2026年9月17日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに
歯ぐきの検査を受けているとき、歯科衛生士が、
「3、2、3、4、3、3……」
「出血あり」
「動揺0」
と、次々に数字や言葉を読み上げているのを聞いたことはありませんか?
診療台に横になっている患者さんからすると、「歯に点数をつけられているの?」「3なら大丈夫で、6なら悪い?」「そもそも何を数えているの?」と気になるかもしれません。
先に答えると、歯科衛生士が読み上げているのは、歯の番号、歯と歯ぐきの溝の深さ、出血、歯の揺れなどの検査記録です。
それらを場所ごとに記録して「歯周チャート」を作り、今の状態だけでなく、治療後や次回の検査で前回からどう変わったかも確認しています。
そして少しややこしいのですが、聞こえてくる数字が全部「深さ」を意味しているわけでもありません。
今回は、診療台で聞こえてくる「3、2、3……」の正体を、歯科衛生士の視点から一つずつ解説します。
まず知っておきたい|読み上げている数字は全部同じ意味ではありません
たとえば歯周検査中に、
「右上6番、3、2、3、4、3、3。BOPプラス。動揺0」
と聞こえたとします。
これを患者さんの言葉に置き換えると、それぞれ違う種類の情報です。
「右上6番」は、どの歯を調べているかを示す歯の番号です。
その後の「3、2、3、4、3、3」は、その歯の周囲を歯周プローブで測ったPPD(プロービングデプス)の記録です。
「BOPプラス」は、プロービング後に出血がみられたという記録です。
「動揺0」は、歯の揺れの程度を分類した記録です。
検査によっては、「排膿あり」「PCR○%」「分岐1」といった言葉が加わることもあります。
つまり診療室では、歯の場所、歯ぐきの深さ、炎症のサイン、歯の揺れ、プラークの付着状態など、種類の違う情報を続けて記録しているのです。

| 聞こえる言葉 | 主な意味 |
|---|---|
| 右上6番 | どの歯を調べているか |
| 3、2、3… | PPD(プロービングデプス)の測定値 |
| BOP+ | プロービング時出血あり |
| 排膿あり | 歯周ポケットから膿が認められる所見 |
| 動揺1 | 歯の揺れの分類 |
| 分岐1 | 奥歯の根分岐部の評価 |
| PCR○% | プラークが付着していた歯面の割合 |
「3、2、3…」は歯と歯ぐきの溝の深さを測った数字です
歯周検査では「歯周プローブ」という細い目盛り付きの器具を使います。
歯と歯ぐきの境目にプローブをそっと入れ、歯ぐきの縁からプローブが到達した位置までの距離をmm単位で測ります。
この測定値をPPD(Probing Pocket Depth/プロービングデプス)と呼びます。
健康な歯ぐきにも歯と歯ぐきの間には「歯肉溝」と呼ばれる溝があります。歯周炎などによって病的に深くなった部分は、一般に「歯周ポケット」と呼ばれます。
そのため、検査で測っている場所がすべて病的な歯周ポケットというわけではありません。
たとえば「3」と読み上げた場合、その場所ではおおむね3mmという記録です。
ただし、「3」という数字は精密な測量機器が3.000mmと自動計測した値ではありません。
目盛りの付いた歯周プローブを使い、歯科医師や歯科衛生士が臨床的に測定した値です。

なぜ1本の歯なのに何回も数字を読むの?
「同じ歯なのに、どうして3、2、3、4……と何回も測るの?」
これも患者さんからすると不思議ですよね。
理由は、1本の歯の周囲が全部同じ状態とは限らないからです。
たとえば同じ歯でも、頬側の中央では2mm、隣の歯との間では5mm、舌側では3mmというように、場所によって深さが違うことがあります。
歯周病は、「この歯は全部5mm」というように歯1本単位で均一に進むとは限りません。一部分だけ深くなっていることもあります。
そのため詳しく調べる場合には、1本の歯の周囲を複数の場所に分けて測定します。
代表的なのが、頬側3か所、舌側または口蓋側3か所を測る6点法です。
詳しい歯周診査では、1歯6部位を記録する方法が広く用いられています。
親知らずを除く28本をすべて6点ずつ測れば、
28本×6か所=168か所
にもなります。
歯周検査中に数字がずっと続いて聞こえるのは、そのためです。

