、頭部38.8%、口腔12.0%でした。

この年齢群では、顔面が頭部をわずかに上回っていました。

口腔の割合も、今回の7つの年齢群の中で比較的高い値です。

つまり、幼児のけがを考える場合、頭部だけでなく、顔面や口元に生じる外傷にも目を向ける必要があります。

高齢者では頭部69.1%

65歳以上では、頭部が69.1%と大きな割合を占めました。

顔面は21.6%、口腔は1.3%です。

この研究の対象となった高齢者の外傷では、頭部が主な受傷部位として記録される割合が高いことが分かります。

なぜ年齢によって違うのか?

原著の考察では、乳幼児の頭部と体の大きさの比率、保護反射の未発達、運動協調性の発達途中であることなどが、若い年齢の外傷に関係する背景として挙げられています。

また、成長に伴って行動や活動環境が変わることも、受傷部位の違いに関係する可能性があります。

ただし、今回の研究で、こうした身体的特徴や運動能力を直接測定したわけではありません。

研究者が考えられる説明として議論した内容であり、因果関係が証明されたものではないことに注意が必要です。

9.口腔外傷157,415件――歯のけがだけを数えた研究ではない

ここからは、歯科医院の受付として特に関心のある口腔外傷に注目してみます。

今回の研究で、主な受傷部位が口腔として記録されていたのは157,415件でした。

全対象の6.7%です。

口腔外傷には、唇・舌・歯が含まれる

米国消費者製品安全委員会のNEISS分類マニュアルでは、「口腔」という受傷部位に、唇、舌、歯が含まれると定義されています。

つまり、今回の157,415件には、歯の破折や脱臼だけでなく、唇や舌などの損傷も含まれます。

NEISSには歯科外傷を表す診断コードも存在しますが、今回の研究はその診断コードだけを使って対象を抽出したものではありません。

そのため、歯が折れた件数、歯が抜けた件数、唇を切った件数などを、今回の結果から正確に分けることはできません。

「口腔外傷約15万件」を「歯の外傷約15万件」と説明しないことが大切です。

口腔外傷の約74.8%は15歳未満

原著の年齢別データを確認すると、興味深い結果があります。

2歳未満では29,560件、2〜4歳では45,572件、5〜14歳では42,600件でした。

これらを合計すると、15歳未満は117,732件になります。

全口腔外傷157,415件の約74.8%です。

つまり、今回のNEISS記録では、口腔を主な受傷部位とする外傷の約4分の3が15歳未満に集中していたことになります。

ただし、これは15歳未満の子どもが成人より何倍けがをしやすいかを示す数字ではありません。

年齢別の人口や医療機関の受診率を調整した結果ではないためです。

あくまで、研究対象となった口腔外傷記録の年齢構成として理解する必要があります。

日本の外傷診療ガイドラインでは?

日本の『口腔顎顔面外傷診療ガイドライン2025改訂版』では、小児の歯の外傷について、転倒や衝突などの日常生活での事故が重要であることが説明されています。

また、1〜2歳の乳幼児と7〜8歳の学童期に好発することにも言及しています。

このガイドラインは歯の外傷に注目した説明であり、今回のNEISS研究の「口腔外傷」とは対象が完全には一致しません。

しかし、子どもの日常生活における転倒や衝突が歯科でも重要な問題であることを考えるうえで、参考になる資料です。

小さなお子さんが歯や口元をぶつけた際、歯科医院へどのような情報を伝えるとよいかについては、以前の受付コラム「子どもの歯医者予約で何を伝える?年齢・症状・泣きやすさを受付に伝えるコツ」でも紹介しています。

