2026年9月16日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
根管治療を見学していると、ときどき「前回と今日は、やっていることが反対に見えるな」と感じることがあります。
前回の治療では、先生が根管の中へ白い薬を入れていました。
ところが次の治療では、その白い薬を今度は洗浄液で取り除いています。
「せっかく入れた薬なのに、どうして今日は取っているんだろう?」
そんなことを考えながら根管洗浄について調べていたところ、2026年に報告された、とても気になる研究を見つけました。
そこに登場したのが、グリコール酸(glycolic acid:GA)です。
グリコール酸と聞いて、「それって、スキンケアで聞く名前では?」と思った方もいるかもしれません。
グリコール酸はAHA(α-ヒドロキシ酸)の一種として、美容分野でも知られている化学物質です。
ただし、最初に大切なことを書いておきます。
美容用のグリコール酸製品を歯や根管に使うという話ではありません。
今回のお話は、歯内療法で使う洗浄液の候補として、一定の濃度・条件でグリコール酸を使用した研究です。
しかも研究者が比べたのは、単純な一本の管ではありません。
ファイルが直接触れにくい「内部吸収のような凹み」に残った水酸化カルシウムを、どこまで取り除けるかを調べています。
根管治療で入れた「白い薬」を、なぜ次の治療で取り除くの?
根管治療の途中で使われる代表的な薬の一つが、水酸化カルシウム[Ca(OH)₂]です。
水酸化カルシウムは強いアルカリ性を示し、水分のある環境ではカルシウムイオンと水酸化物イオンに分かれます。
純粋な水酸化カルシウムはpH約12.5〜12.8の強塩基で、その高いpHが抗菌作用などに関係しています。
根管治療では、治療と治療の間に根管内へ置く「根管貼薬」として使用されることがあります。
何のために入れるのかについては、以前の根管治療で使う水酸化カルシウムの役割についての記事で詳しく紹介しました。
ここで大切なのは、
「治療途中では役立つ薬」=「根管充填をするときまで、そのまま多く残してよい薬」
ではないということです。
治療が進み、根管充填へ進める状態になったときには、前回入れた水酸化カルシウムをできるだけ取り除きます。
根管充填では、ガッタパーチャなどとともに、根管壁との細かなすき間を封鎖する材料である根管シーラーを使用します。残った水酸化カルシウムが、シーラーの象牙質への浸透や、根管壁と材料との関係に影響する可能性が研究されているためです。
ところが、この「取り除く」が簡単ではありません。
根管は「細いストロー」ではありません
歯の根の中にある根管を図で見ると、一本の細い管のように見えることがあります。
でも実際の根管は、きれいな円筒ではありません。
途中で細くなったり、枝分かれしたり、横へ広がる空間があったりします。
イスムスやフィンなど、根管形成用のファイルが直接触れにくい部分もあります。
つまり、
「ファイルを根尖付近まで入れた」=「根管の壁を全部こすってきれいにできた」
ではありません。
今回の研究で特に注目されたのが、内部性歯根吸収によってできるような凹みです。
内部性歯根吸収では、根管の内側から象牙質が吸収され、根管途中に横へ膨らんだような不規則な空間ができることがあります。
これは、すべての根管治療で起こるものではありません。
しかし、このような空間がある歯では、その凹みの奥へ通常のファイルを直接当てて清掃することが難しくなります。
日本歯内療法学会誌の総説でも、内部性歯根吸収部の機械的な拡大・清掃は困難であり、根管洗浄や水酸化カルシウムによる根管貼薬が行われることが整理されています。

そこで重要になるのが「根管洗浄」です
ファイルが直接触れない部分があるからこそ、根管治療では「削る」だけでなく「洗う」ことが重要になります。
根管治療で注射器から洗浄液を入れる理由でも紹介したように、根管治療では次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)やEDTAなど、目的の異なる洗浄液を使い分けます。
その中でEDTAは、歯科で長く使われてきた代表的なキレート剤です。
EDTAはカルシウムイオンと反応し、象牙質表面の無機質成分やスメア層を取り除く目的などに使われます。
では、そのEDTAとは別の候補として研究されている「グリコール酸」は、どんな物質なのでしょうか。
グリコール酸はスキンケアだけの物質ではありません
グリコール酸(GA)は、AHAの一種です。
美容分野ではピーリングなどで名前を聞くことがありますが、歯内療法でも以前から研究されています。
