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歯の中に“もう一つの歯”?歯内歯(陥入歯)の不思議な構造と治療

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2026年10月23日

歯の中に“もう一つの歯”?歯内歯(陥入歯)の不思議な構造と治療

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに――歯の中に、もう一つの歯が見える?

歯のレントゲン写真を見ていると、ときどき不思議な形に出会います。

歯の根が大きく曲がっていたり、根管が途中で枝分かれしていたり、普通とは少し違うところに小さな空間が見えたり。

歯の外側はよく似ていても、内部の構造は本当に一つひとつ違います。

ところが今回、歯科の論文に掲載された前歯の画像を見て、思わず二度見してしまいました。

一本の歯の中に、もう一つ、歯のような形が見えるのです。

白い輪郭が内側へ入り込み、その中央には黒っぽい空間があります。

最初は「歯の中に小さな歯が埋まっているの?」と思ってしまうような、不思議な画像でした。

この形態異常には、歯内歯(しないし/Dens invaginatus)という名前があります。

「歯の中の歯」という意味の Dens in dente という呼び方もあります。

でも、実際に独立した完成歯がもう一本存在しているわけではありません。

歯が作られる途中で、組織の一部が内側へ折れ込むことによって、通常とは違う構造が形成されたものなのです。

そして、この特殊な形は、単に見た目が面白いだけではありません。

歯の内部にできたくぼみや通路が、細菌の侵入経路になる場合があります。

さらに驚くことに、歯の根の周りに炎症が起こっていても、もともとの歯の神経が生活反応を保っていることがあるのです。

なぜ、そんなことが起こるのでしょうか。

今回は、2026年10月9日に公開された『British Dental Journal(英国歯科専門誌)』の臨床レビュー・症例集積をきっかけに、同年6月の詳しい臨床レビューや日本の症例報告も読みながら、歯内歯という不思議な形態異常について勉強してみました。

歯の中に何が起こっているのか。

先生はどうやって見分けているのか。

そして、健康な歯の神経をできるだけ守るために、どんな治療が考えられているのか。

歯科助手の目線から、一つずつ追いかけてみます。

2026年10月9日、British Dental Journalが歯内歯の臨床像を紹介

歯内歯は、一つの決まった形ではない

2026年10月9日、英国の歯科専門誌『British Dental Journal』に、Hall、Budhdeo、Bhujeらによる論文が公開されました。〔1〕

タイトルは、Dens invaginatus: a review and case series。

日本語では「歯内歯:文献レビューと症例集積」といった意味です。

著者らは、歯内歯のさまざまな臨床像や画像所見を整理し、症例に応じた治療の考え方を紹介しています。

歯内歯は、外から見える形だけで判断できるとは限りません。

ほぼ普通の歯に見えることもあれば、歯冠が円錐状になっていたり、舌側に深いくぼみがあったりすることもあります。

また、内部に形成された陥入部分の深さや位置関係もさまざまです。

比較的浅い陥入にとどまるものもあれば、歯根の深い位置まで続き、複雑な内部構造を形成するものもあります。

この論文が重視しているのは、その多様な形態を理解したうえで、早期発見と適切な対応につなげることです。

論文には、英国の小児歯科専門部門に紹介された6症例が含まれています。

ただし、公開抄録だけでは、6症例それぞれの治療方法や長期経過までは確認できません。

そのため、この後に詳しく紹介する症例は、内容を確認できた別の臨床論文から取り上げています。

歯内歯があるだけで病気になるわけではない

論文では、歯内歯に関連して起こり得る問題として、う蝕、歯髄病変、歯髄失活、変色、限局した歯周ポケット、歯の動揺などが挙げられています。〔1〕

ここで大切なのは、これらがすべての歯内歯に起こるわけではない、ということです。

歯内歯は、もともと歯が形成される過程で生じた形態異常です。

一方、う蝕や歯髄感染は、その後の条件によって発生する病気です。

歯内歯という形態があることと、すでに感染していることは別々に考えなければなりません。

何も問題が起こらないまま経過する歯もあります。

逆に、内部の構造が複雑なため、通常の歯とは異なる診断や治療が必要になる場合もあります。

今回の記事で参考にするもう一つのBDJ論文

実は2026年6月12日にも、同じ『British Dental Journal』で歯内歯の詳しい臨床レビューが公開されています。〔2〕

Jackson、Charalambous、Darceyらによる、Dens invaginatus: a clinical update and a proposed new three-dimensional classification という論文です。

こちらでは、歯内歯の成り立ち、従来の分類、画像診断、治療方針に加え、新しい三次元分類が提案されています。

さらに、実際の患者さんの口腔内写真、レントゲン写真、歯科用CT画像、治療工程を示した症例も掲載されています。

今回の10月の論文をきっかけに、6月の論文と国内外の臨床症例を合わせて確認することで、歯内歯の特徴をより具体的に理解することができます。

なお、10月9日の論文は新しい治療法の効果を無作為化比較試験で証明した研究ではありません。

また、以下に詳しく紹介する症例の多くは、10月9日の論文とは別の研究から取り上げています。

どの研究で、何が確認されたのかを区別しながら見ていきましょう。

そもそも歯内歯とは?「歯の中に歯」の正体

まず、普通の歯の中はどうなっている?

普通の歯の断面を思い浮かべてみましょう。

歯冠の一番外側を覆っているのがエナメル質です。

エナメル質の内側には象牙質があり、さらに中心に近い部分には歯髄があります。

歯髄には血管や神経などが存在し、歯冠の内部にある歯髄腔から、歯根の内部を通る根管へと続いています。

ここからは、もともとの歯髄が入っている通常の根管を「主根管」、歯内歯によってできた特殊な空間を「陥入部」と呼びます。

この2つを区別すると、後で登場する感染経路や治療の違いが分かりやすくなります。

通常、歯冠のエナメル質は外側を覆う構造として存在しています。

ところが歯内歯では、歯が形成される途中に組織が内側へ折れ込み、歯の内部にエナメル質などで裏打ちされた異常な空間ができる場合があります。

日本口腔病理学会の「口腔病理基本画像アトラス」にも歯内歯が掲載されており、病理組織像やX線写真から内部構造を確認できます。〔19〕

このような実際の組織像を見ると、歯内歯が単なる画像上の錯覚ではなく、歯質の形成過程に由来する形態異常であることが分かります。

歯が内側へ折れ込むとは、どういうこと?

歯は、最初から硬い完成品として作られるわけではありません。

歯胚という発育中の組織から、少しずつ歯の形が作られていきます。

その過程で、将来エナメル質などを形成する組織の一部が、通常とは異なる方向へ折れ込む場合があります。

その結果、本来なら外側にある構造が、歯の内部へ入り込んだような形になります。

分かりやすく言えば、やわらかい材料を使って作っている途中の器の一部が、内側に押し込まれたようなイメージです。

ただし、実際の歯の発育はもっと複雑です。

歯内歯の陥入部にはエナメル質や象牙質が関係しており、周囲の歯髄や歯根との位置関係も症例によって異なります。

つまり、歯の中に別の歯が入り込んだのではありません。

一本の歯の中に、普通とは異なる折れ込み構造が形成されたということです。〔2〜5・19〕

「歯内歯」と「陥入歯」は同じもの?

日本語では「歯内歯」のほかに「陥入歯」という名称も使われています。

Dens invaginatusという英語名は、内部へ陥入するという発育上の特徴を表しています。

一方、Dens in denteは、レントゲン写真で歯の中に歯があるように見える特徴を表した歴史的な呼び方です。

どちらも同じ形態異常を指して使用されてきた名称ですが、実際の解剖学的な構造を理解するには「陥入」という言葉が役立ちます。

前歯の裏側にある「盲孔」とは違うの?

歯の形態異常について調べていると、盲孔(もうこう)という言葉も出てきます。

これは、歯の表面にある小さなくぼみを表す名称です。

上顎側切歯の舌側に見られることがあり、深い場合には清掃が難しく、う蝕に関係することがあります。

しかし、盲孔があることと、歯内歯が存在することは同じではありません。

盲孔は表面の形に関する所見です。

歯内歯は内部への陥入構造を伴う発育異常です。

歯内歯の入口が盲孔のように見える場合はありますが、表面にくぼみがあるだけで歯内歯と診断できるわけではありません。

以前の院長コラム「歯の形がおかしい:歯の形態異常と人種差」では、盲孔や歯冠のさまざまな形について紹介しています。

今回は、その中でもさらに歯の内部へ入り込む歯内歯に注目しています。

歯内歯は、どうしてできるの?