10.口腔外傷でも、転倒・転落が大きな割合を占めていた

口腔外傷について、さらに受傷の仕組みを見てみましょう。

原著では、受傷原因と受傷部位、性別を組み合わせた記録数が示されています。

この表にある男女別の記録数を合計し、口腔外傷全体157,415件を分母として概算すると、次のようになります。

同じ高さでの転倒:約32.6%

高さのある場所からの転落:約18.3%

スポーツ・レクリエーション:約15.2%

失神・医学的要因に関連する転倒:約2.3%

これらは原著に独立した口腔外傷の割合として直接掲載されている数字ではなく、原著の表にある件数から算出した概数です。

性別不明の少数記録による差があり得ます。

また、先ほど説明したように、スポーツ中の転倒がスポーツの分類に含まれる場合もあります。

この分類方法を踏まえても、今回の口腔外傷記録では、同じ高さでの転倒や、高さのある場所からの転落が大きな割合を占めていました。

歯や口のけがとスポーツは確かに関係しています。

しかし、少なくとも今回の救急外来データでは、日常生活でも起こり得る転倒や転落も、見逃せない受傷原因でした。

「歯が少し欠けた」と「口全体の外傷」は違う

口をぶつけたときには、歯の破折だけでなく、歯を支える組織、唇、歯ぐきなどに損傷が生じる場合があります。

一見すると歯の先端が少し欠けただけでも、歯髄や歯根膜などの状態を確認する必要があることもあります。

また、外傷による変化の中には、受傷直後には分かりにくく、時間が経ってから確認されるものもあります。

ただし、今回のNEISS研究は、そうした個々の歯科外傷の診断や長期的な経過を追跡したものではありません。

歯の外傷後の経過観察については、「歯をぶつけたあと、痛みがなくても経過観察が必要な理由」で詳しく説明しています。

今回の研究から言えるのは、転倒や転落が、口腔外傷と関係する重要な受傷原因であったということです。

11.救急外来で帰宅できた人は89.4%、入院割合は年齢で大きく異なった

けがをした人が救急外来を受診したあと、どのような経過をたどったのか。

この点についても、今回の研究では詳しく調べています。

約9割は救急外来で処置を受けて帰宅

全対象のうち、89.4%は救急外来で治療や評価を受けたあとに帰宅していました。

一方、最初に受診した病院へ入院した人は約7.3%、他施設へ転院した人は約0.9%、経過観察のために留め置かれた人は約0.8%でした。

研究には、受診を完了せずに帰った人や、死亡と記録された症例も含まれます。

このことから、研究対象には救急外来で対応して帰宅できる外傷が多数含まれていたことが分かります。

ただし、帰宅したことが、すべて軽傷であったことを意味するわけではありません。

帰宅後に専門外来での診察や経過観察が必要な場合も考えられます。

2〜4歳では1.3%、65歳以上では23.3%が入院

年齢別に入院割合を確認すると、大きな違いがあります。

2歳未満では2.61%、2〜4歳では1.28%、5〜14歳では2.07%でした。

15〜24歳では3.41%、25〜45歳では6.00%、46〜64歳では13.63%でした。

そして65歳以上では23.27%に達していました。

2〜4歳の1.28%と65歳以上の23.27%を比較すると、約18倍の差です。

今回の研究で高齢者の入院割合が大きく高かったことは、重要な結果の一つです。

ただし、2歳未満の入院割合は2〜4歳より高く、すべての年齢で一定のペースで上昇しているわけではありません。

入院割合が高いことは、外傷の重症度だけで説明できる?