GAは低分子量で水に溶けやすい有機酸で、酸性の性質によってカルシウムを含む構造へ作用する可能性が研究されています。
ただし、
「分子が小さいから根管の奥まで何でも入り、何でもきれいに落としてくれる」
という単純な話ではありません。
根管洗浄液には、洗浄能力だけではなく、濃度、使用時間、象牙質への影響、周囲組織への影響、ほかの薬液との組み合わせなども関係します。
そのためGAについても、さまざまな条件で研究が続けられています。
グリコール酸は2026年に突然登場したわけではありません
GAを歯内療法へ応用する研究は、今回の論文が最初ではありません。
2019年――最終洗浄液の候補としてGAを検討
Dal Bello氏らは、5%、10%、17%GAなどについて、スメア層除去能力だけでなく、象牙質の微小硬さや表面粗さ、細胞への影響などを調べています。
ここから分かるのは、「強い洗浄液なら、濃ければ濃いほどよい」とは言えないということです。
洗浄能力と、歯質や生体への影響の両方を見る必要があります。
2021年――内部吸収のような凹みに残った水酸化カルシウムを比較
Keskin氏らは、人工的な内部吸収窩を作った抜去歯を使い、GAやEDTAなどによる水酸化カルシウム除去を比較しました。
10%GAを超音波で活性化した条件では、EDTAより良好なCa(OH)₂除去成績が得られましたが、この研究でも完全な除去はできませんでした。
そして2026年――キトサンとの組み合わせまで比較
今回の研究では、GAだけでなくキトサンとの組み合わせまで比較されています。
つまり、「美容で聞く酸を、突然根管に使ってみた研究」ではありません。
数年かけて続いてきた歯内療法研究の一つです。
今回使われたのは「患者60人」ではなく、抜去歯60本です
今回使用されたのは、抜去されたヒト下顎小臼歯60本です。
60人の患者さんを実際に治療して比べた臨床試験ではありません。
すべて、単根、単根管、根管湾曲5°以下など、できるだけ条件のそろった歯が選ばれました。
4群比較に必要なサンプル数も事前に計算され、最低13本/群に対し、試料の破損などを見込んで15本/群、合計60本が用意されています。
歯冠を切り落とし、歯根長は13mmに統一。
根管も同じ条件で形成してから、今回の人工内部吸収モデルを作っています。
歯根をいったん割って、同じ大きさの「凹み」を作りました
今回の研究で面白いのはここです。
研究者は歯根を縦に二つへ割りました。
そして根尖から約1.4mm歯冠側、根尖側1/3の位置に人工的な内部吸収窩を作っています。
大きさは、
- 直径:約1.6mm
- 深さ:約0.8mm
です。
本物の内部性歯根吸収をそのまま集めて比較すると、一つ一つ大きさや形が異なります。
それでは、薬液の違いによる結果なのか、もともとの凹みの形による違いなのか分かりにくくなります。
そこで60本すべてに、できるだけ同じ大きさの人工的な凹みを作りました。
研究ではさらに、その凹みを37%リン酸で30秒間処理し、歯根を再接着しています。
その後、根管と人工吸収窩へ水酸化カルシウムペーストを入れて仮封し、37℃・湿度100%で7日間保管しました。

4つの比較をする前に、60本すべてに共通の処置がありました
ここは、今回の研究を読むうえで大切です。
7日間保管したあと、いきなりEDTA群とGA群へ分かれたわけではありません。
まずすべての試料で、#15 Kファイルを軽く根管内へ入れて水酸化カルシウムをほぐし、洗浄針を入れるためのスペースを作りました。
その後、全群共通で2.5%次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を5mL使用しています。
つまり今回の結果は、
「EDTAだけ」と「GAだけ」を最初から直接比べた結果ではありません。
全群に共通するKファイルによる機械的な処置とNaOCl洗浄があったうえで、その後に行った洗浄プロトコルを比較しています。
その後、60本を15本ずつ4つの洗浄プロトコルへ分けました
| グループ | 比較した主な洗浄プロトコル |
|---|---|
| EDTA群 | 17%EDTA |
| EDTA+キトサン群 | 17%EDTA → 2%キトサン |
| GA群 | 10%グリコール酸 |
| GA+キトサン群 | 10%GA → 2%キトサン |
各群15本です。
これだけを見ると、「EDTAにキトサンを足しただけ」「GAにキトサンを足しただけ」のように見えます。
でも、実際にはもう少し複雑です。
「キトサンを足したかどうか」だけの比較ではありません
EDTA単独群とGA単独群では、それぞれのキレート剤5mLを1分間使用しています。
一方、組み合わせ群では、EDTAまたはGAを2.5mL・30秒使用したあと、2%キトサン2.5mLを30秒使用。