歯が生える前に起こっていること

歯内歯がある患者さんの中には、「歯磨きが悪かったから、こんな形になったのでしょうか」と心配する方もいるかもしれません。

でも、歯内歯は歯磨きの不足によって歯の形が変わったものではありません。

歯が形成される段階で生じる発育上の形態異常です。

すでに完成した歯の中へ細菌や食べ物が入り込み、それが歯のような形へ変わったわけでもありません。

細菌感染は歯内歯によって後から起こり得る問題であり、歯内歯という形の成立そのものとは区別する必要があります。

発生原因には複数の仮説がある

歯内歯の原因については、昔からさまざまな考え方が提案されています。

例えば、歯を形成する上皮の一部だけ成長が遅れたため、周囲の組織がその部分を包み込むようになったという説。

反対に、上皮の一部が周囲より強く増殖して内側へ伸び込んだという説。

発育途中の歯胚に加わる外力が関係したという説。

さらには、2つの歯胚の形成異常や融合を想定した歴史的な説もあります。

2026年6月のBDJ論文でも、これらの仮説が整理されています。〔2〕

しかし、現時点でも歯内歯の発生原因について、すべてを説明できる決定的な仕組みが確立しているわけではありません。

2026年に公表された歯の発育異常に関する専門家の合意文書でも、歯内歯は歯の形態形成過程に関係する発育異常として扱われています。〔20〕

歯の形成異常は、歯冠の形、歯の数、歯根の構造、歯質の形成など、どの段階に異常が生じるかによって多様な形態を取ります。

その中で歯内歯は、内部への陥入という特徴を持つものなのです。

遺伝するの?

家族内で歯内歯などの歯の形態異常が見られた症例報告はあります。

一方で、一般的な歯内歯が必ず遺伝するというわけではなく、明確な遺伝形式がすべての症例で分かっているわけでもありません。

遺伝的な影響、発育過程の変化、環境要因などが検討されていますが、原因を一つに決めつけることはできません。

「お母さんが妊娠中に何かをしたから」「子どもが歯磨きをしなかったから」というような説明をしてよいものではないのです。

歯内歯はどの歯に多い?どれくらい珍しい?

最も代表的なのは、上の前歯の2番目

歯内歯が最もよく報告されるのは、上顎の永久側切歯です。

上の前歯の中央から数えて2番目にある歯です。

この歯は、もともと歯冠や歯根の形態に個人差が見られることがあります。

歯内歯も、その上顎側切歯に比較的多く認められます。

ただし、上顎中切歯、犬歯、小臼歯などに生じる場合もあり、非常に少ないものの下顎の歯に見つかった報告もあります。〔2〜5・17〕

歯内歯は永久歯に多い形態異常ですが、乳歯や過剰歯にも報告があります。

歯の形が普通に見えることもある

歯内歯のある歯は、必ず大きく変形しているのでしょうか。

実は、そうではありません。

歯冠が円錐状になっていたり、樽のように丸みを帯びていたり、舌側に突起や深いくぼみがあったりすることがあります。

一方、ほぼ正常な形の歯冠を持つ症例もあります。

2026年6月のBDJ論文では、臨床的に正常な歯冠形態を示す歯内歯が40%を超えるとした先行研究にも言及しています。〔2〕

この数字は、すべての歯内歯患者にそのまま当てはめられる割合という意味ではありません。

それでも、外から見てほとんど普通の歯だから、内部の形態異常もないとは言い切れないことが分かります。

左右両方にできることもある

上顎側切歯の歯内歯では、左右両側に認められた症例も報告されています。

片側に歯内歯が見つかったとき、反対側の歯についても形態を確認する意味があるのは、このためです。

ただし、反対側にも必ず歯内歯が存在するわけではありません。

また、片側だけ歯内歯が見つかったからといって、反対側に何の症状もないのに一律に追加撮影が必要になるわけでもありません。

2025年のメタ解析では、患者単位2.8%

歯内歯がどのくらいの割合で見つかるかを調べた研究もあります。

2025年、Çakıcıらは31研究をまとめた系統的レビュー・メタ解析を公表しました。〔7〕

対象となったのは、合計51,626人、127,998歯です。

患者単位で歯内歯が認められた統合有病割合は2.8%、95%信頼区間は1.7〜4.5%でした。

一方、歯単位では1.1%、95%信頼区間は0.6〜2.0%と報告されました。

ここで気を付けたいのが、患者単位と歯単位の違いです。

患者単位というのは、調べた人のうち歯内歯が認められた人の割合です。

歯単位というのは、調べた歯のうち歯内歯が認められた歯の割合です。

一人の患者さんが何本もの歯を持っていることを考えれば、この2つの数字が異なるのは不思議ではありません。

2025年発表でも、2025年までの研究を集めたわけではない

ここでもう一つ、研究を読むときに大切な点があります。

このメタ解析は2025年に公表されましたが、文献検索の対象は2022年12月12日より前に発表された英語・トルコ語の研究です。

つまり、2025年に発表された研究だからといって、2025年までに行われたすべての歯内歯研究を含んでいるわけではありません。

また、研究ごとに対象集団や撮影方法が異なります。

歯科用CTを使った研究では、二次元X線写真を使った研究より高い統合有病割合が報告されましたが、これは診断感度だけでなく、対象となった集団の違いなども関係する可能性があります。

別の2023年の系統的レビュー・メタ解析では、歯科用CTによる6研究、7,373人を対象に、統合有病割合7.45%が報告されています。〔8〕

数字が違うからといって、どちらかの研究が間違っているとは限りません。

採用された研究、対象集団、診断方法、解析条件が異なれば、推定値も変わるのです。

したがって、これらの研究を見て「日本人の約35人に1人が歯内歯です」と単純に説明するのは適切ではありません。

興味深い形態異常ではありますが、数字だけで珍しさや危険性を決めることはできないのです。

歯内歯には3つの基本形態がある――Oehlers分類

Ⅰ型:歯冠の中にとどまる

歯内歯を説明するときによく使われるのが、Oehlers分類(エーラーズ分類)です。〔3〕

陥入部分がどこまで入り込んでいるかによって分類します。

Ⅰ型では、陥入部分が歯冠の中にとどまっています。

歯の表面から内部へくぼみが続いていても、エナメル質とセメント質の境界、いわゆる歯頸部の境界(CEJ)を越えません。

比較的浅い形態ですが、入口が深く細い場合には清掃しにくくなることがあります。

ただし、Ⅰ型だから必ずむし歯になるわけではありません。

Ⅱ型:歯の根の中まで入り込む

Ⅱ型では、陥入部分が歯冠を越えて歯根内部へ続きます。

ただし、陥入の先端は奥が行き止まりになった袋状の構造(盲端)となり、歯根の側面や先端から歯を支える周囲組織へ直接開口するⅢ型とは異なります。

この型では、陥入部分が本来の歯髄に非常に近づく場合があります。

陥入部と歯髄との間の歯質が薄かったり、交通が存在したりすることもあり、診断や治療には注意が必要です。

Ⅲ型:歯根の側面や根の先に通じる

Ⅲ型は、陥入部分が歯根の外側の歯周組織(歯を支える周囲の組織)へ通じる形態です。

さらに、開口する場所によって2つに分かれます。

Ⅲa型は、歯根の側面方向へ開口するものです。

Ⅲb型は、歯根の先端方向へ開口するものです。

ここで非常に大切なのは、Ⅲ型だからといって、陥入部分が必ず本来の歯髄とつながっているわけではないことです。

陥入部分が歯周組織へ通じていても、主根管の歯髄とは独立している症例があります。

この特徴が、後で紹介する「根の周囲に炎症があるのに、歯髄は生きている」という現象につながります。

分類の数字は、病気の重症度をそのまま表していない

Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型という分類を聞くと、Ⅰ型が軽く、Ⅲ型が重いという病気の段階のように感じるかもしれません。