ここも慎重に考える必要があります。

入院するかどうかには、外傷そのものの状態以外に、患者さんの年齢、持病、服薬状況、全身状態、経過観察の必要性などが関係する可能性があります。

しかし、NEISSには、今回の研究でそれらを詳しく調整できるほどの臨床情報が含まれていません。

そのため、高齢者の23.3%という数字を、そのまま「高齢者の重症外傷率」と呼ぶことはできません。

正確には、今回の対象記録のうち、65歳以上では最初に受診した病院への入院割合が23.3%だったという結果です。

それでも、年齢によって救急外来での転帰が大きく異なることを示す、重要なデータであるといえます。

12.「転んだ」だけでは分からない――失神などが関係する転倒にも注意

ここまで、転倒が重要な受傷原因であることを紹介してきました。

しかし、一口に転倒といっても、何がきっかけで倒れたかによって状況は異なります。

今回の研究では、失神や医学的な要因に関連する転倒も、独立した受傷原因として分類されていました。

医学的な要因に関連する転倒では、通常の帰宅以外の転帰が33.9%

研究者は、入院、転院、経過観察、死亡を合わせて「通常の帰宅以外の転帰」と定義しています。

その割合は、失神・医学的要因に関連する転倒で33.9%でした。

同じ高さでの転倒では9.9%、高さのある場所からの転落では10.9%でした。

つまり、今回の記録では、失神などが関係した転倒のほうが、救急外来での処置後にそのまま帰宅しない割合が高かったのです。

ただし、この33.9%は重症外傷の割合ではありません。

また、失神や医学的な原因そのものが、その後の入院や転院につながった可能性もあります。

今回の研究だけで、それぞれの要因がどの程度影響したのかを明確に分けることはできません。

「どうして転んだか分からない」という情報

日本の『口腔顎顔面外傷診療ガイドライン2025改訂版』では、転倒した状況や受傷時刻、意識障害の有無などを確認する重要性が説明されています。

特に、転倒した記憶がない場合には、心臓の不整脈などによる失神や、頭蓋内の病気など、転倒の背景に別の医学的な原因が存在する可能性にも注意が必要とされています。

例えば、

「段差につまずいて転んだ」

という場合と、

「気がついたら床に倒れていて、どうして倒れたか分からない」

という場合では、医療者が確認するべき内容が異なります。

ただし、これは受付が転倒の原因を診断するという意味ではありません。

受付では、患者さんやご家族から分かっている状況を聞き取り、必要な医療者へ正確に伝えることが大切です。

また、意識障害や呼吸の異常など、緊急対応を要する状態がある場合には、歯科受診より救急医療を優先する必要があります。

服薬歴も重要になることがある

特に高齢者では、普段服用している薬が外傷の診療に関係することがあります。

抗凝固薬などを使用している場合、出血の評価や医療機関での対応を考えるうえで重要な情報になります。

ただし、受付が薬の中止を指示したり、患者さんが自己判断で服薬を中止したりすることは避ける必要があります。

受傷した状況や服薬情報を、医師・歯科医師などの診療担当者へ伝えることが大切です。

今回の研究と日本のガイドラインを合わせて考えると、「転んで顔をぶつけた」という相談でも、歯や口だけでなく、転倒した経緯や全身の状態が重要になる場合があることが分かります。

13.20年間で35.2%増加――増えたのは主に頭部外傷の記録

今回の研究では、2006〜2025年の20年間に、記録数がどのように変化したかも分析しています。

年間記録数は2006年105,727件から2025年142,918件へ

研究対象となった年間記録数は、2006年の105,727件から2025年の142,918件へ増加しました。

増加率は35.2%です。

また、NEISSに記録された全受診のうち、今回の6部位が主な受傷部位であった割合は、2006年の29.1%から2025年の34.8%へ上昇しています。

ただし、ここで示したのはNEISS内の重み付けを行っていない記録数と、その構成比の変化です。

米国全体の人口当たり外傷発生率が35.2%増加したという意味ではありません。

頭部外傷の年間記録数は83.4%増加

受傷部位別に見ると、変化には大きな違いがありました。

頭部外傷は2006年の44,277件から2025年の81,223件へ増加し、増加率は83.4%でした。

一方、顔面外傷は35,635件から35,475件、口腔外傷は8,669件から8,120件で、頭部ほどの増加はみられませんでした。

つまり、今回の6部位をまとめた記録数の増加は、主に頭部外傷の増加によって生じていたと研究者は説明しています。

「顔や頭のけがが増えた」という一言でまとめると、部位ごとの違いが見えなくなってしまいます。

2020年には記録数が減少した

2020年は、対象となる年間記録数が101,854件でした。

2019年の117,807件と比較すると13.5%少なく、20年間で最も少ない年でした。

研究者は、この減少が新型コロナウイルス感染症の流行期における救急外来の利用減少と整合的であると考察しています。

ただし、この研究では、新型コロナウイルス感染症の影響だけが原因で記録数が減少したと証明されたわけではありません。

受診行動、活動内容、医療提供体制など、複数の変化が関係していた可能性があります。

頭部外傷が増加した理由は分かっている?

原著では、高齢化、頭部外傷に対する医療者や社会の認識の変化、画像検査や経過観察の判断、抗血栓薬を服用する高齢者の増加などが、考えられる背景として議論されています。