さらに最後に、2%キトサン5mLで洗浄しています。
キトサンを使わない群では、最後の5mLは蒸留水です。
全体の洗浄液量は15mLにそろえられています。
つまり、GA群とGA+キトサン群では、キトサンの有無だけでなく、GAそのものの接触時間、薬液の順序、最後に流す液まで違います。
さらに今回使用された2%キトサン液は、キトサン2gを100mLの1%酢酸に溶かして調製されています。
そして、このキトサン液そのもののpHや、GAのあとにキトサンを連続して使用したあとのpHは測定されていません。
そのため、
「GA+キトサン群の成績が良かった=キトサンだけを加えた効果」
とは言えません。
原著でも、4群をそれぞれ一つの「一連の洗浄プロトコル」として比較する研究であり、キトサンの独立した作用を切り分ける設計ではないと説明されています。

結果① 顕微鏡で見た残り方は「5・3・2・1」
洗浄後、研究者は歯根を再び二つに分けました。
そして人工内部吸収窩へ残った水酸化カルシウムをステレオ顕微鏡で評価しています。
- 0点:目で見えるCa(OH)₂なし
- 1点:窩洞の半分未満
- 2点:半分より多い
- 3点:ほぼ全部
片側ずつ評価し、左右二つの値を足して、1本の歯につき0〜6点としました。
| グループ | 残存スコア中央値 |
|---|---|
| EDTA | 5 |
| EDTA+キトサン | 3 |
| GA | 2 |
| GA+キトサン | 1 |
数字だけを見ると、EDTA → EDTA+キトサン → GA → GA+キトサンの順に、残った水酸化カルシウムが少なくなっています。
ただし、統計を見ると少し慎重な読み方が必要です。
GA群はEDTA群より有意に残存スコアが低く、GA+キトサン群もEDTA群より低い結果でした。
一方、
- EDTA vs EDTA+キトサン:p=0.051
- GA vs GA+キトサン:p=0.087
で、この顕微鏡スコアでは、それぞれキトサンを加えた群との間に統計学的有意差を認めませんでした。
結果② 画像解析では50.6%から15.4%へ
研究者は顕微鏡で点数を付けるだけではなく、ImageJという画像解析ソフトでも残存Ca(OH)₂を評価しました。
人工吸収窩の範囲を決め、その中で水酸化カルシウムが画像上どのくらいの面積を占めているかを測っています。
| グループ | 平均残存表面被覆率 |
|---|---|
| EDTA | 50.6% |
| EDTA+キトサン | 47.8% |
| GA | 29.8% |
| GA+キトサン | 15.4% |
この評価では、GA+キトサン群が最も低く、次いでGA群、EDTA+キトサン群、EDTA群の順でした。

人工内部吸収窩に残ったCa(OH)₂の表面被覆率
- EDTA 50.6%
- EDTA+キトサン 47.8%
- GA 29.8%
- GA+キトサン 15.4%
※二次元画像上でCa(OH)₂が占めた表面被覆率です。薬の体積や「除去率」を示す数字ではありません。
顕微鏡スコアと画像解析では「同じ答え」になったわけではありません
ここは今回の論文で興味深いところです。
大きな傾向としては、GA系の方がEDTA系より残存Ca(OH)₂が少ないという結果で一致しています。
ただし、GA単独とGA+キトサンの比較を見ると、評価方法によって少し違います。
顕微鏡による0〜6点のスコアでは、GA vs GA+キトサン:p=0.087で有意差を認めませんでした。
一方、ImageJによる定量評価では、GA群は29.8%、GA+キトサン群は15.4%で、原著では両群が異なる統計群として示されています。
つまり、
「GA+キトサンの数字が一番小さい」ことと、「どの評価方法でもキトサンの上乗せ効果が証明された」ことは同じではありません。
著者自身も、キトサンの独立した寄与は今回の実験デザインから確立できないとしています。
「15.4%残った=84.6%除去できた」ではありません
15.4%という数字を見ると、「100−15.4だから、84.6%取れたんだ」と計算したくなります。
でも、この研究から「除去率84.6%」とは言えません。
ImageJで測定したのは、二次元画像上で水酸化カルシウムが占めている表面積の割合です。
体積を測ったわけではありません。
また、洗浄前に各歯へ入っていたCa(OH)₂の絶対量を、一つ一つ重量や体積で測定していたわけでもありません。
したがって正確には、
「GA+キトサン群では、人工窩の画像上に残った水酸化カルシウムの平均表面被覆率が15.4%だった」
となります。
同じ数字でも、意味は大きく違います。
そもそも「キトサン」って何?