でも、この分類が直接表しているのは歯の形態です。

陥入部分の深さや開口する位置が異なるという意味であって、必ずしも感染の進行度を示すものではありません。

Ⅲ型でも感染が起こっていない歯があります。

Ⅱ型でも歯髄へ感染が及ぶ場合があります。

分類は治療を考えるための大切な情報ですが、分類番号だけで治療方法が決まるわけではないのです。

2026年には、歯内歯を立体的に捉える新分類も提案された

従来の分類だけでは分からないこと

一本の歯を縦に切った断面を見ると、陥入部分がどこまで深く伸びているかが分かります。

でも、それだけで内部の形をすべて理解できるわけではありません。

今度は、同じ歯を横から輪切りにしてみることを考えてみましょう。

すると、陥入部分が本来の根管から離れた場所にある場合もあれば、根管に食い込むように存在する場合もあります。

さらに、陥入部分の周囲を本来の歯髄腔が取り囲んでいるような、複雑な形態もあります。

縦方向の深さが似ていても、横断面の構造は同じとは限りません。

その違いが、治療の際にどこを削るか、どの空間を清掃するか、健康な歯髄を残せるかという判断に関わってきます。

マンチェスター分類という新しい考え方

2026年6月のBDJ論文で提案されたのが、**マンチェスター分類(Manchester分類)**です。〔2〕

この分類では、歯内歯の内部構造を3つの情報から整理します。

一つ目は、陥入部分が上下方向にどこまで伸びているかです。

これを1〜4で表します。

二つ目は、横断面で陥入部分と本来の歯髄腔がどのような位置関係にあるかです。

これをA〜Cで表します。

三つ目は、陥入部分と本来の主根管との関係です。

これをdまたはpで表します。

1〜4は、陥入部分の上下方向の広がり

1は歯冠内にとどまる構造です。

2は歯根内へ伸びながら、奥が行き止まりになっている構造です。

3は歯根の側面へ開口する構造です。

4は歯根の先端方向へ開口する構造です。

従来のエーラーズ分類と対応しており、陥入部分の縦方向の広がりを整理するための軸になっています。

A〜Cは、陥入部分と歯髄腔の横方向の関係

Aは、陥入部分が本来の歯髄腔から分かれた位置にある形態です。

Bは、陥入部分が歯髄腔へ食い込むように配置されている形態です。

Cは、陥入部分を本来の歯髄腔が取り囲むような形態です。

同じ深さの歯内歯でも、A・B・Cでは治療の難しさが異なる可能性があります。

dとpは、主根管との関係を表す

dは、陥入部分が本来の主根管から独立した構造と判断される場合です。

pは、陥入部分が本来の主根管に関与している可能性が高い場合です。

例えば2Bp型なら、歯根内まで伸びる行き止まり型の陥入部分があり、横断面では本来の歯髄腔に食い込むような配置で、主根管との関係が疑われる状態を表します。

ただし、ここでのpは「歯髄が壊死している」という意味ではありません。

主根管との解剖学的な関係を示すものであり、歯髄が健康かどうかは別に診断する必要があります。

さらに、歯科用CTで三次元的に確認しても、極めて微細な交通まで確実に分かるとは限りません。

新しい分類は、治療成績の改善を証明したものではない

マンチェスター分類は、複雑な形を整理するために提案されたものです。

一方、この分類を採用したら従来より治療成功率が高くなる、と患者さんを無作為に分けて比較した試験で示されたわけではありません。

分類を詳しく理解することと、治療結果が改善することは別の問題です。

それでも、歯の内部にある複雑な構造を整理し、治療計画を考えるうえでは興味深い提案だと思います。

歯の中をただ「細い管がある」と考えるのではなく、実際の立体的な位置関係から理解しようとしているのです。

歯の中の小さな入口が、細菌の通り道になることがある

外から小さく見えても、内部は深い場合がある

歯内歯の問題を理解するうえで、特に大切なのが陥入部分の入口です。

上顎側切歯の裏側に、針の先ほどのくぼみがあるとします。

外から見ると、とても小さな変化かもしれません。

でも、その奥には歯冠の深い位置まで続く空間があり、さらに歯根の内部へ伸びている場合もあります。

小さく細い入口から、歯ブラシの毛先が内部の隅々まで届くとは限りません。

清掃の難しい空間には、食物残渣や細菌が入り込む可能性があります。

もちろん、すべての歯内歯の陥入部分が口腔内へ開いているわけではありません。

また、開口しているから必ず感染するわけでもありません。

それでも、通常とは異なる深い空間が形成されていることは、感染リスクを考えるうえで重要です。

エナメル質に覆われていても、完全な壁とは限らない

歯内歯の陥入部分には、エナメル質に裏打ちされた構造が存在することがあります。

しかし、その内壁が常に均一で完全なエナメル質によって覆われているわけではありません。

部分的にエナメル質が不完全だったり、う蝕によって歯質が失われたりする場合があります。

また、陥入部分と本来の歯髄との間にある象牙質が非常に薄いこともあります。

こうした条件が重なると、細菌や細菌由来の物質が歯髄へ影響する可能性があります。〔6〕

通常の大きなむし歯が歯冠表面に見えなくても、内部で感染が問題になる場合があるのは、このためです。

感染経路①:陥入部から本来の歯髄へ

陥入部分で細菌が増え、その影響が本来の歯髄に及んだ場合、歯髄炎や歯髄壊死につながることがあります。

歯髄が感染によって壊死すると、その感染が歯の根の先端(根尖)付近の組織へ広がり、根尖性歯周炎を引き起こす場合があります。

これは一般的な根管感染と共通する部分です。

ただし、歯内歯の場合には、普通とは違う陥入構造が感染の入口や進行経路になることがあります。

感染経路②:陥入部から直接、歯周組織へ

もう一つの経路が、今回のテーマで特に面白い部分です。

Ⅲ型などでは、陥入部分が歯根の側面や先端方向から歯周組織へ通じています。

その通路に細菌感染が成立すると、本来の歯髄を通らずに歯根周囲の組織へ炎症が広がる場合があります。

つまり、同じ一本の歯の中に、

「本来の歯髄が入っている主根管」

と、

「歯内歯によって形成された陥入部分」

が存在し、それぞれの感染状態が異なることがあるのです。

根の周りに病変があっても、神経が生きている?

ここで、最初の疑問に戻ります。

通常、歯の根の先にX線透過像(レントゲンで黒っぽく見える部分)が見られると、歯髄の感染や壊死が原因ではないかと考えることがあります。

もちろん、それは重要な可能性の一つです。

しかし、歯内歯では、陥入部自体が歯周組織へ通じる感染経路になる場合があります。

その場合、本来の主根管の歯髄は生活反応を保ったまま、陥入部の周囲に炎症が生じることがあるのです。

この病態は、陥入周囲歯周炎などと呼ばれます。

歯の根の周りに病変があることと、本来の歯髄が壊死していることは、常に同じではありません。

だからこそ、歯内歯の診断では、どこに感染があり、どの組織が生活反応を保っているのかを分けて考える必要があるのです。〔6・9・10〕

痛みがない歯内歯もある――どんな症状が見られる?

何も症状がないまま見つかることもある

歯内歯があるからといって、必ず痛みが出るわけではありません。

う蝕がなく、歯髄も健康で、根の周りに病変がない場合もあります。

こうした歯内歯は、別の理由で撮影したX線写真で偶然見つかる場合があります。

2026年9月26日の「パノラマ写真は目的の歯だけ見ればいい?25研究・6万6882人で分かった『偶発所見』」でも、陥入歯のような形態異常が画像から見つかることを紹介しました。

今回のテーマでは、さらにその内部構造と治療に踏み込んでいます。

歯の形が違うことに気づく場合

歯内歯のある歯は、円錐状、樽状、あるいは舌側に大きな結節を持つ形になることがあります。

上の側切歯が左右で明らかに違う形をしている場合、診査によって形態異常が見つかることもあります。

ただし、歯の形が違うからといって、すべて歯内歯というわけではありません。

歯の色が変わる場合

歯髄に病変が生じると、歯の変色が見られる場合があります。

しかし、歯の変色には外傷、修復物、着色など多くの原因があります。

歯内歯の存在や歯髄の壊死を、色だけで確定することはできません。

歯肉に小さな腫れや瘻孔ができる場合

陥入部分から歯周組織へ感染が広がると、歯肉に腫れが生じたり、膿の出口となる瘻孔(ろうこう)が形成されたりする場合があります。

このような症状があると、患者さんは「歯肉の病気かな」と感じるかもしれません。

でも、原因が歯の内部の陥入部分にある場合もあります。

ただし、瘻孔や腫れを引き起こす原因は歯内歯だけではありません。

通常の根尖性歯周炎、歯周病、歯根破折なども含めて評価する必要があります。

痛みがないから大丈夫、とは限らない

歯内歯に限った話ではありませんが、歯や歯根周囲の病変が必ず強い痛みを伴うわけではありません。

症状の有無だけで病変の有無を判断せず、診査と必要な画像検査を組み合わせることが大切です。

先生は何を確認している?歯内歯の診査

まずは歯冠の形と歯肉の状態

歯内歯が疑われる場合、歯科医師は歯冠の形や表面のくぼみを確認します。

特に上顎前歯の舌側に深い小窩がないか、修復物がないか、う蝕が存在しないかなどを調べます。

同時に、歯肉の腫れ、瘻孔、変色、歯周組織の状態も確認します。

ここで大切なのは、見た目だけで結論を出さないことです。

歯内歯は、歯冠の形がほぼ正常な場合もあります。

また、歯冠が変形していても、内部の陥入がどこまで続いているかは表面から分からないことがあります。

冷たい刺激や電気による歯髄の検査

歯科医院では、歯の神経の状態を調べるために、冷刺激試験や電気歯髄診を行う場合があります。

例えば、冷たい刺激を与えたときに反応があるか、電気刺激に反応するかを確認します。

これらは、主に歯髄の感覚神経の反応を調べる検査です。

ただし、反応があることだけで歯髄全体が完全に健康だと証明できるわけではありません。

また、反応がないことだけで、必ず歯髄壊死と確定するわけでもありません。

歯の形成段階、過去の外傷、検査条件などによって結果が変わることがあります。

それでも、歯内歯では主根管側の歯髄が生活反応を保っているかどうかを判断することが、治療方法の選択に大きく関わります。

この検査については、以前の「歯医者で歯に冷たいものや電気を当てるのはなぜ?冷温度診・電気歯髄診で『歯の神経』をどう調べる?」でも紹介しています。

打診・触診・歯周ポケットの検査

歯を軽くたたいたときの反応や、根の周囲の歯肉を触れたときの反応を確認する場合もあります。

歯を軽くたたいて痛むことを**打診痛(だしんつう)**と呼びます。

歯周ポケットの深さを測定し、限局した深いポケットがないか調べることもあります。

これらは、歯根周囲組織の状態を把握するための大切な検査です。

ただし、打診痛があるから歯内歯、深い歯周ポケットがあるから歯内歯というように、一つの所見から診断を決めるわけではありません。

一つひとつの検査結果を合わせて考える

歯内歯の診断では、

歯の外形はどうなっているか。

歯髄には生活反応があるか。

歯周組織に炎症があるか。

X線写真にはどんな異常が見えるか。

陥入部と主根管はどのような位置関係にあるか。

こうした情報を総合して評価します。

歯科助手として診査の流れを学ぶと、先生がいくつもの検査を組み合わせる理由が少しずつ分かってきます。

特に歯内歯では、歯の内部に存在する複数の空間を区別することが、その後の治療方針につながるのです。

デンタルX線写真と歯科用CTでは、何が分かる?