しかし、これらの要因を個別に検証して、増加の原因を確定した研究ではありません。

NEISSの標本や記録の特徴も考慮する必要があります。

今回の20年間の分析から分かるのは、NEISS内の対象記録数と構成比が変化し、その変化が受傷部位によって異なっていたということです。

14.年齢によって違う、身近なけがを防ぐための工夫

ここまでは、米国のNEISS研究から分かった結果を中心に紹介してきました。

では、日本で日常生活の外傷を防ぐには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。

ここからは原著研究とは別に、日本の公的機関が公表している事故予防の情報を参考に考えてみます。

乳幼児ではベッド・家具・階段の安全対策

こども家庭庁は、乳幼児の転落・転倒事故について、ベッド、ソファ、椅子、テーブル、階段などの危険を紹介しています。

例えば、乳児は寝ている間にも寝返りなどで移動し、大人用ベッドやソファから転落する可能性があります。

そのため、2歳になるまではできるだけ大人用ベッドで寝かせないこと、ソファで寝かせないこと、ベビーベッドの柵を適切に使用することなどが案内されています。

また、子ども用の高い椅子の安全ベルト、階段の転落防止柵、家具の配置など、子どもの発達段階に応じた対策も重要です。

ここで注意したいのは、単に「保護者が目を離さなければ大丈夫」という話ではないことです。

乳幼児の動きは発達とともに変化します。

大人が予想していなかった動きをすることもあるため、目を離さないことだけに頼らず、周囲の環境そのものを整える視点が必要です。

今回の米国研究でも、2歳未満ではベッド、2〜4歳ではテーブルが関連製品・環境の上位に挙げられていました。

日本の事故予防資料と並べて考えると、乳幼児の生活環境を見直すことの重要性が理解しやすくなります。

ただし、これらの対策によって今回の研究対象となった外傷を何%減らせるかは、この研究では検証していません。

学童期・青年期ではスポーツの種類に応じた防護

5〜14歳、15〜24歳では、スポーツ・レクリエーションによる外傷が重要でした。

スポーツには競技ごとの特徴があり、接触の機会や転倒の状況、使用する用具などが異なります。

歯科では、競技や活動内容によってはマウスガードなどの防護具が役立つ場合があります。

また、頭部を保護するヘルメットや、競技ごとの適切な安全対策も大切です。

ただし、今回のNEISS研究では、マウスガードやヘルメットを使用した人と使用していない人の外傷発生率を比較したわけではありません。

スポーツ用品が外傷と関連していたことと、特定の防護具の予防効果が証明されたことは別です。

活動内容に合わせた適切な対策を考える必要があります。

高齢者では床・段差・浴室の点検

消費者庁は2026年9月11日、「高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」という情報を公開しています。

紹介されている事例には、庭へ出る段差での転倒、浴室で滑って後頭部を打った事故、室内のコードにつまずいた事故、ソファから立ち上がるときにバランスを崩した事故などがあります。

こうした事故を防ぐため、段差への手すりや滑り止めの設置、浴室の安全対策、床の整理整頓、電気コードの配置の見直しなどが勧められています。

また、椅子やベッドから立ち上がる際には、慌てず、安定した場所につかまることも大切です。

今回の米国研究では、65歳以上で床が関連製品・環境の最多となり、同じ高さでの転倒が47.5%を占めていました。

日本の公的資料で紹介されている生活上の注意点と、関連する部分があると考えられます。

ただし、米国のNEISSデータと日本の消費者庁が収集した事故情報は、対象や方法が異なります。

両者の割合を直接比較することはできません。

すべての年齢で同じ対策をする必要はない

乳児のベッドからの転落、幼児の家具との衝突、学童期のスポーツ、高齢者の転倒では、外傷が起こる場面が違います。

そのため、事故予防も一つの方法だけですべてに対応できるわけではありません。

今回の研究は、年齢に応じて注目するべき生活環境や活動が変わることを考える手掛かりになります。

15.家で顔や歯をぶつけたら、受付には何を伝えればいい?