キトサンは、キチンをもとに作られる多糖類です。
酸性環境ではアミノ基が関係してカルシウムイオンと結合する性質があり、歯内療法でもキレート剤の候補として研究されています。
ただし、「天然由来だから安全」「生体適合性があるから、どの濃度でも自由に使える」という意味ではありません。
薬液は濃度、pH、使用時間、接触する組織などを含めて評価する必要があります。
なぜGA系では水酸化カルシウムが少なく残ったのでしょう?
今回の実験は、「なぜGA系の方が残存量が少なくなったのか」を直接証明する研究ではありません。
ただ、化学的な背景はいくつか考えられています。
GAは酸性のAHAで、カルシウムを含む鉱化構造へ作用する可能性があります。低分子量であることも特徴です。
一方、EDTAは代表的なキレート剤で、カルシウムイオンと結合する作用を利用します。
つまり、どちらもカルシウムを含む無機成分へ関係しますが、作用のしかたは同じではありません。
ただし、「GAは分子が小さいから凹みの奥まで入り、EDTAより全部溶かした」とまで断定することはできません。
今回確認できたのは、あくまで最終的に残っていたCa(OH)₂に差があったということです。
「GAがEDTAに勝った」なら、EDTAはもう古い?
これも違います。
今回の研究結果だけを見て、「根管治療ではGAの方がEDTAより優れている」と一般化することはできません。
EDTAは現在まで長く根管治療で使われてきた代表的なキレート剤です。
今回比較されたのは、人工的に作った内部吸収窩、根尖側1/3、通常のシリンジ洗浄など、限られた実験条件です。
さらに、EDTAは17%、GAは10%で、比較した濃度そのものも異なります。
同じ濃度にそろえて「物質そのものの優劣」を比較した研究でもありません。
スメア層を取り除く目的、通常の根管壁を洗浄する目的、患者さんの実際の歯で長期的に根管治療を成功させる目的まで含めて、GAがEDTAより優れていることを証明した研究ではありません。

根管洗浄は「何を入れるか」だけではなく、「どう動かすか」も重要です
もう一つ忘れてはいけないのが、洗浄液の動かし方です。
今回の研究では、超音波や音波による洗浄液の活性化は行っていません。
すべて通常の洗浄針を使った、穏やかな手動洗浄です。
これは、GAやEDTAなど薬液側の違いを比較しやすくするために、条件をそろえた研究設計です。
一方、実際の根管洗浄研究では、超音波洗浄、音波による活性化、各種の補助器具なども研究されています。
つまり、
「どんな液を使うか」と「その液を複雑な根管の中でどう動かすか」は、別々に考える必要があります。
今回の結果だけから、「GAを入れれば水酸化カルシウムがよく取れる」と単純化できない理由でもあります。
どのプロトコルも、すべての歯で完全除去できたわけではありません
ここも重要です。
今回の4つの洗浄プロトコルのどれも、その群に含まれるすべての試料でCa(OH)₂を完全に除去できたわけではありません。
ただし、個々の歯を見ると、顕微鏡スコアが0だった試料は存在します。
GA+キトサン群では15本中5本、GA群では2本、EDTA+キトサン群では1本が、左右を合計したスコア0でした。EDTA単独群では0本でした。
そのため、「1本たりとも完全に取れなかった」という意味ではありません。
正確には、
「どの方法も、すべての試料で安定して完全除去できる方法ではなかった」
という結果です。
この研究には、評価できるところもあります
研究の限界を見る前に、研究設計で丁寧に行われている部分も見ておきます。
今回の研究では、必要なサンプル数を事前に計算しています。
60本はランダムに4群へ割り付けられ、評価する側はどの試料がどの群か知らない状態で判定しました。
また、一本の歯を割った左右二つを「別々の歯」として数えるのではなく、左右の評価をまとめて1歯=1つの統計単位として扱っています。
これは、実際には同じ歯なのに、左右を別々の試料として数えてサンプル数を増やしてしまうような解析を避けるための工夫です。
顕微鏡スコアでは2人の評価者の一致度も高く、Cohenのκ係数は0.86でした。
さらに、目視に近い段階評価と、ImageJによる定量的な画像解析の2種類を使っています。
完璧な研究という意味ではありませんが、「どのように比較したか」まで読んでから結果を見ることが大切だと分かります。
一方、この研究には重要な限界があります
本物の内部吸収ではありません