デンタルX線写真では、特殊な輪郭が見えることがある

歯内歯では、デンタルX線写真に特徴的な構造が見える場合があります。

通常の歯冠や根管とは異なる、白っぽい輪郭。

その中にある黒っぽい空間。

陥入部分が深い場合には、歯根内部へ続く複雑な構造として写ることがあります。

ただし、X線写真は立体的な構造を平面に投影したものです。

本来の根管と陥入部が重なり、実際の位置関係が分かりにくくなることがあります。

必要に応じて、撮影角度を変えて確認する場合もあります。

歯科用CTでは、歯の内部を三次元的に確認できる

歯科用CT(CBCT)は、歯や顎骨を三次元的に評価するための画像検査です。

歯内歯が複雑な形態をしている場合には、縦断面だけでなく横断面や冠状断などを組み合わせて内部構造を確認できます。

例えば、歯冠の舌側に小さな入口があったとします。

その入口が歯根のどこまで続いているのか。

本来の根管の頬側にあるのか、口蓋側にあるのか。

根管と重なっているように見えても、実際には独立しているのか。

さらに、病変が歯根のどの位置に存在するのか。

こうした情報を検討する助けになります。

2026年6月のBDJ論文では、デンタルX線写真と歯科用CTの断面画像を組み合わせて、歯内歯の複雑な内部形態が示されています。〔2〕

CTを見れば、すべてが分かるわけではない

ここも重要な点です。

歯科用CTは立体的な構造の把握に役立ちますが、極めて薄い歯質や微細な交通の有無まで確実に判別できるとは限りません。

画像上では分離して見えていても、実際の処置中に交通が確認される場合があります。

そのため、画像だけで診断のすべてが決まるわけではありません。

歯髄の感覚検査、臨床症状、歯肉の所見などと合わせて判断する必要があります。

歯内歯があれば、必ず歯科用CTを撮るの?

いいえ。

歯内歯が見つかったという理由だけで、全例に歯科用CTを撮影する必要があるとは限りません。

2025年に改訂された米国歯内療法学会(AAE)と米国口腔顎顔面放射線学会(AAOMR)の共同声明でも、歯科用CTを通常の根管治療診断や一律の検査に使用することは推奨されていません。〔18〕

通常の診査や二次元X線写真で必要な情報が得られる場合には、それらが適切なこともあります。

一方、歯内歯のように内部形態が非常に複雑で、治療する位置や感染経路を正確に把握する必要がある場合には、歯科用CTが重要な情報を提供することがあります。

既存の「歯医者のCTはなぜ3方向を見る?十字線で同じ歯を断面から追う理由」では、歯科用CTを複数の方向から観察する意味を説明しています。

今回の歯内歯は、その考え方が治療計画と直接結び付く例の一つです。

歯内歯が見つかったら、必ず治療するの?

感染のない歯内歯には、予防という選択肢がある

歯内歯が見つかったとき、すぐに根管治療が必要になるとは限りません。

歯髄が健康で、陥入部分にも感染がなく、根の周囲に病変がない場合には、予防的な対応が検討されます。

例えば、陥入部分の入口が口腔内へ開いていて、細菌や食物残渣が入り込みやすい形態なら、レジンなどで入口を封鎖することがあります。

その目的は、細菌の侵入やう蝕のリスクを減らすことです。

もちろん、すべての歯内歯に同じ処置を行うわけではありません。

入口の形、陥入の深さ、う蝕の有無、歯髄や歯周組織の状態などによって対応が変わります。

なぜ、入口を塞ぐことに意味があるの?

歯内歯が問題になる理由の一つは、内部に清掃しにくい空間ができることです。

もし細菌が侵入する入口を管理できれば、内部の感染を予防するための対応になります。

つまり、深い陥入部分が存在するからといって、最初から内部を大きく削らなければならないわけではありません。

病気が起こる前の段階で、入口を封鎖して経過を見守る方法もあります。

予防のために、内部を大きく削った方がいいの?

必ずしもそうではありません。

複雑な歯内歯では、陥入部分と本来の歯髄が非常に近接していることがあります。

2026年6月のBDJ論文では、無症状で病変のない複雑な歯内歯に対して、不必要に器具を入れて陥入部を清掃しようとすると、治療によって誤って歯髄を露出させる可能性があることが指摘されています。〔2〕

感染していない部分を無理に削ることで、かえって健康な組織を傷つける可能性があるのです。

必要以上に削らないことも、歯を守るための大切な判断だと分かります。

経過観察も治療の一部

予防的に封鎖した場合や、すぐに処置を必要としない場合でも、その後の経過観察が重要です。

封鎖部分に問題がないか。

う蝕が発生していないか。

歯髄に異常がないか。

根の周囲に変化が生じていないか。

必要に応じて確認することになります。

本来の神経が健康なら、陥入部分だけを治療できることもある

陥入周囲歯周炎という、少し特殊な病態

ここからが、今回の歯内歯の中で特に興味深いところです。

通常、歯の根の周りに炎症がある場合には、歯髄の感染や壊死が原因となることがあります。

しかし歯内歯では、本来の歯髄とは別の陥入部分から、歯周組織へ感染が広がる場合があります。

特にⅢ型のように陥入部分が歯周組織へ開口する形態では、陥入部そのものに感染が成立する可能性があります。

こうした陥入部に関連する炎症は、陥入周囲歯周炎などと呼ばれます。

感染している場所だけを治療するという発想

もし本来の主根管が健康で、感染が陥入部分に限局していると判断できれば、陥入部分を対象にした処置を検討できます。

その場合、健康な歯髄を含む本来の主根管には、不必要に介入しないことが大切です。

ただし、見た目だけで「陥入部だけが感染している」と判断することはできません。

歯髄感覚検査、画像所見、症状、陥入部と主根管の位置関係などを慎重に評価する必要があります。

清掃と洗浄も、普通の根管とは条件が違う

陥入部分は、エナメル質や象牙質などの硬い組織に囲まれた複雑な空間です。

形態によっては、器具が入りにくかったり、細菌が残りやすい場所があったりします。

そのため、歯科用顕微鏡などで入口を拡大して確認したり、超音波器具を利用したり、洗浄液を使って感染の原因を減らす処置が検討されます。

一方、陥入部分が歯周組織へ開口している場合には、洗浄液や充填材が根の外へ過剰に出ないように注意する必要があります。

感染を十分に制御することと、周囲の組織を傷つけないことの両方が重要です。

「できるだけ削らない」と「感染源を残さない」の両立

健康な歯髄を保存したいからといって、感染源を十分に処置しなくてもよいわけではありません。

逆に、感染があるからといって、すべての歯内歯で主根管を含めて大きく削ればよいというわけでもありません。

その歯の内部がどのような構造なのか。

感染しているのはどの空間なのか。

本来の歯髄との交通は疑われるのか。

必要な処置を行うために、どこまで歯質を除去する必要があるのか。

これらを考えながら、歯科医師は治療方針を選びます。

歯内歯の治療では、健康な部分をできるだけ守りながら、感染の原因となる部分へ適切に対応することが重要なのです。

歯髄にも影響が及んだとき、治療はどう変わる?