すべての歯周検査で必ず6か所測るわけではありません
ここは少し大切なところです。
「歯周検査なら必ず1本につき6回測る」というわけではありません。
検査の目的や種類によって、測定する場所の数は異なります。
2026年時点の日本の保険診療上では、歯周基本検査では1歯1点以上、歯周精密検査では1歯4点以上のポケット深さを測定・記録する区分があります。
一方で、歯の周囲をより詳しく評価するときには6点法が使われます。
そのため、「以前の医院では読む数字が少なかったのに、今回はたくさん読み上げられた」という違いがあっても、それだけで検査方法がおかしいということではありません。
また、測定した歯科衛生士が自分で入力する場合もあれば、別のスタッフが入力する場合もあります。読み上げ方や記録方法にも違いがあります。
「BOP+」「出血あり」は何を意味している?
数字の途中で、
「出血あり」
「BOPプラス」
と聞こえることがあります。
BOPはBleeding on Probingの略で、歯周プローブで調べたときに出血がみられたかどうかを記録するものです。
ここで大切なのは、「深さが何mmだったか」と「出血があったか」は別の情報だということです。
たとえば同じ4mmでも、
4mm・BOPなし
という場所と、
4mm・BOPあり
という場所では、記録されている情報が違います。
BOPは歯ぐきの炎症を評価する重要な所見の一つです。歯周病の評価では、深さだけでなく、こうした出血の有無も合わせて見ます。
また、BOPはプローブを抜いた瞬間だけを見ているわけではありません。
国内の歯周病検査に関する資料では、プロービング後30秒以内に出血してきた部位を記録するとされています。
そのため、プローブを入れた瞬間には血が見えなかったのに、少し後で歯科衛生士が「出血あり」と記録することもあります。
ただし、1回血が出た=その場所は重度の歯周病という意味ではありません。
深さ、CAL、歯肉退縮、歯を支える骨の状態、歯の揺れ、前回からの変化などを合わせて判断します。

「排膿あり」と言われることもあります
歯周ポケットを調べているときに、「排膿あり」と聞こえることがあります。
これは、歯周ポケットから膿が認められたという所見です。
BOPが「出血の有無」をみているのに対して、排膿は別の所見です。
深いポケットや強い炎症、歯周膿瘍など、さまざまな状況でみられることがあるため、PPDやBOP、腫れ、痛み、画像所見などと合わせて評価します。
「排膿あり」と言われたからといって、その言葉だけで病名や治療法が決まるわけではありません。
「PCR○%」は歯周ポケットの深さではありません
歯周精密検査や歯磨きの状態を確認するときには、「PCR○%」という数字が出てくることもあります。
PCRはPlaque Control Recordの略で、プラーク、つまり歯垢が残っていた歯面の割合を%で示す方法です。
これは「歯周ポケットが何mmか」とはまったく別の指標です。
歯周精密検査では、ポケット深さ、BOP、動揺度に加えてPCRを記録することがあります。
たとえば「PCR 20%」なら、歯周ポケットが20mmあるという意味ではありません。口の中でプラークが付着していた歯面の割合を表しています。
「動揺1」は1mmという意味ではありません
数字を聞いていると、「動揺1」という言葉が出てくることがあります。
これはポケットの深さではなく、歯がどの程度揺れるかを表す分類です。
一般的にはMillerの分類を用いて、0〜3度で記録します。
- 0度:生理的な範囲の動揺
- 1度:水平的な揺れが増えている状態
- 2度:さらに大きな水平的動揺
- 3度:水平だけでなく垂直方向の動揺もみられる状態
つまり、「PPD 1」と「動揺1」は、同じ「1」でも意味がまったく違います。

「4mmだったら歯周病?」数字1つだけでは決まりません
歯周ポケットについて調べると、「1〜3mmなら正常」「4mm以上なら歯周病」といった説明を見かけることがあります。
PPDの数字は確かに大切です。
ただし、実際の歯周病診断はそこまで単純ではありません。
PPDだけではなく、
- BOP
- CAL
- 歯肉退縮
- 排膿
- 歯の動揺
- 根分岐部病変
- プラークの状態
- レントゲン画像での骨の状態
- 以前の検査からの変化
などを合わせて評価します。
たとえば炎症で歯ぐきが腫れていれば、歯肉の縁が歯冠側へ移動し、深く測定されることがあります。
一方、歯ぐきが下がっている場合には、PPDがそれほど深くなくても、歯を支える組織が以前より失われていることがあります。
そのため、「3mmだから絶対に大丈夫」「4mmだからそれだけで歯周病」と、一つの数字だけで判断するものではありません。
CALという別の指標を見ることもあります
歯周病を詳しく評価するときには、CAL(Clinical Attachment Level/臨床的アタッチメントレベル)という指標も使います。
PPDは、今ある歯ぐきの縁からプローブが到達した位置までを測ります。
一方CALは、CEJ(セメントエナメル境)という歯の固定された位置を基準に、歯周組織の臨床的な付着レベルを評価する指標です。
たとえば、ポケットは2mmでも、歯ぐきが2mm下がっているという場所では、単純に「2mmだから問題なし」とは考えません。
PPDが2mmで歯肉退縮が2mmなら、CEJを基準としたCALは4mmになります。