ここまで研究の数字を紹介してきましたが、最後に歯科医院の受付という立場から、受傷時の相談について考えてみたいと思います。

顔や口をぶつけたとき、患者さんやご家族が最初から詳しい状況をすべて把握できているとは限りません。

特に小さなお子さんの場合、実際にどのように転んだのか、歯のどこをぶつけたのか、本人がうまく説明できないこともあります。

それでも、分かっている情報を整理して伝えることには意味があります。

まず、いつ、どこで、どうやってけがをしたか

歯科医院へ相談するときには、受傷した時刻と状況が大切です。

例えば、転んだのか、高さのある場所から落ちたのか、何かにぶつかったのか。

そのとき、頭や首も打ったのか、歯や口元だけをぶつけたのか。

こうした違いは、医療者が必要な診察や受診先を考えるうえで重要な情報になります。

ただし、受傷した様子を誰も見ていない場合もあるでしょう。

そのようなときは、無理に原因を推測する必要はありません。

「倒れているところを見つけた」「転んだ瞬間は見ていない」といった、分かっている事実を伝えることが大切です。

歯が欠けた、ぐらつく、抜けたなどの変化

口元のけがでは、歯が欠けたのか、動いているのか、位置が変わっているのか、完全に抜けてしまったのかによって、診察で確認する内容が異なります。

欠けた歯の破片や抜けた歯が見つかっている場合には、そのことも伝えてください。

歯が欠けたのに破片が見つからない場合も、診察時に重要な情報となることがあります。

歯の破折片が唇などの軟らかい組織に入り込んでいる可能性があるためです。

また、歯が抜けた場合には、乳歯なのか永久歯なのかも重要です。

乳歯と永久歯では対応が異なる

完全に抜けた歯については、乳歯と永久歯で対応が異なります。

日本の『口腔顎顔面外傷診療ガイドライン2025改訂版』では、完全脱臼した乳歯は、後から生えてくる永久歯への影響を避けるため、原則として再植しないことが示されています。

一方、永久歯が完全に抜けた場合には、受傷後の時間や歯の保存状態が予後に関係するため、迅速な対応が重要です。

永久歯が完全に抜けた場合は、痛みが少なくても受診や相談を先延ばしにしないことが大切です。

抜けた永久歯を扱う場合は、歯冠(普段、口の中で見えている白い部分)を持ち、歯根に触れないようにします。乾燥も避け、速やかに歯科医療機関へ連絡してください。

乳歯か永久歯か分からない場合には、自己判断で歯を戻そうとせず、速やかに歯科医療機関へ相談してください。

詳しい応急処置は、受傷した歯の種類や全身の状態によって異なります。

頭や首も打っている場合は、歯科より救急対応が優先されることがある

顔や口をぶつけた場合でも、けがが歯だけに限られているとは限りません。

意識がない、意識がはっきりしない、けいれんがある、大量の出血が止まらない、呼吸がおかしいなどの症状がある場合は、119番通報などの救急対応が必要です。

頭を打ったあとに繰り返し吐く、強い頭痛がある、手足に麻痺やしびれがある、首に強い痛みがあるといった場合も、頭部や頸部の外傷を考慮した緊急の医療評価が必要となることがあります。