陥入部と歯髄がつながっていても、神経を残せる場合がある

歯内歯の陥入部分と本来の歯髄が非常に近い場合、処置中に歯髄との交通が確認されることがあります。

その場合、必ずすべての歯髄を除去しなければならないのでしょうか。

実は、そうとは限りません。

歯髄の状態によっては、歯髄をできるだけ残す治療(生活歯髄療法)が検討される場合があります。

2026年6月のBDJ論文のFigure 8には、2Bp型の歯内歯に対し、陥入部の処置中に本来の歯髄との交通が確認され、部分断髄を行った症例が掲載されています。〔2〕

この症例ではCvek法による部分断髄、つまり露出部付近の歯髄の一部を除去し、残りの歯髄の保存を目指す処置が行われました。

その後、ケイ酸カルシウムを主成分とする歯科用材料を使用し、最終的にコンポジットレジンで修復しています。

ここで特に注意したいのは、陥入部と歯髄が交通したことだけで、歯髄に不可逆的な感染が成立していたと断定できるわけではないことです。

「歯髄が露出した」「歯髄が炎症を起こしている」「歯髄が壊死した」は、それぞれ違う状態です。

また、これは一つの症例です。すべての歯髄露出症例で部分断髄が適切という意味ではありません。

歯髄が露出した原因、炎症の状態、出血や止血の状況、封鎖の条件などを評価する必要があります。

生活歯髄療法そのものについては、院長コラム「歯の神経を可能な限り救う治療:生活歯髄断髄法を再考察する」でも詳しく解説しています。

歯内歯の特殊な内部構造に対する処置と、生活歯髄療法一般の適応や科学的根拠は、分けて理解することが大切です。

本来の歯髄が壊死していた場合

主根管側の歯髄が壊死している場合には、主根管に対する根管治療が必要になることがあります。

ただし、陥入部分も必ず一緒に除去するとは限りません。

陥入部が本来の主根管から独立していて、陥入部自体には問題がない場合には、主根管を中心とした治療が検討されます。

6月BDJ論文のFigure 9は、こうした違いを理解する助けになる症例です。

陥入部分と本来の根管の両方を治療する場合

一方、陥入部と主根管の両方に感染がある場合には、両方を対象にした根管治療が必要になることがあります。

それぞれ独立した空間であれば、別々の根管として清掃・形成・封鎖する場合があります。

ただし、途中で交通していたり、陥入部分が主根管の中へ食い込んでいたりすると、治療はさらに複雑になります。

器具による清掃だけでは届きにくい部分があれば、化学的な洗浄の役割も重要になります。

2022年のHernándezらによる症例集積では、根尖性歯周炎を伴う歯内歯の上顎切歯6症例に対して、それぞれの複雑な解剖学的形態を踏まえた根管治療が報告されています。〔15〕

このような報告からも、歯内歯の根管治療では、単に細い器具を奥まで入れるのではなく、感染した空間を把握し、清掃と封鎖を計画することが重要だと分かります。

陥入部分を除去した方がよい場合もある

内部の構造が非常に複雑で、陥入部分が本来の歯髄腔に囲まれているような形態では、陥入構造の除去を検討する場合があります。

一方、陥入部の除去によって歯質が大きく失われたり、治療によって歯の内部と外部を誤ってつなぐ穴(穿孔)が生じたりするリスクもあります。

そのため、どの症例でも同じ方法を選ぶわけではありません。

2017年にZhuらが発表した診断・治療に関するレビューでも、歯内歯の内部形態と歯髄の状態を踏まえ、保存的な対応から複雑な根管治療までを検討する考え方が整理されています。〔17〕

2026年6月のBDJ論文は、こうした位置関係と歯髄の状態を組み合わせた治療方針をさらに詳しく整理しています。〔2〕

歯科助手から見た、処置の意味

普段の根管治療でも、細いファイルや洗浄液、根管充填材など、さまざまな器具・材料を使用します。

でも歯内歯では、通常の根管とは違う場所に空間ができている場合があります。

そのため、まず「どの空間を治療するのか」を理解する必要があります。

以前の「根管治療の日は何をしている?麻酔・隔壁・清掃・薬の交換の流れ」では、通常の根管治療工程を紹介しました。

今回の歯内歯では、その工程に進む前の、内部構造を見極める判断が特に重要になります。

子どもの未完成な永久歯では、神経を残す意味がさらに大きい

永久歯は、生えたときに根まで完成しているわけではない

永久歯は、歯冠が口の中に生えてきた時点で、すべての歯根形成が終わっているとは限りません。

萌出した後もしばらく歯根形成が続く歯があります。

この時期の歯は、根の先端がまだ大きく開いていたり、根管壁が薄かったりします。

このような歯を未完成永久歯と呼びます。

健康な歯髄を残すことは、歯根形成にも関係する

未完成永久歯で歯髄を健康な状態に保つことができれば、その後の歯根形成が続く可能性があります。

そのため、子どもの歯内歯では、感染を治療するだけでなく、本来の歯髄を残せるかという点が特に重要になります。

もちろん、すべての症例で歯髄保存が可能とは限りません。

しかし、主根管の歯髄が健康な場合には、その状態を守ることが将来の歯の発育にも関わる場合があるのです。

下の前歯の歯内歯で、歯根形成が続いた症例もある

2020年にLeeらが報告した症例では、9歳男児の下顎左側中切歯にⅢ型歯内歯が認められました。〔13〕

下顎中切歯は、歯内歯が比較的まれな場所です。

この歯は未完成永久歯であり、根の先端が開いていて、根の周囲にレントゲンで黒く見える病変がありました。

実は初診時、電気歯髄診では反応が認められませんでした。

それでも、歯根がまだ完成していないことから、その検査結果だけで本来の歯髄が壊死していると決めつけることはできない、と著者らは判断しました。

これは、先ほど紹介した「感覚検査で反応がないことだけでは歯髄壊死を確定できない」という注意点を示す実際の例です。

さらに画像診断と臨床所見を組み合わせ、主根管と陥入部の関係が評価されました。

治療では陥入部分を清掃し、MTAという封鎖材料で陥入部を充填する方法が選択されました。

本来の主根管には不必要に介入せず、歯髄を保存する方針が取られています。

2年間の経過観察では症状がなく、冷刺激や電気歯髄診に反応が認められ、根の周囲の病変の改善に加えて、主根管側の歯根形成と根尖閉鎖が報告されました。

ただし、この患者さんも一症例です。

歯髄を残すことができれば、すべての未完成永久歯で同じように根が完成するという証明ではありません。

すでに歯髄が壊死している場合はどうする?