人工吸収窩は、丸いバーを使って作った直径約1.6mm・深さ0.8mmの規格化された凹みです。
実際の内部性歯根吸収は、このようにきれいな形とは限りません。
より複雑で不規則な三次元形態になることがあります。
根尖側1/3だけを調べています
今回人工吸収窩を作ったのは、根尖近くです。
根中央部や歯頸部では、洗浄液の流れやアクセスのしやすさが異なります。
そのため、今回の結果を根中央部や歯頸部の内部吸収へそのまま当てはめることはできません。
洗浄前にKファイルを使っています
洗浄液を使う前に#15 KファイルでCa(OH)₂をほぐしています。
つまり、薬液だけの純粋な除去能力を測った実験ではありません。
人工窩をリン酸処理しています
人工窩の表面を37%リン酸で30秒処理しています。
この処理が象牙質表面や、Ca(OH)₂・洗浄液との相互作用へ影響した可能性があります。
最初に入れたCa(OH)₂の量を重量・体積でそろえていません
同じ製品、同じ注入方法、同じ視覚的な終点を使っています。
しかし、各試料へ入った水酸化カルシウムの絶対量は、重量や体積で定量されていません。
評価は二次元画像です
ImageJで評価したのは表面画像です。
象牙細管の奥などへ入り込んだCa(OH)₂を、三次元的に測ったものではありません。
画像分類法そのものの独立した精度検証はしていません
同じ学習済みの画像分類方法を全試料へ使用していますが、その分類性能について別の定量的検証は行われていません。
キトサン液や連続使用後のpHを測っていません
GA+キトサン群の成績について、pHの変化を含めた化学的な相互作用までは評価できません。
超音波などの活性化を使っていません
今回調べたのは通常の針洗浄です。
現在研究されているさまざまな洗浄活性化法まで含めて比較したものではありません。
GAの安全性を調べた研究でもありません
これは特に大切です。
今回測ったのは、「人工内部吸収窩へCa(OH)₂がどれだけ残ったか」です。
GAによる細胞毒性、根尖周囲組織への影響、術後疼痛、象牙質の微小硬さや侵食、長期的な歯質への影響を、この60本研究で評価したわけではありません。
GAの安全性については、別の研究結果も合わせて考える必要があります。

一番大切なこと――これは「根管治療の成功率」を比較した研究ではありません
今回の結果を見ると、
「GAの方が薬が少なく残ったなら、GAを使った方が根管治療も成功するのでは?」
と思いたくなります。
でも、そこまでは分かりません。
今回測定されたのは、人工内部吸収窩に残った水酸化カルシウムです。
今回の研究では、実際のシーラーの浸透、根管充填の質、術後の痛み、根尖病変の治癒、再感染、歯の長期生存、根管治療成功率は評価していません。
基礎実験で「薬が少なく残った」ことと、臨床で「歯が長く残った」ことの間には、まだいくつもの段階があります。
これは根管洗浄の研究を読むとき、とても大切な区別です。
グリコール酸は「まだ抜去歯だけ」の研究物質なの?
GAそのものについては、研究は抜去歯だけにとどまっていません。
近年では、人を対象にEDTAとGAを最終洗浄液として比較し、術後疼痛などを評価したランダム化比較試験も報告されています。
つまり、GAそのものは、すでに臨床研究の段階にも進んでいます。
ただし、それらの臨床研究が答えている問いと、今回の研究が答えている問いは違います。
今回知りたいのは、「内部吸収のような凹みからCa(OH)₂をどのくらい取り除けるか」です。
この用途について今回示されたのは、あくまで抜去歯を使ったin vitro研究です。
したがって、
「GAについて人を対象にした研究もある」ことと、「内部吸収窩からCa(OH)₂を除去するためGAを使う方法が標準治療として確立した」ことは分けて考える必要があります。
美容用グリコール酸を歯につけていいわけではありません
もう一度、ここははっきり書いておきます。
今回の研究結果は、市販のピーリング剤や美容用グリコール酸を歯や歯ぐきへ使用してよいという意味ではありません。
今回使用されたのは、研究条件下の10%GA溶液です。
市販の美容用製品とは、濃度やpH、添加物、製剤設計、使用部位・使用時間・使用目的などが同一とは限らず、同じものとして扱うことはできません。
歯や歯ぐきへ自己判断で酸性の製品を使用するのは避けてください。
見学していて分かったのは、「薬を入れる」だけが根管治療ではないということ
最初に見学したときは、
「前回入れた薬を、どうして今日は取っているんだろう?」