歯周病治療後に歯ぐきが下がって歯が長く見える理由については、「歯周病治療で歯ぐきが下がった!SRP後に歯が長く見えるのは治療失敗?炎症が引くと起こる変化」でも詳しく解説しています。
前回3mm、今回4mmなら「1mm悪化した」?
検査結果を覚えている患者さんから、
「前回は3mmだったのに、今日は4mmと言われました。歯周病が1mm進んだんですか?」
と聞かれることがあります。
単回の1mm差だけで、病気がちょうど1mm進行したとは判断できません。
プロービング値には、
- プローブを入れる場所
- プローブの角度
- プロービングする力
- 歯ぐきの炎症
- 歯や歯根の形
- 歯石の有無
- 目盛りの読み取り
- 測定者
- 患者さんの動き
などが影響します。
2024年のレビューでは、単回測定のばらつきを示す標準偏差は、おおむね0.4〜1.0mmと整理されています。
さらに、炎症が強い組織ではプローブがより深く入りやすくなることがあります。
歯周治療後に炎症が減ると組織の抵抗が変わり、同じ場所でも以前より浅く測定されることがあります。
ですから、
3mm→4mm=必ず1mm病気が進行した
とは限りません。
反対に、
6mm→4mm=骨が2mmそのまま再生した
とも限りません。
一つの数字だけではなく、同じ場所を繰り返し測り、BOPやCAL、歯肉の状態、画像所見なども合わせて変化を見ることが大切です。
では、なぜわざわざ声に出して読み上げるの?
ここまで読むと、「測っている意味は分かったけれど、なぜ声に出すの?」と思うかもしれません。
理由の一つは、測定した場所と数字を順番に記録しやすくするためです。
歯科衛生士がプロービングしながら数字を読み上げ、別のスタッフがパソコンへ入力する場合もあります。
こうして歯ごとの情報を並べていくと、口の中の歯周状態を一覧で確認できる「歯周チャート」ができあがります。
いわば、歯ぐきの状態を記録した地図のようなものです。
ただし、声に出して読むこと自体が検査の目的ではありません。
術者が自分で入力する場合もありますし、電子記録や音声入力を利用する場合もあります。
大切なのは、どの歯の、どの場所で、どのような所見があったのかを記録に残すことです。

一度測ったのに、なぜ次の受診でもまた測るの?
歯周検査は、その日の「成績表」を作って終わりではありません。
むしろ大きな意味を持つのが、前回との比較です。
たとえば、
初診時
6mm・BOP+
↓
歯周基本治療後
4mm・BOP−
↓
その後の管理時
4mm・BOP−
というように記録が残っていれば、
- 最初は深く、出血もあった
- 治療後に浅くなり、出血がなくなった
- その後も同じ状態を維持している
という時間の流れが見えてきます。
歯周治療では、検査をして終わりではなく、歯周基本治療を行ったあとに再評価し、必要に応じて追加の治療を検討し、その後も継続的に状態を確認していきます。
ですから、以前と似た検査をまた行っているように見えても、「前と同じことをただ繰り返している」わけではありません。
前回の歯周チャートと今回の歯周チャートを比較することで、治療への反応や現在の状態を確認しているのです。
歯周外科へ進むかどうかも、最初の検査だけではなく、歯周基本治療後の再評価が重要です。詳しくは、「歯周外科の予定が延期に?歯磨きが安定していないと手術を待つことがある理由」をご覧ください。
数字が深かったら、自宅で歯ブラシをその深さまで入れればいい?
「6mmと言われたから、歯ブラシを6mmまで入れて磨いた方がいいですか?」
という考え方には注意が必要です。
歯周ポケットの数字は、自分で歯ブラシを何mm差し込むかを示しているものではありません。
無理に歯ブラシや歯間ブラシを深く押し込めば、歯ぐきを傷つけることがあります。
深い歯周ポケットの内部には、自宅の歯ブラシだけでは十分に清掃できない部分があります。
セルフケアと、歯科医院で行う専門的なケアにはそれぞれ役割があります。
詳しくは、「歯周ポケットの中は自分で磨ける?」や、「歯周ポケットが6mm・7mmある場所はどう磨く?」でも解説しています。
歯周検査で聞こえる言葉をまとめると