未完成永久歯で歯髄壊死が起こると、根の先端が広く開いた状態のままになる場合があります。

そのような歯では、通常の根管充填とは異なる配慮が必要になることがあります。

例えば、ケイ酸カルシウム系の歯科用材料を利用して根の先端に封鎖のための壁を設ける方法や、症例に応じて再生的歯内療法を検討する場合があります。

再生的歯内療法は、未完成永久歯で組織の修復や歯根発育を目指して行う治療の一つですが、すべての症例で正常な歯髄が再生することを意味するものではありません。

こうした方法によって、必ず正常な歯髄が再生したり、歯根形成が完了したりするわけではありません。

患者さんの年齢、歯根の形成段階、感染状態、残存歯質などによって適応が変わります。

歯内歯が早く見つかる意味

感染が起こる前に形態異常を把握できれば、必要に応じて予防的な封鎖や経過観察を行うことができます。

もちろん、早期発見によってすべての感染を防げると証明されているわけではありません。

それでも、複雑な根管治療が必要になる前にリスクを評価できることは、臨床的に重要です。

特に未完成永久歯では、健康な歯髄を維持する意義が大きい場合があります。

日本の症例――歯肉に瘻孔があっても、神経を残せた17歳女性

松本歯科大学から報告された症例

ここからは、実際の医学論文に掲載された治療症例を見ていきます。

最初に紹介したいのは、日本から報告された症例です。

2024年、日本歯内療法学会雑誌に、三好弥恵らによる症例報告が掲載されました。〔9〕

タイトルは、「Oehlers Type Ⅲを伴う陥入歯の陥入周囲歯周炎に対し歯髄温存療法が成功した一症例」です。

患者さんは17歳の女性でした。

右上の前歯の歯肉に違和感や腫れがあり、瘻孔が見られるようになったため、紹介を受けて松本歯科大学病院を受診しています。

問題となっていたのは、上顎右側側切歯でした。

歯肉に瘻孔があるのに、歯髄は生活反応を示していた

歯肉に瘻孔があると、根管内感染によって歯髄が壊死している可能性を考えることがあります。

ところが、この患者さんでは電気歯髄診で生活反応が認められました。

さらに、病的な歯周ポケットも認められませんでした。

つまり、歯根周囲の病変は存在しているものの、本来の主根管の歯髄が感染・壊死しているとは限らない状態だったのです。

原著では、初診時に自発痛はなく、歯を軽くたたく検査には反応がありましたが、噛んだときの痛みや歯根先端付近を押したときの痛みは認められなかったと記載されています。

電気歯髄診では、反対側の同名歯と大きく異ならない反応が確認されました。

この段階で、歯科医師が歯髄の反応を詳しく確認する意味が分かります。

もし根の周囲に病変があるというだけで、すぐに主根管の歯髄を除去してしまったら、生活している歯髄に対して不必要な処置を行うことになるかもしれません。

歯科用CTで、陥入部分と主根管の関係を確認

この患者さんでは、歯科用CTを用いて歯根内部の形態が詳しく評価されました。

その結果、陥入部分が歯根の側面方向へ通じるⅢa型の歯内歯が確認されました。

通常の前歯とは異なる複雑な歯根形態をしており、陥入部と主根管の位置関係が治療計画を考えるうえで重要になりました。

診断では、本来の歯髄の生活反応が認められることも踏まえ、陥入部分の感染を中心に処置する方針が検討されました。

なお、最初から処置の結果が保証されていたわけではありません。

原著では、十分な改善が得られなければ外科的な歯内療法も検討することを患者さんと保護者に説明し、同意を得ています。

初回処置:感染した陥入部分へアクセス

治療では、ラバーダム防湿と歯科用顕微鏡による拡大視野のもとで、陥入部分へアクセスしています。

ラバーダムは、治療する歯を口腔内の唾液などから隔離するためのゴム製のシートです。

根管治療や感染した陥入部の処置では、細菌の再侵入をできるだけ抑えることが重要になります。

初回処置では、局所麻酔とラバーダム防湿を行った後、歯科用顕微鏡下で盲孔から陥入部へアクセスしました。

原著では、陥入部に到達した後に大量の排膿が認められたと記載されています。

そのため、生理食塩水による洗浄が行われ、歯科用軟膏が陥入部へ貼薬されました。

なお、ここで使用された薬剤はペリオフィール歯科用軟膏2%です。

原著では患者さんへの十分な説明と同意があり、大学の研究倫理委員会の承認を受けた処置であることが記載されています。

この薬剤の使用を、すべての歯内歯に対する標準的な治療法として一般化することはできません。

この症例の条件に基づいて実施された処置として理解する必要があります。

2回目の処置:瘻孔は消失したが、打診痛と冷水痛が残っていた

初回処置から約1か月後、2回目の治療が行われました。

ここで原著の経過を詳しく確認すると、少し意外なことが分かります。

初回処置によって瘻孔は消失していたものの、患歯にはまだ打診痛と冷水痛が認められていました。

つまり、膿の出口が見えなくなったからといって、すべての症状がなくなったわけではありません。

一方、電気歯髄診では引き続き生活反応が認められました。

このため、本来の歯髄の状態を確認しながら、陥入部に対する追加処置が行われました。

局所麻酔下で陥入部分を再度拡大し、次亜塩素酸ナトリウムと超音波装置を使用して洗浄しています。

その後、水酸化カルシウム製剤が陥入部分に貼薬されました。

次亜塩素酸ナトリウムは、根管治療でも使用される洗浄液です。

感染の原因となる微生物や有機物に対して重要な役割を持ちます。

ただし、組織への刺激性があるため、特に歯周組織へ開口する陥入部では、洗浄液が根の外へ過剰に出ないよう注意が必要です。

水酸化カルシウムは、根管内に薬剤を置いておく処置(根管内貼薬)として利用される材料の一つです。

この材料の役割については、「根管治療中に入れる白い薬は何のため?水酸化カルシウムの役割と薬だけでは治らない理由」でも詳しく紹介しています。

3回目の処置:打診痛は消えたが、軽い冷水痛が残っていた

初回処置から約2か月後、3回目の治療が行われました。

この時点では打診痛は消退していました。

しかし、軽度の冷水痛は残っていました。

電気歯髄診では、引き続き生活反応が確認されています。

つまり、症状は改善しているものの、完全に消失したわけではない段階で、歯髄の反応も確認しながら治療を進めていたのです。

このとき、陥入部分から鮮血が認められました。

歯科の処置で出血を見ると、歯髄と直接つながっていたのではないかと考えたくなるかもしれません。

しかし、この症例では、鮮血が認められたことだけで本来の歯髄との交通が確定したわけではありません。

著者らは、陥入部の最も細い部分(狭窄部)付近へ何らかの刺激が加わった可能性を考察しています。

さらに、歯科用CTで確認した陥入部分の形態を踏まえ、どこまで処置するかを慎重に判断しています。

原著では、陥入部の最も細い場所の直径が約0.6mmであったことも記載されています。

このような細かな構造を考慮しながら、周囲組織への影響をできるだけ抑える方針が取られました。

陥入部分をMTAセメントで封鎖

3回目の処置では、陥入部分をMTAセメントで封鎖しました。

MTAセメントは、歯の内部や歯根の先端を封鎖する際などに使われるケイ酸カルシウム系の歯科材料です。

根管治療や、歯に誤って穴が開いた部分の修復、根尖部の封鎖などで利用される場合があります。

この症例では、陥入部の内部構造と出血の状況を踏まえ、MTAセメントを使用する方針が選択されています。

原著では、材料が歯根周囲組織へ過剰に押し出されないよう、圧接を控えめに行ったことも考察されています。

生活反応を保つ歯髄や周囲組織へ余分な刺激を与えないよう配慮しながら、陥入部分の封鎖が行われたのです。

ここで最も大切なのは、MTAという材料の名前だけではありません。

感染した陥入部分を対象に処置しながら、本来の主根管の歯髄を残すことを目指したという点です。

MTA封鎖から2か月後:冷水痛が消退

ここからは、MTAセメントで陥入部分を封鎖した後の経過観察です。

初回処置からの経過と、封鎖後の経過観察期間は区別して考える必要があります。

MTA封鎖後2か月の時点では、冷水痛の消退が確認されました。

電気歯髄診では、初診時と比べて刺激への反応の閾値に変化が見られたものの、反対側の同名歯と大きく異ならない生活反応が認められています。

また、デンタルX線写真と歯科用CTでは、歯根周囲の透過像に縮小傾向が認められました。

処置前にあった症状が改善し、画像上でも病変の縮小が確認された段階です。

MTA封鎖から3か月後:症状の再発は認められなかった

封鎖後3か月では、自発痛、打診痛、冷水痛、瘻孔の再発は認められませんでした。

電気歯髄診では生活反応が確認されています。

ただし、症状がないことだけで、歯根周囲組織の治癒がすべて完了したと判断するわけではありません。

その後も経過観察が続けられました。

MTA封鎖から8か月後:透過像はさらに縮小傾向

封鎖後8か月では、不快症状がなく、良好に経過していました。

電気歯髄診でも生活反応が確認されています。

歯科用CTでは、陥入部周囲の透過像が縮小する傾向が認められました。

これは、感染源に対応した後、周囲組織の状態が徐々に改善していく過程を示す所見です。

MTA封鎖から11か月後:症状の再発なし

封鎖後11か月でも、それまでと同様に症状の再発は認められませんでした。

原著では、この時点でも経過観察が継続されています。

MTA封鎖から18か月後:骨梁様硬組織の形成

封鎖後18か月では、引き続き症状の再発は認められませんでした。

歯科用CTでは透過像の縮小に加えて、骨の内部に見られる細かな梁状の構造に似た硬組織(骨梁様硬組織)の形成が確認されています。

治療後の病変を評価するときには、症状だけではなく、こうした画像上の変化も重要になります。

MTA封鎖から27か月後:良好な経過と歯冠形態の修復

封鎖後27か月でも、不快症状の再発は報告されていません。

デンタルX線写真では、根の先端付近のX線不透過性(白く見える部分)の増加が認められました。

また、患者さんの希望に応じて、コンポジットレジン(歯の形を修復する歯科用樹脂)による歯冠形態の修復が行われています。〔9〕

この症例は、歯内歯の陥入部分を選択的に治療することで、歯髄の生活反応を維持しながら病変の改善が得られる場合があることを示しています。

一方で、治療途中には打診痛や冷水痛が残り、その後の経過観察を通じて改善が確認されていました。

一度処置したからすぐにすべてが解決した、という単純な経過ではありません。

症状、歯髄の感覚反応、画像所見を繰り返し確認しながら、長期的に評価していたのです。

ただし、これは一症例の報告です。

すべてのⅢa型歯内歯で同じ治療を行えば、必ず歯髄を保存できるという証明ではありません。

この症例では立体模型も作られていた

さらに興味深いのは、歯科用CTのデータから**歯の立体模型(3Dプリント模型)**を作成し、歯根の複雑な構造の理解に利用していたことです。

平面の画像だけでなく、立体的な模型として確認することで、陥入部と主根管の位置関係を把握する助けになります。

原著には、歯全体の立体模型だけでなく、石灰化度の高い部分を中心に再現した模型も掲載されています。

こうした模型から、陥入部の開口部と本来の根尖孔の位置関係が視覚的に分かりやすくなります。