と思いました。
でも根管治療では、
根管を形成する
↓
洗浄する
↓
必要に応じて薬を入れる
↓
次回来院時に薬を取り除く
↓
もう一度洗浄する
↓
乾燥して状態を確認する
↓
必要なら再び貼薬する/条件が整えば根管充填へ進む
といういくつもの工程があります。
薬を入れるのも治療。
必要なときに、その薬を取り除くのも治療。
ファイルが届きにくい場所へ、洗浄液をどう届けるかを考えることも治療です。
洗浄後に先生が細い白い紙を何本も交換している理由については、ペーパーポイントで根管の乾き具合を見る理由でも紹介しています。
一つ一つの処置を見ると細かく感じますが、それぞれ次の治療判断につながっています。
今回の研究をひと言でまとめると
2026年に報告された今回の研究では、60本の抜去下顎小臼歯に人工的な内部吸収窩を作り、水酸化カルシウムを入れたあと、EDTA系とGA系の洗浄プロトコルを比較しました。
その結果、GAを含む洗浄プロトコルでは、EDTAを含むプロトコルよりCa(OH)₂の残存が少ない結果でした。
4群の中では、GA+キトサン群が最も少ない残存量を示しました。
ただし、キトサンそのものの上乗せ効果が証明されたわけではありません。
また、どの方法も、すべての試料で安定してCa(OH)₂を完全除去できたわけではありません。
そして最も大切なのは、この研究は根管治療の成功率を比較した臨床試験ではないということです。
研究としてはとても興味深い結果ですが、「EDTAよりGAが優れていることが確定した」という話ではありません。
「複雑な根管から薬をどう取り除くか」という問題に、新しい洗浄候補についての研究結果が一つ加わったと考えるのがよさそうです。
よくある質問
グリコール酸は、もう普通の根管治療で使われていますか?
GAそのものについては臨床研究も行われていますが、今回のような「内部吸収窩からCa(OH)₂を除去する用途」で標準的な方法として確立したという意味ではありません。
今回のin vitro研究だけから、EDTAをGAへ置き換えるべきとは判断できません。
美容用のグリコール酸を歯につけてもいいですか?
いいえ。
今回の研究で使われた研究条件下のGA溶液と、市販の美容用製品を同じものとして扱うことはできません。
自己判断で歯や歯ぐきへ使わないでください。
水酸化カルシウムが必要なら、なぜ取り除くのですか?
水酸化カルシウムは主に治療途中の根管貼薬として使われます。
一方、次の治療段階では、その薬が根管壁や根管充填材料との間へ多く残らないよう、できるだけ取り除きます。
「治療途中で入れる目的」と「その後に根管を充填する目的」が違うためです。
水酸化カルシウムが少し残ったら、根管治療は失敗しますか?
今回の研究から、そのようには言えません。
残存Ca(OH)₂がシーラーなどへ影響する可能性は研究されていますが、残存量だけで個々の歯の治療成功・失敗を決めることはできません。
EDTAはもう使わない方がいいのですか?
いいえ。
今回の研究は、特定の人工内部吸収モデルでCa(OH)₂残存を比較したものです。
根管治療全般でGAがEDTAより優れていることを示した研究ではありません。
内部吸収は、根管治療をする歯なら必ずありますか?
ありません。
内部性歯根吸収は特定の病態です。
今回の研究では、器具が届きにくい凹みを一定条件で比較するため、抜去歯へ人工的な内部吸収窩を作っています。
根管の薬は完全に取り除けますか?
複雑な根管形態になるほど完全除去は難しくなります。
今回の研究でも、どの洗浄プロトコルも、その群のすべての試料で完全除去を達成したわけではありません。
そのため、薬液の種類だけでなく、洗浄方法や根管形態を含めて処置を考える必要があります。
根管治療中に気になることがあればご相談ください
根管治療の途中で「前回と違うことをしている」「今日はずっと洗っている」「白い紙を何本も使っている」など、気になることがあれば治療時に遠慮なくお尋ねください。
ブランデンタルクリニックは広島市中区、立町駅徒歩1分の立町中央ビル4階にあります。4階エレベーターをご利用いただけます。
根管治療中に急に強い痛みや腫れが出た場合は、当日電話受付可・急患同日可です。予約状況に応じて受診時間をご案内しますので、急な症状ではWEB予約だけでなくお電話でのご相談をおすすめします。
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