- 「6番」 → 歯の番号
- 「3、2、3」 → PPD(プロービングデプス)
- 「BOP+」 → プロービング時の出血あり
- 「排膿あり」 → 歯周ポケットから膿を認める所見
- 「動揺1」 → 歯の揺れの分類
- 「分岐1」 → 奥歯の根分岐部の評価
- 「PCR○%」 → プラークが付着していた歯面の割合
歯周病は1つの数字だけで決めるのではなく、複数の記録と前回からの変化を合わせて評価します。
よくある質問
Q.3mmなら歯周病ではないですか?
3mmという数字だけでは判断できません。
PPDは重要な情報ですが、BOP、CAL、歯肉退縮、レントゲン画像、過去の検査結果なども合わせて評価します。
「3mmだから絶対に健康」と、一つの数字だけで判断するものではありません。
Q.4mmと言われたら治療が必要ですか?
4mmという数字だけで治療内容が決まるわけではありません。
同じ4mmでも、出血の有無、歯肉退縮、歯石、プラーク、以前からの変化などによって意味が異なります。口の中全体の状態をみて判断します。
Q.検査で血が出たのは、歯科衛生士が強く刺したからですか?
プロービングする力は測定結果に影響するため、歯周検査では組織を傷つけるほど強く押すのではなく、軽い力で評価します。
一方、炎症がある歯ぐきは軽いプロービングでも出血しやすくなります。そのためBOPは歯ぐきの炎症をみる大切な所見の一つです。
Q.「出血あり」と言われたのに、自分では血が見えませんでした
BOPは、プローブを抜いたその瞬間だけで判断するものではありません。
プロービング後に少し時間をおいて出血してくることもあり、その場合も記録されます。
Q.前回より1mm深くなっていたら悪化ですか?
一度の1mm差だけでは、直ちに病気が進んだとは判断できません。
同じ場所の経時変化、BOP、CAL、歯肉の状態、画像所見などを合わせて評価します。
Q.毎回同じような歯周検査をする必要がありますか?
歯周病では「前回からどう変わったか」が重要だからです。
治療前後や継続管理中に同じ項目を記録することで、改善しているのか、状態を維持しているのか、再び変化が出ているのかを判断しやすくなります。
Q.歯周検査は痛いですか?
痛みの感じ方には個人差があります。
炎症の強い場所や深いポケットでは刺激を感じやすいことがありますが、歯の位置や歯ぐきの状態などによっても感じ方は異なります。
強い痛みがある場合は、我慢せず歯科衛生士へ伝えてください。
Q.「動揺1」と言われたら、その歯はいずれ抜けますか?
動揺1という記録だけで、抜歯が決まるわけではありません。
歯周組織の状態、骨の量、炎症、噛み合わせ、歯根の状態、治療への反応などを合わせて判断します。
Q.「排膿あり」と言われたら重症ですか?
排膿は注意して評価する所見の一つですが、「排膿あり」という言葉だけで歯周病の重症度や治療法が決まるわけではありません。
ポケットの深さ、腫れ、痛み、BOP、画像所見などと合わせて原因を確認します。
まとめ|あの数字は「歯ぐきの地図」を作るための記録です
歯周検査中に聞こえる、
「3、2、3、4……」
という数字。
あれは歯に点数をつけているのではありません。
歯と歯ぐきの状態を場所ごとに測定し、歯周チャートへ記録している数字です。
同じ歯でも、場所によって測定値は違います。
- PPD=歯ぐきの縁からプローブが到達した位置までの深さ
- BOP=プロービング時の出血
- CAL=CEJを基準に歯周組織の臨床的な付着レベルを評価する指標
- 動揺=歯の揺れの程度
- PCR=プラークが付着していた歯面の割合
というように、種類の違う情報を組み合わせて歯周組織を評価します。
そして歯周検査で大切なのは、一度の数字だけを見ることではありません。
前回と今回を比較し、「深さはどう変わったか」「出血は減ったか」「歯周組織はどのような状態か」を追っていくことに意味があります。
次に診療台で「3、2、3……」と聞こえてきたら、
「今は歯ぐきの地図を作っているんだな」
と思っていただければ、少し検査の見え方が変わるかもしれません。
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