歯科医院へ予約を取ることより、まず救急医療で全身状態を確認するべき場合があるのです。

受付の役割は、こうした病気やけがの診断をすることではありません。

分かっている症状を把握し、診療担当者へ伝えたり、必要に応じて救急医療を優先するよう案内したりすることです。

高齢者の場合は、普段の薬や転倒時の記憶も伝える

高齢者が転倒して顔や口をぶつけた場合には、転倒した経緯も重要です。

足元につまずいたことが分かっているのか、それとも気がついたら倒れていたのか。

普段服用している薬はあるのか。

特に抗凝固薬などを使用している場合は、その情報を診療担当者に伝えることが重要です。

服薬を自己判断で中止する必要はありませんし、受付から中止を指示することもありません。

必要な情報を医師・歯科医師などへ伝えることが大切です。

ブランデンタルクリニックへの相談について

ブランデンタルクリニックでは、通常のご予約はWEB、LINE、電話から受け付けています。

ただし、急に歯をぶつけた、歯が大きく欠けた、歯が抜けたなど、その日の受診を相談したい外傷については、電話で現在の状況を伝えていただくことをおすすめします。

WEB予約の空き時間だけでは、受傷した状況や必要な診査・処置を判断できないためです。

受付では分かっている情報を確認し、診療担当者や現在の予約状況と合わせてご案内します。

診療の状況や外傷の内容によっては、待ち時間が生じたり、まず応急処置を行ったり、より適切な医療機関への受診をご案内したりする場合があります。

なお、意識障害など緊急性の高い症状がある場合には、歯科医院への連絡より119番通報などを優先してください。

歯が欠けた場合の受診については、「歯が欠けたけれど痛くない。いつ歯医者へ行く?当日中に相談したい症状と予約時に伝えること」でも詳しく解説しています。

大切なのは、最初からすべてを正確に説明できることではありません。

分かっていることと、まだ分からないことを、そのまま伝えていただくことです。

16.約235万件の研究でも、分からないことはある

今回の研究は、20年間にわたる大規模な救急外傷データをまとめたものです。

しかし、研究対象が非常に多いからといって、すべての疑問に答えられるわけではありません。

ここでは、結果を正しく理解するために重要な限界を整理します。

米国全体の外傷発生率を示した研究ではない

今回の解析は、NEISSに登録された記録を重み付けせずに集計しています。

そのため、約235万件を米国全体の外傷患者数と解釈することはできません。

また、人口当たりの発生率や、すべての医療機関を含めた全国推計でもありません。

標本として選ばれた病院の構成や、年齢ごとの受診状況などが結果に影響している可能性があります。

特に年齢別の割合を比較する場合、重み付けを行わない集計であることに注意が必要です。

救急外来を受診しなかった人は十分に含まれない

NEISSは、対象となる病院の救急外来で扱われた外傷を記録する制度です。

軽いけがで医療機関を受診しなかった人、一般の外来診療所で対応された人、歯科医院だけで治療を受けた人などは、今回の集計に十分に含まれていません。

そのため、歯科医院で日常的に診察する歯の外傷と、NEISSに登録された救急外傷では、患者さんの年齢やけがの内容が異なる可能性があります。

発生場所が不明な記録もある

受傷場所が記録された症例は73.1%でした。

残る26.9%については、どこでけがをしたのか分かりません。

また、受傷場所が不明だった症例にどのような特徴があったかによって、場所別の割合の解釈が変わる可能性もあります。

そのため、場所の記録がある症例から得られた結果を、すべての外傷へ無条件に当てはめることはできません。

家やスポーツ施設の危険度を直接比較していない

研究では、家とスポーツ施設で何時間活動していたか、何人が利用していたかなどを調べていません。

そのため、件数の構成比が高い場所を、そのまま危険度の高い場所と判断することはできません。

今回の結果は、受傷した場所の分布を示すものであり、各環境における外傷発生リスクを直接比較したものではありません。

ベッドや床が直接の原因だったとは限らない

NEISSに記録される関連製品・環境は、必ずしも外傷を直接引き起こした原因ではありません。

例えば、床が関連していたという記録には、床で滑った場合だけでなく、別の原因で転倒して床に衝突した場合なども含まれ得ます。

同じように、ベッドが関連製品だったからといって、ベッドそのものに問題があったと断定することはできません。

さらに、今回の年齢別分析では主に登録された関連製品・環境を使用しており、一つの事故に関係したすべての物品を調べた結果ではありません。

今回の研究は、関連する環境や製品を示していますが、それぞれの製品の危険性を直接比較した研究ではありません。

受傷原因は自由記載から分類されている

研究者は短い文章から受傷原因を分類する仕組みを使用しています。

分類方法は改良され、内部検証も行われていますが、記録内容が曖昧な場合や、複数の原因が関係する場合には、分類を誤る可能性があります。

また、スポーツなどの特定の受傷原因を一般的な転倒より優先して判定する規則があるため、現実に起きた出来事のすべてを分類名だけから把握できるわけではありません。

そのため、転倒やスポーツの割合には、記録と分類の方法に由来する不確実性があります。

詳しい医学的な重症度や長期的な経過は分からない

今回のNEISSデータには、画像診断の詳しい結果、外傷の重症度を評価する指標、併存疾患、服薬状況、手術内容、長期的な後遺症などの情報が十分に含まれていません。

そのため、入院割合を外傷の重症度そのものとして扱うことはできません。

また、歯の外傷について、その後に歯髄壊死や歯根吸収が生じたか、どの程度の期間で治癒したかといった詳しい経過も分かりません。

歯科外傷だけを対象にした研究ではない

今回の対象には、頭部、顔面、口腔、頸部、眼球、耳が含まれます。

口腔外傷にも、歯だけでなく唇や舌などの損傷が含まれています。