ただし、模型で形を見ることと、実際に器具の進む方向を誘導するガイドを使うことは別です。

後で紹介する9歳男児の症例では、治療のための専用ガイドが使用されています。

この2つの技術の違いも、歯内歯の診療におけるデジタル技術の面白いところです。

広島大学からも、陥入部分だけを治療した2症例が報告されている

ここでもう一つ、日本の症例を紹介します。

2025年、日本歯内療法学会雑誌に、広島大学の西藤–中山法子らによる報告が掲載されました。〔10〕

「上顎側切歯の陥入周囲歯周炎に対して陥入部の根管治療が奏効した2症例」という論文です。

対象となったのは、18歳の男性と11歳の男児でした。

どちらも上顎側切歯にⅢa型の歯内歯があり、陥入部分の感染に関連する陥入周囲歯周炎と診断されました。

ここでもう一つ注目したいのが、両症例とも上顎側切歯が矮小歯だったという点です。

矮小歯とは、通常より小さな形態を示す歯のことです。

歯内歯は外から見てほぼ正常な歯にも認められますが、この2症例では歯の外形にも特徴がありました。

もっとも、矮小歯だから必ず歯内歯があるというわけではありません。

外見の特徴は診査の手がかりになる場合がありますが、内部の形態は別に評価する必要があります。

両症例では歯科用CTを用いて内部形態を確認し、陥入部分に対する根管治療と充填を行っています。

本来の歯髄が入っている主根管には処置を加えず、陥入部分だけを治療しました。

2症例とも歯髄炎を示す症状はなく、陥入周囲のX線透過像の縮小が報告されています。

著者らは、臨床症状、電気歯髄診による生活反応、陥入部と主根管の位置関係を評価することが重要だと述べています。

広島からも、このように歯髄を守る治療を考えた症例が報告されているのです。

ただし、この報告も2症例であり、すべての歯内歯に共通する成功率を示すものではありません。

また、透過像の縮小が報告されていることと、すべての評価項目で完全治癒が確認されたことは区別する必要があります。

それでも、松本歯科大学の症例と合わせて読むと、本来の歯髄を残すという治療方針が、特定の一施設だけの考え方ではないことが分かります。

大阪大学の症例――11歳女児の複雑な前歯を根管治療で保存

今度は、上顎側切歯ではなく中切歯

次に紹介するのは、大阪大学のInoueらが2024年に報告した症例です。〔11〕

患者さんは11歳の女児でした。

問題となっていたのは上顎左側中切歯です。

中切歯は、前歯の中央にある大きな歯です。

歯内歯は上顎側切歯に多いとされていますが、このように中切歯に認められる場合もあります。

患者さんには自発痛があり、根の先端付近にレントゲンで黒く見える病変(X線透過像)が認められました。

症候性根尖性歯周炎と診断され、複雑な歯内歯のため大学病院へ紹介されています。

歯科用CTではⅢa型の陥入構造が確認された

歯科用CTを用いた評価では、陥入部分が歯根側面の歯周組織へ通じていることが確認されました。

エーラーズ分類ではⅢa型です。

ただし、この症例では先ほどの松本歯科大学の症例とは異なり、非外科的な根管治療が必要と判断されました。

つまり、同じⅢa型という分類でも、患者さんの症状、感染の状態、内部の位置関係などによって治療方法が異なるのです。

歯科用顕微鏡やニッケルチタン製の器具を使った治療

治療では、歯科用顕微鏡によって内部構造を確認し、ニッケルチタン製ファイルや超音波器具を用いた清掃・形成が行われました。

ニッケルチタン製ファイル(NiTiファイル)は、しなやかなニッケルチタン合金で作られた、根管治療に使用する細い器具です。

根管の形に沿って清掃・形成を進めるために利用されます。

ただし、歯内歯では通常と異なる硬組織や複雑な空間が存在するため、単に器具を奥へ進めればよいというわけではありません。

主根管と陥入部分の形態を確認しながら処置する必要があります。

水酸化カルシウムとシングルコーン法

この症例では、水酸化カルシウムペーストを根管内貼薬として使用しています。

その後、ケイ酸カルシウム系の根管封鎖材とガッタパーチャを用いたシングルコーン法による根管充填が行われました。

ガッタパーチャは根管の内部を埋めるために使う材料です。

シングルコーン法は、主に1本のガッタパーチャと根管封鎖材を用いて根管を満たす方法です。

ただし、この症例が良好に経過したからといって、シングルコーン法がほかの根管充填法より優れていると証明されたわけではありません。

重要なのは、感染した複雑な根管系を清掃・消毒し、適切に封鎖することを目指して治療が行われた点です。

2年後には良好な経過を認めた

この患者さんは、2年間の経過観察で臨床症状が認められず、歯科用CTでも病変が確認されなかったと報告されています。〔11〕

先ほどの歯髄保存症例とは、治療方法が違います。

一方は本来の歯髄を維持するため、陥入部分だけに処置を行いました。

もう一方は、主根管を含む複雑な根管系への治療が必要でした。

同じ歯内歯という名前でも、何を治療するかは同じではない。

この違いが、実際の症例を比べるとよく分かります。

2026年の症例――9歳男児の歯内歯をガイドで治療し、歯髄を保存

根が完成していない上顎側切歯

さらに新しい症例も見つかりました。

Abella Sansらによる症例報告で、2025年12月にオンライン公開され、2026年の『International Endodontic Journal(国際歯内療法専門誌)』に掲載されたものです。〔12〕

患者さんは9歳の男児でした。

上顎左側側切歯にⅢa型の歯内歯があり、口蓋側に瘻孔が認められました。

歯根はまだ完成していない未完成永久歯でした。

一方、本来の歯髄は、診査上は健康な状態と判断されました。

どうやって、感染した陥入部分だけを治療する?

この症例で興味深いのは、ガイドを用いた治療が行われたことです。

歯内歯の内部は、通常の根管とは大きく異なる構造をしている場合があります。

特に、本来の歯髄を傷つけずに感染した陥入部分だけへアクセスしたい場合、器具をどの方向から進めるかが重要です。

そこで、この症例では三次元のデジタル情報を利用して、陥入部分へ選択的にアクセスするための専用ガイドが設計されました。

ガイドは、目的の場所へ到達するための補助

この方法では、歯の内部構造を事前に評価し、陥入部分へ向かう経路を計画します。

そして、ガイドを利用して、器具を入れるための入口(アクセス窩)を形成します。

目的は、本来の歯髄を傷つけないように配慮しながら、感染した陥入部分へ到達することです。

もちろん、ガイドがあれば絶対に事故が起こらないという意味ではありません。

歯の形態、装置の適合、計画の精度、術者の判断など、さまざまな条件が関係します。

2019年にはAliとArslanも、複数の陥入構造を持つ上顎側切歯に対して、ガイドを利用した根管治療の症例を報告しています。〔16〕

このような報告から、歯内歯の複雑な形態に対して、三次元的な情報を使って治療経路を考える取り組みが以前から行われてきたことが分かります。

ただし、いずれも個別の症例報告であり、ガイド治療がすべての歯内歯に必要だという意味ではありません。

陥入部を封鎖し、本来の歯髄を維持した

感染した陥入部分への処置後、ケイ酸カルシウム系の歯科用材料による封鎖が行われました。

本来の歯髄は温存する方針です。

その後も経過観察が続けられました。

36か月後、歯根形成の完了が報告された

36か月後、患者さんには症状がなく、歯髄の感覚検査では反応が認められました。

画像上では歯根形成が完了し、病変部の骨治癒が確認されたと報告されています。〔12〕

未完成永久歯で健康な歯髄を残すことが、なぜ重要なのか。

この症例は、その意味を理解する助けになります。

ただし、これは一症例の経過です。

ガイドを用いた治療が、すべての歯内歯で同じ結果になるわけではありません。

また、従来の方法より長期的な成功率が高いと比較試験で証明されたわけでもありません。

それでも、複雑な内部形態を三次元的に理解し、必要な場所だけへアクセスするという考え方は、とても興味深いものです。

同じ歯内歯でも、こんなに治療方法が違う

一つの歯に陥入部分が2つある場合

2026年6月のBDJ論文には、二重の陥入部分を持つ症例が掲載されています。〔2〕

Figure 7(論文の図7)の症例です。

この歯では、2つの陥入部分が認められ、それぞれが本来の主根管から独立していると評価されました。

治療では陥入部分を個別に処置し、主根管には不必要に介入しない方法が選択されています。

歯内歯と聞くと、一つの歯に一つの陥入があるように思いがちですが、複数の陥入構造が形成される場合もあるのです。

途中で本来の歯髄と交通している場合

同論文の図8の症例では、陥入部分の処置中に本来の歯髄との交通が確認されました。

この症例では部分断髄が選択されています。

ここから分かるのは、診断時の画像だけでは把握しきれない細かな位置関係が、実際の処置中に確認されることもあるという点です。

そして、その所見によって治療方法が変わることがあります。

なお、この症例で部分断髄が行われた事実だけから、処置前の歯髄に不可逆的な感染があったと決めつけることはできません。

陥入部分と本来の根管を両方治療する場合

同論文の図10には、主根管と陥入部分の関係を評価したうえで、感染した複雑な空間を対象に根管治療を行った症例が掲載されています。

歯内歯の内部構造によっては、陥入部分と本来の根管を完全に別々の空間として扱えない場合があります。

陥入構造を除去した症例

同論文の図11は、10歳児の上顎側切歯に見られた2Cp型の歯内歯です。

歯肉には瘻孔が認められ、歯髄腔が陥入部分を取り囲むような複雑な構造をしていました。

この症例では、陥入構造を除去し、根の先端に封鎖のための壁を設ける処置などを含む根管治療が実施されています。

これまでの歯髄保存症例とは違い、陥入部分だけを選択的に処置して主根管を残すことが適切ではなかった症例です。

歯根の側から陥入する、さらに珍しい形態

歯内歯には、歯冠部ではなく歯根部に陥入構造を持つものもあります。

歯根部歯内歯では、歯根表面の深い溝などが感染制御を難しくすることがあります。

6月のBDJ論文の図12では、歯を一度取り出して問題となる部分を処置し、元の位置へ戻す「意図的再植」を含む特殊な治療が報告されています。

もちろん、このような方法が歯内歯の一般的な第一選択というわけではありません。

歯の保存が非常に難しい症例で検討された、特殊な対応の一つです。

何が治療方法を決めているのか

ここまでの症例を比べると、同じ歯内歯でも治療方法が大きく異なることが分かります。

感染がなければ予防的な封鎖や経過観察が検討されます。

感染が陥入部分に限局し、本来の歯髄が健康であれば、陥入部分だけの処置が検討されます。

歯髄に病変がある場合には、生活歯髄療法や根管治療が必要になることがあります。

複雑な内部構造のため、陥入部を除去したり、外科的な処置を検討したりする場合もあります。

つまり、歯内歯の治療は「歯内歯だからこの方法」という一つの決まった答えではありません。

内部の形と、実際にどこが病気になっているのか。この2つを理解することが大切なのです。

治療した歯内歯は、その後も観察が必要?