したがって、この研究から歯の破折や脱臼だけの発生率を求めることはできません。

歯科の話題へ関連づける際にも、この違いは明確にしておく必要があります。

日本でも同じ割合になるとは限らない

米国と日本では、住宅環境、生活習慣、スポーツ活動、人口構成、救急外来の利用状況などが異なります。

今回の家やその周辺63.1%や転倒53.0%を、そのまま日本の割合として使用することはできません。

一方で、年齢によって受傷環境が異なるという視点は、日本で外傷予防を考える際にも参考になります。

研究が示した数字と、そこから考えられる予防上の示唆は、区別して理解することが大切です。

17.まとめ――年齢や生活環境に合わせて、身近なけがを考える

今回紹介した研究では、2006〜2025年の20年間に、NEISSへ登録された頭部・顔面・口腔・頸部・眼球・耳の外傷2,345,287件が解析されました。

受傷場所が記録されていた症例では、家やその周辺が63.1%で最も多く、スポーツ・レクリエーション施設は14.1%でした。

また、研究の分類規則に基づき、転倒や転落などに分類された受傷原因は、合計53.0%を占めていました。

そして、年齢別に調べると、乳児ではベッド、幼児ではテーブル、学童期や青年期ではスポーツ用品、高齢者では床など、外傷と関連する製品・環境が大きく異なっていました。

15〜24歳では、スポーツ・レクリエーション施設の割合が、家やその周辺を上回るという特徴もありました。

一方、口腔を主な受傷部位とする外傷は157,415件あり、その約74.8%は15歳未満に記録されていました。

歯科と関係する口元のけがも、今回の研究の重要な一部分です。

ただし、今回の研究は米国の救急外傷監視データに基づき、重み付けを行わずに解析したものです。

家やその周辺の割合が大きいことを、そのまま住宅の危険度が高いことと解釈することはできませんし、歯の破折や脱臼だけの発生状況を示しているわけでもありません。

それでも、年齢と生活環境によって外傷の特徴が変わるという結果には、考える価値があります。

私たちが普段暮らしている家の中や周囲にも、転倒や衝突につながる場所があります。

乳幼児では家具やベッド、高齢者では床や段差、学童期や青年期ではスポーツ活動など、それぞれの生活に合わせて注意するべき場面が変わります。

そして、実際に顔や口をぶつけたときには、歯の状態だけでなく、いつ、どこで、どうしてけがをしたのか、頭や首も打っていないか、意識や全身の状態に変化はないかといった情報も大切です。

受付では、患者さんやご家族から分かっていることを確認し、診療担当者や必要な医療機関へつなぐ役割があります。

事故を完全になくすことは難しいかもしれません。

それでも、どんな場面でけがが起きているのかを知り、日常の環境を見直し、万が一のときには適切な医療へつなぐことができれば、研究の数字を実際の生活に役立てることができます。

顔や頭のけがは、特別な事故だけで起こるものではありません。身近な生活の中にある外傷の可能性にも、年齢に合わせて目を向けていきたいですね。

参考文献・参考資料

1.本記事の中心となる原著論文

Alfertshofer M, Hoch CC, Nolte D, et al. Head, face, and neck injury patterns across the life course: a 20-year NEISS analysis of 2,345,287 emergency department visits in the U.S. BMC Emergency Medicine. 2026;26:275. Published October 20, 2026.

DOI:https://doi.org/10.1186/s12873-026-01821-3

2.米国の外傷監視制度

U.S. Consumer Product Safety Commission. National Electronic Injury Surveillance System(NEISS).

3.受傷部位・受傷場所の分類

U.S. Consumer Product Safety Commission. NEISS Coding Manual. January 2025, Revision 1.

https://www.cpsc.gov/s3fs-public/JANUARY-2025-NEISS-CPSC-only-Coding-Manual-Rev-1_0.pdf

4.日本の口腔顎顔面外傷診療

『口腔顎顔面外傷診療ガイドライン2025改訂版』第Ⅱ部:総論編。日本口腔外科学会・日本口腔顎顔面外傷学会関連資料、2026年公開。

https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202604_2-2.pdf

5.歯の外傷治療

日本外傷歯学会『歯の外傷治療ガイドライン』令和5年10月改訂。

https://www.ja-dt.org/file/guideline.pdf

6.子どもの転落・転倒事故予防

こども家庭庁「転落・転倒事故」。

7.高齢者の家庭内転倒事故予防

消費者庁「Vol.696 高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」2026年9月11日。

8.救急受診・119番通報の判断に関する公的資料

総務省消防庁『救急車利用マニュアル』および救急通報関連資料。

※本記事は2026年10月に公表された研究論文と関連する公的資料をもとに、頭部・顔面・口腔などの外傷について一般向けに解説したものです。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。実際にけがをした場合は症状に応じて医療機関へ相談し、意識障害や呼吸の異常、大量の出血など緊急性の高い状態では119番通報などの救急対応を優先してください。

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