治療直後の写真だけでは、結果は分からない

歯内歯の治療で感染源に対応できたとしても、その直後に根の周囲の病変がすべて消えるとは限りません。

根の周りの骨に生じた変化が改善していくには、時間がかかる場合があります。

そのため、治療直後の画像だけで長期的な成功を確定することはできません。

症状がないことと、画像上の治癒は別

痛みや腫れがなくなったことは、治療後の重要な所見です。

しかし、症状がなくなっただけで、根尖周囲組織が完全に治癒したとは限りません。

逆に、治療後の画像に透過像が残っているからといって、直ちに治療失敗と判断できない場合もあります。

経過観察では、症状の変化と画像所見の変化を組み合わせて評価します。

歯髄を残した症例では、生活反応も確認する

本来の歯髄を温存した症例では、その後の歯髄の状態も重要です。

冷刺激試験や電気歯髄診による反応、歯の色、症状などを確認する場合があります。

ただし、こうした感覚検査の反応だけで歯髄の血流を直接証明できるわけではありません。

未完成永久歯では、歯根形成が進んでいるかどうかも評価の対象になることがあります。

封鎖部分や修復物の状態も重要

陥入部を封鎖した材料や、歯冠を修復したコンポジットレジンなどの状態も確認する必要があります。

封鎖部分に破損が生じたり、すき間ができたりすると、再び細菌が侵入する可能性があります。

治療が終わったから、もう何も確認しなくてよいというわけではありません。

5年間の経過観察で歯髄保存が報告された症例もある

歯内歯の長期的な経過を考えるうえで、2024年のLinとYueによる症例報告も参考になります。〔14〕

患者さんは19歳男性で、Ⅲa型歯内歯に関連した広い陥入部周囲の病変が認められました。

しかし、本来の歯髄は生活反応を示していました。

著者らは歯髄の保存を目指し、陥入部への低侵襲な処置を行いました。

5年間の経過観察では、陥入部周囲の病変の治癒と歯髄の生活状態の維持が報告されています。

これは、比較的長い経過観察を持つ貴重な報告です。

ただし、5年間良好に経過したことが、すべての歯内歯で同じ結果になるという証明ではありません。

また、5年後まで良好だったことと、その後も一生問題が起こらないことは別です。

症例報告の成功と、一般的な成功率は違う

松本歯科大学の27か月追跡症例。

大阪大学の2年追跡症例。

2026年の9歳男児の36か月追跡症例。

そして、LinとYueによる5年間の経過観察症例。

いずれも良好な経過が報告されています。

しかし、これらは個別の症例報告です。

選ばれた症例の経過を紹介したものであり、歯内歯のすべての患者さんを対象に長期成功率を求めた研究ではありません。

そのため、こうした症例だけから「歯内歯治療の成功率は何%」と計算することはできません。

また、3年後や5年後まで良好だったからといって、その後も一生問題が起こらないと保証されたわけではありません。

治療後も必要に応じて経過を確認することが大切です。

歯内歯について、患者さんからよくある質問

Q1.歯内歯は、本当に歯の中にもう一本の歯があるのですか?

いいえ。

歯の形成途中に組織が内部へ陥入した形態異常です。

X線写真では歯の中に小さな歯があるように見える場合がありますが、独立した完成歯が存在するという意味ではありません。

Q2.歯内歯は珍しい病気ですか?

研究によって報告される割合には幅があります。

2025年の31研究メタ解析では、患者単位の統合有病割合は2.8%と報告されています。

ただし、この解析の検索対象は2022年12月12日より前の研究であり、撮影方法や対象集団によって結果が異なります。

この数字をそのまま日本人全体の有病割合として扱うことはできません。

Q3.歯内歯があると必ずむし歯になりますか?

必ずではありません。

陥入部分に細菌が入り込みやすい形態の場合には、う蝕などのリスクが高まる可能性があります。

しかし、感染が起こらずに経過する歯もあります。

Q4.痛くなければ放っておいても大丈夫ですか?

症状がないからといって、何も確認する必要がないとは限りません。

陥入部の形態や感染の有無、歯髄の状態などに応じて、予防的な封鎖や経過観察を検討します。

Q5.歯内歯が見つかったら必ず根管治療が必要ですか?

いいえ。

感染していない場合には、根管治療を必要としないことがあります。

また、陥入部分に感染があっても、本来の歯髄が健康であれば、陥入部分を中心に処置する場合があります。

Q6.歯の神経が生きていても、根の周りが腫れることはありますか?

あります。

陥入部分が本来の歯髄を経由せず、歯周組織へ通じる場合には、陥入部由来の感染によって周囲の組織に炎症が生じることがあります。

ただし、根の周りに病変がある場合、すべてが歯内歯によるものとは限りません。

Q7.歯内歯なら必ず歯科用CTを撮影するのですか?

いいえ。

通常の診査と二次元X線写真で必要な情報が得られる場合もあります。

複雑な内部形態や感染経路の評価が必要な場合に、歯科用CTの適応を検討します。

Q8.子どもの歯でも見つかりますか?

はい。

永久歯の形成段階で生じる異常なので、若い患者さんの歯に見つかる場合があります。

未完成永久歯では、健康な歯髄を残すことが歯根形成にも関係するため、診断と治療方針が特に重要になる場合があります。

Q9.左右両方の歯にできることはありますか?

あります。

上顎側切歯などで両側に歯内歯が認められた症例が報告されています。

片側に見つかった場合には、反対側の同名歯も必要に応じて確認します。

Q10.歯内歯は抜歯しなければならないのですか?

必ずしも抜歯が必要ではありません。

予防的な封鎖、陥入部分だけの治療、生活歯髄療法、根管治療など、状態に応じた選択肢があります。

ただし、内部形態が非常に複雑で感染の制御が難しい場合や、歯の保存が困難な場合には、外科的処置や抜歯が検討されることもあります。

まとめ――歯の中の不思議な形を知ることが、歯を守る第一歩になる

最初に見た、歯の中にもう一つの歯があるようなレントゲン写真。

あの不思議な輪郭の正体は、歯が形成される途中で生じた陥入構造でした。

歯内歯は、独立した完成歯が入り込んだものではありません。

一本の歯の内部に、通常とは違う袋状・管状の構造が形成されたものです。

そして、その形態によって、細菌が入り込む経路が変わる場合があります。

感染が本来の歯髄に及ぶこともあれば、陥入部分だけに感染が成立し、主根管の歯髄は生活反応を保っていることもあります。

だからこそ、歯内歯の治療では、どこが感染しているのかを見極めることが大切になります。

予防的に入口を封鎖する場合。

陥入部分だけを治療する場合。

健康な歯髄をできるだけ残す場合。

本来の根管も含めて治療する場合。

複雑な内部構造のため、外科的な対応まで検討する場合。

同じ歯内歯でも、治療方法は一つではありません。

今回、いくつもの症例報告を読んで印象に残ったのは、根の周りに病変があっても、本来の歯髄を残す可能性があるということでした。

もちろん、すべての歯内歯で神経を残せるわけではありません。

しかし、最初から「歯の根の周りに病変があるから、神経を全部取るしかない」と決めつけず、内部の構造と感染の状態を丁寧に確認する意味があるのです。

そして、実際の症例では、治療を進めながら症状を確認し、その後も何か月、何年という時間をかけて経過を評価していました。

歯の神経を残す治療は、単に神経を取らずに処置を終えることではありません。

健康な組織を守りながら感染の原因に対応し、その後の状態を継続して見守ることまで含まれているのだと感じます。

歯科助手として、歯の形やレントゲン写真を見るときの視点が、また一つ増えたように感じます。

歯の中の形は、一つひとつ違う。

そして、その違いを理解することが、できるだけ健康な部分を守る治療につながる場合があるのですね。


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※本記事は、歯内歯に関する臨床レビュー、分類研究、系統的レビュー、国内外の症例報告を患者さん向けに整理したものです。症例報告で良好な経過が認められたことは、すべての患者さんで同様の結果が得られることを意味しません。実際の診断や治療方法は、歯の形態、歯髄の状態、感染の有無、歯根形成の程度などを踏まえて歯科医師が個別に判断します。

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